本発明について、以下に(I)本発明に係る核酸応答性ゲル、(II)核酸応答性ゲルの製造方法、(III)核酸応答性ゲルの利用の順に説明する。
(I)本発明に係る核酸応答性ゲル
本発明に係る核酸応答性ゲルは、ハイブリダイズしている2本の一本鎖核酸からなるプローブが、高分子ゲルの網目構造内に固定されている核酸応答性ゲルであって、当該プローブは、2本の一本鎖核酸が可逆的に結合しており、2本の一本鎖核酸は、蛍光ドナー分子が導入された一本鎖核酸と、該蛍光ドナー分子との間で蛍光共鳴エネルギー移動が起こりうるアクセプター分子が導入された一本鎖核酸とである。
ここで、「高分子ゲル」とは、網目構造を有する高分子化合物が液体を吸収して膨潤したものであれば特に限定されるものではない。例えば、網目構造を有する高分子化合物が水で膨潤したヒドロゲルであってもよいし、網目構造を有する高分子化合物が有機溶媒で膨潤したオルガノゲルであってもよい。中でも、上記高分子ゲルは、核酸の安定性の観点からヒドロゲルであることがより好ましい。なお、本発明に係る核酸応答性ゲルは、膨潤した状態で、核酸に対する応答性を示すが、本発明には、膨潤したゲルから、水、有機溶媒等を除いて乾燥状態としたものも含まれる。
本発明に係る核酸応答性ゲルにおいて、上記高分子ゲルの網目構造内に固定されているプローブは、ハイブリダイズしている2本の一本鎖核酸からなる。ここで、2本の一本鎖核酸は、少なくとも一部分がハイブリダイズしていればよく、全体がハイブリダイズしていてもよいし、ハイブリダイズしていない部分を有していてもよい。
なお、ここでハイブリダイズしているとは、2本の相同的な一本鎖の核酸の塩基部分が水素結合によって互いに結合し、比較的安定な二本鎖を形成していることをいう。一般にハイブリダイズは、2本の一本鎖核酸が完全に相補的またはほとんど相補的な場合に起こりうる。本発明では、2本の一本鎖核酸がハイブリダイズしている部分において、2本の一本鎖核酸は完全に相補的であってもよいし、1または複数の塩基がミスマッチであってもよい。言い換えれば、上記プローブは、2本の一本鎖核酸がハイブリダイズしている部分において、ミスマッチを有していなくてもよいし、1塩基以上のミスマッチを有していてもよい。なお、ここでミスマッチとは、例えばDNAの場合グアニン(G)とシトシン(C)、アデニン(A)とチミン(T)のような正常な塩基対を形成することができない塩基の組み合わせをいう。
上記プローブは、2本の一本鎖核酸が可逆的に結合している。すなわち、2本の一本鎖核酸の塩基部分が水素結合によって互いに結合しているが、温度等の条件の変化や他の核酸の存在により、2本鎖が解離する方向に反応が進むことが可能であり、かかる反応は可逆的である。
本発明に係る核酸応答性ゲルでは、上記プローブを形成する2本の一本鎖核酸は、蛍光ドナー分子が導入された一本鎖核酸と、該蛍光ドナー分子との間で蛍光共鳴エネルギー移動が起こりうるアクセプター分子が導入された一本鎖核酸とからなる。図1の左側に示す円内に、本発明にかかる核酸応答性ゲルを模式的に示す。図中、高分子ゲルの架橋点を示す黒丸で囲まれた範囲は高分子ゲルの網目構造を模式的に示すものである。この高分子ゲルの網目構造内に、ハイブリダイズしている2本の一本鎖核酸からなるプローブが固定されている。そして、2本の一本鎖核酸のうち、実線で示される一本鎖核酸には蛍光ドナー分子1が導入されており、該一本鎖核酸とハイブリダイズしている、破線で示される一本鎖核酸には、該蛍光ドナー分子との間で蛍光共鳴エネルギー移動が起こりうるアクセプター分子2が導入されている。
ここで、蛍光ドナー分子としては、所定の波長の光を照射することにより蛍光を発する物質であれば特に限定されるものではない。蛍光ドナー分子は、その蛍光スペクトルと重なる励起スペクトルをもつアクセプター分子と近接したときに、蛍光ドナー分子からアクセプター分子にエネルギー移動が起こる。このエネルギー移動は、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)と呼ばれる。このFRETは、蛍光ドナー分子とアクセプター分子との間の距離に強く依存するため、FRETを利用することによって、標的核酸をセンシングすることが可能となる。すなわち、2本の一本鎖核酸が、ハイブリダイズしている状態では、蛍光ドナー分子1とアクセプター分子2との間の距離が近いために、図1の左側に示すように、蛍光ドナー分子を励起させる波長の光を照射すると、FRETによって、発生した蛍光エネルギーをアクセプター分子が吸収し、蛍光ドナー分子1の発光は消光される。これに対して、図1の右側に示すように、標的核酸の存在下で、鎖交換が起こり、ハイブリダイズしている2本の一本鎖核酸が離れると、蛍光ドナー分子1とアクセプター分子2とが離れることによってFRETの効果が減少または消失し、蛍光ドナー分子を励起させる波長の光を照射したときの蛍光強度が増加する。
なお、ここで、2本の一本鎖核酸が、ハイブリダイズしている状態では、蛍光ドナー分子1とアクセプター分子2との間の距離が近いために、FRETによって蛍光ドナー分子1の発光は消光されるが、消光によって蛍光ドナー分子は蛍光を全く発光しなくなるとは限られず、蛍光が一部発光している場合もある。いずれの場合も、鎖交換が起こり、ハイブリダイズしている2本の一本鎖核酸が離れると、蛍光ドナー分子の蛍光強度は増加する。
また、ここで、蛍光ドナー分子およびアクセプター分子が導入されているとは、それぞれの1本鎖核酸に、蛍光ドナー分子およびアクセプター分子が、化学的または物理的に結合しているものであれば、結合する形式は特に限定されるものではない。例えば、共有結合、イオン結合、配位結合等の化学結合を介して結合されていることが好ましい。中でも、蛍光ドナー分子およびアクセプター分子は、共有結合を介して導入されているものであることがさらに好ましく、例えば、ビニル基、(メタ)アクリロイル基、水酸基、カルボキシル基、アミノ基等を利用してエステル結合やエーテル結合、アミド結合等により導入されることが好ましい。また、ここで、共有結合を介してとは、スペーサーを介した共有結合をも含む趣旨である。かかるスペーサーとしては、特に限定されるものではないが、例えば炭素数が1〜15の直鎖アルキルスペーサーを好適に用いることができる。
また、蛍光ドナー分子およびアクセプター分子が導入されている、一本鎖核酸上の位置も2本の一本鎖核酸がハイブリダイズしたときに、FRETによって蛍光ドナー分子の発光が消光されるように近接していれば、特に限定されるものではない。しかし、FRETによって蛍光ドナー分子の発光が消光されるためには、蛍光ドナー分子とアクセプター分子とが所定の距離以内である必要がある。この所定の距離は、蛍光ドナー分子およびアクセプター分子の種類によって異なるが、50nm以下であることが好ましく、30nm以下であることがより好ましく、10nm以下であることがさらに好ましい。ここで10nmの距離は約3塩基の核酸に相当する。
また、FRETによって十分に蛍光ドナー分子の発光が消光されるためには、蛍光ドナー分子とアクセプター分子との一本鎖核酸上での距離は、8塩基以下であることがより好ましく、5塩基以下であることがさらに好ましく、3塩基以下であることが特に好ましい。
本発明で用いられる蛍光ドナー分子としては、蛍光を発光する分子であれば特に限定されるものではないが、例えば、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、6−カルボキシフルオレセイン(FAM)、ヘキソクロロ−6−カルボキシフルオレセイン(HEX)、テトラクロロ−6−カルボキシフルオレセイン(TET)、6−カルボキシ−テトラメチル−ローダミン(TAMRA)、Cy3、Texas red、EDANS、カスケードブルー等を好適に用いることができる。
また、本発明で用いるアクセプター分子としては、上記蛍光ドナー分子との間で蛍光共鳴エネルギー移動が起こりうる分子であれば特に限定されるものではなく、蛍光物質であってもよいし、自身は蛍光を発しない所謂消光剤であってもよい。かかるアクセプター分子としては、例えば、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、6−カルボキシフルオレセイン(FAM)、ヘキソクロロ−6−カルボキシフルオレセイン(HEX)、テトラクロロ−6−カルボキシフルオレセイン(TET)、6−カルボキシ−テトラメチル−ローダミン(TAMRA)、Cy3、Cy5、Texas red等の蛍光物質;BHQ1、BHQ2、DABCYL、エオシン、マラカイトグリーン等の消光剤を好適に用いることができる。
なお、上記アクセプター分子が蛍光物質である場合、かかるアクセプター分子は、FRETによって、上記蛍光ドナー分子から発生した蛍光エネルギーを吸収し、異なる波長の蛍光を発光する。かかる場合は、アクセプター分子由来の蛍光が観察される。
本発明で用いられる蛍光ドナー分子とアクセプター分子との組み合わせは、蛍光共鳴エネルギー移動が起こりうる上記蛍光ドナー分子と上記アクセプター分子との組み合わせであればどのような組み合わせであってもよい。例えば、FITCとBHQ1、TAMRAとBHQ2、EDANSとDABCYL等の組み合わせをより好適に用いることができる。
本発明に係る核酸応答性ゲルでは、上記プローブが、高分子ゲルの網目構造内に固定されている。ここで、上記プローブの一方の端部は、ハイブリダイズしている2本の一本鎖核酸のうちの、片方の一本鎖核酸が、高分子ゲルの網目構造を形成する高分子化合物に結合することによって、ゲルの網目構造内に固定されているとともに、上記プローブの他方の端部は、当該一本鎖核酸とハイブリダイズしている他方の一本鎖核酸が、高分子ゲルの網目構造を形成する高分子化合物に結合することによって、ゲルの網目構造内に固定されていることによって、上記プローブは、架橋を形成するように、ゲルの網目構造内に固定されている。すなわち、上記プローブは、図1の左側に示す円内に模式的に示すように、ゲルの網目構造内に架橋を形成するように結合されている。ここで架橋は、ハイブリダイズしている2本のうちの実線で表されている一本鎖核酸の一端が、高分子ゲルの網目構造を形成する高分子化合物に結合しているとともに、2本のうちの破線で表される一本鎖核酸の一端が、高分子ゲルの網目構造を形成する高分子化合物に結合していることによって形成されている。すなわち、2本の一本鎖核酸のそれぞれは、ゲルの網目構造を形成する高分子化合物と架橋の片方でのみ結合しているが、2本の一本鎖核酸がハイブリダイズしていることによって、架橋が形成されることになる。かかる構成により、ハイブリダイズしている2本の一本鎖核酸が、解離した(メルトした)場合、図1の右側に示す円内に模式的に示すように、架橋が切断されることになり、架橋点が減少すると考えられる。一般に高分子ゲルの膨潤率は架橋密度が減少すると増加することが知られているように、架橋点が減少する結果、核酸応答性ゲルは膨潤する。
このように、本発明にかかる核酸応答性ゲルは、架橋点として作用していたハイブリダイズした2本の一本鎖が解離することにより、上述したように、蛍光ドナー分子1とアクセプター分子2とが離れることによって蛍光強度が増加することに加え、架橋密度が減少して膨潤するという機構を利用するため、核酸応答性ゲルの構造設計の状態によっては大きく体積変化させることができる可能性を有する。また、一本鎖核酸が導入された従来の核酸応答性ゲルが浸透圧の変化のみにより体積変化するのに対し、本発明にかかる核酸応答性ゲルは、浸透圧の変化と架橋密度の変化との相乗効果が期待できる。
また、本発明に係る核酸応答性ゲルにおいては、上記プローブは2本の一本鎖核酸が可逆的に結合しているため、上記プローブを形成している2本のうちのいずれかの一本鎖核酸とより安定な二本鎖を形成する核酸または競争的にハイブリダイズする核酸が存在すると、かかる核酸は、ハイブリダイズしている相手の一本鎖核酸と取って代わり、核酸の鎖交換が起こる。
上記プローブが、ハイブリダイズしている部分において、1以上の塩基がミスマッチである場合は、完全に相補的である場合と比較して、ハイブリダイズしている部分の二本鎖が不安定となる。それゆえ、例えば、上記プローブを形成している2本のうちのいずれかの一本鎖核酸と完全に相補的な核酸のように、より安定な二本鎖を形成できる核酸が存在すると、図1の右側の円内に示すように、より安定な二本鎖が形成されるべくハイブリダイズする核酸の鎖交換が起こる。その結果、蛍光ドナー分子1とアクセプター分子2とが離れることによって蛍光強度が増加すると考えられる。また、上記架橋が切断され架橋点が減少することにより、核酸応答性ゲルが膨潤すると考えられる。すなわち、上記プローブを形成している2本の一本鎖核酸がゲルの網目構造内に結合し、結合箇所に形成している架橋点は可逆的な架橋点となっている。
なお、上述した核酸の鎖交換は、上述したように、より安定な二本鎖を形成できる核酸が存在する場合に起こるが、これに限定されるものではなく、例えば同等に安定な二本鎖を形成できる核酸が存在する場合にも、ハイブリダイズしている一本鎖核酸と競争的に反応することにより核酸の鎖交換は起こる。
上記ハイブリダイズしている部分において、1以上の塩基がミスマッチである場合は、ミスマッチである塩基は1以上で、上限は2本の一本鎖核酸がハイブリダイズすることを妨げない範囲であれば特に限定されるものではなく、導入する各一本鎖核酸の長さ、核酸応答性ゲルの膨潤に用いる溶媒の種類、核酸応答性ゲルの含溶媒率、塩の濃度や種類、温度、GCとATの比率等塩基組成、pH等に応じて変化する数である。具体的には、ミスマッチの数は、例えば、1、2、3、4、5等である。例えば、2塩基がミスマッチである場合は、1塩基がミスマッチである場合より、2本の一本鎖核酸の結合力は弱くなる。このようにミスマッチの数を変えることで、2本の一本鎖核酸の結合力を変えることができる。それゆえ、ミスマッチの数を変えることで、得られる核酸応答性ゲルの認識能を任意に変えることが可能となる。さらに、2本の一本鎖核酸の結合力は、温度を変化させることによっても変えることができるため、温度を調節することによってさらに認識能を増幅することが可能となる。
本発明に係る核酸応答性ゲルでは、当該プローブを形成する2本の一本鎖核酸が網目構造を形成する高分子化合物に結合する形式は特に限定されるものではないが、例えば、共有結合、イオン結合、配位結合等の化学結合を介して結合されていることが好ましい。これにより、上記プローブが、高分子ゲルの網目構造内に安定して固定される。中でも、当該プローブを形成する2本の一本鎖核酸は、網目構造を形成する高分子化合物に、共有結合を介して結合されていることがより好ましく、例えば、ビニル基、(メタ)アクリロイル基、水酸基、カルボキシル基、アミノ基等を利用してエステル結合やエーテル結合、アミド結合等により結合されていることが好ましい。また、ここで、共有結合を介してとは、スペーサーを介した共有結合をも含む趣旨である。かかるスペーサーとしては、特に限定されるものではないが、例えば炭素数が1〜15の直鎖アルキルスペーサーを好適に用いることができる。
本発明に係る核酸応答性ゲルでは、上記プローブを形成する2本の一本鎖核酸のそれぞれが、上述したように、網目構造を形成する高分子化合物に結合することによって、上記プローブが架橋を形成するようにゲルの網目構造内に固定されていれば、それぞれの一本鎖核酸が高分子化合物に結合している位置は特に限定されるものではない。例えば、2本の一本鎖核酸のそれぞれは、ともに、5’末端が高分子ゲルの網目構造を形成する高分子化合物に結合していてもよい。また、2本の一本鎖核酸のそれぞれは、ともに、3’末端が高分子ゲルの網目構造を形成する高分子化合物に結合していてもよい。5’末端や3’末端には高分子化合物に結合させるための基を導入しやすいため、これにより、上記プローブを容易に高分子ゲルの網目構造に結合することができる。
上記プローブを形成する上記一本鎖核酸は、DNAであってもよいし、RNAであってもよいし、PNAであってもよい。また、2本の一本鎖核酸は、DNA同士、RNA同士、またはPNA同士であってもよいし、DNA、RNAおよびPNAから選択される2種類の組み合わせであってもよい。
また、上記プローブを形成する2本の一本鎖核酸の長さは特に限定されるものではなく、いかなる長さのものであってもよいが、例えば、塩基数が2以上10000以下であることが好ましく、5以上500以下であることがより好ましく、5以上200以下であることがさらに好ましい。塩基数が2以上であることにより、ハイブリダイズした二本鎖の結合力が適度な状態になるため好ましい。また、塩基数が10000以下であることにより、ゲル網目内に標的核酸が拡散しやすいサイズになるので好ましい。
上記高分子ゲルとして用いることができる高分子化合物は、網目構造を有し、水や有機溶媒により膨潤する高分子化合物であれば特に限定されるものではないが、中でも、上記高分子ゲルは、水によって膨潤する高分子ゲルであることがより好ましく、親水性のモノマーを重合、架橋することにより得られる高分子化合物であることがより好ましい。かかるモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸;アルキル(メタ)アクリレート;マレイン酸;ビニルスルホン酸;ビニルベンゼンスルホン酸;(メタ)アクリルアミド;アクリルアミドアルキルスルホン酸;(メタ)アクリロニトリル;ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等のアミノ置換(メタ)アクリルアミド;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸アミノ置換アルキルエステル;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシエチルメタクリレート;スチレン;ビニルピリジン;ビニルカルバゾール;ジメチルアミノスチレン;N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N’−ジメチル(メタ)アクリルアミド等のアルキル置換(メタ)アクリルアミド;酢酸ビニル;アリルアミン等を単独または2種以上組み合わせて使用することができる。中でも、上記モノマーは、(メタ)アクリルアミド;(メタ)アクリル酸;アルキル(メタ)アクリレート;2−ヒドロキシエチルメタクリレート等のヒドロキシエチルメタクリレート;N,N’−ジメチル(メタ)アクリルアミド;N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド;酢酸ビニル;アリルアミン等であることがより好ましい。また、得られる核酸応答性ゲルの性能に悪影響を与えるものでなければ、さらに他のモノマーを組み合わせてもよい。なお、本明細書において、「アクリル」または「メタアクリル」のいずれをも意味する場合「(メタ)アクリル」と表記する。
また、上記高分子化合物は、一分子中に2個以上の反応性官能基を有する架橋剤を共重合または反応させることによって架橋されているものであることが好ましい。上記架橋剤としては、従来公知のものを適宜選択して用いればよいが、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、N,N’−メチレンビス(メタ)アクリルアミド、トリレンジイソシアネート、ジビニルベンゼン、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等の重合性官能基を有する架橋性モノマー;グルタールアルデヒド;多価アルコール;多価アミン;多価カルボン酸;金属イオン等を好適に用いることができる。これらの架橋剤は単独で用いてもよく、また2種類以上を組み合わせて用いてもよい。また、上記高分子化合物は、上記架橋剤を用いずに、本発明で用いる上記プローブと共重合させることによって、当該プローブのみにより架橋されているものであってもよい。
上記高分子ゲルとして用いることができる高分子化合物としては、具体的には、例えば、ポリ(メタ)アクリルアミド;ポリ−N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド;ポリ−N,N’-ジメチル(メタ)アクリルアミド;ポリ−2−ヒドロキシエチルメタクリレート;ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ−アルキル(メタ)アクリレート、ポリマレイン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリビニルベンゼンスルホン酸、ポリアクリルアミドアルキルスルホン酸、ポリジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、これらと(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸アルキルエステル等との共重合体;ポリジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドとポリビニルアルコールとの複合体;ポリビニルアルコールとポリ(メタ)アクリル酸との複合体;カルボキシアルキルセルロース金属塩;ポリ(メタ)アクリロニトリル;アルギン酸;キトサン;ポリアリルアミン;セルロースまたはこれらの誘導体や架橋物、金属塩を挙げることができる。これらの中でも、上記高分子化合物としては、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ−2−ヒドロキシエチルメタクリレート、ポリ−アルキル(メタ)アクリレート、ポリ−N,N’-ジメチル(メタ)アクリルアミド、ポリ−N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリアリルアミン、セルロース、キトサン、アルギン酸、これらの誘導体であることが好ましい。上記高分子化合物の分子量は、1000以上1000000以下であることが好ましい。分子量がかかる範囲となっていることにより、適度な架橋剤によって高分子ゲルを合成しやすいので好ましい。
本発明にかかる核酸応答性ゲルは、膨潤している状態で核酸の検出に用いる。また、本発明にかかる核酸応答性ゲルは、核酸に応答して、さらに液体を吸収して、膨潤し体積変化を起こす。本発明の核酸応答性ゲルにおいて、これらの膨潤の際に、吸収される液体は、特に限定されるものではなく、水や水系の緩衝液であってもよいし有機溶媒であってもよい。かかる液体としては、具体的には、例えば、水;リン酸緩衝液、Tris緩衝液、酢酸緩衝液等の水系の緩衝液;メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブチルアルコール、イソペンチルアルコール等のアルコール;アセトン、2−ブタノン、3−ペンタノン、メチルイソプロピルケトン、メチルn−プロピルケトン、3−ヘキサノン、メチルn−ブチルケトン等のケトン;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン等のエーテル;酢酸エチルエステル等のエステル;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド;ジメチルスルホキシド;アセトニトリル等の二トリル;プロピレンカーボネート;ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン等の低級飽和炭化水素;キシレン;トルエン;またはこれらの2種以上の混合物等を挙げることができる。中でも、上記液体は核酸の安定性の観点から水または水系の緩衝液であることがより好ましい。本発明に係る核酸応答性ゲルを平衡に達するまで膨潤させたときに含まれる上記液体の割合は、高分子ゲルの架橋密度、高分子や溶媒の種類、温度、pH、イオン強度等によって変化するが、核酸応答性ゲルと核酸応答性ゲルに含まれる上記液体の合計重量に対して、30重量%以上99.9重量%以下であることが好ましく、70重量%以上99重量%以下であることがより好ましい。本発明に係る核酸応答性ゲルを平衡に達するまで膨潤させたときに含まれる上記液体の割合が上記範囲であることにより、適度な強度を有するゲルが得られ、標的核酸がゲル内に拡散することができる高分子網目構造となるので好ましい。
また、本発明に係る核酸応答性ゲルの架橋密度は、0.01(mol/m3)以上1000(mol/m3)以下であることが好ましく、0.01(mol/m3)以上500(mol/m3)以下であることがより好ましい。核酸応答性ゲルの架橋密度が上記範囲であることにより、核酸応答性ゲルは、標的核酸を検知して蛍光強度が変化すると同時に体積変化する。なお、本明細書において、架橋密度は、圧縮試験機を用いて圧縮弾性率を測定し、次式によって算出することができる。
G=R・T・νe・v2 1/3
ここでGは圧縮弾性率(Pa)、Rは気体定数、Tは絶対温度、νeは架橋密度(mol/m3)、v2は核酸応答性ゲルにおける、核酸応答性ゲル全体(プローブが固定されている高分子化合物+溶媒)に対するプローブが固定されている高分子化合物の体積分率である。
また、本発明の核酸応答性ゲルの架橋密度のさらに好ましい範囲は用いる目的によって異なり、より大きな体積変化が望まれる場合には、本発明に係る核酸応答性ゲルの架橋密度は、0.1(mol/m3)以上100(mol/m3)以下であることがより好ましく、1(mol/m3)以上30(mol/m3)以下であることがさらに好ましい。核酸応答性ゲルの架橋密度が上記範囲であることにより、核酸応答性ゲルが大きな体積変化を示すことが期待でき、さらに適度な強度を持つので好ましい。
本発明の核酸応答性ゲルにおける、上記プローブの含有量は、核酸応答性ゲルが核酸に応答して膨潤することができる範囲であれば、特に限定されるものではないが、乾燥状態の核酸応答性ゲルを100重量%としたときに、0.01重量%以上であることが好ましい。本発明の核酸応答性ゲルにおける、上記プローブの含有量が、上記範囲であることにより、核酸応答性ゲルは、標的核酸を検知して蛍光強度が変化すると同時に体積変化する。
また、上記プローブの含有量のより好ましい範囲は用いる目的によって異なり、より大きな体積変化が望まれる場合には、本発明の核酸応答性ゲルにおける、上記プローブの含有量は、0.1重量%以上であることがより好ましく、1重量%以上であることがさらに好ましい。上記プローブの含有量が大きければそれだけ核酸応答性ゲルが核酸に応答したときの架橋密度の変化が大きくなる。それゆえ、体積変化により標的とする核酸を認識する認識能を向上することができる。プローブをたくさん入れるほど体積変化に基づく認識能の性能がよいため、上記プローブの含有量の上限はない。また、蛍光強度の変化による検知と同時に、体積変化による制御を行う場合において、大きな体積変化が望まれる場合もプローブの含有量は大きいことが好ましい。なお、核酸が高価であることより、価格の観点からは、上記プローブの含有量は、乾燥状態の核酸応答性ゲルを100重量%としたときに、50重量%以下であることが好ましい。
上記プローブの含有量が高い核酸応答性ゲルでは、上記プローブの含有量が低い核酸応答性ゲルに比べて、多くの架橋構造が形成されている。そのため、上記プローブの含有量が高い核酸応答性ゲルの方が、標的核酸が供されたときに切断される架橋構造が多い。よって、上記プローブの含有量が高い核酸応答性ゲルの方が、上記プローブの含有量が低い核酸応答性ゲルに比べて、標的核酸が供されたときの架橋密度の変化が大きくなると考えられる。
また、本発明にかかる核酸応答性ゲルの形状は特に限定されるものではなく、どのような形状のものであってもよく、用途に応じて好ましい形状を適宜選択すればよい。かかる形状としては、例えば、円柱状、板状、フィルム状、粒子状、球状、直方体状等を挙げることができる。例えばセンサーチップ等に用いる場合には、薄膜状やフィルム状等であることが好ましく、診断試薬等に用いる場合には、粒子状等であることが好ましい。
本発明にかかる核酸応答性ゲルを所望の形状とするためには、例えば、核酸応答性ゲルの原料となるモノマー組成物等を重合前に所望の型に注入し、重合を行う方法等を用いることができる。
また、核酸応答性ゲルの大きさも特に限定されるものではなく、用途に応じて好ましい大きさを適宜選択すればよい。例えば、センサー等に用いる場合には、サイズが小さいゲルを用いることが好ましく、例えば球状である場合には、その直径が0.01μm以上100μm以下であることが好ましい。核酸応答性ゲルのサイズが小さいほど、応答速度が速くなるため、センサー等に好適に用いることができる。
本発明にかかる核酸応答性ゲルは、特定の核酸に応答して体積および蛍光強度が変化するゲルである。より具体的には、特定の核酸を認識すると、液体を吸収して膨潤するとともに、FRETが阻害されて蛍光強度が増加するゲルである。ここで、本発明の核酸応答性ゲルの体積変化および蛍光強度の変化は、可逆的であることにより核酸応答性ゲルを繰り返し使用が可能であり、さらに再現性よいセンサー材料、マイクロ流路バルブ材料等として利用することが可能となる。
本発明にかかる核酸応答性ゲルの蛍光ドナー分子に由来する蛍光強度が、標的核酸の存在下で、増加するときの、蛍光強度の変化は、蛍光ドナー分子とアクセプター分子との距離が所定の大きさを超えた時点で、急にFRETが阻害されることから、体積変化に比較して急激である。そのため、標的核酸を、高い感度で、簡便に検知することができる。
標的核酸の存在下での蛍光強度の増加は、増加後の蛍光強度が、標的核酸不存在下での蛍光強度の1.1倍以上であることが好ましく、2.0倍以上であることがより好ましく、5.0倍以上であることがさらに好ましい。
なお、蛍光ドナー分子に由来する蛍光強度の変化は、裸眼で視覚的に、又は、測定器を用いて観察することができる。
本発明にかかる核酸応答性ゲルが核酸を認識して体積変化を起こすときの、体積変化量は特に限定されるものではないが、体積変化後の体積を体積変化前の体積で除した値である膨潤率が、1.02以上であることが好ましく、1.1以上であることがより好ましい。本発明の核酸応答性ゲルの使用目的に応じて、好ましい膨潤率となるよう、網目構造内に導入されている架橋の量、高分子化合物や溶媒の種類、高分子鎖にある解離基の状態等を選択すればよい。また、本発明にかかる核酸応答性ゲルにおいて、上記膨潤率の上限は、網目構造内に導入されている架橋の量、高分子化合物や溶媒の種類、高分子鎖にある解離基の状態等により異なるが、通常2程度である。なお、膨潤率は、核酸応答性ゲルが円柱状の場合は、後述する実施例に記載の方法により得られる値をいう。後述する実施例では円柱状の核酸応答性ゲルの膨潤率を求める方法が記載されているが、核酸応答性ゲルが例えば球状である場合は、実施例の「円柱の直径」の代わりに球の直径を用いて計算すればよい。
本発明に係る核酸応答性ゲルでは、上記プローブを形成している2本のうちのいずれかの一本鎖核酸とより安定な二本鎖を形成する核酸または競争的にハイブリダイズする核酸が存在すると、かかる核酸は、ハイブリダイズしている相手の一本鎖核酸と取って代わり、核酸の鎖交換が起こる。2本の一本鎖核酸が、ハイブリダイズしている状態では、それぞれの一本鎖核酸に導入されている蛍光ドナー分子とアクセプター分子との間の距離が近いために、FRETによって蛍光ドナー分子の発光が消光される。これに対して、鎖交換が起こり、ハイブリダイズしている2本の一本鎖核酸が離れると、蛍光ドナー分子とアクセプター分子とが離れることによって、蛍光強度が増加する。また、同時に、架橋密度の減少が起こるため核酸応答性ゲルは膨潤する。それゆえ、本発明に係る核酸応答性ゲルは、標的核酸の検出に利用することができる。その際に、高分子ゲルの網目構造を構成する高分子化合物に結合した2本の一本鎖核酸における水素結合の強さと鎖交換した標的核酸における水素結合の強さとのバランスによって鎖交換のしやすさが決まる。したがって、1塩基以上のミスマッチを有する場合にはわずかに水素結合の強さが異なるため、蛍光強度の変化や膨潤挙動に違いが出ると考えられる。さらに、高分子化合物に結合する2本の一本鎖核酸の組み合わせによっても、架橋点を形成しているプローブの水素結合の強さを変化させることができ、鎖交換のしやすさをコントロールすることができる。それゆえ、本発明の核酸応答性ゲルの核酸認識応答挙動を任意に設計することができる。
(II)核酸応答性ゲルの製造方法
本発明にかかる核酸応答性ゲルの製造方法は、特に限定されるものではなく、上記プローブを、ハイブリダイズした状態で、ゲルの網目構造に、架橋を形成するように結合できる方法であればいかなる方法であってもよい。
本発明にかかる核酸応答性ゲルの製造方法としては、例えば、蛍光ドナー分子および反応性官能基が導入された一本鎖核酸と、該蛍光ドナー分子との間で蛍光共鳴エネルギー移動が起こりうるアクセプター分子および反応性官能基が導入された一本鎖核酸とをハイブリダイズさせてプローブを作製する二本鎖形成工程と、得られたプローブを、高分子ゲルを形成するモノマーと、架橋剤の存在下または不存在下で、共重合させて核酸応答性ゲルを得る重合工程とを含む製造方法を挙げることができる。
また、本発明にかかる核酸応答性ゲルの製造方法は、さらに、蛍光ドナー分子および反応性官能基が導入された一本鎖核酸と、該蛍光ドナー分子との間で蛍光共鳴エネルギー移動が起こりうるアクセプター分子および反応性官能基が導入された一本鎖核酸とを製造する工程を含んでいてもよい。
蛍光ドナー分子および反応性官能基が導入された一本鎖核酸と、該蛍光ドナー分子との間で蛍光共鳴エネルギー移動が起こりうるアクセプター分子および反応性官能基が導入された一本鎖核酸とを製造する方法は特に限定されるものではなく、従来公知の方法を好適に用いることができる。
例えば、蛍光ドナー分子が導入された一本鎖核酸、及び、アクセプター分子が導入された一本鎖核酸に、それぞれ、反応性官能基を導入する方法を好適に用いることができる。かかる場合、蛍光ドナー分子又はアクセプター分子が導入された一本鎖核酸は、蛍光ドナー分子又はアクセプター分子で標識された一本鎖核酸を得るための従来公知の方法を用いればよい。かかる方法は、例えば、DNA、RNA等の固相合成時にドナー分子とアクセプター分子を導入する方法であってもよいし、DNA、RNA等の合成後に例えばリン酸との反応などによってドナー分子とアクセプター分子を導入する方法であってもよい。
なお、一本鎖核酸に、上記蛍光ドナー分子または上記アクセプター分子と、反応性官能基とを導入する順序は、上記順序に限定されるものではなく、反応性官能基を導入した後に上記蛍光ドナー分子または上記アクセプター分子を導入してもよい。
ここで、用いる上記蛍光ドナー分子または上記アクセプター分子については、上記(I)で説明したとおりであるのでここでは説明を省略する。
また、上記蛍光ドナー分子または上記アクセプター分子を導入する各一本鎖核酸上の位置は、上記(I)で説明したように、これらがハイブリダイズしたときに、蛍光ドナー分子とアクセプター分子とがFRETによって蛍光ドナー分子の発光が消光される距離以内に位置するように選択すればよい。
上記反応性官能基としては、高分子ゲルの網目構造を形成する高分子化合物と化学的に結合可能な基であれば、特に限定されるものではなく、例えば、ビニル基、(メタ)アクリロイル基、水酸基、カルボキシル基、アミノ基等を挙げることができる。また、かかる反応性官能基を導入する各一本鎖核酸の位置も特に限定されるものではないが、反応性官能基導入の容易性の観点からハイブリダイズさせる両方の一本鎖核酸ともに5’末端に導入するか、または、両方の一本鎖核酸ともに3’末端に導入することが好ましい。これによって、2本の一本鎖核酸をハイブリダイズしたときに、形成された上記プローブの両端に反応性官能基が導入されていることになる。なお、上記反応性官能基は、5’末端または3’末端に導入することが好ましいが、これに限定されるものではなく、2本の一本鎖核酸をハイブリダイズしたときに、形成された上記プローブが高分子ゲルの網目構造に固定されたときに、二本鎖が架橋を形成するようになっていれば、どの位置であってもよい。
上記反応性官能基を導入する方法も特に限定されるものではなく、従来公知の方法を用いればよい。例えば、アクリロイル基を導入する場合の一例として、末端がアミノ化された一本鎖核酸をN−スクシンイミジルアクリレートと反応させる方法を挙げることができる。
また、上記二本鎖形成工程は、前記導入工程で得られたそれぞれの一本鎖核酸の溶液を、例えば、二本鎖核酸が解離する温度より低い温度で混合することにより行うことができる。
上記重合工程では、得られた上記プローブをモノマーと、架橋剤の存在下または不存在下で、共重合させて核酸応答性ゲルを得る。かかるモノマーについては、上記(I)で説明したとおりであるのでここでは説明を省略する。また、ここで用いられる架橋剤についても上記(I)で説明したとおりであるのでここでは説明を省略する。なお、重合工程は架橋剤の存在下で行うことが好ましいが、架橋剤の不存在下で行ってもよい。かかる場合は、上記プローブのみによって架橋された核酸応答性ゲルを得ることができる。
さらに、重合工程では、上記プローブを、上記モノマーおよび必要に応じて上記架橋剤に加えて、さらに他のモノマーと共重合させてもよい。かかる他のモノマーとしては、得られる核酸応答性ゲルの性能に悪影響を与えるものでなければ特に限定されるものではない。
ここで、重合方法としては、特に限定されるものではなく、ラジカル重合、イオン重合、重縮合、開環重合等を好適に用いることができる。また、重合に用いられる溶媒としては、例えば、水、リン酸緩衝液、Tris緩衝液、酢酸緩衝液、メタノール、エタノール等を好適に用いることができる。
また、重合開始剤としても、特に限定されるものではなく、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩;過酸化水素;t−ブチルハイドロパーオキシド、クメンハイドロパーオキシド等のパーオキシド類、アゾビスイソブチロニトリル、過酸化ベンゾイル等を好適に使用することができる。これらの重合開始剤の中でも、特に、過硫酸塩やパーオキシド類等のような酸化性を示す開始剤は、例えば、亜硫酸水素ナトリウム、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン等とのレドックス開始剤としても用いることができる。
また、重合温度は特に限定されるものではないが、プローブとして導入する二本鎖核酸が解離しない温度であることが好ましい。重合温度がかかる範囲であることにより、安定な二本鎖状態で核酸をゲル網目に結合することができるため好ましい。また、重合時間も、特に限定されるものではないが、通常4時間〜48時間である。
重合の際の、モノマー、架橋剤等の濃度は、高分子ゲルが得られる濃度であれば特に限定されるものではない。また、上記重合開始剤の濃度も特に限定されるものではなく適宜選択すればよい。
本発明にかかる核酸応答性ゲルは、上記重合工程で得られた反応混合物から、未反応モノマー、架橋剤、溶媒等を除去することにより得られる。なお、未反応モノマー、架橋剤、溶媒等を除去する方法は、特に限定されるものではないが、例えば、中性付近の緩衝液中で得られた核酸応答性ゲルを洗浄する方法を挙げることができる。なお、本発明にかかる核酸応答性ゲルは、ヒドロゲルまたはオルガノゲルであることが好ましいが、乾燥状態としたものであってもよい。乾燥状態とした本発明の核酸応答性ゲルは、例えば、洗浄後の核酸応答性ゲルを凍結乾燥することにより得ることができる。
本発明にかかる核酸応答性ゲルの他の製造方法としては、例えば、蛍光ドナー分子および反応性官能基が導入された一本鎖核酸と、該蛍光ドナー分子との間で蛍光共鳴エネルギー移動が起こりうるアクセプター分子および反応性官能基が導入された一本鎖核酸とをハイブリダイズさせてプローブを作製する二本鎖形成工程と、得られたプローブを高分子化合物と結合させるプローブ結合工程と、上記プローブ結合工程によりプローブが結合された高分子化合物を、架橋剤と反応させて網目構造を形成する架橋工程とを含む方法を挙げることができる。
また、かかる製造方法も、さらに、上述した、蛍光ドナー分子および反応性官能基が導入された一本鎖核酸と、該蛍光ドナー分子との間で蛍光共鳴エネルギー移動が起こりうるアクセプター分子および反応性官能基が導入された一本鎖核酸とを製造する工程を含んでいてもよい。
上記プローブ結合工程では、上記二本鎖形成工程で得られたプローブを高分子化合物と結合させる。ここで、プローブを結合させる高分子化合物は、架橋することによって高分子ゲルが得られるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、上記(I)で述べた高分子化合物を好適に用いることができる。なお、かかる高分子化合物は、網目構造を有している必要はなく、直鎖状、枝分かれ状等であればよいが、上記プローブを結合させることができるかぎりにおいて網目構造を有しているものであってもよい。また、上記プローブを上記高分子化合物と結合させる方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を好適に用いることができる。
上記架橋工程では、プローブが結合された高分子化合物を、架橋剤と反応させて網目構造を形成する。ここで、架橋剤としては、上記(I)で説明した架橋剤を好適に用いることができる。また、架橋反応の条件も、高分子化合物や架橋剤の種類等に応じて適宜選択すればよい。
本発明にかかる核酸応答性ゲルの製造方法としては、上述したような方法を好適に用いることができる。したがって、本発明にかかる核酸応答性ゲルには、(a)上記モノマーと、反応性官能基が導入された2本の一本鎖核酸をハイブリダイズさせてなるプローブとを、架橋剤の存在下または不存在下で、共重合させることにより得られる核酸応答性ゲル、および、(b)上記高分子化合物に、反応性官能基が導入された2本の一本鎖核酸をハイブリダイズさせてなるプローブとを結合させた後、架橋剤と反応させて網目構造を形成させることによって得られる核酸応答性ゲルも含まれる。なお、(a)の上記モノマーは、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、アルキル(メタ)アクリレート、N,N’-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、酢酸ビニル、およびアリルアミンからなる群より選択される少なくとも1種のモノマーを含むモノマーであることがより好ましい。また、(b)の上記高分子化合物は、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ−アルキル(メタ)アクリレート、ポリ−2−ヒドロキシエチルメタクリレート、ポリ−N,N’-ジメチル(メタ)アクリルアミド、ポリ−N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリアリルアミン、セルロース、キトサン、アルギン酸およびそれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも1種の高分子化合物であることがより好ましい。
本発明にかかる核酸応答性ゲルの製造方法としては、上述したような方法を好適に用いることができるが、さらに、例えば、先にモノマーを重合して高分子ゲルを合成した後ハイブリダイズした2本の一本鎖核酸を高分子ゲルの網目構造に結合させる方法等であってもよい。
さらに、本発明に係る核酸応答性ゲルの製造方法は、上記プローブを設計する工程を含んでいてもよい。かかる工程では、検出することを目的とする核酸に基づいてプローブを形成する2本の一本鎖核酸を決めればよい。例えば、一塩基多型を検出したいときは、その塩基配列と完全相補な一本鎖核酸と、当該一本鎖核酸とハイブリダイズするが1塩基以上のミスマッチを有する一本鎖核酸を用いて上記プローブを形成すればよい。
(III)核酸応答性ゲルの利用
(III−1)核酸応答性ゲルを用いた核酸の検出方法
本発明に係る核酸応答性ゲルでは、高分子ゲルの網目構造内に固定されている2本の一本鎖核酸の一方に対して、ハイブリダイズし核酸の鎖交換を起こす標的核酸が存在すると、核酸応答性ゲルは膨潤するとともに蛍光強度が増加する。それゆえ、本発明に係る核酸応答性ゲルは、標的核酸の検出に利用することができる。したがって、本発明に係る核酸応答性ゲルを用いた核酸の検出方法も本発明に含まれる。なお、標的核酸は2本の一本鎖核酸の一方に対して完全相補となる場合、他の一本鎖核酸より相同性が高い場合のように、より安定な二本鎖を形成する場合に限られず、同等に安定な二本鎖を形成する場合にも体積変化は起こるので、検出することを目的とする核酸に応じて、プローブを設計すればよい。なお、本明細書において、標的核酸とは、本発明の核酸応答性ゲルが応答して体積変化を起こす核酸をいう。
本発明に係る核酸の検出方法は、本発明に係る核酸応答性ゲルと核酸を含有する検体とを接触させる工程と、標的核酸による鎖交換の有無を核酸応答性ゲルの蛍光強度の変化および/または体積変化で検出する工程とを含んでいればよい。
上記検体に含まれる核酸および標的核酸は、DNAであってもよいし、RNAであってもよいし、PNAであってもよい。また、これらの核酸は、一本鎖であっても、二本鎖であってもよい。上記核酸を含有する検体は、本発明の核酸応答性ゲルを用いた標的核酸の検出が可能であれば、核酸の水や緩衝液等の溶液に限定されるものではない。かかる検体としては、血液やその他の遺伝子を含む体液等を挙げることができる。
また、本発明に係る核酸応答性ゲルと核酸を含有する検体とを接触させる工程において、当該接触を行うときの温度としては、特に限定されるものではなく、目的の検出精度に応じて調整した温度で当該接触を行えばよい。
なお、本明細書において「検出精度」とは、検出感度、及び、検出される核酸の塩基配列の選択性を意図する。
つまり、上記核酸応答性ゲルと核酸を含有する検体とを接触させる工程を行う温度を調整することによって、検出感度及び/又は検出される核酸の塩基配列の選択性を制御することができる。
これは、本発明に係る核酸応答性ゲルを標的核酸に接触させたときの膨潤率や、上記プローブによって形成されている水素結合及び標的核酸と上記プローブを形成する2本の一本鎖核酸のうち1本の一本鎖核酸との水素結合のバランスが、温度による影響を受けることを利用したものである。
すなわち、上記核酸応答性ゲルと検体とを接触させるときの温度は、上記プローブを形成する2本の一本鎖核酸、即ち、架橋点として導入した一本鎖核酸同士が形成している水素結合の安定性(融点)と、標的核酸及び当該一本鎖核酸によって形成される水素結合の安定性(融点)とのバランスに密接に関係しており、また、膨潤率変化にも密接に関係している。
設定する温度の範囲は特に限定されるものではないが、0℃以上60℃以下であれば、本発明に係る核酸応答性ゲルは標的核酸と接触したとき好適に膨潤することができる。
標的核酸による鎖交換の有無は、蛍光ドナー分子を励起させる波長の光を照射して発する蛍光の強度変化を測定器により、または、視覚的に観察することによって検出することができる。かかる場合標的核酸による鎖交換により蛍光ドナー分子に由来する蛍光強度は増加する。なお、波長は、用いる蛍光ドナー分子に応じて適宜選択すればよい。
また、標的核酸による鎖交換の有無を核酸応答性ゲルの体積変化で検出する方法としては、従来公知の刺激応答性ゲルの体積変化を検出する方法を用いればよく、特に限定されるものではない。かかる方法としては、例えば、体積変化を顕微鏡で観察する方法を挙げることができる。
(III−2)核酸検出キット
核酸応答性ゲルの利用に関する本発明には、上述した核酸の検出方法だけでなく、該検出方法を実施するための核酸検出キットが含まれる。本発明の核酸検出キットは、具体的には、少なくとも本発明の核酸応答性ゲルを含む構成であればよい。
また、上記検出キットには、さらに、コントロールとなる比較用の標本(核酸等)類や、各種バッファー等が含まれていてもよい。
上記核酸検出キットを用いることで、本発明にかかる核酸の検出方法を容易かつ簡素に実施することができ、本発明を臨床検査産業や医薬品産業等の産業レベルで利用することが可能となる。
また、本発明を用いれば、標的核酸を高感度でかつ簡便に検出または同定することができる。そのため、本発明は、DNA損傷に伴う各種疾患の治療、予防又は診断、あるいは科学技術研究におけるDNA配列分析等に応用することも可能である。
(III−3)核酸検出装置
本発明にかかる核酸応答性ゲルを、蛍光強度の変化を検知可能なセンサー、及び/又は、ゲルの膨潤に伴う体積変化を検知可能なセンサーに固定化した場合、このセンサーを利用して、簡便かつ確実に標的核酸を検出することができる核酸検出装置を製造することができる。
例えば、標的核酸の検出を、体積変化と蛍光強度変化とを両方測定して、より厳密な検出を行うことを目的とする場合には、本発明にかかる核酸応答性ゲルを、蛍光強度の変化を検知可能な測定装置、及び、ゲルの膨潤に伴う体積変化を検知可能な測定装置に固定化すればよい。これにより厳密に核酸を検出することができる。
また、例えば、標的核酸の検出は、蛍光強度の変化を視覚的に観察することにより行い、本発明にかかる核酸応答性ゲルを、ゲルの膨潤に伴う体積変化を検知可能な測定装置に固定化して体積変化をセンサーや測定装置で検知してもよい。
または、例えば、本発明にかかる核酸応答性ゲルを蛍光強度の変化を検知可能な測定装置に固定化するか、或いは、蛍光強度の変化を視覚的に観察することにより行うとともに、体積変化を利用して、診断と制御を同時に行なうことも可能である。
上記核酸検出装置としては、より具体的には、例えば、本発明にかかる核酸応答性ゲルを、微細なセンサーチップ表面に固定化した核酸検出装置であって、上記センサーチップが、所定の波長の光を照射したときの蛍光強度の変化を測定して表示する測定装置、及び/又は、核酸応答性ゲルの膨潤による体積変化を測定して表示する測定装置と連結されているものを挙げることができる。かかる核酸検出装置を用いることにより、標的核酸を含有する検体を検出用チップの表面に接触させるだけで、標的核酸の有無を特異的に検出することが可能となる。
上記センサーチップが連結されている測定装置としては特に限定されるものではなく、従来公知の装置を好適に用いることができる。かかる装置としては、例えば、蛍光強度を測定するための、蛍光分光光度計、蛍光顕微鏡観察等を挙げることができる。
また上記装置としては、例えば、体積変化を測定するための膜厚測定装置を挙げることができる。この場合には、検体中の標的核酸に応答した核酸応答性ゲルの体積変化を膜厚変化として検知することにより、標的核酸を検出することができる。
また、上記測定装置は重量計であってもよい。この場合、標的核酸を含有する検体を検出用チップの表面に接触させると、核酸応答性ゲル内に標的核酸が取り込まれるために核酸応答性ゲルの重量が増加する一方で核酸応答性ゲルは膨潤する。そして核酸応答性ゲルの膨潤による体積変化は、取り込んだ標的核酸の量および標的核酸の取り込みに伴う核酸応答性ゲルの重量に依存する。したがって、標的核酸の取り込みによる核酸応答性ゲルの重量変化を測定することにより、標的核酸を検出することができる。
〔実施例1:核酸応答性ゲルの製造〕
<蛍光ドナー分子またはアクセプター分子と反応性官能基とが導入されたオリゴDNAの合成>
図2の反応式に示すように、蛍光ドナー分子が導入された5’末端アミノ化オリゴDNA(FITC−DNA)と、アクセプター分子が導入された5’末端アミノ化オリゴDNA(BHQ1−DNA)とに、それぞれアクリロイル基を導入した。
蛍光ドナー分子が導入された5’末端アミノ化オリゴDNA(FITC−DNA)として、図4の(a)に示すFITC−dTが、5’末端アミノ化オリゴDNA(3’-CCGGTCGCG-5’-(CH2)6NH2)の9merの一本鎖DNAの中央に位置するTの位置に導入されているもの(つくばオリゴサービス(株)社製)を用いた。
また、アクセプター分子が導入された5’末端アミノ化オリゴDNA(BHQ1−DNA)として、図4の(b)に示すBHQ1−dTが、5’末端アミノ化オリゴDNA(3’-CGCGTCCGG-5’-(CH2)6NH2)の9merの一本鎖DNAの中央に位置するTに導入されているもの(つくばオリゴサービス(株)社製)を用いた。
まず、蛍光ドナー分子が導入された5’末端アミノ化オリゴDNA(FITC−DNA)1.07mg(0.35μmol)を500μl炭酸緩衝液(pH9.0)に溶解した。この溶液に、50μlジメチルホルムアミド(DMF)に溶解したN−スクシンイミジルアクリレート(N-succinimidyl acrylate (NSA))5mg(30μmol)と10μl DMFに溶解したヒドロキノン1.5mg(14μmol)とを加え、さらに純水400mlを加えて室温で12時間撹拌した。得られた反応液をゲルろ過クロマトグラフィー(Sephadex G-25)により分画し、未反応NSAとFITC−DNAとを分離した。さらに得られたFITC−DNAフラクションを濃縮し、高速液体クロマトグラフィー(Wakosil-DNA)により分取することによってアクリロイル基導入FITC−DNAと未反応FITC−DNAとを分離した。得られたアクリロイル基導入FITC−DNAフラクションを濃縮し、ゲルろ過クロマトグラフィー(Sephadex G-25)により純水置換し、濃縮後凍結乾燥してアクリロイル基導入FITC−DNA(acryloyl FITC−DNA)を得た。
アクセプター分子が導入された5’末端アミノ化オリゴDNA(BHQ1−DNA)についても、同様にしてアクリロイル基を導入して、アクリロイル基導入BHQ1−DNA(acryloylBHQ1−DNA)を得た。
<核酸応答性ゲルの製造>
続いて、図3の反応式に示すように、ハイブリダイズしている2本の上記一本鎖アクリロイル基導入オリゴDNAからなるプローブが高分子ゲルの網目構造に固定されている核酸応答性ゲルを製造した。なお、2本の一本鎖アクリロイル基導入オリゴDNAは、ハイブリダイズしているが真ん中の「T−T」がミスマッチとなっている。
10mM Tris-150mM HCl緩衝液(Tris緩衝液)(pH7.4)に、合成した2種類のアクリロイル基導入DNA、すなわち、アクリロイル基導入FITC−DNAとアクリロイル基導入BHQ1−DNAとの各0.1μmolを5℃で溶解して二本鎖を形成させた。その後、この溶液に、アクリルアミド(AAm)15mg(211μmol)、5mg/ml N,N’-メチレンビスアクリルアミド(MBAA) 3μl、並びにレドックス開始剤として0.1M過硫酸アンモニウム(APS)2μlおよび0.8M N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン(TEMED)2μlを加えて内径1mmのガラス管に流し込み、5℃で24時間重合することにより核酸応答性ゲルを合成した。その後、得られた核酸応答性ゲルをガラス管から取り出し、Tris緩衝液中に浸漬して十分に洗浄することで、未反応モノマー等を除去した。洗浄後の核酸応答性ゲルをカッターナイフで約2mm程度の長さに切り出すことによって円柱状の核酸応答性ゲルを得た。
得られた本発明に係る核酸応答性ゲルを位相差顕微鏡および蛍光顕微鏡を用いて観察した。得られた核酸応答性ゲルは、BHQ1に基づく赤色を呈しており、さらに490nmの光を照射すると、FITCに基づく蛍光を発光することがわかった。このFITCに基づく蛍光は、FRETにより蛍光ドナー分子の発光が消光されている状態で発光されている蛍光である。
〔実施例2:核酸応答性ゲルの膨潤率測定〕
実施例1で製造した核酸応答性ゲルをTris緩衝液中で十分に平衡膨潤させた後、15℃で、核酸応答性ゲルに結合されているオリゴDNAの一方の一本鎖DNAに完全相補であるDNA、5´部位が一塩基ミスマッチとなっているDNA、及び、3´部位が一塩基ミスマッチとなっているDNAをそれぞれ溶解した3種類の溶液に浸漬し、核酸応答性ゲルの膨潤率を測定した。なお、各DNA溶液は、Tris緩衝液にDNAを0.2mMとなるように溶解して調製した。円柱状である核酸応答性ゲルの直径変化を光学顕微鏡(オリンパス(株)製:BX51)を用いて測定し、膨潤変化を次式に示す膨潤率によって評価した。
膨潤率(Swelling ratio)=(d/d0)3 ・・・ (1)
ここで、d0はDNA溶液に浸漬する前のTris緩衝液中での核酸応答性ゲル(以下、「Tris緩衝液中での核酸応答性ゲル」と称する。)の円柱の直径(cm)、dはDNA溶液に浸漬した後のDNA溶液中での核酸応答性ゲル(以下、「DNA溶液中での核酸応答性ゲル」と称する。)の円柱の直径(cm)である。なお、対照として、アクリロイル基導入オリゴDNAを結合しない以外は実施例1と同様にして合成したポリアクリルアミド(PAAm)ゲルを用いて同様の測定を行った。また、円柱の直径は、円柱状の核酸応答性ゲルの側面の幅を光学顕微鏡で測定することにより得られた値である。
図5に、この測定結果を示す。図5中、グラフの縦軸は膨潤率、横軸は浸漬時間(単位:時間)を示し、白丸は完全相補であるDNA(3’-GGCCAGCGC-5’、図5中Fullmatch DNAと表示)を用いた結果を、白四角は5’側末端で一塩基ミスマッチとなっているDNA(3’-TGCCAGCGC-5’、図5中5’mismatchと表示)を用いた結果を、黒丸は3’側末端で一塩基ミスマッチであるDNA(3’-GGCCAGCGT-5’、図5中3’mismatchと表示)を用いた結果を示す。図5に示すように、本発明の核酸応答性ゲルは、完全相補であるDNAの存在下で最も大きく膨潤し、一塩基ミスマッチDNAの存在下では僅かしか膨潤しなかった。すなわち、本発明の核酸応答性ゲルは、様々な一塩基多型(SNP)を認識して異なる膨潤挙動を示した。この結果より、本発明で合成した核酸応答性ゲルは、一塩基の違いにより生じるゲルの体積変化を観察するだけで標的DNAを識別できることが示された。
また、本実施例より、本発明の核酸応答性ゲルは、膨潤率測定によっては、完全相補であるDNAと、一塩基ミスマッチDNAとを区別して検知することができるが、5´部位が一塩基ミスマッチとなっているDNAと、3´部位が一塩基ミスマッチとなっているDNAとでは、膨潤率に殆ど差はなく、5´部位が一塩基ミスマッチとなっているDNAと、3´部位が一塩基ミスマッチとなっているDNAとを区別して検出することはできないことが判る。
なお、図5には示していないが、対照としてのポリアクリルアミド(PAAm)ゲルの膨潤率はほとんど変化しなかった。
〔実施例3:導入した蛍光ドナー分子の発光スペクトルおよびアクセプター分子の励起スペクトルの測定〕
実施例1で用いた、蛍光ドナー分子が導入された5’末端アミノ化オリゴDNA(FITC−DNA)を用いてFITCの発光スペクトルを、アクセプター分子が導入された5’末端アミノ化オリゴDNA(BHQ1−DNA)を用いてBHQ1の励起スペクトルを測定した。
図6に測定結果を示す。図6中、縦軸は蛍光強度と吸収強度を、横軸は波長(単位:nm)を示す。図6に示すように、FITCの発光スペクトル(図6中、FITC fluorescence spectrumと表示)と、BHQ1の励起スペクトル(図6中、BHQ1 excitation spectrumと表示)とは、500〜550nm付近で大きく重なっており、FITCとBHQ1とが接近すると、それらがそれぞれ蛍光ドナーおよびアクセプターとして作用し、FITCからBHQ1へのFRETが起こる可能性が示唆された。
〔実施例4:核酸応答性ゲルの蛍光強度変化の測定〕
実施例1で製造した核酸応答性ゲルをTris緩衝液中で十分に平衡膨潤させた後、15℃で、核酸応答性ゲルに結合されているオリゴDNAの一方の一本鎖DNAに完全相補であるDNA、5´部位が一塩基ミスマッチとなっているDNA、及び、3´部位が一塩基ミスマッチとなっているDNAを、それぞれ溶解した3種類の溶液に浸漬し、核酸応答性ゲルの蛍光強度変化を測定した。なお、各DNA溶液は、Tris緩衝液にDNAを0.2mMとなるように溶解して調製した。
まず、実施例1で製造した核酸応答性ゲルを3種類のDNA溶液に浸漬したときの蛍光スペクトルを蛍光分光光度計(島津製作所製、RF−5300PC)を用いて測定した。
図7に、実施例1で製造した核酸応答性ゲルを3種類のDNA溶液に浸漬したときの蛍光スペクトルを示す。図7中、グラフの縦軸は蛍光強度(単位:無次元)、横軸は波長(単位:nm)を示し、実線で示すスペクトルは完全相補であるDNA(3’-GGCCAGCGC-5’、図7中Fullmatch DNAと表示)を用いた場合の蛍光スペクトルを、破線は5’側末端で一塩基ミスマッチとなっているDNA(3’-TGCCAGCGC-5’、図7中5’mismatchと表示)を用いた場合の蛍光スペクトルを、一点鎖線は3’側末端で一塩基ミスマッチであるDNA(3’-GGCCAGCGT-5’、図7中3’mismatchと表示)を用いた場合の蛍光スペクトルを示す。図7に示すように、いずれの場合も520nm付近にFITCに基づく蛍光発光が観察され、その強度は溶液中のDNAの種類によって異なっていた。完全相補となるDNAの存在下で、本発明の核酸応答性ゲルの蛍光強度は最も増加し、FITCからBHQ1へのFRETが、標的DNA下でのプローブの解離により阻害されていることがわかる。
そこで、さらに、3種類のDNA溶液に浸漬したときの、実施例1で製造した刺激応答性ゲルの蛍光強度の経時変化を、蛍光分光光度計(島津製作所製、RF−5300PC))を用い、490nmの光を照射して測定した。図8に測定結果を示す。図8中、グラフの縦軸は増加した蛍光強度(単位:無次元)、横軸は浸漬時間(単位:時間)を示し、白丸は完全相補であるDNA(3’-GGCCAGCGC-5’、図8中Fullmatch DNAと表示)を用いた結果を、白四角は5’側末端で一塩基ミスマッチとなっているDNA(3’-TGCCAGCGC-5’、図5中5’mismatchと表示)を用いた結果を、黒丸は3’側末端で一塩基ミスマッチであるDNA(3’-GGCCAGCGT-5’、図5中3’mismatchと表示)を用いた結果を示す。図8に示すように、本発明の核酸応答性ゲルは、完全相補であるDNAの存在下で蛍光強度が最も大きく増加し、一塩基ミスマッチDNAの存在下では、完全相補であるDNAの存在下よりも蛍光強度の増加量は小さかった。すなわち、本発明の核酸応答性ゲルは、様々な一塩基多型(SNP)を認識して異なる蛍光強度の変化を示した。この結果より、本発明で合成した核酸応答性ゲルは、一塩基の違いにより生じるゲルの蛍光強度変化を観察するだけで標的DNAを識別できることが示された。
なお、図8において、増加して一定値となった後の蛍光強度は、完全相補であるDNAを用いた場合、標的核酸不存在下での蛍光強度の約1.3倍であり、5’側末端で一塩基ミスマッチとなっているDNAを用いた場合、標的核酸不存在下での蛍光強度の約1.2倍であった。
さらに、本発明の核酸応答性ゲルは、蛍光強度変化の測定では、3’側末端で一塩基ミスマッチであるDNAの存在下での蛍光強度の増加量と、5’側末端で一塩基ミスマッチであるDNAの存在下での蛍光強度の増加量とに差が認められた。これにより、膨潤率測定のみでは、検知できなかった、5´部位が一塩基ミスマッチとなっているDNAと、3´部位が一塩基ミスマッチとなっているDNAとの区別が、蛍光強度変化の測定を加えることにより検出できることが判る。
このように、本発明の核酸応答性ゲルを用いることにより、蛍光強度変化より簡便に核酸を検知するとともに、体積変化が同時におこるという予想された効果のみならず、膨潤率の測定では検知されない情報をさらに得ることができ、より厳密な診断が可能となるという効果を得ることができることが見出された。
また、図5及び図8から、蛍光強度の変化は、膨潤率の変化に比べて速やかに起こっていることがわかる。すなわち、本発明の核酸応答性ゲルを用いることにより、従来の膨潤率変化のみによる場合と比較して、速やかに診断を行うことが可能となる。