JP2004282873A - 同期電動機のセンサレス計測方法、および同期電動機のセンサレス可変速装置 - Google Patents
同期電動機のセンサレス計測方法、および同期電動機のセンサレス可変速装置 Download PDFInfo
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Abstract
【課題】PMモータが低速で空転中でも磁極のd軸位相を容易にかつ高精度に推定する。
【解決手段】PMモータ5の空転状態で、回転子の固定座標ab軸上の電圧制御信号に回転ベクトル状の高周波電圧Vhを印加し、それによってPMモータに発生する高周波電流ベクトルを基に回転中の磁極位相θhを推定するセンサレス計測方法において、
初期位相・速度計測部12は、高周波電流ベクトルの楕円状軌跡の差分ベクトル成分を求め、この差分ベクトル成分から長軸方向の位相を求める。また、楕円状軌跡の辺の長さまたは扇形の面積に基づいて、磁気飽和が発生している位相を求める。これら両位相情報から磁極の回転座標dq軸上のd軸位相を求める。
【選択図】 図1
【解決手段】PMモータ5の空転状態で、回転子の固定座標ab軸上の電圧制御信号に回転ベクトル状の高周波電圧Vhを印加し、それによってPMモータに発生する高周波電流ベクトルを基に回転中の磁極位相θhを推定するセンサレス計測方法において、
初期位相・速度計測部12は、高周波電流ベクトルの楕円状軌跡の差分ベクトル成分を求め、この差分ベクトル成分から長軸方向の位相を求める。また、楕円状軌跡の辺の長さまたは扇形の面積に基づいて、磁気飽和が発生している位相を求める。これら両位相情報から磁極の回転座標dq軸上のd軸位相を求める。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、永久磁石を界磁源とする同期電動機(PMモータ)の磁極位相や回転速度を検出するセンサを使用することなく計測する同期電動機のセンサレス計測方法およびこの計測方法を利用した同期電動機のセンサレス可変速装置に係り、特に低速領域での磁極位置や回転速度を初期推定する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
この種のセンサレス計測方法および制御方法は、本願出願人は以下のものを既に提案している。
【0003】
(提案1)特願2001−348156:PMの初期位置同定方式
(提案2)特願2001−375465:PMモータの高周波電圧印加による磁極位置推定方法
(提案3)特願2002−150036:PMセンサレス高周波重畳方式
(提案4)特願2002−185567:PMモータのセンサレス制御方式
(提案5)特願2002−2726:PMモータの空転速度検出方法
上記の資料(1)は、モータが停止状態から始動するときに、磁極のd軸の初期位置を計測する方法である。
【0004】
資料(2)と資料(3)は低速運転域でd軸位相を推定するための方式であり、磁極の突極性を利用して高周波電圧を入力電圧に重畳している。
【0005】
資料(4)はある程度速度の高い領域でd軸位相を推定するための方式であり、磁束オブザーバを利用して、速度を推定する方式である。これらの方式は、周波数の上限や動作電圧の下限などがあるため、速度に応じて切り替えて使用する。
【0006】
図10は、上記の資料(1)と、(2)または(3)と、(4)の2種類のセンサレス制御を切り替えて、始動から高速域まで運転を行うセンサレス可変速装置の制御ブロック構成図である。
【0007】
資料(1)の方式で起動時の初期位相を計測し、資料(2)や資料(3)の方法で初期位相から低速での運転を開始し、速度とともに電圧が上昇したら資料(4)の方式に切り換えるものである。
【0008】
図10の各ブロックの機能を下記に示す。
【0009】
速度制御部1…速度指令ω*と推定速度ωより、速度指令に一致するようモータの発生トルク指令(電流指令)idq*を出力する。
【0010】
電流制御部2…速度制御部1の電流指令に検出電流idqが追従するよう、出力電圧制御指令を出力する。
【0011】
回転座標変換部3…推定磁極(d軸)の位相に基づき、回転座標(dq軸)上の電圧指令を固定座標(ab軸)に変換する。また、3相機であれば2/3相変換も行う。
【0012】
回転座標変換部4…変換部3の変換後の電圧を発生させて生じる電流を検出し、それをdq座標に回転座標変換する。これは、変換部3の逆変換に相当する。また、3相機であれば3/2相変換も行う。
【0013】
制御対象モータ5…速度制御対象のPMモータである。
【0014】
速度演算部6…推定位相θの時間差分(微分)から速度ωを演算する。これは速度制御部1の速度制御の検出成分として使用される。
【0015】
制御切換指令部7…資料(2)または資料(3)の低速用の磁極位相推定方式と、資料(4)の高速用の方式を切り替える信号を作成する。速度演算部6の演算結果より、速度に応じて切り替え指令を出力する。
【0016】
この信号により、SW2〜SW4の各切換スイッチが動作する。SW2は位相推定部9の高周波法の推定部が発生する高周波電圧指令を出力に重畳させている。また、SW3は電流制御に使用する電流検出検出を選択するものであり、高周波を重畳しない場合には検出電流をそのまま使用し、高周波を重畳する場合には位相推定部9のブロックで高周波成分が除去された電流成分を使用する。また、SW4は、回転座標や速度演算に使用する磁極位相を位相推定部9と位相推定部10の2種類の位相から選択する。
【0017】
停止時の初期位相検出部8…資料(1)の方式を利用して、停止状態のd軸の位相を検出する。検出した位相は、位相推定部9や10のd軸位相推定での初期値として設定する。
【0018】
この検出部8は起動時に一回だけ動作する。また、短絡パルス電圧を発生させるため、SW1のスイッチを切り替えてPMモータに強制的にパルス電圧を出力させている。
【0019】
高周波法によるd軸位相推定部9…低速状態でd軸位相の推定を行う。d軸に同期して回転する座標上で単振動する高周波電圧vhを出力電圧に重畳し、その結果生じる高周波電流よりdq軸のインダクタンスの差を検出する。これにより、回転中のd軸位相θhを推定している。また、電流制御に使用する高周波成分を除去した電流検出成分iLも出力している。このブロックの詳細は資料(2)または資料(3)に記載されているので、ここでは内部の説明は省略する。
【0020】
磁束オブザーバによるd軸位相推定部10…高速状態でd軸位相の推定を行う。電圧指令Vabと検出電流iabからモータの永久磁石の推定磁束λobsを推定する磁束オブザーバである。この推定された磁束ベクトルの位相θobsがd軸に相当している。このブロックの詳細は資料(4)に記載されているので、ここでは内部の説明は省略する。
【0021】
図10の構成により、始動時の初期位相は位相検出部8が位相を推定し、以後、停止時状態からの起動や低速運転中は高周波法の位相推定部9が、さらに、高速運転域では磁束オブザーバによる位相推定部10が出力する推定位相を基に動作する。このように複数の方式を組み合わせることにより、全速度領域でPMモータのセンサレス可変速制御が実現できる。
【0022】
しかし、図10の位相検出部8で初期位置を推定している資料(1)の方式はモータが停止していることを条件としており、モータが空転している状態からの始動(拾い上げ始動)には適用できない。もし適用してもd軸位相を正確に推定できないため、異常なトルクが発生するほか、推定速度と実速度が異なってしまい脱調することもある。
【0023】
この対策として、高速に空転中であれば永久磁石の速度起電力を利用して軸位相を推定する方式を資料(5)で提案している。これは短時間だけインバータの出力を短絡状態にし、そのときに発生する短絡電流の変化を計測して磁極位相を推定する方式であり、これに類似する方式も提案されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0024】
図11は、図10に資料(5)の空転中の初期位相・速度の推定方式を適用した場合の制御ブロック構成図である。図10の位相検出部8に代えて、短絡パルス法の初期位相・速度計測を行う位相検出部11に置き換えている。
【0025】
機能としては、資料(5)で詳細に説明されているように、空転中のPMモータに短絡状態を複数回発生させ、そのときに発生する短絡電流ベクトルの位相より空転速度と初期位置を推定する。この計測された初期位置結果より位相推定部9の初期値を設定する。また、さらに速度情報も利用して位相推定部10の磁束オブザーバの内部変数である推定磁束や推定電流および適応速度なども初期設置を設定している。また、現在の誘起起電力と釣り合うように、この速度と位相情報から速度起電力を計算し、電流制御部2の内部にあるPI演算部の積分項に初期設定しておくことにより、電流制御開始時に過電流が発生することを防止している。
【0026】
この短絡パルス法は、資料(1)の停止時の初期位相検出と同様に、運転開始時のみ動作する。
【0027】
【非特許文献1】
平成9年電気学会産業応用部門全国大会 No.135 鳥羽・藍原・柳瀬:“位置・速度・電圧センサレスPMモータ駆動システムの回転状態からの起動法”
【0028】
【発明が解決しようとする課題】
資料(5)の方式は速度起電力を利用しており、空転速度が低い場合には、誘起起電力自体が小さいため、短絡電流はゆっくりと増加するようになる。また、電流が増加している最中でも誘起起電力自体が回転しているため、短絡電流の軌跡は原点から放射状の直線にはならず、増加しながら回転する軌跡になる。こうなると正確に位相を演算することができない。
【0029】
資料(1)の停止時の初期位置推定方式を適用しようとしても、計測時間が数十ms程度必要であり、この間に回転してしまう影響が問題となる。たとえば、24Hzで回転中のモータを60msで計測する場合、電気角で518.4°も回転してしまう。つまり、1回転以上回転してしまうことになり、これでは正確な検出が適用できない。
【0030】
資料(2)と資料(3)の高周波を重畳する方法も、d軸の初期位相(NS極の判定)が既知である条件があるためそのままでは使用できない。
【0031】
以上のことから、低速で空転中でもNS磁極の極性判定が可能なd軸位相の推定方式が必要になってくる。
【0032】
磁極の突極性を利用する方式では、突極性はd軸方向におけるN極とS極の180°反対の方向で同じような対称的な特性を持っている。そこで、NS極の判定には、電流が増加した場合の磁気飽和の特性の差を利用している。
【0033】
しかし、モータの設計によっては磁気飽和の影響が小さい場合もあるため、d軸と逆位相を誤検出する可能がある。インバータの半導体素子にはスイッチング遅れや飽和電圧の変動などの影響があるため、これらが電圧外乱成分となるほか、電流サンプル時のノイズなどの影響が誤検出の要因となると想定される。
【0034】
もし、NS極の判定を誤るとトルク指令と逆のトルクが発生するため、加速指令を出力していても減速するようになり、さらには逆転してしまう。この逆転現象は負荷である機械へ悪影響が発生するほか、また安全上の観点からも問題がある。
【0035】
このような理由から、低速での拾い上げ運転は単に位相推定の精度だけでなく、NS極判定の信頼性をいかに確立するかが重要であり、ノイズなどの影響を受けにくいような方式を適用して検出データの信頼性を向上させることが課題となる。
【0036】
そのため、これらの外乱を除去できるような十分な電流振幅を発生させる必要があるし、またサンブル点数を多くして統計的な処理によって外乱成分を抑制する必要もある。このように、低速域での拾い上げに関しては、より信頼性を考慮した対策をとる必要がある。
【0037】
本発明の目的は、PMモータが低速で空転中でもd軸位相を容易にかつ高精度に推定できるセンサレス計測方法およびこの方法を利用して位置・速度を高精度制御するセンサレス可変速装置を提供することにある。
【0038】
【課題を解決するための手段】
本発明は、前記の課題を解決するため、d軸位相推定に回転ベクトル状の高周波電圧を注入する方法とするものであり、また、d軸のNS極の判定は、磁気飽和の影響を利用した方法とするもので、この方法を、以下、原理的に説明する。
【0039】
(高周波法の検出原理)
資料(2)及び資料(3)は、推定されたd軸位相上に固定した単相交流成分を重畳して磁極の突極性を計測する方法であった。これは発生する高周波電流によるトルクリップルを少なくする目的で、一軸成分のみに限定し、q軸側には高周波電流の発生が少ないようにしていた。
【0040】
前記のように、PMモータの低速回転での位相推定には、磁気飽和の影響が大きく発生するように計測電流を大きくとる必要があるため、突極性と磁気飽和によるNS極判定を短時問にかつ同時に行えるように、単相成分ではなく回転するベクトル状の電圧を入力することとした。単相交流では収束させる時間が必要であるが、回転ベクトルではこの収束時間が不要になるため、短時間で計測可能となる。
【0041】
図12(a)はモータに入力する高周波電圧の空間ベクトルを示したものである。インバータの電圧出力形式としてPWM変調を適用しており、連続的な正弦波を出力することはできないため、ここでは1周期を8点(v0〜v7)の離散的な電圧ベクトルを出力する例で示している。また、説明がわかりやすいように、回転子が停止している状態で、αβ軸とdq軸が一致しており、また、ちょうどd軸と高周波電圧ベクトルが一致する例で説明する。実際には、回転中に適用も可能である。
【0042】
図12(b)は、この高周波電圧ベクトルによって発生する電流ベクトルの軌跡であり、過渡現象が収まって定常状態になった場合を示している。丸印で示した点(i0〜i7)が(v0〜v7)の各ベクトル発生後の電流をサンプルしたものである。永久磁石を埋め込んだIPM(Interior Permanent Magnet)タイプモータは、d軸とq軸のインダクタンス成分が異なり、Ld<Lqの関係があるため、d軸側が長軸となる楕円状のベクトル軌跡となる。
【0043】
例えば、電圧ベクトルv0を出力している期間に電流ベクトル軌跡はi7からi0に移動する。その期間の電流の差分ベクトルをΔi0とする。ここで、d軸成分の電圧を発生したのみかかわらず、q軸の電流変化成分が発生しているのは電流i7やi0による電機子反作用磁束によって回転子内部の磁束の対称性がくずれ、局部的な鉄心の磁気飽和が発生したためであり、dq軸間に干渉インダクタンス成分が発生したことに相当している。
【0044】
また、電機子反作用磁束は固定子側の鉄心に対しても磁気飽和の影響を与える。永久磁石のN極と同一方向に反作用磁束が発生する場合には、固定子鉄心の磁束が増加するため磁気飽和が強くなりインダクタンス成分が小さくなる。このため、電流ベクトルがNS極で対象な位置であっても電流差分ベクトルの長さが異なってくる。電流ベクトルがd軸上のN極方向に位置しているほどインダクタンスは小さくなるため、電流Δi2のように変化量は大きくなり、逆にS極側に位置する場合には電流Δi6のように変化量は小さくなる。その結果、図12(b)のように全体的には楕円状であるが、q軸を軸とするとNS極の方向で非対称な電流ベクトル軌跡が発生するようになる。この楕円状の電流軌跡の長軸がd軸の正負の方向であり、またこのd軸方向のうち電流差分ベクトルの長い方がN極に相当している。
【0045】
以上は回転子が停止している状態であったが、回転子が回転している場合には速度起電力が発生するためこれによる電流成分が発生する。そのため、図12(d)のような楕円状の軌跡が、原点が偏心しながら回転するようになる。そこで、偏心の影響と回転の影響を抑制するため、図12(b)のように電流ベクトルの差分ベクトルΔi0〜Δi7を求めて、この差分ベクトルの分布(軌跡)として図12(c)のものを使用することにする。差分をとることは一種の微分演算を適用したことになり、微分するとオフセット分が消去されること、また低周波成分を減衰し高周波成分を増加させるようなゲイン特性を有している特長を利用するものである。
【0046】
この差分ベクトルの先端を結んで得られる軌跡は図12(c)のようにやはり同様の楕円状になるため、この長軸を求めればd軸の方向を計測することができる。また、磁気飽和の影響は楕円軌跡の重心をd軸より90°進んだ方向に移動させるように現れることから、逆に楕円の重心のベクトルを演算により求め、それより90°差し引いた方向をN極と判定することもできる。
【0047】
ここで、単にサンプル点のベクトルの合成として重心を求める方法もあるが、磁気飽和の影響を表すのは短軸方向のベクトル量であるのにもかかわらす、この短軸方向の電流差分ベクトルの振幅より長軸側の方が大きい。そのため、長軸側の誤差による影響を受けやすい欠点がある。常に長軸側のベクトルが対称に発生しないときには、大きな外乱となってしまう。そこで、図12(c)をよく検討した結果、ベクトル間の位相角の情報も同時に考慮する方法を適用する。つまり、図12(c)の楕円状の軌跡を、単位長さの重量が一定の楕円状のワイヤーとみなし、この各ベクトル間の辺の重量を利用することにした。
【0048】
図12(c)の電流差ベクトルが得られている場合に、これらの長軸とN極の位相を演算するためには以下の方法を採ればよい。
【0049】
(a)長軸の位相抽出
ここでは、モータが停止しており、回転座標と固定座標が同一(ab軸=dq軸)であるものとする。
【0050】
長軸の位相は電圧ベクトルの発生位相に対して2倍の次数で振幅が変化する。そこで、2次成分をフーリエ積分により求めればよい。まず(1)式のように離散系に近似し、さらに積分を外形近似して2次成分のdq成分を求める。
【0051】
【数1】
【0052】
ここで、Δin:図12(c)に相当する電流差分ベクトル、N:高周波回転ベクトルの1回転の点数、(Δi2nd)d:電流差分ベクトルの二次成分のうちd軸成分、(Δi2nd)d:電流差分ベクトルの二次成分のうちq軸成分。
【0053】
次に、(1)式の結果から(2)式で長軸の位相を求めることができる。
【0054】
【数2】
【0055】
ここで、(2)式からわかるように、2次成分を利用しただけでは、推定位相は電気角でπの範囲しか求めることができず、NS極の区別を行うことはできない。
【0056】
また、(1)式より突極性を強調して抽出する演算式としては、以下の(3)式を利用しても良い。
【0057】
【数3】
【0058】
(1)式では、フーリエ積分を台形近似するために位相角を等間隔(発生した電圧ベクトルの位相を基準)としていたが、これを図12(c)の電流差分ベクトルの位相を用いて積分演算を行う方法もある。その場合は、(3)式により計算できる。
【0059】
(b)重心点の位相
次に、NS極の判定を行うため、図12(c)の電流差分ベクトル軌跡の重心方向を計算する。
【0060】
ここで、この位相はNSの判定を行うためにのみ使用するので、位相の精度はそれほど要求されない。そこで、計算式に大胆な近似を適用して演算量を低減している。電流差分ベクトルの各サンプル点における楕円軌跡の辺は、ベクトル軌跡間の距離を演算すればよい。しかし、2点間の距離を演算するためには√(平方根)の演算や極座標変換の演算が必要であり、演算量が大きくなってしまう。そこで、楕円の辺を円弧に近似できれば、振幅成分と位相角の積として演算でき、(a)の長軸の演算に使用したベクトルの振幅成分を利用すれば少ない演算時間で近似値が計算できる。
【0061】
そこで、図13(a)のように、両隣のサンプルベクトルとの中間位相まで、同一半径の円弧に近似して計算を簡略化でき、(4)式で計算できる。
【0062】
【数4】
【0063】
図13(b)のように、ベクトルの振幅を位相が隣り合う2点のサンプルベクトルの平均値とし、(5)式でサンプル間の円弧に近似し、これにフーリエ積分のcos関数,sin関数を乗算して積分することにすれば、(4)式の変わりに(6)式を使用することもできる。
【0064】
【数5】
【0065】
【数6】
【0066】
単にNS極の判定のために概略の方向を求めるだけでよければ、(4)式のような大胆な近似でも適用が可能である。
【0067】
(4)または(6)式の結果より、(7)式でこのベクトルの位相を計算し、高周波ベクトルの回転方向に対してπ/2を減算すると、d軸の位相が得られる。
【0068】
【数7】
【0069】
【数8】
【0070】
ここで、F180(θ)は、図14のような特性の関数であり、入力位相θに対し、−π/2〜π/2の範囲に変換した位相を出力する関数である。
【0071】
(8)式の右辺前半は、θ2ndと(θ2nd+π)の2種類のd軸の方向から(θ1st−w−π/2)の方向に近い成分を選択する機能をもっていので、この結果からπ/2を減算すると、NS極の判定を適用してd軸推定位相θhを求めることができる。
【0072】
このように、回転ベクトル状の高周波電圧を利用すれば、dq軸のインダクタンスの差異や磁気飽和の影響を利用して位相を演算することができる。なお、磁極のNS判定に、図12(c)の辺の情報を用いたが、これは扇の面積でもよいし、また重心演算を用いても同様の効果が得られる。
【0073】
以上が本発明になる高周波法による位相の検出原理であり、以下の計測方法、可変速装置を特徴とする。
【0074】
(方法の発明)
(1)突極性を有する同期電動機の空転状態で、同期電動機の回転子の固定座標ab軸上の電圧制御信号に回転ベクトル状の高周波電圧を印加し、それによって同期電動機に発生する高周波電流ベクトルを基に回転中の磁極位相を推定する同期電動機のセンサレス計測方法において、
前記高周波電流ベクトルの楕円状軌跡の差分ベクトル成分を求め、この差分ベクトル成分から長軸方向の位相を求める第1の位相演算過程と、
前記楕円状軌跡の辺の長さまたは扇形の面積に基づいて、磁気飽和が発生している位相を求める第2の位相演算過程と、
前記第1および第2の位相演算過程で求める位相情報から磁極の回転座標dq軸上のd軸位相を求める磁極位相演算過程とを有することを特徴とする。
【0075】
(2)前記磁極位相の推定を複数回繰り返し、その結果を最小二乗法により統計的な処理をする過程、およびこの処理結果の位相差分から速度を推定する過程を有することを特徴とする。
【0076】
(3)電圧制御の基準位相を固定座標上から回転座標に追従させる同期引き入れ演算に、前記推定された磁極位相との差が零となるよう前記基準位相を修正する基準位相修正過程を有することを特徴とする。
【0077】
(4)前記基準位相の同期引き入れ演算に、速度情報を利用して位相補正を行う位相補正過程を有することを特徴とする。
【0078】
(装置の発明)
(5)突極性を有する同期電動機の空転状態で、同期電動機の回転子の固定座標ab軸上の電圧制御信号に回転ベクトル状の高周波電圧を印加し、それによって同期電動機に発生する高周波電流ベクトルを基に回転中の磁極位相を推定し、この磁極位相を基に同期電動機を拾い上げ制御して可変速制御する同期電動機のセンサレス可変速装置において、
前記高周波電流ベクトルの楕円状軌跡の差分ベクトル成分を求め、この差分ベクトル成分から長軸方向の位相を求める第1の位相演算手段と、
前記楕円状軌跡の辺の長さまたは扇形の面積に基づいて、磁気飽和が発生している位相を求める第2の位相演算手段と、
前記第1および第2の位相演算手段で求める位相情報から磁極の回転座標dq軸上のd軸位相を求める磁極位相演算手段とを備えたことを特徴とする。
【0079】
(6)前記磁極位相の推定を複数回繰り返し、その結果を最小二乗法により統計的な処理をする手段、およびこの処理結果の位相差分から速度を推定する手段を備えたことを特徴とする。
【0080】
(7)電圧制御の基準位相を固定座標上から回転座標に追従させる同期引き入れ演算に、前記推定された磁極位相との差が零とするよう前記基準位相を修正する基準位相修正手段を備えたことを特徴とする。
【0081】
(8)前記基準位相の同期引き入れ演算に、速度情報を利用して位相補正を行う位相補正手段を備えたことを特徴とする。
【0082】
【発明の実施の形態】
(実施形態1)
本実施形態では、回転中の界磁位置を計測し、PMモータを始動する場合である。
【0083】
前記のように、PMモータの回転中の計測では、速度起電力の影響により電流ベクトルは図12(d)のように偏心が生じてしまう。また、電流の初期値が原点に存在している状態から急に高周波の回転ベクトル成分を加え始めると、図15(b)のように電流軌跡が初めから偏心する過渡現象が発生する。
【0084】
そのため、高周波の回転ベクトル成分の振幅を零から徐々に拡大して電流軌跡の偏心が発生しないようにするとともに、高周波を除去した電流成分をフィードバックして零に抑制する電流制御機能を追加する。
【0085】
この制御ブロック構成を表したものが図1であり、この構成は図11から高速での拾い上げ機能を省略し、代わりに高周波法による初期位相・速度計測部12を追加している。また、図1では図11に対して次の項目が変更されている。
【0086】
(ア)SW5により、回転座標に使用する位相を0に固定して、擬似的に電流制御を固定座標系で動作するようにしている。
【0087】
(イ)SW6により、低速拾い上げ部12のブロックが出力する回転ベクトル状の高周波電圧を電流制御の出力電圧に加算させている。
【0088】
(ウ)SW7により、高周波が重畳されている電流検出から高周波分を除去した成分を電流制御の電流検出に入力している。これにより、電流軌跡の偏心を抑制することができる。
【0089】
初期位相・速度計測部12のブロックの中は図2のように構成し、これらは以下の機能構成とする。
【0090】
(12−1〜12−4)高周波電圧の発生部
12−1:タイミング制御部は、タイミング制御で全体のタイミングを調整する。
【0091】
12−2:基準正弦波発生部は、高周波電圧の周波数や位相を制御する。また、高周波成分の演算にも使用する。
【0092】
12−3:高周波電圧の振幅指令部は、高周波電圧の振幅指令を零から徐々に上昇させ、必要ならレベルに達すると一定にする。
【0093】
12−4:高周波電圧演算用乗算器は、12−2の基準正弦波と12−3電圧の振幅指令と乗算を通して、高周波電圧成分vhを作成する。これをブロックから出力して前述のSW6の入力としている。
【0094】
(12−6〜12−9)高周波電流の高周波成分抽出・除去部
12−6:検出電流の移動平均部は、入力電流idqの入力を1周期のサンプル点数Nで移動平均することにより1周期の位相平均を求める。
【0095】
12−7:高周波成分抽出用減算器は、入力電流idqから12−6の出力である移動平均電流を減算して高周波成分ihを抽出する。このihは図12(b)に相当する成分となる。
【0096】
12−8:1周期前の高周波成分作成用の遅延器は、上記の12−7の出力である高周波成分ihを1周期分の時刻だけ遅延させて、1周期前の高周波成分を出力する。
【0097】
12−9:高周波成分を除去した電流の検出部は、入力電流idqから12−8の出力である1周期前の高周波成分を減算して高周波成分を除去した成分iLを演算し、これを電流制御の検出信号として使用する。移動平均をそのまま使用しないのは、移動平均演算では遅れ時間が長くなるため、電流制御ゲインを高く設定できないからである。外乱などにより電流が急変した場合の応答性能を改善するために、このような方式を採用している。
【0098】
(12−10〜12−12)高周波電流からの位相推定演算部
12−10:電流差分演算部は、上記の12−7の出力である高周波の抽出成分をさらに前回値と差分を取ることにより、図12(c)に相当する電流差分ベクトルを演算する。
【0099】
12−11:電流差分ベクトル軌跡の長軸の位相演算部は、高周波抽出電流成分から前記の式(1)または式(3)と(2)式の演算を行って、楕円状の電流差分ベクトル軌跡の長軸の位相θ2ndを求める。
【0100】
12−12:電流差分ベクトル軌跡の磁気飽和方向の位相演算部は、高周波抽出電流成分から式(4)または式(6)と式(7)により磁気飽和の方向θ1st−wを計算する。
【0101】
12−13:d軸位相の推定部は、長軸の位相θ2ndと飽和方向の位相θ1st−wからπ/2減算した値と長軸位相により、(8)式の演算を行ってd軸の推定位相θhを求める。
【0102】
図1、図2の制御ブロック図によって空転中の初期位相が計測できれば、位相推定部9の単相高周波法の内部の位相変数や磁束オブザーバの磁束を初期設定することができる。こうすると、回転中でも適切な位相から始動できるため、正確なトルクを発生できるだけでなく過電流などの異常や脱調などの発生を防止できる。
【0103】
実施形態1の位相推定動作例のチャートが図3である。高周波電圧はクッションをかけて振幅を増加させている。重心の位相の近くになるように長軸の位相を180°オフセット補正して、推定位相としている。
【0104】
(実施形態2)
本実施形態は、最小二乗法により位相の予測と統計的な効果により外乱を抑制する。
【0105】
実施形態1では、1周期分のサンプル電流からd軸位相を演算していた。しかし、サンプル点数が少ないとノイズなどの影響により位相誤差が発生する。そこで、多回転分の位相検出結果を統計的な処理を用いて外乱成分を抑制すれば精度を向上させることができる。
【0106】
そこで、実施形態1の計測結果である推定位相を何周期か複数回繰り返し、その結果を最小二乗法により統計的な処理を行う。それと同時に、位相差分である速度も検出できる機能を追加するのが本実施形態である。
【0107】
ここで、1周期ごとの推定位相θkとその時刻をtkとする。また、時間は等間隔にサンプルするものとする。そして、初期位相推定後の通常運転開始時をk=0とし、それ以前の位相推定をサンプルした位相をk=−1、−2、−3、−4と新しいものから過去に向かって負の番号をとる。そうすると、図4のように負の時間に対してサンプル番号を定義する。この図4の座標上で位相を一次関数(9)式に最小二乗法で近似を行う。
【0108】
【数9】
【0109】
こうすると、ω0は統計的な処理を行った回転速度に相当し、θ0は通常の運転を開始する時点の予測位相に相当する。θ0は単に平均化したのではなく、位相の進み角を考慮しており、さらに、計測から運転開始までの遅れ時間の回転位相分も予測補正できている。これにより、検出位相の信頼性を向上することがでさる。
【0110】
このように、最小二乗法を適用することにより、外乱成分の抑制と予測演算を同時に実現することができる。また、速度が判明すれば、磁束オブザーバに初期設定する磁束と乗算して速度起電力成分の誘起起電力を演算することができ、この値を電流制御内部にあるPI演算部の積分項をして初期設定する。こうすれば、電流制御が開始されたときでも、空転中にモータの端子に表れている電圧とほぼ同じ電圧から出力を開始できるため、運転開始時の過電流の発生を抑制することもできる。
【0111】
(実施形態3)
本実施形態は、基準位相を回転磁極に同期させる処理を追加する。
【0112】
実施形態1や実施形態2の方法により低速で初期位相と速度が推定できた場合には、一旦インバータのゲート出力を停止し、電流が零に戻った後に計測した位相に初期設定してから図10の高周波法を選択したモードで再始動すればよい。
【0113】
しかし、実施形態2の速度推定は短時間に推定したものであり、位相の検出誤差による速度推定誤差も大きく現れる。この速度を速度検出の初期値として使用した場合、通常の運転を開始すれば正確な速度推定に戻ろうとするため、速度検出が誤差分だけ急変することになる。この急変分を抑制しようと速度制御が動作し、誤ったトルク指令を発生させる問題がある。
【0114】
そのため、計測時間を長くとった速度検出ができれば都合が良い。しかし、実施形態1や実施形態2では、電流振幅を大きくとっており、大きなトルクリプルが発生している状態であるので、この状態を長時間継続することも好ましくない。
【0115】
そこで、実施形態1や実施形態2により初期位相が検出できた場合には、以降はこの初期位相の情報を磁気飽和の方向の代わりに使用する。このように、楕円の長軸を検出するだけであれば電流振幅も小さくてよく、計測を継続しても問題が生じなくなる。
【0116】
本実施形態では、まず初期位相を利用した位相推定方法を提案する。さらに、これまでは制御基準位相(3と4の座標変換に使用する位相)を固定座標と一致させていたが、これをd軸に追従するような回転座標に同期引き入れさせる機能も追加する。これにより、一旦電流を零にしてから再始動する必要が無くなり、そのまま通常の運転に切り替えることが可能になる。
【0117】
このように、固定座標から回転座標に同期引き入れさせる方式は、図5の制御ブロックおよび図6に示すその高周波法部分12’の制御ブロックで構成される。これらは、実施形態1や実施形態2では電圧や電流の回転座標の位相を零に固定して固定座標で計測を行っていたが、図5や図6はこの初期位相の計測後に引き続き適用するものである。
【0118】
まず、図5は図2に対して、SW5の入力と12’のブロックを置き換えた部分が異なっている。SW5は従来は位相を零に固定する機能であったものを、12’からの基準位相指令θshに切り替えるようにした。そして、従来SW5で行っていた固定座標に強制的に切り替える機能は、図6の12−5のスイッチで行っている。
【0119】
そして、この12−5を実施形態1または実施形態2の方式により初期位相が推定できるまでは位相=0を選択させ、初期位相を計測後はこれを同期座標に追従する制御基準位相に切り替える。これにより、電圧や電流の回転座標変換に使用される位相が進み始め、回転座標として動作を始める。
【0120】
この制御基準座標が回転を始めると、高周波電圧成分は回転ベクトル自体もさらに回転を加えられることになり、その結果、idq検出の高周波電流から推定した位相は、回転する制御基準座標からの相対的なd軸位相を示すようになる。つまり、基準位相θshとd軸のずれ成分を示すようになる。そこで、この検出位相を零になるように制御基準位相を修正させれば、最終的にはd軸位相に制御基準位相が追従するようになり同期引き入れが行われる。
【0121】
また、NSの磁極の判定は前回の位相角が既知であればこれを参照すればよく、重心の位相演算をする必要はない。このような動作を図6では実現している。同図が図2に比べて異なるのは12−5、12−17、12−18、12−19の4つの点である。
【0122】
12−17は、始めに実施形態1または実施形態2で計測された初期位相を選択し、それ以降は前回の推定位相に切り替える。この高周波法を適用するのは回転速度が低い場合のみであり、サンプル周期間に回転子が進む位相は180°よりも大幅に小さい。そのため、初期位相の計測後は磁気飽和の位相の代わりに前回の推定位相θhを代用してもかまわない。
【0123】
次に、制御基準位相θshはスイッチ12−5により、実施形態1または実施形態2を計測するときは零に初期設定され、次回からは12−18を使用した位相追従値を選択して同期引き入れ動作に切り換える。
【0124】
12−18では前述のθhが零となるように、緩和ゲインk0をかけて前回の位相θshに加算補正して出力を続する。こうすると、θhが零となるようにθshは回転子に追従して回転動作を始める。この結果、基準軸を回転しているd軸位相に同期引き入れすることができる。同期引き入れ後は、この制御基準位相θshをd軸位相とみなして制御を行えばよい。
【0125】
この実施形態3の動作を示すチャートが図7である。S4の期間で磁気飽和を利用した実施形態2の方式で初期位相や速度を計測し、この後、S3の期間で同期引入れ動作を行う。S3の期間の前半で同期引き入れが完了するので、後半で実施形態2の速度検出と同じ原理を利用して、計測期間を長くとって速度を再計測して精度を向上させると、これらの動作はS6の拾い上げ動作期間内に終了させ、S6の終了時に位相や磁束の初期設定を行い、通常の運転に切り替える。
【0126】
最下段の位相推定は、S3の期間になると磁気飽和の位相推定が終了し、前回の位相推定を利用したNS極判定が行われるようになる。同時に、制御基準位相の同期引き入れが開始する。そのため、同期基準位相が零からd軸に追従を始め、また、逆にθhの成分が零に収束する。
【0127】
ここで、速度が高い場合には、θshに追従遅れがあるため、実際にはθhは零にならず、θhにも位相遅れが生じる。
【0128】
(実施形態4)
本実施形態は、速度計測結果を使用した位相同期の追従遅れの補償をする。
【0129】
実施形態3の方式では、位相追従するための補正ゲインが小さい場合には回転速度が高くなるとd軸への追従遅れが大きくなってくる。そのため、速度の上昇とともに少し遅れた位相を検出することになる。この遅れを小さくするのが本実施形態である。
【0130】
実施形態2の最小二乗法演算を行うと、初期位相だけでなく回転速度も計算できていた。この速度情報を記憶しておき、図8の12−20のようなサンプル時間に相当するゲインを乗算して、位相角の進み分を計算し、12−21の加算器で位相補正部に追加補正する。こうすると、初期回転速度の位相進み成分はこの項が受け持つようになり、残った位相誤差や速度の変動分のみをθhと12−18の項が補正すするようになる。このように速度情報を利用して、フィードフォワード補償を適用すれば、小さなゲインでも遅れ角を減少させることができ、より精度の良い位相計測が可能になる。
【0131】
本実施形態の動作を示すチャートが図9であり、速度が高い場合でもθhは小さくなり、θshの追従遅れも大幅に抑制される。
【0132】
【発明の効果】
以上のとおり、本発明のセンサレス計測方法によれば、PMモータが低速で空転中でも磁極のd軸位相を容易にかつ高精度に推定できる。また、この方法を利用したセンサレス可変速装置は位置・速度を高精度制御できる。
【0133】
具体的には、以下の効果がある。
【0134】
(1)回転ベクトルの高周波電圧を入力することにより、短時間(1周期分のサンプルデータ)で位相の推定が可能になる。また、磁気飽和の位相を電流差分ベクトル軌跡のさらに辺の長さを利用するため、電流位相の変化量のみで演算するよりも精度が改善できる。また、高周波電圧もゆっくりと加えることにより、回転する電流ベクトルの中心の偏心を抑制することができ、さらに、外乱などより電流の偏心が発生してもそれを抑制することができるようになり、より検出精度を向上できる(実施形態1)。
【0135】
(2)実施形態1で得られた初期位相を複数回計測し、さらに最小二乗法を適用したことにより、統計的に外乱成分の抑制ができる。また、速度の演算ができるため、これを利用して電流演算部の積分項の電圧を初期設定でき、電流制御開始時に電流が急に発生する現象が抑制できる。また、計測時刻と運転開始時刻には時間的な遅れが存在するが、この時間遅れ分の回転位相を予測補正した位相を得ることができるため、より正確な位相推定が可能になる。ひいては運転開始時のトルク制御精度が向上する(実施形態2)。
【0136】
(3)実施形態1または実施形態2の計測後、制御基準座標をd軸に同期引き入れさせることができる。これにより通常の運転に切り替える際に、電流を一旦零にリセットを行ったり、固定座標であった電流や電圧成分およびその一次遅れ演算結果などの変数を位相を切り替えるために座標変換する手間が不要になり、演算量を軽減できる。また、速度の計測期問を長くできるため速度検出精度が改善でき、通常運転時に切り替えた場合に速度検出誤差に起因して発生する速度制御系の過渡現象を小さく抑制できる(実施形態3)。
【0137】
(4)実施形態3では速度が高くなってくると、実際のd軸と追従する制御基準軸間の位相追従遅れが大きくなってくる。これを、速度を利用して補正することにより、位相遅れを抑制できる。そのため、運転開始時のトルク制御精度を改善することができる(実施形態4)。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態1を示す制御ブロック構成図。
【図2】実施形態1における高周波法部分の制御ブロック図。
【図3】図2の動作例のフローチャート。
【図4】本発明の実施形態2における複数サンプル位相による最小二乗法の説明波形。
【図5】本発明の実施形態3を示す制御ブロック構成図。
【図6】実施形態3における高周波法部分の制御ブロック図。
【図7】図5、図6における動作例のフローチャート。
【図8】本発明の実施形態4を示す高周波部分の制御ブロック図。
【図9】図8の動作例のフローチャート。
【図10】停止状態から始動するセンサレス可変速装置の制御ブロック構成図(従来)。
【図11】高速で空転中から始動する可変速装置の制御ブロック構成図。
【図12】高周波電圧成分と発生する電流ベクトル成分。
【図13】電流成分の楕円軌跡を円弧の辺で近似したベクトル図。
【図14】出力位相F180{θ}の特性図。
【図15】電流が原点にいる状態から高周波電圧を加えた場合の電流軌跡の偏心の例。
【符号の説明】
1…速度制御部
2…電流制御部
3…回転座標変換部
4…回転座標変換部
5…制御対象モータ
6…速度演算部
7…制御切換指令部
8…停止時の初期位相検出部
9…高周波法によるd軸位相推定部
10…磁束オブザーバによるd軸位相推定部
11…短絡パルス法による初期位相・速度計測部
12、12’…高周波法による初期位相・速度計測部
【発明の属する技術分野】
本発明は、永久磁石を界磁源とする同期電動機(PMモータ)の磁極位相や回転速度を検出するセンサを使用することなく計測する同期電動機のセンサレス計測方法およびこの計測方法を利用した同期電動機のセンサレス可変速装置に係り、特に低速領域での磁極位置や回転速度を初期推定する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
この種のセンサレス計測方法および制御方法は、本願出願人は以下のものを既に提案している。
【0003】
(提案1)特願2001−348156:PMの初期位置同定方式
(提案2)特願2001−375465:PMモータの高周波電圧印加による磁極位置推定方法
(提案3)特願2002−150036:PMセンサレス高周波重畳方式
(提案4)特願2002−185567:PMモータのセンサレス制御方式
(提案5)特願2002−2726:PMモータの空転速度検出方法
上記の資料(1)は、モータが停止状態から始動するときに、磁極のd軸の初期位置を計測する方法である。
【0004】
資料(2)と資料(3)は低速運転域でd軸位相を推定するための方式であり、磁極の突極性を利用して高周波電圧を入力電圧に重畳している。
【0005】
資料(4)はある程度速度の高い領域でd軸位相を推定するための方式であり、磁束オブザーバを利用して、速度を推定する方式である。これらの方式は、周波数の上限や動作電圧の下限などがあるため、速度に応じて切り替えて使用する。
【0006】
図10は、上記の資料(1)と、(2)または(3)と、(4)の2種類のセンサレス制御を切り替えて、始動から高速域まで運転を行うセンサレス可変速装置の制御ブロック構成図である。
【0007】
資料(1)の方式で起動時の初期位相を計測し、資料(2)や資料(3)の方法で初期位相から低速での運転を開始し、速度とともに電圧が上昇したら資料(4)の方式に切り換えるものである。
【0008】
図10の各ブロックの機能を下記に示す。
【0009】
速度制御部1…速度指令ω*と推定速度ωより、速度指令に一致するようモータの発生トルク指令(電流指令)idq*を出力する。
【0010】
電流制御部2…速度制御部1の電流指令に検出電流idqが追従するよう、出力電圧制御指令を出力する。
【0011】
回転座標変換部3…推定磁極(d軸)の位相に基づき、回転座標(dq軸)上の電圧指令を固定座標(ab軸)に変換する。また、3相機であれば2/3相変換も行う。
【0012】
回転座標変換部4…変換部3の変換後の電圧を発生させて生じる電流を検出し、それをdq座標に回転座標変換する。これは、変換部3の逆変換に相当する。また、3相機であれば3/2相変換も行う。
【0013】
制御対象モータ5…速度制御対象のPMモータである。
【0014】
速度演算部6…推定位相θの時間差分(微分)から速度ωを演算する。これは速度制御部1の速度制御の検出成分として使用される。
【0015】
制御切換指令部7…資料(2)または資料(3)の低速用の磁極位相推定方式と、資料(4)の高速用の方式を切り替える信号を作成する。速度演算部6の演算結果より、速度に応じて切り替え指令を出力する。
【0016】
この信号により、SW2〜SW4の各切換スイッチが動作する。SW2は位相推定部9の高周波法の推定部が発生する高周波電圧指令を出力に重畳させている。また、SW3は電流制御に使用する電流検出検出を選択するものであり、高周波を重畳しない場合には検出電流をそのまま使用し、高周波を重畳する場合には位相推定部9のブロックで高周波成分が除去された電流成分を使用する。また、SW4は、回転座標や速度演算に使用する磁極位相を位相推定部9と位相推定部10の2種類の位相から選択する。
【0017】
停止時の初期位相検出部8…資料(1)の方式を利用して、停止状態のd軸の位相を検出する。検出した位相は、位相推定部9や10のd軸位相推定での初期値として設定する。
【0018】
この検出部8は起動時に一回だけ動作する。また、短絡パルス電圧を発生させるため、SW1のスイッチを切り替えてPMモータに強制的にパルス電圧を出力させている。
【0019】
高周波法によるd軸位相推定部9…低速状態でd軸位相の推定を行う。d軸に同期して回転する座標上で単振動する高周波電圧vhを出力電圧に重畳し、その結果生じる高周波電流よりdq軸のインダクタンスの差を検出する。これにより、回転中のd軸位相θhを推定している。また、電流制御に使用する高周波成分を除去した電流検出成分iLも出力している。このブロックの詳細は資料(2)または資料(3)に記載されているので、ここでは内部の説明は省略する。
【0020】
磁束オブザーバによるd軸位相推定部10…高速状態でd軸位相の推定を行う。電圧指令Vabと検出電流iabからモータの永久磁石の推定磁束λobsを推定する磁束オブザーバである。この推定された磁束ベクトルの位相θobsがd軸に相当している。このブロックの詳細は資料(4)に記載されているので、ここでは内部の説明は省略する。
【0021】
図10の構成により、始動時の初期位相は位相検出部8が位相を推定し、以後、停止時状態からの起動や低速運転中は高周波法の位相推定部9が、さらに、高速運転域では磁束オブザーバによる位相推定部10が出力する推定位相を基に動作する。このように複数の方式を組み合わせることにより、全速度領域でPMモータのセンサレス可変速制御が実現できる。
【0022】
しかし、図10の位相検出部8で初期位置を推定している資料(1)の方式はモータが停止していることを条件としており、モータが空転している状態からの始動(拾い上げ始動)には適用できない。もし適用してもd軸位相を正確に推定できないため、異常なトルクが発生するほか、推定速度と実速度が異なってしまい脱調することもある。
【0023】
この対策として、高速に空転中であれば永久磁石の速度起電力を利用して軸位相を推定する方式を資料(5)で提案している。これは短時間だけインバータの出力を短絡状態にし、そのときに発生する短絡電流の変化を計測して磁極位相を推定する方式であり、これに類似する方式も提案されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0024】
図11は、図10に資料(5)の空転中の初期位相・速度の推定方式を適用した場合の制御ブロック構成図である。図10の位相検出部8に代えて、短絡パルス法の初期位相・速度計測を行う位相検出部11に置き換えている。
【0025】
機能としては、資料(5)で詳細に説明されているように、空転中のPMモータに短絡状態を複数回発生させ、そのときに発生する短絡電流ベクトルの位相より空転速度と初期位置を推定する。この計測された初期位置結果より位相推定部9の初期値を設定する。また、さらに速度情報も利用して位相推定部10の磁束オブザーバの内部変数である推定磁束や推定電流および適応速度なども初期設置を設定している。また、現在の誘起起電力と釣り合うように、この速度と位相情報から速度起電力を計算し、電流制御部2の内部にあるPI演算部の積分項に初期設定しておくことにより、電流制御開始時に過電流が発生することを防止している。
【0026】
この短絡パルス法は、資料(1)の停止時の初期位相検出と同様に、運転開始時のみ動作する。
【0027】
【非特許文献1】
平成9年電気学会産業応用部門全国大会 No.135 鳥羽・藍原・柳瀬:“位置・速度・電圧センサレスPMモータ駆動システムの回転状態からの起動法”
【0028】
【発明が解決しようとする課題】
資料(5)の方式は速度起電力を利用しており、空転速度が低い場合には、誘起起電力自体が小さいため、短絡電流はゆっくりと増加するようになる。また、電流が増加している最中でも誘起起電力自体が回転しているため、短絡電流の軌跡は原点から放射状の直線にはならず、増加しながら回転する軌跡になる。こうなると正確に位相を演算することができない。
【0029】
資料(1)の停止時の初期位置推定方式を適用しようとしても、計測時間が数十ms程度必要であり、この間に回転してしまう影響が問題となる。たとえば、24Hzで回転中のモータを60msで計測する場合、電気角で518.4°も回転してしまう。つまり、1回転以上回転してしまうことになり、これでは正確な検出が適用できない。
【0030】
資料(2)と資料(3)の高周波を重畳する方法も、d軸の初期位相(NS極の判定)が既知である条件があるためそのままでは使用できない。
【0031】
以上のことから、低速で空転中でもNS磁極の極性判定が可能なd軸位相の推定方式が必要になってくる。
【0032】
磁極の突極性を利用する方式では、突極性はd軸方向におけるN極とS極の180°反対の方向で同じような対称的な特性を持っている。そこで、NS極の判定には、電流が増加した場合の磁気飽和の特性の差を利用している。
【0033】
しかし、モータの設計によっては磁気飽和の影響が小さい場合もあるため、d軸と逆位相を誤検出する可能がある。インバータの半導体素子にはスイッチング遅れや飽和電圧の変動などの影響があるため、これらが電圧外乱成分となるほか、電流サンプル時のノイズなどの影響が誤検出の要因となると想定される。
【0034】
もし、NS極の判定を誤るとトルク指令と逆のトルクが発生するため、加速指令を出力していても減速するようになり、さらには逆転してしまう。この逆転現象は負荷である機械へ悪影響が発生するほか、また安全上の観点からも問題がある。
【0035】
このような理由から、低速での拾い上げ運転は単に位相推定の精度だけでなく、NS極判定の信頼性をいかに確立するかが重要であり、ノイズなどの影響を受けにくいような方式を適用して検出データの信頼性を向上させることが課題となる。
【0036】
そのため、これらの外乱を除去できるような十分な電流振幅を発生させる必要があるし、またサンブル点数を多くして統計的な処理によって外乱成分を抑制する必要もある。このように、低速域での拾い上げに関しては、より信頼性を考慮した対策をとる必要がある。
【0037】
本発明の目的は、PMモータが低速で空転中でもd軸位相を容易にかつ高精度に推定できるセンサレス計測方法およびこの方法を利用して位置・速度を高精度制御するセンサレス可変速装置を提供することにある。
【0038】
【課題を解決するための手段】
本発明は、前記の課題を解決するため、d軸位相推定に回転ベクトル状の高周波電圧を注入する方法とするものであり、また、d軸のNS極の判定は、磁気飽和の影響を利用した方法とするもので、この方法を、以下、原理的に説明する。
【0039】
(高周波法の検出原理)
資料(2)及び資料(3)は、推定されたd軸位相上に固定した単相交流成分を重畳して磁極の突極性を計測する方法であった。これは発生する高周波電流によるトルクリップルを少なくする目的で、一軸成分のみに限定し、q軸側には高周波電流の発生が少ないようにしていた。
【0040】
前記のように、PMモータの低速回転での位相推定には、磁気飽和の影響が大きく発生するように計測電流を大きくとる必要があるため、突極性と磁気飽和によるNS極判定を短時問にかつ同時に行えるように、単相成分ではなく回転するベクトル状の電圧を入力することとした。単相交流では収束させる時間が必要であるが、回転ベクトルではこの収束時間が不要になるため、短時間で計測可能となる。
【0041】
図12(a)はモータに入力する高周波電圧の空間ベクトルを示したものである。インバータの電圧出力形式としてPWM変調を適用しており、連続的な正弦波を出力することはできないため、ここでは1周期を8点(v0〜v7)の離散的な電圧ベクトルを出力する例で示している。また、説明がわかりやすいように、回転子が停止している状態で、αβ軸とdq軸が一致しており、また、ちょうどd軸と高周波電圧ベクトルが一致する例で説明する。実際には、回転中に適用も可能である。
【0042】
図12(b)は、この高周波電圧ベクトルによって発生する電流ベクトルの軌跡であり、過渡現象が収まって定常状態になった場合を示している。丸印で示した点(i0〜i7)が(v0〜v7)の各ベクトル発生後の電流をサンプルしたものである。永久磁石を埋め込んだIPM(Interior Permanent Magnet)タイプモータは、d軸とq軸のインダクタンス成分が異なり、Ld<Lqの関係があるため、d軸側が長軸となる楕円状のベクトル軌跡となる。
【0043】
例えば、電圧ベクトルv0を出力している期間に電流ベクトル軌跡はi7からi0に移動する。その期間の電流の差分ベクトルをΔi0とする。ここで、d軸成分の電圧を発生したのみかかわらず、q軸の電流変化成分が発生しているのは電流i7やi0による電機子反作用磁束によって回転子内部の磁束の対称性がくずれ、局部的な鉄心の磁気飽和が発生したためであり、dq軸間に干渉インダクタンス成分が発生したことに相当している。
【0044】
また、電機子反作用磁束は固定子側の鉄心に対しても磁気飽和の影響を与える。永久磁石のN極と同一方向に反作用磁束が発生する場合には、固定子鉄心の磁束が増加するため磁気飽和が強くなりインダクタンス成分が小さくなる。このため、電流ベクトルがNS極で対象な位置であっても電流差分ベクトルの長さが異なってくる。電流ベクトルがd軸上のN極方向に位置しているほどインダクタンスは小さくなるため、電流Δi2のように変化量は大きくなり、逆にS極側に位置する場合には電流Δi6のように変化量は小さくなる。その結果、図12(b)のように全体的には楕円状であるが、q軸を軸とするとNS極の方向で非対称な電流ベクトル軌跡が発生するようになる。この楕円状の電流軌跡の長軸がd軸の正負の方向であり、またこのd軸方向のうち電流差分ベクトルの長い方がN極に相当している。
【0045】
以上は回転子が停止している状態であったが、回転子が回転している場合には速度起電力が発生するためこれによる電流成分が発生する。そのため、図12(d)のような楕円状の軌跡が、原点が偏心しながら回転するようになる。そこで、偏心の影響と回転の影響を抑制するため、図12(b)のように電流ベクトルの差分ベクトルΔi0〜Δi7を求めて、この差分ベクトルの分布(軌跡)として図12(c)のものを使用することにする。差分をとることは一種の微分演算を適用したことになり、微分するとオフセット分が消去されること、また低周波成分を減衰し高周波成分を増加させるようなゲイン特性を有している特長を利用するものである。
【0046】
この差分ベクトルの先端を結んで得られる軌跡は図12(c)のようにやはり同様の楕円状になるため、この長軸を求めればd軸の方向を計測することができる。また、磁気飽和の影響は楕円軌跡の重心をd軸より90°進んだ方向に移動させるように現れることから、逆に楕円の重心のベクトルを演算により求め、それより90°差し引いた方向をN極と判定することもできる。
【0047】
ここで、単にサンプル点のベクトルの合成として重心を求める方法もあるが、磁気飽和の影響を表すのは短軸方向のベクトル量であるのにもかかわらす、この短軸方向の電流差分ベクトルの振幅より長軸側の方が大きい。そのため、長軸側の誤差による影響を受けやすい欠点がある。常に長軸側のベクトルが対称に発生しないときには、大きな外乱となってしまう。そこで、図12(c)をよく検討した結果、ベクトル間の位相角の情報も同時に考慮する方法を適用する。つまり、図12(c)の楕円状の軌跡を、単位長さの重量が一定の楕円状のワイヤーとみなし、この各ベクトル間の辺の重量を利用することにした。
【0048】
図12(c)の電流差ベクトルが得られている場合に、これらの長軸とN極の位相を演算するためには以下の方法を採ればよい。
【0049】
(a)長軸の位相抽出
ここでは、モータが停止しており、回転座標と固定座標が同一(ab軸=dq軸)であるものとする。
【0050】
長軸の位相は電圧ベクトルの発生位相に対して2倍の次数で振幅が変化する。そこで、2次成分をフーリエ積分により求めればよい。まず(1)式のように離散系に近似し、さらに積分を外形近似して2次成分のdq成分を求める。
【0051】
【数1】
【0052】
ここで、Δin:図12(c)に相当する電流差分ベクトル、N:高周波回転ベクトルの1回転の点数、(Δi2nd)d:電流差分ベクトルの二次成分のうちd軸成分、(Δi2nd)d:電流差分ベクトルの二次成分のうちq軸成分。
【0053】
次に、(1)式の結果から(2)式で長軸の位相を求めることができる。
【0054】
【数2】
【0055】
ここで、(2)式からわかるように、2次成分を利用しただけでは、推定位相は電気角でπの範囲しか求めることができず、NS極の区別を行うことはできない。
【0056】
また、(1)式より突極性を強調して抽出する演算式としては、以下の(3)式を利用しても良い。
【0057】
【数3】
【0058】
(1)式では、フーリエ積分を台形近似するために位相角を等間隔(発生した電圧ベクトルの位相を基準)としていたが、これを図12(c)の電流差分ベクトルの位相を用いて積分演算を行う方法もある。その場合は、(3)式により計算できる。
【0059】
(b)重心点の位相
次に、NS極の判定を行うため、図12(c)の電流差分ベクトル軌跡の重心方向を計算する。
【0060】
ここで、この位相はNSの判定を行うためにのみ使用するので、位相の精度はそれほど要求されない。そこで、計算式に大胆な近似を適用して演算量を低減している。電流差分ベクトルの各サンプル点における楕円軌跡の辺は、ベクトル軌跡間の距離を演算すればよい。しかし、2点間の距離を演算するためには√(平方根)の演算や極座標変換の演算が必要であり、演算量が大きくなってしまう。そこで、楕円の辺を円弧に近似できれば、振幅成分と位相角の積として演算でき、(a)の長軸の演算に使用したベクトルの振幅成分を利用すれば少ない演算時間で近似値が計算できる。
【0061】
そこで、図13(a)のように、両隣のサンプルベクトルとの中間位相まで、同一半径の円弧に近似して計算を簡略化でき、(4)式で計算できる。
【0062】
【数4】
【0063】
図13(b)のように、ベクトルの振幅を位相が隣り合う2点のサンプルベクトルの平均値とし、(5)式でサンプル間の円弧に近似し、これにフーリエ積分のcos関数,sin関数を乗算して積分することにすれば、(4)式の変わりに(6)式を使用することもできる。
【0064】
【数5】
【0065】
【数6】
【0066】
単にNS極の判定のために概略の方向を求めるだけでよければ、(4)式のような大胆な近似でも適用が可能である。
【0067】
(4)または(6)式の結果より、(7)式でこのベクトルの位相を計算し、高周波ベクトルの回転方向に対してπ/2を減算すると、d軸の位相が得られる。
【0068】
【数7】
【0069】
【数8】
【0070】
ここで、F180(θ)は、図14のような特性の関数であり、入力位相θに対し、−π/2〜π/2の範囲に変換した位相を出力する関数である。
【0071】
(8)式の右辺前半は、θ2ndと(θ2nd+π)の2種類のd軸の方向から(θ1st−w−π/2)の方向に近い成分を選択する機能をもっていので、この結果からπ/2を減算すると、NS極の判定を適用してd軸推定位相θhを求めることができる。
【0072】
このように、回転ベクトル状の高周波電圧を利用すれば、dq軸のインダクタンスの差異や磁気飽和の影響を利用して位相を演算することができる。なお、磁極のNS判定に、図12(c)の辺の情報を用いたが、これは扇の面積でもよいし、また重心演算を用いても同様の効果が得られる。
【0073】
以上が本発明になる高周波法による位相の検出原理であり、以下の計測方法、可変速装置を特徴とする。
【0074】
(方法の発明)
(1)突極性を有する同期電動機の空転状態で、同期電動機の回転子の固定座標ab軸上の電圧制御信号に回転ベクトル状の高周波電圧を印加し、それによって同期電動機に発生する高周波電流ベクトルを基に回転中の磁極位相を推定する同期電動機のセンサレス計測方法において、
前記高周波電流ベクトルの楕円状軌跡の差分ベクトル成分を求め、この差分ベクトル成分から長軸方向の位相を求める第1の位相演算過程と、
前記楕円状軌跡の辺の長さまたは扇形の面積に基づいて、磁気飽和が発生している位相を求める第2の位相演算過程と、
前記第1および第2の位相演算過程で求める位相情報から磁極の回転座標dq軸上のd軸位相を求める磁極位相演算過程とを有することを特徴とする。
【0075】
(2)前記磁極位相の推定を複数回繰り返し、その結果を最小二乗法により統計的な処理をする過程、およびこの処理結果の位相差分から速度を推定する過程を有することを特徴とする。
【0076】
(3)電圧制御の基準位相を固定座標上から回転座標に追従させる同期引き入れ演算に、前記推定された磁極位相との差が零となるよう前記基準位相を修正する基準位相修正過程を有することを特徴とする。
【0077】
(4)前記基準位相の同期引き入れ演算に、速度情報を利用して位相補正を行う位相補正過程を有することを特徴とする。
【0078】
(装置の発明)
(5)突極性を有する同期電動機の空転状態で、同期電動機の回転子の固定座標ab軸上の電圧制御信号に回転ベクトル状の高周波電圧を印加し、それによって同期電動機に発生する高周波電流ベクトルを基に回転中の磁極位相を推定し、この磁極位相を基に同期電動機を拾い上げ制御して可変速制御する同期電動機のセンサレス可変速装置において、
前記高周波電流ベクトルの楕円状軌跡の差分ベクトル成分を求め、この差分ベクトル成分から長軸方向の位相を求める第1の位相演算手段と、
前記楕円状軌跡の辺の長さまたは扇形の面積に基づいて、磁気飽和が発生している位相を求める第2の位相演算手段と、
前記第1および第2の位相演算手段で求める位相情報から磁極の回転座標dq軸上のd軸位相を求める磁極位相演算手段とを備えたことを特徴とする。
【0079】
(6)前記磁極位相の推定を複数回繰り返し、その結果を最小二乗法により統計的な処理をする手段、およびこの処理結果の位相差分から速度を推定する手段を備えたことを特徴とする。
【0080】
(7)電圧制御の基準位相を固定座標上から回転座標に追従させる同期引き入れ演算に、前記推定された磁極位相との差が零とするよう前記基準位相を修正する基準位相修正手段を備えたことを特徴とする。
【0081】
(8)前記基準位相の同期引き入れ演算に、速度情報を利用して位相補正を行う位相補正手段を備えたことを特徴とする。
【0082】
【発明の実施の形態】
(実施形態1)
本実施形態では、回転中の界磁位置を計測し、PMモータを始動する場合である。
【0083】
前記のように、PMモータの回転中の計測では、速度起電力の影響により電流ベクトルは図12(d)のように偏心が生じてしまう。また、電流の初期値が原点に存在している状態から急に高周波の回転ベクトル成分を加え始めると、図15(b)のように電流軌跡が初めから偏心する過渡現象が発生する。
【0084】
そのため、高周波の回転ベクトル成分の振幅を零から徐々に拡大して電流軌跡の偏心が発生しないようにするとともに、高周波を除去した電流成分をフィードバックして零に抑制する電流制御機能を追加する。
【0085】
この制御ブロック構成を表したものが図1であり、この構成は図11から高速での拾い上げ機能を省略し、代わりに高周波法による初期位相・速度計測部12を追加している。また、図1では図11に対して次の項目が変更されている。
【0086】
(ア)SW5により、回転座標に使用する位相を0に固定して、擬似的に電流制御を固定座標系で動作するようにしている。
【0087】
(イ)SW6により、低速拾い上げ部12のブロックが出力する回転ベクトル状の高周波電圧を電流制御の出力電圧に加算させている。
【0088】
(ウ)SW7により、高周波が重畳されている電流検出から高周波分を除去した成分を電流制御の電流検出に入力している。これにより、電流軌跡の偏心を抑制することができる。
【0089】
初期位相・速度計測部12のブロックの中は図2のように構成し、これらは以下の機能構成とする。
【0090】
(12−1〜12−4)高周波電圧の発生部
12−1:タイミング制御部は、タイミング制御で全体のタイミングを調整する。
【0091】
12−2:基準正弦波発生部は、高周波電圧の周波数や位相を制御する。また、高周波成分の演算にも使用する。
【0092】
12−3:高周波電圧の振幅指令部は、高周波電圧の振幅指令を零から徐々に上昇させ、必要ならレベルに達すると一定にする。
【0093】
12−4:高周波電圧演算用乗算器は、12−2の基準正弦波と12−3電圧の振幅指令と乗算を通して、高周波電圧成分vhを作成する。これをブロックから出力して前述のSW6の入力としている。
【0094】
(12−6〜12−9)高周波電流の高周波成分抽出・除去部
12−6:検出電流の移動平均部は、入力電流idqの入力を1周期のサンプル点数Nで移動平均することにより1周期の位相平均を求める。
【0095】
12−7:高周波成分抽出用減算器は、入力電流idqから12−6の出力である移動平均電流を減算して高周波成分ihを抽出する。このihは図12(b)に相当する成分となる。
【0096】
12−8:1周期前の高周波成分作成用の遅延器は、上記の12−7の出力である高周波成分ihを1周期分の時刻だけ遅延させて、1周期前の高周波成分を出力する。
【0097】
12−9:高周波成分を除去した電流の検出部は、入力電流idqから12−8の出力である1周期前の高周波成分を減算して高周波成分を除去した成分iLを演算し、これを電流制御の検出信号として使用する。移動平均をそのまま使用しないのは、移動平均演算では遅れ時間が長くなるため、電流制御ゲインを高く設定できないからである。外乱などにより電流が急変した場合の応答性能を改善するために、このような方式を採用している。
【0098】
(12−10〜12−12)高周波電流からの位相推定演算部
12−10:電流差分演算部は、上記の12−7の出力である高周波の抽出成分をさらに前回値と差分を取ることにより、図12(c)に相当する電流差分ベクトルを演算する。
【0099】
12−11:電流差分ベクトル軌跡の長軸の位相演算部は、高周波抽出電流成分から前記の式(1)または式(3)と(2)式の演算を行って、楕円状の電流差分ベクトル軌跡の長軸の位相θ2ndを求める。
【0100】
12−12:電流差分ベクトル軌跡の磁気飽和方向の位相演算部は、高周波抽出電流成分から式(4)または式(6)と式(7)により磁気飽和の方向θ1st−wを計算する。
【0101】
12−13:d軸位相の推定部は、長軸の位相θ2ndと飽和方向の位相θ1st−wからπ/2減算した値と長軸位相により、(8)式の演算を行ってd軸の推定位相θhを求める。
【0102】
図1、図2の制御ブロック図によって空転中の初期位相が計測できれば、位相推定部9の単相高周波法の内部の位相変数や磁束オブザーバの磁束を初期設定することができる。こうすると、回転中でも適切な位相から始動できるため、正確なトルクを発生できるだけでなく過電流などの異常や脱調などの発生を防止できる。
【0103】
実施形態1の位相推定動作例のチャートが図3である。高周波電圧はクッションをかけて振幅を増加させている。重心の位相の近くになるように長軸の位相を180°オフセット補正して、推定位相としている。
【0104】
(実施形態2)
本実施形態は、最小二乗法により位相の予測と統計的な効果により外乱を抑制する。
【0105】
実施形態1では、1周期分のサンプル電流からd軸位相を演算していた。しかし、サンプル点数が少ないとノイズなどの影響により位相誤差が発生する。そこで、多回転分の位相検出結果を統計的な処理を用いて外乱成分を抑制すれば精度を向上させることができる。
【0106】
そこで、実施形態1の計測結果である推定位相を何周期か複数回繰り返し、その結果を最小二乗法により統計的な処理を行う。それと同時に、位相差分である速度も検出できる機能を追加するのが本実施形態である。
【0107】
ここで、1周期ごとの推定位相θkとその時刻をtkとする。また、時間は等間隔にサンプルするものとする。そして、初期位相推定後の通常運転開始時をk=0とし、それ以前の位相推定をサンプルした位相をk=−1、−2、−3、−4と新しいものから過去に向かって負の番号をとる。そうすると、図4のように負の時間に対してサンプル番号を定義する。この図4の座標上で位相を一次関数(9)式に最小二乗法で近似を行う。
【0108】
【数9】
【0109】
こうすると、ω0は統計的な処理を行った回転速度に相当し、θ0は通常の運転を開始する時点の予測位相に相当する。θ0は単に平均化したのではなく、位相の進み角を考慮しており、さらに、計測から運転開始までの遅れ時間の回転位相分も予測補正できている。これにより、検出位相の信頼性を向上することがでさる。
【0110】
このように、最小二乗法を適用することにより、外乱成分の抑制と予測演算を同時に実現することができる。また、速度が判明すれば、磁束オブザーバに初期設定する磁束と乗算して速度起電力成分の誘起起電力を演算することができ、この値を電流制御内部にあるPI演算部の積分項をして初期設定する。こうすれば、電流制御が開始されたときでも、空転中にモータの端子に表れている電圧とほぼ同じ電圧から出力を開始できるため、運転開始時の過電流の発生を抑制することもできる。
【0111】
(実施形態3)
本実施形態は、基準位相を回転磁極に同期させる処理を追加する。
【0112】
実施形態1や実施形態2の方法により低速で初期位相と速度が推定できた場合には、一旦インバータのゲート出力を停止し、電流が零に戻った後に計測した位相に初期設定してから図10の高周波法を選択したモードで再始動すればよい。
【0113】
しかし、実施形態2の速度推定は短時間に推定したものであり、位相の検出誤差による速度推定誤差も大きく現れる。この速度を速度検出の初期値として使用した場合、通常の運転を開始すれば正確な速度推定に戻ろうとするため、速度検出が誤差分だけ急変することになる。この急変分を抑制しようと速度制御が動作し、誤ったトルク指令を発生させる問題がある。
【0114】
そのため、計測時間を長くとった速度検出ができれば都合が良い。しかし、実施形態1や実施形態2では、電流振幅を大きくとっており、大きなトルクリプルが発生している状態であるので、この状態を長時間継続することも好ましくない。
【0115】
そこで、実施形態1や実施形態2により初期位相が検出できた場合には、以降はこの初期位相の情報を磁気飽和の方向の代わりに使用する。このように、楕円の長軸を検出するだけであれば電流振幅も小さくてよく、計測を継続しても問題が生じなくなる。
【0116】
本実施形態では、まず初期位相を利用した位相推定方法を提案する。さらに、これまでは制御基準位相(3と4の座標変換に使用する位相)を固定座標と一致させていたが、これをd軸に追従するような回転座標に同期引き入れさせる機能も追加する。これにより、一旦電流を零にしてから再始動する必要が無くなり、そのまま通常の運転に切り替えることが可能になる。
【0117】
このように、固定座標から回転座標に同期引き入れさせる方式は、図5の制御ブロックおよび図6に示すその高周波法部分12’の制御ブロックで構成される。これらは、実施形態1や実施形態2では電圧や電流の回転座標の位相を零に固定して固定座標で計測を行っていたが、図5や図6はこの初期位相の計測後に引き続き適用するものである。
【0118】
まず、図5は図2に対して、SW5の入力と12’のブロックを置き換えた部分が異なっている。SW5は従来は位相を零に固定する機能であったものを、12’からの基準位相指令θshに切り替えるようにした。そして、従来SW5で行っていた固定座標に強制的に切り替える機能は、図6の12−5のスイッチで行っている。
【0119】
そして、この12−5を実施形態1または実施形態2の方式により初期位相が推定できるまでは位相=0を選択させ、初期位相を計測後はこれを同期座標に追従する制御基準位相に切り替える。これにより、電圧や電流の回転座標変換に使用される位相が進み始め、回転座標として動作を始める。
【0120】
この制御基準座標が回転を始めると、高周波電圧成分は回転ベクトル自体もさらに回転を加えられることになり、その結果、idq検出の高周波電流から推定した位相は、回転する制御基準座標からの相対的なd軸位相を示すようになる。つまり、基準位相θshとd軸のずれ成分を示すようになる。そこで、この検出位相を零になるように制御基準位相を修正させれば、最終的にはd軸位相に制御基準位相が追従するようになり同期引き入れが行われる。
【0121】
また、NSの磁極の判定は前回の位相角が既知であればこれを参照すればよく、重心の位相演算をする必要はない。このような動作を図6では実現している。同図が図2に比べて異なるのは12−5、12−17、12−18、12−19の4つの点である。
【0122】
12−17は、始めに実施形態1または実施形態2で計測された初期位相を選択し、それ以降は前回の推定位相に切り替える。この高周波法を適用するのは回転速度が低い場合のみであり、サンプル周期間に回転子が進む位相は180°よりも大幅に小さい。そのため、初期位相の計測後は磁気飽和の位相の代わりに前回の推定位相θhを代用してもかまわない。
【0123】
次に、制御基準位相θshはスイッチ12−5により、実施形態1または実施形態2を計測するときは零に初期設定され、次回からは12−18を使用した位相追従値を選択して同期引き入れ動作に切り換える。
【0124】
12−18では前述のθhが零となるように、緩和ゲインk0をかけて前回の位相θshに加算補正して出力を続する。こうすると、θhが零となるようにθshは回転子に追従して回転動作を始める。この結果、基準軸を回転しているd軸位相に同期引き入れすることができる。同期引き入れ後は、この制御基準位相θshをd軸位相とみなして制御を行えばよい。
【0125】
この実施形態3の動作を示すチャートが図7である。S4の期間で磁気飽和を利用した実施形態2の方式で初期位相や速度を計測し、この後、S3の期間で同期引入れ動作を行う。S3の期間の前半で同期引き入れが完了するので、後半で実施形態2の速度検出と同じ原理を利用して、計測期間を長くとって速度を再計測して精度を向上させると、これらの動作はS6の拾い上げ動作期間内に終了させ、S6の終了時に位相や磁束の初期設定を行い、通常の運転に切り替える。
【0126】
最下段の位相推定は、S3の期間になると磁気飽和の位相推定が終了し、前回の位相推定を利用したNS極判定が行われるようになる。同時に、制御基準位相の同期引き入れが開始する。そのため、同期基準位相が零からd軸に追従を始め、また、逆にθhの成分が零に収束する。
【0127】
ここで、速度が高い場合には、θshに追従遅れがあるため、実際にはθhは零にならず、θhにも位相遅れが生じる。
【0128】
(実施形態4)
本実施形態は、速度計測結果を使用した位相同期の追従遅れの補償をする。
【0129】
実施形態3の方式では、位相追従するための補正ゲインが小さい場合には回転速度が高くなるとd軸への追従遅れが大きくなってくる。そのため、速度の上昇とともに少し遅れた位相を検出することになる。この遅れを小さくするのが本実施形態である。
【0130】
実施形態2の最小二乗法演算を行うと、初期位相だけでなく回転速度も計算できていた。この速度情報を記憶しておき、図8の12−20のようなサンプル時間に相当するゲインを乗算して、位相角の進み分を計算し、12−21の加算器で位相補正部に追加補正する。こうすると、初期回転速度の位相進み成分はこの項が受け持つようになり、残った位相誤差や速度の変動分のみをθhと12−18の項が補正すするようになる。このように速度情報を利用して、フィードフォワード補償を適用すれば、小さなゲインでも遅れ角を減少させることができ、より精度の良い位相計測が可能になる。
【0131】
本実施形態の動作を示すチャートが図9であり、速度が高い場合でもθhは小さくなり、θshの追従遅れも大幅に抑制される。
【0132】
【発明の効果】
以上のとおり、本発明のセンサレス計測方法によれば、PMモータが低速で空転中でも磁極のd軸位相を容易にかつ高精度に推定できる。また、この方法を利用したセンサレス可変速装置は位置・速度を高精度制御できる。
【0133】
具体的には、以下の効果がある。
【0134】
(1)回転ベクトルの高周波電圧を入力することにより、短時間(1周期分のサンプルデータ)で位相の推定が可能になる。また、磁気飽和の位相を電流差分ベクトル軌跡のさらに辺の長さを利用するため、電流位相の変化量のみで演算するよりも精度が改善できる。また、高周波電圧もゆっくりと加えることにより、回転する電流ベクトルの中心の偏心を抑制することができ、さらに、外乱などより電流の偏心が発生してもそれを抑制することができるようになり、より検出精度を向上できる(実施形態1)。
【0135】
(2)実施形態1で得られた初期位相を複数回計測し、さらに最小二乗法を適用したことにより、統計的に外乱成分の抑制ができる。また、速度の演算ができるため、これを利用して電流演算部の積分項の電圧を初期設定でき、電流制御開始時に電流が急に発生する現象が抑制できる。また、計測時刻と運転開始時刻には時間的な遅れが存在するが、この時間遅れ分の回転位相を予測補正した位相を得ることができるため、より正確な位相推定が可能になる。ひいては運転開始時のトルク制御精度が向上する(実施形態2)。
【0136】
(3)実施形態1または実施形態2の計測後、制御基準座標をd軸に同期引き入れさせることができる。これにより通常の運転に切り替える際に、電流を一旦零にリセットを行ったり、固定座標であった電流や電圧成分およびその一次遅れ演算結果などの変数を位相を切り替えるために座標変換する手間が不要になり、演算量を軽減できる。また、速度の計測期問を長くできるため速度検出精度が改善でき、通常運転時に切り替えた場合に速度検出誤差に起因して発生する速度制御系の過渡現象を小さく抑制できる(実施形態3)。
【0137】
(4)実施形態3では速度が高くなってくると、実際のd軸と追従する制御基準軸間の位相追従遅れが大きくなってくる。これを、速度を利用して補正することにより、位相遅れを抑制できる。そのため、運転開始時のトルク制御精度を改善することができる(実施形態4)。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態1を示す制御ブロック構成図。
【図2】実施形態1における高周波法部分の制御ブロック図。
【図3】図2の動作例のフローチャート。
【図4】本発明の実施形態2における複数サンプル位相による最小二乗法の説明波形。
【図5】本発明の実施形態3を示す制御ブロック構成図。
【図6】実施形態3における高周波法部分の制御ブロック図。
【図7】図5、図6における動作例のフローチャート。
【図8】本発明の実施形態4を示す高周波部分の制御ブロック図。
【図9】図8の動作例のフローチャート。
【図10】停止状態から始動するセンサレス可変速装置の制御ブロック構成図(従来)。
【図11】高速で空転中から始動する可変速装置の制御ブロック構成図。
【図12】高周波電圧成分と発生する電流ベクトル成分。
【図13】電流成分の楕円軌跡を円弧の辺で近似したベクトル図。
【図14】出力位相F180{θ}の特性図。
【図15】電流が原点にいる状態から高周波電圧を加えた場合の電流軌跡の偏心の例。
【符号の説明】
1…速度制御部
2…電流制御部
3…回転座標変換部
4…回転座標変換部
5…制御対象モータ
6…速度演算部
7…制御切換指令部
8…停止時の初期位相検出部
9…高周波法によるd軸位相推定部
10…磁束オブザーバによるd軸位相推定部
11…短絡パルス法による初期位相・速度計測部
12、12’…高周波法による初期位相・速度計測部
Claims (8)
- 突極性を有する同期電動機の空転状態で、同期電動機の回転子の固定座標ab軸上の電圧制御信号に回転ベクトル状の高周波電圧を印加し、それによって同期電動機に発生する高周波電流ベクトルを基に回転中の磁極位相を推定する同期電動機のセンサレス計測方法において、
前記高周波電流ベクトルの楕円状軌跡の差分ベクトル成分を求め、この差分ベクトル成分から長軸方向の位相を求める第1の位相演算過程と、
前記楕円状軌跡の辺の長さまたは扇形の面積に基づいて、磁気飽和が発生している位相を求める第2の位相演算過程と、
前記第1および第2の位相演算過程で求める位相情報から磁極の回転座標dq軸上のd軸位相を求める磁極位相演算過程とを有することを特徴とする同期電動機のセンサレス計測方法。 - 前記磁極位相の推定を複数回繰り返し、その結果を最小二乗法により統計的な処理をする過程、およびこの処理結果の位相差分から速度を推定する過程を有することを特徴とする請求項1に記載の同期電動機のセンサレス計測方法。
- 電圧制御の基準位相を固定座標上から回転座標に追従させる同期引き入れ演算に、前記推定された磁極位相との差が零となるよう前記基準位相を修正する基準位相修正過程を有することを特徴とする請求項1または2に記載の同期電動機のセンサレス計測方法。
- 前記基準位相の同期引き入れ演算に、速度情報を利用して位相補正を行う位相補正過程を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の同期電動機のセンサレス計測方法。
- 突極性を有する同期電動機の空転状態で、同期電動機の回転子の固定座標ab軸上の電圧制御信号に回転ベクトル状の高周波電圧を印加し、それによって同期電動機に発生する高周波電流ベクトルを基に回転中の磁極位相を推定し、この磁極位相を基に同期電動機を拾い上げ制御して可変速制御する同期電動機のセンサレス可変速装置において、
前記高周波電流ベクトルの楕円状軌跡の差分ベクトル成分を求め、この差分ベクトル成分から長軸方向の位相を求める第1の位相演算手段と、
前記楕円状軌跡の辺の長さまたは扇形の面積に基づいて、磁気飽和が発生している位相を求める第2の位相演算手段と、
前記第1および第2の位相演算手段で求める位相情報から磁極の回転座標dq軸上のd軸位相を求める磁極位相演算手段とを備えたことを特徴とする同期電動機のセンサレス可変速装置。 - 前記磁極位相の推定を複数回繰り返し、その結果を最小二乗法により統計的な処理をする手段、およびこの処理結果の位相差分から速度を推定する手段を備えたことを特徴とする請求項5に記載の同期電動機のセンサレス可変速装置。
- 電圧制御の基準位相を固定座標上から回転座標に追従させる同期引き入れ演算に、前記推定された磁極位相との差が零とするよう前記基準位相を修正する基準位相修正手段を備えたことを特徴とする請求項5または6に記載の同期電動機のセンサレス可変速装置。
- 前記基準位相の同期引き入れ演算に、速度情報を利用して位相補正を行う位相補正手段を備えたことを特徴とする請求項5〜7のいずれか1項に記載の同期電動機のセンサレス可変速装置。
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