図1は本発明の一実施例としての動力伝達装置を搭載する自動車10の構成の概略を示す構成図であり、図2はオートマチックトランスミッション20の作動表を示し、図3はオートマチックトランスミッション20の油圧回路50の構成の概略を示す構成図であり、図4はオートマチックトランスミッション20のマニュアルバルブ58を中心とした構成の概略を示す構成図である。実施例の自動車10は、図1に示すように、ガソリンや軽油などの炭化水素系の燃料の爆発燃焼により動力を出力する内燃機関としてのエンジン12と、エンジン12を運転制御するエンジン用電子制御ユニット(以下、エンジンECUという)16と、エンジン12のクランクシャフト14に取り付けられたロックアップクラッチ付きのトルクコンバータ24と、このトルクコンバータ24の出力側に入力軸21が接続されると共にギヤ機構26およびデファレンシャルギヤ28を介して駆動輪18a,18bに出力軸22が接続され入力軸21に入力された動力を変速して出力軸22に伝達する有段のオートマチックトランスミッション20と、オートマチックトランスミッション20を制御するオートマチックトランスミッション用電子制御ユニット(以下、ATECUという)29およびシフトバイワイヤシステム用電子制御ユニット(以下、SBWECUという)100と、車両全体をコントロールするメイン電子制御ユニット(以下、メインECUという)90とを備える。
エンジンECU16は、詳細に図示しないが、CPUを中心としたマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に処理プログラムを記憶するROMと、データを一時的に記憶するRAMと、入出力ポートと、通信ポートとを備える。このエンジンECU16には、クランクシャフト14に取り付けられた回転数センサなどのエンジン12を運転制御するのに必要な各種センサからの信号が入力ポートを介して入力されており、エンジンECU16からは、スロットル開度を調節するスロットルモータへの駆動信号や燃料噴射弁への制御信号,点火プラグへの点火信号などが出力ポートを介して出力されている。エンジンECU16は、メインECU90と通信しており、メインECU90からの制御信号によってエンジン12を制御したり、必要に応じてエンジン12の運転状態に関するデータをメインECU90に出力する。
オートマチックトランスミッション20は、図1に示すように、6段変速の有段変速機として構成されており、シングルピニオン式の遊星歯車機構30とラビニヨ式の遊星歯車機構40と三つのクラッチC1,C2,C3と二つのブレーキB1,B2とワンウェイクラッチF1とを備える。シングルピニオン式の遊星歯車機構30は、外歯歯車としてのサンギヤ31と、このサンギヤ31と同心円上に配置された内歯歯車としてのリングギヤ32と、サンギヤ31に噛合すると共にリングギヤ32に噛合する複数のピニオンギヤ33と、複数のピニオンギヤ33を自転かつ公転自在に保持するキャリア34とを備え、サンギヤ31はケースに固定されており、リングギヤ32は入力軸21に接続されている。ラビニヨ式の遊星歯車機構40は、外歯歯車の二つのサンギヤ41a,41bと、内歯歯車のリングギヤ42と、サンギヤ41aに噛合する複数のショートピニオンギヤ43aと、サンギヤ41bおよび複数のショートピニオンギヤ43aに噛合すると共にリングギヤ42に噛合する複数のロングピニオンギヤ43bと、複数のショートピニオンギヤ43aおよび複数のロングピニオンギヤ43bとを連結して自転かつ公転自在に保持するキャリア44とを備え、サンギヤ41aはクラッチC1を介してシングルピニオン式の遊星歯車機構30のキャリア34に接続され、サンギヤ41bはクラッチC3を介してキャリア34に接続されると共にブレーキB1を介してケースに接続され、リングギヤ42は出力軸22に接続され、キャリア44はクラッチC2を介して入力軸21に接続されている。また、キャリア44はブレーキB2を介してケースに接続されると共にワンウェイクラッチF1を介してケースに接続されている。
こうして構成されたオートマチックトランスミッション20では、図2の作動表に示すように、クラッチC1〜C3のオンオフ(オンが係合でオフが係合解除とも呼ぶ、以下同じ)とブレーキB1,B2のオンオフとの組み合わせにより前進1速〜6速と後進とニュートラルとを切り換えることができるようになっている。図2に示すように、前進1速の状態は、クラッチC1をオンとすると共にクラッチC2,C3とブレーキB1,B2とをオフとする(エンジンブレーキ時にはブレーキB2をオンする)ことにより形成することができ、前進2速の状態は、クラッチC1とブレーキB1とをオンとすると共にクラッチC2,C3とブレーキB2とをオフとすることにより形成することができ、前進3速の状態は、クラッチC1,C3をオンとすると共にクラッチC2とブレーキB1,B2とをオフとすることにより形成することができ、前進4速の状態は、クラッチC1,C2をオンとすると共にクラッチC3とブレーキB1,B2とをオフとすることにより形成することができ、前進5速の状態は、クラッチC2,C3をオンとすると共にクラッチC1とブレーキB1,B2とをオフとすることにより形成することができ、前進6速の状態は、クラッチC2とブレーキB1とをオンとすると共にクラッチC1,C3とブレーキB2とをオフとすることにより形成することができる。また、後進の状態は、クラッチC3とブレーキB2とをオンとすると共にクラッチC1,C2とブレーキB1とをオフとすることにより形成することができる。ニュートラルの状態は、すべてのクラッチC1〜C3とブレーキB1,B2とをオフとすることにより形成することができる。
オートマチックトランスミッション20のクラッチC1〜C3やブレーキB1,B2は、油圧回路50により駆動される。この油圧回路50は、図3に示すように、エンジン12からの動力を用いてストレーナ51から作動油を吸引して圧送する機械式オイルポンプ52と、機械式オイルポンプ52により圧送された作動油の圧力(ライン圧PL)を調節するレギュレータバルブ54と、ライン圧PLから図示しないモジュレータバルブを介して入力されたモジュレータ圧PMODを用いてレギュレータバルブ54を駆動するリニアソレノイド56と、ライン圧PLを入力する入力ポート58aとDポジション用出力ポート58bとRポジション用出力ポート58cとを有するマニュアルバルブ58と、マニュアルバルブ58のDポジション用出力ポート58bからのドライブ圧PDを入力すると共に調圧してクラッチC1に出力するノーマルクローズ型のリニアソレノイドSLC1と、マニュアルバルブ58のDポジション用出力ポート58bからのドライブ圧PDを入力すると共に調圧して出力するノーマルクローズ型のリニアソレノイドSLC2と、ライン圧PLを入力すると共に調圧して出力するノーマルオープン型のリニアソレノイドSLC3と、マニュアルバルブ58のDポジション用出力ポート58bからのドライブ圧PDを入力すると共に調圧してブレーキB1に出力するノーマルクローズ型のリニアソレノイドSLB1と、リニアソレノイドSLC3からの出力圧であるSLC3圧を入力すると共にクラッチC3か他方の油路69かに選択的に出力するC3リレーバルブ60と、C3リレーバルブ60からの出力圧を他方の油路69を介して入力しクラッチC2か他方の油路79かに選択的に出力すると共にリニアソレノイドSLC2からの出力圧であるSLC2圧を入力してC3リレーバルブ60の出力圧をクラッチC2に出力するときにはSLC2圧を油路79に出力しC3リレーバルブ60の出力圧を油路79に出力するときにはSLC2圧を遮断するC2リレーバルブ70と、油路79に出力されたC2リレーバルブ70からの出力圧とマニュアルバルブ58のRポジション用出力ポート58cから出力されたリバース圧PRとを選択的に入力してブレーキB2に出力するB2リレーバルブ80と、ライン圧PLからモジュレータバルブを介して入力されたモジュレータ圧PMODを用いてC2リレーバルブ70に駆動用の信号圧を出力するためのノーマルオープン型のオンオフソレノイドS1と、ライン圧PLからモジュレータバルブを介して入力されたモジュレータ圧PMODを用いてC3リレーバルブ60とB2リレーバルブ80とに駆動用の信号圧を出力するためのノーマルクローズ型のオンオフソレノイドS2などにより構成されている。なお、マニュアルバルブ58のRポジション用出力ポート58cとB2リレーバルブ80の入力ポート82dとの間の油路には、B2リレーバルブ80側の方向に逆止弁59aが設けられると共に逆止弁59aに並列してオリフィス59bが設けられている。
C3リレーバルブ60は、オンオフソレノイドS2からの信号圧を入力する信号圧用入力ポート62aとリニアソレノイドSLC3からの出力圧(SLC3圧)を入力する入力ポート62bとクラッチC3に油圧を出力する出力ポート62cと油路69に油圧を出力する出力ポート62dとドレンポート62eとが形成されたスリーブ62と、スリーブ62内を軸方向に摺動するスプール64と、スプール64を軸方向に付勢するスプリング66とにより構成されている。このC3リレーバルブ60は、オンオフソレノイドS2から信号圧用入力ポート62aに信号圧が入力されていないときにはスプリング66の付勢力によりスプール64が図中左半分の領域に示す位置に移動して入力ポート62bと出力ポート62c(クラッチC3側)とを連通すると共に入力ポート62bと出力ポート62d(C2リレーバルブ70側)との連通を遮断し、オンオフソレノイドS2から信号圧用入力ポート62aに信号圧が入力されているときにはこの信号圧がスプリング66の付勢力に打ち勝ってスプール64が図中右半分の領域に示す位置に移動して入力ポート62bと出力ポート62c(クラッチC3側)との連通を遮断すると共に入力ポート62bと出力ポート62d(C2リレーバルブ70側)とを連通する。なお、入力ポート62bと出力ポート62c(クラッチC3側)との連通が遮断されると、これに伴って出力ポート62cとドレンポート62eとが連通してクラッチC3側の作動油がドレンされるようになっている。
C2リレーバルブ70は、オンオフソレノイドS1からの信号圧を入力する信号圧用入力ポート72aとC3リレーバルブ60から油路69に出力された出力圧を入力する入力ポート72bとリニアソレノイドSLC2からの出力圧(SLC2圧)を入力する入力ポート72cと油圧をクラッチC2に出力する出力ポート72dと油圧を油路79に出力する出力ポート72eとドレンポート72fとが形成されたスリーブ72と、スリーブ72内を軸方向に摺動するスプール74と、スプール74を軸方向に付勢するスプリング76とにより構成されている。このC2リレーバルブ70は、オンオフソレノイドS1から信号圧用入力ポート72aに信号圧が入力されていないときにはスプリング76の付勢力によりスプール74が図中左半分の領域に示す位置に移動して入力ポート72b(C3リレーバルブ60側)と出力ポート72e(B2リレーバルブ80側)とを連通すると共に入力ポート72c(リニアソレノイドSLC2側)と出力ポート72d(クラッチC2側)とを連通し、オンオフソレノイドS1から信号圧用入力ポート72aに信号圧が入力されているときにはこの信号圧がスプリング76の付勢力に打ち勝ってスプール76が図中右半分の領域に示す位置に移動して入力ポート72b(C2リレーバルブ60側)を遮断し入力ポート72c(リニアソレノイドSLC2側)と出力ポート72e(B2リレーバルブ80側)とを連通すると共に入力ポート72cと出力ポート72d(クラッチC2側)との連通を遮断する。なお、入力ポート72cと出力ポート72d(クラッチC2側)との連通が遮断されると、これに伴って出力ポート72dとドレンポート72fとが連通してクラッチC2側の作動油がドレンされるようになっている。
B2リレーバルブ80は、オンオフソレノイドS2からの信号圧を入力する信号圧用入力ポート82aとオンオフソレノイドS1からの信号圧をこのB2リレーバルブ80を介してC2リレーバルブ70の信号圧用入力ポート72aに信号圧を出力するための信号圧用入力ポート82bおよび信号圧用出力ポート82cとマニュアルバルブ58のRポジション用出力ポート58cからのリバース圧PRを入力する入力ポート82dとC2リレーバルブ70の出力ポート72eからの出力圧を入力する入力ポート82eと油圧をブレーキB2に出力する出力ポート82fとが形成されたスリーブ82と、スリーブ82内を軸方向に摺動するスプール84と、スプール84を軸方向に付勢するスプリング86とにより構成されている。このB2リレーバルブ80は、オンオフソレノイドS2から信号圧用入力ポート82aに信号圧が入力されていないときにはスプリング86の付勢力によりスプール84が図中左半分の領域に示す位置に移動して信号圧用入力ポート82bを遮断してC2リレーバルブ70の信号圧用入力ポート72aへの信号圧をオフし入力ポート82d(マニュアルバルブ58のRポジション用出力ポート58側)と出力ポート82f(ブレーキB2側)とを連通すると共に入力ポート82e(C2リレーバルブ70側)を遮断し、オンオフソレノイドS2から信号圧用入力ポート82aに信号圧が入力されているときにはこの信号圧がスプリング86の付勢力に打ち勝ってスプール86が図中右半分の領域に示す位置に移動しS1信号圧用入力ポート82bとS1信号圧用出力ポート82cとを連通してオンオフソレノイドS1からの信号圧を信号圧用入力ポート82bおよび信号圧用出力ポート82cを介してC2リレーバルブ70の信号圧用入力ポート72aに出力可能な状態とし入力ポート82d(マニュアルバルブ58のRポジション用出力ポート58側)を遮断すると共に入力ポート82e(C2リレーバルブ70側)と出力ポート82f(クラッチC3側)とを連通する。
マニュアルバルブ58は、図4に示すように、マニュアルシャフト120に取り付けられたマニュアルプレート122と、このマニュアルプレート122におけるマニュアルシャフト120の回転軸に対して偏心した位置(端部)に形成された長孔122aに引っ掛けられたL字状のフック124aが先端に形成されたスプール124と、スプール124に形成されたランド126と、を備え、マニュアルシャフト120に回転軸が接続された電気モータ114を駆動してマニュアルシャフト120の回転運動をスプール124の直線運動に変換することにより、スプールのストローク量に応じて、入力ポート58aと両出力ポート58b、58cとの連通を遮断する状態と、入力ポート58aとDポジション用出力ポート58bとを連通すると共に入力ポート58aとRポジション用出力ポート58cとの連通を遮断する状態と、入力ポート58aとDポジション用出力ポート58bとの連通を遮断すると共に入力ポート58aとRポジション用出力ポート58cとを連通する状態とを切り換える。マニュアルプレート122には、基端がボルトによりオートマチックトランスミッション20のケースに固定された板状のディテントスプリング134と、ディテントスプリング134の先端に回転自在に取り付けられマニュアルプレート122の端部に山部および谷部が交互に形成されたカム面132に圧接されたローラ136とからなるディテント機構130が設けられている。
ATECU29は、詳細に図示しないが、CPUを中心としたマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に処理プログラムを記憶するROMと、データを一時的に記憶するRAMと、入出力ポートと、通信ポートとを備える。ATECU29には、入力軸21に取り付けられた回転数センサからの入力軸回転数Ninや出力軸22に取り付けられた回転数センサからの出力軸回転数Noutなどが入力ポートを介して入力されており、ATECU29からは、リニアソレノイド56,SLC1〜SLC3,SLB1への駆動信号,オンオフソレノイドS1,S2への駆動信号などが出力ポートを介して出力されている。ATECU29は、メインECU90と通信しており、メインECU90からの制御信号によってオートマチックトランスミッション20(油圧回路50)を制御したり、必要に応じてオートマチックトランスミッション20の状態に関するデータをメインECU90に出力する。
SBWECU100は、図5に示すように、中央演算処理回路としてのCPU102を中心として構成されており、CPU102の他に、各部に電力を供給する5V電源回路104と、メインECU90とCAN通信を行なうためのCAN回路106と、メインECU90から送信される信号の一つであるシフト指令信号を入力するための入力処理回路としてのシフト指令回路108と、マニュアルバルブ58を駆動する電気モータ112を駆動するための駆動回路112と、マニュアルバルブ58のマニュアルシャフト120の回転角を検出するバルブポジションセンサ116とを備える。シフト送信回路110は、バルブポジションセンサ116からのアナログ信号(電圧信号)を電圧が大きいほどパルス幅が長くなるようパルス変換するパルス変換回路として構成されており、パルス変換後のパルス信号はメインECU90に出力される。図6に、バルブポジションセンサ116からのアナログ信号をパルス変換する様子を示す。なお、シフト送信回路110は、パルス変換後のパルス信号をメインECU90の他に、SBWECU100自身にも入力されるようになっており、信号のエラー検出に用いられている。
メインECU90は、詳細には図示しないが、CPUを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に処理プログラムを記憶するROMと、データを一時的に記憶するRAMと、入出力ポートと、通信ポートとを備える。メインECU90には、シフトレバー91の操作位置を検出するシフトポジションセンサ92からのシフトポジションSP,アクセルペダル93の踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ94からのアクセル開度Acc,ブレーキペダル95の踏み込みを検出するブレーキスイッチ96からのブレーキスイッチ信号BSW,車速センサ98からの車速Vなどが入力ポートを介して入力されており、メインECU90からは、警告灯99への点灯信号などが出力ポートを介して出力されている。また、メインECU90は、SBWECU100が備えるバルブポジションセンサ116からのバルブポジションVPもSBWECU100との通信線を介さずにシフト送信回路110から直接入力することができるようになっている。メインECU90は、前述したように、エンジンECU16やATECU29とSBWECU100と通信ポートを介して接続されており、エンジンECU16やATECU29とSBWECU100と各種制御信号やデータのやりとりを行なっている。また、メインECU90は、エンジンECU16とATECU29とSBWECU100に対して例えばウォッチドッグタイマなどによりECU間の相互監視を行なっている。
こうして構成された実施例の自動車10は、通常時では、シフトレバー91がパーキング(P)ポジションにシフト操作されたときには、メインECU90がPポジション用のシフト指令信号をSBWECU100とATECU29とに送信することにより、シフト指令回路108を介してシフト指令信号を受信したSBWECU100はバルブポジションセンサ116からのバルブポジションVPがPポジション用のバルブポジションに一致するよう駆動回路112により電気モータ114を駆動制御し、シフト指令信号を受信したATECU29はリニアソレノイドSLC3とオンオフソレノイドS1とをオンしリニアソレノイドSLC1,SLC2,SLB1とオンオフソレノイドS2とをオフする。また、シフトレバー91がリバース(R)ポジションにシフト操作されたときには、メインECU90がSBWECU100にRポジション用のシフト指令信号をSBWECU100とATECU29とに送信することにより、シフト指令回路108を介してシフト指令信号を受信したSBWECU100はバルブポジションセンサ116からのバルブポジションVPがRポジション用のバルブポジションに一致するよう駆動回路112により電気モータ114を駆動制御し、シフト指令信号を受信したATECU29はオンオフソレノイドS1をオンしリニアソレノイドSLC1〜SLC3,SLB1とオンオフソレノイドS2とをオフする。さらに、シフトレバー91がNポジションにシフト操作されたときには、メインECU90がSBWECU100にニュートラル(N)ポジション用のシフト指令信号をSBWECU100とATECU29とに送信することにより、シフト指令回路108を介してシフト指令信号を受信したSBWECU100はバルブポジションセンサ116からのバルブポジションVPがNポジション用のバルブポジションに一致するよう駆動回路112により電気モータ114を駆動制御し、シフト指令信号を受信したATECU29はオンオフソレノイドS1,S2とリニアソレノイドSLC3とをオンしリニアソレノイドSLC1,SLC2,SLB1をオフする。また、シフトレバー91がドライブ(D)ポジションにシフト操作されたときには、メインECU90がDポジション用のシフト指令信号をSBWECU100とATECU29とに送信すると共にアクセルペダルポジションセンサ94からのアクセル開度Accと車速センサ98からの車速VとをATECU29に送信することにより、シフト指令回路108を介してシフト指令信号を受信したSBWECU100はバルブポジションセンサ116からのバルブポジションVPがDポジション用のバブルポジションに一致するよう駆動回路112により電気モータ114を駆動制御し、アクセル開度Accと車速Vとを受信したATECU29がアクセル開度Accと車速Vとに基づいて変速マップを用いて前進1速〜前進6速のいずれかを設定すると共にクラッチC1〜C3とブレーキB1,B2のうち設定した変速段に応じて必要なクラッチやブレーキがオンされるようリニアソレノイド56,SLC1〜SLC3,SLB1やオンオフソレノイドS1,S2を駆動制御する。
ここで、実施例の動力伝達装置としては、オートマチックトランスミッション20と、メインECU90と、ATECU29と、SBWECU100と、シフトポジションセンサ92と、バルブポジションセンサ116とが該当する。
次に、こうして構成された自動車10が備える実施例の動力伝達装置の動作、特に、メインECU90がウォッチドッグタイマによりエンジンECU16やATECU29,SBWECU100と相互監視を行なった結果、SBWECU100の異常を検出した際の動作について説明する。図7は、メインECU90により実行される異常時制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、所定時間毎(例えば数十msec毎)に繰り返し実行される。
異常時制御ルーチンが実行されると、メインECU90のCPU92は、まず、SBWECU100と通信し(ステップS100)、SBWECU100に異常が生じているか否かを判定する(ステップS110)。この判定は、前述したように、ウォッチドッグタイマによる相互監視により行なうものとした。SBWECU100に異常が生じていないと判定されたときには何もせずに本ルーチンを終了する。
一方、SBWECU100に異常が生じていると判定されると、警告灯99を点灯し(ステップS120)、シフトポジションセンサ92からの運転者が要求するシフトポジションSPや車速センサ98からの車速V,バルブポジションセンサ116からのバルブポジションVPを入力し(ステップS130)、入力した車速Vと閾値Vrefとを比較する(ステップS140)。ここで、閾値Vrefは、車両が停車しているとみなせる車速として予め定められている。車速Vが閾値Vref以上のときには、使用するテーブルに走行時用テーブルを設定すると共に(ステップS150)、設定した走行時用テーブルを用いて入力したシフトポジションSPとバルブポジションVPとに基づいて実行シフトポジションSP*を設定し(ステップS160)、車速Vが閾値Vref未満のときには、使用するテーブルに停車時用テーブルを設定すると共に(ステップS170)、設定した
停車時用テーブルを用いて入力したシフトポジションSPとバルブポジションVPとに基づいて実行シフトポジションSP*を設定する(ステップS180)。図8に、実行シフトポジションSP*の設定に用いるテーブルの一例を示す。図8(a)は走行時用テーブルを示し、図8(b)は停車時用テーブルを示す。実施例では、車速Vが閾値Vref以上のときには、図8(a)に示すように、シフトポジションセンサ92からのシフトポジションSPに拘わらず現在のバルブポジションVPが対応するシフトポジションが実行シフトポジションSP*に設定されるよう走行時用テーブルを作成し、車速Vが閾値Vref未満のときには、図8(b)に示すように、バルブポジションVPがPポジションのときにはPポジションが保持されその他のポジション(RポジションやNポジション,Dポジション)のときにはNポジションの実行シフトポジションSP*が設定されるよう停車時用テーブルを作成するものとした。
こうして実行シフトポジションSP*が設定されると、設定された実行シフトポジションSP*が形成されるようクラッチC1〜C3とブレーキB1,B2とを制御する制御指令をATECU29に送信して(ステップS190)、本ルーチンを終了する。ここで、SBWECU100に異常が生じているときには、マニュアルバルブ58のバルブポジションは変更することができないから、バルブポジションの変更を伴わずに設定した実行シフトポジションSP*を形成することになる。具体的には、実行シフトポジションSP*とバルブポジションセンサ116からのバルブポジションVPとが一致するときには、クラッチC1〜C3とブレーキB1,B2の状態がそのまま保持されるようリニアソレノイドSLC1〜SLC3,SLB1とオンオフソレノイドS1,S2の状態を保持する。また、実行シフトポジションSP*がDポジションでバルブポジションセンサ116からのバルブポジションVPがNポジションのときには、マニュアルバルブ58はDポジション用のバルブポジションであり図3に示すようにライン圧PLはリニアソレノイドSLC1,SLC2,SLB1の各入力ポートに作用するが、リニアソレノイドSLC1,SLC2,SLB1をオフとすると共にリニアソレノイドSLC3とオンオフソレノイドS1,S2とをオンとすることにより、すべてのクラッチC1〜C3とブレーキB1,B2はオフされ、Nポジションが形成される。また、実行シフトポジションSP*がRポジションでバルブポジションセンサ116からのバルブポジションVPがNポジションのときには、マニュアルバルブ58はRポジション用のバルブポジションであり図3に示すようにマニュアルバルブ58から出力されるリバース圧PRはB2リレーバルブ80側に作用するが、リニアソレノイドSLC1,SLC2,SLB1をオフとすると共にリニアソレノイドSLC3とオンオフソレノイドS1,S2とをオンとすることにより、すべてのクラッチC1〜C3とブレーキB1,B2はオフされ、Nポジションが形成される。
いま、シフトレバー91がDポジションで走行している最中にSBWECU100に異常が生じた場合を考える。この場合、車速Vが閾値Vref以上と判定され、実行シフトポジションSP*としては現在のマニュアルバルブ58のバルブポジションVPに対応するシフトポジション(Dポジション)に保持するから、走行が継続される。車速Vが閾値Vref未満となると、シフトレバー91がDポジションで且つ現在のマニュアルバルブ58のバルブポジションVPがDポジションに対応するものであっても、実行シフトポジションSP*としてはNポジションに固定されるから、エンジン12からの動力は遮断される。このように、走行中にSBWECU100に異常が生じたときに例えば車両を路肩に停車させるなどの退避走行を行なうことができる。こうした処理は、バルブポジションセンサ116からのバルブポジションVPをSBWECU100との通信を介さずにシフト送信回路110から直接入力することにより実現可能となる。即ち、メインECU90がバルブポジションセンサ116からの信号を入力することができないときには、SBWECU100に異常が生じると、メインECU90は現在のマニュアルバルブ58のバルブポジションVPを知ることができないから、運転者の予期しない動力が出力されるのを防止するためにNポジションに固定する必要が生じる。これに対して、実施例では、バルブポジションセンサ116からの信号をSBWECU100に加えてメインECU90にも入力するから、走行中にSBWECU100に異常が生じたときの車両の安全を確保しつつ必要な退避走行を行なうことができる。なお、同じSBWECUを二つ設けることにより、いずれか一方のSBWECUに異常が生じても正常な他方のSBWECUにより制御を継続することができるが、別途SBWECUを設けるスペースが必要となり、コスト面でも不利となる。
以上説明した実施例の動力伝達装置によれば、バルブポジションセンサ116からのバルブポジションVPをSBWECU100との通信を介さずにシフト送信回路110から直接メインECU90に出力できるよう構成し、メインECU90がSBWECU100の異常を判定したとき、車速Vが閾値Vref以上のときには実行シフトポジションSP*として現在のマニュアルバルブ58のバルブポジションVPに対応するシフトポジションを保持し、車速Vが閾値Vref未満のときにはバルブポジションVPに対応するポジションがDポジションやRポジション,Nポジションのときにはシフトレバー91からのシフトポジションSPに拘わらずNポジションに固定するから、例えば、シフトレバー91がDポジションで走行中にSBWECU100に異常が生じたときに車両を路肩に停車させるなどの退避走行を行なうことができ、SBWECU100の異常に対してより適正に対処することができる。しかも、メインECU90へのバルブポジションVPの入力は、パルス変換を行なうシフト送信回路110を介して行なうから、ノイズに起因する誤検出などの不具合を抑制することができる。さらに、SBWECU100に異常が生じていると判定したときには、警告灯99を点灯させるから、運転者に対して注意を喚起することができる。
実施例の動力伝達装置では、シフトレバー91がDポジションで走行中にSBWECU100に異常が生じたときに車速Vが閾値Vref未満の場合にはNポジションに固定するものとしたが、Nポジションに固定されて車速Vが略値0となったときには、現在のマニュアルバルブ58のバルブポジションVPに対応するポジションがDポジションであり且つシフトレバー91がDポジションであれば、再発進できるようクラッチC1〜C3やブレーキB1,B2を制御するものとしてもよい。この場合、車両が再発進したときには、シフトレバー91がDポジションにある限り車速Vが閾値Vref未満のときでも再度のNポジションの固定は行なわないものとすればよい。
実施例の動力伝達装置では、図8(a)に示すように、車速Vが閾値Vref以上のときにはシフトポジションセンサ92からのシフトポジションSPに拘わらず現在のバルブポジションVPに対応するシフトポジションを保持する実行シフトポジションSP*を設定するものとしたが、図9の変形例のテーブルに示すように、車速Vが閾値Vref以上のとき、シフトポジションセンサ92からのシフトポジションSPがDポジションのときにはDポジションの実行シフトポジションSP*を設定しRポジションやNポジションのときにはNポジションの実行シフトポジションSP*を設定するものとしてもよい。また、図9のテーブルは、車速Vが閾値Vref以上のときに限られず、閾値Vref未満のときにも適用するものとしても構わない。
実施例の動力伝達装置では、バルブポジションセンサ116からの信号をシフト送信回路110でパルス変換してから入力するものとしたが、パルス変換しないで信号を入力するものとしてもよい。
実施例の動力伝達装置では、SBWECU100に異常が生じたときには警告灯99を点灯させることにより運転者等に異常の発生を報知するものとしたが、警告灯99の点灯に代えて又はこれに加えて警告用のブザーにより報知するものとしてもよい。
実施例の動力伝達装置では、シフト操作に伴って電気モータ114によりマニュアルバルブ58を作動させるものとしたが、これに限られず、図10に例示するように、シフト操作に伴って電気モータ166によりパーキングロック機構180を作動させるものとしてもよい。パーキングロック機構180は、オートマチックトランスミッション20のギヤ機構26に取り付けられたパーキングギヤ182と、パーキングギヤ182と噛み合ってその回転を停止した状態でロックするパーキングポール184と、パーキングロッド186と、パーキングロッド186の先端に設けられパーキングロッド186がスライドすることによりパーキングポール184をパーキングギヤ182側に押し付けたり押し付けを解除したりするパーキングカム188とにより構成されている。パーキングロッド186の基端はL字状のフック186aが形成されており、マニュアルプレート162におけるマニュアルシャフト160の回転軸に対して偏心した位置に形成された孔にフック186aが引っ掛けられている。したがって、電気モータ166によりマニュアルシャフト160を正転させることによりパーキングギヤ182をロックし(図10(a)参照)、マニュアルシャフト160を逆転させることによりパーキングギヤ182のロックを解除することができる(図10(b)参照)。なお、マニュアルプレート162には、実施例と同様に、ディテントスプリング174と、マニュアルプレート162の端部に形成されたカム面172に圧接されたローラ176とからなるディテント機構170が設けられている。
いま、エンジンと、第1のモータと、エンジンのクランクシャフトとモータMG1の回転軸と車軸に連結された駆動軸とがそれぞれ接続された3つの回転要素を有する遊星歯車機構と、駆動軸に接続された第2のモータと、が搭載されたハイブリッド自動車を考えると、油圧回路を備えることなく、エンジンからの動力を自由に変速して駆動軸に出力して走行することができるから、上述したように、シフトレバーがP(パーキング)ポジションに操作されたときにパーキングロック機構180を作動しPポジション以外のポジション(例えば、D(ドライブ)ポジションやニュートラル(N)ポジション)に操作されたときにパーキングロック機構180の作動を解除するシフトバイワイヤシステムを考えることができる。このシフトバイワイヤシステムでは、マニュアルプレート162のポジションを2ポジション間で切り替えるだけでよいから、ディテント機構170のカム面172の移動端に壁を設けローラ176が壁に押し当てられるよう電気モータ166を駆動するものとすれば、マニュアルシャフト160にシャフトポジションセンサを取り付ける必要はないが、ポジションの変更に機械的衝撃を伴うことから、耐久性を考えると、強度を上げるためにマニュアルプレート162を厚くするなど大型化する必要があり、スペースの確保が厳しい車両では搭載上不利となる。また、SBWECU100のCPU102に故障が生じると、マニュアルシャフト160のポジションが不明となるから、ATECU29としてはすべてのクラッチをオフとしてニュートラル(N)ポジションを形成せざるを得なくなり、退避走行ができなくなる。変形例では、こうした不都合を回避するためにマニュアルシャフト160にシャフトポジションセンサ108を取り付けるものとした。したがって、変形例でも、実施例と同様の処理を適用することができる。
実施例の動力伝達装置では、オートマチックトランスミッション20を前進1速〜前進6速の6段変速の有段変速機により構成するものとしたが、これに限定されるものではなく、2〜5段変速の有段変速機により構成するものとしてもよいし、7段以上の有段変速機により構成するものとしてもよい。
実施例の動力伝達装置では、メインECU90とATECU29を二つの電子制御ユニットにより構成するものとしたが、三つ以上の電子制御ユニットにより構成するものとしてもよいし、単一の電子制御ユニットにより構成するものとしても構わない。
実施例の動力伝達装置では、内燃機関としてのエンジン12を搭載する自動車10に適用するものとしたが、内燃機関と電動機とを備えるハイブリッド車に適用するものとしてもよい。また、走行用の電動機だけを搭載する電気自動車に適用するものとしてもよい。
ここで、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、シフトポジションセンサ92が「シフトポジションセンサ」に相当し、バルブポジションセンサ116が「シャフトポジションセンサ」に相当し、メインECU90とATECU29とが「第1の制御手段」に相当し、SBWECU100が「第2の制御手段」に相当する。また、シフト指令信号が「ディテント装置の駆動指令」に相当する。なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための最良の形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
以上、本発明を実施するための最良の形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。