JP2019050361A - 磁気抵抗効果デバイス及び高周波デバイス - Google Patents
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Abstract
【課題】高周波フィルタ等の高周波デバイスとして機能する磁気抵抗効果デバイスを提供する。【解決手段】この磁気抵抗効果デバイスは、第1強磁性層と、前記第2強磁性層と、前記第1強磁性層と前記第2強磁性層との間に挟持されたスペーサ層と、を有する磁気抵抗効果素子と、高周波電流が流れることで高周波磁場を発生し、高周波磁場を発生する第1の信号線路と、前記磁気抵抗効果素子の積層方向に直流電流を流すための電源を接続できる直流印加端子と、前記第1の信号線路で生じた高周波磁場を受け磁化が振動し、この磁化が生み出す磁場を前記磁気抵抗効果素子に印加する独立磁性体と、を備える。【選択図】図1
Description
本発明は、磁気抵抗効果デバイス及び高周波デバイスに関する。
近年、携帯電話等の移動通信端末の高機能化に伴い、無線通信の高速化が進められている。通信速度は使用する周波数の帯域幅に比例するため、通信に必要な周波数バンドは増加している。それに伴い、移動通信端末に必要な高周波フィルタの搭載数も増加している。
また、近年新しい高周波用部品に応用できる可能性のある分野として研究されているのがスピントロニクスである。その中で注目されている現象の一つが、磁気抵抗効果素子による強磁性共鳴現象である(非特許文献1参照)。
磁気抵抗効果素子に交流磁場を印加すると、磁気抵抗効果素子に強磁性共鳴を起こすことができる。強磁性共鳴が生じると、強磁性共鳴周波数(以下、共鳴周波数と言う)に対応した周波数で周期的に磁気抵抗効果素子の抵抗値が振動する。磁気抵抗効果素子に印加される磁場の強さによって、磁気抵抗効果素子の共鳴周波数は変化し、一般的にその共鳴周波数は数〜数十GHzの高周波帯域である。
J.-M.L.Beaujour et al., JOURNAL OF APPLIED PHYSICS 99,08N503(2006).
上述のように、強磁性共鳴現象を利用した高周波発振素子の検討は進められている。しかしながら、強磁性共鳴現象のその他の応用用途についての具体的な検討はまだ十分とは言えない。
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、強磁性共鳴現象を利用して、高周波フィルタ等の高周波デバイスとして機能する磁気抵抗効果デバイスを提供する。
上記課題を解決するため、強磁性共鳴現象を利用した磁気抵抗効果デバイスを、高周波デバイスとして利用する方法を検討した。その結果、強磁性共鳴現象により磁気抵抗効果素子の抵抗値が時間的に変化することを利用した磁気抵抗効果デバイスを見出し、この磁気抵抗効果デバイスが高周波デバイスとして機能することを見出した。
また独立磁性体を設けることで、熱揺らぎ等によるノイズを低減し、出力特性に優れた磁気抵抗効果デバイスを得ることができることを見出した。
すなわち、本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
すなわち、本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
(1)第1の態様にかかる磁気抵抗効果デバイスは、第1強磁性層と、前記第2強磁性層と、前記第1強磁性層と前記第2強磁性層との間に挟持されたスペーサ層と、を有する磁気抵抗効果素子と、高周波電流が流れることで高周波磁場を発生し、高周波磁場を発生する第1の信号線路と、前記磁気抵抗効果素子の積層方向に直流電流を流すための電源を接続できる直流印加端子と、前記第1の信号線路で生じた高周波磁場を受け磁化が振動し、磁化が生み出す磁場を前記磁気抵抗効果素子に印加する独立磁性体と、を備える。
(2)上記態様にかかる磁気抵抗効果デバイスにおいて、前記独立磁性体の共鳴周波数は、前記第1強磁性層及び前記第2強磁性層の共鳴周波数より小さくてもよい。
(3)上記態様にかかる磁気抵抗効果デバイスは、外部に出力される信号の一部を逓減するローパスフィルタをさらに備え、前記ローパスフィルタは、前記第1強磁性層及び前記第2強磁性層の共鳴周波数より小さい周波数を通過させる構成でもよい。
(4)上記態様にかかる磁気抵抗効果デバイスにおいて、前記独立磁性体の体積が、前記第1強磁性層又は前記第2強磁性層の体積の100倍以上であってもよい。
(5)上記態様にかかる磁気抵抗効果デバイスにおいて、前記独立磁性体のダンピング定数が0.005以下であってもよい。
(6)上記態様にかかる磁気抵抗効果デバイスにおいて、前記独立磁性体が絶縁体であってもよい。
(7)上記態様にかかる磁気抵抗効果デバイスにおいて、前記独立磁性体が導電体であってもよい。
(8)上記態様にかかる磁気抵抗効果デバイスは、前記独立磁性体、前記第1強磁性層及び第2強磁性層の少なくとも一つに外部磁場を印加し、前記独立磁性体の共鳴周波数を変調する磁場印加機構をさらに有してもよい。
(9)上記態様にかかる磁気抵抗効果デバイスは、前記磁気抵抗効果素子の前記第1強磁性層又は前記第2磁性層に外部磁場を印加し、前記第1強磁性層又は前記第2強磁性層の共鳴周波数を変調するバイアス磁性層をさらに有してもよい。
(10)上記態様にかかる磁気抵抗効果デバイスは、前記磁気抵抗効果素子を複数有し、一つの前記独立磁性体に対し、複数の磁気抵抗効果素子が配設されていてもよい。
(11)上記態様にかかる磁気抵抗効果デバイスは、前記磁気抵抗効果素子及び前記独立磁性体を複数有し、それぞれの磁気抵抗効果素子に対して前記独立磁性体がそれぞれ配設されていてもよい。
(12)上記態様にかかる磁気抵抗効果デバイスにおいて、複数の磁気抵抗効果素子の少なくとも一部は、互いに並列配置されていてもよい。
(13)上記態様にかかる磁気抵抗効果デバイスにおいて、複数の磁気抵抗効果素子の少なくとも一部は、互いに直列配置されていてもよい。
(14)上記態様にかかる磁気抵抗効果デバイスにおいて、複数の磁気抵抗効果素子は、前記磁気抵抗効果素子から出力される高周波電流を流す出力信号線路をそれぞれ有し、前記出力信号線路の少なくとも一つは、複数の前記磁気抵抗効果素子の少なくとも一つに磁場を印加する前記独立磁性体に高周波磁場を印加する位置に配設されていてもよい。
(15)第2の態様にかかる高周波デバイスは、上記態様にかかる磁気抵抗効果デバイスを用いたものである。
上記態様にかかる磁気抵抗効果デバイスによれば、強磁性共鳴現象を利用した磁気抵抗効果デバイスを、高周波フィルタや増幅器等の高周波デバイスとして用いることができる。
また上記態様にかかる磁気抵抗効果デバイスによれば、磁気抵抗効果素子の抵抗値変化は、大きな磁気モーメントを有する独立磁性体の磁化の振動に大きな影響を受ける。そのため、第1強磁性層及び第2強磁性層の磁化が熱揺らぎにより振動することにより生じるノイズの発生を低減できる。
以下、磁気抵抗効果デバイスについて、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、本発明の効果を奏する範囲で適宜変更して実施することが可能である。
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態にかかる磁気抵抗効果デバイスの回路構成を示した模式図である。図1に示す磁気抵抗効果デバイス100は、磁気抵抗効果素子10と、第1の信号線路20と、直流印加端子40と、独立磁性体60と、を有する。磁気抵抗効果デバイス100は、第1のポート1から信号を入力し、第2のポート2から信号を出力する。出力する信号は、磁場印加機構50によって変調できる。
図1は、第1実施形態にかかる磁気抵抗効果デバイスの回路構成を示した模式図である。図1に示す磁気抵抗効果デバイス100は、磁気抵抗効果素子10と、第1の信号線路20と、直流印加端子40と、独立磁性体60と、を有する。磁気抵抗効果デバイス100は、第1のポート1から信号を入力し、第2のポート2から信号を出力する。出力する信号は、磁場印加機構50によって変調できる。
<第1のポート及び第2のポート>
第1のポート1は、磁気抵抗効果デバイス100の入力端子である。第1のポート1は、第1の信号線路20の一端に対応する。第1のポート1に交流信号源(図視略)を接続することで、磁気抵抗効果デバイス100に交流信号を印加できる。
第1のポート1は、磁気抵抗効果デバイス100の入力端子である。第1のポート1は、第1の信号線路20の一端に対応する。第1のポート1に交流信号源(図視略)を接続することで、磁気抵抗効果デバイス100に交流信号を印加できる。
第2のポート2は、磁気抵抗効果デバイス100の出力端子である。第2のポート2は、磁気抵抗効果素子10から出力する信号を伝える出力信号線路(第2の信号線路)30の一端に対応する。第2のポート2に高周波測定器(図視略)を接続することで、磁気抵抗効果デバイス100から出力される信号を測定できる。高周波測定器には、例えば、ネットワークアナライザ等を用いることができる。
<磁気抵抗効果素子>
磁気抵抗効果素子10は、第1強磁性層11と、第2強磁性層12と、スペーサ層13とを有する。スペーサ層13は、第1強磁性層11と第2強磁性層12との間に位置する。以下、第1強磁性層11の磁化の向きと第2強磁性層12の磁化の向きとが、相対的に変化することで、磁気抵抗効果素子10として機能する。第1強磁性層11と第2強磁性層12とは、所定の磁場環境下で、固定された一方の磁化に対し他方の磁化が変化する構成(一方が磁化固定層で、他方が磁化自由層と言う構成)でもよいし、両方の磁化の向きがそれぞれ変化する構成(両方が磁化自由層と言う構成)でもよい。いずれの場合でも、二つの磁化の向きが相対的に変化することで、抵抗値変化が生じる。以下、第1強磁性層11が磁化固定層、第2強磁性層12が磁化自由層の場合を例に説明する。
磁気抵抗効果素子10は、第1強磁性層11と、第2強磁性層12と、スペーサ層13とを有する。スペーサ層13は、第1強磁性層11と第2強磁性層12との間に位置する。以下、第1強磁性層11の磁化の向きと第2強磁性層12の磁化の向きとが、相対的に変化することで、磁気抵抗効果素子10として機能する。第1強磁性層11と第2強磁性層12とは、所定の磁場環境下で、固定された一方の磁化に対し他方の磁化が変化する構成(一方が磁化固定層で、他方が磁化自由層と言う構成)でもよいし、両方の磁化の向きがそれぞれ変化する構成(両方が磁化自由層と言う構成)でもよい。いずれの場合でも、二つの磁化の向きが相対的に変化することで、抵抗値変化が生じる。以下、第1強磁性層11が磁化固定層、第2強磁性層12が磁化自由層の場合を例に説明する。
磁化固定層11は、強磁性体材料で構成されている。磁化固定層11は、Fe、Co、Ni、NiとFeの合金、FeとCoの合金、またはFeとCoとBの合金などの高スピン分極率材料から構成されることが好ましい。これらの材料を用いることで、磁気抵抗効果素子10の磁気抵抗変化率が大きくなる。また磁化固定層11は、ホイスラー合金で構成されても良い。磁化固定層11の膜厚は、1〜10nmとすることが好ましい。
磁化固定層11の磁化固定方法は、特に問わない。例えば、磁化固定層11の磁化を固定するために磁化固定層11に接するように反強磁性層を付加してもよい。また、結晶構造、形状などに起因する磁気異方性を利用して磁化固定層11の磁化を固定してもよい。反強磁性層には、FeO、CoO、NiO、CuFeS2、IrMn、FeMn、PtMn、CrまたはMnなどを用いることができる。
磁化自由層12は、外部からの印加磁場もしくはスピン偏極電子によってその磁化の方向が変化可能な強磁性体材料で構成されている。
磁化自由層12は、磁化自由層12を積層する積層方向と垂直な面内方向に磁化容易軸を有する場合の材料として、CoFe、CoFeB、CoFeSi、CoMnGe、CoMnSiまたはCoMnAlなどを用いることができ、磁化自由層12の積層方向に磁化容易軸を有する場合の材料として、Co、CoCr系合金、Co多層膜、CoCrPt系合金、FePt系合金、希土類を含むSmCo系合金またはTbFeCo合金などを用いることができる。また、磁化自由層12は、ホイスラー合金で構成されても良い。
磁化自由層12の厚さは、1〜10nm程度とすることが好ましい。また磁化自由層12とスペーサ層13との間には、高スピン分極率材料を挿入しても良い。高スピン分極率材料を挿入することによって、高い磁気抵抗変化率を得ることが可能となる。
高スピン分極率材料としては、CoFe合金またはCoFeB合金などが挙げられる。CoFe合金またはCoFeB合金いずれの膜厚も0.2〜1.0nm程度とすることが好ましい。
スペーサ層13は、磁化固定層11と磁化自由層12の間に配置される非磁性層である。スペーサ層13は、導電体、絶縁体、半導体によって構成される層、もしくは、絶縁体中に導体によって構成される通電点を含む層で構成される。
例えば、スペーサ層13が絶縁体からなる場合は、磁気抵抗効果素子10はトンネル磁気抵抗(TMR:Tunneling Magnetoresistance)素子となり、スペーサ層13が金属からなる場合は巨大磁気抵抗(GMR:Giant Magnetoresistance)素子となる。
スペーサ層13を非磁性導電材料で構成する場合、Cu、Ag、Au又はRu等の導電材料を用いることができる。GMR効果を効率よく利用するためには、スペーサ層13の膜厚は、0.5〜3.0nm程度が好ましい。
スペーサ層13として非磁性絶縁材料を適用する場合、材料としてはAl2O3またはMgOなどが挙げられ、磁気抵抗効果素子10にはトンネル磁気抵抗(TMR)効果が発現する。磁化固定層11と磁化自由層12との間にコヒーレントトンネル効果が発現するように、スペーサ層13の膜厚を調整することで高い磁気抵抗変化率が得られる。TMR効果を利用する場合、スペーサ層3の膜厚は、0.5〜3.0nm程度とすることが好ましい。
スペーサ層13を非磁性半導体材料で構成する場合、ZnO、In2O3、SnO2、ITO、GaOx又はGa2Ox等の材料を用いることができる。この場合、スペーサ層13の膜厚は1.0〜4.0nm程度が好ましい。
スペーサ層13として非磁性絶縁体中の導体によって構成される通電点を含む層を適用する場合、Al2O3またはMgOによって構成される非磁性絶縁体中に、CoFe、CoFeB、CoFeSi、CoMnGe、CoMnSi、CoMnAl、Fe、Co、Au、Cu、AlまたはMgなどの導体によって構成される通電点を含む構造とすることが好ましい。この場合、スペーサ層13の膜厚は、0.5〜2.0nm程度が好ましい。
磁気抵抗効果素子10への通電性を高めるためには、磁気抵抗効果素子10の積層方向の両面に電極を設けることが好ましい。以下、磁気抵抗効果素子10の積層方向の下部に設けられた電極を下部電極14、上部に設けられた電極を上部電極15という。下部電極14及び上部電極15を設けることで、出力信号線路30及び第3の信号線路31と磁気抵抗効果素子10の接触が面になり、磁気抵抗効果素子10の面内方向いずれの位置においても、信号(電流)の流れが積層方向に沿う。
下部電極14及び上部電極15は、導電性を有する材料により構成される。例えば、Ta、Cu、Au、AuCu、Ru等を下部電極14及び上部電極15に用いることができる。
また磁気抵抗効果素子10と下部電極14又は上部電極15との間には、キャップ層、シード層またはバッファー層を配設しても良い。キャップ層、シード層またはバッファー層としては、Ru、Ta、Cu、Crまたはこれらの積層膜などが挙げられる。これらの層の膜厚は、それぞれ2〜10nm程度とすることが好ましい。
磁気抵抗効果素子10の大きさは、磁気抵抗効果素子10の平面視形状が長方形(正方形を含む)の場合、長辺を300nm以下にすることが望ましい。磁気抵抗効果素子10の平面視形状が長方形ではない場合は、磁気抵抗効果素子10の平面視形状に最小の面積で外接する長方形の長辺を、磁気抵抗効果素子10の長辺と定義する。
長辺が300nm程度と小さい場合、磁化自由層12の体積が小さくなり、高効率な強磁性共鳴現象の実現が可能となる。ここで、「平面視形状」とは、磁気抵抗効果素子10を構成する各層の積層方向から見た形状のことである。
<第1の信号線路>
図1における第1の信号線路20は、一端が第1のポート1に接続され、他端が基準電位に接続されている。図1では、基準電位としてグラウンドGに接続している。第1のポート1に入力される高周波信号とグラウンドGとの電位差に応じて、第1の信号線路20内に高周波電流が流れる。第1の信号線路20内に高周波電流が流れると、第1の信号線路20から高周波磁場が発生する。この高周波磁場は、独立磁性体60及び磁気抵抗効果素子10に印加される。
図1における第1の信号線路20は、一端が第1のポート1に接続され、他端が基準電位に接続されている。図1では、基準電位としてグラウンドGに接続している。第1のポート1に入力される高周波信号とグラウンドGとの電位差に応じて、第1の信号線路20内に高周波電流が流れる。第1の信号線路20内に高周波電流が流れると、第1の信号線路20から高周波磁場が発生する。この高周波磁場は、独立磁性体60及び磁気抵抗効果素子10に印加される。
第1の信号線路20は、一本の信号線路に限られず、複数本の信号線路でもよい。この場合、各信号線路から発生する高周波磁場が独立磁性体60の位置で強めあう位置に、複数の信号線路を配設することが好ましい。
また第1の信号線路20が接続される基準電位は、必ずしもグラウンドGに限られない。例えば、第1の信号線路20を磁気抵抗効果素子10の磁化固定層11に接続し、第1の信号線路20の一部が下部電極14を兼ねる構成としてもよい。また第1の信号線路20を磁化自由層12に接続し、第1の信号線路20が上部電極15の一部を兼ねる構成でもよい。
<出力信号線路、第3の信号線路>
出力信号線路30は、磁気抵抗効果素子10から出力した信号を伝播する。磁気抵抗効果素子10から出力する信号は、磁気抵抗効果素子10の強磁性共鳴を利用して選択された周波数の信号である。図1における出力信号線路30は、一端が磁気抵抗効果素子10に接続され、他端が第2のポート2に接続されている。すなわち、図1における出力信号線路30は、磁気抵抗効果素子10と第2のポート2とを繋ぐ。
出力信号線路30は、磁気抵抗効果素子10から出力した信号を伝播する。磁気抵抗効果素子10から出力する信号は、磁気抵抗効果素子10の強磁性共鳴を利用して選択された周波数の信号である。図1における出力信号線路30は、一端が磁気抵抗効果素子10に接続され、他端が第2のポート2に接続されている。すなわち、図1における出力信号線路30は、磁気抵抗効果素子10と第2のポート2とを繋ぐ。
第3の信号線路31は、一端が磁気抵抗効果素子10に接続され、他端が基準電位に接続されている。図1では第3の信号線路31を、第1の信号線路20の基準電位と共通のグラウンドGに接続しているが、その他の基準電位に接続してもよい。回路構成を簡便にするためには、第1の信号線路20の基準電位と第3の信号線路31の基準電位とは共通していることが好ましい。
各信号線路及びグラウンドGの形状は、マイクロストリップライン(MSL)型やコプレーナウェーブガイド(CPW)型に規定することが好ましい。マイクロストリップライン(MSL)型やコプレーナウェーブガイド(CPW)型に設計する場合、信号線路の特性インピーダンスと、回路系のインピーダンスとが等しくなるように、信号線路幅やグラウンド間距離を設計することが好ましい。このように設計することによって信号線路の伝送損失を抑えることができる。
<直流印加端子>
直流印加端子40は、電源41に接続され、磁気抵抗効果素子10の積層方向に直流電流又は直流電圧を印加する。電源41は、一定の直流電流を発生可能な、固定抵抗と直流電圧源との組み合わせの回路により構成されてもよい。また電源41は直流電流源でも、直流電圧源でもよい。
直流印加端子40は、電源41に接続され、磁気抵抗効果素子10の積層方向に直流電流又は直流電圧を印加する。電源41は、一定の直流電流を発生可能な、固定抵抗と直流電圧源との組み合わせの回路により構成されてもよい。また電源41は直流電流源でも、直流電圧源でもよい。
直流印加端子40と出力信号線路30との間には、インダクタ42が配設されている。インダクタ42は、電流の高周波成分をカットし、電流の直流成分のみを通す。インダクタ42により磁気抵抗効果素子10から出力された出力信号は第2のポート2に効率的に流れる。またインダクタ42により直流電流は、電源41、出力信号線路30、磁気抵抗効果素子10、第3の信号線路31、グラウンドGという閉回路を流れる。
インダクタ42には、チップインダクタ、パターン線路によるインダクタ、インダクタ成分を有する抵抗素子等を用いることができる。インダクタ42のインダクタンスは10nH以上であることが好ましい。
<独立磁性体>
独立磁性体60は、その他の回路構成と独立して存在する磁性体である。独立磁性体60の磁化は、第1の信号線路20で生じた高周波磁場を受け振動(歳差運動)する。この独立磁性体60の磁化は磁場を発生し、磁気抵抗効果素子10の磁化自由層12の磁化に影響を及ぼす。独立磁性体60は、第1の信号線路20からの信号を磁気抵抗効果素子10に伝える役割を有し、第1の信号線路20からの信号を増幅することもできる。
独立磁性体60は、その他の回路構成と独立して存在する磁性体である。独立磁性体60の磁化は、第1の信号線路20で生じた高周波磁場を受け振動(歳差運動)する。この独立磁性体60の磁化は磁場を発生し、磁気抵抗効果素子10の磁化自由層12の磁化に影響を及ぼす。独立磁性体60は、第1の信号線路20からの信号を磁気抵抗効果素子10に伝える役割を有し、第1の信号線路20からの信号を増幅することもできる。
独立磁性体60は、磁性体材料により構成される。独立磁性体60は、絶縁体を有する磁性体であることが好ましい。例えば、フェライト等のセラミックス等を用いることができる。独立磁性体60が絶縁性を有すると、第1の信号線路20や磁気抵抗効果素子10との短絡を防ぐことができる。なお、独立磁性体60が、導電性を有する金属又は合金の場合でも、これらの部材との間に絶縁層を設けることで、短絡を防ぐことができる。
独立磁性体60が導電性を有する場合、独立磁性体60が軟磁性体を有する磁性体であってもよい。例えば、Fe、Co、Ni、NiとFeの合金、FeとCoの合金等の比較的飽和磁化Msが大きく、保磁力が小さい磁性体を用いることができる。第1の信号線路20で生じた高周波磁場を受けることで、独立磁性体60の磁化が大きく振動し、飽和磁化Msも大きいため、第1の信号線路20に流れる信号に対応した大きな磁場を磁気抵抗効果素子10の磁化自由層12の磁化に与えることができる。
また、独立磁性体60が導電性を有する場合、独立磁性体60が硬磁性体を有する磁性体であってもよい。例えば、CoPt合金、FePt合金、CoCrPt合金等の飽和磁化Msが大きく、保磁力が大きい磁性体を用いることができる。第1の信号線路20で生じた高周波磁場を受けても、保磁力が大きいため、独立磁性体60の磁化の振動は小さいが、飽和磁化Msを大きくすることができるので、全体として、第1の信号線路20に流れる信号に対応した大きな磁場を磁気抵抗効果素子10の磁化自由層12の磁化に与えることができる。
また独立磁性体60のダンピング定数は、0.005以下であることが好ましい。ダンピング定数(ここではGilbert減衰定数)は、磁性体の磁化の歳差運動の減衰の強さを表す物理定数であると言われている。ダンピング定数の小さいと、独立磁性体60の磁化は高周波磁場の影響をうけやすくなり、磁化の振動を大きくできる。
独立磁性体60は、第1の信号線路20からの信号を最初に受け取り、磁気抵抗効果素子10に伝搬、増幅する。独立磁性体60のダンピング定数が小さいと、第1の信号線路20で生じた高周波磁場により独立磁性体60の磁化が歳差運動し易くなる。その結果、独立磁性体60が磁気抵抗効果素子10の磁化自由層12に大きな磁場を印加できる。
絶縁性を有し、ダンピング定数の小さい材料としては、希土類鉄ガーネット(RIG)が知られている。RIGの中でもイットリウム鉄ガーネット(YIG)が好ましい。YIGは、薄膜でも高い磁気特性を示し、高周波帯域での磁気損失も少ない。
独立磁性体60の体積は、磁化自由層12の体積の100倍以上であることが好ましく、1000倍以上であることが好ましい。磁性体の磁気モーメントは、飽和磁化Msと磁性体の体積の積により決定する。そのため、磁性体の体積を大きくすると、磁性体の磁気モーメントが大きくなり、出力される信号が大きくなる。
出力される信号は、磁気抵抗効果素子10の抵抗値変化である。そのため、磁気抵抗効果素子10の磁化自由層12の体積を大きくするという発想が通常である。しかしながら、磁化自由層12は、磁気抵抗効果素子10の一構成であり、体積を大きくすることが難しい。
これに対し、独立磁性体60は、その他の回路構成と独立して存在しているため、体積を自由に設定できる。また磁化自由層12の磁化は、独立磁性体60の磁化の歳差運動に引きずられて歳差運動をする。すなわち、独立磁性体60の体積を大きくすると、独立磁性体60が大きな磁場を生み出すことができ、磁化自由層12の磁化を大きく動かすことができる。
独立磁性体60は、第1の信号線路20からの高周波磁場を受けることができ、かつ、磁化自由層12の磁化に磁場を及ぼす位置に配設される。そのため独立磁性体60は、磁気抵抗効果素子10の積層方向上下(図1における上下方向)、積層方向と交差する面内方向(図1における左右方向)のいずれの位置にも配置できる。独立磁性体60の磁化が生じる磁場を効率的に磁化自由層12に印加するためには、独立磁性体60は第1の信号線路20と磁気抵抗効果素子10の間に配設することが好ましい。また磁気抵抗効果デバイス100の製造しやすさの観点からは、独立磁性体60は第1の信号線路20の上方(磁気抵抗効果素子10と反対側)に設けることが好ましい。
<磁場印加機構>
磁場印加機構50は、独立磁性体60に外部磁場を印加し、独立磁性体60の共鳴周波数を変調する。磁気抵抗効果デバイス100が出力する信号は、独立磁性体60の共鳴周波数により変動する。そのため、出力信号を可変にするためには、磁場印加機構をさらに有することが好ましい。
磁場印加機構50は、独立磁性体60に外部磁場を印加し、独立磁性体60の共鳴周波数を変調する。磁気抵抗効果デバイス100が出力する信号は、独立磁性体60の共鳴周波数により変動する。そのため、出力信号を可変にするためには、磁場印加機構をさらに有することが好ましい。
磁場印加機構50は、独立磁性体60の近傍に配設されることが好ましい。磁場印加機構50は、例えば、電圧又は電流のいずれかにより印加磁場強度を可変制御できる電磁石型又はストリップライン型で構成される。また、印加磁場強度を可変制御できる電磁石型又はストリップライン型と、一定磁場のみを供給する永久磁石と、の組み合わせにより構成されてもよい。
「磁気抵抗効果デバイスの機能」
磁気抵抗効果デバイス100に第1のポート1から高周波信号が入力されると、高周波信号に対応する高周波電流が第1の信号線路20内を流れる。第1の信号線路20内を流れる高周波電流は、独立磁性体60に高周波磁場を印加する。
磁気抵抗効果デバイス100に第1のポート1から高周波信号が入力されると、高周波信号に対応する高周波電流が第1の信号線路20内を流れる。第1の信号線路20内を流れる高周波電流は、独立磁性体60に高周波磁場を印加する。
独立磁性体60の磁化は、第1の信号線路20により印加された高周波磁場が、独立磁性体60の共鳴周波数の近傍の場合に大きく振動する。この現象が強磁性共鳴現象である。
独立磁性体60の磁化は、磁場を生み出す。磁気抵抗効果素子10の磁化自由層12の磁化は、独立磁性体60の磁化が生み出す磁場の影響を受けて動く。すなわち、独立磁性体60の磁化が大きく振動する際には、独立磁性体60の生み出す磁場も大きく変化し、磁化自由層12の磁化は大きく振動する。
磁化自由層12の振動が大きくなると、磁気抵抗効果素子10における抵抗値変化が大きくなる。磁気抵抗効果素子10の抵抗値変化は、下部電極14と上部電極15との間の電位差として第2のポート2から出力される。
すなわち、第1のポート1から入力された高周波信号が独立磁性体60の共鳴周波数近傍の場合は、磁気抵抗効果素子10の抵抗値の変動量が大きく、第2のポート2から大きな信号が出力される。これに対し、高周波信号が独立磁性体60の共鳴周波数から外れている場合は、磁気抵抗効果素子10の抵抗値の変動量が小さく、第2のポート2から信号がほとんど出力されない。すなわち、磁気抵抗効果デバイス100は特定の周波数の高周波信号のみを選択的に通過できる高周波フィルタとして機能する。
このように、磁気抵抗効果デバイス100は、独立磁性体60の磁化を強磁性共鳴により振動させ、この振動する磁化により引きずられた磁化自由層12の磁化の振動を信号として主として出力する。一方、第1の信号線路20で生じた高周波磁場は磁化自由層12にも一部印加される。そのため、磁化自由層12の磁化は独立磁性体60の磁化とは独立に振動する場合がある。そこで、磁気抵抗効果デバイス100から出力される信号の精度を高めるために、磁化自由層12の共鳴周波数も考慮することが好ましい。
共鳴周波数は、磁性体における有効磁場によって変化する。磁性体における有効磁場Heffは、磁性体に印加される外部磁場をHE、磁性体における異方性磁場をHk、磁性体における反磁場をHD、磁性体における交換結合磁場をHEXとすると、以下の式で表される。
Heff=HE+Hk+HD+HEX ・・・(1)
Heff=HE+Hk+HD+HEX ・・・(1)
そのため、独立磁性体60の共鳴周波数と磁化自由層12の共鳴周波数とは、必ずしも一致するものではない。以下、独立磁性体60の共鳴周波数と磁化自由層12の共鳴周波数とが一致する場合と、一致しない場合とに分けて具体的に説明する。
まず独立磁性体60の共鳴周波数と磁化自由層12の共鳴周波数とが一致する場合について説明する。図2は、独立磁性体60と磁化自由層12の印加される高周波磁場の周期に対する振動振幅、及び、出力信号の関係を示した図である。図2(a)は独立磁性体60の振動振幅を示し、図2(b)は磁化自由層12の振動振幅を示し、図2(c)は磁気抵抗効果デバイス100から出力される出力信号を示す。
独立磁性体60の磁化は、共鳴周波数f0で大きな強磁性共鳴をする。そのため、図2(a)に示すように、共鳴周波数f0近傍で独立磁性体60の磁化は大きな振動を示し、その他の周波数ではほとんど振動しない。
また磁化自由層12の磁化は、独立磁性体60の磁化が生み出す磁場の影響を受けて大きく振動する。また磁化自由層12は、第1の信号線路20から出力される磁場の影響も受ける。第1の信号線路20により磁気抵抗効果素子10に印加された高周波磁場が、磁化自由層12の共鳴周波数の近傍の場合にも、磁化自由層12の磁化は大きく振動する。
図2(b)に示すように、磁化自由層12の共鳴周波数f0と独立磁性体60の共鳴周波数f0とは一致する。そのため図2(b)に示すように、磁化自由層12の磁化は、共鳴周波数f0のみで大きく振動する。
磁気抵抗効果デバイス100は、磁気抵抗効果素子10の抵抗値変化を出力する。磁気抵抗効果素子10の抵抗値変化は、磁化固定層11と磁化自由層12の磁化の向きの相対変化により生じる。そのため磁気抵抗効果デバイス100は、磁化自由層12の磁化が大きく振動する共鳴周波数f0で大きな信号を出力する。
次いで、独立磁性体60の共鳴周波数と磁化自由層12の共鳴周波数とが異なる場合について説明する。図3は、独立磁性体60と磁化自由層12の印加される高周波磁場の周期に対する振動振幅、及び、出力信号の関係を示した図である。図3(a)は独立磁性体60の振動振幅を示し、図3(b)は磁化自由層12の振動振幅を示し、図3(c)は磁気抵抗効果デバイス100から出力される出力信号を示す。
独立磁性体60の磁化は、共鳴周波数f0で大きな強磁性共鳴をする。そのため、図3(a)に示すように、共鳴周波数f0近傍で独立磁性体60の磁化は大きな振動を示し、その他の周波数ではほとんど振動しない。
一方で、磁化自由層12の磁化は、独立磁性体60からの影響及び第1の信号線路20からの影響を受けて振動する。独立磁性体60の磁化は、共鳴周波数f0で振動し、磁場を生み出す。この磁場は、磁化自由層12の磁化を振動させる。その結果、磁化自由層12の磁化は、共鳴周波数f0で振動する。
また磁化自由層12の磁化は、磁化自由層12の共鳴周波数f1近傍でも振動する。この振動は、第1の信号線路20により磁気抵抗効果素子10に印加された高周波磁場が、磁化自由層12の磁化と強磁性共鳴することで生じる。
したがって、図3(b)に示すように、磁化自由層12の磁化は、独立磁性体60の共鳴周波数f0と、磁化自由層12の共鳴周波数f1で振動する。そのため図3(c)に示すように、磁気抵抗効果デバイス100は、独立磁性体60の共鳴周波数f0と、磁化自由層12の共鳴周波数f1で、大きな信号を出力する。
このように、独立磁性体60の共鳴周波数と磁化自由層12の共鳴周波数とが一致する場合と一致しない場合とで、出力される信号には違いが生じる。
独立磁性体60の共鳴周波数と磁化自由層12の共鳴周波数とが一致する場合、磁化自由層12の磁化は、独立磁性体60からの影響と第1の信号線路20からの影響とを重ねあわせた影響を受けて、大きく振動する。つまり、共鳴周波数が一致する場合は、磁気抵抗効果デバイス100から出力される信号が大きくなるという利点がある。
一方で、独立磁性体60の共鳴周波数と磁化自由層12の共鳴周波数とが異なる場合は、2つの信号を出力できる磁気抵抗効果デバイス100を実現できる。またローパスフィルタを用いて外部に出力される信号の一方を逓減することで、出力信号を一つに決定することもできる。
ローパスフィルタを用いる場合、独立磁性体60の共鳴周波数f0は、磁化自由層12の共鳴周波数f1より小さいことが好ましく、磁化自由層12の共鳴周波数f1より小さい周波数を通過させるローパスフィルタを用いることが好ましい。独立磁性体60の共鳴周波数f0は、独立磁性体60における有効磁場を、磁化自由層12における有効磁場より小さくすることで、磁化自由層12の共鳴周波数f1より小さくできる(式(1)参照)。
磁化自由層12は、体積が小さく磁気モーメントが小さい。そのため、熱等の影響をうけやすく、熱揺らぎ等が磁化自由層12の磁化の振動に影響を与える。この熱揺らぎの影響は、磁化自由層12の共鳴周波数f1近傍で大きくなると言われている。すなわち、図3(c)に示す磁化自由層12の共鳴周波数f1近傍の出力信号はノイズを多く含む。このノイズを多く含む信号をローパスフィルタでカットすることで、ノイズの少ない出力信号(独立磁性体60の共鳴周波数f0近傍の出力信号)のみを取り出すことができる。
このようにローパスフィルタを用いることで、ノイズの影響を最小限にすることができる。一方で、独立磁性体60の磁気モーメントが磁化自由層12の磁気モーメントよりも充分大きい場合は、独立磁性体60が磁化自由層12の磁化に与える影響が大きくなり、第1の信号線路20が磁化自由層12の磁化に与える影響が小さくなる。すなわち、図3(b)における独立磁性体60の共鳴周波数f0近傍の出力信号が大きくなり、磁化自由層12の共鳴周波数f1近傍の出力信号が小さくなる。そのため、ローパスフィルタを用いてノイズをカットしなくても、十分無視できる程度にノイズは小さくなる。これは、独立磁性体60の共鳴周波数と磁化自由層12の共鳴周波数とが一致する場合にも同様である。
<共鳴周波数の変調>
磁気抵抗効果デバイス100が選択する周波数は、磁化自由層12の共鳴周波数を変えることで変調できる。共鳴周波数は、磁化自由層12における有効磁場によって変化する。
磁気抵抗効果デバイス100が選択する周波数は、磁化自由層12の共鳴周波数を変えることで変調できる。共鳴周波数は、磁化自由層12における有効磁場によって変化する。
式(1)に示すように、磁化自由層12における有効磁場は、外部磁場HEの影響を受ける。外部磁場HEの大きさは、磁場印加機構50により調整できる。図4は、磁気抵抗効果素子10に印加される直流電流が一定の場合に磁気抵抗効果デバイス100に入力される高周波信号の周波数と出力される電圧の振幅との関係を示す図である。
独立磁性体60に任意の外部磁場が印加されると、独立磁性体60の共鳴周波数は外部磁場の影響を受けて変化する。この際の共鳴周波数をfb1とする。独立磁性体60の共鳴周波数がfb1であるため、磁気抵抗効果デバイス100に入力される高周波信号の周波数がfb1の際に出力電圧の振幅が大きくなる(図2、図3参照)。そのため、図4に示すプロット線100b1のグラフが得られる。
次いで印加する外部磁場を大きくすると、外部磁場の影響を受けて共鳴周波数がfb1からfb2にシフトする。この際、出力電圧の振幅が大きくなる周波数もfb1からfb2にシフトする。その結果、図4に示すプロット線100b2のグラフが得られる。このように、磁場印加機構50は、独立磁性体60に印加される有効磁場Heffを調整し、共鳴周波数を変調できる。
一方で、磁場印加機構50は、独立磁性体60及び磁気抵抗効果素子10の両方に磁場を印加する。そのため、独立磁性体60の共鳴周波数と、磁化自由層12の共鳴周波数とを同時に変調することはできても、それぞれの共鳴周波数の関係性を変えることは難しい。すなわち、図3(c)における共鳴周波数f0と共鳴周波数f1との周波数差を変えることは難しい。そこで、磁化自由層12の共鳴周波数のみを独立して変調できる手段について説明する。
一つ目の手段は、磁気抵抗効果素子10の磁化自由層12に外部磁場を印加するバイアス磁性層を設けることである。磁気抵抗効果素子10のサイズは数百nm程度であり、磁化自由層12の厚みが数nm程度である。そのため、独立磁性体60に影響を及ぼさず、磁化自由層12に磁場を印加するためには、非常に小さい磁場の発生源が必要である。
バイアス磁性層は、磁性を有する磁性膜である。バイアス磁性層は磁化自由層12の近傍に磁性膜を積層して得られる。バイアス磁性層は、独立磁性体60に影響を及ぼさず、磁化自由層12に磁場を印加できる。バイアス磁性層により磁化自由層12に磁場を印加すると、磁化自由層12の共鳴周波数f1が大きくなる。その結果、独立磁性体60の共鳴周波数f0と磁化自由層12の共鳴周波数f1との周波数差を広げることができる。これらの間の周波数差が広がると、ローパスフィルタ等により信号の切り分けが容易になる。
次いで、二つ目の手段は、電源41から磁気抵抗効果素子10に印加される直流電流の電流密度を変えることである。図5は、磁気抵抗効果素子10に印加される外部磁場が一定の場合に磁気抵抗効果デバイス100に入力される高周波信号の周波数と出力される電圧の振幅との関係を示す図である。ここで直流電流は、磁気抵抗効果素子10に流れるものであり、独立磁性体60には影響を及ぼさない。そのため、ここでいう「出力される電圧の振幅」とは、磁化自由層12の共鳴周波数f1によるもの(図3(b)参照)であり、独立磁性体60の共鳴周波数f0によるもののことではない。
磁気抵抗効果デバイス100の第2のポート2から出力される出力電圧は、磁気抵抗効果素子10において振動する抵抗値と、磁気抵抗効果素子10に流れる直流電流の積で表される。磁気抵抗効果素子に流れる直流電流が大きくなると、出力電圧の振幅(出力信号)は大きくなる。
また磁気抵抗効果素子10に流れる直流電流量が変わると、磁化自由層12における磁化の状態が変化し、磁化自由層12における異方性磁場Hk、反磁場HD、磁気交換結合磁場HEXの大きさが変化する。その結果、直流電流が大きくなると共鳴周波数は低くなる。つまり、図5に示すように直流電流量が大きくなると、プロット線100a1からプロット線100a2にシフトする。このように、電源41から磁気抵抗効果素子10に印加する電流量を変えることで、磁化自由層12の共鳴周波数を変調できる。磁化自由層12の共鳴周波数f1を変調することができれば、独立磁性体60の共鳴周波数f0と磁化自由層12の共鳴周波数f1との周波数差を広げることができ、ローパスフィルタ等により信号の切り分けが容易になる。
<他の用途>
また上記では磁気抵抗効果デバイスを高周波フィルタとして用いる場合を例に提示したが、磁気抵抗効果デバイスはアイソレータ、フェイズシフタ、増幅器(アンプ)等の高周波デバイスとしても利用できる。
また上記では磁気抵抗効果デバイスを高周波フィルタとして用いる場合を例に提示したが、磁気抵抗効果デバイスはアイソレータ、フェイズシフタ、増幅器(アンプ)等の高周波デバイスとしても利用できる。
磁気抵抗効果デバイスをアイソレータとして用いる場合は、第2のポート2から信号を入力する。第2のポート2から信号を入力しても第1のポート1から出力されることはないため、アイソレータとして機能する。
また磁気抵抗効果デバイスをフェイズシフタとして用いる場合は、出力される周波数帯域が変化する場合において、出力される周波数帯域の任意の1点の周波数に着目する。出力される周波数帯域が変化する際に、特定の周波数における位相は変化するため、フェイズシフタとして機能する。
また磁気抵抗効果デバイスを増幅器として用いる場合は、磁気抵抗効果素子10の抵抗値変化量を大きくする。磁気抵抗効果素子10の抵抗値変化量は、電源41から入力する直流電流を所定の大きさ以上にしたり、独立磁性体60が磁気抵抗効果素子10に印加する高周波磁場を大きくすることで、大きくなる。磁気抵抗効果素子10の抵抗値変化量が大きくなると、第1のポート1から入力される信号より第2のポート2から出力される信号が大きくなり、増幅器として機能する。
上述のように、第1実施形態にかかる磁気抵抗効果デバイス100は、高周波フィルタ、アイソレータ、フェイズシフタ、増幅器等の高周波デバイスとして機能できる。
上述のように、本実施形態にかかる磁気抵抗効果デバイス100は、独立磁性体60の磁化の振動により生じる磁場により磁化自由層12の磁化を動かしている。磁気モーメントが大きい独立磁性体60を用いることで、磁化自由層12の磁化が熱揺らぎ等により振動することで生じるノイズの影響を少なくすることができる。
また独立磁性体60の共鳴周波数と磁化自由層の共鳴周波数とを異なるようにすると、ノイズの影響を受けやすい磁化自由層の共鳴周波数近傍の出力信号をローパスフィルタ等でカットすることができ、よりノイズの少ない磁気抵抗効果デバイス100を実現できる。
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は特定の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
例えば、磁気抵抗効果デバイスは、磁気抵抗効果素子10を複数有してもよい。図6は、複数の磁気抵抗効果素子を備える磁気抵抗効果デバイスの回路構成の一例を模式的に示した図である。
図6に示す磁気抵抗効果デバイス101は、一つの独立磁性体60に対し、3つの磁気抵抗効果素子(第1磁気抵抗効果素子10a、第2磁気抵抗効果素子10b及び第3磁気抵抗効果素子10c)が配設されている。第1磁気抵抗効果素子10aと第2磁気抵抗効果素子10bと第3磁気抵抗効果素子10cとは、電源41、出力信号線路30、第3の信号線路31、グラウンドGによる閉回路内に互いに直列的に配設されている。
一つの独立磁性体60から印加される磁場により、それぞれの磁気抵抗効果素子は同じように振動する。そのため、第2のポート2から出力される信号は、それぞれの磁気抵抗効果素子10からの出力信号を足し合わせたものとなる。すなわち、図6に示す磁気抵抗効果デバイス101によれば、出力信号を大きくできる。
また図7は、複数の磁気抵抗効果素子を備える磁気抵抗効果デバイスの回路構成の別の例を模式的に示した図である。図7に示す磁気抵抗効果デバイス102は、一つの独立磁性体60に対し、3つの磁気抵抗効果素子(第1磁気抵抗効果素子10a、第2磁気抵抗効果素子10b及び第3磁気抵抗効果素子10c)が、電源41が接続される直流印加端子40に対して互いに並列配置されている。
直列配置の場合も並列配置の場合も、出力される電圧変化はそれぞれの素子の合成抵抗の変化を読み出す。並列配置の場合、並列数が増えるほど合成抵抗値は小さくなる。したがって並列配置の場合は、出力信号は大きくならないが、出力信号の精度を高めることができる。すなわち、図7に示す磁気抵抗効果デバイス102は、ノイズの少ない信号を得ることができる。
また図8は、複数の磁気抵抗効果素子を備える磁気抵抗効果デバイスの回路構成の別の例を模式的に示した図である。図8に示す磁気抵抗効果デバイス103は、電源41に対して磁気抵抗効果素子が並列配置と直列配置の組合せ構造となっている。また図9は、複数の磁気抵抗効果素子を備える磁気抵抗効果デバイスの回路構成の別の例の斜視図である。図9では、電源(図視略)に対して、並列配置した2つの磁気抵抗効果素子10が4組、直列に配置されている。
図8及び図9に示すように、電源41に対して直列及び並列配置した磁気抵抗効果素子10を組み合わせると、それぞれの長所を重ねあわせることができる。直列配置では、磁気抵抗効果素子10の内部抵抗を無視することができないが、並列配置を組み合わせることで内部抵抗の影響を低減できる。また上記の例では、電源41及び直流印加端子40が一つの場合を例に説明したが、電源41及び直流印加端子40を複数設けてもよい。この場合、複数の電源41及び直流印加端子40はそれぞれ、磁気抵抗化素子10毎に接続され、それぞれの磁気抵抗効果素子10に直流電流又は直流電圧を印加する。またこの場合においても、一つの電源41及び直流印加端子40を複数の磁気抵抗効果素子10で兼用してもよい。
また図6〜図9では、一つの独立磁性体60に対して複数の独立磁性体60が設けられる場合について説明したが、それぞれの磁気抵抗効果素子に対して独立磁性体60がそれぞれ配設されていてもよい。
図10は、磁気抵抗効果素子及び独立磁性体が複数あり、一つの磁気抵抗効果素子に対し一つの独立磁性体が設けられている磁気抵抗効果デバイスの回路構成の一例を模式的に示した図である。
それぞれの磁気抵抗効果素子10に設けられた独立磁性体60の共鳴周波数は異なることが好ましい。独立磁性体60の共鳴周波数は、積層方向から見た際の平面視形状を変えることで制御することができる。共鳴周波数の異なる複数の独立磁性体60を用いると、それぞれの独立磁性体60がそれぞれの共鳴周波数で振動し、その近傍に設けられたそれぞれの磁気抵抗効果素子がそれぞれの共鳴周波数で大きな抵抗値変化を示す。そして、第2のポート2からは、これらを合算した値が出力される。そのため、それぞれの共鳴周波数を重ねあわせた範囲の周波数が、磁気抵抗効果デバイス104の選択周波数となり、選択周波数の帯域が広くなる。
磁場印加機構50は、それぞれの独立磁性体60に対して共通して1つとしてもよいし(図10参照)、それぞれに対して設けてもよい。それぞれの磁気抵抗効果素子に対し磁場印加機構50をそれぞれ設けると、磁気抵抗効果デバイス104の集積性は低下するが、磁気抵抗効果デバイス104の選択周波数の設定の自由度が高まる。図10では、電源41に対して直列配置する場合を図示したが、並列配置及び直列と並列の組合せ配置のいずれにおいても同様である。
また図11は、複数の磁気抵抗効果素子を備える磁気抵抗効果デバイスの回路構成の別の例を模式的に示した図である。図11に示す磁気抵抗効果デバイス105は、第1磁気抵抗効果素子10aと、第2磁気抵抗効果素子10bと、第1独立磁性体60aと、第2独立磁性体60bと、を備える。
第1磁気抵抗効果素子10aには、第1独立磁性体60aで発生した高周波磁場が印加され、第2磁気抵抗効果素子10bには、第2独立磁性体60bで発生した高周波磁場が印加される。第1独立磁性体60aの磁化は、第1の信号線路20で発生した高周波磁場を受けて高周波磁場を生み出し、第2独立磁性体60bの磁化は、出力信号線路30で発生した高周波磁場を受けて高周波磁場を生み出す。
第1のポート1から磁気抵抗効果デバイス105に入力された高周波信号は、第1磁気抵抗効果素子10aによってフィルタリングされる。フィルタリングされた高周波信号は、出力信号線路30から出力される。この高周波信号は、第2磁気抵抗効果素子10bによってフィルタリングされ、第2のポート2から磁気抵抗効果デバイス105の外部に出力される。すなわち、磁気抵抗効果デバイス105の第1のポート1から入力された信号は、第2のポート2から出力されるまでの間に、2回フィルタリングされる。したがって、この磁気抵抗効果デバイス105によれば、高周波信号のフィルタリング精度を高めることができる。
また磁気抵抗効果素子の数は、二つに限られず、より多くの素子を設けてもよい。この場合、複数の磁気抵抗効果素子の少なくとも一つの磁気抵抗効果素子には第1の信号線路からの高周波磁場が印加され、残りの磁気抵抗効果素子には別の磁気抵抗効果素子から出力する出力信号線路からの高周波磁場が印加される。磁気抵抗効果素子の数を増やすことで、高周波信号のフィルタリング精度をより高めることができる。
また図11に示す磁気抵抗効果デバイス105の構成においても、それぞれの磁気抵抗効果素子に対する独立磁性体が一つであってもよい。図12は、複数の磁気抵抗効果素子を備える磁気抵抗効果デバイスの回路構成の別の例を模式的に示した図である。図12に示す磁気抵抗効果デバイス106は、第1磁気抵抗効果素子10a及び第2磁気抵抗効果素子10bに対して一つの独立磁性体60が配設されている。
第2磁気抵抗効果素子10bの磁化は、第1の信号線路20、独立磁性体60及び出力信号線路30の影響を受けて振動する。出力信号線路30に流れる高周波電流は、第1磁気抵抗効果素子10aによってフィルタリングされている。すなわち、第2磁気抵抗効果素子10bには、第1磁気抵抗効果素子10aによってフィードバックされた高周波磁場が印加される。このフィードバックが繰り返されると、複数回フィルタリングされた場合(図11)と同等の効果が得られ、出力される信号の精度を高めることができる。
(実施例1)
磁気抵抗効果デバイスから出力される出力電圧及びノイズ出力電圧の大きさを、シミュレーションにより測定した。シミュレーションが実測値と良好な対応関係を有することは確認した。
磁気抵抗効果デバイスから出力される出力電圧及びノイズ出力電圧の大きさを、シミュレーションにより測定した。シミュレーションが実測値と良好な対応関係を有することは確認した。
図13は、実施例1の磁気抵抗効果デバイスの要部を拡大した模式図である。磁気抵抗効果素子10は、直径200nm、厚み25nmの円筒形とした。また下部電極14の厚みは100nmとし、上部電極15の厚みは50nmとした。そして、独立磁性体60は、第1の信号線路20と上部電極15の間に、それぞれ絶縁層61を介して配設した。独立磁性体60は、厚み200nm、長さ10μmとした。絶縁層61の厚みは50nmとした。さらに、第1の信号線路20は、厚み100nm、幅1μmとした。
また独立磁性体60の飽和磁化Msを0.77kOe、ダンピング定数αを0.015とした。この条件は独立磁性体60としてNiFe(Permalloy)を用いた場合に相当する。さらに、磁気抵抗効果素子10の磁化自由層の飽和磁化Msを1.5kOe、ダンピング定数αを0.02とした。この条件は磁化自由層としてCoFeBを用いた場合に相当する。また外部磁場印加機構により独立磁性体60及び磁化自由層には、192Oeのバイアス磁場Hextを印加した。
この磁気抵抗効果デバイスに5mV(電力としては−36dBM)の電圧を入力し、特性インピーダンスを50Ωとした際に、出力される出力電圧及びノイズ出力電力をシミュレーションにより算出した。その結果を図14及び図15に示す。図14は実施例1に係る磁気抵抗効果デバイスの出力電圧の結果であり、図15は実施例1に係る磁気抵抗効果デバイスのノイズ出力電力の結果である。
図14に示すように、実施例1に係る磁気抵抗効果デバイスの出力電圧は、3.4GHzと4.8GHzに二つのピークが見られた。3.4GHzのピークは独立磁性体60の強磁性共鳴に伴うものであり、4.8GHzのピークは磁化自由層の強磁性共鳴に伴うものである。独立磁性体60と磁化自由層とでは飽和磁化Msの大きさが異なるため、強磁性共鳴周波数も互いに異なる。
ノイズ出力電圧は、図15に示すように、4.8GHzにピークが見られた。このピークは、磁化自由層の共鳴周波数近傍で、磁化の熱揺らぎが大きくなったためと考えられる。一方で、独立磁性体60は、磁化自由層の3.2万倍の体積を有する。そのため、磁化が熱等の影響を受けて揺らぐことはほとんど無く、独立磁性体60由来のノイズはほとんど見られなかった。
すなわち、実施例1の磁気抵抗効果デバイスに、4.0GHz以下の周波数を通過することができるローパスフィルタを設けると、ノイズの少ない高周波信号を取り出すことができる。
(比較例1)
比較例1では、独立磁性体を有さない磁気抵抗効果デバイスの出力特性を求めた。図16は、比較例1の磁気抵抗効果デバイスの要部を拡大した模式図である。独立磁性体を除いた点及びバイアス磁場Hextを100Oeとした点以外は、実施例1と同様の条件とし、出力される出力電圧及びノイズ出力電力をシミュレーションにより算出した。その結果を図17及び図18に示す。図17は比較例1に係る磁気抵抗効果デバイスの出力電圧の結果であり、図18は比較例1に係る磁気抵抗効果デバイスのノイズ出力電力の結果である。
比較例1では、独立磁性体を有さない磁気抵抗効果デバイスの出力特性を求めた。図16は、比較例1の磁気抵抗効果デバイスの要部を拡大した模式図である。独立磁性体を除いた点及びバイアス磁場Hextを100Oeとした点以外は、実施例1と同様の条件とし、出力される出力電圧及びノイズ出力電力をシミュレーションにより算出した。その結果を図17及び図18に示す。図17は比較例1に係る磁気抵抗効果デバイスの出力電圧の結果であり、図18は比較例1に係る磁気抵抗効果デバイスのノイズ出力電力の結果である。
比較例1では、バイアス磁場Hextを変更したことにより、磁化自由層の強磁性共鳴周波数は、3.1GHzに変化した。また、独立磁性体が存在しないことにより第1の信号線路と磁化自由層との距離が近づくので、磁化自由層は第1の信号線路からより大きな高周波磁場を受ける。
実施例1の磁気抵抗効果デバイスの3GHz付近の出力電圧の結果(図14)と比較例1の磁気抵抗効果デバイスの3GHz付近の出力電圧の結果(図17)を比較すると、実施例1の出力電圧は7.0mVであるのに対し、比較例1の出力電圧は1.4mVであった。すなわち、磁気抵抗効果デバイスの駆動領域を3GHzとすると、実施例1は、比較例1の5倍の出力特性を示した。また3GHz付近のノイズ出力電圧の結果を比較すると、実施例1のノイズ出力電力(図15)は、比較例1のノイズ出力電力(図18)の100分の1であった。
(比較例2)
比較例2は、バイアス磁場Hextを192Oeとした点以外は、比較例1と同様の条件とした。図19は、比較例2に係る磁気抵抗効果デバイスの出力電圧の結果であり、図20は比較例2に係る磁気抵抗効果デバイスのノイズ出力電力の結果である。
比較例2は、バイアス磁場Hextを192Oeとした点以外は、比較例1と同様の条件とした。図19は、比較例2に係る磁気抵抗効果デバイスの出力電圧の結果であり、図20は比較例2に係る磁気抵抗効果デバイスのノイズ出力電力の結果である。
図19及び図20に示すように、出力電圧のピークの位置及びノイズ出力電力のピークの位置は、いずれも比較例1におけるピークの位置(点線として図示)からシフトした。すなわち、外部磁場印加機構からのバイアス磁場Hextの大きさを変えることで、磁化自由層の強磁性共鳴周波数を変えることができる。また比較例2の磁化自由層の強磁性共鳴周波数は、印加しているバイアス磁場Hextの大きさが等しいため、実施例1における磁化自由層の強磁性共鳴周波数とほぼ一致した。
(実施例2)
実施例2は、磁化自由層に印加されるバイアス磁場Hextの大きさを392Oeとした点のみが実施例1と異なる。なお、独立磁性体60に印加されるバイアス磁場Hextの大きさは192Oeのままとした。そして実施例2の磁気抵抗効果デバイスから出力される出力電圧及びノイズ出力電力をシミュレーションにより算出した。その結果を図21及び図22に示す。図21は実施例2に係る磁気抵抗効果デバイスの出力電圧の結果であり、図23は実施例2に係る磁気抵抗効果デバイスのノイズ出力電力の結果である。
実施例2は、磁化自由層に印加されるバイアス磁場Hextの大きさを392Oeとした点のみが実施例1と異なる。なお、独立磁性体60に印加されるバイアス磁場Hextの大きさは192Oeのままとした。そして実施例2の磁気抵抗効果デバイスから出力される出力電圧及びノイズ出力電力をシミュレーションにより算出した。その結果を図21及び図22に示す。図21は実施例2に係る磁気抵抗効果デバイスの出力電圧の結果であり、図23は実施例2に係る磁気抵抗効果デバイスのノイズ出力電力の結果である。
図21に示すように、実施例2に係る磁気抵抗効果デバイスの出力電圧は、3.4GHzと6.7GHzに二つのピークが見られた。3.4GHzのピークは独立磁性体60の強磁性共鳴に伴うものであり、6.7GHzのピークは磁化自由層の強磁性共鳴に伴うものである。独立磁性体60にかかるバイアス磁場Hextの大きさは、実施例1と同様であるため、独立磁性体60の強磁性共鳴周波数は変化しなかった。これに対し、磁化自由層にかかるバイアス磁場Hextの大きさは大きくなっているため、磁化自由層の強磁性共鳴周波数はシフトした。
また図22に示すようのノイズ出力電力のピーク位置もシフトした。これは、磁化の熱揺らぎは、磁化自由層の共鳴周波数近傍で大きくなるためである。ノイズ出力電圧のピーク位置がシフトすることで、3GHz付近におけるノイズ出力電圧の値を、実施例1(図15)と比較して更に小さくすることができた。
(実施例3)
実施例3は、磁気抵抗効果素子10を複数備える点が実施例2と異なる。図23は、実施例3にかかる磁気抵抗効果デバイスの要部を拡大した模式図である。実施例3における磁気抵抗効果デバイスは直列に配列された4つのグループを有し、各グループは一つの上部電極15と下部電極14の間に並列に配列された4つの磁気抵抗効果素子10を有する。そして実施例3の磁気抵抗効果デバイスから出力される出力電圧及びノイズ出力電力をシミュレーションにより算出した。その結果を図24及び図25に示す。図24は実施例3に係る磁気抵抗効果デバイスの出力電圧の結果であり、図25は実施例3に係る磁気抵抗効果デバイスのノイズ出力電力の結果である。
実施例3は、磁気抵抗効果素子10を複数備える点が実施例2と異なる。図23は、実施例3にかかる磁気抵抗効果デバイスの要部を拡大した模式図である。実施例3における磁気抵抗効果デバイスは直列に配列された4つのグループを有し、各グループは一つの上部電極15と下部電極14の間に並列に配列された4つの磁気抵抗効果素子10を有する。そして実施例3の磁気抵抗効果デバイスから出力される出力電圧及びノイズ出力電力をシミュレーションにより算出した。その結果を図24及び図25に示す。図24は実施例3に係る磁気抵抗効果デバイスの出力電圧の結果であり、図25は実施例3に係る磁気抵抗効果デバイスのノイズ出力電力の結果である。
図24に示すように、複数の磁気抵抗効果素子10を設けることで、実施例3の出力電圧は、実施例2の出力電圧(図21)より4倍大きくなった。これに対し、図25に示すように、実施例3のノイズ出力電力の大きさは、実施例3の出力電圧(図22)と変わらなかった。
1…第1のポート、2…第2のポート、10…磁気抵抗効果素子、11…第1強磁性層(磁化固定層)、12…第2強磁性層(磁化自由層)、13…スペーサ層、14…下部電極、15…上部電極、20…第1の信号線路、30…出力信号線路(第2の信号線路)、31…第3の信号線路、40…直流印加端子、41…電源、42…インダクタ、50…磁場印加機構、60…独立磁性体、61・・・絶縁層、G…グラウンド、100,101,102,103,104…磁気抵抗効果デバイス、M11,M12…磁化、RF…高周波磁場
Claims (15)
- 第1強磁性層と、第2強磁性層と、前記第1強磁性層と前記第2強磁性層との間に挟持されたスペーサ層と、を有する磁気抵抗効果素子と、
高周波電流が流れることで高周波磁場を発生し、高周波磁場を発生する第1の信号線路と、
前記磁気抵抗効果素子の積層方向に直流電流を流すための電源を接続できる直流印加端子と、
前記第1の信号線路で生じた高周波磁場を受け磁化が振動し、この磁化が生み出す磁場を前記磁気抵抗効果素子に印加する独立磁性体と、を備える、磁気抵抗効果デバイス。 - 前記独立磁性体の共鳴周波数は、前記第1強磁性層及び前記第2強磁性層の共鳴周波数より小さい、請求項1に記載の磁気抵抗効果デバイス。
- 外部に出力される信号の一部を逓減するローパスフィルタをさらに備え、
前記ローパスフィルタは、前記第1強磁性層及び前記第2強磁性層の共鳴周波数より小さい周波数を通過させる、請求項2に記載の磁気抵抗効果デバイス。 - 前記独立磁性体の体積が、前記第1強磁性層又は前記第2強磁性層の体積の100倍以上である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の磁気抵抗効果デバイス。
- 前記独立磁性体のダンピング定数が0.005以下である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の磁気抵抗効果デバイス。
- 前記独立磁性体が絶縁体である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の磁気抵抗効果デバイス。
- 前記独立磁性体が導電体である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の磁気抵抗効果デバイス。
- 前記独立磁性体に外部磁場を印加し、前記独立磁性体、前記第1強磁性層及び第2強磁性層の少なくとも一つの共鳴周波数を変調する磁場印加機構をさらに有する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の磁気抵抗効果デバイス。
- 前記磁気抵抗効果素子の前記第1強磁性層又は前記第2強磁性層に外部磁場を印加し、前記第1強磁性層又は前記第2強磁性層の共鳴周波数を変調するバイアス磁性層をさらに有する、請求項1〜8のいずれか一項に記載の磁気抵抗効果デバイス。
- 前記磁気抵抗効果素子を複数有し、
一つの前記独立磁性体に対し、複数の磁気抵抗効果素子が配設されている、請求項1〜9のいずれか一項に記載の磁気抵抗効果デバイス。 - 前記磁気抵抗効果素子及び前記独立磁性体を複数有し、
それぞれの磁気抵抗効果素子に対して前記独立磁性体がそれぞれ配設されている、請求項1〜9のいずれか一項に記載の磁気抵抗効果デバイス。 - 複数の磁気抵抗効果素子の少なくとも一部は、互いに並列配置されている、請求項10又は11に記載の磁気抵抗効果デバイス。
- 複数の磁気抵抗効果素子の少なくとも一部は、互いに直列配置されている、請求項10〜12のいずれか一項に記載の磁気抵抗効果デバイス。
- 複数の磁気抵抗効果素子は、前記磁気抵抗効果素子から出力される高周波電流を流す出力信号線路をそれぞれ有し、
前記出力信号線路の少なくとも一つは、複数の前記磁気抵抗効果素子の少なくとも一つに磁場を印加する前記独立磁性体に高周波磁場を印加する位置に配設されている、請求項10〜13のいずれか一項に記載の磁気抵抗効果デバイス。 - 請求項1〜14のいずれか一項に記載の磁気抵抗効果デバイスを用いた高周波デバイス。
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