JP5333883B2 - 長期熱安定性に優れる非晶質合金薄帯および磁心 - Google Patents

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本発明は急冷して薄帯状にした非晶質合金薄帯であり、主な用途は配電用変圧器の鉄心材料である。高飽和磁束密度かつ低鉄損材料であり、その他にモータ鉄心、発電機、チョークコイル、磁気センサなどの磁心としても利用できる。
Fe基非晶質合金薄帯はその優れた軟磁気特性その中でも特に鉄損が低いことより配電用変圧器の鉄心材料として注目され、特に飽和磁束密度が高く、熱安定性に優れるFeSiB系非晶質合金薄帯が実際に配電用変圧器の鉄心材料として採用されている。しかし現在配電用変圧器の鉄心材料として主に用いられる電磁鋼鈑に比べ飽和磁束密度が低いことが短所とされており、飽和磁束密度が高い非晶質合金薄帯の開発が行なわれてきた。本発明者らは特開2006-45662号公報にてC添加Fe基非晶質合金薄帯の炭素の偏析層を表面から一定の位置に制御することで飽和磁束密度が高く、脆化、熱安定性にも優れた非晶質合金薄帯を開示した。この非晶質合金薄帯は熱処理時の熱安定性が良好であり、優れた軟磁気特性が得られる。
特開2006−45662号公報
しかし変圧器などで約30年もの長期に使用される場合、非晶質合金薄帯はさらに長期の熱安定性が必要となる。250-300℃の高温化での経時変化を評価したところ、炭素の偏析位置を制御した前記の非晶質合金薄帯においても、炭素量を増やすと経時変化が早く起こる現象が確認された。アレニウスプロットより算出すると、100℃の温度下では6万年以上の安定性があり十分な長期安定性を有するが、変圧器での過酷な使用環境や寿命などを考慮すると150℃で150年程度の長期熱安定性が必要であり、改善の余地がある。
そこで本発明では所定の熱処理、およびCr, Mnの添加により炭素の偏析層のピーク値がどのように変化するか検討し、長期熱安定性に優れる非晶質合金薄帯および磁心を提供することを目的とする。
検討の結果、熱処理後の炭素Cの偏析層のピーク濃度を減らすと鉄損の低下の少ない長期熱安定性に優れる非晶質合金薄帯を得ることが判った。これは、高温となる使用環境下では炭素偏析層のピーク濃度が高いとピーク付近の結晶化温度が低くなり、使用中に徐々に表面結晶化が遂行するためであり、ピーク濃度を減らすことでそれを抑制することができるためと推定される。ここで炭素偏析層とは、図4の模式図に示すように、合金薄帯の表面から深さ方向に炭素の濃度を測定した場合、深さ0−30nm近辺で観察される炭素が偏析した部分を指すものである。当然ながら、ピーク濃度は母合金の組成で示される炭素の含有量dよりも高い濃度となる。本発明ではCr, Mnを添加した材料を用いてC偏析層のピーク濃度を制御することや、非晶質合金薄帯に所定の熱処理を事前に施すことで長期熱安定性の改善をおこなった。
つまり本発明は、合金組成がFeaSibBcCdCreMnfで表され、原子%で79≦a≦83%、0<b≦10%、10≦c≦18%、0.05≦d≦2%、0.01≦e≦0.2%、0.05≦f≦0.3%および不可避不純物からなる非晶質合金薄帯であり、薄帯表面から2〜25nmの位置で偏析するCのピーク濃度をp(原子%)として前記炭素の含有量dとすると、p/dが1.5以下であることを特徴とするものである。また、合金組成がFeaSibBcCdCreMnfで表され、原子%で79≦a≦83%、0<b≦10%、10≦c≦18%、0.05≦d≦2%、0.01≦e≦0.2%、0.05≦f≦0.3%および不可避不純物からなる非晶質合金薄帯であり、薄帯表面から2〜25nmの位置で偏析するCのピーク濃度をp(原子%)として前記炭素の含有量dとの差(p-d)をとると、熱処理後の(p1-d)が、熱処理前の(p0-d)の値の半分以下となるよう熱処理したことを特徴とするものである。
本発明の非晶質合金薄帯は、前記の合金組成からなる非晶質合金薄帯を製造後、345℃以上結晶化温度以下で、かつ、その温度を1時間未満に保持する熱処理を施すことで製造することが可能となる。好ましくは350℃以上結晶化温度以下で、かつ、その温度を0.5時間以下に保持する熱処理を施す。
前記合金組成が、好ましくは、原子%で81≦a≦83%、0<b≦5%、12≦c≦18%、0.05≦d≦2%、0.01≦e≦0.2%、0.05≦f≦0.3%の範囲とする。この合金組成とすることで、260℃で7日、または、290℃で24時間保持した後の鉄損の増加率が10%以下である長期熱安定性に優れた非晶質合金薄帯を得られる。
また、アレニウスの式より求めた場合、150℃で保持した時に鉄損が10%増加する時間が150年以上である非晶質合金薄帯が得られる。
150℃での鉄損10%増加時間をアレニウスの式より求める方法を以下に記載する。アレニウスの式はk=A×exp(-Q/R(T+273))(K:速度定数、A:固有定数、Q:活性化エネルギー、R:気体定数、T:温度)で表わせ、速度定数と温度の関係を表わす。ここで両辺の逆数をとると時間と温度を表わす式、t=B×exp(Q/R(T+273))(t:時間、B:固有定数)となる。ここで任意のT℃で試料を保持し、任意の時間に取り出し特性を測定する。測定時の鉄損が初期鉄損より10%増加した時点での保持時間をt日とする。温度Tを変えて同様にいくつかのtを測定し、その結果をX軸に(1/(T+273))、Y軸にLog tとし、プロットする。そのプロットから求めた直線上のXが(1/(150+273))となるときのY値を求め、Yよりt求め、そのtを150℃での寿命とした。
組成を限定する理由を以下に示す。以下、単に%と記載のものは原子%を表す。
Fe量aは79%より少ないと鉄心材料として十分な飽和磁束密度が得られずまた83%より多いと熱安定性が低下し、安定した非晶質合金薄帯が製造できなくなる。高飽和磁束密度を得るためには81%以上が好ましい。さらにFe量の50%以下をCo,Niの1種または2種で置換してもよく、高飽和磁束密度を得るためには置換量をCoは40%以下、Niは10%以下とするのが好ましい。
Siは非晶質形成能に寄与する元素であり、Si量bは高い飽和磁束密度を得るためには10%以下とする必要があり、さらに高飽和磁束密度化するためには5%以下が好ましい。
Bは非晶質形成能に最も寄与し、B量cは10%未満では高い飽和磁束密度が得られず、18%より多いと添加しても非晶質形成能などの改善効果が見られない。より高い飽和磁束密度を得るためには12%以上が好ましい。
Cは角形性および飽和磁束密度の向上に効果があり、C量dは0.05%未満ではほとんど効果がなく2%より多くすると長期熱安定性が低下する。
Crは熱安定性を改善する効果があり、Cr量eは0.01%未満では効果がなく0.2%より多くすると飽和磁束密度が低下する。
Mnは熱処理時の緩和を良好にする効果があり、Mn量fは0.05%未満では効果がなく、0.3%より多くすると飽和磁束密度が低下する。
またMo,Zr,Hf,Nbの1種以上の元素を0.01〜5%含んでもよく、不可避な不純物として S, P, Sn, Cu, Al, Ti, から少なくとも1種以上の元素を0.50%以下含有してもよい。
上記の合金組成を使用することで、飽和磁束密度Bsが1.6T以上の非晶質合金薄帯が得られる。
上述の如く、炭素を0.05〜2原子%含有する非晶質金属薄帯にCr, Mnを添加し、通常より高温短時間で熱処理をすることで表面のC偏析のピーク値を低減することができ、これにより長期熱安定性が大きく改善された高飽和磁束密度、熱安定性、靱性にも優れる非晶質合金薄帯および磁心を提供できる。
本発明では炭素Cを添加し、炭素Cの偏析層の位置を制御した非晶質合金薄帯の長期熱安定性の改善を行なった。炭素Cの偏析位置を制御することで飽和磁束密度が高く、靱性、表面結晶化を抑制した非晶質合金薄帯を製造することが可能である。また炭素Cを2〜3%含む組成においてもアレニウスプロットから算出した100℃での長期熱安定性は6万年以上であり長期の熱安定性は通常の使用環境下では問題とならない。しかし変圧器の鉄心に使用する場合約30年の寿命が必要とされ、最も負荷がかかる環境下での温度は短時間ではあるが150℃に及ぶ。そのため鉄心に用いられる材料には150℃で150年程度の長期熱安定性が要求される。炭素Cの偏析位置を制御した炭素添加非晶質合金薄帯は、250〜300℃に長期保持した物の経年変化を測定すると、炭素無添加材に比べて特性の劣化が早い。経年変化した試料と試験前の試料を比較すると、表面から2〜25nmに存在する炭素Cの偏析量(ピーク濃度)が減少していた。熱処理条件に対する熱処理後の炭素Cのピーク濃度と50Hz、1.4Tの鉄損値を図1に示す。熱処理温度を高くするとピーク濃度は減少していくが鉄損はある温度で最適な値をとり増加する。高い温度で短時間の熱処理を施すと炭素のピーク濃度も小さく、鉄損の低い特性を得ることができる。図2に図1の330℃×1hと370℃×0.1hの熱処理後の試料を290℃に保持したときの鉄損の増加率を示す。前記のように、熱処理終了時のピーク濃度が小さい試料のほうが、その後の表面の結晶化が起きづらいため、長期安定性に優れる。
炭素無添加材であれば当然この炭素の偏析はなくなるが、炭素は熱処理時に角形性を向上させたり、応力緩和を促進させたりする効果を持つため、本発明では必須の元素である。よって長期熱安定性を改善するため炭素の無添加材を使用して炭素偏析層をなくすという手法は用いることが出来ない。
非晶質合金薄帯に熱処理を施すことで、炭素Cを拡散させることができる。但し、通常の熱処理では表面結晶化が促進してしまうという問題があり低めの温度で熱処理をおこなっていた。しかしこの場合拡散が不十分であり、高温雰囲気での使用により長期熱安定性に問題が生じる。本発明では、高温かつ短時間の熱処理を行うことでこの問題を解決した。今回の検討により、非晶質合金薄帯における炭素の拡散が一義的に表面結晶化に繋がるものではなく、図3の概略図のように、低温の熱処理では炭素の拡散が起きるよりも早く表面結晶化が始まるが、高温で熱処理すると表面結晶化よりも炭素Cの拡散のみが優先的に起こることが判った。つまり、345℃以上の高温で、かつ1時間未満の熱処理を非晶質合金薄帯に施し、表面が結晶化されていない状態のまま炭素Cを拡散させることで、長期熱安定性に優れる非晶質合金薄帯を得ることが可能になる。この高温短時間の熱処理を行うことで、薄帯表面から2〜25nmの位置で偏析する炭素Cのピーク濃度をp(原子%)とすると、このピーク濃度pは母材全体に含有する平均的な炭素の濃度(請求項中のdに該当)に対して1.5倍以下となる。また、薄帯表面から2〜25nmの位置で偏析する炭素Cのピーク濃度をp(原子%)として前記炭素の含有量dとの差(p-d)をとると、熱処理後の(p1-d)が、熱処理前の(p0-d)の値の半分以下とすることができ、260℃で7日、290℃で24時間保持後の鉄損の増加率が10%以下である長期熱安定性に優れた非晶質合金薄帯および磁心を得ることができる。
Mnを添加すると炭素の偏析ピークをより低減することができ、炭素の拡散速度を早める効果があると推測できる。またCrを添加すると表面結晶化を抑制する効果がある。Mn, Crの添加はともに熱処理時表面結晶化が起こる前にCのピーク値を低減する熱処理領域を広げる効果がある。しかしこれらの元素は飽和磁束密度を低減するので本願発明で規定した以上の量は添加できない。その他にSn, S, P, Cuなどにも同じように表面結晶化を抑制し、Cのピークを低減する熱処理範囲を広げる効果があり、高温短時間の熱処理と組み合わせることで長期熱安定性を改善することができる。この高温短時間の熱処理とMn, Crの添加により熱処理時にCピーク値を低減させることで長期熱安定性が改善される。
次に本発明を実施例によって具体的に説明するが、これら実施例により本発明が限定されるものではない。
(実施例1)
Fe81Si2B15.94C1Cr0.01Mn0.05の組成の母合金200gを作製し、高周波溶解した溶湯を25-35m/sで回転するCu合金系ロールに噴出し、非晶質合金薄帯を作製した。なおロールの噴出口位置後方よりCO2ガスを吹き付けながら鋳造をおこない、C偏析層の位置を制御した。非晶質合金薄帯は幅5mm、厚さ23-25μmであり、GD-OESでCの偏析ピーク値を測定したところ(p0-d)は0.8であった。この薄帯にてΦ70/75の磁心を作製し、350℃×0.3h, 370℃×0.1hの熱処理条件でリボン長手方向に磁場を印加しながら熱処理を行い、磁心を作製した。作製した磁心の磁束密度1.4T周波数50Hzでの鉄損W14/50とCのピーク値を測定した結果を表1に示す。その後、260℃、290℃の恒温槽にて保持し、任意の時間に取り出し鉄損を測定した。260℃で7日、290℃で1日保持したのちの鉄損の増加率とアレニウスプロットより算出した150年での予測寿命を表1に示す。熱処理時にCのピーク値を低減させることで長期熱安定性が改善することがわかる。図4に370℃×0.1hで熱処理した試料のCのGD-OES分析データを示す。なお、これらの非晶質合金薄帯の飽和磁束密度を測定したところ1.6T以上であった。
(比較例1)
実施例1と同様に磁心を作製し、320℃×3h、330℃×2h、340℃×1hで熱処理を行なったあとの鉄損とCのピーク値を測定した結果を表1に示す。また260℃で7日、290℃で1日恒温槽にて保持したのちの鉄損の増加率、アレニウスプロットより算出した150年での予測寿命を表1に示す。図4に320℃×3hで熱処理した試料のCのGD-OES分析データを示す。
Figure 0005333883
(実施例2)
実施例1と同様に表2に示す組成の非晶質合金薄帯を用いて磁心を作製し、370℃×0.1hの熱処理を施したのち、鉄損と炭素のピーク濃度を測定した。結果を表2に示す。薄帯作製時のCのピーク値(p0-d)はともに0.8であった。また260℃で7日、290℃で1日恒温槽にて保持したのちの鉄損の増加率およびアレニウスプロットより算出した150年での予測寿命を表2に示す。Cr, Mn添加量が増加すると熱処理後のピーク値を低減でき、長期熱安定性をより改善できることがわかる。なお、これらの非晶質合金薄帯の飽和磁束密度を測定したところ1.6T以上であった。
(比較例2)
実施例2と同様に表2の組成の磁心を作製し、370℃×0.1hの熱処理を施したのち、鉄損とCのピーク値を測定した結果を表2に示す。また260℃で7日、290℃で1日恒温槽にて保持したのちの鉄損の増加率、アレニウスプロットより算出した150年での予測寿命を表2に示す。
Figure 0005333883
熱処理後の炭素Cのピーク濃度と50Hz、1.4Tの鉄損値を示す図である。 熱処理後の試料を高温化で保持したときの鉄損の増加率を示す図である。 結晶化と炭素の拡散が始まる温度と時間の関係を示す図である。 薄帯表面からの炭素の濃度分布を模式的に示す図である。

Claims (7)

  1. 合金組成がFeaSibBcCdCreMnfで表され、原子%で79≦a≦83%、0<b≦10%、10≦c≦18%、0.05≦d≦2%、0.01≦e≦0.2%、0.05≦f≦0.3%および不可避不純物からなる非晶質合金薄帯であり、薄帯表面から2〜25nmの位置で偏析する炭素Cのピーク濃度をp(原子%)、前記炭素の含有量をdとすると、p/dが1.5以下であり、
    345℃以上結晶化温度以下の温度で1時間未満保持する熱処理を施したことを特徴とする長期熱安定性に優れる非晶質合金薄帯。
  2. 前記熱処理により、薄帯表面から2〜25nmの位置で偏析する熱処理前の炭素Cのピーク濃度をp 0 (原子%)とし、前記炭素Cの含有量dとの差(p-d)をとると、熱処理後の(p 1 -d)が、熱処理前の(p 0 -d)の値の半分以下にされていることを特徴とする請求項1に記載の長期熱安定性に優れる非晶質合金薄帯。
  3. 前記合金組成が、原子%で81≦a≦83%、0<b≦5%、12≦c≦18%、0.05≦d≦2%、0.01≦e≦0.2%、0.05≦f≦0.3%であり、260℃で7日間、または、290℃で24時間保持する熱処理後の鉄損の増加率が10%以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の長期熱安定性に優れる非晶質合金薄帯。
  4. アレニウスの式より求めた150℃での鉄損10%増加時間が150年以上であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の長期熱安定性に優れる非晶質合金薄帯。
  5. 周波数50Hz、磁束密度1.4Tでの磁心の鉄損が0.28W/kg以下であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の長期熱安定性に優れる非晶質合金薄帯。
  6. Fe量の50%以下をCo, Niの1種または2種で置換したことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の長期熱安定性に優れる非晶質合金薄帯。
  7. 請求項1から請求項6のいずれかに記載の非晶質合金薄帯を用いたことを特徴とする長期熱安定性に優れる磁心。
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