JP5226035B2 - 積層配線基板の製造法 - Google Patents

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Description

本発明は、多層配線基板の製造方法に関し、特に液晶ポリマーを絶縁層とする配線基板の製造方法に関する。
近年、電子機器の小型化および高機能化への要求が促進されており、その内部部品としての配線基板に対しても同様の内容が要求されており、これらの要求に対して、配線基板の多層化、高密度化が普及している。また、このような電子機器は、大量の情報を処理するために信号の高周波化が必要となっており、近年、高周波の信号を伝送する基板開発が注目されている。
従来の多層化、高密度化に対応した配線基板は、複数の材料を用いて構成されている。例えば、多層配線基板は、寸法の安定性を狙うためにガラス繊維と接着剤としての樹脂を用いたプリプレグ層を絶縁体として用いており、また微細配線を有する配線基板においても微細配線間への充填性を確保するため、接着剤を塗布したフィルムを用い、カバーフィルムとしている。しかし、高周波信号を伝送することに対しては、上記材料は適していない。
また一方では、高速信号伝送に対応するためにインピーダンス・コントロールされた配線構成を持つ配線基板であっても、使用する環境によって寸法の変動が大きい場合、インピーダンス・コントロールされた配線の整合性を損なう恐れがあるため、寸法変動が小さい特徴も望まれている。
高周波信号を伝送するためには、低誘電率、低誘電正接である材料を用いることが必要である。更にその材料が熱可塑性樹脂であれば、単一材料を用いて配線基板を構成することができるため、多層基板の薄型化も可能である。
このような熱可塑性の樹脂として、例えば液晶ポリマーが考えられる。液晶ポリマー等の熱可塑性の樹脂を用いて配線基板を形成する際には、樹脂間の密着力を得るために融点付近で積層するのが望ましい。しかし、融点付近での積層は樹脂がフローしてしまうため、回路変形を生じてしまう。この回路の変形は、基板の信頼性および高速信号伝送のためにインピーダンス・コントロールされた配線構成を損なう恐れがある。
特許文献1には、熱可塑性樹脂に貫通穴を作製しフィルムを密着するために実行される加熱・加圧工程よりも低温で燒結する導電性ペーストを充填することにより、加熱・加圧工程が実行される際に、導電性ペーストが焼結されて柱状の支持体が形成され、過剰な圧力が加わることを防止でき、導体パターンの変形を抑制することが示されている。また、特許文献2には、絶縁体層としての熱可塑性樹脂に導電性バンプを圧入・貫挿させ、バンプを介してスルーホール型接続および非スルーホール型接続を備えた多層配線基板において、バンプを接続するため加圧を行う際に非スルーホール部が接する配線パターンの変形を招く恐れがある。そのため、非スルーホール部に接続される配線パターンの少なくとも一部に、配線パターン変形防止用の導電性ペースト性補強層を一体的に配設し、変形を抑制することが示されている。
特開2003-209356号公報 特開平11-214849号公報
特許文献1,2の開示内容は、熱可塑性樹脂を用いることによる回路変形を抑えるため、配線基板内に補強構造を持たせるものであるが、補強構造が存在することにより、配線基板の高密度化に対しての妨げとなる。
積層処理の温度を樹脂が熱変形を開始する温度付近まで下げることで樹脂のフローを抑え、回路の変形を抑制する方法が考えられる。しかし、十分な樹脂間の密着力が得られず、配線基板に必要とされる絶縁性を損なう恐れがある。
本発明は、上述の点を考慮してなされたもので、湿度による寸法変動が小さく、低誘電正接、低比誘電率の熱可塑性樹脂を用いて樹脂間の密着強度を確保した高速伝送に適する高密度配線基板の製造法を提供することを目的とする。
上記目的達成のため、本発明では、
周波数1GHz以上における比誘電率が3以下で、誘電正接が0.005以下である液晶ポリマーからなる絶縁層の少なくとも一面に導電層が設けられてなる単位基板を重ね合わせて積層配線基板を製造する方法において、
前記単位基板の各々における少なくとも一方の面にArガスを用いたRIEモードを含むプラズマを用いて前記絶縁層にプラズマ粗化処理を施し、
前記処理の施された面を他の単位基板の面に重ねて2以上の層を有する積層板を形成し、
前記積層板を加熱、加圧処理し、
前記絶縁層間の常温での90°ピール強度が0.5kN/m以上である、
ことを特徴とする積層配線基板の製造法、
を提供する。
本発明の配線基板の製造方法によれば、配線基板を構成する各単位基板の表層に形成された回路に影響を与えず、その液晶ポリマー層の表面に緻密な粗化面を形成することができ、液晶ポリマー層同士の接着力に優れた配線基板を提供することができる。その結果、高温、多湿に耐え、屈曲(折り曲げ)時に発生し易い層間剥離を抑制することができ、製造工程時およびその後においても、耐熱性、吸湿寸法安定性、信頼性等が優れた配線基板となる。
そして、得られた配線基板は、液晶ポリマーの本来有する誘電特性、および特徴を保持していることから、高周波基板、高密度実装基板に適している。
比誘電率、誘電正接測定を説明するための試料断面図。 多層配線基板の層構造の一例を説明するための断面図。 多層配線基板の層構造の他の一例を説明するための断面図。
本発明の製造法では、絶縁層の片面または両面に導体回路または導体層を有する2以上の単位基板を用いて、これらを加熱、加圧して積層し、多層配線基板とする。絶縁層をL、導体回路をC、導体層Dとすれば、単位基板としてはL/C、C/L/C、L/D、C/L/DおよびD/L/Dで表される層構造を有するものがある。そして、これらの外層が接着面となるが、接着面のいずれもが導体層Dである場合は接着面とはなり得ない。
しかし、導体回路Cが外層である場合は、導体回路C側の面も絶縁層Lの露出面があるので、接着面とすることができる。なお、接着面とは単位基板を重ね合わせて積層する際に接着が生じる面をいう。そして、重ね合わせる単位基板の組合せや数は任意に定め得るが、隣接する2枚の単位基板間の両接着面がともに導体層Dとならないようにする。
この絶縁層と導体層である金属箔とからなる単位基板は、公知の方法で用意することができ、例えば、用意した熱可塑性樹脂フィルムと金属箔とを加圧ロールを通過させることにより、単位基板を製造することができる。
単位基板からは、例えば、金属箔が銅箔である場合、その銅箔に感光性レジストを貼り付け、露光、現像したのち塩化第二鉄で銅箔をエッチングすることで絶縁層上に所定のパターンによる導体の配線回路を形成することができる。
本発明の多層配線基板の製造方法では、熱可塑性樹脂からなる絶縁層を有する配線基板の湿度による寸法変化率(以下、吸湿膨張係数と略す)が10ppm/%RH以下であることが望ましい。一般的に、多層配線基板を構成する基板層は、ガラスクロスなどにより補強された絶縁層が用いられており、吸湿時の寸法変化率は20ppm/%RH以下である。
しかし、補強された絶縁層は、吸湿時の電気特性の劣化を生じ、小さい寸法変化率と電気特性とは両立しない。本発明の多層配線基板は、フレキシブル性を保持させるために補強材などを使用しないため、寸法安定性と電気特性とを両立させる絶縁層が必要となる。
ここで、吸湿膨張係数は、絶縁層の吸水率や水との親和性を有する官能基の量などに関係するので、吸水率が非常に小さく、かつ絶縁特性および高周波帯での電気特性が良好な熱可塑性樹脂を用いることで両立が可能となる。吸湿膨張係数が10ppm/%RHよりも大きい場合は、一般的な高密度配線加工の信頼性が低下し、小さい場合には補強した絶縁層を用いなければならず、フレキシブル性が低下する。
多層配線基板を構成する配線基板の絶縁層は、加工面において熱可塑性樹脂が好ましく、さらに、高周波特性の良好な熱可塑性樹脂が好ましい。具体的には、周波数が1GHz以上における比誘電率が3以下、かつ誘電正接が0.005以下であることが望ましい。
比誘電率は、高周波回路の信号の伝播速度に関係し、低いほど伝播速度が向上する。また誘電正接は、信号の伝送損失と関係し、小さいほど低電力化や低ノイズ化が可能となる。絶縁層の比誘電率や誘電正接は低い方が望ましいが、絶縁層の化学構造や高次構造で決定されるパラメータであるので、熱可塑性と高周波特性とを両立する熱可塑性樹脂としては、液晶ポリマーを用いることがより好ましい。
液晶ポリマーの層は、光学的異方性の溶融相を形成し、サーモトロピック液晶高分子とも呼ばれている。このような光学的に異方性を形成する溶融相を形成する高分子は、当業者にはよく知られているように、加熱装置を備えた偏光顕微鏡直交ニコル下で溶融状態の試料を観察したときに偏光を透過する高分子である。
液晶ポリマーは、特に限定されるものではないが、以下に例示する1)〜4)に分類される化合物およびその誘導体から合成される公知のサーモトロピック液晶ポリエステルおよびポリエステルアミドを挙げることができる。但し、高分子液晶を形成するためには、各々の原料化合物の組合せに適当な範囲がある。
1)芳香族または脂肪族ジヒドロキシ化合物(代表例は化1参照)
Figure 0005226035
2)芳香族または脂肪族ジカルボン酸(代表例は化2参照)
Figure 0005226035
3)芳香族ヒドロキシカルボン酸(代表例は化3参照)
Figure 0005226035
4)芳香族ジアミン、芳香族ヒドロキシアミンまたは芳香族アミノカルボン酸(代表例は化4参照)
Figure 0005226035
これらの原料化合物から得られる液晶ポリマーの代表例として、化5に示す構造単位を有する共重合体を挙げることができる。
Figure 0005226035
好ましい液晶ポリマーとしては、化6に示すp−ヒドロキシ安息香酸単位と6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸単位とを主成分として含有するポリエステル樹脂がある。化6において、mおよびnは1以上の繰り返し数を示し、p−ヒドロキシ安息香酸単位と6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸単位はブロック状として存在しても、ランダム状に存在してもよい。
Figure 0005226035
この積層板を構成する液晶ポリマー層は、熱可塑性樹脂が好ましく、例えば押出成型、塗布等により得ることができる。例えば、液晶ポリマー層となる液晶ポリマーフィルムを押出成型によって製造する場合、任意の押出成型法が適用できるが、周知のTダイ法、ラミネート体延伸法、インフレーション法などが工業的に有利である。
特に、インフレーション法やラミネート体延伸法では、フィルムの機械軸方向(以下、MD方向)だけでなく、これと直交する方向(以下、TD方向)にも応力が加えられるため、MD方向とTD方向における機械的性質のバランスのとれたフィルムが得られる。
液晶ポリマーは、耐熱性、加工性の点で200〜400℃、特に250〜350℃の範囲内において、光学的に異方性の溶融相への転移温度を有するものが好ましい。また、フィルムの特性を損なわない範囲で、滑剤、酸化防止剤、充填剤などが配合されていてもよい。
単位基板の液晶ポリマー層の好ましい厚み範囲は、200μm以下であり、より好ましくは20〜150μm、特に好ましくは25〜100μmである。単位基板の導体回路または導体層を構成する金属の種類は、特に制限がなく、金、銀、銅、鉄、ニッケル、アルミニウムまたはこれらの合金金属などが例示される。
単位基板を金属箔を用いて製造する場合、銅箔(銅を主成分とする銅合金箔を含む)、ステンレス箔が好ましく用いられる。銅箔としては、圧延法や電気分解法によって製造されるいずれのものでも使用することができる。金属箔には、液晶ポリマーフィルムとの接着力を確保することなどを目的として、粗化処理などの物理的表面処理あるいは酸洗浄などの化学的表面処理を本発明の効果を損なわない範囲で施していてもよい。
金属箔を使用する場合、その好ましい厚さ範囲は、5〜50μmであり、より好ましくは8〜35μmの範囲である。金属箔の厚みを薄くすることは、ファインパターンを形成可能であるという点からは好ましいが、その厚さが薄くなり過ぎると、製造工程上、金属箔にしわが生じたりする他、配線基板として回路形成した場合にも配線の破断が生じたり配線基板の信頼性が低下したりする恐れがある。
一方、金属箔の厚みが厚くなると、金属箔をエッチング加工する際、回路側面にテーパーが生じ、ファインパターンの形成上好ましくなくなる。なお、積層板における導体回路は、スパッタリング法、メッキ法により形成されるものでもよい。
本発明においては、液晶ポリマー層の表面に導体回路または導体層を有する単位基板を重ね合わせるが、導体回路や導体層はその片面のみに有するものであってもよく、また液晶ポリマー層の両面に有していてもよい。
単位基板を重ね合わせるに当っては、その積層前に、積層面となる液晶ポリマー層(導体回路が表面に形成されたものを含む)の少なくとも一方の面、好ましくは両面に対して、アルカリ混合溶液を薬液とする薬液処理を施すこと、または、プラズマ処理を施すことを要する。あるいは、導電層である銅箔面の粗化処理を施すことが必要である。これらの薬液処理、プラズマ処理により、液晶ポリマー層表面に緻密な粗化面を形成することができ、多層基板の層間接着力を向上させ信頼性の高い多層配線基板とすることが可能となる。また、銅箔粗化処理により液晶ポリマーと銅箔間の接着力を向上させることが可能である。
薬液処理の温度は、40〜90℃の範囲で行うことが好ましく、60〜80℃の範囲で行うことが特に好ましい。また、上記アルカリ混合溶液は、脂肪族アミン0.5〜5.0mol/L、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物5.0〜10.0mol/L、脂肪族アルコール4.0〜8.0mol/Lおよび水を含有するアルカリ混合溶液を用いることが、導体回路を過剰に溶解させることなく液晶ポリマー層表面に微細な凹凸を形成するのに適している。なお、浸漬時間は、1〜3分程度がよい。この処理条件を大きく外れ、フィルムエッチングが不十分となると、表面に緻密な粗度が発現せずフィルム層間接着力が低くなるし、また、フィルムエッチングが過大となると、回路下部を溶解させてしまう恐れがある。
上記アルカリ混合溶液に用いられる脂肪族アミン、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物および脂肪族アルコールとしては、次のような化合物が好ましいものとして挙げられる。脂肪族アミンとしては、一価または二価の第1級アミンもしくは第2級アミンがあり、エチレンジアミン、エタノールアミン、プロパノールアミン、ブタノールアミンが好ましく挙げられ、その中でもエチレンジアミンが好ましい。アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属の水酸化物が好ましく挙げられ、水酸化カリウムがより好ましい。脂肪族アルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、ブチルアルコールのような一価のアルコール、およびエチレングリコール、プロピレングリコール、トリエチレングリコール、分子量が500程度のポリエチレングリコール等が好ましく挙げられ、その中でもエチレングリコールが好ましい。
薬液処理を単一溶剤で行うことも考えられるが、この場合、処理面の凹凸が緻密でないため多層配線基板を製造した場合、層間の接着性が良好とはならない。また、液晶ポリマー層の表面処理を機械研磨により行う方法も考えられるが、単一溶剤を用いた場合と同様に処理面の凹凸が緻密とならず接着性が良好とはならない。
積層板への薬液処理は、積層板の積層面に当る液晶ポリマー層表面への処理が施されれば、その手段は限定されない。積層面の全面に微細な凹凸を形成するという観点からは、上記アルカリ混合溶液をスプレーノズル等を用いて、液晶ポリマー積層面に噴射して行うことが好ましい。この際、薬液処理は、片方または両方の積層面に任意に処理することができる。
このように、薬液処理により、液晶ポリマー層の表面に微細な凹凸を形成することができるが、本発明においては、この薬液処理とともにまたはその後、薬液に含有される溶媒を除去し、次いで、重ね合わせた複数の積層板を加熱、加圧下で積層して多層配線基板を製造する。溶媒の除去は、薬液処理後の水洗及び乾燥によって行われる。薬液処理された液晶ポリマー層の表面粗さ(Ra)は、0.1〜0.4μmの範囲にあることが望ましく、0.25〜0.3μmがより好適である。Raが大きい場合、表面状態の凹凸形状に緻密差がなくなってアンカー効果が得られず、また、逆にRaが低過ぎると表面が平滑になるためアンカー効果が得られなくなるからである。
プラズマ処理は、装置に導入したガスに高周波電力を印加してプラズマ状態とし、そこで生じた+イオンを加速して、基板に衝突させ、エッチング反応を促進させるRIEモードを含む処理方法が望ましく、処理を行うガスの種類は、Ar,O,N,CFなどが存在するが、特にArを使用するのが望ましい。処理時間は、10〜20分程度がよい。この処理時間を外れると、処理が不充分であれば表面に緻密な粗化面が形成されず、処理が過剰になると緻密な粗化状態が破壊される恐れがある。
導電層である銅箔の粗化処理は、ブラスト処理、研磨等の乾式の粗化方法、薬液による湿式の粗化方法が存在するが、特に黒化処理を用いることが望ましい。
液晶ポリマーの積層面が薬液処理された単位基板は、他の単位基板と積層されるために加熱、加圧処理が施される。積層は、精密プレス機によって行うことができ、積層時の加熱温度は、240℃〜265℃、圧力は、4.0MPa〜6.0MPaの条件で行うことが好ましい。
多層配線基板の製造には2以上の単位基板が用いられるが、ここで用いられる単位基板の液晶ポリマー層は、多層基板とした場合に隣接する液晶ポリマー層間でそのフロー開始温度が15℃以上異なることが望ましい。このフロー開始温度の差が15℃未満であると、その単位基板を用いて多層配線基板とした場合、積層時の加圧により各層の樹脂が同時にフロー開始し、全ての導体回路が動き易くなり、導体回路の位置決め制御が困難となるおそれがあるからである。
このような点から、多層配線基板を構成する液晶ポリマー層にはフロー開始温度が15℃以上異なる2層以上を用い、その少なくとも1層の液晶ポリマーのフロー開始温度を250〜260℃の範囲にし、またこの層と隣接する他の少なくとも1層の液晶ポリマーのフロー開始温度を265℃以上、特に好ましくは270〜280℃の範囲とすることが好ましい。このように、フロー開始温度の異なる2種類以上の液晶ポリマー層を多層基板の構成材料とすることで、製造工程における高温精密プレス加工時に導体配線の位置ずれがなく、導体回路に適切な状態で樹脂を充填でき、基板が安定的に製造可能となる。
多層配線基板の構成としては、液晶ポリマー層を3層重ねる場合、コア側をフロー開始温度が高いものとし、その両側をフロー開始温度の低いものとすることが有利である。そのような構成とすることにより、一般的な高温精密プレス加工時に導体配線の位置ずれがなく、導体回路に適切に樹脂を充填することができる。
なお、本発明におけるフロー開始温度は、厚さ50μmの液晶ポリマーフィルムに5mmの穴をパンチで開口したのち、固定圧力下(3.9MPa)で温度を変化させてプレスを行い、このときに開口部の半径が200μmを超えて変化する最初の温度をいう。
以下、本発明を実施例に基づき説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
参考例
(a) p−ヒドロキシ安息香酸と6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の共重合物をインフレーション製膜し、膜厚が50μmのフィルムを得た。これを、液晶ポリマー層とする。このフィルムのトリプレート線路共振法による1GHzでの比誘電率は2.85、誘電正接は0.0025であった。
(b) フロー開始温度が280℃の液晶ポリマー層の両面に銅箔を有する単位基板と、フロー開始温度が260℃の液晶ポリマー層の片面に銅箔を有する単位基板との、液晶ポリマーフィルムと銅箔(厚さ18μm)とからなる片面および両面銅箔付き単位基板を2種用意した。
(c) 銅箔に感光性レジストを貼り付け、露光、現像したのち塩化第二鉄で銅箔をエッチング加工し、回路パターンを形成した。回路パターン形成により得られた導体回路積層板は、両面導体回路積層板および片面導体回路積層板である。この導体回路積層板の吸湿膨張係数は、4ppm/%RHであった。
1)吸湿膨張係数の測定法
IPC-TM-650 2.2.4に準じて試料を作成し、試料の乾燥後(相対湿度RH=0%)の寸法をL0、湿度をRH(%)、調湿後の寸法をL1として、以下の式により求めることができる。
吸湿膨張係数=[(L1−L0)/L0]/RH
2)比誘電率および誘電正接の測定法
図1に示すように、地導体1/液晶ポリマー2/ストリップ導体3/液晶ポリマー2/地導体1の組合せからなるマイクロストリップ構造の配線基板を作製し、トリプレート線路共振法(損失分離法)を用いて測定した。測定方法は、以下の通りである。
比誘電率の測定方法
トリプレート線路共振器の共振周波数(fr)、3db帯域幅(δf)、透過電力比(at)、共振次数(m)を測定し、共振器内の誘電体の比誘電率(εr)と共振周波数frとの関係は、以下の式で求められる。
・m
εr=
4(L+δL)・fr
ここで、cは自由空間中の電磁波速度、mは共振次数、Lはストリップ導体長、δLは端効果によるLの増加分である。
誘電正接の測定方法
共振器内のすべての損失に依存するQ値(Quality Factor)の逆数(1/Q0)と誘電正接(tanδ)との関係は、以下の式で求められる。
1/Q0=tanδ+1/Qc+1/Qe+1/Qr
ここで、Qcは導体損によるQ値、Qeは共振線路端における放射損によるQ値、Qrは共振線路側面からの放射損によるQ値である。
3)層間接着力、耐はんだ性の評価のための多層配線基板の準備
(a) 絶縁層(厚さ50μm)が液晶ポリマーであり、その片面に銅箔(厚さ18μm)を有する片面銅張積層板であって、液晶ポリマー層のフロー開始温度が260℃と280℃とである2種類の片面銅張積層板(単位基板)を準備した。
(b) この2種の片面銅張積層板の液晶ポリマー面に対し、以下の2種の処理をそれぞれ実施した。所定温度に調整した薬液AまたはBを用い、1分間薬液処理し、その後純水で水洗後、60℃の熱風オーブンで5分間乾燥させた。一方、他の処理として、RIEモードを含むプラズマ処理をした。また、銅箔と液晶ポリマーとの接着力を確認するため、この片面銅張積層板の銅箔面に黒化処理をした。
(c) その後、各処理が実施された基板に対して、この2種の片面銅張積層板の処理された面が重なるように積層し、精密プレスにて260℃、4.0MPaの圧力でプレスを行い積層板、すなわち配線基板A(図2)とした。
4)折り曲げ性試験のための多層配線基板の準備
(a) 絶縁層(厚さ50μm)としてフロー開始温度280℃の液晶ポリマーを使用し、その両面に銅箔(厚さ18μm)を有する両面銅張基板にドライフィルムを貼り、櫛型パターン(L/S=200μm/200μm)を形成するように露光、現像したのち、塩化第二鉄でCuをエッチング、ドライフィルムを剥離し両面に櫛型パターンを形成した銅張基板(両面導体回路基板)を作成した。
(b) 一方、絶縁層としてフロー開始温度260℃の液晶ポリマーを使用し、その片面に銅箔を有する片面銅張基板を作成した。
(c) これら銅張基板の各積層面(両面導体回路基板にあっては両面、片面銅張基板にあっては液晶ポリマー層面)を、所定温度に調整した薬液AまたはBを用いて1分間薬液処理し、その後、純水で水洗し、60℃の熱風オーブンで5分間乾燥させた上で、両面導体回路基板の両面に片面銅張基板を積層し、精密プレスにて260℃、4.0MPaの圧力でプレスを行い試験片とした。
(d) 作成した基板の最外層の銅箔をエッチングして除去し、これを評価用の配線基板Bとした。
図3は、この積層構造を説明するための断面図であり、液晶ポリマー7面に導体回路9を有する薬液処理された両面導体回路基板の両面に、液晶ポリマー層側が薬液処理された片面銅張基板8を積層した構造を示す。ここで、積層面に現れている凹凸は、薬液処理によって生じたものである。
5)薬液の準備
(a) 薬液A:水酸化カリウム(6.0mol)を水(335mL)に溶解させたのち、エチレングリコール(3.5mol)、エチレンジアミン(1.8mol)を混合し、アルカリ混合溶液を得た。このようにして得られたアルカリ混合溶液をポリ容器に入れ、スターラ付きのホットプレートで加熱、攪拌しながらアルカリ混合溶液の液温を調整した。
(b) 薬液B:水酸化ナトリウム(0.1mol)を水(995mL)に溶解させ、アルカリ水溶液を得た。薬液Aの調整法と同様の方法で液温を調整した。
(c) 薬液C:水酸化カリウム(8.9mol)を水(500mL)に溶解させ、アルカリ水溶液を得た。薬液Aの調整法と同様の方法で液温を調整した。
6)液晶ポリマーのフロー開始温度の測定
フロー開始温度の測定は、厚さ50μmの液晶ポリマーフィルムを用い、これに5mmの穴をパンチで開口したのち、固定圧力下(3.9MPa)で温度を変化させてプレスを行う方法で測定した。この方法で低温から温度を上昇させて測定を行い、開口部の半径が200μmを超え変化する最初の温度をフロー開始温度とした。
7)層間接着力の測定
上記により作成された配線基板Aを、10mmの短冊状に打ち抜き試験片とした。この試験片の接着界面を出したのち、東洋精機株式会社製の引っ張り試験機で常温にて90°方向に引っ張り、このときの荷重を測定した。
8)耐はんだ性の測定
上記により作成された配線基板Aを、30×30mmにカットし試験片とした。この試験片を260℃のはんだ浴に1分間浸漬させ、試験片の変形、発泡、ふくれの測定を行った。
9)折り曲げ性の測定
配線基板Bを、50mmの短冊状にカットし試験片とした。この試験片を180°に10回折り曲げ、層間の剥がれを調べた。
10)薬液処理面(Ra)の測定
薬液処理後の片面銅張基板の液晶ポリマー表面の粗さRa(平均線から絶対値偏差の平均値)を、レーザー顕微鏡(キーエンス社製)で測定した。
実施例1
参考例で得られた2種類の単位基板を用いて多層配線基板を作成するに当り、事前に、単位基板としての両面銅張基板の、積層面の液晶ポリマー層に60℃に調整した薬液Aを用いて、浸漬により薬液処理を行った。処理後、垂直状態で1分間放置し、純水で2回洗浄した。洗浄後、60℃で30分の乾燥を行い、積層面の液晶ポリマー層表面に緻密な凹凸を形成した。処理面の表面形状をレーザー顕微鏡で観察したところ、Raは平均値で0.3μmであった。
そして、積層構造の断面図である図3に示すように、液晶ポリマー層7の両面に導体回路9を有する両面銅張基板5をコアとし、その両面に液晶ポリマー層8の片面に導体回路9を有する片面銅張基板4および6を重ね合わせた。次に、これを精密プレス機でプレスを行い、プリント多層配線基板を得た。
この際、プレス条件は、温度260℃、圧力6.0MPa、15分とした。なお、この場合、片面銅張基板4および6の積層面の薬液処理は行わなかった。また別に、フロー開始温度が280℃と260℃の2種の液晶ポリマーフィルムを絶縁層とする積層板、多層配線基板を作成して上記各評価を行った。
実施例2
単位基板である両面銅張基板5と同じく片面銅張基板4および6との3枚の積層面を薬液Aで処理したこと以外は、実施例1と同様に行った。図3は、この積層構造を示す。ここで、積層面に現れている凹凸は、薬液処理によって生じたものである。
実施例3,4
薬液処理の温度条件を60℃から80℃に変更した以外は、実施例1または2と同様に行った。
実施例5〜9
参考例で得られた2種類の単位基板を用いて多層配線基板を作成するに当り、事前に、各単位基板の液晶ポリマー層に、プラズマ処理を行った。処理時のガス種をCF,O,Ar,Nで評価を行い、Arに関しては処理時間を変更し評価を行った。その後のプレスに関しては、実施例1と同様に行った。
実施例10
参考例で得られた2種類の単位基板を用いて多層配線基板を作成するに当り、事前に、各単位基板の銅箔層の面に対して、黒化処理を行った。その後のプレスに関しては、実施例1と同様に行った。
比較例1
積層時に薬液処理を行わなかつた点以外は、実施例1と同様に行った。
比較例2〜5
薬液処理時に薬液Bを用いて、60℃または80℃の各条件で行った。両面銅張基板の表面のみを処理した場合(比較例2、4)と両方の単位基板の表面を処理した場合とについて評価した。
比較例6〜9
薬液処理時に薬液Cを用いて、60℃または80℃の各条件で行った。両面銅張基板の表面のみを処理した場合(比較例2、4)と両方の単位基板の表面を処理した場合とについて評価した。
比較例10
銅箔面に処理を行わず、その後のプレスに関しては実施例1と同様に行った。条件および結果を表1、表2、表3に示す。処理面の2面は両面銅張基板の表面のみを処理した場合を意味し、4面は両面銅張基板と片面銅張基板の積層面の全部を処理した場合を意味する。
Figure 0005226035
Figure 0005226035
Figure 0005226035
1 地導体、
2 熱可塑性液晶ポリマー、
3 ストリップ導体、
4 片面銅張基板(液晶ポリマーのフロー開始温度260℃)、
5 両面銅張基板(液晶ポリマーのフロー開始温度280℃)、
6 片面銅張基板(液晶ポリマーのフロー開始温度260℃)、
7 液晶ポリマー層(液晶ポリマーのフロー開始温度280℃)、
8 液晶ポリマー層(液晶ポリマーのフロー開始温度260℃)、
9 導体回路、
10 銅箔層。

Claims (6)

  1. 周波数1GHz以上における比誘電率が3以下で、誘電正接が0.005以下である液晶ポリマーからなる絶縁層の少なくとも一面に導電層が設けられてなる単位基板を重ね合わせて積層配線基板を製造する方法において、
    前記単位基板の各々における少なくとも一方の面にArガスを用いたRIEモードを含むプラズマを用いて前記絶縁層にプラズマ粗化処理を施し、
    前記処理の施された面を他の単位基板の面に重ねて2以上の層を有する積層板を形成し、
    前記積層板を加熱、加圧処理し、
    前記絶縁層間の常温での90°ピール強度が0.5kN/m以上である、
    ことを特徴とする積層配線基板の製造法。
  2. 請求項1に記載の積層配線基板の製造法において、
    前記熱可塑性樹脂層の一方のフロー開始温度が250〜260℃の範囲にあり、この層と接する前記熱可塑性樹脂層の他方のフロー開始温度が270〜280℃の範囲にあり、前記フロー開始温度の温度差が15℃以上である
    ことを特徴とする積層配線基板の製造法。
  3. 請求項1または2に記載の積層配線基板の製造法において、
    積層時に他の熱可塑性樹脂層と接する面にある導電層を粗化処理した後、前記積層板を加熱、加圧下で積層する
    ことを特徴とする積層配線基板の製造法。
  4. 請求項3記載の積層配線基板の製造法において、
    前記粗化処理は、黒化処理であることを特徴とする積層配線基板の製造法。
  5. 請求項記載の積層配線基板の製造法において、
    前記積層配線基板の湿度による寸法変化率が、10ppm/%RH以下であることを特徴とする積層配線基板の製造法
  6. 請求項記載の積層配線基板の製造法において、
    前記液晶ポリマーは、少なくともp−ヒドロキシ安息香酸および6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸を構成単位とする
    ことを特徴とする積層配線基板の製造法
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