JP5300993B2 - 低カリウム野菜を栽培するための水耕栽培用肥料及びその肥料を用いた低カリウム野菜の水耕栽培方法 - Google Patents

低カリウム野菜を栽培するための水耕栽培用肥料及びその肥料を用いた低カリウム野菜の水耕栽培方法 Download PDF

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Description

この発明は、低カリウム野菜を栽培するための水耕栽培用肥料及びその肥料を用いた低カリウム野菜の水耕栽培方法に関する。
腎臓病患者は体内のカリウムを十分に排泄することができないので、カリウムの摂取量が制限されている。このような腎臓病患者のために、カリウム含有量の少ない低カリウム野菜の栽培方法が研究されている。例えば、この種のものとして、特許文献1に記載された低カリウムホウレンソウの栽培方法が知られている。
特許文献1に記載の低カリウムホウレンソウの栽培方法は、全栽培期間を前半と後半とに分け、前半は通常の水耕栽培に用いるカリウムを含有した肥料を用い、収穫直前となる後半は、カリウムを除いた肥料を用いるようにしている。
具体的には、栽培の前半には、カリウムを含有した通常肥料を入れた水耕液を用い、後半はこの通常肥料からカリウムを除くとともに、水酸化ナトリウム(NaOH)を加えた肥料を入れた水耕液を用いるようにしている。
なお、上記のように肥料に水酸化ナトリウムを加えたのは以下の理由による。
上記特許文献1に記載の栽培方法で用いた通常肥料には、カリウムが硝酸カリウム(KNO)として含有されている。このような肥料から、カリウムを除く目的で硝酸カリウムを除くと、硝酸態窒素も除かれてしまう。
そこで、この硝酸態窒素の不足を補うため、上記特許文献1の栽培方法では、硝酸(HNO)を添加しているが、このように硝酸を添加すると水耕液が酸性に偏ってしまう。しかし、酸性では植物の生育が難しいので、水耕液のpH値を調整する必要があり、上記栽培方法においては、水酸化ナトリウム(NaOH)を添加して水耕液をほぼ中性に調整しているのである。
これにより、全栽培期間を通じてカリウムを含有した通常肥料を用いて栽培した通常のホウレンソウと比べて、発育状態は変わらずに、カリウム含有量が少ないホウレンソウを栽培することができる。
特開2008−061587号公報
上記特許文献1に記載された栽培方法によれば、カリウムの含有量を通常のホウレンソウに比べて半分近くに減らすことができたが、一方でナトリウムの含有量が通常のホウレンソウの10〜20倍になってしまった。このようにナトリウム含有量が多くなった理由は次のように考えられる。
上記のように、栽培期間の後半に用いる肥料に水酸化ナトリウムを加えてpH調整したために、水耕液中のナトリウム含有量が多くなってしまった。その上、この肥料にはカリウムが含まれていないので、ホウレンソウはカリウムの代わりに、他の成分よりも吸収しやすいナトリウムを多く吸収してしまう。その結果、栽培されたホウレンソウは、そのナトリウム含有量が、通常の10〜20倍と非常に多くなったと考えられる。
しかし、腎臓病患者は、腎臓機能が劣っているので、必要以上のナトリウムを摂取すると、ナトリウムを十分に排出できくなるとともに、ナトリウムを排出できないと高血圧症になってしまう。そして、腎臓病患者が高血圧症になると腎臓障害の進行が早くなってしまうことが知られている。
そのためにナトリウムを大量に含んだホウレンソウを食べると、体内のナトリウム濃度が高くなって高血圧症になり、腎臓障害の進行も早くなってしまう。
このような理由から、従来の栽培方法で栽培したホウレンソウは、カリウム含有量を少なくできるが、ナトリウム含有量が多くなり、腎臓患者が食するのに適さないものになってしまうという問題があった。
この発明の目的は、ナトリウムの含有量が増えるのを抑えながら、カリウムの含有量も少なくして、腎臓病患者でも安心して食することができる低カリウム野菜を栽培するための水耕栽培用肥料及びその肥料を用いた低カリウム野菜の水耕栽培方法を提供することである。
第1の発明の肥料は、実質的にカリウム及びナトリウムを配合せず、カルシウム、マグネシウム、リン、及び窒素を主成分とし、これら主成分を水に溶かしたときのpH値が5〜9になることを特徴とする
第2の発明は、上記第1の発明を前提とし、上記主成分のうちのマグネシウムの含有割合は、その下限値を5重量%としたことを特徴とする。
第3の発明は、栽培する野菜に応じて種まきから収穫までの期間をあらかじめ設定し、収穫から遡った所定の期間を最終栽培期とし、この最終栽培期の前の期間を初期栽培期とし、上記最終栽培期は、上記第1又は第2の発明の水耕栽培用肥料を用い、上記初期栽培期は、カリウム、カルシウム、マグネシウム、リン、及び窒素を主成分とする肥料を用いることを特徴とする低カリウム野菜の水耕栽培方法である。
第4の発明は、第3の発明を前提とし、上記最終栽培期の期間を11日間〜17日間としたことを特徴とする。
第1の発明の水耕栽培用肥料を用いることで、カリウムの含有量が少なく、しかもナトリウム含有量も抑えた低カリウム野菜を栽培できた。この低カリウム野菜のナトリウム含有量を、例えば特許文献1に記載された肥料を用いて栽培したホウレンソウなどに比べて飛躍的に少なくすることができた。
しかも、この発明の肥料を用いて栽培された野菜を、通常実施されている平均的な栽培期間の範囲で、カリウムを含有する肥料で栽培された野菜と比べて全く遜色ない生長度に生長させることができた。
第2の発明では、最終栽培期に用いる肥料の主成分中のマグネシウムの含有割合の下限値を5重量%としたので、野菜はカリウムの代わりにマグネシウムを十分に吸収することができる。このようにマグネシウムを十分に吸収して生長した野菜は、第1の発明の効果に加えて、枯れなどの生長障害を起こすことがなく、見た目も美しく、より安定した生長を実現できる。
また、第3の発明の栽培方法によれば、特許文献1に記載された肥料を用いて栽培されたホウレンソウなどに比べてナトリウムの含有量を飛躍的に少なくしたうえで、カリウムの含有量が少ない低カリウム野菜を栽培することができる。
第4の発明では、上記最終栽培期の期間を11日間〜17日間とすることによって、第3の発明の効果に加えて、より確実に低カリウム野菜を栽培できるようになる。
さらに、この発明の水耕栽培用肥料あるいは水耕栽培方法を用いて栽培した低カリウム野菜は、もともとカリウムの量が少ないので、生で食することも可能であるし、軽く茹でるだけでほとんどのカリウムを溶出させることができる。従って、長時間茹でる場合と比べて他の栄養素を溶出させたり破壊したりすることを最小限に抑えることができる。
図1はこの発明の水耕栽培期間を示した図である。 図2はこの発明の水耕栽培用の発明肥料1を用いた水耕液の組成を示した表である。 図3はこの発明の水耕栽培用の発明肥料2を用いた水耕液の組成を示した表である。 図4はこの発明の水耕栽培用の発明肥料3を用いた水耕液の組成を示した表である。 図5はこの発明の水耕栽培用の発明肥料4を用いた水耕液の組成を示した表である。 図6はこの発明の水耕栽培用の発明肥料5を用いた水耕液の組成を示した表である。 図7はこの発明の水耕栽培用の発明肥料6を用いた水耕液の組成を示した表である。 図8はこの発明の水耕栽培用の発明肥料7を用いた水耕液の組成を示した表である。 図9は比較試験のため、マグネシウムを含有しない水耕栽培用の比較肥料を用いた水耕液の組成を示した表である。 図10は通常の水耕栽培で用いる通常肥料を用いた水耕液の組成を示した表である。 図11は、低カリウム野菜の栽培試験データを示した表である。 図12は、低カリウム野菜の栽培試験データであり、肥料中のマグネシウムの影響を確認するための栽培試験データを示した表である。
本発明者らは、野菜に用いられる肥料にはカリウムやマグネシウム等いろいろな成分が含まれるが、これらの成分が野菜に対する吸収性が異なることを発見するとともに、その特性を利用して、例えば腎臓病患者に最も適した野菜の栽培に成功したものである。
つまり、カリウムやナトリウムは野菜に対する吸収性が良いために、それを含んだ肥料を用いると、野菜はこれらカリウムやナトリウムを優先的に吸収し、栽培された野菜の中に多くのカリウムやナトリウムが含まれることになる。
しかし、上記したように腎臓病患者は、カリウムやナトリウムを多量に摂取するとそれを尿として排出できないので、体内に蓄積したカリウムやナトリウムが心臓に悪影響を及ぼしたり、高血圧症を発症したりする。
そこで、本発明者らは、肥料の成分としてカリウムやナトリウムを積極的に除くとともに、カリウムやナトリウムに匹敵する吸収性を有し、しかも、野菜の生長に寄与できる成分の発見に努めたところ、カリウムやナトリウム以外に、マグネシウムが吸収性に優れ、しかも栽培過程の後半である最終栽培期ではマグネシウムが葉野菜の生長に大きく寄与しうるものであることを突き止めた。
そこで、本発明者らは、マグネシウムを多くした肥料を開発し、葉野菜の水耕栽培において、この発明の最終栽培期に当該肥料を用いたところ、所期の葉野菜を栽培することに成功した。
以下に、この発明の水耕栽培用肥料を用いて低カリウム野菜を栽培する実施例を、図1を用いて説明する。
まず、図1に示す種まき時Aから収穫時Dまでの栽培期間Lを設定する。
さらにこの栽培期間L内で、通常栽培開始時Bと肥料切り替え時Cを設定する。
つまり、上記収穫時Dから遡った所定の期間L2を設定し、この期間L2の始期を肥料切り替え時Cとするとともに、この肥料切り替え時Cから収穫時Dまで期間L2を最終栽培期L2としている。
上記のようにして肥料切り替え時Cが決まったら、上記種まき時Aから肥料切り替え時Cの直前までの期間を初期栽培期L1とする。
そして、上記初期栽培期L1では、通常の水耕栽培に用いる通常肥料を用いた水耕栽培を行ない、上記最終栽培期L2では、後で説明するこの発明の水耕栽培用肥料を用いるようにしている。
なお、上記栽培期間Lは、栽培する野菜の種類によっておよそ決まっているため、野菜の種類に応じて予め設定することができる。つまり、栽培期間Lは、最終栽培期L2に用いる肥料の種類にかかわらず、栽培する野菜の種類によって設定する。このように栽培期間Lが決まり、上記最終栽培期の長さL2を決めれば初期栽培期L1の長さが決まる。
しかも、初期栽培期L1が決まれば、種まき時Aから起算して通常栽培開始時Bまでの期間である育苗期L3が決まるとともに、育苗期L3が決まれば、次に通常栽培開始時Bから肥料切り替え時Cまでの期間である通常栽培期L4が決まる。
この実施例では上記初期栽培期L1を2期に分けて、前半を育苗期L3、後半を通常栽培期L4としているが、これら各期間の長さは、実験的に行う栽培結果を基にして、野菜に応じた最適な期間を設定するようにする。
また、上記育苗期L3は、種子の発芽から苗の生長が安定するまでの期間であり、通常は野菜の種類に係わらず2週間程度である。そして、育苗期L3が過ぎたら、生長状態の良い苗を選択して植え替え、通常栽培期L4に入る。
この育苗期L3及び通常栽培期L4においては、カリウムを十分に含んだ肥料を用いる通常栽培をして、その生長を促進させる。
なお、育苗期において十分に生長したものを選択し、十分に生長した苗だけを通常栽培するようにすれば失敗がほとんどなくなるので、上記初期栽培期L1を育苗期L3と通常栽培期L4とに分けるようにしている。
上記のように、この実施例では初期栽培期L1では通常肥料を用い、最終栽培期L2ではこの発明の肥料を用いるが、次にこの発明の肥料について説明する。
この発明の水耕栽培用肥料は、実質的にカリウム及びナトリウムを配合せず、カルシウム、マグネシウム、リン、及び窒素を主成分とするとともに、これらを水に溶かしときのpH値が5〜9になるようにしている。
なお、この実施例では、窒素として硝酸態窒素とアンモニア態窒素とを用いている。
また、上記実質的にカリウム及びナトリウムを配合せずとは、肥料の調製時に他の成分量と比べて無視できる程度の量のカリウムやナトリウムの配合は許容するということである。例えば、水耕液の希釈に水道水を用いた場合、水道水に含まれたナトリウムが水耕液に含まれるが、このように水溶液化に用いる水道水に含まれる程度の量は上記無視できる程度の量である。
上記のようなこの発明の水耕栽培用肥料を含んだ水耕液の組成の具体例を、図2〜図8に基づいて説明する。但し、これら図2〜図8に示した水耕液は原液であって、実際に使用するときには、この原液を希釈して用いるものである。
なお、この原液の成分は肥料の成分と同じである。従って、上記図2〜図8に示す水耕液の原液の成分を、そのまま肥料の成分として説明する。
図2の水耕液(原液)に用いる肥料は、上記主成分に対するマグネシウムの含有量を8.5重量%としたものであり、この肥料を発明肥料1という。
また、図3に示す水耕液(原液)に用いる肥料は上記主成分に対するマグネシウムの含有量を23.2重量%としたもので、この肥料を発明肥料2という。
図4に示す水耕液(原液)に用いる肥料は上記主成分に対するマグネシウムの含有割合を40.7重量%としたもので、この肥料を発明肥料3という。
図5に示す水耕液(原液)に用いる肥料は上記主成分に対するマグネシウムの含有割合を42.0重量%としたもので、この肥料を発明肥料4という。
図6に示す水耕液(原液)に用いる肥料は上記主成分に対するマグネシウムの含有割合を6.5重量%としたもので、この肥料を発明肥料5という。
図7に示す水耕液(原液)に用いる肥料は上記主成分に対するマグネシウムの含有割合を5.3重量%としたもので、この肥料を発明肥料6という。
図8に示す水耕液(原液)に用いる肥料は上記主成分に対するマグネシウムの含有割合を4.5重量%としたもので、この肥料を発明肥料7という。
なお、図2〜図8において、網掛けしている欄の成分、すなわち、マグネシウム、カルシウム、硝酸態窒素、アンモニア態窒素及びリンがこの発明の主成分であるが、各発明肥料1〜7には、図示したとおりその他の微量成分も含まれている。
さらに、図9に示す水耕液(原液)に用いる肥料は上記主成分に対するマグネシウムの含有割合を0.0重量%としたもので、この肥料を比較肥料という。この比較肥料は、マグネシウムを含有していない点が、上記発明肥料1〜7と異なるが、カリウム及びナトリウムを実質的に配合していない点は、上記発明肥料1〜7と同じである。
また、実施例における硝酸態窒素とアンモニア態窒素とは、野菜の種類に応じてその量を調整するようにしたものである。
但し、この発明の肥料の主成分としての窒素は、硝酸態窒素とアンモニア態窒素とのいずれか一方を用いるだけでもよいし、カリウムやナトリウムを配合しなければ、どのような化合物として添加するようにしてもよい。
上記したように図2〜図8に示したのは水耕液の原液であり、栽培時にはこれを希釈して用いるが、実際には、上記主成分であるマグネシウム、カルシウム、硝酸態窒素、アンモニア態窒素及びリンごとの水溶液をそれぞれ水で400倍に希釈したものと、他の微量成分ごとの水溶液を2000倍に希釈したものとを混合して水耕液として用いるようにしている。
図9に示す比較肥料を用いた水耕液も、マグネシウム以外の水溶液を上記発明肥料1〜7と同様にして調整したものである。
各成分の水溶液はどのような順序で、混合、希釈してもかまわないが、組み合わせによっては沈殿物が生成されることもある。そこで、沈殿物を生成させる成分を含む原液同士は別々に管理し、それらを希釈してから混合するとよい。
また、上記発明肥料1〜7及び比較肥料は、図2〜図9に示すようにマグネシウムの含有量を変化させたものであるが、いずれの水溶液も、そのpH値が5〜9を保つように調整している。そして、pH値の調整方法は、実質的にカリウム及びナトリウムを含有しないものであればどのようにしてもかまわない。
一方、上記初期栽培期L1の間に用いる水耕液は、一般的に用いられている通常の水耕栽培用肥料の水溶液で、その原液の成分は図10に示すとおりである。なお、以下には通常の水耕液に用いる上記肥料を通常肥料という。
上記通常肥料を用いた図10の水耕液の原液も、上記発明肥料1〜7及び比較肥料を用いた水耕液と同様に、希釈混合して用いるものである。
また、この通常肥料の成分は図10の水耕液の原液と同じである。従って、図10に示す水耕液の原液の成分を、そのまま通常肥料の成分として説明する。
そして、上記発明肥料1〜7、比較肥料及び通常肥料を比較すると、図2〜図8の発明肥料1〜7は通常肥料からカリウムを除き、マグネシウムの含有量を変化させたものである。
特に、図3〜5の発明肥料2〜4は通常肥料よりマグネシウム含有割合を多くしたものであり、図6〜9の発明肥料5〜7及び比較肥料は、上記発明肥料1からマグネシウムを減量したものである。
この発明の効果を確認するため、低カリウム野菜の水耕栽培方法によって、リーフレタス((株)サカタのタネ「リーフレタスグリーン」)、フリルレタス((株)信州山峡採種場「ハンサムグリーン」)、サラダ菜(カネコ種苗(株)「サラダ菜」)及びサンチュ(タキイ種苗(株)「チマサンチュ」)などの葉野菜を栽培する栽培試験を行なった。以下に、その栽培試験について説明する。
試験条件は次のとおりである。
図1に示す全栽培期間Lを42日間とし、種まき時点Aから43日目を収穫日とするとともに、種まき時点Aから14日間を育苗期L3とした。このように、全栽培期間Lと育苗期L3とを一定にしながら、最終栽培期L2の長さを変えて試験を行なった。
この栽培試験では上記全栽培期間Lを一定にしたので、最終栽培期L2の長さが変わるということは、初期栽培期L1の長さも変わるということである。
なお、上記栽培期間Lの42日間は、この実施例で栽培した葉野菜の通常の栽培期間と同じである。
また、全栽培期間L中、栽培室の温度は17℃〜23℃に制御した。
上記育苗期L3では、市販の種子を10倍に希釈した塩素に30分ひたして消毒した後、十分に洗浄する。そして、洗浄した種子を複数個まとめてスポンジ状のロックシートに埋め、それを上記通常肥料を用いた水耕液(図10参照)に浸し、暗黒状態で発芽させる。2日〜5日で発芽したら明るくして、残りの育苗期L3中は、発芽した苗をそのまま生長させた。
育苗期L3が終了したら、育った苗の中から生長のよい苗を選択し、それを一つずつスポンジで包んで上記通常肥料を用いた水耕液に移植し、通常栽培開始時Bを始点にする通常栽培期L4に移行した。
上記通常栽培期L4を経過して肥料切り替え時Cに達したら、苗を、通常肥料を含んだ水耕液から発明肥料1〜発明肥料7、比較肥料、あるいは先行技術肥料を用いた水耕液中に移植し、最終栽培期L2に移行した。
なお、通常栽培期L4から最終栽培期L2に移行するときには、上記のように、通常肥料を含んだ水耕液から発明肥料1〜発明肥料7、比較肥料、あるいは先行技術肥料を用いた水耕液中に苗を移植する方法と、移植はしないが水耕液を完全に入れ替える方法とが考えられるが、それらはいずれであってもよい。
また、この栽培試験においては、各水耕液は上記原液を水道水で希釈して調製した。
この栽培試験の試験内容及び結果は、図11及び図12に示す通りである。
いずれの試験も、初期栽培期L1の間は、育苗期L3及び通常栽培期L4を通して、図10に示す、通常肥料を用いた通常水耕液で栽培をし、肥料切り替え時Cにおいて最終栽培期L2用の肥料に切り替えた。
また、この栽培試験で収穫した野菜の生長度は、収穫した葉の新鮮重を通常栽培によるものと対比することにより判定した。なお、上記新鮮重とは収穫直後に計測した重量であるが、原則としてこの新鮮重が大きければ大きいほど、生長度が高いと考えられる。
そして、図11及び図12には、新鮮重が通常栽培の90%以上のものを○、70%以上90%未満を△、70%未満のものを×で示している。
そして、新鮮重が通常の70%以上である△及び○のものは、食用野菜として十分に満足できるものであった。
但し、新鮮重が十分であっても、葉の一部に枯れた部分が見られるものはその生長度を△に、また枯れた部分が多く食用に適さないものは生長度を×で示すものとする。
図11に示す試験1、2は、最終栽培期L2に、図2に示した発明肥料1を入れた水耕液による栽培をし、通常肥料を入れた水耕液を用いる初期栽培期L1の期間を、試験1では31日間とし、試験2では25日間としたもので、それにともなって最終栽培期L2の長さも変化させたものである。
試験3〜5は、最終栽培期L2において、図3に示した発明肥料2を用いた水耕液による栽培で、初期栽培期L1の長さを試験3では28日間とし、試験4では23日間とし、試験5では0日間としたもので、この場合にも初期栽培期L1の変化にともなって最終栽培期L2の長さも変化させたものである。
なお、試験3中の「リーフレタス純水」とは、発明肥料2を用いた原液を水道水ではなく純水で希釈した水耕液を用いて栽培したリーフレタスのことである。
また、図11における試験の種類のうち通常試験とは、全栽培期間Lの42日間を通して通常肥料を用いた栽培であり、上記発明肥料1〜7のいずれの発明肥料も用いない栽培試験である。そして、この通常試験で収穫された葉の新鮮重を、他の試験1〜11の相対評価の基準にした。
さらに、先行技術による試験を行なったが、これは上記特許文献1に記載された方法を用いた栽培試験である。具体的には、初期栽培期L1では、他の試験と同様に上記通常肥料を用いたが、最終栽培期L2では、上記通常肥料からカリウムを除き、それに水酸化ナトリウムを加えて、pH値を6.5に調整したものを水耕液として用いたものである。
図12に示す試験6〜11は、全て初期栽培期L1を28日間、最終栽培期L2を14日間とし、最終栽培期L2に用いる肥料のマグネシウム含有割合を変えたリーフレタスの栽培試験である。これにより、最終栽培期L2に用いる肥料中のマグネシウム含有割合の影響を確認した。
上記試験6〜10には、それぞれマグネシウム含有割合が異なる発明肥料3〜7を用いているが、具体的には、試験6、7は、上記試験3で用いた発明肥料2よりもマグネシウム含有割合を多くした発明肥料3,4を用い、試験8〜10ではマグネシウム含有割合を、上記試験1で用いた発明肥料1よりも少なくした発明肥料5〜7を用いている。
また、試験11ではマグネシウムを含有しない比較肥料を用いている。
そして、上記各試験とも、同じ条件で3回以上の試験を行ない、図11及び図12に示した試験結果は、それら各試験結果の平均値である。
また、図11及び図12に示した試験結果はつぎの方法で測定した。
各野菜の収穫後、ただちに新鮮重を測定し、その後80℃の乾燥機内で72時間以上乾燥させて上記野菜を乾物にした。
さらに、80℃で48時間乾燥し、得られた乾物を粉砕した後、その粉砕乾物を550℃で6時間乾式灰化を行ない、1モル硝酸を用いて抽出し、原子吸光計(AA−6800島津製作所製)を用いて、カリウム、ナトリウム、マグネシウム、カルシウムの含有量を測定し、これを新鮮重当たりの割合に換算した。つまり、図11及び図12に示した各成分の測定値は、新鮮重当たりの含有量である。
次に、各試験結果について説明する。
図11に示すように、最終栽培期L2が19日以上の試験4,5では、収穫したリーフレタスの新鮮重が通常試験のものより70%未満となって、生長不足であった。これは、相対的に最終栽培期L2を長くしたため、野菜の生長に必須の要素であるカリウムを与える初期栽培期L1の期間が短すぎたためと考えられる。
しかし、最終栽培期L2を17日以下にした他の試験1,2,3によるものは、全て新鮮重が通常の70%以上であった。具体的には、試験2のものは通常のほぼ75%、その他は通常の90%以上であった。
そして、上記通常品と変わらない生長度になった試験1,2,3のいずれも、カリウム含有量を通常試験品と比べてほぼ半分以下にすることができた。
また、ナトリウム含有量については、上記試験3における「リーフレタス純水」以外は、通常試験品よりも多くなっているが、その増加量は先行技術のものと比べて半分程度もしくは半分以下にすることができた。
なお、上記最終栽培期L2に水耕液に用いる発明肥料には実質的にナトリウムを含まず、水耕液にも意図的にナトリウムを添加していないのに、上記栽培試験において収穫した野菜の葉からナトリウムが検出されているのは、原液を水道水で希釈した水耕液を用いたためである。水道水には、殺菌用に次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)が添加されているのでこのナトリウムが水耕液中に含まれ、それが野菜に吸収されたのである。
特に、発明肥料にはカリウムが含まれていないため、最終栽培期においては、カリウムの代わりに吸収性の良いナトリウムが他の成分より優先的に野菜に吸収される。そのため、上記発明肥料を用いた場合には、カリウムを含有している通常試験品よりも、多くのナトリウムが吸収されるものと考えられる。
一方、上記発明肥料2を用いた原液を純水で希釈して用いた「リーフレタス純水」は、ナトリウム含有量が通常肥料と同等の低い値になっている。この結果から、水道水に含まれるナトリウムの影響で、野菜中のナトリウム含有量が多くなることを確認できた。
また、マグネシウム含有割合の影響を確認する試験結果は図12に示す通りである。
試験6〜11のうち、マグネシウムを含まない比較肥料を用いた試験11では収穫時には葉に枯れた部分が目立ってしまい、食用に適さない結果となったので、新鮮重の計測は省略したが、それ以外の試験6〜10においては、いずれの場合も全て新鮮重が通常の70%以上であった。
そして、これら試験6〜10のいずれにおいても、カリウム含有量を通常肥料を用いた場合の半分以下に、また、ナトリウムの含有量を、先行技術肥料を用いた場合の半分以下にすることができた。
なお、マグネシウム含有割合を4.5重量%とした試験10では一部に枯れた部分が見られることがあったので、生長度を△で示したが、新鮮重は十分であり、枯れた部分がわずかにあったとしても、食用としても特に問題はなかった。
これに対し、マグネシウムの含有割合を5.3重量%とした発明肥料6よりマグネシウム量を多くした試験では葉に枯れた部分がないきれいなリーフレタスを安定的に栽培できることが分かった。
以上の試験結果より、最終栽培期L2を適当に設定し、発明肥料1〜7を用いることによって、カリウム及びナトリウム含有量が少なく、通常の生長度であって食用に適した低カリウム野菜を、通常の栽培期間で栽培できることがわかった。
このように、低カリウム野菜を栽培できたのは、最終栽培期L2においてカリウムを含まない発明肥料1〜7を用いたためである。そして、これら発明肥料1〜7は、比較的吸収性のよいマグネシウムを含有しているため、肥料中にカリウムがなくても、最終栽培期L2において野菜はカリウムの代わりにマグネシウムを吸収することで生長度を維持できたのである。
また、発明肥料1〜7を用いた水耕液は、通常肥料からカリウムを除き、相対的にカルシウムやマグネシウムを増量させたものであるが、例えば、先行技術のように水酸化ナトリウムを用いたpH調整は行なっていない。そのため、原液の希釈に水道水を用いても、上記先行技術肥料に比べて水耕液中のナトリウム含有量を少なく保つことができ、カリウムの代わりに他の成分よりも吸収性のよいナトリウムが吸収されたとしても、結果として野菜が含有するナトリウム量の増加を抑えることができたと考えられる。
なお、原液の希釈に水道の代わりに純水を用いるようにすれば、水耕液中のナトリウムを少なくでき、収穫された野菜中のナトリウム量を大幅に減らすことができる。
また、上記試験4,5の結果から、カリウムを含んだ通常肥料を用いる初期栽培期L1が短すぎると、カリウム不足になって野菜が十分に生長しないことが分かった。
一方、試験1、2、3、4の結果から、発明肥料を用いる最終栽培期L2の期間が短くなればなるほど、カリウムの含有量が多くなることが分かった。このように最終栽培期L2が短くなると野菜中のカリウム含有量が多くなるのは、初期栽培期L1に用いた通常肥料から吸収したカリウムが消費されずに、野菜中に残っているためと考えられる。
この実施例の試験では、最終栽培期L2の長さを11日間〜17日間とした場合に、生長度及びカリウム含有量ともに満足できる低カリウム野菜を栽培できることがわかった。
さらに、上記試験10の結果から、肥料の主成分に対するマグネシウム含有割合が少なすぎると、一部に枯れが見られる生長障害がおこる可能性があることがわかった。
このような生長障害を起こさないためのマグネシウム含有割合の下限値は、試験9,10の結果から5重量%程度であると推測できる。言い換えれば、葉に枯れた部分が見られるようなことがなく、より安定的に低カリウム野菜を生長させるためには、最終栽培期L2に用いる肥料のマグネシウムの、主成分に対する含有割合を5重量%以上にすることが好ましいことがわかった。
但し、肥料の主成分中のマグネシウムの含有割合が5重量%未満であっても、食用として問題のない低カリウム野菜を栽培することは可能である。
一方、マグネシウム含有割合を40重量%以上とした試験6,7の結果から、マグネシウム含有割合を多くした場合に生長障害などの問題がないことも確認できた。
上記試験結果が示すように、マグネシウム含有割合が5重量%〜42重量%という広い範囲で、野菜の生長度や含有成分に対するマグネシウム含有割合の影響がないことを確認できたことから、肥料中の主成分の必要量さえ確保されれば、相対的なマグネシウム含有割合を上記42重量%よりも多くしても問題がないことは予想できる。
つまり、発明肥料中のマグネシウム含有割合の上限値は、他の主成分の含有量によって相対的に決まるものである。
上記のように、この発明の肥料及び栽培方法を用いて栽培された低カリウム野菜は、カリウム及びナトリム含有量がそれほど多くなく、腎臓病患者が生で食べることもできる。
また、茹でてカリウムを溶出させれば、カリウム量をより少なくでき、多くの量の野菜を食べることができる。しかも、短時間さっと茹でるだけで、残留カリウム量を少なくできるので、茹ですぎることで他の栄養素を破壊したり溶出させたりすることを防ぐことができるし、野菜の食感を保つこともできる。
さらに、上記栽培試験では、リーフレタス、フリルレタス、サンチュ及びサラダ菜を栽培したが、この発明の低カリウム野菜を栽培するための水耕栽培用肥料や、水耕栽培方法を用いれば、他の種類の低カリウム野菜を栽培することも可能である。
しかし、上記実施例の方法で栽培する低カリウム野菜の種類としては、根ごと収穫可能な葉野菜が適している。
この発明の水耕栽培用肥料及び栽培方法は、カリウムの摂取が制限されている腎臓病患者がおいしく安心して食べることができる低カリウムの葉野菜の栽培に適している。

Claims (4)

  1. 実質的にカリウム及びナトリウムを配合せず、カルシウム、マグネシウム、リン、及び窒素を主成分とし、これら主成分を水に溶かしたときのpH値が5〜9になる低カリウム野菜を栽培するための水耕栽培用肥料。
  2. 上記主成分のうちのマグネシウムの含有割合は、その下限値を5重量%とした請求項1記載の低カリウム野菜を栽培するための請求項1記載の水耕栽培用肥料。
  3. 栽培する野菜に応じて種まきから収穫までの期間をあらかじめ設定し、収穫から遡った所定の期間を最終栽培期とし、この最終栽培期の前の期間を初期栽培期とし、上記最終栽培期は、上記請求項1又は2記載の水耕栽培用肥料を用い、上記初期栽培期は、カリウム、カルシウム、マグネシウム、リン、及び窒素を主成分とする肥料を用いる低カリウム野菜の水耕栽培方法。
  4. 上記最終栽培期の期間を11日間〜17日間とした請求項3に記載の低カリウム野菜の水耕栽培方法。
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