ところで、この種の回転式流体機械では、外側シリンダの先端に形成される隙間や、内側シリンダの先端に形成される隙間や、環状ピストンの先端に形成される隙間を通じて連通する空間の間の圧力差が、運転中にそれぞれ変化する。そして、各隙間を通じて連通する空間の間の圧力差が増大すると、圧力が高い空間から低い空間へ流体が移動し、シリンダ室における流体漏れが生じる。具体的に、環状ピストンの先端の隙間を通じて内側シリンダ室と外側シリンダ室と間で流体漏れが生じ、外側シリンダの先端の隙間を通じての外側シリンダ室とその外側の空間との間で流体漏れが生じ、内側シリンダの先端の隙間を通じての内側シリンダ室とその内側の空間との間で流体漏れが生じる。そして、このようなシリンダ室における流体漏れが生じると、回転式流体機械の運転効率が低下してしまう。
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするこころは、回転式流体機械において、運転中のシリンダ室における流体漏れを減少させて、運転効率を向上させることにある。
第1の発明は、環状のシリンダ室(41,42)を有するシリンダ(40)と、該シリンダ(40)に対して偏心してシリンダ室(41,42)に収納され、シリンダ室(41,42)を外側シリンダ室(41)と内側シリンダ室(42)とに区画する環状ピストン(45)と、上記環状ピストン(45)を上記シリンダ(40)の径方向に挿通して該シリンダ(40)に固定され、上記各シリンダ室(41,42)を高圧室(41a,42a)と低圧室(41b,42b)とに区画するブレード(46)と、上記シリンダ(40)又は環状ピストン(45)を偏心回転運動させる回転軸(33)とを備え、上記シリンダ(40)と上記環状ピストン(45)とが相対的に偏心回転運動し、吸入管(14)から流入した流体が上記外側シリンダ室(41)と内側シリンダ室(42)とに分流する回転式流体機械(10)を対象とする。
そして、この回転式流体機械(10)は、上記シリンダ(40)は、上記環状ピストン(45)の先端に対面する鏡板部(47)と、該鏡板部(47)に立設されて上記シリンダ室(41,42)の内周側を区画する内側シリンダ(40b)と、該鏡板部(47)に立設されて上記シリンダ室(41,42)の外周側を区画する外側シリンダ(40a)とを備え、上記環状ピストン(45)の基端には、上記内側シリンダ(40b)及び外側シリンダ(40a)の先端に対面する鏡板部材(37,48)が連結され、上記環状のシリンダ室(41,42)の径方向では、上記外側シリンダ(40a)の先端と上記鏡板部材(37,48)との間に形成された第1隙間(6)が、上記環状ピストン(45)と上記鏡板部(47)との間に形成された第2隙間(7)、及び上記内側シリンダ(40b)と上記鏡板部材(37,48)との間に形成された第3隙間(8)に比べて小さくなっている。
第1の発明では、第1隙間(6)が、第2隙間(7)及び第3隙間(8)に比べて小さくなっている。ここで、第1隙間(6)の位置は、第2隙間(7)及び第3隙間(8)に比べて回転軸(33)から離れている。従って、第1隙間(6)は周方向の長さが3つの隙間(6,7,8)の中で最も長い。この第1の発明では、第1隙間(6)、第2隙間(7)、及び第3隙間(8)の中で周方向の長さが最も長い第1隙間(6)が最も小さくなっている。
第2の発明は、第1の発明において、上記環状のシリンダ室(41,42)の径方向では、上記第2隙間(7)に比べて上記第3隙間(8)が大きくなっている。
第2の発明では、外側シリンダ(40a)の先端と鏡板部材(37,48)との間、環状ピストン(45)の先端と鏡板部(47)との間、及び内側シリンダ(40b)の先端と鏡板部材(37,48)との間にそれぞれ形成される隙間(6,7,8)は、シリンダ室(41,42)の径方向において回転軸(33)に近い内側ほど大きくなっている。回転式流体機械(10)では、高速回転する回転軸(33)の周囲で多くの摩擦熱が発生するので、シリンダ室(41,42)の径方向において回転軸(33)に近い内側ほど環状ピストン(45)やシリンダの運転時の温度が高くなりその熱変形量が大きくなる。つまり、この第2の発明では、シリンダ室(41,42)の径方向において環状ピストン(45)又はシリンダ(40)の熱変形量が大きい内側ほど、その環状ピストン(45)又はシリンダ(40)の先端とその先端に対面する部材との間の隙間が大きくなっている。従って、運転時の熱変形量が大きい内側シリンダ(40b)やその外側の環状ピストン(45)の先端における接触圧力が大きくなることが抑制される。
第3の発明は、第1の発明において、上記環状ピストン(45)には、上記内側シリンダ(40b)よりも熱膨張係数が大きい材料を用いる一方、上記環状のシリンダ室(41,42)の径方向では、上記第3隙間(8)に比べて上記第2隙間(7)が大きくなっている。
第3の発明では、環状ピストン(45)に内側シリンダ(40b)よりも熱膨張係数が大きい材料が用いられている。このため、回転式流体機械(10)の運転中に回転軸(33)に近い内側シリンダ(40b)の方が環状ピストン(45)よりも温度が高くなるが、環状ピストン(45)の方が内側シリンダ(40b)よりも熱変形量が大きくなる場合がある。この第3の発明では、第3隙間(8)に比べて第2隙間(7)が大きくなっている。従って、回転式流体機械(10)の運転中に環状ピストン(45)の方が内側シリンダ(40b)よりも熱変形量が大きくなるような場合でも、環状ピストン(45)の先端における接触圧力が大きくなることが抑制される。
第4の発明は、第1乃至第3の何れか1つの発明において、上記回転軸(33)が、上記鏡板部材(37,48)に係合して上記環状ピストン(45)を偏心回転運動させる一方、上記鏡板部材(37,48)には、上記環状ピストン(45)側に立設されて上記回転軸(33)に摺接するピストン側軸受部(48a)が形成され、上記鏡板部(47)の内側には、上記ピストン側軸受部(48a)に対面して上記回転軸(33)に摺接するシリンダ側軸受部(36a)が形成されており、上記環状のシリンダ室(41,42)の径方向では、上記第3隙間(8)に比べて上記ピストン側軸受部(48a)と上記シリンダ側軸受部(36a)との間の第4隙間(9)が大きくなっている。
第4の発明では、回転軸(33)に摺接するピストン側軸受部(48a)及びシリンダ側軸受部(36a)は、シリンダ(40)や環状ピストン(45)よりも内側に位置しており、シリンダ室(41,42)の径方向においてそのシリンダ(40)や環状ピストン(45)よりも運転時の温度が高くなる。そして、ピストン側軸受部(48a)とシリンダ側軸受部(36a)との間の第4隙間(9)は、シリンダ室(41,42)の径方向において内側シリンダ(40b)と鏡板部材(37,48)との間の第3隙間(8)よりも大きくなっている。従って、この第4の発明では、運転時の熱変形量がシリンダ(40)や環状ピストン(45)よりも大きくなるピストン側軸受部(48a)及びシリンダ側軸受部(36a)において接触圧力が大きくなることが抑制される。
第5の発明は、第1乃至第4の何れか1つの発明において、上記ブレード(46)と上記鏡板部材(37,48)との間の隙間が、上記シリンダ室(41,42)の径方向の内側ほど大きくなっている。
第5の発明では、外側シリンダ(40a)及び内側シリンダ(40b)によって区画されたシリンダ室(41,42)を高圧室(41a,42a)と低圧室(41b,42b)とに区画するブレード(46)が、内側シリンダ(40b)及び外側シリンダ(40a)の先端に対面する鏡板部材(37,48)に対面している。そして、ブレード(46)と鏡板部材(37,48)との間の隙間は、シリンダ室(41,42)の径方向において運転時の熱変形量が大きい内側ほど大きくなっている。従って、ブレード(46)と鏡板部材(37,48)の接触面において、運転時の熱変形量が大きい内側の接触圧力が大きくなることが抑制される。
第6の発明は、環状のシリンダ室(41,42)を有するシリンダ(40)と、該シリンダ(40)に対して偏心してシリンダ室(41,42)に収納され、シリンダ室(41,42)を外側シリンダ室(41)と内側シリンダ室(42)とに区画する環状ピストン(45)と、上記環状ピストン(45)を上記シリンダ(40)の径方向に挿通して該シリンダ(40)に固定され、上記各シリンダ室(41,42)を高圧室(41a,42a)と低圧室(41b,42b)とに区画するブレード(46)と、上記シリンダ又は環状ピストン(45)を偏心回転運動させる回転軸(33)とを備え、上記シリンダ(40)と上記環状ピストン(45)とが相対的に偏心回転運動する回転式流体機械(10)を対象とする。
そして、この回転式流体機械(10)は、上記ブレード(46)が、上記環状ピストン(45)の基端が連結された鏡板部材(37,48)に対面しており、上記ブレード(46)と上記鏡板部材(37,48)との間の隙間が、上記シリンダ室(41,42)の径方向の内側ほど大きくなっている。
第6の発明では、ブレード(46)と鏡板部材(37,48)との間の隙間が、シリンダ室(41,42)の径方向において運転時の熱変形量が大きい内側ほど大きくなっている。従って、ブレード(46)と鏡板部材(37,48)の接触面において、運転時の熱変形量が大きい内側の接触圧力が大きくなることが抑制される。
第7の発明は、環状のシリンダ室(41,42)を有するシリンダ(40)と、該シリンダ(40)に対して偏心してシリンダ室(41,42)に収納され、シリンダ室(41,42)を外側シリンダ室(41)と内側シリンダ室(42)とに区画する環状ピストン(45)と、上記環状ピストン(45)を上記シリンダ(40)の径方向に挿通して該シリンダ(40)に固定され、上記各シリンダ室(41,42)を高圧室(41a,42a)と低圧室(41b,42b)とに区画するブレード(46)とを備え、上記外側シリンダ(40a)及び環状ピストン(45)の低圧室(41b,42b)側のブレード(46)寄りの位置には、低圧流体を吸入するための吸入ポート(43,44)がそれぞれ形成され、上記シリンダ(40)と上記環状ピストン(45)とが相対的に偏心回転運動し、吸入管(14)から流入した流体が上記外側シリンダ室(41)と内側シリンダ室(42)とに分流して圧縮される回転式流体機械(10)を対象とする。
そして、この回転式流体機械(10)は、上記シリンダ(40)が、上記環状ピストン(45)の先端に対面する鏡板部(47)と、該鏡板部(47)に立設されて上記シリンダ室(41,42)の内周側を区画する内側シリンダ(40b)と、該鏡板部(47)に立設されて上記シリンダ室(41,42)の外周側を区画する外側シリンダ(40a)とを備え、上記環状ピストン(45)の基端には、上記内側シリンダ(40b)及び外側シリンダ(40a)の先端に対面する鏡板部材(37,48)が連結され、上記環状ピストン(45)の先端と上記鏡板部(47)との間、上記内側シリンダ(40b)の先端と上記鏡板部材(37,48)との間、及び上記外側シリンダ(40a)の先端と上記鏡板部材(37,48)との間には、それぞれ隙間(6,7,8)が形成されており、上記隙間(6,7,8)のうち少なくとも1つは、上記ブレード(46)の低圧室(41b,42b)側からシリンダ室(41,42)の周方向において上記吸入ポート(43,44)側へ所定距離だけ進んだ位置に亘る第1隙間と残りの第2隙間とによって構成されており、該第2隙間は、上記第1隙間に比べて小さくなっており、且つ、シリンダ室(41,42)の周方向に沿って高圧室(41a,42a)側へ進むにつれて連続的に又は段階的に拡大している。
第7の発明では、ブレード(46)の低圧室(41b,42b)側からシリンダ(40)の周方向において吸入ポート(43,44)側へ所定距離だけ進んだ位置に亘る第1隙間は、第2隙間の吸入ポート(43,44)側における間隔に比べて広くなっている。そして、この第1隙間の区間は、第2隙間の区間よりもシリンダ室(41,42)内が低圧であるため、運転時の温度が第2隙間の区間よりも低く環状ピストン(45)又はシリンダ(40)の熱変形量が小さい。従って、第1隙間の区間では、環状ピストン(45)、内側シリンダ(40b)、又は外側シリンダ(40a)の先端とその先端に対面する部材が運転時にほとんど接触しない。
ここで、第1隙間の区間では、外側シリンダ(40a)の吸入ポート(43)が外側シリンダ室(41)とその外側シリンダ(40a)の外側の空間とを連通しており、環状ピストン(45)の吸入ポート(44)が外側シリンダ室(41)と内側シリンダ室(42)とを連通している。このため、運転時に環状ピストン(45)、内側シリンダ(40b)、又は外側シリンダ(40a)の先端とその先端に対面する部材との間の隙間を流体が通過しても問題はない。
つまり、この第8の発明では、第1隙間の区間において、停止時だけでなく運転時においても環状ピストン(45)、内側シリンダ(40b)、又は外側シリンダ(40a)の先端とその先端に対面する部材とがほとんど接触しないようにして、大きな接触圧力が作用することが確実に回避されるようにしている。
また、第2隙間の区間では、上記第7の発明と同様に、運転時の温度が高くなって熱変形量が大きいシリンダ室(41,42)の高圧側ほど隙間が拡大するようにしているので、その高圧側で接触圧力が大きくのを抑制している。
第8の発明は、第1乃至第3の何れか1つの発明において、上記回転軸(33)が、上記鏡板部材(37,48)に係合して上記環状ピストン(45)を偏心回転運動させる一方、 上記鏡板部材(37,48)には、上記環状ピストン(45)側に立設されて上記回転軸(33)を摺動自在に支持するピストン側軸受部(48a)が形成され、上記鏡板部(47)の内側には、上記ピストン側軸受部(48a)の先端に対面して上記回転軸(33)を摺動自在に支持するシリンダ側軸受部(36a)が形成されており、上記環状のシリンダ室(41,42)の径方向では、上記第1隙間(6)が、上記ピストン側軸受部(48a)の先端と上記シリンダ側軸受部(36a)との間に形成された第4隙間(9)に比べて小さくなっている。
第8の発明では、第1隙間(6)が、第4隙間(9)に比べて小さくなっている。従って、ピストン側軸受部(48a)とシリンダ側軸受部(36a)とが接触しにくくなる。
第9の発明は、第8の発明において、上記第3隙間(8)へ潤滑油を供給するための内側油供給手段(67)を備えている。
第9の発明では、内側油供給手段(67)によって潤滑油が第3隙間(8)へ供給される。第3隙間(8)へ供給された潤滑油は、第3隙間(8)をシールする。
第10の発明は、第1乃至第9の発明の何れか1つにおいて、冷凍サイクルを行う冷凍装置の冷媒回路(80)に接続されて、該冷媒回路(80)に冷媒として充填された二酸化炭素の圧縮、又は膨張を行う。
第10の発明では、回転式流体機械(10)が冷媒としての二酸化炭素の圧縮、又は膨張を行う。ここで、二酸化炭素が充填された冷媒回路(80)で冷凍サイクルを行う場合、冷凍サイクルの高圧は、二酸化炭素の臨界圧力よりも高い値になるのが通常であり、通常のフロン冷媒に比べて高くなる。従って、二酸化炭素の圧縮、又は膨張を行う回転式流体機械(10)では、高圧室(41a,42a)から吐出される冷媒の圧力が通常のフロン冷媒に比べて高くなる。このため、外側シリンダ室(41)と内側シリンダ室(42)との圧力差、外側シリンダ室(41)とその外側の圧力差、及び内側シリンダ室(42)とその内側の圧力差の最大値がフロン冷媒に比べて大きくなり、シリンダ室(41,42)における冷媒漏れが多くなりやすい。
第1乃至第5、第8乃至第10の各発明では、第1隙間(6)、第2隙間(7)、及び第3隙間(8)の中で周方向の長さが最も長い第1隙間(6)が最も小さくなるようにしている。ここで、従来の回転式流体機械(10)では、上述したように第1隙間(6)の周方向の長さが最も長いので、第1隙間(6)を通じての流体漏れ量が第1隙間(6)、第2隙間(7)、及び第3隙間(8)を通じての流体漏れ量の合計に占める割合が、比較的大きくなっていた。これに対して、この発明では、第1隙間(6)を最も小さくするので、第1隙間(6)通じて漏れる流体量が大幅に減少する。従って、第1隙間(6)、第2隙間(7)、及び第3隙間(8)を通じての流体漏れ、すなわちシリンダ室(41,42)における流体漏れを減少させることができるので、回転式流体機械(10)の運転効率を向上させることができる。
また、上記第2、第4、第5の各発明では、シリンダ室(41,42)の径方向において環状ピストン(45)又はシリンダ(40)の運転時の熱変形量が大きい内側ほど、その環状ピストン(45)又はシリンダ(40)の先端とその先端に対面する部材との間の隙間(6,7,8)を大きくすることで、内側シリンダ(40b)や環状ピストン(45)の先端の接触圧力が大きくなるのを抑制している。従って、外側シリンダ(40a)の先端と鏡板部材(37,48)、環状ピストン(45)と鏡板部(47)、及び内側シリンダ(40b)と鏡板部材(37,48)の各部材同士の接触圧力が、温度分布に拘わらずシリンダ室(41,42)の径方向において比較的均一になるので、これらの各部材同士の異常摩耗を抑制することができる。また、運転時の熱変形量が小さい外側において、部材間の隙間が広がるのを抑制できるので、シリンダ室(41,42)からの流体漏れを抑制することができる。
また、上記第3の発明では、回転式流体機械(10)の運転中に環状ピストン(45)の方が内側シリンダ(40b)よりも熱変形量が大きくなるような場合でも、第3隙間(8)に比べて第2隙間(7)を大きくすることで、環状ピストン(45)の先端における接触圧力が大きくなることを抑制している。また、最も熱変形量が小さい外側シリンダ(40a)が形成する第1隙間(6)が最も小さくなっている。従って、外側シリンダ(40a)の先端と鏡板部材(37,48)、環状ピストン(45)と鏡板部(47)、及び内側シリンダ(40b)と鏡板部材(37,48)の各部材同士の接触圧力が、温度分布に拘わらずシリンダ室(41,42)の径方向において比較的均一になるので、これらの各部材同士の異常摩耗を抑制することができる。また、運転時の熱変形量が小さい外側において、部材間の隙間が広がるのを抑制できるので、シリンダ室(41,42)からの流体漏れを抑制することができる。
また、上記第4の発明では、シリンダ室(41,42)の径方向においてピストン側軸受部(48a)とシリンダ側軸受部(36a)との間の第4隙間(9)を内側シリンダ(40b)と鏡板部材(37,48)との間の第3隙間(8)よりも大きくすることで、運転時の熱変形量がシリンダ(40)や環状ピストン(45)よりも大きくなるピストン側軸受部(48a)及びシリンダ側軸受部(36a)において接触圧力が大きくなるのを抑制している。従って、ピストン側軸受部(48a)及びシリンダ側軸受部(36a)における異常摩耗を抑制することができる。
また、上記第5、第6の各発明では、シリンダ室(41,42)の径方向において運転時の温度が高くなる内側ほどブレード(46)と鏡板部材(37,48)との間の隙間を大きくすることで、ブレード(46)と鏡板部材(37,48)の接触面において運転時の熱変形量が大きい内側の接触圧力が大きくなるのを抑制している。従って、ブレード(46)と鏡板部材(37,48)の接触面では、接触圧力が温度分布に拘わらず比較的均一になるので、ブレード(46)と鏡板部材(37,48)の異常摩耗を抑制することができる。また、運転時の熱変形量が小さい外側において、ブレード(46)と鏡板部材(37,48)との間の隙間が広がるのを抑制できるので、ブレード(46)を挟む高圧室(41a,42a)から低圧室(41b,42b)への流体漏れを抑制することができる。
また、上記第7の発明では、第1隙間の区間において、停止時だけでなく運転時においても環状ピストン(45)、内側シリンダ(40b)、又は外側シリンダ(40a)の先端とその先端に対面する部材とがほとんど接触しないようにすることで、大きな接触圧力が作用するのを確実に回避している。従って、第1隙間の区間における異常摩擦や第1隙間の区間の熱変形によるシリンダ室(41,42)から流体漏れを防止することができる。
また、第2隙間の区間では、外側シリンダ(40a)の先端と鏡板部材(37,48)、環状ピストン(45)と鏡板部(47)、又は内側シリンダ(40b)と鏡板部材(37,48)の各部材同士の高圧側での異常摩耗やシリンダ室(41,42)からの流体漏れを抑制することができる。
また、上記第8の発明では、第1隙間(6)を第4隙間(9)に比べて小さくすることで、ピストン側軸受部(48a)とシリンダ側軸受部(36a)とが接触しにくくなるようにしている。従って、ピストン側軸受部(48a)とシリンダ側軸受部(36a)との接触によって第1隙間(6)が拡大することがほとんどないので、第1隙間(6)を通じての流体漏れを確実に減少させることができる。
また、上記第9の発明では、第3隙間(8)をシールするための潤滑油を、内側油供給手段(67)によって第3隙間(8)へ供給している。従って、第3隙間(8)通じて漏れる流体量が大幅に減少する。従って、シリンダ室(41,42)における流体漏れを大幅に減少させることができるので、回転式流体機械(10)の運転効率を向上させることができる。
また、上記第10の発明では、通常のフロン冷媒に比べてシリンダ室(41,42)における冷媒漏れが多くなりやすい回転式流体機械(10)において、第1隙間(6)通じて漏れる冷媒量を大幅に減少させて、シリンダ室(41,42)における冷媒漏れを減少させている。従って、通常のフロン冷媒の圧縮、又は膨張を行う回転式流体機械に比べて、冷媒漏れに起因する運転効率の低下を改善する効果が大きいので、運転効率がより大きく向上する。
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
《発明の実施形態1》
本発明の実施形態1について説明する。実施形態1に係る流体機械は、後述する環状ピストン(45)が固定されてシリンダ(40)が偏心回転運動することによってシリンダ室(41,42)内の流体を圧縮する回転式圧縮機(10)である。この回転式圧縮機(10)は、例えば空気調和装置の冷媒回路に設けられ、蒸発器から吸入した冷媒を圧縮して凝縮器へ吐出する圧縮機として用いられる。
図1に示すように、回転式圧縮機(10)は、縦長で円筒形の密閉容器であるケーシング(15)を備えている。このケーシング(15)の内部には、下寄りの位置に圧縮機構(20)が配置され、上寄りの位置に電動機(30)が配置されている。
ケーシング(15)には、その胴部を貫通する吸入管(14)と、その上部を貫通する吐出管(13)とが設けられている。吸入管(14)は圧縮機構(20)に接続され、吐出管(13)はその入口が電動機(30)の上側の空間に開口している。
ケーシング(15)の内部には、上下方向に延びるクランク軸(33)が回転軸として設けられている。このクランク軸(33)は、主軸部(33a)と偏心部(33b)とを備えている。偏心部(33b)は、クランク軸(33)の下寄りの位置に設けられ、主軸部(33a)よりも大径の円柱状に形成されている。この偏心部(33b)は、その軸心が主軸部(33a)の軸心から所定量だけ偏心している。
電動機(30)は、ステータ(31)とロータ(32)とを備えている。ステータ(31)は、ケーシング(15)の胴部の内周面に固定されている。ロータ(32)は、ステータ(31)の内側に配置されてクランク軸(33)の主軸部(33a)と連結されており、クランク軸(33)とともに回転するように構成されている。
圧縮機構(20)は、下側から順に下部ハウジング(37)とシリンダ(40)と上部ハウジング(36)とが積層された状態で構成されている。シリンダ(40)内には、図2に示すように、環状ピストン(45)とブレード(46)と揺動ブッシュ(27)とが収納されている。環状ピストン(45)は、その基端(下端)が下部ハウジング(37)の上面に連結されている。
シリンダ(40)は、外側シリンダ(40a)と内側シリンダ(40b)とを備えている。外側シリンダ(40a)と内側シリンダ(40b)とは、共に円環状に形成されている。外側シリンダ(40a)の内周面と内側シリンダ(40b)の外周面とは、互いに同一中心の円筒面になっている。外側シリンダ(40a)の内周面と内側シリンダ(40b)の外周面との間には、環状のシリンダ室(41,42)が形成されている。
外側シリンダ(40a)と内側シリンダ(40b)とは、上部ハウジング(36)の鏡板部(47)の下側に立設されている(図1参照)。外側シリンダ(40a)と内側シリンダ(40b)とは、鏡板部(47)によって連結されて一体になっている。鏡板部(47)は、環状ピストン(45)の先端側(上端側)でシリンダ室(41,42)に面して、環状ピストン(45)の先端に対面している。また、下部ハウジング(37)は、鏡板部材を構成して外側シリンダ(40a)又は内側シリンダ(40b)の先端側(下側)でシリンダ室(41,42)に面しており、外側シリンダ(40a)及び内側シリンダ(40b)の先端に対面している。
内側シリンダ(40b)の内周面には、クランク軸(33)の偏心部(33b)が摺動自在に嵌め込まれている。本実施形態1の回転式圧縮機(10)では、環状ピストン(45)が固定されてシリンダ(40)が偏心回転運動を行うことで、環状ピストン(45)とシリンダ(40)とが相対的に偏心回転運動するように構成されている。
環状ピストン(45)は、円環の一部分が分断されたC型形状に形成されている。環状ピストン(45)は、外周面が外側シリンダ(40a)の内周面よりも小径で、内周面が内側シリンダ(40b)の外周面よりも大径に形成されている。環状ピストン(45)は、シリンダ(40)に対して偏心した状態でシリンダ室(41,42)内に収納され、シリンダ室(41,42)を内側と外側とに区画している。環状ピストン(45)の外周面と外側シリンダ(40a)の内周面との間には、外側シリンダ室(41)が形成され、環状ピストン(45)の内周面と内側シリンダ(40b)の外周面との間には、内側シリンダ室(42)が形成されている。
環状ピストン(45)とシリンダ(40)とは、環状ピストン(45)の外周面と外側シリンダ(40a)の内周面とが1点で実質的に接する状態(厳密にはミクロンオーダーの隙間があるが、その隙間での冷媒の漏れが問題にならない状態)において、その接点と位相が180°異なる位置で、環状ピストン(45)の内周面と内側シリンダ(40b)の外周面とが1点で実質的に接するようになっている。
ブレード(46)は、環状ピストン(45)の分断箇所を挿通して、外側シリンダ(40a)の内周面から内側シリンダ(40b)の外周面までシリンダ室(41,42)の径方向に延びるように設けられている。ブレード(46)は、外側シリンダ(40a)の内周面と内側シリンダ(40b)の外周面とに固定されている。これによって、ブレード(46)は、上記各シリンダ室(41,42)を高圧室(圧縮室)(41a,42a)と低圧室(吸入室)(41b,42b)とに区画している。
揺動ブッシュ(27)は、環状ピストン(45)の分断部(円環の一部分が抜き取られたC型形状の開口部)において、環状ピストン(45)とブレード(46)とを相互に可動に連結している。揺動ブッシュ(27)は、ブレード(46)に対して高圧室(41a,42a)側に位置する吐出側ブッシュ(27a)と、ブレード(46)に対して低圧室(41b,42b)側に位置する吸入側ブッシュ(27b)とから構成されている。吐出側ブッシュ(27a)と吸入側ブッシュ(27b)とは、いずれも断面形状が略半円形で同一形状に形成され、フラット面同士が対向するように配置されている。そして、両ブッシュ(27a,27b)の対向するフラット面の間のスペースがブレード溝(28)を構成している。このブレード溝(28)には、ブレード(46)が挿入されている。
揺動ブッシュ(27a,27b)のフラット面(ブレード溝(28)の両側面)は、ブレード(46)と実質的に面接触している。揺動ブッシュ(27a,27b)の円弧状の外周面は、環状ピストン(45)と実質的に面接触している。揺動ブッシュ(27a,27b)は、ブレード溝(28)にブレード(46)を挟んだ状態で、ブレード(46)がその面方向にブレード溝(28)内を進退するように構成されている。同時に、揺動ブッシュ(27a,27b)は、環状ピストン(45)に対してブレード(46)と一体的に揺動するように構成されている。従って、揺動ブッシュ(27)は、該揺動ブッシュ(27)の中心点を揺動中心としてブレード(46)と環状ピストン(45)とが相対的に揺動可能となり、かつブレード(46)が環状ピストン(45)に対して該ブレード(46)の面方向へ進退可能となるように構成されている。
なお、この実施形態1では両ブッシュ(27a,27b)を別体とした例について説明したが、両ブッシュ(27a,27b)は、一部で連結することにより一体構造としてもよい。
外側シリンダ(40a)の外側には、吸入空間(5)が形成されている。吸入空間(5)には、吸入管(14)の出口端が開口している。外側シリンダ(40a)には吸入空間(5)と外側シリンダ室(41)の低圧室(41b)とを連通する貫通孔(43)が形成され、環状ピストン(45)には外側シリンダ室(41)の低圧室(41b)と内側シリンダ室(42)の低圧室(42b)とを連通する貫通孔(44)が形成されている。これらの貫通孔(43,44)は吸入ポートを構成している。これにより、吸入空間(5)は、外側シリンダ室(41)の低圧室(41b)に連通すると共に、内側シリンダ室(42)の低圧室(42b)にも連通する。
下部ハウジング(37)には、外側吐出通路(51)及び内側吐出通路(52)とが形成されている。外側吐出通路(51)は、入口端が外側シリンダ室(41)の高圧室(41a)に開口し、出口端が後述する吐出空間(53)に開口している。内側吐出通路(52)は、入口端が内側シリンダ室(42)の高圧室(42a)に開口し、出口端が吐出空間(53)に開口している。また、下部ハウジング(37)の下面には、各吐出通路(51,52)の出口端を開閉するリード弁(図示せず)が設けられている。
下部ハウジング(37)の下側には、マフラー(23)が取り付けられている。下部ハウジング(37)とマフラー(23)との間には、吐出空間(53)が形成されている。また、上部ハウジング(36)と下部ハウジング(37)との外縁部には、吐出空間(53)と圧縮機構(20)の上部空間とを接続する接続通路(57)が形成されている。
上部ハウジング(36)と下部ハウジング(37)とには、クランク軸(33)を支持するための軸受部(36a,37a)がそれぞれ形成されている。クランク軸(33)は、圧縮機構(20)を上下方向に貫通しており、上部ハウジング(36)と下部ハウジング(37)とを介してケーシング(15)に保持されている。
クランク軸(33)の下端部には、給油ポンプ(34)が設けられている。この給油ポンプ(34)は、クランク軸(33)の軸心に沿って延びて圧縮機構(20)と連通する給油路(図示省略)と接続されている。そして、給油ポンプ(34)は、ケーシング(15)内の底部に貯留された潤滑油を給油路を通じて圧縮機構(20)の摺動部に供給するように構成されている。
図3に示すように、下部ハウジング(37)の上面と外側シリンダ(40a)の先端との間には第1隙間(6)が形成され、環状ピストン(45)の先端と鏡板部(47)との間には第2隙間(7)が形成され、さらに下部ハウジング(37)の上面と内側シリンダ(40b)の先端との間には第3隙間(8)が形成されている。
本実施形態1の回転式圧縮機(10)では、これらの隙間(6,7,8)の間隔がシリンダ室(41,42)の径方向においてクランク軸(33)に近い内側ほど大きくなるように設計されている。具体的に、外側シリンダ(40a)は下部ハウジング(37)の上面に接しており、第1隙間(6)の間隔は極微小(ほぼゼロ)になっている。第2隙間(7)の間隔(=X1)は第1隙間(6)よりも8μm大きく、第3隙間(8)の間隔(=X2)は第1隙間(6)よりも15μm大きくなっている。すなわち、外側シリンダ(40a)の高さは環状ピストン(45)よりも8μm高く、内側シリンダ(40b)よりも15μm高くなっている。
また、これらの隙間(6,7,8)は、それぞれの周方向においても間隔が変化するように設計されている。具体的に、環状ピストン(45)、外側シリンダ(40a)及び内側シリンダ(40b)の先端に形成される第1隙間(6)、第2隙間(7)、及び第3隙間(8)は、図4に示すように、ブレード(46)の低圧室(41b,42b)側から高圧室(41a,42a)側への周方向(図2に示すクランク軸(33)の回転方向)において第1区間、第2区間、第3区間、第4区間の順に4つの区間に区切られている。
そして、各区間における隙間の間隔は、図5に示すように、第4区間、第3区間、第2区間、第1区間の順に大きく、第1区間から段階的に大きくなっている。なお、これらの隙間(6,7,8)における周方向の隙間の間隔は、より多段階に変化させてもよいし、連続的に変化させてもよい。
また、ブレード(46)の下端と下部ハウジング(37)の上面との間の隙間は、クランク軸(33)に近い内側ほど大きくなっている。具体的に、ブレード(46)の高さは、内側から外側に向かうにつれて徐々に大きくなっており、最内側では内側シリンダ(40b)の高さに等しく、最外側では外側シリンダ(40a)の高さに等しくなっている。
以上の構成において、この回転式圧縮機(10)の運転を開始してクランク軸(33)が回転すると、外側シリンダ(40a)及び内側シリンダ(40b)は、ブレード溝(28)の方向(シリンダ室(41,42)の径方向)に進退しながら、揺動ブッシュ(27)の中心点を揺動中心として揺動する。この揺動動作により、シリンダ(40)は、クランク軸(33)に対して偏心しながら回転(公転)運動する(図6(A)から(D)参照)。
−運転動作−
次に、この回転式圧縮機(10)の運転動作について図6を参照しながら説明する。
電動機(30)を起動すると、ロータ(32)の回転がクランク軸(33)を介して圧縮機構(20)の外側シリンダ(40a)及び内側シリンダ(40b)に伝達される。その結果、ブレード(46)が揺動ブッシュ(27a,27b)の間で往復運動(進退動作)を行い、かつ、ブレード(46)と揺動ブッシュ(27a,27b)が一体的となって、環状ピストン(45)に対して揺動動作を行う。そして、外側シリンダ(40a)及び内側シリンダ(40b)が環状ピストン(45)に対して揺動しながら公転し、圧縮機構(20)が所定の圧縮動作を行う。
ここで、外側シリンダ室(41)においては、図6(C)の状態(低圧室(41b)がほぼ最小容積となる状態)からシリンダ(40)が図の右回りに公転することで、外側シリンダ(40a)の貫通孔(43)から低圧室(41b)に冷媒が吸入される。そして、シリンダ(40)が図6の(D)、(A)、(B)の順に公転して再び図6の(C)の状態になると、上記低圧室(41b)への冷媒の吸入が完了する。
ここで、この低圧室(41b)は、図6の(C)から(D)に移行する過程で冷媒が圧縮される高圧室(41a)となる一方、ブレード(46)を隔てて新たな低圧室(41b)が形成される。この状態でシリンダ(40)がさらに回転すると、新たに形成された低圧室(41b)において冷媒の吸入が繰り返される一方、高圧室(41a)の容積が減少し、該高圧室(41a)で冷媒が圧縮される。そして、高圧室(41a)の圧力が所定値になると、リード弁が開状態になって外側シリンダ室(41)内で圧縮された高圧冷媒が外側吐出通路(51)を通過して吐出空間(53)へ吐出される。
内側シリンダ室(42)においては、図6(A)の状態(低圧室(42b)の容積がほぼ最小となる状態)からシリンダ(40)が図の右回りに公転することで、外側シリンダ(40a)の貫通孔(43)及び環状ピストン(45)の貫通孔(44)から低圧室(42b)に冷媒が吸入される。そして、シリンダ(40)が図6の(B)、(C)、(D)の順に公転して再び図6(A)の状態になると、上記低圧室(42b)への冷媒の吸入が完了する。
ここで、この低圧室(42b)は、図6の(A)から(B)に移行する過程で冷媒が圧縮される高圧室(42a)となる一方、ブレード(46)を隔てて新たな低圧室(42b)が形成される。この状態でシリンダ(40)がさらに回転すると、新たに形成された低圧室(42b)において冷媒の吸入が繰り返される一方、高圧室(42a)の容積が減少し、該高圧室(42a)で冷媒が圧縮される。そして、高圧室(42a)の圧力が所定値になると、リード弁が開状態になって内側シリンダ室(42)内で圧縮された高圧冷媒が内側吐出通路(52)を通過して吐出空間(53)へ吐出される。
吐出空間(53)へ吐出された冷媒は、接続通路(57)を流通して圧縮機構(20)の上側の空間へ流入し、その後ステータ(31)の外周に形成されたコアカットやステータ(31)とロータ(32)との間の隙間を流通して電動機(30)の上側の空間へ流入し、吐出管(13)から吐出される。
この回転式圧縮機(10)は、高速回転するクランク軸(33)の周囲で多くの摩擦熱が発生し、そのクランク軸(33)の内部を高圧冷媒によって加熱された高温の潤滑油が流通するので、シリンダ室(41,42)の径方向においてクランク軸(33)に近い内側ほど環状ピストン(45)やシリンダ(40)の運転時の温度が高くなりその熱変形量が大きくなる。また、下部ハウジング(37)の下側の吐出空間(53)は運転時にシリンダ室(41,42)よりも概ね高圧になるため、下部ハウジング(37)は下側から押圧されてシリンダ室(41,42)に面する内側が上側に変形する。
この回転式圧縮機(10)では、シリンダ室(41,42)の径方向において内側に近い第3隙間(8)、第2隙間(7)、第1隙間(6)の順にその隙間の間隔が大きくなっている。従って、運転時の環状ピストン(45)及びシリンダ(40)の熱変形量と下部ハウジング(37)の圧力変形量とが大きい内側において、環状ピストン(45)及びシリンダ(40)の先端における接触圧力が大きくなることが抑制される。
また、ブレード(46)の下端と下部ハウジング(37)の上面との間の隙間は、運転時の環状ピストン(45)及びシリンダ(40)の熱変形量と下部ハウジング(37)の圧力変形量とが大きい内側ほど大きくなっている。従って、ブレード(46)と下部ハウジング(37)の接触面において、運転時の変形量が大きい内側の接触圧力が大きくなることが抑制される。
また、この回転式圧縮機(10)は、冷媒が圧縮される過程でその温度が上昇していくので、シリンダ室(41,42)の低圧側から高圧側に進むにつれて運転時の環状ピストン(45)及びシリンダ(40)の温度が高くなってゆき、それらの熱変形量が大きくなってゆく。この回転式圧縮機(10)では、上記第1隙間(6)、第2隙間(7)、及び第3隙間(8)が、熱変形量が大きいシリンダ室(41,42)の高圧側ほど隙間が拡大している。従って、環状ピストン(45)及びシリンダ(40)の先端における高圧側の接触圧力が大きくなることが抑制される。
−実施形態1の効果−
この実施形態1では、第1隙間(6)、第2隙間(7)、及び第3隙間(8)の中で周方向の長さが最も長い第1隙間(6)が最も小さくなるようにしている。ここで、上述したように、第1隙間(6)は周方向の長さが最も長い。また、吸入空間(5)は常に低圧状態である一方で、外側シリンダ室(41)は低圧状態から高圧状態への変化を繰り返すので、第1隙間(6)を通じて連通する吸入空間(5)と外側シリンダ室(41)との圧力差が比較的大きくなる状態が存在する。このため、従来の回転式流体機械(10)では、第1隙間(6)を通じての流体漏れ量が第1隙間(6)、第2隙間(7)、及び第3隙間(8)を通じて流体漏れ量の合計に占める割合が、比較的大きくなっていた。これに対して、この実施形態では、第1隙間(6)を最も小さくするので、第1隙間(6)通じて漏れる流体量が大幅に減少する。従って、第1隙間(6)、第2隙間(7)、及び第3隙間(8)を通じての流体漏れ、すなわちシリンダ室(41,42)における流体漏れを減少させることができるので、回転式圧縮機(10)の圧縮効率を向上させることができる。
なお、停止時に第1隙間(6)、第2隙間(7)、及び第3隙間(8)の中で第1隙間(6)が最も小さくなるだけでなく、運転時にも第1隙間(6)が最も小さくなるように第1隙間(6)の大きさを設定することが望ましい。このようにするには、環状ピストン(45)及びシリンダ(40)の熱変形量や、下部ハウジング(37)の内側が上側へ変形することによって環状ピストン(45)が上部ハウジング(36)に近づく量や外側シリンダ(40a)が下部ハウジング(37)から離れる量を考慮して、第1隙間(6)の大きさを設定するばよい。
運転時に第1隙間(6)が最も小さくなるようにすると、外側シリンダ(40a)が下部ハウジング(37)に接触する一方で、環状ピストン(45)は鏡板部(47)にほとんど接触せず、内側シリンダ(40b)も下部ハウジング(37)にほとんど接触しない。また、外側シリンダ(40a)は環状ピストン(45)や内側シリンダ(40b)に比べて周方向の長さが長い。従って、外側シリンダ(40a)を下部ハウジング(37)に接触させることで、環状ピストン(45)や内側シリンダ(40b)が接触する場合に比べて面圧が小さくなり、部材同士の異常摩耗を抑制することができる。
この実施形態1では、シリンダ室(41,42)の径方向において、運転時の環状ピストン(45)及びシリンダ(40)の熱変形量と下部ハウジング(37)の圧力変形量が大きい内側ほど、その環状ピストン(45)又はシリンダ(40)の先端とその先端に対面する部材との間の隙間(6,7,8)を大きくすることで、内側シリンダ(40b)や環状ピストン(45)の先端における接触圧力が大きくのを抑制している。従って、外側シリンダ(40a)の先端と下部ハウジング(37)、環状ピストン(45)と鏡板部(47)、及び内側シリンダ(40b)と下部ハウジング(37)の各部材同士の接触圧力が、シリンダ室(41,42)の径方向において温度分布に拘わらず比較的均一になるので、これらの各部材同士の異常摩耗を抑制することができる。また、運転時の熱変形量が小さい外側において、部材間の隙間が広がるのを抑制できるので、シリンダ室(41,42)からの冷媒漏れを抑制することができる。
この実施形態1では、シリンダ室(41,42)の径方向において運転時の温度が高くなる内側ほどブレード(46)と下部ハウジング(37)との間の隙間を大きくすることで、ブレード(46)と下部ハウジング(37)の接触面において運転時の変形量が大きい内側の接触圧力が大きくなるのを抑制している。従って、ブレード(46)と下部ハウジング(37)の接触面では、接触圧力は温度分布に拘わらず比較的均一になるので、ブレード(46)と下部ハウジング(37)の異常摩耗を抑制することができる。また、運転時の熱変形量が小さい外側において、ブレード(46)と下部ハウジング(37)との間の隙間が広がるのを抑制できるので、ブレード(46)を挟む高圧室(41a,42a)から低圧室(41b,42b)への冷媒漏れを抑制することができる。
この実施形態1では、運転時の熱変形量が小さいシリンダ室(41,42)の低圧側から運転時の熱変形量が大きいシリンダ室(41,42)の高圧側へ進むにつれて上記第1隙間(6)、第2隙間(7)、及び第3隙間(8)を拡大させることで、その高圧側で接触圧力が大きくなるのを抑制している。従って、環状ピストン(45)及びシリンダ(40)の先端の接触圧力が温度分布に拘わらず比較的均一になるので、高圧側での異常摩耗を抑制することができる。また、運転時の熱変形量が小さい低圧側において、第1隙間(6)、第2隙間(7)、及び第3隙間(8)の隙間が広がるのを抑制できるので、シリンダ室(41,42)からの冷媒漏れを抑制することができる。
−実施形態1の変形例−
実施形態1の変形例について説明する。
この変形例では、第1区間から第4区間における第1隙間(6)、第2隙間(7)、及び第3隙間(8)が、図7に示すように、第1区間、第4区間、第3区間、第2区間の順に大きくなっている。第2区間から第4区間までは、これらの隙間の間隔がブレード(46)の高圧室(41a,42a)側に進むに連れて段階的に大きくなっている。
第1隙間(6)、第2隙間(7)、及び第3隙間(8)は、ブレード(46)の低圧室(41b,42b)側からシリンダ室(41,42)の周方向において外側シリンダ(40a)及び環状ピストン(45)の貫通孔(43,44)側へ所定距離だけ進んだ位置において、第1区間の第1隙間と第2区間から第4区間の第2隙間とに区切られている。
この変形例では、運転時の熱変形量が第1区間よりも大きく隙間の間隔が小さい第2区間と第4区間とに第1区間が挟まれている。従って、第1区間では、運転時に環状ピストン(45)、内側シリンダ(40b)、又は外側シリンダ(40a)の先端とその先端に対面する部材がほとんど接触しない。
ここで、第1区間では、外側シリンダ(40a)の貫通孔(43)が外側シリンダ室(41)と吸入空間(5)とを連通しており、環状ピストン(45)の貫通孔(44)が外側シリンダ室(41)と内側シリンダ室(42)とを連通している。従って、第1隙間では、運転時に環状ピストン(45)、内側シリンダ(40b)、又は外側シリンダ(40a)の先端とその先端に対面する部材との間の隙間を冷媒が通過しても問題はない。
従って、この変形例では、第1区間において、停止時だけでなく運転時においても環状ピストン(45)、内側シリンダ(40b)、又は外側シリンダ(40a)の先端とその先端に対面する部材とがほとんど接触しないようにして、大きな接触圧力が作用することが確実に回避されるようにしている。よって、第1区間における異常摩擦や第1区間の熱変形によるシリンダ室(41,42)から冷媒漏れを防止することができる。
なお、第1区間と第2区間との境界の位置は、貫通孔(43,44)から離れると第1区間の第1隙間(6)や第2隙間(7)から圧縮過程において冷媒が漏れて回転式圧縮機(10)の効率が低下する一方、貫通孔(43,44)に近づくと上述した第1区間での異常摩擦などを防止する効果が低下する。図4に示す第1区間と第2区間との境界の位置は、極僅かな冷媒漏れはあるが回転式圧縮機(10)の効率がほとんど低下しない位置に決められている。なお、この境界の位置は、低圧室(41b,42b)への冷媒の吸入が完了する時点における環状ピストン(45)と外側シリンダ(40a)又は環状ピストン(45)と内側シリンダ(40b)が接する位置、即ち吸入ポートである貫通孔(43,44)の閉じきり位置としてもよく、この場合は、圧縮過程においてシリンダ室(41,42)の冷媒が第1区間の上記隙間(6,7,8)から漏れることはない。
《発明の実施形態2》
本発明の実施形態2について説明する。実施形態2に係る流体機械は、後述するシリンダ(40)が固定されて環状ピストン(45)が偏心回転運動することによってシリンダ室(41,42)内の流体を圧縮する回転式圧縮機(10)である。上記実施形態1とは異なる点について以下に説明する。なお、この回転式圧縮機(10)の動作は、シリンダ(40)ではなく環状ピストン(45)側が偏心回転運動する以外は実施形態1の回転式圧縮機の動作とほぼ同じであるため省略する。
圧縮機構(20)は、図8に示すように、下側から順に下部ハウジング(37)と、環状ピストン(45)の基端(下端)が連結された鏡板部材(48)と、下面側にシリンダ(40)が形成された上部ハウジング(36)とが積層された状態で構成されている。シリンダ(40)内には、図9に示すように、環状ピストン(45)とブレード(46)と揺動ブッシュ(27)とが収納されている。
シリンダ(40)は、外側シリンダ(40a)と内側シリンダ(40b)とを備えている。外側シリンダ(40a)と内側シリンダ(40b)とは、共に円環状に形成されている。外側シリンダ(40a)は、比較的厚肉に形成されており、外周面がケーシング(15)の胴部に固定されている。外側シリンダ(40a)の内周面と内側シリンダ(40b)の外周面とは、互いに同一中心上の円筒面になっている。外側シリンダ(40a)の内周面と内側シリンダ(40b)の外周面との間には、環状のシリンダ室(41,42)が形成されている。
外側シリンダ(40a)と内側シリンダ(40b)とは、上部ハウジング(36)の鏡板部(47)の下面に立設されている(図8参照)。外側シリンダ(40a)と内側シリンダ(40b)とは、鏡板部(47)によって連結されて一体になっている。鏡板部(47)は、環状ピストン(45)の先端側(上端側)でシリンダ室(41,42)に面して、環状ピストン(45)の先端に対面している。また、鏡板部材(48)は、外側シリンダ(40a)又は内側シリンダ(40b)の先端側(下側)でシリンダ室(41,42)に面しており、外側シリンダ(40a)及び内側シリンダ(40b)の先端に対面している。
吸入管(14)は、外側シリンダ(40a)に外側から嵌め込まれている。吸入管(14)出口端は、外側シリンダ室(41)の低圧室(41b)に繋がる吸入通路(59)に開口している。環状ピストン(45)には外側シリンダ室(41)の低圧室(41b)と内側シリンダ室(42)の低圧室(42b)とを連通する貫通孔(44)が形成されている。
上部ハウジング(36)の鏡板部(47)の内側には、クランク軸(33)を支持するための筒状のシリンダ側軸受部(36a)が形成されている。また、鏡板部材(48)には、環状ピストン(45)側に立設された筒状のピストン側軸受部(48a)が形成されている。ピストン側軸受部(48a)の先端(上端)は、シリンダ側軸受部(36a)の下面に対面している。また、ピストン側軸受部(48a)の内周面には、クランク軸(33)の偏心部(33b)が摺動自在に嵌め込まれている。本実施形態2の回転式圧縮機(10)では、シリンダ(40)が固定されて環状ピストン(45)が偏心回転運動を行うことで、該環状ピストン(45)と該シリンダ(40)とが相対的に回転するように構成されている。
揺動ブッシュ(27a,27b)は、ブレード溝(28)にブレード(46)を挟んだ状態で、環状ピストン(45)がその面方向にブレード溝(28)内を進退するように構成されている。同時に、揺動ブッシュ(27a,27b)は、環状ピストン(45)に対してブレード(46)と一体的に揺動するように構成されている。従って、揺動ブッシュ(27)は、該揺動ブッシュ(27)の中心点を揺動中心としてブレード(46)と環状ピストン(45)とが相対的に揺動可能となり、かつ環状ピストン(45)がブレード(46)に対して該ブレード(46)の面方向へ進退可能となるように構成されている。
なお、この実施形態2では両ブッシュ(27a,27b)を別体とした例について説明したが、両ブッシュ(27a,27b)は、一部で連結することにより一体構造としてもよい。
上部ハウジング(36)の上側には、マフラー(23)が取り付けられている。上部ハウジング(36)とマフラー(23)との間には、吐出空間(53)が形成されている。
上部ハウジング(36)には、外側吐出通路(51)及び内側吐出通路(52)が形成されている。外側吐出通路(51)は、入口端が外側シリンダ室(41)の高圧室(41a)に開口し、出口端が吐出空間(53)に開口している。内側吐出通路(52)は、入口端が内側シリンダ室(42)の高圧室(42a)に開口し、出口端が吐出空間(53)に開口している。また、上部ハウジング(36)の上面には、各吐出通路(51,52)の出口端を開閉するリード弁が設けられている。
下部ハウジング(37)と上部ハウジング(36)との間には、第2空間(62)が形成されている。第2空間(62)は、鏡板部材(48)の外側に位置しており、偏心回転運動する鏡板部材(48)が、上部ハウジング(36)に接触しないように形成されている。第2空間(62)は、弁機構が設けられた連通路を通じて、吸入通路(59)に接続されている(図示省略)。第2空間(62)は、連通路の弁機構により、低圧空間となる吸入通路(59)よりも僅かに高い圧力に維持されている。すなわち、第2空間(62)は、常に概ね低圧状態になっている。
図10に示すように、鏡板部材(48)の上面と外側シリンダ(40a)の先端との間には第1隙間(6)が形成され、環状ピストン(45)の先端と鏡板部(47)との間には第2隙間(7)が形成され、鏡板部材(48)の上面と内側シリンダ(40b)の先端との間には第3隙間(8)が形成され、ピストン側軸受部(48a)の先端とシリンダ側軸受部(36a)の下面と間には第4隙間(9)が形成されている。
本実施形態2の回転式圧縮機(10)では、これらの隙間(6,7,8,9)の間隔がシリンダ室(41,42)の径方向においてクランク軸(33)に近い内側ほど大きくなるように設計されている。具体的に、外側シリンダ(40a)は鏡板部材(48)の上面に接しており、第1隙間(6)の間隔は極微小(ほぼゼロ)になっている。第2隙間(7)の間隔(=X1)は第1隙間(6)よりも8μm大きく、第3隙間(8)の間隔(=X2)は第1隙間(6)よりも15μm大きく、第4隙間(9)の間隔(=X3)は第1隙間(6)よりも22μm大きくなっている。すなわち、外側シリンダ(40a)の高さは、環状ピストン(45)よりも8μm高く、内側シリンダ(40b)よりも15μm高く、ピストン側軸受部(48a)の鏡板部材(48)の上側の部分よりも22μm高くなっている。
また、これらの隙間(6,7,8,9)は、上記実施形態と同様に、ブレード(46)の低圧室(41b,42b)側からシリンダ室(41,42)の周方向に沿って該ブレード(46)の高圧室(41a,42a)側へ進むにつれて段階的に拡大するように設計されている。
以上の構成において、クランク軸(33)が回転すると、環状ピストン(45)は、ブレード溝(28)の方向(シリンダ室(41,42)の径方向)に進退しながら、揺動ブッシュ(27)の中心点を揺動中心として揺動する。この揺動動作により、環状ピストン(45)は、クランク軸(33)に対して偏心しながら回転(公転)運動する。
−運転動作−
次に、この回転式圧縮機(10)の運転動作について図11を参照しながら説明する。
電動機(30)を起動すると、ロータ(32)の回転が回転軸(33)を介して圧縮機構(20)の環状ピストン(45)に伝達される。その結果、環状ピストン(45)が、ブレード(46)に沿って往復運動(進退動作)を行い、かつ、揺動ブッシュ(27)の中心点を揺動中心としてブレード(46)に対して揺動する。その際、シリンダ室(41,42)内では、環状ピストン(45)が外側シリンダ(40a)及び内側シリンダ(40b)に対して揺動しながら公転するので、圧縮機構(20)で所定の圧縮動作が行われる。
まず、外側シリンダ室(41)における圧縮動作について説明する。外側シリンダ室(41)では、図11(B)の状態(低圧室(41b)がほぼ最小容積となる状態)から環状ピストン(45)が図の右回りに公転することで、吸入管(14)から低圧室(41b)に冷媒が吸入される。そして、シリンダ(40)が図6の(C)、(D)、(E)、(F)、(G)、(H)、の順に公転して図11の(A)の状態になると、低圧室(41b)への冷媒の吸入が完了する。
冷媒の吸入が完了すると、低圧室(41b)は、図11の(A)から(B)に移行する過程で冷媒が圧縮される高圧室(41a)となる一方、ブレード(46)を隔てて新たな低圧室(41b)が形成される。この状態で環状ピストン(45)がさらに回転すると、新たに形成された低圧室(41b)において冷媒の吸入が繰り返される一方、高圧室(41a)の容積が減少し、該高圧室(41a)で冷媒が圧縮される。そして、高圧室(41a)の圧力が所定値になると、リード弁が開状態になって外側シリンダ室(41)内で圧縮された高圧冷媒が外側吐出通路(51)を通過して吐出空間(53)へ吐出される。
続いて、内側シリンダ室(42)における圧縮動作について説明する。内側シリンダ室(42)では、図11(F)の状態(低圧室(42b)の容積がほぼ最小となる状態)から環状ピストン(45)が図の右回りに公転することで、環状ピストン(45)の貫通孔(44)を通じて低圧室(42b)へ冷媒が流入する。そして、シリンダ(40)が図11の(G)、(H)、(A)、(B)、(C)、(D)の順に公転して図11(E)の状態になると、低圧室(42b)への冷媒の吸入が完了する。
冷媒の吸入が完了すると、この低圧室(42b)は、図11の(E)から(F)に移行する過程で冷媒が圧縮される高圧室(42a)となる一方、ブレード(46)を隔てて新たな低圧室(42b)が形成される。この状態で環状ピストン(45)がさらに回転すると、新たに形成された低圧室(42b)において冷媒の吸入が繰り返される一方、高圧室(42a)の容積が減少し、該高圧室(42a)で冷媒が圧縮される。そして、高圧室(42a)の圧力が所定値になると、リード弁が開状態になって内側シリンダ室(42)内で圧縮された高圧冷媒が内側吐出通路(52)を通過して吐出空間(53)へ吐出される。
吐出空間(53)へ吐出された冷媒は、マフラー(23)から流出し、コアカットなどの電動機(30)の隙間を通って電動機(30)の上側の空間へ流入する。そして、電動機(30)の上側の空間へ流入した冷媒は、吐出管(13)を通じて凝縮器へ吐出される。
ここで、上述したように、第2空間(62)は、常に概ね低圧状態である。また、外側シリンダ室(41)は、図11に示すように、低圧状態から高圧状態への変化を繰り返す。このため、外側シリンダ室(41)と第2空間(62)との間では、圧力差が大きくなる状態が存在する。さらに、第1隙間(6)は、周方向の長さが最も長い。このため、従来の流体機械では、第1隙間(6)を通じての流体漏れ量が第1隙間(6)、第2隙間(7)、及び第3隙間(8)を通じての流体漏れ量の合計に占める割合が、比較的大きくなっていた。この実施形態2では、第1隙間(6)を最も小さくすることで、合計漏れ量に占める割合が多い第1隙間(6)通じての流体漏れを優先的に減少させるようにしている。
−実施形態2の効果−
上記実施形態2では、第1隙間(6)、第2隙間(7)、及び第3隙間(8)を通じての流体漏れ量の合計に占める割合が多い第1隙間(6)を通じての流体漏れ量を優先的に減少させるようにしている。従って、第1隙間(6)、第2隙間(7)、及び第3隙間(8)を通じての流体漏れを減少させることができ、回転式圧縮機(10)の圧縮効率を向上させることができる。
なお、停止時に第1隙間(6)、第2隙間(7)、及び第3隙間(8)の中で第1隙間(6)が最も小さくなるだけでなく、運転時にも第1隙間(6)が最も小さくなるように第1隙間(6)の大きさを設定することが望ましい。このようにするには、環状ピストン(45)及びシリンダ(40)の熱変形量等を考慮して、第1隙間(6)の大きさを設定するばよい。
運転時に第1隙間(6)が最も小さくなるようにすると、外側シリンダ(40a)が鏡板部材(48)に接触する一方で、環状ピストン(45)は鏡板部(47)にほとんど接触せず、内側シリンダ(40b)も鏡板部材(48)にほとんど接触しない。また、外側シリンダ(40a)は環状ピストン(45)や内側シリンダ(40b)に比べて周方向の長さが長い。従って、外側シリンダ(40a)を鏡板部材(48)に接触させることで、環状ピストン(45)や内側シリンダ(40b)が接触する場合に比べて面圧が小さくなり、部材同士の異常摩耗を抑制することができる。
また、上記実施形態2では、シリンダ室(41,42)の径方向においてピストン側軸受部(48a)とシリンダ側軸受部(36a)との間の第4隙間(9)を第3隙間(8)よりも大きくすることで、運転時の熱変形量がシリンダ(40)や環状ピストン(45)よりも大きくなるピストン側軸受部(48a)及びシリンダ側軸受部(36a)において接触圧力が大きくなるのを抑制している。従って、ピストン側軸受部(48a)及びシリンダ側軸受部(36a)において異常摩耗が発生することが抑制される。
また、上記実施形態2では、第1隙間(6)を第4隙間(9)に比べて小さくすることで、ピストン側軸受部(48a)とシリンダ側軸受部(36a)とが接触しにくくなるようにしている。従って、ピストン側軸受部(48a)とシリンダ側軸受部(36a)との接触によって第1隙間(6)が拡大することがほとんどないので、第1隙間(6)を通じての流体漏れを確実に減少させることができる。
−実施形態2の変形例1−
実施形態2の変形例1について説明する。この変形例1では、クランク軸(33)の摺動部に供給された潤滑油が第4隙間(9)を通じてピストン側軸受部(48a)と内側シリンダ(40b)との間に形成された最内空間(61)に常に流入するように、第4隙間(9)の間隔(=X3)が設定されている。つまり、第4隙間(9)の間隔(=X3)は、回転式圧縮機(10)の運転時にピストン側軸受部(48a)が熱膨張しても所定の隙間が存するように設定されている。
この場合、図12に示すように、シリンダ側軸受部(36a)の下部の内周面に段差を形成して、シリンダ側軸受部(36a)の下部の内周面とクランク軸(33)との間に軸部空間(63)を形成してもよい。この軸部空間(63)を形成することで、給油路を通じてクランク軸(33)の摺動部に供給された潤滑油が第4隙間(9)を通じて最内空間(61)へ流入しやすくなる。
この変形例1では、第3隙間(8)の圧力が、内側シリンダ室(42)の圧力と最内空間(61)の圧力の間の値になる。第3隙間(8)は、内側シリンダ室(42)が低圧状態から高圧状態への変化を繰り返す一方で、最内空間(61)が常に高圧になるため、内側シリンダ室(42)の圧力変化に伴って中間圧状態から高圧状態への変化を繰り返す。このため、常に高圧空間になる最内空間(61)の圧力の方が、時間平均でみれば第3隙間(8)の圧力よりも高くなる。従って、最内空間(61)の潤滑油が第3隙間(8)に供給される。第3隙間(8)に供給された潤滑油は、内側シリンダ(40b)の先端面において第3隙間(8)を塞いでシールする。この変形例1では、第4隙間(9)と最内空間(61)とが内側油供給手段(67)を構成している。
−実施形態2の変形例2−
実施形態2の変形例2について説明する。この変形例2では、図13に示すように、内側油溝(67a)と内側油通路(67b)とが設けられている。内側油溝(67a)と内側油通路(67b)とは、内側油供給手段(67)を構成している。
具体的に、内側油溝(67a)は、内側シリンダ(40b)の先端面に形成され、内側シリンダ(40b)の周方向において低圧室(41b,42b)側から高圧室(41a,42a)側に亘って伸びている。内側油溝(67a)は、内側シリンダ(40b)の周方向においてブレード(46)付近を除くほぼ全周に亘って形成されている。
内側油通路(67b)は、入口がケーシング(15)の底部の油溜まりに開口し、出口が内側油溝(67a)に開口している。内側油通路(67b)は、下部ハウジング(37)を貫通して、外側シリンダ(40a)の上寄りの位置で内側に折れ曲がり、第3隙間(8)の上方で下側へ折れ曲がって内側油溝(67a)に達している。
この内側油供給手段(67)では、内側油溝(67a)内の圧力が、内側シリンダ室(42)の圧力と最内空間(61)の圧力との間の値になる。内側油溝(67a)内は、内側シリンダ室(42)が低圧状態から高圧状態への変化を繰り返す一方で、最内空間(61)が常に高圧になるため、内側シリンダ室(42)の圧力変化に伴って中間圧状態から高圧状態への変化を繰り返す。このため、常に高圧空間になる油溜まりの圧力の方が、時間平均でみれば内側油溝(67a)内の圧力よりも高くなる。従って、油溜まりの潤滑油が内側油通路(67b)を通じて内側油溝(67a)に供給される。内側油溝(67a)に供給された潤滑油は、内側シリンダ(40b)の先端面において第3隙間(8)を塞いでシールする。
《その他の実施形態》
上記実施形態は、以下の変形例のように構成してもよい。
−第1変形例−
上記実施形態では、第1隙間(6)、第2隙間(7)、第3隙間(8)、第4隙間(9)の全てについて周方向に隙間の間隔を変化させていたが、全てについて周方向に隙間の間隔を変化させずに均一にしてもよく、4つの隙間(6,7,8,9)のうち何れかに適用すればそれぞれで効果を得ることができる。
−第2変形例−
上記実施形態では、本発明を回転式圧縮機に適用したが、回転式膨張機に適用してもよい。
−第3変形例−
上記実施形態について、回転式流体機械(10)が、冷媒として二酸化炭素が充填されて蒸気圧縮冷凍サイクルを行う冷凍装置の冷媒回路(80)に接続されていてもよい。この場合、ケーシング(15)の底部に貯留する潤滑油には、例えば冷媒である二酸化炭素に対してほとんど融けないPAG(ポリアルキレングリコール)などの不溶性冷凍機油を使用する。
回転式流体機械(10)が圧縮機である場合、冷媒回路(80)は、図14に示すように、圧縮機(10)、放熱器(ガスクーラー)(81)、膨張弁(82)、蒸発器(83)が順次接続されて構成されている。この回転式圧縮機(10)は、蒸発器から吸入した冷媒を、二酸化炭素の臨界圧力以上の圧力になるように圧縮して凝縮器へ吐出する。
−第4変形例−
上記実施形態について、環状ピストン(45)にシリンダ(40)よりも熱膨張係数の大きな材料を用いて環状ピストン(45)の熱変形量がシリンダ(40)よりも大きくなるような場合には、図15に示すように、第2隙間(7)の方が第3隙間(8)よりも大きくなるように圧縮機構(20)を構成してもよい。例えば、環状ピストン(45)にアルミ合金を用いてシリンダ(40)に鉄(鋳物)を用いるような場合である。特に、環状ピストン(45)が偏心回転運動するタイプの回転式圧縮機(10)では、振動を低減させるために重量の軽いアルミ合金を環状ピストン(45)に用いる。
この第4変形例によれば、回転式流体機械(10)の運転中に環状ピストン(45)の方が内側シリンダ(40b)よりも熱変形量が大きくなるような場合でも、外側シリンダ(40a)の先端と鏡板部材(37,48)、環状ピストン(45)と鏡板部(47)、及び内側シリンダ(40b)と鏡板部材(37,48)の各部材同士の接触圧力が、温度分布に拘わらずシリンダ室(41,42)の径方向において比較的均一になるので、これらの各部材同士の異常摩耗を抑制することができる。また、運転時の熱変形量が小さい外側において、部材間の隙間が広がるのを抑制できるので、シリンダ室(41,42)からの流体漏れを抑制することができる。
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。