以下、本実施形態の燃料電池車両について図1ないし図13を参照して説明する。
図1に示すように、本実施形態の燃料電池車両V(以下、車両Vと略記する)は、内部に燃料電池の冷却装置1が収容されたボックス10、燃料電池FC、ECU(Electronic Control Unit)100、温度センサ101、外気温度センサ102(外気温度検出手段)、車速センサ103(車速検知手段)、IG104、温度センサ105(図7参照)などで構成されている。
ボックス10は、車両Vの前部のモータルームMR内、さらに具体的には、モータルームMR内の、車両Vのフロントグリル(不図示)の後方に位置している。また、ボックス10は、車両Vの車体(バルクヘッド、フレームなど)にボルトなどで固定されている。なお、ボックス10の詳細な構造については後記する。また、ボックス10の後方には、燃料電池FCが配置されている。
なお、本実施形態では、燃料電池FCの設置位置は特に限定されるものではない。また、本実施形態は、四輪車に限定されるものではなく、二輪車、列車などにも適用できる。
燃料電池FCは、例えば固体高分子型燃料電池(Polymer Electrolyte Fuel Cell:PEFC)であり、MEA(Membrane Electrode Assembly、膜電極接合体)を図示しない導電性のセパレータ(図示せず)で挟持してなる単セルを厚み方向に複数積層し、各単セルを電気的に直列に接続した構造を有している。
燃料電池FCの内部には、燃料電池FCを冷却する冷媒が通流する冷媒流路6が形成されている。冷媒は、例えば、エチレングリコール、水などの混合液からなる。
このような燃料電池FCでは、アノードに高圧水素タンク(不図示)から水素が供給され、カソードに空気(酸素)が供給されることにより、触媒上で化学反応が起こり、燃料電池FCが発電可能な状態となる。また、燃料電池FCは、外部負荷(走行モータなど)と電気的に接続され、外部負荷によって電流が取り出されると、燃料電池FCが発電するようになっている。
図2(a),(b)および図3(a),(b)に示すように、ボックス10は、側面視で略山型に形成された筐体11と、フラップ装置12とで構成されている。
筐体11は、後記するラジエータ21の傾斜に対応して、その前面は後傾している。一方、後面は前傾するように形成され、筐体11の内部空間にデッドスペースが少なくなるように設定している。なお、筐体11は、フラップ装置12が取り付けられる面(前面、上面、下面、後面)に開口部が形成され、フラップ装置12が取り付けられない左側面および右側面は、板状の部材などで閉塞されている。
また、ボックス10の筐体11には、後面の下端に、燃料電池FCの冷媒流路6から延びる冷媒循環配管27(図4参照)が挿通される貫通孔11a,11bが形成されている(図2(b)および図3(b)参照)。貫通孔11aからは、冷媒循環配管27の配管27a(図1参照)の端部が接続される導入口26aが突出し、貫通孔11bからは、冷媒循環配管27の配管27f(図1参照)の端部が接続される導出口24aが突出している。
フラップ装置12は、ボックス10の前面側に前フラップ12a、上面側に上フラップ12b、下面側に下フラップ12c(一部のみ図示)、後面側に後フラップ12dを有している。前フラップ12aは、四角形状の枠部12a1,12a2が左右に分割して形成され、枠部12a1内に水平方向に長く形成された複数枚の羽根12a3が上下方向に所定の間隔で回動自在に支持され、同様に枠部12a2内に複数枚の羽根12a4が上下方向に所定の間隔で回動自在に支持されることによって構成されている。また、上フラップ12bも同様にして、左側に複数枚の羽根12b3、右側に複数枚の羽根12b4が配置されて構成されている。また、後フラップ12dも同様にして、左側に複数枚の羽根12d3、右側に複数枚の羽根12d4が配置されて構成されている。なお、下フラップ12cについても、同様にして、左側に複数枚の羽根(不図示)、右側に複数枚の羽根12c4が配置されて構成されている。
なお、前フラップ12a、上フラップ12b、下フラップ12cおよび後フラップ12dには、それぞれ図示しないモータが減速ギア(不図示)を介して接続されており、後記するECU(Electronic Control Unit)100の制御によって、各モータが駆動されることにより、開閉、またはその開度が制御される。図2(a)および(b)が、フラップ装置12の全フラップ12a〜12dが全開した状態であり、図3(a)および(b)が、フラップ装置12の全フラップ12a〜12dが全閉した状態である。
図4に示すように、ボックス10内には、ラジエータ21、ラジエータファン22,22、冷媒ポンプ23,24、イオン交換器25、サーモスタット弁26、冷媒循環配管27(冷媒循環路の一部)が収容されている。なお、図4は、ボックス10からフラップ装置12を取り外して、後方の斜め上方から見た状態を図示している。
ラジエータ21は、外気を取り入れて、燃料電池FCの発電によって生じた熱を、冷媒を介して放熱させるものである。また、ラジエータ21は、前フラップ12a(図2、図3参照)の背面全体を覆う表面積を有している。
また、ラジエータ21は、冷媒の入口ポート21a、冷媒の出口ポート21bが設けられている(図4および図5参照)。また、ラジエータ21は、ボックス10内の前面に沿って、後傾した状態で配置されている(図5参照)。
ラジエータファン22,22は、後記するECU100によって制御される電動式のもので構成され、所定の外気をラジエータ21の全面に強制通風させるためラジエータ21の背面に、左右に並んで配置されている。
また、ラジエータ21の入口ポート21aには、配管27c、冷媒ポンプ23、配管27b、サーモスタット弁26、配管27a(図1参照)を介して燃料電池FCの冷媒流路6(図1参照)の出口と接続されている。
また、ラジエータ21の出口ポート21bには、配管27d、ジョイント28、配管27e、冷媒ポンプ24、配管27f(図1参照)を介して燃料電池FCの冷媒流路6(図1参照)の入口と接続されている。なお、本実施形態でのサーモスタット弁26は、電気的な制御によって流路の切換えがなされるものである。なお、後記する急速冷却処理を必要としない車両Vであれば、サーモスタット弁として、内部のワックスの体積が温度によって変化することにより流路の切換えがなされるもので構成することも可能である。
なお、ラジエータ21は、燃料電池FCを冷却するFC(Fuel Cell)用のみのラジエータが配置されたものであってもよいが、これに限定されず、FC用とエアコンディショナ(いわゆるエアコン)用とモータ(走行モータ3を含む駆動系を冷却するもの)用が前後方向に積層された構成であってもよい。例えば、前側からエアコン用、モータ用、FC用の順番で配置される。ちなみに、FC用、エアコン用、モータ用の冷却要求は、ほぼ同条件であると考えられるため、3枚が厚さ方向で重なっていても問題はなく、このように積層配置することにより、レイアウト効率を向上できる。
冷媒ポンプ23,24は、冷媒を循環させる電動式のものであり、後記するECU100によって循環流量が制御される。ちなみに、本実施形態では、2つの冷媒ポンプ23,24を備えることにより、単一の冷媒ポンプで構成する場合と較べて、それぞれの冷媒ポンプ23,24を小型かつ消費電力の少ないものとすることができる。また、冷媒ポンプ23,24は、ボックス10内の底面に配置され、ボックス10の筐体11の底面に設けられた支持部材(不図示)にボルトなどを介して固定されている。
イオン交換器25は、ポリプロピレン等から形成される円筒状のケース内に、イオン交換樹脂(陽イオン交換樹脂、陰イオン交換樹脂)が充填され、ボックス10内の底面に車幅方向に沿って横置きの状態で配置されている。なお、イオン交換器25の軸方向の両端部は、図示しないブラケットを介してボックス10の底面に配設された支持部材10a(図5参照)上にボルトなどを介して固定されている。
また、イオン交換器25は、軸方向の一端側に、バイパス配管27g(配管接続部材、冷媒循環路)の一端が接続され、他端がサーモスタット弁26の排出ポートに接続されている。また、イオン交換器25は、軸方向の他端側に、バイパス配管27h(配管接続部材、冷媒循環路)の一端が接続され、他端がジョイント28の戻りポートに接続されている。
図6に示すように、イオン交換器25は、ボックス10内の底面に、横置きで、かつ、左端(出口25d)が右端(入口25c)より車両Vの前後方向の前方に位置するように斜めに配置されている。また、イオン交換器25は、ボックス10内の底面の、左右方向(車幅方向)の中央に配置されている(図4参照)。
また、冷媒ポンプ23,24は、イオン交換器25の入口25cおよび出口25dに接続されるバイパス配管27g,27hの延長線Sに対して交差する位置(延長線S上のバイパス配管27g,27hと重ならない位置)に配置されるとともに、イオン交換器25を前後で挟むように配置されている。また、イオン交換器25の前方の冷媒ポンプ23は、イオン交換器25に対して右寄りに配置され、イオン交換器25の後方の冷媒ポンプ24は、イオン交換器25に対して左寄りに配置されている。
このように、ボックス10の筐体11の形状を山型として、燃料電池FCの冷却装置1の主要部品をボックス10の底面に配置したので、ボックス10内のデッドスペースを少なくして、ボックス10を小型化し、車両VのモータルームMR内のデッドスペースを少なくしている。
なお、ボックス10内には、余剰冷媒を一時的に貯留するリザーバタンク29が設けられている。このリザーバタンク29は、ボックス10内の右端に位置し、右側のラジエータファン22と前後方向において重ならないように湾曲して形成された湾曲面29bを有する縦長の容器29aで構成されている。また、リザーバタンク29は、配管(図示せず)を介してラジエータ21に接続されている。
また、本実施形態の車両Vは、制御系として、ECU100、温度センサ101、外気温度センサ102、温度センサ105(図7参照)、IG(イグニッションスイッチ)104を備えている(図1参照)。
なお、燃料電池FCの温度は、冷媒の温度に限定されるものではなく、燃料電池FCの発熱状態、発熱状態を表す発電量に基づいて判断してもよい。
ECU100は、図7に示すように、フラップ装置12の各モータ(不図示)を制御して各フラップ12a〜12dの開度を調整し、またラジエータファン22,22の各モータ(不図示)の回転速度を制御し、冷媒ポンプ23,24の各モータ(不図示)の回転速度を制御して冷媒の流量を調整する。また、ECU100は、運転状態検知手段、目標冷媒温度決定手段、フラップ制御手段(フラップ制御装置)、ラジエータファン制御手段を備えている。
運転状態検知手段は、燃料電池FCの現在の運転モードを判断する機能を有し、例えば、燃料電池FCの温度およびIG104のON/OFF信号に基づいて判断する。運転モードとしては、例えば、燃料電池FCの起動(IG−ON)から暖機までの暖機モード、暖機完了後の通常走行である走行モード、IG104がOFFされたときの停止モードなどである。このようにして現在の運転モードを判断し、この運転モードの情報に基づいてフラップ制御手段によってフラップ装置12の各フラップ12a〜12dの開度を制御する。
目標冷媒温度決定手段は、燃料電池FCの発電状態、温度などから冷媒の目標冷媒温度を決定し、目標冷媒温度と温度センサ101から得られる現在の冷媒温度(実冷媒温度)とを比較することで、冷媒を昇温させる必要があるのか(要受熱)、冷媒を冷却する必要があるのか(要放熱)を判断でき、さらに目標冷媒温度と外気温度とを比較することで、フラップ制御手段によってフラップ装置12の各フラップ12a〜12dの開度を設定する。
フラップ制御手段は、運転状態検知手段によって判断された運転モード(車両状態)に基づいて各フラップ12a〜12dの開度を設定する。
ラジエータファン制御手段は、目標冷媒温度決定手段によって決定された目標冷媒温度と、燃料電池FCの温度(実冷媒温度)との差に基づいてラジエータファン22,22の回転速度を制御する。例えば、目標冷媒温度が実冷媒温度よりも低い場合には、ラジエータファン22,22の回転速度を高めて、ラジエータ21の冷却能力を高め、逆に目標冷媒温度が実冷媒温度よりも高い場合には、ラジエータファン22,22の回転速度を低め、または停止させる。
次に、本実施形態の車両Vにおけるフラップ制御の一例について図8および図12を参照して説明する。ステップS1において、ECU100は、車両状態が停止モード(IG−OFF)であるか、起動モード(IG−ON)であるかを判断する。停止モードは、複数の運転モードのうちのひとつであり、燃料電池FCの発電が停止している状態である。停止モードであるか否かは、IG104のON/OFF信号によって判断することができ、ECU100によってIG−OFF信号が検知された場合には(S1、Yes)、ステップS2に進む。
ステップS2において、ECU100は、外気温度センサ102によって外気温度T3を検出する。そして、ステップS3に進み、ECU100は、外気温度T3が保温判定温度(所定温度、例えば、5℃)より低いか否かを判断する。このステップS3は、ボックス10内の冷媒を保温するか否か、換言すると通常の停止か冬期の停止かを判断するステップである。
ステップS3において、ECU100は、外気温度T3が保温判定温度より低くない場合には(No)、ボックス10内の冷媒を保温しないと判断して、ステップS4に進み、また、外気温度T3が保温判定温度よりも低い場合には(Yes)、ボックス10内の冷媒を保温する必要があると判断して、ステップS5に進む。
ステップS4において、ECU100は、フラップを開く制御を行う。例えば、夏場など外気温度T3が高い場合には、フラップを開いておくことにより、外気に対して通常の放熱状態とする。具体的には、フラップ装置12の全フラップ12a〜12dを開き、ラジエータファン22,22および冷媒ポンプ23,24を停止する(停止モード)。
また、ステップS3において、ECU100は、外気温度T3が保温判定温度以上と判断した場合には(Yes)、ボックス10内の冷媒を保温する必要があると判断し、ステップS5に進み、燃料電池FCの温度(冷媒温度:以下、FC冷媒温度とする)T2を検出する。そして、ステップS6に進み、ECU100は、FC冷媒温度T2が急速冷却準備開始温度(例えば、1℃)より低いか否かを判断する。なお、1℃に限定されるものではなく、0℃や2℃などであってもよい。
ステップS6において、ECU100は、FC冷媒温度T2が急速冷却準備開始温度以上であると判断した場合には(No)、保温が必要である、または保温中であると判断して、ステップS12に進み、フラップを閉じる制御を行う。具体的には、フラップ装置12の全フラップ12a〜12dを閉じる制御を行う。また、ステップS6において、ECU100は、FC冷媒温度T2が急速冷却準備開始温度よりも低いと判断した場合には(Yes)、急速冷却の準備が必要であると判断して、ステップS7に進み、フラップを開く制御を行う。なお、ここで設定される急速冷却準備開始温度は、最大氷結晶生成帯の温度領域(マイナス1℃〜マイナス5℃)よりも高い温度に設定される。
そして、ステップS8において、ECU100は、急速冷却を実行する前の急速冷却準備処理に移行する。この急速冷却準備処理は、例えば、フラップ装置12の全フラップ12a〜12dを開き、ラジエータファン22,22を作動させる制御を行う。なお、冷媒ポンプ23,24は停止している。
これにより、外気をボックス10内に強制的に取り込むことによって、ボックス10内が冷やされて、ボックス10内の冷媒が冷却される。すなわち、外気がラジエータ21のフィン間を通過することにより、ラジエータ21内の冷媒が冷却され、また、ボックス10内に外気を取り込むことによって、配管27b〜27e、バイパス配管27g,27h内の冷媒が冷却される。
なお、ステップS8での処理は、ボックス10内の冷媒のみを冷やす処理であるため、例えば、後フラップ12dのみを閉じて、ボックス10の後方に位置する燃料電池FCに冷却風が当たらないようにしてもよい。
そして、ステップS9に進み、ECU100は、ボックス10内の冷媒温度T4(図7参照)を検出する。そして、ステップS10に進み、ECU100は、冷媒温度T4がFC冷媒温度T2よりも低いか否かを判断する。ステップS10は、ボックス10内の冷媒温度T4が、FC冷媒温度T2より低下したかどうかを判断する処理である。ステップS10において、ECU100は、ボックス10内の冷媒温度T4がFC冷媒温度T2より低くはないと判断した場合には(No)、急速冷却を実行することなくリターンし、冷媒温度T4がFC冷媒温度T2よりも低いと判断した場合には(Yes)、ステップS11に進む。なお、ステップS10の判断としては、冷媒温度T4に限定されるものではなく、タイマを用いて経過時間によって判断してもよい。
そして、ステップS11において、ECU100は、燃料電池FCを急速冷却する処理(燃料電池急速冷却処理)を実行する。すなわち、ECU100は、フラップ装置12の全フラップ12a〜12を開き、冷媒ポンプ23,24を作動させ、全量の冷媒がラジエータ21側に流れるようにサーモスタット弁26を電気的に制御する。
図10においてグラフで示すように、FC冷媒温度T2が急速冷却準備開始温度よりも低くなった場合には(S6、Yes)、フラップを開いて急速冷却準備を開始することで、ボックス10内の冷媒が保温状態から解除されるので、一点鎖線のグラフで示すように、ボックス10内の冷媒温度T4が途中から急速に低下する(S7、S8)。なお、FC冷媒温度T2は、冷媒ポンプ23,24が作動していないので、実線のグラフで示すように、温度低下率を変化させることなく徐々に低下する。そして、ボックス10内の冷媒温度T4がFC冷媒温度T2よりも低くなった場合には、燃料電池FCの急速冷却が開始される。急速冷却が開始されると、ボックス10内で冷やされた冷媒が燃料電池FCに供給され、燃料電池FCとラジエータ21との間で冷媒が循環することで、燃料電池FCが急速冷却される。
これにより、燃料電池FCを、最大氷結晶生成帯(マイナス1℃〜マイナス5℃)の温度領域を通過する際の時間が短縮化(燃料電池急速冷却処理を行わない場合より短縮化)されて、燃料電池FCが急速冷却される。
なお、ステップS11の急速冷却において、前フラップ12a、上フラップ12bおよび後フラップ12dを開き、下フラップ12cを閉じ、冷媒ポンプ23,24を作動させるようにしてもよい。これにより、前フラップ12aから吸引されてラジエータ21の背面から排出された排風(冷却風)が、上フラップ12bおよび後フラップ12dから排出され、ボックス10の後方に位置するセンタトンネルST(図1参照)内を通ることで、センタトンネルST内の燃料電池FCが冷却される。なお、このとき、下フラップ12cを閉じることによって、ラジエータファン22,22の排風が、燃料電池FC側に流れ易くなる。つまり、ラジエータファン22の排風がボックス10の底面から地面側に漏れないようにしている。これによって、冷媒の循環と排風とによって燃料電池FCが急速冷却される。
このような急速冷却制御によって、図9に示すように、最大氷結晶生成帯を通過する際の冷却速度が速くなり、図10(a)に示すように、電極(アノード、カソード)内に氷の核(図中の○印)が存在していても、電解質膜内の不凍水(過冷却水)が氷の核に吸い寄せられることなく、電解質膜内で凍結し、氷結晶の成長が抑制される。一方、図10(b)に示すように、最大氷結晶生成帯における冷却速度がゆっくり(緩慢冷却)である場合には(比較例)、電極内に発生する氷の核に電解質膜中の不凍水(過冷却水)が吸い寄せられて、凝固して氷結晶が成長する。このとき、電極と電解質膜とに跨って氷結晶が成長することにより、氷結晶によって電解質膜が破損する事象が発生することになる。よって、燃料電池FCを最大氷結晶生成帯において急速冷却することによって、氷結晶の成長を抑制できるので、燃料電池FCの劣化を抑制することができる。
なお、ECU100は、FC冷媒温度(実冷媒温度T2)が最大氷結晶生成帯の温度領域を下回ったときに、急速冷却制御が完了したと判断する。なお、急速冷却制御の完了条件はFC冷媒温度T2に限定されるものではなく、事前の実験やシミュレーションなどにより決めた時間に基づいて判断してもよい。
なお、急速冷却制御を行う場合には、前もって、燃料電池FC内に残留する生成水を車外に排出することが好ましい。生成水を排出する方法としては、図示しないエアコンプレッサを作動させて、燃料電池FCのアノード側とカソード側に掃気ガスとしての空気を送り込むことによって行うことができる。なお、エアコンプレッサの空気をアノード側に送るには、例えば、燃料電池FCの上流において、カソード側の配管とアノード側の配管とを接続することによって行うことができる。
また、ステップS1において、ECU100は、IG−ONである(停止モードではない)と判断した場合、ステップS13に進み、FC冷媒温度T2を検出する。そして、ステップS14に進み、ECU100は、FC冷媒温度T2が暖機完了温度より低いか否かを判断する。なお、暖機とは、燃料電池FCの暖機であり、低温環境下(例えば、氷点下)、常温の環境下において実行される処理である。例えば、外気温度T3やFC冷媒温度T2が、所定温度(例えば、10℃)以下の場合に実行される。また、暖機完了の条件(暖機完了温度)としては、FC冷媒温度T2が所定温度(発電を効率的に行うことができる温度、例えば、30℃)以上となったときである。
ステップS14において、ECU100は、FC冷媒温度T2が暖機完了温度よりも低いと判断した場合には(Yes)、ステップS15に進み、フラップを閉じる制御を行う。具体的には、フラップ装置12の全フラップ12a〜12dを閉じる制御を行う。また、冷媒の全量がバイパス配管27g,27h側に流れるようにサーモスタット弁26を電気的に制御し(図4、図7参照)、冷媒ポンプ24を作動させる。これにより、暖機が促進される。なお、ステップS15において、フラップ12a〜12cを閉じ、後フラップ12dを開くことで、モータルームMR内の部品の熱をボックス10内に取り込むようにしてもよい。
また、ステップS14において、ECU100は、FC冷媒温度T2が暖機完了温度以上であると判断した場合には(No)、ステップS16に進み、図11に示す走行モード時の制御を実行する。すなわち、ステップS21において、ECU100は、燃料電池FCの温度、燃料電池FCの現在の発熱量などから冷媒の目標冷媒温度T1を算出する。なお、走行モードでは、ECU100の制御によって、冷媒の温度に応じてサーモスタット弁26の流路が、ラジエータ21側、バイパス配管27g,27h側に切り替えられる。
そして、ステップS22に進み、ECU100は、目標冷媒温度T1が実冷媒温度T2(現在の冷媒温度、FC冷媒温度)よりも高いか否かを判断し、目標冷媒温度T1が実冷媒温度T2よりも高いと判断した場合(Yes)、つまり現在の冷媒の温度が低すぎるとして、ステップS23に進み、フラップの開度が小さくなるように制御を行う(要受熱)。また、ステップS22において、目標冷媒温度T1が実冷媒温度T2よりも高くはないと判断した場合(No)、つまり現在の冷媒の温度が高すぎるとして、ステップS24に進み、フラップの開度が大きくなるように制御を行う(要放熱)。
なお、同じ受熱量を望む場合、低車速ではフラップの開度を大側に補正し、高車速ではフラップの開度を小側に補正することが好ましい。例えば、図12に示すように、基準車速を例えば、50km/時とした場合、車速が基準車速よりも低い場合には、補正係数を1より大きくして、フラップの開度を大側に補正する。また、車速が基準車速よりも高い場合には、補正係数を1より小さくして、フラップの開度を小側に補正する。また、同じ放熱量を望む場合には、図12で説明したように、低車速ではフラップの開度を大側、高車速ではフラップの開度を小側に補正することが好ましい。
なお、燃料電池FCが暖機モードである場合(S15)、保温効果によって、暖機モードの時間を短縮できるので、燃費、発電性能、燃料電池FCの耐久性の向上が図れる。また、燃料電池FCが走行モードである場合には(S16)、フラップ装置12のフラップを可変にすることにより、冷媒の細かな温度制御が可能になるので、燃費、発電性能および燃料電池FCの耐久性を向上できる。また、燃料電池FCが停止モード(停止→保温)である場合には(S12)、燃料電池FCを次回起動する際の起動時間を短縮することが可能になるので、発電性能を向上でき、さらに燃料電池FCが低温環境下に曝されるのを抑制できるので、燃料電池FCの耐久性も向上できる。また、燃料電池FCが停止モード(保温→急速冷却準備、急速冷却)である場合には(S8、S11)、燃料電池FCを最大氷結晶生成帯の温度領域で急速冷却を行うので、氷結晶の成長を抑えることができ、燃料電池FCの耐久性を向上できる。
以上説明したように、本実施形態の車両Vでは、ボックス10内に燃料電池FCの冷却装置1の主要部品(ラジエータ21、冷媒ポンプ23,24、イオン交換器25)を集中配置したことにより、主要部品を分散配置した場合に比べて、冷媒循環配管27の配管長を短縮することが可能になる。このように配管長を短縮できることにより、配管内を冷媒が流れるときの圧力損失が低減され、配管径を小さくすることが可能になる。これにより、配管内の保有冷媒量を低減することが可能になり、配管の軽量化およびコストの削減が可能になる。さらに、保有冷媒量を低減できることにより、低温環境下での使用において、燃料電池FCを暖機する際の暖機時間(昇温時間)を短縮することが可能になる。さらに、ボックス10からは、導入口26aと導出口24aのみが出ていることから、燃料電池FCの冷却装置1をボックス10内にコンパクトに収めてユニット化することによって、冷却装置1の車両Vへの取り付け、冷却装置1の交換時の作業工程数および作業時間を削減することが可能になる。さらに、配管固定用のブラケット類や接続箇所を少なくすることができ、さらに他車種への搭載など汎用性を高めることができる。
また、本実施形態の車両Vでは、ボックス10内への外気流入量を車両状態(暖機モード、走行モード、各停止モード)に合わせて任意に調整するフラップ装置12を設けたので、ラジエータ21での放熱性能の制御(燃料電池FCの温度調整制御)を精度よく行うことが可能になる。
また、本実施形態の車両Vでは、フラップ装置12を、ボックス10の前面、後面、上面および底面に設けたことにより、車両状態や車外の環境等に応じて、フラップ装置12の各フラップ12a〜12dを調整することで、冷媒の温度をさらに精度よく制御することが可能となる。
また、ラジエータ21以外のデバイス類(イオン交換器25、冷媒ポンプ23,24)をボックス10の底面(同一面)に配置することで、デバイス類のマウント構造の簡素化および軽量化が可能になる。
さらに、本実施形態の車両Vでは、ラジエータ21と冷媒循環配管27をボックス10内に収容するとともに、ボックス10内に外気を取り入れ可能なフラップ装置12を設けて、運転状態検知手段によって検知された燃料電池FCの運転状態(運転モード)に基づいてフラップ装置12のフラップの開度を調整することにより、それぞれの運転状態(車両状態)に適した温度に燃料電池FCを精度よく調整することが可能になる。
また、本実施形態の車両Vでは、IG104のON/OFF信号状態および燃料電池FCの温度から複数の運転モードを判断することで、複数の運転モード(暖機モード、停止モード、走行モードなど)を容易に判断することができる。
また、本実施形態の車両Vでは、燃料電池FCの温度や発熱量などにより算出された目標冷媒温度T1と、燃料電池FCの温度(実冷媒温度T2)とを比較することにより、要受熱であるか要放熱であるかを判断できる。さらに、フラップ装置12のフラップ開度を制御することで、燃料電池FCの温度制御を高精度に行うことが可能になる。
また、本実施形態の車両Vでは、車速センサ103により検知される車速に基づいてフラップ装置12を補正することにより、燃料電池FCの温度制御をより高精度に行うことが可能になる。
また、本実施形態の車両Vでは、停止モード(IG−OFF)時に、外気温度センサ102により外気温度T3を検出して、外気温度T3が所定温度(保温判定温度)以上であるときに、全フラップ12a〜12dの開度を開として燃料電池FCの冷却装置1を停止するので、ボックス10外への放熱が促進され、冷媒が効率的に冷却される。その結果、次回燃料電池FCを起動する際に、オーバーヒートするのを防止することが可能になる。
また、本実施形態の車両Vでは、停止モード(IG−OFF)時に、外気温度T3が保温判定温度よりも低く、かつ、FC冷媒温度T2が急速冷却準備開始温度より低いときに、フラップ装置12のフラップを開いて、ラジエータファン22,22を作動させてボックス10内の冷媒を冷却し、さらに、ボックス10内の冷媒温度T4がFC冷媒温度T2よりも低くなったときに、ラジエータファン22,22および冷媒ポンプ23,24を作動させて、燃料電池FCに対して、最大氷結晶生成帯の温度領域(マイナス1℃〜マイナス5℃)を速やかに通過するように急速冷却することで、氷結晶の成長が抑えられて、燃料電池の電解質膜などの劣化を抑制することが可能になる。
また、本実施形態の車両Vでは、目標冷媒温度T1とFC冷媒温度T2との差に基づいて、フラップ装置12のフラップ制御とともにラジエータファン22,22の回転速度を制御することで、燃料電池FCの温度制御をさらに精度よく行うことが可能になる。
なお、本発明は、前記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更できる。例えば、図13に示すように、左右の一方のフラップ装置12A(またはフラップ装置12B)のみを開放して、燃料電池FCの温度制御を行うようにしてもよい。このように、左右の一方のフラップ装置12A(または12B)のラジエータファン22のみを作動させることにより、消費電力の削減が可能となる。さらに、左右のフラップ装置12A,12Bの開閉に加えて、各フラップ装置12A,12Bのフラップ12a〜12dの開度を調整して燃料電池FCの温度制御を行ってもよい。