以下、本発明を実施するための形態(以下、実施形態と記す)について説明する。なお、本実施形態により本発明が限定されるものではない。
まず、本実施形態に係るディーゼル機関及び車両用エンジンシステムの概略構成について、図1を用いて説明する。図1は、ディーゼル機関を含む車両用エンジンシステムの概略構成を示す模式図である。なお、図1において、ディーゼル機関及び車両用エンジンシステムについては、本発明に関連する要部のみを模式的に示している。
本実施形態に係るディーゼル機関は、圧縮されて高温となった燃焼室内の雰囲気に、燃料を供給することで、燃料を自然着火させる圧縮自着火式の内燃機関である。ディーゼル機関は、原動機として自動車に搭載されるものであり、自動車には、ディーゼル機関を含む車両用エンジンシステムを制御する制御手段として、ディーゼル機関用の電子制御装置(以下、ECUと記す)が設けられている。以下、ディーゼル機関が有する複数の気筒のうち一つの気筒について説明する。
図1に示すように、ディーゼル機関10は、気筒ごとに設けられた燃料噴射弁80が気筒に燃料を直接噴射する、いわゆる直接噴射式のディーゼル機関10である。ディーゼル機関10には、気筒から排出される排出ガスの運動エネルギにより吸入空気を圧縮するターボ過給機60と、気筒から排出された排出ガスの一部を排気通路から取り入れて吸気通路に流入させる、いわゆる排出ガス再循環装置70(以下、EGR装置と記す)が設けられている。このように構成されたディーゼル機関10を制御するために、車両用エンジンシステム1には、ディーゼル機関10用のECU100が設けられている。
ディーゼル機関10には、内部に気筒が形成される機関本体系の部品として、図示しないシリンダブロック、ピストン、コンロッド、クランク軸、及びシリンダヘッド20が設けられている。シリンダブロックには、シリンダボアが形成されており、ピストンは、シリンダボアの内壁面(以下、シリンダ壁と記す)にピストンリング(図示せず)が摺接しており、シリンダボア内を往復運動する。
シリンダブロックには、ピストンの頂面に対向して、シリンダボアを塞ぐようにシリンダヘッド20が結合されている。これらシリンダボア、ピストン、及びシリンダヘッド20により囲まれた空間が「気筒」となる。なお、本実施形態に係るディーゼル機関10の気筒配列は、直列4気筒となっている。
クランク軸が回転すると、ピストンが往復運動し、気筒には、空気が吸入される。さらに、気筒には、燃料噴射弁80により燃料が供給される。供給された燃料は、気筒内にある高温の雰囲気に曝されて着火する。燃料の着火・燃焼により生じるピストンの往復運動は、コンロッドを介して回転運動に変換されてクランク軸から出力される。クランク軸の近傍には、クランク軸の回転角位置(以下、クランク角と記す)を検出するクランク角センサが設けられており、検出したクランク角に係る信号をECU100に送出している。
シリンダヘッド20には、シリンダボアの軸心を挟んで、一方の側には、後述する吸気通路からの吸入空気を気筒に導く吸気ポート24が形成されており、他方の側には、気筒からの排出ガスを後述する排気通路に排出する排気ポート26が形成されている。
シリンダヘッド20には、吸気ポート24及び排気ポート26の気筒側の開口に対応して、図示しない吸気弁及び排気弁が設けられている。これら吸気弁及び排気弁は、図示しないカムシャフトからの機械的動力を受けて駆動される。吸気弁及び排気弁は、クランク角に応じて所定のタイミングで開閉可能に構成されている。
吸気弁が開弁すると、吸気ポート24と気筒内が連通し、ディーゼル機関10は、後述する吸気通路の空気を、吸気ポート24から気筒内に吸入することが可能となっている。また、排気弁が開弁すると、排気ポート26と気筒内が連通し、ディーゼル機関10は、気筒内にある排出ガスを、排気ポート26から後述する排気通路に排出することが可能となっている。
また、ディーゼル機関10には、外気から気筒に空気を導く吸気系の部品として、外気から空気を導入する外気ダクト41と、吸入した空気(以下、吸入空気と記す)から塵芥を除去するエアクリーナ42と、吸入空気の流量を計測するエアフロメータ90と、ターボ過給機60により圧縮された空気を冷却するインタークーラ45と、吸入空気の流量を調整するスロットル弁46と、吸入空気を各気筒に分配する分配管である吸気マニホールド48が設けられている。なお、以下の説明において、吸入空気の流動方向の上流側を、単に「上流側」と記し、流動方向の下流側を、単に「下流側」と記す。
吸気マニホールド48は、その下流側がシリンダヘッド20に接続されており、ブランチ通路49が吸気ポート24に連通している。ブランチ通路49より上流側には、これに連通するサージ室40aが形成されている。
一方、吸気マニホールド48のうちサージ室40aの上流側には、スロットル弁46が設けられている。スロットル弁46は、気筒に吸入される吸入空気の流量(以下、吸入空気量と記す)を調整する。スロットル弁46の開度は、ECU100により制御される。
また、スロットル弁46の上流側には、吸気配管47が接続されている。吸気配管47内に形成された通路40cは、吸気マニホールド48内のサージ室40aに連通している。吸気配管47の上流側には、インタークーラ45が接続されている。インタークーラ45は、熱交換器として構成されており、後述するターボ過給機60のコンプレッサ62により圧縮されて高温となった吸入空気を冷却する。
インタークーラ45の上流側には、吸気配管44が接続されている。吸気配管44内に形成された通路40eは、インタークーラ45内の通路(図示せず)を介して、吸気配管47内の通路40cに連通している。吸気配管44の上流側には、ターボ過給機60のコンプレッサ62が接続されている。吸気配管44内の通路40eは、ターボ過給機60のコンプレッサ62内に連通している。
ターボ過給機60のコンプレッサ62の上流側には、吸気配管43が接続されている。吸気配管43内に形成された通路40gは、ターボ過給機60のコンプレッサ62内に連通している。吸気配管43の上流側には、エアクリーナ42が接続されており、エアクリーナ42の上流側には、外気ダクト41が設けられている。吸気配管43内の通路40gは、エアクリーナ42を介して外気ダクト41内に連通している。
エアクリーナ42のエレメントより下流側には、エアフロメータ90が設けられている。エアフロメータは、外気ダクト41から導入された単位時間当たりの吸入空気量を検出する。エアフロメータは、検出した吸入空気量に係る信号を、ECU100に送出している。
外気ダクト41から導入された空気(fresh air 以下、新気と記す)は、エアクリーナ42を通過し、エアフロメータで流量が検出されて、ターボ過給機60のコンプレッサ62で圧縮される。圧縮されて高温となった新気は、インタークーラ45で冷却されて、スロットル弁46に流れる。スロットル弁46で流量が調整された新気は、吸気マニホールド48のサージ室40aに流入し、ブランチ通路49から各気筒に分配され、吸気ポート24を経て気筒に流入する。
なお、「吸気通路」とは、前述の吸気系の部品と、吸気配管により形成され、外気ダクト41から導入された吸入空気が気筒に流入するまでに通過する流路を意味している。本実施形態において、吸気通路には、吸気マニホールド48内のサージ室40aだけでなく、シリンダヘッド20の吸気ポート24が含まれている。
また、ディーゼル機関10には、気筒からの排出ガスを外気に排出する排気系の部品として、各気筒からの排出ガスを合流させてターボ過給機60に導く排気マニホールド52と、排出ガス中のNOx(以下、単に「NOx」と記す)、及び粒子状物質(以下、単に「PM」と記す)等の有害成分を処理する排気後処理装置55と、排気後処理装置55からの排出ガスを酸化反応により浄化する酸化触媒コンバータ58が設けられている。なお、以下の説明において、排出ガスの流動方向の上流側を、単に「上流側」と記し、流動方向の下流側を、単に「下流側」と記す。
排気マニホールド52内には、マニホールド通路50aが形成されており、マニホールド通路50aのうち上流側には、各気筒に対応してブランチ部51が設けられている。排気マニホールド52内に形成されたブランチ部51は、各気筒の排気ポート26に連通している。また、マニホールド通路50aのうち下流側には、各気筒からの排出ガスが合流する合流部50cが設けられている。排気マニホールド52に形成されたマニホールド通路50aは、ディーゼル機関10が有する複数の気筒から吸気ポート26を経て排出された排出ガスを、合流部50cで合流させて後述するターボ過給機60のタービン64に導く。
ターボ過給機60は、吸気配管43と吸気配管44との間に介在して設けられたコンプレッサ62と、排気マニホールド52と排気管54との間に介在して設けられたタービン64とを有している。コンプレッサ62のハウジング内には、回転することで空気を圧縮するコンプレッサホイール(図示せず)が収容されており、タービン64のハウジング内には、排出ガスの流れにより回転駆動されるタービンホイール(図示せず)が収容されている。コンプレッサホイールとタービンホイールは一体に結合されている。
ターボ過給機60は、マニホールド通路50aの合流部50cからタービン64内に流入する排出ガス流の運動エネルギによりタービンホイール及びコンプレッサホイールが回転駆動され、コンプレッサ62内にある空気を圧縮してインタークーラ45に給送する。タービン64内の排出ガスは、排気管54内の通路50eを下流側に流れ、排気後処理装置55に流入する。
排気後処理装置55の前段(上流側)には、排出ガス中のNOxを吸蔵し、窒素に還元する排気浄化触媒コンバータであるNOx吸蔵還元型触媒コンバータ55aが設けられている。一方、後段(下流側)には、フィルタ機構付き排気浄化触媒コンバータであり、PMとNOxを同時に浄化するDPNR触媒システム55cが設けられている。NOx吸蔵還元型触媒コンバータ55a及びDPNR触媒システム55cは、還元剤の供給を必要とする排気浄化触媒コンバータであり、以下に詳細を説明する。なお、還元剤には、未燃の炭化水素(以下、単に「HC」と記す)や、一酸化炭素(以下、単に「CO」と記す)などが用いられる。
NOx吸蔵還元型触媒コンバータ55aは、これを流れる排出ガスが、酸素を多く含む酸素過剰雰囲気(リーン雰囲気)となっている場合、排出ガス中のNOxを硝酸化合物(硝酸塩)の形で吸蔵する。一方、NOx吸蔵還元型触媒コンバータ55aを流れる排出ガスが、還元剤を多く含む還元雰囲気(リッチ雰囲気)となっている場合には、排出ガス中に含まれる還元剤により、吸蔵された硝酸化合物(NOx)を窒素に還元する。このようにして、NOx吸蔵還元型触媒コンバータ55aは、排出ガス中のNOxを浄化することが可能となっている。
一方、DPNR触媒システム55cは、PMを捕集し、捕集したPMを燃焼させて二酸化炭素として放出することでフィルタを再生するディーゼル・パティキュレート・フィルタ(以下、DPFと記す)の機能と、上述のNOx吸蔵還元型触媒の機能を組み合わせたものであり、PMとNOxとを同時に浄化することが可能となっている。
詳細には、DPNR触媒システム55cは、これを流れる排出ガス中のPMをフィルタに捕集すると共に、排出ガスが酸素過剰雰囲気となっている場合、NOxを硝酸塩に変化させて吸蔵し、このとき生じた活性酸素と、排出ガス中の酸素により、捕集したPMを酸化する。一方、DPNR触媒システム55cを流れる排出ガスが、還元雰囲気(リッチ雰囲気)となっている場合には、排出ガス中に含まれる還元剤により、吸蔵された硝酸化合物(NOx)を窒素に還元する共に、このとき生じた活性酸素によりPMを酸化する。このようにして、DPNR触媒システム55cは、連続してPMを酸化・燃焼させて、PMが捕集されたフィルタを再生することが可能となっている。
また、排気後処理装置55の下流側には、排気管56を介して酸化触媒58が設けられている。酸化触媒コンバータ58は、排気後処理装置55を通過した排出ガスに含まれている炭化水素や一酸化炭素を、酸化して浄化する。酸化触媒コンバータ58で浄化された排出ガスは、外気に放出されることとなる。
なお、「排気通路」とは、気筒から排出された排出ガスが、排気後処理装置55に流入するまでに通過する流路を意味している。本実施形態において、排気通路には、排気マニホールド52内に形成されたマニホールド通路50a(ブランチ部51,合流部50c)に加えて、シリンダヘッド20の排気ポート26、タービン64内の流路、排気管54に形成された通路50e、及び排気後処理装置55内の通路が含まれている。
また、ディーゼル機関10には、気筒から排出された排出ガスの一部を、排気通路から取り入れて吸気通路に流す、いわゆる排出ガス再循環装置70(以下、EGR装置と記す)が設けられている。EGR装置70は、排気通路と吸気通路を連通させるEGR通路と、EGR通路を流れる排出ガス(以下、EGRガスと記す)の流量を調整するEGR弁77と、EGRガスを冷却するEGRクーラ74とを有しており、以下に詳細を説明する。
上述した排気マニホールド52には、EGRガスの取入口71が設けられており、取入口71には、EGR配管72が接続されている。EGR配管72のうち、EGRガスの流動方向の下流側(以下、単に「下流側」と記す)には、EGRクーラ74が接続されている。EGRクーラ74は、熱交換器で構成されており、流入したEGRガスを冷却することが可能となっている。EGRクーラ74の下流側には、EGR配管76が接続されている。
EGR配管76の下流側の端には、EGR弁77が配設されている。EGR弁77は、電磁式のバルブで構成されている。EGR弁77の下流側には、EGR配管78が接続されている。EGR配管78は、吸気マニホールド48に設けられたEGRガスの流出口79と、EGR弁77とを接続している。EGR弁77の開度、すなわちEGR通路を流れるEGRガスの流量は、ECU100により制御される。
なお、「EGR通路」とは、EGR配管72,76,78と、EGRクーラ74及びEGR弁77により形成され、取入口71から導入された排出ガスすなわち不活性ガスが、流出口79に至るまでに通過する流路を意味している。本実施形態において、EGR通路には、EGR配管72,76,78内の通路だけでなく、EGRクーラ74及びEGR弁77内に形成された通路を含んでいる。
また、ディーゼル機関10には、気筒に燃料を供給する燃料供給系の部品として、気筒ごとに設けられ、気筒内に直接燃料を噴射する燃料噴射弁80と、各燃料噴射弁80に燃料を分配する燃料分配管82と、燃料分配管82に燃料を圧送する高圧燃料ポンプ84が設けられている。高圧燃料ポンプ84から燃料分配管82に圧送された燃料は、燃料分配管82で分配されて各燃料噴射弁80に供給される。
高圧燃料ポンプ84は、ディーゼル機関10のカムシャフト(図示せず)からの機械的動力を受けて作動し、燃料タンク120からの燃料を吸入して昇圧する。高圧燃料ポンプ84は、昇圧して高圧となった燃料を、燃料配管83から燃料分配管82に供給する。高圧燃料ポンプ84の作動は、ECU100により制御される。
燃料分配管82は、内部に燃料室(燃料レール)が形成されており、当該燃料室において所定の燃圧で蓄圧可能に構成されている。燃料分配管82は、各燃料噴射弁80に燃料を分配して供給する。燃料分配管82には、高圧燃料ポンプ84から高圧(例えば、180MPa)の燃料が供給されている。
燃料噴射弁80は、開弁用のアクチュエータとしてピエゾスタック(圧電素子)が用いられた燃料噴射装置であり、1サイクル中に複数回の燃料噴射、いわゆる多段噴射を行うことが可能なものである。各燃料噴射弁80は、共通の燃料分配管82内に形成された燃料レールから所定の燃料圧力(例えば、120MPa)で燃料の供給を受けている。各サイクルにおける燃料噴射弁80の開弁期間、すなわち燃料噴射弁80が噴射する燃料噴射量は、図示しないドライバユニットを介して、ECU100により制御される。
燃料噴射弁80からの噴射燃料は、排気燃料添加弁88に比べて高い燃圧で噴射されており、排気燃料添加弁88から排出ガス中に噴射(添加)された燃料に比べて微粒化されている。加えて、燃料噴射弁80からの噴射燃料は、気筒内に形成された高温の雰囲気に噴射されて、少なくとも一部、実質的には大部分が燃焼するため、気筒から排出される排出ガスに、還元剤としてのCOを生じさせることが可能となっている。気筒内において生じた還元剤は、排気通路を流れて排気後処理装置55に供給される。
また、ディーゼル機関10のシリンダヘッド20には、気筒内に燃料を供給する燃料噴射弁80とは別に、排気通路を流れる排出ガスに燃料を添加することが可能な排気燃料添加弁88が設けられている。排気燃料添加弁88は、電磁駆動式の燃料噴射弁で構成されており、高圧燃料ポンプ84から燃料通路86を介して、所定の燃料圧力(例えば、1MPa)で燃料の供給を受けている。排気燃料添加弁88は、ディーゼル機関10に複数ある気筒のうち、排気ポート26からタービン64までの排気経路が最も短い気筒の排気ポート26近傍に設けられている。排気燃料添加弁88は、排気ポート26内に露出している噴孔から排気通路50c内に燃料を噴射することで、排気通路を流れる排出ガスに燃料を添加することが可能となっている。排気燃料添加弁88が排気通路内に噴射する燃料量(以下、燃料添加量と記す)は、ECU100により制御される。
また、ディーゼル機関10のうちシリンダヘッド20には、4つある気筒のうち一つの気筒について、当該気筒内のガス圧力(以下、単に「筒内圧」と記す)を検出する筒内圧センサ92が設けられている。筒内圧センサ92は、検出した筒内圧に係る信号をECU100に送出している。
なお、本実施形態においては、4つある気筒のうち一つの気筒に、筒内圧センサ92が設けられているものとしたが、これに限定されるものではない。各気筒ごとに、それぞれの気筒の筒内圧を検出する筒内圧センサを設けるものとしても良い。
また、ディーゼル機関10のうち吸気マニホールド48には、新気(fresh air)とEGRガスを含んでサージ室40aから気筒内に充填されるガスの温度(以下、筒内充填ガス温度と記す)を検出する筒内充填ガス温度センサ96が設けられている。筒内充填ガス温度センサ96は、検出した筒内充填ガス温度に係る信号をECU100に送出している。
なお、吸気温に基づいて筒内充填ガス温度を推定するものとしても良い。
なお、本実施形態においては、サージ室40aを流れるガスの温度である吸入ガス温を直接検出して、ECU100により制御変数として推定するものとしたが、吸入ガス温を推定する手法は、これに限定されるものではない。例えば、エアフロメータ90の近傍に吸入空気(新気)の温度である「吸気温」を検出する吸気温センサを設けて、検出した吸気温に係る信号をECU100に送出し、当該吸気温と、吸入空気量、およびEGRガス量に基づいて、筒内充填ガス温度を推定するものとしても良い。
このように構成されたディーゼル機関10を含む車両用エンジンシステム1には、給油された燃料を貯蔵する燃料タンク120が設けられており、上述の高圧燃料ポンプ84は、当該燃料タンク120から燃料を吸入する。燃料タンク120からの燃料は、燃料フィルタ124で不純物を濾過されて、高圧燃料ポンプ84に供給される。
車両用エンジンシステム1において、ECU100は、クランク角センサからのクランク角に係る信号と、エアフロメータ90からの吸入空気量(新気量)に係る信号と、筒内圧センサからの筒内圧に係る信号とを検出している。
これら検出信号に基づいて、ECU100は、クランク軸の回転角位置(以下、クランク角と記す)、クランク軸の回転速度(以下、機関回転速度と記す)、ディーゼル機関10がクランク軸から出力している機械的動力(以下、機関負荷と記す)、吸入空気量、EGRガス量、筒内圧などを制御変数として推定している。
ECU100は、これら制御変数から把握されるディーゼル機関10の運転状態に基づいて、燃料噴射弁80の燃料噴射量を決定し、当該燃料噴射量及び機関回転速度に応じて、スロットル弁46の開度、及びEGR弁77の開度を制御する。
また、ECU100は、燃料噴射弁80により気筒内に噴射される燃料噴射量と、気筒内に充填される新気量及びEGRガス量を制御することで、気筒内の空燃比を、理論空燃比に比べて低い空燃比(例えば、13〜14)にして、燃料噴射弁80が噴射した噴射燃料を燃焼させることが可能となっている。理論空燃比に比べて低い空燃比での気筒内における噴射燃料の燃焼を、以下の説明において「リッチ燃焼」と記す。また、気筒内においてリッチ燃焼を行うために、ECU100が実行する燃料噴射弁80、スロットル弁46、及びEGR弁77の協調制御を「リッチ燃焼制御」と記す。
気筒内においてリッチ燃焼を行うことにより、当該気筒内において、還元剤としてCOを多く含んだ排出ガスを生じさせて、当該気筒内から排気後処理装置55に供給することが可能となっている。このように、ディーゼル機関10においては、ECU100が、燃料噴射弁80の燃料噴射量、スロットル弁46の開度すなわち吸入空気量、及びEGR弁77の開度すなわちEGRガス量を協調して制御することで、還元剤としてCOを多く含んだ還元雰囲気を、排気後処理装置55において瞬間的に形成する、つまり、排気後処理装置55に還元剤としてCOを供給することが可能となっている。
また、ECU100は、排気燃料添加弁88を制御して、排気通路内に燃料を噴射して、排気通路を流れる排出ガスに燃料を添加することで、還元剤としてのHCを気化させた状態で排気後処理装置55に供給することが可能となっている。
このように、ECU100は、燃料噴射弁80及び排気燃料添加弁88を制御することで、燃料噴射弁80からの噴射燃料、又は排気燃料添加弁88からの添加燃料により、還元剤の供給を必要とする排気後処理装置55(NOx吸蔵還元型触媒コンバータ55a及びDPNR触媒システム55c)において、還元剤を含んだ還元雰囲気を瞬間的に形成する、いわゆるリッチスパイクを行うことが可能となっている。還元剤を排気後処理装置に供給することで、吸蔵されている硝酸化合物(NOx)を窒素に還元することができる。このように、排気後処理装置55に吸蔵された硝酸化合物(NOx)を還元するために、ECU100が実行する制御を、以下の説明において「NOx還元制御」と記す。
ところで、以上のように構成された車両用エンジンシステム1においては、軽油に比べてセタン価が高いGTL燃料が燃料タンク120に給油されることを前提として、ディーゼル機関10の圧縮比が設定されており、且つECU100の各種制御定数が適合されている場合がある。このようにGTL燃料専用に、ディーゼル機関10及びECU100が構成されている場合、気筒内においてリッチ燃焼を行うことで、還元剤としてCOを多く含んだ還元雰囲気を、排気後処理装置55に供給することができる。この場合、排気燃料添加弁88により排出ガス中に燃料を添加して還元剤としてHCを多く含んだ還元雰囲気を供給する場合に比べて、より高い効率(NOx浄化率)で、排気後処理装置55に吸蔵されたNOxすなわち硝酸化合物を還元することができる。
しかし、燃料タンク120には、GTL燃料のみならず、GTL燃料に比べてセタン価の低い「軽油」や、当該「軽油」よりもさらにセタン価の低い「分解軽油」等が給油される場合がある。このようにGTL燃料に比べてセタン価が低い燃料が、燃料タンク120に給油された場合、ECU100が、GTL燃料の給油を前提として適合された制御定数に従って上述した「リッチ燃焼」を行うと、気筒内において燃料噴射弁80からの噴射燃料が着火しない、いわゆる「失火」が生じる虞がある。
そこで、本実施形態においては、燃料噴射弁に供給される燃料のセタン価に応じて、排気燃料添加弁88から排出ガスに燃料を添加することで、排出ガス中に還元剤を含ませる「排気添加」と、理論空燃比に比べ低い空燃比となるよう燃料噴射弁80から燃料を噴射し、噴射燃料のうち少なくとも一部を燃焼させることで、気筒内において還元剤を含んだ排出ガスを生じさせる「リッチ燃焼」とを、併用又は選択使用することで、排気後処理装置55に還元剤を供給しており、以下に、図1〜図4を用いて説明する。
図2は、本実施形態に係るディーゼル機関用制御装置(ECU)が実行するNOx還元制御を示すフローチャートである。図3は、本実施形態に係るNOx還元制御において、筒内充填ガスの着火性に対する、第1及び第2要求セタン価の値を示す図である。図4は、本実施形態に係るNOx還元制御が実行されたディーゼル機関の動作の一例を示す図である。なお、図4には、ディーゼル機関(車両用エンジンシステム)のおかれている周囲の環境条件が変化して、時間経過に応じて筒内充填ガスの着火性が高くなる場合を一例として示している。
図1に示す車両用エンジンシステム1において、ECU100は、排気後処理装置55に還元剤を含んだ還元雰囲気を形成して、吸蔵されている硝酸化合物(NOx)を還元する必要がある、すなわち「排気添加」又は「リッチ燃焼」により、排気後処理装置55に還元剤を供給する必要があると判定した場合に、以下の「NOx還元制御」を実行する。
なお、NOx還元制御を実行するか否かの判定は、ECU100が、ディーゼル機関10の運転状態に応じて、気筒から排出されるNOxの時間あたりの排出量を推定し、推定されたNOxの排出量の時間積算値が、排気後処理装置55すなわちNOx吸蔵還元型触媒コンバータ55a及びDPNR触媒システム55cの硝酸化合物(NOx)の吸蔵能力に応じて設定された閾値に達した場合に、排気後処理装置55において硝酸化合物(NOx)の還元が必要であると判定することができる。この場合、ディーゼル機関10の運転状態(機関回転速度及び機関負荷)と、NOxの排出量との関係を示すマップ、及び排気後処理装置55(NOx吸蔵還元型触媒コンバータ55a及びDPNR触媒システム55c)におけるNOxの吸蔵能力は、予め適合実験等により求められており、制御定数としてECU100のROM(図示せず)に記憶されている。
「NOx還元制御」を行う場合、図2に示すように、まず、ステップS100において、ECU100は、吸入空気量(新気量)、筒内圧、筒内充填ガス温度等の各種の制御変数を取得する。また、ECU100は、クランク角、機関回転速度、機関負荷、燃料噴射弁80の燃料噴射量、吸入空気量、EGRガス量等を制御変数として取得している。これら制御変数を取得することで、ECU100は、ディーゼル機関10の運転状態を把握している。
なお、ECU100は、リッチ燃焼を行わない場合、すなわち通常燃焼を行う場合においては、気筒内の空燃比を酸素過剰状態(例えば、空燃比20〜70)に設定して、ディーゼル機関10を作動させている。排気通路を流れる排出ガス中には、酸素が多く含まれており、排気後処理装置55においては、酸素過剰雰囲気(リーン雰囲気)が形成されている。
そして、ステップS102において、ECU100は、燃料噴射弁80及び排気燃料添加弁88に実際に供給される燃料のセタン価、すなわち燃料タンク120に実際に給油されている燃料のセタン価Cfを、制御変数として推定する。
セタン価Cfは、ディーゼル機関10の運転状態が、所定の測定条件(例えば、機関負荷が略ゼロ(無負荷)であり、且つ機関回転速度が所定のアイドル回転速度)にある場合において、燃料噴射弁80が燃料噴射を行ってから、噴射燃料が着火するまでに要する時間を検出することにより、推定することができる。ここで、噴射燃料が着火したか否かの判定は、筒内圧の時間変化を検出することで、判定することができる。例えば、燃料噴射弁80が燃料噴射を行った後に、筒内圧が所定の判定値を超えた場合に、噴射燃料が着火したものと判定する。つまり、ディーゼル機関10の運転状態が、所定の測定条件にある場合、燃料噴射弁80が燃料噴射を行ってから、噴射燃料が着火するまでの時間が長い場合は、セタン価が低く、噴射燃料が着火するまでの時間が短い場合には、セタン価が高いこととなる。所定の測定条件における、噴射燃料が着火するまでの時間と、セタン価との関係は、予め適合実験等により求められており、制御定数としてECU100のROMに記憶されている。このように、ディーゼル機関10の筒内圧に基づいて、燃料噴射弁80に供給される燃料のセタン価Cfを推定することができる。
そして、ステップS104において、ECU100は、筒内充填ガスの着火性を示す指数(以下、着火性指数と記す)Aを、制御変数として推定する。つまり、気筒内に充填される新気を含んだ筒内充填ガスの体積、圧力、温度等に基づいて、筒内充填ガスが、どの程度、着火し易いものであるかを推定する。
着火性指数Aは、その値が高くなるに従って、新気及びEGRガスを含んだ筒内充填ガスが着火し易いものであることを示すものであり、例えば、下記の式(1)により求めることができる。
着火性指数A=a×T+b×P+c×V ・・・(1)
式(1)において、
T:筒内充填ガス温度(制御変数)
P:筒内充填ガス圧力(制御変数)
V:筒内充填新気体積(制御変数)
a,b,c:係数(制御定数)
である。
筒内充填ガス温度Tは、上述のように筒内充填ガス温度センサ96により検出された値を用いることができる。一方、筒内充填ガス圧力Pは、ディーゼル機関10の運転状態、吸入空気量、EGRガス量等に基づいて算出することができる。また、筒内充填新気体積Vは、ディーゼル機関10の運転状態(機関回転速度及び機関負荷)と、吸入空気量に基づいて算出することができる。また、式(1)の係数a,b,cは、予め適合実験等により求められており、制御定数としてECU100のROMに記憶されている。
なお、筒内充填ガス温度Tが高くなるに従って、着火性指数Aは大きくなる、すなわち着火し易くなる傾向がある。加えて、筒内充填ガス圧力Pが増大するに従って、着火し易くなる傾向がある。さらに、筒内充填新気体積Vが大きくなるに従って、筒内に充填される酸素量が多くなって、着火し易くなる傾向がある。このように、ディーゼル機関10の運転状態(機関回転速度及び機関負荷)、吸入空気量、EGRガス量、筒内充填ガス温度等に基づいて、筒内充填ガスの着火のし易さを、着火性指数Aとして推定することができる。
そして、ステップS106において、ECU100は、筒内充填ガスの着火性指数Aに基づいて、図3に示すように、「排気添加」及び「リッチ燃焼」を行うか否かの閾値である、第1要求セタン価Cd1及び第2要求セタン価Cd2とを設定する。
第1要求セタン価Cd1は、気筒内において失火を生じさせることなく、上述した「リッチ燃焼」を行うために必要なセタン価の下限値(閾値)である。すなわち、セタン価Cfが、第1要求セタン価Cd1を下回る場合、リッチ燃焼を行うと失火する虞があり、第1要求セタン価Cd1以上である場合には、失火を生じさせることなくリッチ燃焼を行うことが可能である。つまり、セタン価Cfが、第1要求セタン価Cd1を下回る場合には、失火が生じやすいものと判定して「リッチ燃焼」を禁止して「排気添加」のみを行う。
一方、第2要求セタン価Cd2は、排気後処理装置55に還元剤を供給するにあたって、上述した「排気添加」を行うことなく「リッチ燃焼」のみを行うのに必要なセタン価の下限値(閾値)である。すなわち、セタン価Cfが、第2要求セタン価Cd2を上回る場合、リッチ燃焼のみを行っても、気筒内において失火を生じさせることなく、還元剤としてのCOを多く含んだ排出ガスを生じさせることが可能である。第2要求セタン価Cd2の値は、第1要求セタン価Cd1に比べて高い値に設定される。つまり、セタン価Cfが、第2要求セタン価Cd2を上回る場合には、「リッチ燃焼」のみを行う。
このような、第1要求セタン価Cd1、及び第2要求セタン価Cd2の値は、筒内充填ガスの着火性(着火性指数A)が低くなるに従って、高くなるように設定されている。つまり、低温又は低圧な環境でディーゼル機関を作動させる場合など筒内充填ガスの着火性が低下する場合には、第1要求セタン価Cd1及び第2要求セタン価Cd2の値は、通常の環境で作動させる場合に比べて、高い値に設定される。当該充填ガスの各着火性指数に対する第1要求セタン価Cd1の値(図3に「Cd1ライン」で示す)、及び第2要求セタン価Cd2の値(図3に「Cd2ライン」で示す)は、予め適合実験等により求められており、制御定数としてECU100のROMに記憶されている。
そして、ステップS108において、ECU100は、燃料噴射弁80に実際に供給される燃料のセタン価Cfを、筒内充填ガスの着火性に応じて設定された第1要求セタン価Cd1及び第2要求セタン価Cd2と比較する。
図4に時点t1〜t2で示すように、セタン価Cfが第1要求セタン価Cd1を下回る場合(ステップS108:Cf<Cd1)、ECU100は、仮にリッチ燃焼を行うと気筒内において失火が生じるものと判断して、排気燃料添加弁により排気通路50cを流れる排出ガスに燃料を添加して還元剤としてのHCを含ませる「排気添加」を選択使用して、排気後処理装置55に還元剤を供給する(S110)。つまり、セタン価Cfが最も高い場合には、ECU100は、「排気添加」を選択使用する。この場合、ECU100は、ディーゼル機関10の運転状態に応じて予め設定された燃料添加量を添加するよう排気燃料添加弁88を制御する。ディーゼル機関10の各運転状態に対する燃料添加量の値(排気添加MAP)は、予め適合実験等により求められており、制御定数としてECU100のROMに記憶されている。このように、排気後処理装置55に還元剤を供給する場合に「排気添加」を選択使用することにより、気筒内において失火を生じさせることなく、還元剤としてHCを含んだ還元雰囲気を排気後処理装置55に形成することができる。
一方、図4に時点t3以降に示すように、セタン価Cfが第2要求セタン価Cd2を上回る場合(ステップS108:Cf>Cd2)ECU100は、理論空燃比に比べて低い空燃比(例えば、13〜14)となるよう燃料噴射弁80から気筒内に燃料を噴射し、噴射燃料のうち少なくとも一部を燃焼させることで、気筒内において還元剤としてのCOを多く含んだ排出ガスを生じさせる「リッチ燃焼」を選択使用して、排気後処理装置55に還元剤を供給する(S112)。つまり、セタン価Cfが最も低い場合には、ECU100は、「リッチ燃焼」を選択使用する。この場合、ECU100は、ディーゼル機関10の運転状態に応じて予め設定された、燃料噴射弁80の燃料噴射量、スロットル弁46の開度、EGR弁77の開度に従って、それぞれ燃料噴射弁80、スロットル弁46及びEGR弁77を協調して制御する。ディーゼル機関10の各運転状態に対する、燃料噴射量、スロットル弁46の開度、及びEGR弁77の開度の値(リッチ燃焼MAP)は、予め適合実験等により求められており、制御定数としてECU100のROMに記憶されている。このように、排気後処理装置55に還元剤を供給する場合に「リッチ燃焼」を選択使用することにより、HCに比べて反応性が高いCOを還元剤として多く含んだ還元雰囲気を排気後処理装置55に形成することができる。
また、図4に時点t2〜t3で示すように、セタン価Cfが、第1要求セタン価Cd1以上であり、且つ第2要求セタン価Cd2以下である場合(ステップS108:Cd1≦Cf≦Cd2)、ECU100は、「リッチ燃焼」と「排気添加」とを併用して、排気後処理装置55に還元剤を供給する(S114)。この場合、ECU100は、ディーゼル機関10の運転状態に応じて予め設定された、排気燃料添加弁88の燃料添加量、燃料噴射弁80の燃料噴射量、スロットル弁46の開度、EGR弁77の開度に従って、それぞれ排気燃料添加弁88、燃料噴射弁80、スロットル弁46及びEGR弁77を協調して制御する。ディーゼル機関10の各運転状態に対する、燃料添加量、燃料噴射量、スロットル弁46の開度、及びEGR弁77の開度の値(リッチ燃焼+排気添加併用MAP)は、予め適合実験等により求められており、制御定数としてECU100のROMに記憶されている。このように、排気後処理装置55に還元剤を供給する場合に、「リッチ燃焼」と「排気添加」を併用することにより、気筒内において失火が生じることを抑制しつつ、還元剤として十分な量のHCとCOを含んだ還元雰囲気を排気後処理装置55に形成することができる。
以上に説明したように本実施形態に係るディーゼル機関用制御装置(ECU)100は、還元剤の供給を要する排気後処理装置55と、気筒内に燃料を噴射可能な燃料噴射弁80と、当該排気後処理装置55と気筒との間にある排気通路50cを流れる排出ガスに燃料を添加可能な排気燃料添加弁88と、を備えたディーゼル機関10に用いられ、燃料噴射弁80及び排気燃料添加弁88を制御可能なものである。ECU100は、燃料噴射弁80に供給される燃料のセタン価Cfに応じて、排気燃料添加弁88により排出ガスに燃料を添加することで、排出ガス中に還元剤(HC)を含ませる「排気添加」と、理論空燃比に比べて低い空燃比(例えば、13〜14)となるよう燃料噴射弁80から気筒内に燃料を噴射し、噴射燃料のうち少なくとも一部を燃焼させることで、気筒内において還元剤を含んだ排出ガスを生じさせる「リッチ燃焼」とを併用又は選択使用することで、排気後処理装置55に還元剤を供給するものとした。
セタン価Cfが比較的高い場合には、「リッチ燃焼」を用いることで、還元剤としてHCに比べて反応性の高いCOを多く含んだ排出ガスを気筒内において生じさせて、排気後処理装置55に供給することができる。一方、セタン価Cfが比較的低い場合には、「排気添加」を用いて排気後処理装置55に還元剤としてのHCを供給することで、気筒内においては、空燃比を酸素過剰状態(例えば、空燃比20〜70)にする「通常燃焼」を行わせることができる。これにより、燃料噴射弁80に供給される燃料のセタン価Cfが低くても、気筒内において失火が生じることを抑制しつつ、排気後処理装置55に還元剤を供給することができる。
また、本実施形態に係るディーゼル機関用制御装置(ECU)100において、前記セタン価が、最も低い場合には、排気添加を選択使用し、前記セタン価が、最も高い場合には、リッチ燃焼を選択使用するものとしたので、セタン価Cfが最も高い場合には、リッチ燃焼を用いることで、還元剤としてHCに比べて反応性の高いCOを排気後処理装置55に供給することができ、セタン価Cfが最も低い場合には、「排気添加」を用いて排気後処理装置55に還元剤を排気後処理装置55に供給することで、「通常燃焼」を行わせることができ気筒内において失火が生じることを抑制することができる。
また、本実施形態において、前記セタン価Cfが、第1要求セタン価Cd1を下回る場合には、「排気添加」を選択使用し、前記セタン価Cfが、第1要求セタン価Cd1に比べて高い値に設定された第2要求セタン価Cd2を上回る場合には、「リッチ燃焼」を選択使用し、前記セタン価Cfが、第1要求セタン価Cd1以上であり、且つ第2要求セタン価Cd2以下である場合には、「排気添加」と「リッチ燃焼」を併用するものとした。セタン価Cfが第1要求セタン価Cd1より低く、リッチ燃焼を行うと気筒内において失火が生じる虞があると判断した場合には、「排気添加」を選択使用することにより、気筒内において失火を生じさせることなく、還元剤としてのHCを排気後処理装置55に供給することができる。セタン価Cfが、第2要求セタン価Cd2より高く、「リッチ燃焼」を行っても気筒内において失火が生じる虞がないと判断される場合には、「リッチ燃焼」を選択使用することにより、HCに比べて反応性が高いCOを還元剤として排気後処理装置55に供給することができる。セタン価Cfが、第1要求セタン価Cd1以上であり、且つ第2要求セタン価Cd2以下である中程度においては、「リッチ燃焼」と「排気添加」を併用することにより、気筒内において失火が生じることを抑制しつつ、還元剤として十分な量のHCとCOを排気後処理装置55に供給することができる。
また、本実施形態において、第1要求セタン価Cd1及び第2要求セタン価Cd2は、気筒内に充填される新気を含むガスである筒内充填ガスの着火性(着火性指数A)に基づいて設定されるものであり、筒内充填ガスの着火性が低くなるに従って、第1要求セタン価Cd1及び第2要求セタン価Cd2が高くなるよう設定するものとした。燃料噴射弁80に供給される燃料のセタン価Cfが同じでも、筒内充填ガスの温度が低い場合や圧力が低い場合など、筒内充填ガスが着火しにくいものである場合には、第1要求セタン価Cd1及び第2要求セタン価Cd2が高く設定されるため、「リッチ燃焼」が選択される運転領域が狭くなり、「リッチ燃焼」により気筒内において失火が生じることを抑制することができる。
なお、本実施形態においては、筒内充填ガスの着火性を、少なくとも、気筒内に充填される新気の体積に基づいて推定するものとしたので、気筒内に充填されるガスの酸素濃度に応じて筒内充填ガスの着火性を推定することができる。
また、本実施形態においては、燃料噴射弁80に供給される燃料のセタン価Cfが、気筒内に充填される新気を含むガスである筒内充填ガスの着火性(着火性指数A)に応じて設定された第1要求セタン価Cd1を下回る場合には、排気燃料添加弁88により排出ガスに燃料を添加することで、排出ガス中に還元剤を含ませる「排気添加」を選択使用して、排気後処理装置55に還元剤を供給し、一方、セタン価Cfが、筒内充填ガスの着火性(着火性指数A)に応じて設定された第2要求セタン価Cd2を上回る場合には、理論空燃比に比べて低い空燃比(例えば13〜14)となるよう燃料噴射弁80から気筒内に燃料を噴射し、噴射燃料のうち少なくとも一部を燃焼させることで、気筒内において還元剤を含んだ排出ガスを生じさせる「リッチ燃焼」を選択使用して、排気後処理装置55に還元剤を供給するものとした。
筒内充填ガスの着火し易さ(着火性)に対して燃料噴射弁80の噴射燃料のセタン価Cfが比較的高い場合には、「リッチ燃焼」を選択使用することで、還元剤として反応性の高いCOを多く含んだ排出ガスを気筒内において生じさせて、排気後処理装置55に供給することができる。一方、筒内充填ガスの着火し易さに対して前記セタン価Cfが低く、「リッチ燃焼」を行うと失火が生じる虞がある場合には、「排気添加」を選択使用して、排気後処理装置55に還元剤としてHCを供給することで、気筒内においては、空燃比を酸素過剰状態(例えば、空燃比20〜70)にする「通常燃焼」を行わせることができ、気筒内において失火が生じることを抑制しつつ、排気後処理装置55に還元剤を供給することができる。
なお、本実施形態に係るディーゼル機関用制御装置(ECU)100は、排気後処理装置に還元剤を供給する場合、燃料噴射弁80に供給される燃料のセタン価Cfと、筒内充填ガスの着火性に応じて、排気添加を選択使用する場合と、リッチ燃焼を選択使用する場合と、排気添加とリッチ燃焼とを併用する場合との3つを切替えるものとしたが、排気添加とリッチ燃焼を併用又は選択使用する態様は、これに限定されるものではない。例えば、燃料のセタン価が高いと判定した場合には、リッチ燃焼のみを選択使用して排気後処理装置に還元剤を供給し、燃料のセタン価が低いと判定した場合には、排気添加のみを選択使用して排気後処理装置に還元剤を供給するものとしても良い。
また、本実施形態において、ディーゼル機関10は、排気後処理装置55として、NOx吸蔵還元型触媒コンバータ55aと、DPNR触媒システム55cを備えたものとしたが、本発明が適用可能なディーゼル機関の排気後処理装置55は、これに限定されるものではない。還元剤の供給を必要とする排気後処理装置を備えたディーゼル機関であれば適用することができ、例えば、NOx吸蔵還元型触媒とDPNR触媒システムのうちいずれか一方を備えたディーゼル機関にも本発明を適用することができる。
また、本実施形態において、ディーゼル機関は、EGR装置やターボ過給機を備えるものとしたが、本発明を適用可能なディーゼル機関の構成は、この態様に限定されるものではない。還元剤の供給を要する排気後処理装置と、当該排気後処理装置と気筒との間にある排気通路を流れる排出ガスに燃料を添加可能な排気燃料添加弁を備えたディーゼル機関であれば本発明を適用することができる。