JP5281788B2 - 銅又は銅合金表面への電気銅めっきの前処理に用いる酸性脱脂剤及びその酸性脱脂剤を用いて前処理した銅又は銅合金表面への電気銅めっき方法 - Google Patents

銅又は銅合金表面への電気銅めっきの前処理に用いる酸性脱脂剤及びその酸性脱脂剤を用いて前処理した銅又は銅合金表面への電気銅めっき方法 Download PDF

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Description

本件発明は、銅又は銅合金表面への電気銅めっきの前処理に用いる酸性脱脂剤及びその酸性脱脂剤を用いて前処理した銅又は銅合金への電気銅めっき方法に関する。
プリント配線板(Printed Wiring Board:以下、「PWB」と称する。)の主たる製造方法であるパネルめっき法やパターンめっき法では、銅張積層板(Copper Clad Laminate:以下、「CCL」と称する。)表面の銅箔に電気銅めっきを施して、導体として必要な銅の厚さを確保している。この電気銅めっきは、両面プリント配線板や多層プリント配線板では、層間の導通を取るためのビア(スルー)ホール内へのめっきも目的として施されることが多い。そして、最近の電子機器類、特にモバイル機器では、軽薄短小化を達成する手段の1つとして、フレキシブルプリント配線板(Flexible Printed Wiring Board:以下、「FPWB」と称する。)を採用する例が増えている。また、FPWBを製造するための素材であるフレキシブル銅張積層板(Flexible Copper Clad Laminate:以下、「FCCL」と称する。)には、表面が平滑であり、屈曲性が良好なことから、圧延銅箔が多く用いられている。
ところが、前述のFCCLには、絶縁樹脂基材としてポリイミド樹脂フィルムを用いることが多い。このポリイミド樹脂は、強アルカリに接触すると膨潤する性質がある。また、高温でアルカリに接触すると分解するおそれがある。そのため、ポリイミド樹脂に対しては、アルカリ処理は避けることが好ましいとされている。従って、FPWB業界では、スルーホール等の内壁に導電性を与える前処理として、一般的に強アルカリを用いる無電解銅めっきに対する代替技術が模索されてきた。そこで、FPWBの製造工程では、パラジウムやグラファイトを導電膜として用いるダイレクトプレーティング処理を採用する例が増えている。
そして、前記特許文献1には、銅表面及び銅合金表面の前処理用技術として、ソルダーレジスト等との密着性に優れた深い凹凸を有する表面形状に粗面化することが出来、更に、はんだ付け性に適した表面状態にすることが出来るマイクロエッチング剤を提供することを目的として、銅の酸化剤を含有する水溶液からなる銅及び銅合金のマイクロエッチング剤に、ポリアミン鎖及び(又は)カチオン性基を有する高分子化合物を含有させたマイクロエッチング剤が開示されている。
特開平9−41162号公報
前述のような、銅めっき工程を備える一般的なPWBの製造工程では、CCLやPWB等の表面に前処理を施し、その後電気銅めっきを施している。しかし、形成された電気銅めっき皮膜の表面に、外観不良が見られることが多い。そして、この外観不良は、一般的には電気銅めっきに用いるめっき液の組成変動や、めっき条件の変動に起因して発生するが、電気銅めっきの下地の影響を受けて発生する場合もある。特に、前記圧延銅箔を電気銅めっきの下地とした場合には、電解銅箔を電気銅めっきの下地とした場合に比べ、電気銅めっき皮膜の外観不良が発生しやすい傾向にある。その理由として、表面処理圧延銅箔の製造工程では、電解脱脂、アルカリ脱脂処理、酸洗処理等を施しても、製品の表面には、まだ微量の圧延油や銅の酸化物が存在していることが挙げられる。同様の現象は、FCCLにダイレクトプレーティング処理を施した面にも現れるため、ダイレクトプレーティング処理を施したFCCLに電気銅めっきを施す場合にも、前処理として酸性溶液で脱脂処理を施している。
ところで、特許文献1に開示されているマイクロエッチング剤は、酸性溶液であって、PWBの製造工程において、銅及び銅合金下地上に、エッチングレジストやソルダーレジストの形成を良好に行なったり、該銅及び銅合金下地と基材樹脂との密着性を良好にすることを目的として、該下地表面をマイクロエッチング処理してミクロ的な凹凸を形成する際に用いる溶液である。
また、特許文献1に開示のマイクロエッチング剤は、電気銅めっきの下地処理用の脱脂剤ではないが、このマイクロエッチング剤を用いてダイレクトプレーティング処理を施した銅箔表面を処理すれば、表面に付着している酸化物が溶解除去され、油脂成分などの表面汚染物もエッチングで溶解する金属成分と一緒に除去されるなどにより、脱脂効果が得られる可能性がある。そこで、特許文献1に記載の浴組成を参考にしてマイクロエッチング剤を調製し、CCLへの電気銅めっきの下地処理用の脱脂剤として用いてみた。その結果、後の比較例に明らかなように、電気銅めっき後に良好な表面状態を得ることは困難であることが判明した。
以上のことから、酸性でありながら銅又は銅合金の表面に微量残留する油脂成分の除去が可能で、ダイレクトプレーティング処理後の銅又は銅合金表面に電気銅めっきを施しても、白むらや白斑等の発生しない銅又は銅合金表面への電気銅めっきの前処理に用いる酸性脱脂剤と、その酸性脱脂剤を用いて前処理した銅又は銅合金表面への電気銅めっき方法が要求されていた。
そこで、鋭意研究の結果、本件発明者等は、以下の銅又は銅合金表面への電気銅めっきの前処理に用いる酸性脱脂剤と、その酸性脱脂剤を用いて前処理した銅又は銅合金表面への電気銅めっき方法に想到した。
本件発明に係る酸性脱脂剤: 本件発明に係る酸性脱脂剤は、銅又は銅合金表面への電気銅めっきの前処理に用いる酸性脱脂剤であって、硫酸第二鉄、カチオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤の各成分を含むことを特徴としている。
本件発明に係る酸性脱脂剤においては、該酸性脱脂剤が含むハロゲンイオンは、その濃度が0.1g/L以下であることも好ましい。
本件発明に係る酸性脱脂剤においては、該酸性脱脂剤が含む前記硫酸第二鉄は、その濃度が2g/L〜500g/Lであることも好ましい。
本件発明に係る酸性脱脂剤においては、該酸性脱脂剤が含む前記カチオン界面活性剤は、その濃度が0.01g/L〜10g/Lであることも好ましい。
本件発明に係る酸性脱脂剤においては、該酸性脱脂剤が含む前記ノニオン界面活性剤は、その濃度が0.05g/L〜50g/Lであることも好ましい。
本件発明に係る銅又は銅合金表面への電気銅めっき方法: 本件発明に係る銅又は銅合金表面への電気銅めっき方法は、前記酸性脱脂剤を用いて前処理した銅又は銅合金表面への電気銅めっき方法であって、以下の工程A〜工程Cを含むことを特徴としている。
工程A: 銅又は銅合金の表面を該酸性脱脂剤と接触させて処理する酸性脱脂工程。
工程B: 工程Aで得られた銅又は銅合金表面を活性化する活性化工程。
工程C: 工程Bで得られた銅又は銅合金の表面に電解法で銅めっきを施す電気銅めっき工程。
本件発明に係る銅又は銅合金表面への電気銅めっき方法においては、前記工程Aは、前記酸性脱脂剤の液温を20℃〜75℃とし、これと前記銅又は銅合金の表面とを1分間以上接触させ、該銅又は銅合金の表面の0.01μm以上の厚さ分をエッチング除去する酸性脱脂工程であることも好ましい。
本件発明に係る酸性脱脂剤は、硫酸第二鉄、カチオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤の各成分を含む、銅又は銅合金表面への電気銅めっきの前処理に用いる酸性脱脂剤であり、意図的に添加したハロゲン成分は含んでいない。従って、該酸性脱脂剤を、電気銅めっきを施す銅又は銅合金表面の前処理に用いれば、銅又は銅合金の表面には、色むらの無い良好な表面を備える電気銅めっき皮膜を形成出来る。また、銅又は銅合金表面にダイレクトプレーティング処理を施した電気銅めっきの下地の前処理に用いても、白むらや白斑等の発生が無い電気銅めっき皮膜が得られる。
本件発明に係る酸性脱脂剤の形態: 本件発明に係る酸性脱脂剤は、銅又は銅合金表面への電気銅めっきの前処理に用いる酸性脱脂剤であって、硫酸第二鉄、カチオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤の各成分を含む。該酸性脱脂剤を用いれば、被めっき物である銅又は銅合金表面の油脂成分や金属酸化物等を除去し、表面のミクロ形状を大きく変化させること無く、均一な銅又は銅合金表面を得ることが出来る。以下、本件発明に係る酸性脱脂剤が含む各成分について説明する。
本件発明に係る酸性脱脂剤においては、該酸性脱脂剤が含むハロゲンイオンは、その濃度が0.1g/L以下である。しかし、銅や銅合金などの表面処理に用いる前処理液やめっき液などの水溶液には、意図してハロゲンイオンを含ませるのが一般的である。例えば、前記特許文献1に開示の実施例で用いているマイクロエッチング剤は、ハロゲンイオンを0.5%〜1.4%含んでいる。このように、ハロゲンイオンを含む水溶液に銅や銅合金を浸漬すると、ハロゲンイオンは、主に金属組織が備える結晶粒界に吸着する。そして、表面処理やめっきの均一性を向上させる効果を発揮する。従って、特許文献1の実施例では、塩素を含むマイクロエッチング剤を用い、スプレー処理により銅又は銅合金表面の酸化反応を促進して、銅又は銅合金表面に均一なマイクロエッチング処理を施している。即ち、特許文献1の実施例では、小さな結晶粒を備える電解銅箔をマイクロエッチング処理の対象とし、ハロゲンイオンが吸着した結晶粒界を優先的にエッチング除去して結晶粒を剥離脱落させることで、良好な凹凸を備えるマイクロエッチング処理表面を形成している。
ところが、本件発明では、処理の対象とする被めっき物として、FCCLが備える圧延銅箔も想定している。FCCLに用いる圧延銅箔は、FCCLの製造工程における熱履歴によって結晶粒が再結晶化して肥大化しており、電解銅箔と比較すると結晶粒界は少ないが、結晶粒の粒径が大きくばらつく傾向がでる場合がある。従って、再結晶組織を備える圧延銅箔の場合には、ハロゲンイオンの濃度が高い前処理液を用いると、結晶粒のサイズに応じて剥離脱落する状況が異なり、めっき下地に光沢むらや色むらが発生しやすい。
そこで、本件発明に係る酸性脱脂剤のハロゲンイオンの濃度は、できるだけ低く、0.1g/L以下に維持する。該酸性脱脂剤のハロゲンイオンの濃度を0.1g/L以下とすれば、銅や銅合金の表面では、ハロゲンイオンが吸着した結晶粒界は少なく、結晶粒のサイズの違いによる結晶剥離の差が小さくなるからである。そして、該酸性脱脂剤は、後述するカチオン界面活性剤の効果と相まって、結晶粒界と結晶粒内とを同レベルでエッチング可能とする効果を発揮する。しかし、該酸性脱脂剤のハロゲンイオンの濃度を、0.1g/L以下のレベルに維持するためには、酸性脱脂剤の調製に市水を用いることが出来ない。従って、本件発明ではイオン交換水や純水等のハロゲンイオンを含まない水の使用を基本としている。そして、本件出願では、ハロゲンイオンを意図的には含ませていない水を総称して、「イオン交換水」と称している。
本件発明に係る酸性脱脂剤においては、該酸性脱脂剤が含む前記硫酸第二鉄は、その濃度が2g/L〜500g/Lである。酸性脱脂剤を用いる実際の操業においては、市場で調達した硫酸第二鉄の7水塩や9水塩等の原料薬品を、イオン交換水に溶解して、該酸性脱脂剤を調製する。従って、ここで言っている該硫酸第二鉄の濃度とは、それら原料薬品が含む硫酸第二鉄成分のみの濃度として表示している。そして、この酸性脱脂剤が含む第二鉄イオンは、銅又は銅合金の表面を酸化して酸化銅とする機能を果たし、酸化銅は酸性脱脂剤に溶解する。しかし、該硫酸第二鉄の濃度が2g/Lを下回ると、銅又は銅合金表面を酸化して溶解する能力が弱く、表面層を均一にエッチングして除去することが困難になり、脱脂効果を確実には発揮出来ない。一方、該硫酸第二鉄の濃度が500g/Lを超えると、ノニオン界面活性剤の該酸性脱脂剤への溶解が困難になり、所期の効果が得られなくなるため好ましくない。上記観点から、電気めっきを施す銅又は銅合金の表面を最適な脱脂表面に調整するには、酸性脱脂剤が含む該硫酸第二鉄の濃度を10g/L〜100g/Lとすることがより好ましい。
本件発明に係る酸性脱脂剤においては、該酸性脱脂剤が含む前記カチオン界面活性剤は、その濃度が0.01g/L〜10g/Lである。該酸性脱脂剤において、該カチオン界面活性剤は、電気銅めっきの下地の銅又は銅合金表面の金属成分に吸着する。その結果、圧延銅箔が電気銅めっきの下地であっても均一な酸性脱脂処理を可能にする。カチオン界面活性剤を大別するとアルキルアミン塩型と第4級アンモニウム塩型とがあり、一般的な市販品からいずれかを選択して用いればよい。そして、ポリエチレンアミン系のカチオン界面活性剤やポリアリルアミン系のカチオン界面活性剤を用いると、酸性脱脂処理の均一化の効果が安定して得られるためより好ましい。
しかし、前記カチオン界面活性剤の濃度が0.01g/Lを下回ると、銅又は銅合金表面の電気銅めっきの下地全面への該カチオン界面活性剤の吸着が困難になる。すると、酸性脱脂処理の均一化の効果が得られにくくなるばかりか、銅又は銅合金表面に光沢むらや色むらが発生するため好ましくない。一方、該カチオン界面活性剤の濃度を10g/Lを超えるものとしても、酸性脱脂処理の均一化の効果は飽和に達し、資源の無駄遣いになる。また、銅又は銅合金の表面に、カチオン界面活性剤が多層構造で吸着する現象が起こり、銅又は銅合金表面に光沢むらや色むらが発生するため好ましくない。従って、より好ましい濃度は、用いるカチオン界面活性剤の種類によっても異なるが、下限近傍になる傾向がある。例えば、ポリエチレンポリアミンを主剤としたカチオン界面活性剤を、濃度0.1g/L程度で用いれば、その他の要因の変動があっても安定した脱脂処理の効果が得られる。
本件発明に係る酸性脱脂剤においては、該酸性脱脂剤が含む前記ノニオン界面活性剤は、その濃度が0.05g/L〜50g/Lである。該ノニオン界面活性剤は、被めっき物である銅又は銅合金の表面に付着した油脂成分を膨潤脱離させる。ノニオン界面活性剤にはエステル系、エーテル系、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系、ポリオキシエチレンフェニルエーテル系、ポリオキシエチレンプロピレングリコール系等があり、一般的な市販品からいずれかを選択して用いればよい。そして、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系のノニオン界面活性剤やポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール系のノニオン界面活性剤を用いると、脱脂処理の効果が安定して得られるためより好ましい。
しかし、該ノニオン界面活性剤の濃度が0.05g/Lを下回ると、銅又は銅合金表面から油脂成分を膨潤脱離させる機能が発揮出来なくなるため好ましくない。一方、該ノニオン界面活性剤の濃度が50g/Lを超えると、該ノニオン界面活性剤の銅又は銅合金表面への吸着量が増加する傾向が現れる。その結果、銅又は銅合金表面に色むらが発生するため好ましくない。更に、銅又は銅合金表面から油脂成分を膨潤脱離させ、銅又は銅合金表面への吸着等の悪影響を排除する観点からは、該ノニオン界面活性剤の濃度は0.5g/L〜5g/Lとすることがより好ましい。
本件発明に係る銅又は銅合金表面への電気銅めっき方法の形態: 本件発明に係る銅又は銅合金表面への電気銅めっき方法は、前記酸性脱脂剤を用いて前処理した銅又は銅合金表面への電気銅めっき方法であって、以下の工程A〜工程Cを含む。該電気銅めっき方法を用いれば、銅又は銅合金表面に、光沢むらや色むらなどが無い、厚さも均一で良好な電気銅めっき皮膜を形成出来る。以下、各工程毎に説明を加える。
工程Aは、銅又は銅合金の表面を、前記酸性脱脂剤と接触させて処理する、酸性脱脂工程である。この工程では、該酸性脱脂剤の液温を20℃〜75℃とし、これと被めっき物である銅又は銅合金の表面とを1分間以上接触させ、該銅又は銅合金表面の0.01μm以上の厚さ分をエッチング除去する。このとき、用いる該酸性脱脂剤の液温が20℃を下回ると、硫酸第二鉄の銅及び銅合金を酸化する能力に低下が見られるようになる。そして、カチオン界面活性剤やノニオン界面活性剤は、銅又は銅合金表面へ吸着しやすくなる。更に、ノニオン界面活性剤が備える、油脂成分を膨潤脱離させる効果が低下する傾向が現れるため好ましくない。一方、該酸性脱脂剤の液温が75℃を超えると、ノニオン界面活性剤が曇点を迎え、ノニオン界面活性剤が備える油脂成分を膨潤脱離させる能力が低下するため好ましくない。
そして、酸性脱脂工程では、該酸性脱脂剤と銅又は銅合金の表面とを1分間以上接触させる。特許文献1に開示のマイクロエッチング剤を用いる方法では、銅又は銅合金表面の金属も酸化しつつエッチングし、且つ、結晶粒界を優先的にエッチング除去して結晶粒を脱落させる。そのため、実施例ではマイクロエッチング剤の液温を40℃として、60秒間のスプレー処理を採用している。しかし、本件発明に係る酸性脱脂剤は、意図的に添加したハロゲンイオンと酸成分とを含んでいない。その結果、銅又は銅合金表面の金属をエッチングする速度が遅く、長時間をかけた酸性脱脂処理を施しても、銅又は銅合金表面のエッチング量は少ない。このように、銅又は銅合金表面と酸性脱脂剤とを長時間接触させれば、ノニオン界面活性剤が油脂成分を膨潤脱離させることが出来る。従って、該接触時間が1分間よりも短いと、油脂成分の膨潤が不十分で、十分な脱脂効果が得られない場合がある。
この、該酸性脱脂剤と銅又は銅合金表面とを接触させる工程では、銅又は銅合金を、該酸性脱脂剤に浸漬する方法、該酸性脱脂剤を銅又は銅合金に吹き付ける方法などから最適な方法を選択して実施すればよい。しかし、銅又は銅合金表面に、むらの無い良好な外観を安定して得るためには浸漬方式が好ましい。また、浸漬方式を採用した場合に短時間で効果を得るためには、銅又は銅合金を浸漬した酸性脱脂剤の攪拌が有効である。穴あけ後ダイレクトプレーティング処理を施したFCCLに電気銅めっきを施す工程であれば、ロール ツー ロールの処理が可能であり、各種処理槽に浸漬しつつ蛇行走行する方式を採用出来る。このときの攪拌は、処理層への酸性脱脂剤の液循環と、FCCLの走行速度で得られるが、エアバブリングなどを補助的に用いることも出来る。銅又は銅合金表面に、酸性脱脂剤をスプレーする方式は、銅又は銅合金表面への液圧バラツキ等に起因して、銅又は銅合金表面に光沢むらや色むらが発生する場合があるので注意が必要である。このとき脱離した油脂成分は、酸性脱脂剤に溶解しないため、前記液循環経路にフィルターを設けるなどして、油脂成分を分離除去してやる。
前記酸性脱脂工程では、上述のようにして、該銅又は銅合金表面の表面の0.01μm以上の厚さ分をエッチング除去する。ここで言っているエッチング除去厚さとは、一定面積の銅又は銅合金表面を酸性脱脂処理した前後の重量差から計算上得られる厚さである。即ち、局部的なエッチング除去厚さには、一定のバラツキがあることを認識しておく必要がある。そして、このエッチング除去厚さは、銅又は銅合金表面に対する脱脂効果の確実性と、表面の粗化が抑制されていることの指標となる。従って、エッチング除去厚さが0.01μmよりも少ないと、目視上は均一に見えても、油脂成分などの除去が不十分な部分が局在し、電気銅めっきを施すと光沢むら、色むら、厚さむらになる場合があるため好ましくない。しかし、エッチング除去厚さの上限には、特段の限定は無く、銅又は銅合金表面を、均一に、光沢むらや色むらが無くめっきを施すことが出来る表面状態に調整出来ればよい。しかし、エッチング除去厚さを過剰にした場合、銅又は銅合金の表面状態にもよるが、局部的に粗化が進行することがある。このような表面に電気銅めっきを施すと、粗化部分が強調され、光沢むらや色むらのある銅めっき皮膜が得られてしまう。また、銅又は銅合金の表面にダイレクトプレーティング処理を施している場合には、エッチング除去厚さが過剰になると、ダイレクトプレーティング処理で形成した導体膜と銅とが一緒に下地から脱落する傾向が現れる。従って、上記観点からは、エッチング除去厚さは、0.15μm〜0.3μmに設定することがより好ましい。
工程Bは、工程Aで得られた銅又は銅合金表面を活性化する活性化工程である。工程Aで酸洗脱脂処理を施した銅又は銅合金表面は、水洗しても銅又は銅合金の表面には界面活性剤が吸着した状態にあり、銅又は銅合金表面に吸着した界面活性剤は、防錆効果も発揮する。従って、銅又は銅合金表面に、界面活性剤の吸着量にむらがある状態でその上に電気銅めっきを施すと、光沢むらや色むらを伴う電気銅めっき皮膜となる。そこで、電気銅めっきを施す直前に酸洗し、界面活性剤の吸着状態を電気銅めっきに影響を与えない程度に調整し、銅又は銅合金の表面を活性化する。この操作は表面洗浄であり、1分程度の浸漬処理で十分な活性化の効果を得ることが出来る。ここで用いる酸には特段の限定は必要なく、硫酸、塩酸、硝酸などの強酸を希釈して用いることが出来る。しかし、銅又は銅合金表面を酸化することなく活性化するためには、活性化剤として10%程度の希硫酸を用いることが好ましい。希硫酸を用いれば、表面に吸着したカチオン界面活性剤の吸着状態がより均一になり、電気銅めっきにおける均一析出の改善に寄与出来る。この工程も、銅又は銅合金を調整した活性化剤に浸漬する方法、活性化剤を銅又は銅合金に吹き付ける方法などから最適な方法を選択して実施すればよい。
工程Cは、工程Bで得られた銅又は銅合金の表面に電解法で銅めっきを施す電気銅めっき工程である。ここで用いる電気銅めっき液には特段の限定は必要なく、形成する銅皮膜の特性を勘案し、市販の電気銅めっき液用の添加剤を用いた推奨浴組成で調製しても、自身で調製しても構わない。市販の電気銅めっき液用の添加剤を用いる方法では、後述する実施例でも用いた、ローム・アンド・ハース電子材料株式会社製のカパーグリームST−901やカパーグリームCLX等を好ましく用いることが出来る。自身で調製する方法であれば、硫酸酸性電気銅めっき液を、銅濃度を45g/L〜60g/L程度、硫酸濃度を50g/L〜100g/L程度とした基本浴に、必要に応じてジスルフィド、ポリエチレングリコール,ヤーヌスグリーンと塩素などから選択した添加剤を加えて調製することが出来る。そして、これらの電気銅めっき液の液温を25℃〜45℃とし、陽極には含リン銅チップ又は寸法安定性陽極を用い、銅又は銅合金を陰極にして、陰極電流密度0.5A/dm〜5A/dmで電解すれば電気銅めっき皮膜を形成出来る。この工程では、独立した形状の銅又は銅合金であればラック架けして電気めっきを施す方式、帯状の銅又は銅合金であればロール ツー ロール方式など、電気銅めっきを施す銅又は銅合金の形状に最適な方法を選択して実施すればよい。
尚、本願明細書で用いている銅又は銅合金の概念には、銅又は銅合金皮膜を備えるもの全般、即ち、樹脂製品や銅を含まない金属の表面に銅又は銅合金皮膜を形成した形態をも含むことを断っておく。
酸性脱脂剤の調製: 実施例1では、硫酸第二鉄には試薬1級の硫酸第二鉄9水塩を用いた。そして、カチオン界面活性剤には、市販のポリエチレンポリアミンを主剤としたものを用いた(表中では、単に「ポリエチレンポリアミン」と表示している。)。また、ノニオン界面活性剤には、市販のポリオキシエチレンアルキルエーテルを主剤としたものを用いた(表中では、単に「ポリオキシエチレンアルキルエーテル」と表示している。)。これらの薬剤を用いて、酸性脱脂剤を調製した。具体的には、先ず、容量1.0Lのビーカーに入れた約0.7Lのイオン交換水を攪拌しながら、硫酸第二鉄、カチオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤の規定量を順次投入して溶解した。その後、該溶解液にイオン交換水を追加して総液量を1.0Lに調整し、Fe(SO:20g/L、ポリエチレンポリアミン:0.1g/L、ポリオキシエチレンアルキルエーテル:1.0g/L、Cl:0.01g/Lの酸性脱脂剤を得た。この浴組成を、比較例1〜比較例4で用いた従来脱脂剤、及び比較例5と比較例6で用いたマイクロエッチング剤の浴組成と併せて、以下の表1に示す。
Figure 0005281788
被めっき材の作成: ダイレクトプレーティング処理及び電気銅めっきなどを施す被めっき材として、18μm厚さの圧延銅箔を、25μmのポリイミドフィルムの両面に、20μmの接着剤層を介して張り合わせ、厚さ約0.1mmで250mm×300mmサイズのFCCLを作成した。
ダイレクトプレーティング処理: 前記FCCLへのダイレクトプレーティング処理は、ブラックホール処理を社外に委託して施し、ブラックホール処理導体膜を備えるFCCLを得た。実施例1〜実施例5と比較例1〜比較例6で実施した、ダイレクトプレーティング処理以降電気銅めっきまでの工程の流れを、以下の表2に示す。そして、実施例1の試験条件を、実施例2〜実施例5、比較例1〜比較例6の試験条件と併せて、以下の表3に示す。
Figure 0005281788
Figure 0005281788
酸性脱脂: 酸性脱脂工程では、前記ブラックホール処理導体膜を備えるFCCLを125mm×50mmのサイズに切断し、試験片として用いた。この試験片を、容量1.0Lのトールビーカー内の、液温を40℃とした前記酸性脱脂剤1.0L中に3分間浸漬静置して酸性脱脂処理を施し、その後、流水で60秒間水洗した。酸性脱脂処理を施す前後の該CCLの質量差から銅のエッチング除去厚さを求めたところ、0.3μmであった。
電気銅めっき: 電気銅めっき工程では、イオン交換水を用い、CuSO・5HOを75g/L、HSOを190g/L、塩素イオンを0.05g/L含む硫酸酸性電気銅めっき浴を調製し、実施例と比較例とで共通に用いる基本浴とした。実施例1では、この基本浴に、ローム・アンド・ハース電子材料株式会社製カパーグリームST−901、C剤を5mL/L添加して電気銅めっき液を調製した。電気銅めっき工程の前には、活性化工程として、前記酸性脱脂処理を施したFCCLを、10%硫酸に室温で1分間浸漬して酸活性処理を施した。そして、電気銅めっきでは、調製した電気銅めっき液1.5Lを容量1.5Lのハーリングセル用水槽に入れ、空気を吹き込んで攪拌しつつ、室温で電解した。具体的には、陽極に含リン銅を用い、前記酸活性処理を施したFCCLを陰極として、陰極電流密度(DK)2A/dmで25分間電解した。そして、電気銅めっきを施したFCCLは、水洗後風乾し、電気銅めっきFCCLを作成した。
外観評価: 電気銅めっきFCCLの外観は、目視外観と光沢度[GS(20°)]とで評価した。ここで言う光沢度[GS(20°)]は、被検体の表面に入射角20°で測定光を照射し、反射角20°で跳ね返った光の強度を測定したものであり、具体的には、JIS Z 8741−1997に基づき、村上色彩技術研究所製GM−26Dを用いて測定した。目視外観は、白斑が散見される程度で良好であり、光沢度[GS(20°)]は626.3であった。上記評価結果を、実施例2〜実施例5,比較例1〜比較例6の評価結果と併せて、後の表4に示す。
実施例2では、実施例1で用いた電気銅めっき液に換えて、基本浴に、ローム・アンド・ハース電子材料株式会社製カパーグリームCLX、A剤及びC剤を各5mL/L添加した電気銅めっき液を用いた以外は実施例1と同様にして、電気銅めっきFCCLを作成した。この実施例2の酸性脱脂処理における銅のエッチング除去厚さは0.3μmであった。
外観評価: 実施例1と同様にして、電気銅めっきFCCLの外観を、目視外観と光沢度[GS(20°)]とで評価した。目視外観は、白斑が散見される程度で良好であり、光沢度[GS(20°)]は399.2であった。上記評価結果を、実施例1、実施例3〜5、比較例1〜比較例6の結果と併せて、後の表4に示す。
実施例3では、ダイレクトプレーティング処理に実施例1で用いたブラックホール処理に換えて、クリムソン処理を社外に委託して施した以外は実施例1と同様にして、電気銅めっきFCCLを作成した。この実施例3の酸性脱脂処理における銅のエッチング除去厚さは0.3μmであった。
外観評価: 実施例1と同様にして、電気銅めっきFCCLの外観を、目視外観と光沢度[GS(20°)]とで評価した。目視外観は、白斑が散見される程度で良好であり、光沢度[GS(20°)]は610.6であった。上記評価結果を、実施例1、実施例2、実施例4、実施例5、比較例1〜比較例6の評価結果と併せて、後の表4に示す。
実施例4では、実施例3と同様にして酸性脱脂処理を施したFCCLに、実施例3で用いた電気銅めっき液に換えて、基本浴に、ローム・アンド・ハース電子材料株式会社製カパーグリームCLX、A剤及びC剤を各5mL/L添加した電気銅めっき液を用いた以外は実施例3と同様にして、電気銅めっきFCCLを作成した。この実施例4の酸性脱脂処理における銅のエッチング除去厚さは0.3μmであった。
外観評価: 実施例1と同様にして、電気銅めっきFCCLの外観を、目視外観と光沢度[GS(20°)]とで評価した。目視外観は、白斑が散見される程度で良好であり、光沢度[GS(20°)]は632.8であった。上記評価結果を、実施例1〜実施例3、実施例5、比較例1〜比較例6の評価結果と併せて、後の表4に示す。
実施例5では、酸性脱脂処理における銅のエッチング除去厚さを1.5μmに設定したほかは実施例3と同様の条件で電気銅めっきFCCLを作成し、目視外観と光沢度[GS(20°)]とで評価した。従って、表1に示す工程において、脱脂工程の処理時間のみ15分間に変更し、電気銅めっきFCCLを作成した。目視外観は、白斑が散見される程度で良好であり、光沢度[GS(20°)]は576.7であった。評価結果を、実施例1〜実施例4、比較例1〜比較例6の結果と併せて、後の表4に示す。
比較例
比較例では、ノニオン界面活性剤を含み油脂類を膨潤脱離させる酸性の従来脱脂剤と、塩素イオンを含み銅をエッチングして付着している油脂類を脱離させるマイクロエッチング剤とを調製し、表2の脱脂工程で用いた。
比較例1: 比較例1では、HSO:25mL/Lとポリオキシエチレンアルキルエーテル:1g/Lとを含む硫酸酸性の脱脂剤を、従来脱脂剤として調製した。この従来脱脂剤が含むClは0.01g/Lであった。該従来脱脂剤が含む成分を、実施例1〜実施例5で用いた酸性脱脂剤の浴組成及び比較例5と比較例6で用いたマイクロエッチング剤の浴組成と併せて、表1に示す。そして、表2の脱脂工程で、実施例1で用いた酸性脱脂剤に換えて従来脱脂剤を用いた以外は実施例1と同様にして、電気銅めっきFCCLを作成した。比較例1の脱脂処理における銅のエッチング除去厚さは0.005μmであった。
また、電気銅めっきFCCLの外観を、実施例1と同様にして、目視外観と光沢度[GS(20°)]とで評価した。目視外観では、白斑が多数観察され、光沢度[GS(20°)]は212.7であった。上記評価結果を、実施例1〜実施例5及び比較例2〜比較例6の評価結果と併せて、後の表4に示す。
比較例2: 比較例2では、表2の脱脂工程で、実施例2で用いた酸性脱脂剤に換えて従来脱脂剤を用いた以外は、実施例2と同様にして電気銅めっきFCCLを作成した。比較例2の脱脂処理における銅のエッチング除去厚さは0.005μmであった。
また、電気銅めっきFCCLの外観を、実施例1と同様にして、目視外観と光沢度[GS(20°)]とで評価した。目視外観では、白斑が多数観察され、光沢度[GS(20°)]は85.4であった。上記評価結果を、実施例1〜実施例5及び比較例1、比較例3〜比較例6の評価結果と併せて、後の表4に示す。
比較例3: 比較例3では、表2の脱脂工程で、実施例3で用いた酸性脱脂剤に換えて従来脱脂剤を用いた以外は、実施例3と同様にして電気銅めっきFCCLを作成した。比較例3の脱脂処理における銅のエッチング除去厚さは0.005μmであった。
また、電気銅めっきFCCLの外観を、実施例1と同様にして、目視外観と光沢度[GS(20°)]とで評価した。目視外観では、白斑が全面に観察され、光沢度[GS(20°)]は191.5であった。上記評価結果を、実施例1〜実施例5、比較例1、比較例2及び比較例4〜比較例6の評価結果と併せて、後の表4に示す。
比較例4: 比較例4では、表2の脱脂工程で、実施例4で用いた酸性脱脂剤に換えて従来脱脂剤を用いた以外は、実施例4と同様にして電気銅めっきFCCLを作成した。比較例4の脱脂処理における銅のエッチング除去厚さは0.005μmであった。
また、電気銅めっきFCCLの外観を、実施例1と同様にして、目視外観と光沢度[GS(20°)]とで評価した。目視外観では、白斑が多数観察され、光沢度[GS(20°)]は254.8であった。評価結果を、実施例1〜実施例5及び比較例1〜比較例3、比較例5及び比較例6の評価結果と併せて、後の表4に示す。
比較例5: 比較例5では、浴組成が、FeCl・2HO:1%(Clでは5.06g/L)、蟻酸:5%、エポミンSP−200:0.0002%のマイクロエッチング剤(特許文献1の実施例2に記載のマイクロエッチング剤)を調製した。該マイクロエッチング剤が含む成分を、実施例1〜実施例5で用いた酸性脱脂剤の浴組成及び比較例1〜比較例4で用いた従来脱脂剤の浴組成と併せて、表1に示す。そして、表2の脱脂工程で、実施例3で用いた酸性脱脂剤に換えてマイクロエッチング剤を用いた以外は実施例3と同様にして、電気銅めっきFCCLを作成した。この電気銅めっきFCCLの目視外観では、白斑が全面に観察され、光沢度[GS(20°)]は、42.6であった。評価結果を、実施例1〜実施例5及び比較例1〜比較例4及び比較例6の結果と併せて、後の表4に示す。
比較例6: 比較例6では、表2の脱脂工程で、脱脂工程における銅のエッチング除去厚さが1.5μmになるように、脱脂処理を15分間実施した以外は比較例5と同様にして電気銅めっきFCCLを作成した。この電気銅めっきFCCLの目視外観では、白斑が多数観察され、光沢度[GS(20°)]は、160.8であった。評価結果を、実施例1〜実施例5及び比較例1〜比較例5の結果と併せて、以下の表4に示す。
Figure 0005281788
実施例と比較例との対比: 対比に先立ち、外観を評価した各電気銅めっきFCCLは、それぞれ厚さ約10μmの光沢電気銅めっき皮膜を備えていることを確認しておく。しかし、上記のように、前処理で用いた脱脂剤の種類と銅のエッチング除去厚さの違いに起因する電気銅めっき後の表面状態の違いが、光沢度[GS(20°)]の違いと、目視外観の違いとして明確に現れている。
酸性脱脂剤と従来脱脂剤との対比: 酸性脱脂剤を用いた実施例1〜実施例4の光沢度[GS(20°)]は、平均値が545.4、標準偏差が103.6(変動係数20.0%)である。これに対し、従来脱脂剤を用いた比較例1〜比較例4の光沢度[GS(20°)]は平均値が186.1で標準偏差が62.4(変動係数33.5%)である。従って、共にハロゲンイオンを含んでいない酸性の脱脂剤であるにもかかわらず、本件発明に係る酸性脱脂剤を用いた場合には、従来脱脂剤を用いた場合よりも光沢が強く、且つ、バラツキも小さい表面状態の電気銅めっき皮膜が得られている。
また、目視外観においても、酸性脱脂剤で前処理した電気銅めっきFCCLには、散見される程度の白斑しか観察されていないのに対し、従来脱脂剤で前処理した電気銅めっきFCCLには、多数〜全面に亘る白斑が観察されている。従って、実施例と比較例との光沢度[GS(20°)]の違いには、白斑の有無も影響している。
ダイレクトプレーティング処理で形成した導体膜を備えるFCCLを脱脂処理する場合の銅のエッチング除去厚さは、前記実施例の酸性脱脂剤を用いた脱脂処理では0.3μmに設定している。脱脂処理で該酸性脱脂剤を用いれば、金属銅の表面にカチオン界面活性剤が吸着する。そのため、第二鉄イオンが金属銅表面を酸化してもむらが発生しにくく、結晶粒界と金属露出面とがほぼ一律に0.3μmエッチングされている。また、脱脂処理後に希硫酸を用いて酸活性処理を施した金属銅表面は、カチオン活性剤が吸着していても均一である。その結果、酸性脱脂剤を用いて脱脂処理を施したFCCLの表面に電気銅めっきを施した電気銅めっきFCCLは、良好な外観と光沢を備えている。
これに対し、従来脱脂剤を用いた場合には、酸性脱脂剤を用いた場合の液温と処理時間とを同一にして処理しているにもかかわらず、銅のエッチング除去厚さは0.005μmと非常に少ない。即ち、従来脱脂剤を用いた脱脂処理では、表面の酸化銅の溶解と結晶粒界でのエッチングが進行したものの、金属銅を溶解する能力が低いことに起因して銅のエッチング除去厚さが少なかったと考えられる。しかし、結晶粒界のみがエッチングされて表面が荒れたため、従来脱脂剤を用いて脱脂処理を施した面に光沢電気銅めっきを施しても、電気銅めっきFCCLの光沢度[GS(20°)]は、酸性脱脂剤を用いた場合の電気銅めっきFCCLの光沢度[GS(20°)]レベルには至っていない。
上記から、本件発明に係る酸性脱脂剤と従来脱脂剤との違いは、銅のエッチング除去量の違い、特に金属銅をエッチングする能力の違いにあると考えられる。このことから、電気銅めっきの前処理として実施する脱脂処理で用いる脱脂剤には、金属銅のエッチング能力が必須であると推測出来る。
酸性脱脂剤とマイクロエッチング剤との対比: 酸性脱脂剤を用いて銅のエッチング除去厚さを0.3μmと1.5μmとに違えて得られた電気銅めっきFCCLの光沢度[GS(20°)]を、実施例3と実施例5とで比較すると、実施例3の電気銅めっきFCCLの光沢度[GS(20°)]632.8に対し、実施例5の電気銅めっきFCCLの光沢度[GS(20°)]は576.7であり、9%程度低下している。これに対し、マイクロエッチング剤を用い、銅のエッチング除去厚さを0.3μmと1.5μmとに違えて得られた電気銅めっきFCCLの光沢度[GS(20°)]を、比較例5と比較例6とで比較すると、比較例5で得られた電気銅めっきFCCLの光沢度[GS(20°)]は42.6であり、ほぼ無光沢状態を示している。しかし、比較例6では、電気銅めっきFCCLの光沢度[GS(20°)]が160.8まで回復している。
上記現象から、比較例5の脱脂工程では、塩素イオンが吸着した結晶粒界での銅のエッチングが顕著に進行し、従来脱脂剤と比べても電気銅めっきFCCLの表面光沢が失われた表面形状になったと考えられる。しかし、比較例6の脱脂工程では、銅のエッチング除去厚さを5倍にしたため、結晶粒の脱落や金属銅の溶解等が進行して表面が均質化し、光沢電気銅めっきを施した後では、電気銅めっきFCCLの光沢度[GS(20°)]が上昇したと考えられる。しかし、この電気銅めっきFCCLの光沢度[GS(20°)]の絶対レベルは、比較例1〜比較例4と同レベル又はそれ以下であるため、電気銅めっきの前処理にマイクロエッチング剤を用いれば銅のエッチングは進行するが、電気銅めっきに好適な表面状態が得られるとは言い難い。
上記対比結果から明らかなように、本件発明に係る酸性脱脂剤は、銅又は銅合金表面を均一に、且つ、平滑に、ゆっくりエッチングする能力を備えている。従って、脱脂処理を施す際に銅又は銅合金表面のエッチング除去厚さが変動しても、表面形状には大きな影響を与えない。また、均質な表面状態を得るために、マイクロエッチング剤のように銅又は銅合金表面をμmオーダーでエッチングする必要も無い。即ち、本件発明に係る酸性脱脂剤を用いれば、銅又は銅合金表面の状態に対応して脱脂条件の設定を変更することが可能になり、たとえ長時間脱脂処理を施した銅又は銅合金表面に電気銅めっきを施しても、白むらや白斑等が発生しにくい。
本件発明に係る酸性脱脂剤は、硫酸第二鉄、カチオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤の各成分を含む銅又は銅合金表面への電気銅めっきの前処理に用いる酸性脱脂剤であり、ハロゲンなどの成分を含んでいない。この該酸性脱脂剤を、銅又は銅合金表面に電気銅めっきを施す際の脱脂処理に用いれば、光沢むらや色むらの無い良好な電気銅めっき皮膜が得られる。そして、ダイレクトプレーティング処理で形成した導体膜を備える銅又は銅合金表面にも白むらや白斑等の発生が無い電気銅めっきを施すことが出来る。従って、圧延銅箔を用いたフレキシブルプリント配線板などにおいて、スルーホールなどの導通を得るためにダイレクトプレーティング処理を採用した場合であっても、その後に施す電気銅めっきに白むらや白斑等が発生せず、高品質のフレキシブルプリント配線板を得ることが出来る。また、同様の外観要求がある装飾めっきの分野にも適用可能である。

Claims (7)

  1. 銅又は銅合金表面への電気銅めっきの前処理に用いる酸性脱脂剤であって、
    硫酸第二鉄、カチオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤の各成分を含むことを特徴とする酸性脱脂剤。
  2. 前記酸性脱脂剤が含むハロゲンイオンは、その濃度が0.1g/L以下である請求項1に記載の酸性脱脂剤。
  3. 前記酸性脱脂剤が含む硫酸第二鉄は、その濃度が2g/L〜500g/Lである請求項1又は請求項2に記載の酸性脱脂剤。
  4. 前記酸性脱脂剤が含むカチオン界面活性剤は、その濃度が0.01g/L〜10g/Lである請求項1〜請求項3のいずれかに記載の酸性脱脂剤。
  5. 前記酸性脱脂剤が含むノニオン界面活性剤は、その濃度が0.05g/L〜50g/Lである請求項1〜請求項4のいずれかに記載の酸性脱脂剤。
  6. 請求項1〜請求項5のいずれかに記載の酸性脱脂剤を用いる銅又は銅合金表面への電気銅めっき方法であって、
    以下の工程A〜工程Cを含むことを特徴とする銅又は銅合金表面への電気銅めっき方法。
    工程A: 銅又は銅合金の表面を該酸性脱脂剤と接触させて処理する酸性脱脂工程。
    工程B: 工程Aで得られた銅又は銅合金表面を活性化する活性化工程。
    工程C: 工程Bで得られた銅又は銅合金の表面に電解法で銅めっきを施す電気銅めっき工程。
  7. 前記工程Aは、前記酸性脱脂剤の液温を20℃〜75℃とし、これと前記銅又は銅合金の表面とを1分間以上接触させ、該銅又は銅合金の表面の0.01μm以上の厚さ分をエッチング除去する酸性脱脂工程である請求項6に記載の銅又は銅合金表面への電気銅めっき方法。
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