人工透析などを必要とする慢性腎臓病患者ないしは、その予備軍である未透析患者などカリウム摂取制限を必要とする患者は、年々増加する傾向にある。カリウム摂取が制限された患者は、医師により、カリウム含量の多い生野菜や果実などを食することを制限されている。このようなカリウム摂取制限を受けている患者でも食することができる低カリウム野菜の製法や水耕栽培用の養液(肥料水溶液)は、下記特許文献などで提案されている。
いずれの方法も、播種してから収穫までの期間のうち、栽培前期(初期栽培期間)においては、通常量の水溶性カリウム化合物も含めた、水溶性リン化合物、水溶性チッソ化合物、水溶性カルシウム化合物、水溶性マグネシウム化合物などを含む通常用いられる組成の水耕栽培用の養液を使用して栽培した後、その後の収穫までの栽培後期においては、下記特許文献1では、カリウム成分であるKNO3の代わりに同濃度のナトリウム成分であるNaNO3を用いること、さらに、養液のpHを6.0-6.5にするためにNaOHを用いることが提案されている。しかし、KNO3の代わりに同濃度のナトリウム成分であるNaNO3を用い、さらに、養液のpHを6.0-6.5にするためにNaOHを用いた場合には、養液にカリウム成分が存在しない場合、植物はカリウム成分の代わりにナトリウム成分を取り込むためナトリウム成分がかなり多く吸収されてしまう。
ナトリウム成分も多いと腎臓病患者に好ましくないことが分かり(特許文献2の[0006]〜[0008]など参照)、特許文献2などでは、栽培後期においてはカリウム化合物のみならずナトリウム化合物も配合しない水耕栽培養液で栽培することが提案されている。しかし、本発明者らが検討した結果、水溶性ナトリウム化合物も水溶性カリウム化合物も含まない養液では、収穫重量が大幅に低下してしまうことを見出した。本発明者らは、栽培後期において水溶性ナトリウム化合物は少し添加するのみで十分生長し、水溶性ナトリウム化合物の投入量を増やしてもそれほど野菜の重量は増加せず、あまりに多くすると生長が低下することを見出している。また、水溶性ナトリウム化合物量を少量にすることで、野菜に含まれるナトリウムも制限できることも見出している。(以下、水溶性〇〇化合物を、略称して、単に〇〇成分と略称することがある。)
特許文献3は栽培後期では、ナトリウム成分はあってもなくてもよいとされ、存在しない場合も含むので、ナトリウム成分の効能が検討されていないし、肥料成分配合後のナトリウム濃度を測定した時の値であり、意図的にナトリウム成分を投入した訳ではない。鉄と亜鉛成分の投入量が重要となっている。また、特許文献3の収穫したレタスの栽培結果は、カリウム濃度200mg/100g(約2000ppm)であり、低カリウム化しやすいレタス類としては、あまり、カリウム濃度が低くなっていない。
上述のように栽培後期においてカリウム成分を含まない栽培養液で栽培する場合には、栽培養液にナトリウム成分が投入されていないと収穫重量が大幅に低下してしまうし、一方、投入したナトリウム成分は多くなるほど野菜のナトリウムの濃度が対数関数的に増加してしまうことを本発明者らはつきとめ、ナトリウム成分は、室内水耕栽装置を使用する栽培養液が比較的少ない室内水耕培においては栽培養液に意図的に投入されている必要があること、しかし、少量割合にすることが好ましいことを見出している。
ところで、上述した特許文献などで提案されているような、栽培後期においてカリウム成分を含まない養液で栽培して作られた、低カリウム野菜の栽培法を利用して収穫された低カリウム野菜が、人工透析患者などの慢性腎臓病患者等用に販売されてきている。
しかし、透析患者にとって、低カリウムレタスなどの低カリウム野菜の入手性は良好ではなく、確実に入手するには、予約が必要であり、予約が必要な通信販売で購入すると、まとめ買いすることになるので一度では食べきれない量が届く。一度には食べきれない分は、冷蔵庫で保存することになるので、時間が立つにつれ、鮮度が落ちてくる。鮮度の落ちた低カリウム野菜は、食感も悪くなり、おいしく感じられなくなる。また、市販されている品種もレタスに限定される。
透析患者にとっては、いつでも好きなときに、様々な品種の新鮮な低カリウム野菜をその場で摘みとって食することができれば最も好ましいことになる。一般的な鉢植えの土耕栽培では、培地中の成分を限定できないために、低カリウム野菜を栽培することは困難である。水耕栽培ならば、養液の肥料成分を特定できるので、低カリウム野菜を栽培できるが、一般家庭では大規模な栽培施設を持つことはできない。しかし、近年、白色LEDの普及により、LEDを光源とした植物の家庭用の室内栽培装置が普及してきている。室内栽培装置は、小型であり設置にも場所をとらず、室内栽培装置の栽培養液タンクの容量は、通常3Lより小さく、慢性腎臓病患者等にも容易に取り扱いできる利点がある。室内栽培装置は、各社から、様々なタイプの栽培装置が販売されている。このような室内栽培装置を利用して、栽培後期を低カリウム化栽培養液で栽培すれば、1年を通して、低カリウム野菜の自家栽培が可能になる。本発明は、このような室内栽培装置を利用して自宅などで低カリウム野菜を栽培後期において自家栽培するための苗と栽培養液キットを提供することを目的とし、人工透析患者など慢性腎臓病患者などが、好きなときに、様々な品種の新鮮な低カリウム野菜を摘みとって食することができ、完成した低カリウム野菜の購買予約の必要や、まとめ買いによる保存分の時間経過による、鮮度や食感の低下と言う問題を解決し、透析患者など慢性腎臓病患者などが、自らでも容易に低カリウム野菜を室内栽培装置を利用して栽培できる苗と栽培養液キットを提供し、且つ、カリウムの摂取量が収穫した野菜の重量などから推定可能になる苗と栽培養液キットを提供するものである。
また、透析患者は、カリウムの他に、上述したナトリウムやリンの摂取量も減らした方がより好ましいとされている。ナトリウムの過剰摂取による高ナトリウム血症は、口渇、頭痛、痙攣、昏睡の原因となる。
血液中にリンが増加すると、カルシウムと結合して体のいろいろな所に沈着し、その結果いろいろな症状が出てくる。皮膚ではカサカサした乾燥肌が見られたり、激しい痒みに悩まされるようになる。関節の周辺では沈着したリン酸カルシウムのために強い痛みをひき起こしたり、関節の腫脹や変形、運動障害などをひき起こす。血管にもリン酸カルシウムが沈着しやすく、動脈硬化を悪化させて脳出血、心筋梗塞、末梢循環障害による手足の痛みや壊死などをひき起こす。高リン血症が長びくとやがて副甲状腺機能亢進症となり、増加した副甲状腺ホルモンが骨を溶かすようになる。すると骨から出てくるリンの為に血中のリンはますます増加してしまう。
カルシウムやマグネシウム成分の摂取量は多くても障害は出ない。むしろ、日本人の食生活では、摂取不足になりがちなカルシウムは多めに含んでいたほうが好ましい。マグネシウムの含有量が多すぎると、多少、苦味を感じるようになるが、ドレッシングなどをかけて食することで、おいしく食べられる。
これらの摂取量の観点のほか、植物への生長への影響の観点からは、栽培後期に使用するカリウム成分が添加されていない栽培養液(肥料水溶液)の成分について更に検討を進めた結果、例えば、レタスの栽培後期の養液組成で、養液タンクの容量が1.5Lの室内栽培装置(株式会社アイティプランツの“アイティプランター” (“itplanter-02”))を使用して、ナトリウム成分の条件を変えた以外他の栽培条件は同一にしてテストした結果、チッソ成分15.0me/L、リン成分6.5me/L、マグネシウム成分5.0me/L、カルシウム成分9.0me/Lは同じで、ナトリウム成分を投入しない場合の、同一収穫日での野菜の収穫重量は95.0g、養液組成中のナトリウム成分を0.2me/L、0.4me/L、0.8me/L、1.6me/L、2.6me/Lと次第に増加しても、同一収穫日での野菜の重量はそれぞれ164g、163g、142g、55.0gとナトリウム成分を投入しない場合には生長が悪いが、ナトリウム成分が投入されれば、濃度が薄くても約1.5倍の重量増による生長が見込めた。しかし、ナトリウム成分が2.0me/Lを超える辺りから重量は減少に転じた。ナトリウム成分濃度を大きくしすぎると収穫重量は低下する傾向にあり、また、上述したように、栽培養液中のナトリウム成分濃度が大きくなるほど野菜中のナトリウムの濃度が対数関数的に増加してしまうことから、ナトリウム成分はかなり少ない割合で投入することが好ましいことを本発明者等はつきとめた。すなわち投入するナトリウム成分は、必要であるがその量は少ないことが好ましく、更には、本発明者らが種々検討した結果、投入するカルシウム成分が多いほど、リン成分は少なくても、野菜は生長すること、チッソ成分が少ないと育ちが悪くなること、リン成分は、多く投入しても、あまり野菜に吸収されないこと、カリウム成分を投入しない栽培養液を用いる栽培後期において野菜の生長が悪いと、野菜に含まれるカリウムの濃度は低下しないので、チッソ成分とカルシウム成分は多く入れてよく、ナトリウム成分は少なく投入することがよいことも見出した。
また、カリウム成分の濃度は、栽培後期の養液にはカリウム成分が投入されておらず、カリウムは栽培前期(初期栽培期間)で野菜の苗に吸収され、栽培後期では野菜中にカリウムは増加しないので、栽培後期で野菜が生長するにつれて当該野菜中に含まれているカリウムの濃度は薄まることになる。そこで、播種から通常の水耕栽培条件で所定の初期栽培期間栽培した野菜の苗のカリウムの分析を行うことで、カリウムの含有量が既知となっている苗を基準苗とした場合、前記基準苗と同一品種の野菜の種を前記基準苗にほどこした条件と同一の通常の水耕栽培条件で、同一の所定の初期栽培期間栽培した苗(これを苗 (A)と略称する)のカリウム含有量は基準苗とほぼ同一と推定できるので、苗(A)をキットの苗として提供し、その後の栽培後期で使用するキットで提供する栽培養液にはカリウム成分が投入されていないので、収穫時まで栽培して得た当該野菜に含まれるカリウムの絶対量は、苗(A)のカリウム絶対量と同じであるから、野菜が生長した分、野菜中のカリウムの濃度は低下することになる。この原理を利用して、本発明者らは、カリウムの含有量が既知の基準苗とほぼ同一と推定される苗(A)と本発明のカリウム成分が投入されていない後述する所定の栽培養液(これを低カリウム化養液と略称する)をキットにして、このキットを使用し、室内水耕栽培装置で水耕栽培することにより、初期栽培期間終了時点での苗の重量と収穫時の当該野菜の重量とから、収穫時の野菜中のカリウムの濃度がわかり、慢性腎臓病などの患者が食する当該野菜の重量からカリウムの摂取量を当該患者が知ることができ、慢性腎臓病などの患者が一度に食する当該野菜の量を知ることができる利点があることを見出し、本発明に到達した。
本発明においては、野菜を水耕栽培で播種から所定の初期栽培期間の間、通常の水耕栽培条件で栽培した苗のカリウムの分析を行うことで、カリウムの含有量を分析しておくことにより、このカリウムの含有量を分析した苗を、基準苗と称した場合に、前記基準苗と同一品種の野菜の種を前記基準苗と同一の通常の水耕栽培条件で、同一の所定の初期栽培期間栽培した苗 (A)のカリウム含量は、前記基準苗とほぼ同等になるので、苗
(A)のカリウム含量は推定でき既知のカリウム含量の苗(A)とすることができる。この苗(A)を、本発明で用いるカリウム成分が投入されていない栽培養液で、収穫時まで栽培すれば、苗はカリウムを更には取り込めなくなる。
初期栽培期間栽培した苗 (A)の時点での苗全体中のカリウム総量をKt[mg]、カリウム濃度をK1[mg/100g](前記“/100g”は苗の新鮮重量100g当たりの意味)、苗全体の新鮮重量をW1[g]とする。外部からカリウムを取り込めなくても、光合成ができれば植物体(苗)の体積は増えていく。植物全体の約95重量%は水分であり、水分は十分に取り込むことができるので、体積が増えた分、重量も増加する。
そして生長した植物全体の収穫時の新鮮重量をW2[g]とすると、収穫時のカリウム総量は初期栽培期間栽培した苗 (A)中のカリウム総量Kt [mg]と同じなのでカリウム濃度K2[mg/100g]はK1[mg/100g]よりも小さくなる。この関係を数式で示すと下記式[数1]〜[数3]で示される。ここで重量の単位はグラム、濃度はmg/100gとすると、
[数1]
Kt= K1×W1/100
[数2]
K2=Kt / W2 × 100
[数3]
K2=K1×W1/W2
これより、苗 (A)とそれを前記低カリウム化養液を用いて栽培した後の収穫時の重量比W1/W2がカリウム濃度減少率となる。
しかし、Kt、K1、K2、W2の値には、非可食部である根部も含まれているので、可食部だけの表現も以下に記述する。
初期栽培期間栽培した苗 (A)の時点での苗の可食部中のカリウム総量をKtp[mg]、可食部中のカリウム濃度をK1p[mg/100g]、苗の可食部中の新鮮重量をW1p[g]、苗の根部の新鮮重量をW1r[g]とする。そして植物の可食部中の収穫時の新鮮重量をW2p[g] 収穫時の根部の新鮮重量をW2r[g]とすると、収穫時の可食部中のカリウム濃度K2p [mg/100g]は初期栽培期間栽培した苗 (A)中の可食部中のカリウム総量と、根部からの転流により供給されたカリウム総量Kr(重量[mg])の和をW2pで除した値に等しいので可食部中のカリウム濃度K2p[mg/100g]はK1p[mg/100g]よりも小さくなる。この関係を数式で示すと下記式[数4]〜[数6]で示される。なお、根部からの転流により供給されたカリウムとは、根に存在するカリウム成分が可食部に移動する現象を言う。
[数4]
Ktp=K1p(W1p/100)
[数5]
K2p=100(K1p+Kr)/W2p
[数6]
K2p=(Ktp+Kr)/W2p
根部からの転流により供給されたカリウム総量Krが増えるので、可食部のカリウム濃度減少率は栽培開始時と収穫時の重量比W1p/W2pよりも小さくなる。
根部の総カリウム量Kr[mg/100g]は可食部の総カリウム量Ktpに等しいと仮定し、根部からの転流により供給されるカリウム総量Krは可食部の重量増加分比(W2p-W1p)/W2pに比例すると仮定すると、
[数7]
Kr=Ktp(W2p-W1p)/W2p
となる。[数7]式を[数6]式に代入して整理すると[数8]式になる。
[数8]
K2p=100Ktp(2-W1p/W2p)/W2p
[数8]式により、低カリウム化前の苗の可食部の重量W1pと可食部の重量W2pから、可食部中のカリウム濃度K2pを算出できる。しかし、収穫時の苗全体の重量W2は容易に計測できるが、可食部の重量W2pは苗の根部を切断しなければ測定できない。一度、切断したら、さらに栽培を継続することはできなくなる。そこで、根部を切断することなくW2pを推定する。
根部(植物の根の部分と、根が展開しているスポンジなどの培地部分と、当該培地に含まれる養液)の重量W2rは、根と水耕栽培用スポンジ培地、及び、前述スポンジ培地が含む養液の量で決まる。その構成は、スポンジ培地が含む養液の重量が支配的であるために、低カリウム化栽培前後の重量はほぼ同じなので、近似的にW1r=W2rとすることができる。収穫時の重量W2は、可食部重量W2pと根部重量W2rの和であるので、式[数9]になる。
[数9]
W2=W2p+W2r=W2p+W1r
[数10]
W2p=W2-W1r
[数11]
K2p=100Ktp(2-W1p/(W2-W1r))/(W2-W1r)
W1p、W1r、Ktpは基準苗で事前に計測可能であるので、それらと同一と推定して既知の値にできる。これらの値を記録おけば当該苗 (A)が生育し収穫しようとした時点での野菜の全体重量から可食部中のカリウムの含有総量は、収穫しユーザーが食した当該野菜の量(重量又は体積)の収穫した時点での野菜の総量(重量又は体積)に対する割合から、容易に消費者が摂取したカリウム総量を知ることができる。収穫しユーザーが食しようとする野菜の総重量W2をユーザーが測定すれば、食する野菜の当該時点でのカリウム濃度K2pを上記数式[数11]から知ることができる。
なお、カリウム濃度は、野菜の品種によって異なるので、品種毎の測定が必要になる。
数式[数11]は、可食部を切断することなく、カリウム濃度を推定するには便利な式であるが、根部の重量変化が小さいという仮定のもとで成立している式であるので、誤差が生じる。より正確なカリウム濃度の推定は、収穫後に可食部重量を測定して、数式[数8]で計算することが好ましい。
室内水耕栽培用キットで野菜を栽培する際に用いる室内水耕栽培装置は、比較的小型であり、市販の各種のものが使用できる。特に限定されるものではないが、通常、栽培養液タンクの栽培養液貯留量は、3L以下であり、好ましくは2〜1.5Lのものが、栽培養液を入れた場合に重くならず、少量栽培するのに好ましい。室内水耕栽培装置はこのように小型でユーザーが比較的扱いやすいという点からも推奨され、少数の例を挙げれば例えば、株式会社アイティプランツの“アイティプランター” (“itplanter-02” 栽培養液タンクの栽培養液貯留量1.5L)や、株式会社ユーイングの水耕栽培器“Green Farm UH-A01E”などの室内水耕栽培装置が挙げられるが、インターネット等で提案されている手作りの室内水耕栽培器でも、障害がない限り用いることができる。好ましくは、初期栽培期間もその後の収穫までの栽培も、間歇的に栽培養液を供給するいわゆるEbb&Flow法で栽培することが好ましく、上記株式会社アイティプランツの“アイティプランター” (“itplanter-02”)は、Ebb&Flow法ができる室内水耕栽培装置の一例として挙げられる。Ebb&Flow法は、栽培養液連続流通法や栽培養液静止状態での栽培法(湛液型水耕栽培)に比べて、根が空気中に晒されている時間が長くなるため、空気中の酸素を十分に取り込むことができる。また、Ebb&Flow法では、湛液型水耕栽と比較して根部の発達の仕方が異なり、細かな網状の根に発達するために、根部の重量増加は少ないという特徴がある。Ebb&Flow法を採用する場合には、野菜の根元に栽培養液を供給する頻度は、特に限定するものではないが、1日2から10回、より好ましくは4〜6回で、野菜の根元が栽培養液に浸される時間は栽培養液を供給1回につき30秒〜2分が好ましい。例えば、株式会社アイティプランツの室内水耕栽培装置“itplanter-02”は、最下段に1.5L容量の栽培養液の貯蔵タンクがあり、貯蔵タンクの上側に野菜の根元に栽培養液を漬す栽培養液供給室トレイが積載されており、貯蔵タンクの上面は開放面であり、貯蔵タンクの上面である開放面上に栽培養液供給室トレイの底面が載せられるており、栽培養液供給室トレイの底面は複数の小穴の空けられており、栽培養液を供給室トレイに供給するには貯蔵タンクからポンプで栽培養液を吸い上げて、供給室トレイに1.5Lの栽培養液を供給する。供給された栽培養液は、供給室トレイの小穴の空けられた底面の穴から下の貯蔵タンクに約1分間で戻るように穴の大きさと数が設定されている。この栽培養液を供給室トレイに供給する回数を上述した範囲ですることができる。低カリウム化養液は、カリウム成分を含んでいないので植物はその代わりにナトリウム成分を多く吸収しようとするが、Ebb&Flow法では、植物の根が低カリウム化養液に浸っている時間が短いので、ナトリウム成分の吸収量が多くなるのをより好適に防止でき、必要最小限のナトリウム成分の吸収をさせるのに好ましい。
水耕栽培において、栽培後期に使用する低カリウム化栽培養液は、収穫まで必要な養分とその量を含有しており、室内水耕栽培装置のタンクに入れ、通常、特に支障がない限り、その栽培養液を収穫まで取り替えずに使用する。栽培養液を取り替えると栽培養液中に残っている吸収されていない肥料成分を捨てることになり、コストも高くなるからである。従って、栽培後期において使用する低カリウム化栽培養液に、ナトリウム成分を意図的に投入せず(他の成分は本発明の低カリウム化養液と同等)、水道水などを使用して水道水中にわずかに含まれるナトリウム成分を収穫までに野菜に取り込ませるとすると、本発明のナトリウム成分が意図的に投入された低カリウム化養液を用いて例えば1.5Lの栽培養液タンクを持つ室内栽培装置で栽培した場合と同等程度にナトリウム成分を野菜に取り込ませるためには、水道水中に含まれるナトリウム成分を収穫までに残さず100%吸収すると仮定した場合であっても(従って、収穫時には栽培養液中にはナトリウム成分が0%となると仮定した場合)、本発明と同等程度に野菜にナトリウム成分を吸収させるには約23Lもの栽培養液が必要になるが、現実には、栽培養液中にはナトリウム成分が0%となるまで吸収できず、そのため、現実には、約30Lもの栽培養液が必要になり、重さで約30Kg強であり、比較的大型の栽培装置で栽培することが必要になり、栽培養液タンクの容量が小さい通常の室内栽培装置では、水道水中に含まれるナトリウム成分のみでナトリウム成分をまかなうことはできない。そこで本発明においてはナトリウム成分を意図的に投入した栽培養液を用いる必要がある。投入するナトリウム成分の量は、0.2me/Lから2me/Lが好ましく、より好ましくは、0.4me/Lから1me/Lである。また、投入された水溶性リン化合物の量は、リン元素を含むイオンの濃度で0.2〜3me/L であることが好ましく、より好ましくは、0.5me/Lから2me/Lである。これは、植物体内への水溶性カルシウム成分の吸収を促進し、リンの吸収を抑制するために好ましい濃度である。
更に、もし、ユーザーからの要求に応じて、本発明のキットにおいては、室内水耕栽培装置をも加えて、苗(A)と、低カリウム化養液と、室内水耕栽培装置とをセットにして室内水耕栽培用キットとすることもできる。「室内水耕栽培装置」の「室内」の意味は、ユーザーが室内に比較的容易に設置できる水耕栽培装置で、室内で野菜などの植物を栽培可能な小型の装置と言う程度の意味であり、通常、栽培養液タンクの栽培養液貯留量は、上述したように3L以下であり、好ましくは2〜1.5Lのものが一般的である。
尚、発芽から苗(A)を製造する過程では、水耕栽培装置は、小型のものでも使用できるが、小型のものでなく水耕栽培工場で使用される人工光源を用いる中型ないし大型プラントの水耕栽培装置を用いてもよい。
室内水耕栽培装置で用いる植物への光の照射に用いる人工光源は、特に限定するものではないが、消費電力が少ないことから、LED電球用いた白色LED光が好ましく用いられる。
本発明で栽培する野菜の種類は、比較的小型の室内水耕栽培装置でも栽培できるもの、すなわち収穫時の草丈が室内水耕栽培装置の内部の高さよりあまりに大きくなり過ぎないもので、室内水耕栽培ができるものであれば特に限定されないが、レタス、サラダ菜、サンチユ、小松菜、ほうれん草、ルッコラ、水菜、パセリ、セルリー、コリアンダー、バジルから選ばれた苗であることが好ましい。特に、このうちでも葉菜類が容易に栽培でき好ましい。なお、室内水耕栽培装置は、草丈が最大でも30cm程度まで栽培できるものが一般的である。
播種から通常の水耕栽培条件で栽培して、苗(A)とするまでの所定の初期栽培期間は、野菜の種類や栽培条件である日照時間や温度、湿度により異なるが、通常、播種から2〜8週間、好ましくは、2〜6週間であり、より好ましくは、特にレタス、サラダ菜、サンチユの場合は、21〜25日間、水菜やルッコラ、セルリー、コリアンダー、ほうれん草の場合は、23〜28日、パセリ、バジルの場合は、30〜40日間などである。
苗(A)を取得した後、この苗と、栽培養液の主たる成分が、水溶性カリウム化合物が投入されておらず、水溶性カルシウム化合物、水溶性マグネシウム化合物、水溶性窒素化合物、水溶性リン化合物、水溶性ナトリウム化合物が水に投入されてなる低カリウム化養液とを低カリウム野菜の室内水耕栽培用キットとしたものである。
上記低カリウム化養液の、各成分の濃度のうち、投入された水溶性ナトリウム化合物の量が、前述したようにナトリウム元素を含むイオンの濃度で0.2〜2me/L、より好ましくは0.4〜1me/Lであことが、栽培後期で使用する前記のカリウム成分が投入されていない低カリウム化養液を使用しても、野菜の苗の発育を阻害せずに、しかも、収穫した野菜が高ナトリウム含有量にならず好ましい。
また、投入された水溶性リン化合物の量が、前述したようにリン元素を含むイオンの濃度で0.2〜3me/L、より好ましくは0.5〜2me/Lであることが好ましく、リン成分の量が多すぎるとカルシウムの吸収を抑制するために、カルシウム含有量が増えにくくなり、リンの含有量が少なすぎると、生育が悪くなるので、結果的に野菜中のカリウム濃度が低下しにくくなる傾向になるので、水溶性リン化合物の量は、上記の範囲が好ましい。
低カリウム化養液のその他の成分の投入量は、特に限定するものではないが、各成分を水に投入して低カリウム化養液とした場合の、投入した成分の濃度が、水溶性カルシウム化合物は、カルシウム元素を含むイオンの濃度で好ましくは1〜20me/L、より好ましくは4〜15me/L、水溶性マグネシウム化合物は、マグネシウム元素を含むイオンの濃度で好ましくは0.2〜1me/L、より好ましくは0.4〜0.6me/L、水溶性窒素化合物は、窒素元素を含むイオンの濃度で好ましくは0.5〜25me/L、より好ましくは10〜18me/Lである。
尚、好ましくは、カルシウム成分は多く、リン成分は少ないことが好ましく、マグネシウムと窒素の量の差はあまり重要ではなく、マグネシウムと窒素の量は、カルシウムよりも少なく、リンよりも多く入れることが好ましい場合が多い。また、上記主要成分以外に、特に支障がない限り、微量成分である鉄、マンガン・ホウ素・亜鉛・銅・モリブデンなどの成分を適宜投入しても良い。
上述したように、苗(A)と低カリウム化養液とをキットとして例えば慢性腎臓病患者やその世話をする家族などのユーザーに販売し、これらを入手したユーザーが、自己の室内用水耕栽培装置を使用して、苗(A)と低カリウム化養液とを用いて水耕栽培し、収穫時に収穫することになる。
ユーザーへの苗(A)の配布準備の作業が遅れて、上述した所定の初期栽培期間を経過してしまう苗については、2〜3日間配布準備の作業が滞る場合には、前記所定の初期栽培期間経過した時点で、苗(A)の根部や根の培地であるスポンジなどに、初期栽培期間中に使用したカリウム成分を含む通常の水耕栽培養液が残存しないように水洗した後、上述のカリウム成分が投入されていない低カリウム化養液を用いて、配送するまで栽培しておいてから、ユーザーに配布してもよい。これにより、何ら苗中のカリウム含有総量が増加しないし、苗の生長に好ましいからである。
ユーザーへの配送は、特に限定するものではないが、苗(A)は、輸送中の振動で苗が破損しないように、配送箱に固定されていることが望ましい。また、苗に含まれる水分が輸送中に漏れ出さないように、苗全体がプラスチックフィルムで覆われて密封されていることが望ましい。前述の配送箱を冷蔵装置のある輸送車(例えば、ヤマト運輸(株)の“クール宅急便”や佐川急便(株)の“飛脚クール便(冷蔵)”など)で配送するのが好ましく、低カリウム化養液は、ペットボトルなどの容器に入れた状態で苗の配送箱と同梱で配送するのが一般的である。
発芽後苗を育成し、収穫するまでの栽培条件のうち、初期栽培期間から収穫まで、人工光源の照射時間は野菜の種類によっても異なるが1日約12〜16時間が好ましく、温度は、室温であればそれほど厳密に調整しなくても良いが、16〜28℃の範囲が好ましい。レタスなど葉菜類で高温時に抽苔を起こしやすい野菜においては16℃〜23℃の範囲になるようエアコンなどで調整して栽培するのが好ましい。特に、レタス、サラダ菜、サンチユ、小松菜、ほうれん草、ルッコラ、水菜は、高温で抽苔を起こしやすくなるので、16℃〜23℃の範囲が好ましい。一方、高温を好む、パセリ、セルリー、バジルでは、18℃〜26℃の範囲が好ましい。
湿度も、通常の室内の湿度であればそれほど厳密に調整しなくても良いが、野菜の種類によっても異なるが特に若干高いほうが好ましく、60%RH〜90%RHが好ましく、不足する場合には加湿器で調整しても良い。
なお、通常の水耕栽培条件で所定の初期栽培期間栽培して、苗(A)とする期間に使用する栽培養液としては、通常、ナトリウム成分は意図的には配合されておらず、カリウム成分を含んでいて、且つ、植物生育に必要なその他の成分を含んでいる市販されている配合肥料を所定の濃度範囲に水で希釈して使用してもよく、具体的には、栽培養液の主たる成分として、水溶性窒素化合物が、窒素元素を含むイオンの濃度で1.6〜20me/L、水溶性リン化合物が、リン元素を含むイオンの濃度で0.5〜6me/L、水溶性カリウム化合物が、カリウム元素を含むイオンの濃度で0.5〜8me/L、水溶性マグネシウム化合物が、マグネシウム元素を含むイオンの濃度で1〜4me/Lその他微量成分として必要に応じて、例えば、キレート鉄、亜鉛、マンガン、ホウ素、モリブデンなどを含んでもよい栽培養液などが挙げられる。なお、例えば、市販品としては、株式会社ハイポネックスジャパン製の商品名「微粉ハイポネックス」[農林水産省 肥料登録番号:生第101318号、登録肥料名称:ハイポネックス複合肥料2号 、肥料の種類:配合肥料 N-P-K=6.5-6-19、窒素 6.5wt% (内アンモニア態窒素1.0wt%、硝酸態窒素5.5wt%)、水溶性カリウム19.0wt%、リン6wt%(内水溶性リン4.5wt%)、マグネシウム1.5wt%、マンガン 0.01wt%、ほう素 0.03wt%]を2gを500ccから1000cc程度の水(水道水が好ましい。水道水を中空糸フィルターなどのRO膜(逆浸透膜)で濾過した水も使用可能である)で希釈するなどして用いても良い。市販のミネラルウォータは、カルシウムやマグネシウムを多く含むので使用することはあまり好ましくない。
また、前記低カリウム化養液に使用される主たる水溶性化合物の具体例としては、特に限定されるものではないが、例えば農林水産省の登録番号で生第92812号の「11硝酸カルシウム」、生第46460号の「16.0硫酸マグネシウム肥料」、輸第9845号の「11-61リン酸アンモニウム」と、生第73950号の「15.0硝酸マグネシウム肥料」と、2価鉄にその他の微量要素群(マグネシウム・マンガン・ホウ素・亜鉛・銅・モリブデン)が含まれている生第92081号の肥料名「鉄力あくあF14号」と、旭硝子製食品グレードの重曹、“OATハウス2号”(大塚アグリテクノ株式会社製Ca(NO3)24H2O)、“OATハウス6号”(大塚アグリテクノ株式会社製MgSO4・7H2O)、“OATハウス7号”(大塚アグリテクノ株式会社製リン酸二水素アンモニウムNH4H2PO4)、などが各成分を供給する化合物の代表例として挙げられる。ここで農林水産省の登録番号のうち「生」とは、日本で生産されている肥料であり、「輸」は輸入している肥料を意味している。これらを水道水などの水に投入して、投入したカルシウム、マグネシウム、窒素、リン、ナトリウム成分の濃度が、前述した範囲にした低カリウム化養液を用いることが好ましい。
なお、1種類の化合物で、上記で示した2種類以上の成分を兼ねている化合物、例えば硝酸カルシウムなら、水溶性カルシウム化合物と水溶性窒素化合物の両方を兼ねているし、硝酸マグネシウムなら、水溶性マグネシウム化合物と水溶性窒素化合物の両方を兼ねている、リン酸アンモニウムなら水溶性リン化合物と水溶性窒素化合物の両方を兼ねているので、もしこれらの化合物を使用した場合、水溶性窒素化合物の窒素元素を含むイオン濃度は、これらの化合物由来の窒素元素を含むイオン濃度も含めての濃度になる。
低カリウム化養液のpHは、5.5〜7の範囲が特に好ましく、低カリウム化養液(C)では、特に調整しなくてもpH6.5程度に収まっている場合がほとんどだが、pHがこれらの好ましい範囲になっていない組み合わせの場合には、通常、pHがアルカリ性サイドになることが多いので、pH調整剤のうち酸系のpHダウン剤などでpH5.5〜7の範囲に調整するのが好ましい。
播種から通常の水耕栽培条件で栽培して、苗(A)とするまでの所定の初期栽培期間は、野菜の種類により異なるが、通常、播種から2〜8週間、好ましくは2〜6週間より好ましくは、特にレタス、サラダ菜、サンチユの場合は、播種から21〜25日間、水菜やルッコラ、セルリー、コリアンダー、ほうれん草の場合は、23〜28日、パセリ、バジルの場合は、30〜40日間などである。
野菜中に含まれる元素含有量の測定法の詳細は、「食品衛生検査指針 理化学編2015」(2015年2月27日公益社団法人日本食品衛生協会発行)で カリウムの分析はp.218〜220、 ナトリウムの分析はp.215〜218、 マグネシウムの分析は p.229〜232、 カルシウムの分析は p.220〜225、 リンの分析は p.241〜247参照による。
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(参考例1)
参考実験として、播種から収穫までを、全て、通常の水耕栽培条件を採用した場合において、どのような割合で生長するか通常の栽培における植物の生長過程を参考までに知るために、また、カリウム濃度がどのように変化するのか、栽培日数(2〜3日毎)ごとの可食部のカリウム濃度と、通常水耕栽培における植物の生長の過程(可食部重量変化)を代表的な植物の一例としてグリーンロメインレタスを栽培して調べた。
まず初めに、種を播種、育苗して苗を作る。室内水耕栽培装置として、株式会社アイティプランツの“itplanter-02”を用いた。種は、中原採種場(株)の“グリーンロメイン”(レタス)という品種を使い、通常の水耕栽培用の養液として、カリウム成分を含むハイポネックスジャパン社の微粉ハイポネックス(肥料登録番号生101318号)を2リットルの水道水に4g入れて、500倍希釈養液を作り、この養液を含ませた水耕栽培用のスポンジ培地を室内水耕栽培装置のトレイに入れ、スポンジ培地の種を入れる切れ目に、“グリーンロメイン”(レタス)の種を4粒入れて、透明なプラスチックラップでトレイを覆い、乾燥しないようにして、12時間周期で点灯と消灯を繰り返す白色LEDライトの下に置いた。白色LEDライトの照度はラップ面で5000Lux 、光量子束密度にして約170μmolm-2s-1であった。種は、室温(18度〜23度)で1日から2日で発芽する。播種後、7日目には葉っぱがスポンジ培地からでてきて、また、根もスポンジ培地を貫通するようになるので、ラップを外し、スポンジ培地のブロックを1個ずつ分離して、スポンジ培地1個が入る、籠状の苗ポットに入れて、トレイに中に5行5列で25株を並べた。前述通常栽培養液をトレイの中に注ぎこみ、スポンジ培地の高さの半分程度が養液に浸るようにして、再び、白色LEDライトの下に置き、さらに7日、栽培して、播種後、14日目から2〜3日毎にカリウム濃度を測定した。重量は、種1粒から生えてきた1株の地上部の可食部の重量を測定した。その結果を表1に示す。表1から、通常栽培では、重量増加に伴ってカリウム濃度が高くなることが分かる。
また、栽培時間に応じた可食部の重量変化を図1に示した。図1に示されるように、栽培日数毎の種4粒から生じた株あたりの重量は、通常、ロジスティック関数と言われるS字生長曲線(この図1で示された曲線はy=12.0(1+exp(-0.15(t-26))で示される曲線に近似する。tは栽培日数)に沿って増加している。重量の増加に伴って、1株中のカリウム量も直線的に増える。生長曲線に当てはめることで、その後の重量増加も推定可能となる。生長曲線への近似方法は、栽培品種によって、収穫時の最大重量が既知なので、その値が最大になるようにして、S字曲線の傾きとX軸上の移動量を変えて、測定値と生長曲線の計算値の自乗誤差が最小になるように定めれば良い。このような近似曲線の計算は、繰返し反復法で収束計算することができる。
生長曲線より、播種後7日目の苗を続けて通常栽培養液で14日間栽培後、つまり、播種後21日以降に、生長が急激に増加することが分かる。この栽培結果より、もし、低カリウム化養液に切り替えて後期を栽培する場合には、当該通常栽培条件で、播種後21日間前後栽培して、種1粒から生じた株あたりの可食部の重量が約1g以上程度になってから低カリウム化すると好ましいという目安が知見できる。なお、栽培期間は、LEDライトの点灯時間でも変化する。例えば、12時間点灯を16時間点灯に変更すると、生長速度が33%増加するので、通常栽培養液で播種後17日間、栽培すれば可食部の重量は約1g以上になる。植物には個体差があり、季節によっても変動するので、栽培日数はあくまでも目安として、可食部の重量を重視した方が好ましい。また、この手順は、栽培品種が変わる度に実施して、栽培品種ごとの測定値をデータベース化しておくと、過去に実施した品種に関しては、データベースで検索することで、必要な情報が得られるので、再度の測定は不要になる。
(参考例2)
[数11]の有効性を確かめるために、低カリウム化養液で栽培中に、可食部のカリウム濃度の経時的変化を測定した。参考例1と同様にグリーンロメインレタスの種を播種して同様の通常栽培養液を用い同様の通常栽培条件で約2週間後の種1粒から生えてきた1株の可食部の重量が1.2gほどになった苗12株のスポンジ培地をよく水で洗って、通常栽培養液を洗い流した苗を、室内水耕栽培装置アイティプランターに入れて、低カリウム化栽培を実施した。低カリウム化養液の組成は、窒素化合物11me/L、リン化合物1.3me/L、カリウム化合物0.0me/L 、カルシウム化合物10.0me/L、マグネシウム化合物0.6me/L、ナトリウム化合物0.6me/Lであり、pHは6.5であった。
可食部のカリウム濃度の測定には、少なくとも2gの可食部の試料が必要であり、初回は苗が小さいため3株採取して、混ぜあわせてカリウム濃度を測定した。測定の結果、W1pは1.28g、K1pは356mg/100g、Ktpは4.5mgであった。その後2〜3日おきに測定したが、2回目以降は、1株が2g以上になったので1株採取で測定を行った。
栽培で重量が増えたことを確認しながら、2,3日おきに、苗を収穫して苗の可食部重量と根部の重量、及び、可食部のカリウム濃度を測定した。苗の可食部重量と根部の重量の和を全重量とした場合の結果を図2に結果を示す。カリウム濃度測定は破壊検査であるために、測定している苗が、毎回、異なるので測定値にはばらつきがでるが、カリウム濃度減少の傾向は把握できる。図2では、縦軸にカリウム濃度値[mg/100g]をとり、横軸に、苗の可食部重量と根部の重量の和である全重量をとっている。
図2で、丸印が実測値であり、三角印が[数11]を適用した結果であり、四角印は、根からのカリウムの転流を考慮しなかった場合の推定値になる。[数11]は、より実測値に近い値になることが分かる。根からのカリウムの転流を考慮しなかった場合には、実際よりも低いカリウム濃度の値を推定してしまうために、根からのカリウムの転流を考慮することが好ましい。この実験より、[数11]が妥当であると言える。
(実施例1)
次に、前記参考例で説明したグリーンロメインレタスを播種から通常水耕栽培養液で21日間前記参考例と同一の栽培条件で25株栽培して種1粒から生えてきた1株の可食部の重量が1.3g程度になった時に、その苗のうちの苗4株を基準苗として採取した。基準苗の成分分析を行い、基準苗の可食部分のカリウム濃度を計測した。成分分析では、地上部の可食部の葉で、黄化葉と枯死した葉や、葉長が2cm未満の小さすぎて食用に適さない葉は目視にて除外して、可食部の重量とカリウム濃度を測定した。その結果、可食部のカリウム濃度、可食部の重量、可食部のカリウム総量は、表2に示したとおりであったので、平均値をとってW1p、K1p、Ktp、W1rを求めた。この結果、W1pが12.8g、K1pが356mg/100g、Ktpが4.6mg、W1rが13.4gであった。
次に、上記栽培苗9株を苗(A)とし、これまで使用した通常栽培養液が苗(A)の根元に残らないように、その根元とスポンジ培地の部分を水道水でよく洗い流して、苗(A)と特定組成の低カリウム化養液のキットを実際のユーザーに送付する代わりに、本願の発明者の一人坂口嘉之から、宅急便で本願の発明者の一人志村欣之介宛て送付した。
この時の低カリウム化養液の組成は、窒素化合物11me/L、リン化合物1.3me/L、カリウム化合物0.0me/L 、カルシウム化合物10.0me/L、マグネシウム化合物0.6me/L、ナトリウム化合物0.6me/Lであり、pHは6.5であった。
9株の苗(A)は、アイティプランツ社製の最大25株入る苗搬送専用の苗トレイに入れた。この苗トレイは、1株ごとの苗ポットをトレイに固定できるものであり、搬送中の振動で苗が転がって損傷しないようになっている。また、苗トレイの底面には、水道水を含んだ、2mm厚のスポンジが敷かれており、輸送中の水分補給を行っている。この苗トレイをビニール袋に入れて、ヒートシールで熱圧着して密封し、ダンボール箱に入れて、低カリウム化養液と共に送付した。発送の翌日、午前中に、志村欣之介に届いた。志村欣之介は、受け取った箱を開封し、苗を室内水耕栽培装置アイティプランターの苗トレイに入れた。また、室内水耕栽培装置アイティプランターの養液タンクに同梱で届いた低カリウム化養液1.5リットルを入れて、低カリウム化栽培を開始した。室内水耕栽培装置を設置した場所は、志村欣之介の自宅のリビングであり、室温は、18度から23度で10日間栽培した。室内水耕栽培装置アイティプランターのLEDライト点灯時間は、朝5時から夜9時までの16時間照明にセットした。養液の供給回数は1日6回で、朝5時から3時間毎に、吐出量1.5L/minのポンプを1分間だけ動かし、養液を根部にかけ流すように室内水耕栽培装置アイティプランターをセットし、10日間の低カリウム化栽培を開始した。
低カリウム化栽培開始から10日後、低カリウム化栽培して生長した苗を室内水耕栽培装置アイティプランターから取り出して、苗が送られてきた時と同じ梱包方法で、宅急便にて、一般社団法人京都微生物研究所に、食品成分分析に出した。成分分析では、届いた野菜の可食部分を切り取り、食用に適さない黄化葉と枯死した葉や、2cm未満の小さな葉を目視で取り除き、残りの葉を混ぜあわせてカリウム濃度を測定した。結果は表3のようになった。
収穫した野菜のカリウム濃度は81mg/100gであり、低カリウム野菜として好適であった。なお、基準苗の上記W1p、Ktp、W1rの数値から、数式[11]により計算で推定した、志村欣之介の収穫した野菜のK2p値は、9株の重量の平均値が、1株あたり、27.82gであったので、カリウム濃度の推定値は80[mg/100g]であり、この推定値が、上記実測値81[mg/100g]とほぼ近似しており、ユーザーが収穫した野菜のカリウム濃度を推定できることが分かった。
(実施例2)
次に、グリーンロメインレタス以外の野菜でも低カリウム化ができるか実験を行った。実験に用いた品種は、グリーンジャケット(レタス)、ルッコラ、水菜、三つ葉、パセリ、コリアンダーであり、前記実施例1と同様にして種を播種して25株を実施例1と同じ通常水耕栽培養液を用い、実施例1と同じ条件で播種後25日間栽培して通常水耕栽培した苗25株のうち4株を基準苗として採用するため、可食部の重量W1pが、それぞれ、4株づつの平均でグリーンジャケット 2.5g、コリアンダー1.0g、パセリ1.2g、三つ葉1.4g、水菜 1.5g、ルッコラ1.0gになったものを基準苗とした。
この理由は、グリーンジャケット、ルッコラ、水菜、三つ葉、パセリ、コリアンダーは、小さな時期が長く、茎が生長してから葉が生長するため、レタスのように播種後21日ほどでは、まだ苗が小さく、低カリウム化栽培を行うと、生長する前に葉の黄化が始まってしまうためである。品種に応じて、また、生育状況に応じて、低カリウム化する前の栽培期間を変える必要がある。低カリウム化前の可食部重量を調べてテストし、目安にするとよい。
基準苗の成分分析を行い、基準苗の可食部分のカリウム濃度を計測した。成分分析では、地上部の可食部の葉で、黄化葉と枯死した葉や、葉長が2cm未満の小さすぎて食用に適さない葉は目視にて除外して、可食部の重量と可食部のカリウム濃度、及び、根部重量を測定した。可食部の重量W1p、可食部のカリウム濃度K1p、可食部のカリウム総量Ktp、根部重量W1rは、平均値をとって、それぞれの品種のK1p、W1p、Ktp、W1rとした。この結果は表4に示す。なお、参考までに、表4は、その後基準苗を下記苗(A)と同様の低カリウム化栽培条件すなわち実施例1と同じ組成の低カリウム化養液で実施例1と同じ条件で(但し栽培日数は、10日間)、低カリウム化栽培した後に、収穫した場合のW2p、W2の値も示した。
基準苗と同じ条件で初期栽培して得たユーザーに配送するための9株の苗(苗(A))を、実施例1の場合と同様にして、苗(A)と実施例1と同じ組成の低カリウム化養液のキットを実際のユーザーに送付する代わりに、本願の発明者の一人坂口嘉之から、宅急便で本願の発明者の一人志村欣之介宛て送付した。
次いで、志村欣之介は、実施例1と同じ組成の低カリウム化養液で実施例1と同じ条件で(但し栽培日数は、10日間)、低カリウム化栽培した後に、収穫し、食品成分分析にだして、カリウム濃度を測定した。結果は表5のようになった。
なお、表5中、「通常養液栽培」とは、この実施例で用いた苗を、収穫時まで通常栽培養液で栽培した場合の可食部のカリウム濃度であり、カリウム濃度減少率を計算するのに便利な参考値である。また、「低カリウム化基準苗カリウム濃度」とは、基準苗をこの実施例で用いたものと同じ低カリウム化養液を使用し、苗(A)と同じ条件の後期栽培を行って収穫した場合の可食部のカリウム濃度を比較の参考までに示した値である。
更に「苗(A)の低カリウム化栽培後の可食部の実測値[mg/100g]」とは 、苗(A)を低カリウム化養液で栽培し収穫した場合の可食部のカリウム成分の濃度の実測値である。この可食部のカリウム成分濃度の実測値の値と、数式[11]で計算された食部のカリウム成分の濃度の計算値を比較すれば明らかなように、これらの値はほぼ近似しており、数式[11]より、収穫時の可食部のカリウム濃度が推定できることが分かる。
上記基準苗のKtp、 W1p、W1r、W2の数値から、ユーザーが収穫した野菜のカリウム濃度を推定できることが分かった。
なお、パセリやコリアンダーは、元来、特にカリウム濃度が高い品種であるが、低カリウム化栽培により、通常栽培のものと比較して、約40%から80%減になっていることが確認できた。