JP5274320B2 - ナノろ過膜製造方法 - Google Patents

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本発明は、特にモノリス形状の多孔質基材に好適なナノろ過膜製造方法に関するものである。
ナノろ過膜(以下、NF膜という)とは、多孔質基材表面に精密ろ過膜(以下、MF膜という)を成膜・乾燥・焼成し、MF膜上に更に限外ろ過膜層(以下、UF膜という)を成膜・乾燥・焼成した後、更にNF膜層を積層・乾燥・焼成して段階的に形成される膜である。該NF膜は1nm〜4nm程度の細孔径を有し、イオンや分子を膜分離の対象物とする。
従来より、モノリス形状等の管状の基材内表面に成膜を行う際のクロスフロー濾過法として、垂直上向き方向に成膜用のコート液を流しながら、成膜用のコート液を循環ポンプにより管状の基材内表面へ循環供給し、その内表面に沿って流動させ、この間前記コート液を成膜面の両側の圧力差によりー側から他側へ透過させて濾過を行うことにより成膜を行う技術が開示されている(例えば、特許文献1〜2)。
該クロスフロー濾過法では、成膜終了時にコート液の循環を止めて、更に基材内に残存するコート液を、成膜面の両側の圧力差によりー側から他側へ透過させて排出するが、循環停止後のコート液は重力の影響を受けるため、基材下部でのコート液滞留時間が長くなり、管状の基材表面に形成される膜厚が、基材下部ほど厚くなり、基材上部ほど薄くなる傾向がみられる。したがって、モノリス形状の基材内表面にクロスフロー濾過法で成膜を行う場合には、膜厚の大きくなる基材下部の焼成段階でクラックが生じやすく、反対に基材上部では膜厚が薄くなる現象が観察される。
クラックや不完全に形成された膜層部が存在する当該上下端部では、膜の正常部分と比べ、膜の細孔径が大きくなっていると考えられる。図1に示すように、正常部分における膜の細孔径は、膜の構成粒子間に生じる粒子間隙により規定され、NF膜の構成粒子は、該UF膜の粒子間隙を透過しない関係が成立している(図1-(a))。しかし、UF膜の正常部分は透過しないNF膜粒子であっても、UF膜層の上下端部に前記の細孔径の拡大が生じている部分は透過してしまい(図1-(b))、該部分ではNF膜の正常な形成が行われない結果、NF膜の分離性能が低下する問題があった。
また、微細な細孔径を有するNF膜の一般的性質として、透水量が少ないという欠点があるが、膜処理効率の観点からは透水量をできるかぎり増加させることが望まれる。
透水量を増加させる手段としては、NF膜を構成する粒子間隙を大きくすることが考えられる。該粒子間隙はNF膜の構成粒子径と比例して大きくなる傾向があるため、粒子間隙を大きくするためには、NF膜構成粒子径を大きくすること(図1-(c))が考えられるが、NF膜構成粒子径が大きくなりすぎると、所望の分離性能を発揮できない問題があった。
特開平3−267129号公報 特開昭61−238315号公報
本発明の課題は、前記問題を解決し、クロスフロー濾過法による膜形成時に生じるUF膜の欠陥部を効果的に補修しつつ、所望のNF膜分画分子量を実現し、更に、高い膜ろ過流束を実現可能なNF膜の製造方法を提供することである。
上記課題を解決するためになされた本発明に係るナノろ過膜の製造方法は、内部を貫通する複数の流路を備えた柱状形状の多孔質基材の該流路を垂直に立て、クロスフロー濾過法によって該流路表面に限外ろ過膜層を形成する限外ろ過膜層形成工程と、限外ろ過膜層に積層してナノろ過膜層を形成するナノろ過膜形成工程を有し、該ナノろ過膜形成工程は、ナノろ過膜用コート液準備工程と、限外ろ過膜層形成後の柱状形状多孔質基材を垂直に立て、クロスフロー濾過法により該ナノろ過膜用コート液を限外ろ過膜層上に積層してナノろ過膜層を成膜する工程と、成膜されたナノろ過膜層を乾燥後焼成する工程とからなり、該ナノろ過膜用コート液準備工程は、イソプロピルアルコールにテトラ-イソ-プロポキシチタンを溶解した溶液と、イソプロピルアルコールに硝酸、塩酸、硫酸のうち何れかを添加して3〜5℃に冷却した溶液とを混合して得られたTiOゾル原液を50℃〜60℃の恒温槽で10〜20時間静置させて、TiO ゾル原液に含有されるコロイド粒子径が80〜150nmとなるように造粒する工程と、造粒後のTiOゾル原液を希釈してナノろ過膜用コート液とする工程からなることを特徴とするものである。
請求項2記載の発明は、請求項1記載のナノろ過膜の製造方法において、前記TiO ゾル原液に含有されるコロイド粒は、ナノろ過膜の骨材粒子径の粒子間隙と該ナノろ過膜の分画分子量となる分子サイズが近似する粒子径を有し該粒子径の最小値が、前記限外ろ過膜層形成工程において限外ろ過膜の上下端部に発生する膜厚異常に起因した限外ろ過膜層欠陥部を透過不可能なサイズ、として規定され、該粒子径の最大値が、ナノろ過膜の骨材粒子径の粒子間隙が、該ナノろ過膜の分画分子量となる分子サイズよりも小さくなるサイズ、として規定されることを特徴とするものである。
本発明のナノろ過膜の製造方法では、内部を貫通する複数の流路を備えた柱状形状の多孔質基材の該流路を垂直に立て、クロスフロー濾過法によって該流路表面に限外ろ過膜層を形成する限外ろ過膜層形成工程と、限外ろ過膜層に積層してナノろ過膜層を形成するナノろ過膜形成工程によりナノろ過膜の製造する際、ナノろ過膜形成工程では50℃〜60℃の恒温槽で10から20時間かけて造粒されたTiOゾル原液を希釈したナノろ過膜用コート液を用いることにより、クロスフロー濾過法による膜形成時に生じるUF膜の欠陥部を効果的に補修しつつ、所望のNF膜分画分子量を実現し、更に、高い膜ろ過流束を実現可能としている。
請求項記載の発明のように、NF膜の骨材粒子径の粒子間隙を、該NF膜の分画分子量となる分子サイズよりも小さくすることにより、NF膜において所望の分画分子量を実現することができる。また、NF膜の骨材粒子径を、クロスフロー濾過法によるUF膜の形成時にUF膜上下端部に発生する欠陥部に存在する粗大細孔径よりも大きくすることにより、UF膜の欠陥部を効果的に補修し、NF膜の阻止率を高めて、NF膜の分離性能を高水準に維持することができる。更に、NF膜の骨材粒子径の粒子間隙と該ナノろ過膜の分画分子量となる分子サイズを近似する構成により、分画分子量となる分子サイズ以下の分子の膜透過性を高く維持し、膜ろ過流束を高く保つことができる。
膜構成粒子の概念図である。 クロスフロー濾過装置で実施する本発明のNF膜の製造方法の説明図である。 モノリス形状の多孔質基材の全体図である。 焼成後のUF膜の断面説明図である。 恒温槽での造粒温度と粒子径との関係を表わすグラフである。 NF膜の分画曲線である。
以下に本発明の好ましい実施形態を示す。
図2には、クロスフロー濾過装置で実施する本発明のNF膜の製造方法の説明図を示している。本実施形態は、クロスフロー濾過装置で成膜されたUF膜上(細孔径5〜10nm)に、分画分子量2000〜3000のNF膜を形成することを目的とするものである。該UF膜は、MF膜上に形成されている。該MF膜は、図3に示すモノリス形状の多孔質基材1の各流路2の内壁表面に形成されている。なお、全ての膜形成工程は、所定の粒径を有するコート液を付着させる成膜工程と、成膜後の乾燥工程と、乾燥後の焼成工程を基本工程とする。該コート液とは、製膜時に用いる液であり、UF膜およびNF膜用は、ゾル液を原料として2段階で作成する。なお、MF膜用はゾル液を原料とはせず、アルミナの粒子を調合して直接コート液を作成する。以下、本発明に用いるUF膜および本発明に係るNF膜の形成工程を説明する。MF膜は従来手法に従ってクロスフロー循環法で作成したものを用いる。
(UF膜の形成工程)
UF膜はNF膜の下地膜として、NF膜の形成工程の前工程で成膜される。該UF膜用TiOゾル液は、イオン交換水を攪拌しながら加熱し(60〜70℃)、そこへテトラ-イソ-プロキシチタンを添加した後、90〜100℃に加温し、30分間攪拌を継続後、硫酸を添加し、pH約1.5に調節し、その後自然冷却させ、蒸発分のイオン交換水を添加して得られる。このTiOゾル液を元にイオン交換水、PVA(ポリビニルアルコール)と混合してUF膜用コート液が得られる。なお、TiOゾル液の原料としてテトラ-ノルマル-ブトキシチタン又はテトラキス(2-エチルヘキシルオキシ)チタンを用いてもよい。また、TiOゾル以外にSiOゾル、ZrOゾルからUF膜用コート液を調整してもよい。
該UF膜用コート液を循環液としてMF膜上にUF膜を製膜する。図2のクロスフロー濾過装置のチャンバー3には、流路の内壁表面MF膜が形成されたモノリス形状の多孔質基材1が、流路方向を垂直にして配置され、該多孔質基材の各流路2の内壁表面にはMF膜が成膜されている。UF膜用コート液は、当該流路内を下から上に送液される。
UF膜用コート液の循環を行いながら、多孔質基材の2次側から真空ポンプで真空吸引を行う。真空トラップに所定量のUF膜用に濾過されたコート液が貯まったら、真空ポンプを停止し、ドレインバルブ及びエアー抜きバルブを開けて多孔質基材内のUF膜用コート液を排出する。
クロスフロー濾過装置のチャンバー3内に垂直配置して行われるUF膜用の成膜においては、真空ポンプ4による吸引を停止した後も残圧による濾過が行われるため、多孔質基材の上端部1aではUF膜が薄くなり、下端部1bではUF膜が厚くなる現象が生じる。
図4には、焼成後のUF膜の断面説明図を示している。図4に示すように、上下端部に欠陥5、6(上端部ではUF膜が形成されない部分が生じ、下端部ではクラックが生じるが生じる)確率が高くなる。なお、該欠陥部は各両端部から20〜50mmの位置に集中して発生する。該欠陥部は、多孔質基材の長さによらず、各両端部から20〜50mmの位置に集中して発生するため、多孔質基材の長さを150mmとした場合、上下端部50mmに位置する欠陥部の存在率は、(50+50)÷150×100=67%となる。欠陥部の存在率を低下させるためには、多孔質基材の長さを長くすればよく、例えば、多孔質基材の長さを1000mmとした場合には、上下端部50mmに位置する欠陥部の存在率は、(50+50)÷1000×100=10%とすることができる。ただし、基材の取扱の観点からは、多孔質基材の長さを1000mm程度に留めることが好ましい。
(NF膜の形成工程)
NF膜用のTiOゾル液は、イソプロピルアルコールにテトラ-イソ-プロポキシチタンを溶解させて溶液1を作製し、溶液を3〜5℃に冷却させる。また、イソプロピルアルコールに硝酸を添加して溶液2を作製し、溶液2を3〜5℃に冷却する。次に、溶液1と溶液2を混合した後、50度〜60℃にて恒温槽で10〜20時間静置させて造粒させる。これにより、粒子径が80nm程度のTiOゾル液が得られる。この状態でのpHは1〜2となる。このゾル液をイオン交換水、PVA(ポリビニルアルコール)と混合してNF膜用コート液が得られる。
該NF膜用コート液を循環液として前記UF膜上にNF膜を製膜する。NF膜用コート液は、当該流路内を下から上に送液される。
図5には、ゾル液の恒温槽での造粒温度と粒子径との関係を表わすグラフを示している。図5に示すように、50度〜60℃で造粒すると粒子径が80nm程度となるのに対し、40℃で造粒すると40〜50nm程度、25℃で造粒すると20nm程度となる。
図6には、各温度で造粒した粒子を含有するNF膜用コート液を用いた各NF膜で、各分子量標準物質の阻止率を測定して得られた分画曲線を示している。分子量標準物質としては、PEG200、PEG1000、PEG4000、PEG6000を用いた。それぞれの平均分子量は、200、1000、3000、7500である。
本発明は、分画分子量が2000〜3000g/molのNF膜を対象とするものであるため、透水性の観点から分子量1000以下の分子に対する阻止率は小さいほど好ましい。分画分子量は特定の分子量を持つ物質を90%以上阻止可能な細孔膜サイズを表わすものであり、例えば、PEG2000〜3000g/molの膜とは、分子量2000〜3000g/molのポリエチレングリコール(PEG)を90%以上阻止可能な細孔膜サイズを有する膜をいう。
NF膜を形成する粒子と粒子の隙間が、分子量2000〜3000g/molのPEGよりも小さいものは、該PEG2000〜3000g/molを原則として阻止する。すなわち、阻止率は、粒子と粒子の隙間サイズに規定される。そして、各粒子サイズが小さいほど、粒子と粒子の隙間サイズは小さくなる。しかし、粒子サイズが小さくなるに従って隙間も小さくなるため、阻止目的サイズ以下の分子も阻止されやすくなり、膜ろ過流束が低下する傾向がある。更に、粒子サイズが小さすぎる場合には、該粒子が、前記UF膜の上下端部に発生する欠陥部5、6を透過してしまうため、該部分にNF膜層自体が成膜できない問題が生じる。
以上より、最適な粒子サイズの最大値は、「該粒子間隙が、阻止目的とする分子サイズよりも小さいこと」を必須条件として規定される。一方、最適な粒子サイズの最小値は、「前記UF膜の上下端部に発生する欠陥部を透過不可能であること」を必須条件として規定される。さらに、最適な粒子サイズの最小値は、「該粒子間隙と阻止目的分子サイズが近似すること」を最適条件として規定される。
本実施形態では、50〜60℃での造粒によって粒子径が80nm程度となった粒子を、前記の最適サイズとして採用した。
本発明は分画分子量が2000〜3000g/molのNF膜を対象とするものであるが、図6に示すように、当該最適サイズの粒子を用いて形成したNF膜は、分子量2000〜3000g/molサイズの分子は90〜98%近く透過阻止するのに対し、分子量1000g/molサイズの分子の透過阻止率は50%以下に留まり、目的物を選択的に阻止可能な、膜処理効率に優れた膜となっている。これに対し、40℃での造粒によって得られた粒子(粒子径:40〜50nm程度)を用いて形成したNF膜は、図6の分画曲線が緩やかになり、分子量1000g/molサイズの分子も既に70%透過阻止するため、膜ろ過流束が低くなり、膜処理効率に劣るものとなっている。また、25℃での造粒によって得られた粒子(粒子径:20nm程度)、を用いて形成したNF膜は、分画分子量が2000〜3000g/molの膜が得られず、5000程度となった。
1 モノリス形状の多孔質基材
1a 上端部
1b 下端部
2 流路
3 チャンバー
4 真空ポンプ
5 上部欠陥部
6 下部欠陥部

Claims (2)

  1. 内部を貫通する複数の流路を備えた柱状形状の多孔質基材の該流路を垂直に立て、クロスフロー濾過法によって該流路表面に限外ろ過膜層を形成する限外ろ過膜層形成工程と、
    限外ろ過膜層に積層してナノろ過膜層を形成するナノろ過膜形成工程を有し、
    該ナノろ過膜形成工程は、
    ナノろ過膜用コート液準備工程と、
    限外ろ過膜層形成後の柱状形状多孔質基材を垂直に立て、クロスフロー濾過法により該ナノろ過膜用コート液を限外ろ過膜層上に積層してナノろ過膜層を成膜する工程と、
    成膜されたナノろ過膜層を乾燥後焼成する工程とからなり、
    該ナノろ過膜用コート液準備工程は、
    イソプロピルアルコールにテトラ-イソ-プロポキシチタンを溶解した溶液と、イソプロピルアルコールに硝酸、塩酸、硫酸のうち何れかを添加して3〜5℃に冷却した溶液とを混合して得られたTiOゾル原液を50℃〜60℃の恒温槽で10〜20時間静置させて、TiO ゾル原液に含有されるコロイド粒子径が80〜150nmとなるように造粒する工程と、造粒後のTiOゾル原液を希釈してナノろ過膜用コート液とする工程からなることを特徴とするナノろ過膜の製造方法。
  2. 前記TiO ゾル原液に含有されるコロイド粒は、ナノろ過膜の骨材粒子径の粒子間隙と該ナノろ過膜の分画分子量となる分子サイズが近似する粒子径を有し
    該粒子径の最小値が、前記限外ろ過膜層形成工程において限外ろ過膜の上下端部に発生する膜厚異常に起因した限外ろ過膜層欠陥部を透過不可能なサイズ、として規定され、
    該粒子径の最大値が、ナノろ過膜の骨材粒子径の粒子間隙が、該ナノろ過膜の分画分子量となる分子サイズよりも小さくなるサイズ、として規定される
    ことを特徴とする請求項1記載のナノろ過膜の製造方法。
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