JP5241188B2 - アルカリ蓄電池システム - Google Patents

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Description

本発明は、水素吸蔵合金を負極活物質とする水素吸蔵合金負極と水酸化ニッケルを主正極活物質とするニッケル正極とセパレータとからなる電極群をアルカリ電解液とともに外装缶内に備えたアルカリ蓄電池に係り、特に、ハイブリッド自動車(HEV)、電気自動車(PEV)などの車両用途に好適なアルカリ蓄電池システムに関する。
近年、二次電池の用途は、例えば、携帯電話、パーソナルコンピュータ、電動工具、電動自転車、ハイブリッド自動車(HEV)、電気自動車(PEV)など多岐に亘るようになった。これら用途のうち、特に、ハイブリッド自動車(HEV)や電気自動車(PEV)などのような車輌関係の用途においては、水素吸蔵合金負極を備えたアルカリ蓄電池が広く用いられている。そして、これらの車輌関係の用途に用いられるアルカリ蓄電池においては、高出力化の要望に加え、低コスト化の要望が高まっている。
ところで、水素吸蔵合金負極を備えたアルカリ蓄電池の高出力化を達成するためには、希土類元素、マグネシウム、ニッケルを主要構成元素とする水素吸蔵合金の水素平衡圧を上げることが、特許文献1(特開2005−32573号公報)にて提案されるようになった。この特許文献1においては、水素吸蔵合金の水素平衡圧を上げることにより、水素濃度が上昇して放電性が向上(過電圧が低下)することが開示されている。また、水素吸蔵合金の水素平衡圧を上昇させることで電池の開路電圧が上昇し、放電性が向上することも開示されている。
一方、水素吸蔵合金負極を備えたアルカリ蓄電池において、水素吸蔵合金はコストの影響が最も大きい材料の1つであることが知られている。このため、このような高コストとなる水素吸蔵合金の使用量を削減すれば、この種のアルカリ蓄電池の低コスト化を達成することが可能となる。
特開2005−32573号公報
しかしながら、上述した特許文献1にて提案されてるように、水素吸蔵合金の水素平衡圧を上昇させるために高水素平衡圧の水素吸蔵合金を用いると、この高水素平衡圧の水素吸蔵合金は耐久性に劣るということに起因して、この種の水素吸蔵合金負極を用いた電池の充放電サイクル特性(寿命)が低下するという問題を生じた。一方、低コスト化を達成するために水素吸蔵合金の使用量を削減すると、特に、低温度領域での出力低下を招来するという問題を生じた。
そこで、本発明は上記問題点を解消するためになされたものであって、A成分に対するB成分のモル比となる化学量論比(B/A)が高いA519型構造の結晶構造を有する水素吸蔵合金を用いて高出力、特に、低温度領域での高出力を確保するとともに水素吸蔵合金の使用量を大幅に削減することを可能にして低コスト化を達成する。また、部分充放電制御されるようにして充放電サイクル特性(寿命や耐久性)に優れたアルカリ蓄電システムを提供できるようにすることを目的とするものである。
本発明のアルカリ蓄電池システムは、水素吸蔵合金を負極活物質とする水素吸蔵合金負極と水酸化ニッケルを主正極活物質とするニッケル正極とセパレータとからなる電極群をアルカリ電解液とともに外装缶内に備えたアルカリ蓄電池を有する。そして、上記目的を達成するため、水素吸蔵合金は、少なくともA519型構造の結晶構造を有し、かつ該A519型構造のA成分に対するB成分のモル比となる化学量論比(B/A)が3.8以上であるとともに、部分充放電制御するようになされており、前記部分充放電制御は、充電深度(SOC)が10%〜95%相当の電圧範囲でのみ充放電されるように制御されていることを特徴とする。
ここで、A519型構造の結晶構造を有し、かつA519型構造のA成分に対するB成分のモル比となる化学量論比(B/A)が3.8以上である水素吸蔵合金は、合金表面に増大したニッケル(Ni)リッチの反応活性点が存在する。このため、このような水素吸蔵合金を負極活物質として用いると、高出力を確保することが可能となる。また、合金表面に増大したニッケル(Ni)リッチの反応活性点が存在する水素吸蔵合金の使用量を削減しても、ニッケル(Ni)リッチの反応活性点が存在により高出力を維持することが可能となる。これにより、水素吸蔵合金の使用量を大幅に削減することが可能となって、低コスト化を達成できるようになる。
また、A519型構造の結晶構造を有し、かつA519型構造のA成分に対するB成分のモル比となる化学量論比(B/A)が3.8以上である水素吸蔵合金を負極活物質とした水素吸蔵合金負極を備えたアルカリ蓄電池において、完全充放電サイクルを繰り返すように充放電制御を行うと、耐久性が低下するという実験結果が得られた。ところが、このようなアルカリ蓄電池を部分充放電制御がなされるようすると、耐久性が低下しないという実験結果が得られた。これは上述のような水素吸蔵合金を備えたアルカリ蓄電池に完全充放電サイクルを繰り返すと、水素吸蔵合金の微粉化が進行するためである。このようなことは、耐久性に優れたアルカリ蓄電システムとするためには部分充放電制御がなされるようにする必要があるということを意味している。
なお、A519型構造の結晶構造を有し、かつA519型構造のA成分に対するB成分のモル比となる化学量論比(B/A)が3.8以上である水素吸蔵合金としては、一般式がLnl-xMgxNiy-a-bAlab(式中、LnはYを含む希土類元素から選択される少なくとも1種の元素で、MはCo,Mn,Znから選択される少なくとも1種の元素である)と表され、0.1≦x≦0.2、3.≦y≦3.9、0.1≦a≦0.3、0≦b≦0.2の条件を満たす必要がある。これは、x>0.2であるとマグネシウムの偏析が生じ、a>0.3であるとアルミニウムの偏析が生じるようになって、それぞれ耐食性の低下をもたらすようになるからである。また、y<3.であったり、y>3.9であったりすると、A519型構造をそれぞれ構成することが困難となるからである。
ここで、ニッケル正極の容量Xに対する水素吸蔵合金負極の容量Yの比率となる容量比Z(=Y/X)が1.2以下(1.0<Z≦1.2)なるように水素吸蔵合金の使用量を削減した水素吸蔵合金負極を備えたアルカリ蓄電池においては、部分充放電制御がなされるようすると、耐久性が低下しないという実験結果が得られた。このため、水素吸蔵合金の使用量を大幅に削減することを可能にして低コスト化を達成するためには、ニッケル正極の容量Xに対する水素吸蔵合金負極の容量Yの比率となる容量比Z(=Y/X)が1.2以下(1.0<Z≦1.2)なるように水素吸蔵合金の使用量を削減するのが好ましい。
ところが、ニッケル正極の容量Xに対する水素吸蔵合金負極の容量Yの比率となる容量比Z(=Y/X)が1.2以下(1.0<Z≦1.2)なるように水素吸蔵合金の使用量を削減した水素吸蔵合金負極を備えたアルカリ蓄電池においては、完全充放電サイクルを繰り返すような完全充放電制御を行うようにすると、耐久性が低下するという実験結果が得られた。その理由は、水素吸蔵合金の使用量を削減したことにより、負極での酸素ガス吸収量が減少し、これに伴って電池内圧が上昇するようになって、負極活物質が芯体から剥離する現象が起こりやすくなり、完全充放電サイクルの進行に伴って出力が低下し、耐久性が低下したと考えられるからである。
この場合、部分充放電制御は、複数の電池を組み合わせた組電池とした場合に各電池間にバラツキが生じない電圧(この場合は、充電深度(SOC)が10%相当の電圧)に達すると放電を停止して充電を開始し、酸素過電圧に到達する前の電圧(この場合は、充電深度(SOC)が95%相当の電圧)に達すると充電を停止して放電を開始するようになされるようにすればよい。なお、実用的には、充電深度(SOC)が20%相当の電圧に達すると放電を停止して充電を開始し、充電深度(SOC)が80%相当の電圧に達すると充電を停止して放電を開始するように部分充放電制御がなされるのが好ましい。
本発明においては、A成分に対するB成分のモル比となる化学量論比(B/A)が高いA519型構造の結晶構造を有する水素吸蔵合金を用いているので、高出力、特に、低温度領域での高出力を確保することが可能になるとともに水素吸蔵合金の使用量を大幅に削減することを可能にして低コスト化を達成することが可能となる。また、部分充放電制御されるようにして耐久性に優れたアルカリ蓄電システムを提供できるようになる。
本発明の実施の形態を以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものでなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。なお、図1は本発明のアルカリ蓄電池システムに用いられるアルカリ蓄電池を模式的に示す断面図である。
1.水素吸蔵合金負極
本発明の水素吸蔵合金負極11はパンチングメタルからなる負極芯体に水素吸蔵合金スラリーが充填されて形成されている。この場合、まず、一般式がLnl-xMgxNiy-a-bAlab(式中、LnはYを含む希土類元素から選択される少なくとも1種の元素で、MはCo,Mn,Znから選択される少なくとも1種の元素であり、0.1≦x≦0.2、3.≦y≦3.9、0.1≦a≦0.3、0≦b≦0.2)で表されるようにNd,Mg,Ni,Al,Coなどの金属元素を所定のモル比となるように混合する。ついで、これらの混合物をアルゴンガス雰囲気の高周波誘導炉に投入して溶解させた後、合金鋳塊になるように溶湯急冷して、水素吸蔵合金を得る。
ついで、得られた水素吸蔵合金について、DSC(示差走査熱量計)を用いて融点(T
m)を測定する。その後、水素吸蔵合金の融点(Tm)よりも30℃だけ低い温度(Ta=Tm−30℃)で所定時間(この場合は10時間)の熱処理を行って、得られた水素吸蔵合金がA519型構造となるように調整し、これらを水素吸蔵合金α,β,γとした。
ここで、熱処理後の各水素吸蔵合金α〜γの組成を高周波プラズマ分光法(ICP)によって分析したところ、水素吸蔵合金αは組成式がNd0.9Mg0.1Ni3.2Al0.2Co0.1(希土類を含むA成分が1.0モルで、Niを含むB成分が3.5モルで、それらの化学量論比B/Aが3.5となる)で表されることが分かった。
また、水素吸蔵合金βは組成式がLa0.2Pr0.1Nd0.5Mg0.2Ni3.5Al0.3(希土類を含むA成分が1.0モルで、Niを含むB成分が3.8モルで、それらの化学量論比B/Aが3.8となる)で表されることが分かった。さらに、水素吸蔵合金γはLa0.5Pr0.1Nd0.3Mg0.1Ni3.7Al0.2(希土類を含むA成分が1.0モルで、Niを含むB成分が3.9モルで、それらの化学量論比B/Aが3.9となる)で表されることが分かった。
なお、Cu−Kα管をX線源とするX線回折測定装置を用いる粉末X線回折法で各水素吸蔵合金α〜γの結晶構造の同定を以下のようにして行った。この場合、スキャンスピード1°/min、管電圧40kV、管電流300mA、スキャンステップ1°、測定角度(2θ)20〜50°でX線回折測定を行う。そして、得られたXRDプロファイルよりJCPDSカードチャートを用いて、各水素吸蔵合金α〜γの結晶構造を同定すると、A519型構造(Ce5Co19型構造)であることが確認できた。
ついで、得られた各水素吸蔵合金α〜γを不活性雰囲気中で機械的に粉砕し、篩分けにより400メッシュ〜200メッシュの間に残る合金粉末を選別する。なお、レーザ回折・散乱式粒度分布測定装置により粒度分布を測定すると、質量積分50%にあたる平均粒径は25μmであった。この後、得られた水素吸蔵合金粉末100質量部に対し、非水溶性高分子結着剤としてのSBR(スチレンブタジエンラテックス)を0.5質量部と、増粘剤としてCMC(カルボキシメチルセルロース)を0.03質量部と、適量の純水を加えて混練して、水素吸蔵合金スラリーa,b,cを調製する。
ここで、水素吸蔵合金αからなるものを水素吸蔵合金スラリーaとし、水素吸蔵合金βからなるものを水素吸蔵合金スラリーbとし、水素吸蔵合金γからなるものを水素吸蔵合金スラリーcとする。
そして、得られた水素吸蔵合金スラリーa,b,cをパンチングメタル(ニッケルメッキ鋼板製)からなる負極芯体の両面に塗着した後、室温で乾燥させ、所定の充填密度になるように圧延した後、所定の寸法(例えば、80cm×5cm)に裁断することにより水素吸蔵合金負極11(a1,b1,c1およびa2,b2,c2)が作製される。
ここで、水素吸蔵合金スラリーaを用い、後述するニッケル正極12の正極容量に対する容量比が1.2となるように負極容量が調整されたものを水素吸蔵合金負極a1とした。同様に、水素吸蔵合金スラリーbを用い、ニッケル正極12の正極容量に対する容量比が1.2となるように負極容量が調整されたものを水素吸蔵合金負極b1とし、水素吸蔵合金スラリーcを用い、ニッケル正極12の正極容量に対する容量比が1.2となるように負極容量が調整されたものを水素吸蔵合金負極c1とした。
また、水素吸蔵合金スラリーaを用い、ニッケル正極12の正極容量に対する容量比が1.7となるように負極容量が調整されたものを水素吸蔵合金負極a2とし、水素吸蔵合金スラリーbを用い、ニッケル正極12の正極容量に対する容量比が1.7となるように負極容量が調整されたものを水素吸蔵合金負極b2とし、水素吸蔵合金スラリーcを用い、ニッケル正極12の正極容量に対する容量比が1.7となるように負極容量が調整されたものを水素吸蔵合金負極c2とした。
3.ニッケル正極
一方、ニッケル正極12は、基板となるニッケル焼結基板の多孔内に所定量の水酸化ニッケルと水酸化コバルトと水酸化亜鉛とが充填されて形成されている。
この場合、ニッケル焼結基板は、まず、例えば、ニッケル粉末に、増粘剤となるメチルセルロース(MC)と高分子中空微小球体(例えば、孔径が60μmのもの)と水とを混合、混練してニッケルスラリーが作製されている。ついで、ニッケルめっき鋼板からなるパンチングメタルの両面にニッケルスラリーを塗着した後、還元性雰囲気中で1000℃で加熱して、塗着されている増粘剤や高分子中空微小球体を消失させるとともにニッケル粉末同士を焼結することにより作製されている。
そして、得られたニッケル焼結基板に以下のような含浸液を含浸した後、アルカリ処理液によるアルカリ処理を所定回数繰り返すことにより、ニッケル焼結基板の多孔内に所定量の水酸化ニッケルと水酸化亜鉛とが充填される。この後、所定の寸法(例えば、2.5cm×2.5cm)に裁断することにより、正極活物質が充填されたニッケル正極12が作製される。この場合、含浸液としては、硝酸ニッケルと硝酸コバルトと硝酸亜鉛のモル比が100:5:5となる比重が1.8の混合水溶液を用い、アルカリ処理液としては、比重が1.3の水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液を用いるようにしている。
そして、ニッケル焼結基板を含浸液に浸漬して、ニッケル焼結基板の細孔内に含浸液を含浸させた後、乾燥させ、ついで、アルカリ処理液に浸漬してアルカリ処理を行う。これにより、ニッケル塩や亜鉛塩を水酸化ニッケルや水酸化亜鉛に転換させる。この後、充分に水洗してアルカリ溶液を除去した後、乾燥させる。このような、含浸液の含浸、乾燥、アルカリ処理液への浸漬、水洗、および乾燥という一連の正極活物質の充填操作を6回繰り返すことにより、所定量の正極活物質がニッケル焼結基板に充填される。
4.ニッケル−水素蓄電池
ついで、上述のようにして作製される水素吸蔵合金負極11(a1,b1,c1およびa2,b2,c2)と、ニッケル正極12とを用い、これらの間に、目付が55g/cm2のポリオレフィン製不織布からなるセパレータ13を介在させて渦巻状に巻回することにより渦巻状電極群が作製される。なお、このようにして作製される渦巻状電極群の下部には水素吸蔵合金負極11の芯体露出部11cが露出しており、その上部にはニッケル正極12の芯体露出部12cが露出している。ついで、得られた渦巻状電極群の下端面に露出する芯体露出部11cに負極集電体14を溶接するとともに、渦巻状電極群の上端面に露出するニッケル正極12の芯体露出部12cの上に正極集電体15を溶接して、電極体が作製される。
ついで、得られた電極体を鉄にニッケルメッキを施した有底筒状の外装缶(底面の外面は負極外部端子となる)17内に収納した後、負極集電体14を外装缶17の内底面に溶接する。一方、正極集電体15より延出する集電リード部15aを正極端子を兼ねるとともに外周部に絶縁ガスケット19が装着された封口体18の底部に溶接する。なお、封口体18には正極キャップ18aが設けられていて、この正極キャップ18a内に所定の圧力になると変形する弁体18bとスプリング18cよりなる圧力弁(図示せず)が配置されている。
ついで、外装缶17の上部外周部に環状溝部17aを形成した後、電解液を注液し、外装缶17の上部に形成された環状溝部17aの上に封口体18の外周部に装着された絶縁ガスケット19を載置する。この後、外装缶17の開口端縁17bをかしめることにより、電池容量は6AhでDサイズ(直径が32mmで、高さが60mm)のニッケル−水素蓄電池10(A1,B1,C1,A2,B2,C2)が作製される。この場合、外装缶17内にアルカリ電解液(水酸化ナトリウム(NaOH)と水酸化カリウム(KOH)と水酸化リチウム(LiOH)との混合水溶液)が電池容量(Ah)当り2.5g(2.5g/Ah)となるように注入されている。
ここで、水素吸蔵合金負極a1(化学量論比が3.5の合金を用い容量比が1.2のもの)を用いたものを電池A1とし、水素吸蔵合金負極b1(化学量論比が3.8の合金を用い容量比が1.2のもの)を用いたものを電池B1とし、水素吸蔵合金負極c1(化学量論比が3.9の合金を用い容量比が1.2のもの)を用いたものを電池C1とした。また、水素吸蔵合金負極a2(化学量論比が3.5の合金を用い容量比が1.7のもの)を用いたものを電池A2とし、水素吸蔵合金負極b2(化学量論比が3.8の合金を用い容量比が1.7のもの)を用いたものを電池B2とし、水素吸蔵合金負極c2(化学量論比が3.9の合金を用い容量比が1.7のもの)を用いたものを電池C2とした。
4.電池試験
(1)低温出力試験
ついで、各電池A1,B1,C1,A2,B2,C2について、電池容量に対して1Itの充電電流で電池容量の50%まで充電(SOC(State Of Charge:充電深度)が50%となるように30分の充電)した。この後、電池表面温度が−10℃になるまで冷却した後、1It充電→2It放電→2It充電→4It放電→3It充電→6It放電→4It充電→8It放電→5It充電→10It放電の順で充放電を繰り返した。
この際、各ステップの間に10分間の休止期問を設け、各放電ステップ実施後の10分間の休止後において、10秒間ずつ放電、20秒間ずつ充電を行い、この10秒間経過時点における電池電圧を放電電流に対してプロットし、最小二乗法にて求めた直線が0.9Vに達するときの電流値を−10℃出力として求めた。そして、電池A2の−10℃出力を100としたときの各電池A1,B1,C1,B2,C2の比率(相対値)を−10℃出力比として求めると下記の表1に示すような結果となった。
Figure 0005241188
上記表1の結果から、以下のことが明らかになった。即ち、ニッケル正極の容量との容量比が1.7で合金の化学量論比が3.5の水素吸蔵合金負極a2を用いた電池A2においては、現状のHEV用途においては充分な高出力が得られないニッケル−水素蓄電池であることが分かった。これは化学量論比が3.5の水素吸蔵合金においてはNiリッチな反応活性点が少ないためと考えられる。
また、ニッケル正極の容量との容量比が1.7で合金の化学量論比が3.8の水素吸蔵合金負極b2を用いた電池B2においては、電池A2よりも−10℃出力比の大幅な向上が確認された。これは化学量論比が3.8の水素吸蔵合金においてはNiリッチな反応活性点が増加するためと考えられる。
さらに、ニッケル正極との容量比が1.7で合金の化学量論比が3.9の水素吸蔵合金負極c2を用いた電池C2においては、合金の化学量論比が増大したことに伴い、電池A2、電池B2よりも更に−10℃出力比の向上が確認された。これは化学量論比が3.9の水素吸蔵合金においてはNiリッチな反応活性点が顕著に増加するためと考えられる。
これらに対して、ニッケル正極の容量との容量比が1.2で合金の化学量論比が3.5の水素吸蔵合金負極a1を用いた電池A1においては、電池A2に比較して−10℃出力比が大幅な低下が確認された。これは、ニッケル正極の容量との容量比が1.2となるようにしたことにより、水素吸蔵合金量が減少して負極全体での反応活性点数が減少し、これに起因して、特に、低温領域で顕著な出力低下が現れたものと考えられる。
また、ニッケル正極の容量との容量比が1.2で合金の化学量論比が3.8の水素吸蔵合金負極b1を用いた電池B1においては、電池A2に比較して−10℃出力比の向上が確認された。これは、ニッケル正極の容量との容量比が1.2となるようにしたことによる水素吸蔵合金量の減少に伴う反応活性点数の減少と、高化学量論比合金による反応活性点数の増加との影響が現れる。ところが、この場合は、高化学量論比合金による反応活性点数の増加効果が上回って、低温出力の向上が図られたものと考えられる。
さらに、ニッケル正極の容量との容量比が1.2で合金の化学量論比が3.9の水素吸蔵合金負極c1を用いた電池C1においては、電池B1よりも更に−10℃出力比の向上が確認された。これは水素吸蔵合金の化学量論比が大幅に増大したことに伴い、水素吸蔵合金表面のNiリッチな反応活性点数が大幅に増加したことによるものと考えられる。
(2)耐久性試験
ついで、これらの各電池A1,B1,C1,A2,B2,C2の部分充放電サイクル試験と完全充放電サイクル試験とからなる耐久性試験を以下のようにして行った。
a.部分充放電サイクル試験
まず、これらの各電池A1,B1,C1,A2,B2,C2において、10Itの充電電流にてSOC(State Of Charge:充電深度)が80%となる電圧まで充電した後、10Itの放電電流にてSOCが20%となる電圧まで放電させるという充放電サイクルを繰り返す部分充放電サイクル試験を行った。そして、このような部分充放電サイクルを放電電気量が10kAhとなるまで繰り返した。
ついで、25℃の雰囲気中で、各電池A1,B1,C1,A2,B2,C2の部分充放電サイクル試験後の出力を求めた後、電池A2の部分充放電サイクル試験後の出力を100とし、他の電池A1,B1,C1,B2,C2の部分充放電サイクル試験後の出力を電池A2との比率(相対値)として求め、これを部分充放電サイクル試験後の耐久性として表すと下記の表2に示すような結果となった。
b.完全充放電サイクル試験
一方、これらの各電池A1,B1,C1,A2,B2,C2において、室温(約25℃)で、それぞれ1Itの充電々流で充電し、満充電に達した後、電池電圧が10mV低下(−ΔV=10mV)した時点で充電を1時間休止させた後、1Itの放電電流で終止電圧が0.9Vになるまで放電させるという充放電サイクルを繰り返す完全充放電サイクル試験を行った。そして、このような完全充放電サイクルを放電電気量が10kAhとなるまで繰り返した。
ついで、25℃の雰囲気中で、各電池A1,B1,C1,A2,B2,C2の完全充放電サイクル試験後の出力を求めた。この後、先に求めた電池A2の部分充放電サイクル試験後の出力を100とし、電池A1,B1,C1,A2,B2,C2の完全充放電サイクル試験後の出力を電池A2の部分充放電サイクル試験後の出力との比率(相対値)として求め、これを完全充放電サイクル試験後の耐久性として表すと下記の表2に示すような結果となった。
Figure 0005241188
上記表2の結果から、以下のことが明らかになった。即ち、ニッケル正極の容量との容量比が1.7で合金の化学量論比が3.5の水素吸蔵合金負極a2を用いた電池A2の部分充放電サイクル試験後の出力を100とした場合、完全充放電サイクルを行うときには、ニッケル正極の容量との容量比が1.7(電池システムA22,B22,C22)であっても、1.2(電池システムA12,B12,C12)であっても、あるいは化学量論比が3.5(電池A2,A1)であっても、3.8(電池B2,B1)であっても、3.9(電池C2,C1)であっても、即ち、電池システムA12,B12,C12,A22,B22,C22のいずれであっても、耐久性が低下することが分かる。これは、完全充放電サイクルを繰り返すことにより水素吸蔵合金の微粉化が進行するためと考えられる。
なお、ニッケル正極の容量との容量比が1.2で、化学量論比が3.5の電池A1および化学量論比が3.8の電池B1ならびに化学量論比が3.9の電池C1においては、負極全体としての酸素ガス吸収量が減少して内圧上昇による質量減を引き起こし、また負極活物質の芯体から剥れが起こりやすくなるため、サイクル経過時には出力低下により耐久性がさらに低下したものと考えられる。
一方、部分充放電サイクルを行うときには、ニッケル正極の容量との容量比が1.7(電池システムA21,B21,C21)であれば、化学量論比が3.5(電池A2)であっても、3.8(電池B2)であっても、3.9(電池C2)であっても、耐久性は同等となることが分かる。
ところが、部分充放電サイクルを行うときには、ニッケル正極の容量との容量比が1.2(電池システムA11)になると、化学量論比が3.5(電池A1)になると、耐久性はこれらの電池A2,B2,C2と同等であるが、−10℃出力比が低下することが分かる。このことは、化学量論比が3.5の水素吸蔵合金を用いる場合は、水素吸蔵合金の質量を低減させると低温出力特性が低下することを意味している。
しかしながら、部分充放電サイクルを行うときには、ニッケル正極の容量との容量比が1.2(電池システムB12,C12)になっても、即ち、水素吸蔵合金の質量を低減させても、化学量論比が3.8(電池B1)であっても、3.9(電池C1)であっても、耐久性はこれらの電池A2,B2,C2と同等であるとともに、−10℃出力比もそれほど低下しないことが分かる。このことは、部分充放電サイクルを行うときには、ニッケル正極の容量との容量比が1.2になっても、化学量論比が3.8以上の水素吸蔵合金を用いれば、電池としてのコストおよび質量を低減することが可能となることを意味している。
したがって、電池としてのコストおよび質量を低減することが可能とするためには、水素吸蔵合金負極の負極活物質となる水素吸蔵合金は化学量論比が3.8以上のもの用いるとともに、ニッケル正極の容量との容量比が1.2以下となるように水素吸蔵合金負極を調整し、このような水素吸蔵合金負極を用いてニッケル−水素蓄電池を構成する。
そして、ハイブリッド自動車や電気自動車などのような車輌関係の用途に用いる場合には、このようなニッケル−水素蓄電池の複数個を用いて組電池にするとともに、この組電池が部分充放電サイクルを繰り返して行えるように部分充放電制御が可能な充放電制御手段を設ける必要がある。
この場合、部分充放電制御としては、上述したように充電深度(SOC)が20%相当の電圧に達すると放電を停止して充電を開始し、充電深度(SOC)が80%相当の電圧に達すると充電を停止して放電を開始するようになされるのが好ましい。
ここで、水素吸蔵合金は、一般式がLnl-xMgxNiy-a-bAlabと表され、0.1≦x≦0.2、3.≦y≦3.9、0.1≦a≦0.3、0≦b≦0.2の条件を満たす必要がある。これは、x>0.2であるとマグネシウムの偏析が生じ、a>0.3であるとアルミニウムの偏析が生じるようになって、それぞれ耐食性の低下をもたらすようになるからである。また、y<3.であったり、y>3.9であったりすると、A519型構造をそれぞれ構成することが困難となるからである。
上述したように、本発明においては、化学量論比の高い水素吸蔵合金を用いて高出力、特に、低温度領域での高出力を確保し、加えて水素吸蔵合金量の大幅削減を行うことで、車両用途おいて必要な高出力・高耐久性を維持しつつ低コストなアルカリ蓄電池システムの提供が可能になる。換言すると、高出力・高耐久性を維持しながら水素吸蔵合金量の大幅削減を行い、安価なアルカリ蓄電池システムを提供できる。
本発明のアルカリ蓄電池システムに用いられるアルカリ蓄電池を模式的に示す断面図である。
符号の説明
11…水素吸蔵合金負極、11c…芯体露出部、12…ニッケル正極、12c…芯体露出部、13…セパレータ、14…負極集電体、15…正極集電体、15a…集電リード部、17…外装缶、17a…環状溝部、17b…開口端縁、18…封口体、18a…正極キャップ、18b…弁板、18c…スプリング、19…絶縁ガスケット

Claims (4)

  1. ニッケルを含む水素吸蔵合金を負極活物質とする水素吸蔵合金負極と水酸化ニッケルを主正極活物質とするニッケル正極とセパレータとからなる電極群をアルカリ電解液とともに外装缶内に備えたアルカリ蓄電池を有するアルカリ蓄電池システムであって、
    前記水素吸蔵合金は少なくともA19型構造の結晶構造を有し、かつ該A19型構造のA成分に対するB成分のモル比となる化学量論比(B/A)が3.8以上であるとともに、部分充放電制御するようになされており、
    前記部分充放電制御は、充電深度(SOC)が10%〜95%相当の電圧範囲でのみ充放電されるように制御されていることを特徴とするアルカリ蓄電池システム。
  2. 前記水素吸蔵合金は、一般式がLnl-xMgxNiy-a-bAlab(式中、LnはYを含
    む希土類元素から選択される少なくとも1種の元素で、MはCo,Mn,Znから選択される少なくとも1種の元素であり、0.1≦x≦0.2、3.≦y≦3.9、0.1≦a≦0.3、0≦b≦0.2)で表されることを特徴とする請求項1に記載のアルカリ蓄電池システム。
  3. 前記ニッケル正極の容量Xに対する前記水素吸蔵合金負極の容量Yの比率となる容量比Z(=Y/X)が1.2以下(1.0<Z≦1.2)であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のアルカリ蓄電池システム。
  4. 前記部分充放電制御は、充電深度(SOC)が20%相当の電圧に達すると放電を停止して充電を開始し、充電深度(SOC)が80%相当の電圧に達すると充電を停止して放電を開始するようになされていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載のアルカリ蓄電池システム。
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