以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
〈発明の実施形態1〉
本発明の実施形態1について説明する。図1に示すように、本実施形態1の空調機(10)は、本発明に係る膨張機を備えている。
<空調機の全体構成>
上記空調機(10)は、いわゆるセパレート型のものであって、室外機(11)と、室内機(13)とを備えている。上記室外機(11)には、室外ファン(12)、室外熱交換器(23)、第1四路切換弁(21)、第2四路切換弁(22)及び圧縮膨張ユニット(30)が収容されている。一方、上記室内機(13)には、室内ファン(14)及び室内熱交換器(24)が収納されている。上記室外機(11)は屋外に設置され、室内機(13)は屋内に設置されている。また、上記室外機(11)と室内機(13)とは、一対の連絡配管(15,16)で接続されている。尚、上記圧縮膨張ユニット(30)の詳細は後述する。
上記空調機(10)には、冷媒回路(20)が設けられている。この冷媒回路(20)は、第1及び第2四路切換弁(21,22)、圧縮膨張ユニット(30)、室内熱交換器(24)及び室外熱交換器(23)が接続された閉回路である。また、この冷媒回路(20)には、冷媒として二酸化炭素(CO2)が充填されている。
上記室外熱交換器(23)と、室内熱交換器(24)とは、何れもクロスフィン型のフィン・アンド・チューブ熱交換器で構成されている。上記室外熱交換器(23)では、冷媒回路(20)を循環する冷媒が室外空気と熱交換する。上記室内熱交換器(24)では、冷媒回路(20)を循環する冷媒が室内空気と熱交換する。
上記第1四路切換弁(21)は、4つのポートを備えている。この第1四路切換弁(21)は、その第1ポートが圧縮膨張ユニット(30)の吐出管(36)に、第2ポートが連絡配管(15)を介して室内熱交換器(24)の一端に、第3ポートが室外熱交換器(23)の一端に、第4ポートが圧縮膨張ユニット(30)の吸入ポート(32)にそれぞれ接続されている。そして、上記第1四路切換弁(21)は、第1ポートと第2ポートとが連通し且つ第3ポートと第4ポートとが連通する状態(図1に実線で示す状態)と、第1ポートが第3ポートとが連通し、第2ポートが第4ポートとが連通する状態(図1に破線で示す状態)とに切り換わる。
上記第2四路切換弁(22)は、4つのポートを備えている。この第2四路切換弁(22)は、その第1ポートが圧縮膨張ユニット(30)の流出ポート(35)に、第2ポートが室外熱交換器(23)の他端に、第3ポートが連絡配管(16)を介して室内熱交換器(24)の他端に、第4ポートが圧縮膨張ユニット(30)の流入ポート(34)にそれぞれ接続されている。そして、上記第2四路切換弁(22)は、第1ポートと第2ポートとが連通し且つ第3ポートと第4ポートとが連通する状態(図1に実線で示す状態)と、第1ポートと第3ポートとが連通し且つ第2ポートと第4ポートとが連通する状態(図1に破線で示す状態)とに切り換わる。
<圧縮膨張ユニットの構成>
図2及び図3に示すように、上記圧縮膨張ユニット(30)は、縦長で円筒形の密閉容器であるケーシング(31)を備えている。このケーシング(31)の内部には、下から上に向かって順に、圧縮機構(50)と、電動機(45)と、膨張機構(60)とが配置されている。
上記ケーシング(31)には、吐出管(36)が取り付けられている。この吐出管(36)は、電動機(45)と膨張機構(60)との間に配置され、ケーシング(31)の内部空間に連通している。上記電動機(45)は、ケーシング(31)の長手方向の中央部に配置されている。この電動機(45)は、ステータ(46)とロータ(47)とにより構成されている。上記ステータ(46)は、ケーシング(31)に固定されている。上記ロータ(47)は、ステータ(46)の内部に配置され、同軸にシャフト(40)の主軸部(44)が貫通している。上記シャフト(40)は、回転軸を構成し、下端側に2つの下側偏心部(58,59)が形成され、上端側に1つの大径偏心部(41)が形成されている。
上記2つの下側偏心部(58,59)は、主軸部(44)よりも大径に且つ主軸部(44)の軸心よりも偏心して形成されており、下側のものが第1下側偏心部(58)を、上側のものが第2下側偏心部(59)をそれぞれ構成している。そして、上記第1下側偏心部(58)と第2下側偏心部(59)とでは、主軸部(44)の軸心に対する偏心方向が逆になっている。
上記大径偏心部(41)は、主軸部(44)よりも大径に且つ主軸部(44)の軸心よりも偏心して形成されている。
上記圧縮機構(50)は、揺動ピストン型のロータリ圧縮機を構成している。この圧縮機構(50)は、シリンダ(51,52)とロータリピストン(57,57)とを2つずつ備えている。上記圧縮機構(50)では、下から上へ向かって順に、リアヘッド(55)と、第1シリンダ(51)と、中間プレート(56)と、第2シリンダ(52)と、フロントヘッド(54)とが積層された状態になっている。
上記第1シリンダ(51)及び第2シリンダ(52)の内部には、それぞれに円筒状のロータリピストン(57)が1つずつ配置されている。このロータリピストン(57)は、図示しないが、側面に平板状のブレードが突設されており、このブレードが揺動ブッシュを介してシリンダ(51,52)に支持されている。上記第1シリンダ(51)内のロータリピストン(57)は、シャフト(40)の第1下側偏心部(58)と係合している。一方、上記第2シリンダ(52)内のロータリピストン(57)は、シャフト(40)の第2下側偏心部(59)と係合している。上記各ロータリピストン(57,57)は、内周面が下側偏心部(58,59)の外周面と摺接し、外周面がシリンダ(51,52)の内周面と摺接する。そして、各ロータリピストン(57,57)の外周面とシリンダ(51,52)の内周面との間に圧縮室(53)が形成される。
上記第1シリンダ(51)及び第2シリンダ(52)には、それぞれ吸入ポート(32)が1つずつ形成されている。この各吸入ポート(32)は、シリンダ(51,52)を半径方向に貫通し、終端がシリンダ(51,52)内に開口している。また、各吸入ポート(32)は、配管によってケーシング(31)の外部へ延長されている。
上記フロントヘッド(54)及びリアヘッド(55)には、それぞれ吐出ポートが1つずつ形成されている。上記フロントヘッド(54)の吐出ポートは、第2シリンダ(52)内の圧縮室(53)をケーシング(31)の内部空間とを連通させる。上記リアヘッド(55)の吐出ポートは、第1シリンダ(51)内の圧縮室(53)をケーシング(31)の内部空間と連通させる。また、上記吐出管(36)は、終端にリード弁からなる吐出弁が設けられており、この吐出弁によって開閉される。尚、図2において、吐出ポート及び吐出弁の図示は省略する。そして、上記圧縮機構(50)からケーシング(31)の内部空間へ吐出されたガス冷媒は、吐出管(36)を通って圧縮膨張ユニット(30)から送り出される。
上記ケーシング(31)内の底部には、潤滑油が貯留される油溜りが形成されている。この潤滑油は、本発明に係る冷凍機油を構成するものである。上記シャフト(40)の下端部には、油溜りに浸漬された遠心式の油ポンプ(48)が設けられている。上記油ポンプ(48)は、シャフト(40)の回転により油溜りの潤滑油を汲み上げるように構成されている。そして、上記シャフト(40)の内部には、下端から上端に亘って給油溝(49)が形成されている。この給油溝(49)は、油ポンプ(48)によって汲み上げられた潤滑油が圧縮機構(50)や膨張機構(60)の各摺動部に供給されるように形成されている。
上記膨張機構(60)は、いわゆる揺動ピストン型のものであって、本発明に係る膨張機を構成している。この膨張機構(60)は、フロントヘッド(61)と、リアヘッド(62)と、シリンダ(63)と、ロータリピストン(67)とを備えている。また、上記膨張機構(60)には、流入ポート(34)と流出ポート(35)とが設けられている。
上記膨張機構(60)では、下から上へ向かって順に、フロントヘッド(61)、シリンダ(63)及びリアヘッド(62)が積層されている。上記シリンダ(63)は、下側端面がフロントヘッド(61)により閉塞され、上側端面がリアヘッド(62)により閉塞されて、シリンダ室(64)を形成している。つまり、上記フロントヘッド(61)及びリアヘッド(62)は、それぞれが本発明に係るシリンダ(63)の閉塞部材を構成している。また、シリンダ(63)は、本発明に係るシリンダを構成し、上記シリンダ室(64)は、本発明に係るシリンダ室を構成している。
上記シャフト(40)は、積層された状態のフロントヘッド(61)、シリンダ(63)及びリアヘッド(62)を貫通し、大径偏心部(41)がシリンダ(63)内に位置している。
上記ロータリピストン(67)は、上下両端が閉塞されたシリンダ(63)内に収容されている。上記ロータリピストン(67)は、円環状あるいは円筒状に形成され、内径が大径偏心部(41)の外径と概ね等しくなっている。そして、上記ロータリピストン(67)には大径偏心部(41)が回転自在に嵌合され、ロータリピストン(67)の内周面と大径偏心部(41)の外周面とがほぼ全面に亘って摺接している。このロータリピストン(67)は、本発明に係るロータリピストンを構成している。
上記ロータリピストン(67)は、外周面がシリンダ(63)の内周面に摺接すると共に、上端面(67b)がリアヘッド(62)に、下端面(67c)がフロントヘッド(61)にそれぞれ摺接している。上記シリンダ(63)内には、該シリンダ(63)の内周面とロータリピストン(67)の外周面との間に流体室(66)が形成されている。
上記ロータリピストン(67)には、ブレード(67a)が一体に設けられている。このブレード(67a)は、ロータリピストン(67)の半径方向に延びる板状に形成されており、ロータリピストン(67)の外周面から外側へ突出している。上記シリンダ(63)内の流体室(66)は、ブレード(67a)によって高圧側の高圧室(66a)と定圧側の低圧室(66b)とに仕切られている。
上記シリンダ(63)には、一対のブッシュ(68)が設けられている。各ブッシュ(68)は、内側面が平面となり外側面が円弧面となる半月状に形成され、ブレード(67a)を挟み込んだ状態で装着されている。上記ブッシュ(68)は、内側面がブレード(67a)と、外側面がシリンダ(63)と摺動する。そして、上記ロータリピストン(67)と一体のブレード(67a)は、ブッシュ(68)を介してシリンダ(63)に支持され、シリンダ(63)に対して回動自在に且つ進退自在に構成されている。
上記流入ポート(34)は、フロントヘッド(61)に形成され、終端がフロントヘッド(61)の内側面に開口して高圧室(66a)に連通している。一方、上記流出ポート(35)は、シリンダ(63)に形成され、始端がシリンダ(63)の内周面に開口して低圧室(66b)に連通している。
上記シャフト(40)の給油溝(49)は、膨張機構(60)の各摺動部に給油するための細溝を備えている。この細溝は、主として、大径偏心部(41)の両端面とリアヘッド(62)及びフロントヘッド(61)との摺動部と、大径偏心部(41)の外周面とロータリピストン(67)の内周面との摺動部とに給油するために形成されている。
ここで、上記リアヘッド(62)及びフロントヘッド(61)には、給油された潤滑油が流体室(66)内へ漏れるのを防止するためのフッ素被膜(70)がそれぞれに形成されている。
上記フッ素被膜(70)は、フッ素コーティング剤によって薄膜に構成されている。このフッ素被膜(70)は、本発明に係る被膜を構成している。フッ素被膜(70)は、図3(A)及び図3(B)に示すように、リアヘッド(62)の下側面(62a)(流体室(66)の内部を向く面)と、上記フロントヘッド(61)の上側面(61a)(流体室(66)の内部を向く面)とに、それぞれに全面に亘って形成されている。
上記フッ素被膜(70)は、構成物質であるフッ素樹脂の特質として撥油性及び平滑性(低摩擦性)を有している。撥油性を有するフッ素被膜(70)上に潤滑油が供給されると、フッ素被膜(70)上で潤滑油は弾かれることになる。このとき、フッ素被膜(70)と潤滑油との間の界面は、図3(C)に示す状態となる。そして、弾かれた潤滑油は、フッ素被膜(70)との間での界面張力が生じ、フッ素被膜(70)上を移動し難くなる。尚、被膜は、構成する物質がフッ素樹脂に限られるものではなく、油を弾く撥油性を有する物質で構成されていればよい。
また、リアヘッド(62)の下側面(62a)にフッ素被膜(70)を形成することで、該下側面(62a)の平滑性を高める効果がある。つまり、リアヘッド(62)の下側面(62a)は、フッ素被膜(70)を介してロータリピストン(67)の上端面(67b)と摺接することになるため、ロータリピストン(67)とリアヘッド(62)の下側面(62a)との間での摺動摩擦が低減される。また、フロントヘッド(61)の上側面(61a)にフッ素被膜(70)を形成することで、該上側面(61a)の平滑性を高める効果がある。つまり、フロントヘッド(61)の上側面(61a)は、フッ素被膜(70)を介してロータリピストン(67)の下端面(67c)と摺接することになるため、ロータリピストン(67)とフロントヘッド(61)の上側面(61a)との間での摺動摩擦が低減される。
一方、ロータリピストン(67)の上端面(67b)及び下端面(67c)には、フッ素被膜(70)は形成されていない。このため、ロータリピストンの上端面(67b)と、潤滑油との間の界面は、図3(C)に示す状態となる。つまり、潤滑油は、ロータリピストン(67)上を移動することが可能であるため、ロータリピストン(67)とリアヘッド(62)の下側面(62a)との間で摺動摩擦が低減される。
−運転動作−
次に、上記空調機(10)の動作について説明する。ここでは、空調機(10)の冷房運転時及び暖房運転時の動作について説明し、続いて膨張機構(60)の動作について説明する。
<冷房運転>
冷房運転時には、第1四路切換弁(21)及び第2四路切換弁(22)が図1に破線で示す状態に切り換えられる。この状態で圧縮膨張ユニット(30)の電動機(45)に通電すると、冷媒回路(20)で冷媒が循環して蒸気圧縮式の冷凍サイクルが行われる。
上記圧縮機構(50)で圧縮された冷媒は、吐出管(36)を通って圧縮膨張ユニット(30)から吐出される。この状態で、冷媒の圧力は、臨界圧力よりも高くなっている。この吐出冷媒は、第1四路切換弁(21)を通って室外熱交換器(23)へ送られる。この室外熱交換器(23)では、流入した冷媒が室外空気へ放熱する。
上記室外熱交換器(23)で放熱した冷媒は、第2四路切換弁(22)を通り、流入ポート(34)から圧縮膨張ユニット(30)の膨張機構(60)へ流入する。この膨張機構(60)では、高圧冷媒が膨張し、その内部エネルギがシャフト(40)の回転動力に変換される。そして、膨張後の低圧冷媒は、流出ポート(35)を通って室内熱交換器(24)へ送られる。
上記室内熱交換器(24)では、流入した冷媒が室内空気から吸熱して蒸発し、室内空気が冷却される。上記室内熱交換器(24)から出た低圧ガス冷媒は、第1四路切換弁(21)を通り、吸入ポート(32)から圧縮膨張ユニット(30)の圧縮機構(50)へ吸入される。そして、この圧縮機構(50)は、吸入した冷媒を再び圧縮して吐出する。
<暖房運転>
暖房運転時には、第1四路切換弁(21)及び第2四路切換弁(22)が図1に実線で示す状態に切り換えられる。この状態で圧縮膨張ユニット(30)の電動機(45)に通電すると、冷媒回路(20)で冷媒が循環して蒸気圧縮式の冷凍サイクルが行われる。
上記圧縮機構(50)で圧縮された冷媒は、吐出管(36)を通って圧縮膨張ユニット(30)から吐出される。この状態で冷媒の圧力は、臨界圧力よりも高くなっている。この吐出冷媒は、第1四路切換弁(21)を通って室内熱交換器(24)へ送られる。この室内熱交換器(24)では、流入した冷媒が室内空気へ放熱し、室内空気が加熱される。
上記室内熱交換器(24)で放熱した冷媒は、第2四路切換弁(22)を通り、流入ポート(34)から圧縮膨張ユニット(30)の膨張機構(60)へ流入する。この膨張機構(60)では、高圧冷媒が膨張し、その内部エネルギがシャフト(40)の回転動力に変換される。そして、膨張後の低圧冷媒は、流出ポート(35)を通って、圧縮膨張ユニット(30)から流出し、第2四路切換弁(22)を通って室外熱交換器(23)へ送られる。
上記室外熱交換器(23)では、流入した冷媒が室外空気から吸熱して蒸発する。上記室外熱交換器(23)から出た低圧ガス冷媒は、第1四路切換弁(21)を通り、吸入ポート(32)から圧縮膨張ユニット(30)の圧縮機構(50)へ吸入される。そして、この圧縮機構(50)は、吸入した冷媒を再び圧縮して吐出する。
<膨張機構の動作>
上記膨張機構(60)の動作について、図3及び図4を参照しながら説明する。この膨張機構(60)の高圧室(66a)へ超臨界状態の高圧冷媒が流入すると、シャフト(40)が図4の各図における反時計方向へ回転する。
上記シャフト(40)の回転角が0°の時点では、流入ポート(34)の終端が大径偏心部(41)の端面によって塞がれている。この状態から、シャフト(40)が僅かに回転すると、流入ポート(34)と高圧室(66a)とが連通し、高圧冷媒が高圧室(66a)へ流入し始める。その後、上記シャフト(40)の回転角が90°、180°270°と次第に大きくなるのに従い、高圧室(66a)の容積が次第に増加する。そして、上記シャフト(40)の回転角がほぼ360°に達すると、流入ポート(34)が大径偏心部(41)の端面によって再び塞がれ、高圧室(66a)への高圧冷媒の流入が遮断される。
続いて、上記シャフト(40)の回転角が再び0°の状態になると、低圧室(66b)が流出ポート(35)と連通し、低圧室(66b)の冷媒が流出し始める。その後、上記シャフト(40)の回転角が90°、180°、270°と次第に大きくなるのに従い、低圧室(66b)の容積が次第に減少し、その間は冷媒が流出ポート(35)から流出し続ける。そして、上記シャフト(40)の回転角がほぼ360°に達すると、流出ポート(35)がロータリピストン(67)によって塞がれ、低圧室(66b)からの冷媒の流出が遮断される。このとき、高圧室(66a)と低圧室(66b)との圧力差によってロータリピストン(67)及びシャフト(40)が回転駆動される。
上記膨張機構(60)の動作中には、シャフト(40)の回転によって油溜りの潤滑油が給油溝(49)より膨張機構(60)などの摺動部に供給される。ここで、上記膨張機構(60)において、細溝から各摺動部への給油が過剰に行われて余分な潤滑油が生じても、その潤滑油の流体室(66)への流入は、上記フッ素被膜(70)の撥油性によって抑制される。これにより、潤滑油が流体室(66)から流出することはほとんどなくなる。一方で、ロータリピストン(67)の上下端面(67b,67c)には、フッ素被膜(70)が形成されていないため、該上下端面(67c)には必要な潤滑油が供給される。
また、本実施形態1の圧縮膨張ユニット(30)は、圧縮機構(50)を有していわゆる高圧ドーム型に構成されているため、油溜りの潤滑油が圧縮機構(50)より吐出された高温高圧のガス冷媒によって加熱される。したがって、上記膨張機構(60)に供給される潤滑油は比較的高温になっている。一方、上記冷媒回路(20)では冷媒の蒸気圧縮式冷凍サイクルが行われることから、膨張機構(60)に流入する冷媒の温度は比較的低くなっている。このことから、膨張機構(60)において、フッ素被膜(70)が潤滑油の流体室(66)への流入を抑制することにより、流体室(66)内の低温の冷媒が高温の潤滑油と混合して加熱されることはなくなるので、膨張過程における熱損失を抑制することができる。
−実施形態1の効果−
上記本実施形態1によれば、リアヘッド(62)の下端面(67c)及びフロントヘッド(61)の上端面(67b)に撥油性を有するフッ素被膜(70)を形成したため、リアヘッド(62)及びフロントヘッド(61)上に滲み出た潤滑油を該フッ素被膜(70)上で弾くことができる。つまり、弾かれた潤滑油は、フッ素被膜(70)との間に形成される界面張力によってフッ素被膜(70)上を移動し難くなる。これにより、潤滑油が流体室(66)に過剰に漏れるのを確実に防止することができる。また、フッ素被膜(70)は平滑性を有するため、ロータリピストン(67)を偏心回転運動させても、該ロータリピストン(67)とリアヘッド(62)及びフロントヘッド(61)との間で摺動摩擦が発生するのを確実に防止することができる。
さらに、ロータリピストン(67)の上下端(67b,67c)には、フッ素被膜(70)を形成しなかったため、該ロータリピストン(67)の上下端面(67b,67c)に潤滑油を供給することができる。これにより、ロータリピストン(67)と、リアヘッド(62)の下側面(62a)及びフロントヘッド(61)の上側面(61a)との間で摺動摩擦が低減される。これらの結果、シリンダ(63)内の冷媒の熱損失を確実に防止すると同時に、膨張機構(60)の機械損失を低減することができる。
〈発明の実施形態2〉
次に、本発明の実施形態2を図面に基づいて説明する。
図5及び図6に示すように、本実施形態2に係る空調機(10)は、上記実施形態1に係る空調機(10)とは膨張機構(60)の構成が異なるものである。
具体的に、図5及び図6に示すように、本実施形態2に係る膨張機構(60)は、下から上へ向かって順に、フロントヘッド(61)、シリンダ(63)及びリアヘッド(62)が積層されている。上記シリンダ(63)は、下側端面がフロントヘッド(61)により閉塞され、上側端面がリアヘッド(62)により閉塞されている。ここで、上記リアヘッド(62)、フロントヘッド(61)及びロータリピストン(67)には、給油された潤滑油が流体室(66)内へ漏れるのを防止するためのフッ素被膜(70)がそれぞれに形成されている。
上記フッ素被膜(70)は、フッ素コーティング剤で構成される薄膜に形成されている。このフッ素被膜(70)は、本発明に係る被膜を構成している。フッ素被膜(70)は、図5(A)及び図5(B)に示すように、リアヘッド(62)の下側面(62a)、上記フロントヘッド(61)の上側面(61a)、ロータリピストン(67)の上端面(67b)及び下端面(67c)のそれぞれの全面に亘って形成されている。
上記フッ素被膜(70)は、その構成物質であるフッ素樹脂の特質として撥油性及び平滑性(低摩擦性)を有している。撥油性を有するフッ素被膜(70)上に潤滑油が供給されると、フッ素被膜(70)上で潤滑油は弾かれることになる。このとき、フッ素被膜(70)と潤滑油との間の界面は、図5(C)に示す状態となる。そして、弾かれた潤滑油は、フッ素被膜(70)との間での界面張力が生じ、フッ素被膜(70)上を移動するのが困難になる。
また、リアヘッド(62)の下側面(62a)及びロータリピストン(67)の上端面(67b)の両側にフッ素被膜(70)を形成することで、上記下側面(62a)と上端面(67b)との間の平滑性を高める効果がある。つまり、リアヘッド(62)の下側面(62a)とロータリピストン(67)とは、フッ素被膜(70)を介して摺接することになるため、ロータリピストン(67)とリアヘッド(62)との間で摺動摩擦が低減される。一方、フロントヘッド(61)の上側面(61a)及びロータリピストン(67)の下端面(67c)の両側にフッ素被膜(70)を形成することで、上記上側面(61a)と下端面(67c)との間の平滑性を高める効果がある。つまり、フロントヘッド(61)の上側面(61a)とロータリピストン(67)とは、フッ素被膜(70)を介して摺接することになるため、ロータリピストン(67)とフロントヘッド(61)の上側面(61a)との間で摺動摩擦が低減される。
次に本実施形態2に係る膨張機構(60)の動作について、図5及び図6を参照しながら説明する。この膨張機構(60)の高圧室(66a)へ超臨界状態の高圧冷媒が流入すると、シャフト(40)が図6の各図における反時計方向へ回転する。
上記膨張機構(60)の動作中には、シャフト(40)の回転によって油溜りの潤滑油が給油溝(49)より膨張機構(60)などの摺動部に供給される。ここで、上記膨張機構(60)において、細溝から各摺動部への給油が過剰に行われて余分な潤滑油が生じても、その潤滑油の流体室(66)への流入は、上記フッ素被膜(70)の撥油性によって抑制される。
本実施形態2の膨張機構(60)によると、リアヘッド(62)の下側面(62a)、フロントヘッド(61)の上側面(61a)及びロータリピストン(67)の上下端面(67b,67c)にフッ素被膜(70)を形成したため、フッ素被膜(70)上の潤滑油を弾くことができる。つまり、弾かれた潤滑油は、フッ素被膜(70)との間に形成される界面張力によって被膜(70)上を移動し難くなる。これにより、潤滑油がシリンダ(63)内の流体室(66)に過剰に漏れるのを確実に防止することができる。また、ロータリピストン(67)と、リアヘッド(62)の下端面(67c)及びフロントヘッド(61)の上側面(61a)との間に平滑性を有するフッ素被膜(70)を形成したため、ロータリピストン(67)を偏心回転運動させても、フロントヘッド(61)の上側面(61a)及びリアヘッド(62)の下側面(62a)とロータリピストン(67)との間で摺動摩擦が発生するのを確実に防止することができる。これらの結果、シリンダ(63)内の冷媒の熱損失を防止すると同時に、膨張機構(60)の機械損失を低減することができる。その他の構成・作用及び効果は実施形態1と同様である。
〈発明の実施形態3〉
次に、本発明の実施形態3を図面に基づいて説明する。
図7及び図8に示すように、本実施形態3に係る空調機(10)は、上記実施形態1の空調機(10)とは膨張機構(60)の構成が異なるものである。
具体的に、本実施形態3に係る膨張機構(60)は、下から上へ向かって順に、フロントヘッド(61)、シリンダ(63)及びリアヘッド(62)が積層されている。上記シリンダ(63)は、下側端面がフロントヘッド(61)により閉塞され、上側端面がリアヘッド(62)により閉塞されている。ここで、上記リアヘッド(62)、フロントヘッド(61)及びロータリピストン(67)には、給油された潤滑油が流体室(66)内へ漏れるのを防止するためのフッ素被膜(70)がそれぞれに形成されている。
上記フッ素被膜(70)は、フッ素コーティング剤で構成される薄膜に形成されている。このフッ素被膜(70)は、本発明に係る被膜を構成している。フッ素被膜(70)は、図7(A)及び図7(B)に示すように、リアヘッド(62)の下側面(62a)及び上記フロントヘッド(61)の上側面(61a)のそれぞれに全面に亘って形成されていると共に、ロータリピストン(67)の上端面(67b)及び下端面(67c)の外周側に形成されている。
上記フッ素被膜(70)は、その構成物質であるフッ素樹脂の特質として撥油性及び平滑性(低摩擦性)を有している。撥油性を有するフッ素被膜(70)上に潤滑油が供給されると、フッ素被膜(70)上で潤滑油は弾かれることになる。このとき、フッ素被膜(70)と潤滑油との間の界面は、図7(C)に示す状態となる。そして、弾かれた潤滑油は、フッ素被膜(70)との間での界面張力が生じ、フッ素被膜(70)上を移動するのが困難になる。
また、リアヘッド(62)の下側面(62a)にフッ素被膜(70)を形成することで、該下側面(62a)の平滑性を高める効果がある。つまり、リアヘッド(62)の下側面(62a)は、フッ素被膜(70)を介してロータリピストン(67)の上端面(67b)と摺接することになるため、ロータリピストン(67)とリアヘッド(62)の下側面(62a)との間で摺動摩擦が低減される。また、フロントヘッド(61)の上側面(61a)にフッ素被膜(70)を形成することで、該上側面(61a)の平滑性を高める効果がある。つまり、フロントヘッド(61)の上側面(61a)は、フッ素被膜(70)を介してロータリピストン(67)の下端面(67c)と摺接することになるため、ロータリピストン(67)とフロントヘッド(61)の上側面(61a)との間で摺動摩擦が低減される。続いて、ロータリピストン(67)の上端面(67b)及び下端面(67c)の外周側にフッ素被膜(70)を形成することで、ロータリピストン(67)の中心側から外周側までは潤滑油を供給することができる。このため、ロータリピストン(67)とリアヘッド(62)の下側面(62a)との間は、図7(C)に示すように冷凍機油が介在する。したがって、ロータリピストン(67)とリアヘッドの下側面(62a)及びフロントヘッド(61)の上側面(61a)との間で摺動摩擦が低減される。
次に本実施形態3に係る膨張機構(60)の動作について、図7及び図8を参照しながら説明する。この膨張機構(60)の高圧室(66a)へ超臨界状態の高圧冷媒が流入すると、シャフト(40)が図8の各図における反時計方向へ回転する。
本実施形態3の膨張機構(60)では、上記膨張機構(60)の動作中には、シャフト(40)の回転によって油溜りの潤滑油が給油溝(49)より膨張機構(60)などの摺動部に供給される。ここで、上記膨張機構(60)において、細溝から各摺動部への給油が過剰に行われて余分な潤滑油が生じても、その潤滑油の流体室(66)への流入は、上記フッ素被膜(70)の撥油性によって抑制される。
本実施形態3の膨張機構(60)によると、ロータリピストン(67)の上下端面(67b,67c)の外周側にフッ素被膜(70)を形成したため、ロータリピストン(67)上の外周側に滲み出た潤滑油を弾くことができる。つまり、ロータリピストン(67)の中心から外周側まで潤滑油を供給すると共に、外周側において被膜(70)に弾かれた潤滑油は、被膜(70)との間に形成される界面張力によって被膜(70)上を移動し難くなる。これにより、潤滑油がシリンダ(63)内の流体室(66)に過剰に漏れるのを確実に防止することができる一方、ロータリピストン(67)の外周側に形成されたフッ素被膜(70)より中心側には潤滑油を供給することができる。したがって、ロータリピストン(67)を偏心回転運動させた際に、該ロータリピストン(67)とフロントヘッド(61)及びリアヘッド(62)との間で摺動摩擦が発生するのを確実に防止することができる。これらの結果、シリンダ(63)内の冷媒の熱損失を防止すると同時に、膨張機構(60)の機械損失を低減することができる。その他の構成・作用及び効果は実施形態1と同様である。
〈その他の実施形態〉
本発明は、上記実施形態1〜3について、以下のような構成としてもよい。
本発明に係るフッ素被膜(70)を、ロータリピストン(67)の上下端面(67b,67c)の全面に亘ってのみ形成するようにしてもよい。
尚、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。