本発明の分離回収装置及び本発明の分離回収方法について、図1〜図4を参照して説明する。図1は、本発明の分離回収装置が設置される反応炉の形態例の模式的な端面図である。図2は、本発明の分離回収装置の模式的な断面図である。図3は、図2中のx−x線で切った断面図である。図4は、図1中の回転翼を示す図である。
図1中、反応炉20は、縦長の円筒形状を有する側壁部1と、該側壁部1の上下を塞ぐ蓋部2(2a、2b)と、該反応炉20を加熱するためのヒーター5と、からなる。該反応炉20の上部には、四塩化珪素蒸気9の供給管7及び亜鉛蒸気10の供給管8が付設されており、該反応炉20の下部には、排出ガス11を該反応炉20の外に排出するための反応炉の排出管6が付設されている。また、該反応炉20内には、炭化珪素棒の固定部材4を介して炭化珪素棒3が設置されている。詳細には、該炭化珪素棒の固定部材4が、該側壁部1の内壁に形成されている炉内壁つば部12に引っ掛けられることより、該炭化水素棒3は、該反応炉20の内部に下向きに突き出るように設置されている。なお、該側壁部1と該蓋部2とは、例えば、それぞれのつば部の間にシール材を挟み込み、つば部同士をボルト締めすること等により、密閉されている。
該四塩化珪素蒸気の供給管7の一端は、該反応炉20の内部に位置し、他端は、四塩化珪素の蒸発器に繋がっている。また、該亜鉛蒸気の供給管8の一端は、該反応炉20の内部に位置し、他端は、亜鉛の蒸発器に繋がっている。
該反応炉の排出管6は、図2に示す分離回収装置30に繋がっている。
該分離回収装置30は、該反応炉20から排出される該排出ガス11が供給される冷却部24と、該冷却部24に繋がる分離回収部26と、を有する。
該冷却部24は、円筒型の側壁と、円形の上側壁と、下方に向けて傾斜する逆円錐面状の冷却面15と、冷却手段16と、回転翼17と、該回転翼が固定されている回転軸18と、該回転翼17を回転させるためのモーター19と、からなる。該冷却部24には、該冷却面15より下方に、粉体の排出口21が設けられている。該粉体の排出口21には、冷却により生じた粉体及び冷却された後の排出ガスを、該分離回収部26へと移動させるための連結管22が繋がっている。該冷却部24の上方には、該排出ガス11を該冷却面15へ供給するための排出ガスの供給管23が付設されている。
該冷却面15は、該排出ガス11が冷却される部位である。そして、該排出ガス11が冷却されることにより、該排出ガス11中の塩化亜鉛ガス及び亜鉛蒸気が凝固して、塩化亜鉛粉末及び亜鉛粉末が生成する。生成した塩化亜鉛粉末及び亜鉛粉末は、該冷却面15に付着する。以下、該排出ガス11が冷却されて生成する塩化亜鉛粉末及び亜鉛粉末を、総称して粉体とも呼ぶ。
該冷却面15の形状は、下方に向けて傾斜する逆円錐面状である。つまり、該冷却面15の形状は、円錐の側面を上下逆さまにした形状である。該冷却面15の傾斜角、すなわち、円錐形状の母線と水平線との角度は、該冷却面15から掻き落された粉体の該粉体の排出口21への移動し易さや冷却効率等を考慮して、適宜選択される。
該冷却手段16は、該冷却面15を冷却するためのものであり、冷媒よる冷却手段、空冷による冷却手段等、適宜選択されるが、温度制御がし易い点で、冷媒による冷却手段が好ましく、水冷が特に好ましい。該冷却手段の大きさや設置位置は、冷却効率等を考慮して、適宜選択される。
該回転翼17は、該冷却面15に付着している粉体を掻き落すための部材である。図3及び図4に示すように、該回転翼17は、該回転翼17の回転軸側172が、該回転軸18に固定されており、該回転軸18には、該回転軸18を回転させるための該モーター19が設置されている。そして、該モーター19が回転駆動することにより、該回転翼17は、該回転軸18の周りを回転する。このとき、該回転翼17は、該回転翼17の冷却面側171が、該冷却面15に沿って移動するようにして、該冷却部24内で回転する。図3中、符号174は、該回転翼17の回転方向を示す。なお、該回転翼17の冷却面側171が、該冷却面15に沿って移動するとは、該回転翼17の該冷却面側171が、該冷却面15に接して、あるいは、掻き落す効果が損なわれない範囲で隙間を開けて該冷却面15と対向して、移動することを指す。
該回転翼17の形状は、該冷却面15に付着している粉体を掻き落すことができる形状であれば、特に制限されない。そして、該回転翼17は、図2及び図4に示すように、該粉体の排出口21より下方に突き出す突出部173を有することが好ましい。該突出部173は、該回転翼17が回転することにより、該粉体の排出口21の近傍及び該連結管22内で回転するので、該回転翼17が該突出部173を有することにより、粉体が該粉体の排出口21の近傍や該連結管22内で詰まるのを防止することができる。
また、図2及び図3では、該回転翼17の枚数が1枚である旨記載したが、該回転翼17の枚数は、特に制限されない。
該粉体の排出口21は、該回転翼17によって掻き落された粉体が、該冷却部24の外へ排出される排出口である。また、該粉体の排出口21は、該冷却面15で冷却された後の排出ガスが、該冷却部24の外に排出される排出口でもある。該粉体の排出口21は、該冷却面15より下方に設けられる。該粉体の排出口21の径が大き過ぎると、該排出ガス11の冷却が不十分となり、塩化亜鉛又は亜鉛が気体のまま、該冷却部24から排出されてしまうため好ましくなく、また、小さ過ぎると、該粉体の排出口21の近傍又は該連結管22に、粉体が詰まってしまうため好ましくない。そのため、該粉体の排出口21の径は、該冷却面15の大きさ、傾斜角、冷却温度、該回転軸18の太さ等の該冷却部24の設計に合わせて、あるいは、該排出ガス11中の塩化亜鉛ガス、亜鉛蒸気、四塩化珪素蒸気の濃度、該排出ガス11の排出量、排出速度等の該反応炉20での反応条件に合わせて、塩化亜鉛及び亜鉛が気体のまま、該冷却部24から排出されず且つ該粉体の排出口21の近傍又は該連結管22に、粉体が詰まってしまわない範囲で、適宜選択される。
該連結管22は、該冷却部24と該分離回収部26とを繋ぐ連結管である。該連結管22の一端は、該粉体の排出口21に繋がっており、該連結管22の他端は、該分離回収部26内へと繋がっている。そして、冷却された後の排出ガス及び掻き落された粉体が、該連結管22内を通って、該分離回収部26へと移動する。なお、該連結管22の付設は、任意であり、例えば、図2中の該分離回収部26の供給口27が、該粉体の排出口21に、直接繋がっていてもよい。
該冷却部24の側壁及び上側壁の形状は、特に制限されない。また、該排出ガスの供給管23の付設位置は、該冷却面15に該排出ガス11が供給される位置であれば、特に制限されない。
該分離回収部26は、該連結管22を介して、該冷却部24に繋がっている。また、該分離回収部26の上方には、四塩化珪素蒸気111を該分離回収部26の外へ排出するための四塩化珪素蒸気の排出管25が付設されている。
該分離回収部26には、該冷却部24で冷却された後の排出ガス及び該冷却面15から掻き落された粉体が、該粉体の排出口21を経て移動してくる。つまり、該分離回収部26には、四塩化珪素蒸気と、塩化亜鉛粉末及び亜鉛粉末とが、該冷却部24から移動してくる。そして、粉体は、該連結管22の出口、すなわち、粉体及び冷却された後の排出ガスが、該分離回収部26内に入ってくる入口である粉体の分離回収部への供給口27から、該分離回収部26の底に向かって落下することにより、該分離回収部26内に回収される。また、四塩化珪素蒸気は、該粉体の分離回収部への供給口27を経て、該四塩化珪素蒸気の排出管25から該分離回収部26の外に排出されて回収される。
該四塩化珪素蒸気の排出管25の設置位置は、該分離回収部26の上方であるが、該分離回収部26の底に貯まった粉体が、該四塩化珪素蒸気の排出管25に流入しない位置であれば、特に制限されず、例えば、該分離回収部26の上側の壁でも、あるいは、側壁でもよい。そして、該粉体の分離回収部への供給口27の位置を、四塩化珪素蒸気が排出される四塩化珪素蒸気の排出口28の位置と同じ高さにするか、又は該粉体の分離回収部への供給口27の位置を、該四塩化珪素蒸気の排出口28の位置より低くすることにより、四塩化珪素蒸気の流れを、横方向又は斜め上方向に向けることができるので、粉体が該四塩化珪素蒸気の排出管25に流入し難くなる点で好ましい。
該分離回収部26の形状は、底に粉体を貯め且つ上方から四塩化珪素蒸気を排出できる形状であれば、特に制限されない。
該反応炉20及び該分離回収装置30を用いる多結晶シリコンの製造方法について説明する。先ず、四塩化珪素及び亜鉛をそれぞれの蒸発器により気化させて、四塩化珪素蒸気9を四塩化珪素蒸気の供給管7から、亜鉛蒸気10を亜鉛蒸気の供給管8から、該ヒーター5により加熱されている該反応炉20内に供給しつつ、排出ガス11を該排出管6から、該反応炉20の外へ排出する。このとき、該反応炉20内では、四塩化珪素と亜鉛が反応して、多結晶シリコンが生成するが、該反応炉20内には、該炭化珪素棒3が設置されているので、生成した多結晶シリコンが、該炭化珪素棒3に析出する。そして、該反応炉20の上部から四塩化珪素蒸気及び亜鉛蒸気を供給し、該反応炉20の下部から該排出ガス11を排出しているので、四塩化珪素蒸気及び亜鉛蒸気は、該反応炉20の上部から下向きに移動しており、その流れに沿うように該炭化珪素棒3が存在しているので、該炭化珪素棒3を覆うように、多結晶シリコンの結晶が成長する。また、四塩化珪素と亜鉛の反応により、塩化亜鉛も生成するが、塩化亜鉛ガスは、未反応の四塩化珪素蒸気及び亜鉛蒸気と共に、該排出ガス11として、該排出管6から該反応炉20の外へ排出される。該四塩化珪素蒸気及び該亜鉛蒸気のうちのいずれか一方又は両方を、キャリアーガスで希釈して、該反応炉20に供給する場合は、該排出ガス11は、塩化亜鉛ガス、四塩化珪素蒸気及び亜鉛蒸気に加え、キャリアーガスを含む。
そして、該排出ガス11を、該反応炉の排出管6から該排出ガスの供給管23を経て、該分離回収装置30に供給する。
先ず、該排出ガス11を、該冷却面15に供給して冷却する。そして、該排出ガス11を冷却することにより、該排出ガス11中の塩化亜鉛ガス及び亜鉛蒸気を凝固させて、塩化亜鉛粉末及び亜鉛粉末を生成させる。生成した塩化亜鉛粉末及び亜鉛粉末は、該冷却面15に付着する。また、冷却により、排出ガスからは、塩化亜鉛蒸気及び亜鉛蒸気が除去されるため、冷却された後の排出ガスは、四塩化珪素蒸気又は四塩化珪素蒸気及びキャリアーガスの混合物となる。
該分離回収装置30に供給される該排出ガス11中の四塩化珪素蒸気、亜鉛蒸気及び塩化亜鉛ガスの濃度は、特に制限されないが、四塩化珪素蒸気が5〜25体積%、好ましくは10〜20体積%、亜鉛蒸気が7.5〜40体積%、好ましくは15〜35体積%、塩化亜鉛ガスが35〜85体積%、好ましくは45〜75体積%である。また、該排出ガス11の供給量は、特に制限されないが、該冷却部24の内容量に対する体積割合で5〜60%/分、好ましくは5〜40%/分である。なお、該排出ガス11中の四塩化珪素蒸気、亜鉛蒸気及び塩化亜鉛ガスの濃度並びに該排出ガス11の供給量は、該反応炉20での反応条件に依存する。
該冷却面15の温度は、四塩化珪素の沸点より高く且つ塩化亜鉛の融点未満であればよいが、好ましくは60〜200℃、特に好ましくは80〜180℃である。
次いで、該冷却面15で冷却した後の排出ガス、すなわち、四塩化珪素蒸気又は四塩化珪素蒸気及びキャリアーガスの混合物を、該粉体の排出口21を経て、該分離回収部26に移動させて、該四塩化珪素蒸気の排出管25から四塩化珪素蒸気111を排出することにより、四塩化珪素蒸気を分離回収する。
また、該冷却面15に付着した塩化亜鉛粉末及び亜鉛粉末を、該回転翼17を回転させることにより、該冷却面15から掻き落して、該粉体の排出口21を経て、該分離回収部26に移動させる。そして、該粉体の分離回収部への供給口27から該分離回収部26の底に向かって、粉体を落下させて、該分離回収部26内に回収する。該冷却面15に付着している粉体の掻き落しを行う頻度、すなわち、該回転翼17の回転を行う頻度は、該冷却面15に粉体が付着し過ぎて、該排出ガス11からの塩化亜鉛及び亜鉛の除去が不十分になる前に行えばよく、特に制限されないが、例えば、1分間に1回転である。あるいは、該回転翼17を連続的に回転させて、連続的に粉体の掻き落しを行ってもよい。
該分離回収部26の内部温度は、四塩化珪素の沸点より高く且つ塩化亜鉛の融点未満であればよいが、好ましくは60〜200℃、特に好ましくは80〜180℃である。そして、該分離回収部26を保温、加熱又は冷却して、該分離回収部26の内部温度を、上記範囲にすることができる。
このようにして、塩化亜鉛粉末及び亜鉛粉末と、四塩化珪素蒸気とを、分離し、回収する。
また、該冷却部24又は該分離回収部26に、窒素ガス等の不活性ガスを供給することにより、不活性ガス雰囲気下で、本発明の分離回収方法を行うことができる。
すなわち、本発明の分離回収装置は、四塩化珪素蒸気と亜鉛蒸気を反応させて多結晶シリコンを製造するための多結晶シリコン製造用の反応炉から排出される排出ガスから、塩化亜鉛及び亜鉛と四塩化珪素とを分離し回収する分離回収装置であり、下方に向けて傾斜する逆円錐面状である冷却面と、該冷却面に該排出ガスを供給するための排出ガスの供給管と、該冷却面を冷却するための冷却手段と、該冷却面に沿って回転軸の周りを回転し、該冷却面に付着している粉体を掻き落すための回転翼と、を有し且つ下方に粉体の排出口が設けられている冷却部と、該冷却部に繋がり且つ上方に四塩化珪素蒸気の排出管が付設されている分離回収部と、を有することを特徴とする分離回収装置である。
また、本発明の分離回収方法は、四塩化珪素蒸気と亜鉛蒸気を反応させて多結晶シリコンを製造するための多結晶シリコン製造用の反応炉から排出される排出ガスから、塩化亜鉛及び亜鉛と四塩化珪素とを分離し回収する分離回収方法であり、下方に向けて傾斜する逆円錐面状である冷却面を有し且つ下方に粉体の排出口が設けられている冷却部で、該排出ガスを冷却し、次いで、冷却された排出ガス及び該冷却面に付着した粉体を、該粉体の排出口を通過させて分離回収部に移動させ、次いで、該分離回収部の上部から四塩化珪素蒸気を排出して、四塩化珪素を分離回収すると共に、該粉体を該分離回収部の下部に落下させて、塩化亜鉛粉末及び亜鉛粉末を分離回収することを特徴とする分離回収方法である。
本発明に係る四塩化珪素蒸気と亜鉛蒸気を反応させて多結晶シリコンを製造するための多結晶シリコン製造用の反応炉は、四塩化珪素蒸気及び亜鉛蒸気を反応炉に供給し、該反応炉から排出ガスを排出して、該反応炉内で四塩化珪素蒸気と亜鉛蒸気の反応を行い、該反応炉内で生成する多結晶シリコンを析出させることができるものであれば、特に制限されない。
該反応炉内は1000℃程度の温度となるため、該反応炉の材質としては、透明石英、不透明石英等の石英、炭化珪素、窒化珪素等が挙げられ、寿命や析出した多結晶シリコンを取り除く際に取り扱い易い点で、炭化珪素、窒化珪素が好ましく、また、コスト面からは、石英が好ましい。また、反応炉の構造等によっては、反応時の加熱温度に耐えられるのであれば、該反応炉の材質としては、特に制限されない。また、該反応炉の側壁部と蓋部が、異なる材質であってもよい。
そして、該反応炉としては、好ましくは、四塩化珪素と亜鉛を反応させて多結晶シリコンを生成させる反応炉であって、上部に四塩化珪素蒸気の供給管及び亜鉛蒸気の供給管を有し且つ下部に排出ガスの排出管を有する反応炉であり、析出棒、好ましくは炭化珪素棒が該反応炉内に設置されている多結晶シリコン製造用の反応炉(以下、反応炉(A)とも記載する。)である。
このような反応炉(A)の形状は、反応炉の上部から反応炉内に供給された四塩化珪素蒸気及び亜鉛蒸気が、反応炉の上部から下部に向かって下向きに移動しながら反応するような形状、すなわち、縦長の形状である。言い換えると、該反応炉(A)の形状は、原料蒸気及び排出ガスが、反応炉の上部から下部に向かって流れる形状である。該反応炉(A)の大きさは、特に限定されないが、四塩化珪素蒸気及び亜鉛蒸気の供給条件によって、適宜選択される。一般的には、好ましくは、該反応炉の縦方向の長さは、1,000〜6,000mmであり、円筒形状の場合、直径が200〜2,000mmである。
該炭化珪素棒等の該析出棒は、該反応炉(A)内に設置される。該炭化珪素棒(析出棒)の形状としては、角柱状、円柱状が好ましく、特に、円柱状が好ましい。該炭化珪素棒(析出棒)の形状が円柱状の場合、該炭化珪素棒(析出棒)の直径は、強度や加工面から、1〜20cmが好ましく、2〜10cmが特に好ましい。また、該炭化珪素棒(析出棒)の固定部材4の下側から該排出管6の上側の間に存在する該炭化珪素棒(析出棒)の長さは、50〜1,200mmが好ましく、100〜1,100mmが特に好ましく、200〜1,000mmが更に好ましい。
該炭化珪素棒は、炭化珪素の成形体であるが、通常、炭化珪素の成形体は、多数の細孔を有する多孔質体である。そして、該炭化珪素棒は、多孔質の炭化珪素にシリコンが含浸されているシリコン含浸炭化珪素棒であることが、含浸されているシリコンが、反応により生成する多結晶シリコンの結晶の種となり、炭化珪素棒への多結晶シリコンの析出を促進できる点で好ましい。該シリコン含浸炭化珪素棒では、炭化珪素:含浸シリコンの質量比が、80:20〜95:5であることが好ましく、80:20〜90:10が特に好ましい。該シリコン含浸炭化珪素棒は、多孔質の炭化珪素棒を、溶融シリコン中に浸漬し、溶融シリコンを炭化珪素の孔に含浸させることにより得られる。
また、シリコンが含浸されていない多孔質の炭化珪素棒であっても、該反応炉内に設置され、四塩化珪素蒸気と亜鉛蒸気の反応が行われた場合、反応の初期の段階では、炭化珪素棒の外側近傍の多孔質構造内で、四塩化珪素蒸気と亜鉛蒸気との接触が起こり、そこでシリコンが生成するので、炭化珪素棒の外側近傍は、孔内にシリコンが含浸されているのと同様な状態になる。そのため、シリコンが含浸されていない多孔質の炭化珪素棒でもよく、特に、該炭化珪素棒が繰り返し使用される場合は、シリコンが含浸されていない多孔質の炭化珪素棒は、繰り返し使用により、シリコンが含浸されている多孔質の炭化珪素棒と同様な状態になる。
該炭化珪素棒(析出棒)の設置本数は、1本であっても、2本以上であってもよい。また、該炭化珪素棒(析出棒)の設置位置は、特に限定されない。例えば、該炭化珪素棒(析出棒)が4本の場合、図5に示すように、該炭化珪素棒3(析出棒)は、該側壁部1(反応炉)の中心を中心とする円弧上に、等間隔に設置されることが好ましい。なお、該炭化珪素棒(析出棒)の設置本数及び設置位置は、原料蒸気の供給条件等の反応条件、反応炉の大きさ等により、多結晶シリコンが効率よく析出するように、適宜選択される。なお、図5は、該反応炉20を水平方向に切ったときの端面図である。図5では、説明の都合上、該側壁と該炭化珪素棒のみを記載した。
該炭化珪素棒(析出棒)の設置方法であるが、図1では、該炭化珪素棒3(析出棒)が該炭化珪素棒の固定部材4に固定され、該炭化珪素棒(析出棒)の固定部材4が、該炉内壁つば部12に引っ掛けられることにより、該炭化珪素棒(析出棒)が、該反応炉内に設置される旨を記載したが、これに限定されるものではない。例えば、図1中、炉内壁つば部を排出管6の付設位置より下方に形成させ、その炉内壁つば部に、該炭化珪素棒が固定されている該炭化珪素棒(析出棒)の固定部材を引っ掛けることにより、該炭化珪素棒(析出棒)の固定部材の上側から該反応炉内に上向きに突き出すように該炭化珪素棒(析出棒)を設置する方法や、該蓋部2bに、該炭化珪素棒(析出棒)を固定する方法等、該反応炉の下から上に向かって、該炭化珪素棒(析出棒)を立てるように設置する方法が挙げられる。
また、該炭化珪素棒(析出棒)の温度を、反応炉内の温度よりも高温に設定するために、該炭化珪素棒(析出棒)の内部には、加熱用のヒーターが装備されていてもよい。
該反応炉(A)では、該四塩化珪素蒸気の供給管及び該亜鉛蒸気の供給管が、該反応炉の上部に付設される。また、該反応炉の排出管は、該反応炉(A)の下部に付設される。そして、該反応炉(A)では、該反応炉内で原料蒸気の下方向の流れが形成され、反応炉内で四塩化珪素と亜鉛の反応を起こさせることができるような位置(上下方向の位置)に、該四塩化珪素蒸気の供給管及び該亜鉛蒸気の供給管と、該反応炉の排出管とが付設される。
該四塩化珪素蒸気の供給管及び該亜鉛蒸気の供給管の形状及び配置であるが、例えば、図6の(6−1)に示すように、該四塩化珪素蒸気の供給管及び該亜鉛蒸気の供給管の水平部が直線上に並ぶようにし、(6−2)に示すように、供給管の先をL字形状にして、供給管の出口を下向きにする形態例が挙げられる。また、図7に示すように、該四塩化珪素蒸気の供給管及び該亜鉛蒸気の供給管の水平部が直線上に並ばないようにする形態例が挙げられる。図7に示す形態例では、該四塩化珪素蒸気及び該亜鉛蒸気は、該反応炉内を旋回するように移動する。なお、図6及び図7は、四塩化珪素蒸気の供給管及び亜鉛蒸気の供給管の設置位置及び形状の形態例を示す模式図であり、図6の(6−1)及び図7は、四塩化珪素蒸気の供給管及び亜鉛蒸気の供給管を上側から見たときの図であり、図6の(6−2)は、垂直方向に切ったときの端面図である。図6及び図7では、側壁部と四塩化珪素蒸気の供給管及び亜鉛蒸気の供給管のみを記載した。
該反応炉(A)の側壁の周囲には、ヒーターが設置される。該ヒーターとしては、電気ヒーターが好ましい。
そして、四塩化珪素蒸気及び亜鉛蒸気を反応炉の上部から供給し、該反応炉の下部から排出ガスを排出して、該反応炉内で四塩化珪素蒸気と亜鉛蒸気の反応を行いつつ、生成する多結晶シリコンを反応炉内に析出させて、多結晶シリコンの製造を行う。
四塩化珪素蒸気及び亜鉛蒸気を用いる亜鉛還元法による多結晶シリコンの製造においては、四塩化珪素蒸気及び亜鉛蒸気が、反応炉内で激しく撹拌されると、直径が3μm以下の細粒状の多結晶シリコンが生成するが、このような細粒状の多結晶シリコンは、充填密度が低く溶融に時間がかかる。一方、四塩化珪素蒸気と亜鉛蒸気とが、該反応炉内で穏やかに接触すると、好ましくは線速5cm/秒以下の速度で接触すると、樹枝状、針状又は板状の多結晶シリコンが生成するが、このような樹枝状、針状又は板状の多結晶シリコンは、細粒状の多結晶シリコンに比べ、溶融し易く、溶融時間が短くなる。そのため、本発明に係る多結晶シリコンの製造方法では、四塩化珪素蒸気及び亜鉛蒸気が、該反応炉内で激しく撹拌されないような条件、すなわち、直径が3μm以下の細粒状の多結晶シリコンが生成し難い条件で、四塩化珪素蒸気及び亜鉛蒸気を、該反応炉に供給する。つまり、本発明に係る多結晶シリコンの製造方法では、樹枝状、針状又は板状の多結晶シリコンが生成し易い原料蒸気の供給条件で、四塩化珪素蒸気及び亜鉛蒸気を、該反応炉に供給する。樹枝状、針状又は板状の多結晶シリコンが生成し易い原料蒸気の供給条件は、該反応炉の大きさ、該炭化珪素棒の設置位置又は設置本数等により、適宜選択される。
四塩化珪素蒸気と亜鉛蒸気の供給量比率(モル比)は、四塩化珪素蒸気:亜鉛蒸気=0.9:2〜1.2:2であり、好ましくは1:2〜1.2:2であり、特に好ましくは1:2〜1.1:2である。また、四塩化珪素蒸気及び亜鉛蒸気は、窒素ガス等の不活性ガスで希釈されていてもよい。
亜鉛の沸点は、「化学便覧」(日本化学会編)によると907℃であるため、該反応炉内の温度が、亜鉛の沸点である907℃以上になるように、該反応炉を加熱する。該反応炉内の温度は、907〜1,200℃、好ましくは930〜1,100℃である。また、該反応炉内の圧力は、好ましくは0〜700kPaG、特に好ましくは0〜500kPaGである。上記範囲に反応条件を設定することで、該炭化珪素棒に安定的に多結晶シリコンを析出させることが可能となる。
該炭化珪素棒(析出棒)として、ヒータが内装されているものを1本又は2本以上使用し、該炭化珪素棒(析出棒)を加熱してもよい。その際、該反応炉内に設置されている炭化珪素棒(析出棒)の全てを加熱してもよいし、一部を加熱してもよい。また、該炭化珪素棒(析出棒)の加熱開始時期は、多結晶シリコンが該炭化珪素棒(析出棒)への析出を開始する前、つまり、四塩化珪素蒸気及び亜鉛蒸気の供給前であってもよく、あるいは、該炭化珪素棒(析出棒)にある程度の多結晶シリコンが析出してからでもよい。
そして、四塩化珪素蒸気及び亜鉛蒸気を下向きに移動させて、該反応炉内で四塩化珪素と亜鉛の反応を行い、多結晶シリコンを生成させながら、該炭化珪素棒(析出棒)を、四塩化珪素蒸気及び亜鉛蒸気の流れに沿うように存在させることで、該炭化珪素棒(析出棒)に、多結晶シリコンを析出させる。
また、窒素ガス等の不活性ガスの供給管を該反応炉に付設して、不活性ガスを該反応炉内に導入し、該反応炉内を不活性ガスで加圧することができる。
多結晶シリコンの製造方法が終了すると、四塩化珪素蒸気及び亜鉛蒸気の供給を止め、該反応炉を冷却した後、多結晶シリコンを、該反応炉の外に取り出す。該炭化珪素棒等の該析出棒を設置する場合、多結晶シリコンの製造方法が終了すると、四塩化珪素蒸気及び亜鉛蒸気の供給を止め、該反応炉を冷却した後、多結晶シリコンが析出した該炭化珪素棒(析出棒)を、該反応炉の外に取り出す。そして、析出した多結晶シリコンを該炭化珪素棒(析出棒)から掻き落して、多結晶シリコンを得る。
多結晶シリコンを掻き落した後の該炭化珪素棒は、再び、多結晶シリコンの製造にて、使用される。また、再使用する前に、該炭化珪素棒を、純水又は塩酸、硝酸、フッ化水素酸等の酸などで洗浄してもよい。
本発明の多結晶シリコンの製造方法により得られる多結晶シリコンは、亜鉛を還元剤に用いて製造されるため、亜鉛を含有する。本発明に係る多結晶シリコンの製造方法により得られる多結晶シリコン中の亜鉛含有量は、0.1〜100質量ppm、好ましくは0.1〜10質量ppm、特に好ましくは0.1〜1質量ppmである。多結晶シリコン中の亜鉛含有量が、上記範囲内であることにより、6−N以上の高純度の多結晶シリコンインゴットを製造することができる。なお、多結晶シリコンの純度の分析は高周波誘導プラズマ発光分析法(ICP−AES)により求められる。その分析方法は、以下に示す通りである。
得られた多結晶シリコン1.5gに、38%フッ化水素酸16mlと55%硝酸30mlを加えて、完全に溶解させた後、蒸発乾固させる。次いで、1%硝酸5mlで定溶し、ICP−AES(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製IRIS Advantage/RP型)により不純物濃度を測定して、多結晶シリコンの純度を算出する。
また、本発明に係る多結晶シリコンの製造方法により得られる多結晶シリコンの主な形状は、樹枝状、針状又は板状であり、直径が3μm以下の細粒状ではない。本発明に係る多結晶シリコンの製造方法では、樹枝状又は針状にシリコンの結晶が成長するので、大きな樹枝状又は針状のものに成長するが、得られる多結晶シリコン中には、大きな樹枝状又は針状のものの他に、板状になるものや、小さな樹枝状又は針状のものもあり、また、該炭化珪素棒(析出棒)から掻き落す際に樹枝状又は針状のものが砕けて、小さな樹枝状又は針状となったものもある。該樹枝状、針状又は板状の多結晶シリコンの大きさは、好ましくは100μm以上、特に好ましくは500μm以上、更に好ましくは1,000μm以上である。そして、該樹枝状、針状又は板状の多結晶シリコンとしては、50質量%以上が100μmメッシュサイズのスクリーンを通過しない樹枝状、針状又は板状の多結晶シリコンであることが好ましく、50質量%以上が500μmメッシュサイズのスクリーンを通過しない樹枝状、針状又は板状の多結晶シリコンであることが特に好ましい。なお、該樹枝状とは、図8の(8−1)に示すような、幹部31と該幹部31から伸びる枝部32とからなる形状であり、また、該針状とは、図8の(8−2)に示すような、略直線に伸びた形状であり、また、該板状とは、鱗片状、フレーク状等の略平面方向に広がった形状である。また、該樹枝状の該枝部32から更に分岐して結晶が伸びている形状もある。また、該樹枝状、針状又は板状の多結晶シリコンの大きさとは、樹枝状の場合は結晶の最も長い部分の長さ(図8の(8−1)では符号33aの長さ)を指し、針状の場合は結晶の長さ(図8の(8−2)では符号33bの長さ)を指し、板状の場合は結晶の最も長い径を指す。
本発明では、該排出ガスが冷却される該冷却面の形状が、逆円錐面状であるので、該排出ガスが該冷却部から外に排出される部分が狭くなっており、且つ、該冷却面に付着した粉体を、掻き落しながら該排出ガスの冷却を行っている。そのため、本発明では、該排出ガスの冷却効率が高い。そして、塩化亜鉛及び亜鉛を粉体にしてから、塩化亜鉛粉末、亜鉛粉末及び四塩化珪素蒸気を該分離回収部に移動させて、固体である塩化亜鉛粉末及び亜鉛粉末を、該分離回収部の底に向けて落下させて回収し、且つ、気体である四塩化珪素蒸気又は四塩化珪素蒸気及びキャリアーガスの混合物を、該分離回収部の上方から回収して、塩化亜鉛粉末及び亜鉛粉末と、四塩化珪素蒸気とを分離しているので、塩化亜鉛及び亜鉛の分離回収効率が高い。
次に、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、これは単に例示であって、本発明を制限するものではない。
(実施例1)
下記反応炉において、亜鉛蒸気の供給管から1,000℃に加熱して気化させた亜鉛蒸気を導入し、四塩化珪素蒸気の供給管から1,000℃に加熱して気化させた四塩化珪素蒸気を反応炉に供給しつつ、反応炉内を1,000℃にして、四塩化珪素を65g/分の速度で、亜鉛を50g/分の速度で供給し、四塩化珪素と亜鉛の反応を行った。
<反応炉(図1の形態例で、炭化珪素棒の設置本数が3本の形態例)>
反応炉:内径300mm×長さ2,500mmの石英製反応管を使用
炭化珪素棒:外径30mm×長さ1,000mm、本数3本(反応炉の中心を中心とする円弧上に、等間隔に設置)、気孔率5%
四塩化珪素蒸気供給管と亜鉛蒸気供給管の垂直方向の位置関係:同一高さ
四塩化珪素蒸気供給管と亜鉛蒸気供給管の水平方向の位置関係:図7に示す位置関係
反応炉出口の排出管内径:100mm
排出管の位置:排出管6の下側が反応炉の下側の蓋部2bの上面より700mm上側
<分離回収装置(図2の形態例)>
冷却部24の径:750mm
冷却面15の温度:80℃
冷却面15の傾斜角:51°
粉体の排出口の径:150mm
回転翼17の回転頻度:1回/分
分離回収部26内の温度:100℃
<排出ガス>
排出ガス中の各成分の濃度:塩化亜鉛ガス54体積%、四塩化珪素蒸気15体積%、亜鉛蒸気31体積%
そして、40時間反応を行った後、反応炉及び分離回収装置を冷却した。次いで、炭化珪素棒を反応炉の外に取り出し、炭化珪素棒から多結晶シリコンを掻き落し、多結晶シリコンを得た。このとき、多結晶シリコンの収率は、供給した原料亜鉛量を基準として理論シリコン生成量の64%であり、多結晶シリコンの純度は6−Nであった。また、分離回収部26から粉体を取り出し、粉体中の塩化亜鉛の回収率及び亜鉛の回収率を求めたところ、塩化亜鉛の回収率は供給した原料亜鉛量を基準として亜鉛換算で63%、亜鉛の回収率は36%であった。また、四塩化珪素蒸気の排出管から回収された四塩化珪素の回収率は、供給した原料四塩化珪素量を基準として40%であった。
また、四塩化珪素蒸気に混入して、四塩化珪素と共に排出されてしまう固形物の量を把握するために、四塩化珪素蒸気の排出管にフィルターを設置して、四塩化珪素蒸気中の固形物の捕集を試みたところ、フィルターで捕集された固形物はなかった。