JP5318936B2 - 偏光フィルムの製造方法 - Google Patents

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本発明は、偏光板の製造原料として有用な、耐熱性が良好で色相の変化の少ない偏光フィルムの製造方法に関する。
光の透過および遮蔽機能を有する偏光板は、光のスイッチング機能を有する液晶とともに、液晶ディスプレイ(LCD)の基本的な構成要素である。このLCDの適用分野も、開発初期の頃の電卓および腕時計などの小型機器から、近年では、ラップトップパソコン、ワープロ、液晶カラープロジェクター、車載用ナビゲーションシステム、液晶テレビ、パーソナルホンおよび屋内外で用いられる計測機器などへと広範囲の広がりをみせており、従来品以上に耐久性に優れた偏光板が求められるようになってきている。
偏光板は、一般にポリビニルアルコールフィルム(以下、ポリビニルアルコールを「PVA」、ポリビニルアルコール系フィルムを「PVAフィルム」と略記することがある)を一軸延伸させ、ヨウ素や二色性染料を用いて染色するか、または染色して一軸延伸させた後、ホウ素化合物で固定処理を行うことにより(場合によっては、染色、延伸および固定処理のうちの2つの操作が同時に行われることがある)得られた偏光フィルムに、三酢酸セルロース(TAC)フィルムや酢酸・酪酸セルロース(CAB)フィルムなどの保護膜を貼り合わせた構成となっている。
この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては特許文献1〜4がある。
特開平1−105204号公報 特開平3−175404号公報 特開平3−288803号公報 特開平5−100115号公報
近年、液晶ディスプレイの用途が車載用ナビゲーションシステムや携帯電話など、屋外における使用にまで広がってきたことに伴い、以前にも増して耐久性向上の要求が高まっており、耐熱性に優れていることに加えて、色相の変化が小さい偏光フィルムが求められている。車内などでは高温に晒される機会が多く、液晶ディスプレイをこのような高温の環境下に長時間置いていると、コントラストが低下したり、白表示が着色したりして、表示品位の低下が起こるという問題があった。それらの原因の一つとして考えられるのが偏光フィルムの色相の変化である。
偏光フィルムの耐熱性を改善する試みはこれまでにも検討されており、特許文献1〜4などにより、耐熱性に優れた偏光フィルムの提案がされているが、色相の変化が小さくて品質の安定した偏光フィルムはこれまで知られていない。
本発明の目的は、耐熱性が良好で、色相の変化が少ない偏光フィルムを提供することにある。
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、偏光フィルムの色相の変化を低減させるためには、偏光板の原料として用いられるポリビニルアルコールフィルムのb値を制御することが重要であること、およびポリビニルアルコールフィルムは、従来の液晶ディスプレイが使用されていたような比較的低温では色相に変化を与えないが、100℃を超えるような温度を長時間加えると着色し、偏光フィルムの色相が変化する原因となることを見出した。そして、本発明者らは以上の知見に基づき、b値(A)が2以下のポリビニルアルコールフィルムを用いて偏光フィルムを作製することにより、偏光フィルムの色相の変化を効果的に低減させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、酢酸ナトリウム量が50ppm以下で、かつYI値が8.2以下であるポリビニルアルコールチップを用いて、フィルムの厚みが0.1mmのときのb値(A)が2以下であるポリビニルアルコールフィルムを製造する工程;および、当該ポリビニルアルコールフィルムを用いて、これを染色、一軸延伸および固定処理した後、乾燥処理する工程;を含む、偏光フィルムの製造方法を提供する。
本発明の製造方法により製造される偏光フィルムは、耐熱性が良好で、かつ色相の変化が小さいという優れた特性を有していることから、その特性を活かして、特に高温の環境に置かれることが多い屋外用途の液晶ディスプレイ部品として有効に用いることができる。
本発明において、偏光フィルムは、フィルムの厚みが0.1mmのときのb値(A)が2以下であるポリビニルアルコールフィルムを用いて作製されることが重要であり、b値(A)は1.9以下が好ましく、1.8以下が特に好ましい。b値(A)が2を超えると、ポリビニルアルコールフィルムから作製される偏光フィルムの色相の変化が大きくなり、液晶ディスプレイに用いた際にカラー表示が正常に行えないなど表示品位の低下が大きいため問題となる。本発明においてb値(A)の下限は0である。
本発明において、偏光フィルムの作製に用いられるポリビニルアルコールフィルムは、120℃で100時間加熱後のb値(B)がフィルムの厚みが0.1mmのときに30以下であることが好ましい。b値(B)は25以下であることがさらに好ましく、20以下であることが特に好ましい。ポリビニルアルコールフィルムを120℃で100時間加熱した時のb値(B)と、偏光フィルムの耐熱性との間には必ずしも相関関係は認められないが、ポリビニルアルコールフィルムを120℃で100時間加熱後のb値(B)が30を超えると、偏光フィルムをクロスニコル状態で観察したときの着色が大きくなり、表示品位の低下の原因となりやすいため好ましくない。本発明においてb値(B)の下限は0である。
本発明において、偏光フィルムは、2枚の偏光フィルムを並行に配置した状態で120℃で100時間加熱後のb値(C)と加熱前のb値(D)との比(C/D)が2.8以下であることが好ましく、2.7以下がさらに好ましい。C/Dが2.8を超えると、偏光フィルムの色相の変化が目視観察において目立ちやすくなる傾向がある。C/Dについて厳密な意味での下限はないが、概ね1.5である。
本発明において用いられるPVAは、例えば、ビニルエステルを重合して得られたポリビニルエステルをけん化することにより製造される。また、PVAの主鎖に不飽和カルボン酸またはその誘導体、不飽和スルホン酸またはその誘導体、炭素数2〜30のα−オレフィンなどを5モル%未満の割合でグラフト共重合した変性PVAや、ビニルエステルと不飽和カルボン酸またはその誘導体、不飽和スルホン酸またはその誘導体、炭素数2〜30のα−オレフィンなどを15モル%未満の割合で共重合した変性ポリビニルエステルをけん化することにより製造される変性PVAや、未変性または変性PVAの水酸基の一部をホルマリン、ブチルアルデヒド、ベンズアルデヒドなどのアルデヒド類で架橋したいわゆるポリビニルアセタール樹脂などを挙げることができる。
前記のビニルエステルとしては、酢酸ビニル、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサティック酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニルなどが例示される。
変性PVAに使用されるコモノマーは、主としてPVAの変性を目的に共重合されるもので、本発明の趣旨を損なわない範囲で使用される。このようなコモノマーとして、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテンなどのオレフィン類;アクリル酸およびその塩;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸i−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸i−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸2−エチルへキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸オクタデシルなどのアクリル酸エステル類;メタクリル酸およびその塩;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸i−プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸i−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸2−エチルへキシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸オクタデシルなどのメタクリル酸エステル類;アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミドプロパンスルホン酸およびその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミンおよびその塩、N−メチロールアクリルアミドおよびその誘導体などのアクリルアミド誘導体;メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、メタクリルアミドプロパンスルホン酸およびその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミンおよびその塩、N−メチロールメタクリルアミドおよびその誘導体などのメタクリルアミド誘導体;N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルピロリドンなどのN−ビニルアミド類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテルなどのビニルエーテル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのニトリル類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデンなどのハロゲン化ビニル類;酢酸アリル、塩化アリルなどのアリル化合物;マレイン酸およびその塩またはそのエステル;イタコン酸およびその塩またはそのエステル;ビニルトリメトキシシランなどのビニルシリル化合物;酢酸イソプロペニルなどを挙げることができる。変性PVAの変性量は15モル%未満であるのが好ましい。
PVAのけん化度は、偏光フィルムの偏光性能および耐久性の点から99.0〜99.99モル%であり、99.9〜99.99モル%がより好ましく、99.95〜99.99モル%が特に好ましい。PVAのけん化度が99.0モル%より低いと、偏光フィルムの耐久性が不十分となる傾向がある。けん化度が99.99モル%を超えると、着色等の問題が発生し、PVAの製造が困難になる。
前記したポリビニルエステルまたは変性ポリビニルエステルをけん化する際に酸化防止剤を添加することは、PVAフィルムの着色を低減させる効果があることから、その使用は推奨される。
前記けん化度とは、けん化によりビニルアルコール単位に変換されうる単位の中で、実際にビニルアルコール単位にけん化されている単位の割合を示したものである。なお、PVAのけん化度は、JIS記載の方法により測定を行った。
PVAの重合度は、偏光フィルムの偏光性能と耐久性の点から1000〜8000であり、2000〜5000が好ましく、2400〜4000が特に好ましい。PVA重合度が1000より小さいと、偏光フィルムの偏光性能や耐久性能が不十分となる傾向がある。重合度が8000より高いと、重合時の生産性が低くなりすぎて工業的に好ましくない。
前記PVAの重合度は、JIS K 6726に準じて測定される。すなわち、PVAを再けん化し、精製した後、30℃の水中で測定した極限粘度から求められる。
PVA中に残存する酢酸ナトリウム量が少ないほど、得られたPVAフィルムの着色の程度が小さく、PVAフィルムのb値が低減する傾向があるため、PVA中の酢酸ナトリウム量は3000ppm以下が好ましく、1000ppm以下がより好ましく、500ppm以下がさらに好ましく、300ppm以下が特に好ましい。また、PVAフィルムの製造時に酸化防止剤などを添加して、PVAフィルムの着色を低減することも好ましい方法の一つである。
PVAチップは、PVAフィルムの製造に供される前に、窒素雰囲気下または真空もしくは減圧状態で乾燥される。PVAチップを酸素の存在下で乾燥すると、PVAチップが着色しやすくなり、PVAフィルムの着色の原因となりやすい。PVAフィルムのb値を低減させる観点から、乾燥後のPVAチップのYI値は13以下であることが好ましく、10以下がさらに好ましい。PVAチップのYI値はPVAチップの粒径などによっても変化するが、YI値が13を超えると、粒径の大きなPVAチップでも着色が認識されやすく、PVAフィルムの着色の原因となりやすい。
以上のPVAを使用してPVAフィルムを製造する方法としては、含水PVAを溶融押出法により製膜する方法の他に、例えば、PVAを溶剤に溶解したPVA溶液を使用して、流延製膜法、湿式製膜法(貧溶媒中への吐出)、ゲル製膜法(PVA水溶液を一旦冷却ゲル化した後、溶媒を抽出除去し、PVAフィルムを得る方法)、およびこれらの組み合わせによる方法などを採用することができる。これらの中でも流延製膜法および溶融押出製膜法が、良好なPVAフィルムが得られることから好ましい。得られたPVAフィルムに対し、必要に応じて乾燥や熱処理を行う。
PVAフィルムを製造する際に使用されるPVAを溶解する溶剤としては、例えば、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリメチロールプロパン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、グリセリン、水などを挙げることができ、これらのうち1種または2種以上を使用することができる。これらのなかでも、ジメチルスルホキシド、水、またはグリセリンと水の混合溶媒が好適に使用される。
PVAフィルムを製造する際に使用されるPVA溶液または含水PVAのPVA濃度は、PVAの重合度によっても変化するが、20〜70重量%が好適であり、25〜60重量%がより好適であり、30〜55重量%がさらに好適であり、35〜50重量%が最も好適である。PVA濃度が70重量%より高いと、PVA溶液または含水PVAの粘度が高くなり過ぎて濾過や脱泡が困難となり、異物や欠点のないフィルムを得ることが困難となる。また、PVA濃度が20重量%より低いと、PVA溶液または含水PVAの粘度が低くなり過ぎるため、目的とする厚みを有するPVAフィルムを製造することが困難となる。また、このPVA溶液または含水PVAには、必要に応じて可塑剤、界面活性剤、二色性染料などを含有させてもよい。
PVAフィルムを製造する際に可塑剤として、多価アルコールを添加することが好ましい。多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジグリセリン、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリメチロールプロパンなどを挙げることができ、これらのうち1種または2種以上を使用することができる。これらの中でも、延伸性の向上効果の点からジグリセリン、エチレングリコールまたはグリセリンが好適に使用される。
多価アルコールの添加量としては、PVA100重量部に対し1〜30重量部が好ましく、3〜25重量部がさらに好ましく、5〜20重量部が最も好ましい。多価アルコールの添加量が1重量部より少ないと、PVAフィルムの染色性や延伸性が低下する場合があり、30重量部より多いと、PVAフィルムが柔軟になり過ぎて、取り扱い性が低下する場合がある。
PVAフィルムを製造する際には、界面活性剤を添加することが好ましい。界面活性剤の種類としては特に限定はないが、アニオン性またはノニオン性の界面活性剤が好ましい。アニオン性界面活性剤としては、例えば、ラウリン酸カリウムなどのカルボン酸型、オクチルサルフェートなどの硫酸エステル型、ドデシルベンゼンスルホネートなどのスルホン酸型のアニオン性界面活性剤が好適である。ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンオレイルエーテルなどのアルキルエーテル型、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルなどのアルキルフェニルエーテル型、ポリオキシエチレンラウレートなどのアルキルエステル型、ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテルなどのアルキルアミン型、ポリオキシエチレンラウリン酸アミドなどのアルキルアミド型、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンエーテルなどのポリプロピレングリコールエーテル型、オレイン酸ジエタノールアミドなどのアルカノールアミド型、ポリオキシアルキレンアリルフェニルエーテルなどのアリルフェニルエーテル型などのノニオン性界面活性剤が好適である。これらの界面活性剤は1種または2種以上を組み合わせて使用することができる。
界面活性剤の添加量としては、PVA100重量部に対して0.01〜1重量部が好ましく、0.02〜0.5重量部がさらに好ましく、0.05〜0.3重量部が最も好ましい。界面活性剤の添加量が0.01重量部より少ないと、界面活性剤を添加したことによる製膜性および剥離性の向上効果が現れにくく、1重量部より多いと、界面活性剤がPVAフィルムの表面に溶出してブロッキングの原因になり、取り扱い性が低下する場合がある。
本発明においてポリビニルアルコールフィルムの厚みは10〜100μmが好ましく、20〜80μmがさらに好ましい。PVAフィルムの厚みが10μmより小さいと、フィルム強度が低すぎて均一な延伸が行いにくく、色斑が発生しやすい。PVAフィルムの厚みが100μmを超えると、PVAフィルムを一軸延伸して偏光フィルムを作製した際に、端部のネックインによる厚み変化が発生し易くなり、色斑が強調されやすいので好ましくない。
PVAフィルムから偏光フィルムを製造するには、例えば、該PVAフィルムを染色、一軸延伸および固定処理の後、乾燥処理し、さらに必要に応じて熱処理を行えばよく、染色、一軸延伸、固定処理の操作の順番に特に制限はない。また、一軸延伸は二回に分けて行い、またはそれ以上の回数に分けて行ってもよい。
PVAフィルムの染色は、同フィルムの一軸延伸前、一軸延伸時または一軸延伸後のいずれの操作段階においても実施が可能である。染色に用いる染料としては、ヨウ素−ヨウ化カリウム;ダイレクトブラック 17、19、154;ダイレクトブラウン 44、106、195、210、223;ダイレクトレッド 2、23、28、31、37、39、79、81、240、242、247;ダイレクトブルー 1、15、22、78、90、98、151、168、202、236、249、270;ダイレクトバイオレット 9、12、51、98;ダイレクトグリーン 1、85;ダイレクトイエロー 8、12、44、86、87;ダイレクトオレンジ 26、39、106、107などの二色性染料が挙げられる。これらの染料は1種または2種以上を組合せて使用することができる。PVAフィルムの染色は、通常、PVAフィルムを染料を含有する溶液中に浸漬させることにより行われるが、PVAに混ぜた状態でPVAフィルムを製膜するなど、その処理条件や処理方法は特に制限されない。
PVAフィルムを一軸延伸するには、PVAフィルムをホウ酸などが添加された温水溶液中(前記した染料を含有する溶液中または後述する固定処理浴中でもよい)で延伸する湿式延伸法、または含水後のPVAフィルムを空気中で延伸する乾熱延伸法を採用することができる。延伸温度については特に限定されないが、PVAフィルムを温水中で延伸する(湿式延伸法)場合は30〜90℃が好適であり、乾熱延伸法により延伸する場合は50〜180℃が好適である。
また、一軸延伸による延伸倍率(一軸延伸を多段で行う場合には、合計の延伸倍率)は、偏光性能の点から4倍以上が好ましく、特に5倍以上が好ましい。延伸倍率について厳密な意味での上限はないが、8倍以下であると均一な延伸が得られやすいので好ましい。延伸後のフィルムの厚さは、3〜75μmが好ましく、5〜50μmがより好ましい。
PVAフィルムへの染料の吸着を強固にすることを目的にして、固定処理が施されることが多い。固定処理に使用する処理浴には、通常、ホウ酸および/またはホウ素化合物が添加される。また、固定処理浴には、必要に応じて、ヨウ素化合物を添加してもよい。
得られた偏光フィルムの乾燥処理に付される。乾燥処理は、30〜150℃の温度範囲で行われるのが好ましく、50〜150℃の温度範囲がより好ましい。
偏光フィルムは、通常、その両面または片面に、光学的に透明で、かつ機械的強度を有した保護膜を貼り合わせて偏光板として使用される。保護膜としては、三酢酸セルロース(TAC)フィルム、酢酸・酪酸セルロース(CAB)フィルム、アクリル系フィルム、ポリエステル系フィルムなどが使用される。また、偏光フィルムと保護膜を貼り合わせるための接着剤としては、PVA系の接着剤やウレタン系の接着剤などを挙げることができるが、中でもPVA系の接着剤が好適である。
以上のようにして得られる偏光板は、アクリル系等の粘着剤を被覆した後、ガラス基板に貼り合わせて液晶ディスプレイ装置の部品として使用される。偏光板をガラス基板に貼り合わせる際に、位相差フィルム、視野角向上フィルム、輝度向上フィルム等を同時に貼り合わせてもよい。
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。なお、実施例、参考例および比較例において、PVAチップのYI値の測定、ならびにPVAフィルムおよび偏光フィルムのb値の測定は以下の方法により行った。
PVAチップのYI値の測定
日本電色工業株式会社製の測色色差計ZE−2000を用い、JIS Z−8722に準拠して測定した。PVAチップをガラスセルに詰めて積分球の外に置き、反射法にて測定した。
PVAフィルムおよび偏光フィルムのb値の測定
島津製作所製の分光光度計UV−2200(積分球付属)を用い、日本電子機械工業会規格(EIAJ)LD−201−1983に準拠して、C光源、2度視野にて透過法で測定・計算してL、a、bの各値を求めた。PVAフィルムのb値の測定には厚みが0.1mmのフィルムを用い、フィルムの厚みが0.1mmに満たない場合は、複数枚数のフィルムを重ねることで0.1mm相当の厚さにして測定を行った。
実施例1
けん化度99.95モル%、重合度2400、酢酸ナトリウム含量50ppm、YI値8.2のPVAチップ100重量部に、グリセリン10重量部および水170重量部を含浸させたものを溶融混練し、脱泡後、Tダイから金属ロールに溶融押出して製膜し、乾燥および熱処理を施すことにより、厚さ70μmのPVAフィルムを得た。PVAフィルムのb値(A)は1.8であった。このフィルムを120℃で100時間加熱したところ、フィルムのb値(B)は14.2であった。
前記PVAフィルムを予備膨潤、染色、一軸延伸、固定処理、乾燥、熱処理の順番で連続的に処理して、偏光フィルムを作製した。すなわち、前記PVAフィルムを30℃の水中に30秒間浸して予備膨潤し、ヨウ素濃度0.4g/リットル、ヨウ化カリウム濃度40g/リットルの35℃の水溶液中に3分間浸した。続いて、ホウ酸濃度4%の50℃の水溶液中で5倍に一軸延伸を行い、ヨウ化カリウム濃度40g/リットル、ホウ酸濃度40g/リットル、塩化亜鉛濃度10g/リットルの30℃の水溶液中に5分間浸漬して固定処理を行った。その後、PVAフィルムを取り出し、定長下、40℃で熱風乾燥し、さらに100℃で5分間熱処理を行った。
得られた偏光フィルムのL、a、bは、2枚のパラレルニコル状態でL=94.3、a=−6.3、b=2.6であり、クロスニコル状態でL=5.6、a=0.08、b=−0.86であった。この偏光フィルムを120℃で100時間加熱したところ、偏光フィルムのL、a、bは、2枚のパラレルニコル状態でL=93.3、a=−1.8、b=6.8であり、クロスニコル状態でL=22.8、a=19.5、b=14.9であった。このとき、b値(C)は6.8、b値(D)は2.6であるので、C/Dは2.6であった。この偏光フィルムは耐熱試験前後での色相の変化が小さく、耐熱性が要求されるLCD用偏光フィルムとして適している。
参考例1
けん化度99.95モル%、重合度2400、酢酸ナトリウム含量150ppm、YI値12.9のPVAチップ100重量部に、グリセリン10重量部および水170重量部を含浸させたものを溶融混練し、脱泡後、Tダイから金属ロールに溶融押出して製膜し、乾燥および熱処理を施すことにより、厚さ70μmのPVAフィルムを得た。PVAフィルムのb値(A)は1.9であった。このフィルムを120℃で100時間加熱したところ、フィルムのb値(B)は22.5であった。
前記PVAフィルムを予備膨潤、染色、一軸延伸、固定処理、乾燥、熱処理の順番で連続的に処理して、偏光フィルムを作製した。すなわち、前記PVAフィルムを30℃の水中に30秒間浸して予備膨潤し、ヨウ素濃度0.4g/リットル、ヨウ化カリウム濃度40g/リットルの35℃の水溶液中に3分間浸した。続いて、ホウ酸濃度4%の50℃の水溶液中で5倍に一軸延伸を行い、ヨウ化カリウム濃度40g/リットル、ホウ酸濃度40g/リットル、塩化亜鉛濃度10g/リットルの30℃の水溶液中に5分間浸漬して固定処理を行った。この後、PVAフィルムを取り出し、定長下、40℃で熱風乾燥し、さらに100℃で5分間熱処理を行った。
得られた偏光フィルムのL、a、bは、2枚のパラレルニコル状態でL=95.1、a=−0.55、b=2.0であり、クロスニコル状態でL=7.3、a=−0.35、b=−2.0であった。この偏光フィルムを120℃で100時間加熱したところ、偏光フィルムのL、a、bは、2枚のパラレルニコル状態でL=93.8、a=−1.5、b=5.6であり、クロスニコル状態でL=26.3、a=17.9、b=16.7であった。このとき、b値(C)は5.6、b値(D)は2.0であるので、C/Dは2.8であった。この偏光フィルムは色相の変化が小さく、耐熱性が要求されるLCD用偏光フィルムとして適している。
参考例2
けん化度99.95モル%、重合度2400、酢酸ナトリウム含量250ppm、YI値18.2のPVAチップ100重量部に、グリセリン10重量部および水170重量部を含浸させたものを溶融混練し、脱泡後、Tダイから金属ロールに溶融押出して製膜し、乾燥および熱処理を施すことにより、厚さ70μmのPVAフィルムを得た。PVAフィルムのb値(A)は1.7であった。このフィルムを120℃で100時間加熱したところ、フィルムのb値(B)は29.2であった。
前記PVAフィルムを予備膨潤、染色、一軸延伸、固定処理、乾燥、熱処理の順番で連続的に処理して、偏光フィルムを作製した。すなわち、前記PVAフィルムを30℃の水中に30秒間浸して予備膨潤し、ヨウ素濃度0.4g/リットル、ヨウ化カリウム濃度40g/リットルの35℃の水溶液中に3分間浸した。続いて、ホウ酸濃度4%の50℃の水溶液中で5倍に一軸延伸を行い、ヨウ化カリウム濃度40g/リットル、ホウ酸濃度40g/リットル、塩化亜鉛濃度10g/リットルの30℃の水溶液中に5分間浸漬して固定処理を行った。その後、PVAフィルムを取り出し、定長下、40℃で熱風乾燥し、さらに100℃で5分間熱処理を行った。
得られた偏光フィルムのL、a、bは、2枚のパラレルニコル状態でL=95.9、a=−0.41、b=1.5であり、クロスニコル状態でL=16.6、a=−0.83、b=−1.6であった。この偏光フィルムを120℃で100時間加熱したところ、偏光フィルムのL、a、bは、2枚のパラレルニコル状態でL=94.8、a=−1.1、b=4.2であり、クロスニコル状態でL=41.0、a=14.3、b=22.6であった。このとき、b値(C)は4.2、b値(D)は1.5であるので、C/Dは2.8であった。この偏光フィルムは色相の変化が小さく、耐熱性が要求されるLCD用偏光フィルムとして適している。
比較例1
けん化度99.95モル%、重合度2400、酢酸ナトリウム含量3500ppm、YI値10.0のPVAチップ100重量部に、グリセリン10重量部および水170重量部を含浸させたものを溶融混練し、脱泡後、Tダイから金属ロールに溶融押出して製膜し、乾燥および熱処理を施すことにより、厚さ70μmのPVAフィルムを得た。PVAフィルムのb値(A)は3.2であった。このフィルムを120℃で100時間加熱したところ、フィルムのb値(B)は33.3であった。
前記PVAフィルムを予備膨潤、染色、一軸延伸、固定処理、乾燥、熱処理の順番で連続的に処理して、偏光フィルムを作製した。すなわち、前記PVAフィルムを30℃の水中に30秒間浸して予備膨潤し、ヨウ素濃度0.4g/リットル、ヨウ化カリウム濃度40g/リットルの35℃の水溶液中に3分間浸した。続いて、ホウ酸濃度4%の50℃の水溶液中で5倍に一軸延伸を行い、ヨウ化カリウム濃度40g/リットル、ホウ酸濃度40g/リットル、塩化亜鉛濃度10g/リットルの30℃の水溶液中に5分間浸漬して固定処理を行った。その後、PVAフィルムを取り出し、定長下、40℃で熱風乾燥し、さらに100℃で5分間熱処理を行った。
得られた偏光フィルムのL、a、bは、2枚のパラレルニコル状態でL=92.9、a=−1.2、b=4.3であり、クロスニコル状態でL=3.1、a=−0.02、b=0.13であった。この偏光フィルムを120℃で100時間加熱したところ、偏光フィルムのL、a、bは、2枚のパラレルニコル状態でL=92.5、a=−3.5、b=12.5であり、クロスニコル状態でL=5.9、a=11.0、b=3.6であった。このときb値(C)は12.5、b値(D)は4.3であるので、C/Dは2.9であった。この偏光フィルムは色相の変化が大きく、耐熱性が要求されるLCD用偏光フィルムとして不適である。
比較例2
けん化度99.95モル%、重合度2400、酢酸ナトリウム含量4000ppm、YI値13.6のPVAチップ100重量部に、グリセリン10重量部および水170重量部を含浸させたものを溶融混練し、脱泡後、Tダイから金属ロールに溶融押出して製膜し、乾燥および熱処理を施すことにより、厚さ70μmのPVAフィルムを得た。PVAフィルムのb値(A)は2.2であった。このフィルムを120℃で100時間加熱したところ、フィルムのb値(B)は33.7であった。
前記PVAフィルムを予備膨潤、染色、一軸延伸、固定処理、乾燥、熱処理の順番で連続的に処理して、偏光フィルムを作製した。すなわち、前記PVAフィルムを30℃の水中に30秒間浸して予備膨潤し、ヨウ素濃度0.4g/リットル、ヨウ化カリウム濃度40g/リットルの35℃の水溶液中に3分間浸した。続いて、ホウ酸濃度4%の50℃の水溶液中で5倍に一軸延伸を行い、ヨウ化カリウム濃度40g/リットル、ホウ酸濃度40g/リットル、塩化亜鉛濃度10g/リットルの30℃の水溶液中に5分間浸漬して固定処理を行った。その後、PVAフィルムを取り出し、定長下、40℃で熱風乾燥し、さらに100℃で5分間熱処理を行った。
得られた偏光フィルムのL、a、bは、2枚のパラレルニコル状態でL=95.1、a=−0.52、b=1.9であり、クロスニコル状態でL=6.1、a=−0.15、b=−2.5であった。この偏光フィルムを120℃で100時間加熱したところ、偏光フィルムのL、a、bは、2枚のパラレルニコル状態でL=93.6、a=−1.6、b=5.7であり、クロスニコル状態でL=25.3、a=16.2、b=13.3であった。このとき、b値(C)は5.7、b値(D)は1.9であるので、C/Dは3.0であった。この偏光フィルムは色相の変化が大きく、耐熱性が要求されるLCD用偏光フィルムとして不適である。

Claims (2)

  1. 酢酸ナトリウム量が50ppm以下で、かつYI値が8.2以下であるポリビニルアルコールチップを用いて、フィルムの厚みが0.1mmのときのb値(A)が2以下であるポリビニルアルコールフィルムを製造する工程;および、当該ポリビニルアルコールフィルムを用いて、これを染色、一軸延伸および固定処理した後、乾燥処理する工程;を含む、偏光フィルムの製造方法。
  2. 前記ポリビニルアルコールフィルムを120℃で100時間加熱後のb値(B)が、フィルムの厚みが0.1mmのときに30以下である、請求項1記載の製造方法
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