JP5301949B2 - ディスクブレーキ用マルテンサイト系ステンレス鋼 - Google Patents

ディスクブレーキ用マルテンサイト系ステンレス鋼 Download PDF

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Description

本発明は、二輪車のディスクブレーキ用マルテンサイト系ステンレス鋼に関し、ブレーキに加工後、焼入れままで、ブレーキとして必要な硬さが安定して得られ、耐銹性に優れ、かつ生産性に優れた成分のマルテンサイト系ステンレス鋼に関する。
二輪車のディスクブレーキは、耐磨耗性、耐銹性、靭性等の特性が要求される。耐磨耗性は、一般に硬さが高いほど大きくなる。一方、硬さが高過ぎるとブレーキとパッドの間でいわゆるブレーキの鳴きが生じるため、ブレーキの硬さは、35±3HRC(ロックウェル硬さCスケール)が求められる。以上の硬さ調整および耐銹性を得るため、ディスクブレーキ材料にはマルテンサイト系ステンレス鋼が用いられている。
従来は、SUS420J1、SUS420J2を焼入れ・焼戻しの熱処理により所望の硬さに調整し、ブレーキとしていた。この場合、焼入れと焼戻しの2つの熱処理工程を要するため、省工程・省エネルギーの目的で、焼入れままでブレーキとして使用できるマルテンサイト系ステンレス鋼への要望が高まった。
この要望に対し、低C,N化し、これに伴ってオーステナイト温度域が縮小し、焼入れ可能温度域が狭くなることをオーステナイト形成元素のMn添加で補うことにより、焼入れままで、従来鋼より広い焼入れ温度域で、安定して所望の硬さを得る鋼組成が開示されている(下記特許文献1)。しかし、この鋼はMnを1.0〜2.5%含有するため、焼き入れ熱処理時におけるスケールが厚くなり研摩性を損ねることが懸念される。
この点を改善するために、Mnは低く抑え、その代わりに耐錆性を害しないCu,Nをそれぞれ0.5〜1.0%、0.03〜0.07%添加して、焼入れ安定性を確保する組成が開示されている(下記特許文献2)。この鋼では、焼入れ安定性と耐錆性は目的通り確保されたが、Nを0.03%以上添加しているため、ブレーキ使用中の制動発熱で焼戻しを受けた場答、微細な窒化物が析出して靱性が低下することが危惧された。また、ブレーキによる制動発熱は、500〜600℃に達する場合もあると言われており、以上述べた従来鋼では、これらの温度域に達した場合、焼戻し軟化が避けられないという課題があった。
この問題を改善するために、N量を0.03%以下に制限することで、制動発熱による軟化抵抗を改善すると共に、γpを90以上にすることによって900〜1150℃の温度範囲で安定して焼入れを行なえるように考えられた組成が開示されている(下記特許文献3)。
しかしながら、本発明者らの調査の結果、当該組成で安定した焼入れ硬さを得るためには950℃以上の加熱が必要であり、900℃加熱では十分な焼入れ硬さが得られないことが分かった。
二輪ディスクブレーキの焼入れ加熱で通常行なわれるような誘導加熱を利用した急速加熱・短時間保定に続く焼入れでは、焼入れ硬さに及ぼす加熱温度の影響が大きく、加熱温度を950℃狙いで量産した際に、加熱温度が900℃に変動すると硬さが大きく低下するため、焼入れ安定性に問題があった。
この様な、焼入れ性の不安定化現象は、一般的な熱処理炉内で加熱し保定する熱処理では問題になりにくい。即ち、通常の熱処理炉加熱では、保定温度近くになると昇温速度が遅くなり、結果的に保定温度近傍で長時間保定されるからである。炉の能力にも依るが、板厚4.5mmの素材を950℃に加熱する際に、940℃に到達するまでに約7分、それから950℃まで10℃上げるのに1分要する場合もある。この場合、保定時間は1〜10分のような分単位で管理される。特許文献3においても、平均加熱速度3℃/sで昇温し、保定を600秒とすれば、加熱温度900〜1150℃で安定した硬さが得られる。
即ち、焼入れ前の加熱は、素材における炭窒化物の溶体化とα/γ変態を意図した工程であるため、加熱温度の高温化、保定時間の長時間化で促進する。
しかしながら、二輪ディスクブレーキの製造に於いては、誘導加熱により昇温速度20〜100℃/sで急速加熱するため、狙いの温度まで一定の加熱速度による昇温が可能になる。このため、所定温度に到達後は1〜10秒の様な秒単位での保定時間管理が行なわれる。
複数の素材を同時に加熱できる熱処理炉と異なり、1枚づつ加熱する誘導加熱では生産性向上の点から、保定時間の短縮化が望まれることも背景にある。
熱処理炉のような長時間保定に比べて、短時間保定の場合、より高温加熱が必要になり、特許文献3では安定して焼入れ硬さが得られないため、より低温から焼入れ硬度が得られる材料の開発が求められた。
特開昭57−198249号公報 特開昭61−174361号公報 特開2003−321753号公報
本発明の目的は、急速加熱、短時間保定に続く焼入れで、硬さが不安定となる課題に対して、C−Nバランスの最適化により、焼入れ安定性、耐銹性に優れた、焼入れままで使用に供する、二輪車ディスクブレーキ用マルテンサイト系ステンレス鋼を提供することにある。
本発明者らは、上記の課題を達成するために、種々の検討を行い、下記の知見を得て
本発明を完成させた。
焼き入れ安定性を広い温度範囲で得るためには、1)焼入れ加熱温度におけるオーステナイトとフェライトの相率変化が小さいこと、2)マルテンサイトの硬度を支配するC、Nの大部分が固溶した状態から焼き入れること、等が重要である。
まず、1)の相率変化を小さくするには、焼入れ加熱温度範囲においてオーステナイト単相とすることが常道であるが、フェライトフォーマーであるCr、Siは後述するように所定量必要である。一方のオーステナイトフォーマーであるNi,Mn,Cu、C、Nについても、Ni,Mn,Cuはコストや種々の特性影響のため、多量に添加することは困難である。また、C,Nは多量に入れると焼入れ硬さを上げ過ぎることになるため、上限がある。
従って、オーステナイト単相域を拡大するよりも、オーステナイト母地に少量のフェライトが混在する状態を含めた範囲で相率を安定化させることが必要である。その最適範囲はγpで85〜100未満にある。
次に、2)のC,Nの固溶促進であるが、炭化物、窒化物共にC,Nの量が増すと粗大化し、溶体化に時間を要し、溶体化温度も高くなるため、加熱温度や時間によって焼入れ硬さが変化しやすくなる。即ち、従来発明のように炭素主体で硬さを得るものや、窒素を主体で硬さを得る鋼では、焼入れ硬さが変化しやすくなることから、本発明ではCとNの比を0.8〜1.2とすることでC,Nの固溶促進を成しえた。
以上の視点より焼入れ安定性は確保できたが、従来発明鋼に比べて、高窒素になり鋳造時に気泡系欠陥に伴う凝固遅れの形成を助長する問題がある。その対策としては、Mn量を1.0%以上にすることで、Nの活量を低下させ、気泡系欠陥の抑制を可能とした。
上記の知見に基づいて完成させた本発明の要旨は、下記の二輪ブレーキディスク用マルテンサイト系ステンレス鋼にある。
即ち、本願発明は、質量%で、C:0.025〜0.055%、N:0.030〜0.060%、Si:0.25〜0.45%、Mn:1.0〜1.5%、Ni:0.3%以下、Cr:11.5〜13.5%、Cu:0.3〜0.8%、Al:0.001〜0.010%を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、C+0.8×N:0.055〜0.080%およびC/N=0.6〜1.2を満足し、かつ、式1で表されるγpが85〜100未満、焼入れ後の硬さがHRCで32〜38であることを特徴とするディスクブレーキ用マルテンサイト系ステンレス鋼である。
γp=420[%C]+470[%N]+23[%Ni]+9[%Cu]+7[%Mn]
−11.5[%Cr]−11.5[%Si]−52[%Al]+189 ・・・ 式1
ここに、[%C]、[%N]、[%Ni]、[%Cu]、[%Mn]、[%Cr]、[%Si]、[%Al]は、各化学成分の質量%を示す。
本発明により、焼入れ安定性に優れ、耐銹性、靭性、制動発熱による軟化に対する抵抗や、製造性に優れた、焼入れままで使用に供する二輪車ディスクブレーキ用マルテンサイト系ステンレス鋼が安価に提供できるなど、産業上有用な著しい効果を奏する。
以下、本発明のディスクブレーキ用ステンレス鋼を上記のように定めた理由について詳細に説明する。なお、以下において、「%」は特に断らない限り、「質量%」を意味する。
<C:0.025〜0.055%>
Cは、焼入れ時の硬さを得ると共に、十分なマルテンサイト量を与える成分であり、0.025%以上が必要である。しかし、C含有量が多すぎると炭化物の量が増え、粗大化するために溶体化温度が上がる共に、溶体化時間が長くなり、焼入れ安定性が損なわれるため、0.055%以下とした。
<Si:0.25〜0.45%>
Siは、焼入れ時のマルテンサイト量を減じると共にマルテンサイト相を固溶強化することで、焼入れ時の硬さの変動を大きくすると共に、靭性を低下させる元素である。しかし、Siは製鋼時の脱酸素や、鋳造時の湯流れ性の向上に好ましい元素であり、操業性や表面品質を向上させる。そこで、Siの含有量は、下限を0.25%、上限を0.45%とした。
<Mn:1.0〜1.5%>
Mnは、NiやCuと同様に、オーステナイトフォーマーであり、焼入れ時のマルテンサイト量を増加させる。また、Mn独自の効果としては、非金属介在物(MnS)を形成し、熱間加工性を向上させる効果を持つ。更に、溶鋼中への窒素の溶解度を上げる効果が
あり多量に窒素を添加する際には気泡系欠陥の形成を抑制する作用を示す。その他にもSiと同様に製鋼時の脱酸元素としての効果も有する。この様な効果を得るためにはMnの含有量は少なくとも1.0%以上が必要である。しかし、Mnを多量に含有すると、焼入れ加熱時の酸化が進み、酸化膜除去が困難になる問題や、MnSの粗大化により素材の表面品質を低下させるため、その含有量は1.5%以下とした。
<Ni:0.3%以下>
Niは、Mn、Cuと同様にオーステナイトフォーマーであり、焼入れ時のマルテンサイト量を増加させる。しかし、Niは高価であるため、本発明ではスクラップから混入する程度にとどめ、上限を0.3%とした。
<Cr:11.5〜13.5%>
Crはブレーキディスクに必要とされる耐食性を確保するため、11.5%以上が必要である。しかし、フェライトフォーマーであるために、Cr量に応じたオーステナイトフォーマー(Ni,Cu,Mn)を添加して、焼入れ加熱時のオーステナイト相分率を確保する必要がある。しかし、上記、又は下記に示した様な種々の理由によりオーステナイトフォーマーによる相バランスの調整にも限界がある。 そこで、Cr含有量の上限を13.5%とした。
<Cu:0.3〜0.8%>
Cuは、Ni,Mnと同様にオーステナイトフォーマーであり、焼入れ時のマルテンサイト量を増加させる元素である。Niに比べると安価な元素であるため、Mnを補う量の添加が必要になる。そこで、下限を0.3%とした。一方、Mnに比べると高価な元素であることから、Cu含有量の上限は0.8%とした。
<Al:0.001〜0.010%>
Alは、精錬時のスラグ塩基度を調整し脱硫するために、下限を0.001%とした。但し、あまり多くなると脱硫時に水溶性介在物CaSが晶出し耐食性を低下させるため、上限を0.010%とした。
<N:0.030〜0.060%>
Nは、焼入れ時のマルテンサイトの硬さを上げると共に、強力なオーステナイトフォーマーとして、十分なマルテンサイト量を与える成分であるため、0.030%以上が必要である。しかし、N含有量が多すぎると窒化物の量が増え、粗大化するために溶体化温度が上がり、溶体化時間が長くなるため、焼入れ安定性が損なわれる。また、鋳造時に気泡系欠陥が形成して、耐食性を損なうために、Nの含有量の上限は、0.060%以下とした。
<C+0.8×N:0.055〜0.080%、C/N:0.6〜1.2>
CとNは、マルテンサイトの硬さを支配する元素であり、ブレーキディスクに必要な硬さであるHRC=32〜38を得るためには、C+0.8×Nで0.055%以上、0.080%以下が必要である。
しかし、一方の元素を主とした場合、焼入れ加熱時の炭窒化物の溶体化に高温、長時間が必要になり、焼入れ硬さが安定しなくなるため、C/Nの比を等量近い範囲にすることが重要である。C/Nの比が0.6未満の場合、および1.2超の場合は、窒化物および炭化物の溶体化に高温加熱が必要になり、900℃加熱では目標とする焼入れ硬さが得られなくなる。そこで、下限を0.6以上とし上限を1.2とした。
この様に、C/Nの比を等量近い範囲にすることで、焼入れ硬さが安定するのは、炭化物と窒化物を均等に析出させることにより、焼入れ前の材料に行なう、軟質化のための焼鈍工程に於いて、炭窒化物を均等に微細分散させ、焼入れ加熱時の溶体化を促進することにある。炭化物、窒化物いずれかを増やすと溶体化が遅延し、焼入れ硬度が加熱温度によって大きく変化する。
<γp:85〜100未満>
γpの式は、焼入れ加熱温度や、素材を製造する熱間圧延加熱時の相バランスを表す指標であるが。γpが小さくなると、フェライト分率が増加し、焼入れ時のマルテンサイト量が減少し、焼入れ硬さが低下する。更には、熱延時のフェライト分率が増加して、δフェライトとオーステナイトの強度差、変形能の違いによってδフェライトとオーステナイトの界面に亀裂が生じ耳割れの原因となる。従って、焼入れ硬さを向上させ、熱間加工性を向上させるために、γpは85以上とした。
一方、γpを高くしすぎると、熱間圧延時に於いて、オーステナイト粒界にSが偏析し、粒界脆化を起こすことで耳割れが発生し易くなる。そこで、Sを固溶し無害化するうえで最小限度のδフェライトの存在が必要となる。そこで、γpの上限は100未満とした。
γp=420[%C]+470[%N]+23[%Ni]+9[%Cu]+7[%Mn]−11.5[%Cr]−11.5[%Si]−52[%Al]+189
ここに、[%C]、[%N]、[%Ni]、[%Cu]、[%Mn]、[%Cr]、[%Si]、[%Al]は、各化学成分の質量%を示す。
<焼入れ後の硬さがHRCで32〜38>
二輪車のディスクブレーキは、耐磨耗性、耐銹性、靭性等の特性が要求される。耐磨耗性は、一般に硬さが高いほど大きくなる。一方、硬さが高過ぎるとブレーキとパッドの間でいわゆるブレーキの鳴きが生じるため、ブレーキの硬さは、35±3HRC(ロックウェル硬さCスケール)が求められるため、焼入れ後の硬さはHRCで32〜38とした。
<製造条件>
当該鋼の製造に際して、スラブ加熱温度は1150〜1250℃にすることが好ましい。熱延加熱温度に於いて、δ+γの二相組織となるため、相バランスが高温延性に大きく影響する。加熱温度が1150℃未満や、1250℃超になると、主相に30%以下の複相が分散するようになり、高温延性が低下して耳割れが生じ、歩留まりを大きく低下する。
熱延後は、二次冷却を省略して700〜850℃で巻取ることが好ましい。より低温で巻き取ると焼戻し熱処理時間が長時間化するほか、過冷却部において、割れなどの問題が生じる。一方、より高温で巻き取ると、酸化によりスケール厚みが増し、歩留まりの低下や、脱Cr層の形成により、焼入れ時のスケール増加による研摩性不良などの問題を生じる。
熱延コイルは、箱型焼鈍炉で軟質化のための熱処理を行なうが、加熱温度は800〜900℃で4時間以上の保定が好ましい。加熱温度が800℃未満では、再結晶が進まずに軟質化が不十分となる。一方、900℃以上に上げるとγ(オーステナイト)に変態し、炭窒化物の溶体化も進み過ぎるため、十分な軟質化が困難になる。また、熱処理時間も4時間未満では炭窒化物の析出が不十分で十分な軟質か効果が得られない。
以下に本発明の実施例を説明する。また、鋼板の評価試験条件を以下に示す。
(a)焼入れ性評価試験
鋼材を100mm長さ×8mm幅×4.5mm厚に切断して焼入れ試験片とした。鋼材表面に熱電対を取り付けて誘導加熱により20℃/sの昇温速度で加熱し、鋼板の表面温度が所定の温度に到達してから5秒後に水冷焼入れ処理を行なった。雰囲気は大気とし、焼入れ温度は900℃、1050℃の2条件とした。焼入れ後の鋼材表面の酸化スケールを除去した後、JIS Z 2245に規定されるロックウェル硬さ試験方法に従い、硬度測定を行なった。
(b)耐食性評価試験
鋼材を150mm長さ×70mm幅×4.5mm厚に切断して焼入れ試験片とした。鋼材表面に熱電対を取り付けてソルト浴に投入し、鋼板の表面温度が所定の温度に到達してから5秒後に取り出して水冷の焼入れ処理を行なった。平均昇温速度は50℃/sであった。更に鋼材の表面をフライス盤で0.2mm切削した後、表面を#400のエメリーペーパーで研摩仕上げして試験片とした。
耐食性の評価は、JIS Z 2371に規定される塩水噴霧試験により行い、試験時間は24時間とし、錆の発生有無を目視で評価した。
(c)熱間加工性評価試験
熱延鋼帯あるいは熱延コイルの幅両端部を観察して、耳割れの有無を目視評価した。
<実施例1>
表1に示した化学組成の鋼を実験室で溶解し、重さ50kgの鋼塊に鋳造した。鋼塊は一旦常温まで冷却した後、850℃で4時間の完全焼きなましを行い、炉内で緩冷却して焼きなました後、表面を切削した。しかる後、鋼片を1230℃に加熱して、4.5mmに熱間圧延し、得られた熱延鋼帯を巻取再現炉に入れて、750℃で一時間保持した後常温まで冷却した。その後、850℃で4時間の完全焼戻しを行い、室温まで炉内で緩冷却した。このようにして得られた熱延焼鈍鋼板の表面の酸化スケールをショットブラストで除去し、試験材とした。
評価試験結果を、表1および図1に示した。表1に示すように、本発明鋼では、900℃、1050℃短時間の均熱で焼入れを行なった場合の硬度は、硬度差が小さく、ブレーキディスクに要求される硬さHRC:32〜38に収まった。耐食性も良好である。
また、図1に示すように、C+0.8×N=0.055〜0.080%、C/N=0.6〜1.2の範囲を満たす場合に、900℃焼入れ硬度と1050℃焼入れ硬度差が小さく、低温から高温まで安定した焼入れ硬度が得られたことが分かる。
これに対して、比較鋼は、焼入れ加熱温度900℃、1050℃の範囲で安定した焼入れ硬度を得られないか、耐食性が悪い、又は、耳割れが発生している等の品質問題が認められた。
Figure 0005301949
900℃と1050℃の焼入れ硬度がHRCで32〜38にあり、硬度差が5以下のものを○のシンボルで表記した。いずれかの硬度が32未満、38超である場合は、●シンボル表記した。
<実施例2>
量産試験として、表2に示す化学組成を有する2種類の鋼を転炉−VOD−PIM法で溶製し、連続鋳造機により厚さ200mm、幅1220mm、長さが、15.5〜17.5トンのスラブを鋳造した。これらのスラブは、1230℃に加熱し、巻取温度を730〜780℃とした熱延を行い、厚さ5.5mmの熱延鋼帯とした。得られた熱延鋼帯は箱型焼鈍炉で、炉内最冷点の温度が850℃に達してから4時間保持し、炉内で500℃まで緩冷却した後、炉外で空冷して熱延焼鈍鋼帯とした。熱延焼鈍鋼帯は、ショットブラストによる機械的デスケーリングを行なって、スケールを除去した。この鋼帯より試験材を切り出して評価試験に用いた。
Figure 0005301949
評価試験結果は、表2および図2に示すとおり、量産製造した鋼板も試験室溶製材と同様に、900℃以上の温度で安定した硬度が得られた。耐食性も良好であり、熱延コイルの耳割れも認められなかった。これに対して、比較鋼の場合は、900℃焼入れでは十分な硬さが得られておらず、900℃〜1100℃の間で急激に硬度が上昇する傾向が見られた。即ち、主にCによって硬度を得ている比較鋼は溶体化温度が高く、長時間の溶体化が必要であるのに対し、本発明鋼は、CとNのバランスを最適化することで溶体化温度を下げることが可能になり、安定した焼入れ性が得られたと考えられる。
本発明のブレーキディスク用ステンレス鋼は、オートバイディスクの製造コストダウンを可能にすると共に、品質を安定化させ、有用性が極めて高い。
C+0.8N量、C/N比が、900℃焼入れ硬さと1050℃焼入れ硬さの硬度差との関係を示す図である。 量産製造材の850〜1050℃の焼入れ加熱温度と硬度の関係を示す図である。

Claims (1)

  1. 質量%で、
    C:0.025〜0.055%、
    N:0.030〜0.060%、
    Si:0.25〜0.45%、
    Mn:1.0〜1.5%、
    Ni:0.3%以下、
    Cr:11.5〜13.5%、
    Cu:0.3〜0.8%、
    Al:0.001〜0.010%を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、C+0.8×N:0.055〜0.080%およびC/N=0.6〜1.2を満足し、かつ、式1で表されるγpが85〜100未満、焼入れ後の硬さがHRCで32〜38であることを特徴とするディスクブレーキ用マルテンサイト系ステンレス鋼。
    γp=420[%C]+470[%N]+23[%Ni]+9[%Cu]+7[%Mn]−11.5[%Cr]−11.5[%Si]−52[%Al]+189 ・・・ 式1
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