以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
マイクで収音した音声を無線信号として送信すると共に、無線信号を受信してスピーカから音声を出力する本実施形態の無線通信機は、受信時においてAFCを、信号発生器としてのPLL回路の分周器に分周比を設定することにより行う。また送信時においては被変調信号となる音声信号に応じたFM変調信号となるようにPLL回路の分周器に分周比を設定する。さらに、PLL回路を構成するVCOにおいて、被変調信号となる音声信号に応じ、PLL回路によりロックされるVCOの発振周波数である出力周波数(ここでは、PLL出力周波数と言う。)を変調(FM変調方式やFSK変調方式)している。本実施形態では、無線通信機に、VCOを主体とするVCO変調経路に加え、PLL回路の分周器の分周比を変化させて変調をかけるPLL変調経路の2系統を設けることで、直流から数kHzまでの広帯域に変調をかけることが可能となる。
また、本実施形態では、PLL変調経路を利用してAFCを行うことで、基準周波数を変化させる必要が無いため、より狭い周波数確度を実現することができる。以下、本実施形態の無線通信機の全体的な構成の説明を通じて、CPUとDSPとがいずれもPLL回路に対して周波数の設定を行っている理由を述べ、その後に、PLL回路における分周器の分周比を設定するデータの衝突を防止するPLL切換回路の構成を詳述する。また、ここでは、信号発生器として、PLL回路を用いて説明しているが、PLL回路は発振周波数を制御する一手段にすぎず、フルデジタルのPLL回路やDDS(Direct Digital Synthesizer)等、信号を発生する様々な素子や機器を用いることができる。
(無線通信機100)
図1は、無線通信機100の電気的な構成を示した機能ブロック図である。実線矢印は音声信号等送信対象となる信号の流れを、破線矢印は制御信号の流れを示す。
図1に示すように、無線通信機100は、PTT(Push To Talk)110と、演算制御部としてのCPU112と、収音部114と、ADC(Analog to Digital Converter)回路116、160と、信号処理部としてのDSP118と、DAC回路120、162と、SMF(SMoothing Filter)122と、VCO124と、基準周波数発振器126と、PLLIC128と、ループフィルタ130と、中継回路132と、送信回路134と、アンテナ136と、受信回路158と、スピーカ回路164とを含んで構成される。まず、無線通信機100の送信に関して説明する。ここで、VCO124と、基準周波数発振器126と、PLLIC128と、ループフィルタ130とはPLL回路144を構成する。また、CPU112と、DSP118と、中継回路132とはPLL回路の分周比を設定するPLL切換回路146として機能する。ここでは、各構成をFM変調として説明するが、FSK変調等、原理の等しい変調にも適用可能である。
PTT110は、押圧式の操作キーで構成されたスイッチであり、ユーザの操作入力を受け付ける。ユーザは、PTT110を押圧した状態を維持しつつ、後述する収音部114に向けて音声を発することで音声信号の送信を実行する。
CPU112は、プログラム等が格納されたROMやワークエリアとして用いられるRAM等と協働して、無線通信機100全体を管理および制御し、マンマシンインターフェース制御(送受信イベント制御)、RF制御(送受選局等)、DSP制御(変復調制御)を行う。本実施形態において、CPU112は、PTT110等を通じたユーザの操作入力に応じて、PLLIC128に対し、PLL出力周波数を変更するため分周比を設定する周波数(設定)データである第1のデータを出力する。ただし、CPU112が、他の機能部に拘わらず単にPLLIC128に第1のデータを送信してしまうと、DSP118が送信するデータと衝突が生じる可能性がある。そこで、本実施形態では、CPU112とDSP118とのデータの衝突を防止するPLL切換回路146を設け、両者で調停(arbitration)を行っている。かかるPLL切換回路146については後ほど詳述する。
収音部114は、マイク、入力アンプ、LPF(Low Pass Filter)で構成され、マイクで収音された音声を電気的な音声信号に変換し、高周波数帯域の信号成分を除去した上でADC回路116に送信する。ADC回路116は、収音部114から受信したアナログの音声信号を、例えば、96kHzのサンプリング周波数でデジタルの音声データに変換し、DSP118に送信する。ここでは、音声信号と音声データを区別しているが、実質的な情報は等しいので、以下の実施形態において、説明の便宜上、等しく扱う場合もある。また、本実施形態において音声信号や音声データは変調信号と同義である。
DSP118は、半導体回路であり、信号処理制御部150と、PLL制御部152として機能する。
送信に関し、信号処理制御部150は、ADC回路116を通じて入力されたデジタルの音声データにサブトーンを重畳する。サブトーンは、PTT110が押圧されている間、音声データと共に送信され、他の無線通信機102では、当該サブトーンを受信している間、スケルチ回路を開いて、復調した音声をスピーカ等に出力する(トーンスケルチ機能)。また、サブトーンとしては、CTCSS(Continuous Tone Coded Squelch System)方式による300Hz以下の所定周波数で形成されるトーン信号や、DCS(Digital Code Squelch)方式による拡張トーン信号、またはNRZ(Non Return to Zero)符号が用いられる。
また、信号処理制御部150は、サブトーンが重畳されたデジタルの音声データを変調データとして、DAC回路120およびPLL制御部152に送信する。こうして、変調データは、VCO変調経路140とPLL変調経路142との2系統に分流される。
PLL制御部152は、信号処理制御部150から送信された変調データを受信し、PLLIC128の制御形式に従い、変調データを、中継回路132を通じてPLLIC128にシリアル転送する。PLL制御部152は、かかる変調データによってPLLIC128の分周比を設定するのみならず、後述するAFCを実施するためのAFCデータによってPLLIC128の分周比を設定する。このようにPLL制御部152から、PLL出力周波数を増加もしくは減少させるため、PLLIC128に送信される周波数(設定)データ(変調データやAFCデータ)を以降では第2のデータと言う。第2のデータは、後述するように、データそのものに限らず、そのデータを送信するための制御信号も含む。
DAC回路120は、VCO変調経路140の一部を構成し、信号処理制御部150からのデジタルの変調データを、例えば96kHzの更新速度でアナログの変調信号に変換してSMF122に送信する。SMF122は、VCO変調経路140の一部を構成し、例えば、カットオフ周波数10kHzのLPFで形成され、DAC回路120の折り返し成分等を排除し、アナログの変調信号の波形を整形する。
VCO124は、後述するPLLIC128とループフィルタ130と協働することでPLL回路144を構成し、PLL出力周波数(ここでは搬送波の周波数に対応している。)を送信回路134に送信する。また、本実施形態において、VCO124は、VCO変調経路140の一部を構成し、直流から数kHzまでの帯域中、比較的高い帯域に関し、VCO変調経路140を経由したアナログの変調信号の電圧に応じてPLL出力周波数を変調する。
基準周波数発振器126は、発振周波数を外部電圧からの電圧にて変化させる必要が無いため、水晶発振器および温度補償回路を内蔵したTCXOを用いている。
図2は、PLLIC128の構成を説明するための機能ブロック図である。PLLIC128は、分周器128aと、分周器128bと、位相比較器128cと、チャージポンプ128dとからなり、基準周波数発振器126から出力された基準周波数信号を、分周器128aで所定の比較周波数に分周する。分周器128aの分周比は、CPU112からのチャネルステップデータにより設定され、一般的に、比較周波数は、無線通信機100の周波数間隔(チャネルステップ)に相当する周波数となり、チャネルステップの変更がない限り変更されることはない。また、VCO124から出力されたPLL出力周波数を、分周器128bで分周する。分周器128bには、CPU112からPLL出力周波数を設定する分周比の第1のデータと、DSP118から変調データまたはAFCデータを設定する分周比の第2のデータとが入力され、分周された基準周波数と分周されたPLL出力周波数とを位相比較器128cにより位相を比較し位相誤差信号を出力する。そして、位相誤差信号をチャージポンプ128dによって増幅し、ループフィルタ130により平滑化し、VCO124に出力して発振周波数を一定に保つ。また、本実施形態のPLLIC128としては、フラクショナルN方式のPLLICが用いられ、CPU112やPLL制御部152からの周波数データに応じて、PLL出力周波数が一意的に決定されると共に、例えば、96kHzの更新速度で、分周比N(分解能、例えば218)を変化させ、PLL出力周波数を段階的に偏移させる。
また、近年では第1のデータ(周波数設定用データ)と第2のデータ(変調やAFC)とのデータポート入力が分かれたPLLICも存在し、本実施形態においては第1のデータと第2のデータとを入力するポートが分かれたPLLIC128で説明する。ここでは、第1のデータと第2のデータによってPLLIC128の分周比が設定されているが、PLL回路144の分周比が設定されるのと同義である。
また、CPU112により設定されるPLL出力周波数の信号は、無線通信機100の送信信号を構成する一部もしくは受信周波数を復調するための信号であり、DSP118により設定され増加もしくは減少するPLL出力周波数は、無線通信機100の受信においてAFC制御を行った結果であり、無線通信機100の送信において変調を行った結果である。
このようなPLL出力周波数の偏移は、通常、送信チャンネルの中心周波数(搬送波の周波数)を偏移させるために用いられるが、本実施形態において変調周波数は、直流から数kHzまでの帯域に関し、変調データに応じたPLL出力周波数の変調にも用いる。即ち、PLLIC128は、PLL出力周波数を例えば数百MHzとした上で、変調データに応じて分周比Nを変化させることで、PLL出力周波数を、例えば数百Hzの範囲で変調する。
このようにPLLIC128に第2のデータで変調を行う場合、変調データに応じて分周比Nを変化させ周波数偏移を設定するため、変調周波数は直流から用いることが可能となる。
ループフィルタ130は、PLLIC128から出力された信号を平滑化し、VCO124に出力する。PLL回路144のカットオフ周波数は当該ループフィルタ130の周波数応答特性によって決定される。したがって、PLL回路144は、カットオフ周波数以下(直流から数kHzまでの帯域中、比較的低い帯域)においてのみ、PLL制御部152からの変調データの変動に追従することとなる。本実施形態においては、基準周波数発振器126で直接変調せず、基準周波数発振器126の基準周波数を固定し、PLLIC128自体の周波数偏移を利用して変調をかける。こうして、VCO変調経路140とPLL変調経路142の2系統でFM変調やFSK変調等の変調を実現することが可能となる。以下に、VCO変調経路140とPLL変調経路142の2系統の制御について説明する。
PLL回路144では、その特性上、カットオフ周波数fcより高い周波数帯域170では、PLL回路144が応答しない。このようにPLL回路144が応答しないと、ループフィルタ130の出力電圧は変化しないということになり、VCO124に対してPLL出力周波数(搬送波)が固定される。したがって、VCO124は、PLL回路144の応答に影響されることなく、独立して変調をかけることができる。
逆に、カットオフ周波数fcより低い周波数帯域では、PLL回路144が応答するので、PLL変調経路142の変調が反映され、PLLIC128において変調がかかる。
また、カットオフ周波数fcより低い周波数帯域では、VCO124がPLL回路144の一部として機能するため、ループフィルタ130のローパス効果によって、VCO変調経路140の変調は、PLL変調経路142による変調信号に反映されない。
仮に、PLL変調経路142のみで変調を実行しようとすると、広帯域の動作を確保するためPLL回路144のカットオフ周波数fcを上げなくてはならず、高周波数帯域におけるノイズ成分が増加し、VCO124のC/N比(Carrier to Noise ratio)が劣化して、隣接チャンネル漏洩電力の許容値等のシステム要求を満たすのが困難になる。
ここでは、VCO変調経路140とPLL変調経路142とが互いに補完し合うことで、全体的な変調回路の周波数応答特性を大凡平坦にすることができる。このようなVCO変調経路140とPLL変調経路142との2つの経路を用いることで基準周波数発振器126の温度等による周波数変化量を抑える事ができ、結果として無線通信機100の周波数安定度が向上する。また、基準周波数発振器126に対して直接変調を行う場合と比べ、本実施形態のPLL変調経路142では、デジタルデータで変調するので、精度および分解能が高く、安定性にも長けている。
中継回路132は、CPU112およびPLL制御部152とPLLIC128とを中継し、CPU112からの第1のデータまたはPLL制御部152からの第2のデータをPLLIC128に伝達する。かかる第1のデータおよび第2のデータは、データ信号、アドレス信号、制御信号、クロック信号の群から選択される1または複数の信号である。かかる信号により、PLLIC128に所望する分周比を適切に設定することができる。中継回路132に関してはPLL切換回路146の構成として後ほど詳述する。
送信回路134は、VCO124から出力される被変調信号を増幅し、アンテナ136を通じて他の無線通信機102に送信する。
続いて、無線通信機100の受信に関して説明する。図1において、受信回路158と、ADC回路160と、DSP118と、VCO124と、基準周波数発振器126と、PLLIC128と、ループフィルタ130とはFM復調回路として機能する。
受信回路158は、アンテナ136を通じて受信した信号を、VCO124から出力されるPLL出力周波数の信号を用いて復調し、ADC回路160に送信する。ADC回路160は、受信回路158から受信したアナログの復調信号をデジタルの復調データに変換し、DSP118に送信する。DAC回路162は、DSP118からのデジタルの音声データをアナログの音声信号に変換してスピーカ回路164に送信する。スピーカ回路164は、LPF、出力アンプ、スピーカで構成され、DAC回路162で出力された音声信号を音声として出力する。
また、受信に関しても、DSP118は、信号処理制御部150と、PLL制御部152として機能する。信号処理制御部150は、復調データを用い、周波数偏差やビットエラーからPLL出力周波数を補正するためのAFCデータを生成する。PLL制御部152は、信号処理制御部150から第2のデータとしてのAFCデータを受信し、PLLIC128の制御形式に従ってAFCデータをPLLIC128にシリアル転送する。本実施形態の無線通信機100では、図1に示したPLL変調経路142を利用してAFCを行うことで、より狭い周波数確度を実現することができる。こうして、他の無線通信機102から送信された音声を正確に無線通信機100で受信することができる。
しかし、本実施形態では、送受信を行う周波数の設定のみならず、変調やAFCまでもPLLIC128で行うこととしたので、CPU112とDSP118がいずれもPLLIC128に対して周波数の設定を行うこととなり、分周比を設定するデータの衝突が生じるおそれがある。そこで、本実施形態では、以下のように、CPU112とDSP118とを状態遷移させることでPLLIC128へのアクセスが排他的になるように制御する。
図3は、CPU112およびDSP118の状態遷移を示した説明図である。CPU112は、図3(a)に示すように、PLLIC128へのアクセス不実行状態200と、アクセス待機状態202と、アクセス実行状態204との3つの状態を遷移し、DSP118は、図3(b)に示すように、PLLIC128のアクセス可能状態206と、アクセス禁止状態208との2つの状態を遷移する。
具体的に、無線通信機100が送信または受信を維持しているとき、CPU112はPLLIC128のアクセス不実行状態200を維持し、PLLIC128へのアクセスを行わない。この間、DSP118(PLL制御部152)はアクセス可能状態206を維持して、PLL出力周波数を変調またはAFCするためPLLIC128の分周比を設定する第2のデータをPLLIC128に送信する動作を繰り返している。
このとき、PTT110等を通じたユーザの操作入力に応じて、受信間または送受信間の切換が生じると、CPU112は、PLLIC128へのアクセス実行状態204への遷移を要求する第1の信号をDSP118に送信する。DSP118は、CPU112の要求を受けて、PLLIC128へのアクセスを停止する準備に取りかかる。この間、DSP118は、アクセス可能状態206を維持するが、CPU112は、アクセス待機状態202に遷移する(1)。
そして、DSP118がPLLIC128へのアクセスを停止する準備が整うと、アクセス可能状態206からアクセス禁止状態208に遷移する(2)と共に、アクセス可能状態206からアクセス禁止状態208に遷移したことを示す第2の信号をCPU112に送信する。CPU112は、かかる第2の信号を受けて、アクセス待機状態202からアクセス実行状態204に遷移し(3)、切換後の送信または受信に用いられるPLL出力周波数を設定するため、PLLIC128の分周比を設定する第1のデータを出力する。
CPU112は、第1のデータによる分周比の設定が完了すると、再びDSP118にPLLIC128のアクセス権を戻すため、アクセス実行状態204の終了を示す第1の信号をDSP118に送信し、アクセス実行状態204からアクセス不実行状態200に遷移する(4)。DSP118は、かかる第1の信号を受け、CPU112のPLLIC128へのアクセスを禁止するため、アクセス禁止状態208からアクセス可能状態206に遷移することを示す第2の信号を送信すると共に、アクセス禁止状態208からアクセス可能状態206に遷移する(5)。そして、DSP118は、再び、PLL出力周波数を変調またはAFCするためPLLIC128の分周比を設定する第2のデータをPLLIC128に送信し始める。
したがって、CPU112のアクセス不実行状態200およびアクセス待機状態202は、DSP118のアクセス可能状態206と、CPU112のアクセス実行状態204は、DSP118のアクセス禁止状態208と、必ずしも一致する訳ではないが、大凡対応していることとなる。
ここで、DSP118のアクセス可能状態206に対して、CPU112がアクセス権を要求する形をとったのは、CPU112によるPLL出力周波数の設定には時間的な制約がないが、DSP118による変調やAFCは、その動作自体に即時性が求められ、特に、AFCにおいては、AFCによるループバックのタイミングが決まっているからである(例えば、受信データ中のガード領域中やシンクワード中等)。したがって、本実施形態では、DSP118が変調またはAFCを継続して行っている間に、CPU112が、DSP118に変調やAFCを切断してもよいタイミングを確認することとし、CPU112は、DSP118からアクセス権が移ったときのみPLLIC128にアクセスするとしている。このような状態遷移を実現するための具体的なPLL切換回路146を以下に説明する。
図4は、PLL切換回路146を説明するための回路図である。PLL切換回路146は、上述したように、CPU112と、DSP118と、中継回路132とを含んで構成される。CPU112とDSP118の間には、2ビット以上の情報の送受信が可能なデータ通信線220が設けられている、データ通信線220は、アドレス線とデータ線とで構成されていてもよいし、データをシリアル伝送できる構成でもよい。このようにCPU112とDSP118との間にデータ通信線220を配することで、図3を用いて説明した状態遷移を確実に行うことができる。
CPU112とDSP118との状態遷移が確実に行われると、CPU112からの第1のデータとDSP118からの第2のデータとが衝突しない。したがって、中継回路132を構成する論理加算器222によって、第1のデータおよび第2のデータを単純に論理加算し(論理和をとり)、PLLIC128に送信することが可能となる。
具体的に、PLLIC128では、分周比Nの分解能が、例えば218となっており、その上位側のビットと下位側のビットを2つのポート(DATA)から入力できるように構成されている。したがって、上位側のビットを設定するポートには、選局時におけるPLL出力周波数の変動幅の大きい(例えば、150MHz〜300MHz等)、CPU112の第1のデータ(CPU_DATA)を入力し、下位側のビットを設定するポートは、変調やAFCを実行するための周波数の変動幅の小さい(例えば0Hz〜10kHz等)、DSP118の第2のデータ(DSP_DATA)を入力する。PLLIC128のその他のポート(/CLOCK、/CS)は、それぞれ1つしか準備されていないので、論理加算器222を通じて、対応するCPU112の第1のデータ(/CPU_CLOCK、/CPU_CHIPSELECT)と、対応するDSP118の第2のデータ(/DSP_CLOCK、/DSP_CHIPSELECT)とを論理加算した信号を入力する。
また、ここでは、第1のデータおよび第2のデータとして、シリアルのデータ信号(DATA)、クロック信号(/CLOCK)、制御信号(/CS)を挙げて説明したが、シリアルまたはパラレルのデータ信号、アドレス信号、制御信号、クロック信号の群から選択される1または複数の信号であってもよい。また、いずれの信号も論理加算器222を通じてPLLIC128に接続することが可能である。
このように、CPU112とDSP118とがデータ通信を通じて、互いに状態を確認しつつ、PLLIC128のアクセス権を調停することで、リレーやスイッチ等を用いることなく論理加算器222といった非常に簡易な回路でPLL切換回路146を構成することができ、CPU112の第1のデータとDSP118の第2のデータとが衝突することがなくなる。また、論理加算器222は、チャタリングを防止し、第1のデータと第2のデータとの切り換えを安定かつシームレスに行うことができ、さらに、中継回路132の占有面積を削減することが可能となる。
図5、図6、図7は、CPU112およびDSP118の状態遷移を具体的に示したタイミングチャートである。ここでは、上述したデータ通信線220を用いてCPU112とDSP118とが調停する例を挙げており、特に、図5では、受信中のPLL出力周波数の変更を、図6では、受信から送信への変更を、図7では、送信から受信への変更を示している。
図5において、無線通信機100が受信状態である場合に、受信中のPLL出力周波数の切換イベントが発生すると、アクセス不実行状態200のCPU112がデータ通信線220を通じて第1の信号をDSP118に出力し、アクセス待機状態202に遷移する。第1の信号には、AFCのオフセットをリセットするコマンド(Reset)と、AFCの動作を一時停止するコマンド(Pause)とが含まれている。引き続き、CPU112は、切換後の動作モード(受信)を設定し、第2の信号を待つ。ここでは、CPU112が第1の信号を送信した際にDSP118がPLLIC128にアクセスしている途中であっても、状態遷移が管理されているので、PLLIC128でのデータの衝突は起こらない。
アクセス可能状態206のDSP118は、AFC動作の停止が完了すると、第2の信号(ACK)をCPU112に送信し、アクセス禁止状態208に遷移する。CPU112は、第2の信号を契機にアクセス実行状態204に遷移し、PLLIC128に第1のデータを設定する。CPU112は、PLLIC128の設定を完了すると、アクセス不実行状態200に遷移し、DSP118に第1の信号(Resume)を送信する。DSP118は、かかる第1の信号を通じてアクセス可能状態206に遷移し、AFC(第2のデータの設定)を再開する。
図6において、無線通信機100が受信状態から送信状態に変更される場合に、PTT110の操作入力を検知すると、アクセス不実行状態200のCPU112がデータ通信線220を通じて第1の信号をDSP118に出力し、アクセス待機状態202に遷移する。第1の信号には、2つのコマンド(Reset, Pause)が含まれている。引き続き、CPU112は、切換後の動作モード(送信)を設定し、第2の信号を待つ。
アクセス可能状態206のDSP118は、AFC動作の停止が完了すると、第2の信号(ACK)をCPU112に送信し、アクセス禁止状態208に遷移する。CPU112は、第2の信号を契機にアクセス実行状態204に遷移し、PLLIC128に第1のデータを設定する。CPU112は、PLLIC128の設定を完了すると、アクセス不実行状態200に遷移し、DSP118に第1の信号(送信開始)を送信する。DSP118は、かかる第1の信号を通じてアクセス可能状態206に遷移し、送信時の変調を開始する。
図7において、無線通信機100が送信状態から受信状態に変更される場合に、PTT110の操作入力の完了を検知すると、アクセス不実行状態200のCPU112がデータ通信線220を通じて第1の信号をDSP118に出力し、アクセス待機状態202に遷移する。第1の信号には、2つのコマンド(Reset, Pause)が含まれている。引き続き、CPU112は、切換後の動作モード(受信)を設定し、第2の信号を待つ。
アクセス可能状態206のDSP118は、変調動作の停止が完了すると、第2の信号(ACK)をCPU112に送信し、アクセス禁止状態208に遷移する。CPU112は、第2の信号を契機にアクセス実行状態204に遷移し、PLLIC128に第1のデータを設定する。CPU112は、PLLIC128の設定を完了すると、アクセス不実行状態200に遷移し、DSP118に第1の信号(Resume)を送信する。DSP118は、かかる第1の信号を通じてアクセス可能状態206に遷移し、AFCを開始する。
図4〜図7では、第1の信号と第2の信号を、それぞれ、データ通信線220で送信する例を挙げたが、かかる場合に限らず、両信号を、制御ポートを通じて行ってもよい。
図8は、PLL切換回路146の他の例を説明するための回路図である。PLL切換回路146は、図4で説明したPLL切換回路146とほぼ等しいが、CPU112とDSP118との間に、1ビットの情報を伝送する単方向の制御ポートが2本設けられている点で異なる。ここでは、図4で既に説明した構成要素については、実質的に機能が等しいので、その説明を省略する。
制御ポート224では、CPU112からDSP118に第1の信号(HOST_RDY)が送信され、第1の信号は、信号の立ち下がりで、CPU112がアクセス実行状態204への遷移を要求していることを示し、信号の立ち上がりで、CPU112のアクセス実行状態204の終了を示す。また、制御ポート226では、DSP118からCPU112に第2の信号(DSP_ST)が送信され、第2の信号は、信号の立ち下がりでDSP118がアクセス可能状態206からアクセス禁止状態208へ遷移したことを示し、信号の立ち上がりでDSP118がアクセス禁止状態208からアクセス可能状態206へ遷移したことを示す。
CPU112は、PLLIC128へのアクセスを試みる場合、HIGHに維持している第1の信号をLOWに落とし、第2の信号がLOWになったのを検知してPLLIC128にアクセスする。DSP118は、第1の信号がHIGHであり、自体の第2信号をHIGHに維持している間、いつでもPLLIC128にアクセスでき、CPU112にPLLIC128のアクセス権を譲る場合にのみ第2信号をLOWに落とす。
図9、図10、図11は、CPU112およびDSP118の状態遷移の他の例を具体的に示したタイミングチャートである。ここでは、上述した2本の制御ポート224、226およびデータ通信線220を用いてCPU112とDSP118とが調停する例を挙げており、特に、図9では、受信中のPLL出力周波数の変更を、図10では、受信から送信への変更を、図11では、送信から受信への変更を示している。
図9において、無線通信機100が受信状態である場合に、受信中のPLL出力周波数の切換イベントが発生すると、アクセス不実行状態200のCPU112が制御ポート224を通じて第1の信号(HOST_RDY)をLOWに落としてアクセス待機状態202に遷移する。アクセス可能状態206のDSP118は、常に第1の信号(HOST_RDY)をモニタしており、第1の信号(HOST_RDY)がLOWになった後、AFC動作の停止が完了すると、制御ポート226を通じて第2の信号(DSP_ST)をLOWに落とし、アクセス禁止状態208に遷移する。
CPU112は、第2の信号(DSP_ST)がLOWになったのを契機にアクセス実行状態204に遷移し、PLLIC128に第1のデータを設定する。このとき、CPU112は、AFCのオフセットをリセットするコマンド(Reset)と、AFCの動作を一時停止するコマンド(Pause)とをデータ通信線220を通じてDSP118に送信し、さらに切換後の動作モード(受信)を設定する。そうするとDSP118は、応答コマンド(ACK)をCPU112に返信する。続いてCPU112は、PLLIC128の設定を完了すると、アクセス不実行状態200に遷移し、制御ポート224を通じて第1の信号(HOST_RDY)をHIGHに戻す。DSP118は、かかる第1の信号(HOST_RDY)を通じてアクセス可能状態206に遷移し、第2の信号(DSP_ST)をHIGHに戻してAFCを再開する。
図10において、無線通信機100が受信状態から送信状態に変更される場合に、PTT110の操作入力を検知すると、アクセス不実行状態200のCPU112が制御ポート224を通じて第1の信号(HOST_RDY)をLOWに落としてアクセス待機状態202に遷移する。アクセス可能状態206のDSP118は、常に第1の信号(HOST_RDY)をモニタしており、第1の信号(HOST_RDY)がLOWになった後、AFC動作の停止が完了すると、制御ポート226を通じて第2の信号(DSP_ST)をLOWに落とし、アクセス禁止状態208に遷移する。
CPU112は、第2の信号(DSP_ST)がLOWになったのを契機にアクセス実行状態204に遷移し、PLLIC128に第1のデータを設定する。このとき、CPU112は、2つのコマンド(Reset, Pause)をデータ通信線220を通じてDSP118に送信し、さらに切換後の動作モード(送信)を設定する。そうするとDSP118は、応答コマンド(ACK)をCPU112に返信する。続いてCPU112は、PLLIC128の設定を完了すると、アクセス不実行状態200に遷移し、制御ポート224を通じて第1の信号(HOST_RDY)をHIGHに戻す。DSP118は、かかる第1の信号(HOST_RDY)を通じてアクセス可能状態206に遷移し、第2の信号(DSP_ST)をHIGHに戻してAFCを開始する。
図11において、無線通信機100が送信状態から受信状態に変更される場合に、PTT110の操作入力の完了を検知すると、アクセス不実行状態200のCPU112が制御ポート224を通じて第1の信号(HOST_RDY)をLOWに落としてアクセス待機状態202に遷移する。アクセス可能状態206のDSP118は、常に第1の信号(HOST_RDY)をモニタしており、第1の信号(HOST_RDY)がLOWになった後、変調動作の停止が完了すると、制御ポート226を通じて第2の信号(DSP_ST)をLOWに落とし、アクセス禁止状態208に遷移する。
CPU112は、第2の信号(DSP_ST)がLOWになったのを契機にアクセス実行状態204に遷移し、PLLIC128に第1のデータを設定する。このとき、CPU112は、2つのコマンド(Reset, Pause)をデータ通信線220を通じてDSP118に送信し、さらに切換後の動作モード(受信)を設定する。そうするとDSP118は、応答コマンド(ACK)をCPU112に返信する。続いてCPU112は、PLLIC128の設定を完了すると、アクセス不実行状態200に遷移し、制御ポート224を通じて第1の信号(HOST_RDY)をHIGHに戻す。DSP118は、かかる第1の信号(HOST_RDY)を通じてアクセス可能状態206に遷移し、第2の信号(DSP_ST)をHIGHに戻してAFCを開始する。
このような制御ポート224、226では、1ビットのデータのみを送受信するので、データ通信線220のように送受信したデータの内容を解読する必要がない。したがって、その分、処理時間を短縮でき、CPU112とDSP118との調停をスムーズに行うことが可能となる。
図4〜図7では、第1の信号と第2の信号を、それぞれ、データ通信線220で送信する例を挙げ、図8〜図11では、第1の信号と第2の信号を、それぞれ、2本の制御ポート224,226を通じて行う例を挙げたが、制御ポートは必ずしも2本である必要はなく、1本でも、3本以上でもよい。また、第1の信号と第2の信号の機能さえ満たせば、データ通信線220と制御ポート224、226との組み合わせを適用することができる。
図12は、CPU112およびDSP118の状態遷移の他の例を具体的に示したタイミングチャートである。図12では、CPU112からDSP118に第1の信号(HOST_RDY)を送信するための制御ポート224のみがデータ通信線220と並列に配され、DSP118からCPU112への制御ポート226は配されていない。
例えば、図12において、無線通信機100が受信状態である場合に、受信中のPLL出力周波数の切換イベントが発生すると、アクセス不実行状態200のCPU112が制御ポート224を通じて第1の信号(HOST_RDY)をLOWに落としてアクセス待機状態202に遷移する。このときCPU112は、2つのコマンド(Reset, Pause)を送信し、切換後の動作モード(受信)を設定して、第2の信号(ACK)を待つ。ここでも、CPU112が第1の信号(HOST_RDY)を送信した際にDSP118がPLLIC128にアクセスしている途中であっても、状態遷移が管理されているので、PLLIC128での衝突は起こらない。
アクセス可能状態206のDSP118は、AFC動作の停止が完了すると、第2の信号(ACK)をCPU112に送信し、アクセス禁止状態208に遷移する。CPU112は、第2の信号(ACK)を契機にアクセス実行状態204に遷移し、PLLIC128に第1のデータを設定する。CPU112は、PLLIC128の設定を完了すると、アクセス不実行状態200に遷移し、制御ポート224を通じて第1の信号(HOST_RDY)をHIGHに戻す。DSP118は、かかる第1の信号(HOST_RDY)を通じてアクセス可能状態206に遷移し、AFCを再開する。
以上、説明したPLL切換回路146の動作によって、PLLIC128における分周比を設定するデータの衝突を防止し、また、より狭い周波数偏差の要求に応えることが可能となる。また、CPU112やDSP118とPLLIC128とを中継する中継回路132を論理加算器222のような簡易な回路で構成することができるので、コストを低減でき、回路の信頼性の向上を図ることが可能となる。
(プライオリティスキャン)
ところで、無線通信機100の選局動作の一つにプライオリティスキャン動作がある。このプライオリティスキャン動作は、任意のチャンネルにおいて受信信号を検波している最中に、特定のチャンネルに所望する受信信号が存在するか否かを定期的に確認し、所望する受信信号が存在しない場合には元のチャンネルに戻って検波を継続し、所望する受信信号が存在していれば、その特定のチャンネルを維持して検波を開始する動作を言う。
近年では送受信電波の狭帯域化によりデジタル化が進んでおり、特にデジタル信号の復調において、周波数追従性能が重要視されている。そこで、プライオリティスキャン動作のように、特定のチャンネルへの選局時および選局前の元チャンネルへの復帰時の効率的な周波数追従が必要となる。そこで、プライオリティスキャン時において、CPU112は、DSP118にアクセス実行状態204への遷移を要求する際、DSP118におけるPLLIC128に設定している分周比のリセットを行わず、また、DSP118によるAFCの開始を制限する。以下、図を用いて具体的に説明する。
図13は、プライオリティスキャン時におけるCPU112およびDSP118の状態遷移を具体的に示したタイミングチャートである。図13において、無線通信機100が受信状態である場合に、受信中のPLL出力周波数の切換イベントが発生すると、アクセス不実行状態200のCPU112がデータ通信線220を通じて第1の信号をDSP118に出力し、アクセス待機状態202に遷移する。ただし、図5の場合と異なり、第1の信号には、AFCの動作を一時停止するコマンド(Pause)が含まれるのみであり、AFCのオフセットをリセットするコマンド(Reset)を含まない。引き続き、CPU112は、切換後の動作モード(受信)を設定し、第2の信号(ACK)を待つ。ここでも、CPU112が第1の信号を送信した際にDSP118がPLLIC128にアクセスしている途中であっても、状態遷移が管理されているので、PLLIC128での衝突は起こらない。
アクセス可能状態206のDSP118は、AFC動作の停止が完了すると、第2の信号(ACK)をCPU112に送信し、アクセス禁止状態208に遷移する。CPU112は、第2の信号(ACK)を契機にアクセス実行状態204に遷移し、特定のチャンネルの選局動作として、PLLIC128に第1のデータを設定する。CPU112は、PLLIC128の設定を完了し、所望する受信信号が存在しない場合(スケルチが検出されない場合)、元のチャンネルの選局動作として、PLLIC128に第1のデータを設定し、アクセス不実行状態200に遷移し、DSP118に第1の信号(復帰要求およびResume)を送信する。DSP118は、かかる第1の信号を通じてアクセス可能状態206に遷移し、AFCを再開する。このように、特定のチャンネルから元のチャンネルにループバックした場合、上述したように、AFCのリセットが実行されていないので、AFCは切換前の元のチャンネルのオフセットが維持され、AFC動作の目標周波数に短時間で収束する。
また、CPU112は、特定のチャンネルのPLL出力周波数を設定する際、PLLIC128に対して周波数オフセットを「0」に設定する。これは、DSP118における周波数オフセットをリセットしないこととしたので、特定のチャンネルへの周波数の追従において、その周波数オフセットに偏らず、スケルチを判定するためである。こうして、プライオリティスキャンにおいて元のチャンネルに戻った場合においても、保持した周波数オフセットを用いて適切に周波数追従が行われ、プライオリティスキャン動作を効率的に遂行することが可能となる。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。