JP5466897B2 - 低炭素マルテンサイト系ステンレス鋼とその製造方法 - Google Patents

低炭素マルテンサイト系ステンレス鋼とその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、二輪車のディスクブレーキ用マルテンサイト系ステンレス鋼に関し、焼入れ前に、剪断やプレス加工を行なう際に、加工性に優れた素材、そしてその製造方法に関するものである。
二輪車のディスクブレーキは、耐磨耗性、耐銹性、靭性等の特性が要求される。耐磨耗性は、一般に硬さが高いほど大きくなる。一方、硬さが高過ぎるとブレーキとパッドの間でいわゆるブレーキの鳴きが生じるため、ブレーキの硬さは、35±3HRC(ロックウェル硬さCスケール)が求められる。以上の硬さ調整および耐銹性を得るため、ディスクブレーキ材料にはマルテンサイト系ステンレス鋼が用いられている。
従来は、SUS420J1を焼入れ・焼戻しの熱処理により所望の硬さに調整し、ブレーキとしていた。この場合、焼入れと焼戻しの2つの熱処理工程を要するため、省工程・省エネルギーの目的で、焼入れままでブレーキとして使用できるマルテンサイト系ステンレス鋼への要望が高まった。
この要望に対し、低C化および低N化し、これに伴ってオーステナイト温度域が縮小し、焼入れ可能温度域が狭くなるため、オーステナイト形成元素のMnを添加することにより、焼入れままで、従来鋼より広い焼入れ温度域で、安定して所望の硬さを得ることができる鋼組成が開示された(特許文献1)。しかし、この鋼はMnを1.0〜2.5%と多く含有するため、焼き入れ熱処理時におけるスケールが厚くなり研摩性を損ねることが懸念される。
このスケールに関する問題点を改善するために、Mnを低く抑え、その代わりに耐銹性を害しないCuおよびNをそれぞれ0.5〜1.0%、0.03〜0.07%添加して、焼入れ安定性を確保する組成が開示された(特許文献2)。この鋼では、焼入れ安定性と耐銹性は目的通り確保されたが、Nを0.03%以上添加しているため、ブレーキ使用中の制動発熱で焼戻しを受けた場合、微細な窒化物が析出して靱性が低下することが危惧される。また、ブレーキによる制動発熱は、500〜600℃に達する場合もあると言われており、以上述べた従来鋼では、これらの温度域に達した場合、焼戻し軟化が避けられないという課題があった。
この問題を改善するために、N量を0.03%以下に制限することで、制動発熱による軟化抵抗を改善すると共に、γpを90以上にすることによって900〜1150℃の温度範囲で安定して焼入れを行なえるように考えられた組成が開示されている(特許文献3)。しかしながら、当該組成では熱間加工性が低く、鋼帯の幅端部に耳割れと呼ばれる亀裂が生じ、歩留まりを低下させる問題があった。
これらの問題を解決するために、焼入れ安定性の観点からγpを85〜90にすると共に、熱間割れの観点からMn:1.4〜1.5%、Cu:0.5%〜0.6%と極狭い範囲で成分を最適化し、焼入れ後の特性に優れ、熱延時の割れによる歩留まり低下も抑制することを可能にした材料が開示された(特許文献4)。
また、製造技術に関する発明としては、焼入れ後の研摩工程における被削性を改善する技術として、所定の組成を有する熱延鋼板を焼鈍する際に、均熱温度T(℃)、均熱時間をt(hr)とするとき650≦T≦950とし、t≦−T/a+bを、a=80、b=15又は、a=50、b=23とすると共に、T℃から500℃までの冷却速度を20℃/hr以下とすることで、研摩性に優れたスケールを生成する技術が開示されている(特許文献5)。
特開昭57−198249号公報 特開昭61−174361号公報 特開2003−321753号公報 特開2008−285692号公報 特開2003−253340号公報
ところで、ディスクブレーキに用いられる低炭素マルテンサイト系ステンレス鋼板は、熱延鋼板のままもしくは焼鈍(熱延板焼鈍)されたのち、スケール付きのままもしくは、ショットブラスト、或いは酸洗によりスケールの大部分を除去されて出荷されたのち、場合によってはブレーキディスクのサイズに応じた幅に加工され、その後、ブレーキディスクの製造メーカーにおいて、円形、或いは円形に類する多角形に剪断され、その後、ディスクとして使用する際の水抜きや、軽量化、更には意匠性を目的とした種々のピアス加工や、型抜き、型押し等のプレス加工が行なわれる。
これらのプレス加工は、近年の軽量化や意匠性向上のニーズに沿うように、複雑になってきており、ピアス穴や、型抜き穴、型押し部、外周の剪断面などが近接するようになってきたため、剪断面から亀裂が生じ、製品の歩留まりを低下させる問題が増えてきた。亀裂の発生は、頻度としては数%程度であるが、亀裂のある材料は補修が不可能なため屑になるほか、全量を詳細に検査しないといけないため、生産性を損ねる問題もあった。
本発明の目的は、焼入れ前のプレス加工時の加工性の向上を図って、プレス加工、検査負荷の低減、そしてブレーキディスクの設計自由度の向上を可能にするディスクブレーキ用低炭素マルテンサイト系ステンレス鋼板とその製造方法を提案することにある。
本発明において重要なことは、焼入れ処理前の成形性の向上、すなわち素材を焼入れ処理する前に、剪断やピアス加工など種々の加工を行なう際に、これら複数回の加工に於いて割れの発生を抑制する素材特性を造りこむところにある。そのために、発明者らは、割れがブレーキディスクのどの部位で、またどの工程でどの様な機構で発生しているかを調べた。その結果、割れは複数回の加工後に生じるものであり、前工程で形成された剪断面の比較的大きな凹凸を起点とし、その凹凸近傍に次工程で衝撃と引張応力が作用した際に脆性破壊が生じることを見出した。即ち、焼入れ前の材料靭性や剪断面形状を制御することが本課題の解決の方向性と考えられた。
発明者らは、まず焼入れ前の材質、特に靭性に関して、従来技術と、課題と、靭性との関連について検討した。その結果、従来技術が抱えている上記課題は、図1に示すようにCrFe炭化物の形態を制御することで解決することを見出し、その制御方法として熱延板焼鈍の最適な保定温度と時間範囲そして、冷却速度範囲を見出すと共に、その析出物制御を安定して可能とするよう析出核となるCu系の析出物を適正な量と形で分散させるため、Cu量を最適化することが重要であることを見いだした。
更に、剪断面形状を制御し、脆性破壊の起点を低減する方策を検討し、硬質炭窒化物を形成するTi,Nb,Vの量を制御することが重要であることを見出して、本発明を完成させた。
すなわち、本発明の骨子とするところは、特許請求の範囲に記載した通りの下記内容である。
(1)質量%で、C:0.035〜0.055%、N:0.015〜0.025%、Si:0.25〜0.50%、Mn:1.4〜1.8%、Ni:0.5%以下、Cr:12〜13%、Cu:0.5%〜0.8%、Mo:0.50%以下、V:0.10%以下、Ti:0.05%以下、Nb:0.05%以下、Al:0.001%〜0.010%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなり、C+N:0.06〜0.08%を満足し、かつ、式1で表されるγpが80以上95未満、式2で表されるK値が0.35以下である組成を有し、鋼板中のFeCr炭化物の長径/短径比が2.0以下であることを特徴とする低炭素マルテンサイト系ステンレス鋼。
γp=420[%C]+470[%N]+23[%Ni]+9[%Cu]+7[%Mn]
−11.5[%Cr]−11.5[%Si]−12[%Mo]−23[%V]
−47[%Nb]−49[%Ti]−52[%Al]+189・・・式1
K値=33[%Ti]+10[%Nb]+[%V]・・・式2
(2)熱間圧延後焼鈍の焼鈍温度を800℃以上900℃以下とし、当該温度域における保定時間を1時間以上30時間以下とし、750〜600℃の冷却速度を35℃/hr以下とすることを特徴とする(1)に記載の低炭素マルテンサイト系ステンレス鋼の製造方法。
本発明により、焼入れ前のプレス加工における成形性に優れた低炭素マルテンサイト系ステンレス鋼が提供できる様になり、検査工程の負荷低減、歩留りの向上、設計やデザイン自由度の拡大など、産業上有用な著しい効果を奏する。
透過電子顕微鏡で観察した析出物の形態を示す写真であり、左は析出物が球状化しているもの、右は析出物が板状や棒状のものである。 析出物の形態(長径と短径の比)と靭性の関係を示す図である。 熱延焼鈍板の靭性に及ぼすCu量の影響を示す図である。
本発明者らは、従来技術の項で述べた種々の低Cマルテンサイト系ステンレス鋼について、熱延板焼鈍の条件と組成が熱延板焼鈍後の靭性に及ぼす影響について、実験した。以下に、この実験条件について、詳しく説明する。
(実験1)
この実験では、C:0.04%、Si:0.3%、Mn:1.46%、Cr:12.3%、Cu:0.51%、Mo:0.01%、Ti:0.001%、Nb:0.005%、V:0.07%、N:0.02%を基本組成とする鋼を溶製して、厚さ250mmのスラブとし、1230℃に加熱後、熱延終了温度980℃、巻取温度:830℃とする熱間圧延により、板厚3.8mmの熱延鋼板としたものを供試材として用いた。この熱延板に対し、均熱温度を700〜1000℃、均熱時間を1〜20時間の範囲で変化させた熱延板焼鈍を施した。このときの昇温速度は300℃までを150℃/h、均熱温度−100℃までを30℃/hr、その後、均熱温度までを10℃/hrとした。また、均熱後の冷却速度は25℃/hr一定として、350℃まで冷却した。
得られた熱延焼鈍板について、靭性の評価を行った。試験はシャルピー衝撃試験で行い、板厚ままのサブサイズ試験片を圧延方位にVノッチをつけて作成した。試験は−60〜100℃の範囲で行い、延性脆性遷移温度(DBTT)を測定した。熱延焼鈍板の析出物を観察するため、板厚の1/4部を鏡面研摩し、電解エッチングを行なった後、レプリカ試料を作成し、透過電子顕微鏡で析出物の形態を測定した。まず、観察された析出物の代表的な形態を図1に示した。析出物、即ち、(Cr,Fe)236が球状化しているものは延性脆性遷移温度が−30℃であるのに対して、析出物が板状や棒状であるものは、延性脆性遷移温度が30℃と相対的に高いことが分かった。そこで、析出物の形態(長径と短径の比)が熱延板焼鈍後の靭性に及ぼす影響について図2に整理した。
延性脆性遷移温度は析出物の形態と良い相関を示しており、析出物が球状化すると共に、延性脆性遷移温度が下がることを知見した。延性脆性遷移温度が0℃を超えるようになると、冬季のプレス加工で容易に脆性破壊することが伺えた。また一般に、板厚が厚くなると、同一材質であっても延性脆性遷移温度は高くなるため、析出物の形態制御をより球状化させることが必要になる。
(実験2)
この実験では熱延焼鈍板の析出物や靭性に及ぼす成分の影響を調べる実験を行った。即ち、C:0.038%、Si:0.3%、Mn:1.5%、Cr:12.1%、Cu:0〜0.10%、Mo:0.01%、Ti:0.001%、Nb:0.005%、V:0.07%、N:0.02%を基本組成とする鋼を実験室で溶製して、厚さ100mmの鋼塊とし、1160℃に加熱後、熱延終了温度980℃、巻取温度:750℃とする熱間圧延により、板厚5.3mmの熱延鋼板としたものを供試材として用いた。この熱延板に対し、均熱温度を850℃、均熱時間を2時間とした熱延板焼鈍を施した。このときの昇温速度は30℃/hrとした。また、均熱後の冷却速度は30℃/hr一定として、500℃まで冷却した。得られた熱延焼鈍板について、靭性の評価と析出物の形態評価を(実験1)と同様の手法で行った。熱延焼鈍板の靭性に及ぼすCu量の影響を図3に示した。Cu量が延性脆性遷移温度に大きく影響しており、0.5〜0.8%の狭い範囲で延性脆性遷移温度が0℃を下回ることを知見した。
<化学成分>
次に、本発明の成分限定理由を述べる。CおよびNは、ディスクブレーキ用途に必要な焼入れ硬さを高め耐磨耗性を得るのに有効な元素である。
Cは、焼き入れ後の耐食性を確保するために上限を設けた。また焼戻し軟化抵抗を高めるとともに、焼入れ加熱時のオーステナイト単相温度域を拡大するために下限を設定した。したがって、Cの範囲を0.035〜0.055%とする。
Nは、過度に添加するとブレーキ制動発熱による焼戻しでCr2Nが微細に析出し、靭性低下の原因になるので.上限を0.025%とする、また、固溶Nは耐食性を高める効果があるほか、Cと同様にオーステナイト安定化元素として焼入れ加熱時のオーステナイト単相温度域を拡大するため下限を0.015%とする。
また、ディスクブレーキとして所望の硬さ、35±3HRCを得るために、C+Nの範囲を0.06〜0.08%とする。
Siは、脱酸元素として不可欠であるが、過度の添加はγpを低下させ、オーステナイト単相温度域を狭くするため、下限を0.25%、上限を0.50%とする。
Mnは脱酸と焼入れ可能温度域を拡大するため、また、熱延時におけるSをMnSとして固定し固溶Sを低減することで高温延性を改善する作用を有するため下限を1.4%とした。しかしながら、過度の添加は焼入れ加熱時のスケール生成を助長し、次工程における研摩負荷を増すため、1.8%を上限とした。
Niは、Mnと同様焼入れ加工温度域を広げる効果を有するが、高価であるため、本発明ではスクラップから混入する程度にとどめ、上限を0.5%とする。Niは含有していなくても良い。
Crは耐食性を確保するため最低12%以上を必要とする。しかし、13%を超えると焼入れ温度域でフェライト相が生じ、適正硬度が安定して得られなくなるため、その上限を13%とする。
Cuは、熱延板焼鈍時において、析出物の球状化促進に有効であるため0.5%以上添加する。しかし、過度に添加すると粒界へのε−Cu析出量が増加して、粒界強度を低下するため、熱延焼鈍板の靭性を低下させるので、上限を0.8%とする。
MoはCrと同様に、耐食性を向上させる元素であり、かつフェライト安定化元素である。Crに対するフェライト安定化効果より耐食性向上効果の方が大きいため、マルテンサイト系ステンレス鋼の耐食性向上にCrより有効であるが、高価な元素であること、またリサイクルが難しいことから、その上限を0.50%以下とする。Moは含有していなくても良い。
Nbは、合金元素として積極的に添加しない場合も、他の合金原料やスクラップと共に、不可避的に混入する元素であり、硬質の炭窒化物を形成する。また、固溶状態ではフェライト安定化元素として作用するほか、炭窒化物を形成すると母相の固溶C,Nを低減することによって、フェライト安定化効果を示す。特に、硬質の炭窒化物は剪断面の凹凸を助長するため0.05%以下とする。Nbは含有していなくても良い。
Vは合金原料と共に、不可避的に混入してくる元素であり、硬質の炭窒化物を形成する。また、固溶状態でフェライト安定化元素として作用するほか、炭窒化物を形成すると固溶C,Nを低減することにより、フェライト安定化効果を示す。特に、硬質の炭窒化物は剪断面の凹凸を助長するために、その上限を0.10%以下とする。Vは含有していなくても良い。
Tiは、合金元素として積極的に添加しない場合でも、合金原料と共に、不可避的微量に混入してくる元素であり、硬質の炭窒化物を形成する、また、固溶状態でフェライト安定化元素として作用するほか、炭窒化物を形成すると固溶C,Nを低減することにより、フェライト安定化効果を示す。特に、硬質の炭窒化物は剪断面の凹凸を助長するために、その上限を0.05%以下とする。Tiは含有していなくても良い。
Alは、精錬時のスラグ塩基度を調整し脱硫するために、下限を0.001%とする。但し、あまり高くなると脱硫時に水溶性介在物CaSが晶出し耐食性を低下させるため、上限を0.010%とする。
また、本発明では、熱延時の相バランスを最適化することで高温延性を改善し耳割れの発生を防止するため、オーステナイト形成元素とフェライト形成元素の好適組成として、式1で表されるγpが80以上、95未満を満足するように添加成分を調整する。
γp=420[%C]+470[%N]+23[%Ni]+9[%Cu]+7[%Mn]−11.5[%Cr]−11.5[%Si]−12[%Mo]−23[%V]−47[%Nb]−49[%Ti]−52[%Al]+189 ・・・式1
尚、この式における[%C]、[%N]、[%Ni]、[%Cu]、[%Mn]、[%Cr]、[%Si]、[%A1]、[%Mo]、[%Ti]、[%Nb]はそれぞれの成分の質量%を示す。
ここで示すγpとは、Ac1点以上におけるオーステナイト安定度を表す指標である。γpが高いほど、Ac1点以上におけるオーステナイトの最大分率が高いことを意味する。
耳割れに対しては、δフェライトが少なすぎると、オーステナイト粒界にSが偏析し、粒界脆化を起こすことで耳割れが発生するため、Sを固溶し無害化するうえで最小限度のδフェライトの存在が必要となる。そこで、γpの上限を95未満とした。また、δ相分率が高くなると今度はδフェライトとオーステナイトの強度差、変形能の違いによってδフェライトとオーステナイトの界面に亀裂が生じ耳割れの原因となるため、δフェライトの量が多すぎてはいけない。したがって、γpの下限を80以上とした。熱間圧延時に、γpを80〜95にすることによって、好ましいδフェライト量5〜20%を確保することで、耳割れを防止し、高い歩留まりを得ることが可能となる。
更に、本発明では熱延焼鈍板の剪断面形状を凹凸の比較的少ないものにするために、式2で表されるK値が0.35以下を満足するように、合金原料を選択配合して調整する。
K値=33[%Ti]+10[%Nb]+[%V] ・・・式2
尚、この式における[%Ti]、[%Nb]、[%V]はそれぞれの成分の質量%を示す。
ここで示したK値とは、剪断面性状を劣化させる原因となる硬質の炭窒化物の有害性を指標化したものである。特にTi系炭窒化物は有害であるため、その係数をVの33倍とした。NbはTiに較べると係数が小さくなるが、Vの10倍の影響を呈する。
剪断面形状の良否は、二次剪断面比率で大まかに評価できると考えられた。ここで、二次剪断面比率とは、板厚方向に垂直な剪断長さを分母とし、二次剪断面が認められた剪断面長さを分子とした値である。Ti,Nb,V系の炭窒化物は、(Cr,Fe)236に較べて、硬質であり、また析出温度も高いため、より粗大に析出し、これら大型析出物を起点に破断面が粗れ、二次剪断面比率が増加する。すなわち、K値の増加と共に、二次剪断面比率が増加する。また、金型の磨耗も助長するため剪断面の凹凸が大きくなり、二次剪断面比率が更に増加する。そこでK値の上限を0.20以下とし、大型の硬質炭窒化物を抑制し、剪断面を二次剪断面比率10%以下になり、剪断面を起点とする脆性破壊はFeCr炭化物の形態が、長径/短径比で2.0以下であれば0℃以上の温度で脆性破壊が起こらなくなる。ここで、二次剪断比率を10%以下にする様にしたのは、剪断面に脆性破壊が生じなかった良品の二次剪断面比率を調べた結果、10%以下であったためである。
FeCr炭化物の形状は、靭性に大きく影響する。長径/短径比が2.0を超え、板状や棒状に析出したFeCr炭化物は、低歪で容易に破壊して母材に破壊起点を生じる。このことは、実験1とその結果である、図1および図2から明らかである。そこで、FeCr炭化物の長径/短径比の上限を2.0以下とした。FeCr炭化物の長径/短径比が2.0以下になる場合、平均粒径は約0.2〜2.0μmとなる。
<焼鈍条件>
熱延鋼板は、大部分がマルテンサイト組織であるため、剪断加工やプレス加工を行なう前に、焼き戻して軟質化させることが必要である。この目的だけであれば、熱延板焼鈍温度は650℃以上、800℃未満でも十分である。しかしながら、当該温度で焼戻しを行なうと、FeCr炭化物は板状に析出し、熱延焼鈍板の靭性を劣化させる。すなわち、炭化物が一部固溶する温度で炭化物を球状化させるために、焼鈍温度は800℃以上とした。但し、焼鈍温度が高すぎると焼鈍時に酸化スケールが厚くなり、デスケーリング肯定の負荷が大きくなるために、上限を900℃とした。
また、熱延板焼鈍の時間は、炭化物の球状化に必要な拡散時間を確保するため、1時間以上とした。但し、長時間になると生産性を阻害するほか、スケールが厚くなって、デスケーリング工程の負荷が増える問題も出てくるために、30時間以下とした。
焼鈍時には、炭化物が部分的に固溶する温度を利用して、炭化物の球状化を促進するため、固溶したCが焼鈍後の冷却過程に於いて、粒界に板状や棒状に析出することを防止しなければならない。そこで、既に析出している球状の炭窒化物を核に、冷却過程で炭化物を析出させるように、冷却速度は35℃/hr以下とした。好ましい範囲は18〜25℃/hrである。
炭化物の球状化は、オーステナイト相(γ)からフェライト相(α)に変態直後、最も進みやすいと考えられるため、焼鈍後の冷却速度を管理する必要がある温度域は、γ/α変態が冷却時に進む温度範囲と考えられる。発明者らは、当該鋼の連続冷却変態図を実験により求め、γ/α変態が750〜600℃で生じることを見いだした。そこで、冷却速度を35℃/hr以下に制御する温度範囲は、750℃以下でかつ、600℃以上とした。 実操業の箱焼鈍では、広範囲な温度域を一定の冷却速度で、コイル内均一に冷却することは困難であり、温度域毎に冷却速度が変化するのが一般的であるが、冷却速度管理の必要な温度域を限定することで、生産性が向上し、操業管理も容易になる。
以上のとおり、本発明の低炭素マルテンサイト系ステンレス鋼は、熱間圧延後焼鈍を施し、熱間圧延後焼鈍の焼鈍条件を上記好ましい条件とすることにより、鋼板中のFeCr炭化物の長径/短径比を2.0以下とすることができる。
表1に示す成分の鋼を実験室で溶製し、厚み100mmの鋼塊に鋳造した。溶製後に酸素濃度が80ppm以下に下がらず、通常以上の脱酸処理を要した場合、脱酸精錬負荷増のため当該鋼は不合格とした。鋳造した鋼塊は湯皺を研削除去して、厚み80mmとした後、実験室で熱間圧延し板厚4.3mmとした。熱間圧延前の加熱温度は1160℃、仕上げ温度は930℃、空冷で冷却し、760℃の熱処理炉に入れて、1時間保熱して、巻取りをシミュレーションした。
熱延板における耳割れの有無を評価した。耳割れの評価は熱延板2m長さの両端部性状を目視観察し、亀裂の有無で評価した。
熱間圧延に引き続き、熱延板を表2に示した種々の条件で焼鈍を行いその後冷却した。
熱延焼鈍板の靭性をシャルピー衝撃試験で測定した。試験片は板厚ままのサブサイズ試験片とし、Vノッチを圧延方向とした。また、当該鋼の延性脆性遷移温度(破面遷移温度)は吸収エネルギーが20J/cm2になる温度に対応したため、試験温度は0℃とし、衝撃値が20J/cm2以上ある場合を靭性に優れる、即ち延性脆性遷移温度が0℃以下であると判断した。尚、衝撃特性の評価は、JIS Z 2242に従い実施した。
熱延焼鈍板の析出物をレプリカ試料を用いて、透過電子顕微鏡で観察し、5000倍の倍率で写真を10視野撮影し、画像解析装置を用いて、析出物の長径/短径比を測定した。
また、熱延焼鈍板から焼入れ熱処理用のサンプルを切り出し、焼き入れ熱処理を行った。熱処理は、950℃に10分間加熱後に、金型焼入れを行なって、常温まで冷却した。焼入れたサンブルの硬度測定をロックウエル硬度計を用いて行った。焼入れままの硬さは、ディスクブレーキとして一般に要求される、35±3HRCを満たすことを必要条件とした。耐食性評価用と剪断面性状の評価のため、熱延焼鈍板を150×70mmに各20枚剪断した。剪断面の二次剪断面比率が全周の1割以下を合格とした、引き続き、同様に加熱焼入れし、表面を研摩して#600仕上げとした。JISZ2371に規定される塩水噴霧試験を24時間行なって、赤錆が認められたものを耐食性不良とした。また、表面が均一な研磨面になるまでの時間を比較評価し、研摩時間が他の平均値の1.5倍を超えたものを研摩性不良とした。

本発明の条件に従う場合、熱延板において耳割れが発生しなかった。熱延板焼鈍後の析出物がその長径/短径比で2.0以下に有り、球状化が進んでいた。このため、焼入れ前のプレス加工時に必要となる衝撃靭性に優れた特性を示した。引き続き行なった焼入れ後には、焼入れ硬さが35±3HRCを満足し、所望の硬さが得られた。
しかし、比較例のNo.16、17は、γpが低すぎるため、熱延時のδフェライト量が多く、耳割れが発生した。一方、比較例No.19は、γpが高すぎるため、熱延時のδフェライト量が極めて少ないため、耳われが発生した。また、比較例No.13は、C+Nが低く焼入れ硬さが目標を下回った。一方、比較例、No.28は、C+Nが高く、焼入れ硬度が目標範囲を超えた。
また、比較例のNo.14、15、16、20、21、25、29は、析出物の長径/短径比が2.0を超えており、その結果0℃の衝撃値が20J/cm2を下回った。また、No.22は析出物の球状化が進んでいるが、Cuの過剰添加に起因する粒界脆化により靭性が低かった。これら比較例に於いて析出物の球状化が進まなかったものは、Cu量が最適範囲に無いか、熱延板焼鈍が適切な範囲で成されていないものであった。
同様に、本発明のいずれかの条件から外れる比較例は、本発明例に比べて特性が劣り、総合評価が不合格だった。比較例のNo.23、24、27は、K値が上限を外れているため、剪断面の二次剪断面比率が全周の1割を超えていた。比較例のNo.18は、Mn含有量が上限を外れているため、研磨性が不良であった。比較例のNo.26は、N含有量が上限を外れているため、耐食性が不良であった。
以上の実施例により、本発明の効果が確認された。

Claims (2)

  1. 質量%で、
    C:0.035〜0.055%、
    N:0.015〜0.025%、
    Si:0.25〜0.50%、
    Mn:1.4〜1.8%、
    Ni:0.5%以下、
    Cr:12〜13%、
    Cu:0.5%〜0.8%、
    Mo:0.50%以下
    Nb:0.05%以下
    Ti:0.05%以下
    V:0.10%以下
    Al:0.001%〜0.010%を含有し、
    残部Feおよび不可避的不純物からなり、
    C+N:0.06〜0.08%を満足し、
    かつ、式1で表されるγpが80〜95未満であり、式2で表されるK値が0.35以下の組成を有し、
    鋼板中のFeCr炭化物の長径/短径比が2.0以下であることを特徴とする低炭素マルテンサイト系ステンレス鋼。
    γp=420[%C]+470[%N]+23[%Ni]+9[%Cu]+7[%Mn]
    −11.5[%Cr]−11.5[%Si]−12[%Mo]−23[%V]
    −47[%Nb]−49[%Ti]−52[%Al]+189 ・・・式1
    K値=33[%Ti]+10[%Nb]+[%V] ・・・式2
  2. 熱間圧延後焼鈍の焼鈍温度を800℃以上900℃以下とし、当該温度域における保定時間を1時間以上30時間以下とし、750〜600℃の冷却速度を35℃/hr以下とする請求項1に記載の低炭素マルテンサイト系ステンレス鋼の製造方法。
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