JP5251003B2 - 潤滑油分解微生物および微生物コンソーシアム、ならびにそれらを用いた潤滑油汚染土壌の浄化方法 - Google Patents

潤滑油分解微生物および微生物コンソーシアム、ならびにそれらを用いた潤滑油汚染土壌の浄化方法 Download PDF

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Description

本発明は、潤滑油類等の石油類を分解する石油類分解活性を有する微生物および微生物コンソーシアム、ならびにこれらを用いて石油類で汚染された石油類汚染土壌を浄化する浄化方法に関する。
バイオレメディエーションは、環境中の汚染物質を微生物の代謝能を利用して分解浄化する技術であり、環境負荷が小さく、処理コストが低いなどの利点を有している。特に灯油や軽油のような沸点の低い石油類は環境中に普遍的に存在する微生物によって分解されやすく、栄養塩や酸素の供給によるバイオスティミュレーション技術が実用的である。
一方、石油類の中でも潤滑油は、原油の常圧蒸留残渣を減圧蒸留し、脱ロウと水素添加工程を経て製造されており、生分解性の低い高分子量の脂肪族炭化水素(たとえば炭素数20以上の直鎖アルカン、分枝アルカン、環状アルカン等)を含んでいる。このような潤滑油類の土壌汚染については、バイオレメディエーションの不得手とするところである。
生分解性の低い石油類を分解する微生物の探索はこれまでにも試みられている。例えば、主に分枝アルカンやガソリンエンジンオイルを分解するゴルドニア属に属する細菌(特許文献1、2)、主に分枝アルカンを分解するマイコバクテリウム属に属する細菌(特許文献3)、主にガソリンエンジンオイルを分解するロドコッカス属に属する細菌(特許文献4、非特許文献1)などが知られている。
特開2001−46058号公報 特開2004−121068号公報 特開2001−46059号公報 特開2004−113197号公報 Bo Yu等,Appl. Environ. Microbiol.,72巻,54頁−58頁,2006年
しかしながら、現在、実際に潤滑油類汚染土壌の実用的なバイオレメディエーション技術は知られていない。
すなわち、既知の石油類分解菌は、分解基質を含む液体培地に分離源土壌を加え、その一部を新しい分解基質を含む液体培地に植え継ぐことによって単離されている。従って、これらの分解菌の基質分解活性は液体培養系が至適条件となる。しかしながら、汚染土壌の浄化を目的とする場合は、土壌存在下で基質の分解活性が発現される必要がある。実際、生分解性の低い重油やガソリンエンジンオイルを分解する上述の菌と同じ属、或いは同じ種で石油類分解菌として寄託されている保存菌株は、土壌存在下で潤滑油類の分解実験を行うと、その分解率は低い(後述する本明細書実施例における比較例を参照のこと)。
このことから既存の石油類分解菌では、潤滑油類で汚染された土壌のバイオレメディエーションは期待できない。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、土壌中でも潤滑油等の石油類に対して高分解活性を発現する新規な微生物および微生物コンソーシアム、ならびにこれらを用いた石油類汚染土壌の浄化方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上述の課題を解決すべく鋭意検討した結果、土壌存在下で潤滑油類等の石油類を効率良く分解する微生物および微生物コンソーシアムを土壌から分離することに成功し、さらに、該微生物または微生物コンソーシアムを用いることにより、潤滑油類等の石油類汚染土壌を効率よく浄化できることを見出し、本発明を完成させた。
本発明は、以下の態様を有する。
[1] 独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに寄託されたゴルドニア アミカリス SCRC−50001株(寄託番号NITE P−352)である微生物。
] [1]に記載の微生物と、キサントバクター sp.、シュードキサントモナス sp.、パエニバチルス sp.、ニトロバクター sp.、オクロバクトラム sp.、ラブリス sp.、デルフティア sp.およびリゾビウム目に属する微生物からなる群より選ばれる一種以上の、潤滑油分解活性を有する微生物と、を含む微生物コンソーシアム。
] [1]に記載の微生物を用いる潤滑油汚染土壌の浄化方法。
] []に記載の微生物コンソーシアムを用いる潤滑油汚染土壌の浄化方法。
[5] 前記微生物コンソーシアムが、土壌から、潤滑油を唯一の炭素源とする培地を用いて分離されたものである[4]に記載の浄化方法。
[6] 前記培地に用いる潤滑油が、炭素数20以上の直鎖アルカン、分枝アルカンおよび環状アルカンからなる群より選ばれる一種以上の脂肪族炭化水素を含む[5]に記載の浄化方法。
] 5℃〜35℃の温度条件下で実施する[]〜[]のいずれか一項に記載の浄化方法。
] 5〜95質量%の水分を含む土壌で実施する[]〜[]のいずれか一項に記載の浄化方法。
] 空気を供給しながら実施する[]〜[]のいずれか一項に記載の浄化方法
本発明の微生物および微生物コンソーシアムは、土壌中でも潤滑油等の石油類に対して高分解活性を発現する新規なものである。
また、本発明の微生物または微生物コンソーシアムを用いる本発明の石油類汚染土壌の浄化方法によれば、灯油、軽油、重油及び潤滑油等の様々な石油類で汚染された土壌を浄化することができる。特に、工業用ギアー油や冷凍機油、タービン油、油圧作動油、圧縮機油、工作機械油、金属加工油等の工業用潤滑油、車両用エンジン油や車両用ギアー油等の車両用潤滑油、船舶用エンジン等の船舶用潤滑油等に代表されるいわゆる潤滑油類による汚染土壌は、バイオレメディエーション技術では浄化が困難とされ、これまで物理化学的方法によって処理されてきたが、本発明によれば、これら潤滑油類汚染土壌を、バイオレメディエーション技術により、効率良く浄化できる。
以下、本発明を詳細に説明する。
<微生物>
本発明の微生物は、ゴルドニア アミカリス(Gordonia amicalis)に属し、石油類分解活性を有するものである。
当該微生物が石油類分解活性を有するかどうかは、たとえば下記の試験を行うことにより判別できる。
ガラス遠沈管に滅菌土壌、石油類及び無機培地を入れ、対象の微生物を加えて25℃で培養を開始する。所定の時間培養を行った後、該培養液中に、石油類を抽出するための溶媒、内部標準物質(ドコサン酸メチルエステル等)、および水を加えて石油類を抽出する。得られた抽出液を、シリカゲル薄層クロマトグラフィー−水素炎イオン化検出法により分析し、各培養液中の石油類の残存量(分解されなかった石油類の量)を求める。別途、微生物を添加しない以外は同様の処理を行った培養液をコントロールとして、上記と同様に、培養液中の石油類の残存量を求める。コントロールに比して、石油類の残存量が少なければ、石油類分解活性を有すると判定される。
また、当該微生物が有する石油類分解活性の高さは、上記で求めた残存量から下記式により、残存率を求めることにより評価できる。
残存率(%)=(培養後の培養液中の石油類の含有量/培養前の培養液中の石油類の残存量)×100
本発明の微生物は、特に、石油類の乳化能を有することが好ましい。
当該微生物が石油類の乳化能を有するかどうかは、培養液中の石油類が白濁して培養液に分散しているかどうかにより判別できる。
本発明の微生物は、ゴルドニア アミカリスに属し、石油類分解活性を有するものであれば特に限定されないが、配列番号1に記載の塩基配列を有する、16SリボソームRNA(以下、16S rRNAという。)をコードするDNA(以下、16S rDNAという。)を含むものが好ましい。
配列番号1に記載の塩基配列は、これまで知られていない塩基配列である。
ゴルドニア アミカリスに属し、配列番号1に記載の塩基配列を有する、16S rDNAを含む微生物は、優れた石油類分解活性を有する。
本発明の微生物は、下記形態学的性質および生理学的性質を具備することが好ましい。
[形態学的性質]
(1)細胞の形:桿菌
(2)細胞の大きさ:幅0.7〜0.8μm、長さ1.5〜2.5μm
(3)運動性の有無:陰性
(4)胞子の有無:陰性
[生理学的性質]
(1)グラム染色:陽性
(2)カタラーゼ:陽性
(3)オキシダーゼ:陰性
(4)ウレアーゼ:陰性
(5)酸化/発酵(O/F)試験:陰性/陰性
(6)硝酸還元能:陰性
(7)資化性
(a)マンニトール:陰性
(b)マルトース:陰性
(c)キシロース:陰性
(d)グリコーゲン:陰性
(e)グルコース:陰性
(f)セロビオース:陽性
(g)グリセロール:陽性
(8)デンプンの加水分解:陰性
(9)嫌気条件下での生育:陰性
(10)生育温度
(a)37℃:陽性
(b)45℃:陽性
また、本発明の微生物は、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに寄託されたゴルドニア アミカリス SCRC−50001株(寄託番号NITE P−352)である。
SCRC−50001株は、石油類分解活性を有し、前記形態学的性質および生理学的性質を具備する。
本発明の微生物は、潤滑油等の石油類で汚染された土壌を浄化する際には、単独でもちいてもよく、その他、石油類分解活性に害を及ぼさないものであれば、既知の、石油類分解活性を有する微生物(以下、石油類分解菌という。)を一種以上混合して用いることができる。
これらの石油類分解菌としては、例えば、ゴルドニア ルブロペルティンクタス(前記特許文献1に記載)、ゴルドニア sp.GR−400(前記特許文献2に記載)、マイコバクテリウム ディエルンホーヘル(前記特許文献3に記載)、ロドコッカス sp.(前記特許文献4に記載)、ロドコッカス sp.NDKK48(前記非特許文献1に記載)、フラボバクテリウム sp.、シュードモナス プチダ(特開平6−80号公報に記載)、アルカニボラックス ボークメンシス(特開2001−37466号公報に記載)、バチルス サーモレオボランス(特開2001−224360号公報に記載)、その他、ノカルディア属、クリセオバクテリウム属、バリオボラックス属、コマモナス属、ミクロコッカス属、アエロモナス属、ステノトロホモナス属、スフィンゴバクテリウム属、シーワネラ属、フィロバクテリウム属、クラビバクター属、アルカリジェネス属、コリネバクテリウム属、サイトファーガ属、アエロバクテリウム属或いはアシドボラックス属に属する石油類分解菌(米国特許第6110372号明細書に記載)等を例示することができる。
本発明の微生物は、特に、石油類分解活性に優れることから、下記本発明の微生物コンソーシアムとして用いることが好ましい。
<微生物コンソーシアム>
本発明の微生物コンソーシアムは、前記本発明の微生物と、キサントバクター sp.(Xanthobacter sp.)、シュードキサントモナス sp.(Pseudoxanthomonas sp.)、パエニバチルス sp.(Paenibacillus sp.)、ニトロバクター sp.(Nitrobacter sp.)、オクロバクトラム sp.(Ochrobactrum sp.)、ラブリス sp.(Labrys sp.)、デルフティア sp.(Delftia sp.)およびリゾビウム目(Rhizobiales)に属する微生物からなる群より選ばれる一種以上の、石油類分解活性を有する微生物と、を含むものである。
ここで、微生物コンソーシアムとは、複数の微生物種の組み合わせを意味し、微生物群あるいは複合系微生物とも呼ばれる。
本発明の微生物コンソーシアムにおいては、前記本発明の微生物を単独ではなく複数の微生物と組み合わせて利用することにより、その場で安定な微生物相を形成したり、多様な機能を同時に発揮させることが可能になるので、優れた石油類分解活性が発揮される。
本発明の微生物コンソーシアムにおいて、前記本発明の微生物としては、特に、ゴルドニア アミカリスSCRC−50001株が好ましい。
また、本発明の微生物と組み合わせる石油類分解活性を有する微生物としては、潤滑油分解活性が高い点で、後述する実施例1において得られる、キサントバクターsp.SCRC−50002株、シュードキサントモナスsp.SCRC−50003株、パエニバチルスsp.SCRC−50004株、ニトロバクターsp.SCRC−50005株、オクロバクトラムsp.SCRC−50006株、ラブリスsp.SCRC−50007株、リゾビウム目SCRC−50008株、デルフティアsp.SCRC−50009株およびリゾビウム目SCRC−50010株からなる群から選ばれる一種以上の微生物が好ましく、中でもシュードキサントモナスsp.SCRC−50003株、ニトロバクターsp.SCRC−50005株およびオクロバクトラムsp.SCRC−50006株からなる群から選ばれる一種以上が好ましい。
ここで、キサントバクターsp.SCRC−50002株は、配列番号2に記載の塩基配列を有する、16S rDNAを含むものである。
シュードキサントモナスsp.SCRC−50003株は、配列番号3に記載の塩基配列を有する、16S rDNAを含むものである。
パエニバチルスsp.SCRC−50004株は、配列番号4に記載の塩基配列を有する、16S rDNAを含むものである。
ニトロバクターsp.SCRC−50005株は、配列番号5に記載の塩基配列を有する、16S rDNAを含むものである。
オクロバクトラムsp.SCRC−50006株は、配列番号6に記載の塩基配列を有する、16S rDNAを含むものである。
ラブリスsp.SCRC−50007株は、配列番号7に記載の塩基配列を有する、16S rDNAを含むものである。
リゾビウム目SCRC−50008株は、配列番号8に記載の塩基配列を有する、16S rDNAを含むものである。
デルフティアsp.SCRC−50009株は、配列番号9に記載の塩基配列を有する、16S rDNAを含むものである。
リゾビウム目SCRC−50010株は、配列番号10に記載の塩基配列を有する、16S rDNAを含むものである。
配列番号2〜10に記載の塩基配列は、それぞれ、これまで知られていない塩基配列である。したがって、キサントバクターsp.SCRC−50002株、シュードキサントモナスsp.SCRC−50003株、パエニバチルスsp.SCRC−50004株、ニトロバクターsp.SCRC−50005株、オクロバクトラムsp.SCRC−50006株、ラブリスsp.SCRC−50007株、リゾビウム目SCRC−50008株、デルフティアsp.SCRC−50009株およびリゾビウム目SCRC−50010株は、それぞれ、新規な微生物である。
本発明の微生物コンソーシアムは、さらに、その石油類分解活性に害を及ぼさないものであれば、既知の石油類分解菌を一種以上含有してもよい。
該石油類分解菌としては、前記本発明の微生物と混合して用いることができる石油類分解菌として挙げたものと同様のものが挙げられる。)
<本発明の微生物または微生物コンソーシアムの分離方法>
次に、本発明の微生物または微生物コンソーシアムの分離方法について述べる。
本発明の微生物または微生物コンソーシアムは、たとえば、分離源である土壌から、石油類を唯一の炭素源として含有する培地を用いて分離できる。
分離源である土壌としては、各種の石油類などによる汚染の履歴がある土壌が挙げられ、特に、潤滑油による汚染の履歴がある土壌が好ましい。
培地に用いる石油類としては、潤滑油が好ましい。該潤滑油としては、特に制限はないが、工業用潤滑油および/または車両用潤滑油が好ましい。
工業用潤滑油としては、工業用ギアー油、冷凍機油、タービン油、油圧作動油、圧縮機油、工作機械油及び金属加工油などを挙げることができる。油圧作動油としては市販されており、容易に入手でき、例えばダフニー(登録商標)・スーパーハイドロ(登録商標)A46(出光興産)(以下作動油Aと言う。)を例示することができる。
車両用潤滑油としては車両用エンジン油及び車両用ギアー油などを、船舶用潤滑油として船舶用エンジン油などを挙げることができる。
中でも、炭素数20以上の直鎖アルカン、分枝アルカンおよび環状アルカンからなる群より選ばれる一種以上の脂肪族炭化水素を含むものが好ましい。かかる潤滑油を用いることにより、難分解性の潤滑油類を分解する能力を有する微生物を優先的に生育させることができる。
より具体的には、分解基質である潤滑油を唯一の炭素源として無機培地に加えた液体培地を調製し、これに、潤滑油などによる汚染の履歴がある土壌を添加して集積培養し、この間に発生する二酸化炭素を定期的に定量する。そして二酸化炭素の発生量が多い培養液を前記無機培地で希釈し、この希釈培養液を、分解基質である潤滑油を唯一の炭素源として加えた寒天培地(以下潤滑油寒天培地と言う。)に塗抹し、培養する。これにより、微生物或いは微生物コンソーシアムを土壌から分離できる。
また、前記分離方法において、集積培養に用いる無機培地としては、特に制限はないが、微生物の生育に必要な窒素、リン、カリウムなどの化合物として、リン酸水素カリウム、リン酸水素ナトリウム、硝酸カリウム、硫酸アンモニウム、硫酸マグネシウム、塩化カルシウム、ホウ酸、硫酸マンガン、硫酸アンモニウム鉄、硫酸鉄、塩化鉄、硫酸銅、塩化亜鉛、塩化コバルト、モリブデン酸ナトリウムなどを含む無機培地を例示することができる。
中でも、表1に記載した組成からなる無機培地1(H.F.Ridgway,et al.,Appl.Environ.Microbiol.,56巻、3365頁−3375頁,1990年、に記載)は、ガソリン分解菌の探索に用いられた実績がある点で好ましい。無機培地1は、鉱物油である点で化学的組成が潤滑油に類似するガソリン分解菌の分類学的多様性を調べる目的で、ガソリン汚染場所付近の井戸水からガソリン分解菌を単離した研究で用いられたものである。すなわち、無機培地1は多様な種類の炭化水素分解菌の生育に適している汎用的な培地と考えられる。
Figure 0005251003
また、前記分離方法において用いる潤滑油寒天培地としては、潤滑油を唯一の炭素源として使用していれば他には特に制限はなく、潤滑油類以外の成分として、表1に示した成分等を含んでいれば良い。
潤滑油寒天培地としては、特に、潤滑油以外の組成が、表2に記載した組成からなる寒天培地が好ましい。該寒天培地は、酵母エキスを含有しているのでビタミンや微量金属などを補うことができる。
Figure 0005251003
寒天培地に添加する潤滑油類の量に特に制限はないが、目的とする菌の生育を阻害しない程度に多いほうが好ましく、通常の寒天培地1枚(容量約20mL)あたり、5〜100mgを添加することが好ましい。
潤滑油寒天培地での培養条件としては、特に制限はないが、5〜35℃で1〜4週間培養することが好ましい。これにより、目的とする菌が十分に生育する。
上記のようにして土壌から分離された微生物または微生物コンソーシアムを、さらに、寒天培地で培養することによってコロニーを形成させることにより、前記微生物または微生物コンソーシアムを構成する微生物を単菌として得ることができる。
たとえば、得られた微生物または微生物コンソーシアムを、菌体密度が1mLあたり1000個以下になるように希釈し、この希釈した微生物または微生物コンソーシアムを寒天培地に塗抹し、5〜35℃で1〜4週間培養する。そして生育したコロニーを釣菌することにより、前記微生物または微生物コンソーシアムを構成する微生物を単菌として得ることができる。
この際、微生物または微生物コンソーシアムを希釈する媒体としては、特に制限はないが、菌の生理的、物理的損傷を防止するために、生理食塩水などを例示することができる。中でも、表1に記載した組成からなる無機培地等の、集積培養に用いた無機培地は、この微生物または微生物コンソーシアムの集積培養に用いられるので生理的に適合していると考えられる点で好ましい。
また、コロニーを生育させるための寒天培地としては、菌の生育に必要な炭素、窒素、リン、カリウムなどを含んだ寒天培地であれば特に制限はなく、一般的な栄養源として可溶性デンプン、ペプトン、酵母エキスなどを含む培地を例示することができる。中でも表3に示した寒天培地3が、多種類の菌の生育に対応できる点で好ましい。
Figure 0005251003
釣菌したコロニーを構成する微生物の菌株は、たとえば表3に示す寒天培地3に画線して単菌であることを確認したのち、16SrDNA塩基配列解析や細胞の形態学的特徴、生理生化学的性質を調べることにより確認できる。
上述のようにして得られる本発明の微生物または微生物コンソーシアムは、潤滑油寒天培地を用いて継代することによって、その潤滑油分解活性を維持することができる。
また、本発明の微生物または微生物コンソーシアムは、たとえば表4に記載の液体培地4で培養することによって大量に調製することができる。
Figure 0005251003
<石油類汚染土壌の浄化方法>
本発明の石油類汚染土壌の浄化方法は、前記本発明の微生物または微生物コンソーシアムを用いる方法である。
前記本発明の微生物または微生物コンソーシアは、石油類に対して分解活性を有するため、石油類で汚染された土壌の浄化に利用することができる。
特に、潤滑油は生分解性が低く、既存の石油類分解菌では浄化が困難であったが、本発明の微生物または微生物コンソーシアによれば、潤滑油で汚染された土壌を浄化できる。
したがって、本発明の浄化方法が適用される石油類汚染土壌としては、当該土壌を汚染する石油類として、潤滑油を含む土壌が好ましく、中でも、工業用潤滑油および/または車両用潤滑油を含む土壌が好適である。
工業用潤滑油、車両用潤滑油としては、前記分離方法で、培地に用いる石油類として挙げた工業用潤滑油、車両用潤滑油と同様のものが挙げられる。
本発明の石油類汚染土壌の浄化方法は、前記本発明の微生物または微生物コンソーシアムと、浄化しようとする石油類汚染土壌とを接触させることにより実施できる。
この際、本発明の微生物または微生物コンソーシアムは、無機培地に懸濁させて用いても良く、また、例えば土壌などに吸着させて用いることもできる。
吸着させる土壌としては、黒土、ゼオライトなどを例示することができる。微生物の栄養源になりえる有機物を少量含み、通気性が確保できる点で黒土が好ましい。
吸着させる方法としては、特に制限はないが、本発明の微生物または微生物コンソーシアムを大量に培養する際に、培地にあらかじめ、吸着させる土壌を添加して培養する方法を挙げることができる。
石油類汚染土壌と接触させる微生物または微生物コンソーシアムの量は、浄化能力を発揮できる範囲内であればよく、特に限定されないが、土壌1gに対して、菌数が1×10個以上であることが好ましく、1×10個以上であることがより好ましい。
本発明の浄化方法を実施する際の温度は、土壌が凍結していなければ特に制限はない。温度を調節できる装置を用いることができる場合には、菌の生育速度と分解速度を速める点で、5〜35℃の温度条件下で実施することが好ましく、15〜30℃が更に好ましい。
本発明の浄化方法において、石油類汚染土壌には、菌の生育のために、栄養源を添加することができる。栄養源は、必ずしも添加する必要はないが、たとえば、栄養源として、炭素以外の土壌中の栄養源を補足する目的で、無機塩を供給することにより、菌の生育を促進することができる。
無機塩としては、例えば、リン酸水素カリウム、リン酸水素ナトリウム、硝酸カリウム、硫酸アンモニウム、硫酸マグネシウム、塩化カルシウム、ホウ酸、硫酸マンガン、硫酸アンモニウム鉄、硫酸鉄、塩化鉄、硫酸銅、塩化亜鉛、塩化コバルト、モリブデン酸ナトリウムなどを挙げることができる。これらはいずれか1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
無機塩の供給は、たとえば当該無機塩の水溶液(無機塩水溶液)を石油類汚染土壌に供給することにより実施できる。
また、微生物または微生物コンソーシアムを、無機塩水溶液と混合して供給してもよい。
無機塩水溶液としては、たとえば表1に示した組成の無機培地1を用いることができる。
また、無機塩水溶液の組成は、上記の無機培地1でもよいが、例えば汚染土壌中に存在する無機塩などをあらかじめ分析して、微生物の生育に必要な無機塩を選択するなど、コスト削減のための改良を行うことが望ましい。
本発明の浄化方法においては、石油類汚染土壌中の石油類が、微生物あるいは微生物コンソーシアムにより、酸化的に分解される。
したがって、本発明の浄化方法を好気的条件で実施することにより、石油類の分解が促進され、本発明の効果がさらに向上する。本発明においては、特に、空気を供給しながら実施することが好ましい。
好気的条件での実施方法としては、特に限定されず、公知のバイオレメディエーション方法が利用できる。例えば、原位置処理で浄化を実施する場合は、パイプを土壌中に埋め込んで給気、排気などにより空気を供給する方法が挙げられる。また、オンサイト処理で浄化を実施する場合は、土壌を攪拌する方法が挙げられる。また、いずれの場合にも、過酸化水素のような、酸素源となる化合物を供給する方法や、酸素を吸着させた単体を供給する方法などが利用できる。
原位置処理とは、浄化処理対象である石油類汚染土壌を移動させず、その場所(汚染現場)で処理することを意味する。
オンサイト処理とは、石油類汚染土壌を掘り出して、その場所に隣接した位置に畝を作って処理することを意味する。
必要とする酸素の量は、浄化する石油類を酸化して二酸化炭素にするのに必要な量を目安とすることができる。
本発明の浄化方法は、微生物あるいは微生物コンソーシアムを用いることから、菌の生育に必要な量の水分を含む土壌で実施することが好ましい。
水分量に制限はないが、少なすぎると菌の生育が阻害され、多すぎると分解活性が低下するため、5〜95重量%の水分を含む土壌で実施することが好ましい。
本発明の浄化方法においては、無機塩、水分、空気などの供給する方法として、既知の処方を適宜用いることができる。例えば、微生物の生育を支援するための無機塩、水分、空気などの供給する方法として、下記(i)〜(iii)等を適宜用いることができる。
(i)ランドファーミング工法:掘削機で汚染現場の土壌を定期的に、例えば1週間に1,2回の頻度で掘り返し、無機塩水溶液などを散布する方法。
(ii)バイオパイル工法:汚染現場の土壌を掘り出して畝を作り、畝の中に無機塩水溶液や空気を供給するパイプを通す方法。
(iii)バイオスパージング工法:汚染現場に垂直に複数のパイプを例えば数メートル間隔で埋設し、あるパイプから圧搾空気や無機塩水溶液を供給し、別のパイプで吸引することによって土壌中に無機塩、水分及び空気の通路を形成する方法。
上記のバイオパイル工法やバイオスパージング工法における空気の供給量は、各パイプが1m程度の土壌を処理し、その中の空気を1日に1回入れ替える能力を有する場合、各パイプ当り最大40L/hr程度と考えられる。最少量は0.4L/hr程度と考えられる。
供給水量は、汚染土壌中の水分を土壌に対して5〜95重量%に維持できる量が好ましい。
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
下記実施例で用いた作動油Aは、油圧作動油(ダフニスーパーハイドロA46;出光興産製)である。
該作動油Aは、常温で液体であり、IR分析では二重結合や酸素を含む官能基は検出されなかった。
また、作動油Aのガスクロマトグラフ分析を下記のようにして行った。
キャピラリーカラムHP−5(0.25φ×30m、HP製)を取り付けたGC−MS装置(GCD1800A、HP製)を用い、キャリアガスとしてヘリウムを1.0mL/分で流し、インジェクション温度は250℃、カラム温度は125℃で2分間保持した後、15℃/分の昇温速度で300℃まで昇温して3分間保持した。
その結果、作動油Aの保持時間は、炭素数20〜36の直鎖アルカンに相当した。
次に、Lappsらの方法(Ind.Eng.Chem.Res.、36、3110−3115)に準じて、尿素付加法により作動油Aを次のように分画した。
作動油A10gに尿素30gを懸濁したメタノール50mLを加え、55〜60℃で0.5時間、室温(25℃)で1.5時間、10℃で0.5時間撹拌した後、グラスフィルターでろ別した。得られた結晶を温水(40〜70℃)に懸濁し、n−ヘキサン抽出で得られた画分を直鎖アルカンとして秤量した。
ろ液にはチオ尿素30gを懸濁したメタノール50mLを加え、室温で2時間撹拌した後、グラスフィルターでろ別した。得られた結晶を温水(40〜70℃)に懸濁し、n−ヘキサン抽出で得られた画分を分枝アルカンとして秤量した。
ろ液から、n−ヘキサン抽出で得られた画分を環状アルカンとして秤量した。
その結果、作動油Aのアルカン組成は、直鎖アルカン7質量%、分枝アルカン28質量%、環状アルカン65質量%であり、環状アルカンを主成分とする複数のアルカン混合物であることがわかった。
[実施例1]
表1に示した無機培地1(20mL)と作動油A(600mg)をバッフル付100mL三角フラスコに入れ、神奈川県相模原市の産業廃棄物処理場付近から採取した土壌(5g)を加えて25℃で振盪培養を開始した。定期的にフラスコ内の二酸化炭素濃度を測定しながら、無機培地1(2〜5mL)を1週間に1回、作動油A(600mg)を2週間に1回追加して4週間培養した。この培養液を遠心し、微生物コンソーシアムを土壌とともに沈降させて取得し、無機培地1に懸濁して懸濁液を得た。
次に、表2に記載の寒天培地2の1枚あたりに作動油A5〜100mgを添加して寒天培地(以下、作動油寒天培地という。)を得、これに、前記懸濁液を塗抹し、25℃で40日間培養した。生育した菌体を集め、無機培地1に懸濁し、濁度(波長610±4nmにおける光学濃度(以下、OD610nmという。))3.0の微生物コンソーシアムを調製した。
次に、この微生物コンソーシアムを、1mLあたり1000個以下の菌体密度になるように無機培地1で希釈し、寒天培地3に塗抹して25℃で2週間培養し、生育したコロニーを釣菌した。
各コロニーについて、16S rDNA塩基配列解析、細胞の形態学的特徴、生理生化学的性質を調べた。
16S rDNA塩基配列解析は、解析ソフト「Auto Assembler」(アプライド バイオシステム(Applied Biosystem)社(米国、カリフォルニア州)製)および「アポロン」(テクノスルガ社(静岡)製)を用いて行った。また、16S rDNA塩基配列の相同性検索にはデータベース「アポロンDB細菌基準株データベース」を利用した。
その結果、以下に示す10種類の菌(ゴルドニア アミカリスSCRC−50001株、キサントバクター sp.SCRC−50002株、シュードキサントモナス sp.SCRC−50003株、パエニバチルス sp.SCRC−50004株、ニトロバクター sp.SCRC−50005株、オクロバクトラム sp.SCRC−50006株、ラブリス sp.SCRC−50007株、リゾビウム目 SCRC−50008株、デルフティア sp.SCRC−50009株およびリゾビウム目 SCRC−50010株)を単離した。
ゴルドニア アミカリスSCRC−50001株の16S rDNA塩基配列の相同性と、形態学的特徴及び生理生化学的性質を表5と表6に示した。
なお、以下の形態学的特徴及び生理生化学的性質を示す表中、−は陰性を意味し、+は陽性を意味する。
本株の16SrDNA塩基配列504bpの相同性は、ゴルドニア アミカリスに対して100%であった。また、文献に記された公知のゴルドニア アミカリス(Seung Bum Kim, et al.,Int. J. Syst. Evol. Microbiol., 50、2031−2036,2000年、に記載)と比較すると、セルビオースの資化性とデンプンの加水分解性が異なる点以外はほとんどの性質が一致する。ただし、本株は、前記公知のゴルドニア アミカリスに比べて、優れた石油類分解活性を有する。このことから、本株はゴルドニア アミカリスに属する新しい株であると考えられる。この株の16S rDNA塩基配列を配列番号1に示した。
この株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構の特許微生物寄託センターに寄託されている(寄託番号NITE P−352)。
Figure 0005251003
Figure 0005251003
キサントバクター sp.SCRC−50002株の16S rDNA塩基配列の相同性と、形態学的特徴及び生理生化学的性質を表7と表8に示した。
本株の16S rDNA全塩基配列1445bpと相同性が高い既知の種は、キサントバクター オートトロフィカス(Xanthobacter autotrophicus)、キサントバクター タゲチディス(Xanthobacter tagetidis)、キサントバクター フラバス(Xanthobacter flavus)及びアゾリゾビウム ドエベライネラエ(Azorhizobium doebereinerae)であるが、その相同性は各々97.6%、97.2%、97.1%及び96.9%であり、これらの種とは一致しない。このことから、本株は、キサントバクター属に属する新種と考えられる。この株の16S rDNA塩基配列を配列番号2に示した。
Figure 0005251003
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シュードキサントモナス sp.SCRC−50003株の16S rDNA塩基配列の相同性と、形態学的特徴及び生理生化学的性質を表9と表10に示した。
本株の16S rDNA塩基配列530bpと相同性が高い既知の種はシュードキサントモナス メキシカーナ(Pseudoxanthomonas mexicana)と、シュードキサントモナス ジャポネンシス(Pseudoxanthomonas japonensis)であるが、その相同性は各々97.5%と97.4%であり、これらの種とは一致しない。又、生育温度とマルトース資化性に関してシュードキサントモナス メキシカーナ、シュードキサントモナス ジャポネンシスと異なり、リンゴ酸資化性に関してシュードキサントモナス メキシカーナと異なる。このことから、本株は、シュードキサントモナス属に属する新種と考えられる。この株の16S rDNA塩基配列を配列番号3に示した。
Figure 0005251003
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パエニバチルス sp.SCRC−50004株の16S rDNA塩基配列の相同性と、形態学的特徴及び生理生化学的性質を表11と表12に示した。
本株の16S rDNA塩基配列542bpと相同性が最も高い既知の種はパエニバチルス オドリファ(Paenibacillus odorifer)であるが、その相同性は98.7%であり、この種とは一致しない。また、生育温度と硝酸還元能に関してもパエニバチルス オドリファと異なる。このことから、本株は、パエニバチルス属に属する新種と考えられる。この株の16S rDNA塩基配列を配列番号4に示した。
Figure 0005251003
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ニトロバクター sp.SCRC−50005株の16S rDNA塩基配列の相同性と、形態学的特徴及び生理生化学的性質を表13と表14に示した。
本株の16S rDNA塩基配列475bpと相同性が高い既知の種はロドシュードモナス レノバセンシス(Rhodopseudomonas rhenobacensis)、ニトロバクター ハンブルジェンシス(Nitrobacter hamburgensis)及びブラディリゾビウム エルカニ(Bradyrhizobium elkanii)で、その相同性は各々98.7%、98.5%及び98.3%であり、これらの種とは一致しない。又、細胞が出芽を示す点ではニトロバクター属と一致する。このことから、本株は、ニトロバクター属に属する新種と考えられる。この株の16S rDNA塩基配列を配列番号5に示した。
Figure 0005251003
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オクロバクトラム sp.SCRC−50006株の16S rDNA塩基配列の相同性と、形態学的特徴及び生理生化学的性質を表15と表16に示した。
本株の16S rDNA塩基配列471bpと相同性が最も高い既知の種はオクロバクトラム インターメディウム(Ochrobactrum intermedium)でその相同性は99.8%であるが、ウレアーゼ活性とアラビノース及びマンノース資化性に関してオクロバクトラム インターメディウムと異なる。このことから、本株は、オクロバクトラム属に属する新種と考えられる。この株の16S rDNA塩基配列を配列番号6に示した。
Figure 0005251003
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ラブリス sp.SCRC−50007株の16SrDNA塩基配列の相同性と、形態学的特徴及び生理生化学的性質を表17と表18に示した。
本株の16S rDNA塩基配列471bpと相同性が最も高い既知の種はラブリス モナカス(Labrys monachus)でその相同性は97.5%であり、この種とは一致しない。また、硝酸塩還元能と生育温度に関してもラブリス モナカスと異なる。このことから、本株は、ラブリス属に属する新種と考えられる。この株の16S rDNA塩基配列を配列番号7に示した。
Figure 0005251003
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リゾビウム目SCRC−50008株の16SrDNA塩基配列の相同性と、形態学的特徴及び生理生化学的性質を表19と表20に示した。
本株の16S rDNA全塩基配列1445bpと相同性が高い既知の種は、カイスティア アジペイタ(Kaistia adipata)でその相同性は96.0%であり、この種とは一致しない。分枝系統解析からは、カイスティア属が含まれるリゾビウム科(Rhizobiaceae)にも含まれないが、リゾビウム目には含まれることがわかった。このことから、本株は、リゾビウム目に属する新種と考えられる。この株の16S rDNA塩基配列を配列番号8に示した。
Figure 0005251003
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デルフティア sp.SCRC−50009株の16S rDNA塩基配列の相同性と、形態学的特徴及び生理生化学的性質を表21と表22に示した。
本株の16S rDNA塩基配列522bpと相同性が最も高い既知の種はデルフティア ツルハテンシス(Delftia tsuruhatensis)で、その相同性は99.8%であった。また、文献に記されたデルフティア ツルハテンシス(T.Shigematu, et al.,Int. J. Syst. Evol. Microbiol., 53、1479−1483,2003年、に記載)と比較すると、生育温度、アルギニンジヒドロラーゼ活性、ウレアーゼ活性及びグリセロール資化性が異なる。このことから、本株は、デルフティア sp.に属する新しい株であると考える。この株の16S rDNA塩基配列を配列番号9に示した。
Figure 0005251003
Figure 0005251003
リゾビウム目SCRC−50010株の16S rDNA塩基配列の相同性と、形態学的特徴及び生理生化学的性質を表23と表24に示した。
本株の16S rDNA全塩基配列1445bpと相同性が高い既知の種は、カイスティア アジペイタでその相同性は96.0%であり、この種とは一致しない。分枝系統解析からは、カイスティア属が含まれるリゾビウム科にも含まれないがリゾビウム目には含まれることがわかった。このことから、本株は、リゾビウム目に属する新種と考えられる。この株の16S rDNA塩基配列を配列番号10に示した。
Figure 0005251003
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[実施例2]
30mLガラス遠沈管に、12メッシュ以下に揃えたシルト質土壌を120℃で40分間オートクレーブ処理して調製した滅菌土壌(0.15g)、作動油A(20mg)及び無機培地1(2mL)を入れ、実施例1で調製した微生物コンソーシアム(0.5mL)を加えて25℃で振盪培養を開始した。この試料の水分量は94質量%である。
培養7日目と21日目にクロロホルム/メタノール(1:2,容積(v)/v)の混合溶媒(6mL)、内部標準物質としてドコサン酸メチルエステル(20mg)を含むクロロホルム(2mL)、及び蒸留水(2mL)を加えて作動油Aを抽出した。更にクロロホルム(2mL)で抽出を2回繰り返した。得られた抽出液を併せて、その一部をシリカゲル薄層クロマトグラフィー−水素炎イオン化検出法により分析した。尚、微生物コンソーシアムを添加しない培養液をコントロールとした。
各培養液から抽出された作動油A残存量(mg)を表25に示した。コントロールに対し、微生物コンソーシアムを添加した培養液中の作動油A残存率は、培養7日目に19%、培養21日目に11%まで減少した。
尚、シルト質土壌とは、凝集して0.02〜0.002mm程度の土塊を形成する物性の土壌を指す。
Figure 0005251003
[実施例3]
12メッシュに揃えた黒土(50g)をオートクレーブ滅菌した後、作動油A(0.5g)をジエチルエーテルに溶解して滅菌黒土と均一に混合しながら室温でジエチルエーテルを留去させた。この作動油含有土壌を200メッシュの篩に入れた後、実施例1で調製した微生物コンソーシアム(15mL)を添加し、均一にかき混ぜた後、ペーパータオルで覆いをして、25℃に静置した。この試料の水分量は30質量%である。
定期的に土壌(1g)を抜き取り、10倍量の精製水に懸濁させて、該懸濁液中の作動油A残存量(濃度(ppm))を、実施例2と同様に定量した。その結果を表26に示した。コントロールに対し、微生物コンソーシアムを添加した培養液中の作動油A残存率は培養7日目で80%、培養14日目に68%まで減少した。
Figure 0005251003
[実施例4]
実施例1で得たゴルドニア アミカリスSCRC−50001株、キサントバクター sp.SCRC−50002株、シュードキサントモナス sp.SCRC−50003株、パエニバチルス sp.SCRC−50004株、ニトロバクターsp.SCRC−50005株、リゾビウム目SCRC−50008株からなる微生物コンソーシアムを無機培地1に懸濁し、濁度(OD610nm)を3.0に調整した。尚、各菌体は、菌数が同じ比率になるように混合した。
その0.5mLを用いて、実施例2と同様に作動油A分解活性評価を行った。作動油A残存量を表27に示した。コントロールに対し、前記微生物コンソーシアムを添加した培養液中の作動油A残存率は、培養13日目で60%、培養30日目に51%まで減少した。
Figure 0005251003
[実施例5]
ゴルドニア アミカリスSCRC−50001株を無機培地1に懸濁し、濁度(OD610nm)を3.0に調整した。
その0.5mLを用いて、実施例2と同様に作動油A分解活性評価を行った。作動油A残存量を表28に示した。コントロールに対し、ゴルドニア アミカリスSCRC−50001株を添加した培養液中の作動油A残存率は、培養11日目で53%まで減少した。
Figure 0005251003
[実施例6]
ゴルドニア アミカリスSCRC−50001株、シュードキサントモナス sp.SCRC−50003株、ニトロバクター sp.SCRC−50005株、オクロバクトラム sp.SCRC−50006株からなる微生物コンソーシアムを無機培地1に懸濁し、濁度(OD610nm)を3.0に調整した。尚、各菌体は、菌数が同じ比率になるように混合した。
この微生物コンソーシアム(0.5mL)を無機培地1(2mL)とガソリンエンジンオイル(SJエクストラセーブ10W−30、日産自動車製。以下、エンジンオイルと言う。)12mgを入れた30mL遠沈管に入れて振盪培養を開始し、実施例2と同様に、培養液中に残存しているエンジンオイルを抽出定量した。エンジンオイル残存量を表29に示した。コントロールに対し、前記微生物コンソーシアムを添加した培養液中のエンジンオイル残存率は、培養14日目で50%、培養26日目で45%まで減少した。
Figure 0005251003
[実施例7]
ゴルドニア アミカリスSCRC−50001株を無機培地1に懸濁し濁度(OD610nm)を3.0に調整した。
その0.5mLを用いて、実施例6と同様にエンジンオイル残存量を測定し、エンジンオイル分解活性を評価した。エンジンオイル残存量を表30に示した。コントロールに対し、前記微生物コンソーシアムを添加した培養液中のエンジンオイル残存率は、培養14日目で57%、培養25日目に50%まで減少した。
Figure 0005251003
[実施例8]
表1に示した無機培地1(20mL)と作動油A(600mg)をバッフル付100mL三角フラスコに入れ、神奈川県相模原市の産業廃棄物処理場付近から採取した土壌(5g)を加えて25℃で振盪培養を開始した。定期的にフラスコ内の二酸化炭素濃度を測定しながら、無機培地1(2〜5mL)を1週間に1回、作動油A(600mg)を2週間に1回追加して4週間培養した。この培養液を遠心し、微生物コンソーシアムを土壌とともに沈降させて取得し、無機培地1に懸濁した。この懸濁液を作動油寒天培地に塗抹し、25℃で30日間培養した。生育した菌体を集め、無機培地1に懸濁し濁度(OD610nm)3.0の微生物コンソーシアムを調製した。これを継代1回の微生物コンソーシアム〔1〕とした。
この微生物コンソーシアム〔1〕を無機培地1で希釈して作動油寒天培地に塗抹して継代を繰り返し、継代5回、総培養時間3ヶ月の微生物コンソーシアム〔5〕と、継代13回、総培養時間9ヶ月の微生物コンソーシアム〔13〕を得た。
これらの微生物コンソーシアムを無機培地1に懸濁して、濁度(OD610nm)を3.0に調整した後、その0.5mLを用いて、実施例2と同様に作動油A分解活性評価を行った。各微生物コンソーシアムを用いた場合の作動油A残存量を表31に示した。コントロールに対し、各微生物コンソーシアムを添加した培養液中の作動油A残存率は、培養6日目で22〜29%、培養21日目で14〜19%まで減少した。
Figure 0005251003
[実施例9]
実施例8に示した方法により、作動油寒天培地で継代を15回繰り返した微生物コンソーシアム〔15〕を調製した。
この微生物コンソーシアム〔15〕を無機培地1に懸濁して、濁度(OD610nm)を3.0に調整した。この微生物コンソーシアム(0.1mL)を、液体培地4(25mL)を入れたバッフル付100mL三角フラスコに加えて25℃で1週間振盪培養を行った。培養液を遠心して菌体を集め、無機培地1に懸濁して濁度(OD610nm)を3.0に調整した。
その0.5mLを用いて、実施例2と同様に作動油A分解活性評価を行った。作動油A残存量を表32に示した。コントロールに対し、液体培地4で培養した微生物コンソーシアム〔15〕を添加した培養液中の作動油A残存率は、培養20日目で24%、培養35日目に14%まで減少した。
Figure 0005251003
[実施例10]
実施例8に示した方法により、作動油寒天培地で継代を18回繰り返した微生物コンソーシアム〔18〕を調製した。
表33に示した組成のスラリー培地5(100mL)を入れたバッフル付500mL三角フラスコに、微生物コンソーシアム〔18〕を無機培地1に懸濁して加え、25℃で3日間振盪培養を行い、培養液を遠心して微生物コンソーシアムを分散させた土壌を得た。この土壌(0.15g)を30mL遠沈管に無機培地1(2mL)と作動油A(20mg)を入れた30mL遠沈管に加えて25℃で振盪培養を行った。この培地中の水分量は30質量%である。培養後、実施例2と同様に作動油A分解活性評価を行った。作動油残存量を表34に示した。
また、表35に示した組成のスラリー培地6(100mL)を入れたバッフル付500mL三角フラスコに、微生物コンソーシアム〔18〕を無機培地1に懸濁して加え、25℃で5日間振盪培養を行い、培養液を遠心して微生物コンソーシアムを分散させた土壌を得た。この土壌(0.15g)を30mL遠沈管に無機培地1(2mL)と作動油A(20mg)を入れた30mL遠沈管に加えて25℃で振盪培養を行った。この培地中の水分量は30質量%である。培養後、実施例2と同様に作動油A分解活性評価を行った。作動油残存量を表34に示した。
Figure 0005251003
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表34に示すとおり、コントロールに対し、微生物コンソーシアム〔18〕を分散させた土壌を添加した培養液中の作動油A残存率は、スラリー培地5で培養した場合は培養21日目で22%、スラリー培地6で培養した場合は培養14日目で21%まで減少した。
[実施例11]
表35に示したスラリー培地6(100mL)を入れたバッフル付500mL三角フラスコに、実施例10で調製した微生物コンソーシアム〔18〕を無機培地1に懸濁して加え、25℃で5日間振盪培養を行い、培養液を遠心して微生物コンソーシアムを分散させた土壌を得た。この土壌(0.15g)を30mL遠沈管に無機培地1(2mL)とエンジンオイル(11mg)を入れた30mL遠沈管に加えて25℃で振盪培養を行った。実施例6と同様にエンジンオイル残存量を測定し、エンジンオイル分解活性を評価した。エンジンオイル残存量を表36に示した。コントロールに対するエンジンオイル残存率は、培養14日目で18%、培養21日目で10%まで減少した。
Figure 0005251003
[比較例1〜4]
既知の石油類分解菌であるマイコバクテリウム クロロフェノリカムNBRC−15527株、ゴルドニア テラエ(NBRC−100016株)、ゴルドニア デサルファリカンス(NBRC−100010株)及びロドコッカス エリスロポリス(NBRC−100887株)を、それぞれ、無機培地1に懸濁し濁度(OD610nm)を3.0に調整した。その0.5mLをそれぞれ用いて、実施例2と同様に作動油A分解活性評価を行った。
コントロールに対する試料の作動油残存率は、培養14日目にゴルドニア テラエが85%、ゴルドニア デサルファリカンスが62%、ロドコッカス エリスロポリスが70%、培養22日目でマイコバクテリウム クロロフェノリカムが70%まで低下したが、その後培養を継続しても作動油A残存率の低下は認められなかった。
この結果と、表25、27、28等の結果とを比較すると、これらいずれの石油類分解菌も、作動油A分解活性が、ゴルドニア アミカリスSCRC−50001株または該株を含む微生物コンソーシアムに比べて明らかに低いことが判った。
本発明の微生物及び微生物コンソーシアムは、土壌中でも、高分子量の直鎖アルカン、分枝アルカン、環状アルカン等を含む潤滑油に対して、高分解活性を発現する。したがって、本発明の浄化方法によれば、かかる潤滑油で汚染された土壌を微生物または微生物コンソーシアムを利用して浄化するバイオレメディエーション技術が提供される。

Claims (9)

  1. 独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに寄託されたゴルドニア アミカリス SCRC−50001株(寄託番号NITE P−352)である微生物。
  2. 請求項1に記載の微生物と、キサントバクター sp.、シュードキサントモナス sp.、パエニバチルス sp.、ニトロバクター sp.、オクロバクトラム sp.、ラブリス sp.、デルフティア sp.およびリゾビウム目に属する微生物からなる群より選ばれる一種以上の、潤滑油分解活性を有する微生物と、を含む微生物コンソーシアム。
  3. 請求項1に記載の微生物を用いる潤滑油汚染土壌の浄化方法。
  4. 請求項に記載の微生物コンソーシアムを用いる潤滑油汚染土壌の浄化方法。
  5. 前記微生物コンソーシアムが、土壌から、潤滑油を唯一の炭素源とする培地を用いて分離されたものである請求項に記載の浄化方法。
  6. 前記培地に用いる潤滑油が、炭素数20以上の直鎖アルカン、分枝アルカンおよび環状アルカンからなる群より選ばれる一種以上の脂肪族炭化水素を含む請求項に記載の浄化方法。
  7. 5℃〜35℃の温度条件下で実施する請求項のいずれか一項に記載の浄化方法。
  8. 5〜95質量%の水分を含む土壌で実施する請求項のいずれか一項に記載の浄化方法。
  9. 空気を供給しながら実施する請求項のいずれか一項に記載の浄化方法。
JP2007140351A 2007-05-28 2007-05-28 潤滑油分解微生物および微生物コンソーシアム、ならびにそれらを用いた潤滑油汚染土壌の浄化方法 Expired - Fee Related JP5251003B2 (ja)

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