JP5299259B2 - 二次精錬中の溶鋼温度の測定方法および制御方法 - Google Patents

二次精錬中の溶鋼温度の測定方法および制御方法 Download PDF

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Description

本発明は、ステンレス鋼を含め、溶鋼の温度を、精錬処理中に連続して測定する方法、特に二次精錬処理を行う際に測定する方法、およびそれらの測定方法を用いて測定した二次精錬処理中の溶鋼温度に応じて溶鋼への酸素供給量を調整して二次精錬終了時の溶鋼温度を目標値に制御する方法に関する。
溶鋼の精錬において溶鋼の温度は、精錬反応速度を支配する重要なパラメータである。さらに、精錬に供する耐火物の耐久性や、精錬後の工程である鋳造における鋳造速度等の鋳造効率、鋳造により得られた鋳片の品質といった、多くの要素に影響を及ぼす。
例えば精錬処理終了時の溶鋼温度が高すぎると、鋳造工程での溶鋼の加熱度が過大となり、鋳造中の凝固シェルからの溶鋼の流出(いわゆるブレークアウト)が生じたり、鋳型内での不均一凝固により欠陥が発生したりする。また、ブレークアウトの防止のため鋳造速度を低下させたり、加熱度の調整のため鋳造開始を遅らせたりすると、生産性が低下する。さらに、発熱材や、昇熱のための電力を過剰に使用することによるコストの上昇も生じる。
一方、精錬処理終了時の溶鋼温度が低すぎると、鋳造工程での溶鋼の加熱度が過小となり、鋳造途中に溶鋼の輸送容器内やタンディッシュ内で溶鋼が凝固して鋳造の中止に至ったり、鋳型内における介在物の浮上能力が低下して、介在物に起因する品質低下が生じることもある。また、再精錬や追加昇熱を行うと精錬時間を延長しなければならず、生産性が低下する。
そのため、精錬における溶鋼の温度制御の精度向上が強く求められている。そして、溶鋼の温度制御の指標となる溶鋼の温度測定についても精度向上が求められている。
1.溶鋼の温度測定および温度予測技術について
現在、溶鋼の精錬における溶鋼温度の測定方法として、一般に温度センサーとして消耗型熱電対を用いて散発的にバッチ測定による直接の温度測定が行われている。
特に、溶鋼精錬の最終工程である溶鋼循環型真空処理装置(RH)や取鍋精錬装置(LF等)などの二次精錬での溶鋼温度管理は、二次精錬終了直前に溶鋼サンプリング及び測温を行って、溶鋼温度が目標値であればそのまま処理を終了する方法を採っている(後述する図5(1)参照)。
その溶鋼温度の調整方法としては、先ず前工程(主に脱炭炉から取鍋への出鋼時点)での温度測定値から、経験に基づいて二次精錬処理中の温度降下を加味してその処理終了時点の溶鋼温度を予測し、適宜Alと酸素を溶鋼に供給するなどして溶鋼の昇熱を実施する方法が一般的である。
そして、処理終了直前に測温を行った結果、その溶鋼温度が目標よりも高温であった場合には溶鋼還流時間などの二次精錬処理時間を延長し、溶鋼温度を降下させてから再び測温し、目標温度まで下がったことを確認して処理を終了する(図5(2)参照)。逆に、その溶鋼温度が目標よりも低温であった場合には、再度溶鋼の昇熱を実施してから再測温し、目標温度まで上昇したことを確認して処理を終了する(図5(3)参照)。
これらのどちらの場合でも、処理終了予定時間に対して処理時間の延長が生じるので、処理後の溶鋼の連続鋳造を行い続けるために、連続鋳造機側で鋳造速度を低下させて調整する場合が生じ、全体としての生産能率の低下を招いていた。
また、過剰昇熱を行った場合には、昇熱用Alなど合金の過剰使用や、昇熱時の酸化による成分ロスなどが生じるため、生産コストの悪化を招く問題もあった。
さらに、この能率低下やコスト悪化を防止するための手段として、バッチ測定した溶鋼温度と精錬設備の操業条件等とに基づいてモデル計算を行い、バッチ測定後の溶鋼温度の変化を予測し、その予測温度に基づいて溶鋼温度を制御する方法が広く行われている。モデル計算による温度予測方法については、数々の方法が提案されている。
特許文献1には、真空脱ガス槽の耐火物温度から計算した、槽寄与(溶鋼の槽耐火物による抜熱)による溶鋼の温度降下量と、合金元素投入等の他要因による温度降下量との和から溶鋼の温度を推定する方法が開示されている。この方法は、簡便なモデルで溶鋼温度の推定精度を向上させることができる。しかし、以前の操業で槽内に付着した地金やスラグが溶鋼中に落下した場合や、処理前の溶鋼成分の分析誤差により昇熱材の添加量が不足し温度上昇率が基準からずれた場合など、突発的事象が発生したときには迅速な対応ができないという問題がある。
特許文献2には、測温サンプリング開始時の溶鋼温度や操業回数等の複数のパラメータをもとに、今回の操業条件に最も類似した過去の操業事例を推論する事例ベース推論を用いて操業条件を決定する方法が開示されている。しかし、この方法でも、槽内に付着した地金の落下等の突発的事象に対応することが困難である。
操業中の突発的な溶鋼温度の擾乱を予測することは困難であるため、特許文献1および2に記載の方法で突発的事象に対応するには、バッチ測定による温度測定頻度を増加させなければならない。しかし、消耗型熱電対は、白金やロジウムといった高価な材料を用いているため、測定頻度の増加によりコストが増大するという問題や、熱電対の交換に要する時間が増加するため、作業効率が低下するという問題がある。
また、散発的にバッチ測定した温度から推定した温度に基づく制御では、測定頻度を増加させても測定間において正確な溶鋼温度が不明な時間が生じるため、突発的事象に対応するのは困難である。そのため、溶鋼温度を安定して制御するには、溶鋼温度を連続的に測定する必要がある。溶鋼温度の連続的な測定方法としては、転炉、またはステンレス鋼に用いられるAOD炉における溶銑の脱炭精錬時の方法として以下のような方法が開示されている。
特許文献3には、放射温度計を接続した光ファイバーを転炉等の精錬容器中の溶鋼に浸漬し、精錬中の溶鋼温度を連続的に測定し、その温度に基づき精錬時の溶鋼温度の制御を行う方法が開示されている。この方法は、溶鋼に浸漬した光ファイバーが消耗するため、安定した測定を継続することが困難であるとともに、光ファイバーのコストがかかるという問題がある。また、厚いスラグが溶鋼上に形成された状態で処理を開始する精錬、例えば溶鋼の二次精錬では、光ファイバーを浸漬する際に、その先端の温度測定部にスラグが付着し、測定が妨げられるという問題もある。
特許文献4では、AOD炉の炉底に測温用羽口を設け、羽口内に装入した光ファイバー(イメージファイバー)で、羽口の奥に露出した溶鋼の輝度を検知することによる連続測温方法が開示されている。この方法は、光ファイバーの損傷や消耗がなく、低コストで実施することができるものの、羽口を有しない精錬容器では実施することができない。また、羽口に溶鋼を流入させずに、羽口の奥に溶鋼を露出させるために羽口にパージガスを吹き込む必要がある。パージガスの流量が多い場合には、ガスの冷却効果が大きく、冷却された溶鋼の輝度に基づいて評価した溶鋼温度と実際の溶鋼温度との乖離が大きくなる。ガスの流量が小さい場合には、溶鋼の静圧によって羽口へ溶鋼が流入して羽口が閉塞する。そのため、パージガスの流量の精細な調整が必要であり、操業が困難である。
羽口を有しない精錬容器では、溶鋼の上部にスラグが形成された状態であっても、溶鋼にシュノーケルを浸漬し、シュノーケル内を不活性ガスで加圧してスラグを排出すると、溶鋼が露出し、溶鋼の輝度を検知することができる。しかし、この露出した溶鋼はシュノーケル内で澱んでいるため、この溶鋼の輝度に基づいて評価した溶鋼温度は精錬容器内の実際の溶鋼温度から乖離する。
2.温度センサーの保護について
上述のように、溶鋼の精錬では溶鋼温度の測定方法として、温度センサーを溶鋼に浸漬する方法や光ファイバーと放射温度計を用いて輝度から測定する方法が用いられている。鋼の連続鋳造工程でも数々の連続測温技術が開発されており、温度センサーとしては、保護用のシース管に熱電対素線を収容し、そのシース管の外周にアルミナグラファイト質等の熱伝導性の良い耐火物からなる層を設けたものが広く用いられている。
しかし、連続鋳造工程用の温度センサーを、スラグまたはフラックス(以下、「スラグ等」という)が溶鋼の上部に存在する精錬工程において用いる際には、スラグ等と溶鋼との界面(以下、「スラグライン」ともいう)におけるシース管の局部溶損が問題となる。
スラグラインは反応性が強く、精錬装置や鋳造装置に用いられる耐火物の局部溶損位置となることが広く知られている。例えば連続鋳造用浸漬ノズルでは、スラグラインに相当する、モールドパウダーと溶鋼との界面部分で溶損が発生する。そのため、連続鋳造用浸漬ノズルのモールドパウダーと溶鋼との界面部分にはジルコニアグラファイト質等の耐溶損性に優れた耐火物が用いられている。しかし、ジルコニアグラファイト質等の耐火物は、耐熱衝撃性に欠け、予熱を必要とするため、精錬工程における溶鋼温度測定用の温度センサーの保護に適用するには取り回し等の面で問題がある。
連続鋳造時にタンディッシュ内の溶鋼表面に散布するフラックスと溶鋼との界面における溶損から、温度センサーを保護する技術として、特許文献5には、温度センサー(熱電対および熱電対を収容したシース管)の、スラグと接触する部分の外側に耐スラグ性を有する耐火物からなるスリーブを設ける方法が記載されている。また、特許文献6には、耐フラックス性のあるマグネシア質等の耐火物からなるフロート式スリーブと温度センサー(熱電対および熱電対を収容したシース管)とを、タンディッシュ内の溶鋼に浸漬した後、温度センサーを包囲して浮上したフロート式スリーブの外部にフラックスを散布することにより、溶鋼とフラックスの界面に温度センサーが接しないようにする方法が記載されている。
特許文献5および6に記載の方法は、タンディッシュにおける、スラグラインでの耐火物からなる熱電対のシース管の溶損を抑制できる有効な技術であり、温度センサーの予熱が不要である点で優れている。しかし、これらの方法で用いられるスリーブは耐火物のみからなるため、強度の面からあまり大きくすることができない。
特開平9−78122号公報(特許請求の範囲、段落[0007]、[0016]および[0017]) 特開2004−360044(特許請求の範囲、段落[0032]〜[0034]、[0038]〜[0044]および[0064]) 特開昭63−203716号公報(第2頁左上欄) 特開平11−124618号公報(段落[0028]) 特公昭58−21210号公報(特許請求の範囲、第2頁第3欄第26行〜第4欄第8行および第1図) 特開平4−111951号公報(特許請求の範囲、第3頁右上欄、左下欄、図3および図4)
上述のように、溶鋼の温度を連続的に測定する方法として、放射温度計を用いた非接触式の方法や、温度センサーを溶鋼に浸漬する接触式の方法が挙げられる。精錬工程では溶鋼上にスラグが形成されるため、非接触法では溶鋼の温度を正確に測定できない。そのため、接触法が望ましい。しかし、温度センサーの浸漬後にフラックスを散布することのできるタンディッシュとは異なり、精錬工程では精錬処理前から溶鋼の上部にスラグが存在するため、以下の3点の課題がある。
(1)スラグライン部におけるシース管の溶損、
(2)スラグの表面凝固による、温度センサーのスラグへの固着、および固着した温度センサーの抜き出し時の損傷、
(3)温度センサーの温度検知部へのスラグ付着。
上記(1)については、上述のようにスラグラインは反応性が強いことに起因する。温度センサーのシース管のスラグラインに接する部分は、集中的に溶損する。温度センサーのシース管が溶損すると、シース管で保護される熱電対素線も断線する。そのため、シース管がスラグラインに接する場合には、温度センサーの繰り返し使用可能な回数が減少し、コストの上昇を招くという問題がある。
上記(2)については、溶鋼の精錬工程で溶鋼上に形成されるスラグは、厚さが100〜200mmと、厚さが10〜20mmであるタンディッシュ内のスラグ等と比べて厚く、その表面は加熱されておらず凝固していることに起因する。そのため、測温中にスラグの表面温度が低下して、熱電対等の温度センサーがスラグに固着し、精錬処理の終了後、温度センサーを溶鋼から抜き出す際に機械的な力が加わり、折損する。そのため、温度センサーの交換の頻度が上昇し、作業工数が増加するとともにコストの上昇を招くという問題がある。
上記(3)については、溶鋼の上部にスラグが存在し、温度センサーを溶鋼に浸漬する際に、温度センサーの温度検知部にスラグが付着して凝固することに起因する。一般的にスラグは温度センサーに用いられる耐火物と比較して熱伝導率が低いため、温度検知部に付着すると温度測定の応答性を低下させるという問題がある。また、付着して凝固したスラグが精錬処理中に溶解する際に吸熱するため、測定される温度が実際の溶鋼温度よりも低い値となるという問題もある。
また、上記した溶鋼の温度を連続的に測定する方法に関する課題に加えて、従来の二次精錬終了時の溶鋼温度制御精度は実際上十分でなく、しばしば二次精錬処理時間の延長を招いていたという問題もある。
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、その課題は、スラグが溶鋼上に存在する溶鋼の精錬工程においても、溶鋼温度を繰り返し安定して測定できる、浸漬型温度センサーを用いた連続的な溶鋼温度の測定方法を提供することにある。
また、溶鋼の二次精錬においてその処理中に連続的に溶鋼温度を測定し、その測定値に応じて溶鋼への酸素供給量を調整して、二次精錬終了時の溶鋼温度を目標値に制御する精度を高める方法を提供し、二次精錬および連続鋳造を通じた生産能率の低下や生産コストの悪化を抑制することにある。
本発明者らは、厚いスラグが溶鋼の上部に存在する状態でも、溶鋼温度を繰り返し安定して測定できる、浸漬型温度センサーを用いた連続的な溶鋼温度の測定方法を検討し、下記の(A)〜(D)の知見を得た。
(A)無底の筒状の保護筒を、精錬容器内の溶鋼中に浸漬し、保護筒の内部からスラグを排出した後、保護筒の内部に温度センサーを配置する。これにより、温度センサーがスラグラインに接触しないため、温度センサーのシース管の集中溶損を抑制することができるとともに、温度検知部にスラグが付着しないため、浸漬した部分の溶鋼温度を正確に測定できる。
(B)溶鋼中において温度センサーの浸漬深さが保護筒の浸漬深さよりも深くなるように、保護筒および温度センサーを溶鋼に浸漬することにより、精錬容器内で変動する溶鋼の温度を正確に測定できる。
(C)保護筒を、芯金の内周面および外周面に耐火物層を設けたものとすることにより、耐火物のみからなる保護筒よりも機械的強度に優れたものとすることができる。
(D)3分以上連続して溶鋼温度を測定することにより、溶鋼温度の変動および溶鋼成分の変化を十分に検知することができ、これに基づいて溶鋼温度を精度良く制御することができる。
本発明は、上記の知見に基づいて完成されたものであり、下記(1)および(2)の二次精錬中の溶鋼温度の測定方法、ならびにそれらの測定方法を用いて行うことを特徴とする(3)の溶鋼温度の制御方法を要旨としている。
(1)溶鋼を二次精錬する際に用いる二次精錬中の溶鋼温度の測定方法において、筒状の芯金の内周面および外周面に耐火物層を設けた保護筒ならびに前記保護筒の内部に配置した温度センサーを、前記保護筒の内部で溶鋼が露出した状態で、溶鋼に浸漬し、前記温度センサーの溶鋼への浸漬深さhを前記保護筒の溶鋼への浸漬深さHより大きくし、3分以上連続して溶鋼の温度を測定することを特徴とする二次精錬中の溶鋼温度の測定方法。
(2)前記保護筒を溶鋼に浸漬する前に、溶鋼上方の前記保護筒を浸漬する部分に金属Alを含有する発熱材を散布し、前記保護筒を溶鋼に浸漬した後、前記保護筒の内部を不活性ガスにより加圧して、前記保護筒内部に流入したスラグ又はフラックスを排出し、その後前記温度センサーを前記保護筒の内部で溶鋼に浸漬し、溶鋼の温度を測定することを特徴とする前記(1)に記載の二次精錬中の溶鋼温度の測定方法。
(3)二次精錬中の溶鋼に酸素を供給して前記二次精錬終了時の溶鋼温度を予め定めてある目標値に制御する溶鋼温度の制御方法であって、二次精錬中の溶鋼に酸素を供給した場合の酸素供給量と溶鋼温度の上昇量との関係を、昇熱効率として予めデータベース化しておき、二次精錬中の溶鋼温度を上記(1)または(2)に記載した測定方法を用いて連続して測定することによって、その溶鋼温度測定値と二次精錬終了時の目標温度との差を連続的に求め、前記連続的に求めた温度差と、前記データベースとして保有している昇熱効率に基づいて前記溶鋼に供給する酸素量を調整して、前記二次精錬終了時の溶鋼温度を目標値に制御することを特徴とする溶鋼温度の制御方法。
本発明の溶鋼温度の測定方法によれば、保護筒を用いることにより、溶鋼に浸漬した温度センサーがスラグと接触しないため、温度センサーの溶損を抑制し、繰り返し温度測定に用いることができる。そして、温度検知部が清浄に保たれるため、応答性の低下も生じず、正確な温度を測定できる。さらに、溶鋼に浸漬して直接溶鋼の温度を連続して測定することができるため、溶鋼中の元素の酸化熱やアーク加熱、処理中の放熱による溶鋼温度の変動を検知することができ、発熱材等の原料の無駄を生じることもない。また、発熱材をスラグ上に散布することにより、スラグが溶鋼の上部に存在しても保護筒を容易に溶鋼に浸漬することができ、スラグを容易に保護筒内部から排出することができる。
さらに、本発明の溶鋼温度測定方法を用いることによって溶鋼に供給する酸素量を適正に調整し、二次精錬終了時の溶鋼温度の制御精度を高めることができるため、二次精錬および連続鋳造を通じた生産能率の低下や生産コストの悪化を抑制することができる。
本発明の溶鋼温度測定方法を実施することができる、温度測定装置の構成例を示す図であり、同図(a)は平面図であり、同図(b)は正面図である。 還流型真空脱ガス装置を用いた精錬装置の構成例を示す図である。 スラグラインからの温度センサーの先端の深さhと保護筒の先端の深さHとの距離差h−Hと、連続測定した溶鋼温度とバッチ式で測定した基準温度との差の関係を示すグラフである。 本発明例3−1(試験番号1)の精錬処理中の温度変化を示すグラフである。 溶鋼循環型真空処理装置(RH)での従来処理フローを説明する図である。 本発明の溶鋼温度の制御方法にかかるRH処理フローである。 RH処理中の溶鋼温度変化の一例を示すグラフである。 RH処理後の溶鋼温度のバラツキを示す図である。
本発明の溶鋼の温度測定方法は、溶鋼を精錬する際に用いる溶鋼温度の測定方法において、筒状の芯金の内周面および外周面に耐火物層を設けた保護筒ならびに前記保護筒の内部に配置した温度センサーを、前記保護筒の内部で溶鋼が露出した状態で、溶鋼に浸漬し、前記温度センサーの溶鋼への浸漬深さhを前記保護筒の溶鋼への浸漬深さHより大きくし、3分以上連続して溶鋼の温度を測定することを特徴とする溶鋼温度の測定方法である。
さらに、本発明の溶鋼温度の制御方法は、本発明の溶鋼温度の測定方法によって測定された溶鋼温度より、二次精錬終了目標温度までの昇熱必要条件を該溶鋼の含有成分を考慮して求め、適切な昇熱を行うことによって、生産能率の低下や生産コストの悪化を抑制する溶鋼温度の制御方法である。
以下に、本発明の溶鋼温度の測定方法および制御方法について説明する。
図1は、本発明の溶鋼の温度測定方法を実施できる、温度測定装置の構成例を示す図であり、同図(a)は平面図であり、同図(b)は正面図である。温度測定装置1は、保護筒2、温度センサー5、および温度センサー5に接続された温度計(図示せず)からなる。温度センサー5は、保護筒2の内部に、保護筒2に接触しないように配置される。
保護筒2は、無底の筒状の芯金3の内周面および外周面に耐火物層4が設けられている。芯金3には、鉄板等の金属を用いることができ、1種類または2種類以上の金属からなるものとしてもよい。耐火物層4は、耐火物を芯金3に貼り付けて設けてもよいし、キャスタブル耐火物を芯金3に塗布し、焼結させて設けてもよい。耐火物としては、アルミナやマグネシアカーボン質のように、耐スラグ溶損性および耐熱衝撃性を有するものを用いることができる。
温度センサー5は、高アルミナ質等の耐火物からなるシース管およびシース管内に配置された熱電対素線からなり、温度検知部が先端に位置する。シース管の外部にアルミナグラファイト質等からなる耐火物層4を設けてもよい。
精錬が行われる取鍋6には、溶鋼7が収容され、その上部にはスラグ8が形成されている。溶鋼7には、上方から保護筒2が、上部がスラグ8より上に露出するように浸漬されている。保護筒2の内部は、不活性ガスで加圧することによりスラグ8が排出されており、溶鋼7の液面が露出している。保護筒2の内部には、保護筒2に接触しないように温度センサー5が配置される。温度センサー5は、先端の温度検知部が保護筒2の端部よりも深い位置となるように溶鋼7に浸漬される。
このように温度測定装置1を溶鋼7に浸漬することにより、スラグ8と溶鋼7の界面であるいわゆるスラグライン9から温度センサー5が隔離されるため、温度センサー5のシース管の集中的な溶損が抑制され、溶鋼の温度測定に繰り返して使用可能な回数が増大する。また、温度センサー5を折損させることなく、溶鋼7から容易に抜き出すことができる。保護筒2は、芯金3を備えるため、スラグ8に固着した場合に溶鋼7およびスラグ8から抜き出すために力を加えても、損傷することがない。
したがって、溶鋼表面に、厚さ100〜200mmの厚いスラグが形成される二次精錬においても、安定して繰り返し連続温度測定を行うことができる。また、温度センサー5を溶鋼7に浸漬する際に、温度センサー5にはスラグ8が付着しないため、浸漬した部分の溶鋼温度を正確かつ応答性良く測定できる。
保護筒2内部の溶鋼7は澱んでいるため、溶鋼中の元素の酸化熱やアーク加熱による温度上昇や、取鍋6からの抜熱や合金元素の添加による温度低下等、取鍋6内の溶鋼7の温度変化が反映されない。しかし、本発明では、温度センサー5は、先端の温度検知部が保護筒2の端部よりも深い位置となるように溶鋼7に浸漬されるため、取鍋6内の溶鋼7の温度変化を正確に検知することができる。
スラグライン9からの保護筒2の先端の深さをH、温度センサー5の先端の深さをhとすると、液面からの抜熱の影響を受けず、かつ溶鋼7の流動や合金元素の添加の影響を反映できるように、深さhは100mm以上が好ましい。また、温度センサー5のコストの面から深さhは500mm以下が好ましい。深さHは、0<H<hを満たせばよい。すなわち距離差h−Hは0<h−Hを満たせばよい。
温度センサー5による溶鋼温度の連続測定時間は3分以上とする。溶鋼の精錬中には、優先的に酸化される溶鋼中の元素が変化し、後述する図4に示すように温度変化率が変化する。消耗型熱電対を用いたバッチ式の測定では連続測定時間は10〜20秒程度と短く、次の測定まで溶鋼温度情報を得ることができず、このような精錬中の温度変化を検知することもできない。しかし、3分以上連続して測定することにより、このような精錬中の温度変化を検知することができ、この検知結果に基づいて、昇熱剤である金属Alの添加等を行い、溶鋼の温度を精度良く制御することができる。また、取鍋6あるいは還流型真空脱ガス装置10内に付着した地金あるいはスラグの溶鋼7中への落下等、突発的事象が発生し、溶鋼温度が急激に変化した場合でも、その温度変化を検知することができるため、迅速に対応することができる。
図2は、還流型真空脱ガス装置により精錬が行われる精錬装置の構成例を示す図である。精錬が還流型真空脱ガス装置10により行われる場合には、温度測定装置1の保護筒2は、取鍋6と還流型真空脱ガス装置10の浸漬管11との間で溶鋼7に浸漬される。
温度測定装置1を浸漬する前に、スラグ8上部の温度測定装置1を浸漬する位置に、金属Alを含有するいわゆる発熱材を散布し、スラグ8を軟化させてもよい。これにより、保護筒2を溶鋼7に浸漬すること、保護筒2の内部に流入したスラグ8を排出すること、および保護筒2を溶鋼7から抜き出すことを容易に行うことができる。
また、スラグ8が厚く凝固している場合には、金属棒等でスラグ8を突き割って溶鋼7を露出させてから温度測定装置1を浸漬してもよい。ただし、この場合も温度測定装置1が溶鋼温度の測定中に流動したスラグ8に固着するため、突き割った部分の周辺のスラグ8に発熱材を散布してスラグ8を軟化させることが好ましい。
温度測定装置1の溶鋼7への浸漬方法としては、例えば以下の方法が挙げられる。
(1)保護筒2を単独で、表面にスラグ8が存在する状態の溶鋼7に浸漬した後、保護筒2の内部を不活性ガスで加圧して、浸漬時に流入したスラグ8を排出させ、温度センサー5を浸漬する方法。
(2)保護筒2の内部に不活性ガスを流しながら、保護筒2を溶鋼7に浸漬してスラグ8を排出した状態とした後、温度センサー5を浸漬する方法。
(3)保護筒2の内部に不活性ガスを流してスラグの侵入を防ぎながら、保護筒2および温度センサー5を同時に溶鋼7に浸漬する方法。
保護筒2の内面にスラグ8が付着していると、付着したスラグ8が精錬処理中に溶鋼7中に落下して溶鋼7表面に浮上し、スラグラインを形成するおそれがある。しかし、上記(2)の方法によれば、スラグ8のない状態の溶鋼7に温度センサー5を浸漬できるとともに、保護筒2の内面に付着するスラグ8を最小限とし、溶鋼7表面を清浄に維持できるため、好ましい。
本発明の溶鋼温度の測定方法および制御方法の効果を確認するため、下記の二次精錬試験を行い、その結果を評価した。
[試験1]
1.試験内容
転炉で脱炭した210トンの溶鋼を取鍋に受け、還流式真空脱ガス装置を用いた二次精錬試験を行った。精錬実施時には、溶鋼に温度測定装置を浸漬し、測定された温度に基づいて溶鋼温度の制御を行った。試験は12種類の鋼種について行い、各鋼種の精錬処理終了時の溶鋼の成分組成は表1に示す通りであった。なお、溶鋼の成分中の表1に示した成分以外の残部はFeおよび不純物である。表1には、精錬処理終了時の溶鋼温度および精錬処理時間も併せて示した。複数チャージの精錬を行った鋼種については、溶鋼温度および精錬処理時間は平均を示した。
Figure 0005299259
試験は、(1)保護筒による温度センサーの損傷抑制効果および温度測定装置の浸漬深さの影響、(2)溶鋼温度測定の安定性、および(3)溶鋼温度制御の精度の各項目について行った。
2.試験方法および試験結果
2−1.保護筒による温度センサーの損傷抑制効果および温度測定装置の浸漬深さの影響
(1)試験方法
本試験項目は、試験番号1〜6において行い、試験番号1〜3をそれぞれ本発明例1−1〜1−3、試験番号4〜6をそれぞれ比較例1−1〜1−3とした。
本発明例1−1〜1−3および比較例1−1では、温度測定装置として、前記図1に示す温度センサーおよび保護筒を用いた。温度センサーは、熱電対を高アルミナ質からなるシース管内に装入し、シース管の外側にアルミナグラファイト質層を設けた吊下式温度センサーを用いた。保護筒は、円筒形の鉄板からなる芯金の内周面および外周面にアルミナからなる耐火物層を設けたものを用い、保護筒内のスラグを排出した状態で温度センサーを浸漬した。温度センサーの浸漬深さ(前記図1に示す深さh)は、200mmとした。
比較例1−2では、本発明例と同様の吊下式の温度センサーと、耐火物層を有しない芯金だけの保護筒を用い、保護筒内のスラグを排出した状態で温度センサーを浸漬した。比較例1−3では、本発明例と同様の吊下式の温度センサーのみを用い、保護筒を用いなかった。
浸漬深さの影響についての試験は、本発明例1−1〜1−3および比較例1−1について行った。前記図1に示すスラグラインからの温度センサーの先端(温度検知部)の深さhと保護筒の先端の深さHとの距離差h−Hを異なる値とし、精錬処理終了時に温度測定装置で測定した溶鋼温度を、バッチ式測定した基準温度と比較した。基準温度は、消耗型熱電対を保護筒外部で溶鋼中に200mm浸漬して測定した。
(2)試験結果
(温度センサーの損傷抑制効果について)
表2に試験結果を示す。保護筒による温度センサーの損傷抑制効果は、繰り返し溶鋼温度の測定が可能だったチャージ数(以下、「測定チャージ数」ともいう)および温度センサーのシース管の最大溶損速度により評価した。測定チャージ数が10回以上かつ最大溶損速度が1mm/h未満の場合を良好(○)とし、それ以外の場合を不可(×)とした。シース管の溶損速度は、各チャージにおける溶鋼温度測定前のシース管の半径と温度測定後の半径の差を温度測定時間で除して算出し、その最大値を最大溶損速度とした。本発明例1−1〜1−3および比較例1−1〜1−3のいずれも、各チャージでの溶鋼温度測定は精錬処理の間連続して行うことができた。
Figure 0005299259
表2に示すように、本発明例1−1〜1−3および比較例1−1では、いずれも10チャージ以上測定でき、最大溶損速度も1mm/h未満と、良好な損傷抑制効果が得られた。そのため、いずれも使用終了原因は溶損が原因ではなく、温度センサーの応答性の低下または計画的な交換であった。そして温度センサーがスラグに接しなかったため、温度測定装置の溶鋼への浸漬および溶鋼からの取り出し時に、温度センサーが折損することもなかった。また、保護筒の溶損も発生しなかった。
一方、比較例1−2および1−3では、4チャージ以下しか測定できず、最大溶損速度も11mm/h以上と、損傷抑制効果を得ることができなかった。保護筒が芯金だけからなる比較例1−2では、溶鋼によって、保護筒の溶鋼に浸漬した部分が溶損した。そのため、温度センサーのシース管がスラグラインに直接接し、スラグライン部での集中溶損が発生した。しかし、温度の低い温度の低いスラグの上部では、保護筒が残存していたため、温度センサーのスラグへの固着は防止することができた。
保護筒を用いなかった比較例1−3では、温度センサーのスラグライン部での集中溶損が生じるとともに、温度センサーがスラグに固着したため、精錬処理後に溶鋼から温度センサーを抜き出す際に温度センサーの折損も生じた。
(温度測定装置の浸漬深さの影響について)
図3は、スラグラインからの温度センサーの先端(温度検知部)の深さhと保護筒の先端の深さHとの距離差h−Hと、連続測定した溶鋼温度とバッチ式測定した基準温度との差の関係を示すグラフである。基準温度は、消耗型熱電対を保護筒外部で溶鋼中に200mm浸漬して測定した。連続測定した溶鋼温度は、基準温度を測定した時点の温度を採用した。連続測定した溶鋼温度と基準温度との差は、各チャージで測定した温度差の平均値とした。表2には、図3の作成に用いた各試験での距離差h−Hを併せて示した。測定精度の評価基準は、基準温度との差が−5℃〜+5℃の範囲内の場合を良好とし、それ以外を不可とした。
図3に示すように、距離差h−Hが0mmの比較例1−1では、保護筒中で流動が妨げられた澱み部の溶鋼の温度を測定したため、基準温度との温度差が8℃以上と大きく、精度の高い温度測定を行うことができなかった。一方、本発明例1−1〜1−3では、距離差h−Hが50mm以上であり、流動している溶鋼の温度を測定したため、温度差が2℃以下と精度の高い温度測定を行うことができた。
2−2.溶鋼温度測定の安定性
(1)試験方法
本試験項目は、試験番号1〜3および試験番号7〜10において行い、試験番号1〜3をそれぞれ本発明例2−1〜2−3、試験番号7〜10をそれぞれ比較例2−1〜2−4とした。
各試験とも、温度測定装置は、前記項目(1)の本発明例について用いたものと同じものを用いた。また、スラグを加熱して軟化させる目的またはスラグを保温してスラグの凝固を防止する目的で、温度測定装置の浸漬前に、表3に示す4種類の散布材1〜4をスラグ表面に散布した。散布材1および2は、含有する金属Alが酸化により発熱する、いわゆる発熱材である。金属Alを含有しない散布材3および4は、いわゆるスラグ軟化材であり、発熱効果はない。本発明例2−1および比較例2−1では散布材1を、本発明例2−2および2−3では散布材2、比較例2−2では散布材3を投入した。比較例2−4ではいずれの散布材も散布しなかった。
Figure 0005299259
温度測定装置の浸漬は、表4に示す方法で行った。浸漬方法1は、保護筒を浸漬し、保護筒内を不活性ガスで加圧してスラグを排出した後、温度センサーを浸漬する方法である。浸漬方法2は、保護筒内を不活性ガスで加圧してスラグを排出しながら、保護筒および温度センサーを同時に浸漬する方法である。浸漬方法3は、保護筒および温度センサーを同時に浸漬し、スラグの排出を行わない方法である。本発明例2−1、2−2および比較例2−2は浸漬方法1、本発明例2−3および比較例2−3は浸漬方法2、比較例2−2および2−4は浸漬方法3を適用した。
Figure 0005299259
(2)試験結果
試験結果を表5に示す。溶鋼温度測定の安定性は、温度センサーの応答時間、および精錬処理終了時の溶鋼温度(以下、「処理終了温度」ともいう)の目標値と実績値との差(実績値から目標値を減じた温度、以下「処理終了温度差」ともいう)によって評価した。応答時間が30秒未満かつ終了処理温度差が−5℃〜+5℃の範囲内の場合を良好(○)とし、それ以外を不可(×)とした。
温度センサーの応答時間は、精錬処理において溶鋼温度が上昇している任意の時点で消耗型熱電対を用いてバッチ式で溶鋼温度の測定を行い、前記任意の時点から、連続測定中の温度が前記任意の時点においてバッチ式で測定した溶鋼温度となるまでの時間とした。処理終了温度は、消耗型熱電対を用いてバッチ式で測定した。
Figure 0005299259
表5に示すように、本発明例2−1〜2−3では、温度センサーの応答時間は30秒以内と短時間に保たれ、かつ処理終了温度差は−2℃〜+2℃の範囲内であり、溶鋼温度の連続測定の安定性が高かった。一方、比較例2−1〜2−3では、温度センサーの応答時間は60秒以上と長く、処理終了温度差は+6℃以上の大きな値であり、溶鋼温度の連続測定の安定性が低かった。比較例2−4では、溶鋼温度の連続測定を行うことができず、そのため消耗型熱電対を用いてバッチ式の溶鋼温度測定を行い、精錬処理を完了した。以下にこれらの結果の理由について説明する。
比較例2−4では、散布材を散布しなかったため、温度測定装置を溶鋼に浸漬しようとした際に、温度センサーが、凝固したスラグの表面に衝突して折損した。そのため、温度測定装置による温度測定自体ができなかった。
比較例2−2および2−3では、散布材としてスラグ軟化材(散布材3または4)を散布したものの、スラグが凝固した状態または著しく粘度が高い状態であり、不活性ガスによる保護筒内部のスラグの排出を十分に行うことができなかった。そのため、温度センサー先端の温度検知部にスラグが付着して、温度センサーの応答時間が長かった。また、温度検知部に付着したスラグが溶鋼中で溶解する際の吸熱により、連続測定される温度が実際の溶鋼温度よりも低い値となる誤差が生じた。
比較例2−1では、散布材として発熱材(散布材1)を散布したためスラグは軟化していたものの、不活性ガスによる保護筒内部のスラグの排出を行わなかったため、温度センサー先端の温度検知部にスラグが付着した。そのため、温度センサーの応答時間が長く、連続測定温度の誤差も生じた。これらの理由により、比較例2−1〜2−3では精錬処理における溶鋼温度の連続測定は安定性が低かった。
一方、本発明例2−1〜2−3では、散布材として発熱材(散布材1または2)を散布したためスラグは軟化しており、その軟化したスラグは不活性ガスによって保護筒内部から容易に排出されたため、温度センサー先端の温度検知部はスラグ付着が抑制され、清浄な状態に保たれた。そのため、精錬処理における溶鋼温度の連続測定は安定性が高かった。
2−3.溶鋼温度制御の精度
(1)試験方法
本試験項目は、試験番号1、11および12について行い、試験番号1を本発明例3−1、試験番号11および12をそれぞれ比較例3−1および3−2とした。
本発明例3−1では、前記項目(1)の本発明例について用いたものと同じ温度測定装置を用いて溶鋼温度を連続的に測定しながら、その測定結果に基づき溶鋼温度の制御を行った。
比較例3−1および3−2では、熱電対によるバッチ式の温度測定で測定した溶鋼温度に基づいて溶鋼温度の変化を予測し、溶鋼温度の制御を行った。バッチ式測定の測定タイミングは、精錬処理開始時と、精錬処理開始後3分後および8分後の合計3回とした。
(2)試験結果
試験結果を表6に示す。溶鋼温度制御の精度は、処理終了温度差によって評価した。処理終了温度の実績値は、消耗型熱電対を用いてバッチ式で測定した。
Figure 0005299259
表6に示すように、本発明例3−1では処理終了温度差は−1℃であり、精度良く溶鋼温度の制御を行うことができた。一方、比較例3−1および3−2では、処理終了温度差はそれぞれ+8℃および+9℃であり、処理終了温度の実績値の目標値からの乖離が大きかった。次にこの理由について説明する。
図4は、本発明例3−1(試験番号1)の精錬処理中の温度変化を示すグラフである。図4から、酸素吹き付けによる溶鋼温度の上昇速度が大きい領域1と、小さい領域2とを明確に区分することができる。領域1と領域2との上昇速度の違いは、優先的に酸化される溶鋼中の元素が異なることによるものである。本発明例3−1の場合、領域1はAlが優先的に酸化される領域であり、領域2はAlが酸化された後の領域であり、SiおよびMnが酸化される領域である。本発明例3−1(試験番号1)の溶鋼の場合には、他の溶鋼(試験番号2〜10)に比べてAl含有率が低かったため、精錬処理時間に占める領域1に相当する時間が短かった。
従来のバッチ式測定では、領域1から領域2に変化する時点は過去の実施例からの推定に頼っていた。そのため、処理終了温度の実績値の目標値からの乖離が大きかった。また、必要な成分であるSiやMnまで過剰に酸化され、目標とする含有量よりも少ない含有量となることもあった。しかし、本発明では溶鋼温度を連続的に測定することにより、領域1から領域2に変化する時点を正確に検知できるため、合金元素、昇熱剤や冷却材の投入等の溶鋼温度制御を適切に行うことができ、処理終了温度の実績値の目標値からの乖離を小さくすることができた。
[試験2]
1.試験内容
本発明の溶鋼温度測定方法を用いて、二次精錬終了後の溶鋼の温度制御を行う効果を確認するため、以下の要領で二次精錬処理試験を実施した。
2.試験方法および試験結果
(1)試験方法
先ず、転炉で脱炭精錬した210トンの溶鋼を取鍋に受け、次に還流式真空脱ガス装置(RH)を用いて二次精錬し、処理後の溶鋼を連続鋳造に供した。
二次精錬処理に供する溶鋼は、その溶鋼成分に関しては特に制限が無く、どのような成分系においても温度測定および制御をすることができる。今回は一例として表7に示す成分組成の溶鋼についての結果を示す。なお、表7に示した成分以外の残部はFeおよび不純物である。
Figure 0005299259
二次精錬処理試験の実施時には、前記図1に示した溶鋼温度測定装置を浸漬し、連続測温を実施した。
図5にはRHでの従来処理フローを示す。RH処理では合金添加を行い、かつ、連続鋳造に適した目標温度までの酸素昇熱(酸素供給による溶鋼温度の上昇処理)を実施し、その後測温および成分確認のためのサンプリングを実施する。このときの昇熱量の予測(合金添加量、酸素供給量および溶鋼環流継続時間に基づく溶鋼温度変化量の予測)は経験に基づいて推測しているものである。そのため、図5中の測温時に、(1)温度が目標値だった場合は処理終了する。しかし、測温結果が、(2)高めの場合は環流を延長して継続することにより温度を降下させてから処理終了し、(3)低めの場合は再昇熱を実施することになり、RHの処理能率低下に繋がる。
このような処理能率低下を防止するために、表8に示す本発明概念図のように、RH連続測温による溶鋼温度の適正化を図った。表8に示す本発明の概念に基づき、本発明の溶鋼温度の制御方法にかかるRH処理フローを決定した。
Figure 0005299259
図6は、本発明の溶鋼温度の制御方法にかかるRH処理フローである。図6に示すように、本発明では、必要に応じ合金の添加前から溶鋼連続測温を開始する。この測温開始時点は、合金添加の途中または合金添加終了後でも良い。ただし、遅くとも酸素昇熱の開始後1分間以内に、溶鋼連続測温を開始するのが適切である。
本発明においては酸素供給量と溶鋼温度の上昇量との関係を、溶鋼環流継続時間当たりの昇熱効率として、溶鋼中に含有されている各成分の濃度に応じて予め調べてデータベース化しておき、昇熱処理中溶鋼の連続測温結果と当該溶鋼に係る昇熱効率データとから、処理後目標温度に到達するまでの酸素供給量および溶鋼環流継続時間を刻々算出しているからである。
したがって、測温開始が早過ぎると、連続測温の意義が低下してしまうほか、連続測温の中断などのトラブルが生じてしまう場合も在り得る。一方、測温開始が遅過ぎると、測温結果と昇熱効率データベースに基づく計算結果を処理終了時間に適切に反映することができなくなる場合も生じ得るからである。
この昇熱効率は各成分系によって異なっているが、概ね[%C]、[%Si]、[%Mn]および[%Al]によって決まる。昇熱効率データベースの一部を表9に示す。
Figure 0005299259
本発明の溶鋼温度の制御方法によれば、図6に示すように、(1)溶鋼の連続測温により、出鋼後の時間経過や、合金添加による溶鋼の温度降下を正確に測定することができ、(2)正確な溶鋼温度に基づいて適正な溶鋼の昇熱を実施でき、(3)昇熱後の溶鋼の温度の降下が正確にわかるので、最適な溶鋼温度でRH処理を終了することができる。
(2)試験結果
図7は、表7に示した成分系の鋼種についてRH処理を行った際の、RH連続測温プローブの浸漬時間中の溶鋼温度の変化状況の一例を示すグラフである。
図7に示したRH処理では、連続測温プローブを溶鋼中へ浸漬後フェロマンガンなどの合金鉄を投入した後、溶鋼への酸素供給を50Nm3/分の速度で開始し継続した。この酸素供給での当該鋼種における昇熱効率は、表9に示したデータベースでは6〜7℃/分であるため、このデータに基づき酸素供給による昇熱を行った。図7に示すように、安定昇熱領域での温度上昇が6.3℃/分であったことからデータベースの値が正しいことがわかる。その後、溶鋼温度が処理後目標である1605℃に到達するまでの必要酸素供給量を前記データベースに基づき算出し、さらに約3分間酸素供給を続けた。その後、さらに5分間の溶鋼環流を継続して、RH処理を完了した。
なお、図7中には消耗型熱電対使用によるバッチ測温結果も参考として記したが、それらのデータは連続測温によるデータとよく一致していた。
図8は、RH処理後の溶鋼温度のバラツキを示す図である。図8には、前記図5を用いて説明した「従来の終了温度推定方法(従来処理)」と「連続測温を用いた本発明(連続測温処理)」を適用した場合のRH処理後温度の目標と実績値とのズレ(実績値から目標値を減じた値)を示す。対象とした鋼種は前述の表1に示したものであり、従来処理および連続測温処理のいずれも50チャージ測定した結果を示す。
RH処理後温度の目標と実績値とのズレが−4℃から+10℃を目標温度に対する的中と定めた場合、従来処理を適用した場合の的中精度は70%ほどであった。しかし、本発明を用いることにより、溶鋼温度制御の適正化が図られ、95%まで的中精度が向上した。これにより、再昇熱による成分の酸化ロス、過剰昇熱によるロスコスト発生のデメリットを解消できた。
本発明の溶鋼温度の測定方法によれば、保護筒を用いることにより、溶鋼に浸漬した温度センサーがスラグと接触しないため、温度センサーの溶損を抑制し、繰り返し温度測定に用いることができる。そして、温度検知部が清浄に保たれるため、応答性の低下も生じず、正確な温度を測定できる。さらに、溶鋼に浸漬して直接溶鋼の温度を連続して測定することができるため、溶鋼中の元素の酸化熱やアーク加熱、処理中の放熱による溶鋼温度の変動を検知することができ、溶鋼温度を精度良く制御することができ、昇熱剤等の原料の無駄を生じることもない。また、発熱材をスラグ上に散布することにより、スラグが溶鋼の上部に存在しても保護筒を容易に溶鋼に浸漬することができ、スラグを容易に保護筒内部から排出することができる。
これにより、本発明は、温度センサーを簡便な構成で精錬処理中の溶鋼温度の連続測定に繰り返し使用可能とする技術として、還流型真空脱ガス装置(RH)を用いた二次精錬や、取鍋式精錬(LF)等、精錬分野において広範に適用できる。
1:温度測定装置、 2:保護筒、 3:芯金、 4:耐火物層、 5:温度センサー、
6:取鍋、 7:溶鋼、 8:スラグ、 9:スラグライン、
10:還流型真空脱ガス装置、 11:浸漬管

Claims (3)

  1. 溶鋼を二次精錬する際に用いる二次精錬中の溶鋼温度の測定方法において、
    筒状の芯金の内周面および外周面に耐火物層を設けた保護筒ならびに前記保護筒の内部に配置した温度センサーを、前記保護筒の内部で溶鋼が露出した状態で、溶鋼に浸漬し、前記温度センサーの溶鋼への浸漬深さhを前記保護筒の溶鋼への浸漬深さHより大きくし、3分以上連続して溶鋼の温度を測定することを特徴とする二次精錬中の溶鋼温度の測定方法。
  2. 前記保護筒を溶鋼に浸漬する前に、溶鋼上方の前記保護筒を浸漬する部分に金属Alを含有する発熱材を散布し、前記保護筒を溶鋼に浸漬した後、前記保護筒の内部を不活性ガスにより加圧して、前記保護筒内部に流入したスラグ又はフラックスを排出し、その後前記温度センサーを前記保護筒の内部で溶鋼に浸漬し、溶鋼の温度を測定することを特徴とする請求項1に記載の二次精錬中の溶鋼温度の測定方法。
  3. 二次精錬中の溶鋼に酸素を供給して前記二次精錬終了時の溶鋼温度を予め定めてある目標値に制御する溶鋼温度の制御方法であって、
    二次精錬中の溶鋼に酸素を供給した場合の酸素供給量と溶鋼温度の上昇量との関係を、昇熱効率として予めデータベース化しておき、
    二次精錬中の溶鋼温度を請求項1または請求項2に記載した測定方法を用いて連続して測定することによって、
    その溶鋼温度測定値と二次精錬終了時の目標温度との差を連続的に求め、
    前記連続的に求めた温度差と、前記データベースとして保有している昇熱効率に基づいて前記溶鋼に供給する酸素量を調整して、
    前記二次精錬終了時の溶鋼温度を目標値に制御することを特徴とする溶鋼温度の制御方法。
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