第1の実施の形態.
図1は第1の実施の形態に係るインバータの概念的な構成の一例を示している。インバータは、入力端P1,P2と、上側スイッチング部S1,S3,S5と、下側スイッチング部S2,S4,S6と、複数の出力端P3〜P5とを備えている。
入力端P1には第1電位が与えられる。入力端P2には第1電位よりも低い第2電位が与えられる。言い換えると、入力端P1,P2の間には、入力端P1を高電位側とする直流電圧が印加される。
出力端P3〜P5には負荷、ここでは例えば三相モータM1が接続される。
上側スイッチング部S1,S3,S5は入力端P1と出力端P3〜P5の各々との間に設けられている。下側スイッチング部S2,S4,S6は入力端P2と出力端P3〜P5の各々との間に設けられている。
上側スイッチング部S1は複数のスイッチング素子の一例たるMOS電界効果トランジスタ(以下、MOSトランジスタと呼ぶ)Q11,Q12と、環流ダイオードD1とを備えている。
MOSトランジスタQ11,Q12は、それぞれ入力端P1側にドレイン電極を、入力端P2側にソース電極を向けて、相互に直列に接続されている。MOSトランジスタQ11,Q12は、それぞれ寄生ダイオードD11,D12を有している。寄生ダイオードD11,D12は入力端P2側にアノードを、入力端P1側にカソードをそれぞれ呈している。なお、MOSトランジスタQ11,Q12は第1電流経路をなしていると把握できる。
なお、「MOS」という用語は、古くは金属/酸化物/半導体の積層構造に用いられており、Metal-Oxide-Semiconductorの頭文字を採ったものとされている。しかしながら特にMOS構造を有する電界効果トランジスタにおいては、近年の集積化や製造プロセスの改善などの観点からゲート絶縁膜やゲート電極の材料が改善されている。
例えばMOSトランジスタにおいては、主としてソース・ドレインを自己整合的に形成する観点から、ゲート電極の材料として金属の代わりに多結晶シリコンが採用されてきている。また電気的特性を改善する観点から、ゲート絶縁膜の材料として高誘電率の材料が採用されるが、当該材料は必ずしも酸化物には限定されない。
従って「MOS」という用語は必ずしも金属/酸化物/半導体の積層構造のみに限定されて採用されているわけではなく、本明細書でもそのような限定を前提としない。即ち、技術常識に鑑みて、ここでは「MOS」とはその語源に起因した略語としてのみならず、広く導電体/絶縁体/半導体の積層構造をも含む意義を有する。
環流ダイオードD1は入力端P2側にアノードを、入力端P1側にカソードをそれぞれ呈し、第1電流経路に対して並列に接続されている。言い換えれば、MOSトランジスタQ11,Q12の一組に並列に接続されている。なお、環流ダイオードD1は第2電流経路を成していると把握できる。そして、第2電流経路における環流ダイオードD1の個数は、第1電流経路におけるMOSトランジスタQ11,Q12の個数(換言すれば寄生ダイオードD11,D12の個数)よりも少ない。
上側スイッチング部S3は、複数のスイッチング素子の一例たるMOSトランジスタQ31,Q32と、環流ダイオードD3とを備えている。上側スイッチング部S5は、複数のスイッチング素子の一例たるMOSトランジスタQ51,Q52と、環流ダイオードD5とを備えている。これらは上側スイッチング部S1と同様の構成を有しているため、詳細な説明については省略する。
下側スイッチング部S2は複数のスイッチング素子の一例たるMOS電界効果トランジスタ(以下、MOSトランジスタと呼ぶ)Q21,Q22と、環流ダイオードD2とを備えている。
MOSトランジスタQ21,Q22は、それぞれ入力端P1側にドレイン電極を、入力端P2側にソース電極を向けて、相互に直列に接続されている。MOSトランジスタQ21,Q22は、それぞれ寄生ダイオードD21,D22を有している。寄生ダイオードD21,D22は入力端P2側にアノードを、入力端P1側にカソードをそれぞれ呈している。
環流ダイオードD2は入力端P2側にアノードを、入力端P1側にカソードをそれぞれ呈し、MOSトランジスタQ21,Q22の一組に並列に接続されている。環流ダイオードD2の数は寄生ダイオードD21,D22の数よりも小さい。
下側スイッチング部S4は、複数のスイッチング素子の一例たるMOSトランジスタQ41,Q42と、環流ダイオードD4とを備えている。下側スイッチング部S6は、複数のスイッチング素子の一例たるMOSトランジスタQ61,Q62と、環流ダイオードD6とを備えている。これらは下側スイッチング部S2と同様の構成を有しているため、詳細な説明については省略する。
このようなインバータにおいて、例えば外部のCPUから、各MOSトランジスタのゲート電極にスイッチ信号が与えられて、これらの導通/非導通が制御される。より具体的には、MOSトランジスタQ11,Q12の一組と、MOSトランジスタQ21,Q22の一組とは互いに相補的に導通され、MOSトランジスタQ31,Q32の一組と、MOSトランジスタQ41,Q42の一組とは互いに相補的に導通され、MOSトランジスタQ51,Q52の一組と、MOSトランジスタQ61,Q62の一組とは互いに相補的に導通される。ただし、上側スイッチング部が有するMOSトランジスタ及び下側スイッチング部が有するMOSトランジスタのいずれもが非導通となる期間(いわゆるデッドタイム)が採用されてもよい。以下、デッドタイムが採用された場合について説明する。
以下、上側スイッチング部S1と下側スイッチング部S2とから成る部分(以下、第1レグと呼ぶ)を例に採って、上記制御について説明する。なお、後述する他の態様(他の実施の形態で説明する態様を含む。以下、同様)についても第1レグを例に採って説明するが、他のレグにおいても同様である。また、以下の説明において、三相モータM1を流れる電流において、出力端から三相モータM1へと流れる方向を正、三相モータM1から出力端へと流れる方向を負と表現する。
例えば三相モータM1が力行状態であって三相モータM1へと正の電流が流れている場合に、MOSトランジスタQ11,Q12の一組が導通する状態からMOSトランジスタQ21,Q22の一組が導通する状態へ切り替える制御について説明する。図2は、かかる制御を実行したときの第1レグの時間的な変化の様子を示している。MOSトランジスタQ11,Q12の一組が導通状態、MOSトランジスタQ21,Q22の一組が非導通状態であるとき、入力端P1からMOSトランジスタQ11,Q12を介して出力端P3へと電流が流れている。これが図2の左側の第1レグにおいて実線矢印で示されている。
次に、MOSトランジスタQ11,Q12の少なくとも何れか一方を非導通とする。当該非導通以降、MOSトランジスタQ21,Q22の両方を導通させるまでの期間は、デッドタイムに相当する。当該非導通によってインバータの動作は環流モードとなる。このとき、入力端P2から出力端P3へと電流(以下、環流電流と呼ぶ)が流れる。当該環流電流は寄生ダイオードD21,D22を避けて環流ダイオードD2を流れる。これが図2の真ん中の第1レグにおいて実線矢印で示されている。これは第1電流経路において既にMOSトランジスタQ21,Q22が非導通であり、かつ第2電流経路における環流ダイオードD2の個数が第1電流経路における寄生ダイオードD21,D22の個数より少ないためである。後者を言い換えれば、環流ダイオードD2の順方向飽和電圧は、寄生ダイオードD21,D22の順方向飽和電圧の和よりも小さいからである。
また環流ダイオードD2はMOSトランジスタQ21,Q22に寄生する寄生ダイオードD21,D22とは異なって、独立して取り付けることができる。よって、寄生ダイオードD21,D22の逆回復特性(逆回復電流値、逆回復電流期間)より優れた逆回復特性を有する環流ダイオードD2を採用できる。
そして、例えば再び図2の左側で示す状態に戻る場合には順方向電流が流れていた環流ダイオードD2に対して逆方向電圧が印加されて逆回復電流が流れるものの、寄生ダイオードD21,D22と比較すると逆回復電流を低減できる。
次に、MOSトランジスタQ21,Q22を導通させる。MOSトランジスタQ21,Q22の両方が導通した時点で未だ環流電流が流れている場合は、当該環流電流はMOSトランジスタQ21,Q22を流れる。これが図2の右側の第1レグにおいて実線矢印で示されている。これは、MOSトランジスタQ21,Q22の導通損失が環流ダイオードD2よりも小さいためである。
また、例えば三相モータM1が制動されて回生電流が三相モータM1へと正の方向に流れる場合に、MOSトランジスタQ21,Q22の一組が導通する状態からMOSトランジスタQ11,Q12の一組が導通する状態へ切り替える制御は、上記制御に対して時系列で逆となる(図2においては右側の第1レグから左側の第1レグへと遷移する)。
続いて、例えば三相モータM1が力行状態であって三相モータM1に負の電流が流れている場合にMOSトランジスタQ21,Q22の一組が導通する状態からMOSトランジスタQ11,Q12の一組が導通する状態へ切り替える制御について説明する。図3は、かかる制御を実行したときの、第1レグの時間的な変化の様子を示している。MOSトランジスタQ11,Q12の一組が非導通状態、MOSトランジスタQ21,Q22が導通状態であるとき、出力端P3からMOSトランジスタQ21,Q22を介して入力端P2へと電流が流れている。これが図3の左側の第1レグにおいて実線矢印で示されている。
次に、MOSトランジスタQ21,Q22の少なくとも何れか一方を非導通とする。当該非導通以降、MOSトランジスタQ11,Q12の両方を導通させるまでの期間は、デッドタイムに相当する。これによって、インバータの動作は環流モードとなる。このとき、出力端P3から入力端P1側へと環流電流が流れる。当該環流電流は寄生ダイオードD11,D12を避けて環流ダイオードD1を流れる。これが図3の真ん中の第1レグにおいて実線矢印で示されている。これは第1電流経路において既にMOSトランジスタQ11,Q12が非導通であり、かつ環流ダイオードD1の個数が寄生ダイオードD11,D12の個数より少ないためである。後者を言い換えれば、環流ダイオードD1の順方向飽和電圧は、寄生ダイオードD11,D12の順方向飽和電圧の和よりも小さいからである。
また環流ダイオードD1はMOSトランジスタQ11,Q12に寄生する寄生ダイオードD11,D12とは異なって、独立して取り付けることができる。よって、寄生ダイオードD11,D12の逆回復特性より優れた逆回復特性を有する環流ダイオードD1を採用できる。従って、例えば第1レグの状態を再び図3の左側で示す第1レグの状態に戻す場合には、順方向電流が流れていた環流ダイオードD1に対して逆方向電圧が印加されて逆回復電流が流れるものの、寄生ダイオードD11,D12と比較して逆回復電流を低減できる。
次に、MOSトランジスタQ11,Q12を導通させる。MOSトランジスタQ11,Q12が導通した時点で環流電流が未だ流れる場合は、当該環流電流はMOSトランジスタQ11,Q12を流れる。これが図3の右側の第1レグにおいて実線矢印で示されている。これは、MOSトランジスタQ11,Q12の導通損失が環流ダイオードD1よりも小さいためである。
なお、例えば三相モータM1が制動されて三相モータM1に負の回生電流が流れている場合に、MOSトランジスタQ11,Q12の一組が導通する状態からMOSトランジスタQ21,Q22の一組が導通する状態へ切り替える制御は、図3を参照して説明した制御に対して時系列で逆となる(図3に示す右側の第1レグから左側の第1レグへと遷移する)。
また、図1においては、上側スイッチング部S1,S3,S5及び下側スイッチング部S2,S4,S6の各々は、2つのMOSトランジスタと、1つの環流ダイオードとを備えているが、例えば3つ以上のMOSトランジスタと、MOSトランジスタの個数を超えない少なくとも一つ以上の環流ダイオードとを備えていてもよい。環流ダイオードが複数も受けられる場合には、これらは第2電流経路内において相互に直列に接続されてもよく、並列に接続されても良い。この点は後述する他の態様においても同様である。
また、図2,3を用いた説明の各々において、時系列で反対となる制御について説明したが、後述する他の態様においてはその説明を割愛する。
図4は第1の実施の形態に係るインバータの概念的な構成の他の一例を示している。図1に示すインバータと比較して、上側スイッチング部S1はMOSトランジスタQ11,Q12及び環流ダイオードD1の替わりに、一つのIGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)と、環流ダイオードとを備えている。環流ダイオードは、入力端P2側にアノードを、入力端P1側にカソードをそれぞれ呈し、IGBTと並列接続されている。上側スイッチング部S3,S5は上側スイッチング部S1と同様であるので詳細な説明を省略する。
続いて、例えば三相モータM1が力行状態であって三相モータM1に正の電流が流れる場合に、上側スイッチング部S1が有するIGBTが導通する状態からMOSトランジスタQ21,Q22の一組が導通する状態へ切り替える制御について説明する。図5はかかる制御を実行したときの、第1レグの時間的な変化の様子を示している。上側スイッチング部S1のIGBTが導通状態、MOSトランジスタQ11,Q12の一組が非導通状態であるとき、入力端P1から上側スイッチング部S1が有するIGBTを介して出力端P3へと電流が流れる。これが図5の左側の第1レグにおいて実線矢印で示されている。
次に、上側スイッチング部S1が有するIGBTを非導通とする。当該非導通以降、MOSトランジスタQ21,Q22の両方が導通するまでの期間はデッドタイムに相当する。これによってインバータの動作は環流モードとなる。このとき、入力端P2から出力端P3へと環流電流が流れる。当該環流電流は寄生ダイオードD21,D22を避けて環流ダイオードD2を流れる。この理由は既述したとおりである。これが図5の真ん中の第1レグにおいて実線矢印で示されている。よって、下側スイッチング部S2で生じる逆回復電流を低減できる。
次に、MOSトランジスタQ21,Q22を導通させる。MOSトランジスタQ21,Q22の両方が導通した時点で環流電流が流れている場合は、環流電流はMOSトランジスタQ21,Q22を通る。よって、インバータの損失を低減できる。
続いて、例えば三相モータM1が力行状態で三相モータM1に負の電流が流れている場合に、MOSトランジスタQ21,Q22の一組が導通する状態から上側スイッチング部S1のIGBT導通する状態へと切り替える制御について説明する。図6はかかる制御を実行したときの、第1レグの時間的な変化の様子を示している。上側スイッチング部S1おIGBTが非導通状態、MOSトランジスタQ21,Q22の一組が導通状態である場合、出力端P3からMOSトランジスタQ21,Q22を介して入力端P2へと電流が流れる。これが図6の左側の第1レグにおいて実線矢印で示されている。
次に、MOSトランジスタQ21,Q22の少なくとも何れか一方を非導通とする。当該非導通以降、上側スイッチング部のIGBTが導通するまでの期間はデッドタイムに相当する。当該非導通によってインバータの動作は環流モードとなる。このとき出力端P3から上側スイッチング部S1が有する環流ダイオードを介して入力端P1側へと環流電流が流れる。これが図6の右側の第1レグにおいて実線矢印で示されている。IGBTに並列接続された環流ダイオードはIGBTとは独立して採用されるので、当該環流ダイオードとして逆回復特性に優れた高速ダイオードを採用できる。よって、例えば図6の左側の第1レグの状態に戻った場合に、MOSトランジスタが有する寄生ダイオードに比べて逆回復電流は小さい。
また、図1に示すインバータと比較して、スイッチング素子の数が少ないので製造コストを低減できる。
なお、図4〜6において、上側スイッチング部S1,S3,S5がIGBTと、環流ダイオードとを備えるインバータについて説明したが、下側スイッチング部がIGBTと、環流ダイオードとを備えていてもよい。この点は後述する他の態様についても同様である。
但し、IGBTの導通損失はMOSトランジスタの導通損失よりも大きいため、損失の観点では、上側スイッチング部及び下側スイッチング部がMOSトランジスタを備えていることが望ましい。
なお、第1の実施の形態で説明した逆回復電流の低減という効果は、後述する他の態様のいずれにおいても招来する。
第2の実施の形態.
例えば図1において、MOSトランジスタQ11,Q12が非導通状態、MOSトランジスタQ21,Q22が導通状態であるとき、上側スイッチング部S1には入力端P1,P2の間の直流電圧が印加される。よって、MOSトランジスタQ11,Q12の各々には当該直流電圧を分圧した電圧が印加される。例えばMOSトランジスタQ11,Q12が相互に等しければ、これらのMOSトランジスタQ11,Q12には当該直流電圧の半値が印加される。よって、このとき、上側スイッチング部S1として一つのスイッチング素子で構成するよりも、印加される電圧は低い。
しかしながら、MOSトランジスタQ11,Q12を同時に導通状態から非導通状態へと遷移させる制御は困難である。例えばトランジスタQ11,Q12のいずれもが導通状態であるときに、一方のみが導通状態から非導通状態へと切り替わると、他方には入力端P1,P2の間の直流電圧が印加される。
第2の実施の形態では、上側スイッチング部S1,S3,S5及び下側スイッチング部の少なくとも何れか一方が有する複数のスイッチング素子の各々に印加される電圧を低減する。
図7は第2の実施の形態に係るインバータの概念的な構成の一例を示している。図1に示すインバータと比較して、上側スイッチング部S1,S3,S5がそれぞれスイッチング素子Q1,Q3,Q5を更に備え、下側スイッチング部S2,S4,S6がスイッチング素子Q2,Q4,Q6を更に備えている。
スイッチング素子Q1〜Q6は例えば絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(以下、トランジスタQ1〜Q6と呼ぶ)である。トランジスタQ1〜Q6は入力端P1側にコレクタを、入力端P2側にエミッタを向けて、それぞれ環流ダイオードD1〜D6と並列に接続されている。言い換えれば、トランジスタQ1はMOSトランジスタQ11,Q12の一組と並列に接続されている。トランジスタQ2〜Q6も同様である。
続いて、三相モータM1へと正の電流が流れている場合に、MOSトランジスタQ11,Q12が導通する状態からMOSトランジスタQ21,Q22が導通する状態へ切り替える制御について説明する。図8,9はかかる制御を実行したときの、第1レグの時間的な変化の様子を示している。MOSトランジスタQ11,Q12が導通状態、トランジスタQ1,Q2、MOSトランジスタQ21,Q22が非導通状態である。このとき、入力端P1からMOSトランジスタQ11,Q12を介して出力端P3へと電流が流れる。これが図8の左側の第1レグにおいて実線矢印で示されている。
次にMOSトランジスタQ11,Q12を非導通へと切り替えるに際して、次のようなスイッチング制御方法を採用する。まず、トランジスタQ1を導通させる。このとき、入力端P1から出力端P3へと流れる電流はトランジスタQ1を介した経路及びMOSトランジスタQ11,Q12を介した経路の少なくとも何れか一方を流れる。
次に、MOSトランジスタQ11,Q12を非導通とする。このとき、入力端P1から出力端P3へと流れる電流はトランジスタQ1を流れる。これが図8の右側の第1レグにおいて実線矢印で示されている。トランジスタQ1に電流が流れているので、トランジスタQ1の両端電圧は非常に小さい。よって、トランジスタQ1と並列接続されるMOSトランジスタQ11,Q12の一組の両端電圧も非常に小さい。
MOSトランジスタQ11,Q12が導通から非導通へと遷移するタイミングがずれても、遅い方のタイミングの前後では、トランジスタQ1に流れる電流に変化は生じない。
次に、トランジスタQ1を非導通とする。当該非導通によって、インバータの動作は環流モードとなる。入力端P2側から環流ダイオードD2を介して出力端P3へと環流電流が流れる。これが図9の左側の第1レグにおいて実線矢印で示されている。
このとき、上側スイッチング部S1には入力端P1,P2の間の直流電圧が印加される。この時点においては既にMOSトランジスタQ11,Q12は非導通となっているので、これらの各々には当該直流電圧を分圧した電圧が印加される。
次に、MOSトランジスタQ21,Q22を導通させる。MOSトランジスタQ21,Q22が導通した時点で環流電流が流れている場合は、当該環流電流はより導通損失の低いMOSトランジスタQ21,Q22を流れる。これが図9の右側の第1レグにおいて実線矢印で示されている。
以上のように、トランジスタQ1に電流が流れている状態で複数のMOSトランジスタQ11,Q12の全てを導通から非導通に切り替えることで、MOSトランジスタQ11,Q12の切り換えタイミングが異なっていたとしても、これらに印加される電圧を低減することができる。
また、インバータのスイッチングパターンとしては、MOSトランジスタQ11,Q12を導通させ、MOSトランジスタQ11,Q12を導通から非導通に切り替える前後を含む所定期間内にトランジスタQ1を導通させることが望ましい。これによって、MOSトランジスタQ11,Q12を導通から非導通へと切り換える前後でトランジスタQ1に電流が流れるものの、定常的には導通損失のより低いMOSトランジスタQ11,Q12に電流が流れる。よって、上側スイッチング部S1としてIGBTを採用したインバータに比べて効率を向上することができる。
続いて、三相モータM1に負の電流が流れている場合に、MOSトランジスタQ21,Q22が導通する状態からMOSトランジスタQ11,Q12が導通する状態へと切り替える制御について説明する。図10,11はかかる制御を実行したときの、第1レグの時間的な変化の様子を示している。MOSトランジスタQ21,Q22が導通状態、トランジスタQ1,Q2、MOSトランジスタQ11,Q12が非導通状態である。このとき、出力端P3からMOSトランジスタQ21,Q22を介して入力端P2側へと電流が流れる。これが図10の左側の第1レグにおいて実線矢印で示されている。
次にMOSトランジスタQ21,Q22を非導通へと切り替えるに際して、次のようなスイッチング制御方法を採用する。まず、トランジスタQ2を導通させる。このとき、出力端P3から入力端P2へと流れる電流はトランジスタQ2を介した経路及びMOSトランジスタQ21,Q22を介した経路の少なくとも何れか一方を流れる。
次に、MOSトランジスタQ21,Q22を非導通とする。このとき、出力端P3から入力端P2へと流れる電流はトランジスタQ2を流れる。これが図10の右側の第1レグにおいて実線矢印で示されている。トランジスタQ2に電流が流れているので、トランジスタQ2の両端電圧は非常に小さい。よって、トランジスタQ2と並列接続されるMOSトランジスタQ21,Q22の一組の両端電圧も非常に小さい。
MOSトランジスタQ21,Q22が導通から非導通へと遷移するタイミングがずれても、遅いほうのタイミングの前後では、トランジスタQ2に流れる電流に変化は生じない。
次に、トランジスタQ2を非導通とする。当該非導通によって、インバータの動作は環流モードとなる。出力端P3から環流ダイオードD1を介して入力端P1側へと環流電流が流れる。これが図11の左側の第1レグにおいて実線矢印で示されている。
このとき、下側スイッチング部S2には入力端P1,P2の間の直流電圧が印加される。この時点においては既にMOSトランジスタQ21,Q22は非導通となっているので、これらの各々には当該直流電圧を分圧した電圧が印加される。
次に、MOSトランジスタQ11,Q12を順次に導通させる。MOSトランジスタQ11,Q12が導通した時点で環流電流が流れている場合は、当該環流電流はより導通損失の低いMOSトランジスタQ11,Q12を流れる。これが図11の右側の第1レグにおいて実線矢印で示されている。
以上のように、トランジスタQ2に電流が流れている状態で複数のMOSトランジスタQ21,Q22の全てを導通から非導通に切り替えることで、MOSトランジスタQ21,Q22の切り換えタイミングが異なっていたとしても、これらに印加される電圧を低減することができる。
また、定常的にはトランジスタQ2より導通損失の低いMOSトランジスタQ21,Q22を導通させるので、下側スイッチング部S2としてIGBTを採用したインバータに比べて効率を向上することができる。
また、トランジスタQ1,Q2は、MOSトランジスタQ11,Q12,Q21,Q22が導通から非導通に切り替わる前後を含む所定期間内で導通し、その所定期間は短くてよい。そして、例えばIGBTは、1ms程度の期間であれば、定格電流の倍程度の電流を自身に流すことができることが知られている。よって、1ms以内に、MOSトランジスタQ11,Q12の両方、及びMOSトランジスタQ21,Q22の両方を、それぞれ導通から非導通に切り替えることで、トランジスタQ1,Q2として半分以下の電流容量を有するIGBTを採用できる。これは、数kHz(≧1kHz)のキャリヤ周波数を用いる一般的なインバータで十分に実現可能である。
第3の実施の形態.
環流電流がどの程度の期間に渡って流れるのかは、そのとき三相モータM1に流れていた電流などに依存する。よって、例えば図9の左側の第1レグで示した状態においてMOSトランジスタQ21,Q22を非導通から導通へと切り替える時点では、環流ダイオードD2に環流電流が流れていない場合がある。このとき、MOSトランジスタQ21,Q22の一方のみを導通させると、他方には三相モータM1を介して入力端P1,P2の間の直流電圧が印加される場合がある(例えばMOSトランジスタQ31,Q32が導通状態で、MOSトランジスタQ41,Q42が非導通状態である場合)。
第3の実施の形態では、例えば環流ダイオードD2に環流電流が流れていない状態であっても、MOSトランジスタQ21,Q22の各々に印加される電圧を低減する。
第3の実施の形態にかかるインバータの概念的な構成は第2の実施の形態にかかるインバータと同一である。但し、インバータのスイッチング制御方法が相違する。
まず、三相モータM1に正の電流が流れている場合に、MOSトランジスタQ11,Q12が導通する状態からMOSトランジスタQ21,Q22が導通する状態へ切り替える制御において、第2の実施の形態と異なる点について説明する。例えば図9の左側の第1レグで示された状態(即ちMOSトランジスタQ11,Q12,Q21,Q22及びトランジスタQ1,Q2が非導通である状態)において、還流電流がゼロであり、かつ下側スイッチング部S2には三相モータM1を介して入力端P1,P2の間の直流電圧が印加される場合を想定する。このような場合にはトランジスタQ2を導通させて、三相モータM1から出力端P3を介して入力端P2側へと向かってトランジスタQ2に電流を流す。
このとき、出力端P3から入力端P2へと流れる電流はトランジスタQ2を流れるので、トランジスタQ2の両端電圧は非常に小さい。よって、これと並列に接続されるMOSトランジスタQ21,Q22の一組の両端電圧も非常に小さい。
次に、MOSトランジスタQ21,Q22の両方を導通させた上で、トランジスタQ2を非導通とする。MOSトランジスタQ21,Q22が非導通から導通へと遷移するタイミングがずれても、当該タイミングはトランジスタQ2が導通している期間中にある。そしてトランジスタQ2が非導通となることによって、MOSトランジスタQ21,Q22を介して出力端P3から入力端P2へと電流が流れる。
以上のように、トランジスタQ2に電流が流れている状態で、MOSトランジスタQ21,Q22を非導通から導通に切り替えているので、たとえMOSトランジスタQ21,Q22を切り替えるときに環流電流が流れていなくても、MOSトランジスタQ21,Q22の各々に印加される電圧を低減することができる。
また、図9の左側の第1レグで示された状態で還流電流がゼロになり、かつ下側スイッチング部S2に入力端P1,P2の直流電圧が印加された場合、還流電流がゼロになった時点から、複数のMOSトランジスタQ21,Q22若しくはトランジスタQ2導通するまでの期間は、電流が流れない。複数のMOSトランジスタQ21,Q22の両方を導通させるよりも、一つのトランジスタQ1を導通させる方が、その切り換え時間が短いので、出力端P3から入力端P2へと電流が流せない期間を低減できる。
続いて、三相モータM1に負の電流が流れている場合に、MOSトランジスタQ21,Q22が導通する状態からMOSトランジスタQ11,Q12が導通する状態へ切り替える制御において、第2の実施の形態と異なる点について説明する。例えば図11の左側の第1レグで示される状態において、トランジスタQ1に電流が流れている状態で、MOSトランジスタQ11,Q12を非導通から導通へと切り替える。このときも、MOSトランジスタQ11,Q12の各々に印加される電圧を低減できる。
よって、インバータの制御を通じて、複数のMOSトランジスタの各々に印加される電圧を低減できる。従って、耐圧の低いMOSトランジスタを採用することができ、製造コストを低減できる。また耐圧が低いほどMOSトランジスタの導通損失は低いので、インバータの効率を向上できる。
なお、トランジスタQ1,Q2は、MOSトランジスタQ11,Q12,Q21,Q22が導通から非導通に切り替わる前後を含む所定期間内で導通されることが望ましい。これによって奏する効果は第3の実施の形態で述べたとおりである。
第4の実施の形態.
第2又は第3の実施の形態で説明したインバータの変形例を説明する。図12はかかるインバータの概念的な構成の一例を示している。図7に示すインバータと比較して、上側スイッチング部S1,S3,S5がMOSトランジスタQ11,Q12,Q21,Q22,Q31,Q32を備えていない。
続いて、三相モータM1に正の電流が流れている場合に、MOSトランジスタQ11,Q12が導通する状態からMOSトランジスタQ21,Q22が導通する状態へ切り替える制御について説明する。図13はかかる制御を実行したときの、第1レグの時間的な変化の様子を示している。トランジスタQ1が導通状態、MOSトランジスタQ21,Q22及びトランジスタQ2が非導通状態であるとき、トランジスタQ1を介して入力端P1側から出力端P3へと電流が流れる。これが図13の左側の第1レグにおいて実線矢印で示されている。
次に、トランジスタQ1を非導通とする。当該非導通によって、インバータの動作は環流モードとなる。このとき、入力端P2側から出力端P3へと環流ダイオードD2を介して環流電流が流れる。これが図13の真ん中の第1レグにおいて実線矢印で示されている。
次に、MOSトランジスタQ21,Q22を導通させる。MOSトランジスタQ21,Q22が導通した時点で環流電流が流れている場合は、当該環流電流はより導通損失の低いMOSトランジスタQ21,Q22を流れる。これが図13の右側の第1レグにおいて実線矢印で示されている。
なお、MOSトランジスタQ21,Q22を導通させるに際して、第3の実施の形態と同様に、トランジスタQ2を導通させた後で、MOSトランジスタQ21,Q22を導通させ、その後トランジスタQ2を非導通としてもよい。この場合、たとえMOSトランジスタQ21,Q22を導通させるに際して環流電流が流れていなかったとしても、MOSトランジスタQ21,Q22の各々に印加される電圧を低減できる。
続いて、三相モータM1に負の電流が流れている場合に、MOSトランジスタQ21,Q22が導通する状態からMOSトランジスタQ11,Q12が導通する状態へ切り替える制御について説明する。図14はかかる制御を実行したときの、第1レグの時間的な変化の様子を示している。トランジスタQ1,Q2が非導通状態、MOSトランジスタQ21,Q22が導通状態であるとき、MOSトランジスタQ21,Q22を介して出力端P3から入力端P2側へと電流が流れる。これが図14の左側の第1レグにおいて実線矢印で示されている。
次にMOSトランジスタQ21,Q22を非導通とするに際して、次のようなスイッチング制御方法を採用する。まず、トランジスタQ2を導通させる。このとき、出力端P3から入力端P2へと流れる電流はトランジスタQ2を介した経路及びMOSトランジスタQ21,Q22を介した経路の少なくとも何れか一方を流れる。
次に、MOSトランジスタQ21,Q22を非導通とする。このとき、出力端P3から入力端P2へと流れる電流はトランジスタQ2を流れる。これが図14の真ん中の第1レグにおいて実線矢印で示されている。
次に、MOSトランジスタQ21,Q22を非導通とした後にトランジスタQ2を非導通とする。MOSトランジスタQ21,Q22の非導通によって、インバータの動作は環流モードとなる。当該非導通によって、出力端P3から環流ダイオードD1を介して入力端P1側へと環流電流が流れる。これが図14の右側の第1レグにおいて実線矢印で示されている。
なお、第4の実施の形態では上側スイッチング部S1,S3,S5がMOSトランジスタを備えていないが、下側スイッチング部S2,S4,S6がMOSトランジスタを備えていなくてもよい。第4の実施の形態にかかるインバータによれば、上側スイッチング部又は下側スイッチング部が有するスイッチング素子を低減できるので製造コストを低減できる。
第5の実施の形態.
第1乃至第4の実施の形態において、例えばMOSトランジスタQ11,Q12が非導通状態、MOSトランジスタQ21,Q22が非導通状態である場合、MOSトランジスタQ11,Q12の各々には、入力端P1,P2の間の直流電圧を分圧した電圧が印加される。そして、MOSトランジスタQ11,Q12が相互に等しければ、これらのMOSトランジスタQ11,Q12には直流電圧の半値が印加される。しかしながら、実際にはMOSトランジスタQ11,Q12のばらつきによって、これらに印加される電圧の一方が大きくなる場合がある。
図15は第5の実施の形態にかかるインバータが有する第1レグの概念的な構成の一例を示している。なお、第1レグのみを代表して示しているが、上側スイッチング部S3,S5、下側スイッチング部S4,S6も同様の構成を有していてもよい。また、第1及び第3の実施の形態で説明したように、上側スイッチング部及び下側スイッチング部のいずれか一方が、IGBTと、これと並列に接続される環流ダイオードとから成る構成を有していてもよい。
図7に示すインバータと比較して、上側スイッチング部S1は分圧抵抗R11,R12を更に備え、下側スイッチング部S2は分圧抵抗R21,R22を更に備えている。
分圧抵抗R11,R12,R21,R22は、それぞれMOSトランジスタQ11,Q12,Q21,Q22と並列に接続されている。分圧抵抗R11,R12は例えば相互に等しい抵抗値を有し、分圧抵抗R21,R22は相互に等しい抵抗値を有する。なお、相互に略等しい複数のMOSトランジスタを製造するよりも、相互に略等しい抵抗値を有する複数の抵抗を製造するほうが容易である。
これによって、MOSトランジスタQ11,Q12のばらつきに起因してMOSトランジスタQ11,Q12に印加される電圧の一方が増大することを防止できる。MOSトランジスタQ21,Q22についても同様である。