本発明のゴルフボールは、センターと前記センターを被覆する一以上の中間層とからなるコアと、前記コアを被覆するカバーとを有するゴルフボールであって、前記中間層の少なくとも1つまたは1層は、(A)曲げ弾性率700MPa〜5000MPaを有する高弾性ポリアミド樹脂、(B)エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体の金属中和物と、(C)極性官能基を有する樹脂を含有し、前記(A)高弾性ポリアミド樹脂と(B)エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体の金属中和物との含有量比率(合計100質量%)が、(A)高弾性ポリアミド樹脂/(B)エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体の金属中和物=20質量%〜80質量%/80質量%〜20質量%であり、前記(A)高弾性ポリアミド樹脂と(B)エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体の金属中和物との合計100質量部に対して、(C)極性官能基を有する樹脂を0.1質量部〜20質量部含有する高弾性中間層用組成物から形成されていることを特徴とする。
前記(A)曲げ弾性率700MPa〜5000MPaを有する高弾性ポリアミド樹脂について説明する。
前記(A)高弾性ポリアミド樹脂とは、ポリアミドを含有するポリアミド系樹脂またはポリアミド系エラストマーであって、曲げ弾性率が700MPa〜5000MPaを有するものであれば特に限定されない。ここで、ポリアミドとは、主鎖中にアミド結合(−NH−CO−)を複数有する重合体である。
前記(A)高弾性ポリアミド樹脂に含有されるポリアミドとしては、例えば、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド6T、ポリアミド6I、ポリアミド9T、ポリアミドM5T、ポリアミド612などの脂肪族系ポリアミド;ポリ−p−フェニレンテレフタルアミド、ポリ−m−フェニレンイソフタルアミドなどの芳香族系ポリアミド;ポリエーテルブロックアミド共重合体、ポリエステルアミド共重合体、ポリエーテルエステルアミド共重合体、ポリアミドイミド共重合体などのアミド共重合体などが挙げられる。これらは単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12などの脂肪族系ポリアミドが好適である。
前記(A)高弾性ポリアミド樹脂の曲げ弾性率は700MPa以上であり、好ましくは750MPa以上、より好ましくは800MPa以上である。前記(A)高弾性ポリアミド樹脂の曲げ弾性率が700MPa未満では、中間層の高剛性化が不十分となり、低スピン化の効果が得られない。また、前記(A)高弾性ポリアミド樹脂の曲げ弾性率は5000MPa以下であり、好ましくは4500MPa以下、より好ましくは4000MPa以下である。前記(A)高弾性ポリアミド樹脂の曲げ弾性率が5000MPaを超えると、中間層が過度に高剛性化されてしまい、打球感および耐久性が低下する。なお、本発明において高弾性アミドの曲げ弾性率とは、ISO 178に準じて測定した値であり、測定方法の詳細は後述する。
前記(A)高弾性ポリアミド樹脂の脆化温度は−20℃以下が好ましく、より好ましくは−30℃以下、さらに好ましくは−50℃以下である。前記(A)高弾性ポリアミド樹脂の脆化温度が−20℃以下であれば、高弾性中間層用組成物から形成される中間層の低温耐久性がより向上し、得られるゴルフボールの低温耐久性をさらに向上させることができる。なお、本発明において高弾性ポリアミド樹脂の脆化温度とは、JIS K7216に準じて測定した値をいう。
前記(A)高弾性ポリアミド樹脂の具体例を商品名で示すと、例えば、三菱エンジニアリング社製の「ノバミッド(登録商標)ST220、ノバミッド1010C2、ノバミッドST145」、アルケマ社製の「ペバックス(登録商標)4033SA」、宇部興産社製の「UBEナイロン1018I、UBEナイロン1030J」、「UBESTA(登録商標)P3014U、UBESTA3035JU6、UBESTA PAE1200U2」、デュポン社製の「ザイテル(登録商標)FN716、ザイテルST811HS」、東レ社製の「アミラン(登録商標)U441、アミランU328、アミランU141」、旭化成社製の「レオナ(登録商標)1300S」などが挙げられる。
前記高弾性中間層用組成物を構成する樹脂成分中の(A)高弾性ポリアミド樹脂の含有率は、16質量%以上とすることが好ましく、より好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは25質量%以上であり、78質量%以下とすることが好ましく、より好ましくは75質量%以下、さらに好ましくは70質量%以下である。前記高弾性中間層用組成物を構成する樹脂成分中の(A)高弾性ポリアミド樹脂の含有率が16質量%未満では、中間層の弾性率が低くなり、高打出角化および低スピン化の効果が小さくなり、一方、78質量%を超えると、中間層の弾性率が高くなりすぎ、ゴルフボールの耐久性や打球感が低下する傾向がある。
前記(B)エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体の金属中和物(以下、単に「(B)共重合体金属中和物」という。)について説明する。
前記(B)共重合体金属中和物とは、エチレンと(メタ)アクリル酸とを含有する単量体組成物を共重合することにより得られる共重合体であって、当該共重合体が有するカルボキシル基の少なくとも一部が、金属イオンで中和された金属中和物である。
前記(B)共重合体金属中和物を構成するエチレン−(メタ)アクリル酸共重合体中の(メタ)アクリル酸成分の含有量は、2質量%以上が好ましく、より好ましくは3質量%以上であり、30質量%以下が好ましく、より好ましくは25質量%以下である。
また、前記(B)共重合体金属中和物を構成するエチレン−(メタ)アクリル酸共重合体は、本発明の効果を損なわない程度で、エチレン、(メタ)アクリル酸以外の他の単量体が共重合された多元共重合体であってもよい。前記共重合体に用いることができる他の単量体としては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルのようなビニルエステル;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチルなどの不飽和カルボン酸エステル;一酸化炭素、二酸化硫黄などが挙げられる。
前記他の単量体を用いる場合には、前記共重合体中のこれら他の単量体成分の含有量は40質量%以下とすることが好ましく、より好ましくは30質量%以下、さらに好ましくは20質量%以下である。
前記(B)共重合体金属中和物に用いられる金属(イオン)としては、ナトリウム、カリウム、リチウムなどの1価の金属(イオン);マグネシウム、カルシウム、亜鉛、バリウム、カドミウムなどの2価の金属(イオン);アルミニウムなどの3価の金属(イオン);錫、ジルコニウムなどのその他の金属(イオン)が挙げられる。これらの中でも、特にナトリウム、亜鉛、マグネシウム(イオン)が反発性、耐久性などから好ましく用いられる。
前記(B)共重合体金属中和物が含有するカルボキシル基の中和度は、20モル%以上が好ましく、より好ましくは30モル%以上であり、90モル%以下が好ましく、より好ましくは85モル%以下である。なお、(B)共重合体金属中和物中のカルボキシル基の中和度は、下記式で求めることができる。
前記(B)共重合体金属中和物の曲げ弾性率は250MPa以上が好ましく、より好ましくは260MPa以上、さらに好ましくは270MPa以上であり、1000MPa以下が好ましく、より好ましくは800MPa以下、さらに好ましくは600MPa以下である。前記(B)共重合体金属中和物の曲げ弾性率が低すぎると、中間層の弾性率が低くなり、高打出角化および低スピン化の効果が小さくなり、曲げ弾性率が高すぎると、中間層の弾性率が高くなりすぎ、ゴルフボールの耐久性や打球感が低下する傾向がある。
前記(B)共重合金属中和物の具体例を商品名で例示すると、三井デュポンポリケミカル(株)から市販されている「ハイミラン(Himilan)(登録商標)(例えば、ハイミラン1555(Na)、ハイミラン1605(Na)、ハイミラン1706(Zn)、ハイミラン1707(Na)、ハイミランAM7311(Mg)、ハイミランAM7329(Zn)、ハイミラン1856(Na)、ハイミラン1855(Zn)など)」が挙げられる。
さらにデュポン社から市販されている「サーリン(Surlyn)(登録商標)(例えば、サーリン8945(Na)、サーリン9945(Zn)、サーリン8140(Na)、サーリン8150(Na)、サーリン9120(Zn)、サーリン9150(Zn)、サーリン6910(Mg)、サーリン6120(Mg)、サーリン7930(Li)、サーリン7940(Li)、サーリンAD8546(Li)、サーリン6320(Mg)、サーリン8120(Na)、サーリン8320(Na)、サーリン9320(Zn)、サーリン9320W(Zn)など)」、「HPF 1000(Mg)、HPF 2000(Mg)」が挙げられる。
またエクソンモービル化学(株)から市販されている「アイオテック(Iotek)(登録商標)(例えば、アイオテック8000(Na)、アイオテック8030(Na)、アイオテック7010(Zn)、アイオテック7030(Zn)などが挙げられ、三元共重合体アイオノマー樹脂としては、アイオテック7510(Zn)、アイオテック7520(Zn)など)」が挙げられる。
なお、前記の商品名の後の括弧内に記載したNa、Zn、Li、Mgなどは、これらの中和金属イオンの金属種を示している。
前記高弾性中間層用組成物を構成する樹脂成分中の(B)共重合体金属中和物の含有率は、16質量%以上とすることが好ましく、より好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは25質量%以上であり、78質量%以下とすることが好ましく、より好ましくは75質量%以下、さらに好ましくは70質量%以下である。前記高弾性中間層用組成物を構成する樹脂成分中の(B)共重合体金属中和物の含有率が16質量%未満では、ゴルフボールの反発が悪く、耐久性が低下するおそれがあり、一方、78質量%を超えると、中間層の弾性率を適正な範囲にできず、高打出角化および低スピン化の効果が得られないおそれがある。
前記(C)極性官能基を有する樹脂について説明する。
前記(C)極性官能基を有する樹脂とは、極性官能基が導入された重合体であれば特に限定されず、例えば、極性官能基を有する単量体と、極性官能基を有さない単量体とを共重合することにより得られる樹脂である。ここで、極性官能基とは、極性を有する官能基であって、樹脂が極性を発生する要因となる官能基であり、例えば、エポキシ基、水酸基、アミノ基、ニトロ基、カルボキシル基、ホルミル基、ニトリル基、スルホン酸基などを挙げることができ、これらの中でもエポキシ基、カルボキシル基が好適である。
(C)極性官能基を有する樹脂は、樹脂を構成する主骨格は極性が低いため、この主骨格は(A)高弾性ポリアミド樹脂との相溶性がよく、樹脂に導入された極性官能基は極性が高いため、この極性官能基(側鎖部分)は(B)共重合体金属中和物との相溶性がよい。そのため、前記高弾性中間層用組成物に(C)極性官能基を有する樹脂を含有させることにより、前記(A)高弾性ポリアミド樹脂と(B)共重合体金属中和物との分散性を向上させることができ、ゴルフボールの耐久性をより向上させることができる。
前記極性官能基を有する単量体としては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、2−ビニルオキシラン、(アリルオキシ)オキシランなどのエポキシ基含有単量体;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ビニルアルコール、アリルアルコール、2−ヒドロキシエチルビニルエーテルなどの水酸基含有単量体;ビニルスルホン酸などのスルホン酸基含有単量体;(メタ)アクリル酸、イタコン酸、無水マレイン酸などのカルボキシル基含有単量体などを挙げることができる。これらの極性官能基を有する単量体は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、前記極性官能基を有する単量体としては、エポキシ基含有単量体が好ましく、特にグリシジル(メタ)アクリレートがより好適である。エポキシ基は、前記(B)共重合体金属中和物が有するカルボキシル基との反応性を有しているため、前記(A)高弾性ポリアミド樹脂と(B)共重合体金属中和物との界面強度をさらに向上させることができる。
前記極性官能基を有さない単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、1−ペンテンなどのオレフィン;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレートなどを挙げることができる。これらの極性官能基を有さない単量体は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも極性官能基を有さない単量体としては、エチレン、メチル(メタ)アクリレートが好適である。
前記(C)極性官能基を有する樹脂中の極性官能基を有する単量体成分の含有率は、0.1質量%以上が好ましく、より好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは1質量%以上であり、30質量%以下が好ましく、より好ましくは25質量%以下、さらに好ましくは20質量%以下である。前記(C)極性官能基を有する樹脂中の極性官能基を有する単量体成分の含有量を前記範囲内とすることにより、前記(A)高弾性ポリアミド樹脂と(B)共重合体金属中和物との分散性を充分に高めることができる。
前記(C)極性官能基を有する樹脂としては、例えば、(メタ)アクリル酸エステル−グリシジル(メタ)アクリレート共重合体、エポキシ基含有(メタ)アクリル系ポリマー、エチレン−グリシジル(メタ)アクリレート共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル−グリシジル(メタ)アクリレート共重合体、マレイン酸変性スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロックポリマー(SEBS)、マレイン酸変性スチレン−エチレン−ブチレン−オレフィン結晶ブロックポリマー(SEBC)、マレイン酸変性ポリエチレン(PE)、マレイン酸変性ポリプロピレン(PP)、マレイン酸変性エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、およびマレイン酸変性エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、エポキシ基含有スチレン系ポリマーなどを挙げることができる。これらの(C)極性官能基を有する樹脂は単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、エチレン−グリシジル(メタ)アクリレート共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル−グリシジル(メタ)アクリレート共重合体、メチル(メタ)アクリレート−グリシジル(メタ)アクリレート共重合体が好ましく、特にエチレン−グリシジルメタクリレート共重合体や、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体と他の(C)極性官能基を有する樹脂との混合物が好適である。
前記(C)極性官能基を有する樹脂の具体例を商品名で例示すると、例えば、アルケマ社製の「ロタダー(LOTADER)AX8840」、東亜合成社製の「アルフォン(ARUFON)(登録商標)UG−4030」、住友化学社製の「ボンドファスト(登録商標)E」、旭化成社製の「タフテック(登録商標)M1913、タフテックM1943」、デュポン社製の「FUSABOND(登録商標)NM052D」、JSR社製の「ダイナロン(登録商標)4630P」、三井デュポンポリケミカル社製の「ニュクレル(NUCREL)(登録商標)(例えば、ニュクレルAN4214C、ニュクレルAN4225C、ニュクレルAN42115C、ニュクレルN0903HC、ニュクレルN0908C、ニュクレルAN42012C、ニュクレルN410、ニュクレルN1035、ニュクレルN1050H、ニュクレルN1108C、ニュクレルN1110H、ニュクレルN1207C、ニュクレルN1214、ニュクレルAN4221C、ニュクレルN1525、ニュクレルN1560、ニュクレルN0200H、ニュクレルAN4228C、ニュクレルN4213C、ニュクレルN035Cなど)」などが挙げられる。
前記高弾性中間層用組成物中の(A)高弾性ポリアミド樹脂と(B)共重合体金属中和物との含有量比率(合計100質量%)は、(A)高弾性ポリアミド樹脂/(B)共重合体金属中和物=20質量%〜80質量%/80質量%〜20質量%である。(A)高弾性ポリアミド樹脂と(B)共重合体金属中和物との含有量比率を上記範囲内とすることにより、中間層が所望の弾性率となり、高打出角化および低スピン化が図られ、ゴルフボールの飛距離が向上する。高弾性中間層用組成物中の(A)高弾性ポリアミド樹脂と(B)共重合体金属中和物との含有量比率(合計100質量%)は、より好ましくは(A)高弾性ポリアミド樹脂/(B)共重合体金属中和物=25質量%〜75質量%/75質量%〜25質量%、さらに好ましくは30質量%〜70質量%/70質量%〜30質量%である。
前記高弾性中間層用組成物中の前記(C)極性官能基を有する樹脂の含有量は、(A)高弾性ポリアミド樹脂と(B)共重合体金属中和物との合計100質量部に対して20質量部以下である。(C)極性官能基を有する樹脂の含有量が20質量部を超えると、高弾性中間層用組成物の流動性が低下しすぎ、成形性が維持されない。(C)極性官能基を有する樹脂の含有量は、好ましくは15質量部以下、より好ましくは10質量部以下である。また、(C)極性官能基を有する樹脂の含有量は、(A)高弾性ポリアミド樹脂と(B)共重合体金属中和物との合計100質量部に対して0.1質量部以上である。(C)極性官能基を有する樹脂の含有量が0.1質量部未満では、(A)高弾性ポリアミド樹脂と(B)共重合体金属中和物との相互分散性の向上効果が得られない。(C)極性官能基を有する樹脂の含有量は、好ましくは2質量部以上である。
前記高弾性中間層用組成物は、本発明の効果を妨げない程度に、前記(A)高弾性ポリアミド樹脂、(B)共重合体金属中和物、(C)極性官能基を有する樹脂以外の樹脂成分を含有させてもよいが、樹脂成分として、前記(A)高弾性ポリアミド樹脂、(B)共重合体金属中和物および(C)極性官能基を有する樹脂のみを含有することが好適である。また、前記高弾性中間層用組成物には、本発明の効果を妨げない程度に、硫酸バリウム、タングステンなどの比重調整剤、老化防止剤、顔料などが配合されていてもよい。
本発明のゴルフボールの製造方法では、前記(A)高弾性ポリアミド樹脂、(B)共重合体金属中和物、(C)極性官能基を有する樹脂および必要に応じて添加剤とを配合して高弾性中間層用組成物を得る。高弾性中間層用組成物の配合は、例えば、ペレット状の原料を配合できる混合機を用いるのが好ましく、より好ましくはタンブラー型混合機を用いる。高弾性中間層用組成物を配合する態様としては、例えば、(A)高弾性ポリアミド樹脂、(B)共重合体金属中和物、(C)極性官能基を有する樹脂および酸化チタンなどの添加剤を混合し、押出して、ペレットを調整する態様;(B)共重合体金属中和物に、酸化チタンなどの添加剤を混合し、押出して、予め白ペレットを調製し、前記白ペレットと(A)高弾性ポリアミド樹脂と、(C)極性官能基を有する樹脂のペレットとをドライブレンドする態様などを挙げることができる。
前記高弾性中間層用組成物のスラブ硬度は、ショアD硬度で65以上が好ましく、より好ましくは66以上、さらに好ましくは67以上であり、75以下が好ましく、より好ましくは73以下、さらに好ましくは71以下である。前記高弾性中間層用組成物のスラブ硬度が、ショアD硬度で65未満では、中間層の硬度が低く、高打出角化および低スピン化の効果が得られないおそれがあり、また75を超えると、中間層が硬くなりすぎ、ゴルフボールの耐久性が低下するおそれがある。
前記高弾性中間層用組成物の曲げ弾性率は、300MPa以上が好ましく、より好ましくは320MPa以上、さらに好ましくは350MPa以上であり、1000MPa以下が好ましく、より好ましくは900MPa以下、さらに好ましくは800MPa以下である。前記高弾性中間層用組成物の曲げ弾性率が、300MPa未満では、高打出角化および低スピン化の効果が得られないおそれがあり、一方、1000MPaを超えると、高弾性中間層用組成物の成形性が低下し、また、ゴルフボールの耐久性が低下するおそれがある。
前記高弾性中間層用組成物の引張弾性率は、400MPa以上が好ましく、より好ましくは410MPa以上、さらに好ましくは420MPa以上であり、1500MPa以下が好ましく、より好ましくは1400MPa以下、さらに好ましくは1300MPa以下である。前記高弾性中間層用組成物の引張弾性率が、400MPa未満では、高打出角化および低スピン化の効果が得られないおそれがあり、一方、1500MPaを超えると、ゴルフボールの耐久性が低下するおそれがある。
ここで、高弾性中間層用組成物のスラブ硬度、曲げ弾性率および引張弾性率は、後述する測定方法により測定する。なお、前記高弾性中間層用組成物のスラブ硬度、曲げ弾性率および引張弾性率は、前記(A)高弾性ポリアミド樹脂、(B)共重合体金属中和物および(C)極性官能基を有する樹脂の組合せ、添加剤の含有量などを適宜選択することによって、調整することができる。
本発明のゴルフボールに用いられるコアについて説明する。本発明に用いられるコアは、センターと前記センターを被覆する一以上の中間層とからなるコアであって、前記中間層の少なくとも1つまたは1層が、前述した高弾性中間層用組成物から形成されていることを特徴とする。
本発明のゴルフボールのコアの構造としては、例えば、センターと前記センターを被覆する単層の中間層とからなるコア;センターと前記センターを被覆する複数もしくは複層の中間層とからなるコアなどを挙げることができる。また、コアの形状としては、球状であることが好ましい。コアの形状が球状でない場合には、カバーの厚みが不均一になる。その結果、部分的にカバー性能が低下する箇所が生じるからである。一方、センターの形状としては、球状が一般的であるが、球状センターの表面を分割するように突条が設けられていても良く、例えば、球状センターの表面を均等に分割するように突条が設けられていても良い。前記突条を設ける態様としては、例えば、球状センターの表面にセンターと一体的に突条を設ける態様、あるいは、球状センターの表面に突条の中間層を設ける態様などを挙げることができる。
前記突条は、例えば、球状センターを地球とみなした場合に、赤道と球状センター表面を均等に分割する任意の子午線とに沿って設けられることが好ましい。例えば、球状センター表面を8分割する場合には、赤道と、任意の子午線(経度0度)、および、斯かる経度0度の子午線を基準として、東経90度、西経90度、東経(西経)180度の子午線に沿って設けるようにすれば良い。突条を設ける場合には、突条によって仕切られる凹部を、複数の中間層、あるいは、それぞれの凹部を被覆するような単層の中間層によって充填するようにして、コアの形状を球形とするようにすることが好ましい。前記突条の断面形状は、特に限定されることなく、例えば、円弧状、あるいは、略円弧状(例えば、互いに交差あるいは直交する部分において切欠部を設けた形状)などを挙げることができる。
そして前記中間層としては、前記センターを単層もしくは複層の中間層で被覆している場合には、その中間層のうちの少なくとも1層が、センターの表面に設けられた突条によって仕切られる凹部を、複数の中間層によって充填するような場合には、その複数の中間層のうち少なくとも1つが、前記高弾性中間層用組成物から形成されている。なお、コアが、センターと前記センターを被覆する複数もしくは複層の中間層とからなる場合には、本発明の効果を損なわない範囲で、前記高弾性中間層用組成物以外の中間層用組成物から形成される中間層を有していてもよい。この場合には、コアの最外層が、前記高弾性中間層用組成物から形成された中間層とすることが好ましく、複数もしくは複層の中間層のすべてが、前記高弾性中間層用組成物から形成されていることが好ましい。
前記高弾性中間層用組成物以外の中間層用組成物としては、例えば、後述するセンター用ゴム組成物や、前記アイオノマー樹脂のほか、アルケマ(株)から商品名「ペバックス(登録商標)(例えば、「ペバックス2533」)」で市販されている熱可塑性ポリアミドエラストマー、東レ・デュポン(株)から商品名「ハイトレル(登録商標)(例えば、「ハイトレル3548」、「ハイトレル4047」)」で市販されている熱可塑性ポリエステルエラストマー、BASFジャパン社から商品名「エラストラン(登録商標)(例えば、「エラストランXNY97A」)」で市販されている熱可塑性ポリウレタンエラストマー、三菱化学(株)から商品名「ラバロン(登録商標)」で市販されている熱可塑性ポリスチレンエラストマーなどが挙げられ、さらに、硫酸バリウム、タングステンなどの比重調整剤、老化防止剤、顔料などが配合されていてもよい。
前記中間層を形成する方法としては、例えば、センターを高弾性中間層用組成物またはそれ以外の中間層用組成物で被覆して中間層を成形する。中間層を成形する方法は、特に限定されるものではなく、例えば、高弾性中間層用組成物を予め半球殻状のハーフシェルに成形し、それを2枚用いてセンターを包み、130℃〜170℃で1分間〜5分間加圧成形するか、または高弾性中間層用組成物を直接センター上に射出成形してセンターを包み込む方法などが用いられる。
前記高弾性中間層用組成物から形成される中間層は、その厚みを3.0mm以下とすることが好ましく、より好ましくは2.5mm以下、さらに好ましくは2.0mm以下であり、0.1mm以上とすることが好ましく、より好ましくは0.5mm以上、さらに好ましくは0.8mm以上である。前記高弾性中間層用組成物から形成される中間層の厚みが0.1mm未満では、ゴルフボールの耐久性が劣るおそれがあり、また、3.0mmを超えると、ゴルフボールの反発が低下し、打球感が悪くなるおそれがある。
前記センターには、従来公知のゴム組成物(以下、単に「コア用ゴム組成物」という場合がある)を採用することができ、例えば、基材ゴム、架橋開始剤、共架橋剤および充填剤を含むゴム組成物を加熱プレスして成形することができる。
前記基材ゴムとしては、天然ゴムおよび/または合成ゴムを使用することができ、例えば、ポリブタジエンゴム、天然ゴム、ポリイソプレンゴム、スチレンポリブタジエンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)などを使用できる。これらの中でも、特に、反発に有利なシス結合が40質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上のハイシスポリブタジエンを用いることが好ましい。
前記架橋開始剤は、基材ゴム成分を架橋するために配合されるものである。前記架橋開始剤としては、有機過酸化物が好適である。具体的には、ジクミルパーオキサイド、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t―ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジ−t−ブチルパーオキサイドなどの有機過酸化物が挙げられ、これらのうちジクミルパーオキサイドが好ましく用いられる。架橋開始剤の配合量は、基材ゴム100質量部に対して、0.3質量部以上が好ましく、より好ましくは0.4質量部以上であって、5質量部以下が好ましく、より好ましくは3質量部以下である。0.3質量部未満では、コアが柔らかくなりすぎて、反発性が低下する傾向があり、5質量部を超えると、適切な硬さにするために、共架橋剤の使用量を増加する必要があり、反発性が不足気味になる。
前記共架橋剤としては、基材ゴム分子鎖にグラフト重合することによって、ゴム分子を架橋する作用を有するものであれば特に限定されず、例えば、炭素数が3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸またはその金属塩を使用することができ、好ましくは、アクリル酸、メタクリル酸またはこれらの金属塩を挙げることができる。前記金属塩を構成する金属としては、例えば、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、ナトリウムなどを挙げることができ、反発性が高くなるということから、亜鉛を使用することが好ましい。
前記共架橋剤の使用量は、基材ゴム100質量部に対して、10質量部以上が好ましく、より好ましくは15質量部以上、さらに好ましくは20質量部以上であり、55質量部以下が好ましく、より好ましくは50質量部以下、さらに好ましくは48質量部以下である。共架橋剤の使用量が10質量部未満では、適当な硬さとするために架橋開始剤の量を増加しなければならず、反発性が低下する傾向がある。一方、共架橋剤の使用量が55質量部を超えると、センターが硬くなりすぎて、打球感が低下するおそれがある。
コア用ゴム組成物に含有される充填剤としては、主として最終製品として得られるゴルフボールの比重を1.0〜1.5の範囲に調整するための比重調整剤として配合されるものであり、必要に応じて配合すれば良い。前記充填剤としては、酸化亜鉛、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、タングステン粉末、モリブデン粉末などの無機充填剤を挙げることができる。前記充填剤の配合量は、基材ゴム100質量部に対して、0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上であって、30質量部以下、より好ましくは20質量部以下であることが望ましい。充填剤の配合量が0.5質量部未満では、重量調整が難しくなり、30質量部を超えるとゴム成分の重量分率が小さくなり反発性が低下する傾向があるからである。
前記コア用ゴム組成物には、基材ゴム、架橋開始剤、共架橋剤および充填剤に加えて、さらに、有機硫黄化合物、老化防止剤、しゃく解剤などを適宜配合することができる。
前記有機硫黄化合物としては、ジフェニルジスルフィド類を好適に使用することができる。前記ジフェニルジスルフィド類としては、例えば、ジフェニルジスルフィド;ビス(4−クロロフェニル)ジスルフィド、ビス(3−クロロフェニル)ジスルフィド、ビス(4−ブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(3−ブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(4−フルオロフェニル)ジスルフィド、ビス(4−ヨードフェニル)ジスルフィド,ビス(4−シアノフェニル)ジスルフィドなどのモノ置換体;ビス(2,5−ジクロロフェニル)ジスルフィド、ビス(3,5−ジクロロフェニル)ジスルフィド、ビス(2,6−ジクロロフェニル)ジスルフィド、ビス(2,5−ジブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(3,5−ジブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(2−クロロ−5−ブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(2−シアノ−5−ブロモフェニル)ジスルフィドなどのジ置換体;ビス(2,4,6−トリクロロフェニル)ジスルフィド、ビス(2−シアノ−4−クロロ−6−ブロモフェニル)ジスルフィドなどのトリ置換体;ビス(2,3,5,6−テトラクロロフェニル)ジスルフィドなどのテトラ置換体;ビス(2,3,4,5,6−ペンタクロロフェニル)ジスルフィド、ビス(2,3,4,5,6−ペンタブロモフェニル)ジスルフィドなどのペンタ置換体などが挙げられる。これらのジフェニルジスルフィド類はゴム加硫体の加硫状態に何らかの影響を与えて、反発性を高めることができる。これらの中でも、特に高反発性のゴルフボールが得られるという点から、ジフェニルジスルフィド、ビス(ペンタブロモフェニル)ジスルフィドを用いることが好ましい。前記有機硫黄化合物の配合量は、基材ゴム100質量部に対して、0.1質量部以上が好ましく、より好ましくは0.3質量部以上であって、5.0質量部以下が好ましく、より好ましくは3.0質量部以下である。
前記老化防止剤の配合量は、基材ゴム100質量部に対して、0.1質量部以上、1質量部以下であることが好ましい。また、しゃく解剤の配合量は、基材ゴム100質量部に対して、0.1質量部以上、5質量部以下であることが好ましい。
前記センターは、前述のゴム組成物を混合、混練し、金型内で成形することにより得ることができる。この際の条件は、特に限定されないが、通常は130℃〜180℃、圧力2.9MPa〜11.8MPaで10分間〜40分間で行われ、例えば、前記ゴム組成物を130℃〜200℃で10分間〜60分間加熱するか、あるいは、130℃〜150℃で20分間〜40分間加熱した後、160℃〜180℃で5分間〜15分間の2段階で加熱することが好ましい。
前記センターの直径は、25mm以上が好ましく、より好ましくは30mm以上であって、41mm以下が好ましく、より好ましくは40mm以下である。前記センターの直径が25mmよりも小さいと、中間層またはカバー層を所望の厚さより厚くする必要があり、その結果反発性が低下する場合がある。一方、センターの直径が41mmを超える場合は、中間層またはカバー層を所望の厚さより薄くする必要があり、中間層またはカバー層の機能が十分発揮されない。
前記センターは、直径25mm〜41mmの場合、初期荷重98Nを負荷した状態から終荷重1275Nを負荷したときまでの圧縮変形量(圧縮方向にセンターが縮む量)が、1.5mm以上が好ましく、より好ましくは2.0mm以上であり、5.0mm以下が好ましく、より好ましくは4.0mm以下である。前記圧縮変形量が、1.5mm未満では打球感が硬くて悪くなり、5.0mmを超えると、反発性が低下する場合がある。
前記センターの表面硬度Hs1は、ショアD硬度で、好ましくは40以上、より好ましくは48以上、さらに好ましくは54以上であって、好ましくは75以下、より好ましくは67以下、さらに好ましくは64以下である。センターの表面硬度Hs1がショアD硬度で40より小さいと、柔らかくなり過ぎて反発性が低下し、飛距離が低下する。一方、センターの表面硬度Hs1がショアD硬度で75より大きいと、硬くなり過ぎて打球感が悪くなる場合がある。
本発明のゴルフボールのコアの直径は、30mm以上であることが好ましく、より好ましくは35mm以上、さらに好ましくは37mm以上である。コアの直径が30mm未満では、カバーが厚くなり過ぎて反発性が低下するからである。また、コアの直径は、41.5mm以下であることが好ましく、より好ましくは41.25mm以下、さらに好ましくは41.0mm以下である。コアの直径が41.5mmを超えると相対的にカバーが薄くなり過ぎて、カバーによる保護効果が十分に得られないからである。
本発明のゴルフボールのコアとして、表面硬度Hsが中心硬度Hoより大きいコアを使用することも好ましい態様である。コアの表面硬度Hsと中心硬度Hoとの硬度差(Hs−Ho)は、ショアD硬度で10以上であることが好ましく、さらに好ましくは15以上である。コアの表面硬度を中心硬度より大きくすることによって、打出角が高くなり、スピン量が低くなって、飛距離が向上する。また、コアの表面硬度と中心硬度とのショアD硬度差は、55以下であることが好ましく、より好ましくは50以下である。硬度差が大きくなりすぎると、耐久性が低下するおそれがあるからである。
さらに、前記コアの中心硬度Hoは、ショアD硬度で20以上であることが好ましく、より好ましくは27以上であり、さらに好ましくは32以上である。コアの中心硬度HoをショアD硬度で20以上とすることにより、軟らかくなり過ぎることがなく、良好な反発性が得られる。また、コアの中心硬度Hoは、ショアD硬度で60以下であることが好ましく、より好ましくは53以下であり、さらに好ましくは48以下である。前記中心硬度HoをショアD硬度で60以下とすることにより、硬くなり過ぎず、良好な打球感が得られる。本発明において、コアの中心硬度とは、コアを2等分に切断して、その切断面の中心点についてスプリング式硬度計ショアD型で測定した硬度を意味する。
本発明のゴルフボールのコアの表面硬度Hsは、ショアD硬度で40以上が好ましく、より好ましくは48以上、さらに好ましくは54以上である。前記表面硬度HsをショアD硬度で40以上とすることにより、軟らかくなり過ぎることがなく、良好な反発性が得られる。また、コアの表面硬度Hsは、ショアD硬度で75以下が好ましく、より好ましくは72以下、さらに好ましくは70以下である。前記表面硬度HsをショアD硬度で75以下とすることにより、硬くなり過ぎず、良好な打球感が得られる。
次に、本発明のゴルフボールのカバーについて説明する。前記カバーを形成するカバー用組成物の樹脂成分としては、ポリウレタン樹脂、従来公知のアイオノマー樹脂のほか、アルケマ(株)から商品名「ペバックス(登録商標)(例えば、「ペバックス2533」)」で市販されている熱可塑性ポリアミドエラストマー、東レ・デュポン(株)から商品名「ハイトレル(登録商標)(例えば、「ハイトレル3548」、「ハイトレル4047」)」で市販されている熱可塑性ポリエステルエラストマー、三菱化学(株)から商品名「ラバロン(登録商標)」で市販されている熱可塑性ポリスチレンエラストマーなどが挙げられる。これらの樹脂成分は単独で使用しても良いし、2種以上を併用しても良い。これらの中でもポリウレタン樹脂が好適である。
本発明のゴルフボールのカバーを構成するカバー用組成物は、樹脂成分として、ポリウレタン樹脂を50質量%以上含有することが好ましく、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上である。なお、カバー用組成物中の樹脂成分としてポリウレタン樹脂のみを用いることが最も好ましい。
前記ポリウレタン樹脂は、分子内にウレタン結合を複数有するものであれば、特に限定されず、例えば、ポリイソシアネート成分と高分子量ポリオール成分とを反応させることによって、ウレタン結合が分子内に形成された生成物であり、必要に応じて、さらに低分子量のポリオールや低分子量のポリアミンなどにより鎖長延長反応させることにより得られるものである。
前記ポリウレタン樹脂のスラブ硬度は、ショアD硬度で、10以上が好ましく、より好ましくは20以上、さらに好ましくは30以上であり、65以下が好ましく、より好ましくは60以下、さらに好ましくは55以下である。ポリウレタン樹脂の硬度が低すぎると、ドライバーでのショットの際にスピン量が増加する場合がある。また、ポリウレタン樹脂の硬度が高すぎると、アプローチウェッジでのショットの際にスピン量が低下しすぎる場合がある。前記ポリウレタン樹脂の具体例としては、BASFジャパン株式会社製のエラストラン(登録商標)XNY90A、XNY75A、ET880などを挙げることができる。
本発明において、前記カバーは、上述した樹脂成分のほか、白色顔料(酸化チタン)、青色顔料、赤色顔料などの顔料成分、酸化亜鉛、炭酸カルシウムや硫酸バリウムなどの比重調整剤、分散剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、蛍光材料または蛍光増白剤などを、カバーの性能を損なわない範囲で含有してもよい。
前記白色顔料(酸化チタン)の含有量は、カバーを構成する樹脂成分100質量部に対して、0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上であって、10質量部以下、より好ましくは8質量部以下であることが望ましい。白色顔料の含有量を0.5質量部以上とすることによって、カバーに隠蔽性を付与することができる。また、白色顔料の含有量が10質量部超になると、得られるカバーの耐久性が低下する場合があるからである。
前記カバー用組成物のスラブ硬度は、ショアD硬度で60以下が好ましく、より好ましくは53以下、さらに好ましくは48以下である。カバー用組成物のスラブ硬度を60以下とすることによって、ショートアイアンなどのアプローチショット時のスピン安定性速度が高くなる。その結果、アプローチショット時のコントロール性に優れるゴルフボールが得られる。アプローチショット時のスピン速度を十分確保するためには、また、前記カバー用組成物のスラブ硬度は、ショアD硬度で20以上が好ましく、より好ましくは27以上、さらに好ましくは32以上である。
カバー用組成物を用いてカバーを成形する態様は、特に限定されないが、カバー用組成物をコア上に直接射出成形する態様、あるいは、カバー用組成物から中空殻状のシェルを成形し、コアを複数のシェルで被覆して圧縮成形する態様(好ましくは、カバー用組成物から中空殻状のハーフシェルを成形し、コアを2枚のハーフシェルで被覆して圧縮成形する方法)を挙げることができる。カバー用組成物をコア上に射出成形してカバーを成形する場合、カバー成形用上下金型としては、半球状キャビティを有し、ピンプル付きで、ピンプルの一部が進退可能なホールドピンを兼ねているものを使用することが好ましい。射出成形によるカバーの成形は、上記ホールドピンを突き出し、コアを投入してホールドさせた後、加熱溶融されたカバー用組成物を注入して、冷却することによりカバーを成形することができ、例えば、980kPa〜1,500kPaの圧力で型締めした金型内に、150℃〜230℃に加熱溶融したカバー用組成物を0.1秒〜1秒で注入し、15秒〜60秒間冷却して型開きすることにより行う。
圧縮成形法によりカバーを成形する場合、ハーフシェルの成形は、圧縮成形法または射出成形法のいずれの方法によっても行うことができるが、圧縮成形法が好適である。カバー用組成物を圧縮成形してハーフシェルに成形する条件としては、例えば、1MPa以上、20MPa以下の圧力で、カバー用組成物の流動開始温度に対して、−20℃以上、70℃以下の成形温度を挙げることができる。前記成形条件とすることによって、均一な厚みをもつハーフシェルを成形できる。ハーフシェルを用いてカバーを成形する方法としては、例えば、コアを2枚のハーフシェルで被覆して圧縮成形する方法を挙げることができる。ハーフシェルを圧縮成形してカバーに成形する条件としては、例えば、0.5MPa以上、25MPa以下の成形圧力で、カバー用組成物の流動開始温度に対して、−20℃以上、70℃以下の成形温度を挙げることができる。上記成形条件とすることによって、均一なカバー厚みを有するゴルフボールカバーを成形できる。
また、カバーが成形されたゴルフボール本体は、金型から取り出し、必要に応じて、バリ取り、洗浄、サンドブラストなどの表面処理を行うことが好ましい。また、所望により、塗膜やマークを形成することもできる。前記塗膜の膜厚は、特に限定されないが5μm以上、より好ましくは7μm以上、25μm以下、より好ましくは18μm以下であることが望ましい。膜厚が5μm未満になると継続的な使用により塗膜が摩耗消失しやすくなり、膜厚が25μmを超えるとディンプルの効果が低下してゴルフボールの飛行性能が低下するからである。
本発明において、ゴルフボールのカバーの厚みは、3mm以下が好ましく、2.5mm以下がより好ましく、2mm以下がさらに好ましい。カバーの厚みを3mm以下とすることによって、反発性や打球感が良好になるからである。前記カバーの厚みは、0.1mm以上が好ましく、0.2mm以上がより好ましく、0.3mm以上がさらに好ましい。0.1mm未満では、カバーの成形が困難になるおそれがあるからである。また、カバーの耐久性や耐摩耗性が低下する場合もある。
本発明のゴルフボールは、センターと前記センターを被覆する一以上の中間層とからなるコアと、前記コアを被覆するカバーとを有するものであれば、特に限定されない。本発明のゴルフボールの構造の具体例としては、センターと前記センターを被覆する中間層とからなるコアと、前記コアを被覆するカバーを有するスリーピースゴルフボール;センターと前記センターを被覆する2層の中間層とからなるコアと、前記コアを被覆するカバーを有するフォーピースゴルフボール;センターと前記センターを被覆する複数もしくは複層の中間層とからなるコアと、前記コアを被覆するカバーを有するマルチピースゴルフボールを挙げることができる。これらの中でも本発明は、センターと前記センターを被覆する単層の中間層とからなるコアと、前記コアを被覆するカバーを有するスリーピースゴルフボールに好適に適用できる。
本発明のゴルフボールとしては、センターと前記センターを被覆する単層の中間層とからなるコアと、前記コアを被覆するカバーを有するスリーピースゴルフボールであって、前記中間層が高弾性中間層用組成物から形成されている態様が最も好ましい。
本発明のゴルフボールは、直径40mm〜45mmの場合、初期荷重98Nを負荷した状態から終荷重1275Nを負荷したときまでの圧縮変形量(圧縮方向にゴルフボールが縮む量)が、2.0mm以上が好ましく、より好ましくは2.1mm以上、さらに好ましくは2.2mm以上であり、3.0mm以下が好ましく、より好ましくは2.9mm以下、さらに好ましくは2.8mm以下である。前記圧縮変形量を、2.0mm以上とすることにより良好な打球感が得られ、また、3.0mm以下とすることにより、良好な反発性が得られる。
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は、下記実施例によって限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲での変更、実施の態様は、いずれも本発明の範囲に含まれる。
(1)曲げ弾性率(MPa)
(A)高弾性ポリアミド樹脂の乾燥ペレットを用いて、射出成形により、長さ80.0±2mm、幅10.0±0.2mm、厚み4.0±0.2mmの試験片を作製し、直ちに防湿容器中で23℃±2℃で24時間以上保持した。この試験片を防湿容器から取り出した後、速やか(15分以内)に、曲げ弾性率をISO178に準じて測定した。測定は、温度23℃、湿度50%RHで行った。
(B)共重合体金属中和物または高弾性中間層用組成物を用いて、射出成形により、長さ80.0±2mm、幅10.0±0.2mm、厚み4.0±0.2mmの試験片を作製し、23℃、50%RHで2週間保存した。この試験片の曲げ弾性率を、ISO 178に準じて測定した。測定は、温度23℃、湿度50%RHで行った。
(2)引張弾性率(MPa)
高弾性中間層用組成物を用いて、射出成形により、厚み約2mmのシートを作製し、23℃で2週間保存した。このシートからダンベル型試験片を作製し、当該試験片について引張弾性率をISO 527−1も準じて測定した。
(3)スラブ硬度(ショアD硬度)
カバー用組成物または高弾性中間層用組成物を用いて、射出成形により、厚み約2mmのシートを作製し、23℃で2週間保存した。このシートを、測定基板などの影響が出ないように、3枚以上重ねた状態で、ASTM−D2240に規定するスプリング式硬度計ショアD型を備えた高分子計器社製自動ゴム硬度計P1型を用いて測定した。
(4)センター、コア硬度(ショアD硬度)
ASTM−D2240に規定するスプリング式硬度計ショアD型を備えた高分子計器社製自動ゴム硬度計P1型を用いて、センター、コアまたはゴルフボールの表面部において測定したショアD硬度をセンター表面硬度Hs1、コア表面硬度Hs、表面硬度Hとした。また、コアを半球状に切断し、切断面の中心において測定したショアD硬度をセンターまたはコア中心硬度Hoとした。
(5)圧縮変形量(mm)
ゴルフボールまたはコアに初期荷重98Nを負荷した状態から終荷重1275Nを負荷したときまでの圧縮方向の変形量(圧縮方向にゴルフボールまたはコアが縮む量)を測定した。
(6)耐久性
ゴルフラボラトリー社製のスイングロボットM/Cに、メタルヘッド製W#1ドライバー(SRIスポーツ社製、XXIO S ロフト11°)を取り付け、各ゴルフボールをヘッドスピード45m/秒で打撃し衝突板に衝突させて、ゴルフボールが壊れるまでの繰返し打撃回数を測定した。なお、外見上は壊れていなくとも、中間層に割れが生じている場合もあるが、このような場合には、ゴルフボールの変形や打球音の違いから、壊れているかどうかを判断した。
各ゴルフボールの耐久性は、ゴルフボールNo.9の打撃回数を100として、各ゴルフボールについての打撃回数を指数化した値で示した。指数化された値が大きいほど、ゴルフボールが耐久性に優れていることを示す。
(7)低温耐久性
各ゴルフボールを10個ずつ、−10℃の温度で1日間保管した後、速やかにエアガンを用いて金属板に45m/秒の速度で衝突させて、ゴルフボールが壊れるまでの繰返し回数を測定し、10個の平均値を算出した。なお、外見上は壊れていなくとも、中間層に割れが生じている場合もあるが、このような場合には、ゴルフボールの変形や打球音の違いから、壊れているかどうかを判断した。
各ゴルフボールの低温耐久性は、ゴルフボールNo.9の回数を100として、各ゴルフボールについての打撃回数を指数化した値で示した。指数化された値が大きいほど、ゴルフボールが耐久性に優れていることを示す。
(8)ドライバーでのショット
ゴルフラボラトリー社製のスイングロボットM/Cに、メタルヘッド製W#1ドライバー(SRIスポーツ社製、XXIO S ロフト11°)を取り付け、ヘッドスピード50m/秒でゴルフボールを打撃し、打撃直後のボール速度、打出角およびスピン速度、ならびに飛距離(発射始点から静止地点までの距離)を測定した。測定は、各ゴルフボールについて12回ずつ行って、その平均値をそのゴルフボールの測定値とした。なお、打撃直後のゴルフボールの速度およびスピン速度は、打撃されたゴルフボールを連続写真撮影することによってスピン速度およびボール初速度を測定した。
(9)ショートアイアンでのショット
ゴルフラボラトリー社製スイングロボットM/Cに、サンドウェッジを取り付け、ヘッドスピード21m/sでゴルフボールを打撃した。測定は、各ゴルフボールについて12回ずつ行い、その平均値をスピン速度とした。なお、スピン速度の幅は、12個中のスピン量の最大値と最小値のスピン速度差であり、スピン速度の幅が狭いほどスピン安定性が高い。
スピン速度の幅の評価基準
A:幅が100rpm未満である。
B:幅が100rpm以上200rpm未満である。
C:幅が200rpm以上である。
[ゴルフボールの作製]
(1)センターの作製
表1に示す配合のゴム組成物を混練し、半球状キャビティを有する上下金型内で、170℃で30分間加熱プレスすることによりセンターを得た。
ポリブタジエンゴム:JSR社製、「BR−730(ハイシスポリブタジエン)」
アクリル酸亜鉛:日本蒸留社製、「ZNDA−90S」
酸化亜鉛:東邦亜鉛社製、「銀嶺R」
硫酸バリウム:堺化学社製、「硫酸バリウムBD」
ジフェニルジスルフィド:住友精化社製
ジクミルパーオキサイド:日本油脂社製、「パークミル(登録商標)D」
なお、硫酸バリウムは、得られるゴルフボールの質量が、45.4gとなるように適量加えた。
(2)カバー用組成物および高弾性中間層用組成物の調製
表2、表3に示した配合材料を用いて、二軸混練型押出機によりミキシングして、ペレット状のカバー用組成物および高弾性中間層用組成物をそれぞれ調製した。押出条件は、スクリュー径45mm、スクリュー回転数200rpm、スクリューL/D=35であり、配合物は、押出機のダイの位置で160〜230℃に加熱された。
エラストランXNY85A:BASF社製、熱可塑性ポリウレタンエラストマー
(3)ゴルフボール本体の作製
上記で得た高弾性中間層用組成物を、前述のようにして得たセンター上に射出成形することにより、前記センターを被覆する中間層を形成して、球状コアを作製した。続いて、前記球状コア上にカバー用組成物を射出成型することによりカバーを形成して、ゴルフボールを作製した。成形用上下金型は、半球状キャビティを有し、ピンプル付きで、ピンプルの一部が進退可能なホールドピンを兼ねている。上記ホールドピンを突き出し、コアを投入後ホールドさせ、80トンの圧力で型締めした金型に210℃に加熱した樹脂を0.3秒で注入し、30秒間冷却して型開きしてゴルフボールを取り出した。得られたゴルフボール本体の表面をサンドブラスト処理して、マーキングを施した後、クリアーペイントを塗布し、40℃のオーブンで塗料を乾燥させ、直径42.8mm、質量45.4gのゴルフボールを得た。
得られたゴルフボールの耐久性、圧縮変形量ならびに飛距離などについて評価した結果を表3,4に示した。
サーリン8945:デュポン社製のナトリウムイオン中和エチレン−メタクリル酸共重合体アイオノマー樹脂
ハイミランAM7329:三井デュポンポリケミカル社製の亜鉛イオン中和エチレン−メタクリル酸共重合体系アイオノマー樹脂
プリマロイB1942N:三菱化学社製の熱可塑性ポリエステルエラストマー
LOTADER AX8840:東京材料社製、エチレン−アクリル酸−グリシジルメタクリレート共重合体(極性官能基を有する単量体の含有量:8質量%)
ARUFON UG−4030:東亜合成社製、メチルメタクリレート−グリシジルメタクリレート共重合体(極性官能基を有する単量体の含有量:0.02質量%、エポキシ価:1.8meq/g)
ノバミッドST220:三菱エンジニアリングプラスチックス社製、ポリアミド樹脂(高衝撃グレード、曲げ弾性率:2000MPa)
アミランU141:東レ社製、ポリアミド樹脂(超高衝撃タイプ、曲げ弾性率:1500MPa)
ペバックス4033SA:東京材料社製、ポリエーテルブロックアミド共重合体(曲げ弾性率:84MPa)
ゴルフボールNo.1〜8は、中間層が高弾性中間層用組成物から形成されている場合であるが、これらはいずれも、中間層が樹脂成分としてアイオノマー樹脂のみを含有する中間層用組成物から形成されているゴルフボールNo.9に比べて、低温耐久性および飛距離が向上している。ゴルフボールNo.10は、中間層用組成物に用いられるポリアミドの弾性が低く、またその含有量が少ないため、低温耐久性および飛距離が劣る。ゴルフボールNo.11は中間層が樹脂成分として熱可塑性ポリエステルエラストマーのみを含有する中間層用組成物から形成されている場合であるが、実用レベルの耐久性が得られなかった。
ゴルフボールNo.12,13は、中間層用組成物中の(A)高弾性ポリアミド樹脂と(B)共重合体金属中和物の含有量比率((A)/(B))が、90/10、10/90の場合であるが、(A)高弾性ポリアミド樹脂の含有量が多いゴルフボールNo.12では、低温耐久性も飛距離も劣り、(A)高弾性ポリアミド樹脂の含有量が少ないゴルフボールNo.13では、低温耐久性には優れるものの飛距離が劣る。ゴルフボールNo14,15は、中間層用組成物中の(A)高弾性ポリアミド樹脂と(B)共重合体金属中和物との合計100質量部に対する(C)極性官能基を有する樹脂の含有量が25質量部、1質量部の場合であるが、(C)極性官能基を有する樹脂の含有量が多いゴルフボールNo.14では、低温耐久性も飛距離も劣り、(C)極性官能基を有する樹脂の含有量が少ないゴルフボールNo.15では、低温耐久性が劣る。