以下、本発明を図面に示す実施形態により説明する。
図1から図4は、本実施形態のミシンの押さえ上げ装置の実施形態を示すものであり、図1は本発明に係るミシンの押さえ上げ装置を備えたミシンの要部の模式的外観正面図、図2は本発明に係るミシンの押さえ上げ装置の要部の分解斜視図、図3は要部の斜視図、図4は要部の概略正面図である。
図1に示すように、本実施形態のミシンの押さえ上げ装置10(以下、単に押さえ上げ装置10と記す。)を備えたミシン1は、ミシン本体2を有している。このミシン本体2は、図示しない縫製物としての布地(生地)に縫い目を形成して縫製を行うためのものであり、例えば、本縫いミシンが用いられている。
前記ミシン本体2のミシンフレーム3は、ベッド部3aと、ベッド部3aの上方にベッド部3aと平行に延在するアーム部3bと、ベッド部3aとアーム部3bとをアーム部3bの自由端側とは反対側の基端側で接続する連結縦胴部3cとを具備する全体としてコ字状をなす一般的なフレーム構造とされている。
また、工業用に用いられるミシンは、ミシン本体2がミシンテーブルTに載置されているのが一般的である。さらに、ミシン本体2としては、本縫いミシンに限らず、縫い目の種類などに応じて本縫い2本針ミシン、本縫い2本針片針ミシンなどの種々のものを用いることができる。さらにまた、縫製物としては、布地だけでなく皮革などのミシンにより縫製が施される種々のものを用いることができる。
ここで、説明の便宜上、後述する押さえ棒11(布押さえ13)の移動方向に沿った上方を上側US、下方を下側DSとし、押さえ棒11の移動方向と直交する方向であってアーム部3bの長手方向の連結縦胴部側を右側RS、アーム部3bの自由端側を左側LSとし、押さえ棒11の移動方向およびアーム部3bの長手方向の双方に直交する方向であって操作者が縫製を行う際に対峙する方向を前側FS、その反対側を後側BSとして以下に説明する。
前記アーム部3bの左側LSに示す自由端側には、ベッド部3aに向かって突出するあご部4が形成されており、このあご部4には、押さえ棒11が配設されている。この押さえ棒11は、その下端部があご部4のベッド部3aと対向する下面からベッド部3aの針落ち位置に配置された針板5に向かって突出するように配設されており、あご部4に配設された押さえ棒軸受12によって、上下方向に移動(上下移動)可能に支持されている。また、押さえ棒11の下端部には、布押さえ13が着脱自在に取り付けられている。さらに、押さえ棒11の上端部には平面ほぼ矩形状に形成された抱き14が着脱自在に取り付けられている。
図2に示すように、押さえ棒11は、下端が押さえ棒11の上端面に当接され、上端がミシンフレーム3のアーム部3bの上面にねじ込まれた調節ねじ15により圧縮状態とされた圧縮コイルばねにより形成された押さえばね16により下方へ押圧されている。
すなわち、押さえ棒11は、常時は押さえばね16のばね力である押圧力により下降位置に保持されており、布押さえ13は、押さえばね16の押圧力をもって常に縫製物が載置されるベッド部3a、詳しくはベッド部3aの上面の針落ち位置に設けられた針板5に向かって付勢されて当接されている。
前記押さえ棒11を下方へ押圧している押さえばね16の下方への押圧力は、調節ねじ15のねじ込み量、すなわち、調節ねじ15のミシンフレーム3のアーム部3bの上面からの高さ(長さ)によって調節されるようになっている。さらに、調節ねじ15の高さ位置は、調節ねじ15に螺合されたナット17によって保持されている。なお、調節ねじ15の頭部およびナット17は、ミシンフレーム3のアーム部3bの上面の外部に配置されており、外部から操作可能に形成されている。
前記抱き14の後側BSに位置する側面の右側RSには、平面矩形状の摺動部14aがその先端を後側BSに向けて突出するように形成されている。この摺動部14aの先端部は、ミシンフレーム3のあご部4の内部に上下方向に沿って設けられたガイド溝18に挿入されている。このガイド溝18は、押さえ棒11がその周方向に沿って回転するのを防止するための回り止めとしての機能を発揮するものである。
前記押さえ棒11が下降位置に保持されている状態においては、ガイド溝18の下端面が摺動部14aの上端面より下方に位置するように形成されており、摺動部14aの先端部がガイド溝18に挿入された状態を保持するように構成されている。この押さえ棒11は、後に詳しく述べる手動レバー20の操作により、最も上方に移動された最大上昇位置に位置している状態においては、摺動部14aの先端部の下面がガイド溝18の上端面より上方に位置するように形成されており、摺動部14aがガイド溝18からガイド溝18の長手方向の上端側から抜けるように構成されている(図13参照)。
すなわち、本実施形態の押さえ上げ装置10においては、押さえ棒11、ひいては布押さえ13が最大上昇位置に到達したときに、抱き14の摺動部14aがガイド溝18から抜けるように、ガイド溝18の長さと位置が設定されている。そして、抱き14の摺動部14aがガイド溝18から抜けた状態では、布押さえ13を人手によって押さえ棒11を中心として揺動させて布押さえ13の向きを変えることができるように構成されている。
前記布押さえ13が最大上昇位置に到達したときに、抱き14の摺動部14aがガイド溝18から抜ける構成により、本実施形態の布押さえ13が最大上昇位置に到達したときに、押さえ棒11を中心として布押さえ13の向きを変える押さえ方向変更手段19が構成されている。
図2から図4に示すように、本実施形態の押さえ上げ装置10は、布押さえ13を上昇させる押さえ上げ操作を手動により行うための手動レバー20を有している。この手動レバー20は、ミシンフレーム3のアーム部3bのあご部4の後側BSに位置する側面に配置されており、前後方向を中心として揺動操作可能にされている。そして、手動レバー20の基部は、ミシンフレーム3に、その内外を貫通するように揺動可能に支持されているレバー支持軸21のミシンフレーム3の内部に突出する後端部に取り付けられている。このレバー支持軸21のミシンフレーム3の内部に突出する前端部には、リンク駆動カム22が取り付けられている。また、リンク駆動カム22は正面ほぼ三角形状に形成されており、3つの頂部のうちの上側USに配置されているものが後述する引き上げリンク23を作動させる駆動頂部22aとされている。
本実施形態の押さえ上げ装置10は、押さえ上下動手段としての引き上げリンク23を有している。この引き上げリンク23は、上下方向に延在する駆動腕24と、この駆動腕24の下部から左側LSに延出された従動腕25とにより、全体として正面ほぼベルクランク状に形成されている。また、引き上げリンク23は、その駆動腕24と従動腕25とが接続する基部をミシンフレーム3に固定された図示しない支持板に取り付けられたリンク用段ねじ26により揺動自在に支持されている。すなわち、引き上げリンク23は、リンク用段ねじ26を中心として揺動自在に支持されている。
前記引き上げリンク23には、リンク用段ねじ26を中心とする所定長さの円弧状のリンク用ガイド孔27が形成されており、このリンク用ガイド孔27に対して図示しない支持板に取り付けられたガイド用段ねじ28を挿通することにより、引き上げリンク23の揺動範囲が設定されている。すなわち、引き上げリンク23の揺動範囲は、リンク用ガイド孔27の長さによって規制されている。
前記引き上げリンク23の駆動腕24の左側LSの面は、リンク駆動カム22の駆動頂部22aが接離されるカム当接面29とされており、リンク駆動カム22の作動に連動してリンク駆動カム22の駆動頂部22aがカム当接面29に当接して摺動することにより、引き上げリンク23が揺動されるようになっている。
前記カム当接面29には、リンク駆動カム22が出入り自在な複数位置保持手段としての2つの凹部30が形成されている。これら2つの凹部30のうちの上側USに位置する一方は、布押さえ13の上昇位置を縫製に供する縫製物をセットする際のセット位置に保持するための第1凹部30aとされ、下側DSに位置する他方は、布押さえ13の上昇位置をセット位置より上方のメンテナンスに供する際のメンテナンス位置に保持するための第2凹部30bとされている。
すなわち、本実施形態の押さえ上げ装置10においては、2つの凹部30により、布押さえ13を2個の上昇位置のいずれかに保持することができるようになっている。
なお、布押さえ13の上昇位置の個数としては、設計コンセプトなどの必要に応じて3個以上とすることができる。
また、カム当接面29に設ける凹部30の数と位置により、布押さえ13の上昇位置およびその個数を容易に設定することができる。
さらに、本実施形態のメンテナンス位置は、布押さえ13の最大上昇位置に設定されている。すなわち、本実施形態における布押さえ13の最大上昇位置は、メンテナンス位置を兼ねるように形成されている。
なお、布押さえ13のセット位置と最大上昇位置との間にメンテナンス位置を設ける構成としてもよいし、布押さえ13のセット位置と最大上昇位置との間と、最大上昇位置とのそれぞれに2つのメンテナンス位置を設けて使い分けする構成としてもよい。勿論、布押さえ13のセット位置と最大上昇位置との間にメンテナンス位置を設け、最大上昇位置を厚さの厚い縫製物のセット位置とする構成としてもよいし、布押さえ13のセット位置と最大上昇位置との間に厚さの厚い縫製物のセット位置を設け、最大上昇位置をメンテナンス位置とする構成としてもよい。
前記引き上げリンク23の駆動腕24の先端部には、連結棒31の一端が取り付けられており、連結棒31の他端は、図示しない押さえ上げリンク、連結棹をこの順に介して操作者の膝により作動される膝上げ装置、あるいは、押さえ上げリンク、リンクチェーンをこの順に介して操作者の足により作動される操作ペダルに接続されており、従来と同様に、膝上げ装置あるいは操作ペダルによる布押さえ13を上昇させる押さえ上げ操作を行うことができるように形成されている。但し、膝上げ装置あるいは操作ペダルによる布押さえ13を上昇させる押さえ上げ操作時には、引き上げリンク23の揺動によってもカム当接面29がリンク駆動カム22から離間した状態を保持するように形成されている。すなわち、膝上げ装置あるいは操作ペダルによる押さえ上げ操作は、縫製に供する縫製物の位置合わせ、詳しくは、縫製開始直前にベッド部3aに載置した縫製に供する縫製物をベッド部3aの上面に沿ってわずかに移動して針下に縫い位置を合わせる操作を円滑に、しかも容易かつ確実に行うことができるように、布押さえ13をわずかに上昇(セット位置より下方)させるようにされており、手動レバー20の操作による押さえ上げ操作は単独で行うことができるように構成されている。
前記引き上げリンク23の従動腕25の先端部には、引き上げ板32の上端部が連結軸33により揺動自在に支持されており、引き上げ板32の下端部はU字状に折り曲げられ、その折り曲げられた上端面は引き上げ部34とされて、抱き14の下面に対向配置されている。また、引き上げ板32には、抱き14の摺動部14aが挿通される上部が開口の切欠き35が形成されている。
前記引き上げリンク23の前側FSには、上糸張力解除手段としての糸緩め板36が配置されている。この糸緩め板36は、ほぼ上下方向に延在する入力腕37と、この入力腕37の右側RS面の下部から入力腕37の厚さ方向に沿って前側FSに延出された出力腕38とを備えている。また、糸緩め板36は、入力腕37の下部に位置する基部をミシンフレーム3に固定された図示しない支持板に取り付けられた緩め板用段ねじ39により揺動自在に支持されている。すなわち、糸緩め板36は、緩め板用段ねじ39を中心として揺動自在に支持されている。
前記入力腕37の上部近傍には、緩め板用段ねじ39を中心とする所定長さの円弧状の緩め板用ガイド孔40が形成されており、この緩め板用ガイド孔40に対してリンク用段ねじ26を挿通することにより、糸緩め板36の揺動範囲が設定されている。すなわち、糸緩め板36の揺動範囲は、緩め板用ガイド孔40の長さによって規制されている。
前記入力腕37の上部には、切替板41の先端部分の外周面が接離される駆動突起42がほぼ上方に向かって突設されており、駆動突起42の右側RSには、糸緩め板36の厚さ方向に沿って前側FSに延出された取付部43が形成されており、この取付部43には、ワイヤー44の一端が取り付けられている。そして、ワイヤー44の他端は、糸切り信号により作動するソレノイドの作動ロッド(出力軸:図示せず)に接続されている。
前記出力腕38の先端には、カム面45が設けられている。このカム面45は、上端が前側FSに位置し、下端が後側BSに位置するように傾斜配置されており、切替板41を駆動突起42に当接させることにより作動する糸緩め板36の揺動により、糸緩めピン46を前側FSに向かって押圧することにより、図示しない糸調子器による上糸への張力付与が解除できるようになっている。なお、カム面45が糸緩めピン46を押圧していない状態においては、糸調子器の1対の糸調子皿が閉じることにより上糸が挟持されて上糸への張力が付与されており、糸緩めピン46の作動により1対の糸調子皿を開くことで上糸への張力付与が解除されることになる。
前記引き上げリンク23の前面であって、駆動腕24の中間部分のリンク用ガイド孔27の上側USには、切替板41が配置されている。この切替板41は、その基部が支持ピン47により揺動自在に支持されている。すなわち、切替板41は、支持ピン47を中心として揺動自在に支持されている。また、切替板41の先端部(自由端部)にはねじ孔48が形成されており、このねじ孔48には引き上げリンク23の後側BSから、引き上げリンク23に支持ピン47を中心とする所定長さの円弧状の移動用ガイド孔49を介して取付ねじ50がねじ込まれている。
すなわち、切替板41は、移動用ガイド孔49により揺動範囲が設定されており、取付ねじ50を緩めることによって、その先端部を移動用ガイド孔49の長手方向に沿った任意の位置に移動させることができるとともに、その移動位置で取付ねじ50をねじ込むことによって引き上げリンク23に固定することができるようになっている。
したがって、切替板41の取付位置、詳しくは、支持ピン47を中心とした切替板41の先端部の取付角度を容易に変更することができるようになっている。
また、本実施形態における切替板41は、図4および図5の実線にて示す切替板41の先端部が移動用ガイド孔49の上側USに位置する第1取付位置と、図5の短い破線にて示す切替板41の先端部が移動用ガイド孔49の長手方向の中間に位置する第2取付位置と、図5の長い破線にて示す切替板41の先端部が移動用ガイド孔49の下側DSに位置する第3取付位置との3つの取付位置のいずれかを選択的に取り得るように移動可能とされている。
前記第1取付位置は、布押さえ13の下降位置、セット位置および最大上昇位置のすべてにおいて切替板41が糸緩め板36を作動させずに、糸調子器による上糸の張力を解除しない張力保持位置とする位置である。
すなわち、第1取付位置は、布押さえ13の下降位置、セット位置およびメンテナンス位置のすべてにおいて切替板41を張力保持位置とする取付位置である。
前記第2取付位置は、布押さえ13の下降位置およびセット位置においては切替板41が糸緩め板36を作動させずに、糸調子器による上糸の張力を解除しない張力保持位置とし、メンテナンス位置においては切替板41が糸緩め板36を作動させて、糸調子器による上糸の張力を解除する張力解除位置とする位置である。
すなわち、第2取付位置は、布押さえ13の下降位置およびセット位置において切替板41を張力保持位置とし、メンテナンス位置において切替板41を張力解除位置とする取付位置である。
前記第3取付位置は、布押さえ13の下降位置においては切替板41が糸緩め板36を作動させずに、糸調子器による上糸の張力を解除しない張力保持位置とし、セット位置およびメンテナンス位置においては切替板41が糸緩め板36を作動させて、糸調子器による上糸の張力を解除する張力解除位置とする位置である。
すなわち、第3取付位置は、布押さえ13の下降位置において切替板41を張力保持位置とし、セット位置およびメンテナンス位置において切替板41を張力解除位置とする取付位置である。
前記膝上げ装置、糸調子器を含むミシン1のその他の構成については、従来の押さえ上げ装置を具備するミシンと同様に構成されているので、その詳しい説明については省略する。
また、押さえ上げ装置10のその他の構成についても、従来の押さえ上げ装置と同様に構成されているので、その詳しい説明についても省略する。
つぎに、前述した構成からなる本実施形態の作用について説明する。
なお、本発明に係るミシンの押さえ上げ装置10は、手動レバー20の操作による押さえ上げ動作に特徴があるので、この手動レバー20の操作による押さえ上げ動作についてのみ以下に説明する。
本実施形態の押さえ上げ装置10においては、まず、切替板41の取付位置をミシンの仕様に応じて移動する。例えば、本縫いミシンでは、切替板41の取付位置を第1取付位置とし、本縫い2本針ミシンでは、切替板41の取付位置を第2取付位置とし、本縫い2本針片針ミシンでは切替板41の取付位置を第3取付位置とする。この切替板41の取付位置の選択(移動)は、前述したように、取付ねじ50を緩めることによって、支持ピン47を中心として切替板41の先端部を移動し、その移動位置で取付ねじ50をねじ込むことによって引き上げリンク23に固定することにより実行する。
ここで、切替板41の取付位置を第1取付位置とした場合の手動レバー20の操作による押さえ上げ動作について以下に説明する。
図1から図4は、布地をセットする前あるいは縫製動作が終了して布地を取り除いた待機状態を示したものであり、この待機状態においては、押さえ棒11とともに布押さえ13が下降している。そして、布押さえ13は、図6に示すように、針板5上に押さえばね16の押圧力をもって上方から当接して下降位置を保持している。また、切替板41は第1取付位置に取り付けられており、糸緩め板36の駆動突起42の左側LSに離間している。さらに、リンク駆動カム22は、その駆動頂部22aを上側USに向けているとともに、引き上げリンク23の駆動腕24の左側LS面と対向するように離間している。また、図7に示すように、抱き14の摺動部14aの先端部がガイド溝18に挿入されており、押さえ棒11がその周方向に沿って回転するのを防止しているとともに、布押さえ13の向きを規制している。なお、布押さえ13の向きは、その先端部(縫製方向上流側)が前側FSを向くように規制されている。
本実施形態の押さえ上げ装置10による押さえ上げ動作は、布押さえ13を縫製に供する布地などの縫製物を針板5上にセットする際のセット位置に上昇させる場合と、布押さえ13をセット位置より上方のメンテナンスに供する際のメンテナンス位置を兼ねた最大上昇位置に上昇させる場合とに、手動レバー20を操作して実行する。そして、手動レバー20を図4の矢印にて示す時計方向、すなわち、前側FSから見て時計方向(後側BSから見ると反時計方向)に操作すると、手動レバー20に連動するリンク駆動カム22がレバー支持軸21を中心として前側FSから見て時計方向へ揺動する。このリンク駆動カム22の揺動により、リンク駆動カム22の駆動頂部22aが移動の途中で引き上げリンク23の駆動腕24に形成されているカム当接面29に当接し、その後、駆動頂部22aは、カム当接面29を右側RSに押圧するようにカム当接面29に摺動しつつ移動する。
この時、駆動頂部22aがカム当接面29を右側RSに押圧する押圧力により、引き上げリンク23は、リンク用段ねじ26を中心として図4の矢印にて示す時計方向に揺動する。すなわち、引き上げリンク23は手動レバー20に連動して作動する。この引き上げリンク23の作動により、引き上げリンク23の従動腕25に連結されている引き上げ板32が連動して上方へ移動する。そして、引き上げ板32は、上昇の途中で、引き上げ部34が抱き14の下端部に当接し、その後、押さえばね16の押圧力に抗して抱き14をともなって上方へ移動する。この抱き14の上昇により、布押さえ13も上方へ移動する。
この時、抱き14の摺動部14aの先端部がガイド溝18の内部を上昇するので、布押さえ13の向きを待機状態と同一に保持できる。また、摺動部14aが切欠き35に挿通されているので、引き上げ板32の姿勢が保持される。
ついで、リンク駆動カム22の駆動頂部22aの移動位置が第1凹部30aに到達すると、駆動頂部22aが第1凹部30aに入り込む。これにより、駆動頂部22aが第1凹部30aに当接し、リンク駆動カム22の移動が停止して、布押さえ13の上昇位置がセット位置に保持されることになる。
この時、切替板41が第1取付位置に取り付けられているので、糸緩め板36は作動せず、糸調子器による上糸の張力を解除しない張力保持位置を保持している。この布押さえ13がセット位置に保持されたときの切替板41が第1取付位置に取り付けられたリンク駆動カム22の状態を図8に示す。また、布押さえ13がセット位置に上昇して保持された状態を図9に示す。さらに、抱き14の摺動部14aの先端部がガイド溝18に挿入されており、押さえ棒11がその周方向に沿って回転するのを防止しているとともに、布押さえ13の向きが待機状態と同一に保持されている。この布押さえ13がセット位置に上昇して保持されたときの抱き14とガイド溝18との関係を図10に示す。
なお、布押さえ13の上昇位置がセット位置に保持されたときに、切替板41が第2取付位置に取り付けられている場合にも、糸緩め板36は作動せず、糸調子器による上糸の張力を解除しない張力保持位置を保持している。
また、布押さえ13の上昇位置がセット位置に保持されたときに、切替板41が第3取付位置に取り付けられている場合には、切替板41が糸緩め板36の駆動突起42に当接して、糸緩め板36が緩め板用段ねじ39を中心として図4の時計方向に揺動するように作動する。この糸緩め板36の作動により、カム面45が糸緩めピン46を前側FSに向かって押圧して、糸調子器による上糸の張力を解除する張力解除位置を保持する。
ここで、布押さえ13をメンテナンス位置(本実施形態においては最大上昇位置を兼ねる)に上昇させる場合には、手動レバー20を前側FSから見て図8の矢印にて示す時計方向にさらに操作する。すると、リンク駆動カム22の駆動頂部22aが第1凹部30aを乗り越えて移動する。この移動により、リンク駆動カム22の駆動頂部22aは、カム当接面29と摺動しつつさらに移動する。この時、駆動頂部22aがカム当接面29を右側RSに押圧する押圧力により、引き上げリンク23は、リンク用段ねじ26を中心として図8の矢印にて示す時計方向にさらに揺動する。この引き上げリンク23の作動により、引き上げリンク23の従動腕25に連結されている引き上げ板32が連動してさらに上方へ移動する。そして、引き上げ板32は、押さえばね16の押圧力に抗して抱き14をともなってさらに上方へ移動する。この抱き14のさらなる上昇により、布押さえ13もさらに上方へ移動する。
この時、抱き14の摺動部14aの先端部がガイド溝18の内部を上昇するので、布押さえ13は、その向きを待機状態と同一に保持しつつ上昇する。
ついで、リンク駆動カム22の駆動頂部22aの移動位置が第2凹部30bに到達すると、駆動頂部22aが第2凹部30bに入り込む。これにより、駆動頂部22aが第2凹部30bに当接し、リンク駆動カム22の移動が停止して、布押さえ13の上昇位置がメンテナンス位置に保持されることになる。
この時、切替板41が第1取付位置に取り付けられているので、糸緩め板36は作動せず、糸調子器による上糸の張力を解除しない張力保持位置を保持している。この布押さえ13がメンテナンス位置に保持されたときの切替板41が第1取付位置に取り付けられたリンク駆動カム22の状態を図11に示す。また、布押さえ13がメンテナンス位置に上昇して保持された状態を図12に示す。さらに、布押さえ13がメンテナンス位置に保持された状態では、図13に示すように、抱き14の摺動部14aの先端部がガイド溝18の上方へ抜けた状態となる。これにより、図13の破線にて示すように、押さえ棒11を中心として抱き14を揺動させることができる。すなわち、布押さえ13を人手によって押さえ棒11を中心として揺動させて布押さえ13の向きを変えることができる。また、布押さえ13の向きを変えた場合、摺動部14aの先端部の下面がガイド溝19の上端面と対向するので、布押さえ13が針板5に向かって下降するのを確実に防止することができる。
なお、布押さえ13の上昇位置がメンテナンス位置に保持されたときに、切替板41が第2取付位置および第3取付位置に取り付けられている場合には、切替板41が糸緩め板36の駆動突起42に当接して、糸緩め板36が緩め板用段ねじ39を中心として図8の時計方向に揺動するように作動する。この糸緩め板36の作動により、カム面45が糸緩めピン46を前側FSに向かって押圧して、糸調子器による上糸の張力を解除する張力解除位置を保持する。この布押さえ13がメンテナンス位置に保持されたときの切替板41が第3取付位置に取り付けられたリンク駆動カム22の状態を図14に示す。
また、布押さえ13をセット位置あるいはメンテナンス位置から下降位置(待機状態)に復帰させるには、手動レバー20を逆方向、すなわち、前側FSから見て反時計方向(後側BSから見ると時計方向)に操作する。
さらに、本実施形態と異なり、セット位置と最大上昇位置との間にメンテナンス位置を設ける構成、すなわち、メンテナンス位置の上方に布押さえ13の最大上昇位置を設ける構成とした場合には、最大上昇位置において、布押さえ13の方向を変更するように構成することもできるし、変更できないように構成することもできる。ここで、最大上昇位置において布押さえ13の方向を変更できない構成は、最大上昇位置において抱き14の摺動部14aの先端部に個別のガイド溝18を配置することにより実現できる。また、セット位置と最大上昇位置との間にメンテナンス位置を設ける構成は、第1凹部30aと第2凹部30bとの間に凹部30を設けることにより実現できる。
このような構成からなる本実施形態の押さえ上げ装置10によれば、複数位置保持手段は、手動レバー20を操作して布押さえ13の上昇位置を複数位置に確実に保持させることができる。その結果、布押さえ13の針板5からの高さ位置である上昇位置を用途に応じて設定することができるので、ミシン1の使い勝手を向上させることができる。
また、本実施形態の押さえ上げ装置10によれば、複数位置保持手段が、引き上げリンク23のカム当接面29に形成されているリンク駆動カム22の駆動頂部22aが出入り自在な凹部30であるから、手動レバー20を操作して布押さえ13の上昇位置を複数位置に確実かつ容易に保持させることができるし、複数位置保持手段を簡単な構成にすることができる。
さらに、本実施形態の押さえ上げ装置10によれば、複数位置保持手段としての第1凹部30aにより、布押さえ13をセット位置に保持させることができ、複数位置保持手段としての第2凹部30bにより布押さえ13をセット位置より上方のメンテナンスに保持させることができるので、縫製物のセット時およびメンテナンス時における布押さえ13の上昇位置を異なる位置に設定することができる。また、メンテナンス位置を厚さの厚い縫製物のセット位置として用いることもできる。その結果、ミシン1の使い勝手をより向上させることができる。
すなわち、本実施形態の押さえ上げ装置10によれば、引き上げリンク23のカム当接面29に、布押さえ13を縫製に供する縫製物をセットする際のセット位置に保持するための第1凹部30aと、セット位置より上方のメンテナンス位置に保持させるための第2凹部30bとの少なくとも2つの凹部30が形成されており、手動レバー20の操作により、リンク駆動カム22の駆動頂部22aを第1凹部30aおよび第2凹部30bのいずれかに選択的に当接させて、布押さえ13をセット位置とメンテナンス位置とのいずれかに保持するように形成されているから、布押さえ13の針板5からの高さ位置である上昇位置を用途に応じて設定することができるので、ミシン1の使い勝手を向上させることができる。
さらにまた、本実施形態の押さえ上げ装置10によれば、押さえ方向変更手段19は、布押さえ13を少なくともメンテナンス位置に保持させたときに、人手をもって布押さえ13を、押さえ棒11を中心として確実かつ容易に揺動させることができるので、布押さえ13の向き、詳しくは布押さえ13の先端部(縫製方向上流側)の向きを容易に変えることができる。その結果、例えば、本縫い2本針ミシンのように、布押さえ13の下方に左右1対の釜を備えたミシンでは、左側LSの釜のメンテナンス時には布押さえ13の先端部を右側RSによけ、右側RSの釜のメンテナンス時には布押さえ13の先端部を左側LSによけることができるので、布押さえ13を押さえ棒11から外さずにメンテナンスを行うことができる。その結果、ミシン1の使い勝手をより向上させることができる。
また、本実施形態の押さえ上げ装置10によれば、切替板41、糸緩め板36および糸緩めピン46が設けられているから、切替板41により糸緩め板36を作動させて、糸緩めピン46により糸調子器による上糸への張力付与を解除することができる。また、切替板41が、第1、第2および第3取付位置の3つの取付位置のいずれかを選択的に取り得るように移動可能に形成されているから、下降位置、セット位置およびメンテナンス位置のすべてにおいて上糸の張力を保持する構成としたり、下降位置およびセット位置において上糸の張力を保持し、メンテナンス位置において上糸の張力を解除する構成としたり、下降位置において上糸の張力を保持とし、セット位置およびメンテナンス位置において上糸の張力を解除する構成とすることができる。
例えば、本縫い2本針片針ミシンにおいて、布押さえ13を上げて片針切替にて縫製物を回すときには、布押さえ13は上昇させたいが上糸の張力は解除したくない(1対の糸調子皿が閉じた状態を保持したい)。これは、1対の糸調子皿を開いた状態として上糸の張力を解除すると、上糸が弛んで縫いに悪影響を及ぼすからである。ここで、上糸の張力を解除する(1対の糸調子皿が開いた状態にする)と、上糸を糸調子器に通す際の作業性が向上する。
そこで、本実施形態の押さえ上げ装置10においては、切替板41の取付位置を第2取付位置にすることにより、セット位置において1対の糸調子皿が閉じた張力保持位置とし、メンテナンス位置において1対の糸調子皿が開いた張力解除位置とすることができるので、上糸を糸調子器に通すときだけ1対の糸調子皿を開ける構成を容易かつ確実に得ることができる。その結果、ミシン1の使い勝手をよりさらに向上させることができる。
なお、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、必要に応じて種々の変更が可能である。