以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
《発明の実施形態1》
本発明の実施形態1について説明する。
図1は、本発明の実施形態1に係るロータリ圧縮機(1)が設けられる冷凍装置(100)の冷媒回路図である。まず、冷媒回路(110)について説明する。
図1において、冷媒回路(110)は、ロータリ圧縮機(1)と、室外熱交換器(2)と、膨脹機構である膨張弁(3)と、室内熱交換器(4)と、エコノマイザ熱交換器(5)とを有している。また、冷媒回路(110)には、冷媒の循環方向を暖房サイクルと冷房サイクルとで切り換え可能にするように、冷媒の循環方向を反転させる四路切換弁(6)が設けられている。上記ロータリ圧縮機(1)は蒸気圧縮式冷凍サイクルの圧縮行程を行うものである。
ロータリ圧縮機(1)の吐出ポート(1a)は四路切換弁(6)の第1ポート(P1)に接続され、四路切換弁(6)の第2ポート(P2)は室内熱交換器(4)の一端に接続されている。室内熱交換器(4)の他端はエコノマイザ熱交換器(5)と膨張弁(3)を介して室外熱交換器(2)の一端に接続されている。室外熱交換器(2)の他端は四路切換弁(6)の第3ポート(P3)に接続され、四路切換弁(6)の第4ポート(P4)はロータリ圧縮機(1)の吸入ポート(1b)に接続されている。
四路切換弁(6)は、第1ポート(P1)と第2ポート(P2)が連通して第3ポート(P3)と第4ポート(P4)が連通する暖房サイクル時の第1位置(図1に実線で示す位置)と、第1ポート(P1)と第3ポート(P3)が連通して第2ポート(P2)と第4ポート(P4)が連通する冷房サイクル時の第2位置(図1に破線で示す位置)とに切り換え可能に構成されている。
エコノマイザ熱交換器(5)は、高圧冷媒が流れる高圧流路(5a)と、中間圧冷媒が流れる中間圧流路(5b)とを有する熱交換器により構成され、高圧冷媒と中間圧冷媒が熱交換をするように構成されている。高圧流路(5a)は、室内熱交換器(4)と膨張弁(3)との間の高圧冷媒配管(111)の途中に設けられている。
高圧冷媒配管(111)には、室内熱交換器(4)とエコノマイザ熱交換器(5)の間にインジェクション配管(120)が接続されている。このインジェクション配管(120)は、高圧液冷媒を中間圧に減圧する中間減圧弁(7)と、上記エコノマイザ熱交換器(5)の中間圧流路(5b)とを介して、ロータリ圧縮機(1)のインジェクションポート(1c)に接続されている。
上記中間減圧弁(7)を所定開度に開くと、高圧液冷媒と熱交換した中間圧のガス冷媒をロータリ圧縮機(1)に中間インジェクションすることができ、上記中間減圧弁(7)を全閉にするとインジェクション動作を停止することができる。
なお、上記冷媒回路には、図示を省略しているが、暖房サイクル時と冷房サイクル時のいずれもエコノマイザ熱交換器(5)が膨張弁(3)の上流側に位置するように、冷媒の流れる順序を調整する機構(例えばブリッジ回路)が設けられている。
図2はロータリ圧縮機(1)の縦断面図である。図示するように、このロータリ圧縮機(1)は全密閉型圧縮機であって、上下が閉塞された縦長円筒状のケーシング(10)と、圧縮機構(20)と、圧縮機構(20)を駆動する駆動機構(30)とを備えている。上記圧縮機構(20)及び駆動機構(30)は、上記ケーシング(10)に収納されている。
上記ケーシング(10)は、縦長の円筒状で上下両端が開口した胴部(11)と、この胴部(11)の上部開口を閉塞するように該胴部(11)に固定された上部鏡板(12)と、胴部(11)の下部開口を閉塞するように該胴部(11)に固定された下部鏡板(13)とから構成されている。上記ケーシング(10)の下端部には、油(冷凍機油)を貯留するための油溜まり(14)が形成されている。
上記駆動機構(30)は電動機(31)と駆動軸(35)とを備えている。電動機(31)はケーシング(10)内の空間における上方寄りの位置でケーシング(10)に固定され、圧縮機構(20)は電動機(31)よりも下方の位置においてケーシング(10)に固定されている。
上記電動機(30)は、ステータ(32)とロータ(33)とを有している。ステータ(32)は、ケーシング(10)の胴部(11)に溶接や焼き嵌めによって固定されている。上記ロータ(33)は、その外周面とステータ(32)の内周面との間に均一で微細なラジアルギャップが形成されるように、ステータ(32)の内周側に配置されている。上記ロータ(33)には、その内周面に上記駆動軸(35)(クランク軸)が固定されている。
上記ケーシング(10)の胴部(11)には、上記圧縮機構(20)に対応する位置に、第1吸入管(16a)と第2吸入管(16b)とインジェクション管(17)が設けられている。また、上記ケーシング(10)の上部鏡板(12)には、該上部鏡板(12)を上下方向に貫通する吐出管(18)が設けられている。そして、この圧縮機(1)は、圧縮機構(20)から吐出された高圧ガスをケーシング(10)内の空間を介して該ケーシング(10)外へ吐出する高圧ドーム式の圧縮機(1)に構成されている。
図3(A),(B)は、図2の要部拡大断面図であって圧縮機構(20)の概略構造を示し、図4は圧縮機構(20)の横断面図である。上記圧縮機構(20)は、第1圧縮機構(40)と第2圧縮機構(50)を上下に重ねて配置した2シリンダ型の圧縮機構である。この実施形態では、第1圧縮機構(40)が第2圧縮機構(50)の上方に配置されている。各圧縮機構はロータリ式の圧縮機構の一種である揺動ピストン式圧縮機構により構成されている。
上記第1吸入管(16a)は第1圧縮機構(40)に接続され、第2吸入管(16b)は第2圧縮機構(50)に接続されている。また、上記インジェクション管(17)は、詳細は後述するが、第1圧縮機構(20)と第2圧縮機構(50)の両方に接続されるようになっている。
上記第1圧縮機構(40)及び第2圧縮機構(50)は、それぞれ、シリンダ室(25,26)を有するシリンダ(41,51)(第1シリンダ(41)及び第2シリンダ(51))と、シリンダ室(25,26)の中でシリンダ室(25,26)の内周面に沿って周回軌道上を公転(偏心回転動作)する揺動ピストン(42,52)(第1揺動ピストン(42)及び第2揺動ピストン(52))とを備えている。第1圧縮機構(40)は、第1シリンダ(41)と第1揺動ピストン(42)に加えてフロントヘッド(第1プレート)(43)を備えている。第2圧縮機構(50)は、第2シリンダ(51)と第2揺動ピストン(52)に加えてリアヘッド(第2プレート)(53)を備えている。また、第1シリンダ(41)と第2シリンダ(51)の間にはミドルプレート(21)が設けられている。
このように、第1圧縮機構(40)の第1シリンダ(41)と第2圧縮機構(50)の第2シリンダ(51)とがミドルプレート(21)を挟んで積層されている。そして、第1シリンダ(41)の外側端がフロントヘッド(43)(第1プレート:第1端部閉塞部材)で閉塞され、第2シリンダ(51)の外側端がリアヘッド(53)(第2プレート:第2端部閉塞部材)で閉塞されている。第1シリンダ(41)及び第2シリンダ(51)の内側端は、ミドルプレート(中間閉塞部材)(21)で閉塞されている。
上記圧縮機構(20)は、フロントヘッド(43)、第1シリンダ(41)、ミドルプレート(21)、第2シリンダ(51)、及びリアヘッド(53)を、上方から下方へ重ねて締結して、これらを一体化することにより構成されている。フロントヘッド(43)の上面にはマフラー(22)が固定され、リアヘッド(53)の下面には下部プレート(23)が固定されている。
駆動軸(35)は、ケーシング(10)の上下方向の中心線に沿って配置されている。駆動軸(35)は、主軸部(35a)と、主軸部(35a)の中心から偏心して形成されて上記各揺動ピストン(42,52)に嵌合する偏心部(偏心ピン)(35b,35c)とを備えている。この偏心部(35b,35c)には、第1揺動ピストン(42)に嵌合する第1偏心部(35b)と、第2揺動ピストン(52)に嵌合する第2偏心部(35c)とが含まれている。第1偏心部(35b)は、第1シリンダ(41)に形成されている第1シリンダ室(25)内に位置するように形成され、第2偏心部(35c)は、第2シリンダ(51)に形成されている第2シリンダ室(26)内に位置するように形成されている。第1偏心部(35b)と第2偏心部(35c)は、主軸部(35a)の回転中心に対する偏心方向が、駆動軸(35)の軸方向と直角の面上で、位相が180°ずれている。したがって、第1揺動ピストン(42)と第2揺動ピストン(52)の回転時の位相が180°ずれていることになる。
上記各揺動ピストン(42,52)には、その外周面から径方向外方へのびるブレード(42a,52a)(第1ブレード(42a)及び第2ブレード(52a))が一体的に形成されている。各シリンダ(41,51)には、ほぼ半月形状の一対の揺動ブッシュ(44,54)(第1揺動ブッシュ(44)及び第2揺動ブッシュ(54))が保持されている。これらの揺動ブッシュ(44,54)は、平面部分が対向して配置され、各シリンダ(41,51)のブッシュ孔(45,55)(第1ブッシュ孔(45)及び第2ブッシュ孔(55))に保持されている。
第1揺動ブッシュ(44)及び第2揺動ブッシュ(54)のそれぞれの一対の平面の間には、ブレード溝(46,56)(第1ブレード溝(46)及び第2ブレード溝(56))が形成され、このブレード溝(46,56)に上記ブレード(42a,52a)がそれぞれ挿入されている。上記各シリンダ(41,51)には、ブッシュ孔(45,55)の径方向外側に背圧空間(47,57)(第1背圧空間(47)及び第2背圧空間(57))が形成されている。これらの背圧空間(47,57)を各シリンダ(41,51)に設けることにより、各ブレード(42a,52a)の進退動作と揺動動作が可能になっている。
また、第1圧縮機構(40)には、第1吸入ポート(48)と第1吐出ポート(45)が形成され、第2圧縮機構(50)には、第2吸入ポート(58)と第2吐出ポート(59)が形成されている。第1吸入ポート(48)には第1吸入管(16a)が接続され、第2吸入ポート(58)には第2吸入管(16b)が接続されている。第2吐出ポート(59)は下部プレート(23)内の空間からマフラー(22)内の空間へ連通している。そして、第1吐出ポート(49)から吐出された冷媒と第2吐出ポート(59)から吐出された高圧冷媒は、マフラー(22)から圧縮機(1)のケーシング(10)内の空間へ流出する。
本実施形態の圧縮機構(20)には、上記シリンダ室に中間圧冷媒を注入するインジェクション機構(70)が設けられている。このインジェクション機構(70)は、中間閉塞部材である上記ミドルプレート(21)にシリンダ(41,51)の径方向に形成されて、外周端にインジェクション流体(中間圧冷媒)の導入開口(71a)を有するインジェクション通路(71)を有している。また、ミドルプレート(70)には、インジェクション通路(71)とシリンダ室(25,26)を連通するように、インジェクションポート(72a,72b)がシリンダ(41,51)の軸方向へ形成されている。
また、上記インジェクション機構(70)は、インジェクション通路(71)にその通路方向へスライド可能に装填されるスライド弁(73)と、該スライド弁(73)を、上記インジェクションポート(72a,72b)を閉塞する閉位置(図3(A)の位置)と、該スライド弁(73)が該インジェクションポート(72a,72b)に対してシリンダ(41,51)の径方向内側に位置して該インジェクションポート(72a,72b)を開放する開位置(図3(B)の位置)とにスライドさせるスライド機構(75)とを備えている。
上記スライド機構(70)は、上記スライド弁(73)を開位置へ付勢する第1付勢力と、閉位置へ付勢する第2付勢力との大きさを調整して、第1付勢力と第2付勢力の相対的な大小関係が入れ替わるように構成されている。
具体的には、上記スライド機構(70)は、インジェクション通路(71)の圧力を中間圧とそれより低い圧力に切り換える切換弁(インジェクション弁)(7)と、スライド弁(73)を閉位置から開位置へ付勢するコイルバネ部材(76)と、スライド弁(73)の径方向内側端面に高圧圧力を導入する圧力導入部(77)とを備えている。そして、上記第1付勢力がインジェクション通路(71)の圧力とコイルバネ部材(76)の付勢力に基づく力であり、上記第2付勢力が上記圧力導入部(77)の圧力に基づく力である。
この構成において、インジェクション動作をオフにするときはインジェクション通路(71)が中間圧よりも低い圧力になり、その圧力による力とコイルバネ部材(76)の付勢力を加えた力が圧力導入部(77)の高圧圧力による力よりも弱くなる一方、インジェクション動作をオンにするときはインジェクション通路(71)が中間圧になり、その中間圧による力とコイルバネ部材(76)の付勢力を加えた力が圧力導入部(77)の高圧圧力による力よりも強くなるように、コイルバネ部材(76)の付勢力が設定されている。このことにより、インジェクション動作をオフにするときにはスライド弁(73)が図3(A)の閉位置に設定され、インジェクション動作をオンにするときにはスライド弁(73)が図3(B)の開位置に設定される。
このように、本実施形態では、上記圧縮機構(20)が、2つのシリンダ(41,51)がミドルプレート(21)を介して積層され、両端にフロントヘッド(43)とリアヘッド(53)が装着された2シリンダ型圧縮機構であって、上記インジェクション機構(70)は、ミドルプレート(21)に設けられている。そして、上記インジェクションポート(72a,72b)には、上記インジェクション通路(71)から2つのシリンダ室のうちの第1シリンダ室(25)に連通する第1インジェクションポート(72a)と、該インジェクション通路(71)から第2シリンダ室(26)に連通する第2インジェクションポート(72b)とが含まれている。各インジェクションポート(72a,72b)は直径が小さく、ミドルプレート(21)の厚さ寸法からインジェクション通路(71)の直径寸法を引いた値の半分の寸法が長さ寸法となる孔であるから、その容積は非常に小さい。
また、上記圧力導入部(77)には、ミドルプレート(21)の内側端に形成された開口(78)により、駆動軸(35)の周りの高圧圧力が導入されるようになっている。
−運転動作−
次に、この実施形態に係る圧縮機(1)の運転動作について説明する。
電動機(31)を起動すると駆動軸(35)が回転し、その回転が圧縮機構(20)に伝達される。圧縮機構(20)においては、電動機(31)の回転に伴って、駆動軸(35)の各偏心部(35b,35c)が、その偏心量を半径とする周回軌道上を旋回する。一方、各揺動ピストン(42,52)は、ブレード(42a,52a)が揺動ブッシュ(44,54)に保持されているので、揺動ブッシュ(44,54)の中心に対して振り子のような動作(揺動動作)を行う。以上の動きが合成されて、揺動ピストン(42,52)は、ブレード(42a,52a)が揺動ブッシュ(44,54)に対して進退するとともに揺動ブッシュ(44,54)と一緒に揺動しながら、シリンダ(41,51)の内周面に沿って周回軌道上を旋回する。上記の動作は、第1圧縮機構(40)と第2圧縮機構(50)のいずれも同じである。
第1圧縮機構(40)及び第2圧縮機構(50)では、第1揺動ピストン(42)及び第2揺動ピストン(52)の動作によって低圧冷媒が第1シリンダ室(25)及び第2シリンダ室(26)へ吸入され、第1揺動ピストン(42)及び第2揺動ピストン(52)の動作がさらに進むと冷媒の圧縮が開始される。また、インジェクション動作を行うときは、圧縮行程の途中でインジェクション管(17)から第1シリンダ室(25)及び第2シリンダ室(26)へ中間圧冷媒が注入される。そして、第1揺動ピストン(42)及び第2揺動ピストン(52)の動作がさらに進んで第1シリンダ室(25)及び第2シリンダ室(26)の圧力が所定の高圧圧力に達すると、各シリンダ室(25,26)内の高圧冷媒がケーシング(10)内の空間へ流出する。
ケーシング(10)内に流出した高圧冷媒は、そのケーシング(10)に設けられている吐出管(18)から圧縮機(1)の外へ吐出される。吐出管(18)から吐出された冷媒は、冷媒回路(110)を循環する。
暖房サイクル時は、圧縮機(1)から吐出された冷媒が、室内熱交換器(4)での放熱行程を行った後にエコノマイザ熱交換器(5)を通り、膨張弁(3)での膨張行程と室外熱交換器(2)での蒸発行程を経て、ふたたび第1圧縮機構(40)及び第2圧縮機構(50)に吸入される。冷房サイクル時は、室外熱交換器(2)で放熱行程が行われ、室内熱交換器(4)で蒸発行程が行われるが、他の動作は暖房サイクルと同じである。
そして、図5の表に示すように、インジェクション動作は、暖房運転時には高負荷条件と定格条件で、図ではSVと示しているインジェクション弁(7)を開いて行われる一方、中間条件と低負荷条件では行われず、除霜運転時には行われる場合と行われない場合がある。また、冷房運転時には、インジェクション動作は高負荷条件と定格条件で行われる一方、中間条件と低負荷条件では行われない。
インジェクション動作が行われるときは、中間減圧弁であるインジェクション弁(7)が開かれて、エコノマイザ熱交換器(5)の高圧流路(5a)を流れる高圧冷媒と中間圧流路(5b)を流れる中間圧冷媒が熱交換をする。そして、中間圧流路(5b)を流れる冷媒が高圧冷媒から熱を奪って圧縮機(1)に吸入され、高圧流路(5a)を流れる冷媒は中間圧冷媒により過冷却される。
インジェクション機構のオンオフ動作は、以下のように行われる。
まず、インジェクション動作を停止するときは、インジェクション弁を「閉」にする。そうすると、インジェクション通路(71)の圧力が中間圧力よりも低い圧力になり、その圧力による力とコイルバネ部材(76)の付勢力を加えた力が、圧力導入部(77)の高圧圧力による力よりも弱くなる。そのため、スライド弁(73)が図3(A)の閉位置に位置してインジェクションポート(72a,72b)が閉塞されるので、インジェクション通路(71)が閉じられる。したがって、この状態では圧縮機構(20)へ中間圧冷媒は導入されない。このときには、死容積がインジェクションポート(72a,72b)の小さな容積だけになる。
また、インジェクション動作を行うときは、インジェクション弁を「開」にする。そうすると、インジェクション通路(71)の圧力が中間圧力になり、その中間圧による力とコイルバネ部材(76)の付勢力を加えた力が、圧力導入部(77)の高圧圧力による力よりも強くなる。そのため、スライド弁(73)が図3(B)の開位置に位置してインジェクションポート(72a,72b)が開放されるので、インジェクション通路(71)が開かれる。したがって、この状態において、圧縮機構(20)へ中間圧冷媒が注入される。中間圧冷媒は、一つのインジェクション通路(71)から、第1シリンダ室(25)へは第1インジェクションポート(72a)を介して注入され、第2シリンダ室(26)へは第2インジェクション
ポート(72b)を介して注入される。
このときには、スライド弁(73)がインジェクションポート(72a,72b)に対してシリンダの径方向内側に位置するので、径方向外側の導入開口(71a)から入ってくる中間圧冷媒の流れは妨げられない。
このように、本実施形態では、インジェクション通路(71)への中間圧力の冷媒導入のオンとオフを切り換えるだけで、第1付勢力が第2付勢力よりも大きくなる状態と、第1付勢力が第2付勢力よりも小さくなる状態とを切り換えることができる。そして、スライド弁(73)が、インジェクション動作時に開位置になるとシリンダ室(25,26)へ中間圧冷媒が導入され、インジェクション動作停止時に閉位置になるとシリンダ室(25,26)への中間圧冷媒の導入が禁止される。
−実施形態1の効果−
上記実施形態1によれば、スライド弁(73)を閉位置にしてインジェクション動作を行わないとき、スライド弁(73)がインジェクションポート(72a,72b)を閉塞し、このとき、死容積はインジェクションポート(72a,72b)の容積だけとなる。したがって、再膨張損失を小さくすることができるから、圧縮機の効率が低下するのを抑えられる。
また、インジェクション容量を増やすためにインジェクション通路(71)の直径を大きくしても、死容積はインジェクションポート(72a,72b)だけでその容積を最小限に保つことができるから、運転容量が大きな圧縮機や、低圧冷媒を用いる圧縮機においても、効率が低下するのを防止できる。
さらに、本実施形態では、インジェクション通路(71)の中に、その通路方向へスライドするスライド弁(73)を設けているので、インジェクション通路と直交するスライド弁を設ける場合に比べてインジェクション機構(70)をコンパクトに構成できる。
さらに、スライド弁(73)を開位置にしてインジェクション動作を行うとき、中間圧冷媒がインジェクション通路(71)とインジェクションポート(72a,72b)を通ってシリンダ室(25,26)に導入されるが、このとき、スライド弁(73)はインジェクションポート(72a,72b)に対してシリンダ(41,51)の径方向内側に位置し、インジェクション通路(71)からインジェクションポート(72a,72b)を通ってシリンダ室(25,26)へ流入する中間圧冷媒の流れを妨げない。したがって、冷媒の圧力損失を最小限にすることができるから、十分なインジェクション量を確保できるし、特に低圧冷媒を用いる圧縮機においてインジェクション量を確保できる効果が高い。
以上のように、本実施形態によれば、ロータリ圧縮機(1)において、インジェクション機構(70)を設けることにより生じる死容積を小さくして圧縮機の効率が低下するのを抑えることができるうえ、圧縮機構(20)の大型化やそれに伴うコスト増大を抑えることができ、さらには十分なインジェクション量を確保することが可能となる。
また、上記実施形態によれば、上記スライド弁(73)に作用する第1付勢力と第2付勢力を調整するだけでスライド弁(73)を駆動することができる。特に、上記スライド弁(73)に作用する冷媒圧力とコイルバネ部材(76)の付勢力を用いてスライド弁(73)の動作を制御し、該スライド弁(73)を開位置と閉位置に設定することができる。冷媒圧力だけを利用してスライド弁(73)を駆動する場合は、スライド弁(73)に対して中間圧冷媒の導入開口(71a)側の圧力が開位置と閉位置で変化するのに合わせて、圧力導入部(77)側の圧力も開位置と閉位置で異ならせることが必要になるが、本実施形態では、圧力導入部(77)の圧力は一定でよい。したがって、スライド弁(73)の両側に圧力を印加する構成を簡素化できるから、機構を簡素化できる。
また、上記実施形態によれば、2つの圧縮機構(40,50)がミドルプレート(21)を介して上下に積層された2シリンダ型のロータリ圧縮機(1)において、インジェクション通路(71)の中にその通路方向へスライドするスライド弁(73)を配置したインジェクション機構(70)をミドルプレート(21)に設けていて、インジェクション機構(70)をコンパクトに構成することができるから、ミドルプレート(21)が厚くなるのを防止できる。ミドルプレート(21)が厚くなると、圧縮機構(20)の軸受け部間の距離が長くなり、駆動軸(35)のたわみや軸の片当たりによる信頼性の低下が生じるおそれがあるが、本実施形態によれば、そのような問題を防止できる。また、シリンダの両端のフロントヘッドとリアヘッドにはインジェクション機構(70)を設ける必要がなく、ミドルプレート(21)にだけインジェクション機構(70)を設ければよいので、簡単な機構を実現できる。
−実施形態1の変形例−
(変形例1)
上記スライド機構は、図6の変形例1に示すように構成してもよい。
この変形例1では、上記スライド機構(75)が、インジェクション通路(71)の圧力を中間圧とそれより低い圧力に切り換える切換弁(7)と、スライド弁(73)を開位置から閉位置へ付勢するコイルバネ部材(76)と、スライド弁(73)の径方向内側端面に低圧圧力を導入する圧力導入部(77)とを備えている(低圧圧力を導入する構造は図示省略)。この構成において、上記第1付勢力は、インジェクション通路(71)の圧力に基づく力であり、上記第2付勢力は、上記圧力導入部(77)の圧力とコイルバネ部材(76)の付勢力に基づく力である。
そして、インジェクション動作をオフにするときは、インジェクション通路(71)が中間圧よりも低い圧力になり、その圧力による力が圧力導入部(77)の低圧圧力による力とコイルバネ部材(76)の付勢力を加えた力よりも弱くなる一方、インジェクション動作をオンにするときはインジェクション通路(71)が中間圧になり、その中間圧による力が圧力導入部(77)の低圧圧力による力とコイルバネ部材(76)の付勢力を加えた力よりも強くなるように、コイルバネ部材(76)の付勢力が設定されている。
このようにしても、インジェクション通路(71)への中間圧力の冷媒導入のオンとオフを切り換えるだけで、第1付勢力が第2付勢力よりも大きくなる状態と、第1付勢力が第2付勢力よりも小さくなる状態とを切り換えることができる。そして、スライド弁(73)がインジェクション動作時に開位置になるとシリンダ室(25,26)へ中間圧冷媒が導入され、インジェクション動作停止時に閉位置になるとシリンダ室(25,26)への中間圧冷媒の導入が禁止される。
この変形例の構成においても、インジェクション動作のオンとオフを切り換えるだけでスライド弁(73)の位置を切り換えることができるとともに、インジェクション動作のオフ時には死容積を小さくできる。また、インジェクション動作のオン時には中間圧冷媒の流路中に弁が存在しないので圧力損失を小さくできる。
(変形例2)
インジェクション機構(70)は、図7の変形例2に示すように構成してもよい。
この変形例2では、インジェクション管(17)が分岐して、インジェクション機構(70)が、端部閉塞部材であるフロントヘッド(43)とリアヘッド(53)の両方に設けられている。具体的には、インジェクション通路(71)と、スライド弁(73)と、コイルバネ部材(76)と、圧力導入部(77)は、上記変形例1と同様の構成でフロントヘッド(43)とリアヘッド(53)の両方に設けられている。
また、上記インジェクションポート(72a,72b)としては、上記端部閉塞部材の一方であるフロントヘッド(43)には、該フロントヘッド(43)に形成されているインジェクション通路(71)から第1シリンダ室(25)に連通する第1インジェクションポート(25a)が形成され、リアヘッド(53)には、該リアヘッド(53)に形成されているインジェクション通路(71)から第2シリンダ室(25)に連通する第2インジェクションポート(72b)が形成されている。
その他の構造は図6の変形例2と同じであるため、具体的な説明は省略する。
この変形例2において、インジェクション動作時に、第1シリンダ室(25)には、フロントヘッド(43)のインジェクション機構(70)から第1インジェクションポート(72a)を介して中間圧冷媒が導入される。また、第2シリンダ室(26)には、リアヘッド(53)のインジェクション機構(70)から第2インジェクションポート(72b)を介して中間圧冷媒が導入される。
そして、この変形例2においても、インジェクション動作のオンとオフでスライド弁(73)の位置を切り換えることができるとともに、インジェクション動作のオフ時には死容積を小さくできる。また、インジェクション動作のオン時には流路中に弁が存在しないので圧力損失を小さくできる。
また、インジェクション通路(71)の中にその通路方向へスライドするスライド弁(73)を配置したインジェクション機構(70)をフロントヘッド(43)とリアヘッド(53)の両方に設けていて、各インジェクション機構(70)をコンパクトに構成することができるから、フロントヘッド(43)とリアヘッド(53)が厚くなるのも防止できる。したがって、機構の大型化を防止できる。
(変形例3)
インジェクション機構(70)は、図8の変形例3に示すように構成してもよい。
この変形例3では、変形例2と同様にインジェクション機構(70)をフロントヘッド(43)とリアヘッド(53)の両方に設けている。また、上記圧力導入部(77)は、高圧空間になるように構成されている。この圧力導入部(77)を高圧空間にするために、この変形例3では、フロントヘッド(43)とリアヘッド(53)の両方に、上記圧力導入部(77)と圧縮機(1)の内部の空間(高圧ガスで満たされる空間)とを連通する高圧導入路(77a)が形成されている。また、コイルバネ部材(76)はインジェクション通路(71)内に設けられている。
その他の構成は、上記実施形態及び変形例1,2と同様である。また、以上の構成において、コイルバネ部材(76)の付勢力や、インジェクション通路(71)及び圧力導入部(77)の圧力関係は、図3の実施形態1と同じである。
したがって、この変形例3においても、インジェクション動作のオンとオフでスライド弁(73)の位置を切り換えることができるとともに、インジェクション動作のオフ時には死容積を小さくできる。また、インジェクション動作のオン時には流路中にスライド弁(73)が存在しないので圧力損失を小さくできる。
(変形例4)
変形例4は、冷媒回路(110)の構成を実施形態1とは異なるようにした例である。
図9に示すこの変形例の冷媒回路(110)は、図1のエコノマイザ熱交換器(5)に代えて気液分離器(8)を用いた例である。
冷媒回路(110)は、ロータリ圧縮機(1)と、室外熱交換器(2)と、膨脹機構である膨張弁(3a,3b)と、室内熱交換器(4)と、気液分離器(8)とを有している。また、冷媒回路(110)には、冷媒の循環方向を暖房サイクルと冷房サイクルとで切り換え可能にするように、冷媒の循環方向を反転させる四路切換弁(6)が設けられている。上記ロータリ圧縮機(1)は蒸気圧縮式冷凍サイクルの圧縮行程を行うものである。上記膨脹弁(3a,3b)には、第1膨張弁(3a)と第2膨張弁(3b)が用いられている。
ロータリ圧縮機(1)の吐出ポート(1a)は四路切換弁(6)の第1ポート(P1)に接続され、四路切換弁(6)の第2ポート(P2)は室内熱交換器(4)の一端に接続されている。室内熱交換器(4)の他端は第2膨張弁(3b)を介して気液分離器(8)の第1ポート(8a)に接続され、気液分離器(8)の第2ポート(8b)は、第1膨張弁(3a)を介して室外熱交換器(2)の一端に接続されている。室外熱交換器(2)の他端は四路切換弁(6)の第3ポート(P3)に接続され、四路切換弁(6)の第4ポート(P4)はロータリ圧縮機(1)の吸入ポート(1b)に接続されている。
気液分離器(8)の第1ポート(8a)及び第2ポート(8b)は、いずれも液冷媒の流出入が可能なポートである。また、気液分離器(8)には、ガス冷媒が流出する第3ポート(8c)が設けられており、この第3ポート(8c)とロータリ圧縮機(1)のインジェクションポート(1c)がインジェクション配管(120)により接続されている。また、上記インジェクション管には、インジェクション弁(開閉弁)(7)が設けられている。
四路切換弁(6)は、第1ポート(P1)と第2ポート(P2)が連通して第3ポート(P3)と第4ポート(P4)が連通する暖房サイクル用の第1位置(図1の実線の位置)と、第1ポート(P1)と第3ポート(P3)が連通して第2ポート(P2)と第4ポート(P4)が連通する冷房サイクル用の第2位置(図1の破線の位置)とに切り換え可能に構成されている。
この変形例4の冷媒回路(110)において、暖房サイクル時、圧縮機(1)から吐出された冷媒は、室内熱交換器(4)で室内空気に放熱し、第2膨張弁(3b)で減圧されて気液分離器(8)に流入する。気液分離器(8)の液冷媒は第1膨張弁(3a)を通過して室外熱交換器(2)に流入し、該室外熱交換器(2)で蒸発して圧縮機(2)に吸入される。冷房サイクル時には、室外熱交換器(2)で冷媒が室外空気に放熱し、第1膨張弁(3a)で減圧され、室内熱交換器(4)で蒸発する点を除いて暖房サイクルと同じ動作が行われる。
また、インジェクション動作時には、インジェクション弁(7)が開かれて、中間圧冷媒が圧縮機(1)に注入される。
冷媒回路(110)をこの変形例4のように構成しても、インジェクション機構(70)は上記実施形態1及びその変形例1から変形例3と同様に構成することができる。したがって、インジェクション動作のオンとオフでスライド弁(73)の位置を切り換えることができるとともに、インジェクション動作のオフ時には死容積を小さくできる。また、インジェクション動作のオン時には流路中にスライド弁(73)が存在しないので圧力損失を小さくできる。
《発明の実施形態2》
本発明の実施形態2について説明する。
図10は、実施形態2に係るロータリ圧縮機(1)の縦断面図である。このロータリ圧縮機(1)は、蒸気圧縮式冷凍サイクルにおいて冷媒を圧縮する圧縮行程を行うものである。図示するように、このロータリ圧縮機(1)は、縦長円筒状のケーシング(10)と、このケーシング(10)内に配置された圧縮機構(80)と駆動機構(30)とを備えている。上記圧縮機構(80)は、ケーシング(10)内の下方の位置に配置され、上記駆動機構(30)はケーシング(10)内の上方の位置に配置されている。上記駆動機構(30)は、圧縮機構(80)を駆動するための電動機(31)と駆動軸(35)により構成されている。
上記ケーシング(10)は、縦長の円筒状で上下両端が開口した胴部(11)と、この胴部(11)の上部開口を閉塞するように該胴部(11)に固定された上部鏡板(12)と、胴部(11)の下部開口を閉塞するように該胴部(11)に固定された下部鏡板(13)とから構成されている。上記ケーシング(10)の下端部には、油(冷凍機油)を貯留するための油溜まり(14)が形成されている。
上記ケーシング(10)の胴部(11)の下側部分には、上記圧縮機構(80)と対応する位置に吸入管(16)が設けられている。また、上記ケーシング(10)の上部鏡板(12)には、そのほぼ中心位置に、ケーシング(10)の軸方向の中心線に沿うように吐出管(18)が設けられている。そして、この圧縮機(1)は、圧縮機構(80)から吐出された高圧ガスをケーシング(10)内の空間を介して該ケーシング(10)外へ吐出する高圧ドーム式の圧縮機(1)として構成されている。図10においてはインジェクション機構(70)は図示を省略しており、その構成については後述する。
上記電動機(31)は、ステータ(32)とロータ(33)とを有している。ステータ(32)は、ケーシング(10)の胴部(11)における上記圧縮機構(80)の上方位置において、上記胴部(11)に溶接や焼き嵌めによって固定されている。上記ロータ(33)は、その外周面とステータ(32)の内周面との間に均一で微細なラジアルギャップ(図ではギャップを誇張して表している)が形成されるように、ステータ(32)の内周側に配置されている。
上記ロータ(33)には、その内周面に上記駆動軸(35)(クランク軸)が固定されている。この駆動軸(35)は、主軸部(35a)と、この主軸部(35a)の軸方向中間部分の下方寄りに形成された偏心部(35b)とから構成されている。この偏心部(35b)は、主軸部(35a)よりも大径であって、その中心が主軸部(35a)の中心から偏心している。
上記圧縮機構(80)は、旋回式の圧縮機構の一種である揺動ピストン式圧縮機構(80)により構成されている。図11(A),(B)は、圧縮機(1)の要部縦断面図であって圧縮機構(80)の縦断面概略構造を示し、図12は、圧縮機構(80)を平面的に見た内部構造を示している。この圧縮機構(80)は、図示するように、シリンダ室(85)を有するシリンダ(81)と、このシリンダ室(85)の内部で、該シリンダ室(85)の内周面に沿って旋回運動をすることが可能に構成された揺動ピストン(86)とを有している。
上記シリンダ(81)には、図11(A)の上面にフロントヘッド(83)が固定され、図10(A)の下面にリアヘッド(84)が固定されている。そして、このシリンダ(81)とフロントヘッド(83)とリアヘッド(84)の間に区画された空間が、上記シリンダ室(85)になっている。
上記シリンダ室(85)の内部には、上記駆動軸(35)の偏心部(35b)が位置している。また、この偏心部(35b)には揺動ピストン(86)が装着されている。揺動ピストン(86)は、該偏心部(35b)の外周に摺動自在に嵌合している。上記フロントヘッド(83)とリアヘッド(84)には、駆動軸(35)の主軸部(35a)を回転可能に支持する軸受け部(83a,84a)が形成されている。また、揺動ピストン(86)は、上記駆動軸(35)が回転するときに、該揺動ピストン(86)の外周面がシリンダ室(85)の内周面に油膜を介して実質的に接するように構成されている。
上記揺動ピストン(86)は、上記駆動軸(35)の偏心部(35b)に嵌合する環状の揺動ピストン本体部(86a)と、この揺動ピストン本体部(86a)から径方向外方へ突出するブレード(86b)とが一体的に形成されたものである。上記シリンダ本体(82)には、上記ブレード(86b)を揺動可能に保持する揺動ブッシュ(87)が設けられている。この揺動ブッシュ(87)は、断面がほぼ半円形でシリンダ本体(82)と同程度の厚さを有する一対の部材であって、シリンダ本体(82)に形成されているブッシュ保持凹部(82a)に、平坦面同士が対向する状態で保持されている。そして、一対の揺動ブッシュ(87)の平坦面同士の間にブレード溝(87a)が形成され、このブレード溝(87a)に揺動ピストン(86)のブレード(86b)が摺動自在に保持されている。なお、ブッシュ保持凹部(82a)に対して径方向の外側には背圧室が形成されている。
以上の構成により、上記圧縮機構(80)は、駆動軸(35)が回転すると、揺動ブッシュ(87)が揺動するとともに、揺動ブッシュ(87)のブレード溝(87a)の中をブレード(86b)が進退して、シリンダ室(85)の中で揺動ピストン(86)がシリンダ室(85)の内周面に沿って旋回運動をする。このように、上記圧縮機構(80)は、偏心部(35b)を有する駆動軸(35)が回転することによって、ブレード(86b)が揺動しながら揺動ピストン(86)がシリンダ(81)内で旋回運動をする上述の揺動ピストン式圧縮機構(80)により構成されている。
上記シリンダ(81)のシリンダ本体(82)には吸入ポート(81a)が形成され、この吸入ポート(81a)には上記吸入管(16)が接続されている。また、上記シリンダ(81)のフロントヘッド(83)には吐出ポート(81b)が形成され、この吐出ポート(81b)は下面側が上記シリンダ室(85)に開口している。また、吐出ポート(81b)の上面には、リード弁である吐出弁(88a)と、吐出弁のリフト量を規制するための弁押さえ(88b)が設けられている。上記フロントヘッド(83)の上面には、吐出ポート(81b)を覆うように吐出カバー(89)(吐出マフラ)が装着されている。
図11に示すように、この実施形態2のインジェクション機構(70)は、端部閉塞部材であるフロントヘッド(83)にシリンダ(81)の径方向に形成されて、外周端に中間圧冷媒の導入開口(71a)を有するインジェクション通路(71)を有している。また、フロントヘッド(83)には、インジェクション通路(71)とシリンダ室(85)を連通するように、インジェクションポート(72)がシリンダ(81)の軸方向へ形成されている。
インジェクションポート(72a)は直径が小さく、フロントヘッド(83)の厚さ寸法からインジェクション通路(71)の直径寸法を引いた値の半分の寸法が長さ寸法となる孔であるから、その容積は非常に小さい。
また、上記インジェクション機構(70)は、インジェクション通路(71)にその通路方向へスライド可能に装填されるスライド弁(73)と、該スライド弁(73)を、上記インジェクションポート(72a,72b)を閉塞する閉位置(図11(A)の位置)と、該スライド弁(73)が該インジェクションポート(72)に対してシリンダ(81)の径方向内側に位置して該インジェクションポート(72)を開放する開位置(図11(B)の位置)とにスライドさせるスライド機構(75)とを備えている。
上記スライド機構(70)は、上記スライド弁(73)を開位置へ付勢する第1付勢力と、閉位置へ付勢する第2付勢力との大きさを調整して、第1付勢力と第2付勢力の相対的な大小関係が入れ替わるように構成されている。
上記スライド機構(75)は、インジェクション通路(71)の圧力を中間圧とそれより低い圧力に切り換える切換弁(7)と、スライド弁(73)を開位置から閉位置へ付勢するコイルバネ部材(76)と、スライド弁(73)の径方向内側端面に低圧圧力を導入する圧力導入部(77)とを備えている(低圧圧力を導入する構造は図示省略)。この構成において、上記第1付勢力は、インジェクション通路(71)の圧力に基づく力であり、上記第2付勢力は、上記圧力導入部(77)の圧力とコイルバネ部材(76)の付勢力に基づく力である。
そして、インジェクション動作をオフにするときは、インジェクション通路(71)が中間圧よりも低い圧力になり、その圧力による力が圧力導入部(77)の低圧圧力による力とコイルバネ部材(76)の付勢力を加えた力よりも弱くなる一方、インジェクション動作をオンにするときはインジェクション通路(71)が中間圧になり、その中間圧による力が圧力導入部(77)の低圧圧力による力とコイルバネ部材(76)の付勢力を加えた力よりも強くなるように、コイルバネ部材(76)の付勢力が設定されている。
−運転動作−
次に、このロータリ圧縮機(1)の運転動作について説明する。
上記電動機(31)を起動するとロータ(33)が回転し、その回転が駆動軸(35)に伝達される。そして、駆動軸(35)が回転すると、シリンダ(81)内で揺動ピストン(86)がシリンダ室(85)の内周面に沿って旋回運動を行う。このことにより、シリンダ室(85)の容積が縮小と拡大を繰り返す。そして、シリンダ室(85)の容積が拡大するときに吸入ポート(81a)からシリンダ室(85)へ冷媒が吸入され、シリンダ室(85)の容積が縮小するときに冷媒が圧縮されて吐出ポート(81b)からケーシング(10)内へ吐出される。
シリンダ室(85)から吐出された高圧冷媒はケーシング(10)内に充満する。ケーシング(10)内に充満した高圧冷媒は吐出管(17)から流出し、冷媒回路を循環する際に凝縮行程、膨張行程、及び蒸発行程を経た後、再び圧縮機(1)に吸入されて圧縮行程が行われる。以上のようにして冷媒が冷媒回路を循環することにより、蒸気圧縮式冷凍サイクルが行われる。
また、インジェクション機構の動作は、実施形態1の変形例2で説明したものと同様であり、インジェクション通路(71)への中間圧力の冷媒導入のオンとオフを切り換えるだけで、第1付勢力が第2付勢力よりも大きくなる状態と、第1付勢力が第2付勢力よりも小さくなる状態とを切り換えることができる。そして、スライド弁(73)がインジェクション動作時に開位置になるとシリンダ室(85)へ中間圧冷媒が導入され、インジェクション動作停止時に閉位置になるとシリンダ室(85)への中間圧冷媒の導入が禁止される。
−実施形態2の効果−
したがって、この実施形態2においても、インジェクション動作のオンとオフでスライド弁(73)の位置を切り換えることができるとともに、インジェクション動作のオフ時には死容積を小さくできる。また、インジェクション動作のオン時には流路中に弁が存在しないので圧力損失を小さくできる。
また、上記実施形態1及びその変形例と同様にインジェクション機構(70)をコンパクトに構成することができるから、フロントヘッド(83)が厚くなるのを防止できる。また、リアヘッド(84)にはインジェクション機構(70)が設けられないので、リアヘッド(84)が厚くなるのも防止できる。したがって、機構の大型化を防止できる。
−実施形態2の変形例−
(変形例1)
図13に示す実施形態2の変形例1は、リアヘッド(83)にインジェクション機構(70)を設けた例である。具体的には、上記インジェクション通路(71)とスライド弁(73)とスライド機構(75)が上記リアヘッド(84)に設けられている。インジェクション機構(70)の構成は図11の実施形態2と同じであるため、具体的な説明は省略する。
この変形例1においても、インジェクション動作のオンとオフでスライド弁(73)の位置を切り換えることができるとともに、インジェクション動作のオフ時には死容積を小さくできる。また、インジェクション動作のオン時には流路中に弁が存在しないので圧力損失を小さくできる。さらに、機構の小型化も可能である。
(変形例2)
図14に示す実施形態2の変形例2は、フロントヘッド(83)にインジェクション機構(70)を設ける構成において、スライド弁(73)の両側の圧力関係を図11の実施形態2とは逆にした例である。言い換えると、インジェクション機構(70)を構成するインジェクション通路(71)とスライド弁(73)とスライド機構(75)の構成は、図8に示した実施形態1の変形例3と同じである。そのため、インジェクション機構(70)の構成についての具体的な説明はここでは省略する。
この変形例2においても、インジェクション動作のオンとオフでスライド弁(73)の位置を切り換えることができるとともに、インジェクション動作のオフ時には死容積を小さくできる。また、インジェクション動作のオン時には流路中に弁が存在しないので圧力損失を小さくできるし、機構の大型化も防止できる。
(変形例3)
図15に示す実施形態2の変形例3は、リアヘッド(84)にインジェクション機構(70)を設ける構成において、スライド弁(73)の両側の圧力関係を図11の実施形態2とは逆にした例(図14の変形例2と同じにした例)である。インジェクション機構(70)を構成するインジェクション通路(71)とスライド弁(73)とスライド機構(75)の構成は、図8に示した実施形態1の変形例3と同じである。そのため、インジェクション機構(70)の構成についての具体的な説明はここでは省略する。
この変形例3においても、インジェクション動作のオンとオフでスライド弁(73)の位置を切り換えることができるとともに、インジェクション動作のオフ時には死容積を小さくできる。また、インジェクション動作のオン時には流路中に弁が存在しないので圧力損失を小さくできるし、機構の大型化も防止できる。
《その他の実施形態》
上記実施形態については、以下のような構成としてもよい。
例えば、上記各実施形態では、本発明のインジェクション機構(70)を、ピストンとブレードが一体になった揺動ピストン型の圧縮機構に適用した例を説明したが、ピストンとブレードが別部品で構成されるローリングピストン型の圧縮機構に適用してもよい。
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。