JP5255030B2 - 縮小されたゲノムを有する細菌 - Google Patents

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Description

[関連出願に対する相互参照]
本出願は、2002年1月23日に出願した米国特許出願第10/057,582号および2002年9月6日に出願した米国特許仮出願第60/409,080号の1部継続出願であり、両出願は、その全体を参考として本明細書に引用する。
[連邦政府による委託研究または開発に関する声明]
本発明は、下記の機関によって与えられた米国政府支援によってなされた:NIH GM35682。
米国は、本発明においてある種の権利を有する。
細菌類を使用して広範囲の商業的製品が生産されている。例えば、多くのストレプトマイセス(Streptomyces)株およびバシラス(Bacillus)株を使用して抗生物質が生産されており;シュードモナス デニトリフィカンス(Pseudomonas denitrificans)および多くのプロピオニバクテリウム(Propionibacterium)株を使用してビタミンB12が生産されており;幾つかの他の細菌類を使用してビタミンリボフラビンが生産されており;ブレビバグテリウム フラブム(Brevibacterium flavum)およびコリネバクテリウム グルタミクム(Corynebacterium glutamicum)を使用して、それぞれ、食品添加剤としてのリシンおよびグルタミン酸が生産されており;他の細菌類を使用して、食品添加剤として使用する他のアミノ酸類が生産されており;アルカリゲネス ユートロファス(Alcaligenes eutrophas)を使用して生分解性微生物プラスチック類が生産されており;さらに、多くのアセトバクター(Acetobacter)株およびグルコノバクター(Gluconobacter)株を使用して食酢が生産されている。さらに最近では、大腸菌(E. coli)のような細菌類においては、遺伝子操作してたんぱく質および核酸類のような生物学的試薬の製造用の宿主細胞として使用することが実験および工業的分野において一般的になってきている。製薬工業においては、ファーメンターで培養したE. coli培養物中で製造したヒトたんぱく質である成功裏の製品の幾つかの例が裏付けされている。
標準の細菌たんぱく質が操作細菌からの所望たんぱく質生成物の産生または精製に有害な影響を与えることは、稀な現象ではない。例えば、E. coli菌を宿主細胞として使用し、プラスミドにより該宿主細胞に導入した遺伝子によってコード化された所望生成物を大量に産生させる場合、ある種の標準E. coli遺伝子産生物は、プラスミドDNAの導入および維持に干渉し得る。さらに詳細には、細菌中でのたんぱく質類の製造における細菌培養の経済性においては、多くの場合、組換えたんぱく質の精製コストは産生コストよりも大であり得、細菌宿主によって産生された天然たんぱく質のあるものは注意を要する精製問題である。さらに、多くの細菌株は、産生させるターゲットたんぱく質から精製除去しなければならない毒素類を産生させ、また、ある種の株は、偶然的に、ターゲットたんぱく質に粒度的に近似した天然たんぱく質を産生させ得、そのために、粒度分離を精製工程において利用できないものにしている。
一方、組換えたんぱく質を産生させるのにファーメンター内で使用する細菌のゲノムは、多くの不必要な遺伝子も含む。自然環境において生存する細菌は、多くの状況応答性遺伝子を有して、温度、ストレスまたは食料源の欠如の難しい環境条件に生き延びるメカニズムを取得する。発酵槽中で生存する細菌は、これらの問題を有せず、従って、これらの状況応答性遺伝子を必要としない。これらの細菌宿主は、これらの遺伝子を複製する増殖サイクル毎に代謝エネルギーを費やす。即ち、組換えたんぱく質の産生のために使用する細菌宿主によって産生された不必要な遺伝子および不必要なたんぱく質は、改良し得るであろう系の能力を欠如するに至らせる。
微生物のゲノムに欠失を構築することは、それほど難しいことではない。ゲノム領域を単純に欠失させることにより生物体において無作為欠失試験を実施して生物体のどの特質が欠失遺伝子によって喪失するのかを研究することは可能である。しかしながら、ゲノムDNAの特定領域のターゲット欠失を構築することはもっと難しく、その方法の目的の1つが挿入DNA(以下、“瘢痕(scars)”と称する)を欠失後の生物体内の後まで残さないことである場合にはさらにもっと難しい。挿入DNAの領域、即ち、瘢痕がゲノム欠失手順後まで残る場合、これらの領域は、望ましいゲノム領域から切除するかあるいはゲノムの再配列を生じ得るであろう望ましくない組換え現象のための位置であり得る。1連の複数の欠失を構築する場合には、前の工程において残った瘢痕は、後に続く欠失工程のための人工的ターゲットとなり得るであろう。このことは、その方法を繰返し使用してゲノムから1連の欠失を発生させる場合にとりわけそのようである。換言すれば、生物体は、欠失加工により、挿入DNAが後まで残った場合に遺伝子的に不安定になる。
[発明の要約]
本発明は、生物体のゲノムを好ましくはゲノム中に瘢痕を残すことなく縮小する方法を提供する。
1つの実施態様においては、本発明は、遺伝子操作されて天然親株のゲノムよりも少なくとも2%〜20%小さいゲノムを有する細菌を提供する。好ましくは、上記ゲノムは、天然親のゲノムよりも少なくとも7%小さい。より好ましくは、上記ゲノムは、天然親株のゲノムよりも8%から14%ないし20%小さい。生成物を産生させるのに使用するとき、小さめのゲノムを有する細菌は、以下の利点の1つ以上を有し得る。1つは、生産方法が、資源消費量の点または生産速度、最終的な収率割合の点のいずれかにおいて、あるいは3点すべてにおいてより効率的であり得る。2つ目は、生成物の精製工程を簡素化することができ、あるいはより純粋な生成物を製造することができる。3つ目は、天然たんぱく質の干渉のために以前には生産できなかった生成物を生産することができる。4つ目は、所望生成物の細胞当りの収率を増大させることができる。
また、本発明は、生物体、好ましくは細菌、に関し、前記生物体は操作されて“クリーンゲノム”、即ち、例えば、細菌の増殖および代謝に不必要なある種の遺伝子、挿入配列(転置因子)、偽遺伝子、プロファージ、内因性制限修飾遺伝子、病原性遺伝子、毒素遺伝子、線毛遺伝子、ペリプラズムたんぱく質遺伝子、浸入遺伝子、未知の機能の配列および細菌の同じ天然親種の2つの株間で共通して見出せない配列のような遺伝子物質が欠落したゲノムを有する。細胞の生存、および培養における特定のたんぱく質の産生に必要ではない他のDNA配列を欠失させることもできる。本発明の縮小されたゲノム細菌は、有用な生成物の発現のための無数の遺伝子因子並びに所望の生成物の発現を微調整または最適化する前例の無い機会を提供する遺伝子制御因子を加え得る基本的な遺伝子骨格とみなし得る。
また、本発明は、操作からの残留DNAを何ら残さない細菌ゲノムからの遺伝子および他のDNA配列のターゲット欠失(無瘢痕欠失)のための材料および方法も提供する。本発明の方法は、欠失部位の周りのゲノムDNA配列中に変異を導入したりあるいは残留DNAを残すことはほぼないので、ゲノム内に望ましくない相同的組換えの可能性を増大させることなく細菌中に1連の欠失を形成させるのに使用し得る。これらの方法の幾つかは、例えば、バクテリオファージ、天然プラスミド等内において、さらには哺乳類および植物類のようなより高等な生物体内において同様な欠失を構築するのにも有用である。
第1の欠失方法は、線状DNAに基づく(線状DNA系)。この方法を実施するためには、先ず、線状DNA構築物を細菌中で調製し、細菌ゲノムの1つの領域を、相同的組換えの頻度を増大させる細菌中に存在する系によって助長される相同的組換えにより、上記線状DNA構築物で置換える。次に、細菌中に前以って導入した別個の遺伝子が配列特異性ヌクレアーゼを発現して上記線状DNA構築物上に位置する特異な認識部位で細菌ゲノムを切断する。その後、上記線状DNA構築物の1端のゲノムDNA中のターゲットと相同性のDNAを含有するように操作したDNA配列が上記線状DNA構築物の他端近くに位置した同様なゲノムDNAにより相同的組換えを受ける。正味の結果は、ゲノムの1つの領域の正確な欠失である。
第2の方法も線状DNAに基づく(線状DNA系)。1つの配列が欠失すべき細菌ゲノム領域の1端に隣接する配列に同一であり、もう1つの配列が欠失すべき細菌ゲノム領域の他端に隣接する配列と同一である2つのDNA配列をベクター中に操作して、上記2つの配列を互いの次に位置させる。少なくとも1つの配列特異性ヌクレアーゼ認識部位も上記2つの配列の片側上でベクター中に操作する。ベクターを細菌中に導入し、線状DNAを、細菌内部に、上記配列特異性ヌクレアーゼ認識部位を認識し且つ細菌内の上記ベクターを切断するヌクレアーゼを細菌の内側に発現させることによって産生させる。上記線状DNAは、相同的組換えの頻度を増大させる細菌内に存在する系によって助長される細菌ゲノムによる相同的組換えを受ける。そのゲノムに残留人工物のないターゲット欠失を有する細菌がこのようにして産生される。
また、上述した第2方法を使用して、細菌ゲノムの選定された領域を所望のDNA配列で置換えることもできる。この場合、選定された領域により相同的組換えを受け得る、従って、選定された領域と置換わり得る所望のDNA配列を上記ベクター中に操作する。全ての他の局面は、ターゲット領域を欠失させるのにおけるのと同じである。
第3の方法は、自殺プラスミドに基づく(自殺プラスミド系)。この方法において使用する特異的プラスミドは、プロモーターおよび抗生物質耐性遺伝子のような選択性マーカーによって制御された複製起源を含有する。細菌ゲノムのターゲット領域を欠失させるためには、1つの配列が欠失すべき細菌ゲノム領域の1端に隣接する配列に同一であり、もう1つの配列が細菌ゲノム領域の他端に隣接する配列と同一であり、互いに正しく次に位置させた2つのDNA配列を含有するDNA挿入物を、上記プラスミド中に挿入する。その後、このプラスミドを細菌中に導入し、細菌ゲノム中に組込む。次に、プロモーターを活性化させ、細菌ゲノム中に導入した異所性起源からの複製を誘発させて組換え現象を選択させるようにする。多くの細菌類において、この組換え現象は細菌ゲノムのターゲット領域の正確な欠失をもたらすであろうし、これらの細菌を特定させ得る。組換え現象について選択する別の方法は、配列特異性ヌクレアーゼの認識部位を上記特異性プラスミド中に操作し、上記プラスミドを細菌ゲノム中に組込みさせた後、細菌ゲノムを配列特異性ヌクレアーゼによって切断することである。
上述した自殺プラスミド系方法は、細菌ゲノムの選定された領域を所望のDNA配列で置換えるのにも使用し得る。この場合、選定された領域により相同的組換えを受け得る、従って、選定された領域と置換わり得る所望のDNA配列を含有するDNA挿入物を上記プラスミド中に挿入する。全ての他の局面は、ターゲット領域を欠失させるのにおけるのと同じである。
本発明の方法は、特に、組換え遺伝子産生物を製造するための縮小されたゲノム細菌を操作するのに有用である。そのような操作細菌は、生産効率および所望遺伝子産生物の収率を増大させさらに不必要な細菌遺伝子産生物の排除により産生物のより効率的な精製を可能にすることによって、そのようなたんぱく質の改良された生産を可能にする。本発明の好ましい縮小されたゲノム細菌は、ペリプラズムたんぱく質および/または膜たんぱく質をコード化する1種以上の天然遺伝子を欠失させた細菌である。
また、本発明は、本発明の方法を実施するのに使用するDNA類およびベクター類、該DNA類の製造方法、および本発明の1種以上のDNA類またはベクター類と任意成分としての適切な緩衝液、プライマー、エンドヌクレアーゼ、ヌクレオチドおよびポリメラーゼ類とを含有するバイアルを含むキットにも関する。
また、本発明の方法は、本発明の縮小されたゲノム細菌を含むあるいは抗原決定子の発現を可能にする発現制御配列と操作的に結合させた病原性生物体の抗原決定子をコード化するDNAを導入した本発明の縮小されたゲノム細菌を含む生ワクチンにも関する。また、本発明の範囲には、病原性生物体に由来し必要に応じて複製起源を有するDNAを導入した本発明の縮小されたゲノム細菌を含む生ワクチンも属し、この生ワクチンは、病原性生物体に対して宿主内に増強された免疫応答を誘発させることができる。上記DNAは、好ましくは、メチル化部位においてメチル化されている。また、本発明は、病原性生物体のゲノムから病原に応答性の遺伝子を他の抗原決定子を保持させながら欠失させることによって、病原性生物体から製造した生ワクチンにも関する。
本発明の他の目的、特徴および利点は、以下の詳細な説明を考察することによって明らかになるであろう。
自然環境下の細菌類は、標準の工業的または実験室増殖においては通常経験しない多くの条件に曝され、従って、これら生物体の工業的または実験室使用においては必要ではあり得ない多数の条件依存性遺伝子、ストレス誘発性遺伝子または別の本質的でない遺伝子を担持している。本発明は、細菌株のゲノム内に含まれる遺伝子情報の多くは、工業上または実験上の重要性を有する方法における細菌培養物の使用に対して有害作用なしに欠失させ得ることを認識したことから始まった。縮小されたゲノムを有する細菌は多くの工業的および実験室用途において天然株よりも有利であることを認識した。例えば、縮小されたゲノムを有する細菌は、少なくとも幾分かは代謝要求性が小さく、従って、所望の生成物をより効率的に産生させ得る。さらに、縮小されたゲノムは、より少なめの天然生成物およびより低めの量のある種の天然たんぱく質に導き得、残存する細菌たんぱく質からのより容易な所望たんぱく質の精製を可能にする。さらにまた、ある種の細菌ゲノム配列は、標準の工業上または実験上の実践に干渉し得且つ費用高で厄介な品質管理手順を伴ない得る不安定性に関連している。
また、本発明は、ゲノムからゲノムDNAを挿入DNAを何ら後まで残すことなく欠失させる幾つかの方法にも関する(無瘢痕欠失)。細菌ゲノムを構成する単一DNA分子から数配列の欠失を構築する場合、挿入DNA配列を何ら後まで残さないことが重要である。そのような挿入配列は、後まで残存した場合、残りのゲノムの特性決定していない恐らくは重要な部分を細菌から欠失させるかあるいは有害な作用を有する他の予期し得ないゲノム再配列を引起す望ましくない組換え現象のための候補部位であろう。ゲノム縮小試みの1つの目的は細菌の遺伝子安定性を増大させることであるので、如何なる挿入DNAの後までの残存はこの目的に相反することであり、回避すべきである。即ち、ゲノムからDNAを欠失させるのに使用する方法が重要で高度になる。
1つの局面においては、本発明は、遺伝子操作されて天然親株のゲノムよりも小さいゲノムを有する細菌に関する。例示を目的として、本明細書において説明する研究を一般的な実験および工業用細菌の大腸菌に絞る。本明細書において説明するゲノム縮小研究は、本研究以前は4,639,221個のヌクレオチド即ち塩基対のゲノムを有していた実験用E. coli株K-12によって開始した。本発明の細菌は、その天然親株のゲノムよりも、少なくとも2%、好ましくは5%以上、より好ましくは7%以上で8%ないし14%ないし18%ないし20%ないし40%ないし60%まで小さいゲノムを有し得る。“天然親株”なる用語は、科学社会において一般的に理解されているような自然または天然環境において見出され、そのゲノム上で、1連の欠失を構築してより小さいゲノムを有する最近株を産生させ得る細菌株(または他の生物体)を意味する。ゲノムが1連の欠失後により小さくなる割合は、“全ての欠失後に欠失した塩基対の総数”を“全ての欠失前のゲノム中の塩基対の総数”で割り、100を掛けることによって算出する。
本発明のもう1つの局面は、そのたんぱく質コード遺伝子の約5%〜約10%を欠失した縮小されたゲノム細菌を含む。好ましくは、約10%〜20%の上記たんぱく質コード遺伝子を欠失させる。本発明のもう1つの実施態様においては、約30%〜約40%ないし約60%の上記たんぱく質コード遺伝子を欠失させる。
一般的に、欠失させ得る遺伝子および他のDNA配列のタイプは、その欠失が特定の増殖条件下での細菌の生存および増殖率に悪影響を与えないタイプである。悪影響の程度が許容し得るかどうかは、特定の用途による。例えば、増殖率の30%の低下は、1つの用途においては許容されるが、他の用途では許容されない。さらに、ゲノムからDNA配列を欠失させることの悪影響は、培養条件を変えることのような手段によって低減し得る。そのような手段は、許容し得ない悪影響を許容し得るものに変え得る。好ましくは増殖率は、親株とおよそ同じである。しかしながら、親株の増殖率よりも約5%、10%、15%、20%、30%、40%から約50%まで低い範囲の増殖率は、本発明の範囲内である。とりわけ、本発明の細菌の好ましい倍増時間は、約30分〜約3時間の範囲にあり得る。
本発明の細菌は、本発明の方法により操作して、所望生成物の製造において利用し得る資源(例えば、栄養素)の使用を最適にすることができる。それらの生成物は、組換えたんぱく質類、例えば、非限定的な例として、インシュリン、インターロイキン類、サイトカイン類、成長ホルモン類、成長因子類、エリスロポエチン、コロニー刺激因子類、インターフェロン、抗体類、抗原フラグメント類、または任意の他の有用な組換えたんぱく質であり得る。組換え生成物は、治療用製品、ワクチン成分、診断用製品、または研究試薬であり得る。上記細菌は、工業的に有用な生成物、例えば、バニリン、シキミ酸、アミノ酸類、ビタミン類、有機酸類等のような商業的に有用な代謝中間体および最終製品、および上記細菌内では天然には産生しないが代謝経路操作または他の遺伝子操作の結果として産生する化学化合物を発現させるためのバックグラウンドとして使用し得る(例えば、米国特許第6,472,16号および第6,372,476号を参照されたい。これら米国特許は、共に参考として本明細書に引用する)。
以下、E. coliを例として使用し、所望生成物をより効率的に産生し得る細菌を生成させるための欠失候補である遺伝子および他のDNA配列を例示する。説明する一般的原理並びに欠失候補として同定した遺伝子および他のDNA配列のタイプは、他の細菌種または株にも応用可能である。欠失候補として以下で同定した遺伝子および他のDNA配列は単なる例であることを理解されたい。同定していない多くの他のE. coli遺伝子および他のDNA配列も、細胞の生存および増殖に許容し得ないレベルまで影響を与えることなく欠失させ得る。
以下に説明する分析および方法論においては、ターゲット細菌株のバクテリオファージゲノムまたは天然プラスミドのDNA配列の少なくとも1部が入手可能であることを前提としている。好ましくは全配列を入手し得ることである。そのような完全または部分配列は、ジーンバンクデータベースにおいて容易に入手し得る。数種のE. coli株の完全ゲノム配列は、勿論、現在公表されており(例えば、Blattner et al., Science, 277:1453-74, 1997 K-12 Strain MG1655;GenBank Accession No. U00096も参照されたい;Perna et al, Nature, 409, 529-533, 2001;Hayashi et al, DNA Res., 8, 11-22, 2001;およびWelch et al., Proc. Natl. Acad. Sci., USA (2002) 99 (26) 17020-17024およびGenBank Accession No. AE014075、これらは、すべて参考としてその全体を本明細書に引用する)、数種の他の一般的に使用する実験用細菌の配列も同様である。欠失処理を開始するために、細菌のゲノムを分析し良好な欠失候補を示す配列を探索する。勿論、これらの技法は、配列データが入手できるかあるいは決定できたゲノム領域内の部分配列ゲノムにも適用できる。
E. coliおよび他の細菌同様、より高等な生物体においても、欠失させ得るDNA配列のタイプとしては、一般に生物体またはその生物体の遺伝子生成物の安定性に悪影響を与えるタイプがある。不安定性を誘発させるそのような因子としては、転置因子挿入配列、およびゲノム不安定性の一因となり得る他の“利己的DNA”因子がある。例えば、挿入配列(IS)因子およびその関連転置体は細菌ゲノムにおいてしばしば見出され、従って、欠失のターゲットである。IS配列はE. coliにおいて一般的であり、これらはすべて欠失させ得る。本明細書においては明確化を目的として、用語IS因子および転置因子は、ゲノム内である点から他の点に移動し得る無欠または欠損のDNA因子を包括的に称するものとして使用する。科学的および技術的なIS因子の有害作用の例は、シークエンシングのための増殖中に宿主E. coliのゲノムからBACプラスミド中に跳び越え得るという事実である。多くの例は、ジーンバンクデータベースのヒトゲノムおよび他の配列において見出される。この人為物は、全てのIS因子の宿主細胞からの欠失によって阻止し得た。特定の用途においては、ゲノム不安定性に関連する他の特定の遺伝子も欠失させ得る。
図1においては、本来的に、K-12株において、4,639,221個の塩基対を含むE. coliゲノムの例を示している。図1は、内側リング上に、欠失なしで計ったE. coli K-12ゲノム(株MG1655)の塩基対位置の尺度を示している(前出のBlattner et al., も参照されたい)。
次第に外側に向う次のリングは、関連株O157:H7においては消失しているかあるいは高度に変化しており、従って、K-12ゲノムにおいて潜在的に検出可能であるK-12ゲノムの領域を示している。外側の次のリングは、天然ゲノム中の完全または部分的双方のIS因子の位置を示している。外側に向う次のリングは、ここでとりわけ欠失のターゲットとするRHS因子A〜E並びに鞭毛および制限領域の位置を示している。最外リングは、下記の表1および2にも列挙しているような、ゲノムに対して実際に構築した欠失の位置を示している。
これらの欠失は、元のK-12 MG1655ゲノム中の塩基対の約14%を構成する。本発明の方法を使用すれば、18%〜20%ないし約40%のゲノムが、本明細書で説明する設計パラダイムを使用して欠失されるであろう。
欠失させ得るもう1つの群のE. coli遺伝子は、それらの産生物が外来DNAを破壊する制限修飾系遺伝子および他の内因性ヌクレアーゼである。これらの遺伝子は、培養環境における細菌の生存および増殖においては重要ではない。また、これらの遺伝子は、細菌中に導入したプラスミドを破壊することによって遺伝子操作に干渉する。E. coliゲノムマップ上の制限修飾系遺伝子の位置は、図1および表1に示している。本発明の1つの実施態様においては、他のDNAメチラーゼ遺伝子、例えば、真核生物メチラーゼ遺伝子を欠失E. coli株に加え戻してこの株をある種の用途用に最適化することもできる。
欠失させ得るもう1つの群のE. coli遺伝子は、鞭毛遺伝子群である。鞭毛は、細菌内の運動性に応答性である。自然環境においては、細菌は栄養素を探して泳動する。培養環境においては、細菌運動性は細胞の生存および増殖にとっては重要ではなく、泳動活動は代謝的に極めて費用高であり、1%以上の細胞エネルギーを消費し有益ではない。このように、鞭毛遺伝子は、小さめのゲノムを有する細菌を産生させるのに欠失させ得る。E. coliゲノムマップ上の鞭毛遺伝子の位置は、図1および表1に示されている。
欠失させ得る、既に述べたE. coli DNA因子の1つのタイプは、IS因子(即ち、転置因子)である。IS因子は、培養環境における細菌の生存および増殖には重要ではなく、ゲノム安定性に干渉することが知られている。即ち、IS因子は、小さめのゲノムを有する細菌を産生させるのに欠失させ得る。E. coliゲノムマップ上のIS因子の位置は、図1および表1に示している。
欠失させ得るもう1つのタイプのE. coli DNA因子はRhs因子である。全てのRhs因子が3.7KbのRhsコアを共有し、このコアは、相同的組換えによるゲノム再配列のための手段を提供する大きな相同性の繰返し領域である(E. coli K12中に5つのコピーが存在する)。Rhs因子は、ある種の他のバックグラウンドにおいて大いに進化し種としてのE. coliの分岐後の水平交換によりE. coliに拡散した付属因子である。E. coliゲノムマップ上のRhs因子の位置は、図1および表1に示している。
欠失させ得るE. coliゲノム内の1つのタイプの領域は、細胞の生存および増殖にとってあまり重要ではなさそうなことから、非転写領域である。欠失させ得るE. coliゲノム内のもう1つのタイプの領域は、hsd領域である。hsd領域は、上述した主要制限修飾遺伝子群をコード化する。E. coliゲノムマップ上の非転写領域およびhsd領域の位置は、図1および表1に示している。
プロファージ、偽遺伝子、毒素遺伝子、病原性遺伝子、ペリプラズムたんぱく質遺伝子、膜たんぱく質遺伝子も、本明細書において説明する遺伝子選択パラダイムに基づき、欠失させ得る遺伝子の中に属する。E. coli K-12 (前出のBlattner et al., 参照)の配列をその近似関連物O157:H7 (前出のPerna et al., 参照)の配列と比較した後、22%(K-12)および46%(O157:H7)の該たんぱく質コード化遺伝子が、比較的一定の主鎖中にランダムに挿入された1〜85 kbの株特異性島部上に位置していることを検証した。
欠失させ得る他の遺伝子としては、例えば、溶菌ファージT1に対するレセプターをコード化するton A (FhuA)および/またはその完全オペロンfhu ABCのようなバクテリオファージレセプターをコード化する遺伝子がある。
欠失候補としてのさらなる遺伝子およびDNA配列を同定する1つの一般的方法は、1つの細菌株のゲノムを1つ以上の他の株と比較することである。2種または3種の株中に存在しないDNA配列は、いずれも機能的な本質性は小さいようであり、従って、欠失候補を同定するのに使用し得る。後述の実施例においては、2種のE. coli株、即ち、O157:H7 EDL933とK-12 MG1655の完全ゲノム配列を比較した。双方の株において見出せなかったDNA配列を使用して欠失ターゲットを同定した。E. coli株MG1655からそのようにして同定した12種のターゲットを欠失させ、約8%小さいゲノムを有する細菌株を得た。縮小されたゲノムを有するこの細菌は、天然親MG1655株と実質的に同じ速度で増殖する。
尿路病原性E. coli株 CFT073 H7 (前出のWelch et al., 参照)のDNA配列は最近決定されており、その配列をK-12 (MG1655)およびO157:H7と比較した。結果は、いずれか1つのゲノムにおいて見出された全コード遺伝子の約40%のみがこれらゲノムの全てにおいて存在しており、CFT073、K-12およびO157:H7は67%、43%および68%の株特異性島遺伝子からなっていることを示している。この情報に基づき、約60%程の多くのたんぱく質コード配列をE. coliから欠失させ得る。好ましくは、少なくとも5%または約90%または約15%または約21%のたんぱく質コード遺伝子を欠失させる。さらに好ましくは、約30%のたんぱく質コード遺伝子を欠失させる。1つの株においては増殖に不可欠であるが他の株においては増殖には必要でない遺伝子が存在し得ることに留意すべきである。そのような場合、その株の増殖に不可欠の遺伝子は、その株から欠失させないかあるいは、欠失させる場合には、補完的機能を有して株の増殖を可能にするもう1つの遺伝子で置換える。
本発明の特定の実施態様においては、配列情報を使用してE. coliゲノムからさらなる遺伝子を選定し(本発明の方法を使用して)、約100個の“島”と周囲DNAを除去する73の欠失を含有し、最少培地で培養したときに依然として適切な株の増殖を可能にする約3.7メガベースのゲノム(K-12よりも約20%小さい)を生成させる。この設計はまた、ゲノムからの潜在的残存転置因子(IS配列)の完全な排除とも称する。
ペリプラズム洗浄およびたんぱく質発現
本明細書において説明する理由により、細菌のペリプラズム(周辺細胞質)空間中に分泌する組換えたんぱく質の産生が当該技術において求められており、本発明の方法は、ペリプラズム発現を最適にする細菌操作法を提供する。
E. coliのようなグラム陰性菌は、2つの細胞膜、即ち、内部細胞膜と外部細胞膜を有する。2つの膜は、ペリプラズム空間(PS)によって分離されている。適切なシグナル配列を有する細菌たんぱく質は、少なくとも2つの異なる系、即ち、Sec-系およびTat-系によって内部細胞膜を経てPS中に分泌する。(Danese et al., Annu. Rev. Genet. (1998) 32:59-94;Fekes et al., Microbiol. Nol. Biol. Rev., (1999) 63:161-193;およびPugsley, Microbiol. Rev. (1993) 57:50-105 [sic];Hynds et al., (1998) J. Biol. Chem. 273:34868-34874;Santini et al. (1998) EMBO J. 17:101-112;Sargent et al., EMBO J. 17:101-112 [TAT]、これらは、全て参考として本明細書に引用する)。
Sec-系は、適切なシグナルペプチドを認識し、細胞質ATPと電子運動力を利用して、たんぱく質をペリプラズム中に折り畳まれていない(unfolded)状態で輸送する。シグナルたんぱく質の開裂後、新たなたんぱく質は、シャペロン類、ペプチジル-プロリルイソメラーゼ、およびジスルフィド結合形成を触媒するチオレドキシン結合系の助けにより折り畳まれる。例えば、Hynds et al., (1998) J. Biol. Chem. 273:34868-34874;Santini et al. (1998) EMBO J. 17:101-112;Sargent et al., EMBO J. 17:101-112 [TAT]を参照されたい。これらの文献は、全て参考として本明細書に引用する。
Sec-系とは対照的に、Tat-系は、完全に折り畳まれた(folded)高次構造の大きなたんぱく質を輸送し、適切なシグナル配列の認識においてより特異的である。本発明者等は、ペリプラズムを以下の理由により選定した:(1) ペリプラズムは、不均質組換えたんぱく質を発現させるのに好ましい部位である;(2) 制御された条件における工業的使用においては、ペリプラズムは多くの不必要なたんぱく質を含む;さらに、(3) ペリプラズムは多くの不必要な適応および制御系に関与し、それらの系の幾つかは有害なようである。ペリプラズムから天然たんぱく質を除去することにより、たんぱく質生産方法を大いに改良し得るものと予想した。ペリプラズム中でのたんぱく質の発現および分泌は、Hanahan, D., J. Mol. Biol., 1983, 166(4):p. 557-80;Hockney, R.C., Trends Biotechnol., 1994, 12(11):p. 456-632;およびHanning G., et al., Trends Biotechnol., 1998, 16(2):p.54-60において検討されており、これらは全て参考として本明細書に引用する。
ペリプラズムがたんぱく質産生のための好ましい部位であるという幾つかの理由が存在する:(1) 天然たんぱく質と同一のアミノ末端を有する組換えたんぱく質を産生させることができるが、細胞質においては、たんぱく質はアミノ酸メチオニンによって常に開始する;(2) 多くのたんぱく質は、ペリプラズム空間に正確に折り畳まれる;(3) 正確なジスルフィド結合がペリプラズムの酸化性環境で形成され得る;(4) ペリプラズム空間は、細胞質よりのかなり少量ではるかに少数のたんぱく質を含有し、精製を簡素化する;(5) 細胞質におけるよりもプロテアーゼ類が少なく、たんぱく質の消化および損失を軽減させる;(6) 発現たんぱく質は、外部膜を特異的に分裂させることにより、他のペリプラズムたんぱく質と一緒に容易に放出し得、より豊富な細胞質たんぱく質を実質的に含まない。ペリプラズム空間は、内部膜を介して、細胞の細胞質代謝に関連した天然酵素系を有し、恐らくはこれが大部分の内部および外部膜たんぱく質が処理されるオルガネラであることから、これらの処理事項を引受けている。対照的に、細胞質の還元性環境において発現した組換えたんぱく質鎖の適切な折り畳みを得ることは極めて困難であることが証明されている。多くの場合、たんぱく質は、不溶性の“封入体”として凝集する。初期の封入体精製は相対的に簡単ではあるものの、たんぱく質は再溶解または再折り畳みしなければならず、予測性がなく、かつコントロールするのが難しく、またある種のたんぱく質においては、工業的規模では処理し得ないほどに非効率な方法である。
組換えたんぱく質は、ペリプラズム内では、ペリプラズム空間中への分泌を起すシグナルペプチドに結合している融合たんぱく質を発現させることによって一般に産生させる。
上記シグナルペプチドは、特異的なシグナルペプチダーゼによって極めて正確に開裂する。第2世代の組換えヒト成長ホルモンは、この方法により、Genentech社(Nutropin、Full Prescriber Information)およびPharmacia社によって製造されている。全てのたんぱく質がこの経路によって成功裏に産生され得るものではなく、分泌および分泌後処理システムは限られた能力しか有さないことの証拠が存在する。また、対処すべきたんぱく質汚染物も依然として存在する。注目すべきは、1つのそのような承認された製品について、その製品が痕跡量のE. coliペリプラズムたんぱく質を含有し、ある種の患者に抗体産生を引起すという警告がなされている(Gonotropin:Full Prescriber Information)。このことは臨床における問題ではないことが要求されているが、望ましくないものとみなすべきである。本発明の材料および方法は、この問題の軽減または削減を可能にするであろう。
当該技術において、PS中に分泌する組換えたんぱく質を産生させることが求められている。この分泌は、Sec-もしくはTat-系またはそれぞれの細菌において利用し得る任意の他の分泌性病原体を使用することによって達成し得る。いずれの場合も、適切なシグナルペプチドを組換えたんぱく質に添加する。Sec-系が使用される場合には、以下の追加の試験を必要とする。Sec-系は高効率発現構築物によって飽和され得ることが報告されているので、最初の群の試験は、PS中で適切に輸送され折り畳まれ得る最適発現レベルの組換えたんぱく質を含む系を開発することである。
本発明の縮小されたゲノム細菌におけるペリプラズム発現において有用な組換えDNA構築物は、たんぱく質のペリプラズム空間への輸送を介在し得るシグナルペプチドをコードし、少なくとも所望不均質たんぱく質をコードする第2のDNA配列に操作的に結合させた第1のDNA配列を含む。上記シグナル配列は、発現させるたんぱく質に対して生来のものであり得る。好ましくは、ペリプラズム空間中に輸送されるたんぱく質は、生物学的に活性である。上記組換えDNA構築物の発現は、誘発性プロモーターまたは宿主細菌中で構成的に発現されるプロモーターの制御下にあり得る。誘発性プロモーターの使用は、飽和性であることが知られているSec-系を使用する場合にとりわけ有利である。例えば、非代謝性ガラクトース誘導体であるIPTGによって誘発性のlac系プロモーター/レプレッサーを使用し得る。そのようなプロモーターは、Sec系による発現および分泌の微調整を可能にし、それによってペリプラズム発現を最適にする。
また、上記組換えたんぱく質は、シャペロン類/ジスルフィド結合形成性酵素類と一緒に共発現させて組換えたんぱく質の適切な折り畳みを確実にすることができる。組換えたんぱく質のペリプラズム発現において有用なDNA配列としては、限定するものではないが、米国特許第5,747,662号、第5,578,464号、第6,335,178号および第6,022,952号;Thomas et al., Mol-Micro, (2001) 39 (1) 47-53;Weiner et al., Cell, (1998) 93, 93-101;および Current Protocols in Molecular Biology (1994) 16.6.1-16.6.14 (John Wiley et al. and Sons社による2000年版権)に記載されている配列があり、これらの文献は、全て参考として本明細書に引用する。
本発明の1つの実施態様においては、9種の既知および3種の推定ペリプラズムたんぱく質遺伝子を、MDS40の構築において、該生物体の最少培地での増殖能力に有意の影響を与えることなく、成功裏に欠失させた。(表4および下記のデータを参照されたい)。これらの変異体は、アミノ酸取込み、無機物代謝、細胞膜維持性、砂糖代謝および接着性のような機能範囲に影響を与えている。
各々のシグナルペプチド配列によって同定した既知または推定膜たんぱく質をコードするおよそ85種の遺伝子を欠失させている。これらのうち、33種は鞭毛構造または生合成に関与しており;9種は線毛構造または生合成に関与しており;13種は一般的な分泌経路に関与している。残りは、細胞膜内で種々の既知または推定機能を有する。これらたんぱく質の多くはペリプラズム空間内で処理されたものと信じている。また、これらは、MDS40の構築においても、該生物体の最少培地での増殖能力に有意の影響を与えることなく欠失させている。
シグナルペプチド様配列について注釈付きMG1655データベースで調査し、そしてこれらを文献と相互関連付けることにより、その大多数が居留ペリプラズムたんぱく質であると信じられる181種のたんぱく質を同定している。これらのたんぱく質の多くは、機能に応じて、以下を除く数群に分類した:接着性と運動性;栄養素および塩取込み性;微量元素取込み性;環境感知性;防御および保護性;並びに、ペリプラズムたんぱく質分泌および加工性。欠失させたあるいは欠失させる予定の遺伝子または完全オペロンのうち、バイオ製薬製造にとっては限定された最少培地について触れる必要もなさそうな砂糖およびアミノ酸輸送たんぱく質をコードするものが存在する。
PSへの組換えたんぱく質輸送効率をモニターするためには、3種の商業的に入手可能な標識(tag):E. coliアルカリホスファターゼ、Aequoriaグリーン蛍光たんぱく質(GFP)またはヒト成長ホルモンたんぱく質のいずれかを上述の方法に従って使用し得る。ヒト成長ホルモンたんぱく質は、最終実証目的のためには現在のところ最も好ましく、PSへの組換えたんぱく質局在化のELISAおよび遺伝子チップ系測定において使用する。
ゲノムからの1種または数種の遺伝子または他のDNA配列の欠失の結果も試験し得る。例えば、ゲノムの1種または数種の遺伝子または他のDNA配列を欠失させた後、得られた細菌の生存および増殖率を測定できる。上記で同定した遺伝子または他のDNA配列の殆どは所望の生成物を産生させる目的に対して有害な作用なしで欠失させ得るものの、特定の遺伝子または他のDNA配列の欠失が細胞死のような許容し得ない結果または増殖率における許容し得ない低下レベルを有し得る可能性がある。この可能性は、遺伝子機能の重複性および生物学的経路の相互作用のために存在する。株中でさらなる欠失なしで生存し得るある種の欠失は、他の欠失と組合せてのみ有害であろう。上記の可能性は、欠失候補を同定するのに使用したある種の方法故にも存在する。例えば、欠失候補を同定するのに使用する1つの方法は、2つのE. coli株を比較し株の双方に存在しない遺伝子または他のDNA配列を選定することである。これらの遺伝子または他のDNA配列の大多数は機能的に本質的でないようであるけれども、これらの幾つかは特異な株においては重要であり得る。欠失候補を同定するのに使用するもう1つの方法は、非転写領域を同定することであり、ある種の非転写領域はゲノム安定性にとって重要であり得る可能性がある。
試験する1種または数種の遺伝子または他のDNA配列の結果は、用途目的による。例えば、多くの用途に当てはまる高生産効率が主な関心事である場合、増殖率および培地消費率に対する欠失の効果が試験結果であり得る。この場合、試験結果は、特定の生成物の細胞当りの産生速度質および収率としてもより明確であり得る。天然たんぱく質汚染の排除が主な関心事である場合、少なめの天然たんぱく質数および低めの天然たんぱく質量または特定の天然たんぱく質の不存在が試験結果であり得る。
遺伝子または他のDNA配列の欠失結果を試験することは、その遺伝子またはDNA配列について殆ど知られていないときに重要である。難儀ではあるが、この試験は、縮小されたゲノムを有する細菌の構築における欠失候補を同定するもう1つの発展性のある方法である。この方法は、他の方法で同定した候補を欠失させ、さらなる候補を探しているときにとりわけ有用である。
遺伝子または他のDNA配列の欠失結果が1連の条件下での細菌の生存率に対して効果を有する場合、特定の遺伝子または他のDNA配列を欠失させない1つの別法は、有害な効果を緩和する手段があるかどうかを確認することである。例えば、リポ多糖類(LPS)遺伝子の欠失がLPSたんぱく質のトランスメンブランドメインの細胞膜からの不存在によって生じたさらに多孔質の細胞膜に基づき貧弱な生存をもたらすならば、培養条件を変えてそのより多孔質な細胞膜に適応させ、LPS遺伝子を欠落する細菌が正しくLPS遺伝子担持細菌と同様に生存し得るようにすることができる。
当業者にとって公知の細菌ゲノムからのDNA配列の欠失方法を使用して縮小されたゲノムを有する細菌を生成させることができる。これらの方法の例としては、限定するものではないが、Posfai, G. et al., J. Bacteriol. 179:4426-4428 (1997);Muyrers, J.P.P. et al., Nucl. Acids Res. 27:1555-1557 (1999);Datsenko, K.A. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. 97:6640-6649 (2000);および Posfai, G. et al., Nucl. Acids Res. 27:4409-4415 (1999)に記載されている方法があり、これらの文献は全て参考としてその全体を本明細書に引用する。基本的に、欠失方法は、線状DNAに基づく方法と自殺プラスミドに基づく方法に分類し得る。Muyrers, J.P.P. et al., Nucl. Acids Res. 27:1555-1557 (1999)およびDatsenko, K.A. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. 97:6640-6649 (2000)に開示されている方法は線状DNA系方法であり、Posfai, G. et al., J. Bacteriol. 179:4426-4428 (1997)およびPosfai, G. et al., Nucl. Acids Res. 27:4409-4415 (1999)に開示されている方法は自殺プラスミド系方法である。
細菌ゲノムからDNA配列を欠失させる幾つかの公知の方法は、欠失過程においてゲノム中に外来DNA配列を導入し、従って、それらの方法のいずれかを細菌において2度以上使用した場合に潜在的な望ましくない相同的組換え問題が発生する。この問題を回避するためには、無瘢痕欠失方法が好ましい。無瘢痕欠失とは、DNA配列をゲノムから欠失部位に何ら他の変異を発生させることなくさらに生物体のゲノム中に何らの挿入DNAを残すことなく正確に欠失させること意味する。しかしながら、PCR増幅およびDNA修復過程においてなされた間違いのような間違いに基づき、1個または2個のヌクレオチド変化が無瘢痕欠失中に時折導入され得る。以下、線状DNA系または自殺プラスミド系のいずれかの幾つかの新規な無瘢痕欠失方法を説明する。これらの新規な方法を、後述する実施例においては、E. coli株に応用している。各実施例においてE. coli株に対して使用した特定のベクターおよび条件は、当業者であれば、他の細菌における使用にも適応させ得ることを理解されたい。同様な方法およびプラスミドを使用して、より高等な生物体においても同様に作用させ得る。ある場合には、転移産生よりもむしろ現存の産生株を最小化されたゲノムE. coli株に修正することがより適切であり得る。
本発明の方法は細菌ゲノムの縮小における使用に限定されず、例えば、本発明方法は、P1、P2、ラムダおよび他のバクテリオファージのようなバクテリオファージゲノムからDNAを欠失させるのにも使用し得る。そのような方法は、バクテリオファージを操作してその有用な特性を改良するかおよび/またはそのようなバクテリオファージの種々の目的における使用を妨げるある種の特性を低下または排除させることを可能にする。同様に、本発明の方法は、細菌中に存在するプラスミドを修正してプラスミドから有害な因子(例えば、ビルレンス遺伝子)を排除しさらにプラスミドの他の有用な特性を改良するのにも有用である。
周知の汎用化された形質導入用バクテリオファージP1は、レシピエントE. coli中へのDNA形質導入用片として上記のように説明されている。しかしながら、P1のある種の遺伝子特徴は、形質導入のためのゲノムDNAをピックアップしパッケージングする能力を極めて制限している。とりわけ、P1のパッケージング部位(pac部位)は、GATCリッチ領域であり、P1のdamメチラーゼによってメチル化したとき、ファージコート中へのゲノムDNAの量を制限する。しかしながら、パッケージング部位のdam関連メチル化の不存在においては、DNAのパッケージングは“ルーズ”になる、即ち、パッケージングにより、パッケージング部位がメチル化される場合よりもゲノムDNAの部分がより容易に詰込まれる。従って、本発明の欠失方法を使用してP1ゲノムを操作してdam遺伝子を除去し、それによってゲノム物質をピックアップしパッケージングする能力を増強させることが有利であろう。dam
P1形質導入の使用に伴なうもう1つの欠点は、上記ファージが2つの挿入配列を担持していることにある。挿入配列においては、IS1がP1ゲノムのssbおよびprt座間に見出されている。さらに、IS5はres遺伝子中にある。結果として、P1を形質導入において使用する場合、挿入配列の1つ以上が生物体のゲノム座中にジャンプする結果となり得る可能性がある。従って、本発明の欠失方法を使用してP1ゲノムを操作してIS配列を欠失させ、それによってP1を形質導入体として使用した場合のゲノム汚染を阻止することが有利であろう。
上記の説明においては、本発明を特定の実施例に関連して説明している。本発明はこれらの実施例に限定されるものではなく、むしろ、特許請求の範囲により限定した精神および範囲を有するものと解釈すべきある。
本発明の実施態様のうちには、縮小されたゲノムを有するフレクスナー菌(Shigella flexneri)がある。最近、フレクスナー菌2a株2457Tの完全ゲノム配列が決定された。(このシークエンシング株は、American Type Culture Collectionに受入れ番号ATCC 700930として再寄託された)。フレクスナー菌のゲノムは、50.9%のG+C含有量を有する4,599,354個の塩基対(bp)の単一環状染色体からなる。この染色体の塩基対1は、上記細菌が広範囲の相同性を有することから、E. coli K-12の塩基対1に相応するものと指定された。上記ゲノムは、873個の塩基対の平均サイズを有する約4,082種の予測遺伝子であることが明らかになった。フレクスナー菌ゲノムは、はるかに少ない水平転移DNAを有するにもかかわらずE. coli病原体の主鎖と島モザイク構造を示し、E. coli中に存在する357の遺伝子を欠落する。(Perna et al., (2001) Nature, 409:529-533を参照されたい)。該生物体は、その挿入配列の大きい補体、数個のゲノム再配列、12個の陰性プロファージ、372個の偽遺伝子および195個のシゲラ特異性遺伝子に特徴を有する。フレクスナー菌の完全注釈付き配列は、ジーンバンク受付け番号 AE014073として寄託されており、参考として本明細書に引用する。(公表のため提出された“Complete Genome Sequence and Comparative Genomics of Shigella flexneri Serotype 2A strain 2457T”, Wei et al., も参照されたい)。そのDNA配列に基づき、シゲラは、E. coliと系統発生的には区別し得ないことは特筆すべきことである。
上記の開示から容易に明らかなように、上記フレクスナー菌の配列を考慮すれば、そのゲノムは、本明細書で説明する方法および遺伝子選定パラダイムを使用して容易に縮小できる。縮小されたゲノムシゲラは、縮小されたゲノムE. coli(生ワクチン)に関して説明した理由により、不均質(組換え)たんぱく質または他の有用な栄養素の発現において有用であり得る。縮小されたゲノムシゲラにおけるあるいは本発明の欠失方法に感受性のあらゆる病原菌におけるもう1つの使用は、宿主からの免疫応答を誘発させる目的における抗原の表示または提示のためのビヒクルとしてである。そのような操作シゲラは、例えば、該生物体から、宿主中での免疫応答、好ましくは宿主の腸壁での粘膜免疫応答を誘発させるのに十分な抗原決定子をコード化する遺伝子のような他の遺伝子を維持しながら、ビルレンスの原因となる遺伝子を欠失させ得た。
フレクスナー菌は、そのビルレンス決定子が特性決定され、210-kb“大ビルレンス(または侵入)プラスミド”(そのヌクレオチド配列は、決定されてGenBank Accession No. AF348706として寄託されており、参考として本明細書に引用する)に局在化する点で、この戦略に潜在的に良好に適する。(Venkatesan et al. Infection of Immunity (May 2001) 3271-3285も参照されたい)。侵入プラスミドからの欠失候補となり得るものには、リシンデカルボキシラーゼをコード化するcadA遺伝子がある。
欠失させたシゲラ侵入プラスミドは、縮小されたゲノムE. coli中に導入し、それによって該E. coliを接種した宿主内での免疫応答を上昇させ得るある種のシゲラ侵入プラスミド遺伝子の効率的な発現を可能にすることができる。また、該侵入プラスミドは、操作して液胞破壊の原因となる遺伝子のような有害遺伝子を該プラスミドから欠失させることもできる。該侵入プラスミドから除去する好ましい候補遺伝子としては、ipaA、ipaB、ipaC、ipaDおよびvirBからなる群から選ばれた1種以上の遺伝子がある。本発明は、該侵入プラスミドを導入し、その導入し修正した侵入性プラスミドからの遺伝子の発現を最適にした上記縮小されたゲノムE. coliに他の遺伝子の添加も可能にする。
また、本発明は、縮小されたゲノム、例えば、E. coli、またはワクチンを接種した宿主内で免疫応答を誘発させ得る抗原をコード化する遺伝子を導入した縮小されたゲノム、例えば、E. coliを含む生ワクチンにも関する。縮小されたゲノムワクチンは、宿主内で所望の生理学的応答(即ち、免疫応答)を誘発させる得ることが知られているDNAを含むDNA系ワクチンであり得る。
本発明に従う縮小されたゲノム生物体の1つの主要な利点は、DNA類を導入して所望の分子の発現を可能にするクリーンで最小の遺伝子的バックグラウンドを提供することのみならず、さらなるDNA類をこのクリーンなバックグランドに導入する機会を与えて所望の生成物の発現を最適にし得る分子源を提供することである。
欠失の候補であったE. coli K-12菌ゲノム上の遺伝子および他のDNA配列の位置を、最外リング上の黒色およびより明色のハッチボックスとして示す。 本発明の線状DNA系無瘢痕遺伝子修正方法の特定の例を示す。 本発明のもう1つの線状DNA系方法の特定の例を示す。 図3に示した線状DNA系方法において使用し得る変異誘発プラスミドを示す。 本発明の自殺プラスミド系方法の特定の例を示す。 本発明の自殺プラスミド系方法の特定の例を示す。 本発明の自殺プラスミド系方法の特定の例を示す。 図5A〜Cに例示した自殺プラスミド系方法において使用し得る3つのプラスミドを示す。
欠失方法
線状ターゲットDNAの構築
線状ターゲットDNAの構築の例は、以下のとおりである:プライマーa+b (図1)を調製するために、20ピコモルのプライマーaを20ピコモルのプライマーbを混合し、PCRを総容量50μlで実施した。サイクルパラメーターは、15×(94℃40秒/57℃以下[プライマーaとbの重複度合による]40秒/72℃15秒)であった。次に、このPCT生成物の1μlを各々20ピコモルのプライマーaおよびc(図1)、50 ngのpSG76-CSテンプレートと混合し、2回目のPCTを2×50μlの容量で実施した。サイクルパラメーターは、28×(94℃40秒/57℃40秒/72℃80秒)であった。得られたPCR調製線状DNA-フラグメントをPromega Wizard PCT精製キットで精製し、20μlの水中に懸濁させた。テンプレートプラスミドの削除(例えば、DpnI消化による)は必要でない。pSG76-CSは、PCTにより線状ターゲットフラグメントを調製するためのテンプレートプラスミドとして作用する。pSG76-CSは、クロラムフェニコール耐性(CmR)遺伝子と2つのI-SceI部位を含有し、第2のI-SceI部位のPCT介在挿入によって得られ、第2のI-SceI認識部位のpSG76-C中へのNotI部位下流でのPCT介在挿入によって得られた。
2つのI-SceI部位は反対配向にある。
新規な線状DNA系無瘢痕欠失方法I
本発明の新規なDNA系無瘢痕欠失方法は、以下の説明を図2と照らして読んだときに最良に理解することができる。一般に、この方法は、欠失するためにマークしたゲノムセグメントを人工DNA配列で置換えることを含む。この人工配列は、E. coli K-12ゲノム中には本来どこにも生じない配列を切断する、I-SceIのような配列特異性ヌクレアーゼに対する1つ以上の認識部位を含有する。線状DNA分子の上記ゲノム中への正確な挿入は、相同的組換えの頻度を増大させ得る系によって助長された相同的組換えによって達成される。
上記配列特異性ヌクレアーゼを上記細菌中に導入したとき、上記配列特異性ヌクレアーゼは、特異的認識部位(1つ以上)でゲノムDNAを開裂させ、相同的組換え現象が生じた細菌のみが生存する。
とりわけ図2においては、プラスミドpSG76-CSをテンプレートとして使用して人工DNA挿入物を合成する。この人工挿入配列は、図2でA、BおよびCと表示した配列間に延びている。CRは抗生物質耐性の遺伝子を示す。上記挿入DNAを上記プラスミドからPCR増幅させ、E. coli宿主中に電気穿孔させる。上記挿入物は、配列AおよびBが予定の欠失をまたぐ宿主ゲノム内の配列に合致するように構築した。挿入物の配列Cはは、宿主ゲノムの配列Bの丁度内側の宿主ゲノム内の配列に合致する。その後、細菌を抗生物質耐性について選定し、その選定は、相同的組換え現象が細菌ゲノム中に挿入した人工DNA内で生じた細菌のみが生存することである。この組換え現象は、配列AとCの対の間で生ずる。また、挿入DNA配列は、図2に示すように、今や該挿入物の1端に位置し、該挿入物の他端の丁度外側のゲノム内の配列と相同性であるように設計した配列Bも含む。その後、細菌増殖させた後、上記細菌を、I-SceI配列特異性ヌクレアーゼを発現するプラスミド、pSTKSTによって形質転換させる。上記I-SceI酵素は細菌のゲノムを切断し、組換え現象が生じている個々の細菌のみが生存する。生存体の10〜100%はB-B組換え成分体であり、スクリーニング工程によって確認し得る。このB-B組換え現象は、ゲノムから挿入DNA全体を欠失させ、欠失の周りの天然配列以外は後まで何も残さない。
繰返すために、上記方法の第1工程は、細菌中で線状DNA分子を調製することを含む。
この線状DNA分子は、以下の特徴を有する人工線状DNA配列を含有する:該線状DNA配列の1端は、欠失すべきゲノム領域の左側上のゲノム配列と同一の配列、およびそれに続く欠失すべきゲノム領域の右側上のゲノム配列と同一の配列であり;該線状DNA分子の他端は、欠失すべきゲノム領域内のゲノム配列と同一の配列であり;該線状DNAの2つの末端の間には、上記細菌株のゲノム中には存在しない認識部位と抗生物質選択遺伝子とが存在する。上記人工DNA配列は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)または直接DNA合成を使用して調製し得る。この目的のためのPCRテンプレートは特異的認識部位を含有し、上記人工線状DNA配列の両端上のゲノムDNA配列はPCR反応において使用する各プライマーの1部である。PCRテンプレートは、プラスミドによって調製し得る。テンプレートとして使用し得るプラスミドの例は、pSG76-C(GenBank Accession No. Y09893)であり、Posfai, G. et al., J. Bacteriol. 179:4426-4428 (1997)に記載されている。pSG76-Cに由来するpSG76-CS(GenBank Accession No. AF402780)も使用し得る。pSG76-CSは、クロラムフェニコール耐性(CmR)遺伝子と2つのI-SceI部位を含有し、第2のI-SceI認識部位のpSG76-C中へのNotI部位下流でのPCR介在挿入によって得られた。2つのI-SceI部位は反対配向にある。
人工即ち構築DNA配列は、エレクトロポレーションのような当業者にとって公知の任意の方法を使用して、線状DNA分子を細菌内に直接導入することによって細菌に付与させることができる。この場合、抗生物質耐性遺伝子のような選択マーカーを、挿入DNA配列を含有するコロニーを後で選択する目的で、上記人工DNA配列中に操作する。また、線状DNA分子は、細菌を上記人工線状DNA配列を担持するベクターによって形質転換させ制限酵素開裂により細菌内部に線状DNA分子を産生させることによっても、細菌中に付与させ得る。使用する制限酵素は、細菌ゲノムではなく上記ベクターのみを切断すべきである。この場合、人工線状DNA配列は、上記挿入線状DNAを含む細菌をPCRにより後で直接分泌させ得るようなベクターの高形質転換効率の故に、選択マーカーを担持すべきでない。
上記無瘢痕欠失方法の第2工程は、上記人工DNA分子の挿入によるゲノム領域の置換えを含む。細菌細胞を操作して相同的組換えの頻度を増大させる系を含有させる。そのような系の1つの例は、Redリコンビナーゼ系である。この系は、細菌細胞中にベクターによって導入し得る。この系は、上記線状DNA分子が欠失ターゲットを含有するゲノム領域と置換わるのを助長する。後の実施例において説明するように、E. coli中で使用し得る相同的組換え系を担持するベクターは、pBADαβγであり、Muyrers, J.P.P. et al., Nucl. Acids Res. 27:1555-1557 (1999)に記載されている。Datsenko, K. A. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. 97:6640-6649 (2000)に記載されているもう1つのプラスミドpKD46も使用し得る。使用し得る他のプラスミドとしては、pGPXXおよびpJGXXがある。pGPXXは、pBADαβγ中の複製起源をpSC101の複製起源で置換えることによって、pBADαβγから誘導される。pJGXXは、tetプロモーター制御下にファージ933WからのRed機能をコード化するpSC101プラスミドである。
上記無瘢痕欠失方法の第3工程は、上記挿入DNA配列の除去を含む。上記挿入DNA配列上の特異性認識部位を認識するI-SceIのような配列特異性ヌクレアーゼの発現ベクターを上記細菌中に導入する。その後、上記配列特異性ヌクレアーゼを発現させ、上記細菌ゲノムを開裂する。開裂後、相同的組換えが生じ挿入線状DNA分子の欠失を生じた細胞のみが生存し得る。ゲノムから欠失させたターゲットDNA配列を有する細菌が得られる。E. coliにおいて使用し得る配列特異性ヌクレアーゼ発現ベクターの例としては、pKSUC1、pKSUC5、pSTYST、pSTAST、pKTSHa、pKTSHc、pBADSce1およびpBADSce2がある。これらのベクターが担持する配列特異性ヌクレアーゼは、I-SceIである。pKSUC1、pKSUC5、pSTKSTおよびpSTASTは、実施例において後述する。
上述の方法は、細菌内で繰返し使用して1連の欠失を形成させ得る。pBADαβγとpKSUC1との場合のような相同的組換え系の発現ベクターと特異な配列特異性ヌクレアーゼの発現ベクターが互いに適合性(和合性)でない場合、2つのベクターの形質転換を欠失サイクル毎に実施しなければならない。2つのベクターの形質転換は、pBADαβγとpSTKSTまたはpKD46とpKSUC5とのような2つの適合性(和合性)プラスミドを使用する場合には、さらなる欠失サイクルにおいて回避し得る。互いに適合性(和合性)のある2つのこれらのベクターを使用する例は、後の実施例において説明している。
上記無瘢痕欠失方法は、修正して、細菌ゲノム上に1連の欠失をより効率的にすることができる(その例は後の実施例における手順4である)。修正方法の第1工程は、線状DNA分子の挿入物を個々に細菌細胞、好ましくは野外タイプの細菌細胞内に並行方式で構築して、各々が1個の挿入物を有する1群の株を得ることを含む。この工程は、上述のようにして実施し得る。修正方法の第2工程は、個々の挿入物を、ゲノムを縮小すべきターゲット細胞中に順次転移させることを含む。P1形質導入は、挿入物を転移させるのに使用し得る方法の例である。修正方法の第3工程は、挿入した配列の組換えによる除去を含み、この除去は上述したようにして実施し得る。
新規な線状DNA系無瘢痕欠失方法II
この新規な線状DNA系方法においては、1つが欠失すべき細菌ゲノム領域の1端に隣接する配列と同一であり他の1つが細菌ゲノム領域の他端に隣接する配列と同一であり、同様に配向させた2つのDNA配列をプラスミドベクター中に操作する。ベクターとは、ここでは、ターゲットベクターを称する。上記2つのDNA配列は、ターゲットベクター上で互いに隣接して位置させる。上記細菌ゲノムではなく上記ターゲットベクターのみを切断する酵素に対する少なくとも1つの認識部位も、上記2つのDNA配列の外側の位置でターゲットベクター中に操作する。該認識部位は、I-SceIのような配列特異性ヌクレアーゼに対する部位であり得る。また、該認識部位は、未メチル化配列のみを切断するメチル化感受性制限酵素に対する部位でもあり得る。上記細菌ゲノム上の該認識部位は、いずれであっても、メチル化されるので、上記制限酵素は、ターゲットベクターのみを切断し得る。上記ターゲットベクターは細菌中に形質転換させ、線状DNA分子は、上記ターゲットベクター上の認識部位を認識し切断する酵素を細菌内で発現させることによって細菌内部に生成させる。次に、相同的組換えを増大させる系を細菌内で活性化させて上記線状DNAの相同性配列と欠失すべき領域に隣接する細菌ゲノム間の相同的組換えを誘発させる。欠失させたターゲットゲノム領域を有する細菌は、上記の相同的組換えの結果として得ることができる。
また、この新規な線状DNA系方法は、細菌ゲノムの1つの領域を所望のDNA配列で置換えるのにも使用し得る。この場合、上記細菌ゲノムと一緒に相同的組換えを受けて該ゲノム上の1つの領域と置換わり得る所望のDNA配列を上記ターゲットベクター中に操作する。
他の局面は、すべて細菌ゲノムの領域を欠失させることについて上述したのと同じである。
上記方法を細菌ゲノム内のターゲット領域を欠失させるかまたは置換えるかのいずれに使用するかどうかにかかわらず、上記ターゲットベクター上に担持させたDNAの細菌ゲノム中への導入を選択するためのマーカー遺伝子は、高導入効率故に必要ではない。PCRによる30〜100個のコロニーの単純なスクリーニングによって、細菌ゲノム内での所望の修正を有するクローンの同定が可能である。
特定の例としては、図3および4は、遺伝子の中央にアンバーストップコドンを導入するためのこの方法の使用を例示している。第1工程として、遺伝子または染色体領域の中央近くに位置する所望の修正を有するDNAフラグメントを産生させる。配列特異性ヌクレアーゼI-SceI認識部位を上記DNAフラグメントの片側に導入する。この導入は、上記DNAフラグメントを増幅させるのに使用するPCRプライマーの5'末端中に上記配列を含ませることによって容易に達成し得る。DNAフラグメントが長い程(500〜5,000ヌクレオチド)、一般に実績は最良である。
上記DNAフラグメントをpUC19 (GenBank accession No.M77789)のような多コピーターゲットプラスミドベクター中にクローン化する。このターゲットベクターは以下に説明するような変異誘発ベクターと一緒に使用するので、このターゲットベクターは、p15A起源プラスミド(pACYC184由来(GenBank accession No. X06403))と適合性(和合性)があるように操作され、クロラムフェニコール以外の薬物耐性マーカーを有する。これらの制約は、別の変異誘発プラスミドを使用することによって容易に回避し得る。
図4に例示するように、この例において使用する変異誘発プラスミドは、上記配列特異性ヌクレアーゼI-SceIとラムダred遺伝子エクソ、ベータおよびガム(gam)をP-BADプロモーターの制御下に含有する。このプラスミドは、p15Aoriとクロラムフェニコール耐性遺伝子も含有する。
上記ターゲットおよび変異誘発プラスミドをrecA陽性E. coli中に形質転換させる。この細菌をクロラムフェニコールに対する耐性およびターゲットプラスミド上に担持された耐性について選択する。その後、1つのコロニーを採取し、0.2%のアラビノースとクロラムフェニコールを含有する1 mlのRich Defined Media (Neidhardt et al., J. Bacteriol. 119:736-47、その全体を参考として本明細書に引用する)中で37℃で約7.0時間培養する。その後、培養物の1連の希釈物(例えば、1:1,000、1:10,000等)をLBのような非選択性培地上に塗布する。次に、各コロニーを所望の変異についてスクリーニングする。増殖フェノタイプが既知である場合は、スクリーニングは、適切な培地上にパッチングすることによってなし得る。そうでなければ、スクリーニングは、コロニーPCRその後の制限消化および電気泳動により、あるいはシークエンシングによって実施する。
自殺プラスミド系方法
ここで説明する自殺プラスミド系方法は、無瘢痕遺伝子欠失および遺伝子置換の双方において使用し得る。この方法の基本的要素は、抗生物質耐性遺伝子と複製起源をプロモーターの制御下に含有するインターロック(Interlock)プラスミドと称するプラスミドベクターに関連する。インターロックプラスミドは、DNA挿入物を挿入させ得る1つ以上の部位も含有する。この方法を無瘢痕欠失に使用する場合、互いに正しく次に位置し、同様に配向した2つのDNA配列を含み、その1つの配列欠失すべき細菌ゲノム領域の1末端に隣接する配列と同一であり、他の1つの配列は、細菌ゲノム領域の他端に隣接する配列と同一である。この方法を遺伝子置換において使用する場合は、上記DNA挿入物は細菌ゲノムのセグメントと置換わる配列を含む。複製起源を制御するプロモーターを供給停止した場合、上記プラスミドの複製は停止し、抗生物質負荷を使用してフランキング領域の上記部位での染色体組込みについて選択し得る。フランキング領域の上記部位での染色体組込みの後、上記プラスミドからの複製起源を制御するプロモーターを供給開始し得ると、生存し得る細菌は、組換え現象が生じて上記複製起源、そのプロモーターまたはその双方を排除した細菌のみである。上記DNA挿入物を無瘢痕欠失を構築するのに使用する場合、組込み挿入物と上記ゲノム内の相応する領域間の組換えは、所望の無欠失または組込み前の同じゲノムのいずれかを有する細菌内で生ずる。上記DNA挿入物を遺伝子置換において使用する場合、組換えは、所望の置換体または組込み前の同じゲノムのいずれかを有する細菌内で生ずる。その後、スクリーニング工程を実施してゲノム内に所望の修飾を有する細菌を同定することができる。
上記方法の変法は、上記と同じインターロックプラスミドを含むが、該プラスミドは、上記細菌ゲノム中に存在しない配列特異性ヌクレアーゼ認識部位も含有する。染色体組込み後、複製起源制御プロモーターを活性化させて組換え現象について選択する代りに、細菌を操作して上記配列特異性ヌクレアーゼを発現させ上記細菌ゲノムを切断し組換え現象について選択する。
また、上記自殺プラスミド系方法も、上述した新規な線状DNA系方法と同様な方式で繰返し使用して、細菌ゲノム上に1連の欠失を形成させ得る。
図6は、上記自殺プラスミド系方法において使用し得るプラスミド実施態様を示している。pIL1はインターロックプラスミドであり、pBAD-Sce-Iは配列特異性ヌクレアーゼI-Sce-Iの発現用プラスミドである。pIL4は双方の組合せである。pIL1およびpIL4において使用するtetプロモーターは、しっかり調節されて、より漏出性である温度感受性因子のような他の制御メカニズムを凌ぐ利点を有する。遺伝子置換においてpIL4を使用する例を図5A〜Cに示しており、本発明の自殺プラスミド系方法を例示している。図5Aは、DNA挿入物のpIL4中への挿入およびpIL4の細菌ゲノム中への組込みを示している。加熱活性化クロロテトラサイクリン(CTC)により、tetレプレッサーは不活性であり、OおよびPプロモーターは官能性であり、上記プラスミドは複製する。CTCの除去後、tetレプレッサーはOおよびPプロモーターに対するプロモーターに結合し、複製は遮断される。クロラムフェニコール耐性を使用して組込み物について選択し得る。図5Bは、相同的組換えおよび相同的組換えの2つの可能性ある結果について選択するための異所性起源の誘発の使用を示す。
図5Cは、相同的組換えおよび該組換えの2つの可能性ある結果について選択する別の方法を示す。この別法は、I-SceI発現を誘発させて二重ストランド破壊を発生させることを含む。
自殺プラスミド系方法の2つの特定の方法をプロトコール1およびプロトコール2として以下で説明する。pIL1またはpIL4のいずれもプロトコール1においては使用し得、pBAD-Sce-1と組合せたpIL1をプロトコール2においては使用し得る。当業者であれば、プロトコール2をpIL4単独の使用にも適応させ得るであろう。
プロトコール1(ラムダ起源による対抗選択)
1.所望のゲノム修飾を線状DNAフラグメントとして生成させる。アンバー変異体を構築する場合には、上記修飾はメガプライマーPCRによって行い得る。ゲノム内に欠失を構築する場合は、欠失の所望末端点の融合を使用すべきである。DNAフラグメントの両端をリン酸化してクローン化すべきである。
2.ベクターpIL4(図5Aおよび6)を制限酵素Srf1により消化させることによって平滑なクローン化部位を生成させる。ベクターを脱リン酸化する。
3.所望修飾とpIL4ベクターとの平滑連結反応を実施する。
4.(注:この工程は、高処理実施においては潜在的に無用であり得る)。上記連結反応物をE. coliのクローン性株(JS5のような)中に形質転換させる。形質転換物をLB + 1μg/ml cTc中で1時間自然増殖(outgrow)させる (cTc:LB培地中で新たにオートクレーブ処理したクロロテトラサイクリン。100μg/mlの貯蔵品を20分間オートクレーブ処理し、次いで4℃で暗中に保存する。これは、5日間まで使用できる。別法として、2 ng/mlのアンヒドロテトラサイクリン溶液に置換え得る)。その後、LB + クロラムフェニコール(Cam 25μg/ml) + cTc (1μg/ml)上に塗布し、37℃で1夜増殖させる。コロニーを等価の培地中で増殖させ、プラスミドミニプレップDNAを調製する。ゲル電気泳動により分析し、挿入物を有するクローンを選択する。
5.上記評価したプラスミドをE. coliのrecA陽性株(MG1655のような)中に形質転換させる。LB + 1μg/ml cTc中で1時間自然増殖させる。自然増殖物の1部をCamおよび1μg/ml cTcを含有するプレート上に塗布する。1夜37℃で増殖させる。
6.コロニーを1 ml LB中に採取し、10μlをCamプレート上に塗布する。1夜37℃で増殖させる。
7.コロニーをCamプレート上に塗布し、存在する各細胞が組込みプラスミドを含有するのを確実にする。1夜37℃で増殖させる。
8.コロニーを1 ml LB中に採取し、100μlの1:100希釈物を、5μg/mlのcTcを含有するプレート上に塗布する。1夜37℃で増殖させる。
9.(変異体のスクリーニング) 対抗選択したコロニーのフラクションのみが所望の修飾を含有し、他はwtに復帰する。変異体対復帰体の割合は、クローン化フラグメント中の修飾の位置に依存する。ある種のスクリーニングを実施して所望の変異体を同定しなければならない。アンバー変異体の産生においては、当該遺伝子をPCRにより増幅させ、BfaI制限酵素により消化する(BfaIは、C'が先行するアンバーコドンを切断する)。
プロトコール2(I.SceIによる高処理対抗選択)
1〜4.プロトコール1に同じ。
5.挿入物担持インターロックプラスミドとpBAD-SceIをE. coliのrecA陽性株(MG1655のような)中に同時形質転換させる。LB + 1μg/ml cTc中で1時間自然増殖させる。(別法として、挿入物担持インターロックプラスミドそれ自体を、既にpBAD-SceIを担持している応答性細胞中に形質転換させる)。
6.クロラムフェニコールを25μg/mlで、カナマイシンを50μg/mlで添加する。37℃で振盪させながら1〜2時間増殖させる。
7.細胞を微細遠心分離機中で30秒間ペレット化する。培地上清を除去する。
8.(組込み工程) 細胞を、1 mlのLB + クロラムフェニコール(25μg/ml) + カナマイシン(50μg/ml) + グルコース(0.2%)中に再懸濁させ、振盪しながら37℃で1夜増殖させる。
9.1夜培養物を同じ培地中に1:10,000で希釈し、さらに16〜24時間37℃で増殖させる。
10.(対抗選択工程) 10μlの培養物を1 mlの1×M9の最少塩中に希釈する(増殖率を最少にする)。これを各々0.5 mlの2本のチューブに分割する。一方にアラビノースを0.2%で添加し、他方にグルコースを0.2%で添加する(陰性対照として機能させるために)。37℃で振盪しながら1〜2時間増殖させる。
11.10μlのアラビノースチューブをLB + カナマイシン(50μg/ml) + アラビノース(0.2%)上に塗布し、10μlのグルコースチューブをLB + クロラムフェニコール(25μg/ml) + カナマイシン(50μg/ml) + グルコース(0.2%)に塗布する。37℃で1夜増殖させる。
12.(変異体についてのスクリーニング) 第1プロトコールの工程9を実施する。
プラスミド
人工挿入DNA配列のPCR構築において使用するプラスミドは、pSG76-CS (GenBank Accession No. AF402780)と標示し、pSG76-C (Posfai, G. et al., J. Bacteriol. 179: 4426-4428 (1997))から第2のI-SceI部位を挿入することによって誘導した。この第2のI-SceI部位は、第2のI-SceI認識部位をpSG76-C中にNotI部位の下流でPCR介在によって挿入することによって得た。2つのI-SceI部位は、反対方向にある。
pBADαβγプラスミドは、線状DNAフラグメントのゲノム中への組換えを増強させるのに使用した。このプラスミドは、Muyrers, J.P.P. et al., Nucl. Acids Res. 27:1555-1557 (1999)に記載されている。
I-SceI発現のためのPKSUC1プラスミド(GenBank Accession No. AF402779)は、pSG76-K (Posfai, G. et al., J. Bacteriol. 179: 4426-4428 (1997))およびpUC19RP12 (Posfai, G. et al., Nucl. Acids Res. 27:4409-4415 (1999))から誘導した。pSG76-KのXbaI-NotIフラグメント(Kan遺伝子を担持する;NotI末端をクレノウ(Klenow)ポリメラーゼにより平滑化した)をpUC19RP12のXbaI-DraIフラグメント(I-SceI遺伝子とpUC oriを担持する)に連結結合させた。
I-SceIのテトラサイクリン調節発現用のpKSUC5プラスミドは、pFT-K (Posfai, G. et al., J. Bacteriol. 179: 4426-4428 (1997))およびpKSUC1から誘導した。pKSUC1の大XbaI-NcoIフラグメントを、tetレプレッサーを担持するpFT-KのXbaI-NcoIフラグメントに連結結合させた。
線状DNAフラグメントの上記ゲノム中への組換えを増強するためのPKD46プラスミドは、Datsenko, K.A. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. 97:6640-6649 (2000)に記載されテいる。
プラスミドpSTKST (GenBank Accession No. AF406953)は、pFT-K (Posfai, G. et al., J. Bacteriol. 179: 4426-4428 (1997))およびpUC19RP12 (Posfai, G. et al., Nucl. Acids Res. 27:4409-4415 (1999))から誘導した、I-SceIのクロロテトラサイクリン調節発現用の低コピー数KanRプラスミドである。I-SceI遺伝子を担持するpUC19RP12からのXbaI-PstIフラグメントをpFT-Kの大XbaI-PstIフラグメントに連結結合させた。このプラスミドは、クロロテトラサイクリンにより誘発させたとき、I-SceIを発現する。このプラスミドの複製は温度感受性である(Posfai, G. et al., J. Bacteriol. 179: 4426-4428 (1997))。
I-SceIのクロロテトラサイクリン調節発現用の低コピー数ApRプラスミドであるプラスミドpSTASTは、pFT-A (Posfai, G. et al., J. Bacteriol. 179: 4426-4428 (1997))およびpUC19RP12 (Posfai, G. et al., Nucl. Acids Res. 27:4409-4415 (1999))から誘導した。I-SceI遺伝子を担持するpUC19RP12からのXbaI-PstIフラグメントをpFT-Aの大XbaI-PstIフラグメントに連結結合させた。このプラスミドは、クロロテトラサイクリンにより誘発させたとき、I-SceIを発現する。このプラスミドの複製は温度感受性である(Posfai, G. et al., J. Bacteriol. 179: 4426-4428 (1997))。
欠失手順1
E. coli K-12のゲノムからの欠失を繰返し構築するのに使用する方法を説明する。この手順は、無瘢痕欠失方法である。手順は、PCRにより線状ターゲットフラグメントを構築することによって開始する。この構築は、20ピコモルのプライマーAを20ピコモルのプライマーBと混合し、PCRを総容量50μlで実施することによって行った。使用したサイクルパラメーターは、15×(94℃40秒/57℃以下(プライマーAとBの重複度合による)40秒/72℃15秒)であった。上記PCR混合物の1μlを採取し、各々20ピコモルのプライマーAおよびCに添加し、50 ngのpSG76-CSを添加し、PCRを2×50μlの容量で実施した(50μlチューブを使用し、2本のチューブを混合してより多くのDNAを含むようにした)。使用したサイクルパラメーターは、28×(94℃40秒/57℃40秒/72℃80秒)であった。PCR混合物を上記工程から精製するために、Promega Wizard PCR精製キットを使用した。得られたDNAフラグメントを20μlの水中に懸濁させた。
次は、上記人工DNAフラグメントの挿入によるゲノム領域の置換えである。この置き換えは、pBADαβγを担持するターゲット細胞を採取し、細胞を収集する前の0.25〜1時間に0.1%のアラビノースを培養物に添加する以外は開示されているようにして(Posfai, G. et al., Nucl. Acids Res. 27:4409-4415 (1999))、電気応答性細胞を調製することによって実施した。4μlのDNAフラグメント(10〜200 ng)を40μlの電気応答性細胞中にエレクトロポレーションさせた。細胞をCamプレート(25μg cam/ml)上に塗布し、37℃でインキュベートした。通常の結果は、1夜のインキュベーション後に合計で10〜数百個のコロニーを得ることであった。数個のコロニーを、プライマーDおよびEを使用するPCRによって、上記フラグメントの正確な部位挿入についてチェックした。
次は、挿入配列の欠失である。この欠失は、上記からの選択コロニーに由来する応答性細胞をCaCl2法(Sambrook, J. et al., Molecular Cloning: A Laboratory nManual. Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY (1989))により調製することによって実施した。プラスミドpKSUC1 (〜100 ng)を上記細胞中に標準の手順により形質転換させた(Sambrook, J. et al., Molecular Cloning: A Laboratory nManual. Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY (1989))。細胞をKanプレート上に塗布し、37℃でインキュベートした(pKSUC1とpBADαβγは非適合性(非和合性)であり、従って、Kan上での選択により、pBADαβγは細胞から排除される)。プライマーDおよびEを使用するPCRにより、コロニーを正確な欠失についてチェックした。正確な欠失を担持するコロニーを選択した。この時点で、細胞は、pKSUC1を担持していた。次の工程はこのプラスミドを欠失させることである。
この欠失は、pBADαβγでpKSUC1を置換えることによって実施した。前の工程からのコロニーを選定し、LB中で非選択性条件下に37℃で増殖させ、細胞を新鮮培地中に2〜3回再接種した。化学形質転換またはエレクトロポレーションのいずれかに応答性の細胞を調製した。プラスミドpBADαβγ(100〜200 ng)を上記応答性細胞中に形質転換させ、これをAmpプレート上に塗布した。kKan感受性/Amp耐性であるコロニーを、KanおよびAmpプレート上の100個のコロニーをトゥースピッキング(toothpicking)により選択した。
選択したコロニーは、新しいターゲットフラグメントを使用し上記の各工程を繰返すことによって次回の欠失に使用し得る。さらなる欠失が必要でない場合、細胞を非選択性条件(Ampを添加しない)下で増殖させると細胞の大フラクションからpBADαβγの自然発生的喪失が生ずる。
欠失手順2
この手順は手順1と同様であるが、pKSUC1をpSTKSTで置換える。このプラスミドは、pBADαβγと適合性(和合性)であり、温度感受性レプリコンを有し、I-SceIの発現はクロロテトラサイクリン(CTC)による誘発を必要とする。利点は、pSTKSTの細胞からの排除が培養物を42℃で増殖させることによって容易に達成されることである。
PCRによる線状ターゲットフラグメントの構築およびゲノム領域の該フラグメント挿入による置換えは、プロトコール1において説明したようにして実施する。
挿入配列を欠失させるには、応答性細胞を正確な挿入物を有する選択コロニーに由来する培養物から調製する。細胞をpSTKSTにより形質転換させ、Kan + Camプレート上に塗布し、30℃でインキュベートする。このプレートからのコロニーを加熱処理誘発剤CTC(25μg/mlの最終濃度)を加えた10 mlのLB + Kan中に接種し、30℃で24時間増殖させる。この工程は、I-SceIの発現を誘発するよう作用する。その後、培養物希釈物をLB + Kanプレート上に拡散させ、30℃で1夜インキュベートする。6〜12個のコロニーを、プライマーDおよびEを使用するPCRによって、正確な欠失についてチェックした。正確な欠失を担持するコロニーを選択した。
上記ヘルパープラスミドを細胞から除去するためには、上記培養物をLB(抗生物質を添加しない)中で42℃で増殖させる。
手順3
pBADαβγとpSTKSTは適合性(和合性)のあるレプリコンを有するので、連続する欠失を同じ宿主で構築する場合、これらプラスミドの繰返しの形質転換は必要でない。これら2つのプラスミドは、抗生物質選択(Kan + Amp)により、連続欠失構築全体に亘って宿主細胞中に維持される。レコンビナーゼおよび特異的ヌクレアーゼ官能性は、必要なときのみ誘発される。pSTKSTの複製は温度感受性であるので、細胞は30℃で増殖させなければならない。
この手順は、pBADαβγとpSTKSTを細胞中に1回のみしか形質転換させない以外は、プロトコール2と同一であり、細胞中での両プラスミドの維持が望まれる間は、培養物を30℃で増殖させ、Amp + Kanを培地中に含ませる。注:時には、本発明者等は、2種(Amp + Kan)または3種(Amp + Kan + Cam)の抗生物質の存在下に30℃で細胞を増殖させるのに困難性を経験した。
手順4
この手順は、数個の連続する欠失を同じ細胞中に構築すべき場合に好ましい手順である。挿入(pBADαβγを担持する宿主細胞のゲノム中への線状フラグメントの組換え)を並行して行い、各々が1個の挿入物を担持する1連の組換え細胞を生成させる。その後、これらの挿入物を、pSTKSTを担持しすべて以前の欠失を有する細胞中に、P1形質導入により1つ1つ転移させる。全ての外来配列の除去をこの最終宿主においてpSTKSTを誘発させることによって行う。以前の方法と比較し、主な相違は、挿入工程と挿入配列の除去を個別の細胞で行うことである。挿入が並行してなされるので、連続する欠失の構築は速い。もう1つの利点は、細胞を最初の欠失構築の開始時点でのみプラスミドによって形質転換させることである。
技術的には、この手順は、個々の挿入物を既にpSTKSTを有する欠失株にP1形質導入により転移させる以外は、手順2と同一である。各P1形質導入工程後、I-SceI発現を誘発させて挿入配列を除去する。
結果
12の連続するゲノム欠失をE. coli株K-12 MG1655から構築した。12の欠失領域は、1部では、E. coli株O157:H7 EDL933および株K-12 MG1655のゲノムDNA配列比較の結果として、欠失について選択した。これらの欠失は、下記の表1に列挙している。配列の番号付けは、公表されたK-12配列から採用した。
1番目の欠失MD1は、Posfai, G. et al., Nucl. Acids Res. 27:4409-4415 (1999)に記載された方法を使用して構築した。この方法をMD1欠失の構築に使用し、FRT部位を含む114-bpのpSG-CSベクター配列を染色体中に欠失部位において残した。MD2〜MD6欠失は、上述の手順1を使用して構築した。欠失MD7〜MD12は、手順4と手順1または2の組合せを使用して構築した。各新しい欠失の系統表示およびゲノム配位は、以下のとおりである:MD1 263080〜324632;MD2 1398351〜1480278;MD3 2556711〜2563500;MD4 2754180〜278970;MD5 2064327〜2078613;MD6 3451565〜3467490;MD7 2464565〜2474198;MD8 1625542〜1650862;MD9 4494243〜4547279;MD10 3108697〜3134392;MD11 1196360〜1222299;MD12 564278〜585331。
天然K-12 MG1655 E. coliゲノムのおよそ8.1%である総計378,180個の塩基対がこの段階で除去された。ゲノムからのこれらの領域の除去は、細菌生存または細菌増殖に影響を与えていなかった。
下記の表2は、さらなる欠失の候補として同定したE. coliゲノムの他のセグメント、遺伝子および領域を示している。これらのセグメントも細菌ゲノムから成功裏に除去された。この場合も、これらの欠失は、実験および工業用途における上記細菌の有用性に対する何ら明らかな有害作用なしに構築された。この場合も、配列表示は、公表されたK-12配列から採用している。2セットの欠失は、総計で元の細菌ゲノムの約14%であった。フランキングDNAが宿主の増殖および生存に不可欠な遺伝子を破壊しない限り、フランキングDNAと一緒に遺伝子自体も欠失させ得ることに注目されたい。
手順1においては、線状フラグメントの挿入効率は、特定のゲノム座によって変動していた。正確な部位挿入は、1〜100%(通常は、20〜100%)のコロニーで生じていた。42〜74 bp範囲のフランキング相同性を使用した。相同性が長いほど、良好な挿入効率を生じいる。複製配列間の正確な部位切除は、1〜100%(通常は、10〜100%)のコロニーで生じており、複製領域の長さに依存していた。複製が長いほど、通常はより効果的である。複製配列の長さは、42〜50 bpの範囲であった。挿入および切除の効率の変動は、表面上同一の繰返し実験において存在し、まだ十分には理解されていない。
手順3は、欠失MD2の再構成による試験であった。線状DNAフラグメントの正確な部位挿入は、6.6%のコロニーにおいて生じていた。挿入配列の欠失は、極めて効率的であった。25の得られたコロニーをCam + Amp + KanおよびAmp + Kanプレート上にレプリカ塗布し、そのうちの19はCam感受性であることが明らかとなった。その後、これらのコロニーの5つをPCRにより試験したところ、5つ全部が予想通りの挿入配列の喪失を示した。
表8および表9は、目標から欠失させたあるいは欠失させる予定の遺伝子の欠失末端点のより正確な説明を示している。E. coli株MDS12 MDS40およびMDS73 (表8および9)は、目標株を構築するのに使用した中間株における欠失の末端点である。“b”ナンバーで特定された表9に挙げた遺伝子は、前出のBlattner et al., ScienceおよびGenBank Accession No. 400096において記載された表示に基づいている。表8の番号付けも前出のBlattner et al.に基づいている。
欠失株の特性決定
形質転換頻度
外来DNAをE. coli欠失株のゲノム中に宿主細菌細胞が分裂し増殖するときに組込みDNAを維持するような形で導入することは望ましいことである。外来DNAの細菌宿主ゲノムへの導入方法は形質転換と称され、外来DNAを有する生物体は形質転換生物体と称される。
当該技術においては、高形質転換効率を有するE. coli株が求められている。
E. coli株MDS39を、親E. coli株MG1655中に39の欠失(ゲノムの約14.1%)を構築することによって構築し、エレクトロポレーションにより効率的に形質転換されていることを見出した。この高効率の形質転換は大サイズのBAC (細菌人工染色体)DNAの取込みにまで及び、株MDS39を広範囲の用途においてとりわけ価値あるものにしている。
E. coli株MDS39の外来DNAを担持し且つ安定に維持する点での形質転換効率を試験するために、3種の株:DH10B、MDS31およびMDS39を標準の増殖条件下に600 nmで0.5の光学密度に増殖させた。細胞培養物をスピンダウンさせ、細胞ペレットを数回水洗し、最後に水中に再懸濁させた(元の培養容量の1/1000に)。pBR322 DNA、メチル化BAC DNAまたは非メチル化BAC DNAのいずれかの25 ngを100μlの上記細胞懸濁液に添加し、標準のエレクトロポレーションプロトコール、例えば、Invitrogen Electroporator IITM装置を使用する0.1 cmのエレクトロポレーションキュベット中での1.8 kVおよび150オームの抵抗値を使用して、エレクトロポレーションに供した。EcoK部位でメチル化したBAC DNAとpBR322 DNAは、標準のプロトコールを使用してE. coli株MG1655中で調製した。非メチル化BAC DNAは、E. coli株DH10B中で調製した。
表3は、MDS31およびMDS39の両株が4,363塩基対の分子量を有するpBR322 DNAおよび100,000塩基対の分子量を有するメチル化BAC DNAによって効率的に形質転換されていることを示している。株MDS31およびMDS39におけるメチル化BAC DNAによる形質転換の効率は、現在のところ最良の形質転換効率を有する株の1つとみなされている株DH10Bにおける形質転換効率に匹敵している。
非メチル化BAC DNAによって形質転換させたときには、株MDS39における形質転換効率は、株DH10Bにおける形質転換効率よりも高く(表3)、一方、株MDS31における形質転換効率は、株MDS39およびDH10Bの双方における形質転換効率よりも低かった。株MDS31における形質転換の低効率は、非メチル化DNAが株中における制限に対する対象であるという事実による。何故ならば、MDS31がr+m+株であるのに対し、DH10BおよびMDS39の両株はr-m-株であるからである。
MDS39による最近の研究によれば、配列gb ba:ecu 95365において残留挿入配列IS5の潜在的存在が明らかになった。MDS39からの残留IS配列を欠失させる効果を確認するために、本明細書で説明した手順を使用して上記配列を欠失させた。MDS40における欠失の末端点は、表8および9の系統である。その後、得られた株MDS40をその形質転換提供性および増殖特性(結果)について以下に説明するようにして試験した。
エレクトロポレーション応答性細胞をInvitrogen Electroporator II 取扱書に記載さているようにして調製した。要するに、200-ml培養物をOD550 = 0.5まで増殖させ、次いで、繰り返しの遠心処理および懸濁により、細胞を遠心処理により収集し、氷冷水中で2回、氷冷10%グリセリン中で1回洗浄した。最終段階において、細胞ペレットを0.4 mlの10%グリセリン中に懸濁させ、40μg部に小分けし、−80℃で保存した。
細胞を、10〜100 ng量のプラスミドDNAにより、Electroporator II装置(Invitrogen)を使用して0.1-cmエレクトロポレーションキャベット中で1.8kVおよび150Ωの抵抗値で典型的にエレクトロポレーション処理した。その後、細胞を1mlのLBで希釈し、シェカー内で1時間インキュベートし、選択性培地上に塗布した。
幾つかの試験を実施したが、結果は大きく変動し得る。2回の典型的な個別試験(2並列試験の各々)の平均を表5に示す。
また、化学形質転換方法を使用したMG1655、MDS40およびDH10Bにおける形質転換効率も使用した。応答性細胞は簡単な方法で調製した。50-ml培養物を冷却し、OD550 = 0.4で遠心処理により収集し、次いで、繰り返しの遠心処理および懸濁により、1/20容量の氷冷CaCl2溶液(10 mMトリス pH 7.5、15%グリセリン、60 mM CaCl2)で2回洗浄した。次いで、細胞を氷上で1時間インキュベートし、200-μl部に小分けし、−80℃で保存した。
形質転換においては、細胞を100 ngのプラスミドDNAと典型的に混合し、氷上で30分間インキュベートし、42℃で2分間加熱ショックを与え、次いで0.8 mlのLBを添加した。細胞を37℃で0.5〜1時間インキュベートし、その後、希釈物を選択性培地上に塗布した。結果は、表6に示す。
増殖特性
上述したように、本発明の方法により製造した欠失株は、ある種の培養条件下で増殖する強い能力を有することが望ましい。増殖試験を以下のようにして実施した。
37℃におけるE. coli株細胞の分による倍増時間の比較を96ウェルプレートリーダー(SpectraMax plus、Molecular Devices社)により振盪しながら測定した。増殖曲線の対数直線部分を使用して、上記プレート上の6回の繰返しから平均倍増時間と標準偏差を算出した。この装置は、比較測定を行う便利な方法を提供するものの、細胞をあまり良好に通気(areate)しないため、増殖速度は振盪フラスコにより得られる場合よりも約2倍程度遅くなる。
欠失株が、同じ最終密度までではないが、最少培地中で元のMG1655と同じ増殖速度で増殖することは明らかである。欠失は、富化限定培地(rich defined medium)ではあまり速くは増殖しないが同じ最終密度である。これらの小さな差異の理由を検証することは興味のあることであろうが、最少培地中で強い増殖能力を実質的に保ちながらゲノムを縮小させるという目的は、明らかに達成されている。
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Claims (12)

  1. 遺伝子操作されて天然親E. coli菌株の染色体よりも5%〜40%小さい染色体を有するE. coli細菌であって、ここで、該E. coli細菌の染色体は、染色体から挿入配列(IS)である全てのDNAセグメントを欠失し、かつ、該E. coli細菌の染色体は、欠失過程において細菌ゲノムへ導入された外来DNA配列として定義され欠失過程が2度以上使用された場合に潜在的な望ましくない相同的組換え問題を生じさせる瘢痕を含まない、E. coli細菌
  2. 該染色体が天然親株の染色体よりも少なくとも7%小さい、請求項1記載の細菌。
  3. 該染色体が天然親株の染色体よりも少なくとも8%小さい、請求項1記載の細菌。
  4. 該染色体が天然親株の染色体よりも少なくとも14%小さい、請求項1記載の細菌。
  5. 該染色体が天然親株の染色体よりも少なくとも20%小さい、請求項1記載の細菌。
  6. 4.27 Mbよりも小さい染色体を有する、請求項1記載の細菌。
  7. 4.00 Mbよりも小さい染色体を有する、請求項1記載の細菌。
  8. 天然親株と比較したとき、そのたんぱく質コード遺伝子の少なくとも9%が欠落している、請求項1記載の細菌。
  9. 天然親株と比較したとき、そのたんぱく質コード遺伝子の約15.6%が欠落している、請求項1記載の細菌。
  10. 天然親株と比較したとき、そのたんぱく質コード遺伝子の約21.5%が欠落している、請求項1記載の細菌。
  11. ペリプラズムへ分泌されるまたはペリプラズム中で加工されるたんぱく質をコード化する1種以上の遺伝子を欠失させた、請求項1記載の細菌。
  12. 前記1種以上の遺伝子が、fliY、yedO、nfnB、tauA、mppA、tynA、chiA、fimC、fecB、ygiH、yagP、またはyhcAから選択される、請求項11記載の細菌。
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