実施の形態1.
図1は、この発明を実施するための実施の形態1における多相巻線を有する交流回転機および交流回転機の制御装置を含めた交流回転機制御システムの構成図である。図1において、多相巻線を有する交流回転機1を制御するための制御装置は、電力変換器2、電流検出手段3a,3b、電圧検出手段4a,4b、回転子位置推定手段5、および制御手段6によって構成されている。本実施の形態では、u相、v相、w相の3相巻線を有する交流回転機1を駆動する形態について説明する。
電力変換器2は、交流回転機1を起動するために外部から与えられる起動指令と、電圧指令とに基づいて交流回転機1へ電圧を出力し、交流回転機1を駆動する。電圧指令には、制御手段6から出力される電圧指令である第1の電圧指令Vu*、Vv*、Vw*と回転子位置推定手段5から出力される第2の電圧指令Vup*、Vvp*、Vwp*の2つの電圧指令がある。本実施の形態では、主に、交流回転機1の起動時に第2の電圧指令が適用され、交流回転機1の駆動時に第1の電圧指令が適用される。電流検出手段3a,3bは、交流回転機1の出力電流を検出し、電圧検出手段4a,4bは、交流回転機1の少なくとも2つの固定子電圧を検出する。回転子位置推定手段5は、交流回転機1の回転子位置を推定し、回転子推定位置θを制御手段6へ出力する。制御手段6は、回転子位置推定手段5から交流回転機1の回転子推定位置θを入力し、交流回転機1の回転子推定位置θに基づいて第1の電圧指令Vu*、Vv*、Vw*を演算し、第1の電圧指令Vu*、Vv*、Vw*を電力変換器2へ出力する。
電力変換器2は、外部からの起動指令が入力され、制御手段6から出力される第1の電圧指令Vu*、Vv*、Vw*または回転子位置推定手段5から出力される第2の電圧指令Vup*、Vvp*、Vwp*のいずれかが入力されると、入力された電圧指令に基づいて交流回転機1へ電圧Vu、Vv、Vwを出力する。電力変換器2は、電圧Vu、Vv、Vwを出力して、交流回転機1を駆動する。
電流検出手段3aは交流回転機1のu相の出力電流iuを検出し、電流検出手段3bは交流回転機1のv相の出力電流ivを検出する。交流回転機1の3相のうちの残りの1相のw相の出力電流iwについては、検出した出力電流iu、ivに基づいて、iw=−iu−ivの関係から求める。なお、電流検出手段は、図1に示すように2つの相だけに備えても良いし、3相全てに備えても良い。また、図1の示すような各相の出力電流を直接検出する方法以外に、電力変換器2のDCリンク電流から出力電流を検出する方法を用いても良い。
電圧検出手段4a,4bは、交流回転機1の固定子電圧を検出する。電圧検出手段4aは、u相とv相との間の固定子線間電圧Vuvを検出し、電圧検出手段4bは、v相とw相との間の固定子線間電圧Vvwを検出する。電圧検出手段は、図1に示すように2つの相の線間のみに備えても良いし、2相全ての線間に備えても良い。図1に示すように電圧検出手段4a,4bを2つの線間のみに備えた場合には、w相とu相との間の固定子線間電圧Vwuは、Vwu=−Vuv−Vvwの関係から求める。
なお、図2に示すように固定子相電圧を検出する電圧検出手段を備えても良い。図2は、本実施の形態における多相巻線を有する交流回転機および別の交流回転機の制御装置を含めた交流回転機制御システムの構成図であり、電圧検出手段が図1に示したものと異なる。図1の交流回転機の制御装置は、2つの電圧検出手段4a,4bによって交流回転機1の2つの固定子線間電圧Vuv、Vvwを測定するものである。一方、図2の交流回転機の制御装置は、2つの電圧検出手段4c,4dによって交流回転機1の2つの固定子相電圧Vu、Vvを測定するものである。なお、図2に示した回転子位置推定手段5aと図1に示した回転子位置推定手段5は、入力される固定子電圧が相電圧であるか線間電圧であるかの違いがあるだけで、回転子位置の推定方法は同じである。このため、図2に示した第2の位置推定部8a、回転子位置切換部51aも、図1に示した第2の位置推定部8、回転子位置切換部51と同様の機能を有する。
このような構成においても、電圧検出手段は、図2に示すように2つの相のみに備えても良いし、3相全ての相に備えても良い。図2に示すように電圧検出手段4c,4dを2つの相のみに備えた場合には、w相固定子相電圧Vwは、Vw=−Vu−Vvの関係から求める。電圧検出手段による交流回転機1の固定子電圧検出方法は、図1、図2の何れの方法であっても良い。ただし、電圧検出手段は、交流回転機1の少なくとも2つの固定子電圧を検出するようにする。
回転子位置推定手段5は、交流回転機1の回転子位置を推定し、回転子推定位置θを出力する。回転子位置推定手段5の構成と、回転子位置の推定方法に関しては、本発明の特徴的な部分であるため、詳細については後で述べる。なお、交流回転機の回転子位置とは、交流回転機が回転子に永久磁石を有する永久磁石同期機の場合、固定子のu相巻線を基準として回転子に配置された永久磁石のN極方向の角度を指すことが一般的であり、以下の説明もこれに従う。また、交流回転機の制御系を扱う場合には、回転二軸座標上(d−q軸上)で扱うことが一般的であるので、永久磁石のN極方向をd軸と定める。
制御手段6は、回転子位置推定手段5が出力した回転子推定位置θに基づいて第1の電圧指令Vu*、Vv*、Vw*を電力変換器2へ出力する。図3に回転二軸座標上(d−q軸上)の電圧指令を生成する制御手段6の構成図の一例を示す。前述のとおり、交流回転機の制御系を扱う場合には、回転二軸座標上(d−q軸上)で扱うことが多く、本実施の形態においても、回転二軸座標上(d−q軸上)で電圧指令を生成する。制御手段6は、d軸電圧指令生成器62、q軸電圧指令生成器63、および座標変換器61によって構成されている。図3において、d軸電圧指令生成器62は回転二軸座標上(d−q軸上)の電圧指令Vd*を生成し、q軸電圧指令生成器63は回転二軸座標上(d−q軸上)の電圧指令Vq*をそれぞれ生成する。そして、座標変換器61は回転子位置推定手段5から入力される回転子推定位置θに基づいて、電圧指令Vd*、Vq*を第1の電圧指令Vu*、Vv*、Vw*に変換し、電力変換器2へ出力する。
また、図3において、電圧指令を生成する場合について示したが、電流指令を生成するような構成にしても良い。図4に回転二軸座標上(d−q軸上)の電流指令を生成する制御手段6aの構成図を示す。図4において、制御手段6aは、d軸電流指令生成器64、q軸電流指令生成器65、d軸電流制御器66、q軸電流制御器67および座標変換器61,61aによって構成されている。図1および図2には図示していないが、電流指令を生成する場合、回転子推定位置θ以外に、交流回転機1の出力電流iu、ivも制御手段6aの座標変換器61aへ入力する。なお、加減算器68cは、出力電流iu、ivを入力し、減算することによって出力電流iwを求め、座標変換器61aへ出力する。
図4において、d軸電流指令生成器64は回転二軸座標上(d−q軸上)の電流指令id*を生成し、q軸電流指令生成器65は電流指令iq*を生成する。座標変換器61aは回転子推定位置θに基づいて電流検出手段3a,3bによって検出した交流回転機1の出力電流iu、ivを回転二軸座標上(d−q軸上)の電流id、iqに変換する。d軸電流制御器66は比例積分制御などを用いて、加減算器68aによって求めたd軸電流指令id*と電流idとの偏差Δidが無くなるようなd軸電圧指令値Vd*を出力する。同様に、q軸電流制御器67は比例積分制御などを用いて、加減算器68bによって求めたq軸電流指令値iq*と電流iqとの偏差Δiqが無くなるようなq軸電圧指令値Vq*を出力する。図3の場合と同様に、座標変換器61は回転子推定位置θに基づいて、電圧指令Vd*、Vq*を第1の電圧指令Vu*、Vv*、Vw*に変換し、電力変換器2へ出力する。
次に、本発明の特徴的な部分である回転子位置の推定方法について説明する。回転子位置の推定を行う回転子位置推定手段5は、交流回転機1の出力電流に基づいて回転子位置を推定する方法、および交流回転機1の固定子電圧に基づいて回転子位置を推定する方法の2つの異なる方法で交流回転機1の回転子位置を推定する。回転子位置推定手段5は、交流回転機1の出力電流に基づいて交流回転機1の回転子位置を推定する第1の位置推定部7、交流回転機1の固定子電圧に基づいて交流回転機1の回転子位置を推定する第2の位置推定部8、および回転子位置切換部51によって構成されている。回転子位置切換部51は、第1の位置推定部7から出力される回転子推定位置θ1(第1の回転子推定位置)および第2の位置推定部8から出力される回転子推定位置θ2(第2の回転子推定位置)を入力し、外部から交流回転機1の起動指令が入力されると回転子推定位置θ1または回転子推定位置θ2のいずれかを選択し、交流回転機1の回転子推定位置θとして制御手段6に出力する。
ここで、第1の位置推定部7の構成および動作について説明する。図5は、第1の位置推定部7の構成図である。第1の位置推定部7は、交流回転機1の磁気抵抗(インダクタンスの磁気飽和)による電流量の変化を利用して回転子位置を推定するものである。第1の位置推定部7は、交流回転機1の回転子位置の位置検出信号を交流回転機1の多相巻線に発生させるための第2の電圧指令Vup*、Vvp*、Vwp*を演算し、第2の電圧指令Vup*、Vvp*、Vwp*を電力変換器2へ出力する。さらに、第1の位置推定部7は、第2の電圧指令Vup*、Vvp*、Vwp*に同期する同期信号を生成し、交流回転機1の出力電流および同期信号に基づいて回転子推定位置θ1を推定する。
図5において、第1の位置推定部7は、演算手段71と、演算手段71が出力する同期信号および電流検出手段3a,3bによって検出された交流回転機1の出力電流iu、ivに基づいて交流回転機1の各相の電流パルスを検出する電流パルス検出手段72とによって構成されている。演算手段71は、交流回転機1の回転子位置を検出するための位置検出信号を交流回転機1の多相巻線に発生させるために、第2の電圧指令Vup*、Vvp*、Vwp*を電力変換器2へ出力する機能と、第2の電圧指令Vup*、Vvp*、Vwp*に同期する同期信号を生成し、電流パルス検出手段72へ出力する機能と、電流パルス検出手段72によって検出された電流パルスの振幅iu1、iv2、iw3、iu4、iv5、iw6に基づいて回転子推定位置θ1を推定し、回転子位置切換部51へ出力する機能とを備える。第2の電圧指令Vup*、Vvp*、Vwp*は、各相に対するH(High)またはL(Low)の指令である。
図6は、電力変換器2が交流回転機1の多相巻線の各相に印加する位置検出信号と、各相に流れる出力電流iu、iv、iwと、演算手段71が電流パルス検出手段72へ出力する同期信号とのタイムチャートを示している。演算手段71が出力した第2のu相電圧指令Vup*がHの場合、電力変換器2が交流回転機1のu相に印加する位置検出信号の電圧極性は「+」であり、第2のu相電圧指令Vup*がLの場合、電力変換器2が交流回転機1のu相に印加する位置検出信号の電圧極性は「−」である。同様に、第2のv相電圧指令Vvp*がHの場合、電力変換器2が交流回転機1のv相に印加する位置検出信号の電圧極性は「+」であり、第2のv相電圧指令Vvp*がLの場合、電力変換器2が交流回転機1のv相に印加する位置検出信号の電圧極性は「−」である。第2のw相電圧指令Vwp*がHの場合、電力変換器2が交流回転機1のw相に印加する位置検出信号の電圧極性は「+」であり、第2のw相電圧指令Vwp*がLの場合、電力変換器2が交流回転機1のw相に印加する位置検出信号の電圧極性は「−」である。このように、電力変換器2は、演算手段71から得られたHまたはLの第2の電圧指令Vup*、Vvp*、Vwp*に基づいて、「+」または「−」の位置検出信号を交流回転機1の各相に印加する。
次に、図6のタイムチャートに従って、第1の位置推定部7の動作について説明する。区間aにおいて、演算手段71は、各相の第2の電圧指令Vup*、Vvp*、Vwp*をそれぞれLの状態から、u相の第2の電圧指令Vup*をHに変化させる。これに従って、電力変換器2はu相に正の電圧を印加する。時間ΔT秒後に、演算手段71は同期信号を電流パルス検出手段72へ出力する。電流パルス検出手段72は、電流検出手段3aによって検出された交流回転機1の出力電流iuを入力し、演算手段71からの同期信号のタイミングに合せてu相電流パルスの振幅iu1を検出し、演算手段71へu相電流パルスの振幅iu1を出力する。ここで、ΔTは交流回転機1を磁気飽和させる時間である。区間bにおいて、演算手段71は、u相の第2の電圧指令Vup*をHからLに変化させ、これに従って電力変換器2はu相に負の電圧を印加する。
各相の電流が十分小さくなった後、区間cにおいて、v相の第2の電圧指令Vvp*をLからHに変化させ、電力変換器2はv相に正の電圧を印加する。区間aと同様に、時間ΔT秒後に演算手段71は、同期信号を電流パルス検出手段72へ出力する。電流パルス検出手段72は、電流検出手段3bによって検出された交流回転機1の出力電流ivを入力し、演算手段71からの同期信号のタイミングに合せてv相電流パルスの振幅iv2を検出し、演算手段71へv相電流パルスの振幅iv2を出力する。区間dにおいて、演算手段71は、v相の第2の電圧指令Vvp*をHからLに変化させ、これに従って電力変換器2はv相に負の電圧を印加する。区間a、区間cと同様に、区間eにおいて、電流パルス検出手段72は、演算手段71へw相電流パルスの振幅iw3を出力する。なお、電流検出手段3a,3bが図1に示すように2つの相だけに備えてある場合には、電流パルス検出手段72は検出した2つの相の電流に基づいて残りの一相の電流を演算する。
区間fにおいて、各相間に電位差がないようにするため、各相の第2の電圧指令Vup*、Vvp*、Vwp*をそれぞれHの状態にしておく。区間gにおいて、演算手段71は、u相の第2の電圧指令Vup*をHからLに変化させる。これに従って、電力変換器2はu相に負の電圧を印加する。時間ΔT秒後、演算手段71は同期信号を電流パルス検出手段72へ出力する。電流パルス検出手段72は、電流検出手段3aによって検出された交流回転機1の出力電流iuを入力し、演算手段71からの同期信号のタイミングに合せてu相電流パルスの振幅iu4を検出し、演算手段71へu相電流パルスの振幅iu4を出力する。同様に、区間i、区間kにおいて、電流パルス検出手段72は、演算手段71へv相電流パルスの振幅iv5、w相電流パルスの振幅iw6を出力する。
ここで、を各相の電流パルスの振幅iu1、iv2、iw3、iu4、iv5、iw6を用いて、極性が異なる一対の電流パルスの振幅和Δiu、Δiv、Δiwを(1)式〜(3)式のように定義する。
Δiu=iu1+iu4 ・・・(1)
Δiv=iv2+iv5 ・・・(2)
Δiw=iw3+iw6 ・・・(3)
そして、演算手段71は、電流パルス検出手段72から得られた各相の電流パルスの振幅和Δiu、Δiv、Δiwに基づいて回転子推定位置θ1を推定し、回転子位置切換部51へ出力する。
図7は、演算手段71の処理動作を表すフローチャートである。図7に従って、演算手段71の処理動作について説明する。STEP701では、第1の位置推定部7による回転子推定位置θ1を推定する動作が開始する。STEP702では、演算手段71が変数N1を0に設定する。STEP703では、回転子推定位置θ1を検出するための位置検出信号を交流回転機1の多相巻線に発生させるために、演算手段71が第2の電圧指令Vup*、Vvp*、Vwp*を電力変換器2へ出力する。なお、変数N1に応じて、次のように第2の電圧指令Vup*、Vvp*、Vwp*を電力変換器2へ出力する。
N1=0 → u相:H、v相:L、w相:L
N1=1 → u相:L、v相:H、w相:L
N1=2 → u相:L、v相:L、w相:H
N1=3 → u相:L、v相:H、w相:H
N1=4 → u相:H、v相:L、w相:H
N1=5 → u相:H、v相:H、w相:L
STEP704では、演算手段71が時間ΔT秒後に同期信号を電流パルス検出手段72へ出力する。これに従って、例えば変数N1=0の場合には、図6の区間aの終点で同期信号が出力される。STEP705では、演算手段71が変数N1に基づいて電流パルス検出手段72から以下のような電流パルスの振幅を入力する。STEP706では、演算手段71が電流パルスの振幅の値を記憶する。
N1=0 → u相の電流パルスの振幅iu1を記憶
N1=1 → v相の電流パルスの振幅iv2を記憶
N1=2 → w相の電流パルスの振幅iw3を記憶
N1=3 → u相の電流パルスの振幅iu4を記憶
N1=4 → v相の電流パルスの振幅iv5を記憶
N1=5 → w相の電流パルスの振幅iw6を記憶
STEP707では、各相に同一の電圧指令を与えると、各相間の電位差は零となり位置検出信号である電圧パルスは終息することから、以下のように変数N1に応じて、第2の電圧指令Vup*、Vvp*、Vwp*を電力変換器2へ出力する。
N1=0→u相:L、v相:L、w相:L
N1=1→u相:L、v相:L、w相:L
N1=2→u相:H、v相:H、w相:H
N1=3→u相:H、v相:H、w相:H
N1=4→u相:H、v相:H、w相:H
N1=5→u相:H、v相:H、w相:H
STEP708では、変数N1に1を加算する。変数N1が6に達した時、極性が異なる一対の電圧パルスを各相に発生させる動作が完了するため、STEP709では、N1=6であるか否かを判断する。N1=6でない場合には、引続き極性が異なる一対の位置検出信号を各相に発生させるための動作を継続させるためにSTEP703へ戻る。N1=6の場合には、STEP710に進み、演算手段71は、u相の極性が異なる一対の電流パルスの振幅和Δiu(=iu1+iu4)、v相の極性が異なる一対の電流パルスの振幅和Δiv(=iv2+iv5)、w相の極性が異なる一対の電流パルスの振幅和Δiw(=iw3+iw6)を演算する。
図8は、演算手段71が電流パルスの振幅和に基づいて回転子推定位置θ1を出力するためのテーブルを示したものである。STEP711では、図8に示すテーブルを参照し、各相の一対の電流パルスの振幅和の組合せに応じて、0°、60°、120°、180°、240°、300°の回転子位置のうち、いずれか一つを回転子推定位置θ1として回転子位置切換部51へ出力する。そして、STEP712では、第1の位置推定部7による回転子推定位置θ1を推定する動作を終了する。以上のような一連の動作によって、第1の位置推定部7は回転子推定位置θ1を推定し、回転子位置切換部51へ出力する。
次に、第2の位置推定部8,8aの動作について説明する。第2の位置推定部8,8aは、交流回転機1の駆動開始時における交流回転機1の誘起電圧(回転子電圧)に基づいて交流回転機1の回転子位置を推定するものである。交流回転機1の誘起電圧とは、交流回転機1が無通電状態で回転したときに固定子巻線に発生する電圧である。交流回転機1が回転子に永久磁石を有する永久磁石同期機においては、回転子の永久磁石が誘起電圧の発生源であり、交流回転機1が回転子に永久磁石を有しない同期機や誘導機においては、回転子のインダクタンスに残っている残留電圧が誘起電圧の発生源である。
図1に示すように、第2の位置推定部8は、電圧検出手段4aによって検出されたu相・v相間の固定子線間電圧Vuv、および電圧検出手段4bによって検出されたv相・w相間の固定子線間電圧Vvwを(4)式に基づいて二相交流座標上(α−β軸)の電圧Vα、Vβへ変換する。なお、図2のような電圧検出を行う場合には、第2の位置推定部8aは、電圧検出手段4cによって検出されたu相固定子相電圧Vu、および電圧検出手段4dによって検出されたv相固定子相電圧Vvを(5)式に基づいて二相交流座標上(α−β軸)の電圧Vα、Vβへ変換する。図2のように、w相固定子相電圧Vwを検出しない場合には、Vw=−Vu−Vvの関係からw相固定子相電圧Vwを求める。
図9は、三相交流座標(u−v−w軸)と二相交流座標(α−β軸)と回転二軸座標(d−q軸)との関係を示したものである。参考までに、図9には回転二軸座標(d−q軸)との関係も併せて示している。第2の位置推定部8,8aでは、二相交流座標上(α−β軸)の電圧Vα、Vβに基づいて回転子推定位置θ2を推定することから、図1のような構成で固定子線間電圧を検出してもよいし、図2のような構成で固定子相電圧を検出してもよい。(4)式または(5)式から電圧Vα、Vβが求まると、(6)式に基づいて、第2の位置推定部8,8aは、回転子推定位置θ2を推定し、回転子位置切換部51へ出力する。
また、第2の位置推定部8,8aでは回転子推定位置θ2を推定するとともに、交流回転機1の回転方向を判定することも可能である。ただし、交流回転機1の回転方向が交流回転機1の制御装置の外部から与えられている場合等は、交流回転機1の回転方向を判定する機能が第2の位置推定部8,8aに備わっていなくても良い。
図9において、交流回転機1の回転方向について、u→v→w→uの方向に回転する場合を「正転(または前進)」、u→w→v→uの方向に回転する場合を「逆転(または後進)」とする。この「正転(または前進)」、「逆転(または後進)」を判定するためには、電圧Vα、Vβの正負の反転を検出すれば良い。まず、電圧Vα、Vβの正負を検出する(この時の状態を状態Aとする)。そして、電圧Vαまたは電圧Vβのいずれか一方の正負が反転した時に、再度、電圧Vα、Vβの正負を検出する(この時の状態を状態Bとする)。
図10は、第2の位置推定部8が交流回転機1の回転方向を求めるためのテーブルであり、状態Aと状態Bにおける電圧Vα、Vβの正負と交流回転機1の回転方向との関係を示したものである。状態Aと状態Bにおける電圧Vα、Vβの正負を図10に照らし合わせることによって交流回転機1の回転方向を判定することができる。つまり、交流回転機1の少なくとも2つの固定子電圧を検出する本実施の形態のような方式では、ある1点における固定子電圧の検出値から(4)式〜(6)式に基づいて回転子推定位置θ2を推定できる。ところで、交流回転機1の1つの固定子電圧のみを検出する方式(例えば、u相・v相間の固定子線間電圧Vuv、u相固定子相電圧Vuのいずれか1つのみを検出する方式)で電圧検出を行う場合には、(4)式または(5)式を用いて電圧Vα、Vβを求めることができないため、交流回転機1の回転方向を判定することができない。このため、交流回転機1の1つの固定子電圧のみを検出する方式では、固定子電圧の振幅と周波数とを求めるために、固定子電圧を少なくとも半周期間以上観測する必要があるので、回転子推定位置θ2を推定するのに時間を要する。しかしながら、起動指令が交流回転機1の制御装置に入力されてから、回転子位置切換部51が回転子推定位置θを制御手段6へ出力するまでの時間、すなわち、制御手段6が第1の電圧指令Vu*、Vv*、Vw*を電力変換器2へ出力し、交流回転機1の駆動を開始するまでの時間はできる限り短い方が望ましい。このことから、電圧検出手段は、少なくとも交流回転機1の2つの固定子電圧を検出することが望ましい。
次に、回転子位置切換部51の動作について説明する。回転子位置切換部51は、外部から起動指令が入力されると、電流検出手段3a,3bによって検出された少なくとも2相分の出力電流に基づいて第1の位置推定部7において推定した回転子推定位置θ1、または電圧検出手段4a,4bによって検出された少なくとも2つの固定子電圧に基づいて第2の位置推定部8において推定した回転子推定位置θ2のいずれかを、固定子電圧の振幅に基づいて選択し、回転子推定位置θとして出力する機能を有する。
本実施の形態においては、回転子位置切換部51が固定子電圧の振幅に基づいて回転子推定位置θ1またはθ2のいずれかを選択した後で、選択された方の回転子推定位置を推定する位置推定部(第1の位置推定部7または第2の位置推定部8)を動作させて、選択された回転子推定位置を得るようにする。なお、第1および第2の位置推定部7,8が並行して回転子推定位置θ1,θ2を推定している状態で、回転子位置切換部51が固定子電圧の振幅に基づいて回転子推定位置θ1または回転子推定位置θ2のいずれかを回転子推定位置θとして選択してもよい。
図1に示すように、回転子位置切換部51は、外部からの起動指令が入力されると、電圧検出手段4aによって検出されたu相・v相間の固定子線間電圧Vuv、電圧検出手段4bによって検出されたv相・w相間の固定子線間電圧Vvw、およびw相・u相の固定子線間電圧Vwuから、(7)式に基づいて固定子線間電圧の振幅VLを求める。なお、図1のように、w相・u相の固定子線間電圧Vwuを検出しない場合には、Vwu=−Vuv−Vvwの関係から固定子線間電圧Vwuを求める。
図1とは異なる図2のような電圧検出を行う場合には、回転子位置切換部51aは、外部からの起動指令が入力されると、電圧検出手段4cによって検出されたu相固定子相電圧Vu、電圧検出手段4dによって検出されたv相固定子相電圧Vvから、(8)式に基づいて固定子相電圧の振幅VPを求める。なお、図2のように、w相固定子相電圧Vwを検出しない場合には、Vw=−Vu−Vvの関係からw相固定子相電圧Vwを求める。
(7)式または(8)式では、固定子線間電圧(固定子相電圧)の振幅を求める例について示しているが、この振幅を1/√2倍して、固定子線間電圧(固定子相電圧)の実効値を求めても良い。(7)式から固定子線間電圧の振幅VL、または、(8)式から固定子相電圧の振幅VPが求まると、振幅VLまたは振幅VPを予め設定した閾値V0と比較する。閾値V0は、固定子線間電圧(固定子相電圧)の大きさに関係なく常に精度良く交流回転機1の回転子位置を推定可能な値となるように、交流回転機1の電気定数などに応じて調整・設定する。振幅VLまたは振幅VPが閾値V0より小さい場合には、回転子位置切換部51,51aは、第1の位置推定部7で推定した回転子推定位置θ1を選択し、交流回転機1の回転子推定位置θとして制御手段6へ出力する。振幅VLまたは振幅VPが閾値V0より大きい場合には、回転子位置切換部51,51aは、第2の位置推定部8で推定した回転子推定位置θ2を選択し、交流回転機1の回転子推定位置θとして制御手段6へ出力する。
図11は、回転子位置切換部51,51aの処理動作を表すフローチャートである。図11に従って、回転子位置切換部51,51aの処理動作について説明する。外部から起動指令が入力された時をSTEP101とする。STEP101で外部から起動指令が入力されると、STEP102では、回転子位置切換部51,51aが固定子線間電圧の振幅VLまたは固定子相電圧の振幅VPを求める。なお、STEP102では、振幅VLおよび振幅VPを総称して交流電圧の振幅Vとしている。STEP103では、交流電圧の振幅Vと予め設定した閾値V0とを比較し、V<V0が真であれば、STEP104へ移行する。V<V0が偽であれば、STEP105へ移行する。
STEP104では、第1の位置推定部7で推定した回転子推定位置θ1を選択し、交流回転機1の回転子推定位置θとして制御手段6へ出力する。一方、STEP105では、第2の位置推定部8で推定した回転子推定位置θ2を選択し、交流回転機1の回転子推定位置θとして制御手段6へ出力する。そして、STEP106では、交流回転機1の起動時における回転子位置切換部51,51aの動作、つまり、交流回転機1の駆動開始時の位置推定を終了する。以上のような一連の動作によって、回転子位置切換部51,51aは、外部から起動指令が入力された時(交流回転機1の起動時)の回転子推定位置θを制御手段6へ出力する。
ここで、閾値V0に対する振幅VLまたは振幅VPの大きさに応じて、第1の位置推定部7で推定した回転子推定位置θ1または第2の位置推定部8で推定した回転子推定位置θ2のいずれかを選択することが望ましい理由について説明する。前述のように、第1の位置推定部7による回転子推定位置θ1の推定を行う場合には、回転子推定位置θ1を検出するための位置検出信号を、交流回転機1の多相巻線に発生させる。この方法では、交流回転機1の停止時や低負荷運転時等のような交流回転機1の回転子の回転数(回転速度)が小さいために固定子電圧が低くなるような場合でも、精度良く回転子推定位置θ1を測定できる。しかしながら、交流回転機1の高速回転時や高負荷運転時等のような交流回転機1の回転子の回転数(回転速度)が大きいために固定子電圧が高く、固定子電圧が飽和しているような場合には、位置検出信号を重畳することができない。このため、第1の位置推定部7による回転子推定位置θ1の推定は、交流回転機1の停止時や低負荷運転時等のような交流回転機1の固定子電圧が低い場合に適用することが望ましい。
また、第2の位置推定部8は、電圧検出手段4a,4bまたは電圧検出手段4c,4dによって検出された固定子線間電圧または固定子相電圧に基づいて交流回転機1の回転子推定位置θ2を推定するものである。この方法では、交流回転機1の高速回転時や高負荷運転時等のような固定子電圧が高い場合には、精度良く回転子推定位置θ2を測定することができる。しかしながら、交流回転機1が停止している場合には、交流回転機1の固定子線間電圧または固定子相電圧が0となる。また、低負荷運転時で固定子電圧が低い場合には、電圧検出手段4a,4b(または電圧検出手段4c,4d)の検出性能(電圧を検出可能な分解能)が低くなるので、電圧検出誤差が生じたり、または固定子相電圧を0と検出したりする可能性がある。このため、回転子推定位置θ2の推定が困難となる可能性があり、第2の位置推定部8による回転子推定位置θ2の推定は、交流回転機1の高速回転時や高負荷運転時等のような交流回転機1の固定子電圧が高い場合に適用することが望ましい。以上のことから、交流回転機1の固定子線間電圧または固定子相電圧の大きさに基づいて第1の位置推定部7で推定した回転子推定位置θ1、交流回転機1の出力電流に基づいて第2の位置推定部8で推定した回転子推定位置θ2のいずれかを選択可能な構成にすれば、固定子線間電圧または固定子相電圧の大きさに関係なく常に精度良く交流回転機1の回転子推定位置θを推定することができる。
なお、本実施の形態では、交流回転機1の固定子線間電圧の振幅VLまたは固定子相電圧の振幅VPと閾値V0とを比較する際に、(7)式または(8)式に基づいて固定子線間電圧の振幅VLまたは固定子相電圧の振幅VPを厳密に演算する例について説明した。しかしながら、(7)式または(8)式には平方根演算が含まれており、交流回転機1の制御装置に用いるマイコンの仕様によっては適用困難となる可能性がある。固定子線間電圧の振幅VLまたは固定子相電圧の振幅VPを求める目的は、閾値V0と比較して、第1の位置推定部7で推定した回転子推定位置θ1または第2の位置推定部8にて推定した回転子推定位置θ2のいずれかを選択することであるから、必ずしも厳密な固定子線間電圧の振幅または固定子相電圧の振幅を求める必要は無く、例えば、平方根演算を省いた(9)式または(10)式に基づいて演算した値V1と、閾値V0とを比較して演算処理を簡略にしても良い。
この場合、固定子線間電圧または固定子相電圧の大きさに関係なく常に精度良く交流回転機1の回転子位置を推定できるように、閾値V0を適切に調整する。また、第1の位置推定部7または第2の位置推定部8のうち、回転子位置切換部51,51aが選択しなかった方の位置推定部の動作を行わないことが望ましい。このことによって、交流回転機1に対して不必要に位置検出信号が重畳することを防ぐことができる。
以上のような構成によって、交流回転機1の起動指令が入力された場合に、交流回転機1の出力電流に基づいて推定した回転子推定位置θ1(第1の回転子推定位置)または交流回転機1の固定子電圧に基づいて推定した回転子推定位置θ2(第2の回転子推定位置)のいずれかを交流回転機1の固定子電圧の振幅に基づいて選択するので、交流回転機1の回転子の回転数(回転速度)の大小に関係なく、交流回転機1を起動する際に回転子推定位置と回転子の回転方向とを位置センサレスで推定することが可能であり、かつ、外部からの起動指令の入力時に適切な位置推定方法を選択し、交流回転機1の回転子位置を推定するまでの時間を短縮することができる。
また、少なくとも2つの固定子電圧の検出値を用いることによって、短時間で固定子電圧(交流電圧)の振幅(または実効値)と回転子推定位置とを求めることができ、かつ、上位の制御手段6から回転方向の情報を与えることなく、第2の位置推定部8,8aで回転子の回転方向を判定することができる。さらに、複数の位置推定部から出力される回転子推定位置を選択する際に、交流回転機1の速度推定値や速度検出値を用いる必要がない。また、電流制御を行わないことから、交流回転機1の回転数の大小や固定子電圧の飽和状態に関係なく、回転子推定位置を正確に選択することができる。
実施の形態2.
図12は、この発明を実施するための実施の形態2における多相巻線を有する交流回転機および交流回転機の制御装置を含めた交流回転機制御システムの構成図である。本実施の形態の交流回転機の制御装置は、第1の位置推定部、第2の位置推定部とは別に、交流回転機の駆動中における交流回転機の回転子位置を推定する第3の位置推定部を備えたことが実施の形態1と異なる。図12において、図1と同一の符号を付したものは、同一またはこれに相当するものであり、このことは明細書の全文において共通することである。また、明細書全文に表れている構成要素の態様は、あくまで例示であってこれらの記載に限定されるものではない。なお、制御手段は、実施の形態1において説明した電圧指令を生成する制御手段6を用いても良いし、電流指令を生成する制御手段6aを用いても良い。本実施の形態においては、電圧指令を生成する制御手段6を適用して説明する。
図12において、回転子位置推定手段5bは、第1の位置推定部7、第2の位置推定部8、第3の位置推定部9、および回転子位置切換部51bによって構成されている。本実施の形態と、実施の形態1との違いは次のとおりである。第3の位置推定部9は、制御手段6から出力された第1の電圧指令Vu*、Vv*と電流検出手段3a,3bによって検出された交流回転機1の出力電流iu、ivとに基づいて、交流回転機1の駆動中における交流回転機1の回転子推定位置θ3(第3の回転子推定位置)を出力する。出力電流iu、ivは、第1の電圧指令Vu*、Vv*によって電力変換器2が交流回転機1を駆動する際に得られる出力電流である。回転子位置推定手段5bは、外部から起動指令が回転子位置切換部51bに入力された時に、交流回転機1の出力電流に基づいて第1の位置推定部7によって推定された回転子推定位置θ1(第1の回転子推定位置)または交流回転機1の少なくとも2つの固定子電圧に基づいて第2の位置推定部8によって推定された回転子推定位置θ2(第2の回転子推定位置)のいずれかを選択し、回転子推定位置θとして制御手段6へ出力する。そして、回転子位置推定手段5bは、交流回転機1の駆動が開始された後で、第3の位置推定部9から入力された回転子推定位置θ3を、交流回転機1の回転子推定位置θとして制御手段6へ出力する。なお、第1の位置推定部7、第2の位置推定部8の構成、動作については実施の形態1と同じである。
第1の位置推定部7および第2の位置推定部8は、交流回転機1の起動時において交流回転機1の回転子位置を精度良く推定可能な方法である。しかしながら、交流回転機1が駆動している期間は、交流回転機1の駆動中の固定子電圧や出力電流の情報を用いて、回転子位置を精度良く推定することができる。交流回転機1の回転子推定位置θを精度良く推定するためには、より多くの情報に基づいて推定することが望ましいので、交流回転機1の起動時には第1の位置推定部7または第2の位置推定部8によって推定された回転子推定位置を、交流回転機1の駆動時には第3の位置推定部9によって推定された回転子推定位置θ3を選択することで、交流回転機1の起動時から停止時まで、精度良く回転子位置θを推定することができる。
まず、第3の位置推定部9の構成および動作について説明する。図13は、第3の位置推定部9の構成図である。第3の位置推定部9は、電流検出手段3a,3bによって検出された交流回転機1の出力電流iu、ivと、制御手段6から出力された第1の電圧指令Vu*、Vv*とを入力し、回転子推定位置θ3を推定して回転子位置切換部51bへ出力する。なお、交流回転機1の3相のうちの残りの1相のw相の出力電流iwについては、検出した出力電流iu、ivに基づいて、iw=−iu−ivの関係から求める。また、電流検出手段は、2つの相だけに備えても良いし、3相全てに備えても良い。
本実施の形態において、第3の位置推定部9は、回転機モデル91、偏差増幅器92、ゲイン演算器93、速度同定器94、座標変換器95a、座標変換器95b、および積分器96によって構成されている。
座標変換器95aは、電流検出手段3a,3bによって検出されたu相電流iu、v相電流ivを回転子推定位置θ3に基づいて回転二軸座標上(d−q軸上)の電流id、iqに変換する。また、座標変換器95bは、制御手段6から出力された第1の電圧指令Vu*、Vv*を回転子推定位置θ3に基づいて回転二軸座標上(d−q軸上)の電圧指令Vd*、Vq*に変換する。なお、図13には示していないが、座標変換器95bで得られた電圧指令Vd*、Vq*を用いる方法以外に、制御手段6の内部で得られている回転二軸座標上(d−q軸上)の電圧指令Vd*、Vq*を用いても良く、この場合、座標変換器95bは不要となる。
回転機モデル91は、回転二軸座標(d−q軸)上の電圧指令Vd*、Vq*と、後述する推定回転速度ωr0と、同じく後述する偏差f1、f2、f3、f4とに基づいて、回転二軸座標上(d−q軸上)のd軸推定電流id0、q軸推定電流iq0、d軸推定回転子磁束pdr0、角周波数ωを求める。例えば、交流回転機1が同期機の場合、回転機モデル91における演算式は(11)式〜(13)式で表される。
ここで、R:固定子巻線抵抗、Ld:d軸方向のインダクタンス、Lq:q軸方向のインダクタンス、pds0:推定電機子反作用のd軸成分、pqs0:推定電機子反作用のq軸成分である。
加減算器97aは、d軸推定電流id0から回転二軸座標上の電流idを減算した結果をd軸電流偏差edとして出力する。また、加減算器97bは、q軸推定電流iq0から回転二軸座標上の電流iqを減算した結果をq軸電流偏差eqとして出力する。速度同定器94は、d軸推定回転子磁束pdr0、q軸電流偏差eqに基づいて(14)式によって推定回転速度ωr0を出力する。
ここで、KP:比例ゲイン、KI:積分ゲイン、s:ラプラス演算子である。ゲイン演算器93は、推定回転速度ωr0に基づいてゲインh11、h12、h21、h22、h31、h32、h41、h42を出力する。偏差増幅器92は、d軸電流偏差edとq軸電流偏差eqとをゲインh11、h12、h21、h22、h31、h32、h41、h42によって増幅し、(15)式によって偏差f1、f2、f3、f4を求め、回転機モデル91へ出力する。
積分器96は、回転機モデル91から出力される角周波数ωを積分して回転子推定位置θ3を出力する。以上のような構成によって、第3の位置推定部9は回転子推定位置θ3を推定し、回転子位置切換部51bへ出力する。
本実施の形態に示した第3の位置推定部9は、回転二軸座標上(d−q軸上)の電流id、iqと電圧指令Vd*、Vq*とに基づいて、角周波数ωと推定電流id0、iq0と推定回転子磁束pdr0と推定回転速度ωr0とを演算する回転二軸上で構成した適応オブザーバに相当するが、静止二軸上で適応オブザーバを構成する方式、または、状態変数を推定電流id0、iq0以外の変数にする適応オブザーバを構成する方式であっても良い。また、誘導機についても同様な回転機モデル91を構築することができる。
次に、回転子位置切換部51bの動作について説明する。外部から起動指令が入力されてから第1の位置推定部7で推定した回転子推定位置θ1または第2の位置推定部8で推定した回転子推定位置θ2のいずれかを選択し、交流回転機1の回転子推定位置θとして制御手段6へ出力するまでの動作は、実施の形態1に示した回転子位置切換部51,51aの動作と同じである。実施の形態1では、外部から起動指令が入力されてから、交流回転機1が駆動開始するまでの動作について説明したが、本実施の形態では、交流回転機1の駆動中における回転子位置切換部51bの動作について説明する。
外部から起動指令が入力されてから実施の形態1の図11に示した順序で、第1の位置推定部7で推定した回転子推定位置θ1または第2の位置推定部8で推定した回転子推定位置θ2を選択し、交流回転機1の回転子推定位置θとして制御手段6へ出力すると、制御手段6は回転子推定位置θに基づいて第1の電圧指令Vu*、Vv*、Vw*を電力変換器2へ出力する。そして、電力変換器2は、第1の電圧指令Vu*、Vv*、Vw*に基づいて電圧を出力し、交流回転機1の駆動を開始する。電力変換器2が交流回転機1の駆動を開始してから交流回転機1の駆動を停止するまでの期間、回転子位置切換部51bは第3の位置推定部9で推定した回転子推定位置θ3を選択し、制御手段6へ出力する。なお、この期間中、第1の位置推定部7および第2の位置推定部8を動作させておく必要はない。
図14は、回転子位置切換部51bの処理動作を表すフローチャートである。図14に従って、回転子位置切換部51bの処理動作について説明する。図14において、STEP101からSTEP106までの動作は実施の形態1の図11と同じであるので、説明を省略する。STEP106において、交流回転機1の起動時における回転子位置切換部51bの動作、すなわち、交流回転機1の駆動開始時の位置推定を終了すると、STEP104またはSTEP105において出力された交流回転機1の駆動開始時の推定位置に基づいて、制御手段6は第1の電圧指令Vu*、Vv*、Vw*を電力変換器2へ出力する。電力変換器2は、第1の電圧指令Vu*、Vv*、Vw*に基づいて電圧を出力し、交流回転機1の駆動を開始する。
電力変換器2が交流回転機1の駆動を開始すると、STEP107へ移行し、回転子位置切換部51bは、第3の位置推定部9で推定した回転子推定位置θ3を選択し、交流回転機1の回転子推定位置θとして制御手段6へ出力する。STEP108では、電力変換器2による交流回転機1の駆動が停止しているか否かが判断される。駆動が停止しているか否かについては、外部からの停止指令を受けたかどうかで判断する方法などがある。そして、電力変換器2による交流回転機1の駆動が停止するまで、第3の位置推定部9で推定した回転子推定位置θ3を回転子推定位置θとして制御手段6へ出力するSTEP107の動作を継続する。STEP108で、電力変換器2による交流回転機1の駆動が停止していると判断された場合には、STEP109へ移行し、交流回転機1の位置推定動作を終了する。以上のような一連の動作によって、回転子位置切換部51bは、外部から起動指令が入力されて交流回転機1の駆動が開始してから停止するまで、回転子推定位置θを制御手段6へ出力する。
以上のように、交流回転機1の駆動中に回転子位置を推定する第3の位置推定部9を備えたことによって、第1の電圧指令Vu*、Vv*と交流回転機1の出力電流iu、ivといった複数の情報に基づいて交流回転機1の回転子位置を推定するので、交流回転機1の駆動中に、より精度良く交流回転機1の回転子位置を推定することができる。このため、交流回転機1の起動時だけではなく、交流回転機1の駆動中も精度良く回転子位置を推定することができる。
実施の形態3.
図15は、この発明を実施するための実施の形態3における多相巻線を有する交流回転機および交流回転機の制御装置を含めた交流回転機制御システムの構成図である。本実施の形態の交流回転機の制御装置は、制御手段に高周波信号を出力する高周波信号発生器を備えたこと、第1の位置推定部、第2の位置推定部、第3の位置推定部とは別に、交流回転機の駆動中における交流回転機の回転子位置を出力する第4の位置推定部を備えたことが実施の形態2と異なる。第1の位置推定部7、第2の位置推定部8、および第3の位置推定部9については、実施の形態2において説明したものと同じである。なお、電圧検出手段は、実施の形態1において説明した固定子線間電圧を検出する電圧検出手段4a,4bを用いても良いし、固定子相電圧を検出する電圧検出手段4c,4dを用いても良い。本実施の形態においては、固定子線間電圧を検出する電圧検出手段4a,4bを適用して説明する。
図15において、回転子位置推定手段5cは、第1の位置推定部7、第2の位置推定部8、第3の位置推定部9、第4の位置推定部10、および回転子位置切換部51cによって構成されている。第3の位置推定部9は、第1の電圧指令Vu*、Vv*、Vw*と第1の電圧指令Vu*、Vv*、Vw*を制御手段6bが電力変換器2へ出力した際に電流検出手段3a,3bによって検出された交流回転機1の出力電流iu、ivとに基づいて、交流回転機1の駆動中における回転子推定位置θ3(第3の回転子推定位置)を出力する。第4の位置推定部10は、高周波信号を含む第1の電圧指令Vu*、Vv*、Vw*を制御手段6bが電力変換器2へ出力した際に電流検出手段3a,3bによって検出された交流回転機1の出力電流iu、ivに基づいて、交流回転機1の駆動中における交流回転機1の回転子推定位置θ4(第4の回転子推定位置)を出力する。出力電流iu、ivは、第1の電圧指令Vu*、Vv*によって電力変換器2が交流回転機1を駆動する際に得られる出力電流である。
回転子位置切換部51cは、外部から起動指令が回転子位置切換部51cに入力された時に、交流回転機1の出力電流に基づいて第1の位置推定部7によって推定された回転子推定位置θ1(第1の回転子推定位置)または交流回転機1の少なくとも2つの固定子電圧に基づいて第2の位置推定部8によって推定された回転子推定位置θ2(第2の回転子推定位置)のいずれかを選択し、交流回転機1の回転子推定位置θとして出力する。そして、回転子位置切換部51cは、交流回転機1の駆動が開始された後で、電圧検出手段4a,4bによって検出された少なくとも2つの固定子線間電圧に基づいて、第3の位置推定部9で推定した回転子推定位置θ3または第4の位置推定部10で推定した回転子推定位置θ4のいずれかを選択し、交流回転機1の回転子推定位置θとして制御手段6bへ出力する。
第4の位置推定部10は、実施の形態1で説明した第1の位置推定部7における回転子位置の推定と同様に、交流回転機1の磁気抵抗(インダクタンスの磁気飽和)による電流量の変化を利用して回転子位置を推定するものである。ただし、本実施の形態を実施するための制御手段6bは、実施の形態1および実施の形態2に示した制御手段6,6aとは異なるので、まず、本実施の形態における制御手段6bの構成について説明する。
図16は、本実施の形態における制御手段6bの構成図である。本実施の形態における制御手段6bは、第4の位置推定部10によって交流回転機1の回転子位置θ4を推定する際に、高周波信号Vuh*、Vvh*、Vwh*を出力する高周波信号発生器69を備え、高周波信号発生器69から出力される高周波信号Vuh*、Vvh*、Vwh*を含む第1の電圧指令Vu*、Vv*、Vw*を電力変換器2へ出力できる構成になっている点が、実施の形態1および実施の形態2において示した制御手段6,6aと異なる。図16において、座標変換器61が出力する第1の電圧指令と制御手段6bの出力である第1の電圧指令とを区別するため、座標変換器61が出力する第1の電圧指令をVu0*、Vv0*、Vw0*とし、制御手段6bの出力である第1の電圧指令をVu*、Vv*、Vw*とする。
実施の形態1に示した制御手段6aと比べると、高周波信号発生器69および加減算器68d,68e,68fが追加されている。座標変換器61が出力する第1の電圧指令Vu0*、Vv0*、Vw0*に、高周波信号発生器69が発生する高周波信号Vuh*、Vvh*、Vwh*が加減算器68d,68e,68fによって加算され、第1の電圧指令Vu*、Vv*、Vw*として電力変換器2へ出力される。制御手段6bの出力である第1の電圧指令Vu*、Vv*、Vw*を式で表すと、(16a)〜(16c)式のようになる。
座標変換器61が出力する第1の電圧指令Vu0*、Vv0*、Vw0*は、電力変換器2が交流回転機1を駆動するための信号であり、高周波信号Vuh*、Vvh*、Vwh*は、交流回転機1の駆動中において、第4の位置推定部10によって交流回転機1の回転子位置θ4を推定するための信号である。高周波信号Vuh*、Vvh*、Vwh*は、電力変換器2で行うパルス幅変調制御のスイッチング周期のm倍と等しい周期であり、かつ各相で位相の異なる三相交流電圧である。スイッチング周期のm倍の周期と等しい三相交流電圧の各相に位相差を持たせるためにmは3以上の整数とする。このような高周波信号Vuh*、Vvh*、Vwh*のベクトル和である電圧ベクトルは回転電圧となる。回転電圧とは、三相交流信号の1周期のうちに、三相交流信号の各相のベクトル和である電圧ベクトルを3方向以上に印加する電圧のことである。
図17に、高周波信号発生器69が出力する高周波信号Vuh*、Vvh*、Vwh*の一例として、m=4の場合の電圧波形を示す。また、図18に、高周波信号発生器69が出力する高周波信号のベクトル和である電圧ベクトルを示す。ここでは、電圧レベルを任意の値の+Vhと−Vhとの2レベルとし、+Vhと−Vhを2区間(スイッチング周期の2周期分)ずつ交互に変化させ、各相の位相差は1区間として出力している。この場合、図18に示すように、Vuh*、Vvh*、Vwh*のベクトル和である電圧ベクトルは、三相交流電圧1周期のうちに、1〜4のような順番に変化する回転電圧となる。
なお、+Vh、−Vhの区間は2区間ずつにする必要はなく、1区間または3区間でも良い。ただし、スイッチング周期のm倍と等しい周期の位相の異なる三相交流電圧を出力する場合、+Vh、−Vhの区間は、1から(m−1)の間の値でなければならないし、+Vhの区間と−Vhの区間とは合わせてm区間でなければならない。また、図17のように、各相の位相差を1区間とする必要はなく、2区間または3区間でも良い。ただし、スイッチング周期のm倍と等しい周期の位相の異なる三相交流電圧を出力する場合、各相の位相差は1から(m−1)の間の値でなければならない。
次に、第4の位置推定部10の構成および動作について説明する。図19は、本実施の形態における第4の位置推定部10の構成図である。電流検出手段3a,3bは、高周波信号Vuh*、Vvh*、Vwh*が重畳された状態の第1の電圧指令Vu*、Vv*、Vw*に基づいて駆動される交流回転機1の出力電流iu、ivを検出する。なお、交流回転機1の3相のうちの残りの1相のw相の出力電流iwについては、検出した出力電流iu、ivに基づいて、iw=−iu−ivの関係から求める。また、電流検出手段は、2つの相だけに備えても良いし、3相全てに備えても良い。第4の位置推定部10は、この出力電流iu、ivを入力し、回転子推定位置θ4を推定し、回転子位置切換部51cへ出力する。
第4の位置推定部10における回転子推定位置θ4を推定方法は次のとおりである。第4の位置推定部10は、電流検出手段3a,3bにて検出した交流回転機1の出力電流iu、ivを二相交流座標上(α−β軸)の電流iα、iβへ変換する座標変換器11と、座標変換器11の電流iα、iβの振幅(大きさ)Ia、Ibを抽出するフーリエ変換器12a,12bと、フーリエ変換器12a,12bの振幅Ia、Ibを各々二乗し、Ia2、Ib2を出力する乗算器13a,13bと、乗算器13bの出力Ib2から乗算器13aの出力Ia2を減じてΔIabを出力する加減算器14と、加減算器14の出力であるΔIabから回転子推定位置θ4を演算し、出力する位置演算器15とによって構成される。
座標変換器11は、電流検出手段3a,3bによって検出された交流回転機1の出力電流iu、ivを(17)式に基づいて二相交流座標上(α−β軸)の電流iα、iβへ変換する。
また、交流回転機1が回転子に永久磁石を有する永久磁石同期機の場合、二相交流座標上(α−β軸)での電圧方程式は(18)式のように表すことができる。
ここで、[Vα Vβ]T:二相交流座標上(α−β軸)での電圧、[iα iβ]T:二相交流座標上(α−β軸)での電流、P:微分演算子、ω:回転角速度(電気角)、θ:α軸(u相巻線軸)と永久磁石のN極(d軸)との位相差、Lα:L1+L2cos2θ、Lβ:L1−L2cos2θ、Lαβ:L2sin2θ、L1=(Ld+Lq)/2、L2=(Ld+Lq)/2である。なお、θはα軸(u相巻線軸)と永久磁石のN極(d軸)との位相差で、交流回転機1の回転子推定位置θと同じものである。交流回転機1が停止時または低速駆動時と仮定し、ω=0とすれば二相交流座標上(α−β軸)での電流iα、iβは(19)式となる。
高周波信号発生器69によって角周波数が十分に高い角周波数ωhの高周波信号を印加すると、R<<Lαωh、R<<Lβωhとみなせることから、固定子巻線抵抗Rの影響を無視すると、(19)式は(20)式のように近似できる。
高周波信号発生器69から出力する角周波数ωhの高周波信号Vuh*、Vvh*、Vwh*を二相交流座標上(α−β軸)で表すと(21a)式、(21b)式となる。そして、(21a)式、(21b)式の二相交流座標上(α−β軸)での高周波電圧[Vαh Vβh]Tを(20)式の[Vα Vβ]Tに代入すると(22a)式、(22b)式が得られる。ここで、Vαβは固定直交座標での高周波電圧の振幅である。
(22a)式、(22b)式に示した二相交流座標上(α−β軸)での電流iα、iβには、交流回転機1の回転子推定位置θの情報が含まれており、電流iα、iβからθを抽出すれば、交流回転機1の回転子推定位置θを推定できる。フーリエ変換器12a,12bは、電流iα、iβを入力し、電流iα、iβの振幅(大きさ)Ia、Ibを抽出する。抽出された振幅Ia、Ibから、(23)式に基づいて交流回転機1の回転子推定位置θの情報を含むΔIabを出力する。(23)式の演算を行うために、振幅Ia、Ibを各々二乗し、Ia2、Ib2を出力する乗算器13a、13bと、乗算器13a、13bの出力Ib2からIa2を減じてΔIabを出力する加減算器14を用いる。
位置演算器15では、(23)式で得られたΔIabからcos2θのみを抽出する。そして、cos2θの逆余弦を演算することによって2θを求め、得られた2θを0.5倍することによって回転子推定位置θ4が得られる。なお、2θを求める演算は逆余弦演算ではなく、cos2θの値を記憶したテーブルを用意し、その記憶装置に記憶されたcos2θの値に基づいて回転子推定位置θ4を求めても良い。以上のような構成によって、第4の位置推定部10は回転子推定位置θ4を演算し、回転子位置切換部51cへ出力する。
なお、高周波信号Vuh*、Vvh*、Vwh*は、回転子推定位置θ4を推定するために必要な信号であるので、回転子位置切換部51cが第4の位置推定部10で推定した回転子推定位置θ4を選択する場合のみ、高周波信号発生器69を動作するようにすれば良い。すなわち、回転子位置切換部51cが第4の位置推定部10で推定した回転子推定位置θ4を選択しない場合には、高周波信号発生器69からの出力である高周波信号Vuh*、Vvh*、Vwh*を全て0にし、高周波信号発生器69の動作を停止しても良い。
つまり、本実施の形態においては、回転子位置切換部51cが回転子推定位置θ3またはθ4のいずれかを選択した後で、選択された方の回転子推定位置を推定する位置推定部(第3の位置推定部9または第4の位置推定部10)を動作させて、選択された回転子推定位置を得るようにする。第4の位置推定部10が選択された場合には、高周波信号発生器69から高周波信号Vuh*、Vvh*、Vwh*を出力させ、第4の位置推定部10は、高周波信号を含む第1の電圧指令Vu*、Vv*、Vw*を制御手段6bが電力変換器2へ出力した際に電流検出手段3a,3bによって検出された交流回転機1の出力電流iu、ivに基づいて、交流回転機1の駆動中における回転子推定位置θ4を推定する。しかしながら、第3の位置推定部9が選択された場合には、高周波信号発生器69の動作を停止する。このため、第3の位置推定部9は、高周波信号を含まない第1の電圧指令Vu*、Vv*、Vw*と高周波信号を含まない第1の電圧指令Vu*、Vv*、Vw*を制御手段6bが電力変換器2へ出力した際に電流検出手段3a,3bによって検出された交流回転機1の出力電流iu、ivとに基づいて、交流回転機1の駆動中における回転子推定位置θ3を推定する。
なお、第3および第4の位置推定部9,10が並行して回転子推定位置θ3,θ4を推定している状態で、回転子位置切換部51cが回転子推定位置θ3または回転子推定位置θ4のいずれかを回転子推定位置θとして選択してもよい。この場合、第3の位置推定部9は、高周波信号を含む第1の電圧指令Vu*、Vv*、Vw*と高周波信号を含む第1の電圧指令Vu*、Vv*、Vw*を制御手段6bが電力変換器2へ出力した際に電流検出手段3a,3bによって検出された交流回転機1の出力電流iu、ivとに基づいて、交流回転機1の駆動中における回転子推定位置θ3を推定する。
次に、回転子位置切換部51cの動作について説明する。外部から起動指令が入力されてから交流回転機1の駆動を開始するまでの動作は、実施の形態2に示した回転子位置切換部51bの動作と同じであるが、交流回転機1の駆動を開始した後の動作が異なる。外部から起動指令が入力された時に回転子推定位置θ1を選択した場合には、交流回転機1の駆動中に第4の位置推定部10で推定した回転子推定位置θ4を選択し、外部から起動指令が入力された時に回転子推定位置θ2を選択した場合には、交流回転機1の駆動中に回転子推定位置θ3を選択し、制御手段6bへ出力する点が実施の形態2と異なる。
図20は、回転子位置切換部51cの処理動作を表すフローチャートである。図20において、STEP101からSTEP106までの動作は図14で示した実施の形態2における動作と同じであるので説明は省略する。ただし、本実施の形態では、STEP106を以下の条件に従ってSTEP106aとSTEP106bとに区別する。
STEP106aは、STEP104で第1の位置推定部7によって推定した回転子推定位置θ1を選択し、交流回転機1の回転子推定位置θとして制御手段6bへ出力した後に、交流回転機1の駆動開始時の回転子位置の推定を終了する動作である。STEP106bは、STEP105で第2の位置推定部8によって推定した回転子推定位置θ2を選択し、交流回転機1の回転子推定位置θとして制御手段6bへ出力した後に、交流回転機1の駆動開始時の回転子位置の推定を終了する動作である。
まず、STEP106a以降の動作について説明する。STEP106aでは、交流回転機1の電力変換器2の起動時における回転子位置切換部51cの動作、すなわち、交流回転機1の駆動開始時の回転子位置の推定を終了すると、STEP104にて出力された駆動開始時の回転子推定位置θに基づいて、制御手段6bは高周波信号Vuh*、Vvh*、Vwh*が重畳された第1の電圧指令Vu*、Vv*、Vw*を電力変換器2へ出力する。電力変換器2は、第1の電圧指令Vu*、Vv*、Vw*に基づいて電圧を出力し、交流回転機1の駆動を開始する。交流回転機1の駆動を開始すると、STEP110へ移行し、第4の位置推定部10で推定した回転子推定位置θ4を選択し、交流回転機1の回転子推定位置θとして制御手段6bへ出力する。
STEP108aでは、電力変換器2による交流回転機1の駆動を停止するか否かを判断し、電力変換器2による交流回転機1の駆動を停止すると判断するまで、第4の位置推定部10で推定した回転子推定位置θ4を回転子推定位置θとして制御手段6bへ出力するSTEP110の動作を継続する。そして、STEP108aで、電力変換器2による交流回転機1の駆動を停止すると判断した場合には、STEP109へ移行し、交流回転機1の位置推定動作を終了する。
次に、STEP106b以降の動作について説明する。STEP106bでは、交流回転機1の電力変換器2の起動時における回転子位置切換部51cの動作、すなわち、交流回転機1の駆動開始時の回転子位置の推定を終了すると、STEP105にて出力された駆動開始時の回転子推定位置θに基づいて、制御手段6bは第1の電圧指令Vu*、Vv*、Vw*を電力変換器2へ出力する。電力変換器2は、第1の電圧指令Vu*、Vv*、Vw*に基づいて電圧を出力し、交流回転機1の駆動を開始する。交流回転機1の駆動を開始すると、STEP107へ移行し、第3の位置推定部9で推定した回転子推定位置θ3を選択し、交流回転機1の回転子推定位置θとして制御手段6bへ出力する。
STEP108bでは、電力変換器2による交流回転機1の駆動を停止するか否かを判断し、電力変換器2による交流回転機1の駆動を停止すると判断するまで、第3の位置推定部9で推定した回転子推定位置θ3を回転子推定位置θとして制御手段6bへ出力するSTEP107の動作を継続する。そして、STEP108bで、電力変換器2による交流回転機1の駆動を停止すると判断した場合には、STEP109へ移行し、交流回転機1の位置推定動作を終了する。
以上のような一連の処理動作によって、回転子位置切換部51cは、外部から起動指令が入力されてから、電力変換器2が交流回転機1を停止するまで、回転子推定位置θを制御手段6bへ出力する。なお、図20に示したフローチャートによる処理動作では、電力変換器2による交流回転機1の駆動を開始してから停止するまでの間、回転子位置切換部51cは、第3の位置推定部9で推定した回転子推定位置θ3または第4の位置推定部10で推定した回転子推定位置θ4のいずれか一方を選択し続ける処理動作であるが、図21に示すフローチャートによる処理動作を行っても良い。
図21は、図20のフローチャートとは異なる回転子位置切換部51cの処理動作を表すフローチャートである。図21に示すフローチャートの処理動作は、図20に示す処理動作と異なり、電力変換器2による交流回転機1の駆動を開始してから駆動を停止するまでの間、回転子位置切換部51cは、電圧検出手段4a,4bによって検出された少なくとも2つの固定子電圧の振幅に基づいて、第3の位置推定部9で推定した回転子推定位置θ3または第4の位置推定部10で推定した回転子推定位置θ4を選択し、交流回転機1の回転子推定位置θとして制御手段6bへ出力するものである。図21において、STEP101からSTEP108a、STEP108bまでの処理動作は、図20と同じであるので説明は省略する。
まず、図21におけるSTEP108a以降の動作について説明する。STEP108aでは、図20の処理動作と同様に、電力変換器2による交流回転機1の駆動を停止するか否かを判断する。STEP108aで電力変換器2による交流回転機1の駆動を継続すると判断した場合には、STEP111へ移行する。そして、実施の形態1と同様に、固定子線間電圧の振幅VLおよび固定子相電圧の振幅VPを総称した交流電圧の振幅Vと予め設定した閾値V0xとを比較する。閾値V0xは、固定子線間電圧(固定子相電圧)の大きさに関係なく常に精度良く交流回転機1の回転子位置を推定可能な値となるように、交流回転機1の電気定数などに応じて調整・設定した値で、STEP103の閾値V0と異なっても良い。V<V0xが真であれば、STEP110へ移行し、引き続き第4の位置推定部10で推定した回転子推定位置θ4を回転子推定位置θとして制御手段6bへ出力する。V<V0xが偽であれば、STEP107へ移行し、第3の位置推定部9で推定した回転子推定位置θ3を回転子推定位置θとして制御手段6bへ出力する。
次に、図21におけるSTEP108b以降の動作について説明する。STEP108bでは、STEP108aと同様に、電力変換器2による交流回転機1の駆動を停止するか否かを判断する。STEP108aで電力変換器2による交流回転機1の駆動を継続すると判断した場合には、STEP112へ移行し、STEP111と同様に交流電圧の振幅Vと予め設定した閾値V0とを比較する。V>V0xが真であれば、STEP107へ移行し、引き続き第3の位置推定部9で推定した回転子推定位置θ3を回転子推定位置θとして制御手段6bへ出力する。V>V0xが偽であれば、STEP110へ移行し、第4の位置推定部10で推定した回転子推定位置θ4を回転子推定位置θとして制御手段6bへ出力する。
これらの一連の動作は、STEP108aまたはSTEP108bにおいて、電力変換器2による交流回転機1の駆動を停止すると判断し、STEP109で交流回転機1の回転子位置の推定動作を終了するまで継続する。
なお、第3の位置推定部9は、電圧指令を用いて回転子推定位置θ3を推定することから、第1の電圧指令Vu*、Vv*、Vw*が大きいほど、回転子位置推定精度が良好になる。また、第4の位置推定部10は、交流回転機1の出力電流のみに基づいて回転子推定位置θ4を推定し、併せて高周波信号を電圧に重畳することから、高周波信号Vuh*、Vvh*、Vwh*の成分が第1の電圧指令Vu*、Vv*、Vw*に対して顕著となる第1の電圧指令Vu*、Vv*、Vw*が小さい場合において、回転子位置推定精度が良好になる。
以上のような構成によって、実施の形態2の構成に加えて交流回転機1の出力電流のみに基づいて回転子位置を推定する第4の位置推定部10を備えているので、実施の形態2を実施する効果に加えて、交流回転機1の固定子電圧の振幅(実効値)が所定値以下の場合においても、精度良く交流回転機1の駆動中の回転子位置を推定することができる。
実施の形態4.
図22は、この発明を実施するための実施の形態4における多相巻線を有する交流回転機および交流回転機の制御装置を含めた交流回転機制御システムの構成図である。本実施の形態の交流回転機の制御装置は、回転子位置切換部51dの処理動作が実施の形態3と異なる。つまり、回転子位置切換部51dは、制御手段6bから出力される第1の電圧指令Vu*、Vv*を入力し、この第1の電圧指令に応じて回転子推定位置θ3(第3の回転子推定位置)または回転子推定位置θ4(第4の回転子推定位置)のいずれかを回転子推定位置θとして選択する。
図22において、回転子位置推定手段5dは、第1の位置推定部7、第2の位置推定部8、第3の位置推定部9、第4の位置推定部10、および回転子位置切換部51dによって構成されている。まず、回転子位置切換部51dの処理動作について説明する。なお、回転子位置切換部51dの処理動作は、回転子推定位置θ3または回転子推定位置θ4のいずれかを回転子推定位置θとして選択する動作以外については実施の形態3に示した回転子位置切換部51cの処理動作と同じである。図23に回転子位置切換部51dの処理動作を表すフローチャートを示す。図23において、STEP101からSTEP108a、STEP108bまでの処理動作は実施の形態3の図20で示した処理動作と同じであるので詳細な説明を省略するが、外部から起動指令が入力された時に回転子推定位置θ1(第1の回転子推定位置)を選択した場合には第4の位置推定部10で推定した回転子推定位置θ4を選択し、外部から起動指令が入力された時に回転子推定位置θ2(第2の回転子推定位置)を選択した場合には第3の位置推定部9で推定した回転子推定位置θ3を選択する。
STEP108aでは、電力変換器2による交流回転機1の駆動を停止するか否かを判断する。STEP108aにおいて、電力変換器2による交流回転機1の駆動を継続すると判断した場合には、STEP113へ移行し、第1の電圧指令Vu*、Vv*、Vw*の振幅V2と予め設定した閾値V0yとを比較する。なお、閾値V0yは常に精度良く交流回転機1の回転子位置を推定可能な値となるように、交流回転機1の電気定数などに応じて調整・設定する。第1の電圧指令の振幅V2は、(24)式に基づいて求める。
本実施の形態において、制御手段6bからVu*、Vv*の2つの第1の電圧指令を回転子位置切換部51dに入力し、Vw*=−Vu*−Vv*の関係からVw*を算出し、(24)式に基づいて振幅V2を求めている。なお、制御手段6bからVu*、Vv*、Vw*の3つの第1の電圧指令を回転子位置切換部51dに入力してもよい。また、図22には示していないが、制御手段6b内部で得られている回転二軸座標上(d−q軸上)の電圧指令Vd*、Vq*を用いて(25)式に基づいて振幅V2を求めても良い。
なお、第1の電圧指令の振幅V2を求める目的は、閾値V0yと比較して、第3の位置推定部9で推定した回転子推定位置θ3または第4の位置推定部10で推定した回転子推定位置θ4のいずれかを選択することであるから、必ずしも厳密な第1の電圧指令の振幅V2を求める必要は無い。このため、平方根演算を省いた(26)式または(27)式に基づいて演算した値V2と、閾値V0yとを比較し、演算処理を簡略にしても良い。
この場合、閾値V0yを、第1の電圧指令の大きさに関係なく常に精度良く交流回転機1の回転子位置を推定できるように調整した値とし、STEP103の閾値V0と異なった値としても良い。STEP113において、V2<V0yが真であれば、STEP110へ移行し、引き続き第4の位置推定部10で推定した回転子推定位置θ4を回転子推定位置θとして制御手段6bへ出力する。V2<V0yが偽であれば、STEP107へ移行し、第3の位置推定部9で推定した回転子推定位置θ3を回転子推定位置θとして制御手段6bへ出力する
次に、STEP108bでは、STEP108aと同様に、電力変換器2による交流回転機1の駆動を停止するか否かを判断する。STEP108aで電力変換器2による交流回転機1の駆動を継続すると判断した場合には、STEP114へ移行し、第1の電圧指令Vu*、Vv*、Vw*の振幅V2と予め設定した閾値V0yとを比較する。V2>V0yが真であれば、STEP107へ移行し、引き続き第3の位置推定部9で推定した回転子推定位置θ3を回転子推定位置θとして制御手段6bへ出力する。V2>V0yが偽であれば、STEP110へ移行し、第4の位置推定部10で推定した回転子推定位置θ4を回転子推定位置θとして制御手段6bへ出力する。これらの動作は、STEP108a(またはSTEP108b)で、電力変換器2による交流回転機1の駆動を停止すると判断し、STEP109で交流回転機1の回転子位置の推定動作を終了するまで継続する。
以上のような構成によって、交流回転機1の駆動中において第1の電圧指令Vu*、Vv*、Vw*に応じて第3の位置推定部9で推定した回転子推定位置θ3または第4の位置推定部10で推定した回転子推定位置θ4のいずれかを適宜選択するので、駆動中に固定子電圧が変化するような場合においても、交流回転機1の駆動中の固定子電圧に関係なく、交流回転機1の駆動中の回転子位置を精度良く推定することができる。
実施の形態5.
図24は、この発明を実施するための実施の形態5における多相巻線を有する交流回転機および交流回転機の制御装置を含めた交流回転機制御システムの構成図である。本実施の形態の交流回転機の制御装置は、速度推定器52を備え、速度推定器52によって推定される交流回転機1の回転速度に応じて、回転子位置切換部51eが回転子推定位置θ3(第3の回転子推定位置)または回転子推定位置θ4(第4の回転子推定位置)のいずれかを選択し、回転子推定位置θとする点が実施の形態3と異なる。
まず、回転子位置推定手段5eの動作について説明する。回転子位置推定手段5eは、実施の形態3の回転子位置推定手段5cに対して、制御手段6bへ出力する回転子推定位置θに基づいて回転速度ωestを推定する速度推定器52を備える点が異なる。図24において、速度推定器52は、回転子位置推定手段5eが制御手段6bへ出力する回転子推定位置θに基づいて回転速度ωestを推定する。そして、交流回転機1の駆動中に、速度推定器52において推定した回転速度ωestに応じて、第3の位置推定部9で推定した回転子推定位置θ3または第4の位置推定部10で推定した回転子推定位置θ4のいずれかを選択し、交流回転機1の回転子推定位置θとして出力する。
回転速度ωestは、回転子推定位置θを微分する方法によって得ることができる。また、第3の位置推定部9では、第3の位置推定部9の内部で角周波数ωを演算することから、回転子位置切換部51eが第3の位置推定部9で推定した回転子推定位置θ3を選択する場合には、角周波数ωを用いても良い。なお、回転子位置切換部51eにおける処理動作は、回転速度ωestに応じて回転子推定位置θ3または回転子推定位置θ4のいずれかを選択する動作以外については実施の形態3で示した回転子位置切換部51cの処理動作と同じである。
図25は、回転子位置切換部51eの処理動作を表すフローチャートである。図25において、STEP101からSTEP108a、STEP108bまでの処理動作は実施の形態3の図20で示した処理動作と同じであるので詳細な説明は省略する。STEP108aでは、交流回転機1の駆動を停止するか否かを判断する。STEP108aで交流回転機1の駆動を継続すると判断した場合には、STEP115へ移行し、速度推定器52で推定した回転速度ωestの絶対値|ωest|と予め設定した閾値ω0とを比較する。なお、閾値ω0は常に精度良く交流回転機1の回転子位置を推定可能な値となるように、交流回転機1の電気定数などに応じて調整・設定する。|ωest|<ω0が真であれば、STEP110へ移行し、引き続き第4の位置推定部10で推定した回転子推定位置θ4を回転子推定位置θとして制御手段6bへ出力する。|ωest|<ω0が偽であれば、STEP107へ移行し、第3の位置推定部9で推定した回転子推定位置θ3を回転子推定位置θとして制御手段6bへ出力する。
次に、STEP108bでは、STEP108aと同様に、交流回転機1の駆動を停止するか否かを判断する。STEP108aで交流回転機1の駆動を継続すると判断した場合には、STEP116へ移行し、速度推定器52で推定した回転速度ωestの絶対値|ωest|と予め設定した閾値ω0とを比較する。|ωest|>ω0が真であれば、STEP107へ移行し、引き続き第3の位置推定部9で推定した回転子推定位置θ3を回転子推定位置θとして制御手段6bへ出力する。|ωest|>ω0が偽であれば、STEP110へ移行し、第4の位置推定部10で推定した回転子推定位置θ4を回転子推定位置θとして制御手段6bへ出力する。
これらの動作は、STEP108aまたはSTEP108bで、電力変換器2による交流回転機1の駆動を停止すると判断し、STEP109で交流回転機1の位置推定動作を終了するまで継続する。
以上のような構成によって、交流回転機1の回転速度に応じて第3の位置推定部9で推定した回転子推定位置θ3または第4の位置推定部10で推定した回転子推定位置θ4のいずれかを適宜選択することができる。このため、回転速度が大きい場合には、第3の位置推定部9で推定した回転子推定位置θ3を選択するので、回転速度が大きいほど、精度良く回転子位置を推定することができる。また、電圧飽和が生じにくい回転速度が小さい場合には、高周波信号を電圧に重畳して第4の位置推定部10で推定した回転子推定位置θ4を選択するので、精度良く回転子位置を推定することができる。つまり、実施の形態3の構成に比べて、交流回転機1の駆動中において回転速度に応じて位置推定部を適宜選択するので、回転速度が変化する用途においても、回転速度帯域に関係なく、駆動中の交流回転機1の回転子位置を精度良く推定することができる。
実施の形態6.
図26は、この発明を実施するための実施の形態6における多相巻線を有する交流回転機および交流回転機の制御装置を含めた交流回転機制御システムの構成図である。本実施の形態の交流回転機の制御装置は、交流回転機1の少なくとも2つの固定子電圧を検出して、検出した固定子電圧(交流電圧)の正負に応じて二値化した電圧二値化信号を出力する電圧検出手段4e、4fを備えた点が実施の形態1と異なる。また、第2の位置推定部8bの入力が電圧二値化信号となるため、交流回転機1の回転子位置推定方法が実施の形態1と異なる。
まず、電圧二値化信号を生成する電圧検出手段4e、4fについて説明する。電圧検出手段4e,4fは、交流回転機1の固定子電圧であるu相固定子電圧Vu、v相固定子電圧Vvを検出する。図26に示すように、電圧検出手段は、2つの相のみに対して備えても良いし、3つの相全ての相に対して備えても良い。また、固定子相電圧を検出する構成ではなく、固定子線間電圧を検出する構成に変更しても良い。実施の形態1と同様に、電圧検出手段は少なくとも2つの交流回転機1の固定子電圧を検出するような構成にする。そして、電圧検出手段4e、4fは、検出した固定子電圧(交流電圧)Vu、Vvの正負に応じて「+」または「−」のいずれかに二値化した電圧二値化信号Vu2、Vv2を出力する。
図27は、固定子電圧Vu、Vvと電圧検出手段4e、4fの出力である電圧二値化信号Vu2、Vv2および二値化信号Vx2との関係を示した図である。u相電圧二値化信号Vu2は、固定子電圧Vuが正の場合に「+」となり、固定子電圧Vuが負の場合に「−」となる。同様に、v相電圧二値化信号Vv2は、固定子電圧Vvが正の場合に「+」となり、固定子電圧Vvが負の場合に「−」となる。二値化信号Vx2は、u相電圧二値化信号Vu2とv相電圧二値化信号Vu2との正負が等しい場合に「+」となり、正負が異なる場合に「−」となる。図27では、交流回転機1の正転(または前進)、逆転(または後進)のそれぞれの場合について示している。
次に、回転子位置推定手段5fについて説明する。ただし、第1の位置推定部7は実施の形態1において説明したものと同じであるので、ここでの説明を省略する。第2の位置推定部8bには、電圧検出手段4eによって固定子電圧Vuの正負に応じて二値化したu相電圧二値化信号Vu2(「+」または「−」)、および電圧検出手段4fによって固定子電圧Vvの正負に応じて二値化したv相電圧二値化信号Vv2(「+」または「−」)が入力される。第2の位置推定部8bは、電圧二値化信号Vu2またはVv2のいずれかの符号が反転する点で、u相固定子相電圧Vu、v相固定子相電圧Vv、w固定子相電圧Vwの電圧位相を各々推定する。その際、各相の電圧位相を推定するためには、交流回転機1の「正転(前進)」または「逆転(後進)」を判定する必要がある。「正転(前進)」または「逆転(後進)」の判定は、u相電圧二値化信号Vu2およびv相電圧二値化信号Vv2の正負と、次にu相電圧二値化信号Vu2またはv相電圧二値化信号Vv2のいずれか一方の正負が反転した時のu相電圧二値化信号Vu2およびv相電圧二値化信号Vv2の正負を検出することによって行う。u相電圧二値化信号Vu2またはv相電圧二値化信号Vv2のいずれか一方の正負が反転する前の状態を状態C、反転した後の状態を状態Dとする。
図28に、第2の位置推定部8bが交流回転機1の回転方向を推定するためのテーブルを示す。また、図29に、第2の位置推定部8bが交流回転機1の固定子電圧の電圧位相を推定するためのテーブルを示す。図28に、状態C、状態Dにおけるu相電圧二値化信号Vu2およびv相電圧二値化信号Vv2の正負と交流回転機1の回転方向との関係を示している。状態Cおよび状態Dにおける、u相電圧二値化信号Vu2およびv相電圧二値化信号Vv2の正負を照らし合わせることによって交流回転機1の回転方向を判定することができる。
第2の位置推定部8bは、図28に示した関係から得られる回転方向判定結果と、u相電圧二値化信号Vu2またはv相電圧二値化信号Vv2のいずれか一方の符号が反転する点における符号の変化の方向とに基づいて、図29に示した関係に従って固定子相電圧Vu、Vv、Vwの電圧位相を出力する。固定子相電圧Vu、Vv、Vwの電圧位相が判明すれば、仮にVu、Vv、Vwの固定子相電圧の振幅を1と仮定し、第2の位置推定部8bは、固定子相電圧Vu、Vv、Vwを求める。そして、(5)式および(6)式を用いて回転子推定位置θ2(第2の回転子推定位置)を推定し、回転子位置切換部51fへ出力する。なお、実際の固定子相電圧Vu、Vv、Vwの振幅と異なっていても、三相が平衡であるならば、(6)式で得られる回転子推定位置θ2として所望の値を得ることができる。三相が平衡とは、三相の位相差が120°毎に各々異なり、かつ、振幅が同一である状態のことである。
このような方法によって、図27に示すように、固定子電圧(交流電圧)1周期に対して、1/6周期または1/3周期毎にu相電圧二値化信号Vu2またはv相電圧二値化信号Vv2のいずれか一方の符号が反転することから、交流回転機1の回転方向の判定と回転子推定位置θ2の推定とを固定子電圧(交流電圧)1/3周期未満で実施することができる。
次に、回転子位置切換部51fの動作について説明する。回転子位置切換部51fには、電圧検出手段4eによって固定子電圧Vuの正負に応じて二値化したu相電圧二値化信号Vu2(「+」または「−」)、および電圧検出手段4fによって固定子電圧Vvの正負に応じて二値化したv相電圧二値化信号Vv2(「+」または「−」)が入力される。回転子位置切換部51fは、入力されたu相電圧二値化信号Vu2およびv相電圧二値化信号Vv2に基づいて、新たな二値化信号Vx2を出力する。図27に示すように、二値化信号Vx2は、u相電圧二値化信号Vu2とv相電圧二値化信号Vu2との正負が等しい場合に「+」となり、正負が異なる場合に「−」となる。
図27に示すように、この二値化信号Vx2の正負反転の周期は、固定子電圧(交流電圧)1周期間に対して、「+」の期間1/6周期間と「−」の期間1/3周期間とが2回繰り返される。ここで、二値化信号Vx2の「+」の期間を「T+」、「−」の期間を「T−」とする。回転子位置切換部51fの内部で、「T+」または「T−」を計測し、「T+」または「T−」の長短に基づいて、以下に示す関係に従って、第1の位置推定部7で推定した回転子推定位置θ1(第1の回転子推定位置)または第2の位置推定部8で推定した回転子推定位置θ2のいずれかを選択し、交流回転機1の回転子推定位置θとして制御手段6へ出力する。
「T+」≧T2、または「T−」/2≧T2の場合には、固定子電圧が0または回転子速度が遅いと判断し、第1の位置推定部7で推定した回転子推定位置θ1を選択する。
T2>「T+」≧T1、またはT2>「T−」/2≧T1の場合には、回転子速度が速いと判断し、第2の位置推定部8で推定した回転子推定位置θ2を選択する。
T1>「T+」、またはT1>「T−」/2の場合には、固定子電圧(交流電圧)1周期が異常に短く、固定子電圧が0近傍でチャタリングを発生している、または、固定子電圧が小さ過ぎて正負を正確に検出できないと判断し、第1の位置推定部7で推定した回転子推定位置θ1を選択する。
なお、閾値T1、T2(T1<T2)は、常に精度良く交流回転機1の回転子位置を推定可能な値となるように、交流回転機1の電気定数などに応じて調整・設定する。
図27に示すように、固定子電圧(交流電圧)1周期に対して、1/6周期または1/3周期毎に二値化信号Vx2の符号が2回反転することから、第1の位置推定部7で推定した回転子推定位置θ1または第2の位置推定部8で推定した回転子推定位置θ2のいずれかを半周期未満で選択できる。
以上のような構成によって、固定子電圧(交流電圧)の正負に応じて二値化した電圧二値化信号を出力する電圧検出手段4e、4fを備えることによって、安価な簡単な構成で交流回転機1の回転子位置を推定することができる。
実施の形態7.
図30、図31は、この発明を実施するための実施の形態7における多相巻線を有する交流回転機および交流回転機の制御装置を含めた交流回転機制御システムの構成図である。図30と図31との違いは、図30に示した交流回転機の制御装置が2つの電圧検出手段4a,4bによって交流回転機1の2つの固定子線間電圧Vuv、Vvwを測定する構成に対して、図31に示した交流回転機の制御装置は2つの電圧検出手段4c,4dによって交流回転機1の2つの固定子相電圧Vu、Vvを測定する構成である。本実施の形態の交流回転機の制御装置は、電圧検出手段4a,4b(4c,4d)で検出した電圧検出値を補正する電圧検出値補正部41a,41b(41c,41d)を備えた点が実施の形態1と異なる。
図30、図31において、電圧検出値補正部を41aは、電圧検出手段4aで検出した電圧検出値(固定子線間電圧Vuv)を補正する。電圧検出値補正部を41bは、電圧検出手段4bで検出した電圧検出値(固定子線間電圧Vvw)を補正する。電圧検出値補正部を41cは、電圧検出手段4cで検出した電圧検出値(固定子相電圧Vu)を補正する。電圧検出値補正部を41dは、電圧検出手段4dで検出した電圧検出値(固定子相電圧Vv)を補正する。
交流回転機1の電圧検出値から交流回転機1の回転子位置を推定することによって、交流回転機1を制御する際に、次の2つの遅れ時間が原因となって制御性能の低下を招く可能性がある。1つは、電圧検出手段4a,4b,4c,4dが、電圧検出動作と電圧検出値の出力動作とを行う際に、電圧検出動作から電圧検出値の出力動作までのタイムラグ等のサンプリング周期に起因する遅れ時間である。もう1つは、制御手段6から電力変換器2へ第1の電圧指令Vu*、Vv*、Vw*を出力してから電力変換器2が交流回転機1へ電圧を出力するまでのタイムラグ等の電力変換器2に起因するサンプリング周期と相関のある遅れ時間である。
本実施の形態における交流回転機の制御装置は、これら2つの遅れ時間による制御性能の低下を解消するものである。まず、電圧検出値補正部41a,41b,41c,41dの原理を以下に説明する。電圧検出値補正部41a,41b,41c,41dは入力元および出力先が各々異なるものの、原理および内部構成は同じであるので、ここでは、電圧検出値補正部41aを代表例として説明する。
図32は、電圧検出値補正部における推定方法の原理を示す図である。電圧検出値補正部41aは、所定のサンプリング周期Tsで交流回転機1の固定子電圧のサンプリングを行う。電圧検出値補正部41aでは、電圧検出手段4aで検出した電圧検出値(固定子線間電圧Vuv)の波形を時系列データとみなし、電圧検出値の波形を2次関数に近似する。この近似した2次関数に基づいて、現在時刻tnでの電圧検出値Vnと、1回前のサンプリング時(時刻tn−1=tn−Ts)の電圧検出値Vn−1と、2回前のサンプリング時(時刻tn−2=tn−2Ts)の電圧検出値Vn−2とを求める。そして、これらの時刻と電圧検出値との関係から、サンプリング周期に起因する遅れ時間を考慮した時刻tn+1における電圧推定値Vn+1xを推定する。
本実施の形態では、電力変換器2に起因する遅れ時間をサンプリング周期の半周期分(0.5Ts分)とし、次回サンプリング時(時刻tn+1=tn+Ts)をサンプリング周期の半周期分(0.5Ts分)先の時刻(tn+1x=tn+1.5Ts)に置き換えて、近似した2次関数に基づいて時刻tn+1における電圧推定値Vn+1xを推定し、次回サンプリング時の電圧補正値Vuvhとして回転子位置推定手段5へ出力する。
ここで、遅れ時間をサンプリング周期の半周期分(0.5Ts分)とする理由について説明する。一般的な交流回転機の制御装置全体が、同一のサンプリング周期Tsで動作するケースが多く、この場合、電力変換器2に起因する遅れ時間はサンプリング周期Tsと相関があり、電力変換器2に起因する遅れ時間を0.5Tsとすることが適切である。なお、図32に示すように、電圧検出値Vn−2、Vn−1、Vnおよび電圧推定値Vn+1xを結ぶ曲線を時刻tの2次関数とすると、電圧検出値Vn−2、Vn−1、Vnおよび電圧推定値Vn+1xは、現在時刻tnとサンプリング周期Tsを用いて(28a)式〜(28d)式のように表すことができる。
(28a)式〜(28d)式から、係数a、b、c、現在時刻tn、およびサンプリング周期Tsを消去し、電圧推定値Vn+1xを求めると、(29)式のようになる。
図33は、電圧検出値補正部41aの構成図である。電圧検出値補正部41aは(29)式の演算を行うものである。乗算器43aは、電圧検出手段4aから出力される電圧検出値Vn(電圧検出値補正部41aの場合はVuv)に所定の定数35/8を掛けて、加減算器42へ出力する。記憶手段44aは、電圧検出手段4aから出力される電圧検出値Vnをサンプリング周期Tsの期間、記憶保持する。乗算器43bは、記憶手段44aが記憶する1回前のサンプリングの時刻tn−1で検出した電圧検出値Vn−1に所定の定数21/4を掛けて、加減算器42へ出力する。記憶手段44bは、記憶手段44aから出力される1回前のサンプリングの時刻tn−1で検出した電圧検出値Vn−1をサンプリング周期Tsの期間、記憶保持する。乗算器43cは、記憶手段44bが記憶する2回前のサンプリングの時刻tn−2で検出した電圧検出値Vn−2に所定の定数15/8を掛けて、加減算器42へ出力する。
加減算器42は、乗算器43aの出力と乗算器43cの出力とを加算した上で、乗算器43bの出力を減算し、次回サンプリング時tn+1から0.5Ts分先の時刻tn+1xの電圧推定値Vn+1xを出力する。電圧推定値Vn+1xが電圧検出値補正部41aで補正した次回サンプリング時の電圧補正値Vuvhとなる。動作原理および内部構成が電圧検出値補正部41aと同じである電圧検出値補正部41b,41c,41dについても、電圧検出値補正部41aと同様な動作を行う。電圧検出値補正部41bは電圧補正値Vvwhを、電圧検出値補正部41cは電圧補正値Vuhを、電圧検出値補正部41dは電圧補正値Vvhを各々出力する。
このように、実施の形態1において説明した電圧検出手段4a,4b,4c,4dからの出力を回転子位置推定手段5,5aに入力する代わりに、本実施の形態においては、電圧検出値補正部41a,41b,41c,41dからの電圧補正値を回転子位置推定手段5,5aに入力する。このような補正を行うことによって、電圧検出手段4a,4b,4c,4dの電圧検出動作から電圧検出値の出力動作までのタイムラグ等のサンプリング周期に起因する遅れ時間や、制御手段6から電力変換器2へ第1の電圧指令Vu*、Vv*、Vw*を出力してから電力変換器2が交流回転機1へ電圧を出力するまでのタイムラグ等の電力変換器2に起因するサンプリング周期と相関のある遅れ時間によって生じる電圧検出値の誤差を補正することができる。
従来の電圧検出値補正部41a,41b,41c,41dを設けない交流回転機の制御装置では、これらの遅れ時間によって電圧検出値に誤差が生じる可能性があり、制御性能の向上に限界があった。このため、制御性能をより向上させるためには、遅れ時間が極小である高価な電圧検出手段や高価な電力変換器を用いる必要があった。しかしながら、本実施の形態のように、電圧検出値補正部41a,41b,41c,41dを設けることによって、遅れ時間の大きい安価な汎用の電圧検出手段や電力変換器を用いても,遅れ時間が極小である高価な電圧検出手段や高価な電力変換器を用いた場合と同等の制御性能を得ることができる。
なお、本実施の形態においては、1回前および2回前のサンプリング時の電圧検出値を結ぶ曲線から時刻tの2次関数を求め、この2次関数から先の時刻の電圧推定値を推定する方法について説明した。求める関数は2次関数に限られず、1回前、2回前、3回前のサンプリング時の電圧検出値を結ぶ曲線から時刻tの3次関数を求める、1回前、2回前、3回前、4回前のサンプリング時の電圧検出値を結ぶ曲線から時刻tの4次関数を求めるなどして多次関数を求め、この多次関数から先の時刻の電圧推定値を推定してもよい。つまり、電圧検出値補正部41a,41b,41c,41dは、所定のサンプリング周期Tsで交流回転機1の固定子電圧のサンプリングを行うとともに、現在時刻tnからm回前(ただし、mは自然数)のサンプリング時tn−mまでの各サンプリング時刻に検出された固定子電圧を電圧検出値Vn〜Vn−mとして蓄積し、電圧検出値Vn〜Vn−mを結ぶ曲線から所定の関数を求め、この所定の関数に基づいて次回サンプリング時tn+1における直流電圧推定値を推定する。
以上のような構成によって、電圧検出値補正部41a,41b,41c,41dを設けたので、電圧検出手段4a,4b,4c,4dの電圧検出動作から電圧検出値の出力動作までのタイムラグ等のサンプリング周期に起因する遅れ時間や、制御手段6から電力変換器2へ第1の電圧指令Vu*、Vv*、Vw*を出力してから電力変換器2が交流回転機1へ電圧を出力するまでのタイムラグ等の電力変換器2に起因する遅れ時間の両方に起因する電圧検出値の誤差を補正できる。なお、実施の形態2〜5に対しても、本実施の形態において示した電圧検出値補正部を加えることによって、実施の形態2〜5で説明した効果に加え、本実施の形態で得られる効果も併せて得ることができる。
実施の形態8.
図34、図35は、この発明を実施するための実施の形態8における多相巻線を有する交流回転機および交流回転機の制御装置を含めた交流回転機制御システムの構成図である。図34と図35との違いは、図34に示した交流回転機の制御装置が2つの電圧検出手段4a,4bによって2つの交流回転機1の固定子線間電圧Vuv、Vvwを測定する構成に対して、図35に示した交流回転機の制御装置は2つの電圧検出手段4c,4dによって2つの交流回転機1の固定子相電圧Vu、Vvを測定する構成である。本実施の形態の交流回転機の制御装置は、電圧検出値補正部41e,41f,41g,41hの内部に電力変換器遅れ補正部45を備える点が実施の形態7と異なる。
図34、図35において、電圧検出値補正部を41eは、電圧検出手段4aで検出した電圧検出値(固定子線間電圧Vuv)を補正する。電圧検出値補正部を41fは、電圧検出手段4bで検出した電圧検出値(固定子線間電圧Vvw)を補正する。電圧検出値補正部を41gは、電圧検出手段4cで検出した電圧検出値(固定子相電圧Vu)を補正する。電圧検出値補正部を41hは、電圧検出手段4dで検出した電圧検出値(固定子相電圧Vv)を補正する。
実施の形態7において説明したように、電圧検出手段4a,4b,4c,4dが、電圧検出動作から電圧検出値の出力動作までのタイムラグ等のサンプリング周期に起因する遅れ時間と、制御手段6から電力変換器2へ第1の電圧指令Vu*、Vv*、Vw*を出力してから電力変換器2が交流回転機1へ電圧を出力するまでのタイムラグ等のサンプリング周期と相関のある電力変換器2に起因する遅れ時間とによって制御性能の低下が生じる可能性がある。さらに、電力変換器2に起因する遅れ時間として、サンプリング周期と相関のある遅れ時間以外に、電力変換器2を構成するスイッチング素子のスイッチング動作の遅れやデットタイム等に起因する遅れ時間も発生する。本実施の形態においては、この電力変換器2に起因する遅れ時間をサンプリング周期と相関のある遅れ時間に含めて補正を行う。
このような電力変換器2に起因する遅れ時間を含めた全ての遅れ時間を遅れ時間Tkとする。遅れ時間Tkは電力変換器2の性能や構成で決まるものであるため、所定の値となる。遅れ時間Tkを補正するために、本実施の形態では、各々の電圧検出値補正部41e,41f,41g,41hの内部に電力変換器遅れ補正部45を加える。電圧検出値補正部41e,41f,41g,41hは入力元と出力先は各々異なるものの、原理および内部構成は同じであるので、ここでは、電圧検出値補正部41eの代表例として説明する。
図36は、電圧検出値補正部における推定方法の原理を示す図である。電圧検出値補正部41eは、所定のサンプリング周期Tsで交流回転機1の固定子電圧のサンプリングを行う。電圧検出値補正部41eでは、電圧検出手段4aで検出した電圧検出値(固定子線間電圧Vuv)の波形を時系列データとみなし、電圧検出値の波形を2次関数に近似する。この近似した2次関数に基づいて、現在時刻tnでの電圧検出値Vnと、1回前のサンプリング時(時刻tn−1=tn−Ts)の電圧検出値Vn−1と、2回前のサンプリング時(時刻tn−2=tn−2Ts)の電圧検出値Vn−2とを求める。そして、これらの時刻と電圧検出値との関係から、次回サンプリング時(時刻tn+1=tn+Ts)における電圧推定値Vn+1を推定する。さらに、これらの時刻と電圧検出値との関係から、サンプリング周期に起因する遅れ時間および電力変換器2に起因する遅れ時間を合せた遅れ時間Tkを考慮した時刻tn+1y(tn+1y=tn+Ts+Tk)における電圧推定値Vn+1yを推定する。
本実施の形態では、電力変換器遅れ補正部45において遅れ時間Tkを求め、次回サンプリング時(時刻tn+1=tn+Ts)を時刻tn+1yに置き換えて、近似した2次関数に基づいて時刻tn+1における電圧推定値Vn+1yを推定し、次回サンプリング時の電圧補正値Vuvhとして回転子位置推定手段5へ出力する。なお、図36に示すように、電圧検出値Vn−2〜Vnおよび電圧推定値Vn+1yを結ぶ曲線を時刻tの2次関数とすると、電圧検出値Vn−2〜Vnおよび電圧推定値Vn+1yは、現在時刻tnとサンプリング周期Tsを用いて(30a)式〜(30d)式で表すことができる。
ただし、電圧推定値Vn+1yを求める演算を簡単にするため、所定の遅れ時間Tkを、係数kdとサンプリング周期Tsを用いて(31)式のように表す。ここで、係数kdは、−1<kd<1の範囲の値であり、電力変換器2のスイッチング素子の動作遅れやデットタイムによる遅れ要素など、電力変換器2の性能や構成を考慮して具体的な数値を決める。なお、Tkを遅れ時間と称しているが、時刻tn+1y(tn+1y=tn+Ts+Tk)を次回サンプリング時より早めの時間に設定されるようにしても良い。
Tk=kd×Ts ・・・(31)
(30a)式〜(30d)式、(31)式によって、係数a、b、c、現在時刻tn、およびサンプリング周期Tsを消去し、電圧推定値Vn+1yを求めると、(32)式のようになる。
(32)式は、係数Kdが含まれる項と係数Kdが含まれない項に分けることができる。図37は、電圧検出値補正部41eの構成図である。まず、係数Kdが含まれない項の演算について説明する。電圧検出値補正部41eは(32)式の演算を行うものであり、その動作について説明する。電圧検出値補正部41eの乗算器43dは、電圧検出手段4aから出力される電圧検出値Vn(電圧検出値補正部41eの場合はVuv)に所定の定数3を掛けて、加減算器42aへ出力する。記憶手段44aは、電圧検出手段4aから出力される電圧検出値Vn(電圧検出値補正部41eの場合はVuv)をサンプリング周期Tsの期間、記憶保持する。乗算器43eは、記憶手段44aが記憶する1回前のサンプリングの時刻tn−1で検出した電圧検出値Vn−1に所定の定数3を掛けて、加減算器42aへ出力する。記憶手段44bは、記憶手段44aから出力される1回前のサンプリングの時刻tn−1で検出した電圧検出値Vn−1をサンプリング周期Tsの期間、記憶保持し、2回前のサンプリングの時刻tn−2で検出した電圧検出値Vn−2を加減算器42aへ出力する。加減算器42aは、乗算器43dの出力と記憶手段44bの出力とを加算した上で、乗算器43eの出力を減算し、加減算器42bへ出力する。
次に、係数Kdが含まれる項の演算するために、電圧検出値補正部41e内部の電力変換器遅れ補正部45の動作について説明する。まず、電力変換器2の性能や構成によって決定される係数kdを設定する。係数kdは電力変換器2の状態に応じて逐次変化するようにしても良い。乗算器43nは、設定した係数kdの2乗のkd2を演算する。乗算器43fは、kd2に所定の定数1/2を掛けた値を求める。乗算器43gは、係数kdに所定の定数5/2を掛けた値を求める。加減算器42cで、乗算器43fの出力と乗算器43gの出力とを加算する。乗算器43hは、加減算器42cの出力と電圧検出手段4aから出力される電圧検出値Vnとを掛け合わせて、加減算器42fへ出力する。
乗算器43iは、係数kdに所定の定数4を掛けた値を求める。加減算器42dで、乗算器43iの出力と係数kdの2乗kd2とを加算し、乗算器43jは、記憶手段44aから出力される1回前のサンプリングの時刻tn−1で検出した電圧検出値Vn−1とを掛け合わせて、加減算器42fへ出力する。そして、乗算器43kは、係数kdの2乗kd2に所定の定数1/2を掛けた値を求める。乗算器43lは、係数kdに所定の定数3/2を掛けた値を求める。加減算器42eで、乗算器43kの出力と乗算器43lの出力とを加算する。乗算器43mは、加減算器42eの出力と記憶手段44bから出力される2回前のサンプリングの時刻tn−2で検出した電圧検出値Vn−2とを掛け合わせて、加減算器42fへ出力する。
加減算器42fは、乗算器43hの出力と乗算器43mの出力とを加算した上で、乗算器43jの出力を減算し、加減算器42bへ出力する。加減算器42fの出力が、電力変換器遅れ補正部45の出力である。電力変換器遅れ補正部45で行われる演算が(32)式の内、以下の(33)式に示す演算である。
加減算器42bは、加減算器42aの出力と加減算器42fの出力とを加算し、次回サンプリングの時刻tn+1からTk(=kd・Ts)分先の時刻tn+1yの電圧推定値Vn+1yを出力する。電圧推定値Vn+1yが電圧検出値補正部41eの電圧補正値Vuvhとなる。動作原理および内部構成が電圧検出値補正部41eと同じである電圧検出値補正部41f,41g,41hも、電圧検出値補正部41eと同様な動作を行い。電圧検出値補正部41fは電圧補正値Vvwhを、電圧検出値補正部41gは電圧補正値Vuhを、電圧検出値補正部41hは電圧補正値Vvhを各々出力する。
このように、実施の形態1において説明した電圧検出手段4a,4b,4c,4dからの出力を回転子位置推定手段5,5aに入力する代わりに、本実施の形態においては、電圧検出値補正部41e,41f,41g,41hからの電圧補正値を回転子位置推定手段5,5aに入力する。このような補正を行うことによって、電圧検出手段4a,4b,4c,4dの電圧検出動作から電圧検出値の出力動作までのタイムラグ等のサンプリング周期に起因する遅れ時間、制御手段6から電力変換器2へ第1の電圧指令Vu*、Vv*、Vw*を出力してから電力変換器2が交流回転機1へ電圧を出力するまでのタイムラグ等の電力変換器2に起因するサンプリング周期と相関のある遅れ時間、さらに、電力変換器2を構成するスイッチング素子のスイッチング動作の遅れやデットタイム等に起因するサンプリング周期とは相関の無い遅れ時間によって生じる電圧検出値の誤差を補正することができる。
従来の電圧検出値補正部41e,41f,41g,41hを設けない交流回転機の制御装置では、これらの遅れ時間によって電圧検出値に誤差が生じる可能性があり、制御性能の向上に限界があった。このため、制御性能をより向上させるためには、遅れ時間が極小である高価な電圧検出手段や高価な電力変換器を用いる必要があった。しかしながら、本実施の形態のように、電圧検出値補正部41e,41f,41g,41hを設けることによって、遅れ時間の大きい安価な汎用の電圧検出手段や電力変換器を用いても,遅れ時間が極小である高価な電圧検出手段や高価な電力変換器を用いた場合と同等の制御性能を得ることができる。
なお、本実施の形態においては、1回前および2回前のサンプリング時の電圧検出値を結ぶ曲線から時刻tの2次関数を求め、この2次関数から先の時刻の電圧推定値を推定する方法について説明した。求める関数は2次関数に限られず、1回前、2回前、3回前のサンプリング時の電圧検出値を結ぶ曲線から時刻tの3次関数を求める、1回前、2回前、3回前、4回前のサンプリング時の電圧検出値を結ぶ曲線から時刻tの4次関数を求めるなどして多次関数を求め、この多次関数から先の時刻の電圧推定値を推定してもよい。
以上のような構成によって、電圧検出値補正部41e,41f,41g,41hを設けたので、電圧検出手段4a,4b,4c,4dの電圧検出動作から電圧検出値の出力動作までのタイムラグ等のサンプリング周期に起因する遅れ時間、制御手段6から電力変換器2へ第1の電圧指令Vu*、Vv*、Vw*を出力してから電力変換器2が交流回転機1へ電圧を出力するまでのタイムラグ等の電力変換器2に起因する遅れ時間、さらに電力変換器2を構成するスイッチング素子のスイッチング動作の遅れやデットタイム等に起因するサンプリング周期とは相関の無い遅れ時間に起因する電圧検出値の誤差を補正できる。なお、実施の形態2〜5に対しても、本実施の形態において示した電圧検出値補正部を加えることによって、実施の形態2〜5で説明した効果に加え、本実施の形態で得られる効果も併せて得ることができる。
1 交流回転機、2 電力変換器、3a,3b 電流検出手段、4a,4b,4c,4d,4e,4f 電圧検出手段、5,5a,5b,5c,5d,5e,5f 回転子位置推定手段、6,6a,6b 制御手段、7 第1の位置推定部、8,8a,8b 第2の位置推定部、9 第3の位置推定部、10 第4の位置推定部、11 座標変換器、12a,12b フーリエ変換器、13a,13b 乗算器、14 加減算器、15 位置演算器、41a,41b,41c,41d,41e,41f,41g,41h 電圧検出値補正部、42,42a,42b,42c,42d,42e,42f 加減算器、43a,43b,43c,43d,43e,43f,43g,43h,43i,43j,43k,43l,43m,43n 乗算器、44a,44b 記憶手段、45 電力変換器遅れ補正部、51,51a,51b,51c,51d,51e,51f 回転子位置切換部、52 速度推定器、61,61a 座標変換器、62,64 d軸電圧指令生成器、63,65 q軸電圧指令生成器、66 d軸電流制御器、67 q軸電流制御器、68a,68b,68c,68d,68e,68f,97a,97b 加減算器、69 高周波信号発生器、71 演算手段、72 電流パルス検出手段、91 回転機モデル、92 偏差増幅器、93 ゲイン演算器、94 速度同定器、95a,95b 座標変換器、96 積分器。