本発明のゴルフボールは、センターと前記センターを被覆する一以上の中間層とからなるコアと、前記コアを被覆するカバーとを有するゴルフボールであって、前記中間層の少なくとも1つまたは1層は、(a)エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体、またはその金属中和物、(b)α−オレフィンとグリシジル(メタ)アクリレートまたはグリシジル不飽和エーテルとの共重合体、(c)ポリオレフィン、および、(d)前記(a)エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体の金属中和物と異なる金属種で中和されたアイオノマー樹脂を含有し、樹脂成分中の前記(a)エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体またはその金属中和物、(b)α−オレフィンとグリシジル(メタ)アクリレートまたはグリシジル不飽和エーテルとの共重合体、および、(c)ポリオレフィンの合計質量(a+b+c)と、前記(d)前記(a)エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体の金属中和物と異なる金属種で中和されたアイオノマー樹脂との質量比((a+b+c)/d)が、95質量部/5質量部〜50質量部/50質量部である高剛性中間層用組成物から形成されていることを特徴としている。
まず、前記高弾性中間層用組成物に用いられる(a)エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体、またはその金属中和物について説明する。
前記(a)エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体とは、エチレンと(メタ)アクリル酸とを含有する単量体組成物を共重合することにより得られる共重合体である。前記(a)エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体中の(メタ)アクリル酸成分の含有量は、2質量%以上が好ましく、より好ましくは3質量%以上であり、30質量%以下が好ましく、より好ましくは25質量%以下である。なお、本願において、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸、メタクリル酸およびこれらの混合物を示す。
また、前記(a)エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体は、本発明の効果を損なわない程度で、エチレン、(メタ)アクリル酸以外の他の単量体が共重合された多元共重合体であってもよい。前記(a)エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体に用いることができる他の単量体としては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルのようなビニルエステル;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチルなどの不飽和カルボン酸エステル;一酸化炭素、二酸化硫黄などが挙げられる。
前記他の単量体を用いる場合には、前記(a)エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体中のこれら他の単量体成分の含有量は40質量%以下とすることが好ましく、より好ましくは30質量%以下、さらに好ましくは20質量%である。
前記(a)エチレン・(メタ)アクリル酸共重合の具体例を商品名で例示すると、三井デュポンポリケミカル(株)から市販されている「ニュクレル(NUCREL)(登録商標)(例えば、ニュクレルAN4214C、ニュクレルAN4225C、ニュクレルAN42115C、ニュクレルN0903HC、ニュクレルN0908C、ニュクレルAN42012C、ニュクレルN410、ニュクレルN1035、ニュクレルN1050H、ニュクレルN1108C、ニュクレルN1110H、ニュクレルN1207C、ニュクレルN1214、ニュクレルAN4221C、ニュクレルN1525、ニュクレルN1560、ニュクレルN0200H、ニュクレルAN4228C、ニュクレルN4213C、ニュクレルN035Cなど)」が挙げられる。
前記(a)エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体の金属中和物とは、前記エチレンと(メタ)アクリル酸共重合体が有するカルボキシル基の少なくとも一部が、金属イオンで中和された金属中和物である。
前記(a)エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体の金属中和物に用いられる金属(イオン)としては、ナトリウム、カリウム、リチウムなどの1価の金属(イオン);マグネシウム、カルシウム、亜鉛、バリウム、カドミウムなどの2価の金属(イオン);アルミニウムなどの3価の金属(イオン);錫、ジルコニウムなどのその他の金属(イオン)が挙げられる。これらの中でも、特にナトリウム、亜鉛、マグネシウム(イオン)が反発性、耐久性に優れることから好ましく用いられる。
前記(a)エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体の金属中和物が含有するカルボキシル基の中和度は、20モル%以上が好ましく、より好ましくは30モル%以上であり、90モル%以下が好ましく、より好ましくは85モル%以下である。なお、(a)エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体の金属中和物中のカルボキシル基の中和度は、下記式で求めることができる。
前記(a)エチレン・(メタ)アクリル酸共重合の金属中和物の具体例を商品名で例示すると、三井デュポンポリケミカル(株)から市販されている「ハイミラン(Himilan)(登録商標)(例えば、ハイミラン1555(Na)、ハイミラン1605(Na)、ハイミラン1706(Zn)、ハイミラン1707(Na)、ハイミランAM7311(Mg)、ハイミランAM7329(Zn)、ハイミラン1856(Na)、ハイミラン1855(Zn)など)」が挙げられる。
さらにデュポン社から市販されているアイオノマー樹脂としては、「サーリン(Surlyn)(登録商標)(例えば、サーリン8945(Na)、サーリン9945(Zn)、サーリン8140(Na)、サーリン8150(Na)、サーリン9120(Zn)、サーリン9150(Zn)、サーリン6910(Mg)、サーリン6120(Mg)、サーリン7930(Li)、サーリン7940(Li)、サーリンAD8546(Li)などが挙げられ、三元共重合体アイオノマー樹脂としては、サーリン6320(Mg)、サーリン8120(Na)、サーリン8320(Na)、サーリン9320(Zn)、サーリン9320W(Zn)など)」、「HPF 1000(Mg)、HPF 2000(Mg)」が挙げられる。
またエクソンモービル化学(株)から市販されているアイオノマー樹脂としては、「アイオテック(Iotek)(登録商標)(例えば、アイオテック8000(Na)、アイオテック8030(Na)、アイオテック7010(Zn)、アイオテック7030(Zn)などが挙げられ、三元共重合体アイオノマー樹脂としては、アイオテック7510(Zn)、アイオテック7520(Zn)など)」が挙げられる。
なお、前記アイオノマー樹脂の商品名の後の括弧内に記載したNa、Zn、Li、Mgなどは、これらの中和金属イオンの金属種を示している。
前記高弾性中間層用組成物を構成する樹脂成分中の(a)エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体、またはその金属中和物の含有率は、40質量%以上が好ましく、より好ましくは45質量%以上、さらに好ましくは50質量%以上であり、90質量%以下が好ましく、より好ましくは85質量%以下、さらに好ましくは80質量%以下である。前記高弾性中間層用組成物を構成する樹脂成分中の(a)エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体、またはその金属中和物の含有率を40質量%以上とすることにより、高弾性中間層用組成物の曲げ弾性率が高くなりすぎることがなく、得られるゴルフボールの耐久性および打球感がより良好となり、90質量%以下とすることにより、高弾性中間層用組成物の曲げ弾性率を所望の値まで上げることができるため、低スピン化の効果が得られ、より飛距離を向上できる。
前記高弾性中間層用組成物に用いられる(b)α−オレフィンとグリシジル(メタ)アクリレートまたはグリシジル不飽和エーテルとの共重合体について説明する。
前記(b)α−オレフィンとグリシジル(メタ)アクリレートまたはグリシジル不飽和エーテルとの共重合体とは、α−オレフィンと、グリシジル(メタ)アクリレートおよび/またはグリシジル不飽和エーテルとを含有する単量体組成物を重合することにより得られる共重合体である。
前記α−オレフィンとしては、分子鎖の末端に炭素−炭素二重結合を有するオレフィンであれば特に限定されないが、エチレン、プロピレン、1−ブテンなどの炭素数2〜8のものが好ましい。これらのα−オレフィンは単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、特にエチレンが好適である。
前記(b)α−オレフィンとグリシジル(メタ)アクリレートまたはグリシジル不飽和エーテルとの共重合体中のα−オレフィン成分の含有量は、50質量%以上とすることが好ましく、より好ましくは52質量%以上であり、99質量%以下とすることが好ましく、より好ましくは98質量%以下である。
前記グリシジル不飽和エーテルとしては、分子中にグリシジル基と少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を有するエーテルであれば特に限定されず、例えば、ビニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、2−メチルアリルグリシジルエーテルなどを挙げることができる。これらのグリシジル不飽和エーテルは単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記(b)α−オレフィンとグリシジル(メタ)アクリレートまたはグリシジル不飽和エーテルとの共重合体中のグリシジル(メタ)アクリレート成分またはグリシジル不飽和エーテル成分の含有量は、0.5質量%以上とすることが好ましく、より好ましくは1質量%以上であり、20質量%以下とすることが好ましく、より好ましくは18質量%以下である。
また、前記(b)α−オレフィンとグリシジル(メタ)アクリレートまたはグリシジル不飽和エーテルとの共重合体は、さらに他の単量体が共重合された多元共重合体であってもよい。これら他の単量体の具体例としては、前記(a)エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体において例示した他の単量体を挙げることができる。
前記他の単量体を用いる場合には、前記(b)α−オレフィンとグリシジル(メタ)アクリレートまたはグリシジル不飽和エーテルとの共重合体中の他の単量体成分の含有量を49.5質量%以下とすることが好ましく、より好ましくは40質量%以下である。
前記(b)α−オレフィンとグリシジル(メタ)アクリレートまたはグリシジル不飽和エーテルとの共重合体は、ランダム共重合体、グラフト共重合体のいずれでもよいが、前記(a)エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体、またはその金属中和物や、後述する(c)ポリオレフィンとの相溶性の観点から、ランダム共重合体が好ましい。なお、ランダム共重合体は、例えば、高温、高圧下でのラジカル重合によって得ることができる。
前記高弾性中間層用組成物を構成する樹脂成分中の(b)α−オレフィンとグリシジル(メタ)アクリレートまたはグリシジル不飽和エーテルとの共重合体の含有率は、0.1質量%以上が好ましく、より好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは1質量%以上であり、10質量%以下が好ましく、より好ましくは8質量%以下、さらに好ましくは6質量%以下である。前記高弾性中間層用組成物を構成する樹脂成分中の(b)α−オレフィンとグリシジル(メタ)アクリレートまたはグリシジル不飽和エーテルとの共重合体の含有率を0.1質量%以上とすることにより、グリシジル基による反応性が高まり、(a)成分と(c)成分との相溶化効果をより高めることができ、10質量%以下とすることにより、グリシジル基による反応性が高くなりすぎることがなく、高弾性中間層用組成物の流動性がより良好となる。
前記高弾性中間層用組成物に用いられる(c)ポリオレフィンについて説明する。
前記(c)ポリオレフィンとしては、特に限定されるものではないが、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン,4−メチル−1−ペンテンなどの炭素数2〜12のα−オレフィンの単独重合体または共重合体などが好適である。なお、共重合体としては、ランダム共重合体でもブロック共重合体でもよいが、ランダム共重合体が好適である。
前記(c)ポリオレフィンとしては、プロピレンとエチレンとの共重合体が好ましい。前記プロピレンとエチレンとの共重合体中のプロピレン成分の含有量は85質量%以上が好ましく、より好ましくは90質量%以上であり、99.9質量%以下が好ましく、より好ましくは99.5質量%以下である。
前記(c)ポリオレフィンのJIS K7161に準じて測定された引張弾性率は、500MPa以上が好ましく、より好ましくは600MPa以上、さらに好ましくは700MPa以上であり、3000MPa以下が好ましく、より好ましくは2500MPa以下、さらに好ましくは2000MPa以下である。前記(c)ポリオレフィンの引張弾性率を500MPa以上とすることにより、高弾性中間層用組成物を容易に高剛性化でき、3000MPa以下とすることにより、高弾性中間層用組成物の曲げ弾性率が高くなりすぎず、ゴルフボールの耐久性がより良好となる。
前記(c)ポリオレフィンの密度は、870kg/m3以上が好ましく、より好ましくは880kg/m3以上であり、930kg/m3以下が好ましく、より好ましくは920kg/m3以下である。また、前記(c)ポリオレフィンのメルトフローレート(MFR)(230℃、2.16kg荷重)は0.1g/10min以上が好ましく、より好ましくは0.2g/10min以上であり、100g/10min以下が好ましく、より好ましくは80g/10min以下である。
前記(c)ポリオレフィンの具体例を商品名で例示すると、プライムポリマー社から市販されている「プライムポリプロ(登録商標)F227D、F219DA、F329RA、F−724NP、F−744NP、F−744NPT、J226E、J226T、J227T、J229E、J−721GR、J−2021GR、J−2023GR、J−2041GA、J−3021GR、J−3021GA、B221WA、J232WA、B241」などのプロピレンとエチレンのランダム共重合体;「プライムポリプロ(登録商標)E−185G、E−150GK、BJS−MU、J704LB、J704UG、J705UG、J715M、J717ZG、J707G、J707EG、J830HV、J708UG、J709QG、J−356HP、J−452HP、J−466HP、J−782HV、J−786HV、J−762HP、J−750HP、J−751HP、J−950HP、J−5051HP、J−6083HP」などのプロピレンとエチレンとのブロック共重合体;日本ポリプロ社から市販されている「ノバテック(登録商標)MA3、MA3H、MA1B、MG3ATB、MG2T、MG03B、MG05ES、BC8、BC6C、BC6DR、BC4ASW、BC3F、BC3H、BC3L、BC2E、BC03C、BC03B、BC03GS、BC05B、BC06C、F203、FL6H、FB3HAT、FW4BT、FX4E、FA3EB、FG3DC、FG3DE、FG4FA、FL03H、FL02A、EA8W、FY7HA、FY6H、FY6、FY4、SA3A、EA9、EA7A、FY6C、EG8、EG7F、EG6D、EX9A、EC9、EC7」などのプロピレンのホモ重合体などが挙げられる。
前記高弾性中間層用組成物を構成する樹脂成分中の(c)ポリオレフィンの含有率は、5質量%以上が好ましく、より好ましくは8質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上であり、40質量%以下が好ましく、より好ましくは30質量%以下、さらに好ましくは20質量%以下である。前記高弾性中間層用組成物を構成する樹脂成分中の(c)ポリオレフィンの含有率を5質量%以上とすることにより、高弾性中間層用組成物の曲げ弾性率を所望の値まで上げることができるため、低スピン化の効果が得られ、飛距離をより向上でき、40質量%以下とすることにより、高弾性中間層用組成物の曲げ弾性率が高くなりすぎることがなく、得られるゴルフボールの耐久性および打球感がより良好となる。
前記(a)エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体、またはその金属中和物、(b)α−オレフィンとグリシジル(メタ)アクリレートまたはグリシジル不飽和エーテルとの共重合体および(c)ポリオレフィンの組合せ態様としては、(a)エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体、(b)α−オレフィンとグリシジル(メタ)アクリレートとの共重合体および(c)ポリオレフィンを用いる態様(I);(a)エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体の金属中和物、(b)α−オレフィンとグリシジル(メタ)アクリレートとの共重合体および(c)ポリオレフィンを用いる態様(II)などが挙げられるが、これらの中でも、前記(II)の態様が好ましい。
なお、前記(a)エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体、またはその金属中和物、(b)α−オレフィンとグリシジル(メタ)アクリレートまたはグリシジル不飽和エーテルとの共重合体および(c)ポリオレフィンは、それぞれを別々に配合してもよいが、これら3種の成分を予め混合して(A)共重合体混合物として使用することも好ましい態様である。
前記(A)共重合体混合物中の(a)エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体、またはその金属中和物、(b)α−オレフィンとグリシジル(メタ)アクリレートまたはグリシジル不飽和エーテルとの共重合体および(c)ポリオレフィンの配合比率(合計100質量%)は、(a)/(b)/(c)=60質量%〜96.7質量%/0.3質量%〜10質量%/3質量%〜30質量%とすることが好ましく、より好ましくは73質量%〜95.5質量%/0.5質量%〜7質量%/4質量%〜20質量%、さらに好ましくは81質量%〜94質量%/1質量%〜4質量%/5質量%〜15質量%である。
前記(A)共重合体混合物を配合する態様としては、例えば、(a)エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体、またはその金属中和物、(b)α−オレフィンとグリシジル(メタ)アクリレートまたはグリシジル不飽和エーテルとの共重合体および(c)ポリオレフィンを溶融混合する態様(i);(b)α−オレフィンとグリシジル(メタ)アクリレートまたはグリシジル不飽和エーテルとの共重合体と(c)ポリオレフィンとを予め溶融混合したものと、(a)エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体、またはその金属中和物とを溶融混合する態様(ii)などを挙げることができる。これらの中でも、前記(ii)の態様が好適である。
前記高弾性中間層用組成物を構成する樹脂成分中の(A)共重合体混合物の含有率は、50質量%以上が好ましく、より好ましくは55質量%以上、さらに好ましくは60質量%以上である。
前記高弾性中間層用組成物は、さらに(d)前記(a)エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体の金属中和物と異なる金属種で中和されたアイオノマー樹脂を含有することにより、アイオノマー樹脂成分の反発性を向上させることができるため、ゴルフボールの反発性をより向上させることができる。
前記高弾性中間層用組成物に用いられる(d)前記(a)エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体の金属中和物と異なる金属種で中和されたアイオノマー樹脂について説明する。
前記(d)前記(a)エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体の金属中和物と異なる金属種で中和されたアイオノマー樹脂(以下、単に「(d)アイオノマー樹脂」ということがある。)とは、重合体が有する酸性基の少なくとも一部が、前記(a)エチレン・(メタ)アクリル酸共重合の金属中和物と異なる金属(イオン)で中和された樹脂である。ここで、酸含量とは、樹脂中の酸性基含有成分の含有量である。また、酸性基含有成分とは、分子中にカルボキシル基などの酸性基を有する単量体成分であり、例えば、α,β−不飽和カルボン酸などのカルボキシル基含有単量体成分をいう。
前記(d)アイオノマー樹脂としては、前記(a)エチレン・(メタ)アクリル酸共重合の金属中和物と異なる金属(イオン)で中和されていれば特に限定されず、エチレンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸の二元共重合体中のカルボキシル基の少なくとも一部を金属イオンで中和したアイオノマー樹脂;エチレンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸とα,β−不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体中のカルボキシル基の少なくとも一部を金属イオンで中和したアイオノマー樹脂;またはこれらの混合物を挙げることができる。前記(d)アイオノマー樹脂としては、特に、エチレン−(メタ)アクリル酸二元共重合体の金属中和物、または、エチレン−(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル三元共重合体の金属中和物、およびこれらの混合物が好適である。
前記(d)アイオノマー樹脂の酸含量は、5質量%以上が好ましく、より好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは15質量%以上であり、30質量%以下が好ましく、より好ましくは25質量%以下、さらに好ましくは20質量%以下である。酸含量を5質量%以上30質量%以下とすることにより、高弾性中間層用組成物の流動性を維持したままで、所望の硬さや剛性が得られる。
前記(d)アイオノマー樹脂に用いられる金属(イオン)としては、ナトリウム、カリウム、リチウムなどの1価の金属(イオン);マグネシウム、カルシウム、亜鉛、バリウム、カドミウムなどの2価の金属(イオン);アルミニウムなどの3価の金属(イオン);錫、ジルコニウムなどのその他の金属(イオン)が挙げられる。これらの中でも、特にナトリウム、亜鉛、マグネシウム(イオン)が反発性、耐久性などから好ましく用いられる。
なお、前記(a)エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体の金属中和物に用いられる金属(イオン)と(d)アイオノマー樹脂に用いられる金属(イオン)との組合せとしては、前記(a)エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体の金属中和物にナトリウム、カリウムなどの1価の金属(イオン)を使用し、前記(d)アイオノマー樹脂に亜鉛、マグネシウムなどの2価の金属(イオン)を使用することが好ましく、特に、前記(a)エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体の金属中和物にナトリウムを使用し、前記(d)アイオノマー樹脂に亜鉛を使用することが好ましい。
前記(d)アイオノマー樹脂が含有する酸性基の中和度は、10モル%以上が好ましく、より好ましくは15モル%以上、さらに好ましくは20モル%以上であり、90モル%以下が好ましく、より好ましくは80モル%以下、さらに好ましくは70モル%以下である。なお、(d)アイオノマー樹脂中の酸性基の中和度は、下記式で求めることができる。
前記(d)アイオノマー樹脂の具体例としては、前記(a)エチレン・(メタ)アクリル酸共重合の金属中和物に用いられるものとして例示したものが挙げられる。
前記高弾性中間層用組成物を構成する樹脂成分中の(d)アイオノマー樹脂の含有率は、50質量%以下とすることが好ましく、より好ましくは45質量%以下、さらに好ましくは40質量%以下であり、5質量%以上とすることが好ましく、より好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは20質量%以上である。前記高弾性中間層用組成物を構成する樹脂成分中の(d)アイオノマー樹脂の含有率を50質量%以下とすることにより、高弾性中間層用組成物の曲げ弾性率および硬度を所望の値とすることができ、また、5質量%以上とすることにより、ゴルフボールの反発をより向上させることができる。
樹脂成分中の前記(a)エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体またはその金属中和物、(b)α−オレフィンとグリシジル(メタ)アクリレートまたはグリシジル不飽和エーテルとの共重合体、および、(c)ポリオレフィンの合計質量(a+b+c)と、前記(d)アイオノマー樹脂との質量比((a+b+c)/d)は、95質量部/5質量部〜50質量部/50質量部であり、好ましくは90質量部/10質量部〜55質量部/45質量部、より好ましくは80質量部/20質量部〜60質量部/40質量部である。質量比((a+b+c)/d)を上記範囲とすることにより、ゴルフボールの飛距離および反発をより向上させることができる。
前記高弾性中間層用組成物は、本発明の効果を妨げない程度に、前記(a)エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体、またはその金属中和物、(b)α−オレフィンとグリシジル(メタ)アクリレートまたはグリシジル不飽和エーテルとの共重合体、(c)ポリオレフィンおよび(d)アイオノマー樹脂以外の樹脂成分を含有してもよいが、本発明の高弾性中間層用組成物は、樹脂成分として、前記(a)エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体、またはその金属中和物、(b)α−オレフィンとグリシジル(メタ)アクリレートまたはグリシジル不飽和エーテルとの共重合体、(c)ポリオレフィン、(d)アイオノマー樹脂のみを含有することが好ましい。
また、前記高弾性中間層用組成物には、本発明の効果を妨げない程度に、硫酸バリウム、タングステンなどの比重調整剤、老化防止剤、顔料などが配合されていてもよい。
本発明のゴルフボールの製造方法では、前記(a)エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体、またはその金属中和物、(b)α−オレフィンとグリシジル(メタ)アクリレートまたはグリシジル不飽和エーテルとの共重合体、(c)ポリオレフィン、(d)アイオノマー樹脂および必要に応じて添加剤とを配合して高弾性中間層用組成物を得る。高弾性中間層用組成物の配合は、例えば、ペレット状の原料を配合できる混合機を用いるのが好ましく、より好ましくはタンブラー型混合機を用いる。
前記高弾性中間層用組成物を配合する態様としては、例えば、(a)エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体、またはその金属中和物、(b)α−オレフィンとグリシジル(メタ)アクリレートまたはグリシジル不飽和エーテルとの共重合体、(c)ポリオレフィン、(d)アイオノマー樹脂および酸化チタンなどの添加剤を混合し、押出して、ペレットを調整する態様(I);予め(A)共重合体混合物のペレットを調製し、当該ペレットと(d)アイオノマー樹脂および酸化チタンなどの添加剤とをドライブレンドする態様(II)などを挙げることができる。これらの中でも、前記(II)の態様が好適である。
前記高弾性中間層用組成物のスラブ硬度は、ショアD硬度で65以上が好ましく、より好ましくは66以上、さらに好ましくは67以上であり、75以下が好ましく、より好ましくは73以下、さらに好ましくは71以下である。前記高弾性中間層用組成物のスラブ硬度を、ショアD硬度で65以上とすることにより、得られる中間層の硬度が高くなり、高打出角化および低スピン化の効果が得られ、また75以下とすることにより、中間層が硬くなりすぎず、ゴルフボールの耐久性がより良好となる。
前記高弾性中間層用組成物の曲げ弾性率は、300MPa以上が好ましく、より好ましくは320MPa以上、さらに好ましくは350MPa以上であり、1000MPa以下が好ましく、より好ましくは900MPa以下、さらに好ましくは800MPa以下である。前記高弾性中間層用組成物の曲げ弾性率を、300MPa以上とすることにより、得られる中間層の硬度が高くなり、高打出角化および低スピン化の効果が得られ、また1000MPa以下とすることにより、高弾性中間層用組成物の成形性が低下することがなく、また、中間層が硬くなりすぎず、ゴルフボールの耐久性が良好となる。
前記高弾性中間層用組成物の引張弾性率は、400MPa以上が好ましく、より好ましくは410MPa以上、さらに好ましくは420MPa以上であり、1500MPa以下が好ましく、より好ましくは1400MPa以下、さらに好ましくは1300MPa以下である。前記高弾性中間層用組成物の引張弾性率を、400MPa以上とすることにより、得られる中間層の硬度が高くなり、高打出角化および低スピン化の効果が得られ、また1500MPa以下とすることにより、中間層が硬くなりすぎず、ゴルフボールの耐久性がより良好となる。
ここで、高弾性中間層用組成物のスラブ硬度、曲げ弾性率および引張弾性率は、後述する測定方法により測定する。なお、前記高弾性中間層用組成物のスラブ硬度、曲げ弾性率および引張弾性率は、前記(a)エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体、またはその金属中和物、(b)α−オレフィンとグリシジル(メタ)アクリレートまたはグリシジル不飽和エーテルとの共重合体、(c)ポリオレフィンおよび(d)アイオノマー樹脂の組合せ、添加剤の含有量などを適宜選択することによって、調整することができる。
本発明のゴルフボールに用いられるコアについて説明する。本発明に用いられるコアは、センターと前記センターを被覆する一以上の中間層とからなるコアであって、前記中間層の少なくとも1つまたは1層が、前述した高弾性中間層用組成物から形成されていることを特徴とする。
本発明のゴルフボールのコアの構造としては、例えば、センターと前記センターを被覆する単層の中間層とからなるコア;センターと前記センターを被覆する複数もしくは複層の中間層とからなるコアなどを挙げることができる。また、コアの形状としては、球状であることが好ましい。コアの形状が球状でない場合には、カバーの厚みが不均一になる。その結果、部分的にカバー性能が低下する箇所が生じるからである。一方、センターの形状としては、球状が一般的であるが、球状センターの表面を分割するように突条が設けられていても良く、例えば、球状センターの表面を均等に分割するように突条が設けられていても良い。前記突条を設ける態様としては、例えば、球状センターの表面にセンターと一体的に突条を設ける態様、あるいは、球状センターの表面に突条の中間層を設ける態様などを挙げることができる。
前記突条は、例えば、球状センターを地球とみなした場合に、赤道と球状センター表面を均等に分割する任意の子午線とに沿って設けられることが好ましい。例えば、球状センター表面を8分割する場合には、赤道と、任意の子午線(経度0度)、および、斯かる経度0度の子午線を基準として、東経90度、西経90度、東経(西経)180度の子午線に沿って設けるようにすれば良い。突条を設ける場合には、突条によって仕切られる凹部を、複数の中間層、あるいは、それぞれの凹部を被覆するような単層の中間層によって充填するようにして、コアの形状を球形とするようにすることが好ましい。前記突条の断面形状は、特に限定されることなく、例えば、円弧状、あるいは、略円弧状(例えば、互いに交差あるいは直交する部分において切欠部を設けた形状)などを挙げることができる。
そして前記中間層としては、前記センターを単層もしくは複層の中間層で被覆している場合には、その中間層のうちの少なくとも1層が、センターの表面に設けられた突条によって仕切られる凹部を、複数の中間層によって充填するような場合には、その複数の中間層のうち少なくとも1つが、前記高弾性中間層用組成物から形成されている。なお、コアが、センターと前記センターを被覆する複数もしくは複層の中間層とからなる場合には、本発明の効果を損なわない範囲で、前記高弾性中間層用組成物以外の中間層用組成物から形成される中間層を有していてもよい。この場合には、コアの最外層が、前記高弾性中間層用組成物から形成された中間層とすることが好ましく、複数もしくは複層の中間層のすべてが、前記高弾性中間層用組成物から形成されていることが好ましい。
前記高弾性中間層用組成物以外の中間層用組成物としては、例えば、後述するセンター用ゴム組成物や、前記アイオノマー樹脂のほか、アルケマ(株)から商品名「ペバックス(登録商標)(例えば、「ペバックス2533」)」で市販されている熱可塑性ポリアミドエラストマー、東レ・デュポン(株)から商品名「ハイトレル(登録商標)(例えば、「ハイトレル3548」、「ハイトレル4047」)」で市販されている熱可塑性ポリエステルエラストマー、BASFジャパン社から商品名「エラストラン(登録商標)(例えば、「エラストランXNY97A」)」で市販されている熱可塑性ポリウレタンエラストマー、三菱化学(株)から商品名「ラバロン(登録商標)」で市販されている熱可塑性ポリスチレンエラストマーなどが挙げられ、さらに、硫酸バリウム、タングステン等の比重調整剤、老化防止剤、顔料などが配合されていてもよい。
前記中間層を形成する方法としては、例えば、センターを高弾性中間層用組成物またはそれ以外の中間層用組成物で被覆して中間層を成形する。中間層を成形する方法は、特に限定されるものではなく、例えば、高弾性中間層用組成物を予め半球殻状のハーフシェルに成形し、それを2枚用いてセンターを包み、130℃〜170℃で1分間〜5分間加圧成形するか、または高弾性中間層用組成物を直接センター上に射出成形してセンターを包み込む方法などが用いられる。
前記高弾性中間層用組成物から形成される中間層は、その厚みを3.0mm以下とすることが好ましく、より好ましくは2.5mm以下、さらに好ましくは2.0mm以下であり、0.1mm以上とすることが好ましく、より好ましくは0.5mm以上、さらに好ましくは0.8mm以上である。前記高弾性中間層用組成物から形成される中間層の厚みを3.0mm以下とすることにより、ゴルフボールの反発および打球感がより良好となり、また、0.1mm以上とすることにより、ゴルフボールの耐久性が良好となる。
前記センターには、従来より公知のゴム組成物(以下、単に「センター用ゴム組成物」という場合がある)を採用することができ、例えば、基材ゴム、架橋開始剤、共架橋剤および充填剤を含むゴム組成物を加熱プレスして成形することができる。
前記基材ゴムとしては、天然ゴムおよび/または合成ゴムを使用することができ、例えば、ポリブタジエンゴム、天然ゴム、ポリイソプレンゴム、スチレンポリブタジエンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)などを使用できる。これらの中でも、特に、反発に有利なシス結合が40質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上のハイシスポリブタジエンを用いることが好ましい。
前記架橋開始剤は、基材ゴム成分を架橋するために配合されるものである。前記架橋開始剤としては、有機過酸化物が好適である。具体的には、ジクミルパーオキサイド、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t―ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジ−t−ブチルパーオキサイドなどの有機過酸化物が挙げられ、これらのうちジクミルパーオキサイドが好ましく用いられる。架橋開始剤の配合量は、基材ゴム100質量部に対して、0.3質量部以上が好ましく、より好ましくは0.4質量部以上であって、5質量部以下が好ましく、より好ましくは3質量部以下である。0.3質量部未満では、コアが柔らかくなりすぎて、反発性が低下する傾向があり、5質量部を超えると、適切な硬さにするために、共架橋剤の使用量を増加する必要があり、反発性が不足気味になる。
前記共架橋剤としては、基材ゴム分子鎖にグラフト重合することによって、ゴム分子を架橋する作用を有するものであれば特に限定されず、例えば、炭素数が3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸またはその金属塩を使用することができ、好ましくは、アクリル酸、メタクリル酸またはこれらの金属塩を挙げることができる。前記金属塩を構成する金属としては、例えば、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、ナトリウムなどを挙げることができ、反発性が高くなるということから、亜鉛を使用することが好ましい。
前記共架橋剤の使用量は、基材ゴム100質量部に対して、10質量部以上が好ましく、より好ましくは15質量部以上、さらに好ましくは20質量部以上であり、55質量部以下が好ましく、より好ましくは50質量部以下、さらに好ましくは48質量部以下である。共架橋剤の使用量が10質量部未満では、適当な硬さとするために架橋開始剤の量を増加しなければならず、反発性が低下する傾向がある。一方、共架橋剤の使用量が55質量部を超えると、センターが硬くなりすぎて、打球感が低下するおそれがある。
センター用ゴム組成物に含有される充填剤としては、主として最終製品として得られるゴルフボールの比重を1.0〜1.5の範囲に調整するための比重調整剤として配合されるものであり、必要に応じて配合すれば良い。前記充填剤としては、酸化亜鉛、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、タングステン粉末、モリブデン粉末などの無機充填剤を挙げることができる。前記充填剤の配合量は、基材ゴム100質量部に対して、0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上であって、30質量部以下、より好ましくは20質量部以下であることが望ましい。充填剤の配合量が0.5質量部未満では、重量調整が難しくなり、30質量部を超えるとゴム成分の重量分率が小さくなり反発性が低下する傾向があるからである。
前記センター用ゴム組成物には、基材ゴム、架橋開始剤、共架橋剤および充填剤に加えて、さらに、有機硫黄化合物、老化防止剤、しゃく解剤などを適宜配合することができる。
前記有機硫黄化合物としては、ジフェニルジスルフィド類を好適に使用することができる。前記ジフェニルジスルフィド類としては、例えば、ジフェニルジスルフィド;ビス(4−クロロフェニル)ジスルフィド、ビス(3−クロロフェニル)ジスルフィド、ビス(4−ブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(3−ブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(4−フルオロフェニル)ジスルフィド、ビス(4−ヨードフェニル)ジスルフィド,ビス(4−シアノフェニル)ジスルフィドなどのモノ置換体;ビス(2,5−ジクロロフェニル)ジスルフィド、ビス(3,5−ジクロロフェニル)ジスルフィド、ビス(2,6−ジクロロフェニル)ジスルフィド、ビス(2,5−ジブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(3,5−ジブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(2−クロロ−5−ブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(2−シアノ−5−ブロモフェニル)ジスルフィドなどのジ置換体;ビス(2,4,6−トリクロロフェニル)ジスルフィド、ビス(2−シアノ−4−クロロ−6−ブロモフェニル)ジスルフィドなどのトリ置換体;ビス(2,3,5,6−テトラクロロフェニル)ジスルフィドなどのテトラ置換体;ビス(2,3,4,5,6−ペンタクロロフェニル)ジスルフィド、ビス(2,3,4,5,6−ペンタブロモフェニル)ジスルフィドなどのペンタ置換体などが挙げられる。これらのジフェニルジスルフィド類はゴム加硫体の加硫状態に何らかの影響を与えて、反発性を高めることができる。これらの中でも、特に高反発性のゴルフボールが得られるという点から、ジフェニルジスルフィド、ビス(ペンタブロモフェニル)ジスルフィドを用いることが好ましい。前記有機硫黄化合物の配合量は、基材ゴム100質量部に対して、0.1質量部以上が好ましく、より好ましくは0.3質量部以上であって、5.0質量部以下が好ましく、より好ましくは3.0質量部以下である。
前記老化防止剤の配合量は、基材ゴム100質量部に対して、0.1質量部以上、1質量部以下であることが好ましい。また、しゃく解剤の配合量は、基材ゴム100質量部に対して、0.1質量部以上、5質量部以下であることが好ましい。
前記センターは、前述のゴム組成物を混合、混練し、金型内で成形することにより得ることができる。この際の条件は、特に限定されないが、通常は130〜180℃、圧力2.9〜11.8MPaで10〜40分間で行われ、例えば、前記ゴム組成物を130〜200℃で10〜60分間加熱するか、あるいは、130〜150℃で20〜40分間加熱した後、160〜180℃で5〜15分間の2段階で加熱することが好ましい。
前記センターの直径は、25mm以上が好ましく、より好ましくは30mm以上であって、41mm以下が好ましく、より好ましくは40mm以下である。前記センターの直径が25mmよりも小さいと、中間層またはカバー層を所望の厚さより厚くする必要があり、その結果反発性が低下する場合がある。一方、センターの直径が41mmを超える場合は、中間層またはカバー層を所望の厚さより薄くする必要があり、中間層またはカバー層の機能が十分発揮されない。
前記センターは、直径25mm〜41mmの場合、初期荷重98Nを負荷した状態から終荷重1275Nを負荷したときまでの圧縮変形量(圧縮方向にセンターが縮む量)が、1.5mm以上が好ましく、より好ましくは2.0mm以上であり、5.0mm以下が好ましく、より好ましくは4.0mm以下である。前記圧縮変形量が、1.5mm未満では打球感が硬くて悪くなり、5.0mmを超えると、反発性が低下する場合がある。
前記センターの表面硬度Hs1は、ショアD硬度で、好ましくは40以上、より好ましくは48以上、さらに好ましくは54以上であって、好ましくは75以下、より好ましくは67以下、さらに好ましくは64以下である。センターの表面硬度Hs1がショアD硬度で40より小さいと、柔らかくなり過ぎて反発性が低下し、飛距離が低下する。一方、センターの表面硬度Hs1がショアD硬度で75より大きいと、硬くなり過ぎて打球感が悪くなる場合がある。
本発明のゴルフボールのコアの直径は、30mm以上であることが好ましく、より好ましくは35mm以上、さらに好ましくは37mm以上である。コアの直径を30mm以上とすることにより、カバーが厚くなり過ぎず、ゴルフボールの反発性が良好となる。また、コアの直径は、41.5mm以下であることが好ましく、より好ましくは41.25mm以下、さらに好ましくは41.0mm以下である。コアの直径を41.5mm以下とすることにより、カバーの厚みを確保でき、カバーによる保護効果が十分に得られる。
本発明のゴルフボールのコアとして、表面硬度Hsが中心硬度Hoより大きいコアを使用することも好ましい態様である。コアの表面硬度Hsと中心硬度Hoとの硬度差(Hs−Ho)は、ショアD硬度で10以上であることが好ましく、より好ましくは15以上、さらに好ましくは20以上である。コアの表面硬度を中心硬度より大きくすることによって、打出角が高くなり、スピン量が低くなって、飛距離が向上する。また、コアの表面硬度と中心硬度とのショアD硬度差は、55以下であることが好ましく、より好ましくは50以下、さらに好ましくは40以下である。硬度差が大きくなりすぎると、耐久性が低下するおそれがあるからである。
さらに、前記コアの中心硬度Hoは、ショアD硬度で20以上であることが好ましく、より好ましくは27以上であり、さらに好ましくは32以上である。コアの中心硬度HoをショアD硬度で20以上とすることにより、軟らかくなり過ぎることがなく、良好な反発性が得られる。また、コアの中心硬度Hoは、ショアD硬度で60以下であることが好ましく、より好ましくは53以下であり、さらに好ましくは48以下である。前記中心硬度HoをショアD硬度で60以下とすることにより、硬くなり過ぎず、良好な打球感が得られる。本発明において、コアの中心硬度とは、コアを2等分に切断して、その切断面の中心点についてスプリング式硬度計ショアD型で測定した硬度を意味する。
本発明のゴルフボールのコアの表面硬度Hsは、ショアD硬度で40以上が好ましく、より好ましくは48以上、さらに好ましくは54以上である。前記表面硬度HsをショアD硬度で40以上とすることにより、軟らかくなり過ぎることがなく、良好な反発性が得られる。また、コアの表面硬度Hsは、ショアD硬度で75以下が好ましく、より好ましくは67以下、さらに好ましくは64以下である。前記表面硬度HsをショアD硬度で75以下とすることにより、硬くなり過ぎず、良好な打球感が得られる。
次に、本発明のゴルフボールのカバーについて説明する。前記カバーを形成するカバー用組成物の樹脂成分としては、ポリウレタン樹脂、従来公知のアイオノマー樹脂のほか、アルケマ(株)から商品名「ペバックス(登録商標)(例えば、「ペバックス2533」)」で市販されている熱可塑性ポリアミドエラストマー、東レ・デュポン(株)から商品名「ハイトレル(登録商標)(例えば、「ハイトレル3548」、「ハイトレル4047」)」で市販されている熱可塑性ポリエステルエラストマー、三菱化学(株)から商品名「ラバロン(登録商標)」で市販されている熱可塑性ポリスチレンエラストマーなどが挙げられる。これらの樹脂成分は単独で使用しても良いし、2種以上を併用しても良い。これらの中でもポリウレタン樹脂が好適である。
本発明のゴルフボールのカバーを構成するカバー用組成物は、樹脂成分として、ポリウレタン樹脂を50質量%以上含有することが好ましく、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上である。なお、カバー用組成物中の樹脂成分としてポリウレタン樹脂のみを用いることが最も好ましい。
前記ポリウレタン樹脂は、分子内にウレタン結合を複数有するものであれば、特に限定されず、例えば、ポリイソシアネート成分と高分子量ポリオール成分とを反応させることによって、ウレタン結合が分子内に形成された生成物であり、必要に応じて、さらに低分子量のポリオールや低分子量のポリアミンなどにより鎖長延長反応させることにより得られるものである。
前記ポリウレタン樹脂のスラブ硬度は、ショアD硬度で、10以上が好ましく、より好ましくは20以上、さらに好ましくは30以上であり、65以下が好ましく、より好ましくは60以下、さらに好ましくは55以下である。ポリウレタン樹脂の硬度が低すぎると、ドライバーでのショットの際にスピン量が増加する場合がある。また、ポリウレタン樹脂の硬度が高すぎると、アプローチウェッジでのショットの際にスピン量が低下しすぎる場合がある。前記ポリウレタン樹脂の具体例としては、BASFジャパン株式会社製のエラストラン(登録商標)XNY90A、XNY75A、ET880などを挙げることができる。
本発明において、前記カバーは、上述した樹脂成分のほか、白色顔料(酸化チタン)、青色顔料、赤色顔料などの顔料成分、酸化亜鉛、炭酸カルシウムや硫酸バリウムなどの比重調整剤、分散剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、蛍光材料または蛍光増白剤などを、カバーの性能を損なわない範囲で含有してもよい。
前記白色顔料(酸化チタン)の含有量は、カバーを構成する樹脂成分100質量部に対して、0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上であって、10質量部以下、より好ましくは8質量部以下であることが望ましい。白色顔料の含有量を0.5質量部以上とすることによって、カバーに隠蔽性を付与することができる。また、白色顔料の含有量が10質量部超になると、得られるカバーの耐久性が低下する場合があるからである。
前記カバー用組成物のスラブ硬度は、ショアD硬度で60以下が好ましく、より好ましくは53以下、さらに好ましくは48以下である。カバー用組成物のスラブ硬度を60以下とすることによって、ショートアイアンなどのアプローチショット時のスピン安定性速度が高くなる。その結果、アプローチショット時のコントロール性に優れるゴルフボールが得られる。アプローチショット時のスピン速度を十分確保するためには、また、前記カバー用組成物のスラブ硬度は、ショアD硬度で20以上が好ましく、より好ましくは27以上、さらに好ましくは32以上である。
カバー用組成物を用いてカバーを成形する態様は、特に限定されないが、カバー用組成物をコア上に直接射出成形する態様、あるいは、カバー用組成物から中空殻状のシェルを成形し、コアを複数のシェルで被覆して圧縮成形する態様(好ましくは、カバー用組成物から中空殻状のハーフシェルを成形し、コアを2枚のハーフシェルで被覆して圧縮成形する方法)を挙げることができる。カバー用組成物をコア上に射出成形してカバーを成形する場合、カバー成形用上下金型としては、半球状キャビティを有し、ピンプル付きで、ピンプルの一部が進退可能なホールドピンを兼ねているものを使用することが好ましい。射出成形によるカバーの成形は、上記ホールドピンを突き出し、コアを投入してホールドさせた後、加熱溶融されたカバー用組成物を注入して、冷却することによりカバーを成形することができ、例えば、980KPa〜1,500KPaの圧力で型締めした金型内に、150℃〜230℃に加熱溶融したカバー用組成物を0.1秒〜1秒で注入し、15秒〜60秒間冷却して型開きすることにより行う。
圧縮成形法によりカバーを成形する場合、ハーフシェルの成形は、圧縮成形法または射出成形法のいずれの方法によっても行うことができるが、圧縮成形法が好適である。カバー用組成物を圧縮成形してハーフシェルに成形する条件としては、例えば、1MPa以上、20MPa以下の圧力で、カバー用組成物の流動開始温度に対して、−20℃以上、70℃以下の成形温度を挙げることができる。前記成形条件とすることによって、均一な厚みをもつハーフシェルを成形できる。ハーフシェルを用いてカバーを成形する方法としては、例えば、コアを2枚のハーフシェルで被覆して圧縮成形する方法を挙げることができる。ハーフシェルを圧縮成形してカバーに成形する条件としては、例えば、0.5MPa以上、25MPa以下の成形圧力で、カバー用組成物の流動開始温度に対して、−20℃以上、70℃以下の成形温度を挙げることができる。上記成形条件とすることによって、均一なカバー厚みを有するゴルフボールカバーを成形できる。
また、カバーが成形されたゴルフボール本体は、金型から取り出し、必要に応じて、バリ取り、洗浄、サンドブラストなどの表面処理を行うことが好ましい。また、所望により、塗膜やマークを形成することもできる。前記塗膜の膜厚は、特に限定されないが5μm以上、より好ましくは7μm以上、25μm以下、より好ましくは18μm以下であることが望ましい。膜厚が5μm未満になると継続的な使用により塗膜が摩耗消失しやすくなり、膜厚が25μmを超えるとディンプルの効果が低下してゴルフボールの飛行性能が低下するからである。
本発明において、ゴルフボールのカバーの厚みは、3mm以下が好ましく、2.5mm以下がより好ましく、2mm以下がさらに好ましい。カバーの厚みを3mm以下とすることによって、反発性や打球感が良好になるからである。前記カバーの厚みは、0.1mm以上が好ましく、0.2mm以上がより好ましく、0.3mm以上がさらに好ましい。0.1mm未満では、カバーの成形が困難になるおそれがあるからである。また、カバーの耐久性や耐摩耗性が低下する場合もある。
本発明のゴルフボールは、センターと前記センターを被覆する一以上の中間層とからなるコアと、前記コアを被覆するカバーとを有するものであれば、特に限定されない。本発明のゴルフボールの構造の具体例としては、センターと前記センターを被覆する中間層とからなるコアと、前記コアを被覆するカバーを有するスリーピースゴルフボール;センターと前記センターを被覆する2層の中間層とからなるコアと、前記コアを被覆するカバーを有するフォーピースゴルフボール;センターと前記センターを被覆する複数もしくは複層の中間層とからなるコアと、前記コアを被覆するカバーを有するマルチピースゴルフボールを挙げることができる。これらの中でも本発明は、センターと前記センターを被覆する単層の中間層とからなるコアと、前記コアを被覆するカバーを有するスリーピースゴルフボールに好適に適用できる。
本発明のゴルフボールとしては、センターと前記センターを被覆する単層の中間層とからなるコアと、前記コアを被覆するカバーを有するスリーピースゴルフボールであって、前記中間層が高弾性中間層用組成物から形成されていることが最も好ましい態様である。
本発明のゴルフボールは、直径40mm〜45mmの場合、初期荷重98Nを負荷した状態から終荷重1275Nを負荷したときまでの圧縮変形量(圧縮方向にゴルフボールが縮む量)が、2.0mm以上が好ましく、より好ましくは2.1mm以上、さらに好ましくは2.2mm以上であり、3.0mm以下が好ましく、より好ましくは2.9mm以下、さらに好ましくは2.8mm以下である。前記圧縮変形量を、2.0mm以上とすることにより良好な打球感が得られ、また、3.0mm以下とすることにより、良好な反発性が得られる。