JP5331190B2 - スパークプラグ - Google Patents

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Description

本発明は、内燃機関等に使用されるスパークプラグに関する。
スパークプラグは、内燃機関(エンジン)等に取付けられ、燃焼室内の混合気への着火のために用いられる。一般的にスパークプラグは、軸線方向に延びる軸孔を有する絶縁体と、当該軸孔の先端側に挿通される中心電極と、絶縁体の外周に設けられる主体金具と、主体金具の先端部に固定される接地電極とを備える。接地電極は、自身の略中間部分に設けられた屈曲部において先端部が中心電極と対向するように曲げ返されており、接地電極の先端部と中心電極の先端部との間には火花放電間隙が形成される。そして、火花放電間隙に高電圧が印加され、火花放電が生じることで、混合気への着火がなされるようになっている。
また近年では、スパークプラグの小径化の要請があり、その要請に応えるべく、主体金具が小径化され、主体金具の外周に設けられるねじ部(雄ねじ部)のねじ径が小さなもの(例えば、M10以下)とされ得る(例えば、特許文献1等参照)。
特開2007−242588号公報
しかしながら、ねじ部のねじ径を小さくした場合には、軸線と直交する方向に沿った火花放電間隙から接地電極までの距離が比較的小さなものとなる。従って、前記距離が大きなものと比較して、火花放電間隙にて生成された火炎核の成長が接地電極により阻害されてしまいやすい。また、前記距離が比較的小さな場合において、火花放電間隙と燃焼噴射装置との間に接地電極が配置されてしまうと、前記距離が大きなものと比較して、接地電極の存在による火花放電間隙に対する混合気の流入阻害がより顕著に生じてしまう。すなわち、ねじ径の比較的小さい小径化されたスパークプラグにおいては、着火性の低下がより懸念される。
そこで、接地電極を細くすることで、火炎核を成長しやすくするとともに、火花放電間隙に対して混合気を流入しやすくし、小径化されたスパークプラグにおいて、高着火性を実現することが考えられる。
ところが、単に接地電極を細くした場合には、内燃機関等の動作に伴う振動等が加わった際に、接地電極の先端部が中心電極から離間する方向へと起き上がること(屈曲された接地電極が徐々に戻り変形してしまうこと)が生じやすくなってしまう。これは、屈曲に伴い接地電極に内部応力が残留するところ、細い接地電極は、前記内部応力に対する強度が十分ではないことによる。接地電極の起き上がりが生じてしまうと、火花放電間隙が拡大してしまうため、放電電圧が増大してしまい、中心電極や接地電極の急激な消耗や放電不能といった事態を招いてしまうおそれがある。
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、その目的は、小径化されたスパークプラグにおいて、高着火性を実現しつつ、接地電極の先端部における起き上がりをより確実に防止することにある。
以下、上記目的を解決するのに適した各構成につき、項分けして説明する。なお、必要に応じて対応する構成に特有の作用効果を付記する。
構成1.本構成のスパークプラグは、軸線方向に延びる軸孔を有する筒状の絶縁体と、
前記軸孔に挿設された中心電極と、
前記絶縁体の外周に設けられた筒状の主体金具と、
自身の基端部が前記主体金具に固定されるとともに、屈曲部にて前記中心電極側へと曲げられ、自身の先端部が前記中心電極との間で間隙を形成する接地電極とを備え、
前記主体金具の先端側外周には、取付用のねじ部が形成されており、
前記ねじ部のねじ径がM10以下とされたスパークプラグであって、
前記接地電極の基端部における前記軸線と直交する断面において、前記軸線から前記接地電極の外形線に引いた2本の接線により形成された角のうち前記接地電極側に位置する角の角度が30°以下とされ、
前記屈曲部のうち前記接地電極の先端に最も接近する部位における前記接地電極の中心軸と直交する断面において、前記接地電極の重心は、前記接地電極の厚さの1/2の位置よりも前記接地電極の前記中心電極側の面側に位置しており、前記接地電極の厚さ方向における中心と前記重心との間の前記厚さ方向に沿った距離が、前記接地電極の厚さの4%以上とされることを特徴とする。
尚、前記断面において、接地電極の厚さがその幅方向に沿って異なる場合、「接地電極の厚さ」とあるのは、前記断面における接地電極の最大厚さをいう。
上記構成1によれば、接地電極の基端部における軸線と直交する断面において、軸線から接地電極の外形線に引いた2本の接線により形成された角のうち接地電極側に位置する角の角度が30°以下とされている。すなわち、接地電極が十分に細い(幅の小さい)ものとされており、接地電極による、火炎核の成長阻害や間隙に対する混合気の流入阻害をより確実に防止することができる。その結果、ねじ部のねじ径がM10以下とされ、着火性の低下がより懸念されるスパークプラグにおいて、優れた着火性を実現することができる。
ところで、比較的細い接地電極においては、接地電極の先端部における起き上がりが懸念される。ここで、上述の通り、屈曲に伴い接地電極には内部応力が残留するが、接地電極には主として二種類の内部応力が残留すると考えられる。すなわち、接地電極の屈曲部のうち中心電極側(屈曲内側)の部位は、屈曲に伴い圧縮された部分であるため、前記屈曲内側の部位には、圧縮状態を解放する方向(延びる方向)への内部応力が残留する。一方で、屈曲部のうち中心電極とは反対側(屈曲外側)の部位は、屈曲に伴い延伸された部分であるため、前記屈曲外側の部位には、延伸状態を解放する方向への内部応力(引張り応力)が残留する。そして、この引張り応力により、接地電極の先端部には、屈曲部に引き付ける方向に向けた力が加わる。ここで、前記両内部応力は、それぞれ接地電極の先端部に起き上がりを生じさせる方向に働くが、引張り応力は特に影響が大きく、接地電極の起き上がりは主として引張り応力に起因して発生するものと考えられる。
この点を踏まえて、上記構成1によれば、屈曲部のうち接地電極の先端に最も接近する部位における接地電極の中心軸と直交する断面において、接地電極の重心が、接地電極の厚さの1/2の位置よりも接地電極の中心電極側の面側(屈曲内側)に位置し、かつ、接地電極の厚さ方向に沿った接地電極の中心と重心との間の距離が、接地電極の厚さの4%以上とされている。すなわち、屈曲部のうち接地電極の先端に最も接近する部位において、前記中心よりも屈曲外側に位置する部分の断面積が十分に小さなものとされている。従って、屈曲部のうち接地電極の先端に最も接近する部位の引張り応力を低減させることができ、接地電極の先端部における起き上がりをより確実に防止することができる。その結果、接地電極の起き上がりに伴う放電電圧の増大を防止することができ、耐久性の向上を図ることができる。
尚、屈曲部のうち接地電極の先端に最も接近する部位の引張り応力は、接地電極の先端部に対して直接的に働き、接地電極の起き上がりを生じさせる大きな要因となる。そのため、屈曲部のうち接地電極の先端に最も接近する部位の引張り応力を低減させることは、接地電極の起き上がりを抑制する上で効果的に作用する。
構成2.本構成のスパークプラグは、上記構成1において、前記屈曲部の任意の部位における前記接地電極の中心軸と直交する断面において、前記接地電極の重心は、前記接地電極の厚さの1/2の位置よりも前記接地電極の前記中心電極側の面側に位置しており、前記接地電極の厚さ方向における中心と前記重心との間の前記厚さ方向に沿った距離が、前記接地電極の厚さの4%以上とされる。
上記構成2によれば、屈曲部の全域において、接地電極の重心が、接地電極の厚さの1/2の位置よりも屈曲内側に位置し、かつ、前記中心と前記重心との間の接地電極の厚さ方向に沿った距離が接地電極の厚さの4%以上とされている。従って、屈曲部の全域において、接地電極のうち前記中心よりも屈曲外側に位置する部位の断面積を小さくすることができ、接地電極に残留する引張り応力を一層低減させることができる。その結果、接地電極の先端部における起き上がりをより効果的に防止することができる。
構成3.本構成のスパークプラグは、上記構成1又は2において、前記断面において、前記接地電極のうち前記重心よりも前記中心電極側に位置する部位の硬度が、前記接地電極のうち前記重心よりも前記中心電極とは反対側に位置する部位の硬度よりも大きいことを特徴とする。
接地電極の起き上がり防止効果を高めるという点では、接地電極の硬度を増大させ、内部応力に対する強度を向上させることが有効である。しかしながら、接地電極の硬度を増大させると、内部応力も増大してしまうこととなる。そのため、単に硬度を増大させただけでは、起き上がり防止効果を十分に向上させることができないおそれがある。
この点、上記構成3によれば、接地電極のうち前記重心よりも中心電極側(屈曲内側)に位置する部位の硬度が、接地電極のうち前記重心よりも中心電極とは反対側(屈曲外側)に位置する部位の硬度よりも大きくされている。従って、接地電極の屈曲外側に残留する引張り応力の増大を抑制しつつ、接地電極のうち屈曲内側に位置する部位の強度を向上させることができる(つまり、強度の向上分を、硬度の増大による応力の増加分よりも大きくすることができる)。その結果、内部応力に対する接地電極の強度を向上させることができ、接地電極の起き上がりを一層効果的に防止することができる。
構成4.本構成のスパークプラグは、上記構成1乃至3のいずれかにおいて、前記間隙は、前記接地電極の前記中心電極側の面と前記中心電極の先端面との間に形成されており、
前記間隙を通り前記軸線と直交する断面において、前記軸線から前記接地電極の外形線に接する2本の接線を引き、前記接地電極の外形線上に2つの接点をとったとき、当該両接点間に位置し前記中心電極とは反対側に位置する前記外形線が、複数の線分、前記接地電極の重心から離間する側に向けて凸の湾曲線、又は、1つ以上の線分及び前記湾曲線により形成されており、
前記両接点間に位置し前記中心電極側に位置する前記外形線の長さをA(mm)とし、前記両接点間に位置し前記中心電極とは反対側に位置する前記外形線の長さをB(mm)としたとき、1.43≦B/A≦1.91を満たすことを特徴とする。
上述の通り、前記角度を30°以下とすることで、間隙と燃料噴射装置との間に接地電極が存在するような状態でスパークプラグが取付けられた場合であっても、接地電極による、間隙に対する混合気の流入阻害を防止することができる。しかしながら、接地電極の外周形状によっては、接地電極の側面において混合気の剥離が生じてしまい、間隙において混合気の流れが一定とならなかったり(乱れが生じてしまったり)、混合気が間隙から接地電極側に向けて流れてしまったり(逆流してしまったり)するおそれがある。このように間隙において混合気の流れに乱れや逆流が生じてしまうと、混合気への点火や火炎核の成長に支障が生じてしまう可能性がある。
この点、上記構成4によれば、間隙と燃料噴射装置との間に接地電極が存在するような状態でスパークプラグが取付けられた場合であっても、接地電極の側面において混合気の剥離が生じることなく、間隙に対して、接地電極から間隙側に向けた流れの混合気をスムーズに流入させることができる。その結果、着火性の更なる向上を図ることができる。
構成5.本構成のスパークプラグは、上記構成1乃至4のいずれかにおいて、前記間隙は、前記接地電極の前記中心電極側の面と前記中心電極の先端面との間に形成されており、
前記接地電極のうち前記間隙を形成する部位に対応する前記接地電極の中心軸方向に沿った範囲内における、前記接地電極の中心軸と直交する断面において、前記中心電極の先端面の外形線中心から前記接地電極の外形線に接する2本の接線を引き、前記接地電極の外形線上に2つの接点をとったとき、当該両接点間に位置し前記中心電極側に位置する前記外形線の長さが、1.35mm以上とされることを特徴とする。
上記構成5によれば、接地電極のうち間隙に対応する面(放電面)の幅が十分に大きなものとされている。従って、放電面の幅が小さなものと比較して、間隙がより拡大しにくくなる(放電面の幅が大きなものと小さなものとにおいて、両者における接地電極の消耗量が同一であると仮定したときに、放電面の幅が大きなものの方が、間隙は拡大しにくくなる)。また、間隙が拡大しにくくなることで、間隙の拡大に伴う放電電圧の増大を抑制することができ、電極の消耗(間隙の拡大)をさらに抑制することができる。その結果、耐久性をより一層向上させることができる。
構成6.本構成のスパークプラグは、上記構成1乃至5のいずれかにおいて、前記間隙は、前記接地電極の前記中心電極側の面と前記中心電極の先端面との間に形成されており、
前記軸線方向先端側から見たとき、前記接地電極の先端が、前記中心電極の先端面のうち前記接地電極の基端部から最も離間する部位よりも前記接地電極の基端部側に位置することを特徴とする。
上記構成6によれば、接地電極の先端部による火炎核の成長阻害を一層確実に抑制することができ、火炎核をより大きく成長させることができる。その結果、一層優れた着火性を実現することができる。
構成7.本構成のスパークプラグは、上記構成1乃至6のいずれかにおいて、前記接地電極は、ニッケルを95質量%以上含有する金属により形成されることを特徴とする。
上記構成7によれば、接地電極が、熱伝導性に優れるニッケル(Ni)を95質量%以上含有する金属により形成されている。従って、接地電極の耐消耗性を向上させることができ、耐久性の更なる向上を図ることができる。
スパークプラグの構成を示す一部破断正面図である。 スパークプラグの先端部の構成を示す一部破断拡大正面図である。 角度θを説明するための接地電極等の拡大断面図である。 屈曲部における接地電極の厚さ方向に沿った中心や重心を示す拡大断面図である。 (a)は、接地電極を製造する際の用いられる金属型等の断面図であり、(b)は、図5(a)のJ−J線断面図である。 外形線の長さ等を示す接地電極の拡大端面図である。 中心電極に対する接地電極の先端の相対位置を示す拡大底面図である。 火花放電間隙に対応する部位における接地電極等を示す拡大端面図である。 角度θを種々変更したサンプルにおける着火性評価試験の結果を示すグラフである。 ずれ割合を種々変更したサンプルにおける耐起き上がり性試験の結果を示すグラフである。 長さCを種々変更したサンプルにおける机上火花耐久試験の結果を示すグラフである。 距離Eを種々変更したサンプルにおける限界空燃比確認試験の結果を示すグラフである。 接地電極におけるNi含有量を種々変更したサンプルにおける机上火花耐久試験の結果を示すグラフである。 (a),(b)は、別の実施形態における接地電極の形状を示す拡大断面図である。 別の実施形態における接地電極の形状を示す拡大断面図である。 別の実施形態における接地電極の形状を示す拡大断面図である。
以下に、一実施形態について図面を参照しつつ説明する。図1は、スパークプラグ1を示す一部破断正面図である。尚、図1では、スパークプラグ1の軸線CL1方向を図面における上下方向とし、下側をスパークプラグ1の先端側、上側を後端側として説明する。
スパークプラグ1は、筒状をなす絶縁体としての絶縁碍子2、これを保持する筒状の主体金具3などから構成されるものである。
絶縁碍子2は、周知のようにアルミナ等を焼成して形成されており、その外形部において、後端側に形成された後端側胴部10と、当該後端側胴部10よりも先端側において径方向外向きに突出形成された大径部11と、当該大径部11よりも先端側においてこれよりも細径に形成された中胴部12と、当該中胴部12よりも先端側においてこれよりも細径に形成された脚長部13とを備えている。加えて、絶縁碍子2のうち、大径部11、中胴部12、及び、大部分の脚長部13は、主体金具3の内部に収容されている。そして、中胴部12と脚長部13との連接部にはテーパ状の段部14が形成されており、当該段部14にて絶縁碍子2が主体金具3に係止されている。
さらに、絶縁碍子2には、軸線CL1に沿って延びる軸孔4が貫通形成されており、当該軸孔4の先端側には中心電極5が挿入、固定されている。当該中心電極5は、熱伝導性に優れる金属〔例えば、銅や銅合金、純ニッケル(Ni)等〕からなる内層5Aと、Niを主成分とする合金からなる外層5Bとを備えている。また、中心電極5は、全体として棒状(円柱状)をなし、その先端部分が絶縁碍子2の先端から突出している。
加えて、軸孔4の後端側には、絶縁碍子2の後端から突出した状態で端子電極6が挿入、固定されている。
さらに、軸孔4の中心電極5と端子電極6との間には、円柱状の抵抗体7が配設されている。当該抵抗体7の両端部は、導電性のガラスシール層8,9を介して、中心電極5と端子電極6とにそれぞれ電気的に接続されている。
加えて、前記主体金具3は、低炭素鋼等の金属により筒状に形成されており、その先端部外周にはスパークプラグ1を内燃機関や燃料電池改質器等の燃焼装置に取付けるためのねじ部(雄ねじ部)15が形成されている。また、ねじ部15の後端側には座部16が外周側に向けて突出形成されており、ねじ部15後端のねじ首17にはリング状のガスケット18が嵌め込まれている。さらに、主体金具3の後端側には、主体金具3を燃焼装置に取付ける際にレンチ等の工具を係合させるための断面六角形状の工具係合部19が設けられている。また、主体金具3の後端部には、径方向内側に向けて屈曲する加締め部20が設けられている。尚、本実施形態においては、スパークプラグ1の小型化を図るべく、主体金具3が小径化されており、ねじ部15のねじ径がM10以下とされている。
また、主体金具3の内周面には、絶縁碍子2を係止するためのテーパ状の段部21が設けられている。そして、絶縁碍子2は、主体金具3に対してその後端側から先端側に向かって挿入され、自身の段部14が主体金具3の段部21に係止された状態で、主体金具3の後端側の開口部を径方向内側に加締めること、つまり上記加締め部20を形成することによって主体金具3に固定されている。尚、前記段部14,21間には、円環状の板パッキン22が介在されている。これにより、燃焼室内の気密性を保持し、燃焼室内に晒される絶縁碍子2の脚長部13と主体金具3の内周面との隙間に入り込む燃料ガスが外部に漏れないようになっている。
さらに、加締めによる密閉をより完全なものとするため、主体金具3の後端側においては、主体金具3と絶縁碍子2との間に環状のリング部材23,24が介在され、リング部材23,24間には滑石(タルク)25の粉末が充填されている。すなわち、主体金具3は、板パッキン22、リング部材23,24及び滑石25を介して絶縁碍子2を保持している。
また、図2に示すように、主体金具3の先端部26には、屈曲部27Bにて中心電極5側へと曲げられ、その先端部側面が中心電極5の先端部と対向する接地電極27が接合されている。加えて、中心電極5の先端面と接地電極27の中心電極5側の面27Sとの間には、間隙としての火花放電間隙28が形成されており、当該火花放電間隙28において、軸線CL1にほぼ沿った方向で火花放電が行われるようになっている。
ところで、軸線CL1と直交する方向に沿った火花放電間隙28から接地電極27までの距離が比較的小さなものとなっている場合には、前記距離が大きなものと比較して、火花放電間隙28にて生成された火炎核の成長が接地電極27により阻害されてしまいやすい。また、前記距離が比較的小さい場合において、火花放電間隙28と燃焼噴射装置との間に接地電極27が配置されてしまうと、前記距離が大きなものと比較して、接地電極27の存在による火花放電間隙28に対する混合気の流入阻害がより顕著に生じてしまいやすい。すなわち、軸線CL1と直交する方向に沿った火花放電間隙28から接地電極27までの距離が比較的小さい場合には、着火性がより低下してしまいやすい。従って、本実施形態のように、ねじ部15のねじ径がM10以下とされ、前記距離が小さいスパークプラグ1においては、着火性の低下がより懸念される。
そこで、本実施形態においては、着火性の低下を防止すべく、接地電極27が比較的細いものとされており、図3(図3においては、絶縁碍子2等を不図示)に示すように、接地電極27の基端部における軸線CL1と直交する断面において、軸線CL1から接地電極27の外形線に引いた2本の接線TL1,TL2により形成された角のうち接地電極27側に位置する角の角度θが30°以下とされている。
このように角度θを30°以下とした場合には、着火性の低下防止を図ることができる一方で、屈曲に伴い接地電極27に残留する内部応力に対する強度が不十分なものとなりやすい。そのため、内燃機関等の動作時における振動等が加わることで、前記内部応力により接地電極27が徐々に戻り変形してしまう(接地電極27の先端部が中心電極5の先端から離間する方向へと起き上がってしまう)おそれがある。
そこで、本実施形態では、接地電極27先端部の起き上がりを防止するために、図4に示すように、前記屈曲部27Bのうち接地電極27の先端に最も接近する部位における前記中心軸CL2と直交する断面において、接地電極27の重心GPが、接地電極27の厚さの1/2の位置(接地電極27の中心CP)よりも接地電極27の中心電極5側の面27S側に位置している。そして、接地電極27の厚さ方向(図4中、面27Sに直交する直線L1方向)に沿った接地電極27の中心CPと前記重心GPとの間の前記厚さ方向に沿った距離Xが、接地電極27の厚さTの4%以上とされている。
尚、接地電極27の起き上がりをより確実に防止するという観点から、屈曲部27Bの任意の部位における前記中心軸CL2と直交する断面において、前記重心GPを、接地電極27の厚さの1/2の位置(中心CP)よりも前記面27S側に位置させ、前記距離Xを前記厚さTの4%以上とすることがより好ましい。すなわち、屈曲部27Bの全域において、前記重心GPを前記中心CPよりも前記面27S側に位置させ、前記距離Xを前記厚さTの4%以上とすることがより好ましい。
また、本実施形態では、前記重心GPを前記中心CPよりも前記面27S側に位置させ、かつ、距離Xを厚さTの4%以上とするために、前記中心軸CL2と直交する断面において、前記面27Sが平面とされる一方で、その他の面が外側に向けて凸の湾曲面とされている。そして、接地電極27のうちその厚さ方向に沿って前記中心CPよりも前記面27S側に位置する部位の断面積が、接地電極27の断面積の半分よりも十分に大きなものとされている。
さらに、接地電極27の起き上がりを一層確実に防止すべく、前記断面において、接地電極27のうち前記重心GPよりも中心電極5側に位置する部位の硬度が、接地電極27のうち前記重心GPよりも中心電極5とは反対側に位置する部位の硬度よりも大きくされている。
尚、本実施形態において、硬度差は、接地電極27を形成する際における、前記面27S側に位置する部位の加工率を、前記面27Sとは反対側の位置する部位の加工率よりも大きくする(前記面27S側に位置する部位をより大きく変形させる)ことによって生じている。例えば、図5(a),(b)に示すように、接地電極27の断面形状に対応する孔部HOを有する金属型MPを用いて、接地電極27となる断面円形状の線材WMに塑性加工を加えることにより接地電極27を得ることで、接地電極27において硬度差を生じさせることができる。
ところで、火花放電間隙28と燃焼噴射装置との間に接地電極27が配置された場合においては、上述の通り、前記角度θが30°以下とされているため、混合気は接地電極27の側面を回り込んで、火花放電間隙28へと流れ込む。しかしながら、火花放電間隙28に流れ込んだ混合気の流れが一定とならなかったり(乱れが生じてしまったり)、接地電極27を回り込んだ混合気が火花放電間隙28から接地電極27側に向けて流れてしまったり(逆流してしまったり)するおそれがある。このように火花放電間隙28において混合気の流れに乱れや逆流が生じてしまうと、混合気への点火や火炎核の成長に支障が生じてしまう可能性がある。
この点を鑑みて、本実施形態では、図6に示すように、火花放電間隙28を通り軸線CL1と直交する断面において、軸線CL1から接地電極27の外形線に接する2本の接線TL3,TL4を引き、接地電極27の外形線上に2つの接点P1,P2をとったとき、両接点P1,P2間に位置し中心電極5とは反対側に位置する外形線OL1が、接地電極27の重心GPから離間する側に向けて凸の湾曲線により形成されている。そして、両接点P1,P2間に位置し中心電極5側に位置する外形線OL2の長さをA(mm)とし、前記外形線OL1の長さをB(mm)としたとき、1.43≦B/A≦1.91を満たすように構成されている。尚、接地電極27のうち、軸線CL1方向において火花放電間隙28に対応する部位(図2中、散点模様を付した部位)の全域において、外形線OL1が前記重心GPから離間する側に向けて凸の湾曲線により形成され、かつ、1.43≦B/A≦1.91を満たすように構成されている。
さらに、本実施形態では、着火性の一層の向上を図るために、図7(図7においては、主体金具3等を不図示)に示すように、軸線CL1方向先端側から見たとき、接地電極27の先端が、中心電極5の先端面のうち接地電極27の基端部から最も離間する部位5Eよりも接地電極27の基端部側に位置するように構成されている。
また、本実施形態では、接地電極27のうち火花放電間隙28に対応する部位の幅が十分に大きなものとされている。具体的には、接地電極27のうち火花放電間隙28を形成する部位に対応する接地電極27の中心軸CL2方向に沿った範囲RA(図2参照)内における、前記中心軸CL2と直交する断面において、図8に示すように、中心電極5の先端面の外形線中心COから接地電極27の外形線に接する2本の接線TL5,TL6を引く。そして、接地電極27の外形線上に2つの接点P3,P4をとったとき、両接点P3,P4間に位置し中心電極5側に位置する接地電極27の外形線OL3の長さCが1.35mm以上とされている。
加えて、接地電極27は、その耐消耗性を向上させるべく、Niを95質量%以上含有する金属により形成されている。尚、耐消耗性の更なる向上を図るべく、接地電極27に、マンガン(Mn)やクロム(Cr)、アルミニウム(Al)を含有させてもよい。
尚、本実施形態では、接地電極27の中心軸CL2に沿った全域において、接地電極27の断面形状が同一となるように構成されている。
以上詳述したように、本実施形態によれば、前記角度θが30°以下とされ、接地電極27が十分に細いものとされている。従って、接地電極27による、火炎核の成長阻害や火花放電間隙28に対する混合気の流入阻害をより確実に防止することができる。その結果、ねじ部15のねじ径がM10以下とされ、着火性の低下がより懸念されるスパークプラグ1において、優れた着火性を実現することができる。
さらに、本実施形態では、屈曲部27Bのうち接地電極27の先端に最も接近する部位における接地電極27の中心軸CL2と直交する断面において、接地電極27の重心GPが、接地電極27の厚さの1/2の位置よりも接地電極27の前記面27S側(屈曲内側)に位置し、かつ、接地電極27の厚さ方向に沿った接地電極27の中心CPと前記重心GPとの間の距離Xが、接地電極27の厚さTの4%以上とされている。すなわち、屈曲部27Bのうち接地電極27の先端に最も接近する部位において、前記中心CPよりも屈曲外側に位置する部分の断面積が十分に小さなものとされている。従って、屈曲部27Bのうち接地電極27の先端に最も接近する部位の引張り応力を低減させることができ、接地電極27の先端部における起き上がりをより確実に防止することができる。その結果、接地電極27の起き上がりに伴う放電電圧の増大を防止することができ、耐久性の向上を図ることができる。
尚、屈曲部27Bのうち接地電極27の先端に最も接近する部位における引張り応力は、接地電極27の先端部に対して直接的に働き、接地電極27の起き上がりを生じさせる大きな要因となる。そのため、屈曲部27Bのうち接地電極27の先端に最も接近する部位の引張り応力を低減させることは、接地電極27の起き上がりを抑制する上で効果的に作用する。
さらに、本実施形態では、接地電極27のうち前記重心GPよりも中心電極5側(屈曲内側)に位置する部位の硬度が、接地電極27のうち前記重心GPよりも中心電極5とは反対側(屈曲外側)に位置する部位の硬度よりも大きくされている。従って、接地電極27の屈曲外側に残留する引張り応力の増大を抑制しつつ、接地電極27のうち屈曲内側に位置する部位の強度を向上させることができる。その結果、内部応力に対する接地電極27の強度を向上させることができ、接地電極27の起き上がりを一層効果的に防止することができる。
加えて、前記外形線OL1の長さB(mm)、及び、前記外形線OL2の長さA(mm)が、1.43≦B/A≦1.91を満たすように構成されている。従って、火花放電間隙28と燃料噴射装置との間に接地電極27が存在するような状態でスパークプラグ1が取付けられた場合であっても、接地電極27の側面において混合気の剥離が生じることなく、火花放電間隙28に対して、接地電極27から火花放電間隙28側に向けた流れの混合気をスムーズに流入させることができる。その結果、火炎核をより確実に成長させることができ、着火性の更なる向上を図ることができる。
併せて、前記外形線OL3の長さCが1.35mm以上とされており、接地電極27のうち火花放電間隙28に対応する面(放電面)の幅が十分に大きなものとされている。従って、放電面の幅が小さなものと比較して、火花放電間隙28がより拡大しにくくなる。また、火花放電間隙28が拡大しにくくなることで、火花放電間隙28の拡大に伴う放電電圧の増大を抑制することができ、電極5,27の消耗(火花放電間隙28の拡大)をさらに抑制することができる。その結果、耐久性をより一層向上させることができる。
また、軸線CL1方向先端側から見たとき、接地電極27の先端が、中心電極5の先端面のうち接地電極27の基端部から最も離間する部位5Eよりも接地電極27の基端部側に位置している。従って、接地電極27の先端部による火炎核の成長阻害を一層確実に抑制することができ、火炎核をより大きく成長させることができる。その結果、一層優れた着火性を実現することができる。
さらに、接地電極27が、熱伝導性に優れるNiを95質量%以上含有する金属により形成されている。従って、接地電極27の耐消耗性を向上させることができ、耐久性の更なる向上を図ることができる。
次いで、上記実施形態によって奏される作用効果を確認すべく、ねじ部のねじ径をM10、M12、又は、M14とした上で、接地電極の太さを変更することにより、前記角度θを種々変更したスパークプラグのサンプルを作製し、各サンプルについて着火性評価試験を行った。着火性評価試験の概要は次の通りである。すなわち、排気量1.5Lの4気筒エンジンに対して、燃料噴射装置と火花放電間隙との間に接地電極が位置するようにしてサンプルを取付けた。そして、エンジンを動作させつつ、点火時期を徐々に進角させていき、平均燃焼圧の変動率が20%に達したときの点火角度(°CA)を測定した。図9に、当該試験の試験結果を示す。尚、前記点火角度が大きいほど、着火性に優れることを意味する。また、図9においては、角度θを30°としたサンプルの試験結果を黒丸で示し、角度θを32°としたサンプルの試験結果を黒三角で示し、角度θを34°としたサンプルの試験結果を黒四角で示す。さらに、角度θを36°としたサンプルの試験結果を白抜き丸で示し、角度θを38°としたサンプルの試験結果を白抜き三角で示し、角度θを40°としたサンプルの試験結果を白抜き四角で示す。尚、ねじ径をM10としたサンプルは、軸線と直交する方向に沿った、軸線から接地電極基端面の中心までの距離を3.6mmとし、ねじ径をM12としたサンプルは、前記距離を4.3mmとし、ねじ径をM14としたサンプルは、前記距離を5.1mmとした。
図9に示すように、ねじ径をM12又はM14としたサンプルは、角度θを30°〜40°の範囲で変化させたとしても、点火角度が大きく異なることはなく、それぞれ優れた着火性を有することが分かった。
これに対して、ねじ径をM10としたサンプルは、角度θの変化に伴い点火角度が大きく変化し、着火性の低下が生じやすいことが確認された。これは、ねじ径をM10としたサンプルは、火花放電間隙及び接地電極間の距離が小さいため、接地電極の存在による、火炎核の成長阻害や火花放電間隙に対する混合気の流入阻害の影響が大きいことによると考えられる。
しかしながら、ねじ径をM10としたサンプルの中でも、角度θを30°としたものは、ねじ径をM12又はM14としたサンプルと同程度以上の優れた着火性を有することが分かった。これは、接地電極が十分に細かったため、火花放電間隙及び接地電極間の距離が小さくても、接地電極による、火炎核の成長阻害や火花放電間隙に対する混合気の流入阻害をより確実に防止できたためであると考えられる。
上記試験の結果より、着火性の低下が生じやすい、ねじ径をM10以下としたスパークプラグにおいて、優れた着火性を実現するためには、角度θを30°以下とすることが好ましいといえる。
次に、屈曲部のうち接地電極の先端に最も接近する部位における接地電極の中心軸と直交する断面において、接地電極の厚さ方向におけるその中心に対する接地電極の重心位置を変更することで、前記厚さTに対する前記距離Xの割合(ずれ割合)を種々変更したスパークプラグのサンプルを5本ずつ作製し、各サンプルについて、耐起き上がり性試験を行った。耐起き上がり性試験の概要は次の通りである。すなわち、サンプルを排気量1.3Lの4気筒エンジンに取付けた上で、エンジンを全開状態(4800rpm)にて50時間動作させた。50時間経過後、サンプルの接地電極を観察し、接地電極の先端部に起き上がりが生じているか否かを確認した。図10に、各ずれ割合における、起き上がりが生じたサンプルの本数(起き上がり本数)を示す。尚、ずれ割合は、接地電極を得る際の加工率を変化させることで変更した。また、各サンプルともに、軸線に沿った主体金具の先端から火花放電間隙の中心までの距離を3mmとし、火花放電間隙の大きさを0.9mmとした(以下、同様)。
さらに、各サンプルともに、接地電極を比較的細いものとし、角度θを30°以下とした。すなわち、接地電極は、内部応力に対する強度がさほど高くなく、接地電極における起き上がりが生じやすいものを用いた。
図10に示すように、ずれ割合を4%以上としたサンプルは、角度θを30°以下としたにも関わらず、長期間に亘って大きな振動を加えても、接地電極の起き上がりが生じないことが分かった。これは、屈曲部のうち接地電極の先端に最も接近する部位において、接地電極の重心をその中心(厚さ中心)よりも中心電極側(屈曲内側)に位置させ、かつ、ずれ割合を4%以上としたことで、前記厚さ中心よりも中心電極とは反対側(屈曲外側)に位置する部位の断面積が減少し、ひいては接地電極の先端部に働く引張り応力が低減したためであると考えられる。
尚、屈曲部のうち接地電極の先端に最も接近する部位において生じる引張り応力は、接地電極の先端部に直接的に働き、接地電極の起き上がりを生じさせる大きな要因になると考えられる。そのため、屈曲部のうち接地電極の先端に最も接近する部位の引張り応力を低減させることは、接地電極の起き上がりを抑制するという点で効果的に作用すると考えられる。
上記試験の結果より、角度θを30°以下とし、接地電極の起き上がりが生じやすいスパークプラグにおいて、接地電極の起き上がりをより確実に防止するためには、屈曲部のうち接地電極の先端に最も接近する部位における接地電極の中心軸と直交する断面において、接地電極の重心を、接地電極の厚さの1/2の位置(中心)よりも接地電極の中心電極側の面側に位置させ、かつ、接地電極の厚さ方向に沿った接地電極の中心と重心との間の前記厚さ方向に沿った距離を、接地電極の厚さの4%以上とすることが好ましいといえる。
尚、引張り応力をさらに低減させ、接地電極の起き上がりを一層確実に防止するという観点では、屈曲部の全域において、上述の構成を満たすことがより好ましいといえる。
次いで、屈曲部の断面において、接地電極のうち前記重心よりも中心電極側に位置する部位(屈曲内側部位)の硬度を、接地電極のうち前記重心よりも中心電極とは反対側に位置する部位(屈曲外側部位)の硬度と等しくしたスパークプラグのサンプル(硬度差なし)と、屈曲内側部位の硬度を屈曲外側部位の硬度よりも大きくしたスパークプラグのサンプル(硬度差あり)とをそれぞれ6本ずつ作製し、各サンプルについて上述の耐起き上がり性試験を行った。尚、当該試験においては、エンジンを全開状態(5600rpm)にて100時間動作させ、より厳しい条件でサンプルに対して振動を加えた。表1に、当該試験の試験結果を示す。尚、表1においては、接地電極に起き上がりが生じたことを「×」で示し、接地電極に起き上がりが生じなかったことを「○」で示す。また、各サンプルともに、角度θを30°以下とするとともに、接地電極の重心をその厚さ中心よりも中心電極側に位置させ、かつ、前記厚さTに対する前記距離Xの割合を4%以上とした。さらに、ねじ部のねじ径をM10とした。
Figure 0005331190
表1に示すように、屈曲内側部位の硬度を屈曲外側部位の硬度よりも大きくしたサンプル(硬度差あり)は、より厳しい条件下においても、接地電極の起き上がりを防止できることが分かった。これは、硬度を増大させることにより内部応力に対する強度が向上する一方で、硬度の増大に伴い内部応力も増大するところ、屈曲外側部位の硬度よりも屈曲内側部位の硬度を大きくしたことで、屈曲外側部位における引張り応力の増大を抑制しつつ、引張り応力に対する接地電極の強度が向上したためであると考えられる。
上記試験の結果より、接地電極の起き上がりをより一層確実に防止するという観点から、屈曲部の断面において、接地電極のうち前記重心よりも中心電極側に位置する部位の硬度を、接地電極のうち前記重心よりも中心電極とは反対側に位置する部位の硬度よりも大きくすることが好ましいといえる。
次に、接地電極のうち軸線方向において火花放電間隙に対応する部位の外周形状を変更することで、前記外形線OL2の長さAに対する前記外形線OL1の長さBの割合(B/A)を種々変更したスパークプラグのサンプルを作製し、各サンプルについて気流解析試験を行った。気流解析試験の概要は次の通りである。すなわち、空気の流速を20m/s内とした管内に、接地電極が風上側(上流側)に位置する状態(接地電極の背面に風が当たる状態)で、サンプルの先端部を配置した。その上で、火花放電間隙における気流を解析し、流れが一定でない気流(乱れ)や火花放電間隙側から接地電極側に向けた気流(逆流)が生じているか否かを確認した。表2に、当該試験の試験結果を示す。尚、表2において「○」とあるのは、乱れや逆流が生じておらず、接地電極から火花放電間隙側に向けた気流が生じていたことを示す。また、各サンプルともに、ねじ部のねじ径をM10とした。
Figure 0005331190
表2に示すように、B/Aを1.43以上1.91以下としたサンプルは、接地電極の背面に風(混合気)が当たるような状態であっても、火花放電間隙において乱れや逆流が生じることなく、一層優れた着火性を有することが分かった。
上記試験の結果より、接地電極の背面に混合気が当たるような状態においても、火花放電間隙において乱れや逆流が生じさせることなく、着火性を一層向上させるという点では、1.43≦B/A≦1.91を満たすように構成することが好ましいといえる。
次いで、接地電極の外周形状を変更することで、前記範囲RA内における前記外形線OL3の長さCを種々変更したスパークプラグのサンプルを作製し、各サンプルについて机上火花耐久試験を行った。机上火花耐久試験の概要は次の通りである。すなわち、所定のチャンバーにサンプルを取付けた上で、チャンバー内を大気雰囲気とするとともに、チャンバー内の圧力を0.4MPaに設定した。その上で、印加電圧の周波数を60Hzとした(すなわち、毎分3600回の割合で電圧を印加する)フルトランジスタ式の点火装置により、サンプル(火花放電間隙)に対して電圧を印加し、中心電極を負極とする火花放電を100時間に亘って生じさせた。そして、100時間経過後に、火花放電間隙の大きさをピンゲージにより計測し、火花放電間隙の大きさの拡大量(ギャップ増加量)を測定した。図11に、当該試験の結果を示す。尚、各サンプルともに、試験前における火花放電間隙の大きさを0.9mmとし、角度θを30°以下とした。また、中心電極のサイズ及び構成材料を同一とし、火花放電に伴う中心電極の消耗量が一定となる(すなわち、ギャップ増加量の差異は、接地電極の消耗のみに基づいて生じる)ように構成した。
図11に示すように、長さCを1.35mm以上としたサンプルは、角度θが30°以下とされ、火花放電間隙の急激な拡大が懸念される場合においても、ギャップ増加量を著しく小さくできることが明らかとなった。これは、接地電極のうち火花放電間隙に対応する面(放電面)の幅が十分に大きなものとされたことで、放電面の幅が小さいものと比較して、火花放電間隙が拡大しにくくなったこと、及び、火花放電間隙が拡大しにくくなったことで、放電電圧の増大が抑制されたことに起因すると考えられる。
上記試験の結果より、火花放電に伴う接地電極の消耗による、火花放電間隙の急激な拡大を防止し、良好な耐久性を実現するためには、前記長さCを1.35mm以上とすることが好ましいといえる。
次に、軸線方向先端側から見たときにおいて、中心電極のうち接地電極の基端部から最も離間する部位を基準とし、接地電極の中心軸に沿って前記基準から接地電極の基端側をプラス側として、前記中心軸に沿った前記基準から接地電極の先端までの距離Eを種々変更したスパークプラグのサンプルを作製し、各サンプルについて限界空燃比確認試験を行った。限界空燃比確認試験の概要は次の通りである。すなわち、各サンプルを所定のエンジンに取付けた上で、当該エンジンを動作させつつ、空燃比を徐々に増大(燃料を薄く)させていき、各空燃比ごとにエンジントルクの変動率を測定した。そして、エンジントルクの変動率が5%を上回ったときの空燃比を限界空燃比として特定した。図12に、当該試験の結果を示す。尚、限界空燃比が大きいほど、着火性に優れることを意味する。また、距離Eがプラスとあるのは、軸線方向先端側から見たときに、接地電極の先端が、中心電極の先端面のうち接地電極の基端部から最も離間する部位よりも接地電極の基端部側に位置する(つまり、軸線方向先端側から見たときに、中心電極先端面の少なくとも一部が視認可能となっている)ことを意味する。
図12に示すように、距離Eをプラスとしたサンプルは、着火性に優れることが分かった。これは、接地電極の先端部による火炎核の成長阻害が抑制されたためであると考えられる。
上記試験の結果より、着火性の更なる向上を図るべく、軸線方向先端側から見たとき、接地電極の先端が、中心電極の先端面のうち接地電極の基端部から最も離間する部位よりも接地電極の基端部側に位置するように構成することが好ましいといえる。
次いで、接地電極を構成する金属材料のNi含有量(質量%)を種々変更したスパークプラグのサンプルを作製し、各サンプルについて上述の机上火花耐久試験を行った。図13に、当該試験の結果を示す。尚、各サンプルともに、前記距離Eを+0.3mmとした。また、中心電極のサイズ及び構成材料を同一とし、火花放電に伴う中心電極の消耗量が一定となる(すなわち、ギャップ増加量の差異は、接地電極の消耗のみに基づいて生じる)ように構成した。
図13に示すように、Ni含有量を95質量%以上としたサンプルは、ギャップ増加量が顕著に小さくなり、接地電極の耐消耗性に優れることが確認された。
上記試験の結果より、接地電極における耐消耗性を向上させ、一層優れた耐久性を実現するためには、Niを95質量%以上含有する金属により接地電極を形成することが好ましいといえる。
尚、上記実施形態の記載内容に限定されず、例えば次のように実施してもよい。勿論、以下において例示しない他の応用例、変更例も当然可能である。
(a)上記実施形態において、火花放電間隙28を通り軸線CL1と直交する断面において、接地電極27の外形線OL1は、接地電極27の重心GPから離間する側に向けて凸の湾曲線とされているが、前記外形線OL1は、複数の線分、前記重心GPから離間する側に向けて凸の湾曲線、又は、1つ以上の線分及び前記湾曲線により形成されていればよい。従って、図14(a),(b)に示すように、両接点P1,P2間に位置し中心電極5とは反対側に位置する外形線OL1が複数の線分により形成されるように接地電極31,32を構成してもよい。また、図15に示すように、外形線OL1が、線分と重心GPから離間する側に向けて凸の湾曲線との双方により形成されるように接地電極33を構成してもよい。さらに、図16に示すように、外形線OL1が、重心GPから離間する側に向けて凸とされた複数の湾曲線により形成されるように接地電極34を構成してもよい。
(b)上記実施形態では、中心電極5と接地電極27との間に火花放電間隙28が形成されているが、中心電極5の先端部に、貴金属(例えば、白金やイリジウム等)を含む金属からなるチップを設け、当該チップと接地電極27との間に火花放電間隙28を形成してもよい。
(c)上記実施形態では、主体金具3の先端部26に、接地電極27が接合される場合について具体化しているが、主体金具の一部(又は、主体金具に予め溶接してある先端金具の一部)を削り出すようにして接地電極を形成する場合についても適用可能である(例えば、特開2006−236906号公報等)。
(d)上記実施形態では、工具係合部19は断面六角形状とされているが、工具係合部19の形状に関しては、このような形状に限定されるものではない。例えば、Bi−HEX(変形12角)形状〔ISO22977:2005(E)〕等とされていてもよい。
1…スパークプラグ
2…絶縁碍子(絶縁体)
3…主体金具
4…軸孔
5…中心電極
15…ねじ部
27…接地電極
27B…屈曲部
28…火花放電間隙(間隙)
CL1…軸線
CL2…(接地電極の)中心軸
CP…中心
GP…重心
P1,P2,P3,P4…接点
TL1,Tl2,TL3,TL4,TL5,TL6…接線

Claims (7)

  1. 軸線方向に延びる軸孔を有する筒状の絶縁体と、
    前記軸孔に挿設された中心電極と、
    前記絶縁体の外周に設けられた筒状の主体金具と、
    自身の基端部が前記主体金具に固定されるとともに、屈曲部にて前記中心電極側へと曲げられ、自身の先端部が前記中心電極との間で間隙を形成する接地電極とを備え、
    前記主体金具の先端側外周には、取付用のねじ部が形成されており、
    前記ねじ部のねじ径がM10以下とされたスパークプラグであって、
    前記接地電極の基端部における前記軸線と直交する断面において、前記軸線から前記接地電極の外形線に引いた2本の接線により形成された角のうち前記接地電極側に位置する角の角度が30°以下とされ、
    前記屈曲部のうち前記接地電極の先端に最も接近する部位における前記接地電極の中心軸と直交する断面において、前記接地電極の重心は、前記接地電極の厚さの1/2の位置よりも前記接地電極の前記中心電極側の面側に位置しており、前記接地電極の厚さ方向における中心と前記重心との間の前記厚さ方向に沿った距離が、前記接地電極の厚さの4%以上とされることを特徴とするスパークプラグ。
  2. 前記屈曲部の任意の部位における前記接地電極の中心軸と直交する断面において、前記接地電極の重心は、前記接地電極の厚さの1/2の位置よりも前記接地電極の前記中心電極側の面側に位置しており、前記接地電極の厚さ方向における中心と前記重心との間の前記厚さ方向に沿った距離が、前記接地電極の厚さの4%以上とされることを特徴とする請求項1に記載のスパークプラグ。
  3. 前記断面において、前記接地電極のうち前記重心よりも前記中心電極側に位置する部位の硬度が、前記接地電極のうち前記重心よりも前記中心電極とは反対側に位置する部位の硬度よりも大きいことを特徴とする請求項1又は2に記載のスパークプラグ。
  4. 前記間隙は、前記接地電極の前記中心電極側の面と前記中心電極の先端面との間に形成されており、
    前記間隙を通り前記軸線と直交する断面において、前記軸線から前記接地電極の外形線に接する2本の接線を引き、前記接地電極の外形線上に2つの接点をとったとき、当該両接点間に位置し前記中心電極とは反対側に位置する前記外形線が、複数の線分、前記接地電極の重心から離間する側に向けて凸の湾曲線、又は、1つ以上の線分及び前記湾曲線により形成されており、
    前記両接点間に位置し前記中心電極側に位置する前記外形線の長さをA(mm)とし、前記両接点間に位置し前記中心電極とは反対側に位置する前記外形線の長さをB(mm)としたとき、1.43≦B/A≦1.91を満たすことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のスパークプラグ。
  5. 前記間隙は、前記接地電極の前記中心電極側の面と前記中心電極の先端面との間に形成されており、
    前記接地電極のうち前記間隙を形成する部位に対応する前記接地電極の中心軸方向に沿った範囲内における、前記接地電極の中心軸と直交する断面において、前記中心電極の先端面の外形線中心から前記接地電極の外形線に接する2本の接線を引き、前記接地電極の外形線上に2つの接点をとったとき、当該両接点間に位置し前記中心電極側に位置する前記外形線の長さが、1.35mm以上とされることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のスパークプラグ。
  6. 前記間隙は、前記接地電極の前記中心電極側の面と前記中心電極の先端面との間に形成されており、
    前記軸線方向先端側から見たとき、前記接地電極の先端が、前記中心電極の先端面のうち前記接地電極の基端部から最も離間する部位よりも前記接地電極の基端部側に位置することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のスパークプラグ。
  7. 前記接地電極は、ニッケルを95質量%以上含有する金属により形成されることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載のスパークプラグ。
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