「しみ汚れ」現象[斑点状に外観ムラ(色調の差)が生じる現象]は、これまでのクロメート処理鋼板では認識されていなかったものであり、本発明者の実験により、特に、クロメートフリー樹脂皮膜中にNaを含有する電気Znめっき鋼板を高温多湿環境下に長時間(おおむね、約504時間程度)曝すことによって観察されることが判明したものである。Naは、主に、クロメートフリー樹脂皮膜の強度を高めて耐アブレージョン性(耐疵付き性)の向上を図る目的で添加されており(詳細は後述する)、Naを含有するノンクロメート樹脂皮膜は、ノンクロメート処理鋼板の分野で汎用されるようになっている。
そこで、本発明者は、ノンクロメート電気Znめっき鋼板を高温多湿環境下に極めて長期間保存すると生じる「しみ汚れ」の外観ムラを防止できる(目立たなくする)技術を提供するため、特に、原料となるZn中に不可避的に存在する不純物元素や、電気Znめっきの際に陽極材料などの溶出に起因して電気Znめっき層中に不可避的に導入される不純物元素に着目し、検討を重ねてきた。
その結果、めっき層中に含まれる不純物元素のうち、特に、(A)PbおよびTlを所定レベルまで抑制すれば、耐しみ汚れ性が改善されること、更に、(B)Ni、Fe、Cr、Mo、Sn、Cu、Cd、Ag、Si、Co、In、Ir、およびWよりなる群から選択される少なくとも一種の元素(以下、「耐しみ汚れ性改善元素」と総称する場合がある。)の含有量を所定範囲内に制御すれば、耐しみ汚れ性が一層改善されることを見出し、本発明を完成した。上記(A)のうち、Tlは、本発明者で対象とするノンクロメート用電気Znめっき鋼板の分野において、これまで、全く着目されていなかった元素であり、本発明者がZnめっき原料中に含まれ得る種々の不可避不純物を、通常の検出限界レベルを超えて綿密に検討したところ、Pbと同様、耐しみ汚れ性改善に当たって制御(抑制)すべき元素であることを初めて見出した次第である。
以下に詳述するように、上記(A)で規定するPbおよびTlは、耐しみ汚れ性の向上に悪影響を及ぼす元素(耐しみ汚れ性との関係で言えば弊害元素であり、上記(B)の耐しみ汚れ性改善元素に対して耐しみ汚れ性悪化元素と呼ぶことができる。)であり、これらの元素を両方とも所定範囲以下に抑制しないと所望の特性が得られない。これらの元素は少ない程良く、究極的には、0ppmとすることが最も好ましい。これに対し、本発明における選択成分である上記(B)の耐しみ汚れ性改善元素は、いずれも、所定量以上に添加することによって耐しみ汚れ性の更なる向上に寄与する元素(耐しみ汚れ性の関係で言えば有用元素)であり、前述した(A)のPbおよびTlとは、添加効果が相違している。
なお、本発明のような耐しみ汚れ性改善技術ではないが、前述した特許文献1〜特許文献6には、電気Znめっき層中の所定の元素の含有量を制御することによって耐白錆性の改善を図る方法が提案されている。しかしながら、これらの特許文献を精査しても、Tlに関する記載は一切ない。Tlを本発明のレベルまで制御しないと所望の耐しみ汚れ性が得られないことは、後記する実施例に記載したとおりである。また、上記特許文献のなかには、電気Znめっき層中のPbを制御した例もあるが、Pbのみを本発明の範囲内に抑制するだけでは不充分であり、PbとTlの両方を本発明の範囲内に制御しないと所望の耐しみ汚れ性が得られないことは、後記する実施例に記載したとおりである。
また、本発明で規定する耐しみ汚れ性改善元素(選択成分)に関し、例えば、上記特許文献1〜4には、本発明に用いられる耐しみ汚れ性改善元素であって、含有量の一部が重複する元素がいくつか開示されている。具体的には、白錆などの外観ムラを防止するため、特許文献1〜特許文献3には、めっき浴中にZnよりも貴な元素(Ni,In,Cu,Ag,Co)を添加する方法が開示されており、特許文献4には、Znが溶解するアルカリ域で難溶性の水酸化物を形成する元素(Fe,Co,Ni,Mn,Mg,Al,Ce,In)や、中性域で安定であり腐食環境でも安定に存在できる元素(Si,Ti,V,Mo,Zr)をめっき浴中に添加する方法が開示されている。
しかしながら、両者が対象とする外観ムラは、以下に述べるように、これらの発生原因が相違しており、発生機序(メカニズム)も相違しているのではないかと推察される。
すなわち、本発明で対象とする「しみ汚れ」の外観ムラは、ノンクロメート電気Znめっき鋼板を高温高湿下に極めて長期間曝すことによって初めて生じるものであり、塩水雰囲気下で発生する白錆や、高温高湿下に短時間曝すことによって発生する黒変の外観ムラとは、発生メカニズムが相違すると考えられる。また、上記の「しみ汚れ」は、ノンクロメート化成処理皮膜中にNaを含有する場合に初めて見られる現象である点においても、白錆や黒変の外観ムラとは、発生メカニズムが異なると考えられる。これらの特許文献を精査しても、Na含有ノンクロメート皮膜を用いたことは全く記載されていない。
また、後記する実施例に示すように、本願発明に用いられる耐しみ汚れ性改善元素の種類および含有量は、前述した特許文献において、現実に効果が確認された耐白錆性向上元素の種類および含有量と異なるものもあり、上記特許文献に記載の方法を、そのまま、耐しみ汚れ性改善技術に適用することが困難であることも分かった。
ノンクロメート皮膜中に含まれるNaによってしみ汚れが生成するメカニズムは、詳細には不明であるが、以下のように推察される。ノンクロ皮膜中にNaを含有する電気Znめっき鋼板を高温多湿環境の湿潤雰囲気下におくと、まず、皮膜表面に水が結露する。この結露部に皮膜中の可溶性Naが溶出し、Naを含む水分が乾燥すると、皮膜中には、Naが凝集しているNa凝集部分とNaが凝集しないNa非凝集部分とが混在して生じる。Na凝集部分では、Naイオンによって亜鉛の腐食反応が促進されるため、皮膜下にあるZnめっきの表面にZnxO1-xという化学量論組成から外れた不定形酸化物が生成し、めっき表面が黒っぽく(茶褐色)変色する。一方、Na非凝集部分では、上記の変色は生じない。このように、しみ汚れ現象は、Na凝集部分のみが変色するため、皮膜全体として、しみのようなまだら模様になって見えることに起因すると考えられる。
以下、本発明の電気Znめっき鋼板について、詳しく説明する。
本発明の電気Znめっき鋼板は、電気Znめっき層の上に実質的にCrを含有せず、Naを0.05〜5%含有する樹脂皮膜が設けられた電気Znめっき鋼板であって、前記電気Znめっき層に含まれるPbおよびTlは、原子換算で、Pb:5ppm以下およびTl:10ppm以下に抑制されている。後記する実施例に示すように、PbまたはTlのいずれか一方のみを上記範囲内に抑制しても、所望の特性は発揮されず、PbおよびTlの両方を上記範囲内に抑制することに初めて所望の特性が発揮される。PbおよびTlの含有量は少ない程、良く、おおむね、Pb:1.0ppm以下、Tl:1.0ppm以下に抑制することが好ましく、Pb:0.3ppm以下、Tl:0.5ppm以下に抑制することがより好ましい。
上記の電気Znめっき層は、Ni、Fe、Cr、Mo、Sn、Cu、Cd、Ag、Si、Co、In、Ir、およびWよりなる群から選択される少なくとも一種の元素(耐しみ汚れ性改善元素)を、原子換算で、Fe:60〜600ppm、Cr:0.5〜5ppm、Mo:30〜500ppm、Sn:0.6〜20ppm、Cu:8〜3000ppm、Cd:0.0001〜0.02ppm、Ag:1.0〜400ppm、Si:30〜2000ppm、Co:0.0003〜0.3ppm、In:0.1〜30ppm、Ir:0.01〜10ppm、W:0.1〜50ppmの範囲内で含有しることが好ましい。
上記耐しみ汚れ性改善元素の添加により、しみ汚れを効果的に防止し得るメカニズムは不明であるが、上記の元素を所定量含有する電気Znめっき層を設けることにより、Znめっきの結晶形態や表面の酸化物(例えば、Znめっき表面に不可避的に生成する上述の添加元素を含んだZnの水酸化物層など)に影響を及ぼすため、Na凝集部分とNa非凝集部分との色調の差を殆ど無くすことが可能になることが考えられる。その結果、しみ汚れによる外観ムラを解消できる。
上記元素は、いずれも、耐しみ汚れ性改善作用を有しているが、大別すると、(1)Znよりも貴な元素(Ni,Fe,Sn,Cd,Ir,In,Cu,Ag,Co)と、(2)Znよりも貴な元素ではないが酸化物を形成する元素(Cr,Mo,Si,W)とに分けられる。これらの元素は、単独で使用しても良いし、2種以上を併用しても構わない。
上記元素による耐しみ汚れ性改善作用を有効に発揮させるため、電気Znめっき層中に含まれる各元素の含有量を、原子換算で、それぞれ、Niを60ppm以上(好ましくは600ppm以上)、Feを60ppm以上(好ましくは80ppm以上)、Crを0.5ppm以上(好ましくは0.8ppm以上)、Moを30ppm以上(好ましくは100ppm以上)、Snを0.6ppm以上(好ましくは1.5ppm以上)、Cuを8.0ppm以上(好ましくは100ppm以上)、Cdを0.0001ppm以上(好ましくは0.01ppm以上)、Agを1.0ppm以上(好ましくは30ppm以上)、Siを30ppm以上(好ましくは80ppm以上)、Coを0.0003ppm以上(好ましくは0.001ppm以上)、Inを0.1ppm以上(好ましくは1.0ppm以上)、Irを0.01ppm以上(好ましくは0.1ppm以上)、Wを0.1ppm以上(好ましくは1.0ppm以上)とする(後記する実施例を参照)。
ただし、過剰に添加すると、以下の不具合が生じる。まず、FeやSiを過剰に添加すると、耐しみ汚れ性改善作用が低下し、耐食性(特に、耐白錆性)も低下するようになる。一方、FeやSi以外の耐しみ汚れ性改善元素を過剰に添加すると、耐しみ汚れ性は良好であるが、耐白錆性が低下する。耐しみ汚れ性と耐白錆性の両方の特性を満足し、優れた表面外観を得るためには、電気Znめっき層中に含まれる各元素の含有量を、それぞれ、Niを6000ppm以下、Feを600ppm以下、Crを5.0ppm以下、Moを500ppm以下、Snを20ppm以下、Cuを3000ppm以下、Cdを0.02ppm以下、Agを400ppm以下、Siを2000ppm以下、Coを0.3ppm以下、Inを30ppm以下、Irを10ppm以下、Wを50ppm以下とする。
上記元素のなかでも、特に、耐しみ汚れ性向上作用に優れた元素として好ましいのは、Ni、Fe、Cr、Mo、Si、Cu、Co、W、In、Cu、Agであり、より好ましいのは、Ni、Fe、Mo、Cr、Wである。
電気Znめっき層中に含まれる耐しみ汚れ性改善元素の量は、例えば、原子吸光分析法や誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP)又は誘導結合プラズマ質量分析法(ICP−MS)などの方法を用いて分析することができる。詳細な分析方法は、後記する実施例の欄に記載している。なお、分析に当たっては、めっき液中に含まれるZn,Na,S等のマトリックス元素による測定誤差をなくすため、塩酸などを用いてめっき層を希釈してから実施することが好ましい。希釈倍率は、マトリックス元素の濃度や測定対象である耐しみ汚れ性改善元素の添加量などに応じて、適宜適切な範囲に制御すれば良い。後記する実施例では、2倍希釈した塩酸によりめっき層を希釈してから、めっき層中の元素の含有量を分析している。
電気Znめっきの付着量は、めっき層表面に析出するZn単結晶の結晶サイズを考慮すると、おおむね、40g/m2以下であることが好ましく、30g/m2以下であることがより好ましい。なお、その下限は、上記の観点からは特に限定されないが、Znによる犠牲防食作用を考慮すると、おおむね、3g/m2であることが好ましく、10g/m2であることがより好ましい。
電気Znめっき層は、基材である鋼板の所定面に少なくとも設けられていればよく、鋼板の片面のみに設けられていても良いし、両面に設けられていてもよい。
樹脂皮膜(ノンクロメート樹脂皮膜)は、Naを約0.05〜5%(好ましくは、0.1%以上3%以下、より好ましくは1%以下)含有している。Naは、ノンクロメート樹脂皮膜(好ましくは、カルボキシル基含有樹脂およびコロイダルシリカなどのSi系無機化合物を含有する)の強度を向上する目的で、上記のカルボキシル基含有樹脂やコロイダルシリカ中に、通常、添加されている。Naの含有量が0.05%未満の場合、例えば、カルボキシル基含有樹脂中のカルボキシル基とNaとの間でNa架橋が充分生成せず、皮膜の強度が低下し、一方、Naの含有量が5%を超えると、皮膜中に含まれる可溶性Naの量が増加し、耐アブレージョン性が低下する。樹脂皮膜に含まれるNa量は、樹脂皮膜を構成する各成分(樹脂成分、Si系無機化合物、必要に応じて含まれるシランカップリング剤など)の固形分中に占めるNa量の総和で表される。
樹脂皮膜は、Crを実質的に含有していない。ここで、「実質的に含有しない」とは、樹脂皮膜の作製過程で不可避的に混入する程度のCr量は許容し得るという意味である。例えば、本発明では、耐しみ汚れ性改善元素として微量のCrをめっき層中に添加することがあるが、めっき層中のCrが樹脂皮膜中に混入する場合がある。そのほか、例えば、ノンクロ樹脂皮膜に用いられる処理液の調製および塗布の過程で、製造容器、塗布装置などから微量のCr化合物が溶出するような場合、樹脂皮膜中にCrが混入する可能性がある。このような場合であっても、樹脂皮膜中に含まれるCrの量は、おおむね、0.01%以下の範囲内であることが好ましい。
樹脂皮膜は、カルボキシル基含有樹脂の樹脂成分、およびSi系無機化合物(代表的には、コロイダルシリカ)を含有していることが好ましい。これらを含有する樹脂皮膜とすることにより、皮膜の耐食性、耐アルカリ脱脂性、塗装性などが向上する。
カルボキシル基含有樹脂は、カルボキシル基を有していれば特に限定されず、例えば、不飽和カルボン酸等のカルボキシル基を有する単量体を原料の一部または全部として重合により合成されるポリマー、または、官能基反応を利用してカルボン酸変性された樹脂などが挙げられる。
カルボキシル基含有樹脂は、市販品を用いても良く、例えば、ハイテックS3141(東邦化学製)などが挙げられる。
樹脂成分は、前述したカルボキシル基含有樹脂以外の有機樹脂を含んでいてもよい。
Si系無機化合物としては、例えば、ケイ酸塩および/またはシリカが挙げられる。これらは単独で使用しても良いし、2種以上を併用しても良い。
このうち、ケイ酸塩としては、例えば、ケイ酸カリウム、ケイ酸リチウムなどが挙げられる。
シリカとしては、代表的には、コロイダルシリカ、鱗片状シリカなどが挙げられる。そのほか、粉砕シリカ、気相法シリカ、シリカゾルやヒュームドシリカなどの乾式シリカなどを用いても良い。
このうち、特に、コロイダルシリカの使用が好ましい。これにより、樹脂皮膜の強度が高められるほか、腐食環境下では皮膜の疵部にシリカが濃化し、Znの腐食が抑制されて耐食性が一層高められる。
コロイダルシリカは、市販品を用いてもよく、例えば、日産化学工業(株)製のスノーテックスシリーズ「ST−40」、「ST−XS」、「ST−N」、「ST−20L」、「ST−UP」、「ST−ZL」、「ST−SS」、「ST−O」、「ST−AK」などが挙げられる。これらは、通常、Naを含有している。
樹脂皮膜を構成する樹脂成分とSi系無機化合物(代表的には、コロイダルシリカ)の質量比率は、おおむね、樹脂成分:Si系無機化合物=5部〜45部:55部〜95部の範囲内であることが好ましい。樹脂成分の含有量が少ないと、耐食性、耐アルカリ脱脂性、塗装性などが低下する傾向にあり、一方、樹脂成分の含有量が多いと、耐アブレージョン性、導電性などが低下するようになる。また、Si系無機化合物の含有量が少ないと、耐アブレージョン性、導電性などが低下する傾向にあり、Si系無機化合物の含有量が多いと、樹脂成分が少なくなるために樹脂皮膜の造膜性が低下し、耐食性が低下するようになる。
樹脂皮膜は、更に、シランカップリング剤を含有しても良い。シランカップリング剤の添加により、前述したカルボキシル基含有樹脂とSi系無機化合物との結合が強固になるため、Naイオンの溶出が少なくなり、耐しみ汚れ性が一層向上するようになる。
シランカップリング剤は、例えば、炭素数1〜5のアルキル基、アリル基、アリール基などの低級アルコキシ基を有するものが好ましい。具体的には、例えば、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシメチルジメトキシシランなどのグリシドキシ基含有シランカップリング剤;γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシランなどのアミノ基含有シランカップリング剤;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シランなどのビニル基含有シランカップリング剤;γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランなどのメタクリロキシ基含有シランカップリング剤;γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシランなどのメルカプト基含有シランカップリング剤;γ−クロロプロピルメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシランなどのハロゲン基含有シランカップリング剤などが挙げられる。これらのシランカップリング剤は、単独で用いも良いし、2種以上を併用してもよい。
上記のうち、グリシドキシ基含有シランカップリング剤は、特に反応性が高く、耐食性および耐アルカリ性に優れているため、好ましく用いられる。
シランカップリング剤は、市販品を用いても良く、例えば、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン「KBM403」(信越化学社製)などが挙げられる。
シランカップリング剤の含有量は、樹脂成分とSi系無機化合物の合計100質量部に対し、おおむね、5質量部以上25質量部以下の範囲であることが好ましい。シランカップリング剤の含有量が少ないと、耐しみ汚れ性改善作用が有効に発揮されないほか、前述したカルボキシル基含有樹脂とSi系無機化合物との反応性が低下し、耐アブレージョン性、塗装性、耐食性などが低下する。一方、シランカップリング剤の含有量が多いと、樹脂皮膜の作製に用いられる皮膜調製液の安定性が低下し、ゲル化する恐れがある。また、反応に寄与しないシランカップリング剤の量が多くなるため、Znめっき層と樹脂皮膜との密着性が低下する恐れがある。
以下、本発明に用いられる代表的なノンクロメート樹脂皮膜として、以下の樹脂皮膜を用いた場合について説明する。この樹脂皮膜は、本願出願人の出願によって開示されたウレタン樹脂改良皮膜であり、詳細は、特開2006−43913号公報に記載したとおりである(例えば、段落[0020]〜[0071]を参照)。以下に、上記樹脂皮膜の構成および調製方法を簡単に説明するが、本発明に用いられる樹脂皮膜は、これに限定する趣旨ではない。
樹脂皮膜は、以下の樹脂水性液から得られる。樹脂水性液は、カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂水性液とエチレン−不飽和カルボン酸共重合体水性分散液とを不揮発性樹脂成分として5〜45質量部、及び、平均粒子径が4〜20nmのシリカ粒子55〜95質量部を合計で100質量部含有し、前記合計100質量部に対して、さらにシランカップリング剤を5〜25質量部の比率で含有するとともに、前記ポリウレタン樹脂水性液の不揮発性樹脂成分(PU)と前記エチレン−不飽和カルボン酸共重合体水性分散液の不揮発性樹脂成分(EC)との配合比率が質量比でPU:EC=9:1〜2:1である。
まず、カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂水性液について説明する。
カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂水性液としては、カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂が水性媒体中に分散した水性分散液、或いは、前記カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂が水性媒体に溶解した水溶液のいずれも使用することができる。前記水性媒体には、水の他、アルコール、N−メチルピロリドン、アセトンなどの親水性の溶媒が微量含まれていても良い。
前記カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂は、ウレタンプレポリマーを鎖延長剤で鎖延長反応して得られるものであることが好ましく、前記ウレタンプレポリマーは、例えば、後述するポリイソシアネート成分とポリオール成分とを反応させて得られる。
前記ウレタンプレポリマーを構成するポリイソシアネート成分としては、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)およびジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水素添加MDI)よりなる群から選択される少なくとも1種のポリイソシアネートを使用することが好ましい。ここで、ウレタンプレポリマーを構成するポリオール成分としては、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ポリエーテルポリオール、及び、カルボキシル基を有するポリオールの3種類の全てのポリオールを使用し、好ましくは、3種類全てをジオールとする。また、ポリエーテルポリオールは、分子鎖にヒドロキシル基を少なくとも2以上有し、主骨格がアルキレンオキサイド単位によって構成されているものであれば特に限定されず、例えば、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコールなどが挙げられる。
また、上述したウレタンプレポリマーを鎖延長反応する鎖延長剤としては、特に限定されないが、例えば、ポリアミン、低分子量のポリオール、アルカノールアミンなどを挙げることができる。
カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂の水性液の作製は、公知の方法を採用することができ、例えば、カルボキシル基含有ウレタンプレポリマーのカルボキシル基を塩基で中和して、水性媒体中に乳化分散して鎖延長反応させる方法、カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂を乳化剤の存在下で、高せん断力で乳化分散して鎖延長反応させる方法などがある。
次に、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体水性分散液について説明する。
エチレン−不飽和カルボン酸共重合体水性分散液は、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体が水性媒体中に分散した液であれば、特に限定されず、上記エチレン−不飽和カルボン酸共重合体は、エチレンとエチレン性不飽和カルボン酸との共重合体である。不飽和カルボン酸としては、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等が挙げられ、これらのうちの1種以上と、エチレンとを、公知の高温高圧重合法等で重合することにより、共重合体を得ることができる。
上記のエチレン−不飽和カルボン酸共重合体はカルボキシル基を有しており、このカルボキシル基を有機塩基(例えば、沸点100℃以下のアミン)や、Naなどの1価の金属イオンで中和することにより、水性分散液とすることができる。
ここで、1価の金属イオンは、上記のように中和のために用いられるが、耐溶剤性や皮膜硬度の向上に効果的である。1価の金属の化合物としては、ナトリウム、カリウム、リチウムから選ばれる1種または2種以上の金属を含むことが好ましく、これらの金属の水酸化物、炭酸化物または酸化物が好ましい。中でも、NaOH、KOH、LiOH等が好ましく、NaOHが最も性能が良く好ましい。本発明は、このNaOHに由来するしみ汚れ現象を改善するものである。
1価の金属の化合物の量は、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体中のカルボキシル基1モルに対して、0.02〜0.4モル(2〜40モル%)の範囲とすることが好ましい。上記金属化合物量が0.02モルより少ないと乳化安定性が不充分となるが、0.4モルを超えると、得られる樹脂皮膜の吸湿性(特にアルカリ性溶液に対して)が増大し、脱脂工程後の耐食性が劣化するため好ましくない。より好ましい金属化合物量の下限は0.03モル、さらに好ましい下限は0.1モルであり、より好ましい金属化合物量の上限は0.5モル、さらに好ましい上限は0.2モルである。
前述した有機塩基(好ましくは、沸点100℃以下のアミン)と1価の金属化合物の合計量(中和量)が多すぎると、水性分散液の粘度が急激に上昇して固化することがある上に、過剰なアルカリ分は耐食性劣化の原因となるため、揮発させるために多大なエネルギーが必要となるため好ましくない。しかし、中和量が少なすぎると乳化性に劣るため、やはり好ましくない。従って、有機塩基と1価の金属化合物の合計使用量は、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体中のカルボキシル基1モルに対し、0.3〜1.0モルの範囲とすることが好ましい。
上記のエチレン−不飽和カルボン酸共重合体水性分散液は、有機塩基と1価の金属イオンとを併用して乳化することにより、平均粒子径が5〜50nmという極めて小さな微粒子(油滴)状態で水性媒体中に分散したものが得られる。このため、得られる樹脂皮膜の造膜性、金属板への密着性、皮膜の緻密化が達成され、耐食性が向上するものと推定される。上記水性媒体には、水の他に、アルコールやエーテル等の親水性溶媒が含まれていても良い。なお、上記水性分散液の樹脂粒子の粒子径は、例えば光散乱光度計(大塚電子社製等)を用いたレーザー回折法によって測定することができる。
エチレン−不飽和カルボン酸共重合体水性分散液の調製方法としては、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体を水性媒体と共に、例えば、ホモジナイザー装置等に投入し、必要により70〜250℃の加熱下とし、沸点100℃以下のアミンなどの有機塩基と1価の金属の化合物を適宜水溶液等の形態で添加して(沸点100℃以下のアミンを先に添加するか、沸点100℃以下のアミンと1価の金属の化合物とを略同時に添加する)、高剪断力で撹拌する。
次いで、前述した方法によって得られたカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂水性液およびエチレン−不飽和カルボン酸共重合体水性分散液を、シリカ粒子およびシランカップリング剤と所定量配合し、必要に応じて、ワックス、架橋剤などを配合して所望の樹脂水性液を得る。シリカ粒子、シランカップリング剤、ワックス、及び、架橋剤等はいずれの段階で添加してもよいが、架橋剤及びシランカップリング剤添加後は架橋反応が進行してゲル化しないように、熱を掛けないようにすることが望ましい。
以上、本発明に用いられる代表的な樹脂皮膜について説明した。
樹脂皮膜には、上記成分のほか、本発明の作用を損なわない範囲で、通常含まれる成分(例えば、皮張り防止剤、レベリング剤、消泡剤、浸透剤、乳化剤、造膜補助剤、着色顔料、潤滑剤、界面活性剤、導電性を付与するための導電性添加剤、増粘剤、分散剤、乾燥剤、安定剤、防黴剤、防腐剤、凍結防止剤など)を含有してもよい。
樹脂皮膜の厚さは、おおむね、0.1〜2μmの範囲内であることが好ましく、0.2〜1.0μmの範囲内であることがより好ましい。樹脂皮膜の厚さが0.1μmを下回ると耐食性が低下し、一方、2μmを超えると導電性が低下する。
樹脂皮膜の上には、耐食性(特に耐白錆性)や塗装性等の向上を目的として、有機系樹脂皮膜、有機・無機複合皮膜、無機系皮膜、電着塗装膜等の皮膜が設けられていてもよい。
ここで、有機樹脂皮膜としては、例えば、ウレタン系樹脂、エポキシ樹脂、アクリル系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−アクリル酸共重合体等のオレフィン系樹脂、ポリスチレン等のスチレン系樹脂、ポリエステルあるいはこれらの共重合物や変成物等、塗料用として公知の樹脂に、必要に応じてコロイダルシリカや固体潤滑剤、架橋剤等を組み合わせて形成される皮膜などが挙げられる。
また、有機・無機複合皮膜としては、上記有機樹脂と、ケイ酸ナトリウム等の水ガラス形成成分とを組み合わせて形成される皮膜が代表的に挙げられる。
上記の無機系皮膜としては、水ガラス皮膜や、リチウムシリケートから形成される皮膜が代表的に挙げられる。
次に、本発明に係るノンクロメート電気Znめっき鋼板の製造方法について説明する。
まず、母材となる下地鋼板(めっき原板)を用意する。下地鋼板としては、電気Znめっき鋼板に通常用いられるものであれば特に限定されず、例えば、普通鋼板、Alキルド鋼板、高張力鋼板などの種々の鋼板を用いることができる。めっき原板は、電気Znめっきを行なう前に、脱脂や酸洗などの前処理を行なうことが好ましい。
次に、電気Znめっき法により、下地鋼板の上に電気Znめっき層を形成し、電気Znめっき鋼板を製造する。
電気Znめっきに用いられる酸性浴には、所望のめっき層が形成されるように、硫酸や塩酸などの酸性液中のPbおよびTlを、Pb:0.08ppm以下およびTl:0.2ppm以下の範囲まで抑制する。後記する実施例に示すように、PbおよびTlの添加量が上記の上限を超えると、所望の耐しみ汚れ性が発揮されない。PbおよびTlの添加量は少ない程良く、おおむね、Pb:0.05ppm以下、およびTl:0.1ppm以下の範囲に抑制することが好ましく、Pb:0.03ppm以下、およびTl:0.05ppm以下の範囲に抑制することがより好ましい。
また、電気Znめっき層中のPbおよびTlを本発明で規定する範囲内に抑制するためには、上記のように酸性液中のPbおよびTlの添加量を制御することに加えて、原料となるZnや電気Znめっきに用いられる陽極材料などにも留意することが好ましい。具体的には、原料となるZn中のPbおよびTlをそれぞれ、約15ppm以下および約10ppm以下に制御することが好ましい。また、Pb−In−Ag系合金やPb−Sn系合金などのPb合金を陽極材料として使用すると、当該陽極材料の溶出によって電気Znめっき層中のPb量が増加する恐れがあるため、実質的にPbを含まない陽極材料(例えば、酸化イリジウム電極)を用いることが好ましい。
また、電気Znめっきに用いられる酸性浴には、硫酸や塩酸などの酸性液中に、Ni:20〜2000ppm、Fe2+:50〜5000ppm、Fe3+:50〜5000ppm、Cr:5〜2000ppm、Mo:50〜2000ppm、Sn:0.05〜20ppm、Cu:0.05〜50ppm、Cd:0.05〜5ppm、Ag:0.05〜5ppm、Si:20〜2000ppm、Co:0.05〜50ppm、In:0.5〜50ppm、Ir:0.05〜5ppm、およびW:0.5〜50ppmよりなる群から選択される少なくとも一種の元素を添加してもよく、これにより、耐しみ汚れ性が一層向上する。各元素の添加量が上記の下限を下回ると耐しみ汚れ性が有効に発揮されず、一方、各元素の添加量が上記の上限を超えると、耐しみ汚れ性や耐白錆性などの特性が低下するようになる。
各元素の好ましい添加量は、それぞれ、Ni:200ppm以上2000ppm以下、Fe2+:200ppm以上2000ppm以下、Fe3+:500ppm以上2000ppm以下、Cr:50ppm以上2000ppm以下、Mo:200ppm以上2000ppm以下、Sn:0.5ppm以上5ppm以下、Cu:2ppm以上50ppm以下、Cd:0.5ppm以上5ppm以下、Ag:0.5ppm以上5ppm以下、Si:50ppm以上800ppm以下、Co:0.5ppm以上5ppm以下、In:2ppm以上20ppm以下、Ir:0.5ppm以上5ppm以下、W:2ppm以上50ppm以下である。
めっき浴中への上記元素(PbおよびTl、更には、耐しみ汚れ性改善元素)の添加形態は、特に限定されず、各元素の原子換算の添加量が上記範囲を満足する限り、任意の形態をとることができる。例えば、金属粉末や金属箔などの金属状態でめっき液中に添加しても良いし、硫酸塩、塩化物塩、リン酸塩、炭酸塩、酸化物塩などの金属塩の形態で添加しても良い。金属塩の形態で添加する場合、元素の価数は特に限定されず、通常とり得る値を採用することができる。例えば、Crは3価でも6価でも良い。MoやWなどは、4価、6価のいずれでも良い。後記する実施例に示すように、上記の元素は、水和物の形で添加されていても良い。
めっき液中には、上記元素のほか、通常添加される他の成分を添加しても良い。例えば、導電性を高めて電力消費量の低減を図る目的で、Na2SO4、(NH4)2SO4、KCl、NaClなどの導電性補助剤を添加しても良い。
本発明に用いられる上記の電気Znめっき浴は新規であり、本発明の範囲内に包含される。すなわち、(A)Pb:0.08ppm以下およびTl:0.2ppm以下にまで抑制された電気Znめっき浴や、(B)上記(A)において、更に、Pb:0.08ppm以下およびTl:0.2ppm以下に抑制されており、且つ、Ni:20〜2000ppm、Fe2+:50〜5000ppm、Fe3+:50〜5000ppm、Cr:5〜2000ppm、Mo:50〜2000ppm、Sn:0.05〜20ppm、Cu:0.05〜50ppm、Cd:0.05〜5ppm、Ag:0.05〜5ppm、Si:20〜2000ppm、Co:0.05〜50ppm、In:0.5〜50ppm、Ir:0.05〜5ppm、およびW:0.5〜50ppmよりなる群から選択される少なくとも一種の元素を含有する電気Znめっき浴も本発明の範囲内に包含される。
本発明の電気Znめっき浴は、電気Znめっきなどに通常用いられる電気Znめっき浴において、PbおよびTlの添加量が上記のレベルまで抑制されているか、更には、耐しみ汚れ性改善元素の添加量が上記の範囲内に制御されているところに特徴があり、その他のめっき浴中成分は特に限定されない。本発明では、通常、用いられる電気Znめっき浴、例えば、硫酸亜鉛浴(硫酸亜鉛と硫酸を含有する硫酸亜鉛浴、硫酸亜鉛と硫酸ナトリウムと硫酸アンモニウムを含有する硫酸亜鉛浴など)などの酸性Znめっき浴中に、前述した元素を添加することができる。本発明の電気Znめっき浴には、上記元素のほか、電気Znめっき浴中に通常添加される添加成分(例えば、前述した導電性補助剤など)が含まれていてもよい。
具体的には、後記する実施例に記載の電気Znめっき浴のほか、以下の電気Znめっき浴を用いることができる。
(硫酸亜鉛浴・・・その1)
ZnSO4・7H2O 350g/L
H2SO4 30g/L
(硫酸亜鉛浴・・・その2)
ZnSO4・7H2O 350g/L
Na2SO4 70g/L
(NH4)2SO4 30g/L
本発明の製造方法は、めっき液中のPbおよびTlが所定レベルまで抑制されており、、好ましくは、耐しみ汚れ性改善元素が更に所定量添加されためっき液を用いて電気Znめっき層を形成したところに特徴があり、他のめっき条件は、本発明の作用を損なわない範囲で、適宜適切に定められるが、例えば、以下のように制御することが好ましい。
めっき液のpHは、電流効率やめっき焼け現象との関係を考慮し、おおむね、0.5〜4.0の範囲内であることが好ましく、1.0〜2.0の範囲内であることがより好ましい。
めっき液の温度は、おおむね、50〜70℃の範囲内とすることが好ましい。
めっき液の相対流速は、おおむね、0.3〜5m/secの範囲内であることが好ましい。ここで、相対流速とは、めっき液の流れ方向速度と、めっき原板である鋼板の通板方向速度との差を意味する。
電気めっきに用いられる電極(陽極)の種類は、通常用いられるものであれば特に限定されず、例えば、Pb−Sn電極、Pb−In電極、Pb−Ag電極、Pb−In−Ag電極などの鉛系電極のほか、酸化イリジウム電極、亜鉛電極などが挙げられる。
めっきセルは、縦型および横型のいずれのセルを用いることができる。電気Znめっきの方法は、特に限定されず、例えば、定電流めっき法やパルスめっき法などが挙げられる。
上記のようにめっき層を形成した後、以下のようにして樹脂皮膜(ノンクロメート皮膜)を形成する。樹脂皮膜の形成前に、めっき層の表面に、皮膜密着性向上、耐食性改善、外観制御などを目的として、例えば、Co,Ni,Mo,V,りん酸塩、硝酸塩などのアミンなどを用いた公知の前処理を行ってもよい。
具体的には、まず、カルボキシル基含有樹脂の樹脂成分およびSi系無機化合物を所定量含有し、好ましくは、シランカップリング剤を所定量含有するクロメートフリー化成処理液(以下、単に「処理液」と呼ぶ場合がある。)を用意する。処理液は、以下の成分を完全に溶解できる水系溶媒(例えば、塩酸や硝酸溶液など)に溶解・分散させたものである。
処理液中に含まれる樹脂成分とSi系無機化合物の質量比率は、おおむね、樹脂成分:Si系無機化合物=5部〜45部:55部〜95部の範囲内であることが好ましい。カルボキシル基含有樹脂などの樹脂成分の量が少ないと、耐食性、耐アルカリ脱脂性、塗装性などが低下する傾向にあり、一方、樹脂成分の量が多いと、耐アブレージョン性、導電性などが低下するようになる。また、コロイダルシリカの量が少ないと、耐アブレージョン性、導電性などが低下する傾向にあり、コロイダルシリカの量が多いと、樹脂成分が少なくなるために樹脂皮膜の造膜性が低下し、耐食性が低下するようになる。
処理液は、シランカップリング剤を更に含有しても良い。処理液中に含まれるシランカップリング剤の含有量は、後記する実施例に示すように、樹脂成分とSi系無機化合物の合計100質量部に対し、おおむね、5〜25質量部の範囲であることが好ましい。シランカップリング剤の含有量が少ないと、耐しみ汚れ性改善作用が有効に発揮されないほか、カルボキシル基含有樹脂とSi系無機化合物との反応性が低下し、耐アブレージョン性、塗装性、耐食性などが低下する。一方、シランカップリング剤の含有量が多いと、樹脂皮膜の作製に用いられる皮膜調製液の安定性が低下し、ゲル化する恐れがある。また、反応に寄与しないシランカップリング剤の量が多くなるため、Znめっき層と樹脂皮膜との密着性が低下する恐れがある。
処理液には、上記成分のほか、必要に応じて、ワックスや架橋剤などを添加してもよい。更に、処理液には、本発明の作用を損なわない範囲で、通常含まれる成分(例えば、皮張り防止剤、レベリング剤、消泡剤、浸透剤、乳化剤、造膜補助剤、着色顔料、潤滑剤、界面活性剤、導電性を付与するための導電性添加剤、増粘剤、分散剤、乾燥剤、安定剤、防黴剤、防腐剤、凍結防止剤など)を含有してもよい。
上記の成分を含有する処理液は、公知の方法、例えば、ロールコート法、スプレーコート法、カーテンフローコーター法、ナイフコーター法、バーコート法、浸漬コート法、刷毛塗り法などを用いて、金属板の片面または両面に塗布した後、加熱、乾燥すると、所望とする樹脂皮膜を備えた電気Znめっき鋼板が得られる。
加熱・乾燥温度は、使用するカルボキシル基含有樹脂とSi系無機化合物との架橋反応が充分進行する温度(例えば、おおむね、板温90〜100℃)で行なうことが好ましい。また、潤滑剤として、球形のポリエチレンワックスを用いる場合は、球形を維持しておく方が後の加工工程での加工性が良好となるので、約70〜130℃の範囲で乾燥を行うことが望ましい。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例によって制限されず、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適切に改変を行って実施することも可能であり、そのような態様も、本発明の技術的範囲に含まれる。
実施例1
本実施例では、めっき層中に含まれるPbおよびTlが、耐しみ汚れ性、更には耐白錆性に及ぼす影響を検討した。ここでは、前述した特開2004−224454号公報の実施例1に記載の方法と同様にして樹脂皮膜を作製している。
(1) 樹脂水性液の作製
ここでは、カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂水性液、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体水性分散液、シリカ粒子、およびシランカップリング剤を含有する樹脂水性液から樹脂皮膜を作製した。具体的な作製方法は、以下のとおりである。
(1−1) カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂水性液の調製
撹拌機、温度計、温度コントローラを備えた内容量0.8Lの合成装置にポリオール成分として保土ヶ谷化学工業(株)製ポリテトラメチレンエーテルグリコール(平均分子量1000)を60g、1,4−シクロヘキサンジメタノール14g、ジメチロールプロピオン酸20gを仕込み、さらに反応溶媒としてN−メチルピロリドン30.0gを加えた。イソシアネート成分としてトリレンジイソシアネート(以下、単に「TDI」という場合がある)を104g仕込み、80から85℃に昇温し5時間反応させた。得られたプレポリマーのNCO含有量は、8.9%であった。さらにトリエチルアミン16gを加えて中和を行い、エチレンジアミン16gと水480gの混合水溶液を加えて、50℃で4時間乳化し、鎖延長反応させてポリウレタン樹脂水性分散液を得た(不揮発性樹脂成分29.1%、酸価41.4)。
(1−2) エチレン−不飽和カルボン酸共重合体水性分散液の調製
撹拌機、温度計、温度コントローラを備えた内容量0.8Lの乳化設備のオートクレイブに、水626質量部、エチレン−アクリル酸共重合体(アクリル酸20質量%、メルトインデックス(MI)300)160質量部を加え、エチレン−アクリル酸共重合体のカルボキシル基1モルに対して、トリエチルアミンを40モル%、水酸化ナトリウムを15モル%加えて、150℃、5Paの雰囲気下で高速撹拌を行い、40℃に冷却してエチレン−アクリル酸共重合体の水性分散液を得た。続いて、前記水性分散液に架橋剤として、4,4'−ビス(エチレンイミノカルボニルアミノ)ジフェニルメタン(日本触媒製、ケミタイトDZ−22E、「ケミタイト」は登録商標)を、エチレン−アクリル酸共重合体の不揮発性樹脂成分100質量部に対して5質量部の比率になるように添加した。
(1−3) 樹脂水性液の調製
上記で得たカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂水性液、上記エチレン−アクリル酸共重合体水性分散液、コロイダルシリカ(日産化学工業(株)製「ST−XS」、平均粒子径4〜6nm)を5質量部:25質量部:70質量部の配合比率となるように不揮発性成分換算で合計100質量部配合し、この合計100質量部に対して、さらにシランカップリング剤として、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学製「KBM403」)を10質量部添加して樹脂水性液を調製した。
(2) 電気Znめっき鋼板の作製
めっき原板として、常法で作製したAlキルド冷延鋼板を用いた。これを脱脂・酸洗後、めっき面積180mm×300mmの循環型めっき装置にて、硫酸塩浴を用いて、下記の条件で電気めっきを施し、電気Znめっき鋼板を得た。
(めっき液組成)
以下の成分を含有すると共に、表1に記載の元素(Pb/Tl)を硫酸塩の形態で表1に示す範囲で、それぞれ、添加しためっき液を用いた。また、これらの元素を全く添加しないめっき液も用意した。
ZnSO4・7H2O 350g/L
Na2SO4 70g/L
H2SO4 20g/L
他の電気めっき条件は、以下のとおりである。
・電流密度 :100A/dm2
・めっき浴温度:60±5℃
・めっき液流速:1.3m/sec
・電極(陽極):IrOx電極
・めっき付着量:20g/m2
(3) 樹脂皮膜を備えた電気Znめっき鋼板の作製
上記(1)で得られた樹脂水性液を、上記(2)で得られたZnめっき層の上にロール絞り法により塗布(片面塗布)し、実験炉にて、炉温220℃、板温95℃で加熱乾燥し、厚さが0.4μmの樹脂皮膜(ノンクロメート皮膜)を有する電気Znめっき鋼板を得た。
このようにして得られた樹脂皮膜は、樹脂成分、コロイダルシリカ、およびシランカップリング剤を質量比率で、おおむね、樹脂成分:コロイダルシリカ:シランカップリング剤=30部:70部:10部含有している。
また、上記の樹脂皮膜中に含まれるNaを原子吸光光度法(装置:ジャーレルアッシュ社製のSOLARA−M6を使用)によって確認したところ、1.2質量%であった。詳細には、樹脂皮膜を構成する樹脂成分中に含まれるNa含有量は0.55質量%であり、コロイダルシリカ中に含まれるNa含有量は1.7質量%であった。
(4) めっき層中の耐しみ汚れ性改善元素の分析
このようにして得られためっき層中に含まれる耐しみ汚れ性改善元素の量は、以下の方法で分析した。
まず、上記のようにして得られた電気Znめっき鋼板を50×50mmサイズに切断した分析用試料を用意し、これを2倍に希釈した塩酸液中に入れ、Znの溶解反応が終了するまで浸漬し、浸漬液(1)を得た。本実施例では、いったん溶解した耐しみ汚れ性改善元素が、基材である鋼板表面へ置換析出することによる測定誤差をなくすため、Znの溶解反応終了後、直ちに上記の試料を引き上げ、再度、新しく調製した塩酸液(2倍希釈液)に30秒間浸漬し、浸漬液(2)を得た。その後、上記のようにして得られた浸漬液(1)および(2)を併せて定容した後、ICP−MS分析装置(VGI社製PLASMAQUAD型)を用い、PbおよびTl、並びに耐しみ汚れ性改善元素(Cuを除く)の量を分析した。Cuについては、ICP分析装置(島津製作所製ICPV−1000)を用い、分析を行った。なお、本実施例におけるPbおよびTlの検出限界は、Pb:0.1ppm、Tl:0.1ppmであった。
(5) 耐しみ汚れ性の評価
上記のようにして得られた各電気Znめっき鋼板を、温度50℃、相対湿度95%以上の恒温恒湿試験装置内に入れて504時間保管した後、目視で表面の外観を観察し、図1A〜図1Eの「しみ汚れ評価判定用写真見本」(5cm×5cm)に基づき、耐しみ汚れ性を評価した。図1A〜図1Eは、それぞれ、下記の評価基準1〜5に対応している。本実施例では、評価基準が「1」〜「3」を合格、「4」または「5」を不合格と判定した。
(評価基準)
1:しみ汚れが全くない場合 (図1A)
2:しみ汚れが僅かに発生している場合(図1B)
3:しみ汚れが発生している場合 (図1C)
4:しみ汚れが顕著に発生している場合(図1D)
5:しみ汚れが激しく発生している場合(図1E)
ここで、図1B(評価2)と図1C(評価3)を対比すると、図1Cでは、図1Bに比べ、しみのような斑点が明らかに多く生じていることが分かる。また、図1C(評価3)と図1D(評価4)を対比すると、図1Dでは、図1Cに比べて全体に色調が黒くなっているが、これは、Na凝集部分(黒っぽく変色した領域)の黒色化の程度が進行したためと考えられ、その結果、両者のしみ汚れの差は目立たなくなっている。また、図1D(評価4)と図1E(評価5)を対比すると、図1Eでは、図1Dに比べて色調が一層黒くなっているが、これは、Na凝集部分の黒色化の程度が過度に進行したためと考えられる。黒色化の程度は、例えば、ハンターLab表色法によるL値(L軸、a軸、b軸の3つの座標軸からなる色立体を利用し、色を3つの要素に分けて数値で表現/表記する方法によって算出される値)で表される。このように本実施例では、黒色化の程度を含めて耐しみ汚れ性を総合的に評価した。
(6) 耐白錆性の評価
上記のようにして得られた各電気Znめっき鋼板について、JIS Z2371に規定する塩水噴霧試験を実施し、96時間経過後の白錆発生面積率を下記基準で判定し、耐白錆性を評価した。本実施例では、評価基準が「◎」または「○」を合格(本発明例)と判定した。
◎:5%未満
○:5%以上10%未満
△:10%以上50%未満
×:50%以上
これらの結果を、表1に併記する。表1中、「−」は、検出限界(測定限界)以下であったことを意味する。
表1より、以下のように考察することができる。
No.1は、PbおよびTlの両方を添加しないめっき液を用いた例であり、めっき層中のPbおよびTlの両方が本実施例の検出限界以下に抑制された例;No.2〜4は、めっき液中およびめっき層中のPbが本発明の範囲に抑制されており、且つ、めっき層中のTlが本実施例の検出限界以下に抑制された例;No.12〜15は、めっき液中およびめっき層中のTlが本発明の範囲内に抑制されており、且つ、めっき層中のPbが本実施例の検出限界以下に抑制された例;No.22〜24は、めっき液中およびめっき層中のPbおよびTlの両方が本発明の範囲内に抑制された例であり、いずれも、耐しみ汚れ性および耐白錆性の両特性が向上した。
これに対し、No.5〜11は、めっき層中のTlは本実施例の検出限界以下に抑制されているが、めっき液中およびめっき層中のPbの含有量が多い例;No.16〜21は、めっき層中のPbは本実施例の検出限界以下に抑制されているが、めっき液中およびめっき層中のTlの含有量が多い例;No.25〜30は、めっき液中およびめっき層中のPbおよびTlの含有量が両方多い例であり、いずれも、耐しみ汚れ性が低下したほか、そのなかには、耐白錆性が低下した例もあった。
実施例2
本実施例では、耐しみ汚れ性改善元素の添加による耐しみ汚れ性および耐白錆性に及ぼす影響を検討した。
詳細には、実施例1において、表2〜表9に記載の添加剤(耐しみ汚れ性改善元素)を更に添加しためっき液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして樹脂皮膜(ノンクロメート皮膜)を有する電気Znめっき鋼板を作製し、実施例1と同様にして耐しみ汚れ性および耐白錆性を評価した。これらの表に示すように、耐しみ汚れ性改善元素のうち、Ni、Fe、Cr、Sn、Cu、Cd、Co、Wは、いずれも、硫酸塩として、Moはモリブデン酸ナトリウムとして、Siはコロイダルシリカとして、Agは硝酸銀として、Inは水酸化物として、Irは臭化物として、それぞれ、添加した。
これらの結果を表2〜表9に併記する。参考のため、表1のNo.1の結果を表2〜表9にも併記している。
まず、表2〜表5について考察する。これらの表には、Tlが本実施例の検出限界以下に抑制されており、且つ、めっき液中およびめっき層中のPb量を種々変化させたときにおける耐しみ汚れ性改善元素の添加効果をまとめている。ここでは、耐しみ汚れ性改善元素は、いずれも、本発明の好ましい範囲内で変化させている。
このうち、No.31〜33(Ni含有例)、No.37〜39(Fe2+含有例)、No.43〜45(Fe3+含有例)、No.49〜51(Cr含有例)、No.55〜57(Na含有例)、No.61〜63(Si含有例)、No.67〜69(Sn含有例)、No.73〜75(Cu含有例)、No.79〜81(Co含有例)、No.85〜87(W含有例)、No.91〜93(In含有例)、No.97〜99(Cd含有例)、No.103〜105(Ag含有例)、No.109〜111(Ir含有例)は、いずれも、PbおよびTlの両方が本発明の要件を満足するめっき液中に、上記の耐しみ汚れ性改善元素を本発明の好ましい範囲内で添加した例であり、耐しみ汚れ性改善元素を添加しない実施例1の場合に比べ、耐しみ汚れ性が一層向上した。
これに対し、No.34〜36(Ni含有例)、No.40〜42(Fe2+含有例)、No.46〜48(Fe3+含有例)、No.52〜54(Cr含有例)、No.58〜60(Mo6+含有例)、No.64〜66(Si含有例)、No.70〜72(Sn含有例)、No.76〜78(Cu含有例)、No.82〜84(Co含有例)、No.88〜90(W含有例)、No.94〜96(In含有例)、No.100〜102(Cd含有例)、No.106〜108(Ag含有例)、No.112〜114(Ir含有例)は、いずれも、Pb量が本発明の範囲を満足しないめっき液中に、上記の耐しみ汚れ性改善元素を本発明の好ましい範囲内で添加した例であり、全般に、耐白錆性や耐しみ汚れ性の程度が低下する傾向が認められた。
次に、表6〜表9について考察する。これらの表には、Pbが本実施例の検出限界以下に抑制されており、且つ、めっき液中およびめっき層中のTl量を種々変化させたときにおける耐しみ汚れ性改善元素の添加効果をまとめている。ここでは、耐しみ汚れ性改善元素は、いずれも、本発明の好ましい範囲内で変化させている。
このうち、No.115〜117(Ni含有例)、No.123〜125(Fe2+含有例)、No.131〜133(Fe3+含有例)、No.139〜141(Cr含有例)、No.147〜149(Mo含有例)、No.155〜157(Si含有例)、No.163〜165(Sn含有例)、No.171〜173(Cu含有例)、No.179〜181(Co含有例)、No.187〜189(W含有例)、No.195〜197(In含有例)、No.203〜205(Cd含有例)、No.211〜213(Ag含有例)、No.219〜221(Ir含有例)は、いずれも、PbおよびTlの両方が本発明の範囲を満足するめっき液中に、上記の耐しみ汚れ性改善元素を本発明の好ましい範囲内で添加した例であり、耐しみ汚れ性改善元素を添加しない実施例1の場合に比べ、耐しみ汚れ性が一層向上した。
これに対し、No.118〜122(Ni含有例)、No.126〜130(Fe2+含有例)、No.134〜138(Fe3+含有例)、No.142〜146(Cr含有例)、No.150〜154(Mo含有例)、No.158〜162(Si含有例)、No.166〜170(Sn含有例)、No.174〜178(Cu含有例)、No.182〜186(Co含有例)、No.190〜194(W含有例)、No.198〜202(In含有例)、No.206〜210(Cd含有例)、No.214〜218(Ag含有例)、No.222〜226(Ir含有例)は、いずれも、Tl量が本発明の範囲を満足しないめっき液中に、上記の耐しみ汚れ性改善元素を本発明の好ましい範囲内で添加した例であり、全般に、耐白錆性や耐しみ汚れ性の程度が低下する傾向が認められた。
実施例3
本実施例では、シランカップリング剤の添加による耐しみ汚れ性向上作用について検討した。ここでは、以下に示すように、樹脂成分とコロイダルシリカの配合比率が異なる四種類の樹脂皮膜を有するノンクロメート電気Znめっき鋼板を作製し、各ノンクロメート電気Znめっき鋼板に対するシランカップリング剤の影響を調べた。
(No.227〜230)
前述した実施例1において、「(1−3) 樹脂水性液の調製」における、カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂水性液、エチレン−アクリル酸共重合体水性分散液、コロイダルシリカ(配合比率=5質量部:25質量部:70質量部)の合計100質量部に対し、さらにシランカップリング剤を表10に示すように、0、10質量部、20質量部、30質量部の範囲内で添加したこと以外は、実施例1と同様にして樹脂皮膜を作製した。
また、前述した実施例1の「(2) 電気Znめっき鋼板の作製」において、表7に記載の各元素をすべて含有するめっき液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして電気Znめっき鋼板を作製した。表11に記載の各元素は、いずれも、前述した実施例1に記載の形態で添加したものである。
次いで、実施例1と同様にしてノンクロメート電気Znめっき鋼板を作製し、耐しみ汚れ性および耐白錆性を評価した。
(No.231〜234)
前述した実施例1において、「(1−2) エチレン−不飽和カルボン酸共重合体水性分散液の調製」において水酸化ナトリウムを添加しなかったこと、および、「(1−3) 樹脂水性液の調製」におけるコロイダルシリカとして、日産化学工業(株)製「ST−AK」を用い、且つ、カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂水性液、エチレン−アクリル酸共重合体水性分散液(Naの含有なし)、コロイダルシリカの配合比率を5質量部:30質量部:65質量部とし、これらの合計100質量部に対し、さらにシランカップリング剤を表6に示すように、0、10質量部、20質量部、30質量部の範囲内で添加したこと以外は、実施例1と同様にして樹脂皮膜を作製した。
また、前述した実施例1の「(2) 電気Znめっき鋼板の作製」において、表7に記載の各元素をすべて含有するめっき液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして電気Znめっき鋼板を作製した。表11に記載の各元素は、いずれも、前述した実施例1に記載の形態で添加したものである。
次いで、実施例1と同様にしてノンクロメート電気Znめっき鋼板を作製し、耐しみ汚れ性および耐白錆性を評価した。
(No.235〜238)
前述した実施例1において、「(1−3) 樹脂水性液の調製」におけるコロイダルシリカとして、日産化学工業(株)製「ST−XS」中に強度向上の目的でNaOHを5.1質量%添加したものを用い、且つ、カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂水性液、エチレン−アクリル酸共重合体水性分散液、コロイダルシリカの配合比率を6質量部:34質量部:60質量部とし、これらの合計100質量部に対し、さらにシランカップリング剤を表6に示すように、0、10質量部、20質量部、30質量部の範囲内で添加したこと以外は、実施例1と同様にして樹脂皮膜を作製した。
また、前述した実施例1の「(2) 電気Znめっき鋼板の作製」において、表7に記載の各元素をすべて含有するめっき液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして電気Znめっき鋼板を作製した。表11に記載の各元素は、いずれも、前述した実施例1に記載の形態で添加したものである。
次いで、実施例1と同様にしてノンクロメート電気Znめっき鋼板を作製し、耐しみ汚れ性および耐白錆性を評価した。
これらの結果を表10に併記する。
なお、表10には、樹脂皮膜を構成する樹脂成分およびコロイダルシリカに含まれるNa含有量、並びに、樹脂皮膜中に含まれるNa含有量を併記している。
表10に示すように、シランカップリング剤を本発明の好ましい範囲で添加すると、シランカップリング剤無添加の場合に比べ、上記の特性がいずれも上昇した。なお、シランカップリング剤を30質量部添加した例では、いずれも、処理液がゲル化し、めっき層上に塗布できなかったため、外観の評価はできなかった。