JP5261775B2 - 微生物に対して非特異的付着性及び/又は凝集性を付与又は増強する方法及び遺伝子 - Google Patents

微生物に対して非特異的付着性及び/又は凝集性を付与又は増強する方法及び遺伝子 Download PDF

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Description

本発明は、標的微生物に対して非特異的付着性及び/又は凝集性を付与又は増強する方法、該方法に用いるDNA、該DNAによってコードされる蛋白質、該方法によって得られる微生物、及び該微生物の培養方法に関する。
微生物は優れた触媒作用による物質変換能力を有している。そのため、醸造や発酵食品の生産、廃水や排ガス処理などの分野で広く利用されてきた。最近では、遺伝子組換え微生物による医薬品の生産、バイオエタノールの発酵生産から、微生物を利用した化学品の合成まで実施、又は研究されるようになり、微生物利用技術は重要な産業技術となっている。しかし、反応の担い手である微生物細胞を生産するには、培地やエネルギーなどのコストがかかる。また、微生物反応は水溶液中で行われることが多く、物質生産後は微生物を反応液から分離する必要がある。分離方法としては、従来、遠心分離やろ過が主たる手法であった。
分離を容易にし、また貴重な微生物細胞を連続的にあるいは反復して利用するために、微生物細胞の固定化や自己凝集が有効であるとされてきた。従来の固定化技術として、アルギン酸などのゲルを利用した包括固定法と、多孔質担体の表面に吸着させる表面固定法がある。しかし、包括固定法には、酸素や基質のゲル内部への輸送が律速になる場合が多いこと、ゲルの機械的強度が弱く攪拌などによって破壊されやすいこと、微生物細胞がゲル内部から漏れてくることなどの欠点がある。また、従来の表面固定法は、目的の微生物を表面に集積させるという方法ではなく、多孔質担体などを雑多な微生物が沢山存在する廃水処理や環境浄化の現場に投入して、付着しやすい微生物をバイオフィルムとして表面に担持させているに過ぎない。すなわち、好きな微生物を固体表面に自由に付着させる技術は存在しない。一方、凝集については、高分子ポリマーなどの凝集沈殿剤を利用する方法が廃水処理で広く使われているほか、もともと凝集性の微生物をスクリーニングして利用するといった方法がとられているが、非凝集性の微生物細胞、特に細菌を、自発的に凝集させる技術は存在しない。
本発明は、非特異的付着性又は凝集性がない又は弱い微生物に対して、非特異的付着性及び/又は凝集性を付与又は増強する手段を提供することを目的とする。
本発明者らは、非特異的付着性を有する微生物から付着関連遺伝子を単離することに成功し、該遺伝子がオートトランスポーターアドヘシン遺伝子であること、並びに該遺伝子を標的微生物に導入することにより、該微生物に対して、非特異的付着性及び/又は凝集性を付与又は増強できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
(1)標的微生物に対して非特異的付着性及び/又は凝集性を付与又は増強する方法であって、
非特異的付着性を有する微生物由来のオートトランスポーターアドヘシンをコードするDNAを、該標的微生物に導入することを含む、前記方法。
(2)非特異的付着性を有する微生物がAcinetobacter属細菌である、(1)記載の方法。
(3)オートトランスポーターアドヘシンをコードするDNAが、以下の(a)、(b)又は(c)のDNAである、(1)又は(2)に記載の方法:
(a)配列番号1で表される塩基配列からなるDNA、
(b)配列番号1で表される塩基配列と70%以上の相同性を有する塩基配列からなり、微生物に対して非特異的付着性及び/又は凝集性を付与又は増強する活性を有する蛋白質をコードするDNA、
(c)配列番号1で表される塩基配列の一部からなり、微生物に対して非特異的付着性及び/又は凝集性を付与又は増強する活性を有する蛋白質をコードするDNA。
(4)標的微生物がEscherichia属細菌である(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
(5)Escherichia属細菌が大腸菌である(4)記載の方法。
(6)オートトランスポーターアドヘシンをコードするDNAとともに、以下の(a)又は(b)のDNAを導入する、(1)〜(5)のいずれかに記載の方法:
(a)配列番号3で表される塩基配列からなるDNA、
(b)配列番号3で表される塩基配列と90%以上の相同性を有する塩基配列からなるDNA。
(7)以下の(a)又は(b)のDNAを標的微生物に導入する、(6)記載の方法:
(a)配列番号5で表される塩基配列からなるDNA、
(b)配列番号5で表される塩基配列と70%以上の相同性を有する塩基配列からなり、宿主微生物に対して非特異的付着性及び/又は凝集性を付与又は増強する活性を有するDNA。
(8)(1)〜(7)のいずれかに記載の方法によって得られる、非特異的付着性及び/又は凝集性が付与又は増強された微生物。
(9)以下の(a)、(b)又は(c)のDNA:
(a)配列番号1で表される塩基配列からなるDNA、
(b)配列番号1で表される塩基配列と70%以上の相同性を有する塩基配列からなり、微生物に非特異的付着性及び/又は凝集性を付与又は増強する活性を有する蛋白質をコードするDNA、
(c)配列番号1で表される塩基配列の一部からなり、微生物に対して非特異的付着性及び/又は凝集性を付与又は増強する活性を有する蛋白質をコードするDNA。
(10)(9)記載のDNAが導入された、非特異的付着性及び/又は凝集性が付与又は増強された微生物。
(11)Escherichia属細菌である、(10)記載の微生物。
(12)大腸菌である、(11)記載の微生物。
(13)以下の(a)、(b)又は(c)の蛋白質:
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなる蛋白質、
(b)配列番号2で表されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、微生物に非特異的付着性及び/又は凝集性を付与又は増強する活性を有する蛋白質、
(c)配列番号2で表されるアミノ酸配列の一部からなり、微生物に非特異的付着性及び/又は凝集性を付与又は増強する活性を有する蛋白質。
(14)微生物の培養方法であって、
(8)、(10)、(11)又は(12)記載の微生物を、担体に付着させる、及び/又は凝集させることにより、該微生物を回収することを含む、前記方法。
本発明によって、非特異的付着性又は凝集性がない又は弱い微生物に対して、非特異的付着性及び/又は凝集性を付与又は増強することが可能になる。それにより、微生物反応において、微生物の分離が容易になり、貴重な微生物細胞を効率的に回収して連続的に又は反復して利用することが可能になる。
図1は、実施例1で得られた配列断片の位置関係を示す。
図2は、実施例1でのクローニングとシークエンスの結果得られた全塩基配列を示す。
図3は、AadAのアミノ酸配列を示す。
図4は、オートトランスポーターアドヘシンのシグナルペプチド、ヘッドドメイン、ネックドメイン、メンブレンアンカードメインのドメインそれぞれについてClustalWを用いてマルチプルアラインメントを作成し、配列を比較した結果を示す。
図5は、Tol5−OmpAの配列と相同性を示した外膜蛋白質の配列とを比較した結果を示す。
図6は、aadA遺伝子及びaadA−ompAオペロンを組み込んだことによる形態の変化を光学顕微鏡で観察した結果を示す。
図7は、ポリウレタン表面に付着するDH5α::aadAの電子顕微鏡写真を示す。
図8は、ポリウレタン表面に付着するDH5α::aadA−ompAの電子顕微鏡写真を示す。
図9は、ポリウレタン表面上に存在するDH5α(WT)の電子顕微鏡写真を示す。
図10は、DH5α::aadA−ompA、DH5α::aadA及びDH5αWTの培養液の写真を示す。
図11は、DH5α::aadA及びDH5αWTの自己凝集試験の結果を示す。
図12は、実施例1で用いたプライマーについてまとめた表を示す。
本発明の方法は、非特異的付着性を有する微生物由来のオートトランスポーターアドヘシンをコードするDNA(オートトランスポーターアドヘシン遺伝子)を該標的微生物に導入することを特徴とする。
病原性微生物などには、特定の生物界面(例えば、特定の細胞、生物又はその組織の表面)に付着してコロニーを形成するものが存在するが、本発明における非特異的付着性を有する微生物は、特定の生物界面に限られることなく、担体などの非生物界面を含めて、任意の生物界面及び非生物界面に付着する能力を有する微生物をさす。非特異的付着性を有する微生物は、例えば、ガラス、プラスチック及び金属等の担体に付着しうる。
非特異的付着性を有する微生物としては、グラム陰性細菌、例えば、Acinetobacter属細菌、Pseudomonas属細菌、Escherichia属細菌、Caulobacter属細菌、Xanthomonas属細菌、Haemophilus属細菌、Yersinia属細菌、Bartonella属細菌、Neisseria属細菌、Actinobacillus属細菌などが挙げられる。本発明では、Acinetobacter属細菌が特に好適である。
非特異的付着性を有する微生物の具体例としては、Acinetobacter sp.Tol5株が挙げられる。当該菌株は、排ガス処理リアクターから分離されたトルエン分解能を有する株であり、受託番号FERM P−17188として、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1−1−1つくばセンター中央第6)に寄託されている。
微生物の非特異的付着性は、クリスタルバイオレット染色による付着試験(CV付着試験)を用いて評価することができる。具体的には、菌体培養液を遠心分離にかけ、培養上清を除き、無機塩培地を菌体ペレットに加え、超音波処理により菌体懸濁液を得、菌体懸濁液の濁度OD660を一定(0.5以下)になるように培地で調整し、48穴のプラスチック製プレートの各ウェルに懸濁液を1mlずつ添加し、微生物の至適温度で2時間インキュベートし、ウェル中の懸濁液をピペットで全て除き、1mlの無機塩培地でウェルを洗浄後、風乾し、1%のクリスタルバイオレット水溶液をウェルに加え、室温で15分間インキュベートし、ピペットでクリスタルバイオレットを除き、1mlの無機塩培地でウェルを2回洗浄後、風乾し、1mlの無機塩培地を加えてウェル内壁に付着していた染色菌体を剥がし、超音波処理により分散させ、吸光度A590を測定する。そして、吸光度A590が0.15以上、好ましくは0.18以上、より好ましくは0.2以上の微生物は、非特異的付着性を有する微生物と評価することができる。
オートトランスポーターアドヘシンとは、グラム陰性細菌の持つ粘着性ナノファイバーとして報告されている蛋白質であり、宿主の組織や細胞表層分子、細胞外マトリックスと特異的に相互作用することが知られているが、種々の固体表面に非特異的に粘着するという報告はない。オートトランスポーターアドヘシンは、付着、浸入、細胞毒性、血清耐性、細胞間伝播といった機能を持つと言われている。オートトランスポーターアドヘシンは、N末端シグナルペプチド、内部パッセンジャードメイン、C末端トランスロケータードメインという共通の領域編成を持っている。その中でもC末端トランスロケータードメインはこの属を定義するドメインである。オートトランスポーターアドヘシンの分泌はシグナルペプチドによって開始され、Secシステムによる内膜の通過から始まる。続いて、トランスロケータードメインが外膜へ挿入され、βバレル構造を形成する。最終的にパッセンジャードメインは外膜を通過し菌体表面へその姿を現す。オートトランスポーターアドヘシンは、単量体オートトランスポーターアドヘシンと三量体オートトランスポーターアドヘシンに分類される(Shane E.Cotter,Neeraj K.Surana and Joseph W.St GemeIII 2005.Trimeric autotransporters:a distinct subfamily of Autotransporter proteins.TRENDS in Microbiology.13:199−205)。単量体オートトランスポーターアドヘシンのトランスロケータードメインは、14の膜貫通逆平行βシートと膜貫通αヘリックスからなる親水性の経路であるβバレル構造を、一つのサブユニットから形成していると考えられている。しかし三量体オートトランスポーターアドヘシンのトランスロケータードメインは、外膜中で熱に安定でSDSに強い三量体を形成しており、4つのβシートを持つサブユニットがオリゴマー化し三つのサブユニットから12ストランドのβバレル構造を形成していることが知られている。また、多くの通常オートトランスポーターアドヘシンは分子内シャペロン領域を有するが、三量体オートトランスポーターアドヘシンサブファミリーにはそれは存在しない。さらに、事実上全ての単量体オートトランスポーターアドヘシンのパッセンジャードメインはトランスロケータードメインと非共有結合でバクテリア表面につながれるか、細胞外に放出されるのに対し、全ての三量体オートトランスポーターアドヘシン蛋白質ではパッセンジャードメインはトランスロケータードメインと共有結合でつながれたままであると考えられている。
三量体オートトランスポーターアドヘシンは、TAA(トリメリックオートトランスポーターアドヘシン)と略称され、共通オリゴマー構造のコイルドコイルをつくる新しいクラスとしてOcaファミリー(Oligomeric Coiled−coil Adhesin Family)とも呼ばれている(Andreas Roggenkamp,Nikolaus Ackermann,Christoph A.Jacobi,Konrad Truelzsch,Harald Hoffmann,and Jurgen Heesemann 2003.Molecular analysis of transport and oligomerization of the Yersinia enterocolitica adhesin YadA.J Bacteriol.185:3735−3744)。
本発明では、三量体オートトランスポーターアドヘシンが好ましい。三量体オートトランスポーターアドヘシンとしては、例えば、Yersina enterocoliticaのアドヘシンであるYadA(Yersina adhesin A)(El Tahir Y,Skurnik M.2001.YadA,the multifaceted Yersinia adhesin.Int J Med Microbiol.291:209−218)、髄膜炎を引き起こすHaemophilus infruenzaeのHia(St Geme JW 3rd,Cutter D.2000.The Haemophilus influenzae Hia adhesin is an autotransporter protein that remains uncleaved at the C terminus and fully cell associated.J Bacteriol.182:6005−13)、歯周病の原因となるAggregatibacter(Actinobacillus)actinomycetemcomitansのEmaA(Mintz,K.P.2004.Identification of an extracellular matrix protein adhesin,EmaA,which mediates the adhesion of Actinobacillus actinomycetemcomitans to collagen.Microbiology.150,2677−2688)、呼吸器感染症の主要な病原菌であるMoraxella catarrhalisのUpsA1、A2(Lafontaine ER,Cope LD,Aebi C,Latimer JL,McCracken GH Jr,Hansen EJ.2000.The UspA1 protein and a second type of UspA2 protein mediate adherence of Moraxella catarrhalis to human epithelial cells in vitro.J Bacteriol.182:1364−73)、猫ひっかき病の原因となるBartonella henselaeのBadA(Riess T,Andersson SG,Lupas A,Schaller M,Sch▲a▼fer A,Kyme P,Martin J,W▲a▼lzlein JH,Ehehalt U,Lindroos H,Schirle M,Nordheim A,Autenrieth IB,Kempf VA.,.2004.Bartonella adhesin a mediates a proangiogenic host cell response.J Exp Med.200:1267−78)、髄膜炎菌Neisseria meningitidesのNadA(Capecchi B,Adu−Bobie J,Di Marcello F,Ciucchi L,Masignani V,Taddei A,Rappuoli R,Pizza M,Aric▲o▼ B.2005.Neisseria meningitidis NadA is a new invasin which promotes bacterial adhesion to and penetration into human epithelial cells.Mol Microbiol.55:687−98)、植物病原性細菌であるXanthomonas oryzaeのXadA(Ray SK,Rajeshwari R,Sharma Y,Sonti RV.2002.A high−molecular−weight outer membrane protein of Xanthomonas oryzae pv.oryzae exhibits similarity to non−fimbrial adhesins of animal pathogenic bacteria and is required for optimum virulence.Mol Microbiol.46:637−47)などが挙げられる。
好ましいオートトランスポーターアドヘシンの例として、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなる蛋白質、該蛋白質と機能的に同等の蛋白質が挙げられる。機能的に同等の蛋白質とは、当該蛋白質が配列番号2で表されるアミノ酸配列からなる蛋白質と同等の生物学的機能、生化学的機能を有することを指す。配列番号2で表されるアミノ酸配列からなる蛋白質と機能的に同等の蛋白質としては、配列番号2において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列からなる蛋白質であって、微生物に非特異的付着性及び/又は凝集性を付与又は増強する活性を有する蛋白質が挙げられる。さらに、(c)配列番号2で表されるアミノ酸配列の一部からなり、微生物に非特異的付着性及び/又は凝集性を付与又は増強する活性を有する蛋白質、換言すれば、配列番号2で表されるアミノ酸配列から数十から数百、場合によっては千以上の連続するアミノ酸配列を1箇所又は数箇所削ったアミノ酸配列からなり、微生物に非特異的付着性及び/又は凝集性を付与又は増強する活性が失われない欠損蛋白質が挙げられる。
1若しくは数個のアミノ酸の欠失、置換、挿入若しくは付加は、常用される技術、例えば、部位特異的変異誘発法(Zollerら、Nucleic Acids Res.10 6478−6500,1982)により、該蛋白質をコードするDNAの配列(例えば、配列番号1で表される塩基配列)を改変することにより実施することができる。
ここで、蛋白質の構成要素となるアミノ酸の側鎖は、疎水性、電荷、大きさなどにおいてそれぞれ異なるものであるが、実質的に蛋白質全体の3次元構造(立体構造とも言う)に影響を与えないという意味で保存性の高い幾つかの関係が、経験的にまた物理化学的な実測により知られている。例えば、異なるアミノ酸残基間の保存的置換の例としては、グリシン(Gly)とプロリン(Pro)、グリシンとアラニン(Ala)又はバリン(Val)、ロイシン(Leu)とイソロイシン(Ile)、グルタミン酸(Glu)とグルタミン(Gln)、アスパラギン酸(Asp)とアスパラギン(Asn)、システイン(Cys)とスレオニン(Thr)、スレオニンとセリン(Ser)又はアラニン、リジン(Lys)とアルギニン(Arg)等のアミノ酸の間での置換が知られている。従って、アミノ酸の置換は、保存的置換であることが好ましい。
配列番号2で表されるアミノ酸配列からなる蛋白質は、シグナルペプチド、ヘッドドメイン、ネックドメイン、ストークドメイン、及びメンブレンアンカードメインを有する三量体オートトランスポーターアドヘシンであることから、アミノ酸の変異は当該ドメイン構造を維持するものであることが好ましい。配列番号2で表されるアミノ酸配列において、シグナルペプチドは1〜57位のアミノ酸に相当し、ヘッドドメインは108〜269位及び2997〜3148位のアミノ酸に相当し、ネックドメインは296〜319位及び3149〜3172位のアミノ酸に相当し、ストークドメインは406〜2966位及び3173〜3537位のアミノ酸に相当し、メンブレンアンカードメインは3538〜3630位のアミノ酸に相当する。
数個とは、通常2〜10個、好ましくは2〜5個、より好ましくは2〜3個をいう。機能的に同等の蛋白質は、通常、アミノ酸配列レベルにおいて高い相同性を有する。高い相同性とは、アミノ酸レベルにおいて、通常70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、最も好ましくは99%以上の相同性(又は同一性)を指す。
配列番号2で表されるアミノ酸配列の一部からなる蛋白質において、削ることが可能な数十から数百の連続するアミノ酸配列とは、好ましくは片方又は両方のストークドメイン、片方のヘッドドメイン、片方のネックドメインに相当する配列部位で、そのうちの一つの連続配列又は複数の連続配列を削ってもよい。より好ましくは前述した各ドメインの部位のうちアミノ末端に近いヘッドドメインからストークドメインまでの全領域(108〜2966位)又はカルボキシ末端に近いヘッドドメインからストークドメインまでの全領域(2997〜3537位)を削るのが好ましい。さらに好ましくはストークドメインに複数見られる繰り返し領域を、繰り返しがなくなって各一回ずつ出てくるように削るのが好ましい。最も好ましくはストークドメインに複数見られる繰り返し領域のどれか一箇所を削ることが好ましい。
好ましいオートトランスポーターアドヘシン遺伝子、すなわち、オートトランスポーターアドヘシンをコードするDNAの例としては、配列番号1で表される塩基配列からなるDNA、及び該DNAと機能的に同等のDNAが挙げられる。配列番号1で表される塩基配列からなるDNAと機能的に同等のDNAとしては、配列番号1で表される塩基配列と70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上の相同性(又は同一性)を有する塩基配列からなり、微生物に対して非特異的付着性及び/又は凝集性を付与又は増強する活性を有する蛋白質をコードするDNAが挙げられる。あるいは、配列番号1で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、微生物に対して非特異的付着性及び/又は凝集性を付与又は増強する活性を有する蛋白質をコードするDNAが挙げられる。さらに、配列番号1で表される塩基配列の一部からなり、微生物に対して非特異的付着性及び/又は凝集性を付与又は増強する活性を有する蛋白質をコードするDNA、換言すれば、配列番号1で表される塩基配列から数十から数千の連続する塩基配列を1箇所又は数箇所削った塩基配列からなり、それによって翻訳される蛋白質が非特異的付着性及び/又は凝集性を付与又は増強する活性が失われない欠損遺伝子のDNAが挙げられる。
ストリンジェントな条件とは、特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいい、低ストリンジェントな条件及び高ストリンジェントな条件が挙げられるが、高ストリンジェントな条件が好ましい。低ストリンジェントな条件とは、ハイブリダイゼーション後の洗浄において、例えば42℃、5×SSC、0.1% SDSで洗浄する条件であり、好ましくは50℃、5×SSC、0.1% SDSで洗浄する条件である。高ストリンジェントな条件とは、ハイブリダイゼーション後の洗浄において、例えば65℃、0.1×SSC及び0.1% SDSで洗浄する条件である。
塩基配列における変異も、シグナルペプチド、ヘッドドメイン、ネックドメイン、ストークドメイン及びメンブレンアンカードメインからなる当該ドメイン構造を維持するものであることが好ましい。配列番号1で表される塩基配列において、シグナルペプチドは1〜171位の塩基に相当し、ヘッドドメインは322〜807位及び8989〜9444位の塩基に相当し、ネックドメインは886〜957位及び9445〜9516位の塩基に相当し、ストークドメインは1216〜8898位及び9517〜10611位の塩基に相当し、メンブレンアンカーはドメイン10612〜10890位の塩基に相当する。
配列番号1で表される塩基配列の一部からなるDNAにおいて、削ることが可能な数十から数百の連続する塩基配列とは、好ましくは片方あるいは両方のストークドメイン、片方のヘッドドメイン、片方のネックドメインをコードする配列部位で、そのうちの一つの連続配列又は複数の連続配列を削ってもよい。より好ましくは前述した各ドメインの部位のうちアミノ末端に近いヘッドドメインからストークドメインまでの全領域をコードする領域(322〜8898位)又はカルボキシ末端に近いヘッドドメインからストークドメインまでの全領域をコードする領域(8989〜10611位)を削るのが好ましい。さらに好ましくはストークドメインのコード領域に複数見られる繰り返し領域を、繰り返しがなくなって各一回ずつ出てくるように削るのが好ましい。最も好ましくはストークドメインのコード領域に複数見られる繰り返し領域のどれか一箇所削ることが好ましい。
オートトランスポーターアドヘシンをコードするDNAとともに、配列番号3で表される塩基配列からなるDNAを標的微生物に導入することにより、標的微生物の非特異的付着性及び/又は凝集性さらに向上させることができる。配列番号3で表される塩基配列からなるDNAは、Acinetobacter属細菌などが有する外膜蛋白質OmpA遺伝子と相同性を有することから、外膜蛋白質をコードするものである。配列番号3で表される塩基配列からなるDNAと機能的に同等の遺伝子を導入してもよい。配列番号3で表される塩基配列からなるDNAと機能的に同等のDNAとしては、配列番号3で表される塩基配列と90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上の相同性を有する塩基配列からなるDNAが挙げられる。あるいは、配列番号3で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAが挙げられる。
非特異的付着性を有する微生物に由来する、オートトランスポーターアドヘシンをコードするDNAを含むオペロンを標的微生物に導入してもよい。例えば、配列番号5で表される塩基配列からなるDNAを標的微生物に導入することにより、オートトランスポーターアドヘシンをコードするDNAとともに上記外膜蛋白質をコードするDNAを標的微生物に導入することができる。該オペロンと機能的に同等のオペロンを導入してもよい。機能的に同等のオペロンとしては、配列番号5で表される塩基配列と70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上の相同性を有する塩基配列からなり、宿主微生物に対して非特異的付着性及び/又は凝集性を付与又は増強する活性を有するDNAからなるオペロンが挙げられる。
オートトランスポーターアドヘシンをコードするDNAを導入する標的微生物としては、特に制限されないが、例えば、非特異的付着性及び/又は凝集性がない又は弱い微生物が挙げられる。例えば、Escherichia属細菌、例えば、Escherichia coli(大腸菌)、Acinetobacter属細菌、例えば、Acinetobacter calcoaceticus、Ralstonia属細菌、例えばRalstonia eutropha、Pseudomonas属細菌、例えば、Pseudomonas putida、Pseudomonas fluorescens、Aeromonas属細菌、例えば、Aeromonas caviae、Alcaligenes属細菌Alcaligenes latus、Xanthomonas属細菌、例えば、Xanthomonas campestrisなどが挙げられる。
オートトランスポーターアドヘシンをコードするDNAを標的微生物に導入して形質転換することにより、非特異的付着性及び/又は凝集性が付与又は増強された微生物が得られる。典型的には、オートトランスポーターアドヘシンをコードするDNAを適当なベクターに連結し、該ベクターで標的微生物(宿主微生物)を形質転換することにより、非特異的付着性及び/又は凝集性が付与又は増強された微生物を得ることができる。具体的には、宿主微生物に該DNAを多コピーにて導入したり、構成的に発現するプロモーター支配下に該DNAを連結したり、又は誘導酵素系プロモーター支配下に該DNAを連結したりして、非特異的付着性及び/又は凝集性が付与又は増強された微生物を得ることができる。オートトランスポーターアドヘシンをコードするDNAとともに外膜蛋白質をコードするDNAを導入する場合、及びオートトランスポーターアドヘシンをコードするDNAを含むオペロンを導入する場合も同様である。
まず、目的のDNAをベクター中に連結し、組換えベクターを製造する。上記ベクターには、宿主細胞で自律的に増殖し得るファージ、コスミド、人工染色体又はプラスミドが使用されるほかに、例えば、プラスミドを発現カセットとして染色体に導入するような場合にはその発現カセットの構築に必要な宿主(例えば、大腸菌)での自律複製能は必要だが、その発現カセットを導入する宿主(例えば、酵母)での自律複製能は必ずしも必要でない。これらの組換えベクターは例えば、大腸菌と酵母の両方で使用可能なように設計したシャトルベクター等も使用可能である。
プラスミドとしては、大腸菌由来のプラスミド(例えば、pET21a(+)、pET32a(+)、pET39b(+)、pET40b(+)、pET43.1a(+)、pET44a(+)、pKK223−3、pGEX4T、pUC118、pUC119、pUC18、pUC19等)、枯草菌由来のプラスミド(例えば、pUB110、pTP5等)、酵母由来のプラスミド(例えば、YEp13、YEp24、YCp50等)、また酵母でもピキア・パストリス用のプラスミド(例えば、pPICZ、pPICZα、pHIL−D2、pPIC3.5、pHIL−S1、pPIC9、pPIC6、pGAPZ、pPIC9K、pPIC3.5K、pAO815、pFLD)などが挙げられ、ファージDNAとしてはλファージ(λgt11、λZAP等)が挙げられる。さらに、ワクシニアウイルスなどの動物ウイルス、バキュロウイルスなどの昆虫ウイルスベクターを用いることもできる。また、クローニング、シークエンス確認用にpCR4−TOPO(登録商標)などの市販のクローニング用ベクターを用いてもよい。
ベクターにDNAを挿入するには、まず、精製されたDNAを適当な制限酵素で切断し、適当なベクターDNAの制限酵素部位又はマルチクローニングサイトに挿入してベクターに連結する方法などが採用される。例えば、目的のDNAは、通常知られている方法により合成することができ、ベクターに組み込むため、適当な制限酵素の切断部位を両末端に含むように、プライマーを用いてPCR法により増幅してもよい。PCR反応の条件は、当業者が適宜決定することができる。
その他、組換えベクターには、プロモーター及び本発明のDNAに加えて、所望によりエンハンサーなどのシスエレメント、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー、リボソーム結合配列(SD配列)などが連結されていてもよい。選択マーカーの例としては、カナマイシン、アンピシリン、テトラサイクリン、クロラムフェニコールなどの薬剤耐性マーカー、ロイシン、ヒスチジン、リジン、メチオニン、アルギニン、トリプトファン、ウラシルなどの栄養要求性マーカーが挙げられるがこれに限定されない。
プロモーターは、特に制限されず、宿主微生物に応じて当業者が適宜選択すればよい。例えば、宿主が大腸菌である場合には、T7プロモーター、lacプロモーター、trpプロモーター、λ−PLプロモーターなどが使用できる。配列番号28で表される塩基配列からなるプロモーター、及びそれと機能的に同等のプロモーター、例えば、配列番号28で表される塩基配列と90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上の相同性を有する塩基配列からなるプロモーターも好適に用いられる。
DNA断片とベクター断片とを連結させるには、公知のDNAリガーゼを用いる。そして、DNA断片とベクター断片とをアニーリングさせた後連結させ、組換えベクターを作成する。好ましくは市販のライゲーションキット、例えば、ライゲーションhigh(東洋紡株式会社製)を用いて、規定の条件にてライゲーション反応を行うことにより組換えベクターを得ることができる。
クローニング、連結反応、PCR等を含む組換えDNA技術は、例えば、Sambrook,J et al.,Molecular Cloning 2nd ed.,9.47−9.58,Cold Spring Harbor Lab.press(1989)及びShort Protocols In Molecular Biology,Third Edition,A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons,Inc.に記載されるものを利用することができる。
得られたベクターを、必要であればボイル法、アルカリSDS法、磁性ビーズ法及びそれらの原理を使用した市販されているキット等により精製し、さらに例えばエタノール沈殿法、ポリエチレングリコール沈殿法などの濃縮手段により濃縮することができる。
標的微生物への組換えベクターの導入方法は、特に限定されないが、例えばカルシウムイオンを用いる方法、エレクトロポレーション法、リポフェクション法等が挙げられる。
目的のDNAを含む形質転換微生物は、その組換えベクターが有するマーカー遺伝子により、例えば、アンピシリン、カナマイシンなどの抗生物質を含むLB培地寒天プレート上でコロニーを形成することにより選抜することができるが、クローニングされた宿主微生物が組換えベクターにより形質転換されたものかどうかを確認するため、一部を用いて、PCR法によるインサートの増幅確認、又はシーケンサーを用いたダイデオキシ法による配列解析をしてもよい。自律複製可能なプラスミドを導入する形式の他に、染色体の遺伝子と相同な領域をベクター内に配置し、相同組換えを起こさせて目的遺伝子を導入させる染色体組み込み型の導入方法を使用してもよい。
得られた形質転換微生物を培地で培養する方法は、標的微生物の培養に用いられる通常の方法に従って行われる。大腸菌や酵母菌等の微生物を宿主として得られた形質転換微生物を培養する培地としては、微生物が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、形質転換微生物の培養を効率的に行うことができる培地であれば、天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。具体的には、M9培地、M9G培地、BS培地、LB培地、Nutrient Broth培地、肉エキス培地、SOB培地、SOC培地、PDA培地等が挙げられる。
炭素源としては資化可能な炭素化合物であればよく、例えば、グルコースなどの糖類、グリセリンなどのポリオール類、メタノールなどのアルコール類、又はピルビン酸、コハク酸若しくはクエン酸等の有機酸類を使用することができる。また、窒素源としては利用可能な窒素化合物であればよく、例えば、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、カゼイン加水分解物、大豆粕アルカリ抽出物、メチルアミンなどのアルキルアミン類、又はアンモニア若しくはその塩などを使用することができる。その他、リン酸塩、炭酸塩、硫酸塩、マグネシウム、カルシウム、カリウム、鉄、マンガン、亜鉛などの塩類、特定のアミノ酸、特定のビタミン、消泡剤なども必要に応じて使用してもよい。また、イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシドなどのタンパク質発現誘導剤を必要に応じて培地に添加してもよい。
培養は、通常、振盪培養又は通気攪拌培養などの好気的条件下、好ましくは0〜40℃、より好ましくは10〜37℃、特に好ましくは15〜37℃で行う。培養期間中、培地のpHは宿主の発育が可能で、オートトランスポーターアドヘシンの活性が損なわれない範囲で適宜変更することができるが、好ましくはpH4〜8程度の範囲である。pHの調整は、無機又は有機酸、アルカリ溶液等を用いて行う。培養中は必要に応じてアンピシリンやテトラサイクリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
上記のようにして、非特異的付着性及び/又は凝集性(自己凝集性)が付与又は増強された微生物を得ることができる。得られた微生物の非特異的付着性については、上記クリスタルバイオレット染色による付着試験(CV付着試験)により評価することができ、凝集性については、例えば、以下のように評価できる。菌体培養液を遠心分離にかけ、培養上清を除き、無機塩培地を菌体ペレットに加え、超音波処理により菌体懸濁液を得、菌体懸濁液の濁度OD660を一定になるように培地で調整し、この時のOD660を初期OD660とし、ガラス遠沈管の中の菌体懸濁液を室温で静置することで、形成された細胞自己凝集体を沈降させ、上清のOD660の時間変化を測定する。そして、OD660の減少が初期OD660の10%以上、好ましくは15%以上、より好ましくは20%以上の微生物は、凝集性を有する微生物と評価することができる。
得られた微生物を培養後、通常知られている方法、例えば、菌体又は細胞を機械的方法、リゾチームなどを用いた酵素的方法又は界面活性剤などを用いた化学的処理によって破壊することより、オートトランスポーターアドヘシン蛋白質を単離することもできる。
本発明は、伝統的な発酵産業や廃棄物処理にそのまま利用できるだけでなく、バイオマスエネルギーの生産や微生物細胞を用いるグリーンバイオテクノロジーに極めて有効である。特にエネルギーや化学品の生産は低コストが求められており、微生物に対して非特異的付着性及び/又は凝集性を付与又は増強することにより、固定化及び自己凝集させることは、生産プロセスの効率化に直結し、これらの産業の発展の基盤に成り得る。
実施例1 付着関連遺伝子の解析
1−1 付着性低下変異株T1及びインバースPCR用プライマーの作成
Acinetobacter sp.Tol5株の付着関連遺伝子を解析するため、トランスポゾンランダム挿入法を用いて付着性低下変異株を作成した。Tol5WT(Tol5野生株)をレシピエント細胞、トランスポゾンベクターを持つE.coli S17−1をドナー細胞として、28℃で22〜24時間接合した。トルエンとテトラサイクリンを含む培地で選択培養し、得られた株の付着試験を行った。その結果、付着性が低下した株をいくつか得ることに成功した。それらのゲノムDNAを採取し、制限酵素HindIIIで処理したものを鋳型として、DIG−labeled tetAをプローブとして用いてサザンハイブリダイゼーションを行った。その結果、約5kbの位置に強くバンドが検出された株があり、それを付着性低下株T1とした。T1株の表面構造を電子顕微鏡で観察したところ、アペンデージ(細胞表層の突起物)を欠損している様子が観察された。
続いて、T1株のトランスポゾン挿入部位を解析するために、サザンハイブリダイゼーションで検出された約5kbのDNA断片をアガロースゲルから切り出した。このフラグメントをT1−5kbとした。T1−5kbをpUC118ベクターに組み込み、E.coli DH5αへクローニングした。得られたプラスミドDNAのインサート部分の両端をシークエンスした結果、T1−5kbの内部にTn5の配列の他にTol5WT株由来の塩基配列68bpの存在を確認した(配列番号6)。
1−2 付着関連遺伝子のクローニング
付着性低下変異株T1のトランスポゾン挿入部位の塩基配列を解析するため、T1の解析によって明らかとなった挿入部位68bpの配列をもとに、WT株の染色体DNAのインバースPCRを試みた。まずTol5野生株をBS培地で培養し、DNA抽出・RNase処理を行った。得られたゲノムDNAを、pUC118のマルチクローニングサイトに存在するHindIII以外の制限酵素(AccI、HaeIII、HincII、KpnI、PstI、PvuII、SalI、Sau3AI、SmaI、XbaI)で処理し、アガロースゲル電気泳動(以下E.P.)で確認した。制限酵素HindIIIはT1の解析時に使用しており、68bp内にHindIIIサイトを確認しているため目的領域を得るためには不適切と判断し、ここでは除外した。E.P.の結果、ゲノムと同等の高分子量の位置にバンドが残っているものは、制限酵素反応箇所が少なくフラグメントの長さが長すぎるため適当でない。また、低分子量バンドが出ているものはフラグメントが短くなりすぎており、シークエンスしても得られる配列情報が少ないため適当でない。従って、1,500bp〜5,000bpにシグナルが出ているHincIIを選択し、ゲノムDNAをHincII処理した(Tol5/HincII)。DNAの精製を行ったTol5/HincIIをセルフライゲーション(自己環化)させるようにライゲーションした(Tol5/HincII/circular)。続いてそれを鋳型としてインバースPCRを行った。HincII処理したベクターにライゲーションするため、HincIIリンカーをつけたプライマーを用いた。条件は下記の通りである。得られた5kbのPCR産物をTol5−5kbとした。
得られたPCR産物を精製し、制限酵素HincIIで処理した。この操作は、クローニングの成功率を高めるため断片を短くすること、そしてリンカーをHincII切断面にすることを目的としている。それぞれのサンプルを分取するため、アガロースゲルからのDNA抽出(QIAquick Gel Extraction Kit)を行った。2.8kb断片及び1.8kb断片をそれぞれTol5−2.8kb及びTol5−1.8kbとした。Tol5−2.8kb及びTol5−1.8kbをベクターとライゲーションさせた。その後、トランスフォーメーション(化学法;青白コロニー選別法)を行った。白コロニーをピックアップし、LB液体培地で培養した後、プラスミドDNA少量抽出を行った。プラスミドDNAを制限酵素HincIIで処理し、E.P.で確認した。制限酵素処理の結果、ベクター+2.8kb及び1.8kbという理想的なバンドが得られた。また、PCRでフラグメントの大きさと挿入方向を確認した。条件を以下に示す。
PCRの結果、Tol5−2.8kbにおいてはpUC118R×T1−5kb R3のプライマーペアで2.8kbの断片が増幅し、Tol5−1.8kbにおいてはpUC118F×T1−5kb RCのプライマーペアで1.8kbの断片が増幅した。この結果より挿入断片の大きさを確認するとともに、断片挿入の方向を決定することに成功した。これら2株をシークエンスした。シークエンスはプライマーウォーキング法によった。しかしシーケンサーのシグナルが乱れ、またコンピュータによるアッセンブリーにおいても、オーバーラップ領域と思われる部位でも一致しない塩基が出るなどの問題が生じた。解析の結果、配列中に長い複数の繰り返し配列があることがわかった。そのため、アッセンブリー後の長さも目的の挿入断片の長さである2.8kb又は1.8kbに満たないなどの困難も生じた。そこでプライマーの設計とシークエンスを繰り返し、ようやく挿入断片の長さ分の塩基配列の決定に至った。しかしながら、このような繰り返し配列のため、結果の信頼性が低かった。そこでシークエンスの確実性を高めるため、Tol5−5kbを直接クローニングして再度シークエンスすることとした。TAクローニングを行うために、Taq系で正確性が高いDNAポリメラーゼEasy−Aを用いてPCRし、Tol5−5kbを増幅した。PCR条件を以下に示す。
得られたPCR産物を用いてTAクローニングを行った。トランスフォーメーションは化学法で行い、LB/Km寒天培地にスプレッディングした。コロニーをLB/Km液体培地に培養し、培養後プラスミドDNAの抽出を行った。インサートを確認するため、DNAを制限酵素EcoRIで処理した。その結果、ベクターと5kbのフラグメントの存在を確認できた。さらに、PCRにより挿入断片の大きさを確認した。条件を以下に示す。
PCRの結果、インサートのバンド5kbを確認できた。これをシークエンス解析した。シークエンスは再びプライマーウォーキング法によったが、リピート構造のため再び困難を極めた。先の1.8kbと2.8kbの配列情報を基に、慎重にプライマー設計とシークエンスを繰り返し、手間と時間をかけた末に、巨大なリピート構造を持つ4907bpの配列を得ることに成功した。このTol5−5kbの配列とTol5−2.8kb及びTol5−1.8kbの配列は完全に一致したことで、シークエンスの確実性は高まった。得られたTol5−5kbの配列を配列番号7に示す。この配列をもとに翻訳蛋白質をBLASTによりホモロジー検索にかけたところ、他の細菌で報告されているオートトランスポーターアドヘシンと20〜30%の相同性を示す4026bpのORFを発見し、トランスポゾンもこのORF内に挿入されていた。これによって、Tol5株の高い付着性とアペンデージの生産に関与するORFの存在を明らかにすることができた。しかしこのORFはTol5−5kbの3’末端で途切れており、全ORFを明らかにするにはTol5−5kbに続く下流域を新たにクローニングする必要があった。また、細菌の粘着に関わるオートランスポーターアドヘシンがホモロジー検索で示されたとは言え、相同性は低く、このグループを特定する決め手となるカルボキシ末端のメンブレンアンカードメインも現れていないことから、部分的に配列の似た別の蛋白質である可能性も十分に考えられた。
得られたシーケンスの結果を基にさらに下流の配列情報を得るため、サザンハイブリダイゼーションによる特定断片の取得を試みた。DIGラベルされたプローブ作成のため、リピート部分を避けてプライマーを作成した。そのプライマーを用いて、Tol5株の染色体DNAを鋳型にして目的バンド160bpを増幅した。PCR条件を以下に示す。
複数のバンドが増幅されたことから、解析した部分においては繰り返しのなかったプローブの配列部分も、未解析の下流領域でさらにリピートしていることが推定されたが、シークエンスを進めるために160bpの目的バンドのみをQIAquick Gel Extraction Kitで切り出した。それを鋳型に、PCRを利用してプローブを作成した。PCR条件を以下に示す。
得られたプローブを用いて、Tol5株の染色体DNAを種々の制限酵素で処理した消化物に対しサザンハイブリダイゼーションを行った。その結果、制限酵素PstIの消化物において3kbと2.3kbの位置にプローブがハイブリダイズしたシグナルが検出された。そこでこれら二つのDNA断片をアガロースゲルから切り出し抽出(QIAquick Gel Extraction Kit)した。これらをTol5−3kb及びTol5−2.3kbとした。切り出したDNAとPstIで消化したpUC118をライゲーションした。得られた組換えベクターで、大腸菌DH5αを形質転換した(化学法;青白コロニー選別法)。さらにコロニーハイブリダイゼーションにより、これら断片が導入された形質転換体を選別した。その結果、シグナルが出たのはTol5−3kbを導入したコロニーのみであった。シグナルが出た部分のコロニー(Tol5−CC,−C1,−C2,−C3)をピックアップし、LB/Amp液体培地で培養した後、プラスミドDNA少量抽出を行った。それぞれに対して制限酵素PstIで処理した。それをサザンハイブリダイゼーションすると、Tol5−CC、−C2、−C3にシグナルが出た。これらのシークエンスを行った。インサートの両端のシークエンスの結果、既知配列と一致する断片は存在しなかった。また、これらの配列はそれぞれ異なっていた。すなわち、先に塩基配列を決定した5kb領域(Tol5−5kb)に続く下流域のクローニングは失敗した。この時点ではその原因を特定することはできなかった。しかし、Tol5株の染色体DNAを鋳型にして行ったサザンハイブリダイゼーションで出た複数のシグナルから無理やり一つを選んで断片を切り出し、これからプローブを作成した点に問題があったのではないかと考えた。そこでこれらのクローニング株は一時保留とし、Tol5−5kbに連続する断片の取得を目指した。
鋳型をTol5染色体からpUC118::Tol5−5kbプラスミドDNAに変更して、PCR法により新しいDIG標識プローブを作成した。このプラスミドはプローブ領域を一箇所しか含まないため、DIG標識された増幅断片も1本になると考えた。PCR条件を以下に示す。
予想通り増幅された断片は目的の大きさ(160bp)のもののみであり、純度の高い新しいプローブを作成することに成功した。このプローブを用いて、前述のTol5−3kb及びTol5−2.3kbを含むベクターで形質転換操作後に得たプレートに対し、コロニーハイブリダイゼーションを行った。シグナルを出したと思われるコロニーをピックアップし、プレートに培養して再度コロニーハイブリダイゼーションして確認した。シグナルが出た部分のコロニー(3kbのNo.3及び2.3kbのNo.6,12,13,21,22)をピックアップし、LB/Amp液体培地で培養した後、プラスミドDNA少量抽出を行った。得られたプラスミドDNAを制限酵素PstIで処理した。その結果、各プラスミドは目的の3kb(No.3)又は2.3kb(No.6,12,13,21,22)を含んでおり、それら挿入断片は全て160bpのプローブとハイブリダイズした。これら断片がもし期待どおりにTol5−5kbに続く下流域を含むのなら、PstIサイトとHincIIサイトに挟まれた約1.5kbの塩基配列をTol5−5kbと重複する領域として含むはずである。よってマルチクローニングサイトのPstIサイトにこれら断片を挿入した前述のプラスミドを制限酵素HincIIで処理すれば、1.5kbの重複断片にマルチクローニングサイトのごく一部が付加された約1.5kbのDNA断片が得られるはずである。そこでNo.3,6,22のプラスミドをHincIIで消化したところ、いずれからも約1.5kbのDNA断片が得られた。しかしその大きさはそれぞれ若干異なっていた。この中で、1.5kb断片の他、3.1kbのベクター断片を含むと思われる3.3kb断片と600bpの断片に切断されたNo.6のプラスミドを、まずはシークエンスすることとした。しかし、これまでのシークエンスやサザンハイブリダイゼーションの結果より、繰り返し配列の部分が多く、現在ハイスループットの手法として定着しているプライマーウォーキング法では、複数の部分にアニーリングして正しくシーケンスできないことが考えられた。また、コンピュータでのアッセンブリーにも支障が生じると想定された。すなわち、Tol5−5kbの時に経験した困難が繰り返されるおそれがあった。そこで今回は、プライマーウォーキング法ではなく、手間と時間はかかるがディレーションミュータントシリーズを作成することとした。No.6に挿入された2.3kbのTol5のDNA断片を先の1.5kbの重複断片の側から順次削ったミュータントを作成するため、このプラスミドを3’突出のSacIと5’突出のXbaIで処理後、エキソヌクレアーゼIIIで消化した。エキソヌクレアーゼIIIを作用させる時間をずらした一連の試料を作ることで、削られた長さの異なるディレーション産物を得た。その後さらにMung Bean Nucleaseによる末端平滑化とKlenowフラグメントによる末端修復を行い、最後にブラントエンドライゲーションに処すことにより、ディレーションプラスミドシリーズを得た。エタノール沈殿による精製後、エキソヌクレアーゼIII消化によって消滅しているはずのXbaIで処理することにより未反応のプラスミドの影響を排し、このDNAで大腸菌DH5αを形質転換することでディレーションミュータントシリーズを得た。形質転換体コロニーを多数拾い上げて培養し、抽出したプラスミドを制限酵素HincIIで処理した。シーケンスの1パスの大きさ(800bp〜)を考慮して適切な間隔でディレーションミュータントを選択してそれぞれシークエンスした。各シークエンス結果をつなぎ合わせ、2280bpの塩基配列を決定した。この配列を配列番号8に示す(Tol5−No.6)。Tol5−No.6はTol5−5kbと重複する約1.5kbの配列を含んでおり、これによってTol5−5kbに続く約750bpの塩基配列を決定することができた。これによって、先述したオートトランスポーターアドヘシンと低い相同性を示す蛋白質をコードするORFは4707bpに延び、それによってコードされる蛋白質のアミノ酸配列も1569残基となった。しかしそれでもORFは終結しておらず、3’末端で切れていた。よってTol5−No.6につながる下流域もさらにクローニングせねばならなくなった。またActinobacillus actinomycetemcomitansのEmaAと最も高い相同性を示したが、それでもアミノ酸レベルで26%と低い相同性であり、メンブレンアンカードメインのコード領域に達していないので、TAAファミリーに属する蛋白質であるとは結論付けられなかった。いずれにしても、トランスポゾンの挿入により破壊された付着関連遺伝子のコードする蛋白質は非常に巨大で、しかも長い繰り返し配列が複雑に入り乱れる、新規の粘着蛋白質であると推定された。
Tol5−No.6に続く下流域の配列情報を得るため、新しく明らかになった配列を基に再びリピートを避けて158bpのプローブを、Tol5−No.6の入ったプラスミドを鋳型に、PCR法により作成した。PCR条件を以下に示す。
合成したプローブ領域のすぐ上流に制限酵素HindIIIサイトが存在したので、Tol5の染色体DNAをHindIIIで消化後、E.P.を行い、さらに158bpプローブによりサザンハイブリダイゼーションを行った。その結果、またしても3つのシグナルが確認されたので、全てのシグナル部分をアガロースゲルから切り出し、DNAを抽出した(DEAEペーパー)。分子量の大きい順に、Tol5−B(2500bp)、Tol5−M(1200bp)、Tol5−S(600bp)とした。切り出したDNAとHindIIIで処理したpUC118をライゲーションした。ライゲーション後のDNAを精製し、続いてトランスフォーメーション(エレクトロポレーション;青白コロニー選別法)を行った。コロニーが形成されたプレートを、先の158bpのプローブを用いてコロニーハイブリダイゼーションに処した。シグナルが出た部分のコロニーをピックアップし、LB/Amp液体培地で培養した。プラスミドDNA少量抽出を行い、制限酵素HindIIIで処理して挿入断片の長さを確認したところ、2500bp、1200bp、600bpの長さのTol5株DNA断片の挿入が確認されたので、これらプラスミドをシークエンスした。M断片及びS断片は短いため、1パスシーケンスにより、それぞれ1185bp及び603bpの塩基配列を決定できた。また、B断片のシークエンスのために、ディレーションミュータントを作成した。B断片を含むプラスミドを3’突出のSacIと5’突出のXbaIで処理後、エキソヌクレアーゼIIIで消化した。エキソヌクレアーゼIIIを作用させる時間をずらした一連の試料を作ることで、削られた長さの異なるディレーション産物を得た。その後さらにMung Bean Nucleaseによる末端平滑化とKlenowフラグメントによる末端修復を行い、最後にブラントエンドライゲーションに処すことにより、ディレーションプラスミドシリーズを得た。エタノール沈殿による精製後、エキソヌクレアーゼIII消化によって消滅しているはずのXbaIで処理することにより未反応のプラスミドの影響を排し、得られたDNA試料で大腸菌DH5αを形質転換することでディレーションミュータントシリーズを得た。形質転換体コロニーを多数拾い上げて培養し、抽出したプラスミドを制限酵素HindIIIとEcoRIで二重消化した。シーケンスの1パスの大きさ(800bp〜)を考慮して適切な間隔でディレーションミュータントを選択してそれぞれシークエンスした。各シークエンス結果をつなぎ合わせ、2540bpのB断片の塩基配列を決定した。決定したTol5−B、Tol5−M、Tol5−Sの配列を配列番号9〜11にそれぞれ示す。このうちTol5−M断片はTol5−No.6と100%配列が一致する重複領域として、533bpの塩基配列を含んでいた。しかし同じHindIII断片であるTol5−B、−M、−Sの各断片は互いに重複領域を含んでおらず、−M断片がTol5−No.6に続くことが推定されただけで、他の二つの断片の位置関係はわからなかった。これら断片はお互いにほとんど同じ塩基配列領域を含んでおり、158bpのプローブ領域もそこに位置していた。すなわちこれら断片も繰り返し配列を形成する巨大な断片の一部であると推定された。Tol5−M断片の重複によってORFは5358bpに延び、それによってコードされる蛋白質のアミノ酸配列も1785残基となった。しかしそれでもORFは終結しておらず、3’末端で切れていた。よってTol5−M断片につながる下流域の塩基配列もさらに明らかにせねばならなくなった。最も高い相同性を示したのはやはりActinobacillus actinomycetemcomitansのEmaAであったが、アミノ酸レベルで25%の相同性しか示さず、未だメンブレンアンカードメインのコード領域に達していなかったので、同ファミリーに属する蛋白質であるかどうかは依然判然としない状態であった。
ここで、最初にTol5−5kbに続く下流域をクローニングしようとしてサザンハイブリダイゼーションにより得たが、Tol5−5kbにつながらなかったTol5のDNA断片、Tol5−CC、Tol5−C2を改めてシークエンスすることにした。ともに繰り返し配列を含むことが想定されるため、それぞれディレーションミュータントを作成した。プラスミドを3’突出のSacIと5’突出のXbaIで処理後、前述と同じ手順によりディレーションミュータントシリーズを作成し、シークエンスを行ってつなぎ合わせ、Tol5−CCとTol5−C2の塩基配列を決定した。得られたTol5−C2、Tol5−CCの配列を配列番号12及び13に示す。
To15−B,M,S断片及びTol5−CC,C2断片の配列の重複解析によって、位置関係を決定した。配列が100%一致するところのみを重複とした。158bpプローブによるサザンハイブリダイゼーションで検出されたシグナルは3つであったが、重複解析及びTol5−C2の解析の結果より、実際は4つの断片であったことが判明した。4つ目の断片はTol5−Sと大きさ及び配列がほぼ同じであったため、約600bpのシグナルに重なって存在していたことになる。その領域をTol5−S’とした。以上を整理すると、Tol5−M、Tol5−S’、Tol5−S、Tol5−C2、Tol5−B、Tol5−CC断片の順に重複しながら並ぶことが明らかとなった。その結果、ORFは10798bpに延び、それによってコードされる蛋白質のアミノ酸配列も3598残基となった。しかしそれでもORFは終結しておらず、3’末端で切れていた。よってTol5−CCにつながる下流域もさらにクローニングせねばならなくなった。最も高い相同性を示したのはBurkholderia phymatumのTAAであったが、アミノ酸レベルで25%の相同性しか示さなかった。メンブレンアンカードメインの配列を一部含んでいるようではあったが、全てが含まれているわけではなく、この部分の高次構造の予測も不可能であったので、この時点でもTAAファミリーに属すると結論することはできなかった。またその大きさも既報のTAAでは最大であったBartonella henselaeのBadA(3036アミノ酸)よりもずっと大きいことも明らかとなった。
これまでのシーケンスの結果、Tol5−CCのC末端領域はリピート配列が認められなかった。したがってC末端領域で507bpのプローブを作成し、制限酵素HindIIIで処理したTol5株のDNAを鋳型にしてサザンハイブリダイゼーションを行った。その結果、5kbの位置にシグナルが検出され、この断片をTol5−C5kbとした。このDNAをアガロースゲルから切り出し抽出(DEAEペーパー)し、それをHindIIIで消化したpUC118ベクターとライゲーションしてトランスフォーメーション(エレクトロポレーション;青白コロニー選別法)を行った。白コロニーをピックアップし、LB/Amp液体培地で培養した。液培地中の菌体からプラスミドDNAを抽出し、制限酵素HindIIIで処理してインサートを確認した。Tol5−C5kb内にはリピート構造がないと推察し、プライマーウォーキングで配列を決定した。得られたTol5−C5kbの配列を配列番号14に示す。Tol5−C5kbはTol5−CCの配列と重複しており、Tol5−CCにつながる下流域であることが判明した。そしてこれがつながったことで、10,893bp(配列番号1)にも及ぶ巨大なORFが完結し、それによってコードされる3,630アミノ酸(配列番号2)からなる巨大蛋白質が明らかとなった。これがトランスポゾンの挿入によって破壊された付着に関連した遺伝子の本体である。ここまでに示した配列断片の位置関係を図1に示す。こうして粘着に関連した蛋白質をコードする巨大なORFを含むTol5株の遺伝子断片15011bpの塩基配列が決定された。
1−3 付着関連遺伝子の配列
各種クローニング株をシークエンスした結果得られた配列断片をつなぎ合わせる操作は、GENETYXを用いて行った。多くの複雑なリピート構造を持つ遺伝子であることが判明したため、配列と配列をつなぎ合わせる際には配列が100%一致する場合のみを重複部分とみなした。本実施例でのクローニングとシークエンスの結果得られた全塩基配列を図2及び配列番号15に示す。
1−4 バイオインフォマティクス解析
塩基配列の中でどの領域が蛋白質をコードしているかを検索する必要がある。ORF finder及びGeneMarkを用いて、蛋白質をコードする領域を予測した。その結果、取得した遺伝子の中にORFが4つ存在すると推察された。トランスポゾンが挿入されていたのは前述の巨大ORFであり、このORFがコードする蛋白質が付着因子であると言える。また、5’末端及び3’末端のORFは終止コドンが確認されていないため、途中で切れていることになる。蛋白質をコードする場合、開始コドンの上流にはリボソーム結合部位及びプロモーター部位が存在する。それらの配列は保存されていることが多いため、付着関連遺伝子の巨大ORFについてプロモーター部位の存在を検索した。その結果、それらの存在が確認された。以下にその領域を示す。これにより、開始コドンは925の位置ではなく949の位置のものが正しいと予測された。
各ORFについて、NCBI−BLASTを用いて相同性検索を行った。その結果、付着関連の巨大ORFがコードする巨大な蛋白質全体にわたって相同性を示す蛋白質は存在しなかった。しかし、部分的には、TMファミリーに属する蛋白質と相同性を示す領域を含んでいた。
TAAファミリーに属する蛋白質はシグナルペプチド、ヘッドドメイン、ネックドメイン、ストークドメイン、メンブレンアンカードメインというドメインを有している。そこで、各ドメインそれぞれについてClustalWを用いてマルチプルアラインメントを作成し、配列を比較した。その結果を図4に示す。メンブレンアンカーについては、PredictProteinを用いて二次構造予測した結果も合わせて示した。比較対象はTAAファミリーのメンバーである。その結果、シグナルペプチド、ヘッドドメイン、ネックドメインではAggregatibacter(Actinobacillus)actinomycetemcomitansのEmaAの各ドメインと最も相同性が高く、それぞれ34%、44%、52%の相同性を示した。また、TMファミリーの中では最も研究がなされこの蛋白質ファミリーのプロトタイプとも言えるYersina enterocoliticaのYadAとは、それぞれ、11%、23%、40%の相同性を示した。メンブレンアンカーについてはHaemophilus somnusのオートトランスポーターアドヘシンと48%の、YadAと25%の相同性を示した。一方、2591アミノ酸からなるストークドメインについては、部分的にはTAAファミリーのメンバーと相同性を示すことがBLAST解析によって示されたがその相同性は低かった。例えば最も高い相同性を示したのはActinobacillus succinogenesのYadA様蛋白質であるが、2591アミノ酸のうちの800アミノ酸の部分がこの蛋白質と33%の相同性を示したに過ぎない。以上、各ドメインでは相同性のある蛋白質としてTAAファミリーの蛋白質がBLAST解析によって示されたが、それらの相同性は高いレベルではない。しかし、TAAファミリーを最も特徴づけるのは、メンブレンアンカードメインの立体構造である。TAAはホモ三量体であり、各ポリペプチド鎖は1つのαヘリックスと4つのβストランドを有し、これが三本集まって12βストランドとなり、グラム陰性細菌の外膜中にβバレル構造を形成して蛋白質分泌用のトンネルとなる。そこでTol5の付着関連蛋白質のメンブレンアンカー相当領域のアミノ酸配列から二次構造を予測したところ、1つのαヘリックスと4つのβストランドを有していることが推定された。このことと各ドメインの並びなどを考え合わせると、Tol5株の付着蛋白質はTAAファミリーに属する新規蛋白質であると推定され、Acinetobacter属細菌のアドヘシンを意味するAadAと命名した。AadA遺伝子の塩基配列を配列番号1に、AadAのアミノ酸配列を図3及び配列番号2に示す。AadAは10,893bpの遺伝子でコードされる3,630アミノ酸で構成されている。AadAは既報のTMファミリーの蛋白質よりずっと大きく、複数の長い繰り返し構造が複雑に配置するストークドメインは他の蛋白質とも相同性が低く、またヘッドドメインとネックドメインが、アミノ末端側だけでなくメンブレンアンカードメインのあるカルボキシ末端寄りにも存在するなど、既報のメンバーと比べて特異なTAAである。この特異性がTol5株の付着性の高さや非特異的付着能を与えているかどうかについては、現時点ではわからない。ただこれまで報告されているTAAは全て、病原性細菌が感染する際に宿主の細胞や細胞外マトリックスに特異的に付着するためのものであるし、高い粘着力を示すものなどの報告もない。
ORFの相同性検索の結果、aadA遺伝子のすぐ下流に、他のAcinetobacter属細菌などが持つ外膜蛋白質OmpAと相同性を示す蛋白質のORFを発見した。これをTol5−OmpAと命名した。Tol5−OmpAの塩基配列を配列番号3に、アミノ酸配列を配列番号4に示す。Tol5−OmpAは795bpの遺伝子でコードされる264アミノ酸からなる。ClustalWを用いてマルチプルアラインメントを作成し、Tol5−OmpAの配列と相同性を示した外膜蛋白質の配列と比較した。その結果を図5に示す。大腸菌E.coliのOmpAと比較すると、C末端領域では相同性が高いがN末端領域では相同性が低い。一方で、Acinetobacter属細菌が持つ外膜蛋白質とは全体にわたって相同性が高い。しかしそれらの機能についての報告はない。ただ、AadAのORFと近接していることからaadAとTol5−ompAは同一オペロン上にある可能性が高い。また外膜蛋白質ということなので、Tol5−ompAも付着や粘着性のアペンデージ生産に関わっている可能性がある。
塩基配列を決定したTol5株の遺伝子断片15011bpの5’末端に存在するORFは、Acinetobacter sp.ADP1などが有するメチオニル−tRNAホルミルトランスフェラーゼと高い相同性を示した。また、3‘末端に存在するORFは、Acinetobacter sp.ADP1などが有するジヒドロキシ酸デヒドラターゼと高い相同性を示した。どちらの蛋白質も付着に関連した機能を有するという報告はないため、Acinetobacter sp.Tol5においても付着には関連がないと推定された。
1−5 AadA遺伝子全長のクローニング
これまでのシーケンスが正しいことを確認するために、推定プロモーター部位を含むaadA全長をPCRにより増幅してその長さを確認した。用いたプライマーTol5−TKD−F及びTol5−TKD−Rの領域を以下に示す。
プライマーTol5−TKD−F:
プライマーTol5−TKD−R(Complement):
PCRの条件は下記の通りである。
PCRの結果、これまでのクローニング及びシークエンスで得られた配列11,145bp(約11kb)に相当するバンドが得られ、これをTol5−11kbとした。続いて得られた産物を用いてTAクローニングを行った。トランスフォーメーションはエレクトロポレーションで行い、LB/Km寒天培地にスプレッディングした。形成されたコロニーをLB/Km液体培地に培養し、培養後プラスミドDNAの抽出を行った。インサートを確認するため、DNAを制限酵素EcoRIで処理した。さらに、PCRで確認した。条件を以下に示す。
制限酵素処理の結果、ベクター及びAadAの理想的なバンドがシャープに確認できた。また、PCRの結果からもAadAの大きさにバンドが確認できた。さらに、プラスミドDNAをシークエンスした結果、挿入した断片の両端の配列が先に決定した塩基配列と完全に一致した。従って、これまでのシーケンスの精度を確認するとともに、推定プロモーター配列を含むaadA遺伝子約11kbのクローニングに成功した。
さらに、推定プロモーターを含むaadA及びTol5−ompAを含んだ遺伝子約12,505bp(約13kb)のクローニングを試みた。PCRで断片を増幅した。条件は下記の通りである。
用いたプライマーTol5−ad−op−R3の領域を以下に示す。
得られた約13kbの断片をTol5−13kbとし、これを用いてTAクローニングを行った。トランスフォーメーションはエレクトロポレーションで行い、LB/Km寒天培地にスプレッディングした。コロニーをLB/Km液体培地に培養し、培養後プラスミドDNAの抽出を行った。インサートを確認するため、DNAを制限酵素EcoRIで処理した。さらに、PCRで確認した。条件を以下に示す。
制限酵素処理及びPCRからは理論通りの長さのインサートバンドが確認された。このプラスミドDNAをシークエンスした結果、挿入断片の両端の配列は既知の配列と完全に一致した。したがって、推定プロモーターを含むaadA及びTol5−ompA含む遺伝子、すなわち11,858bpのaadA−ompAオペロン(配列番号5)を含む約13kbの遺伝子のクローニングに成功した。配列番号5で表される塩基配列においては、1〜106位がプロモーター/リボソーム結合部位であり(配列番号29)、107〜10999位がaadA遺伝子であり、11064〜11858位がTol5−ompA遺伝子である。
実施例2 Acinetobacter sp.Tol5株の付着関連遺伝子を組込んだ大腸菌の性状評価
aadA遺伝子及びaadA−ompAオペロンを組込んだベクターで形質転換したE.coli DH5α(それぞれDH5α::aadA及びDH5α::aadA−ompAと命名)、そしてコントロールとしてE.coli DH5α野生株(WT)の性状を比較した。aadA−ompAオペロンを組込んだベクターで形質転換したE.coli DH5αは、「DH5α−XLTOPO::aadA−ompA」として、独立行政法人製品評価技術基盤機構バイオテクノロジー本部特許微生物寄託センター(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8)に受領番号NITE ABP−490(受領日2008年(平成20年)2月19日)として受領されている。
2−1 光学顕微鏡による形態観察
aadA遺伝子及びaadA−ompAオペロンを組み込んだことによる形態の変化を観察するため、DH5α::aadA、DH5α::aadA−ompA、DH5α WTの3種の株についてグラム染色を施し、光学顕微鏡で観察した。結果を図6に示す。
aadA−ompAオペロンを組み込んだ株DH5α::aadA−ompAでは、菌体の他に菌体間をつなぐ線状の構造物が観察できた。EPS(菌体外ポリマー)のようにも見えるこの物質は付着力の付加に関係があると考えられる。aadAを組み込んだ株DH5α::aadAでは、菌体が細長く、極で連結している様子が観察された。いずれも野生株とは明らかに異なる形態をしており、付着関連遺伝子の導入によって形態が変化したことがわかる。
2−2 電子顕微鏡による形態観察
遺伝子導入による形態の変化をより詳しく観察するため、DH5α::aadA、DH5α::aadA−ompA、DH5α WTの3種の株について走査型電子顕微鏡FE−SEM及び透過型電子顕微鏡TEMを用いて形態を観察した。FE−SEMによる観察の結果を図7〜9に示す。
DH5α::aadAにおいては、菌体が付着しているポリウレタン担体表面と、付着していないポリウレタン担体表面がはっきり分かれている様子が観察された。つまり、凝集体のようなものを形成してその凝集体単位での付着が起こっているように観察された。凝集体内では多量のEPS様構造物を生産し、多層にわたって菌体同士が積み上げられ付着している様子が観察された。また、DH5α::aadAの菌体の中には形状が細長く変化しているものが比較的多く観察された。これは、光学顕微鏡による観察の結果得られた像と一致した。拡大してみると、細長い形状の中には節目のようなものが確認でき、菌体が極に連なっているような様子が観察された。また、細長く変化した菌体からもアペンデージのような構造物が観察された(図7)。
DH5α::aadA−ompAは非常に多くの菌体がポリウレタン担体へ付着している様子が観察された。その様子は、菌体一つ一つが担体へ付着しているようで、担体表面へ均一に単層のフィルムを形成するかのようであった。また、DH5α::aadA−ompAはEPS様の構造物を生産している様子も観察された。これは、光学顕微鏡での観察と一致する。さらに、DH5α::aadA−ompAには菌体と担体とを結ぶアペンデージのようなものが多く観察された(図8)。
2つの組換え株と比較して、E.coli DH5α WTはポリウレタン担体へ付着している菌体がほとんどなく、「付着」というよりも「偶然乗った」かのように見えた。また、アペンデージのような構造物を生産している菌体は少なかった(図9)。
このように、E.coli DH5αへAcinetobacter sp.Tol5のaadA遺伝子及びaadA−ompAオペロンを組み込むことによってその付着形態を変化させることに成功した。
さらに、DH5α::aadA−ompAとDH5α::aadAとの間にも違いが観察された。DH5α::aadA−ompAは個々の菌体細胞がばらばらに担体に付着し均一な層を形成していたが、菌体同士で凝集し多層を形成することはなかった。それに対してDH5α::aadAは菌体細胞が巨大な凝集体を形成し、担体に多層となって付着していたが、個々の細胞がばらばらに担体に付着する様子は観察されなかった。
2−3 付着試験及び凝集試験
aadA及びaadA−ompAオペロンを組み込んだことによる付着性の変化を確かめるために、クリスタルバイオレット染色による付着試験(CV付着試験)を行った。付着試験は次の試験法により評価した。
<付着試験>
1.菌体培養液を3,400rpm、室温、10分間遠心分離する。
2.デカントで培地を除き、適量のMATSテスト用BS培地を加える。
3.超音波処理(UD−200;TOMY)をOUTPUT=5、TIME=20秒で施して菌体を懸濁させ、OD660がおよそ0.2になるように調整する。
4.48穴マイクロプレート(IWAKI)の各ウェルに懸濁液を1mlずつ添加し、37℃で2時間インキュベートする。
5.ウェル中の懸濁液をすべて吸い取る。その際、チップの先端でプレートを擦り取らないように注意する。
6.1mlのMATSテスト用BS培地でウェルを洗浄する。その後プレートを風乾する。
7.1%クリスタルバイオレットをウェルへ加え、室温で15分間インキュベートする。
8.1%クリスタルバイオレットを全て吸い取り、1mlのMATSテスト用BS培地でウェルを2回洗浄する。その後プレートを風乾する。
9.1mlのMATSテスト用BS培地を加え、超音波処理をOUTPUT=4、TIME=20秒で施して染色菌体をBS培地中に分散させる。
10.A590を測定する。
M9培地で培養した菌体の付着試験の結果を以下に示す。
付着関連遺伝子を組み込んだ大腸菌は、野生株と比較して固体表面への付着力が向上した。この結果は、付着関連遺伝子を組み込むことで付着能力が低い菌に付着能力を付加することに成功したことを示している。さらに、本研究で取得したaadA遺伝子及びaadA−ompAオペロンが微生物の付着に関係していることを証明している。
各株の培養液を観察すると、各株の間で違いが現れていた(図10)。野生株は均一に白濁するのに対し、DH5α::aadA−ompA、DH5α::aadAは肉眼で観察できる程度にわずかに凝集し、透明度を保っていた。
凝集性を定量的に示すため、凝集試験を行った。凝集試験は次の試験法により評価した。
<自己凝集試験>
1. 菌体培養液を遠心分離にかけ、培養上清を除いた。
2. 無機塩培地を菌体ペレットに加え、超音波処理により菌体懸濁液を得た。
3. 菌体懸濁液の濁度OD660を一定になるように培地で調整した。この時のOD660を初期OD660とした。
4. ガラス遠沈管の中の菌体懸濁液を室温で静置することで、形成された細胞自己凝集体を沈降させ、上清のOD660の時間変化を測定した。
5. 自己凝集率を下記の式により算出した。
その結果を図11に示す。
グラフに示したように、DH5α WTと比較してDH5α::aadAは凝集性が向上していた。この結果は、培養液の透明度、FE−SEM観察の結果と一致する。これらの結果より、aadA遺伝子の導入は、菌体細胞に凝集性も与えることが証明された。
本明細書中で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願をそのまま参考として本明細書中に取り入れるものとする。
[配列表]

Claims (13)

  1. 標的微生物に対して非特異的付着性及び/又は凝集性を付与又は増強する方法であって、
    アシネトバクター(Acinetobacter)属細菌由来のオートトランスポーターアドヘシンをコードするDNAを、該標的微生物に導入することを含
    オートトランスポーターアドヘシンをコードするDNAが、以下の(a)、(b)又は(c)のDNAである、前記方法:
    (a)配列番号1で表される塩基配列からなるDNA、
    (b)配列番号1で表される塩基配列と90%以上の相同性を有する塩基配列からなり、微生物に対して非特異的付着性及び/又は凝集性を付与又は増強する活性を有する蛋白質をコードするDNA、
    (c)配列番号1で表される塩基配列の一部からなり、微生物に対して非特異的付着性及び/又は凝集性を付与又は増強する活性を有する蛋白質をコードするDNA。
  2. 標的微生物がEscherichia属細菌である請求項1載の方法。
  3. Escherichia属細菌が大腸菌である請求項記載の方法。
  4. オートトランスポーターアドヘシンをコードするDNAとともに、以下の(a)又は(b)のDNAを導入する、請求項1〜のいずれか1項記載の方法:
    (a)配列番号3で表される塩基配列からなるDNA、
    (b)配列番号3で表される塩基配列と90%以上の相同性を有する塩基配列からなり、オートトランスポーターアドヘシンをコードするDNAとともに導入することにより宿主微生物に対して非特異的付着性及び/又は凝集性を付与又は増強する活性を有する、外膜蛋白質をコードするDNA。
  5. 以下の(a)又は(b)のDNAを標的微生物に導入する、請求項記載の方法:
    (a)配列番号5で表される塩基配列からなるDNA、
    (b)配列番号5で表される塩基配列と90%以上の相同性を有する塩基配列からなり、宿主微生物に対して非特異的付着性及び/又は凝集性を付与又は増強する活性を有するDNA。
  6. 請求項1〜のいずれか1項記載の方法によって得られる、非特異的付着性及び/又は凝集性が付与又は増強された微生物。
  7. 以下の(a)、(b)又は(c)のDNA:
    (a)配列番号1で表される塩基配列からなるDNA、
    (b)配列番号1で表される塩基配列と90%以上の相同性を有する塩基配列からなり、微生物に非特異的付着性及び/又は凝集性を付与又は増強する活性を有する蛋白質をコードするDNA、
    (c)配列番号1で表される塩基配列の一部からなり、微生物に対して非特異的付着性及び/又は凝集性を付与又は増強する活性を有する蛋白質をコードするDNA。
  8. 請求項記載のDNAが導入された、非特異的付着性及び/又は凝集性が付与又は増強された微生物。
  9. Escherichia属細菌である、請求項記載の微生物。
  10. 大腸菌である、請求項記載の微生物。
  11. 以下の(a)、(b)又は(c)の蛋白質:
    (a)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなる蛋白質、
    (b)配列番号2で表されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、微生物に非特異的付着性及び/又は凝集性を付与又は増強する活性を有する蛋白質、
    (c)配列番号2で表されるアミノ酸配列の一部からなり、微生物に非特異的付着性及び/又は凝集性を付与又は増強する活性を有する蛋白質。
  12. 微生物の培養方法であって、
    請求項6、8、9又は10記載の微生物を、担体に付着させる、及び/又は凝集させることにより、該微生物を回収することを含む、前記方法。
  13. 請求項6、8、9又は10記載の微生物を使用することを特徴とする、微生物を用いた化学品の生産方法。
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