JP5286966B2 - 歯車部品 - Google Patents
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歯車部品の歯元部:
(553.53×S質量%)+(34.36×有効硬化層深さmm)
−(0.16×心部硬さHV)+(123.86×表層C濃度質量%)≦52…(1)
歯車部品の歯面部:
(0.001×心部硬さHV)+(0.037×全硬化層深さmm)≧0.460…(2)
この場合、歯車部品の歯元部の表層C濃度質量%は、0.5〜0.7%に設定されていることが望ましい。
Cは、歯車部品の強度(心部の強度)を確保するための元素である。この効果を得るには、0.20%以上の含有が必要である。他方、過度に含有させると、靭性および衝撃疲労強度が低下してしまうため、上限を0.40%以下とする。好ましくは0.20〜0.35%である。
Siは、溶製時の脱酸剤として添加される。このSiは、浸炭時における粒界酸化を助長する元素であり、衝撃疲労強度の低下をもたらす。また、過剰な含有は冷間鍛造性若しくは切削加工性を著しく損なうため、1.50%以下とする。好ましくは0.20%以下とする。なお、真空浸炭やプラズマ浸炭等の粒界酸化の抑制が可能な浸炭処理の場合は、焼もどし軟化抵抗を向上させるため、0.5%以上添加してもよい。
Mnは、浸炭時における粒界酸化を助長する元素であり、衝撃疲労強度の低下をもたらすため、その含有を極力制限する必要がある。具体的には、1.80%以下の含有とする。他方、Mnは、鋼の焼入れ性を高めるのに有効な元素であり、また、靭性向上のためには浸炭後の適度なオーステナイトの残留が必要である。これらの効果を得るには、0.30%以上の含有が必要である。
Crも、Mnと同様に浸炭時における粒界酸化を助長する元素であり、衝撃疲労強度の低下をもたらし、過剰な含有は結晶粒界の脆化を招来するおそれがある。具体的には、その含有量を1.50%以下に制限する。他方、Crは、鋼の焼入れ性を高めるのに有効な元素であるから、この効果を得るには、0.30%以上の含有が必要である。
Moは、鋼の焼入れ性を高めるのに有効な元素であり、Cr含有量を制限したことにより不足する鋼の焼入れ性を補完するために添加する。また、浸炭された表層の靭性を向上させるのに有効な元素でもある。他方、過度の含有は、塑性加工時の硬さが高くなり過ぎ、製造性が悪化してしまうので、0.80%以下の含有とする。
Tiは、浸炭鋼中のNと結合して窒化物を生成し、NがBと結合することを防止することで、固溶Bを確保してBの焼入れ性向上の効果を維持するのに有効な元素である。ただし、0.05%を超えるとTiNの大型化により冷間での加工性が低下するので、0.05%以下の含有とする。
Alは、浸炭鋼中のNと結合して窒化物を生成し、浸炭時のオーステナイト結晶粒の粗大化を防止するのに有効な元素である。ただし、0.05%を超えるとオーステナイト結晶粒の粗大化を防止する効果が飽和するので、0.05%以下の含有とする。
Nは、上述したとおり、浸炭鋼中のTiやAlと反応して窒化物を形成する。ただし、0.010%を超えると大型のTiNが生成し、これが疲労破壊の起点となって疲れ特性を損なう。また、0.010%を超えると上記したオーステナイト結晶粒の粗大化を防止する効果も飽和するため、0.010%以下の含有とする。
Nbは、浸炭鋼中のCやNと反応して炭窒化物を形成し、浸炭時のオーステナイト結晶粒の粗大化を防止するのに有効な元素である。ただし、0.10%を超えるとその効果が飽和する。
Pは、浸炭層の靭性を劣化させる元素である。特に、その含有量が0.020%を超えると、衝撃疲労強度の低下が著しくなる。また、Pは、不純物元素であるので、できるだけ含有量を0%に近づけることが好ましい。
Sも、浸炭層の靭性を劣化させる元素であり、Pと同様にその含有量が0.020%を超えると、衝撃疲労強度の低下が著しくなる。また、Sは浸炭鋼中のMnと反応してMnSを生成し、このMnSがき裂伝播経路となって強度低下を引き起こす。したがって、Sは可能な限り低減することが望ましいが、0.020%以下の含有では強度低下の要因となるMnSがき裂伝播経路上に認められないことから、0.020%以下の含有とする。
Bは、浸炭鋼の心部の焼入れ性を向上させるのに有効な元素である。すなわち、Bの添加により、不完全焼入れによる強度低下が防止され、後述する有効硬化層深さが深くなる効果が得られる。また、Bは、浸炭層の結晶粒界に優先偏析して浸炭層の粒界を強化するのに有効な元素でもある。この効果を得るには、0.0005%以上の含有が好ましい。他方、過度の含有は、焼入れ性向上の効果が飽和するだけでなく、熱間および冷間での加工性が低下するので、0.0035%以下の含有とする。
(13)Ni:0.20〜2.50%
Niは、オーステナイト生成元素であり、靭性の向上に寄与する。このような効果を得るためには、0.20%以上の含有が必要である。他方、過度の含有は焼なまし時の硬さが上昇するため、冷間加工性を劣化させる。このため、2.50%以下の含有とする。
Bi,Ca,Pbは、被削性を向上させるのに有効な元素である。ただし、何れも0.30%を超えると、被削性を向上させる効果が飽和するばかりでなく、靭性を低下させることもあるので、0.30%以下の含有とする。なお、Bi,Ca,Pbは、被削性に影響するのみであって、積極的な添加を省略しても疲労強度及び曲げ矯正性への影響はほとんどない。
(553.53×S質量%)+(34.36×有効硬化層深さmm)
−(0.16×心部硬さHV)+(123.86×表層C濃度質量%)≦52…(1)
(a)(553.53×S質量%)
上述したように、Sは浸炭鋼中のMnと反応してMnSを生成し、このMnSが図2に示すき裂進展方向(D1)の経路となって歯元部11a,21aの衝撃疲労強度を低下させる要因となる。したがって、S量を下げることで、き裂伝播経路となるMnSが低減し、き裂進展速度を遅くすることができるため、歯元部11a,21aの衝撃疲労強度を高めることができる。
有効硬化層深さは、限界硬さを513HVとする表面からの深さ(図2で示すき裂進展方向(D1)の深さ)を表す。歯元部11a,21aの有効効果層深さを浅くすることで、初期き裂長さを短く設定することができ、その後のき裂進展を遅延化させることができるため、歯元部11a,21aの衝撃疲労強度を高めることができる。
心部硬さは、図2の心部11b,21bに代表される母材の硬さであり、母材のC量に依存する。母材のC量が多くなるほど、心部硬さが上昇して耐塑性変形性が向上する。ただし、C量が多いほど製造性(鍛造成形性若しくは切削加工性)が悪化し、靭性低下による衝撃疲労強度の低下が生じるため、心部硬さは400〜500HV程度となることが望ましい。
表層C濃度を下げることで、歯元部11a,21aの靭性を向上させ、き裂の発生を遅延化させることができる。ただし、表層C濃度が少なすぎると耐塑性変形性が著しく悪化するため、歯元部11a,21aの表層C濃度質量%は0.5〜0.7%程度となることが望ましい。
(0.001×心部硬さHV)+(0.037×全硬化層深さmm)≧0.460…(2)
(a)(0.037×全硬化層深さmm)
全硬化層深さは、表面焼入れした硬さが及ぶ範囲、すなわち母材の硬さに達するまでの表面からの深さ(図2で示す歯面11c,21cの法線方向(D2)の深さ)を表す。心部硬さを上げ、全硬化層深さを深くすることで、歯面部11c,21cの耐塑性変形性が向上するため、歯面部11c,21cの塑性変形量を抑制することができる。一般に、硬化層と母材との境界から生じる内部起点の損傷(例えばケースクラッシュ)を抑制するために、全硬化層深さを1.2mm程度付与する処理が行われているが、特に歯車部品の歯面部のように高い衝撃入力が付与される部品においては、この程度の全硬化層深さでは部品機能が損なわれるおそれがある。したがって、歯面部11c,21cの耐塑性変形性を十分に確保するために、歯面部11c,21cの全硬化層深さは1.3〜2.0mm程度となることが望ましい。これに対応して、歯面部11c,21cの有効硬化層深さは、歯元部11a,21aの有効硬化層深さよりも深くなるように設定される。
まず、表1に示す合金組成(残部はFe及び不可避不純物)の肌焼鋼Aを真空溶解炉を用いて溶製し、150kgのインゴットに鋳造した。次に、このインゴットを圧延してバー材にした後、このバー材を切断して図1(a)に示すピニオンギヤ10と、図1(b)に示すサイドギヤ20とをそれぞれ作成した。具体的には、ピニオンギヤ10については、切断後のバー材を球状化焼きなまし処理した後、冷間閉塞鍛造を行い、図3に示すヒートパターンで浸炭焼入れ焼戻し処理(真空浸炭)した後に仕上げ研削加工を施した。また、サイドギヤ20については、切断後のバー材を温間鍛造し、焼きならし処理した後に再圧縮(サイジング)を行い、旋削等の切削加工を施した後に図3に示すヒートパターンで浸炭焼入れ焼戻し処理を施した。この浸炭焼入れ焼戻し処理では、各ギヤ10,20における最終的な表層C濃度、有効硬化層深さ及び全硬化層深さがそれぞれ変化するように、浸炭焼入れ工程における浸炭時間又は拡散時間を適宜設定した。各ギヤ10,20のうち、ピニオンギヤ10において歯元部11aの表層C濃度及び有効硬化層深さを変化させ、歯面部11cの表層C濃度及び全硬化層深さを変化させたものをそれぞれ参考例1〜4、比較例1〜5とした。そして、歯元部11aでは図5に示す試験機を用いて衝撃試験を実施した。この試験機は、ケース101(ディファレンシャルケースに相当)を備えており、ケース101内にピニオンシャフト102を介して一対のピニオンギヤ10,10が組み込まれ、各ピニオンギヤ10とギヤ結合するようにシャフト103(アクスルシャフトに相当)を介して一対のサイドギヤ20,20が組み込まれる。各ギヤ10,20は、ケース101及びシャフト103と共にモータ104により回転駆動される。シャフト103は、その出力側端部にてブレーキ機構105により制動される。この試験機を用いて、ブレーキ機構105によるシャフト103の制動を繰り返し行い、各ギヤ10,20に衝撃荷重を入力して、ギヤ10の歯元部11aが破損に至ったときのシャフト103に生じるトルク(衝撃強度)をトルクメータ106で測定した。試験結果を表3に示す。ここでは、衝撃強度が1350Nm以上のものを良とする。
各試験片の表層C濃度を、JIS G 1253に基づき、発光分光分析により測定した。ここでは、C量1%まで測定できるように検量線を作成した(誤差は±0.01%)。また、各試験片の表層C濃度分布を、X線マイクロアナライザー(EPMA)を用いて線分析により測定した。
各試験ギヤの有効硬化層深さを、ISO2639(2002)に準拠し荷重300gのビッカース硬度計を用いて測定した。ただし、有効硬化層深さの限界硬さを513HVとした。
各試験ギヤの全硬化層深さを、JIS G 0577(2006)に準拠した方法で表面から内部にかけて推移曲線を作成し、硬化層生地と区別できなくなるまでの深さを全硬化層深さとした。硬さは荷重300gのビッカース硬度計を用いて測定した。
各試験ギヤの心部硬さを、JIS Z 2244に準拠し、図2に示す心部11b,21bにおける歯断面の硬さをビッカース硬度計を用いて測定した。
次に、合金組成の影響を判断するために、表4に示す合金組成(残部はFe及び不可避不純物)として、参考例と同様の試験ギヤを作成した後、図4に示すヒートパターンで浸炭焼入れ焼戻し処理を施した。なお、浸炭焼入れ焼戻し処理では、浸炭焼入れ工程における浸炭期(930℃)での保持時間を9時間とし、拡散期(850℃)での保持時間を0.5時間とした後、油冷した。また、その後の浸炭焼戻し工程では180℃に2時間保持した後、空冷した。これによって参考例5,8,11,14、実施例6,7,9,10,12,13、比較例6〜11を作製した。そして、これらの試験ギヤについても、上記参考例と同じ評価方法および試験を行った。以上の試験結果を表5,6に示す。
20 サイドギヤ(歯車部品)
11,21 歯
11a,21a 歯元部
11b,21b 心部
11c,21c 歯面部
Claims (4)
- 質量%で、
C:0.20〜0.40%、
Si:1.50%以下、
Mn:0.30〜1.80%、
Cr:0.30〜1.50%、
Mo:0.80%以下、
Ti:0.05%以下、
Al:0.05%以下、
N:0.010%以下、
Nb:0.10%以下、
P:0.020%以下、
S:0.020%以下、
B:0.0005〜0.0035%、
を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなる肌焼鋼が所定の歯車形状に形成され、浸炭処理後に、下記式(1)及び(2)を満たしたものとなっていることを特徴とする歯車部品。
前記歯車部品の歯元部:
(553.53×S質量%)+(34.36×有効硬化層深さmm)
−(0.16×心部硬さHV)+(123.86×表層C濃度質量%)≦52…(1)
前記歯車部品の歯面部:
(0.001×心部硬さHV)+(0.037×全硬化層深さmm)≧0.460…(2) - さらに、質量%で、
Ni:0.20〜2.50%を含有する請求項1に記載の歯車部品。 - さらに、質量%で、
Bi:0.30%以下、
Ca:0.30%以下、
Pb:0.30%以下、
のうち1種又は2種以上を含有する請求項1又は2に記載の歯車部品。 - 前記歯車部品の歯元部の表層C濃度質量%は、0.5〜0.7%に設定されている請求項1ないし3のいずれか1項に記載の歯車部品。
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