本出願人は、特願2008−256694号にて、成形型として、その上面の平面にて成形空間に通じる開口(スラリーを投入するための穴)が形成された形式のものを使用して、ゲルキャスト法によりセラミック成形体を製造することを既に提案している。以下、この場合であって、特に、薄板状のセラミック成形体が製造される場合について考察する。
この場合、スラリーが、上向きに露呈している開口を通して成形型の成形空間に投入される。その後、開口が上向きに露呈した状態で、成形空間に充填されているスラリーが硬化・乾燥工程に供される。この硬化・乾燥工程では、開口が上向きに露呈していることに起因して、スラリーの分散媒成分の揮発が発生し易い。従って、スラリーの硬化とスラリーの乾燥とのそれぞれが、特段の時間的な順序が設けられることなく、それぞれの自然の(成り行きの)進行速度で同時に進行していく。
このため、スラリーの硬化の進行度合いとスラリーの乾燥の進行度合いとが成形空間内の位置によって変化し得る。ここで、スラリーの硬化によってもスラリーの乾燥によってもセラミック成形体は収縮し得る。一般に、スラリーの乾燥による収縮度合いがスラリーの硬化による収縮度合いよりも大きい。以上より、上述のように、開口が上向きに露呈した状態でスラリーが硬化・乾燥工程に供される場合、薄板状のセラミック成形体の収縮度合いがセラミック成形体の位置によって異なり得る。この結果、薄板状のセラミック成形体の厚さ方向の収縮量がセラミック成形体の位置によって異なり得る。即ち、薄板状のセラミック成形体の厚さのバラツキが比較的大きくなり易い。
また、スラリーが成形空間に充填された状態でスラリーの乾燥が進行する。従って、薄板状のセラミック成形体の上面からの分散媒成分の揮発の進行速度が下面からの分散媒成分の揮発の進行速度よりも大きくなる。換言すれば、薄板状のセラミック成形体の上面側及び下面側間で乾燥の進行度合いに差が生じ得る。この結果、薄板状のセラミック成形体の反り(うねり)が比較的大きくなり易い。
以上より、開口が上向きに露呈した状態でスラリーが硬化・乾燥工程に供される場合、薄板状のセラミック成形体に対して、厚さのバラツキ、及び反り(うねり)が比較的大きくなり易い。即ち、薄板状のセラミック成形体の平面度を良好にする観点において、若干の改善の余地があった。
従って、本発明の目的は、成形型としてその上面の平面にて成形空間に通じる開口が形成された形式のものを使用したゲルキャスト法による薄板状のセラミック成形体の製造方法において、平面度が良好なセラミック成形体を得ることができるものを提供することにある。
上記目的を達成するための本発明による薄板状のセラミック成形体(焼成前)の製造方法は、前記セラミックスラリーを、前記成形型の前記開口を通して前記成形型の前記成形空間に投入する投入工程と、下面に平面を有する蓋部材を前記成形型の上に載せることで、前記成形型の前記開口を前記蓋部材で塞ぐ閉塞工程と、前記成形型の前記開口が前記蓋部材で塞がれた状態で、前記成形空間に充填されているセラミックスラリーをゲル化反応により硬化することで、薄板状の乾燥前成形体を得る硬化工程と、前記蓋部材を前記成形型から取り除く蓋除去工程と、前記成形型の前記開口が露呈し且つ前記乾燥前成形体が前記成形空間に収容された状態で、或いは、更に前記乾燥前成形体から前記成形型が取り除かれた状態で、前記乾燥前成形体を乾燥することで、前記セラミック成形体を得る乾燥工程と、を含んでいる。
ここにおいて、製造される薄板状のセラミック成形体では、少なくとも上面が単一の平面から構成される。即ち、上下面ともに単一の平面から構成されていてもよいし、上面のみが単一の平面から構成され、下面には、単一の平面上の1か所或いは2か所以上に凹部(溝、窪み等)が形成されていてもよい。
また、前記スラリーとして、ゲル化反応としてのウレタン反応が発生する成分(例えば、イソシアネート及びポリオール等)を含んだものが使用されることが好ましい。この場合、前記スラリーは、セラミック粉体と、イソシアネートと、ポリオールと、溶媒と、(ウレタン反応により生成されたバインダとしてのウレタン樹脂と)を含む、と記載することもできる。
上記構成によれば、投入工程において、成形型の開口から投入されたスラリーの一部がその開口から溢れて成形型の上面(平面)から上方に盛り上がるまで、スラリーの投入が継続され得る。次いで、閉塞工程において、蓋部材が成形型の上に載せられることで、開口が蓋部材で塞がれる。このとき、蓋部材には上方から下向きの外力が加えられてもよい。
スラリーのうちで成形型の上面から上方に盛り上がっていた部分は、蓋部材の自重、或いはこれに加えて蓋部材に上方から加えられる下向きの外力により、蓋部材の下面(平面)で下向きに押し潰される。この押し潰しは、蓋部材の下面(平面)の高さ方向(上下方向)の位置が、成形型の開口面(成形型の上面)の高さ方向の位置と略一致するまで継続される。これにより、スラリーのうちで成形型の上面から上方に盛り上がっていた部分は成形空間内に充填されるか、或いは、成形型の上面と蓋部材の下面との間の隙間を介して外部に除去される。そして、成形空間に充填されているスラリーの上面は、蓋部材の下面(平面)との接触により平坦化される。
なお、投入工程後且つ閉塞工程前において、後述するスキージング工程が挿入され得る。この場合、スラリーのうちで成形型の上面から上方に盛り上がっていた部分はスキージング工程により除去され得るとともに、成形空間に充填されているスラリーの上面は、スキージング工程により平坦化される。
次の硬化工程は、上記のように成形型の開口が塞がれた状態でなされる。この工程では、「スラリーの硬化」(ゲル化反応によるスラリーの硬化)が進行していく。他方、成形型の開口が塞がれていることに起因して、スラリーの分散媒成分の揮発が発生し難い。従って、この工程では、「スラリーの乾燥」(分散媒成分の揮発除去によるスラリーの乾燥)は殆ど進行し得ず、スラリーの硬化が主として進行していく。
この硬化工程でのスラリーの硬化により、成形型の開口から露呈している部分を上面(平面)とする薄板状の成形体(乾燥前成形体)が得られる。この硬化工程は、乾燥前成形体がハンドリングされ得る程度(乾燥前成形体を手、治具等を使用して掴んだり取り上げたりした場合に乾燥前成形体が容易に破損しない程度)に硬化するまで継続され得る。
この硬化工程は、常温で行われても、加熱により常温より高い温度で行われてもよいが、常温で行われることが好適である。これにより、スラリーの硬化(従って、スラリーの硬化による収縮)が過度に急速に進行することが抑制され得、硬化工程中にて乾燥前成形体にクラックが形成されることが抑制され得る。
硬化工程が終了すると、蓋除去工程にて、蓋部材が成形型から取り除かれる。次の乾燥工程は、前記成形型の前記開口が上向きに露呈し且つ前記乾燥前成形体が前記成形空間に収容された状態で、或いは、更に前記乾燥前成形体から前記成形型が取り除かれた状態で、なされる。従って、乾燥工程では、スラリーの分散媒成分の揮発が発生し易い。一方、スラリーの硬化は既に十分に進行していて、新たには殆ど進行しない。この結果、この工程では、スラリーの乾燥が主として進行していく。
この乾燥工程により、乾燥前成形体が十分に乾燥されることで、薄板状のセラミック成形体が得られる。この乾燥工程は、常温で行われても、加熱により常温より高い温度で行われてもよいが、加熱により常温より高い温度で行われることが好適である。これにより、乾燥工程に要する時間を短縮することができる。
以上のように、本発明に係る方法では、成形型の開口が塞がれた状態で硬化工程がなされることで、スラリーの乾燥の進行が強制的に遅らされる。即ち、先ず、硬化工程にてスラリーの硬化が主として進行し、その後に乾燥工程にてスラリーの乾燥が主として進行する、という時間的な順序が与えられる。このような時間的な順序が与えられることで、上述のように「スラリーの硬化とスラリーの乾燥とのそれぞれが特段の時間的な順序が設けられることなくそれぞれの自然の進行速度で同時に進行していく場合」に比して、特に、薄板状のセラミック成形体の厚さのバラツキが小さくなることが判明した。この結果、セラミック成形体の平面度が向上する(高くなる)ことが判明した。
これは、以下の理由に基づくと推測される。即ち、硬化工程では、スラリーの乾燥が殆ど進行しない。従って、スラリーの硬化が成形空間内において全体的に安定して同程度に進行し得る。その後の乾燥工程では、スラリーの硬化が殆ど進行しない。従って、スラリーの乾燥が成形空間内において全体的に安定して同程度に進行し得る。この結果、スラリーの硬化による収縮度合いもスラリーの乾燥による収縮度合いもセラミック成形体の位置によって異なり難い。以上より、薄板状のセラミック成形体の厚さのバラツキが小さくなる。
上記本発明の係るセラミック成形体の製造方法において、前記乾燥工程では、前記成形型が取り除かれた前記乾燥前成形体を2枚の多孔質のフィルタで挟み込むことで前記乾燥前成形体の上下面がそれぞれの前記多孔質フィルタで覆われた状態で、前記乾燥前成形体が乾燥されるように構成されることが好適である。
これによれば、上述のように「スラリーが成形空間に充填された状態でスラリーの乾燥が進行する場合」に比して、特に、薄板状のセラミック成形体の反り(うねり)が小さくなることで、セラミック成形体の平面度が向上する(高くなる)ことが判明した。
これは、以下の理由に基づくと推測される。薄板状の乾燥前成形体が2枚のフィルタで挟み込まれた状態で、乾燥前成形体が、その下面がテーブルの上面に向かい合うように(より具体的には、乾燥前成形体の下面側のフィルタの下面がテーブルの上面に接触するように)テーブル上に載置されて乾燥工程がなされる場合を想定する。この場合であっても、乾燥前成形体の上面に加えて下面からもフィルタ内の多数の気孔を介して分散媒成分が十分に揮発し得る。即ち、薄板状のセラミック成形体の上面側及び下面側間で乾燥の進行度合いに差が生じ難い。
加えて、高温炉内で乾燥工程がなされる場合では、炉内の熱がフィルタを介して乾燥前成形体に伝達される。従って、高温炉内の位置によって温度に相違(温度分布)があっても、その温度分布が緩和されて乾燥前成形体に伝達される。即ち、乾燥前成形体の表面の位置によって温度に相違(温度分布)が発生し難い。このことにより、薄板状のセラミック成形体の部位間で乾燥の進行度合いに差が生じ難い。以上より、薄板状のセラミック成形体の反り(うねり)が小さくなる。
また、本発明の係るセラミック成形体の製造方法において、前記投入工程では、前記セラミックスラリーが、その一部が前記成形型の前記開口から溢れて前記成形型の前記上面から上方に盛り上がるように、前記成形空間に投入され、前記投入工程後且つ前記閉塞工程前において、スキージを前記成形型の前記上面の平面に沿うように移動させることで、前記セラミックスラリーのうちで前記上面の平面から上方に盛り上がっている部分を除去するスキージング工程を含むように構成されることが好適である。
スラリーの一部が成形型の上面(開口)から上方に盛り上がるようにスラリーが投入された場合において、前記スキージング工程を経ないで成形型の開口が蓋部材で塞がされる場合、成形型の上面から上方に盛り上がっているスラリーの上面が平坦化されていない状態(即ち、スラリーの上面に大きい凹凸が存在し得る状態)で、スラリーが蓋部材の下面で下向きに押し潰されることになる。この場合、押し潰されるスラリーの上面と蓋部材の下面との間に気泡が混入(或いは、隙が形成)し易くなる。即ち、成形型の開口が蓋部材で塞がれた状態で、成形空間に充填されているスラリーの上面において気泡が混入(或いは、隙が形成)している部分には、気泡の存在領域(或いは、隙の形成領域)に対応する凹部がなおも残存し得る。換言すれば、蓋部材の下面(平面)により押し潰された後であっても充填されているスラリーの上面の平坦化が十分には達成され得ない。このことは、製造される薄板状のセラミック成形体の厚さバラツキの増大に繋がる。
加えて、この場合、成形型の上面から上方に盛り上がる量が位置によって異なる状態で、スラリーが蓋部材の下面で下向きに押し潰されることになる。従って、蓋部材の下面でスラリーが下向きに押し潰される量が位置によって異なる。この結果、成形型の開口が蓋部材で塞がれた状態で、成形空間に充填されているスラリーの密度が位置によって異なる。スラリーの密度が位置によって異なることは、スラリーの硬化・乾燥による収縮量も位置によって異なることを意味する。このことによっても、製造される薄板状のセラミック成形体の厚さバラツキの増大に繋がる。
これに対し、上記構成のように、投入工程後且つ閉塞工程前においてスキージング工程が挿入される場合、スキージング工程が挿入されない場合に比して、薄板状のセラミック成形体の厚さバラツキが小さくなることが判明した。これは、成形空間に充填されているスラリーの上面が平坦化された状態で成形型の開口が蓋部材で塞がれることに起因して、上述したような気泡の混入(或いは、隙の形成)、及びスラリーの密度のバラツキが発生し難いことに基づくものと推測される。
また、本発明の係るセラミック成形体の製造方法において、前記閉塞工程では、前記蓋部材が、前記成形型の前記開口に嵌合可能な外形状を有していて、前記蓋部材が前記開口に嵌合し得るように前記成形型の上に載せられ、前記開口が前記蓋部材で塞がれた状態において、前記蓋部材の前記下面の平面が前記蓋部材の自重に基づく力により、前記成形空間に充填されているセラミックスラリーにおける前記開口から上向きに露呈している部分を下向きに常時押圧するように構成されることが好適である。
これによれば、スラリーの硬化によりスラリーが収縮すること(従って、乾燥前成形体の厚さが減少すること)に伴い、蓋部材が開口に嵌合するとともに、蓋部材の下面(平面)と乾燥前成形体の上面との接触が確保されながら蓋部材が乾燥前成形体の厚さの減少分だけ下降していく。従って、硬化工程の終了後においても、乾燥前成形体の上面と蓋部材の下面(平面)との接触が確実に確保され得る。この結果、乾燥前成形体(従って、セラミック成形体)の上面の平坦化がより確実に達成され得、セラミック成形体の厚さバラツキがより小さくなる。
以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態に係るセラミック成形体(焼成前)の製造方法について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係るゲルキャスト法を利用したセラミック成形体の製造方法により製造されたセラミック成形体10の斜視図である。このセラミック成形体10は、薄い円板状を呈している。このセラミック成形体10を焼成して得られる焼成体は、種々の用途に広く利用され得る。
以下、本発明の実施形態に係るセラミック成形体10の製造方法について、図2〜図18を参照しながら説明する。先ず、この製造方法に使用される成形型20について図2〜図4を参照しながら説明する。図2は、成形型20、及びスキージ30の概略斜視図であり、図3は、成形型20の平面図(上面図)であり、図4は、図3の4−4線に沿って成形型20を切断した成形型20の縦断面図である。図2〜図4に示すように、この成形型20を利用すれば、1個のセラミック成形体10を形成することができる。なお、複数の同形のセラミック成形体10が同時に形成され得る成形型が使用されてもよい。
成形型20は、金属、セラミックス、樹脂、セッコウの何れかの材質からなり、直方体状を呈している。成形型20の上部には、成形面21で画定される成形空間Q(スラリーを充填して成形するための空間、所望のセラミック成形体と同形の薄い円板状の空間)が形成されている。
即ち、成形型20の上面(X−Z平面に平行な平面)には、成形空間Qに通じる円形の開口Pinが形成されている。成形空間Qの上面は、開口Pinと一致している。後述のように作成されるセラミックスラリーは、開口Pinから成形型20の成形空間Qに投入・充填されるようになっている。
スキージ30は、ゴム製、或いは金属製であり、平面形状が長方形、或いは正方形の板状(平板状)を呈している。スキージ30は、図示しない駆動機構により、成形型20の上面に沿うように、所定の速度(一定でも可変でもよい)をもってZ軸方向に移動可能となっている(矢印を参照)。以下、このようにスキージ30を成形型20の上面に沿うように移動させることを「スキージング」とも称呼する。
次に、セラミック成形体10の具体的な製造方法について説明する。
(塗布工程)
先ず、成形型20の成形面21(即ち、セラミックスラリーが接触する面)に、離型剤として、フッ素樹脂を有機溶剤で分散させたものを塗布する。塗布後、有機溶剤は直ちに揮発し、この結果、成形面21にはフッ素樹脂が固着される。これにより、その後におけるセラミック成形体の離型性を安定して高めることができる。離型剤の塗布は、スプレー法、ディッピング法等を用いて行う。
(調製工程)
次に、セラミック粉体、分散媒、ポリオール、分散剤、ゲル化剤、及び触媒を含むセラミックスラリーの調製を行う。本例では、セラミック粉体(アルミナ粉末)として、アルミナ100重量部、分散媒として、多塩基酸エステル29重量部、ポリオールとして、ポリビニルブチラール0.8重量部、分散剤として、ポリカルボン共重合体3重量部、ゲル化剤として、ジフェニルメタンジイソシアネート4.2重量部、触媒として、アミン系触媒0.2重量部、を混合したものをセラミックスラリーとして使用した。
ジフェニルメタンジイソシアネート及びポリビニルブチラール(即ち、ポリオール)は、ウレタン反応により後にウレタン樹脂(ポリウレタン)となり、後に有機バインダとして機能する。上述のように、ウレタン樹脂分子間では、架橋により、強固なネットワークが形成され得る。
また、このように有機バインダとしてウレタン樹脂が使用される場合、セラミックスラリーの調製のために混合される物質を、セラミック粉体と、イソシアネートと、ポリオールと、溶媒と、分散剤と、触媒とに分類することができる。この場合、セラミック粉体として使用されるセラミック材料としては、酸化物系セラミックが使用されてもよいし、非酸化物系セラミックが使用されてもよい。又、誘電体材料、磁性体材料であってもよい。例えば、アルミナ(Al2O3)、ジルコニア(ZrO2)、チタン酸バリウム(BaTiO3)、酸化ニッケル(NiO)、酸化セリウム(CeO2)、酸化ガドリニウム(Gd2O3)、チッ化ケイ素(Si3N4)、炭化ケイ素(SiC)、チッ化アルミニウム(AlN)、ガラスパウダー等が使用され得る。これらの材料は、1種類単独で、或いは2種以上を組み合わせて使用され得る。また、スラリーを調整・作製可能な限りにおいて、セラミック材料の粒子径は特に限定されない。
イソシアネートとしては、イソシアネート基を官能基として有する物質であれば特に限定されないが、例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、或いは、これらの変性体等が使用され得る。なお、分子内おいて、イソシアネート基以外の反応性官能基が含有されていてもよく、更には、ポリイソシアネートのように、反応性官能基が多数含有されていてもよい。
ポリオールとしては、イソシアネート基と反応し得る官能基、例えば、水酸基、アミノ基等を有する物質であれば特に限定されないが、例えば、エチレングリコール(EG)、ポリエチレングリコール(PEG)、プロピレングリコール(PG)、ポリプロピレングリコール(PPG)、ポリテトラメチレングリコール(PTMG)、ポリヘキサメチレングリコール(PHMG)、ポリビニルブチラール(PVB)等が使用され得る。
溶媒としては、分散剤、イソシアネート、ポリオール、及び触媒を溶解するものであれば、特に限定されない。例えば、多塩基酸エステル(例えば、グルタル酸ジメチル等)、多価アルコールの酸エステル(例えば、トリアセチン等)等の、2以上のエステル結合を有する溶剤を使用することが望ましい。
分散剤としては、例えば、ポリカルボン酸系共重合体、ポリカルボン酸塩等を使用することが望ましい。この分散剤を添加することで、成形前のスラリーを、低粘度とし、且つ高い流動性を有するものとすることができる。
触媒としては、ウレタン反応を促進させる物質であれば特に限定されないが、例えば、トリエチレンジアミン、ヘキサンジアミン、6−ジメチルアミノ−1−ヘキサノール等が使用され得る。
(投入工程)
次に、セラミックスラリーを成形型20へ投入する。この投入は、上記セラミックスラリーの調製後、直ちに開始される。上述したように、セラミックスラリーは、開口Pinから投入される。投入されたセラミックスラリーは、重力の作用により下方に落下しながら成形空間Q内に進入していく。
図5に示すように、このセラミックスラリーの投入は、セラミックスラリーの一部が開口Pinから溢れて成形型20の上面から上方に盛り上がった時点で完了する。なお、本例で使用されるセラミックスラリーの粘度は比較的大きい。従って、セラミックスラリーの投入が完了した状態では、成形空間Q内の下方部分においてセラミックスラリーが進入しない(行き渡らない)領域が発生し得る。
(スキージング工程)
次に、図6、及び図7に示すように、スキージ30を用いて上述したスキージングを行う。このスキージングにより、セラミックスラリーのうちで成形型20の上面(開口Pin)から上方に盛り上がっている部分が除去されるとともに、成形空間Qに充填されているスラリーの上面が平坦化される。スキージングでは、セラミックスラリーのうちで成形型の(開口Pinの下方であって)開口Pin近傍に存在している部分(スキージ30により除去されなかった部分)に対して下向きの力(「スキージングによる下方力」)が加わる。
この「スキージングによる下方力」は、成形空間Q内においてセラミックスラリーを隅々まで行き渡らせる力として作用し得る。この結果、上述したように成形空間Q内の下方部分においてセラミックスラリーが進入しない(行き渡らない)領域が仮に発生していたとしても、この領域は、「スキージングによる下方力」の作用により消滅し得る。即ち、セラミックスラリーが成形空間Q内に確実に充填され得る。
ここで、スキージングの適切な条件について付言する。図8、及び図9に示すように、スキージ30の先端(下端)と成形型20の上面との間の上下方向における隙間をhとすると、隙間hが50μm〜500μmの範囲内の値に調整された状態(隙間h一定)でスキージングが行われると、セラミックスラリーが成形空間Q内により安定して確実に充填され得、且つセラミック成形体において開口Pinに対応する面(即ち、セラミック成形体の上面)の平坦性が良好なものが得られることが判明した。これは、隙間hがこの範囲内にあることで、十分に大きい「スキージングによる下方力」が安定して作用することに起因すると考えられる。
また、図8に示すように、スキージ30の平面がスキージ30の移動方向(Z軸方向)に対して垂直になる状態からスキージ30が移動方向における前側(Z軸負方向側)に20°〜70°の或る角度θだけ傾いた状態(角度θ一定)で、スキージングが行われると、セラミックスラリーを成形空間Q内に確実に充填させることができる。
図9に示すように、スキージ30の平面がスキージ30の移動方向(Z軸方向)に対して垂直になる状態からスキージ30が移動方向における後側(Z軸正方向側)に20°〜70°の或る角度θだけ傾いた状態(角度θ一定)で、スキージングが行われた場合、セラミック成形体において開口Pinに対応する面(即ち、セラミック成形体の上面)の平坦性を良好にすることができる。これらのことも、角度θがこれらの範囲内にあることで、十分に大きい「スキージングによる下方力」が安定して作用することに起因すると考えられる。
図10は、スキージングが完了した状態を示す。この状態では、セラミックスラリーのうちで成形型20の上面から上方に盛り上がっている部分が除去されているとともに、「スキージングによる下方力」の作用により、セラミックスラリーが成形空間Q内に確実に充填されている。そして、成形空間Qに充填されているスラリーの上面(開口Pinから露呈している面)が平坦化されている。
(閉塞工程)
次に、図11〜図13に示すように、平板状のガラス板40を成形型20の上面(平面)に載せる。これにより、成形型20の開口Pinがガラス板40で塞がれる。即ち、この工程では、成形空間Qが密閉される。この例では、ガラス板40のY軸方向からみたときの形状が、成形型20のY軸方向からみたときの形状と一致しているが、開口Pinの全域を塞ぐことができる形状である限りにおいていかなる形状であってもよい。
(硬化工程)
次に、成形空間Q内に充填されたセラミックスラリーを硬化する。この工程は、上述のように、成形型20の開口Pinがガラス板40で塞がれた状態(成形空間Qが密閉された状態)で進行する。
通常、セラミックスラリーが成形空間Q内に充填された後、ウレタン反応(ゲル化反応)によるスラリーの硬化(以下、単に「スラリーの硬化」と呼ぶ。)と、分散媒成分の揮発除去によるスラリーの乾燥(以下、単に「スラリーの乾燥」と呼ぶ。)とが同時に進行し得る。しかしながら、この工程では、成形空間Qが密閉されていることに起因して、セラミックスラリーの分散媒成分の揮発が発生し難い。従って、この工程では、「スラリーの乾燥」は殆ど進行し得ず、「スラリーの硬化」が主として進行していく。「スラリーの硬化」は、ウレタン反応により、上述のように、ウレタン樹脂分子間において、架橋により強固なネットワークが形成されることにより進行していく。
この「スラリーの硬化」の進行により、乾燥前の成形体(以下、「乾燥前成形体F」と呼ぶ。)が得られる(図13を参照)。この工程は、乾燥前成形体Fがハンドリングされ得る程度(乾燥前成形体Fを手、治具等を使用して掴んだり取り上げたりした場合に乾燥前成形体Fが容易に破損しない程度)に硬化するまで継続される。
この工程は、成形型20を室温雰囲気で所定時間放置することで行われてもよいし、成形型20を加熱により室温雰囲気よりも高い所定温度に所定時間維持することで行われてもよいし、これらを組み合わせて行われてもよい。例えば、この工程は、成形型20を室温雰囲気で24時間放置することで行われる。この工程が室温雰囲気で行われることにより、「スラリーの硬化」(従って、「スラリーの硬化」による収縮)が過度に急速に進行することが抑制され得、この工程中にて乾燥前成形体Fにクラックが形成されることが抑制され得る。
(蓋除去工程)
次に、図14に示すように、成形型20からガラス板40を除去する。これにより、成形型20の開口Pinが再び露呈する。この結果、成形空間Qが密閉状態から解放されて、セラミックスラリー(乾燥前成形体F)からの分散媒成分の揮発が発生し易くなる(即ち、「スラリーの乾燥」が進行し易くなる)。
(離型工程)
次に、乾燥前成形体Fから成形型20を取り除く。図15に示すように、この工程では、乾燥前成形体Fが付着・残存する成形型20が上下反転させられる。これにより、乾燥前成形体Fは、重力の作用により成形型20から離れる。乾燥前成形体Fが成形型20から離れ難い場合は、成形型20に若干の振動を与えると好ましい。これにより、成形型20が乾燥前成形体Fから除去されて、乾燥前成形体Fを取り出すことができる。
(乾燥工程)
次に、セラミックスラリー(乾燥前成形体F)を乾燥する。この工程は、図16、図17に示すように、成形型20が除去された乾燥前成形体Fを2枚の多孔質のフィルタ50で挟み込むことで乾燥前成形体Fの上下面の全域がそれぞれの多孔質フィルタ50で覆われた状態で行われる。多孔質フィルタ50としては、例えば、気孔率が48±8%であり、平均気孔径が25±10μmである、セラミックからなるフィルタが使用され得る。この例では、多孔質フィルタ50のY軸方向からみたときの形状が、成形型20のY軸方向からみたときの形状と一致しているが、乾燥前成形体Fの上下面の全域を覆うことができる形状である限りにおいていかなる形状であってもよい。
この工程は、2枚の多孔質フィルタ50で挟まれた乾燥前成形体Fが、その下面がテーブルの上面に向かい合うように(即ち、乾燥前成形体Fの下面側のフィルタ50の下面がテーブルの上面に接触するように)テーブル上に載置された状態で行われ得る。この状態では、乾燥前成形体Fの上面と乾燥前成形体Fの上側のフィルタ50の下面との接触面には乾燥前成形体Fの上側のフィルタ50の自重に基づく力が作用し、乾燥前成形体Fの下面と乾燥前成形体Fの下側のフィルタ50の上面との接触面には乾燥前成形体Fの自重、及び乾燥前成形体Fの上側のフィルタ50の自重に基づく力が作用する。
この工程では、乾燥前成形体Fの周囲が密閉されていないことに起因して、セラミックスラリーの分散媒成分の揮発が発生し易い。一方、セラミックスラリーの硬化は既に十分に進行していて、新たには殆ど進行しない。この結果、この工程では、「スラリーの硬化」は殆ど進行し得ず、「スラリーの乾燥」が主として進行していく。
この「スラリーの乾燥」が十分に進行することで、セラミック成形体10が2枚の多孔質フィルタ50で挟まれた状態で得られる。図18に示すように、2枚の多孔質フィルタ50がこのセラミック成形体10から除去されて、セラミック成形体10を取り出すことができる。
この工程は、2枚の多孔質フィルタ50で挟まれた乾燥前成形体Fを室温雰囲気で所定時間放置することで行われてもよいし、この乾燥前成形体Fを加熱により室温雰囲気よりも高い所定温度に所定時間維持することで行われてもよいし、これらを組み合わせて行われてもよい。例えば、この工程は、2枚の多孔質フィルタ50で挟まれた乾燥前成形体Fを90℃に調整された高温炉内に50時間収容することで行われる。この工程が室温雰囲気よりも高い温度で行われることにより、室温雰囲気で行われる場合に比して、この工程に要する時間を短くすることができる。
(作用・効果)
以下、上述した本発明の実施形態に係るセラミック成形体の製造方法の作用・効果について説明する。本実施形態に係るセラミック成形体の製造方法では、「硬化工程がガラス板40にて開口Pinが塞がれた状態で行われること」(項目A)、「乾燥工程が2枚の多孔質フィルタ50で乾燥前成形体Fが挟まれた状態で行われること」(項目B)、並びに、「投入工程と閉塞工程との間にスキージング工程が挿入されること」(項目C)、のそれぞれの作用により、平面度が良好なセラミック成形体を得ることができる。以下、項目A〜Cのそれぞれの作用・効果を確認するために行われた実験について説明する。
表1に示すように、この実験では、比較例に係る製造方法、及び実施例1〜3に係る製造方法が導入された。以下、比較例、及び実施例1〜3について順に説明する。
<比較例>
比較例に係る製造方法では、項目A〜Cの何れも実行されない状態でセラミック成形体が得られる。具体的には、投入工程後、スキージング工程に代えて押し潰し工程が行われる。押し潰し工程では、図19、図20に示すように、スラリーの一部が成形型20の上面(平面)から上方に盛り上がるようにセラミックスラリーが投入されている成形型20の上に、平板状の板部材Bが載せられる。このとき、板部材Bには上方から下向きの外力が加えられてもよい。板部材Bとして、上述したガラス板40が使用されてもよい。
スラリーのうちで成形型20の上面から上方に盛り上がっていた部分は、板部材Bの自重、或いはこれに加えて板部材Bに上方から加えられる下向きの外力により、板部材Bの下面(平面)で下向きに押し潰される。この押し潰しは、板部材Bの下面(平面)の高さ方向(上下方向)の位置が、成形型20の開口面(成形型の上面)の高さ方向の位置と略一致するまで継続される。そして、図21に示すように、板部材Bが成形型20から除去される。
この押し潰し工程により、セラミックスラリーのうちで成形型20の上面から上方に盛り上がっていた部分は成形空間Q内に充填されるか、或いは、成形型20の上面と板部材Bの下面との間の隙間を介して外部に除去される。そして、成形空間Qに充填されているセラミックスラリーの上面は、板部材Bの下面(平面)との接触により平坦化される。
この押し潰し工程後、図21に示すように、成形型20の開口Pinが露呈し且つセラミックスラリーが成形空間Qに充填された状態で、硬化工程と乾燥工程とが同時に進行する。以下、この工程を「硬化・乾燥工程」と呼ぶ。硬化・乾燥工程では、開口Pinが上向きに露呈していることに起因して、セラミックスラリーの分散媒成分の揮発が発生し易い。従って、「スラリーの硬化」と「スラリーの乾燥」とのそれぞれが、特段の時間的な順序が設けられることなく、それぞれの自然の(成り行きの)進行速度で同時に進行していく。これにより、セラミックスラリーが硬化・乾燥してセラミック成形体が得られる。
以上、比較例に係る製造方法では、投入工程後、押し潰し工程が行われるとともに、押し潰し工程後、成形型20の開口Pinが露呈し且つセラミックスラリーが成形空間Qに充填された状態で硬化・乾燥工程が行われる。
<実施例1>
実施例1に係る製造方法では、項目A〜Cのうち項目Aのみが実行された状態でセラミック成形体が得られる。実施例1では、硬化・乾燥工程が行われる比較例に対して、「ガラス板40で開口Pinが塞がれた状態で硬化工程が行われるとともに、その後、開口Pinが露呈した状態で乾燥工程が行われる」点が異なる。
即ち、実施例1に係る製造方法では、投入工程後、押し潰し工程が行われ、その後、閉塞工程を経て硬化工程が行われる。そして、蓋除去工程が行われた後、離型工程を経ることなく乾燥工程が行われる。即ち、乾燥工程は、成形型20の開口Pinが露呈し且つ乾燥前成形体Fが成形空間Qに収容された状態で行われる。
<実施例2>
実施例2に係る製造方法では、項目A〜Cのうち項目A,Bが実行された状態でセラミック成形体が得られる。実施例2では、成形型20の開口Pinが露呈し且つ乾燥前成形体が成形空間Qに収容された状態で乾燥工程が行われる実施例1に対して、「乾燥工程が2枚の多孔質フィルタ50で乾燥前成形体Fが挟まれた状態で行われる」点が異なる。
即ち、実施例2に係る製造方法では、投入工程後、押し潰し工程が行われ、その後、閉塞工程を経て硬化工程が行われる。そして、蓋除去工程が行われた後、離型工程を経て、乾燥工程が、2枚の多孔質フィルタ50で乾燥前成形体Fが挟まれた状態で行われる。
<実施例3>
実施例3に係る製造方法では、項目A〜Cの全てが実行された状態でセラミック成形体が得られる。即ち、実施例3に係る製造方法は、上述した本発明の実施形態に係るセラミック成形体の製造方法と全く同じである。実施例3では、投入工程と閉塞工程との間に押し潰し工程が行われる実施例2に対して、「投入工程と閉塞工程との間にスキージング工程が行われる」点が異なる。
この実験では、図22に示す薄い円板状を呈するセラミック成形体の試験品が、比較例及び実施例1〜3に係るそれぞれの製造方法を用いて、各製造方法について3個ずつ作製された。この試験品のサイズとして、例えば、直径D=350mm、厚さT=3mmが採用された(図22を参照)。
この実験では、実施例1において、硬化工程が室温雰囲気で12時間に亘って継続され、乾燥工程が90℃で20時間に亘って継続された。実施例2,3において、硬化工程が室温雰囲気で12時間に亘って継続され、乾燥工程が90℃で50時間に亘って継続された。また、比較例では、硬化・乾燥工程が、室温雰囲気で12時間に亘って継続された後90℃で20時間に亘って継続された。また、実施例2,3において、多孔質フィルタ50としては、気孔率が48±8%であり、平均気孔径が25±10μmである、厚さ15mmのセラミックフィルタが使用された。
この実験にて作製された各試験品に対して、厚さバラツキ、及び平面度がそれぞれ算出された。厚さバラツキとしては、試験品の複数の厚さ測定点(図23に示す例では、17か所)でのそれぞれの厚さ計測値のうちの最大値と最小値との差が採用された。また、平面度は、図24に示すように試験品がテーブルの上面(基準面、平面)に載置された状態における基準面から試験品の上面までの高さのバラツキと定義される。高さバラツキとしては、試験品の複数の高さ測定点(図25に示す例では、17か所)でのそれぞれの高さ計測値のうちの最大値と最小値との差が採用された。
試験品の平面度は、試験品の厚さバラツキの影響と試験品の反り(うねり)の影響とが共に反映された値となる。表1では、比較例及び実施例1〜3のそれぞれについて、厚さバラツキの平均値と平面度の平均値とが示されている。以下、この結果について分析する。
<比較例と実施例1との比較>
先ず、比較例と実施例1とを比較する。表1から理解できるように、実施例1では、比較例に比して、厚さバラツキが小さく且つ平面度も小さい。これは以下の理由に基づくと考えられる。
上述のように、比較例では、硬化・乾燥工程にて、「スラリーの硬化」と「スラリーの乾燥」とのそれぞれが、特段の時間的な順序が設けられることなく、それぞれの自然の(成り行きの)進行速度で同時に進行していく。従って、「スラリーの硬化」の進行度合いと「スラリーの乾燥」の進行度合いとが成形空間内の位置によって変化し易い。加えて、一般に、「スラリーの乾燥」による収縮度合いが「スラリーの硬化」による収縮度合いよりも大きい。以上より、硬化・乾燥工程では、試験品の収縮度合いが試験品の位置(部位)によって異なり易い。この結果、試験品の厚さ方向の収縮量が試験品の位置によって異なり易い。従って、試験品の厚さバラツキが大きくなり易く、この結果、試験品の平面度も大きくなり易い。
これに対し、実施例1では、成形型20の開口Pinが塞がれた状態で硬化工程がなされることで、「スラリーの乾燥」の進行が強制的に遅らされる。従って、硬化工程にて「スラリーの硬化」が主として進行し、その後に乾燥工程にて「スラリーの乾燥」が主として進行する、という時間的な順序が与えられる。即ち、硬化工程では、「スラリーの乾燥」が殆ど進行しない。従って、「スラリーの硬化」が成形空間Q内において全体的に安定して同程度に進行し得る。一方、その後の乾燥工程では、「スラリーの硬化」が殆ど進行しない。従って、「スラリーの乾燥」が成形空間Q内において全体的に安定して同程度に進行し得る。この結果、「スラリーの硬化」による収縮度合いも「スラリーの乾燥」による収縮度合いも試験品の位置によって異なり難い。以上より、試験品の厚さのバラツキが小さくなり、この結果、試験品の平面度も小さくなる。
<実施例1と実施例2との比較>
次に、実施例1と実施例2とを比較する。表1から理解できるように、実施例2では、実施例1に比して、厚さバラツキが同程度である一方、平面度が小さい。これは以下の理由に基づくと考えられる。
上述したように、実施例1では、成形型20の開口Pinが露呈し且つ乾燥前成形体が成形空間Qに収容された状態で乾燥工程が行われる。従って、試験品の上面からの分散媒成分の揮発の進行速度が下面からの分散媒成分の揮発の進行速度よりも大きくなる。換言すれば、試験品の上面側及び下面側間で乾燥の進行度合いに差が生じ易い。この結果、試験品の反り(うねり)が大きくなり易く、この結果、試験品の平面度も大きくなり易い。
これに対し、実施例2では、2枚のフィルタ50で挟み込まれた試験品が、その下面がテーブルの上面に向かい合うようにテーブル上に載置されて乾燥工程が行われる。従って、試験品の上面に加えて下面からもフィルタ50内の多数の気孔を介して分散媒成分が十分に揮発し得る。即ち、試験品の上面側及び下面側間で乾燥の進行度合いに差が生じ難い。
加えて、この乾燥工程では、高温炉内の熱がフィルタ50を介して試験品に伝達される。従って、高温炉内の位置によって温度に相違(温度分布)があっても、その温度分布が緩和されて試験品に伝達される。即ち、試験品の表面の位置によって温度に相違(温度分布)が発生し難い。このことにより、試験品の部位間で乾燥の進行度合いに差が生じ難い。以上より、試験品の反り(うねり)が小さくなる。従って、厚さバラツキが実施例1と同程度である一方で、平面度が小さくなる。
<実施例2と実施例3との比較>
次に、実施例2と実施例3とを比較する。表1から理解できるように、実施例3では、実施例2に比して、厚さバラツキが小さく且つ平面度も小さい。これは以下の理由に基づくと考えられる。
上述したように、実施例2では、投入工程と閉塞工程の間に押し潰し工程が行われる。従って、成形型20の上面から上方に盛り上がっているスラリーの上面が平坦化されていない状態(即ち、スラリーの上面に大きい凹凸が存在し得る状態)で、スラリーが板部材Bの下面で下向きに押し潰される。この場合、押し潰されるスラリーの上面と板部材Bの下面との間に気泡が混入(或いは、隙が形成)し易くなる。即ち、成形型20の開口Pinが板部材Bで塞がれた状態で、成形空間Qに充填されているスラリーの上面において気泡が混入(或いは、隙が形成)している部分には、気泡の存在領域(或いは、隙の形成領域)に対応する凹部がなおも残存し得る。換言すれば、押し潰し工程終了後であっても、充填されているスラリーの上面の平坦化が十分には達成され得ない。この結果、試験品の厚さバラツキが大きくなり易い。
加えて、押し潰し工程が行われる場合、成形型20の上面から上方に盛り上がる量が位置によって異なる状態で、スラリーが板部材Bの下面で下向きに押し潰される。従って、板部材Bの下面でスラリーが下向きに押し潰される量が位置によって異なる。この結果、成形型20の開口Pinが板部材Bで塞がれた状態で、成形空間Qに充填されているスラリーの密度が位置によって異なる。スラリーの密度が位置によって異なることは、スラリーの硬化・乾燥による収縮量も位置によって異なることを意味する。このことによっても、試験品の厚さバラツキが大きくなり易い。
これに対し、実施例3では、投入工程と閉塞工程の間にスキージング工程が行われる。従って、成形空間Qに充填されているスラリーの上面が既に平坦化された状態で成形型20の開口Pinがガラス板40で塞がれる。従って、上述したような気泡の混入(或いは、隙の形成)、及びスラリーの密度のバラツキが発生し難い。以上より、試験品の厚さのバラツキが小さくなり、この結果、試験品の平面度も小さくなる。
以上、説明したように、本実施形態に係るセラミック成形体の製造方法(=実施例3)では、「硬化工程がガラス板40にて開口Pinが塞がれた状態で行われること」、及び「投入工程と閉塞工程との間にスキージング工程が挿入されること」により、セラミック成形体の厚さバラツキが小さくされ得る。加えて、「乾燥工程が2枚の多孔質フィルタ50で乾燥前成形体Fが挟まれた状態で行われること」により、セラミック成形体の反り(うねり)が小さくされ得る。この結果、切削等の機械加工を追加することなく、平面度が良好な(小さい)薄板状のセラミック成形体を得ることができる。
なお、本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記実施形態においては、図11〜図13に示すように、成形型20の開口Pinを塞ぐために使用されるガラス板40として、Y軸方向からみたときの形状が、成形型20のY軸方向からみたときの形状と一致しているものが使用されている。
従って、ガラス板40が成形体20の上面に載置された状態において、ガラス板40の上下方向の位置は固定される。よって、ガラス板40が成形体20の上面に載置された状態において行われる硬化工程において、「スラリーの硬化」によるスラリーの収縮により乾燥前成形体Fの厚さが減少していく際、ガラス板40の下面と接触していた乾燥前成形体Fの上面(開口Pinから露呈している面)がガラス板40の下面から離間する可能性がある。このことは、乾燥前成形体F(従って、セラミック成形体)の上面の平坦化が確実に達成され得ないこと、ひいては、セラミック成形体の厚さバラツキの増大に繋がる。
この問題に対処するためには、図26〜図29に示すように、成形型20の開口Pinを塞ぐために使用される蓋部材(ガラス板)40として、開口Pinに勘合可能な外形状を備えたものが使用され得る。図26〜図29に示す例では、蓋部材40として、成形型20の開口Pinの直径よりも若干小さい直径を有する薄い円板状を呈したものが使用されている。
この例では、成形型20の上面に載置されたガイド部材Cに蓋部材40がガイドされながら、蓋部材40が、開口Pinと同軸的に上下運動可能に成形型20の上に載せられている。即ち、蓋部材40が、開口Pinに嵌合し得るように成形型20の上に載せられている。
従って、図28に示すように、開口Pinが蓋部材40で塞がれた状態において、蓋部材40の下面(円形の平面)が蓋部材40の自重に基づく力により、乾燥前成形体Fの上面(開口Pinから露呈している面)を下向きに常時押圧している。この結果、硬化工程において、「スラリーの硬化」によるスラリーの収縮により乾燥前成形体Fの厚さが減少していく際、蓋部材40が開口Pinに嵌合するとともに、蓋部材40の下面(平面)と乾燥前成形体Fの上面との接触が確保されながら蓋部材40が乾燥前成形体Fの厚さの減少分だけ下降していく。従って、硬化工程の終了後においても、乾燥前成形体Fの上面と蓋部材40の下面(平面)との接触が確実に確保され得る。この結果、乾燥前成形体F(従って、セラミック成形体)の上面の平坦化がより確実に達成され得、セラミック成形体の厚さバラツキがより小さくなる。
また、上記実施形態においては、薄い円板状のセラミック成形体が製造されているが、薄板状である限りにおいていかなる形状のセラミック成形体に対しても、本発明に係る製造方法が適用され得る。
また、上記実施形態においては、薄板状のセラミック成形体として、上下面ともに単一の平面から構成される成形体が製造されているが、図30に示すように、上面のみが単一の平面から構成され、下面には、単一の平面上の1か所或いは2か所以上に凹部(図30では、7本の溝)が形成された成形体が製造されてもよい。この場合、成形型20として、成形面21の底面に前記凹部に対応する凸部が形成されたものが使用される。
この場合、「厚さバラツキ」として、試験品における凹部(溝)が形成されていない領域内の複数の厚さ測定点でのそれぞれの厚さ計測値のうちの最大値と最小値との差が採用される。また、上記実施形態と同様、図31に示すように、平面度は、試験品がテーブルの上面(基準面、平面)に載置された状態における基準面から試験品の上面(単一の平面)までの高さのバラツキと定義される。高さバラツキとしては、試験品の複数の高さ測定点でのそれぞれの高さ計測値のうちの最大値と最小値との差が採用される。
また、この場合において乾燥工程が「2枚の多孔質フィルタで乾燥前成形体Fが挟まれた状態」で行われる場合、図32に示すように、乾燥前成形体Fの下面を覆う多孔質フィルタ50’として、その上面に前記凹部(溝)に対応する凸部が形成されたものが使用される。これにより、乾燥前成形体Fの下面の全域が多孔質フィルタ50’の上面で覆われ得る。