以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
《発明の実施形態1》
本発明の実施形態1について説明する。本実施形態は、本発明に係る膨張機(30)を備えた空調機(10)である。
〈空調機の全体構成〉
図1に示すように、本実施形態の空調機(10)は、冷媒回路(11)を備えている。この空調機(10)は、冷媒回路(11)で冷媒を循環させて冷凍サイクルを行う冷凍装置である。冷媒回路(11)には、圧縮機(20)と、膨張機(30)と、室外熱交換器(14)と、室内熱交換器(15)と、第1四方切換弁(12)と、第2四方切換弁(13)とが接続されている。冷媒回路(11)には、冷媒として二酸化炭素(CO2)が充填されている。また、冷媒回路(11)には、給油用配管(17)が設けられている。
冷媒回路(11)の構成について説明する。圧縮機(20)は、その吐出管(26)が第1四方切換弁(12)の第1のポートに接続され、その吸入管(25)が第1四方切換弁(12)の第2のポートに接続されている。膨張機(30)は、その流出管(36)が第2四方切換弁(13)の第1のポートに接続され、その流入管(35)が第2四方切換弁(13)の第2のポートに接続されている。室外熱交換器(14)は、その一端が第1四方切換弁(12)の第3のポートに接続され、その他端が第2四方切換弁(13)の第4のポートに接続されている。室内熱交換器(15)は、その一端が第2四方切換弁(13)の第3のポートに接続され、その他端が第1四方切換弁(12)の第4のポートに接続されている。この冷媒回路(11)では、圧縮機(20)の吸入管(25)と第1四方切換弁(12)の第2のポートとを繋ぐ配管が吸入側配管(16)を構成している。
室外熱交換器(14)は、冷媒を室外空気と熱交換させるための空気熱交換器である。室内熱交換器(15)は、冷媒を室内空気と熱交換させるための空気熱交換器である。第1四方切換弁(12)と第2四方切換弁(13)は、それぞれ、第1のポートと第3のポートが連通し且つ第2のポートと第4のポートが連通する第1状態(図1に実線で示す状態)と、第1のポートと第4のポートが連通し且つ第2のポートと第3のポートが連通する第2状態(図1に破線で示す状態)とに切り換わるように構成されている。
圧縮機(20)は、いわゆる高圧ドームタイプの全密閉型圧縮機である。この圧縮機(20)は、縦長の円筒形に形成された圧縮機ケーシング(24)を備えている。圧縮機ケーシング(24)の内部には、圧縮機構(21)と電動機(23)と駆動軸(22)とが収容されている。圧縮機構(21)は、いわゆるロータリ式の容積型流体機械を構成している。圧縮機ケーシング(24)内では、圧縮機構(21)の上方に電動機(23)が配置されている。駆動軸(22)は、上下方向へ延びる姿勢で配置され、圧縮機構(21)と電動機(23)を連結している。
圧縮機ケーシング(24)には、吸入管(25)と吐出管(26)が設けられている。吸入管(25)は、圧縮機ケーシング(24)の胴部の下端付近を貫通しており、その終端が圧縮機構(21)へ直に接続されている。吐出管(26)は、圧縮機ケーシング(24)の頂部を貫通しており、その始端が圧縮機ケーシング(24)内における電動機(23)の上側の空間に開口している。圧縮機構(21)は、吸入管(25)から吸い込んだ冷媒を圧縮して圧縮機ケーシング(24)内へ吐出する。
圧縮機ケーシング(24)の底部には、潤滑油としての冷凍機油が貯留されている。本実施形態では、ポリアルキレングリコール(PAG)が冷凍機油として用いられる。駆動軸(22)の内部には、図示しないが、その軸方向へ延びる給油通路が形成されている。この給油通路は、駆動軸(22)の下端に開口している。駆動軸(22)の下端は、油溜まり(27)に浸かった状態となっている。圧縮機ケーシング(24)内の冷凍機油は、駆動軸(22)の給油通路を通じて圧縮機構(21)へ供給される。
膨張機(30)は、縦長の円筒形に形成された膨張機ケーシング(34)を備えている。膨張機ケーシング(34)の内部空間(S)には、膨張機構(31)と発電機(33)とが収容されている。膨張機構(31)は、ロータリ式の容積型流体機械を構成する膨張機本体部(32)と、該膨張機本体部(32)に連結する出力軸(40)とで構成されている。膨張機ケーシング(34)内では、膨張機本体部(32)の下方に発電機(33)が配置されている。出力軸(40)は、上下方向へ延びる姿勢で配置され、膨張機本体部(32)と発電機(33)とを連結している。
膨張機ケーシング(34)には、流入管(35)と流出管(36)が設けられている。流入管(35)と流出管(36)は、何れも膨張機ケーシング(34)の胴部の上端付近を貫通している。流入管(35)は、その終端が膨張機本体部(32)へ直に接続されている。流出管(36)は、その始端が膨張機本体部(32)へ直に接続されている。膨張機本体部(32)は、流入管(35)を通って流入した冷媒を膨張させ、膨張後の冷媒を流出管(36)へ送り出す。また、膨張機ケーシング(34)には、給油管(37)が設けられている。給油管(37)は、膨張機ケーシング(34)の胴部の上端付近を貫通し、その終端が膨張機本体部(32)へ直に接続されている。
給油用配管(17)は、その始端が圧縮機(20)に接続され、その終端が膨張機(30)の給油管(37)に接続されている。具体的に、給油用配管(17)の始端部は、圧縮機ケーシング(24)の底部を貫通し、圧縮機ケーシング(24)の内部空間に開口している。この給油用配管(17)の始端部は、圧縮機ケーシング(24)の底に溜まった冷凍機油に浸かった状態となっており、駆動軸(22)の下端と概ね同じ高さに開口している。一方、給油用配管(17)の終端部は、給油管(37)を介して膨張機ケーシング(34)内の膨張機構(31)に直に接続されている。圧縮機ケーシング(24)の底に溜まった冷凍機油は、給油用配管(17)を通って膨張機構(31)へ供給される。
〈膨張機の構成〉
膨張機(30)の構成について説明する。ここでは、出力軸(40)及び膨張機本体部(32)の構成について、図2〜図4を参照しながら詳細に説明する。
図2に示すように、出力軸(40)の上端部には、2つの偏心部(42,43)が形成されている。2つの偏心部(42,43)は、出力軸(40)の主軸部(41)よりも大径に形成されており、下側のものが第1偏心部(42)を、上側のものが第2偏心部(43)をそれぞれ構成している。第1偏心部(42)と第2偏心部(43)とは、何れも同じ方向へ偏心している。第2偏心部(43)の外径は、第1偏心部(42)の外径よりも大きくなっている。主軸部(41)の軸心に対する偏心量は、第2偏心部(43)の方が第1偏心部(42)よりも大きくなっている。
出力軸(40)では、第1偏心部(42)よりも下側の部分と、第2偏心部(43)よりも上側の部分とのそれぞれに、凹溝(45,46)が1つずつ形成されている。第1凹溝(45)は、主軸部(41)のうち第1偏心部(42)よりも下側の部分の上端部に、その全周に亘って形成されている。第2凹溝(46)は、主軸部(41)のうち第2偏心部(43)よりも上側の部分の下端部に、その全周に亘って形成されている。このように、出力軸(40)では、第1偏心部(42)の下端に隣接する部分が全周に亘って括れた第1凹溝(45)となり、第2偏心部(43)の上端に隣接する部分が全周に亘って括れた第2凹溝(46)となっている。
出力軸(40)には、膨張機ケーシング(34)の内部空間(S)と仕切られるようにして軸内油通路(90)が形成されている。軸内油通路(90)は、冷凍機油を流すための油通路であって、主通路部(94)と、第1給油通路部(91)と、第2給油通路部(92)とを備えている。
主通路部(94)は、出力軸(40)のうち膨張機本体部(32)内に位置する部分に形成されており、主軸部(41)の軸心に沿って延びている。また、主通路部(94)は、その上端部分と下端部分のそれぞれが主軸部(41)の径方向へ延びている。主通路部(94)の上端部分は、主軸部(41)の外周面のうち第2凹溝(46)から上方へ幾分離れた部分に開口している。主通路部(94)の下端部分は、主軸部(41)の外周面のうち第1凹溝(45)から下方へ幾分離れた部分に開口している。
第1給油通路部(91)は、出力軸(40)の第1偏心部(42)に形成され、第1偏心部(42)の径方向へ延びている。第1給油通路部(91)は、その基端が主通路部(94)に連通し、その先端が第1偏心部(42)の外周面に開口している。第2給油通路部(92)は、出力軸(40)の第2偏心部(43)に形成され、第2偏心部(43)の径方向へ延びている。第2給油通路部(92)は、その基端が主通路部(94)に連通し、その先端が第2偏心部(43)の外周面に開口している。
膨張機本体部(32)は、いわゆる揺動ピストン型のロータリ式流体機械で構成されている。膨張機本体部(32)には、対になったシリンダ(71,81)及びピストン(75,85)が二組設けられている。また、膨張機本体部(32)には、フロントヘッド(61)と、中間プレート(63)と、リアヘッド(62)とが設けられている。
膨張機本体部(32)では、下から上へ向かって順に、フロントヘッド(61)、第1シリンダ(71)、中間プレート(63)、第2シリンダ(81)、リアヘッド(62)が積層された状態となっている。この状態において、第1シリンダ(71)は、その下側端面がフロントヘッド(61)により閉塞され、その上側端面が中間プレート(63)により閉塞されている。一方、第2シリンダ(81)は、その下側端面が中間プレート(63)により閉塞され、その上側端面がリアヘッド(62)により閉塞されている。つまり、フロントヘッド(61)、中間プレート(63)、及びリアヘッド(62)は、閉塞部材を構成している。また、膨張機本体部(32)では、第2シリンダ(81)の内径が、第1シリンダ(71)の内径よりも大きくなっている。
出力軸(40)は、積層された状態のフロントヘッド(61)、第1シリンダ(71)、中間プレート(63)、第2シリンダ(81)を貫通している。また、出力軸(40)は、その第1偏心部(42)が第1シリンダ(71)内に位置し、その第2偏心部(43)が第2シリンダ(81)内に位置している。
図3及び図4にも示すように、第1シリンダ(71)内には可動部材としての第1ピストン(75)が、第2シリンダ(81)内には可動部材としての第2ピストン(85)がそれぞれ設けられている。第1及び第2ピストン(75,85)は、何れも円環状あるいは円筒状に形成されている。第1ピストン(75)の外径と第2ピストン(85)の外径とは、互いに等しくなっている。第1ピストン(75)の内径は第1偏心部(42)の外径と、第2ピストン(85)の内径は第2偏心部(43)の外径とそれぞれ概ね等しくなっている。そして、第1ピストン(75)には第1偏心部(42)が、第2ピストン(85)には第2偏心部(43)がそれぞれ貫通している。
第1ピストン(75)は、その外周面が第1シリンダ(71)の内周面に、一方の端面がフロントヘッド(61)に、他方の端面が中間プレート(63)にそれぞれ摺接している。第1シリンダ(71)内には、その内周面と第1ピストン(75)の外周面との間に第1流体室(72)が形成される。一方、上記第2ピストン(85)は、その外周面が第2シリンダ(81)の内周面に、一方の端面がリアヘッド(62)に、他方の端面が中間プレート(63)にそれぞれ摺接している。第2シリンダ(81)内には、その内周面と第2ピストン(85)の外周面との間に第2流体室(82)が形成される。
第1及び第2ピストン(75,85)のそれぞれには、ブレード(76,86)が1つずつ一体に設けられている。ブレード(76,86)は、ピストン(75,85)の半径方向へ延びる板状に形成されており、ピストン(75,85)の外周面から外側へ突出している。第1ピストン(75)のブレード(76)は第1シリンダ(71)のブッシュ孔(78)に、第2ピストン(85)のブレード(86)は第2シリンダ(81)のブッシュ孔(88)にそれぞれ挿入されている。各シリンダ(71,81)のブッシュ孔(78,88)は、シリンダ(71,81)を厚み方向へ貫通すると共に、シリンダ(71,81)の内周面に開口している。
各シリンダ(71,81)には、一対のブッシュ(77,87)が一組ずつ設けられている。各ブッシュ(77,87)は、内側面が平面となって外側面が円弧面となるように形成された小片である。各シリンダ(71,81)において、一対のブッシュ(77,87)は、ブッシュ孔(78,88)に挿入されてブレード(76,86)を挟み込んだ状態となる。各ブッシュ(77,87)は、その内側面がブレード(76,86)と摺接し、その外側面がシリンダ(71,81)と摺動する。そして、ピストン(75,85)と一体のブレード(76,86)は、ブッシュ(77,87)を介してシリンダ(71,81)に支持され、シリンダ(71,81)に対して回動自在で且つ進退自在となっている。
第1シリンダ(71)内の第1流体室(72)は、第1ピストン(75)と一体の第1ブレード(76)によって仕切られており、図3,図4における第1ブレード(76)の左側が高圧側の第1高圧室(73)となり、その右側が低圧側の第1低圧室(74)となっている。第2シリンダ(81)内の第2流体室(82)は、第2ピストン(85)と一体の第2ブレード(86)によって仕切られており、図3,図4における第2ブレード(86)の左側が高圧側の第2高圧室(83)となり、その右側が低圧側の第2低圧室(84)となっている。
第1シリンダ(71)と第2シリンダ(81)とは、それぞれの周方向におけるブッシュ(77,87)の位置が一致する姿勢で配置されている。言い換えると、第2シリンダ(81)の第1シリンダ(71)に対する配置角度が0°となっている。上述のように、第1偏心部(42)と第2偏心部(43)とは、主軸部(41)の軸心に対して同じ方向へ偏心している。従って、第1ブレード(76)が第1シリンダ(71)の外側へ最も退いた状態になるのと同時に、第2ブレード(86)が第2シリンダ(81)の外側へ最も退いた状態になる。
第1シリンダ(71)には、流入ポート(67)が形成されている。流入ポート(67)は、第1シリンダ(71)の内周面のうち、図3,図4におけるブッシュ(77)のやや左側の箇所に開口している。流入ポート(67)は、第1高圧室(73)と連通可能となっている。図示しないが、流入ポート(67)には、流入管(35)が接続されている。
第2シリンダ(81)には、流出ポート(68)が形成されている。流出ポート(68)は、第2シリンダ(81)の内周面のうち、図3,図4におけるブッシュ(87)のやや右側の箇所に開口している。流出ポート(68)は、第2低圧室(84)と連通可能となっている。図示しないが、流出ポート(68)には、流出管(36)が接続されている。
中間プレート(63)には、連通路(64)が形成されている。この連通路(64)は、中間プレート(63)を厚み方向へ貫通している。中間プレート(63)における第1シリンダ(71)側の面では、第1ブレード(76)の右側の箇所に連通路(64)の一端が開口している。中間プレート(63)における第2シリンダ(81)側の面では、第2ブレード(86)の左側の箇所に連通路(64)の他端が開口している。そして、図2に示すように、連通路(64)は、中間プレート(63)の厚み方向に対して斜めに延びており、第1低圧室(74)と第2高圧室(83)とを互いに連通させている。
膨張機本体部(32)では、第1シリンダ(71)と、そこに設けられたブッシュ(77)と、第1ピストン(75)と、第1ブレード(76)とが第1ロータリ機構部(70)を構成している。また、膨張機本体部(32)では、第2シリンダ(81)と、そこに設けられたブッシュ(87)と、第2ピストン(85)と、第2ブレード(86)とが第2ロータリ機構部(80)を構成している。第1ロータリ機構部(70)の第1低圧室(74)と、第2ロータリ機構部(80)の第2高圧室(83)とは、連通路(64)を介して互いに連通する。そして、第1低圧室(74)と連通路(64)と第2高圧室(83)とによって1つの閉空間が形成され、この閉空間が膨張室(66)を構成している。
図2に示すように、フロントヘッド(61)は、肉厚の平板状に形成されると共に、その中央部が下方へ突出した形状となっている。また、フロントヘッド(61)の中央部には貫通孔が形成されており、この貫通孔に第1軸受メタル(101)が挿入されている。第1軸受メタル(101)が取り付けられたフロントヘッド(61)には、出力軸(40)の主軸部(41)を回転自在に支持する滑り軸受である主軸受部(100)が形成されている。
第1軸受メタル(101)は、焼結金属等から成る円筒状(あるいは円管状)の部材である。この第1軸受メタル(101)には、出力軸(40)の主軸部(41)が挿通されている。第1軸受メタル(101)の内周面は、主軸部(41)のうち第1凹溝(45)の下端に隣接する部分の外周面と摺接する。第1軸受メタル(101)の内周面には、導油溝(102)が形成されている。この導油溝(102)は、第1軸受メタル(101)の上端から下端に亘って螺旋状に延びる凹溝である。また、この導油溝(102)は、第1軸受メタル(101)の上端から出力軸(40)の回転方向の前方へ向かって斜め下方へ延びている。
また、フロントヘッド(61)は、その貫通孔の下端の周縁に第1オイルシール(104)が設けられている。第1オイルシール(104)は、いわゆるシャフトシールであって、フロントヘッド(61)の貫通孔の内周面と、出力軸(40)の主軸部(41)の外周面との隙間をシールしている。つまり、第1オイルシール(104)は、出力軸(40)と主軸受部(100)との隙間を通じて冷凍機油が内部空間(S)へ流出するのを防止するシール部を構成している。フロントヘッド(61)の貫通孔では、第1オイルシール(104)と第1軸受メタル(101)の間の部分に空間が形成され、この空間が主軸部(41)の外周面に臨む第1油溜め室(103)を構成している。この第1油溜め室(103)は、第1軸受メタル(101)に形成された導油溝(102)を介して第1凹溝(45)と連通している。また、第1油溜め室(103)は、出力軸(40)に形成された軸内油通路(90)の主通路部(94)の下端部分と連通している。
リアヘッド(62)は、肉厚の平板状に形成されている。また、リアヘッド(62)の中央部には貫通孔が形成されており、この貫通孔に第2軸受メタル(111)が挿入されている。第2軸受メタル(111)が取り付けられたリアヘッド(62)には、出力軸(40)の主軸部(41)を回転自在に支持する滑り軸受である副軸受部(110)が形成されている。
第2軸受メタル(111)は、焼結金属等から成る円筒状(あるいは円管状)の部材である。この第2軸受メタル(111)には、出力軸(40)の主軸部(41)が挿通されている。第2軸受メタル(111)の内周面は、主軸部(41)のうち第2凹溝(46)の上端に隣接する部分の外周面と摺接する。第2軸受メタル(111)の内周面には、導油溝(112)が形成されている。この導油溝(112)は、第2軸受メタル(111)の下端から上端に亘って螺旋状に延びる凹溝である。また、この導油溝(112)は、第2軸受メタル(111)の下端から出力軸(40)の回転方向の前方へ向かって斜め上方へ延びている。
また、リアヘッド(62)は、その貫通孔の上端の周縁に第2オイルシール(114)が設けられている。第2オイルシール(114)は、いわゆるシャフトシールであって、リアヘッド(62)の貫通孔の内周面と、出力軸(40)の主軸部(41)の外周面との隙間をシールしている。つまり、第2オイルシール(114)は、出力軸(40)と副軸受部(110)との間の隙間を通じて冷凍機油が内部空間(S)へ流出するのを防止するシール部を構成している。リアヘッド(62)の貫通孔では、第2オイルシール(114)と第2軸受メタル(111)の間の部分に空間が形成され、この空間が主軸部(41)の外周面に臨む第2油溜め室(113)を構成している。この第2油溜め室(113)は、第2軸受メタル(111)に形成された導油溝(112)を介して第2凹溝(46)と連通している。また、第2油溜め室(113)は、出力軸(40)に形成された軸内油通路(90)の主通路部(94)の上端部分と連通している。
更に膨張機本体部(32)には、本体側油通路(95)が形成されている。本体側油通路(95)は、第1通路部(96)と、第2通路部(97)と、配管接続部(98)と、接続通路部(99)とを備えている。そして、膨張機本体部(32)では、第1シリンダ(71)に形成されたブッシュ孔(78)と、第2シリンダ(81)に形成されたブッシュ孔(88)とが、第1通路部(96)、第2通路部(97)、配管接続部(98)、及び接続通路部(99)と共に本体側油通路(95)を構成している。
第1通路部(96)は、フロントヘッド(61)に形成されている。第1通路部(96)は、その始端がフロントヘッド(61)の上面に開口し、第1シリンダ(71)のブッシュ孔(78)と連通している。第1通路部(96)の終端は、貫通孔の内周面のうち第1凹溝(45)に面する部分に開口している。この第1通路部(96)は、ブッシュ孔(78)と第1凹溝(45)とを連通させている。
第2通路部(97)及び配管接続部(98)は、リアヘッド(62)に形成されている。配管接続部(98)は、リアヘッド(62)の外周面に開口する穴である。また、配管接続部(98)は、第2シリンダ(81)に形成されたブッシュ孔(88)に連通している。この配管接続部(98)には、給油管(37)が挿入されている。一方、第2通路部(97)は、その始端が配管接続部(98)に連通している。第2通路部(97)の終端は、貫通孔の内周面のうち第2凹溝(46)に面する部分に開口している。この第2通路部(97)は、配管接続部(98)と第2凹溝(46)とを連通させている。
接続通路部(99)は、中間プレート(63)に形成されている。接続通路部(99)は、中間プレート(63)をその厚さ方向に貫通し、第1シリンダ(71)のブッシュ孔(78)と、第2シリンダ(81)に形成されたブッシュ孔(88)とを連通させている。
本実施形態の膨張機構(31)では、出力軸(40)の軸方向の両端部が膨張機ケーシング(34)の内部空間(S)に露出されるように膨張機本体部(32)を貫通している。つまり、出力軸(40)の上端部は、膨張機本体部(32)から膨張機ケーシング(34)の内部空間(S)に向かって上方に延出している。同様に、出力軸(40)の下端部は、膨張機本体部(32)から膨張機ケーシング(34)の内部空間(S)に向かって下方に延出している。ここで、内部空間(S)の圧力は、膨張機構(31)で膨張した冷媒の圧力(即ち、冷凍サイクルの低圧)と同等となっている。従って、出力軸(40)では、その軸方向の両端部に同等の低圧が作用している。
−運転動作−
上記空調機の動作について説明する。
〈冷房運転〉
冷房運転時には、第1四方切換弁(12)及び第2四方切換弁(13)が第1状態(図1に実線で示す状態)に設定され、冷媒回路(11)で冷媒が循環して蒸気圧縮冷凍サイクルが行われる。この冷媒回路(11)で行われる冷凍サイクルは、その高圧が冷媒である二酸化炭素の臨界圧力よりも高い値に設定されている。
圧縮機(20)では、電動機(23)によって圧縮機構(21)が回転駆動される。圧縮機構(21)は、吸入管(25)から吸い込んだ冷媒を圧縮して圧縮機ケーシング(24)内へ吐出する。圧縮機ケーシング(24)内の高圧冷媒は、吐出管(26)を通って圧縮機(20)から吐出される。圧縮機(20)から吐出された冷媒は、室外熱交換器(14)へ送られて室外空気へ放熱する。室外熱交換器(14)で放熱した高圧冷媒は、膨張機(30)へ流入する。
膨張機(30)では、流入管(35)を通って膨張機構(31)へ流入した高圧冷媒が膨張し、それによって発電機(33)が回転駆動される。発電機(33)で発生した電力は、圧縮機(20)の電動機(23)へ供給される。膨張機構(31)で膨張した冷媒は、流出管(36)を通って膨張機(30)から送り出される。膨張機(30)から送出された冷媒は、室内熱交換器(15)へ送られる。室内熱交換器(15)では、流入した冷媒が室内空気から吸熱して蒸発し、室内空気が冷却される。室内熱交換器(15)から出た低圧冷媒は、圧縮機(20)の吸入管(25)へ流入する。
〈暖房運転〉
暖房運転時には、第1四方切換弁(12)及び第2四方切換弁(13)が第2状態(図1に破線で示す状態)に設定され、冷媒回路(11)で冷媒が循環して蒸気圧縮冷凍サイクルが行われる。冷房運転時と同様に、この冷媒回路(11)で行われる冷凍サイクルは、その高圧が冷媒である二酸化炭素の臨界圧力よりも高い値に設定されている。
圧縮機(20)では、電動機(23)によって圧縮機構(21)が回転駆動される。圧縮機構(21)は、吸入管(25)から吸い込んだ冷媒を圧縮して圧縮機ケーシング(24)内へ吐出する。圧縮機ケーシング(24)内の高圧冷媒は、吐出管(26)を通って圧縮機(20)から吐出される。圧縮機(20)から吐出された冷媒は、室内熱交換器(15)へ送られる。室内熱交換器(15)では、流入した冷媒が室内空気へ放熱し、室内空気が加熱される。室内熱交換器(15)で放熱した高圧冷媒は、膨張機(30)へ流入する。
膨張機(30)では、流入管(35)を通って膨張機構(31)へ流入した高圧冷媒が膨張し、それによって発電機(33)が回転駆動される。発電機(33)で発生した電力は、圧縮機(20)の電動機(23)へ供給される。膨張機構(31)で膨張した冷媒は、流出管(36)を通って膨張機(30)から送り出される。膨張機(30)から送出された冷媒は、室外熱交換器(14)へ送られる。室外熱交換器(14)では、流入した冷媒が室外空気から吸熱して蒸発する。室外熱交換器(14)から出た低圧冷媒は、圧縮機(20)の吸入管(25)へ流入する。
〈圧縮機及び膨張機の潤滑動作〉
圧縮機(20)と膨張機(30)を冷凍機油により潤滑する動作について説明する。
圧縮機(20)では、圧縮機ケーシング(24)の内圧が、圧縮機構(21)から吐出された冷媒の圧力とほぼ同じになっている。このため、圧縮機ケーシング(24)の底に溜まった冷凍機油の圧力も、圧縮機構(21)から吐出された冷媒の圧力とほぼ同じになっている。一方、圧縮機構(21)は、吸入管(25)から低圧冷媒を吸入する。従って、圧縮機構(21)には、圧縮機ケーシング(24)の内圧よりも低圧となる部分が存在する。このため、圧縮機ケーシング(24)の底に溜まった冷凍機油は、駆動軸(22)内の給油通路を通って圧縮機構(21)へ流入し、圧縮機構(21)の潤滑に利用される。圧縮機構(21)へ供給された冷凍機油は、圧縮された冷媒と共に圧縮機ケーシング(24)内へ吐出され、再び圧縮機ケーシング(24)の底部へ戻ってくる。
冷媒回路(11)を循環する冷媒の圧力は、圧縮機(20)から膨張機(30)へ至るまでの間に幾分低下する。このため、膨張機構(31)を通過する冷媒の圧力は、必然的に圧縮機ケーシング(24)の内圧よりも低くなる。また、膨張機構(31)に形成された流体室(72,82)では冷媒が膨張するため、膨張機構(31)内には膨張機構(31)へ流入する冷媒よりも更に低圧の部分が必ず存在する。このため、圧縮機ケーシング(24)の底に溜まった冷凍機油は、給油用配管(17)を通って膨張機構(31)へ流入する。
膨張機構(31)に流入した冷凍機油は、膨張機構(31)の潤滑に利用される。その後、この冷凍機油は、そのほぼ全量が膨張後の冷媒と共に膨張機(30)から流出する。冷媒と共に膨張機(30)から流出した冷凍機油は、冷媒と共に冷媒回路(11)内を流れて圧縮機(20)へ吸入される。なお、膨張機構(31)における冷凍機油の流通経路については、後述する。
圧縮機(20)の圧縮機構(21)へ冷媒と共に吸入された冷凍機油は、圧縮後の冷媒と共に圧縮機構(21)から圧縮機ケーシング(24)の内部空間へ吐出され、その後に圧縮機ケーシング(24)の底部へと流れ落ちてゆく。
〈膨張機構の動作〉
先ず、膨張機構(31)の運転動作について、図4を参照しながら説明する。
第1ロータリ機構部(70)の第1高圧室(73)へ超臨界状態の高圧冷媒が流入する過程について説明する。回転角が0°の状態から出力軸(40)が僅かに回転すると、第1ピストン(75)と第1シリンダ(71)の接触位置が流入ポート(67)の開口部を通過し、流入ポート(67)から第1高圧室(73)へ高圧冷媒が流入し始める。その後、出力軸(40)の回転角が90°,180°,270°と次第に大きくなるにつれて、第1高圧室(73)へ高圧冷媒が流入してゆく。この第1高圧室(73)への高圧冷媒の流入は、出力軸(40)の回転角が360°に達するまで続く。
膨張機構(31)において冷媒が膨張する過程について説明する。回転角が0°の状態から出力軸(40)が僅かに回転すると、第1低圧室(74)と第2高圧室(83)が連通路(64)を介して互いに連通し、第1低圧室(74)から第2高圧室(83)へと冷媒が流入し始める。その後、出力軸(40)の回転角が90°,180°,270°と次第に大きくなるにつれ、第1低圧室(74)の容積が次第に減少すると同時に第2高圧室(83)の容積が次第に増加し、結果として膨張室(66)の容積が次第に増加してゆく。この膨張室(66)の容積増加は、出力軸(40)の回転角が360°に達する直前まで続く。そして、膨張室(66)の容積が増加する過程で膨張室(66)内の冷媒が膨張し、この冷媒の膨張によって出力軸(40)が回転駆動される。このように、第1低圧室(74)内の冷媒は、連通路(64)を通って第2高圧室(83)へ膨張しながら流入してゆく。
第2ロータリ機構部(80)の第2低圧室(84)から冷媒が流出してゆく過程について説明する。第2低圧室(84)は、出力軸(40)の回転角が0°の時点から流出ポート(68)に連通し始める。つまり、第2低圧室(84)から流出ポート(68)へと冷媒が流出し始める。その後、出力軸(40)の回転角が90°,180°,270°と次第に大きくなってゆき、その回転角が360°に達するまでの間に亘って、第2低圧室(84)から膨張後の低圧冷媒が流出してゆく。
次に、膨張機構(31)における冷凍機油の流通経路について、図2を参照しながら説明する。
膨張機構(31)へは、圧縮機ケーシング(24)内に貯留された高圧の冷凍機油が、給油用配管(17)を通じて供給される。給油用配管(17)を流れる冷凍機油は、給油管(37)を通って配管接続部(98)へ導入される。配管接続部(98)へ流入した冷凍機油は、その一部が第2シリンダ(81)のブッシュ孔(88)へ流入し、残りが第2通路部(97)へ流入する。
第2シリンダ(81)のブッシュ孔(88)へ流入した冷凍機油の一部は、第2シリンダ(81)とブッシュ(87)の摺動部や、第2ブレード(86)とブッシュ(87)の摺動部へ供給され、潤滑に利用された後に第2シリンダ(81)内の第2流体室(82)へ流入する。一方、このブッシュ孔(88)へ流入した冷凍機油の残りは、接続通路部(99)を通って第1シリンダ(71)のブッシュ孔(78)へ流入する。
第1シリンダ(71)のブッシュ孔(78)へ流入した冷凍機油の一部は、第1シリンダ(71)とブッシュ(77)の摺動部や、第1ブレード(76)とブッシュ(77)の摺動部へ供給され、潤滑に利用された後に第1シリンダ(71)内の第1流体室(72)へ流入する。一方、このブッシュ孔(88)へ流入した冷凍機油の残りは、第1通路部(96)へ流入する。
第1通路部(96)へ流入した冷凍機油は、第1通路部(96)を通って第1凹溝(45)へ流入する。第1凹溝(45)へ流入した冷凍機油は、第1軸受メタル(101)と主軸部(41)の隙間へ流入し、第1軸受メタル(101)と主軸部(41)の摺動面の潤滑に利用される。また、第1軸受メタル(101)に形成された導油溝(102)では、主軸部(41)の回転方向の前方に向かって(即ち、導油溝(102)の上端から下端へ向かって)冷凍機油が流れる。
このように、主軸受部(100)における第1軸受メタル(101)と主軸部(41)の隙間では、その上端から下端へ向かって冷凍機油が流れる。このため、第1軸受メタル(101)と主軸部(41)の摺動によって生じた熱は、第1軸受メタル(101)と主軸部(41)の隙間を流れる冷凍機油によって奪われる。第1軸受メタル(101)と主軸部(41)の隙間を通過した冷凍機油は、第1油溜め室(103)を通って軸内油通路(90)の主通路部(94)の下端へ流入する。その際、第1油溜め室(103)の下端は第1オイルシール(104)によってシールされているため、第1油溜め室(103)へ流入した冷凍機油は、そのほぼ全量が主通路部(94)の下端部分へ流入する。
第2通路部(97)へ流入した冷凍機油は、第2凹溝(46)へ送られる。第2凹溝(46)へ流入した冷凍機油は、第2軸受メタル(111)と主軸部(41)の隙間へ流入し、第2軸受メタル(111)と主軸部(41)の摺動面の潤滑に利用される。また、第2軸受メタル(111)に形成された導油溝(112)では、主軸部(41)の回転方向の前方に向かって(即ち、導油溝(112)の下端から上端へ向かって)冷凍機油が流れる。
このように、主軸受部(100)における第2軸受メタル(111)と主軸部(41)の隙間では、その下端から上端へ向かって冷凍機油が流れる。このため、第2軸受メタル(111)と主軸部(41)の摺動によって生じた熱は、第2軸受メタル(111)と主軸部(41)の隙間を流れる冷凍機油によって奪われる。第2軸受メタル(111)と主軸部(41)の隙間を通過した冷凍機油は、第2油溜め室(113)を通って軸内油通路(90)の主通路部(94)の上端へ流入する。その際、第2油溜め室(113)の上端は第2オイルシール(114)によってシールされているため、第2油溜め室(113)へ流入した冷凍機油は、そのほぼ全量が主通路部(94)の上端部分へ流入する。
軸内油通路(90)の主通路部(94)へ流入した冷凍機油は、その一部が第1給油通路部(91)を通って第1偏心部(42)と第1ピストン(75)の摺動部へ供給され、残りが第2偏心部(43)と第2ピストン(85)の摺動部へ供給される。第1偏心部(42)と第1ピストン(75)の潤滑に利用された冷凍機油は、フロントヘッド(61)及び中間プレート(63)と第1ピストン(75)の端面との隙間へ流入し、潤滑に利用された後に第1シリンダ(71)内の第1流体室(72)へ流入する。一方、第2偏心部(43)と第2ピストン(85)の潤滑に利用された冷凍機油は、リアヘッド(62)及び中間プレート(63)と第2ピストン(85)の端面との隙間へ流入し、潤滑に利用された後に第2シリンダ(81)内の第2流体室(82)へ流入する。
本実施形態の膨張機構(31)において、給油用配管(17)を通じて圧縮機(20)から供給された冷凍機油は、膨張機構(31)の摺動部の潤滑に利用された後に、第1シリンダ(71)内の第1流体室(72)又は第2シリンダ(81)内の第2流体室(82)へ流入する。第1流体室(72)へ流入した冷凍機油は、第1流体室(72)内の冷媒と共に連通路(64)を通って第2流体室(82)へ流入する。つまり、この膨張機構(31)では、給油用配管(17)から供給された冷凍機油のほぼ全量が、最終的に第2シリンダ(81)内の第2流体室(82)へ流入する。そして、第2流体室(82)へ流入した冷凍機油は、第2流体室(82)内の冷媒と共に流出ポート(68)を通って膨張機構(31)から排出されてゆく。
−実施形態1の効果−
本実施形態の膨張機(30)では、低圧雰囲気となる内部空間(S)に出力軸(40)の両端部を露出させている。これにより、出力軸(40)の第1偏心部(42)や第2偏心部(43)のスラスト軸受けに作用するスラスト荷重を低減できる。
即ち、例えば図11に例示する膨張機(200)では、出力軸(207)の上端部がリアヘッド(62)で覆われており、この部位に高圧の冷凍機油の圧力が作用している。このため、出力軸(207)は、この冷凍機油の圧力により下方に押し付けられることから、出力軸(207)の偏心部(210)のスラスト軸受け(即ち、偏心部(210)の下側)に作用するスラスト荷重が増大してしまう。その結果、この部位での摺動抵抗が増大し、機械損失の増大や焼き付きの原因となってしまう。
これに対し、上記実施形態では、出力軸(40)の両端部がそれぞれ内部空間(S)に露出されていることから、出力軸(40)に対して軸方向の押し付け力が作用することがない。このため、出力軸(40)の第1偏心部(42)や第2偏心部(43)のスラスト軸受けでは、必要最小限のスラスト荷重しか作用しない。従って、各偏心部(42,43)のスラスト軸受けでの摺動抵抗が小さくなるので、機械損失を低減でき、且つ焼き付きの発生を防止して膨張機(30)の信頼性を確保できる。
また、本実施形態の膨張機(30)では、膨張機構(31)が収容される膨張機ケーシング(34)の内部空間の圧力が、膨張機構(31)で膨張した冷媒の圧力(即ち、冷凍サイクルの低圧)と同等となっている。このため、膨張機ケーシング(34)内における膨張機構(31)の周囲の雰囲気の温度が比較的低温(例えば0℃〜10℃程度)となり、膨張機構(31)の周囲の冷媒から膨張機構(31)の内部の冷媒へ移動する熱量を大幅に削減することができる。その結果、膨張機構(31)から流出する膨張後の冷媒のエンタルピを低く抑えることができ、膨張機(30)が設けられる空調機(10)の能力を向上させることができる。
また、本実施形態の膨張機(30)では、圧縮機ケーシング(24)内に貯留された高圧の冷凍機油(即ち、その圧力が冷凍サイクルの高圧と同程度の冷凍機油)が、所定の油通路を通じて膨張機構(31)の出力軸(40)の摺動部へ供給される。即ち、上記実施形態では、冷媒回路(11)の高圧を利用して冷凍機油を摺動部へ搬送している。その結果、冷凍機油の搬送手段として給油ポンプ等を用いることを要しないので、装置構造の簡素化、動力の削減を図ることができる。
また、本実施形態の膨張機(30)では、給油管(37)から膨張機構(31)へ供給された冷凍機油が、第1軸受メタル(101)と出力軸(40)の隙間や、第2軸受メタル(111)と出力軸(40)の隙間を確実に通過する。従って、本実施形態によれば、軸受メタル(101,111)と出力軸(40)の潤滑を確実に行うことができると共に、軸受メタル(101,111)や出力軸(40)を冷凍機油によって確実に冷却することができ、軸受メタル(101,111)と出力軸(40)の焼き付きを確実に回避することができる。
更に、膨張機構(31)のフロントヘッド(61)とリアヘッド(62)のそれぞれにオイルシール(104,114)が設けられている。これらのオイルシール(104,114)は、フロントヘッド(61)やリアヘッド(62)と出力軸(40)の隙間を通って膨張機構(31)から流出しようとする冷凍機油を封止する。このため、給油管(37)から膨張機構(31)へ供給された冷凍機油は、そのほぼ全量が膨張室(66)内で膨張した冷媒と共に膨張機構(31)から排出される。
ここで、膨張機ケーシング(34)内に冷凍機油が溜まり込むと、膨張機ケーシング(34)内から冷凍機油を排出するための配管等が必要となり、膨張機(30)の構造が複雑化する。それに対し、本実施形態の膨張機(30)では、膨張機構(31)から膨張機ケーシング(34)の内部空間(S)への冷凍機油の漏洩が、オイルシール(104,114)によって抑えられている。従って、本実施形態によれば、低圧となった膨張機ケーシング(34)の内部空間(S)に冷凍機油が溜まり込むのを回避でき、膨張機ケーシング(34)内から冷凍機油を排出するための配管等を省略して膨張機(30)の構成が複雑化するのを回避できる。
《発明の実施形態2》
本発明の実施形態2について説明する。本実施形態は、上記実施形態1の空調機(10)において、膨張機(30)に対する冷凍機油の供給元を変更したものである。ここでは、本実施形態の空調機(10)について、上記実施形態1と異なる点を説明する。
図5に示すように、本実施形態の空調機(10)では、冷媒回路(11)に油分離器(19)が設けられている。冷媒回路(11)において、油分離器(19)は、第2四方切換弁(13)の第2のポートと膨張機(30)の流入管(35)との間に設けられている。この油分離器(19)には、室外熱交換器(14)と室内熱交換器(15)のうちガスクーラ(放熱器)として動作する方を通過した超臨界状態の冷媒が流入する。この油分離器(19)は、流入した冷媒から冷凍機油を分離し、冷凍機油が除去された冷媒を膨張機(30)へ向けて送り出す。
また、本実施形態の冷媒回路(11)において、給油用配管(17)は、油分離器(19)の底部に接続されており、油分離器(19)内の冷凍機油を膨張機(30)の給油管(37)へ供給する。上述したように、油分離器(19)へ流入する冷媒の圧力は、冷凍サイクルの高圧と同等になっている。このため、油分離器(19)内の冷凍機油の圧力も冷凍サイクルの高圧と同等となる。従って、膨張機(30)に対しては、その圧力が冷凍サイクルの高圧と同等となっている冷凍機油が給油用配管(17)を通じて油分離器(19)から供給される。
−実施形態2の変形例−
本実施形態では、冷媒回路(11)における油分離器(19)の接続位置を変更してもよい。
図6に示すように、本変形例の冷媒回路(11)では、圧縮機(20)の吐出管(26)と第1四方切換弁(12)の第1のポートとの間に油分離器(19)が設けられている。この油分離器(19)には、圧縮機(20)から吐出された超臨界状態の冷媒が流入する。この油分離器(19)は、流入した冷媒から冷凍機油を分離し、冷凍機油が除去された冷媒を第1四方切換弁(12)へ向けて送り出す。
なお、本変形例の冷媒回路(11)においても、給油用配管(17)が油分離器(19)の底部に接続されている点は上記実施形態2と同様である。そして、膨張機(30)に対しては、その圧力が冷凍サイクルの高圧と同等となっている冷凍機油が給油用配管(17)を通じて油分離器(19)から供給される。
《発明の実施形態3》
本発明の実施形態3について説明する。本実施形態の空調機(10)は、上記実施形態1において膨張機(30)の構成を変更したものである。ここでは、本実施形態の膨張機(30)について、上記実施形態1と異なる点を説明する。
図7に示すように、出力軸(40)の上端部には、1つの偏心部(44)が形成されている。この偏心部(44)は、出力軸(40)の主軸部(41)よりも大径に形成されている。上記実施形態1と同様に、出力軸(40)には、軸内油通路(90)が形成されている。ただし、本実施形態の軸内油通路(90)は、給油通路部(93)が1つだけ設けられている。この給油通路部(93)は、その基端が主通路部(94)に連通し、その先端が偏心部(44)の外周面に開口している。
膨張機構(31)は、いわゆる揺動ピストン型のロータリ式流体機械で構成されている。この膨張機構(31)には、フロントヘッド(61)と、シリンダ(51)と、ピストン(55)と、リアヘッド(62)とが1つずつ設けられている。
膨張機構(31)では、下から上へ向かって順に、フロントヘッド(61)、シリンダ(51)、リアヘッド(62)が積層された状態となっている。この状態において、シリンダ(51)は、その下側端面がフロントヘッド(61)により閉塞され、その上側端面がリアヘッド(62)により閉塞されている。つまり、本実施形態の膨張機構(31)では、フロントヘッド(61)及びリアヘッド(62)が閉塞部材を構成している。
出力軸(40)は、積層された状態のフロントヘッド(61)、シリンダ(51)、リアヘッド(62)を貫通している。また、出力軸(40)は、その偏心部(44)がシリンダ(51)内に位置している。
図8にも示すように、シリンダ(51)内にはピストン(55)が設けられている。このピストン(55)は、円環状あるいは円筒状に形成されている。ピストン(55)の内径は偏心部(44)の外径と概ね等しくなっている。そして、ピストン(55)には出力軸(40)の偏心部(44)が貫通している。
ピストン(55)は、その外周面がシリンダ(51)の内周面に、一方の端面がフロントヘッド(61)に、他方の端面がリアヘッド(62)にそれぞれ摺接している。シリンダ(51)内には、その内周面とピストン(55)の外周面との間に流体室(52)が形成される。
ピストン(55)には、ブレード(56)が一体に設けられている。ブレード(56)は、ピストン(55)の半径方向へ延びる板状に形成されており、ピストン(55)の外周面から外側へ突出している。このブレード(56)はシリンダ(51)のブッシュ孔(58)に挿入されている。シリンダ(51)のブッシュ孔(58)は、シリンダ(51)を厚み方向へ貫通すると共に、シリンダ(51)の内周面に開口している。
シリンダ(51)には、一対のブッシュ(57)が設けられている。各ブッシュ(57)は、内側面が平面となって外側面が円弧面となるように形成された小片である。シリンダ(51)において、一対のブッシュ(57)は、ブッシュ孔(58)に挿入されてブレード(56)を挟み込んだ状態となる。ブッシュ(57)は、その内側面がブレード(56)と摺接し、その外側面がシリンダ(51)と摺動する。そして、ピストン(55)と一体のブレード(56)は、ブッシュ(57)を介してシリンダ(51)に支持され、シリンダ(51)に対して回動自在で且つ進退自在となっている。
シリンダ(51)内の流体室(52)は、ピストン(55)と一体のブレード(56)によって仕切られており、図8におけるブレード(56)の左側が高圧側の高圧室(53)となり、その右側が低圧側の低圧室(54)となっている。フロントヘッド(61)には流入ポート(67)が形成されている。流入ポート(67)は、フロントヘッド(61)の上面のうち高圧室(53)に臨む部分に開口している。また、流入ポート(67)の開口位置は、シリンダ(51)の内周面の近傍で且つ図8におけるブレード(56)の左側近傍に設定されている。シリンダ(51)には流出ポート(68)が形成されている。流出ポート(68)は、シリンダ(51)の内周面のうち、図8におけるブッシュ(57)のやや右側の箇所に開口している。この流出ポート(68)は、低圧室(54)と連通可能となっている。
なお、フロントヘッド(61)に主軸受部(100)が形成され、リアヘッド(62)に副軸受部(110)が形成されている点は、上記実施形態1と同様である。また、第1通路部(96)がフロントヘッド(61)に形成され、配管接続部(98)と第2通路部(97)がリアヘッド(62)に形成されている点も、上記実施形態1と同様である。ただし、本実施形態の膨張機構(31)に中間プレート(63)は設けられていない。従って、本実施形態の膨張機構(31)に形成された本体側油通路(95)は、第1通路部(96)と、第2通路部(97)と、配管接続部(98)と、シリンダ(51)に形成されたブッシュ孔(58)とによって構成される。
−運転動作−
空調機(10)の冷房運転及び暖房運転や、圧縮機構(21)及び膨張機構(31)へ冷凍機油を供給する動作は、上記実施形態1の場合と同様である。ここでは、本実施形態の膨張機構(31)が冷媒から動力を回収する動作について、図8を参照しながら説明する。
出力軸(40)が図8(a)の状態(回転角が0°の状態)から同図の反時計方向へ僅かに回転すると、流入ポート(67)が高圧室(53)と連通し、流入ポート(67)から高圧室(53)へ高圧冷媒が流入する。この時、低圧室(54)は流出ポート(68)と連通しており、低圧室(54)の圧力は冷凍サイクルの低圧と概ね等しくなっている。このため、ピストン(55)は高圧室(53)へ流入した冷媒によって押し動かされ、出力軸(40)が同図の反時計方向へ回転を続ける。
そして、図8(b)〜(d)に順次示すように、高圧室(53)の容積はピストン(55)が移動するのにつれて拡大する一方、低圧室(54)の容積はピストン(55)が移動するのにつれて縮小してゆく。その後、ピストン(55)は同図(a)の状態に戻るが、慣性力によって回転し続け、再び高圧室(53)に流入ポート(67)が連通すると同時に低圧室(54)に流出ポート(68)が連通する状態となり、出力軸(40)が継続的に回転駆動される。
本実施形態の膨張機構(31)における冷凍機油の流通経路は、上記実施形態1と概ね同様である。
具体的に、給油用配管(17)から給油管(37)を通って配管接続部(98)へ流入した冷凍機油は、その一部がシリンダ(51)のブッシュ孔(58)へ流入し、残りが第2通路部(97)へ流入する。
シリンダ(51)のブッシュ孔(58)へ流入した冷凍機油の一部は、シリンダ(51)とブッシュ(57)の摺動部や、ブレード(56)とブッシュ(57)の摺動部へ供給され、潤滑に利用された後にシリンダ(51)内の流体室(52)へ流入する。このブッシュ孔(58)へ流入した冷凍機油の残りは、第1通路部(96)へ流入する。第1通路部(96)へ流入した冷凍機油は、第1凹溝(45)を通って第1軸受メタル(101)と主軸部(41)の隙間へ流入し、両者の摺動面を潤滑した後に第1油溜め室(103)を通って軸内油通路(90)の主通路部(94)の下端へ流入する。一方、第2給油通路部(92)へ流入した冷凍機油は、第2凹溝(46)を通って第2軸受メタル(111)と主軸部(41)の隙間へ流入し、両者の摺動面を潤滑した後に第2油溜め室(113)を通って軸内油通路(90)の主通路部(94)の上端へ流入する。
軸内油通路(90)の主通路部(94)へ流入した冷凍機油は、給油通路部(93)を通って偏心部(44)とピストン(55)の摺動部へ供給される。偏心部(44)とピストン(55)の潤滑に利用された冷凍機油は、フロントヘッド(61)及びリアヘッド(62)とピストン(55)の端面との隙間へ流入し、潤滑に利用された後にピストン(55)内の流体室(52)へ流入する。そして、流体室(52)内へ流入した冷凍機油は、冷媒と共に流出ポート(68)を通って膨張機構(31)から排出されてゆく。
《その他の実施形態》
上記の各実施形態の膨張機(30)では、膨張機構(31)のオイルシール(104,114)を省略してもよい。この場合には、膨張機構(31)のフロントヘッド(61)やリアヘッド(62)と出力軸(40)の隙間を通って冷凍機油が多少漏れ出し、漏れ出た冷凍機油が膨張機ケーシング(34)の底部に溜まり込む。そこで、図9に示すように、本変形例の膨張機(30)が接続される冷媒回路(11)には、油戻し用配管(18)が設けられる。
油戻し用配管(18)は、その始端が膨張機(30)に接続され、その終端が吸入側配管(16)に接続されている。具体的に、油戻し用配管(18)の始端部は、膨張機ケーシング(34)の底部を貫通し、膨張機ケーシング(34)の内部空間(S)に開口している。この油戻し用配管(18)の始端部は、膨張機ケーシング(34)の底面付近に開口している。一方、油戻し用配管(18)の終端部は、吸入側配管(16)に接続されている。
膨張機ケーシング(34)の底に溜まった冷凍機油は、油戻し用配管(18)を通って吸入側配管(16)へ流入し、吸入側配管(16)を流れる冷媒と共に圧縮機(20)へ吸入される。吸入側配管(16)を流れる冷媒の圧力は、冷媒回路(11)内で最も低くなっている。このため、膨張機ケーシング(34)内の冷凍機油は、油戻し用配管(18)を流れて吸入側配管(16)に流入する。
また、上記実施形態1では、シール部としてのオイルシール(104,114)を用いているが、これに代わってシール部としてのクリアランスシール(105,115)を用いるようにしても良い。具体的には、図10に示すように、主軸受部(100)において、フロントヘッド(61)の貫通孔の開口端の内径を上記第1油溜め室(103)の内径よりも短くすることで第1クリアランスシール部(105)を形成する。同様に、副軸受部(110)において、リアヘッド(62)の貫通孔の開口端の内径を上記第2油溜め室(113)の内径よりも短くすることで第2クリアランスシール部(115)を形成する。これらのクリアランスシール部(105,115)により、各軸受部(100,110)の隙間における冷凍機油の流出を防止することができる。
また、上記実施形態では、膨張機構(31)がいわゆるローリングピストン型のロータリ式流体機械で構成されていてもよい。この場合、膨張機構(31)では、ブレード(56,75,86)がピストン(55,75,85)と別体に形成される。そして、ブレード(56,75,86)は、シリンダ(51,71,81)に対して進退自在に支持され、その先端がピストン(55,75,85)の外周面に押し付けられる。
また、上記各実施形態では、膨張機構(31)がスクロール型の流体機械で構成されていてもよい。この場合、膨張機構(31)では、固定スクロールと可動スクロールによって形成された膨張室内で冷媒が膨張し、可動部材である可動スクロールに係合する出力軸(40)が回転駆動される。更に、上記の各実施形態では冷凍装置によって空調機を構成しているが、冷凍装置によって給湯機を構成し、圧縮機(20)から吐出された冷媒によって水を加熱して温水を生成するようにしてもよい。
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。