JP5261718B2 - 蛍光プローブ - Google Patents

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Description

本発明は蛍光プローブに関する。より具体的には亜鉛イオンなどの金属イオンを捕捉して近赤外領域の蛍光を発する蛍光プローブに関する。
シアニン色素はさまざまな分野で広く利用されており、生理機能を研究する蛍光イメージング領域においても生体分子の蛍光ラベルとして使用されている。特にトリカルボシアニン系色素は、生体分子による吸収が比較的少ない650nm〜950nm付近の近赤外領域に極大吸収波長及び極大蛍光波長を持ち、生体組織の深部まで透過できる波長の光を使用できる利点を有する。加えて、近赤外領域は生体成分からの自家蛍光も少ない。すなわち、トリカルボシアニン系色素の特性はin vivoイメージングにとって好適である。最近、生体分子を直接蛍光ラベルするためのシアニン系色素に加え、生体分子と特異的に反応することで蛍光強度が変化するトリカルボシアニン色素が開発された。一つはカルシウムイオンに対する近赤外蛍光プローブであり(Ozmen, B., et al., Tetrahedron Lett., 41, pp.9185-9188, 2000)、もう一つは一酸化窒素(NO)に対する近赤外蛍光プローブである(PCT/JP2005/002753)。これらの蛍光プローブは生体分子との特異的な反応の前後で励起/蛍光波長が変化することなく、蛍光強度のみが変化するプローブである。
一方、亜鉛はヒトの体内において鉄に次いで含量の多い必須金属元素であり、細胞内のほとんどの亜鉛イオンは蛋白質と強固に結合して、蛋白質の構造保持や機能発現に関与している。また、細胞内にごく微量存在するフリーの亜鉛イオン(通常はμMレベル以下である)の生理的役割についても、種々の報告がある。特に、細胞死の一つであるアポトーシスには亜鉛イオンが深く関わっていると考えられており、アルツハイマー病の老人斑の形成を促進しているなどの報告もある。
従来、組織内の亜鉛イオンを測定するために、亜鉛イオンを特異的に捕捉して錯体を形成し、錯体形成に伴って蛍光を発する化合物(亜鉛蛍光プローブ)が用いられている。亜鉛蛍光プローブとして、例えば、TSQ (Reyes, J.G., et al., Biol. Res., 27, 49, 1994)、Zinquin ethyl ester (Tsuda, M. et al., Neurosci., 17, 6678, 1997)、Dansylaminoethylcyclen (Koike, T. et al., J. Am. Chem. Soc., 118, 12686, 1996)、Newport Green (Molecular Probe社のカタログである"Handbook of Fluorescent Probes and Research Chemicals" 6th Edition by Richard P. Haugland pp.531-540)などが実用化されている。
しかしながら、TSQ、Zinquin、又はDansylaminoethylcyclenを用いた測定では、短波長領域の励起光を用いる必要があるために(それぞれ、励起波長が367nm、368nm、及び323nmである。)、これらの亜鉛蛍光ブローブを生体系の測定に用いた場合には、短波長による励起が細胞傷害を引き起こす可能性があり(細胞工学, 17, pp.584-595, 1998)、また、測定の際に細胞系自身が有する自家蛍光(NADHやフラビン類が発する蛍光)による影響を受けやすいという問題がある。さらに、Dansylaminoethylcyclenは測定時に試薬が存在する環境の違い、すなわち溶媒の種類、あるいは細胞外、細胞内もしくは細胞膜などにおける水溶性、脂溶性などの環境の違いにより蛍光強度が大きく変化するという欠点を有しており(蛋白質・核酸・酵素、増刊号, 42, pp.171-176, 1997)、TSQは脂溶性が高いために細胞全体に均一に分布させることが困難であるという問題も有している。Newport Greenは長波長の励起光で測定を行なえるものの、亜鉛イオンとのアフィニティーが低く、実用的な測定感度を有していないという問題があった。
本発明者らは、TSQなどの上記の亜鉛蛍光プローブの欠点を克服した高感度な亜鉛蛍光プローブとして、環状アミン又はポリアミンを置換基として有し、亜鉛イオンを捕捉して可視光領域の励起光で強い蛍光を発するフルオレセイン誘導体(特開平2000-239272号公報)、及び亜鉛イオンと瞬時に反応して蛍光性の錯体を形成し、生体内の微量の亜鉛イオンを極めて正確かつ高感度に測定できるフルオレセイン誘導体を提供している(国際公開WO 01/62755)。また、本発明者らはさらに研究を重ね、国際公開WO 01/62755に記載されたフルオレセイン誘導体と特開2004-315501号公報に記載されたフルオレセイン誘導体とを組み合わせることによって極めて広範囲な濃度にわたって亜鉛イオン濃度を正確に測定できる手段も提供している。もっとも、フルオレセイン誘導体の蛍光波長は500 nm〜520 nm付近の可視光領域であり生体組織による吸収が大きいために、in vivoでの亜鉛イオンイメージングには不利であり、イメージングできる領域は表皮付近に限定されてしまうという問題がある。
また、細胞に蛍光プローブを適用するときには、細胞内に導入される蛍光プローブの濃度が細胞の種類によってばらつく場合があり、また細胞膜の厚さの違いによって測定部位でも蛍光強度に差が生じ、膜などの疎水性の高い部分に蛍光プローブが局在してしまう可能性があるなど、測定に影響を与える要因も多い。
これらの要因による測定誤差を減少させ、正確な定量的解析を行える方法としてレシオ(ratio)測定法が開発され使用されている(Kawanishi Y., et al., Angew. Chem. Int. Ed., 39(19), 3438, 2000)。この方法は、蛍光スペクトル又は励起スペクトルにおいて異なる2波長での蛍光強度を測定してその比を検出する工程を含んでおり、蛍光プローブ自体の濃度や励起光強度による影響を無視できるとともに、1つの波長で観測を行った場合に生じる蛍光プローブ自身の局在や濃度変化、あるいは退色などによる測定誤差をなくすことができる。
例えば、カルシウムイオンの測定用の蛍光プローブとしてFura 2(1-[6-アミノ-2-(5-カルボキシ-2-オキサゾリル)-5-ベンゾフラニルオキシ]-2-(2-アミノ-5-メチルフェノキシ)エタン-N,N,N',N'-テトラ酢酸・ペンタカリウム塩:Dojindo Laboratories 第21版/総合カタログ、137〜138頁、1998年4月20日発行、株式会社同仁化学研究所)が実用化されている。この化合物は、カルシウムイオン結合により励起波長のピークが低波長側にシフトする性質を有しており、335 nm付近で励起した場合にはカルシウムイオン濃度の上昇に伴って蛍光強度が増大するのに対して、370〜380 nm付近で励起したときにはカルシウムイオン濃度の増加とともに蛍光強度が減少する。従って、この化合物を適当な2波長を用いて励起し、そのときの蛍光強度の比をとることにより、プローブ濃度、光源強度、細胞の大きさなどに関係なくカルシウムイオンを正確に測定できる。
また、前記Fura 2あるいはその類似構造化合物がカルシウムイオン以外のイオンも捕捉してしまう性質を利用し、亜鉛イオン検出への応用を検討した報告もある(Hyrc K.L., et al., Cell Calcium, 27(2), 75, 2000)。しかしながら、これらの亜鉛蛍光プローブは、亜鉛イオンと特異的に結合して励起スペクトルあるいは蛍光スペクトルのピークに十分な波長シフトが生じないため、細胞中の亜鉛イオンを正確に測定するためにレシオ法を利用することができなかった。
本発明者らは、亜鉛イオンを捕捉することによって励起スペクトルのピークに顕著な波長シフトを生じ、レシオ法により亜鉛イオンを極めて正確に測定できるプローブを提供している(国際公開WO 02/102795A1)。しかしながら、このプローブは、励起波長及び蛍光波長がそれぞれ330 nm〜370 nm付近、495 nm〜530 nm付近であり、紫外光による細胞障害や生体組織による吸収が問題であった。
このような観点から、亜鉛イオンを極めて正確に蛍光イメージングするために、生体組織の自己蛍光が少なく且つ生体組織の透過性に優れた650 nm〜950 nm付近の近赤外領域の蛍光をレシオ法によって測定する蛍光プローブの開発が望まれていた。
本発明の課題は亜鉛イオンなどの金属イオンを特異的かつ効率的に捕捉して蛍光を発する蛍光プローブを提供することである。より具体的には、亜鉛イオンなどの金属イオンを特異的に捕捉することによって励起スペクトルあるいは蛍光スペクトルのピークに波長シフトを生じ、かつ生体組織の透過性が高い650 nm〜950 nm付近の近赤外蛍光を発する化合物を提供することが本発明の課題である。また、本発明の課題は、亜鉛イオンなどの金属イオンを650 nm〜950 nm付近の近赤外蛍光をレシオ測定法により測定するための蛍光プローブとして利用可能な化合物を提供することにある。さらに本発明の別な課題は、上記の特徴を有する化合物を含む金属イオン蛍光プローブ、及び該金属イオン蛍光プローブを用いた金属イオンの測定方法を提供することにある。
本発明者は上記の課題を解決すべく鋭意努力した結果、下記の一般式(I)で表される化合物が、励起後に650 nm〜950 nm付近の近赤外領域の強い蛍光を発すること、亜鉛イオンなどの金属イオンを特異的に捕捉すること、亜鉛イオンなどの金属イオンを捕捉することによって励起スペクトルのピークに顕著な波長シフトを生じること、及び該化合物を用いてレシオ法により亜鉛イオンなどの金属イオンを極めて正確に測定できることを見出した。本発明はこれらの知見を基にして完成されたものである。
すなわち、本発明は、下記の一般式(I):
[式中、Qは
〔式中、Aは下記の式(II):
(式中、X1、X2、X3、及びX4はそれぞれ独立に水素原子、2-ピリジルメチル基、2-ピリジルエチル基、2-メチル-6-ピリジルメチル基、又は2-メチル-6-ピリジルエチル基を示すが、X1、X2、X3、及びX4からなる群から選ばれる基のうち少なくとも1つは2-ピリジルメチル基、2-ピリジルエチル基、2-メチル-6-ピリジルメチル基、及び2-メチル-6-ピリジルエチル基からなる群から選ばれる基を示し;m及びnはそれぞれ独立に0又は1を示す)で表される基又は下記の式(III)ないし(V):
(式中、Z1、Z2、Z3及びZ4はそれぞれ独立に−N(R11)−〔式中、R11は水素原子、低級アルキル基、1若しくは2個以上のアミノ基で置換された低級アルキル基(該アミノ基は低級アルキル基、低級アルキルスルホニル基又はアリールスルホニル基で置換されていてもよい)、又は1若しくは2個以上の水酸基で置換された低級アルキル基を示す〕、−O−、又は−S−を示し;p、q、r、s及びtはそれぞれ独立に2又は3の整数を示す)で表されるいずれかの基を示す〕を示し(Aに記載した基の末端部分の単結合及び二重結合はそれぞれQに結合する単結合及び二重結合を示す); R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7及びR8はそれぞれ独立に水素原子、カルボキシ基、スルホ基、ホスホ基、ハロゲン原子、又は置換基を有していてもよいC1-6アルキル基を示し;R1とR2、R7とR8は互いに結合して縮合ナフト環を形成してもよく;R9及びR10はそれぞれ独立に置換基を有していてもよいC1-18アルキル基を示し; Y1及びY2はそれぞれ独立に-O-、-S-、-Se-、-CH=CH-又は-C(R12)(R13)-(式中、R12及びR13はそれぞれ独立に水素原子、又は置換基を有していてもよいC1-6アルキル基を示す)を示し;M-は電荷の中和に必要な個数の対イオンを示す]で表される化合物が提供される。
上記発明に含まれる好ましい化合物として、下記の一般式(IA):
〔式中、R21、R22、R23、R24、R25、R26、R27及びR28はそれぞれ独立に水素原子、カルボキシ基、スルホ基、ホスホ基、ハロゲン原子、又は置換基を有していてもよいC1-6アルキル基を示し;R21とR22、R27とR28は互いに結合して縮合ナフト環を形成してもよく;R29及びR30はそれぞれ独立に置換基を有していてもよいC1-18アルキル基を示し; Y21及びY22はそれぞれ独立に-O-、-S-、-Se-、-CH=CH-又は-C(R31)(R32)-(式中、R31及びR32はそれぞれ独立に水素原子、又は置換基を有していてもよいC1-6アルキル基を示す)を示し;M-は電荷の中和に必要な個数の対イオンを示し;X21、X22、X23及びX24はそれぞれ独立に水素原子、2-ピリジルメチル基、2-ピリジルエチル基、2-メチル-6-ピリジルメチル基、又は2-メチル-6-ピリジルエチル基を示すが、X21、X22、X23及びX24からなる群から選ばれる基のうち少なくとも1つは2-ピリジルメチル基、2-ピリジルエチル基、2-メチル-6-ピリジルメチル基、及び2-メチル-6-ピリジルエチル基からなる群から選ばれる基を示し;m'及びn'はそれぞれ独立に0又は1を示す〕で表される化合物又はその塩が提供され、その好ましい様態によれば、R21、R22、R23、R24、R25、R26、R27及びR28が水素原子であり、Y21及びY22が-C(CH3)2-であり、R29及びR30がスルホ基で置換されたC1-18アルキル基である上記化合物が提供される。
上記一般式(IA)の特に好ましい様態によれば、R21、R22、R23、R24、R25、R26、R27及びR28が水素原子であり、R29及びR30が4-スルホブチル基であり、 Y21及びY22が-C(CH3)2-であり、mが0でありnが1であり、X21及びX22が共に2-ピリジルメチル基である化合物又はその塩が提供される。
以下の化合物は特に好ましい化合物である。2-[2-[2-[ジ(2-ピリジルメチル)アミノ]エチルアミノ]-3-[2-(1,3-ジヒドロ-3,3-ジメチル-1-(4-スルホブチル)-2H-インドール-2-イリデン)エチリデン]-1-シクロヘキセン-1-イル-エテニル]-3,3-ジメチル-1-(4-スルホブチル)-3Hインドリウム、分子内塩。
別の観点からは、上記一般式(IA)で表される化合物(ただし、X21、X22、X23、及びX24のいずれか1個又は2個以上がアミノ基の保護基である場合を除く)を含む亜鉛蛍光プローブ;及び上記一般式(IA)で表される化合物(ただし、X21、X22、X23、及びX24のいずれか1個又は2個以上がアミノ基の保護基である場合を除く)と亜鉛イオンとから形成される亜鉛錯体が提供される。この亜鉛蛍光プローブは、体内組織や細胞内の亜鉛イオンを測定するために用いることができる。
さらに別の観点からは、本発明により、上記一般式(IA)で表される化合物(ただし、X21、X22、X23、及びX24のいずれか1個又は2個以上がアミノ基の保護基である場合を除く)を亜鉛蛍光プローブとして用いる方法;亜鉛イオンの測定法であって、下記の工程:(a)上記一般式(IA)で表される化合物(ただし、X21、X22、X23、及びX24のいずれか1個又は2個以上がアミノ基の保護基である場合を除く)と亜鉛イオンとを反応させる工程、及び(b)上記工程(a)で生成した亜鉛錯体の蛍光強度を測定する工程を含む方法;並びに上記一般式(IA) で表される化合物(ただし、X21、X22、X23、及びX24のいずれか1個又は2個以上がアミノ基の保護基である場合を除く)の亜鉛イオン蛍光プローブとしての使用が提供される。
また、上記発明に含まれる好ましい化合物として下記の一般式(IB):
〔式中、Bは下記の式(IIIB)ないし(VB):
(式中、Z41、Z42、Z43及びZ44はそれぞれ独立に−N(R51)−〔式中、R51は水素原子、低級アルキル基、1若しくは2個以上のアミノ基で置換された低級アルキル基(該アミノ基は低級アルキル基、低級アルキルスルホニル基又はアリールスルホニル基で置換されていてもよい)、又は1若しくは2個以上の水酸基で置換された低級アルキル基を示す〕、−O−、又は−S−を示し;p'、q'、r'、s'及びt'はそれぞれ独立に2又は3の整数を示す)で表されるいずれかの基を示し; R41、R42、R43、R44、R45、R46、R47及びR48はそれぞれ独立に水素原子、カルボキシ基、スルホ基、ホスホ基、ハロゲン原子、又は置換基を有していてもよいC1-6アルキル基を示し;R41とR42、R47とR48は互いに結合して縮合ナフト環を形成してもよく;R49及びR50はそれぞれ独立に置換基を有していてもよいC1-18アルキル基を示し; Y41及びY42はそれぞれ独立に-O-、-S-、-Se-、-CH=CH-又は-C(R52)(R53)-(式中、R52及びR53はそれぞれ独立に水素原子、又は置換基を有していてもよいC1-6アルキル基を示す)を示し;M-は電荷の中和に必要な個数の対イオンを示す〕で表される化合物が提供され、その好ましい様態によれば、R41、R42、R43、R44、R45、R46、R47及びR48が水素原子であり、Y41及びY42が-C(CH3)2-であり、R49及びR50がスルホ基で置換されたC1-18アルキル基である上記化合物が提供される。
別の観点からは、上記一般式(IB)で表される化合物を含む金属イオン蛍光プローブ;及び上記一般式(IB)で表される化合物と金属イオンとから形成される金属イオン錯体が提供される。この金属イオン蛍光プローブは、体内組織や細胞内の金属イオンを測定するために用いることができる。
特に、上記一般式(IB)においてBが示す基が式(IVB)であって、Z41、Z42及びZ43はそれぞれ独立に−N(R51)−(R51は低級アルキル基を示す)であり、p'、q'、r'及びs'が2である場合には、亜鉛イオンを検出するための蛍光プローブとして有用である。
さらに別の観点からは、本発明により、上記一般式(IB)で表される化合物を金属イオン蛍光プローブとして用いる方法;金属イオンの測定法であって、下記の工程:(a)上記一般式(IB)で表される化合物と金属イオンとを反応させる工程、及び(b)上記工程(a)で生成した金属イオン錯体の蛍光強度を測定する工程を含む方法;並びに上記一般式(IB)で表される化合物の金属イオン蛍光プローブとしての使用が提供される。
本発明の化合物は励起すると650 nm〜950 nm付近の近赤外領域の強い蛍光を発し、金属イオン(亜鉛イオンなど)と極めて効率よく反応して励起スペクトルのピークに顕著な波長シフトを生じる性質を有していることから、該化合物を蛍光プローブとして用いることにより、生体内の深部組織中の金属イオンをレシオ法により測定することが可能になる。
図1は化合物6に様々な濃度の亜鉛イオンを添加して吸収及び励起スペクトルの変化を測定した結果を示した図である。図中、(A)は吸収スペクトル、(B)は励起スペクトル(蛍光波長760 nm)を示す。 図2は化合物6に亜鉛イオンの他、各種の金属イオンを反応させた結果を示した図である。縦軸は蛍光強度比(671 nm/627 nm励起、蛍光波長760 nm)を示す。 図3は化合物8を用いたRAW264.7細胞内の亜鉛イオン濃度変化を測定した結果の図である。図中、(A)はレシオ蛍光イメージ、(B)は明視野透過像、(C)は亜鉛イオン濃度に依存した蛍光強度比の時間変化(グラフ中の数字は、(A)中の数字が示す注目領域に対応している)を示す。 図4は化合物8を用いたRAW264.7細胞内の種々の亜鉛イオン濃度変化を測定し、レシオの最大値と亜鉛イオン濃度関係を示した図である。 図5は化合物6を用いたRAW264.7細胞内の亜鉛イオンを測定した結果の図である。
本明細書において、特に言及しない場合にはアルキル基は直鎖状、分枝鎖状、環状、又はそれらの組み合わせのいずれでもよい。アルキル部分を有する他の置換基(アルコキシ基)のアルキル部分についても同様である。また、ある官能基について「置換基を有していてもよい」と言う場合には、置換基の種類、個数、置換位置は特に限定されないが、例えば、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子のいずれでもよい)、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシ基若しくはそのエステル、スルホ基若しくはそのエステルなどを置換基として有していてもよい。また、本明細書においてアリール基という場合には、単環性又は多環性のアリール基のいずれであってもよいが、好ましくはフェニル基を用いることができる。
一般式(I)において、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7及びR8はそれぞれ独立に水素原子、カルボキシ基、スルホ基、ホスホ基、ハロゲン原子、又は置換基を有していてもよいC1-6アルキル基を示す。R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7及びR8が示すC1-6アルキル基としては、メチル基又はエチル基などが好ましく、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7及びR8が示すハロゲン原子としてはフッ素原子、塩素原子などが好ましい。R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7及びR8が示すカルボキシ基、スルホ基又はホスホ基は、それぞれエステルを形成していてもよい。R1とR2、R7とR8は互いに結合して縮合ナフト環を形成してもよい。R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7及びR8がすべて水素原子であることが好ましい。一般式(IA)におけるR21、R22、R23、R24、R25、R26、R27及びR28、一般式(IB)におけるR41、R42、R43、R44、R45、R46、R47及びR48についても上記のR1、R2、R3、R4、R5、R6、R7及びR8と同様である。
R9及びR10はそれぞれ独立に置換基を有していてもよいC1-18アルキル基を示す。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert-ペンチル基、1-メチルブチル基、2-メチルブチル基、1-エチルプロピル基、n-ヘキシル基、1-メチルペンチル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、4−メチルペンチル基、2,3-ジメチルブチル基、1,3-ジメチルブチル基、1,2-ジメチルブチル基、1-エチルブチル基、2-エチルブチル基、1-イソプロピルプロピル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、n-ヘプタデシル基、又はn-オクタデシル基などを挙げることができる。アルキル基としては、直鎖状のアルキル基が好ましい。R9及びR10が示すC1-18アルキル基上に存在可能な置換基としては、例えば、アルコキシ基、アリール基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子のいずれでもよい)、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシ基若しくはそのエステル、又はスルホ基若しくはそのエステルなどを挙げることができるが、これらのうち、カルボキシ基又はスルホ基などが好ましい。R9及びR10の両者が無置換のC1-18アルキル基であってもよく、あるいはそれらのいずれか片方のC1-18アルキル基が置換基を有することも好ましい。一般式(IA)におけるR29及びR30、一般式(IB)におけるR49及びR50についても上記のR9及びR10と同様である。
Y1及びY2はそれぞれ独立に-O-、-S-、-Se-、-CH=CH-又は-C(R11)(R12)-を示し、R11及びR12はそれぞれ独立に水素原子、又は置換基を有していてもよいC1-6アルキル基を示す。Y1及びY2が-C(R11)(R12)-であることが好ましく、R11及びR12としてはメチル基が好ましい。一般式(IA)におけるY21、Y22、R31及びR32、一般式(IB)におけるY41、Y42、R51及びR52、についても上記のY1、Y2、R11及びR12と同様である。M-は電荷の中和に必要な個数の対イオンを示す。対イオンとしては、例えば、ナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムなどの金属イオン、4級アンモニウム、ヨウ素イオンなどのハロゲンイオン、あるいはグリシンなどのアミノ酸のイオンなどを挙げることができる。例えば、一般式(I)においてR9及びR10が示すC1-18アルキル基にカルボキシ基、スルホ基などが存在する場合、あるいはR1、R2、R3、R4、R5、R6、R7及びR8のうちのいずれか1個以上がカルボキシ基、スルホ基又はホスホ基であり、対イオンとしてナトリウムイオンを用いる場合には、M-として2個以上の対イオンが必要になる場合がある。また、一般式(I)においてR9又はR10が示す一方のC1-18アルキル基に1個のカルボキシ基又はスルホ基などが存在する場合には、R10が結合する4級窒素原子上の陽電荷とカルボキシ基又はスルホ基のアニオンとが分子内ツビッターイオンを形成するので、電荷の中和に必要な対イオンが不必要になる場合もある。
一般式(I)中の式(II)で表される基において、X1、X2、X3、及びX4はそれぞれ独立に水素原子、2-ピリジルメチル基、2-ピリジルエチル基、2-メチル-6-ピリジルメチル基又は2-メチル-6-ピリジルエチル基を示すが、X1、X2、X3、及びX4からなる群から選ばれる基のうち少なくとも1つは2-ピリジルメチル基、2-ピリジルエチル基、2-メチル-6-ピリジルメチル基及び2-メチル-6-ピリジルエチル基からなる群から選ばれる基を示す。上記一般式(I)で表される化合物において、mが0であり、nが1であり、かつX4が水素原子であることが好ましく、この場合にX1及びX2のうちの少なくとも1つが2-ピリジルメチル基、2-ピリジルエチル基、2-メチル-6-ピリジルメチル基及び2-メチル-6-ピリジルエチル基からなる群から選ばれる基であることが好ましく、X1及びX2が共に2-ピリジルメチル基であることが特に好ましい。また、mが0であり、nが0である場合において、X1及びX2のうちの少なくとも1つが2-ピリジルメチル基、2-ピリジルエチル基、2-メチル-6-ピリジルメチル基及び2-メチル-6-ピリジルエチル基からなる群から選ばれる基であることが好ましい。一般式(IA)におけるX21、X22、X23、X24 、m'及びn'についても上記のX1、X2、X3、X4 、m及びnと同様である。
一般式(I)においてAが式(II)で表される化合物又はその塩は亜鉛イオンを選択的に測定する亜鉛イオン蛍光プローブとして有用であり、式(II)中のX1、X2、X3、及びX4の置換基の組み合わせ、並びにm及びnの組み合わせを適宜選択することによって、それぞれ異なる亜鉛イオン濃度において亜鉛イオンと錯体を形成することができる。例えば、特開2004-315501に記載の亜鉛イオン蛍光プローブのキレート形成を参照し、測定対象となる亜鉛イオン濃度に応じて本発明の一般式(I)(ただし、一般式(I)中においてAが式(II)である)の化合物のX1、X2、X3、及びX4の置換基の組み合わせ、並びにm及びnの組み合わせを適宜選択することにより、数nmol/Lから数mmol/Lまでの広い範囲の亜鉛イオン濃度に応じた亜鉛イオン蛍光プローブを製造することができる。
X1、X2、X3、及びX4が示すアミノ基の保護基の種類は特に限定されないが、例えば、p-ニトロベンゼンスルホ基、トリフルオロアセチル基、トリアルキルシリル基などを適宜利用できる。アミノ基の保護基については、例えば、プロテクティブ・グループス・イン・オーガニック・シンセシス(Protective Groups in Organic Synthesis)、グリーン(T. W. Greene)著、ジョン・ワイリー・アンド・サンズ・インコーポレイテッド(John Wiley & Sons, Inc.)(1981年)などを参照することができる。
一般式(I)中の式(III)ないし(V)で表される基において、Z1、Z2、Z3及びZ4はそれぞれ独立に−N(R11)−〔式中、R11は水素原子、低級アルキル基、1若しくは2個以上のアミノ基で置換された低級アルキル基(該アミノ基は低級アルキル基、低級アルキルスルホニル基又はアリールスルホニル基で置換されていてもよい)、又は1若しくは2個以上の水酸基で置換された低級アルキル基を示す〕、−O−、又は−S−を示し、Z1、Z2、Z3及びZ4のうち2以上が−N(R11)−である場合には、R11は同一でも異なっていてもよい。これらのうち、Z1、Z2、Z3及びZ4が独立に−N(R11)−(R11がアルキル基である)である場合が好ましい。R11が低級アルキル基であることが好ましく、該アルキル基は同一でも異なっていてもよく、メチル基であることがさらに好ましい。一般式(IB)におけるZ41、Z42、Z43、Z44、R51についても上記のZ1、Z2、Z3、Z4、R11と同様である。
R11が示すアミノ基で置換された低級アルキル基は、上記に説明した低級アルキル基の任意の位置に1個又は2個以上のアミノ基を有していてもよいが、アルキル基の末端に1個のアミノ基を有しているほうが好ましい。該アミノ基は、1個の低級アルキル基又は同一若しくは異なる2個のアルキル基で置換されていてもよい。また、低級アルキルスルホニル基又はアリールスルホニル基で置換されていてもよい。アリールスルホニル基としては置換又は無置換のナフタレンスルホニル基などを挙げることができる。アリール基上の置換基の個数、種類及び置換位置は特に限定されないが、置換基としては、例えば、低級アルキル基、ハロゲン原子、C1-C6のアルコキシ基、水酸基などを挙げることができる。窒素原子上に存在することがある水酸基で置換された低級アルキル基は、炭素数が2個以上の低級アルキル基の任意の位置に1個又は2個以上の水酸基を有していてもよいが、アルキル基の末端に1個の水酸基を有していることが好ましい。
一般式(I)中の式(III)ないし(V)で表される環状のクラウン残基としては、モレキュラープローブス社のカタログ(Handbook of Fluorescent Probes and Research Chemicals, Ninth edition)の第20章(カルシウムイオン、マグネシウムイオン、亜鉛イオン、及び他の金属イオン)、及び第22章(ナトリウムイオン、カリウムイオン、塩素イオン、及び他の無機イオン)に記載された金属イオンの捕捉のための環状のクラウン残基を用いることもできる。もっとも、測定対象物の捕捉のための置換基は上記刊行物に記載されたものに限定されることはない。特に上記一般式(IB)においてBが示す基が式(IVB)であって、Z41、Z42及びZ43はそれぞれ独立に−N(R51)−(R51は低級アルキル基を示す)であり、p'、q'、r'及びs'が2である場合には、亜鉛イオンを検出するための蛍光プローブとして有用である。
上記一般式(I)、一般式(IA)、又は一般式(IB)で表される本発明の化合物は1個または2個以上の不斉炭素を有している場合がある。従って、1個または2個以上の不斉炭素に基づく光学的に純粋な形態の任意の光学異性体、光学異性体の任意の混合物、ラセミ体、純粋な形態のジアステレオ異性体、ジアステレオ異性体の混合物などはいずれも本発明の範囲に包含される。また、本発明の化合物は水和物や溶媒和物として存在する場合もあるが、これらの物質も本発明の範囲に包含されることはいうまでもない。
例えば、式(II)で表される基を有する本発明の化合物は、例えば、以下のスキームに示した方法により製造することができる。また、本明細書の実施例には、上記化合物に包含される代表的化合物について製造方法を具体的に示した。下記スキームと実施例の具体的説明を参照することにより、上記一般式(I)で表される化合物において式(II)で表される基を有する化合物を容易に製造できることが当業者には理解されよう。
また、式(II)で表される基を有する化合物の製造方法は国際公開WO 01/62755及び特開2004-315501 号公報に詳細かつ具体的に説明されているので、当業者は上記刊行物を参照しつつ、一般式(IA)で表される化合物を容易に製造することが可能である。
さらに、式(III)又は(IV)で表される基を有する化合物の製造法は特開2000-239272号公報に詳細かつ具体的に説明されているので、当業者は下記スキームと上記刊行物を参照しつつ、一般式(IB)で表される化合物を容易に製造することが可能である。
上記一般式(I)、 一般式(IA)、又は一般式(IB)で表される本発明の化合物又はその塩は、(a)励起後に生体組織透過性に優れた650 nm〜950 nm付近の近赤外領域の強い蛍光を発し;(b)亜鉛イオンなどの金属イオンを特異的に捕捉し、かつ(c)亜鉛イオンなどの金属イオンを捕捉することによって励起スペクトルのピークに顕著な波長シフトを生じる性質を有しているため、生細胞や生組織中、特に深部組織中の金属イオンを生理条件下でレシオ測定するための金属イオン蛍光プローブとして有用である。
一般式(IA)(アミノ基の保護基を有する化合物を除く)、又は一般式(IB)(ただし、Bが示す基が式(IVB)で表される基であり、Z41、Z42及びZ43がそれぞれ独立に−N(R51)−(R51は低級アルキル基を示す)であり、p'、q'、r'及びs'が2を示す)で表される本発明の化合物又はその塩は亜鉛イオン蛍光プローブとして極めて有用であり、亜鉛イオンを捕捉して亜鉛錯体を形成すると、励起スペクトルのピークに顕著な波長シフトを生じる性質を有する。この波長シフトは、亜鉛イオン濃度に応じて通常は約44 nm程度までの範囲で観測でき、生体内に多く存在する他の金属イオン(例えばナトリウムイオン、カルシウムイオン、カリウムイオン、又はマグネシウムイオンなど)の影響を受けずに亜鉛イオンに特異的な波長シフトとして観測できる。
従って、本発明の化合物を亜鉛蛍光プローブとして用い、適当な異なる2波長を選択して励起し、その時の蛍光強度の比を測定することにより、亜鉛イオンをレシオ法によって測定することが可能になる。異なる2波長は、一方の波長において励起した場合に亜鉛イオン濃度の上昇に伴って蛍光強度が増大し、かつ他方の波長において励起した場合には亜鉛イオン濃度の上昇とともに蛍光強度が減少するように選択することができる。レシオ法についてはMason W. T.の著書(Mason W.T. in Fluorescent and Luminescent Probes for Biological Activity, Second Edition, Edited by Mason W.T., Academic Press)などに詳細に記載されており、本明細書の実施例にも本発明の化合物を用いた測定方法の具体例を示した。なお、本明細書において用いられる「測定」という用語については、定量及び定性を含めて最も広義に解釈すべきものである。
本発明の金属イオン蛍光プローブの使用方法は特に限定されず、従来公知の金属イオンプローブと同様に用いることが可能である。通常は、生理食塩水や緩衝液などの水性媒体、又はエタノール、アセトン、エチレングリコール、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドなどの水混合性の有機溶媒と水性媒体との混合物などに上記一般式(I)で表される化合物及びその塩からなる群から選ばれる物質を溶解し、細胞や組織を含む適切な緩衝液中にこの溶液を添加して、適宜選択された生体組織の透過性に優れた650 nm〜950 nm付近の近赤外領域の異なる2波長により励起して、それぞれの蛍光強度を測定すればよい。
例えば、上記スキーム中の化合物6の励起波長は627 nm、蛍光波長は760 nmであり、1μmol/Lで亜鉛蛍光プローブとして用いると10 nmol/L程度の濃度までの亜鉛イオンを捕捉し、亜鉛イオンの濃度に依存して励起スペクトルのピークが44 nm程度レッドシフトする。従って、この化合物をプローブとして用いる場合には、励起波長として例えば627 nm及び671 nmを用い、それぞれの励起波長における蛍光強度を求めて比を算出すればよい。なお、本発明の亜鉛蛍光プローブを適切な添加物と組み合わせて組成物の形態で用いてもよい。例えば、緩衝剤、溶解補助剤、pH調節剤などの添加物と組み合わせることができる。
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。以下の実施例中、化合物番号は上記スキーム中の化合物番号に対応させてある。
例1:化合物6の合成
(A)化合物(4)の合成
化合物1(71.8 g, 1.19 mol)とトリエチルアミン(5.97 g, 59.9 mmol)を100 mLの蒸留エタノールに溶解した溶液に、2炭酸ジ-t-ブチル(13.0 g, 59.9 mmol)のエタノール溶液(15 mL)を氷浴下で滴下した。滴下後室温に戻し、2.5時間攪拌した後、溶媒を留去した。残渣白色固体をジクロロメタン150 mLに溶解し、1規定酢酸水溶液により抽出し、水層をジクロロメタンで洗浄した。水層を2規定水酸化ナトリウム水溶液で中和し、ジクロロメタンで抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムにより脱水後、減圧濃縮して黄色液体の化合物2を得た(4.72 g,収率49.2%)。
化合物2 (4.72 g, 30 mmol)、炭酸ナトリウム(8.2 g, 78 mmol)、2-クロロメチルピリジン塩酸塩(6.5 g, 40 mmol)を250 mLのエタノールに溶解し、アルゴン雰囲気下で7.5時間加熱還流した。溶媒を減圧留去し、2規定の水酸化ナトリウム水溶液に溶解し、ジクロロメタンで抽出後、硫酸ナトリウムで脱水し、減圧濃縮した。得られた茶色液体をアルミナカラムクロマトグラフィーにより精製し、茶色液体の化合物3を得た(3.11g,収率30%)。
化合物3をジクロロメタン30 mLに溶解し、トリフルオロ酢酸80 mL中に氷浴中で滴下した。混合液を室温で1.5時間攪拌し、溶媒を減圧留去した。残渣を2規定水酸化ナトリウム水溶液に溶解し、ジクロロメタンで抽出し、硫酸ナトリウムで脱水し、減圧濃縮して黄色液体の化合物4を得た(2.2 g, 定量的)。
1H NMR (300 MHz, CDCl3) δ 1.92 (s, 2H), 2.67 (t, 2H, J = 5.7 Hz), 2.80 (t, 2H, J = 5.7 Hz), 3.85 (s, 4H), 7.12 (m, 2H), 7.49 (d, 2H, J = 7.7 Hz), 7.63 (td, 2H, J = 7.7 Hz, 1.83 Hz), 8.52 (dd, 2H, J = 4.9 Hz, 0.8 Hz).
13C NMR (75 MHz, CDCl3) δ 39.1, 56.7, 60.1, 121.5, 122.5, 135.9, 148.5, 159.1.
HRMS (ESI+): calcd 243.1577, found 243.1609 (M+H)+.
(B)化合物6の合成
化合物5 (150 mg, 0.2 mmol:シグマアルドリッチ社、カタログNo.543292)、化合物4 (193 mg, 0.8 mmol)を脱水ジメチルホルムアミド(DMF)10 mLに溶解し、85℃アルゴン雰囲気下で3時間加熱攪拌した。反応液をジエチルエーテルに注ぎ、析出した固体を濾取した。ODSカラムクロマトグラフィーにより精製し、さらにトリエチルアミン−酢酸バッファーを用いたHPLCカラムにより精製した。得られた固体をODSカラムクロマトグラフィーにより脱塩し、青色固体の化合物6を得た(82 mg, 収率43%)。
1H NMR (300 MHz, CD3OD) δ 1.52 (s, 12H), 1.78 (m, 2H), 1.9 (br, 8H), 2.57 (br, 4H), 2.86 (t, 4H, J = 7.0 Hz), 3.05 (t, 2H, J = 5.5 Hz), 3.80 (t, 2H, J = 5.5 Hz), 3.95 (br, 4H), 4.11 (s, 4H), 5.78 (d, 2H, J = 12.5 Hz), 7.03 (m, 4H), 7.27 (m, 4H), 7.40 (t, 2H, J = 7.2 Hz), 7.55 (d, 2H, J = 7.5 Hz), 7.65 (d, 2H, J = 12.5 Hz), 7.88 (t, 2H, J = 7.5 Hz), 8.55 (br, 4H).
13C NMR (75 MHz, CD3OD) δ 22.5, 23.7, 26.7, 26.9, 29.1, 43.8, 47.9, 52.1, 55.5, 60.4, 71.4, 95.4, 110.0, 121.7, 122.9, 123.7, 124.6, 125.4, 129.4, 138.5, 139.9, 141.0, 144.6, 149.3, 158.6, 168.3, 170.8.
HRMS (ESI-): calcd 931.4464, found 931.4466 (M-Na).
HPLC (溶出液A/B = 50/50 - 20 min - 40/60): 19.51 min.
溶出液A (0.1 mM 酢酸/トリエチルアミンバッファー(pH 7.4)) 及び溶出液B (20% 含水アセトニトリル)
例2:亜鉛イオン添加時の吸収及び励起スペクトル変化
100 mmol/L HEPES(pH7.4, I=0.1(NaNO3))中、1μmol/Lの化合物6に対して様々な濃度の亜鉛イオン(0, 0.01, 0.1, 0.8, 1.0, 2.0, 4.0, 10μmol/L)を添加し、吸光スペクトル及び励起スペクトル(蛍光波長760 nm)を測定した結果を図1に示す。亜鉛イオンの添加量に応じて、627nmの吸光度が減少して671 nmの吸光度が増加しており、吸収スペクトルが変化していることが分かる(図1(A))。また、励起スペクトルも亜鉛イオンの添加量に応じて長波長シフトしている。以上のことから、本発明の化合物6は亜鉛イオンをキレートすることで吸収波長が変化し、波長変化型の亜鉛蛍光プローブとして機能することがわかる。
例3:亜鉛イオンに対する選択性
100 mmol/L HEPES(pH7.4, I=0.1(NaNO3))中、1μmol/Lの化合物6に対して様々な金属イオン(重金属は1μmol/L、その他は5 mmol/L)を添加し、レシオ変化を測定した。結果を図2に示す。様々な金属イオンとの反応を見たところ、亜鉛以外ではコバルトのみ顕著なレシオ変化を示した。もっとも、遊離の亜鉛イオンに比べて遊離のコバルトイオンは生体内に極少量しか存在しないため、その影響は殆ど無視できる。この結果から、生体組織に応用した場合に、本発明の化合物6が亜鉛イオンに対して高い選択性を示すことが示された。
例4:化合物8の合成
化合物7(120 mg、0.2 mmol:シグマアルドリッチ社、カタログNo.407119) と化合物4(145 mg、0.6 mmol) を脱水DMF (10 mL)に溶解させ、アルゴン雰囲気下、80℃で 3 時間加熱した。溶媒を減圧留去した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製を行い、目的物を得た(54 mg、34%)。
1H-NMR (300 MHz, CD3OD) δ 1.41(s, 12H), 1.66-1.74 (m, 2H), 2.48 (t, 4H, J = 6.1 Hz), 2.85 (t, 2H, J = 5.6 Hz), 3.28 (s, 6H), 3.66 (t, 2H, J = 5.6 Hz), 3.91(s, 4H), 5.58 (d, 2H, J = 12.8 Hz), 6.86-6.93 (m, 4H), 7.12-7.20 (m, 6H), 7.40 (d, 2H, J = 7.7 Hz), 7.58 (d, 2H, J = 12.8 Hz), 7.68 (td, 2H, J = 7.7 Hz, 1.6 Hz), 8.36 (d, 2H, J = 4.9 Hz)
13C-NMR (100 MHz, CDCL3) δ 21.0, 26.4, 28.5, 29.9, 47.0, 47.3, 52.6, 59.8, 93.5, 108.0, 120.3, 121.7, 122.2, 122.6, 123.5, 128.1, 136.1, 136.9, 139.4, 143.6, 149.2, 158.0, 166.7, 169.5.
HRMS (ESI+) Calcd. for [M-ClO4 -], 689.4331, found 689.4301.
例5:化合物8を用いたRAW264.7細胞内の亜鉛イオン濃度変化の測定
化合物8を用い、RAW264.7細胞(マウス由来マクロファージ細胞株)中へ亜鉛イオンを導入した時の蛍光強度のレシオ変化を調べた。RAW264.7細胞を1.77 mmol/L L-グルタミン(GIBCO社、カタログNo.25030)、ペニシリン-ストレプトマイシン (88 unit/mL、88 μg/mL)(GIBCO社、カタログNo.15140)、88 μmol/L MEM 非必須アミノ酸溶液 (GIBCO社、カタログNo.11140)、8.8% 非働化ウシ胎児血清(GIBCO社、カタログNo.10082)を含むDullbecco's Modified Eagle's Medium (DMEM) (GIBCO社、カタログNo.11965)中、CO2インキュベーターで培養した。試験の前に細胞を培地で二回洗浄し、フェノールレッド無添加の培地(Leibovitz's L-15 medium (GIBCO、カタログNo. 21083))に交換した。化合物8の10 mmol/L 溶液を加え(終濃度10 μmol/L、共溶媒として0.1 % ジメチルスルホキシドを含む)、さらに細胞を37℃で30分間 CO2インキュベーターで培養した。培地を除去し、細胞をPBS(pH7.4)で一回洗浄後、培地をPBSに交換し、蛍光強度比変化の測定を開始した。測定はエキサイター側に600±6 nm及び680±10 nmのフィルターを装着したフィルターチェンジャー、エミッター側に735 nm LPのダイクロイックミラーを用い、エキサイター側の二枚のフィルターを交互に交換して蛍光画像を取得することで行った。なお、レシオ蛍光イメージは600±6 nm及び680±10 nmのフィルターを使用したときの蛍光強度をコンピューターで計算することで得た。測定開始後60秒に終濃度が各々100 μmol/Lになるように硫酸亜鉛とピリチオン(亜鉛イオノホア)を添加し、140秒後にTPEN(N,N,N',N'−テトラキス(2−ピリジルメチル)エチレンジアミン)を終濃度が333μmol/Lになるように加えた。測定結果を図3に示す。図3中、(A)はレシオ蛍光イメージ、(B)は明視野透過像、(C)は亜鉛イオン濃度に依存した蛍光強度比の時間変化(グラフ中の数字は、(A)中の数字が示す注目領域に対応している)を示す。この結果、細胞内亜鉛イオン濃度の増減がレシオ値の増減として捉えられ、化合物6を用いて細胞内亜鉛イオン濃度変化をレシオイメージングによって検出可能であることが示された。
例6:化合物8を用いたRAW264.7細胞内の種々の亜鉛イオン濃度変化の測定
RAW264.7細胞を用い、例5と同様の方法で添加する硫酸亜鉛濃度のみを変化させ、レシオの最大値と亜鉛イオン濃度の関係を試験した。結果を図4に示す。この結果、細胞外液の亜鉛濃度依存的に細胞内のレシオ値が上昇し、細胞外液の亜鉛濃度が50 μmol/L程度で飽和した。この結果から、細胞外液の亜鉛イオン濃度が50 μmol/L以下の濃度領域である場合、化合物8を用いて細胞内亜鉛イオン濃度が定量的に測定可能であることが示された。
例7:化合物6を用いたRAW264.7細胞内の亜鉛イオン濃度変化の測定
化合物6を用い、例5と同様の方法でRAW264.7細胞(マウス由来マクロファージ細胞株)中へ亜鉛イオンを導入した時の蛍光強度のレシオ変化を調べた。結果を図5に示す。この結果、蛍光は細胞内また細胞外から全く検出されなかった。これは、化合物6の水溶性が高いために細胞内に導入されず、化合物6溶液を培地中に加えてインキュベーションした後の細胞洗浄で、すべての化合物6が洗い流されてしまったためと考えられる。以上の結果から、化合物6は細胞内に取り込まれず、細胞外の亜鉛イオンを測定するための亜鉛イオン蛍光プローブとして機能することが示唆される。
本発明の化合物を蛍光プローブとして用いることにより、生体内の深部組織中の金属イオンをレシオ法により測定することが可能になる。

Claims (5)

  1. 下記の一般式(IA):
    〔式中、R21、R22、R23、R24、R25、R26、R27及びR28はそれぞれ独立に水素原子、カルボキシ基、スルホ基、ホスホ基、ハロゲン原子、又は置換基を有していてもよいC1-6アルキル基を示し;R21とR22、R27とR28は互いに結合して縮合ナフト環を形成してもよく;R29及びR30はそれぞれ独立に置換基を有していてもよいC1-18アルキル基を示し; Y21及びY22はそれぞれ独立に-O-、-S-、-Se-、-CH=CH-又は-C(R31)(R32)-(式中、R31及びR32はそれぞれ独立に水素原子、又は置換基を有していてもよいC1-6アルキル基を示す)を示し;M-は電荷の中和に必要な個数の対イオンを示し;X21、X22、X23及びX24はそれぞれ独立に水素原子、2-ピリジルメチル基、2-ピリジルエチル基、2-メチル-6-ピリジルメチル基、又は2-メチル-6-ピリジルエチル基を示すが、X21、X22、X23及びX24からなる群から選ばれる基のうち少なくとも1つは2-ピリジルメチル基、2-ピリジルエチル基、2-メチル-6-ピリジルメチル基、及び2-メチル-6-ピリジルエチル基からなる群から選ばれる基を示し;m'及びn'はそれぞれ独立に0又は1を示す〕で表される化合物又はその塩。
  2. R21、R22、R23、R24、R25、R26、R27及びR28が水素原子であり、Y21及びY22が-C(CH3)2-であり、R29及びR30がスルホ基で置換されたC1-18アルキル基である請求項1に記載の化合物。
  3. 請求項1又は2に記載の化合物を含む亜鉛蛍光プローブ。
  4. 請求項1又は2に記載の化合物と亜鉛イオンとから形成される亜鉛錯体。
  5. 亜鉛イオンの測定法であって、下記の工程:
    (a)請求項1又は2に記載の化合物と亜鉛イオンとを反応させる工程、及び
    (b)上記工程(a)で生成した亜鉛錯体の蛍光強度を測定する工程
    を含む方法。
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