JP5224670B2 - 環状部材の拘束焼入方法 - Google Patents

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Description

本発明は環状部材の拘束焼入方法に関し、より特定的には、環状部材を拘束することにより変形を抑制する環状部材の拘束焼入方法に関するものである。
軸受の軌道輪などの環状部材に対する焼入硬化処理においては、熱処理の際に生ずる変形(熱処理変形)や真円度の低下を抑制するため、当該環状部材を拘束した状態で焼入の冷却を実施する拘束焼入が採用される場合がある。この拘束焼入は、焼入時において、環状部材を構成する鋼がマルテンサイト変態により膨張することを利用したものである。すなわち、環状部材が拘束部材に囲まれた状態で焼入の冷却が実施されることにより、環状部材が拘束部材の壁面に沿って膨張し、所望の形状の環状部材を得ることができる。しかし、この方法によれば、拘束焼入の冷却が終了した時点で、拘束部材の内壁と環状部材とが密着するため、環状部材を拘束部材から分離することが困難となり、焼入硬化処理の効率が低下する場合がある。
これに対し、上部および下部に円形の開口が形成された円柱形状の内壁を有する拘束部材を採用し、環状部材を上部の開口から順次押し込んでいき、環状部材を冷却するとともに、冷却が完了した環状部材を下部の開口から押し出す拘束焼入方法が提案されている。これにより、環状部材の拘束部材からの分離が順次行なわれ、焼入硬化処理の効率低下を抑制することができる(たとえば特許文献1参照)。
特開平9−176740号公報
しかしながら、特許文献1に記載の拘束焼入方法を含めて、環状部材の外周面や内周面に、拘束部材の壁面を密着させて環状部材を拘束する従来の拘束焼入方法では、環状部材の拘束開始時点における寸法を予め正確に予測しておかなければならないという問題点がある。すなわち、環状部材の拘束開始時点における寸法が拘束部材の壁面に囲まれた空間よりも大きい場合、拘束そのものが不可能となる。一方、環状部材の拘束開始時点における寸法が拘束部材の壁面に囲まれた空間よりも小さ過ぎる場合、焼入により環状部材が膨張しても、環状部材が拘束部材により十分拘束されない。
また、上記従来の拘束焼入方法では、環状部材の拘束開始時点における寸法が正確に予測できる場合であっても、焼入が行なわれる環状部材の寸法ごとに、それに応じた寸法を有する拘束部材を準備する必要がある。さらに、実際の生産ラインにおいては、焼入が行なわれる環状部材の寸法が変更されるたびに、使用する拘束部材を取り換える必要があり、焼入の処理効率が低下する。
以上のように、従来の拘束焼入方法は、十分な拘束の効果を確保するために環状部材の正確な寸法予測や多数の拘束部材の準備が必要である点、拘束部材の取り替え(段取り換え)が煩雑である点、などの問題点を有していた。そして、上記問題点は、十分な拘束の効果の確保を困難にするとともに、焼入硬化処理の処理効率を低下させ、環状部材の生産コストの上昇を招来する。
そこで、本発明の目的は、容易に、十分な拘束の効果を確保するとともに、焼入硬化処理の処理効率を上昇させ、環状部材の生産コストを抑制することが可能な環状部材の拘束焼入方法を提供することである。
本発明に従った環状部材の拘束焼入方法は、加熱工程と、第1冷却工程と、拘束工程と、第2冷却工程とを備えている。加熱工程では、鋼からなる環状部材がA点以上の温度に加熱される。第1冷却工程では、加熱工程において加熱された環状部材が、A点以上の温度からM点以下の温度である第1冷却温度まで冷却される。拘束工程では、第1冷却温度まで冷却された環状部材が拘束部材により拘束される。第2冷却工程では、拘束部材により拘束された環状部材が、拘束部材による拘束が開始される温度であり、M点以下の温度である拘束開始温度よりも低い温度である第2冷却温度まで、拘束部材により拘束されつつ冷却される。そして、拘束工程および第2冷却工程においては、環状部材の外周面および少なくとも一方の端面において、環状部材と拘束部材とが接触することなく、環状部材の外周面と当該少なくとも一方の端面とが交差する部位である稜線部において、拘束部材と環状部材とが接触するように環状部材が拘束される。また、第2冷却工程における冷却速度は6℃/秒以下である。
一般に、環状部材の拘束焼入の冷却においては、環状部材の外周面および端面が全体にわたって拘束部材と接触するように、環状部材が拘束される。これに対し、本発明者は、環状部材の拘束焼入における拘束部位と、焼入後の環状部材の寸法精度および真円度との関係について詳細な検討を行なった。その結果、以下のような知見を得た。
すなわち、環状部材の拘束焼入の冷却においては、環状部材の外周面および端面において、環状部材と拘束部材とが接触しなくても、環状部材の外周面と端面とが交差する部位である稜線部において、拘束部材と環状部材とが接触するように環状部材が拘束されることにより、十分な寸法精度および真円度を得ることができること、および稜線部における拘束は、必ずしも両側の端面に隣接する稜線部において行なわれる必要はなく、一方側のみで行なわれても、十分な寸法精度および真円度を得ることができること、を本発明者は見出した。
本発明の環状部材の拘束焼入方法では、加熱工程においてA点以上の温度に加熱されてオーステナイト化した鋼からなる環状部材は、第1冷却工程においてM点以下の第1冷却温度に冷却されることにより、マルテンサイト変態を開始する。ここで、鋼のマルテンサイト変態は、温度を低下させなければ進行しない。また、鋼は、M点以下の温度に冷却されている場合、パーライト変態およびベイナイト変態も進行しない。そして、拘束工程で、環状部材が稜線部において拘束され、第2冷却工程においてさらに第2冷却温度まで冷却されることによりマルテンサイト変態が進行し、真円度の低下および熱処理変形が抑制されつつ環状部材が硬化する。
ここで、たとえば環状部材と接触するための壁面である拘束面が、一の軸に垂直な面における断面が円形である拘束部材、あるいは拘束面が一の軸に対して傾斜している部分を有する拘束部材、具体的には拘束面が円錐面形状、球面形状などの形状を有する拘束部材が採用される。そして、拘束部材の当該一の軸と環状部材の軸とが一致するように、拘束部材の拘束面と環状部材の稜線部とを接触させることにより、環状部材の拘束開始時点における寸法を予め正確に予測することなく、環状部材を稜線部において拘束することができる。一方、上述のように、稜線部において、拘束部材と環状部材とが接触するように環状部材が拘束されることにより、十分な寸法精度および真円度を得ることができる。そのため、容易に、十分な拘束の効果を確保することができる。
また、上述のように稜線部において環状部材が拘束されることにより、たとえば上記のような拘束部材が採用されれば、環状部材の寸法ごとに、それに応じた拘束面の形状(上記一の軸に垂直な断面の直径)を有する拘束部材を準備する必要がなく、一の拘束部材を種々の寸法の環状部材の拘束に使用することができる。さらに、実際の生産ラインにおいても、焼入が行なわれる環状部材の寸法が変更されるたびに、使用する拘束部材を取り換える必要がなく、焼入の処理効率が向上する。そのため、焼入硬化処理の処理効率を上昇させ、環状部材の生産コストを抑制することが可能となる。
以上のように本発明の環状部材の拘束焼入方法によれば、容易に、十分な拘束の効果を確保するとともに、焼入硬化処理の処理効率を上昇させ、環状部材の生産コストを抑制することができる。また、第2冷却工程における冷却速度を6℃/秒以下とすることにより、真円度の低下や熱処理変形を一層抑制することができる。なお、冷却速度が1℃/秒未満では、熱処理変形や真円度の低下の抑制効果が飽和する一方、第2冷却工程に要する時間が長くなり、焼入硬化処理の処理効率が低下する。そのため、第2冷却工程における冷却速度は1℃/秒以上とすることが好ましい。ここで、冷却速度とは、単位時間あたりの温度の低下幅をいう。
なお、採用されるべき拘束部材の拘束面は、円錐面形状、球面形状など軸方向に垂直な断面が円形であり、軸方向において断面の直径が連続的に小さくなる(または大きくなる)壁面を有する拘束部材であればよい。また、上記拘束部材の軸を含む断面における拘束部材と環状部材との接触部での軸に垂直な面と拘束面とのなす角度(拘束部材テーパ角度)は、径方向の拘束力と軸方向の拘束力とのバランスを考慮して45度とするのが理想的であるが、拘束部材の加工精度等を考慮すると±0.5度程度のばらつきを見込む必要があり、44.5度以上45.5度以下とすることができる。さらに、拘束工程および第2冷却工程において、環状部材の内周面は拘束されてもよいが、基本的には上記稜線部が拘束されることで、十分な拘束の効果を確保できるため、拘束されなくてもよい。
また、A点とは鋼を加熱した場合に、鋼の組織がフェライトからオーステナイトに変態を開始する温度に相当する点をいう。また、M点とはオーステナイト化した鋼が冷却される際に、マルテンサイト化を開始する温度に相当する点をいう。
上記環状部材の拘束焼入方法において好ましくは、拘束開始温度は150℃以上である。上述のように、本発明の環状部材の拘束焼入方法においては、環状部材が拘束されつつ冷却され、環状部材を構成する鋼のマルテンサイト変態が進行することにより、環状部材の真円度の低下および熱処理変形が抑制される。しかし、拘束開始温度が150℃未満では、拘束開始前に既にマルテンサイト変態が相当程度進行しており、拘束開始後にマルテンサイトに変態するオーステナイトの割合が少なくなっている。そのため、拘束による熱処理変形および真円度の低下の抑制効果が不十分となる。拘束開始温度を150℃以上とすることにより、拘束開始後にマルテンサイトに変態するオーステナイトの割合が十分に確保され、環状部材の熱処理変形および真円度の低下が一層抑制される。
上記環状部材の拘束焼入方法において好ましくは、第2冷却温度は100℃以下である。100℃よりも高い温度で環状部材の拘束が終了した場合、その後の冷却において新たにマルテンサイト変態するオーステナイトの割合が多いため、その後の冷却において熱処理変形や真円度の低下が発生するおそれがある。第2冷却温度を100℃以下とすることにより、その後にマルテンサイト変態するオーステナイトの割合を十分に抑制し、環状部材の熱処理変形および真円度の低下を一層抑制することができる。なお、環状部材を構成する鋼のM点まで環状部材の拘束を継続すれば、残存しているオーステナイトはなくなり、その後の冷却による真円度の低下や熱処理変形をほぼ完全に回避することができる。したがって、M点未満の温度域に環状部材を冷却しても、更なる効果が期待できず、焼入硬化処理の効率低下を招来するため、第2冷却温度はM点以上とすることができる。ここで、M点とは、オーステナイト化した鋼が冷却される際に、マルテンサイト化が完了する温度に相当する点をいう。
上記環状部材の拘束焼入方法において好ましくは、拘束工程および第2冷却工程においては、環状部材は、44.5度以上45.5度以下の拘束部材テーパ角度を有する拘束部材により、以下の式(1)の関係を満たす荷重L以上の荷重が負荷されて拘束される。
L=3.175×(C/C−1.754×S ・・・(1)
ここで、Lは、荷重(N)、Sは、軸を含む環状部材の断面における分離した2つの断面のうち一方の断面の断面積(mm)、Cは、拘束前における環状部材の真円度(μm)、Cは、焼入後において要求される環状部材の真円度(μm)である。
本発明者による検討の結果、拘束前における環状部材の真円度がCであって、45度±0.5度(44.5度以上45.5度以下)の拘束部材テーパ角度を有する拘束部材により環状部材が拘束される場合、焼入後に真円度をCまで改善するためには、上記式(1)で表される荷重L以上の荷重が必要であることが明らかとなった。そのため、環状部材が荷重L以上の荷重が負荷されて拘束されることにより、所望の真円度Cまで真円度を改善することが可能となる。
なお、拘束前における環状部材の真円度(C)は、焼入硬化処理開始前(加熱前)の真円度とほとんど同一の値となる。そのため、式(1)においては、拘束前における環状部材の真円度(C)に代えて、焼入硬化処理開始前(加熱前)の真円度を採用してもよい。また、真円度とは、JIS B7451に規定された最小二乗中心法(LSC)による真円度である。
以上の説明から明らかなように、本発明の環状部材の拘束焼入方法によれば、容易に、十分な拘束の効果を確保するとともに、焼入硬化処理の処理効率を上昇させ、環状部材の生産コストを抑制することが可能な環状部材の拘束焼入方法を提供することができる。
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付しその説明は繰返さない。
(実施の形態1)
図1は、本発明の環状部材の拘束焼入方法における一実施の形態である実施の形態1の環状部材としての軸受軌道輪10の概略断面図である。また、図2は、実施の形態1における環状部材の拘束焼入方法の概略を示す流れ図である。また、図3は、実施の形態1における環状部材の拘束焼入方法の拘束工程および第2冷却工程を説明するための概略断面図である。図1〜図3を参照して、実施の形態1における環状部材の拘束焼入方法について説明する。
図1を参照して、軸受軌道輪10は、円筒状の形状を有しており、外周面11と、軸受軌道輪10の軸αを含む断面において外周面11に平行な内周面13と、外周面11および内周面13に交差(直交)する2つの端面12、12を備えている。また、2つの端面12、12の各々と外周面11が交差する部位には、それぞれ稜線部14、14が形成されている。稜線部14は、たとえば面取りされた領域である面取り部である。以下、軸受軌道輪10に対して実施される実施の形態1における環状部材の拘束焼入方法について説明する。
図2を参照して、実施の形態1における環状部材の拘束焼入方法は、加熱工程と、第1冷却工程と、拘束工程と、第2冷却工程とを備えている。加熱工程では、軸受鋼(たとえばJIS規格SUJ2)などの鋼からなる環状部材としての軸受軌道輪10がA点以上の温度である800℃以上1000℃以下の温度、たとえば850℃に加熱される。第1冷却工程では、加熱工程において加熱された軸受軌道輪10が、A点以上の温度からM点以下の温度である150℃以上250℃以下の温度、たとえば230℃の第1冷却温度まで冷却される。
さらに、図2および図3を参照して、拘束工程では、第1冷却温度まで冷却された軸受軌道輪10が拘束部材30により拘束される。第2冷却工程では、拘束部材30により拘束された軸受軌道輪10が、拘束部材30による拘束が開始される温度であり、M点以下の温度である拘束開始温度よりも低い温度である30℃以上100℃以下の温度、たとえば80℃の第2冷却温度まで、拘束部材30により拘束されつつ冷却される。
ここで、上記加熱および冷却により行なわれる焼入硬化処理としては、大気中で加熱され、その後冷却される通常の焼入硬化処理が採用されてもよいし、光輝熱処理、浸炭窒化処理などの制御された雰囲気中で加熱され、その後冷却される焼入硬化処理が採用されてもよい。
そして、拘束工程および第2冷却工程においては、図3を参照して、軸受軌道輪10の外周面11および2つの端面12、12において、軸受軌道輪10と拘束部材30とが接触することなく、軸受軌道輪10の外周面11と2つの端面12、12とが交差する部位である稜線部14において、拘束部材30と軸受軌道輪10とが接触するように軸受軌道輪10が拘束される。
より具体的には、拘束工程においては、第1冷却温度まで冷却された軸受軌道輪10が拘束冷却装置20を用いて拘束され、第2冷却工程においては、拘束工程において拘束された軸受軌道輪10が、拘束された状態を保持しつつ、第2冷却温度まで冷却される。ここで、実施の形態1における拘束冷却装置20は、支持台33と、支持台33上に配置された下部拘束部材32と、下部拘束部材32上に配置された上部拘束部材31と、上部拘束部材31上に配置された荷重伝達部材34とを備えている。下部拘束部材32および上部拘束部材31は、拘束部材30を構成している。
支持台33には、平坦な面である支持面33Aが形成されている。下部拘束部材32には、円錐面形状を有する拘束面32Aが形成されている。拘束面32Aは、直円錐の側面の一部を構成する形状を有している。そして、下部拘束部材32は、平坦な面である底面32Bにおいて支持台33の支持面33Aに接触するように配置されている。また、下部拘束部材32は、拘束面32Aを含む直円錐の頂点と底面の中心とを結ぶ軸である軸βに垂直な面と、拘束面32Aとが交差して形成される円が支持面33Aに対して平行になるように配置されている。さらに、下部拘束部材32は、拘束面32Aからみて、拘束面32Aを含む直円錐の頂点が、支持台33の側になるように、支持台33上に配置されている。すなわち、下部拘束部材32は、軸βに垂直な面と拘束面32Aとが交差して形成される円の直径が、支持台33に近づくにしたがって小さくなるように、支持台33上に配置されている。
一方、上部拘束部材31には、下部拘束部材32と同様に、円錐面形状を有する拘束面31Aが形成されているほか、基本的には下部拘束部材32と同様の構成を有している。そして、上部拘束部材31の拘束面31Aと、下部拘束部材32の拘束面32Aとが、互いに対向するように、上部拘束部材31は配置されている。また、上部拘束部材31は、拘束面31Aを含む直円錐の頂点と底面の中心とを結ぶ軸である軸γに垂直な面と、拘束面31Aとが交差して形成される円が支持面33Aに対して平行になるように配置されている。さらに、上部拘束部材31は、拘束面31Aからみて、拘束面31Aを含む直円錐の頂点が、支持台33とは反対側の側になるように配置されている。すなわち、上部拘束部材31は、軸γに垂直な面と拘束面31Aとが交差して形成される円の直径が、支持台33に近づくにしたがって大きくなるように、下部拘束部材32上に配置されている。また、上部拘束部材31および下部拘束部材32の軸βと軸γとが一致するように、上部拘束部材31および下部拘束部材32は配置されている。
さらに、荷重伝達部材34は、平坦な面である平坦面34Aが、支持面33Aと平行になるように、かつ上部拘束部材31の平坦な面である底面31Bに接触するように配置されている。
次に、拘束工程における拘束冷却装置20を用いた軸受軌道輪10の拘束の手順について説明する。まず、第1冷却温度まで冷却された軸受軌道輪10の軸αが、支持台33上に配置された下部拘束部材32の軸βに一致するように、軸受軌道輪10が下部拘束部材32の拘束面32Aに接触するようにセットされる。ここで、前述のように、拘束面32Aは直円錐の側面の一部であるため、軸受軌道輪10は、稜線部14において下部拘束部材32の拘束面32Aに接触し、外周面11、内周面13、端面12においては、下部拘束部材32と接触しない。
その後、上部拘束部材31は、上部拘束部材31の軸γが、軸受軌道輪10の軸αおよび下部拘束部材32の軸βと一致する状態を保持しつつ、下部拘束部材32との距離を減じるように移動し、軸受軌道輪10と接触する。ここで、前述のように、拘束面31Aも直円錐の側面の一部であるため、軸受軌道輪10は、稜線部14において上部拘束部材31の拘束面31Aに接触し、外周面11、内周面13、端面12においては、上部拘束部材31と接触しない。そして、上部拘束部材31上には底面31Bに接触するように荷重伝達部材34が配置され、図示しないプレス用重錘、油圧シリンダなどの荷重負荷装置により荷重伝達部材34に所望の荷重Lが負荷される。これにより、軸受軌道輪10は、稜線部14において拘束される。
そして、第2冷却工程においては、上述のように拘束工程において拘束された軸受軌道輪10が、拘束された状態を保持しつつ第2冷却温度まで冷却される。ここで軸受軌道輪10は、上述のように拘束された状態で大気中に放置されることにより冷却されてもよいし(放冷)、ブロアなどの送風装置が用いられて空気などの気体が吹き付けられて冷却されてもよい(衝風冷却)。また、焼入硬化処理の効率化を図るため、軸受軌道輪10が油中に浸漬されて、あるいは油が吹き付けられて冷却されてもよいし(油冷)、水中に浸漬されて、あるいは水が吹き付けられて冷却されてもよい(水冷)。
上述のように、実施の形態1の拘束工程および第2冷却工程では、稜線部14において、拘束部材30と環状部材としての軸受軌道輪10とが接触するように軸受軌道輪10が拘束されることにより、十分な寸法精度および真円度を得ることができる。ここで、実施の形態1の拘束工程によれば、軸α、軸βおよび軸γが一致するように拘束を行なうことで、軸受軌道輪10の拘束開始時点における寸法を予め正確に予測することなく、軸受軌道輪10を稜線部14において拘束することができる。そのため、容易に、十分な拘束の効果を確保することができる。
また、上述のように稜線部14において軸受軌道輪10が拘束されることにより、軸受軌道輪10の寸法ごとに、それに応じた拘束面31A、32Aの形状を有する拘束部材30を準備する必要がなく、一の拘束部材30を種々の寸法の軸受軌道輪10の拘束に使用することができる。さらに、実際の生産ラインにおいても、焼入が行なわれる軸受軌道輪10の寸法が変更されるたびに、使用する拘束部材30を取り換える必要がなく、焼入の処理効率が向上する。そのため、焼入硬化処理の処理効率を上昇させ、軸受軌道輪10の生産コストを抑制することが可能となる。
以上のように実施の形態1における環状部材の拘束焼入方法によれば、容易に、十分な拘束の効果を確保するとともに、焼入硬化処理の処理効率を上昇させ、環状部材としての軸受軌道輪10の生産コストを抑制することができる。
さらに、実施の形態1における環状部材の拘束焼入方法においては、拘束開始温度は150℃以上であることが好ましい。これにより、拘束開始後にマルテンサイトに変態するオーステナイトの割合が十分に確保され、軸受軌道輪10の熱処理変形および真円度の低下が一層抑制される。
さらに、実施の形態1における環状部材の拘束焼入方法においては、第2冷却温度は100℃以下であることが好ましい。これにより、第2冷却工程の後にマルテンサイト変態するオーステナイトの割合を十分に抑制し、軸受軌道輪10の熱処理変形および真円度の低下を一層抑制することができる。
さらに、実施の形態1における環状部材の拘束焼入方法においては、第2冷却工程における冷却速度は6℃/秒以下であることが好ましい。これにより、軸受軌道輪10の熱処理変形や真円度の低下を一層抑制することができる。
さらに、実施の形態1における軸受軌道輪10の拘束焼入方法においては、拘束工程および第2冷却工程において、軸受軌道輪10が、44.5度以上45.5度以下の拘束部材テーパ角度(下部拘束部材テーパ角度θ、および上部拘束部材テーパ角度θ)を有する拘束部材30により、以下の式(1)の関係を満たす荷重L以上の荷重が負荷されて拘束されることが好ましい。
L=3.175×(C/C−1.754×S ・・・(1)
これにより、所望の真円度Cまで軸受軌道輪10の真円度を改善することが可能となる。
さらに、上記本発明の実施の形態1における環状部材の拘束焼入方法を採用し、環状部材の製造方法を提供することができる。図4は、実施の形態1における環状部材の製造方法の概略を示す流れ図である。図4を参照して、実施の形態1における環状部材の製造方法を説明する。
図4を参照して、実施の形態1における環状部材の製造方法は、成形部材準備工程と、焼入硬化工程と、焼戻工程と、仕上げ加工工程とを備えている。成形部材準備工程では、鋼からなり、環状部材としての軸受軌道輪10の概略形状に成形された部材である成形部材が準備される。具体的には、たとえばJIS規格 SUJ2からなる鋼材が鍛造、切削等により加工されて、成形部材が作製される。焼入硬化工程では、成形部材準備工程において準備された成形部材が焼入硬化される。焼戻工程では、焼入硬化工程において焼入硬化された成形部材が、A点未満の温度である150℃以上300℃以下の温度、たとえば180℃に加熱され、30分間以上240分間以下の時間、たとえば120分間保持されて、その後室温の空気中で放冷される(空冷)。仕上げ加工工程においては、焼戻工程において焼戻が実施された成形部材が、仕上げ加工される。具体的には、成形部材に対して、研削加工、超仕上げ加工などの仕上げ加工が施され、環状部材としての軸受軌道輪10が完成する。
そして、上記焼入硬化工程における焼入処理は、本発明の実施の形態1における環状部材の拘束焼入方法を用いて実施される。上述のように、容易に、十分な拘束の効果を確保するとともに、焼入硬化処理の処理効率を上昇させることが可能な実施の形態1における環状部材の拘束焼入方法が焼入硬化工程において採用されることにより、本発明の実施の形態1における環状部材の製造方法によれば、熱処理変形および真円度の低下が安定して抑制され、かつ生産コストが抑制される。
(実施の形態2)
図5は、本発明の環状部材の拘束焼入方法における一実施の形態である実施の形態2の環状部材としての軸受軌道輪10の概略断面図である。また、図6は、実施の形態2における環状部材の拘束焼入方法の拘束工程および第2冷却工程を説明するための概略断面図である。図5および図6を参照して、実施の形態2における環状部材の拘束焼入方法について説明する。
図5を参照して、実施の形態2における環状部材としての軸受軌道輪10は、基本的には実施の形態1における軸受軌道輪10と同様の構成を有している。しかし、実施の形態2における軸受軌道輪10は、軸αを含む断面において、外周面11と内周面13とが平行ではなく、環状部材のテーパ角度としての軌道輪テーパ角度Aをなすテーパ形状を有している点において、実施の形態1の軸受軌道輪10とは異なっている。そして、軸受軌道輪10は、径方向の厚みの大きい厚肉側端面12Aと、厚肉側端面12Aよりも径方向の厚みの小さい薄肉側端面12Bとを有している。以下、軸受軌道輪10に対して実施される実施の形態2における環状部材の拘束焼入方法について説明する。なお、環状部材のテーパ角度とは、環状部材の軸を通る断面において、内周面を延長した直線と軸とがなす角度である。
図6を参照して、実施の形態2における環状部材の拘束焼入方法は、基本的には実施の形態1における環状部材の拘束焼入方法と同様に実施される。しかし、環状部材としての軸受軌道輪10の形状、および拘束部材30の構成が異なっていることに起因して、実施の形態1における環状部材の拘束焼入方法とは異なる点を有している。
すなわち、図6を参照して、実施の形態2における拘束冷却装置20は、実施の形態1における下部拘束部材32を備えておらず、支持台33が実施の形態1における下部拘束部材32の役割を果たしている。すなわち、実施の形態2の拘束冷却装置20においては、上部拘束部材31および支持台33が、拘束部材30を構成している。
次に、実施の形態2における拘束冷却装置20を用いた軸受軌道輪10の拘束の手順について説明する。まず、第1冷却温度まで冷却された軸受軌道輪10が、薄肉側端面12Bにおいて支持台33の支持面33Aに接触するように、支持台33上にセットされる。すなわち、軸受軌道輪10は、一方の端面である薄肉側端面12Bにおいて、拘束部材30と接触する。
その後、上部拘束部材31は、上部拘束部材31の軸γが、軸受軌道輪10の軸αと一致する状態を保持しつつ、支持台33との距離を減じるように移動し、軸受軌道輪10と接触する。ここで、実施の形態1の場合と同様に、拘束面31Aは直円錐の側面の一部であるため、軸受軌道輪10は、厚肉側端面12Aに隣接する厚肉側稜線部14Aにおいて上部拘束部材31の拘束面31Aに接触し、外周面11、内周面13および厚肉側端面12Aにおいては、上部拘束部材31と接触しない。そして、上部拘束部材31上には底面31Bに接触するように荷重伝達部材34が配置され、図示しないプレス用重錘、油圧シリンダなどの荷重負荷装置により荷重伝達部材34に所望の荷重Lが負荷される。これにより、軸受軌道輪10は、厚肉側端面12Aに隣接する厚肉側稜線部14A、および薄肉側端面12Bにおいて拘束される。
そして、第2冷却工程においては、実施の形態1の場合と同様に拘束工程において拘束された軸受軌道輪10が、拘束された状態を保持しつつ第2冷却温度まで冷却される。
上述のように、実施の形態2における環状部材の拘束焼入方法においては、環状部材としての軸受軌道輪10が、一方の稜線部である厚肉側稜線部14Aにおいて拘束される。ここで、稜線部における環状部材の拘束は、必ずしも両側の端面に隣接する稜線部において行なわれる必要はなく、一方側のみで行なわれても、十分な寸法精度および真円度を得ることができる。また、一方側のみで稜線部が拘束される場合であって、拘束される環状部材がテーパ形状を有している場合には、環状部材において径方向の厚みが大きい側の端面に隣接する稜線部(環状部材において径方向の厚みが大きい部分に近い側の端面に隣接する稜線部)が拘束されることで、径方向の厚みが小さい側の端面に隣接する稜線部が拘束される場合よりも、より高い寸法精度および真円度を得ることができる。
そのため、実施の形態2における環状部材の拘束焼入方法では、軸受軌道輪10が、一方の稜線部である厚肉側稜線部14Aにおいて拘束されることにより、両方の稜線部14A、14Bにおいて拘束された場合と遜色ない程度の寸法精度および真円度を得ることができる。また、軸αおよび軸γが一致するように拘束を行なうことで、軸受軌道輪10の拘束開始時点における寸法を予め正確に予測することなく、軸受軌道輪10を厚肉側稜線部14Aにおいて拘束することができる。そのため、容易に、十分な拘束の効果を確保することができる。
さらに、厚肉側稜線部14Aが上部拘束部材31の拘束面31Aにより拘束され、かつ薄肉側端面12Bが支持台33の支持面33Aにより拘束されることにより、軸受軌道輪10の寸法ごとに、それに応じた形状を有する拘束部材30を準備する必要がなく、一の拘束部材30を種々の寸法の軸受軌道輪10の拘束に使用することができる。さらに、実際の生産ラインにおいても、焼入が行なわれる軸受軌道輪10の寸法が変更されるたびに、使用する拘束部材30を取り換える必要がなく、焼入の処理効率が向上する。そのため、焼入硬化処理の処理効率を上昇させ、軸受軌道輪10の生産コストを抑制することが可能となる。
また、実施の形態2の環状部材の拘束焼入方法によれば、実施の形態1の場合に比べて、拘束冷却装置20の構成要素(下部拘束部材32)を低減することができる。そのため、拘束冷却装置20を簡略化できるばかりでなく、軸受軌道輪10の軸α方向の長さ(軸受軌道輪10の高さ)が小さい場合でも、拘束部材30同士が干渉しにくくなり、より広い寸法範囲の軸受軌道輪10を拘束することができる。
なお、図4に基づいて説明した実施の形態1における環状部材の製造方法の焼入硬化工程における焼入処理は、上記実施の形態2における環状部材の拘束焼入方法を用いて実施されてもよい。
以下、本発明の実施例1について説明する。環状部材の真円度に及ぼす(1)拘束の有無、(2)拘束開始温度、(3)拘束終了温度(第2冷却温度)、(4)第2冷却工程での冷却速度、(5)環状部材の形状、(6)下部拘束部材のテーパ角度、(7)拘束荷重、の影響について調査する試験を行なった。
まず、試験方法について説明する。まず、高炭素クロム軸受鋼であるJIS規格SUJ2の鋼材を旋削加工等により成形し、外径φ85.0mm、内径φ70.0mmの円筒状(テーパなし)の環状部材(図1)および外径φ80.4mm、厚肉側内径φ68.5mm、薄肉側内径φ75.6mmのテーパ形状を有する環状部材(図5)の2種類の環状部材を作製した。そして、当該環状部材を、脱炭を防止するために還元性の雰囲気に調整された加熱炉中に挿入し、810℃に40分間保持した。
その後、環状部材を加熱炉から取り出し、直ちに(1秒以内に)80℃に調整された焼入油(コールドタイプ、日本グリース株式会社製ハイスピードクエンチオイルNo.1070S)中に浸漬し、M点以下の温度である第1冷却温度まで冷却した。そして、環状部材を焼入油中から取り出し、図3に基づいて説明した実施の形態1における拘束冷却装置20を用いて拘束した。このとき、テーパ形状を有する環状部材に関しては、薄肉側の端面に隣接する稜線部が下部拘束部材32に接触するように拘束した。また、拘束を開始した時点での環状部材の温度(拘束開始温度)を測定した。拘束開始温度は、M点以下の温度となっており、かつ第1冷却温度よりも低い温度となっていた。
さらに、拘束された環状部材を拘束開始温度よりも低い第2冷却温度まで冷却し、その後、拘束冷却装置から取り出した。上述の手順において、拘束開始温度、拘束終了温度(第2冷却温度)、第2冷却工程での冷却速度、環状部材の形状および下部拘束部材のテーパ角度を変化させた環状部材を作製し、サンプルとした。
そして、上述のように作製されたサンプルについて、真円度測定装置を用いて、JIS B7451に規定された最小二乗中心法(LSC)による真円度を測定した。なお、真円度は、その数値が小さいほど真円に近く、真円度が優れていることを表す。
また、拘束の効果を確認するため、上述の手順のうち、拘束冷却装置による拘束を省略したサンプルも作製し、真円度を測定した。
次に、試験の結果について説明する。表1には、試験の条件および真円度の測定結果が示されている。ここで、実際の量産工程を考慮すると、真円度に関しては、ばらつきが小さいことも重要となる。そのため、測定された真円度の平均値とともに標準偏差も算出され、表1に表示されている。
Figure 0005224670
(1)拘束の有無
まず、稜線部における拘束の有無の影響について説明する。表1を参照して、拘束を実施していないサンプル番号1および2と、上述のように稜線部における拘束を実施したサンプル番号3〜18とを比較すると、稜線部における拘束を実施したサンプル番号3〜18は、サンプル番号1および2に比べて真円度の平均値および標準偏差が小さくなっている。このことから、稜線部において環状部材を拘束することにより、真円度を向上させることが可能であることが確認された。
(2)拘束開始温度
次に、拘束開始温度の影響について説明する。図7は、表1のサンプル番号10、11および4のデータに基づき、拘束開始温度と真円度との関係を示した図である。図7において、横軸は拘束開始温度、縦軸は真円度を示しており、丸印は真円度の平均値、バツ印は真円度の標準偏差を示している。
図7を参照して、拘束開始温度が150℃以上では、真円度の平均値は一定となっているのに対し、拘束開始温度が150℃未満では、真円度が2倍以上に悪化している。これは、拘束開始温度が150℃未満では、拘束開始後にマルテンサイトに変態するオーステナイトの割合が少なくなっているため、拘束による熱処理変形および真円度の低下の抑制効果が不十分となるためであると考えられる。また、図7を参照して、拘束開始温度を250℃とすると、真円度の平均値には差がないものの、標準偏差が大幅に抑制されており、真円度のばらつきが小さくなっていることが分かる。
以上より、真円度を向上させるためには、拘束開始温度は、150℃以上とすることが好ましく、250℃以上とすることがより好ましいことが確認された。
(3)拘束終了温度(第2冷却温度)
次に、拘束終了温度(第2冷却温度)の影響について説明する。図8は、表1のサンプル番号12〜14および4のデータに基づき、拘束終了温度(第2冷却温度)と真円度との関係を示した図である。図8において、横軸は拘束終了温度(第2冷却温度)、縦軸は真円度を示しており、丸印は真円度の平均値、バツ印は真円度の標準偏差を示している。
図8を参照して、拘束終了温度が100℃以下である場合、真円度の平均値は一定となっているのに対し、拘束終了温度が100℃を超えると、真円度が大幅に悪化している。これは、100℃よりも高い温度で環状部材の拘束が終了した場合、その後の冷却において新たにマルテンサイト変態するオーステナイトの割合が多いため、その後の冷却において熱処理変形や真円度の低下が発生したためであると考えられる。また、図8を参照して、拘束終了温度を80℃以下とすると、真円度の平均値には差がないものの、標準偏差が大幅に抑制されており、真円度のばらつきが小さくなっていることが分かる。
以上より、真円度を向上させるためには、拘束終了温度は、100℃以下とすることが好ましく、80℃以下とすることがより好ましいことが確認された。
(4)第2冷却工程での冷却速度
次に、第2冷却工程での冷却速度の影響について説明する。図9は、表1のサンプル番号15〜17および4のデータに基づき、第2冷却工程での冷却速度と真円度との関係を示した図である。図9において、横軸は第2冷却工程での冷却速度、縦軸は真円度を示しており、丸印は真円度の平均値、バツ印は真円度の標準偏差を示している。
図9を参照して、冷却速度が6℃/秒以下である場合、真円度の平均値はほぼ一定となっているのに対し、冷却速度が6℃/秒を超えると、真円度が大幅に悪化している。これは、6℃/秒を超える冷却速度で環状部材が冷却された場合、変態時の変態超塑性における応力と歪との関係の冷却速度依存性が大きくなるためであると考えられる。また、図9を参照して、冷却速度を3℃/秒以下とすると、真円度の平均値には差がないものの、標準偏差が大幅に抑制されており、真円度のばらつきが小さくなっていることが分かる。
以上より、真円度を向上させるためには、第2冷却工程での冷却速度は、6℃/秒以下とすることが好ましく、3℃/秒以下とすることがより好ましいことが確認された。
(5)環状部材の形状
次に、環状部材の形状の影響について説明する。図10は、表1のサンプル番号18および5のデータに基づき、環状部材の形状と真円度との関係を示した図である。図10において、横軸は環状部材がテーパ形状を有しているか否か(A:図5のテーパ形状、B:図1の非テーパ形状)、縦軸は真円度を示しており、丸印は真円度の平均値、バツ印は真円度の標準偏差を示している。
図10を参照して、いずれの環状部材の形状でもほぼ同等の真円度が得られており、環状部材がテーパ形状を有しているか否かは、真円度にほとんど影響を与えないことが分かった。
(6)下部拘束部材のテーパ角度
次に、下部拘束部材のテーパ角度の影響について説明する。図11は、表1のサンプル番号6〜9および5のデータに基づき、下部拘束部材のテーパ角度と真円度との関係を示した図である。図11において、横軸は下部拘束部材のテーパ角度、縦軸は真円度を示しており、丸印は真円度の平均値、バツ印は真円度の標準偏差を示している。
図11を参照して、下部拘束部材のテーパ角度が大きくなると、真円度の平均値がやや大きくなる傾向にあるとも考えられるが、標準偏差がほぼ一定であることも考慮すると、下部拘束部材のテーパ角度が真円度に及ぼす影響は小さいといえる。また、下部拘束部材のテーパ角度が0度の場合、すなわち下部拘束部材が平板形状であって環状部材を径方向に拘束していない場合であっても、真円度は低下していない。
以上より、環状部材の稜線部における拘束は、必ずしも両側の端面に隣接する稜線部において行なわれる必要はなく、一方側のみで行なわれても、両側で行なわれた場合と同等の真円度が得られることが確認された。
(7)拘束荷重
次に、拘束荷重の影響について説明する。図12は、表1のサンプル番号3〜5のデータに基づき、拘束荷重と真円度との関係を示した図である。図12において、横軸は拘束荷重(図3において荷重伝達部材34に負荷される荷重L)、縦軸は真円度を示しており、丸印は真円度の平均値、バツ印は真円度の標準偏差を示している。
図12を参照して、拘束荷重が20kgf以上である場合、真円度はほぼ一定となっているのに対し、拘束荷重が20kgf未満では、真円度が大幅に悪化している。したがって、上記環状部材の形状の範囲では、拘束荷重は20kgf以上であることが好ましいといえる。
ここで、第1冷却工程での冷却速度が十分であって、表面から内部まで均一に焼入硬化される焼入条件においては、環状部材は表面から内部まで均一に冷却される。そのため、上述の(1)〜(7)において説明した関係は、環状部材の大きさおよび形状に関わらず、成立するものと考えられる。ただし、(8)において説明した拘束荷重と真円度との関係は、環状部材の大きさおよび形状に依存する可能性がある。そのため、拘束荷重と真円度との関係については、以下の実施例2において別途詳細に検討した。
以下、本発明の実施例2について説明する。所望の真円度を得るために必要な拘束荷重を調査する解析を行なった。以下、解析方法について説明する。
まず、図1および図5に基づいて説明した環状部材に関して、三次元FEM(Finite Element Method;有限要素法)解析モデルを作成した。図13は、図5の環状部材の三次元FEM解析モデルを示す図である。図13を参照して、図5の環状部材の三次元FEM解析モデルは、図3に基づいて説明した拘束冷却装置20により図5の環状部材を荷重Lで拘束するモデルである。また、図1の環状部材についても、図13と同様に、図3に基づいて説明した拘束冷却装置20により荷重Lで拘束するモデルを作成した。なお、下部拘束部材テーパ角度θ、および上部拘束部材テーパ角度θは、いずれも45度とした。また、解析モデルの環状部材には、予め真円度150μmの楕円変形を与えた。
次に、上述の実施例1における試験結果の拘束荷重と真円度の平均値との関係に合うように、FEM解析によりマルテンサイト変態進行中の変態超塑性における応力σと歪εとの関係(σ−ε線図)を導出した。その結果、以下の式(2)に示す応力σと歪εとの関係が得られた。ただし、環状部材のヤング率は210GPaとした。
σ=1.4×10+2×1010ε ・・・(2)
ここで、σは応力(Pa)、εは相当塑性歪である。
このσ−εの関係を用いて、種々の形状および大きさを有する環状部材を種々の拘束荷重で拘束した場合の真円度を算出した。表2に解析の条件および解析の結果得られた拘束終了後(焼入処理終了後)の真円度を示す。
Figure 0005224670
そして、表2の結果を回帰分析したところ、以下の式(3)が得られた。
L/S=3.175×(C/C−1.754・・・(3)
ここで、Lは、荷重(N)、Sは、軸を含む環状部材の断面における分離した2つの断面のうち一方の断面の断面積(mm)、Cは、拘束前における環状部材の真円度(μm)、Cは、焼入後において要求される環状部材の真円度(μm)である。
この式(3)より、以下の式(1)が得られる。そして、Cを、焼入後において要求される環状部材の真円度(μm)、すなわち所望の真円度とすると、式(1)により算出される荷重L以上の荷重が負荷されることにより、当該所望の真円度が得られる。
L=3.175×(C/C−1.754×S ・・・(1)
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
本発明の環状部材の拘束焼入方法は、鋼からなる環状部材を拘束することにより変形を抑制する環状部材の拘束焼入方法に、特に有利に適用され得る。
実施の形態1の環状部材としての軸受軌道輪の概略断面図である。 実施の形態1における環状部材の拘束焼入方法の概略を示す流れ図である。 実施の形態1における環状部材の拘束焼入方法の拘束工程および第2冷却工程を説明するための概略断面図である。 実施の形態1における環状部材の製造方法の概略を示す流れ図である。 実施の形態2の環状部材としての軸受軌道輪10の概略断面図である。 実施の形態2における環状部材の拘束焼入方法の拘束工程および第2冷却工程を説明するための概略断面図である。 拘束開始温度と真円度との関係を示した図である。 拘束終了温度(第2冷却温度)と真円度との関係を示した図である。 第2冷却工程での冷却速度と真円度との関係を示した図である。 環状部材の形状と真円度との関係を示した図である。 下部拘束部材のテーパ角度と真円度との関係を示した図である。 拘束荷重と真円度との関係を示した図である。 図5の環状部材の三次元FEM解析モデルを示す図である。
符号の説明
10 軸受軌道輪、11 外周面、12 端面、12A 厚肉側端面、12B 薄肉側端面、13 内周面、14 稜線部、20 拘束冷却装置、30 拘束部材、31 上部拘束部材、31A 拘束面、31B 底面、32 下部拘束部材、32A 拘束面、32B 底面、33 支持台、33A 支持面、34 荷重伝達部材、34A 平坦面。

Claims (4)

  1. 鋼からなる環状部材がA点以上の温度に加熱される加熱工程と、
    前記加熱工程において加熱された前記環状部材が、A点以上の温度からM点以下の温度である第1冷却温度まで冷却される第1冷却工程と、
    前記第1冷却温度まで冷却された前記環状部材が拘束部材により拘束される拘束工程と、
    前記拘束部材により拘束された前記環状部材が、前記拘束部材による拘束が開始される温度である拘束開始温度よりも低い温度であり、M点以下の温度である第2冷却温度まで、前記拘束部材により拘束されつつ冷却される第2冷却工程とを備え、
    前記拘束工程および前記第2冷却工程においては、前記環状部材の外周面および少なくとも一方の端面において前記環状部材と前記拘束部材とが接触することなく、前記環状部材の前記外周面と前記少なくとも一方の端面とが交差する部位である稜線部において、前記拘束部材と前記環状部材とが接触するように前記環状部材が拘束され、
    前記第2冷却工程における冷却速度は6℃/秒以下である、環状部材の拘束焼入方法。
  2. 前記拘束開始温度は150℃以上である、請求項1に記載の環状部材の拘束焼入方法。
  3. 前記第2冷却温度は100℃以下である、請求項1または2のいずれか1項に記載の環状部材の拘束焼入方法。
  4. 前記拘束工程および前記第2冷却工程においては、前記環状部材は、44.5度以上45.5度以下の拘束部材テーパ角度を有する前記拘束部材により、以下の式(1)の関係を満たす荷重L以上の荷重が負荷されて拘束される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の環状部材の拘束焼入方法。
    L=3.175×(C/C−1.754×S ・・・(1)
    ここで、Lは、荷重(N)、Sは、軸を含む環状部材の断面における分離した2つの断面のうち一方の断面の断面積(mm)、Cは、拘束前における環状部材の真円度(μm)、Cは、焼入後において要求される環状部材の真円度(μm)である。
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