JP7343872B2 - 果樹の栽培方法 - Google Patents
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Description
肥料は、植物を生育させるため、一般に、窒素(N)、カリウム(K)、リン(P)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)を含み、更に、硫黄(S)、ホウ素(B)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、銅(Cu)、モリブデン(Mo)、鉄(Fe)、塩素(Cl)等の元素を含むものが通常である。これに対して、上記第1工程に用いる肥料は、カリウムを含まないため、根、茎、葉及び果実の各器官中におけるカリウムの含有量を減少させることができる。本明細書において「カリウムを含まない肥料」とは、カリウム元素の含有量が0である肥料を指すが、例えば養液として使用する場合、肥料の溶解に用いる水、特には水道水にカリウムが含まれる。このため、第1工程において肥料を養液の形態として用いる場合においては、養液中に含まれるカリウム量は0であることが好ましいものの、水道水中に含まれる程度の無視できる量、例えば、10ppm以下の量は、本発明の目的を害しない範囲の量であり、許容できる。
本明細書において「根域制限栽培」とは、土壌の量を制限した培地において果樹の栽培を行うことを指し、容器に植物を植えて、土壌の量を制限する手法や、土壌の代わりに果樹(根)の支持体として培土(固形培地ともいう)を用いる手法等が好適に挙げられ、これらの手法を併用することがより好ましい。
なお、塩基置換容量とは、陽イオン交換容量(CEC)とも称され、塩基置換容量が低い程、肥料を保持する能力が低いことを示す。塩基置換容量は10meq/100g以下であることが好ましい。塩基置換容量の下限値は、特に制限されるものではなく、例えば5meq/100g以上である。また、本明細書において、塩基置換容量は、土壌粒子に吸着したアンモニアをナトリウムで置換し、出てきたアンモニアをホルマリンで酸性化合物に変換して、アルカリ中和滴定で量を求める簡便法によって測定される値である。
ここで、「萌芽期」とは、芽を出す時期であり、本明細書においては、休眠期から最初の芽の形成が目視にて確認できた時を「萌芽期の開始」とし、「開花期の開始」までを「萌芽期」とする。「開花期」とは、花が咲いている時期であり、本明細書においては、萌芽期から最初の開花が目視にて確認できた時を「開花期の開始」とする。「着色期」とは、果実が徐々に柔らかくなり色づき、熟していく時期であり、本明細書においては、果実表面が一部でも成熟した果実が持つ色(ブルーベリーの場合は青紫色)に着色した果実が目視にて最初に確認できた時を「着色期の開始」とし、「収穫期の開始」までを「着色期」とする。「収穫期」とは、成熟した果実を収穫する時期であり、成熟した果実が目視にて最初に確認できた時を「収穫期の開始」とし、樹全体に着生された果実が全て収穫されたことを目視にて確認できた時を「収穫期の終わり」とする。
水洗は、水(例えば水道水)を用いる通常の灌水によって行うことができる。水洗は、期間を長くするほど蓄積したカリウムを洗い流すことができるが、例えば、水洗後の排液の電気伝導率(Electric Conductivity,EC)が水(例えば水道水)のECと同程度になるまで行うことが好ましい。本発明において、水洗は、水洗後の排液ECが0.1~0.5mS/cmの範囲になるまで行うことが好ましく、0.1~0.2mS/cmの範囲になるまで行うことが更に好ましい。本明細書において、電気伝導率は、水溶液塩類の総量の指標となり、市販品のECメーターを用いて容易に測定できる。
本発明において、水洗の期間は1日以上5日以下の期間であることが好ましい。また、水洗は、1日に1回でもよいし、1日に複数回、例えば3~8回行ってもよいが、1日の灌水量は、培養土1Lあたり500~1000mLの範囲内であることが好ましい。
本発明においては、水洗を行う場合、植物の培地は、非天然素材系の有機材料培地を用いることが好ましく、ポリウレタン樹脂から構成されるフォーム状又はスポンジ状の培地を用いることが更に好ましい。これら好ましい固形培地であれば、他の培地と比較して急速に排液ECを低下させることができる。
例えば、相対湿度は約30~80%の範囲とすることが好ましく、CO2濃度は約400~600μmol・mol-1の範囲とすることが好ましく、培地pHは約4.0~5.5の範囲とすることが好ましく、培地ECは約0.7~1.2mS/cm程度とすることが好ましい。
第2工程に用いる肥料は、窒素(N)、カリウム(K)、リン(P)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)を含むことが好ましく、更に、硫黄(S)、ホウ素(B)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、銅(Cu)、モリブデン(Mo)、鉄(Fe)、塩素(Cl)等の元素を含むものがより好ましい。言い換えれば、第2工程に用いる肥料は、通常の肥料の処方に従うものが好ましい。例えば、第2工程に用いる肥料は、園試処方や園試処方の各成分の濃度を2分の1とする1/2園試処方等に従い調製される培養液であることが好ましい。
例えば、相対湿度は約30~80%の範囲とすることが好ましく、CO2濃度は約400~600μmol・mol-1の範囲とすることが好ましく、培地pHは約4.5~5.5の範囲とすることが好ましく、培地ECは約0.7~1.2mS/cm程度とすることが好ましい。
第3工程に用いる肥料は、窒素(N)、カリウム(K)、リン(P)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)を含むことが好ましく、更に、硫黄(S)、ホウ素(B)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、銅(Cu)、モリブデン(Mo)、鉄(Fe)、塩素(Cl)等の元素を含むものがより好ましい。言い換えれば、第3工程に用いる肥料は、通常の肥料の処方に従うものが好ましい。例えば、第3工程に用いる肥料は、園試処方や園試処方の各成分の濃度を2分の1とする1/2園試処方等に従い調製される培養液であることが好ましい。
例えば、相対湿度は約30~80%の範囲とすることが好ましく、CO2濃度は約400~600μmol・mol-1の範囲とすることが好ましく、培地pHは約4.0~5.5の範囲とすることが好ましく、培地ECは約0.7~1.2mS/cm程度とすることが好ましい。
[材料及び方法]
材料:サザンハイブッシュブルーベリー「Sharpblue」を用いた。
期間:2015年5月6日~7月15日(71日間)
場所:軒高温室
栽培方法:培地としてピートモスを用いたポットでの養液土耕栽培(植え替えから処理開始までは水道水による灌水を行った)。図1は、実験1の栽培方法の概略図を示す。
処理区:
・対照区:2015年5月6日から7月15日まで(開花期から収穫期において)表1に示される1/2園試処方に従い調製された培養液(以下、単に「1/2園試処方」という)を用いて栽培を行った。
・K着色期制限区:2015年5月6日から6月10日まで(開花期から着色期)1/2園試処方を用い、2015年6月11日から7月15日まで(着色期から収穫期において)表1に示されるK制限処方に従い調製された培養液(以下、単に「K制限養液」という)を用いて栽培を行った。
・K開花期制限区:2015年5月6日から7月15日まで(開花期から収穫期において)K制限養液を用いて栽培を行った。
対照区及びK着色期制限区では6株の苗木、K開花期制限区では3株の苗木を対象に栽培が行われた。
各器官のカリウム(K)含有量の測定結果を図2に示す。なお、第2-1図において、各器官の3つのバーは、左から対照区、K着色期制限区、K開花期制限区の測定結果を示す。
第2-1図は、カリウム減少率が、K開花期制限区>K着色期制限区であり、また、葉>根>茎>果実であったことを示す。
第2-2図は、K開花期制限区及びK着色期制限区で対照区より有意にカリウムが減少したが、K開花期制限区とK着色期制限区の間に有意な差はなかったことを示す。
K制限によって植物体の成育と果実品質に影響を及ぼすことなく、K制限区で可食部のカリウムが有意に減少した。これにより、ピートモス及びポットを利用した養液土耕栽培において低カリウム果実の生産が可能であることが示唆された。
カリウム含有量は、K制限期間が長いほど各器官で有意に減少し、特に葉で顕著だったが、可食部ではそれほど差がなかった。可食部のカリウム含有量についてK制限期間による有意な差はみられなかったが、制限期間が長いほどカリウムは減少した。
図示しないが、カルシウム含有量は、葉においてK開花期制限区が対照区よりも有意に増加した。制限したカリウムの代替要素としてカルシウムが考えられる。
[材料及び方法]
材料:サザンハイブッシュブルーベリー「Sharpblue」を用いた。
場所:軒高温室
方法:培地としてピートモスを用いた処理区(ピートモス区)及び培地としてサントリーミドリエ株式会社から購入した「パフカル」を用いた処理区(パフカル区)を用意した。各処理区では、ポットに土のみを入れ、各3ポットで実験が行われた。1/2園試処方を潅水してから1、3及び5日後、その後水道水を灌水してから、1、3及び5日後の排液ECを測定した。結果を図3に示す。
パフカル区の排液ECは、1/2園試処方のEC近くまで上昇し、水道水を与えると急速に低下した。
1/2園試処方による灌水の5日後におけるパフカル区の排液ECは、1/2園試処方のECと同じ値を示した。この結果より、パフカルは、ピートモスより、養分を蓄積しない培地、すなわち、塩基置換容量が小さいと考えられる。
排液ECの最大から処理終了時の減少率は、パフカル区>ピートモス区であった。パフカルは、ピートモスより、培地の水洗が容易であることが考えられる。
[材料及び方法]
材料:(果樹)サザンハイブッシュブルーベリー「Sharpblue」を用いた。(培地)サントリーミドリエ株式会社から購入した「パフカル」を用いた。
期間:2017年2月22日~5月16日(84日間)
場所:軒高温室
栽培方法:ポットでの養液土耕栽培から2016年5月にパフカルに植え替えて、栽培を行い、2017年2月22日から一部のポットに対してK制限処理を開始した。2017年2月22日まではいずれも1/2園試処方にて栽培を行った。図4は、実験3の栽培方法の概略図を示す。
処理区:
・対照区:2017年2月22日から5月16日まで(着色期から収穫期において)1/2園試処方を用いて栽培を行った。
・K制限区:2017年2月22日から5月16日まで(着色期から収穫期において)K制限養液を用いて栽培を行った。
各処理区では、7株の苗木を対象に栽培が行われた。
果実品質及び可食部のカリウム含有量の測定結果を図5に示す。図5は、対照区とK制限区の間に果実品質の差はないが、可食部のカリウム含有量では、対照区と比較してK制限区で有意に減少したことを示す。
葉及び可食部のカリウム、カルシウム及びマグネシウム含有量の測定結果を図6に示す。図6から分かるように、カリウム含有量は、葉及び可食部ともにK制限区で有意に減少した。カルシウム含有量は、葉についてK制限区で増加したが、可食部ではK制限区で減少した。マグネシウム含有量は、葉及び可食部ともに対照区とK制限区で差はなかった。
Kを制限しても果実品質に影響はなく、可食部のカリウム含有量を有意に減少させることができた。培地としてパフカルを用いることにより、低カリウム果実の生産の可能性が示唆された。
可食部のカリウム含有量は、対照区と比較して有意に減少したが、さらに減少させるためには更なる改良を行う必要がある。
カルシウム含有量は、葉についてK制限区で有意に増加した。これは、制限したカリウムの代替要素としてカルシウムが考えられる。
パフカルは、あまり養分を蓄積させない培地であるものの、多少は養分が蓄積しているものと考えられた。そのため、実験1のK着色期制限区と同程度のカリウム減少率に留まったものと考えられる。
[材料及び方法]
材料:(果樹)サザンハイブッシュブルーベリー「Sharpblue」を用いた。(培地)サントリーミドリエ株式会社から購入した「パフカル」を用いた。
期間:2017年10月3日~11月28日(57日間、このうち10月3日~7日の5日間は洗浄期間である)
場所:軒高温室
栽培方法:ポットでの養液土耕栽培を行い、K制限処理開始前にすべての対象に対して培地を水道水で洗浄し、培地中に蓄積したカリウムを洗い流した。水道水による洗浄を行うまではいずれも1/2園試処方にて栽培を行った。水道水による洗浄では、5日間で30Lの水道水を灌水し、その結果、排液ECは0.16mS/cmまで下がった。図7は、実験4の栽培方法の概略図を示す。
処理区:
・対照区:水道水による洗浄後、即ち2017年10月8日から11月28日まで(着色期から収穫期において)1/2園試処方を用いて栽培を行った。
・K制限区:水道水による洗浄後、即ち2017年10月8日から11月28日まで(着色期から収穫期において)K制限養液を用いて栽培を行った。
各処理区では、7株の苗木を対象に栽培が行われた。
果実品質及び可食部のカリウム含有量の測定結果を図8に示す。図8は、対照区とK制限区の間に果実品質の差はないが、可食部のカリウム含有量では、対照区と比較してK制限区で有意に減少したことを示す。
Kを制限しても果実品質に影響はなく、可食部のカリウム含有量を有意に減少させることができた。パフカルと水洗の組み合わせは、可食部のカリウム含有量を50%程度まで減少させることができる低カリウム果実生産の栽培システムであると考えられる。
上記より、培地の洗浄が低カリウム果実を生産する上で効果的であると考えられる。
なお、これまでの実験において、カリウム欠乏症は確認されていない。このため、実験5では、カリウム欠乏症がどの段階で発生するのかを確認する実験を行った。
[材料及び方法]
材料:(果樹)サザンハイブッシュブルーベリー「Sharpblue」を用いた。(培地)サントリーミドリエ株式会社から購入した「パフカル」を用いた。
期間:2017年2月22日~11月28日(280日間)
場所:軒高温室
栽培方法:ポットでの養液土耕栽培。2017年2月22日から5ヵ月間(着色期から収穫期の間)K制限養液を用いて栽培を行い(この期間をK制限期間とする)、2017年7月27日から4ヵ月間1/2園試処方を用いて栽培を行った(この期間をK施用期間とする)。4株の苗木を対象に栽培が行われた。図9は、実験5の栽培方法の概略図を示す。
処理開始前、K制限期間及びK施用期間の植物体の写真を図10に示す。カリウム欠乏症は、K制限処理を開始してから3ヶ月後に出始め、5ヶ月後には植物体の全体にみられた。剪定してK施用後、カリウム欠乏症は現れなかった。
果実品質及び可食部のカリウム含有量の測定結果を図11に示す。第11-1表は、1果実重が対照区と比較してK制限期間の3ヶ月後から有意に減少し、糖度も減少傾向がみられたことを示す。第11-1図は、K制限期間の2~5ヶ月後の間で可食部のカリウムは有意に減少しなかったが、対照区と比べるとカリウムは31~45%減少したことを示す。図11の結果から、K制限期間は3ヶ月以内が適していると考えられる。なお、図11において、対照区は、同時期・栽培方法の実験3における対照区の収穫果実の測定結果である。
葉におけるカリウム、カルシウム及びマグネシウムの含有量の経時的変化を図12に示す。カリウムの含有量は、K制限期間の5ヶ月後まで減少し、K施用期間に切り替えてから増加した。カルシウムとマグネシウムの含有量は、K制限期間の5ヶ月後まで増加し、K施用期間に切り替えてから減少した。
葉におけるカリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄及びマンガン含有量の相対比の経時的変化を図13に示す。各バーは、下から順にK、Ca、Mg、Fe、Mnの相対比を示す。図13は、カリウムが減るとカルシウムが増え、カリウムが増えるとカルシウムが減ったことを示す。
K欠乏症は、K制限期間を開始してから3ヶ月で出始め、5ヶ月後には植物体全体に拡がった。また、剪定して1/2園試処方を与えるとその後はK欠乏症がみられなかった。これらの結果から、K制限期間は3ヶ月以内が適しており、また、K施用を再開すればK欠乏症の発生はなくなるものと考えられる。
K制限期間を長くしても(2~5ヶ月の間で)可食部のカリウム含有量は減少しなかった。カリウムが他の器官から果実に転流した可能性が考えられる。即ち、果実はsink activityが強い可能性がある。
葉のカリウム含有量は、K施用期間の開始から3ヶ月後には、K制限処理前と同程度まで増加(回復)した。また、葉のカルシウムとマグネシウムの含有量は、ピーク時(K施用期間の開始から5ヶ月後)より有意に減少(回復)した。このことから、葉のK・Ca・Mgにおいて、K制限期間での含有量の増加又は減少が、K施用期間により回復できることが分かる。
以上より、K制限期間は3ヶ月以内が適しており、また、その後のK施用によって植物体を回復させることができる。
多量要素は、K欠乏による増加または減少からの回復が早い。
Claims (7)
- カリウムを含まない肥料を用いて果樹の根域制限栽培を行う第1工程であって、前記根域制限栽培が天然素材系培地および非天然素材系培地から選択される有機材料培地を用いる第1工程を含み、前記果樹がブルーベリーであることを特徴とするブルーベリーの栽培方法。
- 前記根域制限栽培が容器栽培であることを特徴とする請求項1に記載のブルーベリーの栽培方法。
- 前記第1工程において、カリウムを含まない肥料を用いて果樹の根域制限栽培を行う前に、果樹の根域に対して水洗を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載のブルーベリーの栽培方法。
- 前記第1工程が、開花期又は着色期に開始されることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のブルーベリーの栽培方法。
- 前記第1工程が、3ヶ月以内の期間行われることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載のブルーベリーの栽培方法。
- 前記第1工程の前にカリウムを含む肥料を用いて果樹の栽培を行う第2工程を更に含むことを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載のブルーベリーの栽培方法。
- 前記第1工程の後にカリウムを含む肥料を用いて果樹の栽培を行う第3工程を更に含むことを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載のブルーベリーの栽培方法。
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