本発明について、以下に(I)本発明に係る核酸応答性ゲル、(II)核酸応答性ゲルの製造方法、(III)核酸応答性ゲルの利用の順に説明する。
(I)本発明に係る核酸応答性ゲル
本発明に係る核酸応答性ゲルは、ハイブリダイズしている2本の一本鎖核酸からなるプローブが、高分子ゲルの網目構造内に固定されている核酸応答性ゲルであって、当該プローブは、2本の一本鎖核酸が可逆的に結合している。
ここで、「高分子ゲル」とは、網目構造を有する高分子化合物が液体を吸収して膨潤したものであれば特に限定されるものではない。例えば、網目構造を有する高分子化合物が水で膨潤したヒドロゲルであってもよいし、網目構造を有する高分子化合物が有機溶媒で膨潤したオルガノゲルであってもよい。中でも、上記高分子ゲルは、核酸の安定性の観点からヒドロゲルであることがより好ましい。なお、本発明に係る核酸応答性ゲルは、膨潤した状態で、核酸に対する応答性を示すが、本発明では、膨潤したゲルから、水、有機溶媒等を除いて乾燥状態としたものも、上記「高分子ゲル」および核酸応答性ゲルに含めるものとする。
本発明に係る核酸応答性ゲルにおいて、上記高分子ゲルの網目構造内に固定されているプローブは、ハイブリダイズしている2本の一本鎖核酸からなる。ここで、2本の一本鎖核酸は、少なくとも一部分がハイブリダイズしていればよく、全体がハイブリダイズしていてもよいし、ハイブリダイズしていない部分を有していてもよい。
なお、ここでハイブリダイズしているとは、2本の相同的な一本鎖の核酸の塩基部分が水素結合によって互いに結合し、比較的安定な二本鎖を形成していることをいう。一般にハイブリダイズは、2本の一本鎖核酸が完全に相補的またはほとんど相補的な場合に起こりうる。本発明では、2本の一本鎖核酸がハイブリダイズしている部分において、2本の一本鎖核酸は完全に相補的であってもよいし、1または複数の塩基がミスマッチであってもよい。言い換えれば、上記プローブは、2本の一本鎖核酸がハイブリダイズしている部分において、ミスマッチを有していなくてもよいし、1塩基以上のミスマッチを有していてもよい。なお、ここでミスマッチとは、例えばDNAの場合グアニン(G)とシトシン(C)、アデニン(A)とチミン(T)のような正常な塩基対を形成することができない塩基の組み合わせをいう。
上記プローブは、2本の一本鎖核酸が可逆的に結合している。すなわち、2本の一本鎖核酸の塩基部分が水素結合によって互いに結合しているが、温度等の条件の変化や他の核酸の存在により、2本鎖が解離する方向に反応が進むことが可能であり、かかる反応は可逆的である。
本発明に係る核酸応答性ゲルでは、上記プローブが、高分子ゲルの網目構造内に固定されている。ここで、上記プローブは、当該プローブを形成する2本の一本鎖核酸のそれぞれが、網目構造を形成する高分子化合物に結合することによって、架橋を形成するように、ゲルの網目構造内に固定されている。すなわち、上記プローブは、図5の左側に示す円内に模式的に示すように、ゲルの網目構造内に架橋を形成するように結合されている。なお、図5において黒丸は架橋点を示している。ここで架橋は、図5では実線と破線とで表されている2本の一本鎖核酸のそれぞれが、当該ゲルの網目構造に結合することによって形成される。すなわち、2本の一本鎖核酸のそれぞれは、ゲルの網目構造を形成する高分子化合物と架橋の片方でのみ結合しているが、2本の一本鎖核酸がハイブリダイズしていることによって、架橋が形成されることになる。かかる構成により、ハイブリダイズしている2本の一本鎖核酸が、解離した(メルトした)場合、図5の右側に示す円内に模式的に示すように、架橋が切断されることになり、架橋点が減少すると考えられる。一般に高分子ゲルの膨潤率は架橋密度が減少すると増加することが知られているように、架橋点が減少する結果、核酸応答性ゲルは膨潤する。
このように、本発明にかかる核酸応答性ゲルは、架橋点として作用していたハイブリダイズした2本の一本鎖が外れるため、架橋がなくなり膨潤するという機構を利用するため、核酸応答性ゲルの構造設計の状態によっては大きく体積変化させることができる可能性を有する。また、一本鎖核酸が導入された従来の核酸応答性ゲルが浸透圧の変化のみにより体積変化するのに対し、本発明にかかる核酸応答性ゲルは、浸透圧の変化と架橋密度の変化との相乗効果が期待できる。
また、本発明に係る核酸応答性ゲルにおいては、上記プローブは2本の一本鎖核酸が可逆的に結合しているため、上記プローブを形成している2本のうちのいずれかの一本鎖核酸とより安定な二本鎖を形成する核酸または競争的にハイブリダイズする核酸が存在すると、かかる核酸は、ハイブリダイズしている相手の一本鎖核酸と取って代わり、核酸の鎖交換が起こる。
上記プローブが、ハイブリダイズしている部分において、1以上の塩基がミスマッチである場合は、完全に相補的である場合と比較して、ハイブリダイズしている部分の二本鎖が不安定となる。それゆえ、例えば、上記プローブを形成している2本のうちのいずれかの一本鎖核酸と完全に相補的な核酸のように、より安定な二本鎖を形成できる核酸が存在すると、図5の右側の円内に示すように、より安定な二本鎖が形成されるべくハイブリダイズする核酸の鎖交換が起こる。その結果、上記架橋が切断され架橋点が減少する。これにより、核酸応答性ゲルが膨潤すると考えられる。すなわち、上記プローブを形成している2本の一本鎖核酸がゲルの網目構造内に結合し、結合箇所に形成している架橋点は可逆的な架橋点となっている。なお、図5では、2本のうちのいずれかの一本鎖核酸と完全に相補的な核酸を標的DNAとして示しているが、ここではDNAは核酸に置き換えて説明するものである。
なお、上述した核酸の鎖交換は、上述したように、より安定な二本鎖を形成できる核酸が存在する場合に起こるが、これに限定されるものではなく、例えば同等に安定な二本鎖を形成できる核酸が存在する場合にも、ハイブリダイズしている一本鎖核酸と競争的に反応することにより核酸の鎖交換は起こる。
上記ハイブリダイズしている部分において、1以上の塩基がミスマッチである場合は、ミスマッチである塩基は1以上で、上限は2本の一本鎖核酸がハイブリダイズすることを妨げない範囲であれば特に限定されるものではなく、導入する各一本鎖核酸の長さ、核酸応答性ゲルの膨潤に用いる溶媒の種類、核酸応答性ゲルの含溶媒率、塩の濃度や種類、温度、GCとATの比率等塩基組成、pH等に応じて変化する数である。具体的には、ミスマッチの数は、例えば、1、2、3、4、5等である。例えば、2塩基がミスマッチである場合は、1塩基がミスマッチである場合より、2本の一本鎖核酸の結合力は弱くなる。このようにミスマッチの数を変えることで、2本の一本鎖核酸の結合力を変えることができる。それゆえ、ミスマッチの数を変えることで、得られる核酸応答性ゲルの認識能を任意に変えることが可能となる。さらに、2本の一本鎖核酸の結合力は、温度を変化させることによっても変えることができるため、温度を調節することによってさらに認識能を増幅することが可能となる。
本発明に係る核酸応答性ゲルでは、当該プローブを形成する2本の一本鎖核酸が網目構造を形成する高分子化合物に結合する形式は特に限定されるものではないが、例えば、共有結合、イオン結合、配位結合等の化学結合を介して結合されていることが好ましい。これにより、上記プローブが、高分子ゲルの網目構造内に安定して固定される。
本発明に係る核酸応答性ゲルでは、上記プローブを形成する2本の一本鎖核酸のそれぞれが、網目構造を形成する高分子化合物に結合することによって、上記プローブが架橋を形成するようにゲルの網目構造内に固定されていれば、一本鎖核酸が高分子化合物に結合している位置は特に限定されるものではない。例えば、2本の一本鎖核酸のそれぞれは、ともに、5’末端が高分子ゲルの網目構造を形成する高分子化合物に結合していてもよい。また、2本の一本鎖核酸のそれぞれは、ともに、3’末端が高分子ゲルの網目構造を形成する高分子化合物に結合していてもよい。5’末端や3’末端には高分子化合物に結合させるための基を導入しやすいため、これにより、上記プローブを容易に高分子ゲルの網目構造に結合することができる。
上記プローブを形成する上記一本鎖核酸は、DNAであってもよいし、RNAであってもよいし、PNAであってもよい。また、2本の一本鎖核酸は、DNA同士、RNA同士、またはPNA同士であってもよいし、DNA、RNAおよびPNAから選択される2種類の組み合わせであってもよい。
また、上記プローブを形成する2本の一本鎖核酸の長さは特に限定されるものではなく、いかなる長さのものであってもよいが、例えば、塩基数が2以上10000以下であることが好ましく、5以上500以下であることがより好ましい。塩基数が2以上であることにより、ハイブリダイズした二本鎖の結合力が適度な状態になるため好ましい。また、塩基数が10000以下であることにより、ゲル網目内に標的DNAが拡散しやすいサイズになるので好ましい。
上記高分子ゲルとして用いることができる高分子化合物は、網目構造を有し、水や有機溶媒により膨潤する高分子化合物であれば特に限定されるものではないが、中でも、上記高分子ゲルは、水によって膨潤する高分子ゲルであることがより好ましく、親水性のモノマーを重合、架橋することにより得られる高分子化合物であることがより好ましい。かかるモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸;アルキル(メタ)アクリレート;マレイン酸;ビニルスルホン酸;ビニルベンゼンスルホン酸;(メタ)アクリルアミド;アクリルアミドアルキルスルホン酸;(メタ)アクリロニトリル;ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等のアミノ置換(メタ)アクリルアミド;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸アミノ置換アルキルエステル;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシエチルメタクリレート;スチレン;ビニルピリジン;ビニルカルバゾール;ジメチルアミノスチレン;N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N’−ジメチル(メタ)アクリルアミド等のアルキル置換(メタ)アクリルアミド;酢酸ビニル;アリルアミン等を単独または2種以上組み合わせて使用することができる。中でも、上記モノマーは、(メタ)アクリルアミド;(メタ)アクリル酸;アルキル(メタ)アクリレート;2−ヒドロキシエチルメタクリレート等のヒドロキシエチルメタクリレート;N,N’−ジメチル(メタ)アクリルアミド;N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド;酢酸ビニル;アリルアミン等であることがより好ましい。また、得られる核酸応答性ゲルの性能に悪影響を与えるものでなければ、さらに他のモノマーを組み合わせてもよい。なお、本明細書において、「アクリル」または「メタアクリル」のいずれをも意味する場合「(メタ)アクリル」と表記する。
また、上記高分子化合物は、一分子中に2個以上の反応性官能基を有する架橋剤を共重合または反応させることによって架橋されているものであることが好ましい。上記架橋剤としては、従来公知のものを適宜選択して用いればよいが、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、N,N’−メチレンビス(メタ)アクリルアミド、トリレンジイソシアネート、ジビニルベンゼン、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等の重合性官能基を有する架橋性モノマー;グルタールアルデヒド;多価アルコール;多価アミン;多価カルボン酸;金属イオン等を好適に用いることができる。これらの架橋剤は単独で用いてもよく、また2種類以上を組み合わせて用いてもよい。また、上記高分子化合物は、上記架橋剤を用いずに、本発明で用いる上記プローブと共重合させることによって、当該プローブのみにより架橋されているものであってもよい。
上記高分子ゲルとして用いることができる高分子化合物としては、具体的には、例えば、ポリ(メタ)アクリルアミド;ポリ−N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド;ポリ−N,N’-ジメチル(メタ)アクリルアミド;ポリ−2−ヒドロキシエチルメタクリレート;ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ−アルキル(メタ)アクリレート、ポリマレイン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリビニルベンゼンスルホン酸、ポリアクリルアミドアルキルスルホン酸、ポリジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、これらと(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸アルキルエステル等との共重合体;ポリジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドとポリビニルアルコールとの複合体;ポリビニルアルコールとポリ(メタ)アクリル酸との複合体;カルボキシアルキルセルロース金属塩;ポリ(メタ)アクリロニトリル;アルギン酸;キトサン;ポリアリルアミン;セルロースまたはこれらの誘導体や架橋物、金属塩を挙げることができる。これらの中でも、上記高分子化合物としては、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ−2−ヒドロキシエチルメタクリレート、ポリ−アルキル(メタ)アクリレート、ポリ−N,N’-ジメチル(メタ)アクリルアミド、ポリ−N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリアリルアミン、セルロース、キトサン、アルギン酸、これらの誘導体であることが好ましい。上記高分子化合物の分子量は、1000以上1000000以下であることが好ましい。分子量がかかる範囲となっていることにより、適度な架橋剤によって高分子ゲルを合成しやすいので好ましい。
本発明にかかる核酸応答性ゲルは、膨潤している状態で核酸の検出に用いる。また、本発明にかかる核酸応答性ゲルは、核酸に応答して、さらに液体を吸収して、膨潤し体積変化を起こす。本発明の核酸応答性ゲルにおいて、これらの膨潤の際に、吸収される液体は、特に限定されるものではなく、水や水系の緩衝液であってもよいし有機溶媒であってもよい。かかる液体としては、具体的には、例えば、水;リン酸緩衝液、Tris緩衝液、酢酸緩衝液等の水系の緩衝液;メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブチルアルコール、イソペンチルアルコール等のアルコール;アセトン、2−ブタノン、3−ペンタノン、メチルイソプロピルケトン、メチルn−プロピルケトン、3−ヘキサノン、メチルn−ブチルケトン等のケトン;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン等のエーテル;酢酸エチルエステル等のエステル;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド;ジメチルスルホキシド;アセトニトリル等の二トリル;プロピレンカーボネート;ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン等の低級飽和炭化水素;キシレン;トルエン;またはこれらの2種以上の混合物等を挙げることができる。中でも、上記液体は核酸の安定性の観点から水または水系の緩衝液であることがより好ましい。本発明に係る核酸応答性ゲルを平衡に達するまで膨潤させたときに含まれる上記液体の割合は、高分子ゲルの架橋密度、高分子や溶媒の種類、温度、pH、イオン強度等によって変化するが、核酸応答性ゲルと核酸応答性ゲルに含まれる上記液体の合計重量に対して、30重量%以上99.9重量%以下であることが好ましく、70重量%以上99重量%以下であることがより好ましい。本発明に係る核酸応答性ゲルを平衡に達するまで膨潤させたときに含まれる上記液体の割合が上記範囲であることにより、適度な強度を有するゲルが得られ、標的核酸がゲル内に拡散することができる高分子網目構造となるので好ましい。
また、本発明に係る核酸応答性ゲルの架橋密度は、0.1(mol/m3)以上500(mol/m3)以下であることが好ましく、1(mol/m3)以上100(mol/m3)以下であることがより好ましい。核酸応答性ゲルの架橋密度が上記範囲であることにより、核酸応答性ゲルが大きな体積変化を示すことが期待でき、さらに適度な強度を持つので好ましい。なお、本明細書において、架橋密度とは、後述する実施例に記載の方法により求められた値をいう。
本発明の核酸応答性ゲルにおける、上記プローブの含有量は、核酸応答性ゲルが核酸に応答して膨潤することができる範囲であれば、特に限定されるものではないが、乾燥状態の核酸応答性ゲルを100重量%としたときに、0.01重量%以上であることが好ましく、0.1重量%以上であることがより好ましく、1重量%以上であることがさらに好ましい。上記プローブの含有量が大きければそれだけ核酸応答性ゲルが核酸に応答したときの架橋密度の変化が大きくなる。それゆえ、標的とする核酸を認識する認識能を向上することができる。プローブをたくさん入れるほど性能がよいため、上記プローブの含有量の上限はない。なお、核酸が高価であることより、価格の観点からは、上記プローブの含有量は、乾燥状態の核酸応答性ゲルを100重量%としたときに、50重量%以下であることが好ましい。
上記プローブの含有量が大きければ核酸応答性ゲルが核酸に応答したときの架橋密度の変化が大きくなる理由を、図6を用いて説明する。図6は核酸応答性ゲルに含まれる上記プローブの含有量によって、標的DNAを供したときの架橋密度の変化が異なる様子を模式的に示す図である。
図6に示すように、上記プローブの含有量が高い核酸応答性ゲルでは、上記プローブの含有量が低い核酸応答性ゲルに比べて、多くの架橋構造が形成されている。
つまり、上記プローブの含有量が高い核酸応答性ゲルの方が、標的DNAが供されたときに切断される架橋構造が多い。よって、上記プローブの含有量が高い核酸応答性ゲルの方が、上記プローブの含有量が低い核酸応答性ゲルに比べて、標的DNAが供されたときの架橋密度の変化が大きくなる。
また、本発明にかかる核酸応答性ゲルの形状は特に限定されるものではなく、どのような形状のものであってもよく、用途に応じて好ましい形状を適宜選択すればよい。かかる形状としては、例えば、円柱状、板状、フィルム状、粒子状、球状、直方体状等を挙げることができる。例えばセンサーチップ等に用いる場合には、薄膜状やフィルム状等であることが好ましく、診断試薬等に用いる場合には、粒子状等であることが好ましい。
本発明にかかる核酸応答性ゲルを所望の形状とするためには、例えば、核酸応答性ゲルの原料となるモノマー組成物等を重合前に所望の型に注入し、重合を行う方法等を用いることができる。
また、核酸応答性ゲルの大きさも特に限定されるものではなく、用途に応じて好ましい大きさを適宜選択すればよい。例えば、センサー等に用いる場合には、サイズが小さいゲルを用いることが好ましく、例えば球状である場合には、その直径が0.01μm以上100μm以下であることが好ましい。核酸応答性ゲルのサイズが小さいほど、応答速度が速くなるため、センサー等に好適に用いることができる。
本発明にかかる核酸応答性ゲルは、特定の核酸に応答して体積変化を起こすゲルである。より具体的には、特定の核酸を認識すると、液体を吸収して膨潤するゲルである。ここで、本発明の核酸応答性ゲルの体積変化は、可逆的であることにより核酸応答性ゲルを繰り返し使用が可能であり,さらに再現性よいセンサー材料として利用することが可能となる。
本発明にかかる核酸応答性ゲルが核酸を認識して体積変化を起こすときの、体積変化量は特に限定されるものではないが、体積変化後の体積を体積変化前の体積で除した値である膨潤率が、1.02以上であることが好ましく、1.1以上であることがより好ましい。膨潤率が大きいほど感度が向上するため好ましい。また、本発明にかかる核酸応答性ゲルにおいて、上記膨潤率の上限は、網目構造内に導入されている架橋の量、高分子化合物や溶媒の種類、高分子鎖にある解離基の状態等により異なるが、通常2程度である。なお、膨潤率は、核酸応答性ゲルが円柱状の場合は、後述する実施例に記載の方法により得られる値をいう。後述する実施例では円柱状の核酸応答性ゲルの膨潤率を求める方法が記載されているが、核酸応答性ゲルが例えば球状である場合は、実施例の「円柱の直径」の代わりに球の直径を用いて計算すればよい。
また、本発明の核酸応答性ゲルは、さらに、シリカ粒子等の微粒子、色材、蛍光発色団を有する分子であってもよい。かかる核酸応答性ゲルを用いることにより、核酸応答性ゲルの体積変化や核酸の鎖交換を、分光器、蛍光顕微鏡等を用いて、または目視によって簡便に検出することができる。
本発明に係る核酸応答性ゲルでは、上記プローブを形成している2本のうちのいずれかの一本鎖核酸とより安定な二本鎖を形成する核酸または競争的にハイブリダイズする核酸が存在すると、かかる核酸は、ハイブリダイズしている相手の一本鎖核酸と取って代わり、核酸の鎖交換が起こる。これに伴い、架橋密度の減少が起こるため核酸応答性ゲルは膨潤する。それゆえ、本発明に係る核酸応答性ゲルは、標的核酸の検出に利用することができる。その際に、高分子ゲルの網目構造を構成する高分子化合物に結合した2本の一本鎖核酸における水素結合の強さと鎖交換した標的核酸における水素結合の強さとのバランスによって鎖交換のしやすさが決まる。したがって、1塩基以上のミスマッチを有する場合にはわずかに水素結合の強さが異なるため、膨潤挙動に違いが出たと思われる。さらに、高分子化合物に結合する2本の一本鎖核酸の組み合わせによっても、架橋点を形成しているプローブの水素結合の強さを変化させることができ、鎖交換のしやすさをコントロールすることができる。それゆえ、本発明の核酸応答性ゲルの核酸認識応答挙動を任意に設計することができる。
(II)核酸応答性ゲルの製造方法
本発明にかかる核酸応答性ゲルの製造方法は、特に限定されるものではなく、上記プローブを、ハイブリダイズした状態で、ゲルの網目構造に、架橋を形成するように化学的に結合できる方法であればいかなる方法であってもよい。
本発明にかかる核酸応答性ゲルの製造方法としては、例えば、ハイブリダイズする2本の一本鎖核酸にそれぞれ反応性官能基を導入する反応性官能基導入工程と、前記反応性官能基が導入された2本の一本鎖核酸をハイブリダイズさせてプローブを作製する二本鎖形成工程と、得られたプローブを、高分子ゲルを形成するモノマーと、架橋剤の存在下または不存在下で、共重合させて核酸応答性ゲルを得る重合工程とを含むことを特徴とする核酸応答性ゲルの製造方法を挙げることができる。
上記反応性官能基導入工程では、2本の一本鎖核酸にそれぞれ反応性官能基を導入する。ここで、用いる反応性官能基としては、高分子ゲルの網目構造を形成する高分子化合物と化学的に結合可能な基であれば、特に限定されるものではなく、例えば、ビニル基、(メタ)アクリロイル基、水酸基、カルボキシル基、アミノ基等を挙げることができる。また、かかる反応性官能基を導入する各一本鎖核酸の位置も特に限定されるものではないが、反応性官能基導入の容易性の観点からハイブリダイズさせる両方の一本鎖核酸ともに5’末端に導入するか、または、両方の一本鎖核酸ともに3’末端に導入することが好ましい。これによって、2本の一本鎖核酸をハイブリダイズしたときに、形成された上記プローブの両端に反応性官能基が導入されていることになる。なお、上記反応性官能基は、5’末端または3’末端に導入することが好ましいが、これに限定されるものではなく、2本の一本鎖核酸をハイブリダイズしたときに、形成された上記プローブが高分子ゲルの網目構造に固定されたときに、二本鎖が架橋を形成するようになっていれば、どの位置であってもよい。
上記反応性官能基を導入する方法も特に限定されるものではなく、従来公知の方法を用いればよい。例えば、ビニル基を導入する場合の一例として、末端がアミノ化された一本鎖核酸をN−スクシンイミジルアクリレートと反応させる方法を挙げることができる。
また、上記二本鎖形成工程は、例えば、反応性官能基が導入されたそれぞれの一本鎖核酸の溶液を、二本鎖核酸が解離する温度より低い温度で混合することにより行うことができる。
上記重合工程では、得られた上記プローブをモノマーと、架橋剤の存在下または不存在下で、共重合させて核酸応答性ゲルを得る。かかるモノマーについては、上記(I)で説明したとおりであるのでここでは説明を省略する。また、ここで用いられる架橋剤についても上記(I)で説明したとおりであるのでここでは説明を省略する。なお、重合工程は架橋剤の存在下で行うことが好ましいが、架橋剤の不存在下で行ってもよい。かかる場合は、上記プローブのみによって架橋された核酸応答性ゲルを得ることができる。
さらに、重合工程では、上記プローブを、上記モノマーおよび必要に応じて上記架橋剤に加えて、さらに他のモノマーと共重合させてもよい。かかる他のモノマーとしては、得られる核酸応答性ゲルの性能に悪影響を与えるものでなければ特に限定されるものではない。
ここで、重合方法としては、特に限定されるものではなく、ラジカル重合、イオン重合、重縮合、開環重合等を好適に用いることができる。また、重合に用いられる溶媒としては、例えば、水、リン酸緩衝液、Tris緩衝液、酢酸緩衝液、メタノール、エタノール等を好適に用いることができる。
また、重合開始剤としても、特に限定されるものではなく、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩;過酸化水素;t−ブチルハイドロパーオキシド、クメンハイドロパーオキシド等のパーオキシド類、アゾビスイソブチロニトリル、過酸化ベンゾイル等を好適に使用することができる。これらの重合開始剤の中でも、特に、過硫酸塩やパーオキシド類等のような酸化性を示す開始剤は、例えば、亜硫酸水素ナトリウム、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン等とのレドックス開始剤としても用いることができる。
また、重合温度は特に限定されるものではないが、プローブとして導入する二本鎖核酸が解離しない温度であることが好ましい。重合温度がかかる範囲であることにより、安定な二本鎖状態で核酸をゲル網目に結合することができるため好ましい。また、重合時間も、特に限定されるものではないが、通常4時間〜48時間である。
重合の際の、モノマー、架橋剤等の濃度は、高分子ゲルが得られる濃度であれば特に限定されるものではない。また、上記重合開始剤の濃度も特に限定されるものではなく適宜選択すればよい。
本発明にかかる核酸応答性ゲルは、上記重合工程で得られた反応混合物から、未反応モノマー、架橋剤、溶媒等を除去することにより得られる。なお、未反応モノマー、架橋剤、溶媒等を除去する方法は、特に限定されるものではないが、例えば、中性付近の緩衝液中で得られた核酸応答性ゲルを洗浄する方法を挙げることができる。なお、本発明にかかる核酸応答性ゲルは、ヒドロゲルまたはオルガノゲルであることが好ましいが、乾燥状態としたものであってもよい。乾燥状態とした本発明の核酸応答性ゲルは、例えば、洗浄後の核酸応答性ゲルを凍結乾燥することにより得ることができる。
本発明にかかる核酸応答性ゲルの他の製造方法としては、例えば、ハイブリダイズする2本の一本鎖核酸にそれぞれ反応性官能基を導入する反応性官能基導入工程と、前記反応性官能基が導入された2本の一本鎖核酸をハイブリダイズさせてプローブを作製する二本鎖形成工程と、得られたプローブを高分子化合物と結合させるプローブ結合工程と、上記プローブ結合工程によりプローブが結合された高分子化合物を、架橋剤と反応させて網目構造を形成する架橋工程とを含む方法を挙げることができる。
上記反応性官能基導入工程および二本鎖形成工程は、上述した製造方法で説明したとおりであるので、ここでは説明を省略する。
上記プローブ結合工程では、上記二本鎖形成工程で得られたプローブを高分子化合物と結合させる。ここで、プローブを結合させる高分子化合物は、架橋することによって高分子ゲルが得られるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、上記(I)で述べた高分子化合物を好適に用いることができる。なお、かかる高分子化合物は、網目構造を有している必要はなく、直鎖状、枝分かれ状等であればよいが、上記プローブを結合させることができるかぎりにおいて網目構造を有しているものであってもよい。また、上記プローブを上記高分子化合物と結合させる方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を好適に用いることができる。
上記架橋工程では、プローブが結合された高分子化合物を、架橋剤と反応させて網目構造を形成する。ここで、架橋剤としては、上記(I)で説明した架橋剤を好適に用いることができる。また、架橋反応の条件も、高分子化合物や架橋剤の種類等に応じて適宜選択すればよい。
本発明にかかる核酸応答性ゲルの製造方法としては、上述したような方法を好適に用いることができる。したがって、本発明にかかる核酸応答性ゲルには、(a)上記モノマーと、反応性官能基が導入された2本の一本鎖核酸をハイブリダイズさせてなるプローブとを、架橋剤の存在下または不存在下で、共重合させることにより得られる核酸応答性ゲル、および、(b)上記高分子化合物に、反応性官能基が導入された2本の一本鎖核酸をハイブリダイズさせてなるプローブとを結合させた後、架橋剤と反応させて網目構造を形成させることによって得られる核酸応答性ゲルも含まれる。なお、(a)の上記モノマーは、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、アルキル(メタ)アクリレート、N,N’-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、酢酸ビニル、およびアリルアミンからなる群より選択される少なくとも1種のモノマーを含むモノマーであることがより好ましい。また、(b)の上記高分子化合物は、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ−アルキル(メタ)アクリレート、ポリ−2−ヒドロキシエチルメタクリレート、ポリ−N,N’-ジメチル(メタ)アクリルアミド、ポリ−N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリアリルアミン、セルロース、キトサン、アルギン酸およびそれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも1種の高分子化合物であることがより好ましい。
本発明にかかる核酸応答性ゲルの製造方法としては、上述したような方法を好適に用いることができるが、さらに、例えば、先にモノマーを重合して高分子ゲルを合成した後ハイブリダイズした2本の一本鎖核酸を高分子ゲルの網目構造に結合させる方法等であってもよい。
さらに、本発明に係る核酸応答性ゲルの製造方法は、上記プローブを設計する工程を含んでいてもよい。かかる工程では、検出することを目的とする核酸に基づいてプローブを形成する2本の一本鎖核酸を決めればよい。例えば、一塩基多型を検出したいときは、その塩基配列と完全相補な一本鎖核酸と、当該一本鎖核酸とハイブリダイズするが1塩基以上のミスマッチを有する一本鎖核酸を用いて上記プローブを形成すればよい。
(III)核酸応答性ゲルの利用
(III−1)核酸応答性ゲルを用いた核酸の検出方法
本発明に係る核酸応答性ゲルでは、高分子ゲルの網目構造内に固定されている2本の一本鎖核酸の一方に対して、ハイブリダイズし核酸の鎖交換を起こす標的核酸が存在すると、核酸応答性ゲルは膨潤する。それゆえ、本発明に係る核酸応答性ゲルは、標的核酸の検出に利用することができる。したがって、本発明に係る核酸応答性ゲルを用いた核酸の検出方法も本発明に含まれる。なお、標的核酸は2本の一本鎖核酸の一方に対して、ハイブリダイズしている部分において完全相補となる場合、他の一本鎖核酸より相同性が高い場合のように、より安定な二本鎖を形成する場合に限られず、同等に安定な二本鎖を形成する場合にも体積変化は起こるので、検出することを目的とする核酸に応じて、プローブを設計すればよい。なお、本明細書において、標的核酸とは、本発明の核酸応答性ゲルが応答して体積変化を起こす核酸をいう。
本発明に係る核酸の検出方法は、本発明に係る核酸応答性ゲルと核酸を含有する検体とを接触させる工程と、標的核酸による鎖交換の有無を核酸応答性ゲルの体積変化で検出する工程とを含んでいればよい。
上記検体に含まれる核酸および標的核酸は、DNAであってもよいし、RNAであってもよいし、PNAであってもよい。また、これらの核酸は、一本鎖であっても、二本鎖であってもよい。上記核酸を含有する検体は、本発明の核酸応答性ゲルを用いた標的核酸の検出が可能であれば、核酸の水や緩衝液等の溶液に限定されるものではない。かかる検体としては、血液やその他の遺伝子を含む体液等を挙げることができる。
また、本発明に係る核酸応答性ゲルと核酸を含有する検体とを接触させる工程において、当該接触を行なうときの温度としては、特に限定されるものではなく、目的の検出精度に応じて調整した温度で当該接触を行なえばよい。
なお、本明細書において「検出精度」とは、検出感度、及び、検出される核酸の塩基配列の選択性を意図する。
つまり、上記核酸応答性ゲルと核酸を含有する検体とを接触させる工程を行なう温度を調整することによって、検出感度及び/又は検出される核酸の塩基配列の選択性を制御することができる。
これは、本発明に係る核酸応答性ゲルを標的核酸に接触させたときの膨潤率や、上記プローブによって形成されている水素結合及び標的核酸と上記プローブを形成する2本の一本鎖核酸のうち1本の一本鎖核酸との水素結合のバランスが、温度による影響を受けることを利用したものである。
そこで、まず、温度によって上記膨潤率が変化するメカニズムを図7を用いて説明する。図7は本発明に係る核酸応答性ゲルを標的核酸に接触させたときに、温度によって、当該核酸応答性ゲルが異なる膨潤率を示すメカニズムを、模式的に示す図である。なお図7において、(a)は上記接触を行なうときの温度が低い場合を示し、(b)は上記接触を行なうときの温度を、上記応答性が最も高くなる温度に調整している場合を示し、(c)は上記接触を行なうときの温度が高い場合を示す。
なお、以下、本発明に係る核酸応答ゲルが、標的核酸に応答することによって示す膨潤率の変化を「膨潤率変化」と表記する。具体的には、標的核酸の溶解液に本発明に係る核酸応答ゲルを浸漬して測定された膨潤率と、当該標的核酸を溶解していない緩衝液に核酸応答ゲルを浸漬して測定された膨潤率との差として算出することができる。
一般に、温度が低い場合、二本鎖DNAの水素結合は非常に安定である。そのため、図7(a)に示すように、本発明に係る核酸応答性ゲルと標的核酸とを接触させる温度が低い場合、標的核酸と当該プローブとの鎖交換が起こりにくく、膨潤率変化は小さくなる。
また、温度が高い場合、一般に二本鎖DNAの水素結合は解離しやすくなる。そのため図7(c)に示すように、本発明に係る核酸応答性ゲルと標的核酸とを接触させる温度が高い場合では、標的核酸が存在しなくても、一部のプローブが解離して、架橋点数が少なくなる。つまり、本発明に係る核酸応答性ゲルは、標的核酸と接触する前に、既に膨潤率が上昇している。また、温度が高いため、上記プローブを構成していた一本鎖DNAと標的DNAとは水素結合を形成しにくい。よって、これに標的核酸を接触させることで、上記プローブに当該標的核酸がハイブリダイズしても、膨潤率変化は小さくなる。
一方、本発明に係る核酸応答性ゲルには、上述の膨潤率変化の低下が抑制され、膨潤率変化が最も大きくなる温度が存在する。この温度では、図7(b)に示すように、当該プローブ中の水素結合が過度に安定でないため上述の鎖交換も生じやすく、かつ、当該プローブ中の水素結合が不安定でないため予め当該核酸応答性ゲルが膨潤することなく、さらに、標的核酸と当該プローブを構成していた一本鎖DNAとが水素結合しやすい。
このように、上記核酸応答性ゲルと検体とを接触させるときの温度は、上記プローブを形成する2本の一本鎖核酸、即ち、架橋点として導入した一本鎖核酸同士が形成している水素結合の安定性(融点)と、標的核酸及び当該一本鎖核酸によって形成される水素結合の安定性(融点)とのバランスに密接に関係しており、また、膨潤率変化にも密接に関係している。
つまり、上記核酸応答性ゲルと核酸を含有する検体とを接触させる工程を行なう温度を、上述の水素結合の安定性のバランスや膨潤率変化に基づいて調整することで、検出精度を制御することが可能となる。
例えば、上記核酸応答性ゲルと核酸を含有する検体とを接触させる工程を行なう温度を、上記膨潤率変化が最も大きくなる温度に近い温度とすることで、検出感度を上昇させることができ、上記膨潤率変化が最も大きくなる温度との差を大きい温度とすることで検出感度を低下させることができる。
換言すれば、上記核酸応答性ゲルと核酸を含有する検体とを接触させる工程を行なう温度を、上記膨潤率変化が最も大きくなる温度を基準に調整することで、検出感度を制御することができる。
また、上記核酸応答性ゲルと核酸を含有する検体とを接触させる工程を行なう温度を、上記プローブを構成する2本の一本鎖核酸が形成する水素結合の融点と、当該2本の一本鎖核酸のうち標的核酸にハイブリダイズさせることを目的とする方の一本鎖核酸及び当該一本鎖核酸に完全に相補的な塩基配列を有する核酸が水素結合したときの当該水素結合の融点との間で調整することで、検出される核酸の塩基配列の選択性を制御できる。
例えば、上記核酸応答性ゲル内で、予め水素結合を形成している一本鎖核酸同士間に、正常な塩基対を形成していない箇所(以下、「ミスマッチ」と表記する)がN箇所存在したとする。このとき、当該水素結合の融点をTN℃とする。また、上記2本の一本鎖核酸のうち標的核酸にハイブリダイズさせることを目的とする方の一本鎖核酸が、当該一本鎖核酸に完全に相補的な塩基配列を有する核酸と水素結合をしたときの、当該水素結合の融点をTn℃とする。そして、実際に検出を行なう温度をTとする。
ここで、一般にTn>TNとなる。そして、TをTN〜Tnの温度であって、Tnに近い温度とすることで、標的核酸にハイブリダイズさせることを目的とする一本鎖核酸に対して、形成するミスマッチが少ない核酸が検出されることとなる。また、Tを、TN〜Tnの温度であって、TNに近い温度とすることで、当該一本鎖核酸に対して形成するミスマッチが多い核酸でも検出されることとなる。
このように、TをTN〜Tnの間で調整することで、検出される核酸の塩基配列の選択性を制御することが可能となる。なお、上述の水素結合の融点が、上記一本鎖核酸等が上記核酸応答性ゲル内に含まれることによって変化する場合は、核酸応答性ゲル内における当該水素結合の融点を基準として調整すればよい。また、多くの場合、当該一本鎖核酸と検出される核酸との間に形成されるミスマッチの数の上限はN−1個となるが、当該一本鎖核酸等の塩基配列や温度条件等の条件によっては、N個又はこれより多くなることもある。
なお、設定する温度の範囲は特に限定されるものではないが、0℃以上60℃以下であれば、本発明に係る核酸応答性ゲルは標的核酸と接触したとき好適に膨潤することができる。
このように、上記核酸応答性ゲルと核酸を含有する検体とを接触させる工程を行なう温度を調整することで、検出精度を制御することができる。例えば、本発明に係る核酸応答性ゲルをSNP検出に用いる場合には、上述の、TN〜TnであってTnに近い温度で検出することで、検出される核酸の塩基配列の選択性を向上させればよい。
また、標的核酸による鎖交換の有無を核酸応答性ゲルの体積変化で検出する方法としては、従来公知の刺激応答性ゲルの体積変化を検出する方法を用いればよく、特に限定されるものではない。かかる方法としては、例えば、体積変化を顕微鏡で観察する方法、核酸応答性ゲル内にシリカ粒子等の微粒子を配列しこれによって生じた構造色の波長や強度の変化を測定する方法、核酸応答性ゲル内に色材を分散し光の透過率を測定する方法、核酸応答性ゲル内に蛍光発色団を有する分子等を導入し蛍光強度を測定する方法等を挙げることができる。
また、標的核酸による鎖交換の有無は、体積変化を検出する上記方法の他、標的核酸がハイブリダイズすることによる核酸応答性ゲルの重量変化を検知する方法によっても検出することができる。さらに、網目構造内に固定するプローブとしての核酸をあらかじめ蛍光物質等で標識化し分光器等で検知する方法によっても検出することができる。
(III−2)核酸検出キット
核酸応答性ゲルの利用に関する本発明には、上述した核酸の検出方法だけでなく、該検出方法を実施するための核酸検出キットが含まれる。本発明の核酸検出キットは、具体的には、少なくとも本発明の核酸応答性ゲルを含む構成であればよい。
また、上記検出キットには、さらに、コントロールとなる比較用の標本(核酸等)類や、各種バッファー等が含まれていてもよい。
上記核酸検出キットを用いることで、本発明にかかる核酸の検出方法を容易かつ簡素に実施することができ、本発明を臨床検査産業や医薬品産業等の産業レベルで利用することが可能となる。
また、本発明を用いれば、標的核酸を高感度でかつ簡便に検出または同定することができる。そのため、本発明は、DNA損傷に伴う各種疾患の治療、予防又は診断、あるいは科学技術研究におけるDNA配列分析等に応用することも可能である。
(III−3)核酸検出装置
本発明にかかる核酸応答性ゲルを、ゲルの膨潤に伴う体積変化を検知可能なセンサーに固定化した場合、このセンサーを利用して、簡便かつ確実に標的核酸を検出することができる核酸検出装置を製造することができる。
上記核酸検出装置としては、より具体的には、例えば、本発明にかかる核酸応答性ゲルを、微細なセンサーチップ表面に固定化した核酸検出装置であって、上記センサーチップが核酸応答性ゲルの膨潤による体積変化を測定して表示する測定装置と連結されているものを挙げることができる。かかる核酸検出装置を用いることにより、標的核酸を含有する検体を検出用チップの表面に接触させるだけで、標的核酸の有無を特異的に検出することが可能となる。
上記センサーチップが連結されている測定装置としては特に限定されるものではなく、従来公知の装置を好適に用いることができる。かかる装置としては、例えば、膜厚測定装置を挙げることができる。この場合には、検体中の標的核酸に応答した核酸応答性ゲルの体積変化を膜厚変化として検知することにより、標的核酸を検出することができる。
また、上記測定装置は重量計であってもよい。この場合、標的核酸を含有する検体を検出用チップの表面に接触させると、核酸応答性ゲル内に標的核酸が取り込まれるために核酸応答性ゲルの重量が増加する一方で核酸応答性ゲルは膨潤する。そして核酸応答性ゲルの膨潤による体積変化は、取り込んだ標的核酸の量および標的核酸の取り込みに伴う核酸応答性ゲルの重量に依存する。したがって、標的核酸の取り込みによる核酸応答性ゲルの重量変化を測定することにより、標的核酸を検出することができる。
また、上述したシリカ粒子等の微粒子、色材、蛍光発色団を有する分子等で標識化した核酸応答性ゲルを用いる場合は、上記測定装置としては、分光器等を挙げることができる。
なお、上記センサーチップは、上述した体積変化を測定して表示する測定装置に限定されるものではなく、核酸の鎖交換を検知できるものであれば、体積変化以外の他の量を測定する装置と連結されていてもよい。
〔実施例1:核酸応答性ゲルの製造〕
<ビニル基導入オリゴDNAの合成>
図1の反応式に示すように、5’末端がアミノ化されたオリゴDNAにビニル基を導入した。
まず、5’末端がアミノ化されたオリゴDNA(3’-CCGGTCGCG-5’-(CH2)6NH2、つくばオリゴサービス(株)社製1mg(0.35μmol)を500μl炭酸緩衝液(pH9.0)に溶解した。この溶液に、50μlジメチルホルムアミド(DMF)に溶解したN−スクシンイミジルアクリレート(N-succinimidyl acrylate (NSA))5mg(30μmol)と10μl DMFに溶解したヒドロキノン1.5mg(14μmol)とを加え、さらに純水400mlを加えて室温で一晩撹拌した。得られた反応液をゲルろ過クロマトグラフィー(Sephadex G-25)により分画し、未反応NSAとDNAとを分離した。さらに得られたDNAフラクションを濃縮し、高速液体クロマトグラフィー(Wakosil-DNA)により分取することによってビニル基導入DNAと未反応DNAとを分離した。得られたビニル基導入DNAフラクションを濃縮し、ゲルろ過クロマトグラフィー(Sephadex G-25)により純水置換し、濃縮後凍結乾燥してビニル基導入DNAを得た。
5’末端がアミノ化されたオリゴDNA(3’-CGCGTCCGG-5’-(CH2)6NH2、つくばオリゴサービス(株)社製)についても同様にしてビニル基を導入した。
<核酸応答性ゲルの製造>
続いて、図2の反応式に示すように、ハイブリダイズしている2本の一本鎖ビニル基導入オリゴDNAからなるプローブが高分子ゲルの網目構造に固定されている核酸応答性ゲルを製造した。なお、図2に示すように、2本の一本鎖ビニル基導入オリゴDNAは、ハイブリダイズしているが真ん中の「T−T」がミスマッチとなっている。
10mM Tris-150mM HCl緩衝液(Tris緩衝液)(pH7.4)に、合成した2種類のビニル基導入DNA各0.1μmolを5℃で溶解して二本鎖を形成させた。その後、この溶液に、アクリルアミド(AAm)15mg(211μmol)、5mg/ml N,N’-メチレンビスアクリルアミド(MBAA) 3μl、並びにレドックス開始剤として0.1M過硫酸アンモニウム(APS)2μlおよび0.8M N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン(TEMED)2μlを加えて内径1mmのガラス管に流し込み、5℃で24時間重合することにより核酸応答性ゲルを合成した。その後、得られた核酸応答性ゲルをガラス管から取り出し、Tris緩衝液中に浸漬して十分に洗浄することで、未反応モノマー等を除去した。洗浄後の核酸応答性ゲルをカッターナイフで約2mm程度の長さに切り出すことによって円柱状の核酸応答性ゲルを得た。
〔実施例2:核酸応答性ゲルの膨潤率測定〕
実施例1で製造した核酸応答性ゲルをTris緩衝液中で十分に平衡膨潤させた後、25℃で、核酸応答性ゲルに結合されているオリゴDNAの一方の一本鎖DNAに完全相補であるDNA溶液(0.2mM)に浸漬した。なお、DNA溶液は、Tris緩衝液にDNAを0.2mMとなるように溶解して調整した。円柱状である核酸応答性ゲルの直径変化を光学顕微鏡(オリンパス(株)製:BX51)を用いて測定し、膨潤変化を次式に示す膨潤率によって評価した。
膨潤率(Swelling ratio)=(d/d0)3 ・・・ (1)
ここで、d0はDNA溶液に浸漬する前のTris緩衝液中での核酸応答性ゲル(以下、「Tris緩衝液中での核酸応答性ゲル」と称する。)の円柱の直径(cm)、dはDNA溶液に浸漬した後のDNA溶液中での核酸応答性ゲル(以下、「DNA溶液中での核酸応答性ゲル」と称する。)の円柱の直径(cm)である。なお、対照として、ビニル基導入オリゴDNAを結合しない以外は実施例1と同様にして合成したポリアクリルアミド(PAAm)ゲルを用いて同様の測定を行った。また、円柱の直径は、円柱状の核酸応答性ゲルの側面の幅を光学顕微鏡で測定することにより得られた値である。
図3に、実施例1で合成した核酸応答性ゲルおよび対照としてのポリアクリルアミド(PAAm)ゲルの、完全相補DNA(標的DNA:3’-GGCCAGCGC-5’)溶液中での膨潤率変化を示す。図3中、グラフの縦軸は膨潤率、横軸は浸漬時間(単位:時間)を示し、黒丸は核酸応答性ゲルの膨潤率を、白丸はポリアクリルアミド(PAAm)ゲルの膨潤率を示す。図3に示すように、PAAmゲルの膨潤率はほとんど変化しなかったが、核酸応答性ゲルの膨潤率は時間とともに増加し核酸応答性を示した。
〔実施例3:核酸応答性ゲルの架橋密度測定〕
圧縮試験機((株)島津製作所製:EZ Test-10N)を用いて実施例1で製造した核酸応答性ゲルとポリアクリルアミド(PAAm)ゲルとの緩衝溶液中およびDNA溶液中での圧縮弾性率を測定し、次式によって核酸応答性ゲルの架橋密度νeを算出した。
G=R・T・νe・v2 1/3
ここでGは圧縮弾性率(Pa)、Rは気体定数、Tは絶対温度、νeは架橋密度(mol/m3)、v2は核酸応答性ゲルにおける、核酸応答性ゲル全体(プローブが固定されている高分子化合物+溶媒)に対するプローブが固定されている高分子化合物の体積分率である。
下表1に、核酸応答性ゲルとポリアクリルアミド(PAAm)ゲルとの緩衝溶液中およびDNA溶液中での架橋密度を示す。
表1に示すように、緩衝溶液中とDNA溶液中とでPAAmゲルの架橋密度はほとんど変化していないが、核酸応答性ゲルの架橋密度は、42.92(mol/m3)から29.18(mol/m3)に減少した。
〔実施例2〕および本実施例の結果は、核酸応答性ゲルを、該核酸応答性ゲルに結合されているオリゴDNAの一方の一本鎖DNAに完全相補であるDNA溶液に浸漬すると、核酸応答性ゲルは膨潤し、同時に、架橋密度は減少することを示している。この結果より、完全相補であるDNAに応答して核酸応答性ゲルが膨潤するのは、図5に示すようなメカニズムによることが考えられる。すなわち、本発明の核酸応答性ゲルは、図5左側の円内に示すように、緩衝溶液中では、2本の一本鎖核酸がハイブリダイズした状態で、ゲルの網目構造に、架橋を形成するように結合されている。ここに、2本の一本鎖核酸の一方に対して完全に相補となる標的DNAが存在すると、ゲル架橋点として導入した二本鎖DNAは一塩基非相補であるため、完全相補となる標的DNAとより安定な水素結合を形成するようにDNAの鎖交換が起こる(図5右側の円内)。結果として、ゲル架橋点が減少するためにゲルが膨潤する。
〔実施例4:核酸応答性ゲルの膨潤率測定〕
次に、実施例1で製造した核酸応答性ゲルについて、DNA溶液(0.2mM)として、核酸応答性ゲルに導入されているオリゴDNAの一方の一本鎖DNAと一塩基非相補である3種類のDNA溶液を用いて、実施例2と同様にして膨潤率の測定を行った。
図4に、この測定結果を、実施例2で得られた完全相補であるDNAを用いた測定結果と併せて示す。図4中、グラフの縦軸は膨潤率、横軸は浸漬時間(単位:時間)を示し、黒丸は完全相補であるDNA(標的DNA:3’-GGCCAGCGC-5’)を用いた結果を、黒三角は5’側末端で一塩基非相補であるDNA(標的DNA:3’-TGCCAGCGC-5’)を用いた結果を、黒四角は3’側末端で一塩基非相補であるDNA(標的DNA:3’-GGCCAGCGT-5’)を用いた結果を、白四角はDNA鎖中央部で一塩基非相補であるDNA(標的DNA:3’-GGCCCGCGC-5’)を用いた結果を示す。図4に示すように、本発明の核酸応答性ゲルは様々な一塩基多型(SNP)を認識して異なる膨潤挙動を示した。この結果より、本発明で合成した核酸応答性ゲルは、一塩基の違いにより生じるゲルの体積変化を観察するだけで標的DNAを識別できることが示された。
〔実施例5:DNAの含有量と核酸応答性ゲルの膨潤率との関係の検討〕
本実施例では、核酸応答性ゲルに含有させるオリゴDNAの濃度を増加させて、膨潤率測定を行なった。
まず、実施例1に記載の方法と同じ方法でビニル基導入オリゴDNAを製造した。
次に、ビニル基導入オリゴDNAの濃度が、乾燥状態で2.4×10−1mol%となるようにした以外は、実施例1に記載の方法と同じ方法で核酸応答性ゲルを製造した。ここで、本実施例において、乾燥状態でのmol%とは、核酸応答性ゲルに含まれるビニル基導入オリゴDNAのモル数を、当該核酸応答性ゲルを乾燥させたときに残る物質、つまり当該核酸応答性ゲルの骨格となる物質であるAAm、MBAA、及び、ビニル基導入オリゴDNAのモル数の総量で除して算出した値である。なお、実施例1で製造した核酸応答性ゲルにおけるビニル基導入オリゴDNAの濃度は、乾燥状態で4.7×10−2mol%である。
次に、実施例2に記載の方法と同じ方法で、本実施例で製造した核酸応答性ゲル、実施例1で製造した核酸応答性ゲル、及びPAAmゲルの膨潤率をそれぞれ測定した。
その結果を図8に示す。図8は、核酸応答性ゲルの、完全相補DNA溶液中での膨潤率変化を示すグラフである。図8において縦軸は膨潤率、横軸は浸漬時間(単位:時間)を示し、白丸は本実施例で製造した核酸応答性ゲルの膨潤率、黒丸は実施例1で製造した核酸応答性ゲルの膨潤率、黒四角はPAAmゲルの膨潤率を示す。
図8に示すように、本実施例で製造した核酸応答性ゲルの膨潤率は約1.7倍であり、実施例1で製造した核酸応答性ゲルの膨潤率より極めて高い数値となった。これは、本発明に係る核酸応答性ゲル中の、可逆的架橋点として作用する二本鎖DNAの量が多いことによって、標的DNA存在下での架橋点数の変化が大きくなる。そのため、より大きな膨潤を示したものと考えられる。
これにより、本発明に係る核酸応答性ゲル中の、プローブとして作用するDNAの含有量を調整することで、標的DNAを検出したときの当該核酸応答性ゲルの応答挙動(膨潤率)を、制御できることが示された。
〔実施例6:核酸応答性ゲルの膨潤率と測定温度との関係〕
本実施例では、測定時における温度と核酸応答性ゲルとの関係について検討した。
また、本実施例では、実施例5に記載の方法と同じ方法で製造した核酸応答性ゲルを用いた。
膨潤率の測定は、完全相補DNA溶液に核酸応答性ゲルを浸漬したときの温度条件以外は、実施例2に記載の方法と同じ方法で行なった。本実施例では、5℃、15℃、25℃、35℃の4通りの温度条件で膨潤率の測定を行なった。比較のため、DNAを溶解していない緩衝液(Tris緩衝液)に、当該核酸応答性ゲルを浸漬して上記温度条件と同じ温度条件で膨潤率の測定を行なった。測定開始から24時間経過後に膨潤率を測定した結果を図9に示す。
図9は、核酸応答性ゲルの膨潤率と測定温度との関係を、完全相補DNA溶液、及び、DNAを溶解していない緩衝液を用いて検討した結果を示す図であり、縦軸は膨潤率、横軸は測定温度(単位:℃)を示す。また、黒丸は上記完全相補DNA溶液に核酸応答性ゲルを浸漬させた場合の膨潤率、白丸はDNAを溶解していない緩衝液に核酸応答性ゲルを浸漬させた場合の膨潤率を示す。
図9に示すように、DNAを溶解していない緩衝液中においても、核酸応答性ゲルの膨潤率は温度上昇に伴って増加した。これは、当該核酸応答性ゲル中で架橋点として作用している二本鎖DNAが水素結合によって形成されており、温度上昇に伴ってその水素結合が解離して、二本鎖DNAが一本鎖になるため架橋密度が減少して膨潤率が増加したと考えられる。完全相補DNA溶液中では、膨潤率の温度依存性がより顕著であり、測定温度によって膨潤率が大きく変化した。標的DNAの有無による膨潤率の差(膨潤率変化)は、核酸応答性ゲルの標的DNAに対する膨潤挙動を示すものである。この膨潤挙動が測定温度に大きく影響されることが示された。
次に、本実施例における膨潤率の測定を行なった結果から、膨潤率変化を算出して、膨潤率と測定温度との関係を検討した。その結果を図10及び11に示す。
図10は、核酸応答性ゲルの膨潤率変化と測定温度との関係を示す図であり、縦軸は膨潤率変化、横軸は測定時間(単位:時間)を示し、白丸、黒丸、白四角、黒四角は、それぞれ、測定温度が5℃、15℃、25℃、35℃のときにおける膨潤率変化と測定温度との関係を示す。また、図11は、測定開始後から24時間経過後における核酸応答性ゲルの膨潤率変化と測定温度との関係を示す図であり、縦軸は膨潤率変化、横軸は測定温度(単位:℃)を示す。
図10に示すように、いずれの温度でも、核酸応答性ゲルが完全相補DNAに応答して膨潤したことが示された。また、図10及び11に示されるように、25℃以下の温度では、測定温度が高くなるに伴い膨潤率変化は増加したが、25℃以上になると膨潤率変化は低下した。これは、核酸応答性ゲルには、標的DNAに対して応答するための最適な温度が存在することを示している。そして、本発明に係る核酸応答性ゲルが標的DNAに対して最も高い応答性を示す温度が25℃であることを示しており、測定温度を変えることで、標的DNAに対する応答性、即ち検出精度を制御できることを示している。