JP5241118B2 - 非水電解質電池 - Google Patents

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Description

本発明は、リチウムイオン電池或いはポリマー電池等の非水電解質電池及びその製造方法の改良に関し、特に高温におけるサイクル特性及び保存特性に優れ、高容量を特徴とする電池構成においても高い信頼性を発揮できる電池構造等に関するものである。
近年、携帯電話、ノートパソコン、PDA等の移動情報端末の小型・軽量化が急速に進展しており、その駆動電源としての電池にはさらなる高容量化が要求されている。充放電に伴い、リチウムイオンが正、負極間を移動することにより充放電を行うリチウムイオン電池は、高いエネルギー密度を有し、高容量であるので、上記のような移動情報端末の駆動電源として広く利用されている。
ここで、上記移動情報端末は、動画再生機能、ゲーム機能といった機能の充実に伴って、更に消費電力が高まる傾向にあり、その駆動電源であるリチウムイオン電池には長時間再生や出力改善等を目的として、更なる高容量化や高性能化が強く望まれるところである。
こうした背景の中で、リチウムイオン電池の高容量化を図るために、発電要素に関与しない電池缶、セパレータ、正負両極の集電体(アルミ箔や銅箔)の薄型化(例えば、下記特許文献1参照)や、活物質の高充填化(電極充填密度の向上)を中心に研究、開発がなされてきたが、これらの対策もほぼ限界に近づきつつあり、今後の高容量化対策には材料の変更等の本質的な改良が必要となってきている。しかしながら、正負両活物質の変更による高容量化において、負極活物質ではSiやSn等の合金系負極が期待されるものの、正極活物質では、現状のコバルト酸リチウムを超える容量を有し、且つ、性能も同等以上である材料は殆ど見当たらない。
このような状況下、我々はコバルト酸リチウムを正極活物質として用いた電池の充電終止電圧を、現状の4.2Vから更に上の領域に利用深度(充電深度)を高めることによって高容量化が可能な電池を開発した。このように利用深度を高めることによって高容量化できる理由を簡単に説明すると、コバルト酸リチウムの理論容量は約273mAh/gであるが、4.2V仕様の電池(充電終止電圧が4.2Vの電池)ではこのうち160mAh/g程度しか利用しておらず、4.4Vまで充電終止電圧を引き上げることにより約200mAh/gまで使用することが可能であるという理由による。このように、4.4Vまで充電終止電圧を引き上げることにより、電池全体として10%程度の高容量化を達成できる。
しかしながら、コバルト酸リチウムを上記の如く高電圧で使用した場合には、充電された正極活物質の酸化力が強まり、電解液の分解が加速されるばかりでなく、脱リチウムされた正極活物質自体の結晶構造の安定性が失われ、結晶の崩壊によるサイクル劣化や保存劣化が最大の課題であった。我々が検討したところ、コバルト酸リチウムにジルコニア、アルミニウム、マグネシウムを添加することによって高電圧の室温条件下では4.2Vと類似の性能を出せることがわかっているが、前述したように、近年の起動端末は消費電力が大きく、高温環境下での連続使用に耐え得る等の高温駆動条件下での性能確保が必須であり、その意味では室温に限らず、高温での信頼性を確保できる技術の開発が急務であった。
特開2002−141042号公報
上述の如く、充電終止電圧を向上させた電池の正極では、結晶構造の安定性が失われて、特に高温での電池性能の劣化が顕著であることがわかった。このような現象について、詳細な原因は不明であるが、分析結果を見る限りでは、電解液の分解物や正極活物質からの元素の溶出(コバルト酸リチウムを用いた場合にはコバルトの溶出)が認められており、これが高温でのサイクル特性や保存特性が悪化する主要因となっているものと推測される。
特に、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム、或いは、ニッケル−コバルト−マンガンのリチウム複合酸化物等の正極活物質を用いた電池系では、高温保存すると、コバルトやマンガンがイオンとなって正極から溶出し、これらの元素が負極で還元されることにより、負極やセパレータヘ析出し、電池内部抵抗の増加やそれに伴う容量低下等が問題となっている。更に、上述の如く、リチウムイオン電池の充電終止電圧を上昇させた場合には、結晶構造の不安定さが増加し、上記問題点が一層顕在化し、これまで4.2V仕様の電池系で問題のなかった50℃付近の温度でもこれらの現象が強まる傾向にある。また、セパレータの膜厚が薄く、空孔率の低いセパレータを用いた場合には、これらの現象がより強まる傾向にある。
例えば4.4V仕様の電池において、正極活物質としてコバルト酸リチウム、負極活物質として黒鉛を用い、保存試験(試験条件は、充電終止電圧4.4V、保存温度60℃、保存期間5日間)を行った場合には、保存後の残存容量が大幅に低下し、時には略ゼロまで低下する。そこで、この電池を解体したところ、負極、セパレータから多量のコバルトが検出されていることから、正極から溶出したコバルト元素により、劣化のモードが加速されていると考えられる。これは、コバルト酸リチウムの如く層状の正極活物質は、リチウムイオンの引き抜きにより価数が増加するが、4価のコバルトは不安定であることから結晶そのものが安定せず、安定な構造に変化しようとするため、コバルトイオンが結晶から溶出し易くなるということに起因するものと推測される。また、正極活物質としてスピネル型マンガン酸リチウムを用いた場合においても、一般に、マンガンの3価が不均化して2価のイオンで溶出し、正極活物質としてコバルト酸リチウムを用いた場合と同様の問題が生じることが知られている。
このように、充電された正極活物質の構造が不安定な場合には、特に高温での保存劣化やサイクル劣化が顕著になる傾向がある。そして、この傾向は正極活物質層の充填密度が高いほど起こり易いことも判明していることから、高容量設計の電池での問題が顕著となる。尚、負極のみならず、セパレータの物性にまで関与する理由としては、正負極での反応副生成物がセパレータを通じて反対側の電極に移動し、更にそこで2次的な反応を生じるなど、セパレータ中の移動のし易さ、距離が大きく関与しているものと推測される。
これらの対策として、正極活物質粒子表面を無機物で物理的に被覆したり、正極活物質粒子表面を有機物で化学的に被覆したりして、コバルト等が正極から溶出するのを抑制する試みがなされている。しかしながら、正極活物質は多少なりとも充放電に伴い膨張収縮を繰り返すために、上記の如く物理的に被覆した場合は、無機物等が脱落して被覆効果の消失が懸念される。一方、化学的に被覆した場合には、被覆膜の厚み制御が困難であって、被覆層の厚みが大きいときには、電池の内部抵抗の増加により本来の性能が出し難くなって電池容量の低下を招き、しかも、粒子全体を完全に被覆処理することが困難であるため、被覆効果が限定的となるといった課題が残る。したがって、これらに変わる手法が必要であった。
したがって、本発明は、高温におけるサイクル特性及び保存特性に優れ、高容量を特徴とする電池構成においても高い信頼性を発揮できる非水電解質電池及びその製造方法の提供を目的としている。
上記目的を達成するために本発明は、正極活物質を含む正極活物質層を有する正極、負極活物質を含む負極活物質層を有する負極、及びこれら両極間に介装されたセパレータから成る電極体と、この電極体に含浸された非水電解質とを備えた非水電解質電池において、上記正極活物質には少なくともコバルト又はマンガンが含まれると共に、上記負極活物質層の表面にはフィラー粒子とバインダーとが含まれた被覆層が形成されることを特徴とする。
上記構成であれば、負極活物質層の表面に配置された被覆層に含まれるバインダーが電解液を吸収して膨潤することにより、フィラー粒子間が膨潤したバインダーによって適度に埋められ、フィラー粒子とバインダーとを含む被覆層が適度なフィルター機能を発揮する。したがって、正極で反応した電解液の分解物や正極活物質から溶出するコバルトイオンやマンガンイオンが被覆層でトラップされて、コバルトやマンガンがセパレータや、負極で析出するのを抑制できる。これにより、負極やセパレータが受けるダメージが軽減されるので、高温でのサイクル特性の劣化や高温での保存特性の劣化を抑制することができる。尚、本発明では、負極活物質層の表面に被覆層が形成されており、セパレータ中にコバルトイオンやマンガンイオン等が存在することがあるので、セパレータに析出するのではないかとも考えられるが、被覆層の存在によりこれらイオンは負極活物質層と直接接触しないので、還元されることによってセパレータに析出するのも抑制される。
また、バインダーにより、フィラー粒子同士及び被覆層と負極活物質層とが強固に接着されているので、負極活物質層から被覆層が脱落するのを抑制でき、上記効果が長期間にわたって持続される。
上記セパレータの厚みをx(μm)とし、上記セパレータの空孔率をy(%)とした場合に、800(μm・%)以下であって、上記セパレータの厚みが16μm以下であることが好ましい。
セパレータの空孔体積を800(μm・%)以下となるように規制するのは、セパレータの空孔体積が小さいものほど析出物や副反応物の影響を受けやすく、特性劣化が著しくなるため、このように規制されたセパレータを有する電池に本発明を適用することにより、顕著な効果を発揮しうるからである。
また、このような電池ではセパレータの薄型化を達成できるので、電池のエネルギー密度の向上を図ることもできる。
上記フィラー粒子が無機粒子、特にルチル型のチタニア及び/又はアルミナから構成されるのが望ましい。
このように、フィラー粒子として無機粒子、特にルチル型のチタニア及び/又はアルミナに限定するのは、これらのものは、電池内での安定性に優れ(リチウムとの反応性が低く)、しかもコストが安価であるという理由によるものである。また、ルチル構造のチタニアとするのは、アナターゼ構造のチタニアはリチウムイオンの挿入離脱が可能であり、環境雰囲気、電位によっては、リチウムを吸蔵して電子伝導性を発現するため、容量低下や、短絡の危険性があるからである。
但し、フィラー粒子の種類による本作用効果への影響は非常に小さいので、フィラー粒子としては上述のものの他に、ジルコニア、マグネシア等の無機粒子の他、ポリイミド、ポリアミド、或いは、ポリエチレン等の有機物から成るサブミクロン粒子等を用いても良い。
上記フィラー粒子の平均粒径が上記セパレータの平均孔径よりが大きくなるように規制されることが望ましい。
このように規制するのは、フィラー粒子の平均粒径がセパレータの平均孔径より小さい場合には、電池を作成する際の巻き潰し時にセパレータが一部貫通して、セパレータに大きなダメージを与えることがあり、しかも、セパレータの微多孔内へフィラー粒子が侵入して、電池の諸特性を低下させることがあるため、これらの不都合を回避するためである。
尚、フィラー粒子の平均粒径は1μm以下のものが好ましく、また、スラリーの分散性を考慮すると、アルミニウム、シリコン、チタンで表面処理がなされているものが好ましい。
上記負極活物質層の全面が上記被覆層で覆われていることが望ましい。
このような構成であれば、負極活物質層の全面に配置された被覆層が適度なフィルター機能を発揮するので、正極で反応した電解液の分解物や正極活物質から溶出するコバルトイオンやマンガンイオンが被覆層でトラップされて、コバルトやマンガンが負極やセパレータで析出するのを十分に抑制できる。これにより、負極やセパレータが受けるダメージが一層軽減されるので、高温でのサイクル特性の劣化や高温での保存特性の劣化を一層抑制することができる。尚、負極活物質層の全面が被覆層で覆われている場合であっても、フィラー粒子同士のみならず被覆層と負極活物質層とがバインダーによって強固に接着されているので、負極活物質層から被覆層が脱落するのを抑制できる。
上記被覆層の厚みが1μm以上4μm以下、特に1μm以上2μm以下であることが望ましい。
上述した作用効果は、被覆層の厚みが大きい程発揮されるとはいうものの、被覆層の厚みが大きくなり過ぎると、電池内部抵抗の増大により負荷特性が低下したり、正負両極の活物質量が少なくなることによる電池エネルギー密度の低下を招来したりすることになるからである。また、薄くても効果はあるが、十分に効果を得るには薄すぎない方がいいからである。尚、被覆層は複雑に入り組んでいるため、厚みが小さい場合であっても上記トラップ効果は十分に発揮される。また、上記被覆層の厚みとは、片面での厚みをいうものとする。
上記フィラー粒子に対するバインダーの濃度が30質量%以下であることが望ましい。
このようにフィラー粒子に対するバインダー濃度の上限を定めるのは、バインダーの濃度が余り高くなると、リチウムイオンの活物質層への透過性が極端に低下し(電解液の拡散を阻害し)、電極間の抵抗が増加することにより、充放電容量の低下を招くからである。
上記正極活物質層の充填密度が3.40g/cc以上であることが望ましい。
このように規制するのは、充填密度が3.40g/cc未満である場合には、正極での反応は局所的な反応でなく全体的に反応するため、正極での劣化も均一に進行し、保存後の充放電反応に対してもさほど大きな影響はない。これに対して、充填密度が3.40g/cc以上である場合には、正極での反応は最表面層での局所的な反応に限定されるため、正極での劣化も最表面層での劣化が中心となる。このため、放電時の正極活物質中へのリチウムイオンの侵入、拡散が律速となるため、劣化の程度が大きくなる。このことから、正極活物質層の充填密度が3.40g/cc以上の場合に、本発明の作用効果がより発揮されることになる。
リチウム参照極電位に対して4.30V以上、好ましくは4.40V以上、特に好ましくは4.45V以上となるまで上記正極が充電されるような構成であることが好ましい。
これは、正極がリチウム参照極電位に対して4.30V未満で充電されるような構成の電池では、被覆層の有無によって高温特性の差異は余りないが、正極がリチウム参照極電位に対して4.30V以上で充電されるような電池では、被覆層の有無によって高温特性の差異が顕著に現れるからである。特に、正極がリチウム参照極電位に対して4.40V以上、或いは4.45V以上で充電されるような電池では、この差異が顕著に出現する。
上記正極活物質には、少なくともアルミニウム或いはマグネシウムが固溶されたコバルト酸リチウムが含まれており、且つ、このコバルト酸リチウム表面にはジルコニアが固着されていることが望ましい。
このような構造とするのは、以下に示す理由による。即ち、正極活物質としてコバルト酸リチウムを用いた場合には、充電深度が高まるにつれて、結晶構造は不安定になり、高温雰囲気ではより劣化が早まることになる。そこで、アルミニウム或いはマグネシウムを正極活物質(結晶内部)に固溶させることで、正極における結晶歪みの緩和を図っている。但し、これらの元素は結晶構造の安定化には大きく寄与するものの、初回充放電効率の低下や放電作動電圧の低下等を招来する。そこで、このような問題を緩和すべく、コバルト酸リチウム表面にジルコニアを固着している。
上記正極にはAl23が含有されていることが望ましい。
このようにAl23が正極内に含有されると、正極活物質が有する触媒性を緩和することができ、電解液と正極活物質または正極活物質に付着した導電性カーボン表面での電解液の分解反応を抑制することが可能となるからである。尚、このAl23を含有させるに際し、添加後に熱処理をしても良いが、当該処理は必ずしも必要ではなく、また、上述のアルミニウムの如くコバルト酸リチウムの結晶内部に固溶される必要はない。
Al23が含有される形態としては、正極活物質に直接接していることが好ましいが、必ずしもこのような構成でなくても良く、正極中に導電剤が含まれている場合には当該導電剤と接触しているような構成であってもその効果は発揮される。正極内部に添加されるAl23量としては、正極活物質に対して、0.1質量%5質量%以下(特に、1質量%以上5質量%以下)であることが好ましい。これは、0.1質量%未満になるとAl23の添加効果を十分に発揮することができない一方、5質量%を超えると、正極活物質の量が少なくなって、電池容量が低下するからである。
また、Al23の添加方法としては、機械的に添加することが好ましい。コバルト酸リチウムの表面にAl23をコーティングする方法としては、ゾルゲル法などもあるが、この方法に比べて機械的に添加する方が工業的に容易であり、且つ機械的に添加する方法では溶媒を必要としないため、コバルト酸リチウムと溶媒との反応などを考慮する必要がないからである。
上記バインダーが、アクリロニトリル単位を含む共重合体、又はポリアクリル酸誘導体から成ることが望ましい。
上記アクリロニトリル単位を含む共重合体等は、電解液を吸収した後の膨潤によってフィラー粒子間の隙間を充填することができる他、フィラー粒子との結着力が強く、且つ、フィラー粒子の分散性を十分に確保してフィラー粒子の再凝集を防止することができ、しかも、非水電解質への溶出が少ないという特性を有するので、バインダーとして要求される機能を十分に備えているからである。
更に、50℃以上の雰囲気下で使用されることがある電池に適用することが望ましい。
これは、50℃以上の雰囲気下で使用された場合に電池の劣化が早くなるため、本発明を適用する効果が大きいからである。
また、上記目的を達成するために、本発明は、負極活物質を備えた負極活物質層の表面に、フィラー粒子とバインダーとが含まれた被覆層を形成して負極を作製するステップと、少なくともコバルト又はマンガンが含まれた正極活物質を備える正極と上記負極との間にセパレータを配置して電極体を作製するステップと、上記電極体に非水電解質を含浸させるステップと、を有することを特徴とする。
このような製造方法により、上述した非水電解質電池を作製することができる。
上記負極活物質層の表面に被覆層を形成するステップにおいて、被覆層の形成方法としてグラビアコート法又はダイコート法を用いるのが好ましい。
グラビアコート法又はダイコート法を用いれば、間欠塗工を実施できるので、エネルギー密度の低下を最小限に抑制することができ、且つ、当該方法であれば、スラリー中のバインダー濃度を低下させる(固形分濃度を可能な限り下げる)ことにより、薄膜層を精度良く塗工でき、しかも負極活物質層の内部方向にスラリー成分が浸透する前に溶剤除去を行えるので、負極の内部抵抗の上昇を抑制することができるからである。
上記負極活物質層の表面に被覆層を形成するステップにおいて、上記フィラー粒子と上記バインダーと溶剤とを混合してスラリーを作製し、このスラリーを負極活物質層の表面に塗布することにより被覆層を形成する場合に、スラリーに対するフィラー粒子濃度が1質量%以上15質量%以下のときには、フィラー粒子に対するバインダー濃度を10質量%以上30質量%以下となるように規制することが望ましい。
また、上記負極活物質層の表面に被覆層を形成するステップにおいて、上記フィラー粒子と上記バインダーと溶剤とを混合してスラリーを作製し、このスラリーを負極活物質層の表面に塗布することにより被覆層を形成する場合に、スラリーに対するフィラー粒子濃度が15質量%を超えるときには、フィラー粒子に対するバインダー濃度を1質量%以上10質量%以下となるように規制することが望ましい。
このようにフィラー粒子に対するバインダー濃度の上限を定めるのは、上述した理由と同様の理由による。一方、フィラー粒子に対するバインダー濃度の下限を定めるのは、バインダー量が過少であれば、フィラー粒子とバインダーとからなるネットワークが被覆層内で形成し難く、被覆層でのトラップ効果が薄れると共に、フィラー粒子間及びフィラー粒子と負極活物質層との間で機能しうるバインダー量が過少となって、被覆層の剥れを生じることがあるからである。
また、スラリーに対するフィラー粒子濃度により、フィラー粒子に対するバインダー濃度の上限値と下限値とが異なるのは、フィラー粒子に対するバインダー濃度が同じ場合であっても、スラリーに対するフィラー粒子濃度が高い場合は当該濃度が低い場合に比べて、単位体積当りのスラリー中のバインダー濃度が高くなることに起因するものである。
本発明によれば、負極活物質層の表面に配置された被覆層が適度なフィルター機能を発揮するので、正極で反応した電解液の分解物や正極活物質から溶出するコバルトイオンやマンガンイオンが被覆層でトラップされて、コバルトやマンガンが負極やセパレータで析出するのを抑制できる。これにより、負極やセパレータが受けるダメージが軽減されるので、高温でのサイクル特性の劣化や高温での保存特性の劣化を抑制することができるという優れた効果を奏する。また、バインダーにより、フィラー粒子同士及び被覆層と負極活物質とが強固に接着されているので、負極活物質層から被覆層が脱落するのを抑制できる。
以下、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の最良の形態に何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能なものである。
〔正極の作製〕
先ず、正極活物質であるコバルト酸リチウム(Al及びMgがそれぞれ1.0mol%固溶されており、且つZrが0.05mol%表面に固着されているもの)と、炭素導電剤としてのアセチレンブラックと、結着剤としてのPVDFとを、95:2.5:2.5の質量比で混合した後、NMPを溶剤として特殊機化製コンビミックスを用いてこれらを攪拌し、正極合剤スラリーを調製した。次に、この正極合剤スラリーを正極集電体であるアルミニウム箔の両面に塗着し、更に、乾燥、圧延することにより、アルミニウム箔の両面に正極活物質層が形成された正極を作製した。尚、正極活物質層の充填密度は3.60g/ccとした。
〔負極の作製〕
炭素材料(人造黒鉛)と、CMC(カルボキシメチルセルロースナトリウム)と、SBR(スチレンブタジエンゴム)とを、98:1:1の質量比で水溶液中にて混合して負極スラリーを作製した後、負極集電体である銅箔の両面に負極スラリーを塗着し、更に、乾燥、圧延することにより、負極集電体の両面に負極活物質層を形成した。尚、負極活物質層の充填密度は1.60g/ccとした。
次に、溶剤としてアセトンに、フィラー粒子であるTiO2〔ルチル型であって粒径0.38μm、チタン工業(株)製KR380〕をアセトンに対して10質量%、アクリロニトリル構造(単位)を含む共重合体(ゴム性状高分子)をTiO2に対して10質量%混合し、特殊機化製Filmicsを用いて混合分散処理を行い、TiO2が分散されたスラリーを調製した。次に、上記負極活物質層における一方の面の全面に、当該スラリーをダイコート法を用いて塗布した後、溶剤を乾燥、除去して、負極活物質層の一方の面に被覆層を形成した。次いで、これと同様にして、負極活物質層における他方の面の全面に、被覆層を形成し、これにより負極を作製した。尚、上記被覆層の厚みは両面で4μm(片面2μm)である。
〔非水電解液の調製〕
エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とが容積比で3:7の割合で混合された混合溶媒に、主としてLiPF6を1.0モル/リットルの割合で溶解させて調製した。
〔セパレータの種類〕
セパレータとしては、ポリエチレン(以下、PEと略すことがある)製微多孔膜(膜厚:18μm、平均孔径0.6μm、空孔率45%)を用いた。
〔電池の組立〕
正、負極それぞれにリード端子を取り付け、セパレータを介して渦巻状に巻き取ったものをプレスして、扁平状に押し潰した電極体を作製した後、電池外装体としてのアルミニウムラミネートフィルムの収納空間内に電極体を装填し、更に、当該空間内に非水電解液を注液した後に、アルミニウムラミネートフィルム同士を溶着して封止することにより電池を作製した。尚、この電池設計においては、正負両極の活物質量を調整することにより、充電終止電圧が4.4Vになるように規定し、且つ、この電位で正負極の容量比(負極の初回充電容量/正極の初回充電容量)が1.08になるように規定した。また、上記電池の設計容量は780mAhである。
〔予備実験1〕
セパレータの被覆層を作製する際に用いるバインダーの種類と分散処理方法とを変更して、どのようなバインダー及び分散処理方法を用いればスラリー中におけるバインダーの分散性に優れるのかを検討したので、その結果を表1に示す。
(使用したバインダー及び分散処理方法)
[1]使用したバインダー
PVDF(呉羽化学工業製KF1100であって、通常、リチウムイオン電池用正極に用いられるもの。以下、正極用PVDFと略すときがある)と、ゲルポリマー電解質用PVDF(PVDF−HFP−PTFE共重合体。以下、ゲル電解質用PVDFと略すときがある)と、アクリロニトリル単位を含むゴム性状高分子の3種類とを用いた。
[2]分散処理方法
ディスパー分散処理方法(3000rpmで30分)と、特殊機化製Filmicsによる分散処理方法(40m/minで30秒)と、ビーズミル分散処理方法(1500rpmで10分)とを用いた。尚、参考として、未処理のものについても調べた。
(具体的な実験内容)
上記バインダーの種類と添加濃度とを変えつつ、上記分散処理方法にて処理を行い、1日経過後のフィラー粒子(ここでは酸化チタン〔TiO2〕粒子)の沈殿状況を判定した。
(実験結果)
[1]バインダーの種類に関する実験結果
表1から明らかなように、両PVDF(正極用PVDFとゲル電解質用PVDF)では、添加量を増加するにつれて沈殿し難くなる傾向はあるものの、アクリロニトリル単位を含むゴム性状高分子に比べて沈殿し易い傾向にあるということが認められた。このことから、アクリロニトリル単位を含むゴム性状高分子をバインダーとして用いるのが好ましい。この理由を以下に述べる。
本発明の作用効果を発揮するためには、可能な限り緻密な被覆層をつくることが好ましく、その意味では、サブミクロン以下のフィラー粒子を使用することが好ましい。但し、粒径に依存するとはいうものの、フィラー粒子は凝集し易く、粒子を解砕(分散)した後に再凝集を防止する必要がある。
一方、本作用効果を発揮するためには、バインダーとして、以下の機能或いは特性が要求される。
(I)電池の製造工程に耐え得る結着性を確保する機能
(II)電解液を吸収した後の膨潤によるフィラー粒子間の隙間を充填する機能
(III)フィラー粒子の分散性を確保する機能(再凝集防止機能)
(IV)電解液への溶出が少ないという特性
ここで、フィラー粒子として用いるチタニア、アルミナ等から成る無機粒子を用いた場合には、アクリロニトリル系の分子構造を有するものとの親和性が高く、これらの基(分子構造)を有するバインダーの方が分散能が高い。したがって、少量の添加でも上記(I)(II)の機能を満たし、且つ、(IV)の特性をも兼ね備えると共に、(III)の機能を満足させることができるアクリロニトリル単位を含む結着剤(共重合体)が望ましい。また、負極活物質層へ接着した後の柔軟性等を考慮すると(簡単に割れたりしないような強度を確保するためには)、ゴム性状高分子であることが好ましい。以上より、アクリロニトリル単位を含むゴム性状高分子であることが最も好ましい。
[2]分散方法に関する実験結果
表1から明らかなように、サブミクロン単位の粒子の解砕(分散)を行う場合には、ディスパー分散法では殆どの場合に沈殿が生じているのに対して、Filmics法やビーズミル法等の解砕(分散)方法(塗料業界で一般に用いられる分散方法)では、殆どの場合に沈殿が生じていないことが認められる。特に、負極活物質層への均一な塗工を行うためにはスラリーの分散性の確保は極めて重要であることを考慮すれば、Filmics法やビーズミル法等の分散処理法を用いるのが望ましい。尚、表1には示していないが、超音波法による分散を行なった場合には、十分な分散性能を有していないことを確認した。
〔予備実験2〕
負極活物質層にスラリーを塗工して被覆層を形成する際の塗工方法を変更して、どのような塗工方法であれば良いのかを検討した。
(使用した塗工方法)
ディップコート法、グラビアコート法、ダイコート法、転写法を用いて、負極活物質層の両面にスラリーを塗工した。
(実験結果)
本発明効果を最大に発揮しつつ、エネルギー密度の低下を最小限にするためには、間欠塗工を実施できる方法が望ましいが、上記塗工方法のうち、ディップコート法では間欠塗工を行うことは困難である。したがって、塗工方法としては、グラビアコート法、ダイコート法、転写法、或いはスプレーコート法を採用することが望ましい。
塗工するフィラー粒子含有スラリーは比較的耐熱性に優れているので、乾燥温度等の溶剤除去条件は特に限定することはない。但し、当該スラリーに含まれるバインダーや溶剤は、負極活物質層に浸透し、バインダー濃度の上昇による極板抵抗の増加や、負極へのダメージ(負極活物質層を作製する際に用いたバインダーの溶融による負極活物質層の接着強度低下)等に多大な影響を与える。これらの問題は、スラリー中の固形分濃度を高める(スラリー粘度上昇)ことによって回避できるが、肝心の塗工が困難になるため、実用的ではない。したがって、塗工方法としては、スラリー中のバインダー濃度を低下させて固形分濃度を可能な限り下げることにより、薄膜塗工し易い状況を形成し、更に負極活物質層の内部方向にスラリー成分が浸透する前に溶剤除去を行えることが望ましい。このようなことを考慮すれば、グラビアコート法やダイコート法が特に望ましい。尚、当該方法であれば、薄膜層を精度良く塗工できるという利点も発揮できる。
また、フィラー粒子を分散させる溶剤は、一般に電池に用いられるNMP等であっても良いが、上述のことを考慮すれば、揮発性の高いものが特に好ましい。このようなものとしては、水、アセトン、シクロヘキサン等が例示される。
〔予備実験3〕
セパレータの孔径を変更して、被覆層を形成する際に用いるスラリー中のフィラー粒子(ここでは酸化チタン〔TiO2〕粒子)がどのような粒子サイズであれ良いのかを検討したので、その結果を表2に示す。尚、参考のため、表2には、被覆層を形成していないものの結果も併せて示す。
(使用したセパレータ)
平均孔径が、各0.1μm、0.6μmのセパレータを用いた。
(具体的な実験内容)
正極と、被覆層を有する負極との間にセパレータを配置して、これらを巻回した後、セパレータの断面をSEM観察した。尚、スラリー中の酸化チタン粒子の平均粒径は0.38μmである。
また、実際のラミネート型電池を作製し(但し、非水電解液は注入せず)、各電池に200Vを印加して電池内部でのショートの有無を確認するという耐圧検査も実施した。
(実験結果)
各セパレータの断面をSEM観察したところ、フィラー粒子の平均粒径がセパレータの平均孔径よりも小さいもの(セパレータの平均孔径が0.6μmのもの)では、製造上の加工段階において被覆層から剥離したフィラー粒子によるものと推測される要因により、セパレータの表層から内部方向へ、フィラー粒子がかなり侵入していることが確認された。これに対して、フィラー粒子の平均粒径がセパレータの平均孔径よりも大きいもの(セパレータの平均孔径が、0.1μmのもの)では、セパレータ内部へのフィラー粒子の侵入は殆どみられなかった。
また、表2から明らかなように、耐圧検査を実施した結果、フィラー粒子の平均粒径がセパレータの平均孔径よりも小さいものは、被覆層が形成されていないものと比べて不良率が高くなる傾向にあるのに対して、フィラー粒子の平均粒径がセパレータの平均孔径よりも大きいものは、被覆層が形成されていないものと比べて不良率が同等(不良無し)であることが判明した。これは、前者の場合には、巻取りテンションの影響や、巻き潰し時にセパレータを一部貫通して抵抗が小さい箇所が部分的に形成されるのに対して、後者の場合には、セパレータ内部へフィラー粒子が殆ど侵入しないため、セパレータの貫通が抑制されるという理由によるものと推測される。尚、本予備実験3では、ラミネート電池を用いて実験を行ったが、円筒型電池や角型電池では、巻取りテンションや巻き潰しの条件がラミネート電池より更に厳しくなるため、これらの現象はより起こり易くなるものと考えられる。
以上のことから、フィラー粒子の平均粒径は、セパレータの平均孔径より大きくなるように規制することが望ましく、特に、円筒型電池や角型電池ではこのように規制するのが望ましいことがわかる。
尚、フィラー粒子の平均粒径は粒度分布法にて測定した値である。
〔予備実験4〕
セパレータの種類により、セパレータの透気度がどの程度異なるかを調べるために、透気度測定を行なった。
(使用したセパレータ)
この実験をするにあたり、平均孔径と、膜厚と、空孔率とを変化させたセパレータ(PE製の微多孔膜から構成)を用いた。
(具体的な実験内容)
[1]セパレータの空孔率の測定
下記セパレータの透気度測定に先立って、以下のようにしてセパレータの空孔率を測定した。
先ず、フィルム(セパレータ)を一辺の長さが10cmとなるような正方形状に切り取り、質量(Wg)と厚み(Dcm)を測定する。更に、サンプル中の各材料の質量を計算で割り出し、それぞれの材質の質量〔Wi(i=1〜n)〕を真比重で除し、それぞれの材質の体積を仮定して、下記(1)式により空孔率(%)を算出する。
空孔率(%)=100−{(W1/真比重1)+(W2/真比重2)+…+(Wn/真比重n)}100/(100D)・・・(1)
但し、本明細書におけるセパレータは、PEのみから構成されているので、下記(2)式により算出することができる。
空孔率(%)=
100−{(PEの質量/PEの真比重)}100/(100D)・・・(2)
[2]セパレータの透気度測定
本測定は、JIS P8177に準じて測定し、また測定装置としてはB型ガーレーデンソーメータ(東洋精機社製)を用いた。
具体的には、内筒(質量567g)の円孔(直径28.6mm、面積645mm2)に試料片を締め付け、外筒内の空気(100cc)が試験管円孔部から筒外へ透過させるのに要する時間を測定し、これを透気度とした。
(実験結果)
表3から明らかなように、セパレータの平均孔径が小さくなると、透気度が低下していることが認められる(例えば、セパレータS2〜S4)。但し、セパレータの平均孔径が小さくても、空孔率が大きくなれば透気度の低下が抑制される(セパレータS2とセパレータS3との比較)。また、セパレータの膜厚が大きくなれば、透気度が低下することも認められる(セパレータS5とセパレータS6との比較)。
〔予備実験5〕
上記背景技術の項で説明したように、電池の高容量化を図るためには正極活物質としてコバルト酸リチウムを用いることが好ましいが、問題点もある。そこで、当該問題点を解決、緩和すべく、コバルト酸リチウムに種々の元素を添加し、いかなる元素が好ましいかを検討した。
(添加元素選定における前提)
添加元素を選定するにあたり、先ず、コバルト酸リチウムの結晶構造を解析したので、その結果を図1〔参考文献:T.Ozukuet.al,J.Electrochem.Soc.Vol.141,2972(1994)〕に示す。
図1から明らかなように、リチウム参照極電位に対して約4.5V(電池電圧はリチウム参照極電位より0.1V低いので4.4V)以上にまで正極が充電されると結晶構造(特に、c軸における結晶構造)が大きく崩壊することがわかった。したがって、コバルト酸リチウムにおいては、充電深度が高まるにつれて結晶構造は不安定になることが認められ、更に、高温雰囲気に晒された場合には、より劣化が早まることもわかった。
(添加元素選定の具体的内容)
上記結晶構造の崩壊を緩和すべく、鋭意検討した結果、Mg或いはAlを結晶内部に固溶させることが非常に有効であることがわかった。尚、両者の効果は略同じであるが、後述する他の特性面の低下割合はMgの方が影響が小さい。したがって、Mgを固溶させる方がより好ましい。
しかし、これらの元素は結晶構造の安定化には大きく寄与するものの、初回充放電効率の低下や放電作動電圧の低下等を招くことがある。そこで、これらの問題を緩和すべく、本発明者が鋭意実験を行ったところ、Zr、Sn、Ti、Nb等の4価又は5価の元素を添加することで、放電作動電圧が大きく改善されることがわかった。そこで、4価又は5価の元素が添加されたコバルト酸リチウムを分析したところ、これらの元素はコバルト酸リチウム粒子の表面に存在し、基本的にはコバルト酸リチウムと固溶していないが、コバルト酸リチウムと直接接触した状態を保持していた。詳細は不明な点も多いが、これらの元素はコバルト酸リチウムと電解液との界面の抵抗である界面電荷移動抵抗を大幅に低下させており、これが放電作動電圧の向上に寄与しているものと推測される。
ただ、コバルト酸リチウムと上記元素とが直接接触している状態を確保するためには、上記元素材料を添加した後に焼成をする必要がある。この場合、通常、上記元素のうちSn、Ti、Nb等は、コバルト酸リチウムの結晶成長を阻害するように働くため、コバルト酸リチウム自体の安全性が低下する傾向にある(結晶子が小さいと安全性は低下傾向にある)。こうした中で、Zrはコバルト酸リチウムの結晶成長を阻害させることなく、しかも、放電作動電圧の改善ができる点で優れていることがわかった。
以上のことから、リチウム参照極電位で4.3V以上、特に4.4V以上でコバルト酸リチウムを使用する際には、Al或いはMgをコバルト酸リチウムの結晶内部に固溶させてコバルト酸リチウムの結晶構造を安定化し、且つ、これらの元素を固溶させることに起因する特性低下を補完するために、Zrがコバルト酸リチウムの粒子表面に固着される構造であることが好ましいことがわかった。
尚、Al、Mg、及びZr添加比率は特に限定するものではない。
〔後述の実験を行う前提(動作環境について)〕
前記背景技術の項で説明したように、近年、携帯機器は高容量化と高出力化とが進展している。特に、携帯電話では、カラー映像化や動画、ゲームに使用できる等の高機能化が要求されており、消費電力は一層増加する傾向にある。現在、こうした高機能携帯電話の機能の充実に伴って、これらの電源である電池の高容量化等が望まれるところであるが、そこまでは電池性能が向上していないため、ユーザーは充電をしながらテレビを見たり、ゲームをしたり等の使用することが多い。このような状況下では、電池は常にフル充電で使用されることになり、また、消費電力が大きくなる等の影響で50〜60℃の仕様環境になることが多い。
このように、従来の通話やメールだけの使用環境から、動画、ゲーム等の携帯機器の高機能化に伴って使用環境が大きく変化したため、電池においては、室温から50〜60℃付近まで幅広い作動温度域を保障することが必要になってきている。特に、高容量化、高出力化は電池内部で発生する熱量も多く、電池の動作環境も高温化しつつあり、高温での信頼性を確保する必要がある。
このようなことを考慮して、我々は40〜60℃環境下でのサイクル試験や60℃雰囲気での保存試験による性能の改善に力を入れている。具体的には、従来の保存試験は、室温放置の加速度的な試験の意味合いが強かったが、電池の高性能化に伴い、材料の限界レベルまで能力を引き出すこともあって、室温放置の加速試験的意味合いは徐々に薄れており、実使用レベルの耐久性試験に近い試験へと移行しつつある。こうした状況を鑑み、今回は、充電保存試験(作製した電池の充電終止電圧が高いほど劣化の条件は厳しくなるため、4.2V設計の電池は80℃で4日間、それ以上の設計の電池は60℃で5日間)での比較を重視して従来技術との差異を検討することとした。
尚、本発明の効果を具体的に解かり易く説明するために、5つの実施例に分けて以下に説明する。
〔第1実施例〕
充電終止電圧を4.40V、正極活物質層の充填密度を3.60g/cc、負極活物質層の表面に形成された被覆層の物性(フィラー粒子の種類、バインダー濃度、及び被覆層の厚み)を固定する一方、セパレータを変化させ、セパレータの物性と充電保存特性との関係を調べたので、その結果を以下に示す。
(実施例1)
実施例1としては、前記最良の形態で示した電池を用いた。
このようにして作製した電池を、以下、本発明電池A1と称する。
(実施例2)
セパレータとして、平均孔径0.1μm、膜厚12μm、空孔率38%のものを用いた他は、実施例1と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、本発明電池A2と称する。
(比較例1)
負極に被覆層を設けない他は、上記実施例1と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、比較電池Z1と称する。
(比較例2)
セパレータとして、平均孔径0.1μm、膜厚12μm、空孔率38%のものを用いた他は、上記比較例1と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、比較電池Z2と称する。
(比較例3)
セパレータとして、平均孔径0.1μm、膜厚16μm、空孔率47%のものを用いた他は、上記比較例1と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、比較電池Z3と称する。
(比較例4)
セパレータとして、平均孔径0.05μm、膜厚20μm、空孔率38%のものを用いた他は、上記比較例1と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、比較電池Z4と称する。
(比較例5)
セパレータとして、平均孔径0.6μm、膜厚23μm、空孔率48%のものを用いた他は、上記比較例1と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、比較電池Z5と称する。
(比較例6)
セパレータとして、平均孔径0.6μm、膜厚27μm、空孔率52%のものを用いた他は、上記比較例1と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、比較電池Z6と称する。
(実験)
本発明電池A1、A2及び比較電池Z1〜Z6の充電保存特性(充電保存後の残存容量)について調べたので、その結果を表4に示す。また、ここで得られた結果をもとに、セパレータの物性と充電保存後の残存容量の相関について検討したので、その結果を図2に示す。尚、充放電条件及び保存条件は、下記の通りである。
[充放電条件]
・充電条件
1.0It(750mA)の電流で、電池電圧が設定電圧(電池の設計電圧であり、本実験では全ての電池において4.40V)となるまで定電流充電を行なった後、設定電圧で電流値が1/20It(37.5mA)になるまで充電を行うという条件。
・放電条件
1.0It(750mA)の電流で、電池電圧が2.75Vまで定電流放電を行なうという条件。
尚、充放電の間隔は10分である。
[保存条件]
上記充放電条件で充放電を1回行い、再度、上記充電条件で設定電圧まで充電した電池を60℃で5日間放置するという条件である。
[残存容量の算出]
上記電池を室温まで冷却し、上記放電条件と同一の条件で放電を行って残存容量を測定し、保存試験後1回目の放電容量と保存試験前の放電容量とを用いて、下記(3)式より、残存容量を算出した。
残存容量(%)=
保存試験後1回目の放電容量/保存試験前の放電容量×100・・・(3)
[考察]
(1)被覆層を設けたことの利点に関する考察
表4の結果から明らかなように、全ての電池において、電池の設計電圧を4.40V、正極活物質層の充填密度を3.60g/ccとしているにも関わらず、負極活物質層の表面に被覆層が形成された本発明電池A1、A2は、比較電池Z1〜Z6に比べて残存容量が大きく改善されることが分かる。このような実験結果となった理由を、以下、詳述する。
充電保存特性が低下する要因としてはいくつか考えられるが、リチウム参照極基準で正極活物質を4.50V(電池電圧はこれより0.1V低いため、4.40V)付近まで使用していることを考慮すれば、
(I)正極の充電電位が高くなることによる強酸化雰囲気での電解液の分解
(II)充電された正極活物質の構造が不安定化することによる劣化
といった点が主たる要因として考えられる。
これらは、単に、正極や電解液が劣化するという問題を引き起こすだけではなく、特に、(I)や(II)により起こると考えられる電解液の分解物や正極活物質からの元素の溶出等に起因して、セパレータの目詰まりや負極への堆積による負極活物質の劣化等にも影響するものと考えられる。詳細は後述するが、特に本結果を考慮すると、後者のセパレータや負極に関する影響が大きいと考えられる。
特に、空孔体積が小さいセパレータを用いた電池(比較電池Z2、Z3)においては、これらの副反応物が少量でも目詰まりすると、セパレータの性能が大きく低下する他、セパレータを介して正極から負極へこれらの反応物が移動する割合が速く、多くなると考えられ、この結果、劣化の程度が大きくなったものと考えられる。したがって、電池の劣化の程度は、セパレータの空孔体積に依存するものと考えられる。
被覆層が形成された負極を有する本発明電池A1、A2で充電保存性能が改善する理由は、正極上で分解された電解液や正極から溶出したCo等が、被覆層でトラップされ、セパレータや負極へ移動し、堆積→反応(劣化)、目詰まりすることを抑制している、即ち、被覆層がフィルター機能を発揮しているためと推測される。
被覆層のバインダーは、セパレータ作製時には透気性を阻害するほどではないが、電解液注液後に約2倍以上に膨潤するものが多く、これにより、適度に被覆層のフィラー粒子間が充填される。この被覆層は複雑に入り組んでおり、また、バインダー成分によりフィラー粒子同士が強固に接着されているため、強度が向上すると共に、フィルター効果が十分に発揮される(厚みが小さくても入り組んだ構造であり、トラップ効果が高くなる)。電解液の吸液性については、判断指標が難しいが、PCを一滴滴下して消失するまでの時間でおおよそ把握できる。
尚、単にポリマー層のみでフィルター層を形成した場合でも充電保存特性はある程度改善するが、この場合、フィルター効果はポリマー層の厚みに依存するため、ポリマー層の厚みを大きくしなければ効果が十分に発揮されず、しかも、ポリマーの膨潤で完全に無多孔の構造になっていないとフィルターの機能は小さくなる。更に、負極の全面を覆うことになるので、負極への電解液の浸透性が悪化し、負荷特性が低下する等の悪影響が大きくなる。したがって、フィルター効果を発揮しつつ、他の特性への影響を最小限にするためには、単にポリマーのみでフィルター層を形成するよりも、フィラー粒子(本例では、酸化チタン)を含む被覆層(フィルター層)を形成することが有利である。
上記のことを考慮すると、被覆層が形成された負極を備えた電池では、セパレータの種類には殆ど関係なく、劣化の程度は同等であり、その劣化要因としては、電解液の変質や正極そのもののダメージによるものと考えることができる。
・充電保存特性の改善効果が上記フィルター効果である根拠
上記試験終了後に電池を解体し、セパレータおよび負極面の変色等を観察したところ、被覆層が形成されていない比較電池では、充電保存後はセパレータが茶色っぽく変色しており、負極にも同様に堆積物が確認できたのに対して、被覆層が形成された本発明電池では、セパレータおよび負極表面への堆積物、変色は観測されず、被覆層に変色がみられた。この結果より、正極での反応物が被覆層で移動抑制されることにより、セパレータおよび負極のダメージが軽減されているものと推測される。
また、これらの反応物は負極へ移動することにより還元され、さらに次の反応が進行する自己放電などの循環的な副反応に発展する可能性が高いが、負極近傍でトラップされることにより、反応物の循環反応を抑制できる他、反応物自身が皮膜形成剤的な効果を示している可能性も考えられる。
(2)セパレータに関する考察
また、上述の如く、被覆層を有する負極を用いた本発明電池A1、A2では充電保存特性が改善されるが、その改善率は、セパレータの膜厚が薄いものほど高い。更に、セパレータの物性の一つであって膜厚が大きく関与する空孔体積(膜厚×空孔率)を指標にした場合、図2に示すように、約800(単位:μm・%)を境に本発明の効果が顕著に現れることがわかった。
ここで、被覆層が形成されていない負極を用いた比較電池Z1〜Z6では、セパレータの膜厚との相関は完全には一致するものではないが、傾向として、セパレータの膜厚を薄くしていった場合に保存劣化の程度が非常に大きくなる。一般に、セパレータは電池内部での絶縁性の確保の他に、電池作製上の工程に耐え得る程度の強度が必要となる。セパレータの膜厚を小さくすると、電池のエネルギー密度は向上するが、膜の強度(引張強度や突き刺し強度)が低下するため、微多孔の平均孔径は小さくせざるを得ず、その結果、空孔率は減少する。これに対して、セパレータの膜厚が大きい場合には、膜の強度はある程度確保できるため、微多孔の平均孔径や空孔率は比較的自由に選択できる。
但し、前述したように膜厚を増加させた場合は電池のエネルギー密度の低下に直結するため、ある程度の厚み(一般的には20μm前後)を保持して、平均孔径を大きくすることにより、空孔率を上げることが一般的に好まれる。しかしながら、微多孔の平均孔径を増加させつつ負極に被覆層を設けた場合には、前述したように、微多孔内部へのフィラー粒子の侵入により電池の不良率が増加する傾向にあるため、実質的には孔径は小さくしつつ、空孔率を上げていく必要がある。
我々は、こうした状況を鑑み、鋭意検討した結果、被覆層を形成した負極を用いた場合に使用できるセパレータとしては、
(I)エネルギー密度が確保できる程度の膜厚であること
(II)負極に形成された被覆層から脱落したフィラー粒子の微多孔内部への侵入による電池不良を削減することが可能な程度に微多孔の平均孔径を有すること
(III)セパレータの強度が保持可能な空孔率を有すること
という3点から、本発明が適用できるセパレータの空孔体積は、膜厚×空孔率で算出して1500(単位:μm・%)以下であることが望ましいことを見出した。
(3)まとめ
以上の結果から、4.4V仕様の電池において、セパレータの材質等に関係なく、被覆層が形成された負極を有する電池では充電保存特性は大きく向上し、特にセパレータの空孔体積(膜厚×空孔率)が、1500(単位:μm・%)以下、その中でも800(単位:μm・%)以下であるとその効果を顕著に発揮できる。
〔第2実施例〕
セパレータを2種類用い(S1とS2)、正極活物質層の充填密度を3.60g/ccとし、負極活物質層の表面に形成された被覆層の物性(フィラー粒子の種類、バインダー濃度、及び被覆層の厚み)を固定する一方、充電終止電圧を変化させ、充電終止電圧と充電保存特性との関係を調べたので、その結果を以下に示す。
(実施例1)
充電終止電圧が4.20Vとなるように電池設計を行い、この電位で正負極の容量比が1.08になるように設計した他は、前記第1実施例の実施例1と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、本発明電池B1と称する。
(実施例2)
充電終止電圧が4.20Vとなるように電池設計を行い、この電位で正負極の容量比が1.08になるように設計した他は、前記第1実施例の実施例2と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、本発明電池B2と称する。
(比較例1、2)
負極に被覆層を形成しない他は、それぞれ、上記実施例1、2と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下それぞれ、比較電池Y1、Y2と称する。
(比較例3)
充電終止電圧が4.30Vとなるように電池設計を行い、この電位で正負極の容量比が1.08になるように設計した他は、上記比較例1と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、比較電池Y3と称する。
(比較例4)
充電終止電圧が4.30Vとなるように電池設計を行い、この電位で正負極の容量比が1.08になるように設計した他は、上記比較例2と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、比較電池Y4と称する。
(比較例5)
充電終止電圧が4.35Vとなるように電池設計を行い、この電位で正負極の容量比が1.08になるように設計した他は、上記比較例1と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、比較電池Y5と称する。
(比較例6)
充電終止電圧が4.35Vとなるように電池設計を行い、この電位で正負極の容量比が1.08になるように設計した他は、上記比較例2と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、比較電池Y6と称する。
(実験)
本発明電池B1、B2及び比較電池Y1〜Y6の充電保存特性(充電保存後の残存容量)について調べたので、その結果を表5及び表6に示す。尚、同表には、前記本発明電池A1、A2及び前記比較電池Z1、Z2の結果についても示す。
また、代表的な例として、比較電池Z2及び本発明電池A2における充放電特性の比較を行なったので、前者の特性を図3に、後者の特性を図4に示す。
尚、充放電条件及び保存条件は、下記の通りである。
[充放電条件]
前記第1実施例の実験と同様の条件である。
[保存条件]
本発明電池A1、A2及び比較電池Z1、Z2、Y3〜Y6については前記第1実施例の実験と同様の条件であり、本発明電池B1、B2及び比較電池Y1、Y2については、80℃で4日間放置するという条件である。
[残存容量の算出]
前記第1実施例の実験と同様にして算出した。
[考察]
表5及び表6から明らかなように、充電保存試験において、セパレータが同一であるにも関わらず、負極活物質層の表面に被覆層が形成された本発明電池は、被覆層が形成されていない比較電池に比べて充電保存後の残存容量が大幅に改善されることが認められる(例えば、本発明電池B1と比較電池Y1を比較した場合や、本発明電池B2と比較電池Y2を比較した場合)。特に、セパレータの空孔体積が800μm・%よりも小さく、充電終止電圧が4.30V以上の比較電池Y4、Y6、Z2では、充電保存特性の劣化の程度が非常に大きくなる傾向があるのに対して、負極に被覆層を設けた本発明電池A2では、充電保存特性の劣化が抑制されていることが認められる。
また、表5から明らかなように、セパレータの空孔体積が800μm・%よりも小さく、充電終止電圧が4.30V以上の比較電池Y4、Y6、Z2では、残存容量確認後の再充電の際に、充電カーブが蛇行し、充電量が大幅に増加する挙動が確認された(比較電池Z2の充放電特性を示す図3における蛇行部1参照)。一方、負極に被覆層を設けた本発明電池A2では、上記挙動は確認されなかった(本発明電池A2の充放電特性を示す図4参照)。
更に、セパレータの空孔体積が800μm・%を超える場合についても調べたところ、充電終止電圧が4.30V及び4.35Vの比較電池Y3、Y5では上記挙動は確認されなかったが、充電終止電圧が4.40Vの比較電池Z1では上記挙動が確認された。一方、負極に被覆層を設けた本発明電池A1では、上記挙動は確認されなかった。尚、充電終止電圧が4.20Vの場合は、セパレータの空孔体積の大小に関わらず(比較電池Y1のみならず比較電池Y2の場合であっても)、上記挙動は確認されなかった。
上記の結果は、セパレータの空孔体積が小さいものほど劣化の程度が大きいことを示している。また、電池の充電保存電圧が高いほど劣化の程度は顕著になることも示しているが、充電終止電圧が4.20Vと充電終止電圧が4.30Vとの挙動を比較する限りでは、両者の劣化モードは大きく異なり、劣化の程度は明らかに充電終止電圧が4.30Vで顕著になっていることが分かる。
これは推測の範囲を出ないが、充電終止電圧が4.20Vの保存試験では、正極の構造はさほど負荷がかかっておらず、その影響で電解液の分解に起因する影響はあるものの、正極からのCoの溶出等の影響は小さいものと推測される。したがって、被覆層の有無による改善効果の程度はある程度低いものに留まる。これに対して、電池の充電終止電圧(保存電圧)が高くなるほど、充電された正極の結晶構造の安定性は低下するばかりでなく、一般にリチウムイオン電池に用いられる環状カーボネートや鎖状カーボネートの耐酸化電位の限界にも近づくため、これまでにリチウムイオン電池が使用されてきた電圧で予想される以上の副反応物や電解液の分解が進行し、その影響で負極やセパレータのダメージが増加したためと推測される。
また異常充電の挙動については、その詳細は不明であるが、数サイクル経過すると全く挙動が消失すること等を考慮すると、LiやCo、Mn等の析出による導通やセパレータの破損によるものではなく、高酸化雰囲気に起因する一種のシャトル反応(副反応物としてシャトル物質の生成)やセパレータの目詰まりによる充放電不良等が原因と推測される(4.30V以上の電池電圧で生成される副反応物の酸化還元反応)。この挙動の根本は、正極と負極間の酸化還元反応で生じるものと推測され、被覆層がフィルター効果を発揮することにより、正極から負極への生成物等の移動を抑制することで、異常が発生しないように改善できる。
以上の結果から、本作用効果は、セパレータの空孔体積が800μm・%以下である場合に特に有効であり、更に充電保存電圧が4.30V以上(リチウム参照極電位に対する正極電位が4.40V以上)、特に4.35V以上(リチウム参照極電位に対する正極電位が4.45V以上)、その中でも4.40V以上(リチウム参照極電位に対する正極電位が4.50V以上)の場合に、放電作動電圧の改善、残存・復帰率の改善、異常充電挙動の撲滅ができる点で有効である。
〔第3実施例〕
充電終止電圧を4.40V、正極活物質層の充填密度を3.60g/cc、セパレータをS1に固定する一方、負極活物質層の表面に形成された被覆層の物性(フィラー粒子の種類及びバインダー濃度、被覆層の厚み)を変化させ、被覆層の物性と充電保存特性との関係を調べたので、その結果を以下に示す。
(実施例1〜4)
負極の被覆層形成時に用いるスラリーとして、フィラー粒子(酸化チタン)に対するバインダー濃度が、それぞれ、30質量%、20質量%、15質量%、5質量%のものを用いた他は、前記第1実施例の実施例1と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下それぞれ、本発明電池C1〜C4と称する。
(実施例5〜8)
負極の被覆層形成時に用いるスラリーとして、アセトンに対するフィラー粒子(酸化チタン)の割合を20質量%とし、そのフィラー粒子に対するバインダー濃度をそれぞれ10質量%、5質量%、2.5質量%、1質量%としたものを用いた他は、前記第1実施例の実施例1と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下それぞれ、本発明電池C5〜C8と称する。
(実施例9)
負極の被覆層形成時に用いるスラリー中のフィラー粒子として、酸化アルミニウム(粒径0.64μm、住友化学製AKP−3000)を用いた他は、前記第1実施例の実施例1と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、本発明電池C9と称する。
(実施例10、11)
負極の被覆層の厚みを、それぞれ、両面で1μm、2μm(片面では、各々0.5μm、1μm)としたものを用いた他は、前記第1実施例の実施例1と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、本発明電池C10、C11と称する。
(実験)
本発明電池C1〜C11の充電保存特性(充電保存後の残存容量)について調べたので、その結果を表7及び表8に示す。尚、同表には、前記本発明電池A1及び前記比較電池Z1の結果についても示す。
尚、充放電条件、保存条件、及び残存容量の算出方法については、前記第1実施例の実験と同様の条件である。
[考察]
(1)全体考察
表7及び表8から明らかなように、充電保存試験において、負極活物質層の表面に被覆層が形成された本発明電池A1、C1〜C11は、被覆層が形成されていない比較電池Z1に比べて充電保存後の残存容量が大幅に改善されることが認められる。
これは、上記第1実施例の実験で示した理由と同様の理由によるものと考えられる。
(2)フィラー粒子(酸化チタン)に対するバインダー濃度についての考察
本発明電池A1及び本発明電池C1〜C8を比べると、充電保存後の残存容量は、アセトンに対するフィラー粒子(酸化チタン)濃度やフィラー粒子に対するバインダー濃度で、本発明の効果が多少変動していることが認められ、更に詳細に検討すると、アセトンに対するフィラー粒子濃度が変わると、フィラー粒子に対するバインダー濃度の最適値が変動していることが認められる。
例えば、アセトンに対するフィラー粒子濃度が10質量%の本発明電池A1及び本発明電池C1〜C4を比較した場合、フィラー粒子に対するバインダー濃度が10〜30質量%の本発明電池A1及び本発明電池C1〜C3は残存容量が全て65%以上であるのに対して、フィラー粒子に対するバインダー濃度が5質量%の本発明電池C4は残存容量が65%未満であることが認められる。したがって、アセトンに対するフィラー粒子濃度が10質量%の場合には、フィラー粒子に対するバインダー濃度は10質量%以上30質量%以下であることが望ましいことがわかる。また、アセトンに対するフィラー粒子濃度が20質量%の本発明電池C5〜C8を比較した場合、全ての電池で残存容量が全て65%以上であることが認められる。したがって、アセトンに対するフィラー粒子濃度が20質量%の場合には、フィラー粒子に対するバインダー濃度は1質量%以上10質量%以下であることが望ましいことがわかる。
尚、上記フィラー粒子濃度やバインダー濃度について更に実験をすすめたところ、以下のことが確認された。尚、フィラー粒子濃度については、より理解の容易化を図るため、アセトン等の溶剤に対する値ではなく、スラリーに対する値で示す。スラリーに対するフィラー粒子濃度の一例を示すと、本発明電池C1では(10/113)×100≒8.8質量%となる。これは、アセトンを100質量部とした場合、フィラー粒子は10質量部、バインダーは3質量部となり、スラリーの総量は113質量部になるということによるものである。
その結果、スラリーに対するフィラー粒子濃度が1質量%以上15質量%以下の場合に、フィラー粒子に対するバインダー濃度は10質量%以上30質量%以下であることが望ましく、スラリーに対するフィラー粒子濃度が15質量%を超える場合(但し、被覆層形成時のハンドリングを考慮するならば、スラリーに対するフィラー粒子濃度が50質量%以下であることが望ましい)には、フィラー粒子に対するバインダー濃度は1質量%以上10質量%以下(特に、2質量%以上10質量%以下)であることが望ましいことがわかった。
この理由を、以下に説明する。
a.フィラー粒子に対するバインダー濃度の下限を規制する理由
フィラー粒子に対するバインダー濃度が余りに低すぎると、フィラー粒子間及びフィラー粒子と負極活物質層との間で機能できるバインダーの絶対量が少なくなり過ぎて、被覆層と負極活物質層との接着強度が低くなって、被覆層が負極活物質層から剥がれ易くなるからである。また、スラリーに対するフィラー粒子濃度により、フィラー粒子に対するバインダー濃度の下限値が異なるのは、スラリーに対するフィラー粒子濃度が高い場合は当該濃度が低い場合に比べて、スラリー中のバインダー濃度が高くなることによるものである。例えば、本発明電池A1と本発明電池C5とは、共に、フィラー粒子に対するバインダー濃度は10質量%である。しかしながら、スラリー中のバインダー濃度は、本発明電池A1では1/111≒0.9質量%(これは、アセトンを100質量部とした場合、フィラー粒子は10質量部、バインダーは1質量部となり、スラリーの総量は111質量部となるからである)のに対して、本発明電池C5では2/122≒1.6質量%(これは、アセトンを100質量部とした場合、フィラー粒子は20質量部、バインダーは2質量部となり、スラリーの総量は122質量部になるからである)となることから明らかである。
尚、スラリーに対するバインダー濃度が1質量%程度の場合であっても、前述のFilmics法等の分散処理法により、バインダーは被覆層にかなり均一に分散しており、しかも、わずか2質量%程度の添加量でも、接着強度の他、フィルターとしての機能も非常に高く発揮することがわかった。
以上の事を考慮すると、スラリーに対するバインダー濃度は可能な限り低いことが好ましいが、電池作製時の加工に耐え得る物理的強度やフィルターの効果、スラリー中の無機粒子の分散性の確保等を考慮すると、上述の範囲であることが望ましい。
b.フィラー粒子に対するバインダー濃度の上限を規制する理由
本発明の作用効果を考慮した場合、被覆層の厚みが大きいほど、また、フィラー粒子に対するバインダーの濃度が高いほど、フィルターの機能は高まるものと推測されるが、これらは電極間の抵抗増加(距離及びリチウムイオン透過性)とのトレードオフの関係にあると考えられる。表7及び表8には示していないが、スラリーに対するフィラー粒子濃度に依存するとはいうものの、一般的に、フィラー粒子に対するバインダー濃度が50質量%を超える場合には、電池は設計容量の半分程度しか充放電できず、電池としての機能が大幅に低下することがわかった。これは、被覆層のフィラー粒子間をバインダーが充填していたり、バインダーが負極活物質層表面一部を被覆してしまうために、リチウムイオンの透過性が極端に低下したためと推測される。
以上の理由により、フィラー粒子に対するバインダー濃度の上限は少なくとも50質量%以下(望ましくは30質量%以下)であることが望ましく、特に、上述の如くスラリーに対するフィラー粒子濃度に応じて、フィラー粒子に対するバインダー濃度の上限を規制するのが好ましい。尚、スラリーに対するフィラー粒子濃度により、フィラー粒子に対するバインダー濃度の上限値が異なるのは、上記a.フィラー粒子に対するバインダー濃度の下限を規制する理由で記載した理由と同様の理由である。
(3)フィラー粒子の種類についての考察
本発明電池A1と本発明電池C9とを比較した場合、充電保存後の残存容量について、両者に殆ど差異がないことが認められる。したがって、本発明の作用効果は、フィラー粒子の種類には余り影響されないことがわかる。
(4)被覆層の厚みについての考察
本発明電池A1及び本発明電池C10と本発明電池C11とを比較した場合、被覆層の厚みが両面で2μm以上(片面では1μm以上)の本発明電池A1及び本発明電池C10は、被覆層の厚みが両面で1μm(片面では0.5μm)の本発明電池C11に比べて、充電保存後の残存容量が多くなっていることが認められる。但し、被覆層の厚みが大きくなり過ぎると、表7及び表8には示していないが、電池の負荷特性の低下やエネルギー密度の低下を招来する。これらのことを考慮すると、被覆層の厚みは、片面で4μm以下、特に2μm以下、さらに望ましくは1μm以上2μm以下に規制することが好ましい。尚、上記本発明電池A1、本発明電池C10、C11では片面での被覆層の厚みは両面での厚みの1/2とした(即ち、一方の面の被覆層の厚みと他方の面の被覆層の厚みを同等とした)が、このような構成に限定するものではなく、一方の面の被覆層の厚みと他方の面の被覆層の厚みを異ならしめても良い。但し、この場合にも、各被覆層の厚みは上記範囲であることが望ましい。
〔第4実施例〕
充電終止電圧を4.40V、被覆層の厚みを4μm、セパレータとしてS2を用い、正極活物質層の充填密度を変化させ、正極活物質層の充填密度と充電保存特性との関係を調べたので、その結果を以下に示す。
(実施例1)
正極活物質層の充填密度を3.20g/ccとした他は、前記第1実施例の実施例2と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、本発明電池D1と称する。
(比較例1)
正極活物質層の充填密度を3.20g/ccとした他は、前記第1実施例の比較例2と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、比較電池X1と称する。
(比較例2)
正極活物質層の充填密度を3.40g/ccとした他は、前記第1実施例の比較例2と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、比較電池X2と称する。
(比較例3)
正極活物質層の充填密度を3.80g/ccとした他は、前記第1実施例の比較例2と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、比較電池X3と称する。
(実験)
本発明電池D1及び比較電池X1〜X3の充電保存特性(充電保存後の残存容量)について調べたので、その結果を表9に示す。尚、同表には、前記本発明電池A2及び前記比較電池Z2の結果についても示す。
尚、充放電条件、保存条件、及び残存容量の算出方法については、前記第1実施例の実験と同様の条件である。
表9から明らかなように、正極活物質層の充填密度が3.20g/ccの場合には、本発明電池D1のみならず、比較電池X1においてもある程度の残存容量であることが認められるが、正極活物質層の充填密度が3.40g/cc以上の場合には、本発明電池A2ではある程度の残存容量であることが認められるものの、比較電池Z2、X2、X3では残存容量が極めて低下していることが認められる。これは電解液に接する表面積の問題と、副反応の生じる箇所の劣化の程度に起因した現象と推測される。
具体的には、正極活物質層の充填密度が低い場合(3.40g/cc未満の場合)には、局所的な反応でなく、全体的に均一に劣化が進行するため、保存後の充放電反応に対してもさほど大きな影響は出ない。したがって、本発明電池D1のみならず、比較電池X1においても容量劣化がある程度抑制される。これに対して、充填密度が高い場合(3.40g/cc以上の場合)には最表面層での劣化が中心となり、比較電池Z2、X2、X3では、放電時の正極活物質中へのリチウムイオンの侵入・拡散が律速になって劣化の程度が大きくなる一方、本発明電池A2では被覆層の存在により、最表面層での劣化が抑制されるので、放電時の正極活物質中へのリチウムイオンの侵入・拡散が律速とならず、劣化の程度が小さくなるものと推測される。
尚、正極活物質層の充填密度を固定して、負極活物質層の充填密度を1.30g/ccから1.80g/ccまで変更したところ、正極活物質層の充填密度ほどの差は見られなかった。本質的には、正極上で生成した副反応物や溶解物は、本被覆層でトラップされ、セパレータや負極へ移動することが阻害されているため、負極活物質層の充填密度には効果が依存しない。負極は副生成物や溶解物の還元反応に寄与するのみであり、黒鉛に限らず、酸化還元反応を起こしうる物質であれば特に制約はない。
以上の結果から、特に正極活物質層の充填密度が3.40g/cc以上である場合に特に効果的に発揮される。負極活物質層の充填密度や活物質の種類については特に限定するものではない。
〔第5実施例〕
充電終止電圧を4.40V、正極活物質層の充填密度を3.60g/cc、セパレ
ータをS1に、負極活物質層の表面に形成された被覆層の物性(フィラー粒子の種類及びバインダー濃度、厚み)を固定させた一方、正極にAl23を添加して、充電保存特性との関係を調べたので、その結果を以下に示す。
(実施例)
正極の作製において、コバルト酸リチウムとアセチレンブラックとを混合する前に、コバルト酸リチウムにAl23を1質量%添加し、乾式にて混合した以外は、前記第1実施例の実施例1と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、本発明電池Eと称する。
(比較例)
負極活物質層の表面に被覆層を設けない負極を用いたこと以外は上記実施例と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、比較電池Wと称する。
(実験)
本発明電池E及び比較電池Wの充電保存特性(充電保存後の残存容量)について調べたので、その結果を表10に示す。尚、同表には、前記本発明電池A1及び前記比較電池Z1の結果についても示す。
尚、充放電条件、保存条件、及び残存容量の算出方法については、前記第1実施例の実験と同様の条件である。
[考察]
表10から明らかなように、充電保存試験において、正極にAl23が混合され且つ負極活物質層の表面に被覆層が形成された本発明電池Eは、負極活物質層の表面に被覆層が形成されておらず、しかも正極にAl23が混合されていない比較電池Z1のみならず、負極活物質層の表面に被覆層が形成されていないが正極にAl23が混合された比較電池Wや、正極にAl23が混合されていないが負極活物質層の表面に被覆層が形成された本発明電池A1に比べて充電保存後の残存容量が大幅に改善されることが認められる。
これは、以下のように考えられる。即ち、本発明電池Eの如く、正極にAl23が含有されていると、正極活物質が有する触媒性を緩和することができるので、電解液と正極活物質または正極活物質に付着した導電性カーボン表面での電解液の分解反応やCoの溶出といった反応が抑制される。但し、これらの反応を完全に抑制するのは困難であるため、反応物が少量は生成することになるが、本発明電池Eの如く、負極活物質層の表面に被覆層が形成されていれば、その反応物の移動を十分に抑制することができるので、大幅に充電保存特性が向上する。
これに対して、本発明電池A1では、負極活物質層の表面に被覆層が形成されているので、その反応物の移動を抑制することができるが、正極にAl23が含有されていないので、正極活物質が有する触媒性を緩和することができず、また、比較電池Wでは、正極にAl23が含有されているので、正極活物質が有する触媒性を緩和することができるが、負極活物質層の表面に被覆層が形成されていないので、その反応物の移動を抑制することができず、更に、比較電池Z1では、正極にAl23が含有されていないので、正極活物質が有する触媒性を緩和することができず、しかも、負極活物質層の表面に被覆層が形成されていないので、その反応物の移動を抑制することもできないからである。
尚、共に負極活物質層の表面に被覆層が形成されていない比較電池Wと比較電池Z1とを比べた場合、正極にAl23を混合する効果は限定的であるが、共に負極活物質層の表面に被覆層が形成された本発明電池Eと本発明電池A1とを比べた場合、正極にAl23を混合する効果は非常に大きいことがわかる。このことからも、負極活物質層の表面に被覆層を形成すると、より高い効果を得ることができることがわかる。
また、正極内部に添加されるAl23量について調べたところ、正極活物質に対して、0.1質量%5質量%以下(特に、1質量%以上5質量%以下)であることが好ましいことがわかった。これは、0.1質量%未満になるとAl23の添加効果を十分に発揮することができない一方、5質量%を超えると正極活物質の量が少なくなって電池容量が低下するからである。
〔その他の事項〕
(1)バインダーの材質としては、アクリロニトリル単位を含む共重合体に限定するものではなく、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)やPVDF(ポリフッ化ビニリデン)、PAN(ポリアクリロニトリル)、SBR(スチレンブタジエンゴム)等やその変性体及び誘導体、ポリアクリル酸誘導体等であっても良い。ただし、少量添加でバインダーとしての効果を発揮するには、アクリロニトリル単位を含む共重合体やポリアクリル酸誘導体が好ましい。
(2)正極活物質としては、上記コバルト酸リチウムに限定するものではなく、コバルト−ニッケル−マンガンのリチウム複合酸化物、アルミニウム−ニッケル−マンガンのリチウム複合酸化物、アルミニウム−ニッケル−コバルトの複合酸化物等のコバルト或いはマンガンを含むリチウム複合酸化物や、スピネル型マンガン酸リチウム等でも構わない。好ましくはリチウム参照極電位で4.3Vの比容量に対して、それ以上の充電により容量増加する正極活物質であり、且つ層状構造であることが好ましい。また、これらの正極活物質は単独で用いても良く、他の正極活物質と混合されていても良い。
(3)正極合剤の混合方法としては、湿式混合法に限定するものではなく、事前に正極活物質と導電剤を乾式混合した後に、PVDFとNMPを混合、攪拌するような方法であっても良い。
(4)負極活物質としては、上記黒鉛に限定されるものではなく、グラファイト、コークス、酸化スズ、金属リチウム、珪素、及びそれらの混合物等、リチウムイオンを挿入脱離できうるものであればその種類は問わない。
(5)電解液のリチウム塩としては、上記LiPF6に限定されるものではなく、LiBF4、LiN(SO2CF32、LiN(SO2252、LiPF6-X(Cn2n+1X[但し、1<x<6、n=1又は2]等でも良く、これら2種以上を混合して使用することもできる。リチウム塩の濃度は特に限定されないが、電解液1リットル当り0.8〜1.5モルに規制するのが望ましい。また、電解液の溶媒としては上記エチレンカーボネート(EC)やジエチルカーボネート(DEC)に限定するものではないが、プロピレンカーボネート(PC)、γ−ブチロラクトン(GBL)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジメチルカーボネート(DMC)等のカーボネート系溶媒が好ましく、更に好ましくは環状カーボネートと鎖状カーボネートの組合せが望ましい。
(6)本発明は液系の電池に限定するものではなく、ゲル系のポリマー電池にも適用することができる。この場合のポリマー材料としては、ポリエーテル系固体高分子、ポリカーボネート系固体高分子、ポリアクリロニトリル系固体高分子、オキセタン系ポリマー、エポキシ系ポリマー及びこれらの2種以上からなる共重合体もしくは架橋した高分子若しくはPVDFが例示され、このポリマー材料とリチウム塩と電解質を組合せてゲル状にした固体電解質を用いることができる。
本発明は、例えば携帯電話、ノートパソコン、PDA等の移動情報端末の駆動電源で、特に高容量が必要とされる用途に適用することができる。また、高温での連続駆動が要求される高出力用途で、HEVや電動工具といった電池の動作環境が厳しい用途にも展開が期待できる。
コバルト酸リチウムの結晶構造の変化と電位との関係を示すグラフである。 充電保存後の残存容量とセパレータの空孔体積との関係を示すグラフである。 比較電池Z2における充放電容量と電池電圧との関係を示すグラフである。 本発明電池A2における充放電容量と電池電圧との関係を示すグラフである。
符号の説明
1 蛇行部

Claims (14)

  1. 正極活物質を含む正極活物質層を有する正極、負極活物質を含む負極活物質層を有する負極、及びこれら両極間に介装されたセパレータから成る電極体と、この電極体に含浸された非水電解質とを備えた非水電解質電池において、
    上記正極活物質には少なくともコバルト又はマンガンが含まれると共に、上記負極活物質層の表面にはフィラー粒子とバインダーとが含まれた被覆層が形成され、
    上記セパレータの厚みをx(μm)とし、上記セパレータの空孔率をy(%)とした場合に、xとyとを乗じた値が800(μm・%)以下であって、上記セパレータの厚みが16μm以下である、非水電解質電池。
  2. 上記フィラー粒子が無機粒子を備える、請求項1に記載の非水電解質電池。
  3. 上記無機粒子がルチル型のチタニア及び/又はアルミナを含む、請求項2記載の非水電解質電池。
  4. 上記フィラー粒子の平均粒径が上記セパレータの平均孔径より大きい、請求項1〜3のいずれか1項に記載の非水電解質電池。
  5. 上記負極活物質層の全面に上記被覆層が形成されている、請求項1〜4のいずれか1項に記載の非水電解質電池。
  6. 上記被覆層の厚みが1μm以上4μm以下である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の非水電解質電池。
  7. 上記フィラー粒子に対するバインダーの濃度が30質量%以下である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の非水電解質電池。
  8. 上記正極活物質層の充填密度が3.40g/cc以上である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の非水電解質電池。
  9. リチウム参照極電位に対して4.30V以上となるまで上記正極が充電される、請求項1〜8のいずれか1項に記載の非水電解質電池。
  10. リチウム参照極電位に対して4.40V以上となるまで上記正極が充電される、請求項1〜8のいずれか1項に記載の非水電解質電池。
  11. リチウム参照極電位に対して4.45V以上となるまで上記正極が充電される、請求項1〜8のいずれか1項に記載の非水電解質電池。
  12. 上記正極活物質には、少なくともアルミニウム或いはマグネシウムが固溶されたコバルト酸リチウムが含まれており、且つ、このコバルト酸リチウム表面にはジルコニアが固着されている、請求項1〜11のいずれか1項に記載の非水電解質電池。
  13. 上記正極には、Al 2 3 が添加されている、請求項1〜12のいずれか1項に記載の非水電解質電池。
  14. 上記バインダーが、アクリロニトリル単位を含む共重合体、又はポリアクリル酸誘導体を備える、請求項1〜13のいずれか1項に記載の非水電解質電池。
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