以下、混合器および周波数変換装置の実施の形態について、添付図面を参照して説明する。
最初に、混合器1、および混合器1を含む周波数変換装置100の構成について、図面を参照して説明する。なお、一例として周波数変換装置100を受信装置RXに適用した例を挙げて説明する。
図1に示す周波数変換装置100は、アンテナ101と共に受信装置RXを構成する。周波数変換装置100は、アンテナ101から出力されるRF信号SRFを受信する受信装置RXの高周波段に配置されて、RF信号SRFの周波数f1を乗算信号S3の周波数fmに変換する機能を有している。一例として周波数変換装置100は、混合器1と共に、アンプ11、信号生成部12、フィルタ13および出力端子14a,14b(以下、特に区別しないときには出力端子14ともいう)を備えている。アンプ11は、RF信号SRFを入力すると共に増幅して、信号S1(第1高周波信号)として出力する。信号生成部12は、いわゆる局部発振器として機能して、周波数がf2のローカル信号(第2高周波信号)S2を生成する。信号生成部12は、一例として、−15dBm±5dBmのローカル信号S2を生成して出力する。また、このようにして出力された信号S1およびローカル信号S2は、特性インピーダンスが50Ωに規定された信号伝送路(例えばマイクロストリップライン。以下、「伝送路」ともいう)L1を介してインピーダンス回路4に伝送される。
混合器1は、磁気抵抗効果素子2、一対の磁場印加部3a,3b(特に区別しないときには「磁場印加部3」ともいう)、インピーダンス回路4およびインピーダンス変換回路5を備え、アンプ11から出力された信号S1(周波数f1)と、信号生成部12によって生成されるローカル信号S2(周波数f2)とを乗算して、乗算信号としての出力信号S5を出力する。この場合、出力信号S5には、周波数f1,f2の信号、および周波数(f1+f2),(f1−f2),2×f1,2×f2,3×f1,3×f2,・・・などの各乗算信号が含まれている。なお、信号生成部12については、周波数変換装置100にとって必須の構成ではなく、RF信号SRFと共に周波数変換装置100の外部から入力する構成とすることもできる。また、図1に示す混合器1は、図2に示すような等価回路で表される。
磁気抵抗効果素子2は、一例として、図3に示すように磁化自由層21を含むTMR素子で構成されている。具体的には、磁気抵抗効果素子2は、磁化自由層21、スペーサ層22、磁化固定層23および反強磁性層24を備え、この順に積層された状態で、図1に示すように、上部電極25と下部電極26との間に、磁化自由層21が上部電極25に接続され、かつ反強磁性層24が下部電極26に接続された状態で配設されている。この場合、磁化自由層21は、強磁性材料で感磁層として構成されている。スペーサ層22は、非磁性スペーサ層であって、絶縁性を有する非磁性材料で構成されて、トンネルバリア層として機能する。なお、スペーサ層22は、通常1nm以下の厚みで形成される。また、下部電極26はグランドに接続されている。
磁化固定層23は、一例として、図3に示すように、磁化方向が固定された強磁性層(第2磁性層)23a、Ruなどの金属からなる非磁性層23b、および磁化方向が強磁性層23aと逆向きとなるように固定された他の強磁性層(第1磁性層)23cとを備え、強磁性層23cが反強磁性層24の上部に位置するように各層がこの順に積層されて構成されている。この場合、一対の強磁性層23a,23cは、その磁化方向が磁気抵抗効果素子2の厚み方向(Z軸方向)と垂直に設定されている。また、反強磁性層24は、下側の強磁性層23cに交換結合されている。
また、磁気抵抗効果素子2は、磁化自由層21において磁化の向きの共振が発生し易いように、図4に示すように、磁化自由層21における容易磁化軸Fの向きと、後述する磁場印加部3から印加される磁場Hの向きとが、X−Y平面内において、所定の角度θ(好ましくは5°〜175°の範囲の任意の角度、より好ましくは90°)で交差するように、磁気抵抗効果素子2と磁場印加部3との位置関係が予め規定されている。
磁場印加部3a,3bは、図1,3に示すように、温度係数の異なる2種の永久磁石31,32が組み合わされてそれぞれ構成されている。この場合、永久磁石31は、一例として、常温(20℃)のときの残留磁束密度が0.1(T)で、かつ温度係数が−0.18(%/℃)のストロンチウムフェライト磁石で構成されている。一方、永久磁石32は、一例として、常温(20℃)のときの残留磁束密度が0.6(T)で、かつ温度係数が−0.03(%/℃)のサマリウムコバルト磁石で構成されている。永久磁石の残留磁束密度の温度変化量(常温での残留磁束密度からの残留磁束密度の変化量)は、(残留磁束密度)×(温度係数)×(常温からの温度変化量)で算出されるが、上記した永久磁石31,32では、それぞれの(残留磁束密度)×(温度係数)が同一値(−0.018)に規定されている。このため、永久磁石31,32の各残留磁束密度の温度変化量は常に同じ値となる。一例として、温度が20℃から100℃に変化したときの残留磁束密度の温度変化量を各永久磁石31,32について算出すると、永久磁石31の残留磁束密度の温度変化量は、−1.44(T)(=0.1×(−0.18)×(100−20))となり、永久磁石32の残留磁束密度の温度変化量は、−1.44(T)(=0.6×(−0.03)×(100−20))となって、同じ値(同等の一例)となる。なお、一例として、ストロンチウムフェライト磁石およびサマリウムコバルト磁石を用いたが、残留磁束密度の温度変化量が同等となる異種の磁石の組であれば、これ以外の種々の磁石(ネオジウム・鉄・ホウ素磁石、サマリウム・鉄・窒素磁石、アルニコ磁石など)を使用することができる。
磁場印加部3aは、この2種の永久磁石31,32を図1,3に示すように、互いの磁化方向(矢印で示す方向)が磁場Hに沿って互いに逆向きの状態となるように、具体的には、一例として、残留磁束密度の大きな永久磁石32の磁化方向が磁場Hの向きに一致すると共に、残留磁束密度の小さな永久磁石31の磁化方向が磁場Hの向きと逆向きとなり、かつ永久磁石32が永久磁石31と磁気抵抗効果素子2との間に位置するように直列に配設されて構成されている。一方、磁場印加部3bは、磁気抵抗効果素子2を挟んで磁場印加部3aと反対側に配設されている。また、磁場印加部3bは、上記した2種の永久磁石31,32を同各図に示すように、互いの磁化方向(矢印で示す方向)が磁場Hに沿って互いに逆向きの状態となるように、具体的には、一例として、残留磁束密度の大きな永久磁石32の磁化方向が磁場Hの向きに一致すると共に、残留磁束密度の小さな永久磁石31の磁化方向が磁場Hの向きと逆向きとなり、かつ永久磁石32が永久磁石31と磁気抵抗効果素子2との間に位置するように直列に配設されて構成されている。この構成と、上記した永久磁石31,32の各残留磁束密度の温度変化量が常に同じ値となるという構成とを採用したことにより、磁場印加部3aおよび磁場印加部3bのいずれにおいても、永久磁石31,32全体としての残留磁束密度(永久磁石31,32の各残留磁束密度の差分)は、温度変化によらず一定の値(0.5(T)(=0.6−0.1))となり、この結果として、磁気抵抗効果素子2に印加される磁場Hの強さも温度変化によらず一定の強さとなる。つまり、磁場印加部3a,3bは、その残留磁束密度、ひいては磁場Hの強さに関して温度補償された状態となって、磁気抵抗効果素子2の磁化自由層21に所定の強さの磁場Hを印加する。
また、本例では、一対の磁場印加部3a,3bは、図1,3に示すように磁気抵抗効果素子2を挟んで(詳細には図3,4に示すように磁化自由層21を挟んで)配設されている。具体的には、一対の磁場印加部3a,3bのほぼ中央に磁気抵抗効果素子2が配設されているため、磁化自由層21を通過する磁場Hは平行磁場に近い状態に維持されている。なお、磁気抵抗効果素子2を挟んで磁場印加部3a,3bを一対配設する構成に代えて、磁場印加部3a,3bのうちのいずれか一方のみを配設する簡易的な構成を採用することもでき、この構成においても、磁場Hの強さを温度変化によらず一定の強さとすることができる。
インピーダンス回路4は、後述する電圧信号(乗算信号)S4に対するインピーダンス(入出力間のインピーダンス)が信号S1,S2に対するインピーダンス(入出力間のインピーダンス)よりも高く、かつ上記した特性インピーダンスが50Ωに規定された伝送路(入力伝送路)L1と、磁気抵抗効果素子2に接続されて特性インピーダンスが50Ωに規定された伝送路Lmとの間に形成された僅かな長さのギャップを跨ぐようにして両伝送路L1,Lm間に配設されている。この場合、インピーダンス回路4は、伝送路L1を介して伝送された信号S1,S2に対するインピーダンスが伝送路L1の特性インピーダンス(50Ω)よりも低く、その低いインピーダンスを介して伝送路L1から伝送路Lmに信号S1,S2を出力する。つまり、インピーダンス回路4は、信号S1,S2を含む周波数帯域の信号に対しては、入出力間のインピーダンスが低いインピーダンス素子として機能して、これらの信号S1,S2を、その振幅をできる限り減衰させないようにして通過させる。また、インピーダンス回路4は、磁気抵抗効果素子2において発生する2乗検波出力(乗算信号であって、周波数(f1±f2)の電圧信号S4)の信号に対しては、磁気抵抗効果素子2側から見たインピーダンス(入出力間のインピーダンス)が伝送路L1,Lmの特性インピーダンス(50Ω)よりも高いインピーダンス(好ましくは、500Ω以上のインピーダンス)となるように規定されている。
混合器1では、後述するように、磁気抵抗効果素子2の共振周波数f0をローカル信号S2の周波数f2に一致させ、かつ信号S1の周波数f1は、通常は周波数f2の近傍の周波数に設定される。したがって、インピーダンス回路4は、一例として、後述するインピーダンス特性を備えた帯域通過型フィルタ(バンドパスフィルタ)で構成することができる。この場合、この帯域通過型フィルタは、磁気抵抗効果素子2の共振周波数f0(ローカル信号S2の周波数f2)、および信号S1の周波数f1を通過帯域に含み、かつ磁気抵抗効果素子2で発生する2乗検波出力としての乗算信号の各周波数(f1+f2),(f1−f2),2×f1,2×f2,3×f1,3×f2,・・・を減衰帯域に含むインピーダンス特性に規定されている。また、インピーダンス回路4は、例えば、カップリングコンデンサを有して構成されて、磁気抵抗効果素子2において発生する2乗検波出力の直流成分のアンプ11側や信号生成部12への漏れ出しを阻止する機能も備えている。
この場合、コンデンサは、等価直列インダクタンスを含んでいるため、図示はしないが、自己共振周波数fsを基準として低周波数側がコンデンサとして機能する領域(コンデンサ領域、つまりインピーダンスが周波数の増加に伴って減少する領域)となり、自己共振周波数fsを基準として高周波数側がインダクタとして機能する領域(インダクタンス領域、つまりインピーダンスが周波数の増加に伴って増加する領域)となり、自己共振周波数fsを含むその前後の狭い領域は自己共振周波数fsに向けてインピーダンスが急激に減少する領域となるインピーダンス特性を有している。このため、コンデンサは、簡易的な帯域通過型フィルタとして機能し得るインピーダンス特性を有している。したがって、自己共振周波数fsを含むインピーダンスの低い帯域(自己共振周波数帯域)を通過帯域として利用することにより、1つのコンデンサでインピーダンス回路4(第1フィルタ)を構成することもできる。本例では、図1,2に示すように、インピーダンス回路4を1つのコンデンサ4a(容量性素子。一例として1005形状の低容量チップコンデンサ)で構成することで、装置構成の簡略化を図っている。なお、コンデンサ4aは、カップリングコンデンサとして機能するため、磁気抵抗効果素子2において発生する2乗検波出力の直流成分のアンプ11側や信号生成部12への漏れ出しを阻止する機能も備えている。
インピーダンス変換回路5は、一例として演算増幅器5aを用いて構成されている。本例では、演算増幅器5aは、その一方の入力端子が上部電極25に接続され、他方の入力端子がグランドに接続されて、差動増幅器として機能する。これにより、演算増幅器5aは、コンデンサ4aを介して信号S1およびローカル信号S2が入力されることに起因して磁気抵抗効果素子2の両端間に発生する電圧信号S4を入力し、その電圧信号S4を増幅して出力信号S5として出力伝送路L2(以下では、「伝送路L2」ともいう。例えば、マイクロストリップライン)に出力する。また、演算増幅器5aは、一般的に入力インピーダンスは極めて高く、また出力インピーダンスは十分に低いという特性を有している。したがって、この構成により、演算増幅器5aは、磁気抵抗効果素子2の両端間に発生する電圧信号S4を、出力インピーダンスよりも高い入力インピーダンスで入力し、入力した電圧信号S4を出力信号S5に増幅して、低インピーダンスで出力するため、インピーダンス変換部として機能する。この場合、演算増幅器5aは、伝送路L2の特性インピーダンスと整合する出力インピーダンスで出力信号S5を出力する。フィルタ13は、一例として帯域通過型フィルタ(BPF:第2フィルタ)で構成されると共に伝送路L2に配設されて、出力信号S5から所望の周波数の信号のみを通過させることで、乗算信号S3として出力端子14に出力する。具体的には、フィルタ13は、後述するように、周波数fmとして各周波数(f1−f2),(f1+f2)のうちのいずれかの周波数(所望の周波数)の信号を通過させる。
次に、混合器1の混合動作および周波数変換装置100の周波数変換動作について説明する。一例として、アンテナ101を介して受信したRF信号SRF(周波数f1)が入力され、信号生成部12はローカル信号S2(周波数f2(<f1))を生成するものとする。また、インピーダンス回路4を構成するコンデンサ4aとして、その自己共振周波数fsを含む自己共振周波数帯域(通過帯域)内に、両信号S1,S2の周波数f1,f2が含まれているものとする。また、磁気抵抗効果素子2の共振特性は、図5に示すようにローカル信号S2の周波数f2においてピークを示すのが好ましい。このため、一対の磁場印加部3a,3bは、共振周波数f0をローカル信号S2の周波数f2に一致させる磁場Hを磁気抵抗効果素子2に印加するように構成されているものとする。また、ローカル信号S2は、磁気抵抗効果素子2に対して共振を発生させ得る電流を供給可能な電力(例えば−15dBm±5dBm)に規定されているものとする。また、混合器1による混合動作によってインピーダンス変換回路5から出力される出力信号S5には、各信号S1,S2の周波数成分(f1,f2)、および各乗算信号の周波数成分((f1+f2),(f1−f2),2×f1,2×f2,3×f1,3×f2,・・・)が含まれているが、これらの周波数成分のうちの所望の周波数成分(周波数成分(f1+f2)または周波数成分(f1−f2)。本例では一例として低域の周波数成分(f1−f2))を通過させ、これ以外の周波数の信号の通過を阻止し得るようにフィルタ13が構成されているものとする。この場合、フィルタ13は、帯域通過型フィルタで構成されているが、低域通過型フィルタであってもよい。
この周波数変換装置100では、一対の磁場印加部3a,3bから磁気抵抗効果素子2に所定の強さの磁場Hが印加されている状態において、信号生成部12から混合器1にローカル信号S2(周波数f2)が入力されている。インピーダンス回路4(コンデンサ4a)のインピーダンスはローカル信号S2の周波数f2において十分に小さな値(自己共振時のインピーダンス)になっているため、ローカル信号S2は、極めて減衰の少ない状態でインピーダンス回路4を通過して磁気抵抗効果素子2に出力される。また、この状態では、ローカル信号S2はその周波数f2が磁気抵抗効果素子2の共振周波数f0と一致し、かつその電力が磁気抵抗効果素子2に対して共振を発生させ得るように規定されている。このため、強い共振(スピントルク強磁性共鳴)が磁気抵抗効果素子2に発生する。この共振状態において、アンテナ101からアンプ11にRF信号SRF(周波数f1)が入力され、アンプ11が信号S1の出力を開始すると、磁気抵抗効果素子2は、2つの信号S1,S2に対して2乗検波動作を実行する。この際に、インピーダンス回路4(コンデンサ4a)のインピーダンスは、信号S1の周波数f1においても十分に小さな値(自己共振時のインピーダンス)になっているため、信号S1は、ローカル信号S2と同様にして、反射することなく極めて減衰の少ない状態でコンデンサ4aを通過して磁気抵抗効果素子2に出力される。
この場合、磁気抵抗効果素子2は、共振状態において半導体pn接合ダイオードと比較して僅かな順方向電圧で2乗検波動作(整流作用)を発揮する。このため、磁気抵抗効果素子2は、この順方向電圧を磁気抵抗効果素子2に発生させるためのローカル信号S2の電力が半導体pn接合ダイオードを使用したときに必要とされる電力(例えば10dBm)よりも少ない状態であっても2乗検波動作を実行して、信号S1およびローカル信号S2を乗算して、その両端間に電圧信号S4を発生させる。この際に、磁気抵抗効果素子2において直流電圧が生成されたとしても、コンデンサ4aが、その直流電圧のアンテナや信号生成部12への漏れ出しを阻止して(直流をカットして)、磁気抵抗効果素子2を保護すると共にアンテナや信号生成部12を保護する。
また、磁気抵抗効果素子2による2乗検波動作(混合動作)によって生成される電圧信号S4は、上記したように2つの周波数成分(f1+f2,f1−f2)を含む種々の周波数成分で構成されているが、これらの周波数成分はコンデンサ4aの通過帯域を外れた減衰帯域に含まれる周波数成分である。このため、これら周波数成分(f1+f2,f1−f2)についてのコンデンサ4a(つまり、インピーダンス回路4)のインピーダンスは、信号S1(周波数f1)およびローカル信号S2(周波数f2)についてのコンデンサ4aのインピーダンスよりも大きな値となる。特に、本例の周波数変換装置100において出力される乗算信号S3と同じ周波数(f1−f2)の周波数成分についてのコンデンサ4aのインピーダンスは高い値となる。また、上記したように、磁気抵抗効果素子2に接続されているインピーダンス変換回路5を構成する演算増幅器5aの入力インピーダンスも極めて高い値(通常は、数百KΩ以上)となっている。したがって、磁気抵抗効果素子2によって電圧信号S4が出力される伝送路Lmのインピーダンスが高い値であるため、磁気抵抗効果素子2は、上記したように、レベルの大きな電圧信号S4を発生して伝送路Lmに出力する。
次いで、インピーダンス変換回路5を構成する演算増幅器5aが、電圧信号S4を増幅して出力信号S5として伝送路L2に出力する。次に、フィルタ13が、出力信号S5に含まれている2つの周波数成分(f1+f2,f1−f2)のうちの一方の周波数成分(中間周波数:f1−f2)を通過させ、乗算信号S3として出力端子14に出力する。これにより、周波数変換装置100が、信号S1(周波数f1)とローカル信号S2(周波数f2)とを乗算した電圧信号(乗算信号)S4から抽出した所望の乗算信号S3(周波数(f1−f2))を出力する。
このように、この混合器1および周波数変換装置100では、周囲の温度が変化したとしても、一対の磁場印加部3a,3bが常に所定の強さ(一定の強さ)の磁場Hを磁気抵抗効果素子2に印加し続けることができ、これによって磁気抵抗効果素子2の共振周波数f0の変動を防止することができる。したがって、この混合器1および周波数変換装置100によれば、周囲温度が変化したときであっても、ローカル信号S2の周波数f2と磁気抵抗効果素子2の共振周波数f0とが一致する状態を常に維持できるため、共振状態の磁気抵抗効果素子2が2乗検波機能(スピントルクダイオード効果)を常時発揮して信号S1およびローカル信号S2を混合(乗算)することにより、半導体pn接合ダイオードを使用した構成と比較して、少ない電力のローカル信号S2で信号S1とローカル信号S2とを混合(乗算)して乗算信号S3(周波数成分(f1−f2))を出力することができるため、周囲温度に拘わらず、ローカル信号S2の電力を小さくすることができ、その分だけ省電力化を図ることができる。
また、この混合器1および周波数変換装置100では、磁気抵抗効果素子2を挟んで磁場印加部3a,3bが一対配設されているため、磁気抵抗効果素子2に対して平行磁場に近い磁場Hが印加される状態となっている。したがって、この混合器1および周波数変換装置100によれば、磁気抵抗効果素子2の磁化自由層21における容易磁化軸Fの向きと、磁場印加部3から印加される磁場Hの向きとを、磁化自由層21において磁化の向きの共振が発生し易い角度に正確に規定することができるため、ローカル信号S2の電力を確実に小さくすることができる。
なお、上記の構成に限定されず、種々の構成を採用することもできる。例えば、図示はしないが、1つの増幅器(例えば演算増幅器)でインピーダンス変換回路5およびフィルタ13を構成することもできる。この構成では、この増幅器の増幅動作についての上限周波数を乗算信号S3の周波数(f1−f2)とローカル信号S2の周波数f2との間に規定する。この構成により、この増幅器が、磁気抵抗効果素子2において信号S1とローカル信号S2とを混合(乗算)することによって生成される電圧信号S4を高いインピーダンスで入力すると共に、電圧信号S4に含まれている周波数成分(f1−f2,f2,f1,f1+f2,2×f1,2×f2,3×f1,3×f2,・・・)のうちの高域側の周波数成分(f2,f1,f1+f2,2×f1,2×f2,3×f1,3×f2,・・・)を減衰させ、かつ低域側の周波数成分(f1−f2)だけを増幅(またはバッファ)しつつ通過させて、乗算信号S3として出力することができる結果、混合器1および周波数変換装置100の構成の一層の簡略化を図ることができる。
また、永久磁石には、鉄などの強磁性部材を近づけた場合、近づける前よりもパーミアンス係数が大きくなるため、残留磁束密度が増加するという特性を有することが知られている。このため、この特性を利用することにより、図6に示す磁場印加部6a,6bのように、1種の永久磁石41を備えた構成であっても、磁場Hについて温度補償された構成とすることができ、磁場印加部6a,6bが磁気抵抗効果素子2の磁化自由層21に所定の強さの磁場Hを印加可能な構成にすることができる。以下、この磁場印加部6a,6bを備えた混合器1Aについて説明する。なお、混合器1Aは、磁場印加部6a,6bを除く他の構成は図2に示すように混合器1と同一である。また、この混合器1Aを使用した周波数変換装置100Aについても、同図に示すように、混合器1を使用した周波数変換装置100とは、混合器1が混合器1Aに変更された以外は同一である。したがって、相違する構成である磁場印加部6a,6bについてのみ説明し、混合器1A全体および周波数変換装置100A全体については、同一の構成については同一の符号を付して重複する説明を省略する。
磁場印加部6aは、図6に示すように、永久磁石41、強磁性部材の一例である鉄片42、熱伸縮部材43およびベース部44を備えている。永久磁石41は、一方の磁極(本例では一例としてN極)が磁気抵抗効果素子2に近接して配設されることで、磁場Hを磁気抵抗効果素子2に印加可能に構成されている。鉄片42は、永久磁石41の他方の磁極側(同図では一例としてS極側)に、この他方の磁極との間に隙間が形成された状態で近接して配設されている。また、鉄片42は、後述するようにして熱伸縮部材43で支持されている。熱伸縮部材43は、温度に応じて膨張または収縮する部材を用いて、一例として膨張または収縮する方向(同図中の矢印方向)が長手方向となる柱状体に形成されている。また、熱伸縮部材43は、鉄片42を挟んで永久磁石41と反対側に配設されて、長手方向の一端(同図中の右端)に鉄片42が連結され、長手方向の他端はベース部44に固定されている。また、熱伸縮部材43は、一例として、温度上昇時には膨張(伸長)し、温度下降時には収縮(縮長)する部材(正の熱膨張係数を有する部材(正性膨張材))で構成されている。この種の部材としては、一般的な金属で形成された柱状体(一例として10mmの柱状体で、1℃の上昇により0.1〜0.2μm程度伸びるもの)や、プラスチック(ポリプロピレン、アクリル樹脂、パラフィン樹脂などの合成樹脂材料)で形成された柱状体(一例として10mmの柱状体で、1℃の上昇により2〜3μm程度伸びるもの)を使用することができる。この構成により、熱伸縮部材43は、温度上昇時には膨張して鉄片42を永久磁石41に接近させ、温度下降時には収縮して鉄片42を永久磁石41から離反させる。一方、永久磁石の残留磁束密度の温度係数は負の値であるため、永久磁石は、温度上昇に伴い残留磁束密度が減少し、温度低下に伴い残留磁束密度が増加する。したがって、熱伸縮部材43が、温度上昇時には、永久磁石41に鉄片42を接近させてパーミアンス係数を大きくすることで、残留磁束密度の減少を回避し、温度低下時には、永久磁石41から鉄片42を離反させてパーミアンス係数を小さくすることで、残留磁束密度の増加を回避する。したがって、この磁場印加部6aについても、上記した磁場印加部3aと同様にして、その残留磁束密度、ひいては磁場Hの強さに関して温度補償された状態となっている。
一方、磁場印加部6bは、図6に示すように、永久磁石41、鉄片42、熱伸縮部材43およびベース部44を備え、永久磁石41等の各部材が、磁気抵抗効果素子2を挟んで、磁場印加部6aにおける永久磁石41等の各部材と面対称となるように配置されて構成されて、磁場印加部6aと同様にして磁場Hの強さに関して温度補償された状態となっている。なお、磁場印加部6bでは、永久磁石41は、磁気抵抗効果素子2側の磁極が磁場印加部6aの永久磁石41における磁気抵抗効果素子2側の磁極と異なる極性となるように配設されている。この構成により、一対の永久磁石41が、磁気抵抗効果素子2を挟んで互いの磁化方向が同一方向となるように配置されるため、磁気抵抗効果素子2(具体的にはその磁化自由層21)を通過する磁場Hは平行磁場に近い状態に維持されている。なお、磁気抵抗効果素子2を挟んで磁場印加部6a,6bを一対配設する構成に代えて、磁場印加部6a,6bのうちのいずれか一方のみを配設する簡易的な構成を採用することもできる。
このように、この混合器1A、およびこの混合器1Aを使用した周波数変換装置100Aにおいても、周囲の温度変化によらず、一対の磁場印加部6a,6bが常に一定の強さの磁場Hを磁気抵抗効果素子2に印加し続けることができ、これによって磁気抵抗効果素子2の共振周波数f0の変動を防止することができる。したがって、この混合器1Aおよび周波数変換装置100Aによっても、混合器1および周波数変換装置100と同様にして、周囲温度に拘わらず、ローカル信号S2の電力を小さくすることができ、その分だけ省電力化を図ることができる。
また、上記の例では、正の熱膨張係数を有する部材を使用して熱伸縮部材43を構成したが、図7に示す混合器1Bのように、負の熱膨張係数を有する部材(負性膨張材)を使用して熱伸縮部材43Aを構成して、温度上昇時には熱伸縮部材43Aが収縮して鉄片42を永久磁石41に接近させることでパーミアンス係数を大きくさせ、温度下降時には熱伸縮部材43Aが膨張して鉄片42を永久磁石41から離反させることでパーミアンス係数を小さくさせる構成にすることもできる。以下、この混合器1Bについて説明する。なお、混合器1Aと同一の構成については同一の符号を付して重複する説明を省略する。
混合器1Bの磁場印加部6aは、、図7に示すように、永久磁石41、強磁性部材の一例である鉄片42および熱伸縮部材43Aを備えている。永久磁石41は、一方の磁極(本例では一例としてN極)が磁気抵抗効果素子2に近接して配設されることで、磁場Hを磁気抵抗効果素子2に印加可能に構成されている。鉄片42は、熱伸縮部材43Aを介在させた状態で永久磁石41の他方の磁極側(同図では一例としてS極側)に取り付けられている。この熱伸縮部材43Aは、温度上昇時には収縮(縮長)し、温度下降時には膨張(伸長)する部材(負性膨張材)で構成されている。この種の部材としては、一例として、タングステン酸ジルコニウムや、マンガン窒化物などを使用することができる。例えば、マンガン窒化物は、一例として10mmの柱状体に形成した場合、1℃の上昇により0.1〜0.2μm程度縮む特性を有している。この構成により、熱伸縮部材43Aは、温度上昇時には収縮して鉄片42を永久磁石41に接近させ、温度下降時には膨張して鉄片42を永久磁石41から離反させる。一方、永久磁石の残留磁束密度の温度係数は負の値であるため、永久磁石は、温度上昇に伴い残留磁束密度が減少し、温度低下に伴い残留磁束密度が増加する。したがって、熱伸縮部材43Aが、温度上昇時には、永久磁石41に鉄片42を接近させてパーミアンス係数を大きくすることで、残留磁束密度の減少を回避し、温度低下時には、永久磁石41から鉄片42を離反させてパーミアンス係数を小さくすることで、残留磁束密度の増加を回避する。したがって、この磁場印加部6aについても、上記した磁場印加部3aと同様にして、その残留磁束密度、ひいては磁場Hの強さに関して温度補償された状態となっている。
一方、磁場印加部6bは、図7に示すように、永久磁石41、鉄片42および熱伸縮部材43Aを備え、永久磁石41等の各部材が、磁気抵抗効果素子2を挟んで、磁場印加部6aにおける永久磁石41等の各部材と面対称となるように配置されて構成されて、磁場印加部6aと同様にして磁場Hの強さに関して温度補償された状態となっている。なお、磁場印加部6bでは、永久磁石41は、磁気抵抗効果素子2側の磁極が磁場印加部6aの永久磁石41における磁気抵抗効果素子2側の磁極と異なる極性となるように配設されている。この構成により、一対の永久磁石41が、磁気抵抗効果素子2を挟んで互いの磁化方向が同一方向となるように配置されるため、磁気抵抗効果素子2(具体的にはその磁化自由層21)を通過する磁場Hは平行磁場に近い状態に維持されている。なお、磁気抵抗効果素子2を挟んで磁場印加部6a,6bを一対配設する構成に代えて、磁場印加部6a,6bのうちのいずれか一方のみを配設する簡易的な構成を採用することもできる。
このように、この混合器1B、およびこの混合器1Bを使用した周波数変換装置100B(図2参照)においても、周囲の温度変化によらず、一対の磁場印加部6a,6bが常に一定の強さの磁場Hを磁気抵抗効果素子2に印加し続けることができ、これによって磁気抵抗効果素子2の共振周波数f0の変動を防止することができる。したがって、この混合器1Bおよび周波数変換装置100Bによっても、混合器1および周波数変換装置100と同様にして、周囲温度に拘わらず、ローカル信号S2の電力を小さくすることができ、その分だけ省電力化を図ることができる。
なお、図示はしないが、熱収縮部材としてバイメタルや形状記憶合金(例えば、Fe−Mn−Si系形状記憶合金)を使用し、これらの温度変化による張り・延伸を利用して鉄片42を駆動することで、永久磁石41に対して接離動させる構成を採用することもできる。
なお、上記の構成に限定されず、種々の構成を採用することもできる。例えば、磁気抵抗効果素子2としてMgo−TMR素子などのTMR素子を使用した例について上記したが、CPP−GMR(Current−Perpendicular−to−Plane giant magnetoresistance)素子などの他の磁気抵抗効果素子を使用することもできる。また、混合器1,1Aによる混合動作によってインピーダンス変換回路5から出力される出力信号S5に含まれる所望の2つの周波数成分(f1+f2,f1−f2)のうちの低域側の周波数成分(f1−f2)を低域通過型フィルタまたは帯域通過型フィルタで通過させる例について上記したが、高域側の周波数成分(f1+f2)を通過させて乗算信号S3として出力する場合にはフィルタ13を帯域通過型フィルタまたは高域通過型フィルタとして構成することもできる。
また、インピーダンス回路4をコンデンサなどの受動素子だけで構成されたパッシブフィルタを用いて構成したが、演算増幅器を用いたアクティブフィルタを用いて構成することもできる。また、ローカル信号S2の周波数f2と磁気抵抗効果素子2の共振周波数f0とが一致している構成を採用しているが、周波数f2の周波数が共振周波数f0の近傍の周波数であってもよいのは勿論である。