以下、さらに詳しく本発明の研磨パッドについて説明をする。
まず、本発明の研磨パッドは、繊維径が5〜150μm、目開きが10〜150μmであるモノフィラメント織物と支持体とが積層されていることを特徴とするものであるが、これは以下の技術思想に基づいて設計されている。
半導体ウエーハやガラス研磨においては、研磨物/スラリー層/研磨パッドという構成で研磨が行われるが、この時の研磨速度は、研磨速度=定数×研磨圧力×相対速度で表されるプレストン式を用いて考察されることが多い。この関係式が巨視的にも微視的にも成立すると、平坦性や平滑性を向上させるためには、研磨速度を巨視的にも微視的にも均一に制御することが重要となる。研磨速度が異常に速い部分があるとそこは谷やピットになり、異常に遅い部分があるとそこは山として残ることになり平坦性や平滑性が悪化することになる。
本発明では、相対速度の中身について考察し、ここで重要な相対速度は研磨物と研磨パッドの機械的に決まる相対速度ではなく、研磨物とスラリーの相対速度が重要であると考えた。これは、砥粒は研磨パッド表面に固定されて研磨物を研磨するというよりも、砥粒がスラリーに浮かんで移動しながら研磨物を研磨すると考えたからである。研磨パッドと研磨物は逆方向に運動(回転)しているのであるが、研磨パッドがスラリーをしっかり掴んでスラリー流れを作ると、研磨物とスラリーの間の相対速度を生じさせることができ、研磨することが可能である。一方、研磨パッドがスラリーを全く掴むことができず、スラリーが研磨物に引きずられてスラリー流れが形成されたとすると、研磨物とスラリーの相対速度はゼロであり、研磨することができない。このため、研磨速度を制御するためには、研磨パッドによって如何にスラリーを掴み、スラリー流れを形成するかにかかっているのである。このため、研磨パッドとスラリー界面の状態、すなわち研磨パッドの表面設計が非常に重要になるのである。
本発明ではこの研磨パッド表面設計として、モノフィラメント織物を用いて5〜150μmオーダーの凹凸構造を2次元的に規則的・周期的に研磨層に配列することで巨視的にも微視的にも均一なスラリー流れを形成させることを発想したものである。このような均一なスラリー流れを形成させることで、主として平滑性・平坦性の到達点を向上することができると考えられる。一方、スラリー流れが不均一であると、長時間研磨を行っても、あるところから平滑性・平坦性が頭打ちとなり、平滑性・平坦性の到達点を向上することができないのである。また、均一なスラリー流れが形成されると、スラリー速度は研磨物と研磨パッド表面との距離、すなわちスラリー層厚みの影響が大きく、研磨パッド表面でスラリー速度が最大であり、研磨パッドから遠くなるにつれてスラリー速度が低下することになる。このため、研磨物の高度な平滑化・平坦化が可能となるのである。さらに、研磨パッドがたわまなければ、研磨物の凹凸に応じた研磨速度を自動的に発生させることができ、凸部を優先研磨することで平坦化速度も向上することができるのである(平坦化に要する時間や研磨量の低減)。
本発明ではこの表面設計のために、モノフィラメント織物を用いるものであるが、単純にモノフィラメント織物を用いるだけでは凹凸構造の制御が不十分であるため、モノフィラメント織物の目開きを細孔に見立て、これを設計したのである。
従来の研磨パッド改良の考え方がパッド硬度(研磨圧力の項)に注目したものがほとんどであったのに対し、本発明ではスラリー流れ(相対速度の項)の均一性に注目し、パッド表面構造を制御したものであり着眼点が全く異なるのである。なお、PU含浸不織布研磨パッドでは、細孔サイズが数十〜数百μmオーダーであり、しかもサイズや形状、配列も不均一・不規則であったが(図3)、不織布を用いる以上は細孔制御に対する改善の余地が無いため、表面構造設計というよりもPU含浸によって調整可能な硬度設計に注力したものと思われる。また、半導体ベアウエーハ上に成膜された金属膜や酸化膜を研磨する際用いられるCMP(化学機械研磨)などでは、硬質PUパッド表面に溝やパターンを切ることが検討されているが、これはmm〜cmオーダーの形状制御であり、本発明の構造制御サイズのオーダーとは異なるものであり、その背景となる技術思想そのものが異なると考えられる。
ここで、本発明の研磨パッドを構成するモノフィラメントは、その繊維径が5〜150μmであることが重要である。ここで繊維径は以下のようにして求められる。すなわち、研磨パッドの表面を走査型電子顕微鏡(SEM)で倍率50倍で観察し、同一横断面内で無作為に抽出した20本の単繊維の直径を測定するのであるが、この時単繊維の直径が最も大きくなる部分を測定する。ただし、織物の経糸と緯糸の交錯点では単繊維が潰れやすいので、交錯点以外の部分を測定するものとする。そしてこれを3つのパッドで行い、少なくとも合計60本の単繊維の直径を測定して、これを単純平均することによって繊維径を求めることができる。
本発明において、繊維径が5〜150μmのモノフィラメントを研磨層に用いると研磨後の半導体ウエーハの平坦性・平滑性が向上する理由については今のところはっきりとわかっているわけではないが、次のように考えられる。本発明のように繊維径が5〜150μmのモノフィラメントを研磨パッドに用いると、その表層に数μm〜数百μmオーダーの比較的均一な凹凸が形成される。このため、従来のPU含浸不織布や樹脂パッドのようにドレッシングにより目立てされた表面とは異なり、凹凸の大きさが比較的均一で、研磨パッド面内での凹凸の位置が制御された表面となるために、微細な砥粒を含むスラリーの流れをより均一に制御できるために、高精度の研磨が可能となり、研磨後の半導体ウエーハの平坦性・平滑性が向上するものと考えられる。そのため、研磨パッドの表層に微細な凹凸が多数存在するほうが良く、その意味から繊維径は細いほうが良く、好ましくは100μm以下、より好ましくは50μm以下、さらに好ましくは30μm以下である。また、繊維径が小さすぎると、モノフィラメント自身の強力が小さくなるため、研磨パッド表面の耐久性に問題が発生する可能性がある。また、より細いモノフィラメントは製造時の歩留まり低下が起こるためにコストアップし易いという問題もある。このため、繊維径の下限としては5μm以上とすることが重要であり、好ましくは10μm以上である。
また、繊維の断面形状としては丸断面だけでなく、三葉、十字型、六葉、八葉などの多葉断面、三角や四角、楕円や星型、扁平などの異型断面などを採用することができる。
さらに、本発明のモノフィラメントを構成する材質としては、金属や有機ポリマーなど目的に応じて適宜選定すればよい。
金属としては鉄や銅、銀や金ならびに白金などが挙げられるが。材質を金属とすることで、繊維径が細くても高強度で耐摩耗性に優れるモノフィラメントとなるために、研磨パッドの耐久性が向上する。しかしながら、金属は一般に有機ポリマーよりも硬いために、研磨後の半導体ウエーハにキズがつきやすく、研磨スラリーには酸やアルカリ、有機溶媒などが添加されているために、腐食の問題があり、さらには金属に含まれる不純物イオンが半導体の性能に悪影響を及ぼす場合もあるために、金属種の選定には注意が必要である。そこで、銀や金ならびに白金などの貴金属のほか、鉄を選択する場合は耐薬品性に優れるステンレスであることが好ましい。
また、有機ポリマーとしては、ポリビニルアルコール(PVA)やポリアクリロニトリル(PAN)などの湿式紡糸可能な有機ポリマーも挙げられるが、湿式紡糸は低吐出量の紡糸設備がまれであるため、低吐出量でモノフィラメントを製造しやすいといった観点からは、溶融紡糸可能な熱可塑性ポリマーであることが好ましい。ここで言う熱可塑性ポリマーとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリ乳酸(PLA)、などのポリエステルやナイロン6(N6)、ナイロン66(N66)、ナイロン11(N11)、ナイロン12(N12)、ナイロン610(N610)、ナイロン46(N46)、ナイロン56(N56)などのポリアミド、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)、ポリメチルペンテン(PMP)などのポリオレフィン、さらにはポリエーテルエステルや熱可塑性PUなどのエラストマー、液晶ポリエステル、ポリフェニレンスルフィド(PPS)等が挙げられる。
繊維がポリアミドである場合、ポリマーの親水性が高いために、研磨パッドとしたときに水系のスラリーとの馴染みが良く好ましい。また、シリコンウエーハの研磨時には通常アルカリ性のスラリーを使用するために、アルカリに対する耐性があり、パッドが長寿命化するといった利点がある。さらに、ポリアミドはしなやかであり、耐摩耗性が良いことから、パッドの長寿命化の観点から好ましい。ポリアミドの中では汎用性を考えるとN6、N66、N12が好ましい。
また、繊維がポリエステルであると、ポリアミドに比べて湿潤時の強力保持率や寸法安定性に優れる。ポリエステルの中でも汎用性の観点からはPETが好ましく、耐アルカリ性やしなやかさの観点からはPTT、PBTが好ましい。 また、化合物半導体ウエーハの研磨やCMPの場合には、研磨時のスラリーのアルカリや酸を強くしたり、有機溶剤や油成分、また酸化剤などの各種添加剤を混合する場合があり、耐薬品性の観点からは、ポリオレフィンやPPSであることが好ましい。汎用性の観点からはPPが好ましい。
また、モノフィラメント織物を薄くするためにはモノフィラメントの単繊維直径を小さくすることが有効であるが、この際、繊維の高強度・高弾性率化が重要となり、この観点からは高強度・高弾性率が得られる液晶ポリエステルを用いることが好ましい。また、液晶ポリエステルからなるモノフィラメント織物は織物硬度が高いため、研磨物をより平坦化し易いメリットもある。
また、先にポリアミドの長所としてしなやかさと耐摩耗性を挙げたが、この観点からさらに好ましいのがエラストマーであり、特にポリエーテルエステルは熱可塑性PUよりも製糸、製織が容易でありより好ましい。ポリエーテルエステルとしてはポリテトラメチレングリコールやポリトリメチレングリコール、ポリエチレングリコールなどのポリオールから成るソフトセグメントとテレフタル酸とブチレングリコールから成るハードセグメントから成る物が一般的である。ただし、ポリエチレングリコールをポリオールとして用いると繊維の吸水性が高くなりすぎ寸法安定性が低下するので注意が必要である。
また、ソフトセグメントしてはなるべく耐薬品性の良い、エーテル系やカーボネート系のものを選択することが研磨パッドの耐久性の観点から好ましい。以上挙げたポリマーの中でも、性能と汎用性のバランスを考慮すると、PET、N6、N66、N12、PPが特に好ましいポリマーである。
また、研磨時には研磨物によってモノフィラメント表面が擦られるため、モノフィラメントの摩耗を低減するために繊維表層部分の耐摩耗性を向上させることが好ましい。例えば、モノフィラメント表層である鞘部に耐摩耗性ポリマーであるポリアミドやエラストマーを配し、モノフィラメントの芯部に強度と寸法安定性が優れたポリマーであるポリエステル(特にPET)やPPを配した芯鞘複合モノフィラメントなどを好適に用いることができる。また、ポリエステル同士の複合モノフィラメントであっても鞘部に低分子量(低固有粘度)ポリエステル、芯部に高分子量(高固有粘度)ポリエステルを配した芯鞘複合モノフィラメントとすると、鞘部の分子配向が低いためポリステルであっても良好な耐摩耗性を実現することができるのである。PETの場合では鞘部の固有粘度は0.40〜0.60、芯部の固有粘度は0.72〜1.20とすると高強度と耐摩耗性を両立したPETモノフィラメントを得ることができる。この時の芯鞘複合比はなるべく鞘比率が低い方がモノフィラメントの高強度化の観点からは良いが、複合安定性や製糸性などを考慮すると芯:鞘=9:1〜5:5であることが好ましい。また、芯鞘複合モノフィラメントではなく、後加工でモノフィラメント表層に耐摩耗性ポリマーをコーティングしても良い。ここで、コーティングが容易な耐摩耗性ポリマーとしてはPUやアクリル、シリコーンが好ましい。
本発明では、モノフィラメント織物を研磨層として用いることが重要であるが、これは以下の理由による。すなわち、モノフィラメント織物により形成される目開きは、サイズ、形状、配置などを数十〜数百μmオーダーで2次元的に規則性・周期性、方向性を持たせることができるため、スラリー流れを巨視的に均一に制御することが可能となるためである。また、方向性を持つことでモノフィラメント織物の外側に向かってスラリー流れを形成することが可能となり、研磨クズを研磨層であるモノフィラメント織物の外側に排出し易くなると考えられる。特に、モノフィラメント織物は目開きの方向性やモノフィラメント織物の畝や谷の方向性が明確であり、より研磨クズを排出し易く好ましいのである。また、横方向の形態安定性や布帛を薄くし易い観点からもモノフィラメント織物が好ましい。
また、織物の経糸と緯糸のそれぞれにポリマー種の異なるモノフィラメントを組み合わせると研磨層の親水性や疎水性などの化学的性質を自由に制御することが可能となる。
織物としては、平織り、ツイル、サテンなど公知の織組織を用いることができるが、研磨層として研磨における剪断方向(横方向)の形態安定性を重視する場合には最も経糸、緯糸の拘束力の強い平織りが好ましい。また、モノフィラメントの単繊維直径を小さくしても目開きを小さくするためには織密度を増加させる必要があるが、この時はツイルやサテンなどの浮き組織を用いることが好ましい。ツイルは形態安定性、織密度の点からバランスが取れている。なお、従来用いられているPU含浸不織布でも、単繊維間の空隙は有るものの、そのサイズが数百μm程度と大きすぎ、さらに形状が不規則であり、サイズ・形状のばらつきが大きすぎること、また空隙の規則性・周期性、方向性が無いことから、スラリーの流れを制御し難く、研磨クズの排出が容易でないため目詰まりし易くなるのである。
本発明では目開きが大きいことが重要であるが、本発明で言う目開きとは、モノフィラメント織物においてモノフィラメントの単繊維に囲まれた細孔を意味するものであり、この細孔は織物の厚み方向に貫通しているものである(図1)。目開きによる細孔は、スラリー流れを制御したり、研磨クズなどを一時貯蔵したり排出する役割を果たす。
本発明において、織物の目開きが10〜150μmであることが重要である。これにより、スラリー流れを微視的に均一化することができ、研磨物の平坦性・平滑性を向上させることができるのである。目開きサイズは70μm以下とすると、モノフィラメント織物と支持体を接着する際の接着剤のはみ出しを抑制でき、研磨による大きな傷(目視判定可能な傷)の発生を抑制できるため好ましい。また、特に高分解能での表面粗さ(粗さ波が短波長、高周波)を反映する平滑性を向上させるためには、目開きサイズは40μm以下であることがより好ましく、後述する研磨物に微細傷が入ることを抑制するためには、目開きサイズは30μm以下であることがさらに好ましい。一方、スラリー流れを均一化させる観点からは目開きサイズは15μm以上であることが好ましい。なお、目開きおよびそのサイズは研磨パッド表面に貼り付けたモノフィラメント織物表面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した像から特定することができる。観察倍率については目開きサイズや単繊維直径の大きさから50〜300倍の中で適当なものを選ぶものとする。また、場合によりSEM観察が困難な場合はレーザー顕微鏡を用いても良い。これでも難しい場合は、ピント合わせが難しいが通常の光学顕微鏡を用いても良い。また、目開きサイズは同一織物内で異なる20カ所を測定した平均値を用いるものとする。
また、本発明では、モノフィラメント織物の表面積全体に占める目開き部分の面積の比率を開孔率として定義する。この時は、織物、縦×横=2mm×2mm中の目開き数と目開き1つ当たりの面積から開孔率(%)=(目開き総面積/(織物表面積=4mm2))×100(%)を計算するものとする。モノフィラメント織物では図1に示したように目開きが均一なので、目開き総面積は目開き1つあたりの面積と4mm2中の目開き個数により計算することができる。また、画像処理ソフトを用いて評価することも可能である。さらに、モノフィラメント織物2mm×2mmに相当するSEMなどの画像を紙に印刷し、これから目開き部分を切り取った総重量とモノフィラメント織物2mm×2mmに相当する紙重量との重量比で求めることもできる。本発明では、開孔率を5〜50%とすることが好ましく、これによりスラリー流れを効率的に制御できるのである。また、目詰まり抑制の観点からは開孔率は大きい方が好ましい。一方、スラリーの流れをより均一に制御する観点からは開孔率は小さい方が好ましく、開孔率は25%以下とすることが好ましい。
また、研磨層に用いるモノフィラメント織物の厚みは、薄いほうが好ましい。これは、研磨時に押圧された際に、研磨層である織物の目開きの形状やサイズの変形を抑制し、設計通りの作用効果を発現させるためである。このため、織編物の厚みとしては10〜100μmであることが好ましく、60μm以下であることがより好ましい。モノフィラメント織物の厚みは、織物断面をSEMで観察することによって特定することができ、モノフィラメント織物の経糸と緯糸の交錯点における織物表面の経糸表面と織物裏面の緯糸表面との距離を織物の厚みとする(図2)。なお、測定は同一モノフィラメント織物内で異なる5カ所で行い、その平均値を採るものとする。
本発明の研磨パッドは、研磨層となるモノフィラメント織物を接着層を介して支持体に積層されているものである。そして、支持体と研磨定盤を接着するための接着層を設けることが普通である。ここで支持体とは以下のように定義される。すなわち、支持体とは、研磨層であるモノフィラメント織物との接着層および研磨定盤との接着層に挟まれ、モノフィラメント織物の横方向の変形を防止するために設けられる層のことを言う。支持体は単層でも良いし、異なる物性の2層、3層などの多層構造でも良いが、多層間での平坦性のばらつきや接着による支持体の平坦性悪化や、製造の効率化を考慮すると、支持体は単層であることが好ましい。なお、接着のために用いられる両面テープなどは接着層であり、支持体には含めないものとする。
本発明の研磨パッドをシリコンなどの半導体ベアウエーハやガラス(光学ガラス、フラットパネルディスプレイ用ガラス、露光に用いるガラスマスクなど)の粗研磨用として適用する場合には、アスカーA硬度が70以上の支持体であることが好ましい。これにより、研磨パッド全体だけでなくサイトフラットネスに対応するサイズ(十〜数十mm程度)のたわみを抑制し、研磨物表面の凹凸のうち凸部から優先的に研磨することで、研磨物の平坦性を向上させることが可能である。このため、支持体はなるべく硬いほうが好ましく、アスカーA硬度が80以上であることがより好ましく、85以上であることがさらに好ましい。なお、アスカーA硬度の上限値は100である。ここでアスカーA硬度は以下のようにして測定されるものである。すなわち、研磨パッドから支持体部分のみを採取する。そして、高分子計器株式会社製のアスカーゴム硬度計A型を定圧荷重器(CL−150L型)に取り付け、荷重1000gで支持体の硬度を測定する。もし支持体の厚みが6mm以下の場合には、厚みが6mm以上となるように支持体を複数枚重ねて測定を行う。もちろん、研磨パッドを作製する前の支持体そのものを入手できれば、これで測定を行っても良い。なお、測定はサンプルの異なる5カ所で行い、その平均値をアスカーA硬度とする。
また、支持体の厚みが薄い場合にはマイクロゴムA硬度で評価することも可能である。この場合、マイクロゴムA硬度は70以上であることが好ましく、80以上であることがより好ましく、85以上であることがさらに好ましい。なお、マイクロゴムA硬度の上限値は100である。
ここで、マイクロゴムA硬度は以下のようにして測定されるものである。すなわち、研磨パッドから支持体部分のみを採取する。そして、研磨パッド支持体表面にマイクロゴムA硬度計(高分子計器(株)製マイクロゴム硬度計MD−1の針を押し当てて硬度を測定する。この時、研磨パッドの状態で測定するときには、研磨パッド裏側から針を押し当て支持体硬度を測定するが、研磨パッドの裏側に支持体と研磨定盤を接着するための接着層(両面テープなど)があれば、これを除去して測定を行う。また、支持体を研磨パッドから分離できれば、分離後に支持体表面に針を押し当て測定を行っても良い。もちろん研磨パッドを作製する前の支持体そのものを入手できれば、これで測定を行っても良い。また、支持体を研磨パッドから分離することや支持体と研磨定盤を接着する接着層を除去することが困難な場合には、支持体が等方的な硬度を有していれば、支持体側面に針を押し当て測定を行っても良い。なお、支持体が多層構造の場合には、最も硬質の層の表面で測定を行うものとし、必要に応じ、最も硬質の層を切り出すなどしても良い。なお、測定はサンプルの異なる5カ所で行い、その平均値をマイクロゴムA硬度とする。マイクロゴムA硬度計は微少圧縮測定のため、薄いサンプルでも測定可能という利点がある。
一方、本発明の研磨パッドをシリコンなどの半導体ベアウエーハやガラスの仕上げ研磨用として適用する場合には、アスカーA硬度が70未満の支持体であることが好ましい。これにより、研磨物の反りやうねりに沿って研磨パッドが変形して追従し、研磨物表面の数nm〜数μm程度の微小凹凸を除去することが可能となり、研磨物の表面平滑性を向上することができる。このため、支持体は比較的軟らかいものであることが好ましく、アスカーA硬度が65以下であることがより好ましく、60以下であることがさらに好ましい。なお、アスカーA硬度の下限値は0である。また、支持体の厚みが薄い場合にはマイクロゴムA硬度で評価することも可能である。この場合、マイクロゴムA硬度は70未満であることが好ましく、65以下であることがより好ましく、60以下であることがさらに好ましい。なお、マイクロゴムA硬度の下限値は0である。
また、半導体の酸化膜や金属膜などのCMPに用いる場合には、アスカーA硬度が60〜90の支持体であることが好ましい。これにより、研磨物の凹凸にある程度追従しつつ全体の面内均一性も向上させることができる。
本発明の支持体の種類としては平坦なシート状のものであればいずれでも良く、フィルムや不織布、ガラス板、金属板、セラミックス板、発泡フォームなどを持ちいることも可能である。ガラス板や金属板は、高硬度であることや表面平坦性を制御しやすいという利点が有るが、モノフィラメント織物との接着や研磨時のスラリーに対する耐薬品性において問題のない物を選択することが課題である。この点、ゴムシートは適度な硬度や耐薬品性を得やすく、また比較的ゴムシート表面の平坦性も制御しやすいため、現状、ゴムシートを支持体として用いることが好ましい。また、定盤からの振動を吸収して研磨精度を向上させるといった観点からも、ゴムシートであることが好ましい。ゴムシートの材質としては、天然ゴム(NR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、エチレンプロピレンゴム(EPT)、イソブチレンイソプレンゴム(IIR)、クロロスルホン化ポリエチレンゴム(CSM)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、シリコーンゴム(SR)、フッ素ゴム(FR)、ウレタンゴム(UR)などが挙げられるが、機械的強度や反発弾性、耐薬品性などを考慮すると、ウレタンゴムであることが好ましい。
この中でも、現状、汎用性やゴムシートの平坦性からUR、NBRが好ましい。
支持体の厚みは厚くすると研磨定盤のブレや振動の影響を吸収しやすくなり、薄くすると研磨パッドのコスト低減に役立つ。この観点から、0.5〜30mmであることが好ましく、0.8〜10mmであることがより好ましく、0.8〜5mmであることがさらに好ましい。
支持体と研磨層である織物の積層方法には制限はなく、目的に応じて適宜選択可能である。例えば先に言及した接着層として、接着剤や両面テープにより接着する方法やホットメルトタイプのテープや熱融着繊維を用いることも可能である。また、両面テープの基材としても本発明を損なわない範囲で制限はないが、研磨パッドの硬度を保持するためPETやPPなど比較的硬い材質の物が好ましい。
本発明においては、研磨時に押圧された際に、研磨層であるモノフィラメント織物の目開きの形状やサイズの変形を抑制し、設計通りの作用効果を発現させるためには、研磨層側であるモノフィラメント織物も比較的硬い方が好ましい。このための研磨層側の硬さは微少圧縮試験により特定することが可能である。ただし、マイクロゴムA硬度計では測定のための針が直径160μm程度であり、モノフィラメント織物の目開きと近いサイズになってしまうため、これを用いると測定位置によるばらつきが大きくなり過ぎる。このため、目開きよりはるかに大きいサイズである直径1.6cmの円盤で微少圧縮試験が可能なKES圧縮試験を用いることが適当である。
また、本発明において乾燥状態ではなく湿潤状態での微小圧縮試験を行うのは、研磨工程では、研磨パッドは水系スラリーと常に接しているため、乾燥状態ではなく湿潤状態で硬度を設計する必要があるためである。
実際の測定は、研磨パッドから小片サンプルを切り出し、これを20℃のイオン交換水に完全に浸漬し、10分間保持した後、これを取り出し、ティッシュペーパーなど吸水性の高いもので研磨パッド表面の余分な水分を丁寧に除去する。そして、まず研磨パッドの表側すなわち研磨層であるモノフィラメント織物側からカトーテック(株)製のKES“KES FB3”(登録商標)により圧縮試験を荷重50gf/cm2として行い、この時の圧縮量を測定する。測定は研磨パッドの異なる位置で3回行い、これの平均値を研磨層側、すなわちモノフィラメント織物側の圧縮量とする。次に、別途準備した同一研磨パッドの小片サンプルを前記と同様に、今度は支持体側から圧縮量を測定する。こちらも異なる位置で3回の測定を行い、これの平均値を支持体側の圧縮量とする。測定は20℃、65%RHに調湿された測定室で行い、研磨パッドを水から取り出した後、2分で測定を開始するものとする。この場合も支持体の切り出しや測定に関してはマイクロゴムA硬度の測定の場合に準じて行うことができ、支持体を単離できれば支持体単独で測定しても良い。モノフィラメント織物側の圧縮量は支持体側の圧縮量の80〜120%の範囲であれば、目開きの形状やサイズの変形を抑制することができ、結果的に研磨物の平滑性・平坦性を向上させることができ好ましい。より好ましくは90〜110%である。
本発明は方向性を持ったモノフィラメント織物が研磨層となるため研磨クズを排出し易く、ドレッシング頻度を減らせるメリットがある。また、モノフィラメント織物はマルチフィラメント織物のように単繊維間で構成される繊維間空隙がないために、研磨屑が付着しにくく、研磨屑や凝集砥粒などが研磨パッド表面に堆積しにくい。しかしながら、本発明において、ドレッシングを行う場合に、従来のダイヤモンドドレッサーやナイロンブラシを用いても、目開きや繊維間(モノフィラメントの経糸と緯糸の交錯点)の研磨クズを効率的に掻き出すことができないばかりか、モノフィラメントを切断しパッドを痛めてしまう場合がある。このため、本発明のモノフィラメント織物を研磨層とした研磨パッドでは、水滴をジェットにして飛ばすドレッシング方法を用いることが好ましい。特に、超高圧マイクロジェット(HPMJ)と呼ばれる方法はモノフィラメントを痛めることなく効率的に研磨クズを繊目開きや繊維間から排出することが可能であり、好ましい。ここでHPMJとは5〜30MPaまで加圧した水をジェットとして扇形に吹きだすものであり、研磨パッドに当たる付近では水滴径としては数十μm、水滴速度としては数十m/秒である。HPMJの装置としては旭サナック社AFシリーズやMJシリーズなどを好適に用いることができる。実際にモノフィラメント織物を研磨層とした研磨パッドにHPMJを適用したところ、水圧5〜15MPa、ノズル−パッド間距離は3〜5cm、水量1.2L/分以上、ノズルでの扇角度25〜65°で充分な洗浄力が得られ、洗浄により繊維が切れることも認められなかった。また、ドレッシング時間は10〜60秒で充分な洗浄が可能である。
また、本発明では従来のPU含浸不織布や硬質PUパッドに比べ、目詰まりし難く、研磨による研磨パッド表面状態変化の程度が低いため、ドレッシング頻度を大幅に減らせることができるメリットがある。このため、HPMJを用いた場合、ドレッシング頻度は4時間毎でも充分であるが、2時間毎であることが好ましい。なお、従来の研磨パッドでは、通常、研磨バッチ毎にドレッシングを行うため、10〜15分毎にドレッシングを行っている。なお、洗浄の観点からは研磨バッチ毎に行うことが最も好ましいが、生産効率の観点からドレッシング頻度は選択することができる。また、研磨しながら洗浄も行っても良い。ところで、従来の研磨パッドでは研磨を始める前の初期ドレッシング、またパッドの表面状態を定常状態にするための長時間におよぶ立ち上げ研磨(数時間程度)を行うことが普通であるが、本発明ではこれらを省略することも可能である。モノフィラメント織物を用いると、研磨前後での目開きの状態変化がほとんど無いため、これらの前処理の必要性がほとんど無い。また、モノフィラメント織物はクリーンルームで製造されることは希であるため、織物表面にはゴミなどが付着している場合もある。研磨表面である織物にゴミが付着していると研磨物に傷をつける場合が有るが、このようなゴミを除去するためにもHPMJによる初期ドレッシングは有効である。初期ドレッシング時間としては10〜60秒で充分な効果が得られる。
次に本発明で用いる研磨物の平坦性・平滑性の評価方法について述べる。
研磨評価は、公知の研磨機、研磨スラリー、バッキング材、研磨物(半導体ウエーハ、ガラスなど)を用いて行うことができるが、その一例を次に示す。研磨機としてはラップマスターSFT株式会社製の片面研磨機である「“ラップマスターLM−15E”(登録商標)」を用い、研磨スラリーにはコロイダルシリカの水分散体である株式会社フジミインコーポレーテッド製“GLANZOX1302”(登録商標)を用いる。研磨物としては4インチのシリコンウエーハ(エッチドウエーハ)を用い、下記のような粗研磨の研磨条件で研磨を行う。なお、研磨する際にはセラミックス製プレートに市販のPUスエードをバッキング材としたテンプレートを貼り付けて、それにウエーハを保持する。
<研磨条件>
定盤回転数 : 50rpm
研磨圧力 : 255gf/cm2
研磨時間 : 15分
スラリー濃度 : 1%
スラリー供給量 : 30mL/分
ところで、本発明では白色干渉顕微鏡を用いて研磨物の平坦性・平滑性の評価を行うが、ここで対物レンズ倍率を高倍率から低倍率まで、すなわち高分解能から低分解能、また測定エリアも狭い領域から広い領域まで変化させて評価を行う。高倍率レンズを用いる高分解能測定では、短波長(高周波)の表面粗さである平滑性を評価し、低倍率レンズを用いる低分解能測定では、長波長(低周波)の表面粗さである平坦性を評価する。なお、低倍率レンズでは分解能が低くなるのみならず測定視野も大きくなるため長波長粗さを捉え易くなるのである。粗さ値としては主としてRaを用いて評価を行う。測定エリアでの山と谷の差の最大値であるPV値はウエーハ表面にゴミなどが付着していると異常値として出るため、明らかにゴミと思われる大きな値は無視して評価を行う。Ra、PVとも値が低いほど平坦性・平滑性に優れている。また、レンズ倍率を横軸(高倍率が左、低倍率が右)にRa、PVの変化の折れ線グラフを描いた場合(図6、7)、折れ線の傾きが大きいと、粗さの長波長成分が加算されていることを表すため、平坦性が悪く、レンズ倍率を変えてもRa、PVが変化しないと粗さの長波長成分が加算されないため平坦性が良いと判断できる。
具体的には、Zygo社の白色干渉顕微鏡である“New View 6300”(登録商標)やそれに準ずる機器を用い、中間レンズ1倍、対物レンズとして50倍、10倍、2.5倍で評価を行うことができる。測定は研磨物の中心、それから端までの中間点4カ所の合計5カ所の測定を行い、Ra、PVとしてはその平均値で評価を行う。また、50倍(通常の光学顕微鏡では1000倍に相当)での観察図(2次元での高さ表示、高さの微分表示)から研磨物に入った目視では観察できない微細傷の評価を行うことができる。
次に、本発明の研磨パッドの具体的様態について述べる。
本発明においては研磨層としてモノフィラメント織物(スクリーン紗織物)を用いるが、スクリーン紗織物は通常平織組織が用いられるが、より高密度の織物(高メッシュ織物)とするためにはツイル組織とすることが好ましい。モノフィラメント織物としては単繊維直径が5〜350μm、目開きサイズ10〜1000μm、開孔率5〜60%、厚み10〜650μm、メッシュ数100〜600本/インチの範囲で制御可能であるが、本発明の目的を達成するためには単繊維直径5〜150μm、目開きサイズ10〜150μmで設計することが重要であり、開孔率5〜50%、織物厚み10〜100μmで設計することが好ましい。また、高メッシュ織物とするには平織組織よりもツイル組織とすることが好ましく、目開き30μm以下ではツイル組織が好ましい。また、モノフィラメント織物はスクリーン紗として利用されており、しかも単純な織組織であるため、織物表面の均斉が良く、cmオーダーで見た時に織物表面の平坦性に優れることもメリットの一つである。このような織物にはスクリーン印刷時に高張力がかかり、さらに精密印刷分野ではモノフィラメントの繊維径も小さい物が要求されるため、高強度・高弾性率の繊維が必要であり、これが研磨においても目開きの形状、サイズの安定化のために有効に機能すると考えられる。
しかしながら、高強度・高弾性率繊維には高分子量ポリマーと高倍率延伸を適用するのが普通であり、高度に分子配向するため、耐摩耗性が通常の衣料用織物などに比べ劣ることが多い。このため、耐摩耗性に優れたポリマーからなるモノフィラメントを用いたり、前記した芯/鞘=高分子量PET/低分子量PETである芯鞘複合モノフィラメントを用いることも有効である。また、本発明において支持体とモノフィラメント織物を積層した場合、高精細スクリーン印刷用ほどにはモノフィラメント織物の引っ張りに対する寸法安定性は要求されないため、高精細スクリーン印刷用よりも延伸倍率を下げるなどして分子配向を低下させて耐摩耗性を改善させても良い。
次に支持体については、URからなる樹脂板であれば硬度の選択幅が広く、また樹脂板の平坦性も良好であるので好適に用いることができる。このような支持体にモノフィラメント織物を積層するが、接着する場合には、市販の接着剤や研磨パッド用両面テープなど用いて行うことができる。例えば、支持体面と両面テープの接着は、支持体を通して空気が抜けないために、支持体と両面テープの接着面に空気が入りやすく、その部分が膨らんで研磨パッドの平坦性が損なわれる場合があるので、ラミネート機などを使って気泡が入らないように注意して貼り込む。一方、モノフィラメント織物と支持体の接着では、モノフィラメント織物が目開きを持ち、通気性を有するために、両面テープと接着する際にも空気が逃げやすいために、貼り込む際に気泡が入る心配が少ない。そのため、例えば従来のPU含浸不織布パッドや発泡PU樹脂パッドと支持体とを積層するよりも、モノフィラメント織物のほうが支持体との積層が容易である。特にスクリーン紗織物では目開きや開孔率が通常の織物に比べて大きいために、空気が抜けやすい。さらに支持体の裏側に研磨定盤と接着するための両面テープ(例えば厚み110μm、定盤接着用で基材はポリエステルフィルム)を貼り付け、研磨パッドを作製することができる。
ここで、スクリーン紗織物側からのKES圧縮量は支持体側からのKES圧縮量の100〜105%の範囲内と充分硬いが、これはスクリーン紗織物が薄いこととモノフィラメントを用いているためと考えられる。
また、スクリーン紗として通常用いられているモノフィラメントではないが、モノフィラメントとして扁平断面糸を用いると、繊維が摩耗しても繊維としての形状変化があまりないため、研磨層としての状態変化も小さく、結果的にパッド寿命を延ばすことができる。この観点から扁平断面糸を用いることも好ましく、扁平率は1.5以上が好ましく、より好ましくは3以上である。
また、スラリー掴み向上のための繊維表層でのナノ〜サブμmサイズの形態制御として、易フィブリル繊維やポリマーブレンド繊維から筋状に分散した易溶出成分を溶出したミクロスリット繊維、また微粒子含有繊維を減量したミクロクレーター繊維などを用いることもできる。さらに、このようなμmやナノ〜サブμmサイズの形態制御を繊維側面に施したモノフィラメント繊維を用いると、研磨物上に存在する、研削、エッチング、研磨工程で生成した欠陥になりうる反応物やゴミなどを効率的に洗浄することも可能である。
本発明の研磨パッドは、半導体ウエーハとしてシリコン(Si)ウエーハ、アニールウエーハ、エピウエーハ、SOIウエーハ、埋め込みウエーハ、貼り合せウエーハ、再生ウエーハなどだけでなく、ガリウムナイトライド(GaN)、ガリウム砒素(GaAs)、シリコンカーバイド(SiC)、サファイアなどの化合物半導体ウエーハにも用いることができる。また、半導体ウエーハの研磨用のみに限らず、酸化膜や金属膜などを形成した後のCMPや素子形成後のバックグラインドに用いることも可能である。さらに、アルミディスクやガラスディスクなどのハードディスク用基板の研磨用、さらに液晶ディスプレイ用ガラスや光学ガラス、フォトマスクなどのガラス研磨用など種々の研磨用途に好適に用いることができる。
以下、本発明について実施例を用いて詳細に説明する。なお、実施例中の測定方法は以下の方法を用いた。
A.SEM観察
サンプルに白金を蒸着し、超高分解能電解放射型走査型電子顕微鏡で観察した。
SEM装置:日立製作所(株)製UHR−FE−SEM S−5000
B.繊維の数平均直径
上記SEMで倍率50倍で観察し、その観察画像から、三谷商事(株)製の画像処理ソフト(WINROOF)を用いて、繊維長手方向に対して垂直な方向の最大繊維幅を繊維の直径として算出した(ただし、織物の経糸と緯糸の交錯点では単繊維が潰れやすいので、交錯点以外の部分を測定するものとする)。この際、同一横断面内で無作為に抽出した20本の単繊維の直径を測定し、これを3カ所で行い、合計60本の単繊維の直径を測定して、これを単純平均して数平均直径を求めた。
C.目開きサイズ
研磨パッド表面をSEMにより100倍で観察することで目開きを特定し、目開き面積を異なる20カ所で測定し、その平方根の平均値を目開きサイズとした。
D.開孔率
モノフィラメント織物の表面積全体に占める目開き部分の面積の比率を開孔率として定義する。この時は、モノフィラメント織物、縦×横=2mm×2mm中の目開き数と目開き1つ当たりの面積から開孔率(%)=(目開き総面積/(織編物表面積=4mm2))×100(%)を計算した。目開きはSEM観察(150倍)により行った。
E.モノフィラメント織物の厚み
接着層によりモノフィラメント織物が支持体に積層された研磨パッドをカミソリで切断することで、織物断面の面出しを行った。そして、織物断面をできる限り垂直に立ててSEM観察し、図2のように経糸と緯糸の交錯点における織物表面の経糸表面と織物裏面の緯糸表面との距離を測定した。なお、測定は同一織物内で異なる5カ所で行い、その平均値を織物の厚みとした。また、SEM観察倍率は300倍とした。
F.アスカーA硬度
本実施例では織物に積層する前の支持体となるPU樹脂板そのもので測定を行った。高分子計器株式会社製のアスカーゴム硬度計A型を定圧荷重器(CL−150L型)に取り付け、荷重1000gで支持体の硬度を測定した。支持体の厚みが6mm以下の場合には、厚みが6mm以上となるように支持体を複数枚重ねて測定を行った。なお、測定はサンプルの異なる5カ所で行い、その平均値をアスカーA硬度とする。
G.マイクロゴムA硬度
本実施例では織物に積層する前の支持体となるPU樹脂板そのもので測定を行った。支持体表面(織物接着面になる表面)にマイクロゴムA硬度計(高分子計器(株)製マイクロゴム硬度計MD−1)の針を押し当て硬度を測定した。測定はサンプルの異なる5カ所で行い、その平均値を湿潤時のマイクロゴムA硬度とした。
H.KES圧縮量の測定
研磨定盤との接着のための両面テープを貼り付ける前の研磨パッドから小片サンプルを切り出し、これを20℃のイオン交換水に完全に浸漬し、10分間保持した後、これを取り出し、ティッシュペーパーで研磨パッド表面の余分な水分を丁寧に除去した。そして、まず研磨パッドの表側すなわち研磨層であるモノフィラメント織物側からカトーテック(株)社製のKES“KES FB3”(登録商標)により圧縮試験を荷重50gf/cm2として行い、この時の圧縮量を測定する。測定は研磨パッドの異なる位置で3回行い、これの平均値を研磨層側、すなわちモノフィラメント織物側の圧縮量とした。次に、別途準備したモノフィラメント織物に積層する前の支持体の小片サンプルをモノフィラメント織物側の圧縮量測定の場合と同様に前処理し、今度は支持体表面(モノフィラメント織物との接着面になる表面)の圧縮量を測定した。こちらも3回の測定を行い、これの平均値を支持体側の圧縮量とした。測定は20℃、65%RHに調湿された測定室で行い、支持体を水から取り出した後、2分で測定を開始した。
G.研磨評価
研磨機はラップマスターSFT株式会社製の片面研磨機である“ラップマスターLM−15E”(登録商標)を用いた。研磨パッドは実施例および比較例で作製した研磨パッドをそれぞれ用い、研磨スラリーにはコロイダルシリカの水分散体である株式会社フジミインコーポレーテッド製“GLANZOX1302”(登録商標)を用いた。ウエーハは4インチのシリコンエッチドウエーハを用い研磨を行なった。この時の研磨条件は下記の通りである。
<研磨条件>
定盤回転数 : 50rpm
研磨圧力 : 255gf/cm2
研磨時間 : 15分
スラリー濃度 : 1%
スラリー供給量 : 30mL/分
なお、研磨する際にはセラミックス製プレートに市販のPUスエードをバッキング材としたテンプレートを貼り付けて、それにウエーハを保持した。
H.研磨後ウエーハの平坦性・平滑性の評価
Zygo社の白色干渉顕微鏡である“New View 6300”(登録商標)を用い、中間レンズ1倍、対物レンズとして50倍、10倍、2.5倍で評価を行った。測定は研磨物の中心、それから端までの中間点4カ所の合計5カ所の測定を行い、Ra、PVとしてはその平均値で評価を行った。
実施例1
研磨層に用いるモノフィラメント織物として、単繊維直径27μm、目開き23μmのPETモノフィラメント織物(表1)を、支持体としてアスカーA硬度90、厚み1mmのPU樹脂板を準備し、支持体に織物を研磨パッド固定用テープ(厚み130μm、中間接着用で基材は不織布)で貼り付け、さらに支持体の裏側に定盤接着用の両面テープ(厚み110μm、定盤接着用で基材はポリエステルフィルム)を貼り付け、研磨パッドを作製した。なお、実施例1の織物に用いたモノフィラメントはPETの芯鞘複合糸であり、鞘成分を軟らかくしたものであった。
そして、この研磨パッドを用いてシリコンウエーハの研磨実験を行い、白色干渉顕微鏡により平坦性・平滑性の評価を行ったところ(表2)、50倍レンズでRaが2nm以下と従来のPU含浸不織布(比較例3)や発泡PU樹脂(比較例4)と比較して優れた平滑性を示した。また、2.5倍レンズでのRaが2.5nm以下と従来のパッド(比較例3、4)に比べて優れた平坦性を示した。また、レンズ倍率を変化させてもRaの変化が1nm以下と長波長成分の付加が少なく、優れた平坦性を示した(図6)。さらに、PVを見ても2.5倍レンズで30nm以下と優れ、しかもレンズ倍率を変化させてもPVの変化が小さいことから長波長成分の付加が少なく、優れた平坦性を示した(図7)。さらに50倍レンズでの観察において微小傷の発生は認められず、研磨後のウエーハは優れた鏡面を形成していた。また、目視判定可能な大きな傷の発生も認められなかった。
実施例2
研磨層に用いるモノフィラメント織物として、単繊維直径30μm、目開き20μmのN66モノフィラメント織物(表1)を用い、実施例1と同様にして支持体に積層し、研磨パッドを作製した。
次に実施例1と同様に研磨実験を行った後、白色干渉顕微鏡により平坦性・平滑性の評価を行った(表2)。Raは50倍レンズで2.0nm、10倍レンズで2.1nm、2.5倍レンズで2.5nmであり、従来のパッド(比較例3、比較例4)と比較して優れた平滑性、平坦性を示した。また、レンズ倍率を変化させてもRaの変化が1nm以下と長波長成分の付加が少なく、優れた平坦性を示した(図6)。さらに、PVを見ても2.5倍レンズで30nm以下と優れ、しかもレンズ倍率を変化させてもPVの変化が小さいことから長波長成分の付加が少なく、優れた平坦性を示した(図7)さらに50倍レンズでの観察において微小傷の発生は認められず、研磨後のウエーハは優れた鏡面を形成していた。また、目視判定可能な大きな傷の発生も認められなかった。
実施例3
研磨層に用いる織物として、単繊維直径45μm、目開き82μmのモノフィラメント織物(表1)を用い、実施例1と同様にして支持体に積層し、研磨パッドを作製した。
次に実施例1と同様に研磨実験を行った後、白色干渉顕微鏡により平坦性・平滑性の評価を行った(表2)。Raは50倍レンズで2.6nm、10倍レンズで2.6nm、2.5倍レンズで3.1nmであり単繊維直径が小さく、目開きも小さい実施例1および2には及ばないものの、従来の研磨パッド(比較例3、4)と比較して優れた平坦性、平滑性を示した。 さらに、PVを見ても2.5倍レンズで46nmと実施例1、2には及ばないものの従来の研磨パッド(比較例3、4)に比べて優れたものであった。ただし、実施例3では、現状では問題となるほどではないが、50倍レンズでの観察において若干の微小傷の発生が認められた。
比較例1
研磨層に用いる織物として、単繊維直径80μm、目開き172μmのモノフィラメント織物(表1)を用い、実施例1と同様にして支持体に積層し、研磨パッドを作製した。
次に実施例1と同様に研磨実験を行った後、白色干渉顕微鏡により平坦性・平滑性の評価を行った(表2)。比較例1においては実施例1〜3に比べて目開きが大きすぎるために、Raは50倍レンズで3.8nm、10倍レンズで5.2nm、2.5倍レンズで5.8nmと実施例1〜3に比べて平滑性、平坦性は明らかに劣るものであり、従来の発泡PU樹脂並み(比較例4)であった。なお、比較例1では現状では問題となるほどではないが、50倍レンズでの観察において若干の微小傷の発生が認められた。また、目視判定可能な大きな傷が若干認められた。
比較例2
研磨層に用いる織物として、単繊維直径155μm、目開き273μmのモノフィラメント織物(表1)を用い、実施例1と同様にして支持体に積層し、研磨パッドを作製した。
次に実施例1と同様に研磨実験を行った後、白色干渉顕微鏡により平坦性・平滑性の評価を行った(表2)。比較例2においては実施例1〜3に比べて繊維径も目開きも大きすぎるために、Raは50倍レンズで5.4nm、10倍レンズで6.3nm、2.5倍レンズで7.2nmと実施例1〜3に比べて平滑性、平坦性は明らかに劣るものであり、従来のPU含浸不織布並み(比較例3)であった。なお、比較例2では現状では問題となるほどではないが、50倍レンズでの観察において若干の微小傷の発生が認められた。また、目視判定可能な大きな傷が若干認められた。
比較例3、4
比較例3においてはPU含浸不織布パッドとしてニッタ・ハース社製“SUBA800”(登録商標)を、比較例4においては発泡PU樹脂パッドとしてニッタ・ハース社製“MH−S15A”(登録商標)を用い、実施例1と同様に研磨実験を行った後、白色干渉顕微鏡により平坦性・平滑性の評価を行った(表2)。
比較例3、4においてはいずれの倍率でも実施例1〜3よりも大きなRa、PVを示し、平滑性、平坦性とも劣るものであった。また、レンズ倍率を変化させた時のRa、PVの増加が大きく、長波長成分の付加が多いことからも平坦性に劣ることがわかった(図6、7)。なお、比較例3、4では現状では問題となるほどではないが、50倍レンズでの観察において若干の微小傷の発生が認められた。また、目視判定可能な大きな傷の発生も若干認められた。
比較例5
織物(表1)として通常のマルチフィラメント織物を用い、実施例1と同様に研磨パッドを作製し、実施例1と同様に評価を行った。この織物は、経糸が84dtex−18フィラメント(単繊維直径17μm)、緯糸が84dtex−36フィラメント(単繊維直径15μm)のいずれも捲縮のかかっていないストレートヤーンを用いた衣料用の通常の平織り物であり目開きはほとんど認められないが、一部経糸と緯糸の間に隙間が有り、ここを目開きとして表1に値を載せた。研磨後ウエーハの評価では、いずれの倍率でも実施例1よりも大きなRa、PVを示し、平坦性・平滑性とも劣るものであった(表2)。なお、比較例5では、現状、問題となるほどではないが50倍レンズでの観察において若干の微細傷の発生が認められた。また、目視判定可能な大きな傷の発生も若干認められた。