上記特許文献1に開示のように電鋳部を有する軸受部材を製造する場合、樹脂部(射出成形部)の成形精度は電鋳部の形状精度に左右される。また、電鋳部の形状精度はマスキング部の形成精度に左右される。
詳述すると、電鋳部の析出範囲を確定するためにはマスキング処理の範囲を高精度に管理する必要があるが、量産体制下においては、マスキングは通常ディッピング等の簡易かつ大量生産に適した方法で行われる。そのため、マスター上に形成されるマスキング部の形成範囲が安定せず、マスキング部との境界付近に形成される電鋳部の開口部の位置がばらつく傾向にある。このような電鋳部に対してインサート成形を行うと、以下に示すような樹脂の回り込みを生じるおそれがある。
すなわち、図11に示すように、成形金型113,114間のキャビティ115内に電鋳部107を設けたマスター112を配置して射出成形を行う場合、電鋳部107の開口部107cの一部が成形金型114の端面114aと当接する一方で、開口部107cの他所では端面114aとの間に溶融樹脂Pの流れ込みを許容し得る大きさの隙間108が生じる。この状態で溶融樹脂Pをキャビティ115内に供給すると、隙間108を介して電鋳部107の内側にまで溶融樹脂Pが回り込み、場合によってはマスターの外周面にまで到達するおそれが生じる。これでは、電鋳部107の内周に回転支持すべき軸を挿入した際、電鋳部107の内側に回り込んで固化した部分と軸とが干渉するおそれが生じる。
以上の事情に鑑み、本明細書では、射出成形材料が電鋳部の内側へ回り込んで型成形部が成形される事態を可及的に回避して、型成形部の成形精度の向上を図ることを、本発明により解決すべき技術的課題とする。
前記課題の解決は、本発明に係る下記第1の軸受部材によって達成される。すなわち、この軸受部材は、少なくとも一端が開口した形状をなし、内周に配設される軸を相対回転支持する電鋳部と、電鋳部の外周に射出成形された型成形部とを有する軸受部材において、型成形部は、電鋳部の開口部に位置して型成形されていない固化面を有し、電鋳部のうち、固化面に近接し、かつ型成形部と密着する部分に凹凸部を設けた点をもって特徴づけられる。
また、前記課題の解決は、本発明に係る下記第2の軸受部材によっても達成される。すなわち、この軸受部材は、少なくとも一端が開口した形状をなし、内周に配設される軸を相対回転支持する電鋳部と、電鋳部の外周に射出成形された型成形部とを有する軸受部材において、型成形部は、電鋳部の開口部に位置して型成形されていない固化面を有し、かつ、型成形部のうち、固化面との近接部分に型成形による凹凸部を設けた点をもって特徴づけられる。
さらに、前記課題の解決は、本発明に係る下記第3の軸受部材によっても達成される。すなわち、この軸受部材は、少なくとも一端が開口した形状をなし、内周に配設される軸を相対回転支持する電鋳部と、電鋳部の外周に射出成形された型成形部とを有する軸受部材において、型成形部は、電鋳部の開口部に位置して型成形されていない固化面を有し、かつ、型成形部のうち、固化面と近接する部分に薄肉部を設けた点をもって特徴づけられる。
上記何れの構成を採る場合においても、型成形部の射出成形時、凹凸部又は薄肉部(となる空間)は何れも、成形金型内のキャビティ内面を構成する。そのため、射出成形時、キャビティ内に供給された射出成形材料が上記形状を有する部分を通過する際にその流動抵抗が増加し、その勢いが部分的に弱められる。ここで、上記軸受部材の型成形部が型成形されていない固化面を有することから、射出成形時の回り込みによりマスター外周にまで射出成形材料が到達していないことは明らかであり、これにより、電鋳部の内周に挿入した軸との干渉も確実に回避される。また、上記構成によれば、射出速度等の成形条件を特に変更することなく射出成形材料の回り込みを防止することができるので、型成形部について未充足の部分を形成することなく高精度に射出成形を行うことができる。
また、前記課題の解決は、本発明に係る下記第1の軸受部材の製造方法によっても達成される。すなわち、この製造方法は、少なくとも一端が開口した形状をなし、内周に配設される軸を相対回転支持する電鋳部と、電鋳部の外周に射出成形された型成形部とを有する軸受部材の製造方法において、マスターに形成された電鋳部の開口部又は外周面に、射出成形材料の流動抵抗を増加させる凹凸部を設けた点をもって特徴づけられる。
あるいは、前記課題の解決は、本発明に係る下記第2の軸受部材の製造方法によっても達成される。すなわち、この製造方法は、少なくとも一端が開口した形状をなし、内周に配設される軸を相対回転支持する電鋳部と、電鋳部の外周に射出成形された型成形部とを有する軸受部材の製造方法において、射出成形金型の型成形面のうち、電鋳部の開口部と対向する領域又はこの領域よりも外径側に、射出成形材料の流動抵抗を増加させる凹凸部を設けた点をもって特徴づけられる。
さらに、前記課題の解決は、本発明に係る下記第3の軸受部材の製造方法によっても達成される。すなわち、この製造方法は、少なくとも一端が開口した形状をなし、内周に配設される軸を相対回転支持する電鋳部と、電鋳部の外周に射出成形された型成形部とを有する軸受部材の製造方法において、電鋳部の開口部と成形金型との対向領域よりも外径側に、射出成形材料の流動抵抗を増加させるように電鋳部と成形金型との対向間隔を部分的に狭めた領域を設けた点をもって特徴づけられる。
すなわち、上記何れかの方法によれば、型成形部の射出成形時、例えば成形金型内に供給された射出成形材料の流動抵抗が、開口部もしくはその外径側に設けられた流動抵抗を増加させる部分(凹凸部、挟隙空間)を通過することで増加し、その勢いが部分的に弱められる。そのため、既に述べた本発明に係る軸受部材の作用効果と同様に、射出成形材料が電鋳部の開口部と成形金型との間に部分的に設けられた隙間を通過して電鋳部の内側にまで回り込む事態を防止して、電鋳部の内周に挿入する軸との干渉を回避することができる。
ここで、上記流動抵抗を増加させる凹凸部を電鋳部の外周面に設ける場合、射出成形材料が電鋳部の外周面を伝って開口部と成形金型との隙間へ流れ込む速度を抑制できるのに加えて、例えば平滑な円筒面と比べて型成形部との密着面積が増加する。そのため、電鋳部の抜け止め力向上を図ることもできる。
また、上記流動抵抗を増加させる凹凸部を、射出成形金型の型成形面のうち開口部と対向する領域又はこの領域より外径側に設けて射出成形を行う場合、型成形部の開口側端面のうち電鋳部の開口部周辺もしくはその外径側の領域に、上記凹凸部の形状を反映した凹凸状の成形面が残るが、開口側の端面であれば、接地面ともならず、また、軸もしくは軸に固定される部材と干渉する可能性も低い。そのため、上記位置に流動抵抗増加形状としての凹凸部を設けることによる不具合は特に生じない。
ここで、上記凹凸部の配設位置に関し、例えば凹凸部を、固化面よりも射出成形材料の流動方向上流側に設けるようにしてもよい。薄肉部の場合であれば、この薄肉部を、固化面よりも射出成形材料の流動方向上流側に設けるようにしてもよい。このように、射出成形材料の射出方向を考慮した位置に凹凸部又は薄肉部を配設すれば、射出成形材料が電鋳部の開口部に至る際の流動抵抗の増加作用を高めることができ、射出成形材料の電鋳部の内側への回り込み防止効果をさらに高めることができる。
また、上記凹凸部の形状に関して例えば以下のものが考えられる。凹凸部を例えば上述した型成形部の開口側端面や電鋳部の開口部(開口側端面を含む)あるいは外周面に設ける場合、例えば起伏に富んだ面形状の一例として、螺旋状の溝で凹凸部を形成したものを挙げることができる。また、この場合、射出成形材料の流動方向に対して直交する向きに螺旋溝状の凹凸部を配置するようにすれば、流動抵抗の増加作用を高めることができ、射出成形材料の電鋳部の内側への回り込み防止効果をさらに高めることができる。射出成形金型の型成形面に上記螺旋溝状の凹凸部を設ける場合、型成形部の開口側端面には、この螺旋状の溝を反映した形状、すなわち、螺旋溝を裏側から見た凹凸部が現れる。
もちろん、上記形状のほかにも、例えば複数のディンプルで凹凸部を形成することもでき、あるいは、複数の突起で凹凸部を形成することもできる。ディンプル等の穴形状であれば加工が容易であるため、螺旋溝等に比べて加工できる領域が拡がり、電鋳部の外周面や成形金型の側面にも容易に凹凸部(ディンプル形状部分)を設けることができる。また、複数の突起で凹凸部を形成する場合には、完成品における型成形部の成形面のうち凹凸部を反映した部分は主として凹状をなす。そのため、仮に成形面に対して他部品を組付ける場合においても上記凹凸部を反映した成形面は組付けの妨げとはならない。
以上のように、本発明によれば、射出成形材料が電鋳部の内側へ回り込んで型成形部が成形される事態を可及的に回避して、型成形部の成形精度の向上を図ることができる。
以下、本発明の第1実施形態を図1〜図5に基づき説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る流体動圧軸受装置1を組込んだファンモータの一構成例を概念的に示している。このファンモータは、軸部材2を回転自在に非接触支持する流体動圧軸受装置1と、軸部材2に固定された羽根(図示は省略)と、軸部材2に固定されたロータ(フランジ部)3と、例えば半径方向のギャップを介して対向させたステータコイル4およびロータマグネット5とを備える。ステータコイル4は流体動圧軸受装置1の軸受部材6に取付けられ、ロータマグネット5はロータ3に取付けられる。ステータコイル4に通電すると、ステータコイル4とロータマグネット5との間の電磁力でロータ3が回転し、これに伴い軸部材2に固定された羽根が回転するようになっている。なお、図示は省略するが、ファンモータの形態として、ステータコイル4とロータマグネット5とを軸方向のギャップを介して対向させる形態を採ることも可能である。
羽根の回転中は、その送風作用の反力として軸部材2に図1中矢印Yで示す方向の推力が作用する。この推力が作用する向きの端部2bでは、軸部材2は後述する電鋳部7の底面7bと当接し、かつ、この底面7bによってスラスト方向に回転支持される。
図2は、第1実施形態に係る流体動圧軸受装置1の断面図を示している。この流体動圧軸受装置1は、軸部材2と、内周に軸部材2を挿入した軸受部材6とを主な構成要素として備えている。
軸受部材6は、電鋳部7をインサートして成形された樹脂材料の射出成形品で、電鋳加工で形成された電鋳部7と樹脂材料からなる型成形部8とを備える。
電鋳部7は、この実施形態では一端を開口した有底円筒状をなし、その内周に軸部材2を挿入可能な大きさの内周面7aを有する。また、内周面7aの下端に設けられ、挿入した軸部材2の端部2bと当接し、かつ、当接した状態の軸部材2をスラスト方向に回転支持する底面7bを有する。詳述すると、内周面7aは断面真円形状を有し、挿入した軸部材2との半径方向隙間に後述する潤滑油を充填することで、軸部材2の相対回転時、軸部材2との間に流体潤滑状態が形成される。よって、潤滑油の油膜を介して軸部材2が相対回転自在に支持される。また、軸部材2の端部2bは部分球面形状を有し、軸部材2の相対回転時、軸部材2と電鋳部7の底面7bとの間にいわゆるピボット軸受を構成する。
型成形部8は一端を開口した部分を有し、電鋳部7をその内側に収容可能な形態を有する。詳細には、型成形部8は、有底円筒状のスリーブ部8aと、スリーブ部8aの下方(一端閉塞側)から外径側に延びる略円盤状のベース部8bと、ベース部8bの外径端から上方(一端開口側)に伸びる円筒状の側壁部8cとで構成され、各部8a〜8cは、同一組成の一体品として形成されている。この型成形部8は、その上端開口を除いて密閉した構造を有し、ファンモータの各構成部品を収容するケーシングとしての機能も果たしている。この実施形態では、型成形部8の底面中央部に窪み8dが設けられており、この窪み8dの底面にインサート成形時に生じるゲートカットの跡が形成されている。また、型成形部8の開口側端面8eの内周縁にあって、電鋳部7の開口部7c上には、型成形面として成形されていない固化面8fが設けられている。この固化面8fは内周に配設された軸部材2の外周面2aと所定の間隔だけ離れた位置に配設されると共に、開口部7c上の円周方向一部領域に形成されている。
型成形部8の開口側端面8eであって、電鋳部7の開口部7c上に設けた固化面8fの近傍領域には、凹凸部9が設けられている。言い換えると、後述するインサート成形時に使用する射出成形金型の成形面のうち、型成形部8の開口側端面8eであって電鋳部7の開口部7cの近傍を、溶融樹脂の流動抵抗を増加させる形状としたことにより、図2に示す完成品の型成形部8の開口側端面8eには、当該形状を反映した凹凸部9が形成されている。ここでは、凹凸部9は螺旋溝形状を裏から見た形状をなし、螺旋溝形状を有する突起9aが開口側端面8eの内径側領域に形成されている。ここで開口側端面8eの内径側領域にのみ螺旋溝状の突起9aを設けたのは、軸受内部に供給した潤滑油等が上記突起9a間の溝部分を伝って軸受外径側に漏れ出るのを防止するため、との理由による。
以下、流体動圧軸受装置1を構成する軸受部材6の製造工程の一例を、図3〜図5に基づき説明する。
軸受部材6は、例えばマスター12の所定表面に電鋳部7を析出形成する工程(電鋳加工工程)、電鋳部7を一体に有するマスター12をインサート部品として軸受部材6の射出成形を行う工程(インサート成形工程)、電鋳部7とマスター12とを分離する工程(分離工程)とを経て製造される。
電鋳部7の成形母体となるマスター12は断面真円状の外周面形状を有するもので、その外表面の一部が後述するマスキング加工により非導電性のマスキング部12bで被覆される。そして、外表面のうち被覆されずに残った領域は、電鋳部7を析出形成するための電鋳加工面12aとして使用される。ここでは、マスター12の軸方向一方をマスキングすることで、図3(a)に示すように、一方の端面を含む円筒状のマスキング部12bと、他方の端面を含む同じく円筒状の電鋳加工面12aとが形成される。
マスキング加工としては、ディッピングによるマスター12の部分被覆やスプレーコーティングなどが採用可能であるが、例えば生産性を考慮して、ディッピングによる部分被覆法が採用される。この場合、図4(a)に示すように、マスキング後のマスター12外面には、マスター裸面(電鋳加工面12a)と、マスキング部12bとの間に境界線Lが形成されるが、この境界線Lを含む平面は、マスター12の中心軸に直交するわけではなく、中心軸に直交する平面(マスターを軸方向に分断する面)に対して傾斜した状態にある。
上記形態のマスター12は、例えば焼入処理をしたステンレス鋼で形成される。もちろん、電鋳加工面12aの面精度を確保でき、マスキング性、導電性、耐薬品性を有するものであれば、クロム系合金やニッケル系合金などステンレス鋼以外の他の合金を使用することも可能である。また、マスキング部12bの形成材料には、絶縁性を有し、かつ、電解質溶液に対する耐食性を有する樹脂などが選択使用される。
続いて、上記マスキング加工を施したマスター12に対して電鋳加工を施す。ここで、電鋳加工は、NiやCu等の金属イオンを含んだ電解質溶液にマスター12を浸漬し、電解質溶液に通電して目的の金属をマスター12の外表面のうち、マスキング部12bを除く領域(電鋳加工面12a)に電解析出させることにより行われる。電解質溶液には、カーボンなどの摺動材、あるいはサッカリン等の応力緩和材を必要に応じて含有させることも可能である。析出金属の種類は、軸受の軸受面に求められる硬度、あるいは潤滑油に対する耐性(耐油性)など、必要とされる特性に応じて適宜選択される。
以上のようにしてマスター12に電鋳加工を施すことで、図3(b)に示すように、マスター12表面の電鋳加工面12aに電鋳部7が析出形成される。ここでは、電鋳部7は、マスター12の電鋳加工面12aに倣った形状、すなわち有底円筒状に形成されている。また、図4(b)に示すように、析出形成された電鋳部7の開口部7cは電鋳加工面12aとマスキング部12bとの境界線Lよりもマスキング部12bの側に張り出す形で形成されており、その端部の軸方向位置は、マスター12の中心軸に直交する平面に対して傾いた形態をなす。すなわち、開口部7cの軸方向位置はその円周方向位置によって異なり、そのズレの最大値Bは、図2に示す完成品における電鋳部7の開口部7cと型成形部8の開口側端面8eとの軸方向間隔の最大値Aに等しい。
次に、電鋳部7を一体に形成したマスター12を、軸受部材6をインサート成形する成形金型内に配置し、この成形金型内にて型成形部8を電鋳部7と一体に樹脂で成形する(インサート成形工程)。
図5は、型成形部8の上記インサート成形に使用する成形金型の要部断面図を示している。図5に示す成形金型13,14は型締めした状態でその内部にキャビティ15を有すると共に、金型13,14の少なくとも一方には、スプール、ランナ(図示は省略)およびゲート16が設けられる。そのため、双方の金型13,14を型締めした状態でゲート16を介して溶融樹脂Pを供給することで、キャビティ15内に溶融樹脂Pが充填される。ここでは、ゲート16はピンゲートであり、型成形部8の底部中央に対応する位置から溶融樹脂Pを供給することで、円周方向の流れが生じるのを極力避けつつ、キャビティ15の末端にまで均等に溶融樹脂Pが行き届くようになっている。ゲート16のゲート面積は、充填する溶融樹脂Pの粘度や、成形品の形状に合わせて適切な値に設定される。
また、主に電鋳部7を収容する側の金型14の上部端面14aのうち電鋳部7の開口部7cと軸方向に対峙する領域には、溶融樹脂Pの流動抵抗を増加させる凹凸形状を有する部分(凹凸部)17が設けられている。ここで、上部端面14aは型成形部8の開口側端面8eを成形する面である。また、ここでは、図2に示す完成品と対応して、螺旋溝17aで上記凹凸部17が構成されている。この図示例では、螺旋溝17aはマスター12を中心として徐々に拡径する向きに伸びており、開口部7cの最頂部(上部端面14aとの対向間隔が最小となる位置。ここでは、電鋳部7の底部から最も軸方向に離隔した位置である。)よりも内径側に対応する位置にまで螺旋溝17aが形成されている。
一方、金型14の成形面のうち、型成形部8の側壁部8cの端面(図2を参照)を成形する面には、上部端面14aと同じく、螺旋溝18aで流動抵抗を増加させる凹凸部18が形成されている。この凹凸部18は主に、凹凸部18と隣接する型締め部分の隙間に溶融樹脂Pが流れ込むのを可及的に防止して、成形品にバリ等が発生するのを回避する役割を果たす。
なお、この他にも、例えば図示は省略するが、離型時の利便性を考慮して、型開き時にインサート成形品が残る側の金型(ここでは例えば凹側の金型14)に、成形品を押し出して型外に排出するためのイジェクタ機構を設けることも可能である。
上記構成の金型において、電鋳部7を一体に設けたマスター12を所定位置にインサートした状態で金型13,14を相互に接近させて型締めを行う。この際、電鋳部7の開口部7cの一部は金型14の上部端面14aと当接し、残部は上部端面14aとの間に所定の隙間を介して軸方向に対峙した状態でインサート配置されている。次に、型締めした状態で、スプール、ランナ(共に図示は省略)、およびゲート16を介してキャビティ15内に溶融樹脂を射出、充填し、型成形部8を電鋳部7と一体に成形する。この際、溶融樹脂Pは例えば図5中矢印で示す向きの流れを生じる。すなわち、底部中央のピンゲート16から射出された溶融樹脂Pは、まず電鋳部7の底面に衝突した後、半径方向に拡がっていく。そしてその一部は電鋳部7の外周面に沿って軸方向開口側へと流れていくと共に、残部は、型成形部8のスリーブ部8aの外周面(図2を参照)に対応する金型14の内面(成形面)を伝って同じく軸方向開口側へと流れていく。
ここで、金型14の内面(成形面)に沿った溶融樹脂Pの流れに着目すると、型成形部8のスリーブ部8aの外周面に対応する成形面を伝って上部端面14aに達した溶融樹脂Pは、続いて内径側に向けて流動する。上部端面14aのうち電鋳部7の開口部7cと対峙する領域には流動抵抗を増加させるための凹凸部17が設けられているので、この凹凸部17を溶融樹脂Pが通過することでその勢いが部分的に弱められる。従い、溶融樹脂Pが電鋳部7の開口部7cと上部端面14aとの隙間を通過して電鋳部7の内側にまで回り込む事態を防止することができる。この場合、開口部7cの最頂部の若干内側にまで溶融樹脂Pが行き届くことがあっても、このことは特に問題とはならない。すなわち、図2に示すように、型成形部8の一部は電鋳部7の開口部7cの最頂部よりも内径側にまで達しているが、この内径側部分は開口部7cと軸方向で係合することになるため、電鋳部7の抜け強度向上に寄与する。そのため、この内径側に侵入した部分が電鋳部7の内周に挿入する軸部材2と干渉しない限り若干の回り込みは許容される。
上記インサート成形に使用する樹脂材料としては、例えばLCP、PPS、PEEK、PBT、POM、PA等の結晶性樹脂、あるいは、PSU、PPSU、PES、PEI、PAI等の非晶性樹脂が好適に使用可能である。もちろんこれらは一例にすぎず、軸受の用途や使用環境に適合した樹脂材料が任意に選択可能である。上記あるいは上記以外の樹脂を複数混合したものを使用することもできる。あるいは、強化材(繊維状、粉末状等の形態は問わない)や潤滑剤、導電化剤等の各種充填材を加えることで、特性の改善を図ることもできる。
また、型成形部8は金属材料で形成することもでき、例えば、マグネシウム合金やアルミニウム合金等の低融点金属材料が使用可能である。この場合、より高い強度、耐熱性、または導電性等が必要となる用途に好適である。この他、金属粉とバインダーの混合物で射出成形した後、脱脂・焼結するいわゆるMIM成形を採用することもできる。この他、セラミックで射出成形することもできる。
以上のようにして、樹脂製の型成形部8が電鋳部7およびマスター12と一体に形成される。そして型開き後、マスター12と電鋳部7、および型成形部8が一体となった成形品を一方の金型14から離型する。この成形品は、この後の分離工程で電鋳部7および型成形部8との一体品と、マスター12とに分離される。
分離工程では、例えばマスター12あるいは電鋳部7と型成形部8との一体品に衝撃を加えることで、電鋳部7の内周面をマスター12の電鋳加工面12aから剥離(分離)させる。これにより、マスター12が軸受部材6(電鋳部7)から引き抜かれる。
なお、電鋳部7の分離手段としては、上記手段以外に、例えば電鋳部7とマスター12とを加熱(又は冷却)し、両者間に熱膨張量差を生じさせることによる方法、あるいは両手段(衝撃と加熱)を併用する手段等が使用可能である。
上述の如く形成された軸受部材6の内周に、引き抜いたマスター12とは別に作成した軸部材2を挿入することで、図1に示す流体動圧軸受装置1が完成する。
以上、本発明の第1実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限られることなく、本発明の範囲内において種々の変形が可能である。
図6は、本発明の第2実施形態に係る流体動圧軸受装置21の断面図を示している。図6において、流体動圧軸受装置21を構成する軸受部材26は、電鋳部7の外周面のうち型成形部8の固化面8fの近傍となる領域に、溶融樹脂Pの流動抵抗を増加させるための凹凸部27を設けたものである。すなわち、この図では、電鋳部7の外周面の上縁近傍領域に上記凹凸部27が形成されている。この凹凸部27は第1実施形態と同じく、円周方向に沿って巻回する螺旋溝27aで形成されている。
上記構成に係る流体動圧軸受装置21であれば、図5に示すように溶融樹脂Pが電鋳部7の外周面を伝って開口部7cへと至る流れの勢いが弱められる。よって、この構成によっても、溶融樹脂Pが電鋳部7の開口部7cと上部端面14aとの隙間を通過して電鋳部7の内側にまで回り込む事態を防止することができる。
図7は、本発明の第3実施形態に係る流体動圧軸受装置31の断面図を示している。図7において、流体動圧軸受装置31を構成する軸受部材36は、型成形部8の開口側端面8eのうち開口部7cよりも外径側に、流動抵抗増加形状としての凹凸部を設けた点においては第1実施形態と同じであるが、その具体的形状が当該実施形態とは異なる。すなわち、図7に示す凹凸部39は複数の微小な突起を反転させた形状、すなわち複数の微小凹部39aで形成されている。従って、この場合、成形金型の対応する成形面(図5でいえば金型14の上部端面14a)には、例えば梨地状の複数の微小突起が形成されており、これら微小突起でもって流動抵抗を増加させる凹凸部が形成されている。このような形状とすることによっても、当該形状を有する凹凸部を通過する溶融樹脂の流動抵抗を増加させてその勢いを部分的に弱めることができ、溶融樹脂の回り込みを防止できる。
図8は、本発明の第4実施形態に係る流体動圧軸受装置41の断面図を示している。図8において流体動圧軸受装置41を構成する軸受部材46は、電鋳部7の外周面7dをその開口側に向けて拡径させた形状を有する点、および、大径側となる開口部7cに平坦な端面7eを設け、この端面7eに流動抵抗を増加させるための凹凸部49を設けた点で、既述の第1〜第3実施形態と異なる。ここで、凹凸部49は、複数のディンプル49aで形成されており、その一部に型成形部8が密着形成されている。このような形状とすることによっても、凹凸部49を通過する溶融樹脂の流動抵抗を増加させてその勢いを部分的に弱めることができ、溶融樹脂の回り込みを防止できる。
図9は、本発明の第5実施形態に係る流体動圧軸受装置51の断面図を示している。図9において流体動圧軸受装置51を構成する軸受部材56は、型成形部8のうち、電鋳部7の開口部7c上に形成される固化面8fの近傍外径側に薄肉部59aを設けた点、および、この薄肉部59aが、射出成形材料(溶融樹脂P)の流動抵抗を増加させるように電鋳部7と成形金型14との対向間隔を部分的に狭めた空間を反映した部分となる(この点については後述する)点で、既述の第1〜第4実施形態と異なる。この場合、型成形部8の開口側端面は薄肉部59aを境に外径側端面8gと、内径側端面8hとに区画される。
上記構成の型成形部8は、例えば図10に示す成形金型で電鋳部7と一体に成形される。すなわち、図10に示す金型13,14のうち、マスター12が装着される側の金型14の上部端面は、段差を介して下段側端面14bと上段側端面14cとで構成されると共に、これら端面14b,14c間の段差を構成する内側面と開口部7cとの間に半径方向の隙間Cを形成するように設計されている。この場合、半径方向の隙間Cが溶融樹脂Pの流動抵抗を増加させる程度に電鋳部7と成形金型との対向間隔(隙間)を狭めた部分を形成する。そのため、この隙間Cを通過する溶融樹脂Pの流動抵抗を増加させてその勢いを部分的に弱めることができ、溶融樹脂Pの回り込みを防止できる。
以上、流動抵抗を増加させるための部位として凹凸部や狭隙部分など幾つかの形態について説明したが、当該凹凸部や狭隙部分(薄肉部)は本発明の意義を没却しない限りにおいて任意にその形状や配置態様を変更することが可能である。すなわち、電鋳部の開口部又はその外周面に、キャビティ内に射出された溶融樹脂の流動抵抗を増加させることのできる程度の大きさ(高さ、深さ)の凹凸部を有する限りにおいて、あるいは、型成形部の開口側端面に、型成形面に設けた凹凸部を反映した成形面を有する限りにおいて、その形状は任意である。また、完成品の型成形部8の開口側端面8eなどに現れる凹凸部9はその全てが成形面で構成されている必要はない。すなわち、成形金型14の側に設けた凹凸部17の全てを溶融樹脂Pが充足せずとも、一定の流動抵抗増加作用が得られる場合もあり、結果として、完成品に現れる凹凸部9の表面の一部が型成形面でない固化面である場合も考えられるためである。
もちろん、金型端面(上部端面14aなど)と開口部7cとの間に軸方向の隙間を有する部分を除き、キャビティの全域にわたって溶融樹脂を充填可能な程度の大きさに凹凸部の大きさを制限することも重要である。また、上記流動抵抗を増加させるための隙間Cの大きさは、金型端面と開口部7cとの対向間隔(軸方向隙間)の最大値より小さく設定できればよいが、隙間Cを溶融樹脂Pが通過できる程度の大きさを有することはもちろんである。
上記実施形態では、電鋳部7の一端を開口し他端を閉塞した形状について本発明を適用した場合を説明したが、両端を開口した形状の電鋳部に対しても本発明を適用することは可能である。ここで、両端開口型であれば、開口部の軸方向位置に若干のばらつきがある場合でも軸方向両端から金型で電鋳部を挟持した状態で型成形を行うことができるのに対して、一端開口型の電鋳部であれば、開口部の側のみを金型に当接させた状態でインサート成形することになり、この際の金型の押圧が大き過ぎると電鋳部がマスターから外れるおそれがある。以上の点から、本発明は一端開口型の電鋳部をインサート成形するに際して特に有効であるといえる。
また、上記実施形態では、電鋳部7の内周面7aおよび軸部材2の外周面2aを共に断面真円形状とし、双方の面7a,2aで流体真円軸受を構成する場合を説明したが、もちろん動圧軸受を構成することも可能である。その場合、例えば軸部材2の外周面2aに、ステップ状やヘリングボーン状、円弧状などの配列態様をなす動圧溝領域を形成し、この動圧溝領域による動圧作用でもって軸部材2をラジアル方向に非接触支持することも可能となる。もちろん、上記動圧溝領域を電鋳部7の内周面7aの側に設けても構わない。
また、上記実施形態では、軸部材2の端部2bを半球形状とし、軸方向に対峙する電鋳部7の底面との間にいわゆるピボット軸受を構成した場合を説明したが、もちろん、これらの面2b,7bで動圧軸受を構成することも可能である。その場合、例えば端部2bを平坦面形状とし、これにヘリングボーン状やスパイラル状などの配列態様をなす動圧溝領域を形成し、この動圧溝領域による動圧作用で軸部材2をスラスト方向に非接触支持することも可能となる。もちろん、上記動圧溝領域を電鋳部7の底面7bの側に設けても構わない。
また、上記実施形態に例示の如く、軸受内部に潤滑油等の流体を充填して使用する場合には、軸受部材6の開口側端部に任意のシール手段を配設することも可能である。この場合、例えば軸受部材6とは別の部材を型成形部8の開口側端面8eに取り付けることで、軸部材2の外周面2aのうち軸受部材6から突出した部部との間にシール空間を形成することもできる。もちろん、図2や図6などに示すように、電鋳部7の開口部7cの内周面がテーパ形状を有するなど、シール面として使用できるようであれば、シール容積の確保を条件として、電鋳部7の開口部7cと軸部材2の外周面2aとの間にシール空間を形成するようにしても構わない。
また、流体動圧軸受装置1の内部に充満し、軸部材2の外周面2aと電鋳部7の内周面7aとの間の軸受隙間に動圧作用を生じる流体に関し、上記実施形態では潤滑油を例示したが、それ以外にも、例えば空気等の気体や、磁性流体等の流動性を有する潤滑剤、あるいは潤滑グリース等を使用することもできる。
また、以上の説明では、本発明に係る軸受部材を流体動圧軸受装置に組み込んで使用する場合を例示したが、この形態に限られることはない。電鋳部の内面が摺動面として使用可能である限りにおいて、流動軸受装置に限らず、滑り軸受装置に組み込んで使用することも可能である。もちろん、具体的な用途に関しても、上記例示のファンモータ用途に限定されることなく、種々の回転軸支持用途に広く適用可能である。
また、上記実施形態では、軸受部材6で軸部材2を回転支持する場合を例示したが、何れを回転側としても構わない。上述の適用例でいえば、軸部材2をモータの回転側(ロータ3)に固定し、一体に回転させるようにしても構わないし、軸受部材6を回転側に固定し、一体に回転させるようにしても構わない。