JP4139524B2 - 土壌又は水の浄化方法及びこれに用いる微生物 - Google Patents

土壌又は水の浄化方法及びこれに用いる微生物 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、石油系炭化水素を含む土壌や水の生物的な浄化方法及びこれに用いる微生物に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
石油系の炭化水素を含む土壌や水を浄化する技術として、微生物による浄化技術が検討されている〔ウイリアム C. アンダーソン編、『バイオレメディエーション』、シュプリンガー・フェアラーク東京株式会社(1997): 八木修身、バイオサイエンスとインダストリー、Vol.55、p30 (1997)〕。土壌や水中には石油系炭化水素を分解する微生物が含まれていることはよく知られている。しかしながら一般的に微生物による石油系炭化水素の分解速度は比較的遅く、石油系炭化水素を含む土壌や水の浄化を行うためには数ヶ月から数年の期間が必要となっており、短期間で浄化する方法が渇望されているのが現状である。
【0003】
石油系炭化水素の分解速度が遅い理由としては、石油に含まれる一部の成分、特に分枝構造を有するイソアルカンの分解が遅い点を挙げることができる。石油系炭化水素の微生物分解については、April や、Marinによる特定の微生物による分解〔April T.M., ら、 Degradation of hydrocarbons in crude oil by the ascomycete Pseudallescheria boydii (Microascascaceae). Can. J. Microbiol., 44: 270-278. (1998)、Marin M. et al., Study of factors influencing the degradation of heating oil by Acinetobacter calcoaceticus MM5. International Biodeterionation & Biodegradation. p.69-75. (1996) 〕や、Chaineauや川田らによる土壌に含まれる混合微生物による分解〔Chaineau C.H. et al. Microbial degradation in soil microcosmos of fuel oil hydrocarbons from drilling cuttings. Environ. Sci. Technol. 29: p.1615-1621 (1995) 、川田邦明ら、新潟県内の海岸に漂着した重油中の有機化合物II. 環境化学 7: p.831-840 (1997)〕等をはじめとして多くの検討がなされているが、いずれも、プリスタン、フィタン等の石油系炭化水素を構成するイソアルカンの分解性がn-アルカンに比べて低いことを報告している。
【0004】
この様なイソアルカンは微生物により全く分解を受けない訳ではなく、例えばプリスタンを分解する微生物について、これまでにいくつかの微生物種について報告がされており、プリスタン等のイソアルカンを微生物が分解すること自体は公知である。しかしながら、Pirnikらの報告(Pirnik M.P. et al. hydrocarbon metabolism by Brevibacterium erythrogenes: Normal and branched alkanes. J. Bacteriol. 119: p.868-878 (1974))にあるように、n-アルカンと、イソアルカンが共存する場合には、n-アルカンの分解だけが起こり、イソアルカンを分解する能力を有する微生物であっても、イソアルカンの分解はなされないと考えられている。
【0005】
土壌や水中の石油系炭化水素には、n-アルカンとイソアルカンとの両方が含まれるという特徴を有するため、先に述べた様に、イソアルカンの分解は遅くなり、結果として石油系炭化水素による土壌や水の浄化効率を低いものにしている。
従って、本発明の目的はn-アルカンとイソアルカンの両者を含む石油系炭化水素を効率良く分解する微生物、及びこれを用いた土壌や水の浄化方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、このような状況に鑑み、既知の微生物及び未知の微生物を日本国内各地の土壌からスクリーニングした結果、ゴルドニア属に属する微生物が石油系炭化水素の中でも特に、イソアルカンに対する分解能力が高く、n-アルカンが共存する環境下においてもプリスタン等のイソアルカンを効率良く分解でき、これを用いれば土壌や水を効率良く浄化できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、ゴルドニア・ルブロペルティンクタス( Gordonia rubropertinctus) p−105株(FERM P−17460)を、炭素数8〜18のn−アルカン及び炭素数8〜20のイソアルカンを含む石油系炭化水素を含有する土壌又は水に接触させることを特徴とする、石油系炭化水素含有土壌又は水の浄化方法を提供するものである。また、本発明は、石油系炭化水素を分解する能力を有するゴルドニア・ルブロペルティンクタス( Gordonia rubropertinctus) p−105株(FERM P−17460)を提供するものである。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明の浄化方法に用いられる微生物はゴルドニア属に属し、石油系炭化水素類を分解する能力を有する微生物であれば特に制限されないが、n-アルカン類及びイソアルカン類を含む石油系炭化水素類を分解する能力を有する微生物が好ましい。また、前記の如く土壌や水中に含まれる石油系炭化水素類には、n-アルカンとイソアルカンの両者が含まれているので、本発明に用いる微生物としては、これら両者の共存下におけるn-アルカン及びイソアルカンに対する分解率が10:1〜1:1、特に30:1〜1:1であるものがより好ましい。ここで、分解率の測定は、n-アルカンとしてn-ヘキサデカンを、イソアルカンとしてプリスタン又はフィタンを用いて行なわれる。
【0009】
また、本発明において石油系炭化水素類とは、ガソリン、灯油、軽油、重油、潤滑油に含まれる炭化水素類を言い、例えば、n-アルカン、イソアルカン、シクロパラフィン、芳香族炭化水素などが挙げられる。また、n-アルカンとしては、炭素数8〜18のn-アルカンが挙げられ、イソアルカンとしては炭素数8〜20の分枝状アルカン、例えばプリスタン、フィタン等が挙げられる。
【0010】
本発明の浄化方法に用いられる微生物としては、ゴルドニア・ルブロペルティンクタス(Gordonia rubropertinctus)が好ましく、このうち本発明者らが埼玉県内の土壌から単離したp−105株が特に好ましい。当該p−105株は次の菌学的性質を有する。
【0011】
【表1】
Figure 0004139524
【0012】
【表2】
Figure 0004139524
【0013】
【表3】
Figure 0004139524
【0014】
これらの菌学的性質を長谷川武治著:「微生物の分類と同定(上)」改訂版(1985)学会出版センター;JOHN P. BUTLER ed.; "Bergey's Manual of Systematic Bacteriology" (1986 )、ALBERT BALOWS ed. ; "The Prokaryotes" (1991) International Journal of Systematic bacteriology vol.47 p. 479 - 491 (1997) 等に照らし合わせて検討した結果、および、リボソームの小サブユニットのDNAの塩基配列およびその相同性から、p-105株はゴルドニア・ルブロペルティンクタスに属すると同定された。しかしながら、ゴルドニア・ルブロペルティンクタスに属する微生物にはこれまでに石油系炭化水素の分解性に関する知見はないことから、新規な微生物であると同定しゴルドニア・ルブロペルティンクタス p−105として、工業技術院生命工学工業技術研究所に寄託した(FERM P-17460)。
【0015】
本発明に用いる微生物を培養するための培地としては、当該微生物が良好に生育し、かつ、石油系炭化水素の分解を妨げない培地であれは、いかなる組成の培地でもよく、炭素源としては炭素鎖長8から18のn-アルカンやプリスタン、フィタン等のイソアルカン、酢酸等の有機酸を挙げることができる。窒素源は特に制限されず、硫酸アンモニウムや硝酸アンモニウム、塩化アンモニウム等の無機窒素源や、ペプトン、麦芽エキス、酵母エキス、カゼイン等の有機窒素源が利用できる。更に無機塩類などの微量成分を適宜添加することもできる。
【0016】
本発明に用いる微生物は10〜40℃で好気的に培養すればよく、培地のpHは4〜9とすることが好ましい。
【0017】
本発明の浄化方法としては、上記微生物を石油系炭化水素類を含む土壌又は水と接触させればよく、この際には土壌改良剤やpH緩衝剤、微生物の増殖に用いられる培地成分などと共に接触させることもできる。より具体的には、石油系炭化水素類を含む土壌又は水中に添加すればよい。使用する微生物は増殖期菌体、定常期菌体のいずれでも良く、培養により得られた培養液をそのまま使用しても、遠心分離機などの装置により集菌してから用いてもよい。更に、凍結乾燥処理や、セライト、カオリン、活性炭等に担持させた状態で用いてもよい。土壌又は水への添加量は、土壌又は水に含まれる石油系炭化水素類の量にもよるが、通常乾燥菌体重量に換算して、0.1〜50gを土壌ならば乾燥重量1kgあたり、水ならば1Lあたり添加するのが好ましい。
【0018】
本発明においては、前記の微生物を単独で用いることも、複数の微生物を混合して用いることもできる。汚染を受けた土壌や水には多くの場合、すでに多種の微生物が含まれているが、これらの微生物に加えて浄化を行うことも可能である。更に公知の石油系炭化水素分解菌と混合して使用することも可能である。
【0019】
【実施例】
次に実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0020】
実施例1
菌の取得:
表4に示す培地1を内径21mmの試験管に10ml入れ、更に単一炭素源としてプリスタンを100μl添加後滅菌して液体培地を作成した。これに埼玉県内、群馬県内、長野県内で採取した500試料の土壌をそれぞれ0.5g添加し、試験管振とう機により、30℃、250rpm の条件で好気的に4日間培養を行った。それぞれの培養液を新たな同培地に0.1ml添加し、同様に4日間培養を行った。培養液をそれぞれ滅菌水で108 倍に希釈し、これを培地1に更に寒天を1リットルあたり15g加えて調製した寒天平板培地に塗布し、プリスタンを200μl添加して、30℃にて7日間静置培養を行った。出現したコロニーをそれぞれ白金耳に拾い、上記の液体培地に植菌し、同様に2日間培養を行った。生育の認められた試料については、再び滅菌水で希釈して寒天培地に塗布し、単一なコロニーを形成させた。この様にして、石油系炭化水素に対する分解能力の高い微生物としてp−105株を取得した。
【0021】
【表4】
Figure 0004139524
【0022】
実施例2
イソアルカンの分解試験:
培地1に、表5に基質として示したイソアルカンを炭素源として容量あたり1%添加した培地を全容2リットルの三角フラスコに200ml調製した。これにp−105株を接種して、30℃、140rpm にて7日間好気的に培養を行った。その後、培養液に含まれる残存した基質を測定することによりイソアルカンの分解力を測定した。
【0023】
基質の残存量は、培養後の培養液から等量のジクロロメタンにより、5cmの振幅で、300回/分の振とう速度により1時間抽出を行い、ジクロロメタン層をガスクロマトグラフィーにより分析することにより定量して求めた。基質の残存量と添加量を比較して、その減少率から分解率を求めた。その結果、表5に示す通りp−105株はイソアルカンに対して高い分解能力を有することが示された。
【0024】
【表5】
Figure 0004139524
【0025】
実施例3
n-アルカンの分解試験:
基質として添加したn-アルカンが表6に示した基質であること以外は実施例2と同様に試験を行った結果、表6に示す通り、p−105株はn-アルカンに対しても高い分解能力を有することが示された。
【0026】
【表6】
Figure 0004139524
【0027】
実施例4
n-アルカンとイソアルカンが共存する場合の分解:
基質として添加したn-アルカンとイソアルカンを表7に示す割合で同時に添加したこと以外は実施例2と同様に試験を行った結果、表7に示す通り、p−105株はn-アルカンが共存する環境下においてもに対してもイソアルカンに対して高い分解能力を有することが示された。
【0028】
【表7】
Figure 0004139524
【0029】
実施例5
石油系炭化水素により汚染を受けた土壌の浄化:
篩により2mm以上の組成物を除去した土壌(クロボク土、群馬県榛名山周辺より採取、石油系炭化水素による汚染を受けていない土壌)を乾燥土壌あたり500g計り取り、これにn-アルカンとして2.5gのn-ヘキサデカンおよびイソアルカンとして2.5gのプリスタンを同時に添加して十分に混合し、更に100mlの360mM硝酸アンモニウムを含む50mM燐酸カリウム緩衝液(pH7.2)を添加して再度十分に混合した。これに予め培養して、遠心分離により集菌したp−105株を乾燥菌体重量として10gに相当する量をそれぞれ添加して石油系炭化水素分解能力を評価した。また、p−105株の添加を行わない以外は同様な試験を対照試験として実施した。すなわち、対照試験はもともと土壌に含まれている一般微生物による石油系炭化水素の分解能力を指し示している。実験は全て30℃の恒温室内で実施した。30日間の分解試験中、3日ごとに土壌の水分量を調整し、その含水比を80から120%に保つと共に、攪拌、混合することにより酸素の供給を行った。土壌中の石油系炭化水素の定量は、土壌試料5gを乾燥させた後に、20mlのジクロロメタンにより抽出を行い、ガスクロマトグラフィーにより求めた。抽出の振とう条件は実施例2と同様に行った。30日後の石油系炭化水素の残存量を測定した結果、p−105株を添加することにより、n-アルカンおよびイソアルカンの分解が促進され、効率よく浄化が可能であることが示された。表中の数値は添加した基質に対する減少量を百分率で示している。
【0030】
【表8】
Figure 0004139524
【0031】
【発明の効果】
本発明方法によれば、n-アルカン及びイソアルカンの両者の共存する石油系炭化水素類を含む土壌や水が効率よく浄化できる。

Claims (2)

  1. ゴルドニア・ルブロペルティンクタス Gordonia rubropertinctus) p−105株(FERM P−17460)。
  2. ゴルドニア・ルブロペルティンクタス( Gordonia rubropertinctus) p−105株(FERM P−17460)を、炭素数8〜18のn−アルカン及び炭素数8〜20のイソアルカンを含む石油系炭化水素を含有する土壌又は水に接触させることを特徴とする、石油系炭化水素含有土壌又は水の浄化方法
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