JP6316791B2 - 海水を用いた農作物中のカルシウム/マグネシウム質量比減少方法及び農作物の栽培方法 - Google Patents
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Description
近年、海水には多様なミネラルが含まれているため、海水を農作物の栽培に利用することが試みられている一方、海水は塩分を多量に含んでおり、農作物の栽培にそのまま用いると、農作物の生長を阻害するという欠点がある。
海洋深層水は200m以深の海水であり、有光層(真光層)以深に位置し、光合成による有機物生産がほとんど行われず分解が卓越している。その資源性は現在知られているだけでも、低温・清浄等があり、この他、塩・金属類なども着目されている。
かかる水耕栽培方法は、海洋深層水をろ過、脱塩処理したものを農作物の栽培に用いることができることが記載されているのみである。
かかる海洋深層水を用いた植物の栽培は、海洋深層水に含まれるミネラルを植物に含有させて、その含量を増加させることに志向しているものであり、特定のミネラル成分を減量させて、含有される特定ミネラル成分比を調整する技術思想は開示されていない。
しかし、かかる方法は、海洋深層水を発芽から収穫までの間、分散させて複数回にわたって与えて植物中の硝酸濃度を低減させるものであり、ある特定の期間に継続して海洋深層水を与えるという技術思想はなく、また硝酸濃度の低減について記載されているのみである。
かかるカルシウム/マグネシウム摂取比を低下させるためには、カルシウム/マグネシウム質量比が小さい食品を摂取することが望まれるが、カルシウム/マグネシウム質量比が小さい食品の殆どが海産物であることから、最近の食事に対する志向性から鑑みて、海産物以外の食品自身の根本的な改良が望まれている。
即ち従来の食品中のカルシウム/マグネシウム質量比を低下させる技術の構築が必要となってきている。
そこでかかるカルシウム/マグネシウム質量比が小さい農産物の栽培が期待されている。
特に、海水の塩分による農作物の生長抑制等のリスクを低減することができ、十分な収量を確保しつつ、マグネシウム分を多く含み、農作物中のカルシウム/マグネシウム質量比を減少させた農作物を得るための、及び/又は、収穫後の農作物中のカルシウム/マグネシウム質量比を減少させた農作物を得るための、海水を用いた農作物中のカルシウム/マグネシウム質量比減少方法及び農作物の簡便な栽培方法を提供することである。
請求項4記載の海水を用いた農作物の栽培方法は、請求項3記載の農作物の栽培方法において、第2栽培期間は、海洋深層水濃度が20容量%以下の場合には、発芽時から収穫時までの栽培期間全体の1/3〜1/30の期間であり、海洋深層水濃度が20容量%を超える場合には、1/30〜1/300の期間であることを特徴とする、海水を用いた農作物の栽培方法である。
特に、農作物を収穫する前の特定の期間のみに農作物と海水とを接触させることにより、上記効果に加えて、海水による塩分による生長抑制等のリスクを低減することができ、農作物を十分な収量で得ることが可能となる。
更に、農作物を収穫した後であっても、農作物を海水と接触させることにより、カルシウム/マグネシウム質量比を減少させることが可能となる。特に、農作物中のマグネシウム含量を増加させることができる。
したがって、特に、虚血性心疾患をはじめとする急性冠性症候群(ACS)発症の大きな要因とされているカルシウム/マグネシウム摂取比の増加を低減させることができる農作物の栽培に利用することが可能となる。
本発明の海水を用いた農作物中のカルシウム/マグネシウム質量比減少方法は、農作物の発芽時以降の所定の期間に、農作物と海水とを接触させることを特徴とする、海水を用いた農作物中のカルシウム/マグネシウム質量比減少方法である。
ここで、「所定の期間」には、農作物の発芽時以降収穫時までの全期間は含まれないことを意味する。
また本発明において「海水」としては、表面海水、海洋深層水、人工海水等を例示することができる。さらに、海水を電気透析処理した水(ED塩水、EDミネラル水)や逆浸透膜濾過(RO膜)処理した水、イオン交換膜処理した水や、海水に含まれるミネラル分に相当するミネラルを含む液体であれば任意の処理水も、本発明における「海水」の概念に含まれて好適に用いることができる。
具体的には、農作物の発芽時以降に、農作物と海水とを接触させるための上記所定の期間には、水耕栽培により農作物を収穫する前の所定の期間と、水耕栽培及び露地栽培により農作物を収穫した後の所定の期間との双方を含む。なお、上記したように、農作物の発芽時以降収穫時までの全期間は、「所定期間」に含まれない。
かかる第1の好適方法は、水耕栽培による農作物の育成において、望ましく適用することができる。
農作物発芽時から収穫時までの間、必ず第1栽培期間と第2栽培期間は設けられ、第1栽培期間を設けない場合は、本発明には該当しない。
また第1栽培期間前の播種から発芽までの方法は、特に限定されるものではなく、任意の周知の発芽栽培方法を用いることができる。
海洋深層水の産地は特に限定されず、任意の海洋深層水を好適に用いることができる。
また必要に応じて、各栽培において葉面散布をすることも有効である。
かかる本発明の第2の好適方法は、海水を用いないで収穫した水耕栽培による農作物や露地栽培により収穫された農作物の双方に好適に適用することができる。
水耕栽培により育成された農作物は、根を残して収穫するのが一般的であり、この場合には、収穫された農作物の少なくとも根を、海水に浸漬することで、本発明を適用することが可能である。
また、露地栽培により育成された農作物は、根をほとんど切り落として収穫するのが一般的であり、この場合には少なくともかかる切り取り部を海水に浸漬することで、本発明を適用することが可能である。
更に、農作物中に含有されるカルシウムの含量を減少させる傾向が得られ、従って、農作物中のカルシウム/マグネシウム質量比をより減少させることも可能となる。
よって、本発明によれば、虚血性心疾患をはじめとする急性冠性症候群(ACS)発症の大きな要因とされているカルシウム/マグネシウム摂取比の増加を低減させることができる農作物の栽培に利用することが可能となる。
例えば、海水濃度が20容量%以下の場合には、浸漬時間としては16時間〜24時間を例示することができ、20容量%を超える場合には、浸漬時間としては4時間〜16時間とすることが例示できる。
(例1)水耕栽培
樹脂性のスポンジに水道水を含有させ、水菜、小松菜、ほうれん草の計3品種の種子を該樹脂性のスポンジ上に播種して、発芽させた。
発芽した水菜、小松菜、ほうれん草の幼体を、それぞれ、完全閉鎖型の野菜プラント(プラントセラーTAPSH−1−SP、エスペック社製)を用いて、照射光量光量5000〜15000lx、水温20℃、光照射時間を12、5時間(12、5時間光照射し、11、5時間は光照射しない)で、電気伝導度(EC)が1.5dS/mとなるように肥料(大塚A処方)を添加した養液で水耕栽培を行った。
なお、比較のために30日の栽培期間を通じて、養液として上記肥料と水道水を用いて栽培を行ったものを対照区として、各野菜を栽培した(第2栽培期間0日間)。
得られた各野菜の可食部を細切し、各野菜1gに対して1%塩酸50mLを加え、室温にて1時間振盪抽出した後、ICP発光分析装置(ICPE−9000、島津製作所社製)を用いて、Ca、Mg含量を測定した。また、Na、K含量も測定した。
具体的には、各試験区における水菜のCa、Mg、Na、K含量の測定結果を図2(a)〜(d)に、小松菜の測定結果を図3(a)〜(d)に、ほうれん草の測定結果を図4(a)〜(d)にそれぞれ示す。また、これらの結果を表1に示す。
なお、図2〜6の横軸の栽培期間は、第2栽培期間を示すものである。
水菜や小松菜では、Mg含量は、20%DSW養液による第2栽培期間が2日間であっても野菜にMg含量の増加が確認された。
水菜とほうれん草の20%DSW養液による第2栽培期間が4日間以上の試験区1〜4ではKとCa含量は減少する傾向が見られた。
これらの結果から、20%DSW養液による第2栽培期間が2日間であっても野菜にMg含量の増加が確認され、収穫前の第2栽培期間が2日間という短期間であっても、カルシウム/マグネシウム質量比は、20%DSW養液を用いると減少させることが可能となった。
対照区と比較して、DSW養液による第2栽培期間を設けることにより、全ての野菜においてMg含量やNa含量が増加し、Ca含量やK含量が減少する傾向が得られた。また、このことからこれらの成分の吸収に際し、NaとK及びMgとCaにそれぞれ拮抗作用がある可能性が推察される。
また、所望するマグネシウム以外の他のミネラル成分も、本発明を利用することにより、農作物中に含有させることができることが期待される。
樹脂性のスポンジに水道水を含有させ、水菜、小松菜、ほうれん草の計3品種の種子をその上に播種して、発芽させた。発芽した後、それぞれ、完全閉鎖型の野菜プラント(プラントセラーTAPSH−1−SP、エスペック社製)を用いて、照射光量5000〜15000lx、水温20℃、光照射時間を12.5時間(12.5時間光照射し、11.5時間は光照射しない)で、上記肥料と水道水で水耕栽培を行って、各野菜を収穫した。
比較のために、水道水を用いて、上記各野菜を16時間、24時間浸漬した。
収穫後の野菜を所定時間海水に浸漬しても収穫された野菜に対して海洋深層水による影響はほとんどなく、野菜中のマグネシウム含量を増加させ、カルシウム/マグネシウム質量比を減少させることが可能となった。
海水を用いないで露地栽培により育成した小松菜を根ごと収穫した。
収穫した小松菜の3株を洗浄して、根をそのまま残した小松菜と、根をほとんど切り落とした小松菜を準備した。根をそのまま残した小松菜は、各株の根を、また根を切り落とした小松菜は各株の切り取り部を、海洋深層水に16時間、24時間浸漬した。なお、海洋深層水の濃度は20容量%、40容量%、60容量%、80容量%、100容量%と変化させたものをそれぞれ適用した。
比較のために、水道水を用いて、上記各小松菜を16時間、24時間浸漬した。
得られた小松菜のカルシウム/マグネシウム質量比と海洋深層水濃度との関係を図9(a)〜(d)に示す。
収穫後の野菜を所定時間海水に浸漬しても収穫された野菜に対して海洋深層水による影響はほとんどなく、野菜中のマグネシウム含量を増加させ、カルシウム/マグネシウム質量比を減少させることが可能となった。
Claims (4)
- 栽培する農作物に応じて発芽時から収穫時までの栽培期間を予め設定して、収穫時から遡った所定の期間を第2栽培期間とし、当該第2栽培期間から遡って発芽時までの期間を第1栽培期間とし、第2栽培期間は、発芽時から収穫時までの栽培期間全体の1/3〜1/300の期間であり、前記第2栽培期間において海洋深層水を継続的に用いて農作物と海洋深層水とを接触させて農作物を栽培し、カルシウム/マグネシウム質量比を減少させることを特徴とする、海水を用いた農作物中のカルシウム/マグネシウム質量比減少方法。
- 請求項1記載の海水を用いた農作物中のカルシウム/マグネシウム質量比減少方法において、第2栽培期間は、海洋深層水濃度が20容量%以下の場合には、発芽時から収穫時までの栽培期間全体の1/3〜1/30の期間であり、海洋深層水濃度が20容量%を超える場合には、1/30〜1/300の期間であることを特徴とする、農作物中のカルシウム/マグネシウム質量比減少方法。
- 栽培する農作物に応じて発芽時から収穫時までの栽培期間を予め設定して、収穫時から遡った所定の期間を第2栽培期間とし、当該第2栽培期間から遡って発芽時までの期間を第1栽培期間とし、第2栽培期間は、発芽時から収穫時までの栽培期間全体の1/3〜1/300の期間であり、前記第2栽培期間において海洋深層水を継続的に用いて農作物と海洋深層水とを接触させ、農作物中のカルシウム/マグネシウム質量比を減少させて、農作物を栽培することを特徴とする、海水を用いた農作物の栽培方法。
- 請求項3記載の農作物の栽培方法において、第2栽培期間は、海洋深層水濃度が20容量%以下の場合には、発芽時から収穫時までの栽培期間全体の1/3〜1/30の期間であり、海洋深層水濃度が20容量%を超える場合には、1/30〜1/300の期間であることを特徴とする、海水を用いた農作物の栽培方法。
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