図1は、本発明の実施例に係る制動装置の概略図である。同図に示す制動装置1は車両(図示省略)に備えられており、当該車両の制動が可能に設けられている。詳しくは、制動装置1は、車両に複数設けられる各車輪の近傍に、当該制動装置1における作動液であるブレーキフルード(図示省略)の液圧、即ち油圧によって作動するホイールシリンダ51と、このホイールシリンダ51と組みになって設けられると共に車輪の回転時には車輪と一体となって回転するブレーキディスク55とを有している。車両を減速させる場合には、油圧でホイールシリンダ51を作動させて摩擦力でブレーキディスク55の回転を低下させることにより、制動が可能になっている。
このように設けられる制動装置1は、当該制動装置1への入力手段であり、車両を制動する際の操作である制動操作を行う部分である制動操作手段として設けられるブレーキペダル5を有しており、このブレーキペダル5は、車両の運転席に運転者が座った状態における運転者の足元付近に設けられている。このように設けられるブレーキペダル5の近傍には、ブレーキペダル5のストロークを検出可能なブレーキストローク検出手段であるブレーキストロークセンサ6が設けられている。
また、ブレーキペダル5は、車両走行時の動力源として設けられるエンジン(図示省略)の運転時に発生する負圧の伝達が可能な負圧経路13が接続されたブレーキブースタ12に接続されている。この負圧経路13は、エンジンの吸気通路(図示省略)に接続されており、これにより負圧経路13は、エンジンの運転時に発生する負圧をブレーキブースタ12に伝達可能になっている。また、このように設けられる負圧経路13には、吸気通路側からブレーキブースタ12の方向への空気の流れを遮断する逆止弁である負圧経路逆止弁14が設けられている。
また、ブレーキブースタ12は、油圧を発生させることができるマスタシリンダ11に接続されており、マスタシリンダ11には、車両の制動時にホイールシリンダ51に作用させる油圧の経路である油圧経路20が接続されている。この油圧経路20は、作動液であるブレーキフルードの経路である作動液経路として設けられている。マスタシリンダ11に接続されている油圧経路20は、作動液として用いられるブレーキフルードが満たされている。また、この油圧経路20は、2系統に分かれて構成されており、2系統の油圧経路20である第1油圧経路21と第2油圧経路22とが、それぞれ独立してマスタシリンダ11に接続されている。
ブレーキペダル5は、これらのようにブレーキブースタ12とマスタシリンダ11とを介して油圧経路20に接続されており、このうちブレーキブースタ12は、公知の真空式倍力装置となっており、ブレーキペダル5に入力された踏力を、負圧経路13から伝達された負圧と大気圧との差を利用することにより増大してマスタシリンダ11に伝達可能に設けられている。また、マスタシリンダ11は、ブレーキブースタ12から伝達された力によって油圧を発生させ、発生させた油圧を油圧経路20に伝達可能に設けられている。即ち、マスタシリンダ11は、ブレーキブースタ12を介してブレーキペダル5に接続されていると共に、ブレーキペダル5への制動操作に応じてブレーキフルードの油圧を上昇させることができる液圧発生手段として設けられている。
また、マスタシリンダ11に接続される油圧経路20には、その端部にホイールシリンダ51が接続されており、第1油圧経路21と第2油圧経路22とで、車両における互い違いの位置に配設されている車輪の近傍に設けられるホイールシリンダ51が接続されている。ここで、複数設けられる各車輪の近傍に配設されるホイールシリンダ51とブレーキディスク55とについて説明すると、ホイールシリンダ51は、左前輪、右前輪、左後輪、右後輪の近傍に配設されるホイールシリンダ51が、順に左前輪ホイールシリンダ52L、右前輪ホイールシリンダ52R、左後輪ホイールシリンダ53L、右後輪ホイールシリンダ53Rとなっている。同様に、ブレーキディスク55は、左前輪、右前輪、左後輪、右後輪の近傍に配設されるブレーキディスク55が、順に左前輪ブレーキディスク56L、右前輪ブレーキディスク56R、左後輪ブレーキディスク57L、右後輪ブレーキディスク57Rとなっている。第1油圧経路21と第2油圧経路22とで、車両における互い違いの位置に配設されている車輪の近傍に設けられるホイールシリンダ51は、第1油圧経路21には右前輪ホイールシリンダ52Rと左後輪ホイールシリンダ53Lとが接続され、第2油圧経路22には左前輪ホイールシリンダ52Lと右後輪ホイールシリンダ53Rとが接続されている。このように設けられるホイールシリンダ51は、ブレーキフルードの油圧によって作動することにより制動力を発生する制動力発生手段として設けられている。
また、油圧経路20には、車両の制動時に油圧経路20内の油圧を制御可能なブレーキアクチュエータ30が複数設けられており、ブレーキアクチュエータ30は、常開のソレノイドバルブであるマスタカット弁31と保持弁32、及び常閉のソレノイドバルブである減圧弁33とを有している。このうち、マスタカット弁31は、第1油圧経路21と第2油圧経路22とにそれぞれ1つずつ配設されており、ホイールシリンダ51側からマスタシリンダ11の方向へのブレーキフルードの流れを調節可能な流量調整手段として設けられている。
また、保持弁32は、油圧経路20において、マスタシリンダ11からマスタカット弁31を経てホイールシリンダ51に向かう経路に設けられており、4つのホイールシリンダ51に対応して保持弁32も4つ設けられている。
また、減圧弁33は、保持弁32からホイールシリンダ51に向かう経路から分岐し、マスタカット弁31と保持弁32との間の経路に接続される経路であるリターン経路25に設けられている。このように、減圧弁33が設けられるリターン経路25は、4つの保持弁32とホイールシリンダ51との間の経路からそれぞれ分岐しており、減圧弁33は、分岐した各経路に設けられているため、減圧弁33は油圧経路20に4つ設けられている。即ち、減圧弁33は、保持弁32と同様に4つのホイールシリンダ51に対応して4つ設けられている。
また、リターン経路25は、減圧弁33の下流側、つまりリターン経路25における、減圧弁33よりもマスタカット弁31と保持弁32との間の経路に接続される側の部分が、第1油圧経路21における2つのリターン経路25同士、及び第2油圧経路22における2つのリターン経路25同士で接続されて、それぞれ1つの経路になっている。このように、リターン経路25における1つの経路になった部分には、ブレーキアクチュエータ30であるポンプモータ34と、リターン経路25に設けられる逆止弁であるリターン経路逆止弁35と、ポンプモータ34から吐出されたブレーキフルードの脈動を低減するダンパ室40とが配設されている。このうち、リターン経路逆止弁35とダンパ室40は、リターン経路25におけるポンプモータ34よりもマスタカット弁31と保持弁32との間の経路に接続される側に配設されており、リターン経路逆止弁35は、リターン経路25におけるポンプモータ34とダンパ室40との間に配設されている。
また、ポンプモータ34は電気によって駆動可能に設けられており、ポンプモータ34を駆動させることにより、リターン経路25内のブレーキフルードを減圧弁33側からマスタカット弁31或いは保持弁32側に供給可能に設けられている。これによりポンプモータ34は、油圧経路20内のブレーキフルードを加圧することができ、ブレーキフルードの油圧をマスタシリンダ11で発生する油圧以上に増圧可能な増圧手段として設けられている。また、リターン経路逆止弁35は、ポンプモータ34からマスタカット弁31或いは保持弁32方向へのブレーキフルードのみ流し、反対方向のブレーキフルードの流れを遮断する。また、ダンパ室40は、ポンプモータ34から吐出され、リターン経路逆止弁35を通過してマスタカット弁31或いは保持弁32方向へ流れるブレーキフルードの脈動を低減する。ポンプモータ34とリターン経路逆止弁35とダンパ室40とは、これらのように設けられているため、第1油圧経路21と第2油圧経路22とにそれぞれ1つずつ配設されている。即ち、ポンプモータ34とリターン経路逆止弁35とダンパ室40とは、共に全部で2つずつ設けられている。
また、油圧経路20におけるマスタカット弁31の上流側、即ち、油圧経路20におけるマスタシリンダ11とマスタカット弁31との間の部分からは、リターン経路25に接続される経路である供給経路26が分岐しており、供給経路26はリターン経路25に接続されている。また、この供給経路26にはリザーバ37と、供給経路26に設けられる逆止弁である供給経路逆止弁38とが配設されており、供給経路逆止弁38は、供給経路26における、リザーバ37よりも、マスタシリンダ11とマスタカット弁31との間の経路に接続される側に配設されている。
このうち、リザーバ37は、供給経路26を流れるブレーキフルードを所定量貯留可能に設けられており、供給経路逆止弁38は、供給経路26における、マスタシリンダ11とマスタカット弁31との間の経路に接続される側の端部側からリターン経路25の方向へのブレーキフルードのみ流し、反対方向のブレーキフルードの流れを遮断する。リザーバ37と供給経路逆止弁38とは、これらのように設けられているため、第1油圧経路21と第2油圧経路22とにそれぞれ1つずつ配設されている。即ち、リザーバ37と供給経路逆止弁38とは、共に全部で2つずつ設けられている。
また、第1油圧経路21におけるマスタシリンダ11とマスタカット弁31との間には、操作圧力検出手段であるマスタシリンダ圧センサ39が設けられている。このマスタシリンダ圧センサ39は、第1油圧経路21におけるマスタシリンダ11とマスタカット弁31との間の油圧を、運転者がブレーキ操作をしてブレーキペダル5を踏んだ場合に発生する操作圧力として検出可能に設けられている。
また、車両の室内には、エンジンの出力を調整する際に操作するアクセルペダル60が、ブレーキペダル5に並べられて設けられており、アクセルペダル60の近傍には、当該アクセルペダル60の開度を検出可能なアクセル開度検出手段であるアクセル開度センサ61が設けられている。さらに、車両の室内には、制動制御を行う際における制御モードを切り替える制御モード切替手段である制御モードスイッチ65が設けられている。この制御モードスイッチ65は、車両の運転席に運転者が座った状態で運転者が操作可能な位置に配設されており、車両の停車時にブレーキペダル5への制動操作を行わなくなった状態でもホイールシリンダ51に制動力を発生させ続けることにより停車を維持させ続ける制御である停車維持制御を行うモードと、通常の制動制御のモードとを切り替え可能に設けられている。つまり、制御モードスイッチ65は、停車維持制御のONとOFFとを切り替え可能に設けられている。
これらのように設けられるブレーキストロークセンサ6、マスタカット弁31、保持弁32、減圧弁33、ポンプモータ34、マスタシリンダ圧センサ39、アクセル開度センサ61、制御モードスイッチ65は、車両に搭載されると共に車両の各部を制御するECU(Electronic Control Unit)70に接続されており、ECU70によって制御可能に設けられている。
図2は、図1に示した制動装置の要部構成図である。ECU70には、処理部71、記憶部90及び入出力部91が設けられており、これらは互いに接続され、互いに信号の受け渡しが可能になっている。また、ECU70に接続されているブレーキストロークセンサ6、マスタカット弁31、保持弁32、減圧弁33、ポンプモータ34、マスタシリンダ圧センサ39、アクセル開度センサ61、制御モードスイッチ65は、入出力部91に接続されており、入出力部91は、これらのセンサ類等との間で信号の入出力を行う。また、記憶部90には、実施例に係る制動装置1を制御するコンピュータプログラムが格納されている。この記憶部90は、ハードディスク装置や光磁気ディスク装置、またはフラッシュメモリ等の不揮発性のメモリ(CD−ROM等のような読み出しのみが可能な記憶媒体)や、RAM(Random Access Memory)のような揮発性のメモリ、或いはこれらの組み合わせにより構成することができる。
また、処理部71は、メモリ及びCPU(Central Processing Unit)により構成されており、ブレーキストロークセンサ6での検出結果よりブレーキペダル5のストローク量を取得可能な制動操作取得手段であるブレーキストローク量取得部72と、マスタシリンダ圧センサ39での検出結果より、マスタシリンダ11で発生するブレーキフルードの圧力であるマスタシリンダ圧を取得可能なマスタシリンダ圧取得手段であるマスタシリンダ圧取得部73と、アクセル開度センサ61での検出結果よりアクセル開度を取得可能なアクセル操作取得手段であるアクセル開度取得部74と、制御モードスイッチ65の状態より選択されている制動制御のモードを取得する制御モード取得手段である制御モード取得部75と、を有している。
また、処理部71は、車両の停車を維持するために必要な制動力である必要制動力を算出する必要制動力算出手段である必要制動力算出部76と、必要制動力算出部76で算出した必要制動力に基づいて、ホイールシリンダ51で必要制動力を発生させるのに必要な油圧である目標圧を算出する目標圧算出手段である目標圧算出部77と、を有している。
また、処理部71は、ブレーキアクチュエータ30を制御することにより油圧経路20内のブレーキフルードの油圧を制御可能に設けられており、停車維持制御を行う場合には、ポンプモータ34で油圧を増圧させると共にマスタカット弁31でマスタシリンダ11の方向へのブレーキフルードの流れを低減させることによりホイールシリンダ51に作用する油圧をホイールシリンダ51が制動力を発生可能な油圧にし、且つ、ブレーキペダル5への制動操作の操作量が少なくなった場合には、マスタシリンダ11でマスタシリンダ11の方向へのブレーキフルードの流れを低減させることによりホイールシリンダ51に作用するブレーキフルードの油圧の上昇の度合いを大きくする液圧制御手段である油圧制御部78と、停車維持制御を行うか否かを判定する停車維持制御判定手段である停車維持制御判定部79と、ブレーキペダル5への制動操作の操作量が少なくなったか否か、即ち、ブレーキペダル5を戻しているか否かを判定する制動操作判定手段である制動操作判定部80と、を有している。
ECU70によって制御されるマスタカット弁31などの制御は、例えば、マスタシリンダ圧センサ39などによる検出結果に基づいて、処理部71が前記コンピュータプログラムを当該処理部71に組み込まれたメモリに読み込んで演算し、演算の結果に応じてマスタカット弁31などの作動部分を作動させることにより制御する。その際に処理部71は、適宜記憶部90へ演算途中の数値を格納し、また格納した数値を取り出して演算を実行する。なお、このようにマスタカット弁31などを制御する場合には、前記コンピュータプログラムの代わりに、ECU70とは異なる専用のハードウェアによって制御してもよい。
この実施例に係る制動装置1は、以上のごとき構成からなり、以下、その作用について説明する。車両の走行中に制動し、減速をする場合には、ブレーキペダル5を踏むことによってブレーキをかける。このように、ブレーキペダル5を踏んでブレーキ操作、即ち、制動操作をした場合、その踏力がブレーキペダル5からブレーキブースタ12に伝達される。ここで、このブレーキブースタ12には負圧経路13が接続されており、ブレーキブースタ12にはエンジンの運転時における吸気行程で発生する負圧が負圧経路13を介して伝達可能に設けられている。このため、踏力がブレーキブースタ12に対して入力された場合、ブレーキブースタ12はこの負圧と大気圧との差圧により、踏力を増力させてマスタシリンダ11に入力する。踏力に対して増力した力が入力されたマスタシリンダ11は、入力された力に応じてブレーキフルードに対して圧力を与え、マスタシリンダ11の作動に応じて変化するブレーキフルードの圧力であるマスタシリンダ圧を上昇させる。
マスタシリンダ圧が上昇した場合、油圧経路20内のブレーキフルードの圧力も上昇し、油圧経路20内の油圧はマスタシリンダ圧と同じ圧力になる。さらに、このように油圧経路20内の油圧が上昇した場合、この油圧は常開のソレノイドバルブであるマスタカット弁31と保持弁32とを介してホイールシリンダ51にも伝達される。この場合、減圧弁33は常閉であるため、油圧経路20内のブレーキフルードは保持弁32側から減圧弁33を通ってリターン経路25には流れないため、保持弁32からホイールシリンダ51に伝達される油圧は低下しない。
このように、上昇した油圧がホイールシリンダ51に伝達された場合、ホイールシリンダ51は伝達された油圧により作動する。即ち、ホイールシリンダ51は、マスタシリンダ油圧で作動する。ホイールシリンダ51が作動した場合、ホイールシリンダ51は、当該ホイールシリンダ51と組みになって設けられ、且つ、車輪の回転時に車輪と一体となって回転するブレーキディスク55の回転速度を低下させる。これにより、車輪の回転速度も低下するため、車両は減速する。
これらのように、ブレーキペダル5を操作することにより、ホイールシリンダ51にはブレーキディスク55の回転速度を低下させる力である制動力が発生するため、ブレーキディスク55の回転速度の低下を介して車輪の回転速度を低下させることができ、走行中の車両を制動することができる。
また、このようにブレーキペダル5を操作する場合には、ブレーキペダル5のストローク量が、ブレーキペダル5の近傍に設けられるブレーキストロークセンサ6によって検出される。ブレーキストロークセンサ6による検出結果は、ECU70の処理部71が有するブレーキストローク量取得部72で取得する。また、ブレーキペダル5を操作した場合には、ブレーキペダル5に付与する踏力に応じて変化するマスタシリンダ圧が、第1油圧経路21に設けられるマスタシリンダ圧センサ39によって検出される。マスタシリンダ圧センサ39による検出結果は、ECU70の処理部71が有するマスタシリンダ圧取得部73で取得する。このように、マスタシリンダ圧取得部73は、ブレーキペダル5への制動操作の操作量に応じて変化するブレーキフルードの油圧を取得する液圧取得手段として設けられている。また、マスタシリンダ圧は、ブレーキペダル5への制動操作の操作量を示す値として用いられる。
ECU70の処理部71が有する油圧制御部78は、ブレーキストローク量取得部72で取得したブレーキペダル5のストローク量や、マスタシリンダ圧取得部73で取得したマスタシリンダ圧や、車両に設けられる他のセンサでの検出結果に応じてブレーキアクチュエータ30を制御することにより、ホイールシリンダ51に作用させる油圧を制御する。
また、ポンプモータ34を駆動させた場合には、リターン経路25内のブレーキフルードを、マスタカット弁31と保持弁32との間の経路の方向に流す。これにより、保持弁32方向に流れるブレーキフルードの油圧を増圧することができ、ホイールシリンダ51に作用させる油圧を増圧させることができる。このため、運転者がブレーキペダル5を踏んだ際に発生する油圧よりも高い油圧をホイールシリンダ51に作用させることができ、制動力を上昇させることができる。換言すると、車両の制動時に、運転者がブレーキペダル5を踏んだ際に発生する油圧以上の油圧をホイールシリンダ51に作用させる場合には、ポンプモータ34を駆動させる。このように、ポンプモータ34は、車両の運転者の制動操作による制動力以上の制動力を車輪に付与することができる制動力補助手段として設けられている。
また、実施例に係る制動装置1は、走行中の車両の制動を行う他に、車両の停車を維持する制御である停車維持制御が可能に設けられている。この停車維持制御を行うか否かは、車両の室内に設けられる制御モードスイッチ65により切り替える。制御モードスイッチ65の状態が、通常の制動制御のモードの場合、つまり、停車維持制御がOFFの状態の場合には、制動装置1は、上述したようにブレーキペダル5の操作に応じてホイールシリンダ51が作動し、制動力を発生する。
これに対し、制御モードスイッチ65の状態が、停車維持制御のモードになっており、停車維持制御がONの状態の場合には、制動装置1は、停車維持制御を行う。具体的には、停車維持制御がONの状態で車両がほぼ停止し、且つ、ブレーキペダル5が所定のストローク以上に操作された場合には、停車維持制御を行う。
このうち、停車維持制御がONであることの検出は、制御モードスイッチ65の状態を、ECU70の処理部71が有する制御モード取得部75で取得する。車両がほぼ停止した状態で、制御モード取得部75で取得した制御モードスイッチ65の状態が、停車維持制御がONの状態となり、ブレーキストローク量取得部72で取得するブレーキペダル5のストローク量が所定のストローク量以上の場合には、ECU70の処理部71が有する停車維持制御判定部79は、停車維持制御を行うとの判定をする。停車維持制御判定部79が停車維持制御を行うとの判定をした場合には、停車維持制御を行う。
なお、停車維持制御の実行条件が成立した状態であるか否かの判定をする際に用いられるブレーキペダル5の所定のストローク量は、運転者が車両を停止させる意思があると判断できるストローク量として、予め設定されてECU70の記憶部90に記憶されている。また、停車維持制御の実行条件が成立した状態であるか否かの判定をする際に用いられる所定の車速は、車両がほぼ停止した状態であると判断できる車速として、予め設定されてECU70の記憶部90に記憶されている。
停車維持制御を行う場合は、ブレーキペダル5を操作した後、ECU70の処理部71が有する油圧制御部78でマスタカット弁31を制御し、マスタカット弁31を駆動することにより、ブレーキペダル5への制動操作に関わらずホイールシリンダ51に対してブレーキフルードの油圧が作用した状態にする。即ち、停車維持制御を行う場合は、常開のマスタカット弁31を閉じる方向に駆動することにより、ブレーキペダル5を戻した場合でもブレーキフルードはホイールシリンダ51側からマスタシリンダ11の方には戻らなくなる。このため、油圧経路20のうちマスタカット弁31を境としてホイールシリンダ51に接続されている側の油圧経路20の油圧は維持されるため、ブレーキペダル5を戻した状態でもホイールシリンダ51に対する油圧は維持される。これにより、ホイールシリンダ51は制動力によりブレーキディスク55の回転の停止状態を維持させるため、車両の停車状態が維持される。
ここで、停車維持制御を行う場合には、例えば、車両を平地に停車させる場合と坂路に停車させる場合とでは必要となる制動力が異なり、また、運転者がブレーキペダル5を操作することにより発生する制動力も、ブレーキペダル5を操作する際の踏力によって異なる。このため、車両の停車時にブレーキペダル5を操作することにより停車維持制御を行う場合、ブレーキペダル5を操作する際の踏力に基づいて発生する制動力が、車両の停車を維持するのに必要な制動力に対して不足する場合がある。
この場合には、ECU70の処理部71が有する油圧制御部78でポンプモータ34を制御してポンプモータ34を駆動することにより保持弁32方向に流れるブレーキフルードの油圧を増圧し、ホイールシリンダ51に作用させる油圧を増圧させる。これにより、制動力を増加させ、車両の停車を維持するのに必要な制動力を発生させる。
このように、車両の停車を維持するのに必要な制動力である必要制動力を発生させる場合には、まず、ECU70の処理部71が有する必要制動力算出部76で必要制動力を算出する。必要制動力算出部76で必要制動力を算出する際には、車両の他の制御で用いられる加速度を検出するGセンサ(図示省略)での検出結果より、車両が停車している道路の坂路勾配を計測したり、車両の他の制御で用いられるエンジンのアイドル回転数を取得し、クリープ走行時の駆動力を、取得したアイドル回転数に基づいて算出したりすることにより、車両を移動させる力を算出する。必要制動力算出部76は、このように車両を移動させる力を算出した後、この力が作用することにより移動しようとする車両の停止を維持するのに必要な力である必要制動力を算出する。
なお、制動装置1で制動力を発生する場合、制動装置1の製造時におけるバラつきにより制動力にバラつきが発生する場合があるので、必要制動力算出部76で必要制動力を算出する場合には、このバラつきを補償するために必要制動力を大きめに算出する。
必要制動力を算出した後は、ホイールシリンダ51で必要制動力を発生させるのに必要な油圧である目標圧を、ECU70の処理部71が有する目標圧算出部77で算出する。目標圧算出部77は、必要制動力算出部76で算出した必要制動力を取得し、ホイールシリンダ51に作用させることによりホイールシリンダ51で必要制動力を発生させることのできる油圧を目標圧として算出する。即ち、目標圧算出部77は、必要制動力算出部76で算出した必要制動力に基づいて目標圧を算出する。
目標圧算出部77で算出した目標圧は、油圧制御部78に伝達される。目標圧が伝達された油圧制御部78は、ホイールシリンダ51に目標圧を作用させることができるようにマスタカット弁31とポンプモータ34とを制御し、これらを駆動する。このように、ポンプモータ34を駆動することにより、保持弁32の方向に流れるブレーキフルードの油圧を増圧することができ、ホイールシリンダ51に作用させる油圧を増圧することができる。また、マスタカット弁31を駆動し、開度を調節することにより、ホイールシリンダ51側からマスタシリンダ11の方向に戻るブレーキフルードの量を調節する。これにより、ホイールシリンダ51に作用する油圧は、目標圧になるように調整される。また、ポンプモータ34を駆動することにより、ホイールシリンダ51に作用させる油圧を増圧しているため、ブレーキペダル5を戻した場合でも、ホイールシリンダ51に作用する油圧は、目標圧の状態で維持される。
図3は、従来の制動装置で停車維持制御を行う場合の油圧の変化を示す説明図である。ここで、停車維持制御を行う場合におけるホイールシリンダ51に作用する油圧について説明すると、停車維持制御を行う場合には、このようにホイールシリンダ51に作用する油圧が目標圧になるようにマスタカット弁31とポンプモータ34とを駆動する。その際に、従来の制動装置では、停車維持制御時にブレーキペダル5にマスタカット弁31とポンプモータ34とを駆動させることにより、油圧経路20内の油圧に対して加圧する。これにより、油圧経路20内の油圧は上昇するが、この油圧の変化がブレーキペダル5に伝達されることによる違和感を抑制するために、油圧経路20内の油圧に対する加圧の度合いを緩やかにする。
つまり、従来の制動装置では、停車維持制御時には、図3に示すように、ポンプモータ34の駆動指示であるポンプモータ駆動指示PIhをONにしてポンプモータ34を駆動すると共に、マスタカット弁31の開度を調節することにより、油圧経路20内の油圧に対して加圧するが、その際の加圧の度合いを緩やかにするため、ホイールシリンダ51に作用する油圧であるブレーキ圧BPhは、マスタカット弁31とポンプモータ34とを駆動する前の油圧である初期圧から、目標となる制動力を発生可能な油圧である目標圧に向かって緩やかに上昇する。
このため、油圧経路20内の油圧に対して加圧することにより圧力が変化するブレーキ圧PBhの変化の度合いである加圧勾配PShは、時間の変化に対する圧力の変化の度合いが小さくなり、緩やかな勾配になる。マスタカット弁31とポンプモータ34とを駆動することによりブレーキ圧BPhが上昇し、ブレーキ圧BPhが目標圧に到達した場合には、ポンプモータ駆動指示PIhをOFFにしてポンプモータ34を停止する。このようにポンプモータ34を停止した場合でも、マスタカット弁31を駆動し続けることにより、ブレーキ圧BPhは目標圧で維持されるため、ホイールシリンダ51は目標となる制動力を発生し続ける。これにより、車両は停車状態が維持される。
図4は、実施例に係る制動装置で停車維持制御を行う場合の油圧の変化を示す説明図である。従来の制動装置では、停車維持制御時には、上述したようにマスタカット弁31とポンプモータ34とを駆動することにより、加圧勾配が緩やかな状態でブレーキ圧を上昇させる。これに対し、実施例に係る制動装置1では、図4に示すように、停車維持制御時には、マスタカット弁31とポンプモータ34とを駆動させて油圧経路20内の油圧に対して加圧する際に、この加圧の度合いをブレーキペダル5への制動操作に応じて変化させることにより、ホイールシリンダ51に作用する油圧であるブレーキ圧BPiの加圧勾配PSiを、ブレーキペダル5の状態に応じて変化させる。
つまり、実施例に係る制動装置1では、停車維持制御時には、ポンプモータ駆動指示PIiをOFFからONにしてポンプモータ34を駆動し、マスタカット弁31の開度を調節することによって油圧経路20内の油圧に対して加圧する際に、運転者がブレーキペダル5に踏力を付与して制動操作を行っている状態では、加圧の度合いを緩やかにする。この状態では、ブレーキ圧BPiは、マスタカット弁31とポンプモータ34とを駆動する前の油圧である初期圧から、目標となる制動力を発生可能な油圧である目標圧に向かって緩やかに上昇する。このため、ブレーキ圧BPiの変化の度合いである加圧勾配PSiは、時間の変化に対する圧力の変化の度合いが小さくなり、緩やかな勾配になる。
このように、マスタカット弁31とポンプモータ34とが駆動し、ブレーキ圧BPiの加圧勾配PSiが緩やかな状態でブレーキペダル5を緩め、ブレーキペダル5に付与している踏力を減少した場合、マスタカット弁31の開度を小さくする。これにより、油圧経路20におけるマスタカット弁31よりもホイールシリンダ51寄りの経路内のブレーキフルードは、マスタカット弁31を通過してマスタシリンダ11の方には戻り難くなるので、マスタカット弁31よりもホイールシリンダ51寄りの経路内の油圧は上昇する。即ち、ブレーキペダル5に付与している踏力を減少した場合には、加圧の度合いを大きくする。
これにより、ブレーキ圧BPiは、目標圧に向かって上昇する際の加圧勾配PSiが急勾配になる。このため、従来の制動装置で停車維持制御を行う場合のように、ブレーキ圧BPhの加圧勾配PShが緩やかな場合と比較して、ブレーキ圧BPiは早い時間で目標圧に到達する。即ち、実施例に係る制動装置1では、ブレーキペダル5に付与している踏力を減少した場合には、加圧勾配PSiが急勾配になり、ブレーキ圧BPiは早い時間で目標圧に到達するため、ブレーキ圧BPiは、従来の制動装置における停車維持制御時のブレーキ圧BPhと比較して短時間で目標圧に到達する。ブレーキ圧BPiが目標圧に到達した場合には、ポンプモータ駆動指示PIiをOFFにしてポンプモータ34を停止する。このようにポンプモータ34を停止した場合でも、従来の制動装置と同様にマスタカット弁31を駆動し続けることにより、ブレーキ圧BPhは目標圧で維持されるため、ホイールシリンダ51は目標となる制動力を発生し続ける。これにより、車両は停車状態が維持される。
具体的には、停車維持制御がONの状態で車両がほぼ停止し、且つ、ブレーキペダル5が所定のストローク以上に操作された場合には、停車維持制御を開始し、油圧制御部78でマスタカット弁31とポンプモータ34とを駆動する。即ち、油圧制御部78は、ポンプモータ駆動指示PIiをONにする。
また、油圧制御部78は、目標圧算出部77で算出した目標圧をホイールシリンダ51に作用させることができるように、マスタカット弁31の開度を調節する。その際に、油圧制御部78は、マスタシリンダ圧取得部73で取得するマスタシリンダ圧が、運転者がブレーキペダル5への踏力を減少し、ブレーキペダル5を戻していると判定できる圧力以下になった場合には、マスタカット弁31の開度を小さくする。
詳しくは、マスタシリンダ圧取得部73で取得したマスタシリンダ圧は、ECU70の処理部71が有する制動操作判定部80に伝達され、制動操作判定部80は、伝達されたマスタシリンダ圧に基づいて、ブレーキペダル5を戻しているか否かを判定する。つまり、制動操作判定部80は、マスタシリンダ圧取得部73から伝達されたマスタシリンダ圧が、ブレーキペダル5を戻していると判定できる圧力の閾値より大きい場合には、運転者はブレーキペダル5を戻していないと判定し、伝達されたマスタシリンダ圧が、この閾値以下の場合には、ブレーキペダル5を戻していると判定する。なお、このブレーキペダル5を戻していると判定できる圧力の閾値は、予め設定されてECU70の記憶部90に記憶されている。
制動操作判定部80での判定結果は、油圧制御部78に伝達され、制動操作判定部80から伝達された判定結果が、ブレーキペダル5を戻していないとの判定結果の場合は、油圧制御部78は、マスタカット弁31の開度を大きめにする。これにより、ホイールシリンダ51側からマスタシリンダ11の方に戻るブレーキフルードの量は多めになるので、ポンプモータ34を駆動させることによりホイールシリンダ51に作用する油圧の上昇の度合いは小さくなる。このため、ブレーキ圧BPiの加圧勾配PSiは、比較的緩やかになる。
これに対し、制動操作判定部80から伝達された判定結果が、ブレーキペダル5を戻しているとの判定結果の場合は、油圧制御部78は、マスタカット弁31の開度を小さくする。これにより、ホイールシリンダ51側からマスタシリンダ11の方に戻るブレーキフルードの量は少なくなるので、ポンプモータ34を駆動させることによりホイールシリンダ51に作用する油圧の上昇の度合いは大きくなる。このため、ブレーキ圧BPiの加圧勾配PSiは急勾配になる。
つまり、油圧制御部78は、停車維持制御判定部79が停車維持制御を行うと判定した場合には、ブレーキペダル5に対する制動操作の操作量が所定の操作量以下になった場合、即ち、マスタシリンダ圧取得部73で取得したマスタシリンダ圧が所定の圧力以下になった場合に、マスタカット弁31の開度を小さくすることにより、ホイールシリンダ51に作用するブレーキフルードの油圧の上昇の度合いを大きくする。
ブレーキ圧BPiの加圧勾配PSiが急勾配になった場合、ブレーキ圧BPiは短時間で目標圧に到達する。ブレーキ圧BPiが目標圧に到達した場合には、油圧制御部78はポンプモータ駆動指示PIiをOFFにする。これにより、ポンプモータ34は停止する。このように、実施例に係る制動装置1では、ブレーキペダル5に踏力を付与している状態では、ブレーキ圧BPiの加圧勾配PSiを緩やかにし、ブレーキペダル5を戻した後に加圧勾配PSiを急勾配にして停車維持制御を行う。
停車維持制御は、このようにブレーキペダル5への制動操作の操作量に応じてブレーキ圧BPiの加圧勾配PSiを変化させて行うが、停車維持制御を行っている状態でアクセルペダル60を操作した場合には、停車維持制御を停止する。具体的には、アクセル開度センサ61でアクセル開度を検出し、検出結果をECU70の処理部71が有するアクセル開度取得部74で取得し、取得したアクセル開度が停車維持制御判定部79に伝達される。アクセル開度取得部74で取得したアクセル開度が伝達された停車維持制御判定部79は、伝達されたアクセル開度が所定以上の場合には、停車維持制御を停止する判定を行う。なお、停車維持制御を停止するか否かを判定する際に用いられる所定のアクセル開度は、運転者が車両を発進させる意思があると判断できるアクセル開度として、予め設定されてECU70の記憶部90に記憶されている。
停車維持制御判定部79での判定により、停車維持制御を停止すると判定した場合には、油圧制御部78でポンプモータ34とマスタカット弁31とを制御し、双方の駆動を停止する。これにより、油圧経路20のうちマスタカット弁31を境としてホイールシリンダ51に接続されている側の油圧経路20内のブレーキフルードはマスタシリンダ11の方向に戻るため、ホイールシリンダ51に作用する油圧は低下し、制動力は発生しなくなる。
以上の制動装置1は、停車維持制御判定部79が停車維持制御を行うと判定した場合には、ポンプモータ34で油圧経路20内のブレーキフルードの油圧を増圧させると共にマスタカット弁31でマスタシリンダ11の方向へのブレーキフルードの流れを低減させることにより、ブレーキペダル5への制動操作に関わらずホイールシリンダ51に対して油圧を与えることができ、ホイールシリンダ51に制動力を発生させることができる。また、その際に油圧制御部78は、運転者によるブレーキペダル5への制動操作の操作量が少なくなった場合に、マスタカット弁31でマスタシリンダ11の方向へのブレーキフルードの流れを低減させることにより、ホイールシリンダ51に作用するブレーキフルードの油圧の上昇の度合い、即ち、ブレーキ圧BPiの上昇の度合いを大きくしている。
これにより、ポンプモータ34で油圧を増圧させると共にマスタカット弁31でマスタシリンダ11の方向へのブレーキフルードの流れを低減させることに起因してブレーキペダル5がマスタシリンダ11の方向に吸い込まれる場合でも、この現象は車両の運転者の制動操作の操作量が少なくなった場合に生じるため、運転者は気が付き難い。従って、運転者が違和感を覚えることを抑制しつつ、制動力を確保できる。また、これらの停車維持制御は、新たな装置を設けずに、従来の制動装置でアンチロック制御等を行う場合に用いられるポンプモータ34とマスタカット弁31とにより行うため、このような停車維持制御を行う場合における製造コストの上昇を抑制できる。この結果、製造コストの上昇を抑えつつ、停車維持制御時の違和感の抑制と制動力の確保とを両立することができる。
また、停車維持制御を行う場合には、ブレーキペダル5への制動操作の操作量が所定の操作量以下になった場合に、ブレーキ圧BPiの上昇の度合いを大きくするので、停車維持制御を行う場合に、より確実に、制動操作の操作量が少なくなった場合にホイールシリンダ51に制動力を発生させることができる。この結果、より確実に、停車維持制御時の違和感の抑制と制動力の確保とを両立することができる。
また、従来の制動装置でも用いられるマスタシリンダ圧取得部73で取得したマスタシリンダ圧が所定の圧力以下になった場合に、ブレーキ圧BPiの上昇の度合いを大きくするので、停車維持制御を行う場合に、製造コストの上昇を抑えつつ、より的確に、制動操作の操作量が少なくなった場合にホイールシリンダ51に制動力を発生させることができる。この結果、製造コストの上昇を抑えつつ、より確実に停車維持制御時の違和感の抑制と制動力の確保とを両立することができる。
また、ブレーキペダル5への制動操作の操作量が少なくなった場合には、ブレーキ圧BPiの上昇の度合いを大きくし、加圧勾配PSiを急勾配にしているので、停車維持制御時にブレーキ圧BPiを目標圧にするまでの時間を短くすることができる。これにより、ポンプモータ34の駆動時間を短くすることができるので、消費電力の低減を図ることができ、ポンプモータ34の駆動時に発生する熱を低減することができる。この結果、消費電力の低減により燃費の向上を図ることができ、また、熱の発生を抑えることができるため、停車維持制御時に制動装置1が高温になることを抑制できる。
また、停車維持制御時のポンプモータ34の駆動時間を短くすることができるので、ポンプモータ34の駆動時に発生する作動音の発生時間を短くすることができ、また、ポンプモータ34の駆動時間が短くなることにより、耐久時間を長くすることができる。この結果、ポンプモータ34の作動音の発生時間を短くすることができるため、停車維持制御時の静粛性の向上を図ることができ、また、ポンプモータ34の耐久性の向上を図ることができる。
図5は、変形例に係る制動装置で停車維持制御を行う場合のマスタシリンダ圧と加圧勾配との関係を示す説明図である。なお、実施例に係る制動装置1では、停車維持制御時にマスタシリンダ圧取得部73で取得したマスタシリンダ圧が所定の圧力以下になった場合に、ブレーキ圧BPiの加圧勾配PSiが急勾配になるようにマスタカット弁31を制御しているが、ブレーキ圧BPiの加圧勾配PSiは、ブレーキペダル5への制動操作の制御量に応じて変化するようにしてもよい。この場合、停車維持制御判定部79が停車維持制御を行うと判定した場合には、油圧制御部78は、ブレーキペダル5への制動操作の操作量が少なくなるに従ってブレーキ圧BPiの上昇の度合いを大きくする。具体的には、油圧制御部78は、図5に示すように、マスタシリンダ圧取得部73で取得したマスタシリンダ圧が低くなるに従ってブレーキ圧BPiの上昇の度合いを大きくし、反対にマスタシリンダ圧取得部73で取得したマスタシリンダ圧が高くなるに従ってブレーキ圧BPiの上昇の度合いを小さくする。
ここで、マスタシリンダ圧センサ39やブレーキブースタ12は、ブレーキペダル5に踏力を付与し、ブレーキペダル5の制動操作を開始し始めた段階では、共に遊びがある。即ち、マスタシリンダ圧センサ39は、ブレーキペダル5を制動操作した場合に操作量が所定の操作量になるまではマスタシリンダ圧を検出し難くなっており、ブレーキブースタ12は、ブレーキペダル5を制動操作した場合に操作量が所定の操作量になるまでは、ブレーキペダル5に入力された踏力を増力してマスタシリンダ11に入力し難くなっている。マスタシリンダ圧センサ39やブレーキブースタ12には、このように遊びがあるが、ブレーキペダル5の制動操作時における、マスタシリンダ圧センサ39でマスタシリンダ圧を検出したり、ブレーキブースタ12で踏力を増力したりすることが可能になる操作量は、これらのマスタシリンダ圧の検出や、踏力を増力することが可能になる所定の操作量であるジャンピング操作量JOとなっている。
このように遊びを有するマスタシリンダ圧センサ39やブレーキブースタ12を備える制動装置1において、ブレーキペダル5を制動操作することにより停車維持制御を開始する場合には、操作量が0の状態になっているブレーキペダル5の制動操作の開始後、操作量がジャンピング操作量JOになるまでの間は、ポンプモータ34とマスタカット弁31とを駆動することにより、加圧勾配PSiを急激に急勾配にする。つまり、ブレーキペダル5の制動操作の開始後、操作量がジャンピング操作量JOに到達し、マスタシリンダ圧センサ39での検出結果をECU70の処理部71が有するマスタシリンダ圧取得部73で取得することが可能になるまでは、ポンプモータ34を駆動した状態で、マスタカット弁31の開度を小さくすることにより、ブレーキ圧BPiを一気に上昇させて加圧勾配PSiを一気に急勾配にする。
マスタシリンダ圧取得部73でマスタシリンダ圧を取得可能な状態になり、制動操作の操作量がジャンピング操作量JO以上になった場合は、マスタカット弁31を制御してマスタカット弁31の開度を大きくし、ブレーキ圧BPiの上昇の割合を小さくする。これにより、ブレーキ圧BPiの加圧勾配PSiを緩やかにする。また、このように、ブレーキペダル5への制動操作の制動量がジャンピング操作量JO以上になったか否かの判定は、ブレーキペダル5を制動操作した状態で、マスタシリンダ圧取得部73でマスタシリンダ圧を取得できるか否かにより判定する。
また、制動操作の操作量がジャンピング操作量JO以上になった場合は、油圧制御部78でマスタカット弁31を制御し、マスタシリンダ圧取得部73で取得するマスタシリンダ圧が大きくなるに従って、ブレーキ圧BPiの加圧勾配PSiを緩やかにする。このように、マスタシリンダ圧に対するマスタカット弁31の制御量、或いは、マスタシリンダ圧に対する加圧勾配PSiは、予め設定されており、マップとしてECU70の記憶部90に記憶されている。油圧制御部78は、マスタシリンダ圧取得部73で取得したマスタシリンダ圧を用いてECU70の記憶部90に記憶されているマップを参照することにより、マスタカット弁31の制御量としてマスタカット弁31の開度を取得し、取得した開度になるようにマスタカット弁31を制御する。
油圧制御部78は、マスタシリンダ圧取得部73で取得したマスタシリンダ圧を用いて記憶部90に記憶されているマップを参照し、マスタカット弁31の開度を調節することにより、マスタシリンダ圧が高くなるに従ってブレーキ圧BPiの加圧勾配PSiを緩やかにし、反対にマスタシリンダ圧が低くなるに従ってブレーキ圧BPiの加圧勾配PSiを急勾配にする。
このように、停車維持制御を行う場合には、ブレーキペダル5への制動操作の操作量が少なくなるに従ってブレーキ圧BPiの上昇の度合いを大きくし、加圧勾配PSiを急勾配にすることにより、制動操作の操作量が少なくなり、ブレーキフルードの油圧の変化を運転者が感じ難くなるに従って、ブレーキ圧BPiの加圧勾配PSiを急勾配にすることができる。これにより、ブレーキペダル5への制動操作の操作量に応じて、運転者に違和感を与える度合いとブレーキ圧BPiの大きさとを考慮して、より適切にブレーキフルードの油圧を変化させ、ホイールシリンダ51に制動力を発生させることができる。この結果、より確実に、停車維持制御時の違和感の抑制と制動力の確保とを両立することができる。
また、従来の制動装置1でも用いられるマスタシリンダ圧取得部73で取得したマスタシリンダ圧が低くなるに従って、ブレーキ圧BPiの加圧勾配PSiを急勾配にするので、停車維持制御を行う場合に、製造コストの上昇を抑えつつ、より正確に、ブレーキペダル5への制動操作の操作量が少なくなるに従ってホイールシリンダ51で発生させる制動力の上昇の度合いを上昇させることができる。この結果、製造コストの上昇を抑えつつ、より確実に停車維持制御時の違和感の抑制と制動力の確保とを両立することができる。
また、停車維持制御を開始する場合に、ブレーキペダル5の操作量がジャンピング操作量JOになるまでの間は、ブレーキ圧BPiの加圧勾配PSiを一気に急勾配にすることにより、ホイールシリンダ51に作用させる油圧を、短時間で目標圧に近付けることができる。この結果、停車維持制御の制動力を、より確実に確保することができる。
図6は、変形例に係る制動装置で停車維持制御を行う場合のストローク速度と加圧勾配との関係を示す説明図である。また、停車維持制御を行う場合において加圧勾配PSiをマップによって可変させる場合、マスタシリンダ圧以外に基づいて変化させてもよい。例えば、図6に示すように、ブレーキペダル5への制動操作の操作量の変化速度であるブレーキペダル5のストローク速度を用いてマップを参照し、ブレーキ圧BPiの加圧勾配PSiを変化させてもよい。なお、図6では、図中の左側に向かうに従ってブレーキペダル5を戻す場合におけるストローク速度が増加する状態を示しており、図中の右側に向かうに従って、ブレーキペダル5を踏み込む場合におけるストローク速度が増加する状態を示している。
このように、ブレーキペダル5のストローク速度に基づいて加圧勾配PSiを変化させる場合、油圧制御部78は、停車維持制御判定部79が停車維持制御を行うと判定した場合には、ブレーキペダル5のストローク速度に応じて、ホイールシリンダ51に作用するブレーキフルードの油圧の変化の度合いを変化させる。これにより、停車維持制御時にホイールシリンダ51に作用するブレーキフルードの油圧を、より確実に適切な油圧にすることができる。
例えば、ECU70の処理部71が有するブレーキストローク量取得部72で取得したブレーキペダル5のストローク量の変化量に基づいて、ブレーキペダル5の制動操作の操作量を少なくしていると判定できる場合、即ち、ブレーキペダル5を戻していると判定できる場合は、ストローク速度が速くなるに従ってブレーキ圧BPiの上昇の度合いを大きくし、加圧勾配PSiを急勾配にする。これにより、停車維持制御時にブレーキペダル5を急激に戻す場合でも、より確実に、ホイールシリンダ51に制動力を発生させることができる。反対に、ブレーキペダル5の制動操作の操作量を多くしていると判定できる場合、即ち、ブレーキペダル5の踏み込み量を増加させていると判定できる場合は、ストローク速度が速くなるに従ってブレーキ圧BPiの上昇の度合いを小さくし、加圧勾配PSiを緩やかにする。これにより、ブレーキペダル5の踏み込み量を増加させることによって制動操作時のブレーキフルードの油圧の変化を運転者が感じ易くなる場合でも、運転者への違和感を極力小さくすることができる。これらの結果、より確実に、停車維持制御時の違和感の抑制と制動力の確保とを両立することができる。
また、これらのように、ブレーキ圧BPiの加圧勾配PSiを、マスタシリンダ圧やストローク速度に応じて可変させることにより、ブレーキペダル5の制動操作の操作量に応じて、停車維持制御時におけるブレーキ圧BPiの加圧勾配PSiを、より適切な加圧勾配PSiにすることができる。これにより、停車維持制御時におけるポンプモータ34の駆動時間を、より確実に短くすることができる。この結果、より確実に、消費電力が低減することによって燃費の向上を図ることができると共に、停車維持制御時に制動装置1が高温になることを抑制でき、且つ、停車維持制御時の静粛性の向上を図ることができ、さらに、ポンプモータ34の耐久性の向上を図ることができる。
また、上述した制動装置1は、ブレーキペダル5の制動操作の操作量として、マスタシリンダ圧取得部73で取得するマスタシリンダ圧を用いているが、制動操作の操作量は、マスタシリンダ圧以外を用いてもよい。例えば、ブレーキストローク量取得部72で取得するストローク量を、ブレーキペダル5の制動操作の操作量として用いてもよい。制動操作の操作量は、運転者がブレーキペダル5を制動操作する場合に、その操作に基づく変化量を計測できるものであればよく、制動操作の操作量を精度よく計測できるものであれば、マスタシリンダ圧以外を用いてもよい。
また、実施例に係る制動装置1では、制動操作時に停車維持制御を行うか否かの切り替えは、制御モードスイッチ65により行っているが、この切り替えは、制御モードスイッチ65以外により行ってもよい。停車維持制御を行うか否かの切り替えは、通常の制動制御と停車維持制御とを適切に切り替えることができるものであれば、制御モードスイッチ65以外により行ってもよい。