図1は、本発明の実施例1に係る制動装置の概略図である。同図に示す制動装置1は車両(図示省略)に備えられており、当該車両の制動が可能に設けられている。詳しくは、制動装置1は、車両に複数設けられる各車輪の近傍に、当該制動装置1における作動液であるブレーキフルード(図示省略)の液圧、即ち油圧によって作動するホイールシリンダ51と、このホイールシリンダ51と組みになって設けられると共に車輪の回転時には車輪と一体となって回転するブレーキディスク55とを有している。車両を減速させる場合には、油圧でホイールシリンダ51を作動させて摩擦力でブレーキディスク55の回転を低下させることにより、制動が可能になっている。
このように設けられる制動装置1は、当該制動装置1への入力手段であり、車両を制動する際の操作である制動操作を行う部分である制動操作手段として設けられるブレーキペダル5を有しており、このブレーキペダル5は、車両の運転席に運転者が座った状態における運転者の足元付近に設けられている。このように設けられるブレーキペダル5の近傍には、ブレーキペダル5のストロークを検出可能なブレーキストローク検出手段であるブレーキストロークセンサ6が設けられている。
また、ブレーキペダル5は、車両走行時の動力源として設けられるエンジン(図示省略)の運転時に発生する負圧の伝達が可能な負圧経路13が接続されたブレーキブースタ12に接続されている。この負圧経路13は、エンジンの吸気通路(図示省略)に接続されており、これにより負圧経路13は、エンジンの運転時に発生する負圧をブレーキブースタ12に伝達可能になっている。また、このように設けられる負圧経路13には、吸気通路側からブレーキブースタ12の方向への空気の流れを遮断する逆止弁である負圧経路逆止弁14が設けられている。
また、ブレーキブースタ12は、油圧を発生させることができるマスタシリンダ11に接続されており、マスタシリンダ11には、車両の制動時にホイールシリンダ51に作用させる油圧の経路である油圧経路20が接続されている。この油圧経路20は、作動液であるブレーキフルードの経路である作動液経路として設けられている。マスタシリンダ11に接続されている油圧経路20は、作動液として用いられるブレーキフルードが満たされている。また、この油圧経路20は、2系統に分かれて構成されており、2系統の油圧経路20である第1油圧経路21と第2油圧経路22とが、それぞれ独立してマスタシリンダ11に接続されている。
ブレーキペダル5は、これらのようにブレーキブースタ12とマスタシリンダ11とを介して油圧経路20に接続されており、このうちブレーキブースタ12は、公知の真空式倍力装置となっており、ブレーキペダル5に入力された踏力を、負圧経路13から伝達された負圧と大気圧との差を利用することにより増大してマスタシリンダ11に伝達可能に設けられている。また、マスタシリンダ11は、ブレーキブースタ12から伝達された力によって油圧を発生させ、発生させた油圧を油圧経路20に伝達可能に設けられている。即ち、マスタシリンダ11は、ブレーキブースタ12を介してブレーキペダル5に接続されていると共に、ブレーキペダル5への制動操作に応じてブレーキフルードの油圧を上昇させることができる液圧発生手段として設けられている。
また、マスタシリンダ11に接続される油圧経路20には、その端部にホイールシリンダ51が接続されており、第1油圧経路21と第2油圧経路22とで、車両における互い違いの位置に配設されている車輪の近傍に設けられるホイールシリンダ51が接続されている。ここで、複数設けられる各車輪の近傍に配設されるホイールシリンダ51とブレーキディスク55とについて説明すると、ホイールシリンダ51は、左前輪、右前輪、左後輪、右後輪の近傍に配設されるホイールシリンダ51が、順に左前輪ホイールシリンダ52L、右前輪ホイールシリンダ52R、左後輪ホイールシリンダ53L、右後輪ホイールシリンダ53Rとなっている。同様に、ブレーキディスク55は、左前輪、右前輪、左後輪、右後輪の近傍に配設されるブレーキディスク55が、順に左前輪ブレーキディスク56L、右前輪ブレーキディスク56R、左後輪ブレーキディスク57L、右後輪ブレーキディスク57Rとなっている。第1油圧経路21と第2油圧経路22とで、車両における互い違いの位置に配設されている車輪の近傍に設けられるホイールシリンダ51は、第1油圧経路21には右前輪ホイールシリンダ52Rと左後輪ホイールシリンダ53Lとが接続され、第2油圧経路22には左前輪ホイールシリンダ52Lと右後輪ホイールシリンダ53Rとが接続されている。このように設けられるホイールシリンダ51は、ブレーキフルードの油圧によって作動することにより制動力を発生する制動力発生手段として設けられている。
また、油圧経路20には、車両の制動時に油圧経路20内の油圧を制御可能なブレーキアクチュエータ30が複数設けられており、ブレーキアクチュエータ30は、常開のソレノイドバルブであるマスタカット弁31と保持弁32、及び常閉のソレノイドバルブである減圧弁33とを有している。このうち、マスタカット弁31は、第1油圧経路21と第2油圧経路22とにそれぞれ1つずつ配設されており、ホイールシリンダ51側からマスタシリンダ11の方向へのブレーキフルードの流れを調節可能な流量調整手段として設けられている。
また、保持弁32は、油圧経路20において、マスタシリンダ11からマスタカット弁31を経てホイールシリンダ51に向かう経路に設けられており、4つのホイールシリンダ51に対応して保持弁32も4つ設けられている。
また、減圧弁33は、保持弁32からホイールシリンダ51に向かう経路から分岐し、マスタカット弁31と保持弁32との間の経路に接続される経路であるリターン経路25に設けられている。このように、減圧弁33が設けられるリターン経路25は、4つの保持弁32とホイールシリンダ51との間の経路からそれぞれ分岐しており、減圧弁33は、分岐した各経路に設けられているため、減圧弁33は油圧経路20に4つ設けられている。即ち、減圧弁33は、保持弁32と同様に4つのホイールシリンダ51に対応して4つ設けられている。
また、リターン経路25は、減圧弁33の下流側、つまりリターン経路25における、減圧弁33よりもマスタカット弁31と保持弁32との間の経路に接続される側の部分が、第1油圧経路21における2つのリターン経路25同士、及び第2油圧経路22における2つのリターン経路25同士で接続されて、それぞれ1つの経路になっている。このように、リターン経路25における1つの経路になった部分には、ブレーキアクチュエータ30であるポンプモータ34と、リターン経路25に設けられる逆止弁であるリターン経路逆止弁35と、ポンプモータ34から吐出されたブレーキフルードの脈動を低減するダンパ室40とが配設されている。このうち、リターン経路逆止弁35とダンパ室40は、リターン経路25におけるポンプモータ34よりもマスタカット弁31と保持弁32との間の経路に接続される側に配設されており、リターン経路逆止弁35は、リターン経路25におけるポンプモータ34とダンパ室40との間に配設されている。
また、ポンプモータ34は電気によって駆動可能に設けられており、ポンプモータ34を駆動させることにより、リターン経路25内のブレーキフルードを減圧弁33側からマスタカット弁31或いは保持弁32側に供給可能に設けられている。これによりポンプモータ34は、油圧経路20内のブレーキフルードを加圧することができ、ブレーキフルードの油圧をマスタシリンダ11で発生する油圧以上に増圧可能な増圧手段として設けられている。また、リターン経路逆止弁35は、ポンプモータ34からマスタカット弁31或いは保持弁32方向へのブレーキフルードのみ流し、反対方向のブレーキフルードの流れを遮断する。また、ダンパ室40は、ポンプモータ34から吐出され、リターン経路逆止弁35を通過してマスタカット弁31或いは保持弁32方向へ流れるブレーキフルードの脈動を低減する。ポンプモータ34とリターン経路逆止弁35とダンパ室40とは、これらのように設けられているため、第1油圧経路21と第2油圧経路22とにそれぞれ1つずつ配設されている。即ち、ポンプモータ34とリターン経路逆止弁35とダンパ室40とは、共に全部で2つずつ設けられている。
また、油圧経路20におけるマスタカット弁31の上流側、即ち、油圧経路20におけるマスタシリンダ11とマスタカット弁31との間の部分からは、リターン経路25に接続される経路である供給経路26が分岐しており、供給経路26はリターン経路25に接続されている。また、この供給経路26にはリザーバ37と、供給経路26に設けられる逆止弁である供給経路逆止弁38とが配設されており、供給経路逆止弁38は、供給経路26における、リザーバ37よりも、マスタシリンダ11とマスタカット弁31との間の経路に接続される側に配設されている。
このうち、リザーバ37は、供給経路26を流れるブレーキフルードを所定量貯留可能に設けられており、供給経路逆止弁38は、供給経路26における、マスタシリンダ11とマスタカット弁31との間の経路に接続される側の端部側からリターン経路25の方向へのブレーキフルードのみ流し、反対方向のブレーキフルードの流れを遮断する。リザーバ37と供給経路逆止弁38とは、これらのように設けられているため、第1油圧経路21と第2油圧経路22とにそれぞれ1つずつ配設されている。即ち、リザーバ37と供給経路逆止弁38とは、共に全部で2つずつ設けられている。
また、第1油圧経路21におけるマスタシリンダ11とマスタカット弁31との間には、操作圧力検出手段であるマスタシリンダ圧センサ39が設けられている。このマスタシリンダ圧センサ39は、第1油圧経路21におけるマスタシリンダ11とマスタカット弁31との間の油圧を、運転者がブレーキ操作をしてブレーキペダル5を踏んだ場合に発生する操作圧力として検出可能に設けられている。
また、車両の室内には、エンジンの出力を調整する際に操作するアクセルペダル60が、ブレーキペダル5に並べられて設けられており、アクセルペダル60の近傍には、当該アクセルペダル60の開度を検出可能なアクセル開度検出手段であるアクセル開度センサ61が設けられている。さらに、車両の室内には、制動制御を行う際における制御モードを切り替える制御モード切替手段である制御モードスイッチ65が設けられている。この制御モードスイッチ65は、車両の運転席に運転者が座った状態で運転者が操作可能な位置に配設されており、車両の停車時にブレーキペダル5への制動操作を行わなくなった状態でもホイールシリンダ51に制動力を発生させ続けることにより停車を維持させ続ける制御である停車維持制御を行うモードと、通常の制動制御のモードとを切り替え可能に設けられている。つまり、制御モードスイッチ65は、停車維持制御のONとOFFとを切り替え可能に設けられている。
これらのように設けられるブレーキストロークセンサ6、マスタカット弁31、保持弁32、減圧弁33、ポンプモータ34、マスタシリンダ圧センサ39、アクセル開度センサ61、制御モードスイッチ65は、車両に搭載されると共に車両の各部を制御するECU(Electronic Control Unit)70に接続されており、ECU70によって制御可能に設けられている。
図2は、図1に示した制動装置の要部構成図である。ECU70には、処理部71、記憶部90及び入出力部91が設けられており、これらは互いに接続され、互いに信号の受け渡しが可能になっている。また、ECU70に接続されているブレーキストロークセンサ6、マスタカット弁31、保持弁32、減圧弁33、ポンプモータ34、マスタシリンダ圧センサ39、アクセル開度センサ61、制御モードスイッチ65は、入出力部91に接続されており、入出力部91は、これらのセンサ類等との間で信号の入出力を行う。また、記憶部90には、実施例1に係る制動装置1を制御するコンピュータプログラムが格納されている。この記憶部90は、ハードディスク装置や光磁気ディスク装置、またはフラッシュメモリ等の不揮発性のメモリ(CD−ROM等のような読み出しのみが可能な記憶媒体)や、RAM(Random Access Memory)のような揮発性のメモリ、或いはこれらの組み合わせにより構成することができる。
また、処理部71は、メモリ及びCPU(Central Processing Unit)により構成されており、ブレーキストロークセンサ6での検出結果よりブレーキペダル5のストローク量を取得可能な制動操作取得手段であるブレーキストローク量取得部72と、マスタシリンダ圧センサ39での検出結果より、マスタシリンダ11で発生するブレーキフルードの圧力であるマスタシリンダ圧を取得可能なマスタシリンダ圧取得手段であるマスタシリンダ圧取得部73と、アクセル開度センサ61での検出結果よりアクセル開度を取得可能なアクセル操作取得手段であるアクセル開度取得部74と、制御モードスイッチ65の状態より選択されている制動制御のモードを取得する制御モード取得手段である制御モード取得部75と、を有している。
また、処理部71は、車両の停車を維持するために必要な制動力である必要制動力を算出する必要制動力算出手段である必要制動力算出部76と、車両の運転者がブレーキペダル5を操作することにより発生する制動力である制動操作制動力を算出する制動操作制動力算出手段である制動操作制動力算出部77と、ブレーキアクチュエータ30を制御することにより油圧経路20内のブレーキフルードの油圧を制御可能に設けられていると共に、停車維持制御を行う場合には、ポンプモータ34を駆動させ一定時間が経過した後、マスタカット弁31でマスタシリンダ11の方向へのブレーキフルードの流れを低減させることによりホイールシリンダ51が制動力を発生可能な油圧を維持する液圧制御手段である油圧制御部78と、を有している。
また、処理部71は、停車維持制御を行うか否かを判定する停車維持制御判定手段である停車維持制御判定部79と、マスタカット弁31が駆動中であるか否かの判定をするマスタカット弁駆動判定手段であるマスタカット弁駆動判定部80と、ポンプモータ34が駆動中であるか否かを判定するポンプモータ駆動判定手段であるポンプモータ駆動判定部81と、必要制動力と制動操作制動力とを比較し、相対的な大きさを判定する制動力判定手段である制動力判定部82と、ポンプモータ34の駆動開始後、一定時間が経過したか否かを判定する経過時間判定手段である経過時間判定部83と、を有している。
ECU70によって制御されるマスタカット弁31などの制御は、例えば、マスタシリンダ圧センサ39などによる検出結果に基づいて、処理部71が前記コンピュータプログラムを当該処理部71に組み込まれたメモリに読み込んで演算し、演算の結果に応じてマスタカット弁31などの作動部分を作動させることにより制御する。その際に処理部71は、適宜記憶部90へ演算途中の数値を格納し、また格納した数値を取り出して演算を実行する。なお、このようにマスタカット弁31などを制御する場合には、前記コンピュータプログラムの代わりに、ECU70とは異なる専用のハードウェアによって制御してもよい。
この実施例1に係る制動装置1は、以上のごとき構成からなり、以下、その作用について説明する。車両の走行中に制動し、減速をする場合には、ブレーキペダル5を踏むことによってブレーキをかける。このように、ブレーキペダル5を踏んでブレーキ操作した場合、その踏力がブレーキペダル5からブレーキブースタ12に伝達される。ここで、このブレーキブースタ12には負圧経路13が接続されており、ブレーキブースタ12にはエンジンの運転時における吸気行程で発生する負圧が負圧経路13を介して伝達可能に設けられている。このため、踏力がブレーキブースタ12に対して入力された場合、ブレーキブースタ12はこの負圧と大気圧との差圧により、踏力を増力させてマスタシリンダ11に入力する。踏力に対して増力した力が入力されたマスタシリンダ11は、入力された力に応じてブレーキフルードに対して圧力を与え、マスタシリンダ11の作動に応じて変化するブレーキフルードの圧力であるマスタシリンダ圧を上昇させる。
マスタシリンダ圧が上昇した場合、油圧経路20内のブレーキフルードの圧力も上昇し、油圧経路20内の油圧はマスタシリンダ圧と同じ圧力になる。さらに、このように油圧経路20内の油圧が上昇した場合、この油圧は常開のソレノイドバルブであるマスタカット弁31と保持弁32とを介してホイールシリンダ51にも伝達される。この場合、減圧弁33は常閉であるため、油圧経路20内のブレーキフルードは保持弁32側から減圧弁33を通ってリターン経路25には流れないため、保持弁32からホイールシリンダ51に伝達される油圧は低下しない。
このように、上昇した油圧がホイールシリンダ51に伝達された場合、ホイールシリンダ51は伝達された油圧により作動する。即ち、ホイールシリンダ51は、マスタシリンダ油圧で作動する。ホイールシリンダ51が作動した場合、ホイールシリンダ51は、当該ホイールシリンダ51と組みになって設けられ、且つ、車輪の回転時に車輪と一体となって回転するブレーキディスク55の回転速度を低下させる。これにより、車輪の回転速度も低下するため、車両は減速する。
これらのように、ブレーキペダル5を操作することにより、ホイールシリンダ51にはブレーキディスク55の回転速度を低下させる力である制動力が発生するため、ブレーキディスク55の回転速度の低下を介して車輪の回転速度を低下させることができ、走行中の車両を制動することができる。
また、このようにブレーキペダル5を操作する場合には、ブレーキペダル5のストローク量が、ブレーキペダル5の近傍に設けられるブレーキストロークセンサ6によって検出される。ブレーキストロークセンサ6による検出結果は、ECU70の処理部71が有するブレーキストローク量取得部72で取得する。また、ブレーキペダル5を操作した場合には、ブレーキペダル5に付与する踏力に応じて変化するマスタシリンダ圧が、第1油圧経路21に設けられるマスタシリンダ圧センサ39によって検出される。マスタシリンダ圧センサ39による検出結果は、ECU70の処理部71が有するマスタシリンダ圧取得部73で取得する。ECU70の処理部71が有する油圧制御部78は、ブレーキストローク量取得部72で取得したブレーキペダル5のストローク量や、マスタシリンダ圧取得部73で取得したマスタシリンダ圧や、車両に設けられる他のセンサでの検出結果に応じてブレーキアクチュエータ30を制御することにより、ホイールシリンダ51に作用させる油圧を制御する。
また、ポンプモータ34を駆動させた場合には、リターン経路25内のブレーキフルードを、マスタカット弁31と保持弁32との間の経路の方向に流す。これにより、保持弁32方向に流れるブレーキフルードの油圧を増圧することができ、ホイールシリンダ51に作用させる油圧を増圧させることができる。このため、運転者がブレーキペダル5を踏んだ際に発生する油圧よりも高い油圧をホイールシリンダ51に作用させることができ、制動力を上昇させることができる。換言すると、車両の制動時に、運転者がブレーキペダル5を踏んだ際に発生する油圧以上の油圧をホイールシリンダ51に作用させる場合には、ポンプモータ34を駆動させる。このように、ポンプモータ34は、車両の運転者の制動操作による制動力以上の制動力を車輪に付与することができる制動力補助手段として設けられている。
また、実施例1に係る制動装置1は、走行中の車両の制動を行う他に、車両の停車を維持する制御である停車維持制御が可能に設けられている。この停車維持制御を行うか否かは、車両の室内に設けられる制御モードスイッチ65により切り替える。制御モードスイッチ65の状態が、通常の制動制御のモードの場合、つまり、停車維持制御がOFFの状態の場合には、制動装置1は、上述したようにブレーキペダル5の操作に応じてホイールシリンダ51が作動し、制動力を発生する。
これに対し、制御モードスイッチ65の状態が、停車維持制御のモードになっており、停車維持制御がONの状態の場合には、制動装置1は、停車維持制御を行う。具体的には、停車維持制御がONの状態で車両がほぼ停止し、且つ、ブレーキペダル5が所定のストローク以上に操作された場合には、停車維持制御を行う。
このうち、停車維持制御がONであることの検出は、制御モードスイッチ65の状態を、ECU70の処理部71が有する制御モード取得部75で取得する。車両がほぼ停止した状態で、制御モード取得部75で取得した制御モードスイッチ65の状態が、停車維持制御がONの状態となり、ブレーキストローク量取得部72で取得するブレーキペダル5のストローク量が所定のストローク量以上の場合には、ECU70の処理部71が有する停車維持制御判定部79は、停車維持制御を行うとの判定をする。停車維持制御判定部79が停車維持制御を行うとの判定をした場合には、停車維持制御を行う。
停車維持制御を行う場合は、ブレーキペダル5を操作した後、ECU70の処理部71が有する油圧制御部78でマスタカット弁31を制御し、マスタカット弁31を駆動することにより、ブレーキペダル5を戻した状態でもホイールシリンダ51に対してブレーキフルードの油圧が作用した状態にする。即ち、停車維持制御を行う場合は、常開のマスタカット弁31を閉じる方向に駆動することにより、ブレーキペダル5を戻した場合でもブレーキフルードはホイールシリンダ51側からマスタシリンダ11の方には戻らなくなる。このため、油圧経路20のうちマスタカット弁31を境としてホイールシリンダ51に接続されている側の油圧経路20の油圧は維持されるため、ブレーキペダル5を戻した状態でもホイールシリンダ51に対する油圧は維持される。これにより、ホイールシリンダ51は制動力によりブレーキディスク55の回転の停止状態を維持させるため、車両の停車状態が維持される。
ここで、停車維持制御を行う場合には、例えば、車両を平地に停車させる場合と坂路に停車させる場合とでは必要となる制動力が異なり、また、運転者がブレーキペダル5を操作することにより発生する制動力も、ブレーキペダル5を操作する際の踏力によって異なる。このため、車両の停車時にブレーキペダル5を操作することにより停車維持制御を行う場合、ブレーキペダル5を操作する際の踏力に基づいて発生する制動力が、車両の停車を維持するのに必要な制動力に対して不足する場合がある。
この場合には、ECU70の処理部71が有する油圧制御部78でポンプモータ34を制御してポンプモータ34を駆動することにより保持弁32方向に流れるブレーキフルードの油圧を増圧し、ホイールシリンダ51に作用させる油圧を増圧させる。これにより、制動力を増加させ、車両の停車を維持するのに必要な制動力を発生させる。このように、ポンプモータ34を駆動させることにより車両の停車を維持するのに必要な制動力を発生させる場合には、ポンプモータ34が駆動し、一定時間が経過した後、閉じる方向にマスタカット弁31を駆動させることにより、マスタシリンダ11の方向へのブレーキフルードの流れを低減させる。
このように、停車維持制御を行っている状態でアクセルペダル60を操作した場合には、停車維持制御を停止する。具体的には、アクセル開度センサ61でアクセル開度を検出し、検出結果をECU70の処理部71が有するアクセル開度取得部74で取得し、アクセル開度取得部74で取得したアクセル開度が所定以上の場合には、油圧制御部78でポンプモータ34とマスタカット弁31とを制御し、双方の駆動を停止する。これにより、油圧経路20のうちマスタカット弁31を境としてホイールシリンダ51に接続されている側の油圧経路20内のブレーキフルードはマスタシリンダ11の方向に戻るため、ホイールシリンダ51に作用する油圧は低下し、制動力は発生しなくなる。
図3は、実施例1に係る制動装置の処理手順を示すフロー図である。次に、実施例1に係る制動装置1の制御方法、即ち、当該制動装置1の処理手順について説明する。なお、以下の処理は、車両の走行中に各部を制御する際に、所定の期間ごとに呼び出されて実行する。実施例1に係る制動装置1の処理手順では、まず、停車維持制御を実行するか否かを判定する(ステップST101)。この判定は、ECU70の処理部71が有する停車維持制御判定部79で行う。停車維持制御判定部79で停車維持制御の判定を行う場合は、ECU70の記憶部90に記憶されており、停車維持制御の状態を示すフラグである停車維持制御フラグ(図示省略)の状態によって判定が異なる。まず、停車維持制御フラグがONの場合、即ち、現在の制御状態は、停車維持制御を実行中であることを停車維持制御フラグが示している場合には、停車維持制御判定部79は引き続き停車維持制御を実行するとの判定をする。
また、停車維持制御フラグがOFFの場合、即ち、現在の制御状態は、停車維持制御を実行中ではないことを停車維持制御フラグが示している場合には、まず、制御モード取得部75で取得した制御モードスイッチ65の状態と、ブレーキストローク量取得部72で取得したブレーキペダル5のストローク量と、車両の走行時における他の制御で用いられる車速とを、停車維持制御判定部79で取得する。これらを取得した停車維持制御判定部79は、制御モードスイッチ65の状態が、停車維持制御がONの状態で、ブレーキペダル5のストローク量が所定のストローク量以上で、且つ、車速が所定の車速以下の場合には、停車維持制御の実行条件が成立した状態であるため、停車維持制御を実行するとの判定をする。また、このように停車維持制御を実行するとの判定をした場合には、停車維持制御フラグをONにする。
これに対し、停車維持制御フラグがOFFの場合で、さらに、制御モードスイッチ65の状態がOFFの状態、またはブレーキペダル5のストローク量が所定のストローク量未満、または車速が所定の車速より速い場合には、停車維持制御の実行条件は成立していないため、停車維持制御判定部79は、停車維持制御は実行しないとの判定をする。停車維持制御判定部79による判定で、停車維持制御は実行しないとの判定を行った場合には、この処理手順から抜け出る。なお、停車維持制御の実行条件が成立した状態であるか否かの判定をする際に用いられるブレーキペダル5の所定のストローク量は、運転者が車両を停止させる意思があると判断できるストローク量として、予め設定されてECU70の記憶部90に記憶されている。また、停車維持制御の実行条件が成立した状態であるか否かの判定をする際に用いられる所定の車速は、車両がほぼ停止した状態であると判断できる車速として、予め設定されてECU70の記憶部90に記憶されている。
停車維持制御判定部79での判定(ステップST101)により、停車維持制御を実行するとの判定を行った場合には、次に、マスタカット弁31は駆動中であるか否かを判定する(ステップST102)。この判定は、ECU70の処理部71が有するマスタカット弁駆動判定部80で行う。このマスタカット弁駆動判定部80は、マスタカット弁31を制御する油圧制御部78でのマスタカット弁31に対する制御指示の状態を取得し、マスタカット弁31を駆動する制御指示を行っているか否かに基づいて、マスタカット弁31は駆動中であるか否かを判定する。マスタカット弁駆動判定部80での判定により、マスタカット弁31は駆動中であると判定した場合には、後述するステップST111に向かう。
マスタカット弁駆動判定部80での判定(ステップST102)により、マスタカット弁31は駆動中ではないと判定した場合には、次に、ポンプモータ34は駆動中であるか否かを判定する(ステップST103)。この判定は、ECU70の処理部71が有するポンプモータ駆動判定部81で行う。このポンプモータ駆動判定部81は、ポンプモータ34を制御する油圧制御部78でのポンプモータ34に対する制御指示の状態を取得し、ポンプモータ34を駆動する制御指示を行っているか否かに基づいて、ポンプモータ34は駆動中であるか否かを判定する。ポンプモータ駆動判定部81での判定により、ポンプモータ34は駆動中であると判定した場合には、後述するステップST108に向かう。
ポンプモータ駆動判定部81での判定(ステップST103)により、ポンプモータ34は駆動中ではないと判定した場合には、次に、必要制動力を算出する(ステップST104)。この算出は、ECU70の処理部71が有する必要制動力算出部76で行う。必要制動力算出部76で必要制動力を算出する際には、まず、車両の他の制御で用いられる加速度を検出するGセンサ(図示省略)での検出結果より、車両が停車している道路の坂路勾配を計測したり、車両の他の制御で用いられるエンジンのアイドル回転数を取得し、クリープ走行時の駆動力を、取得したアイドル回転数に基づいて算出したりすることにより、車両を移動させる力を算出する。必要制動力算出部76は、このように車両を移動させる力を算出した後、この力が作用することにより移動しようとする車両の停止を維持するのに必要な力である必要制動力を算出する。なお、制動装置1で制動力を発生する場合、制動装置1の製造時におけるバラつきにより制動力にバラつきが発生する場合があるので、必要制動力算出部76で必要制動力を算出する場合には、このバラつきを補償するために必要制動力を大きめに算出する。
次に、制動操作制動力を算出する(ステップST105)。この算出は、ECU70の処理部71が有する制動操作制動力算出部77で行う。制動操作制動力算出部77で制動操作制動力を算出する場合には、まず、マスタシリンダ圧取得部73で取得するマスタシリンダ圧を制動操作制動力算出部77で取得することにより、運転者がブレーキペダル5を操作することにより油圧経路20で発生する油圧を取得する。さらに、この油圧がホイールシリンダ51に作用することにより発生する制動力を、制動操作制動力算出部77で算出する。これにより、運転者がブレーキペダル5に踏力を付与することにより発生する制動力である制動操作制動力を、制動操作制動力算出部77で算出する。
次に、(必要制動力>制動操作制動力)であるか否かを判定する(ステップST106)。この判定は、ECU70の処理部71が有する制動力判定部82で行う。制動力判定部82は、必要制動力算出部76で算出した必要制動力と、制動操作制動力算出部77で算出した制動操作制動力とを比較し、必要制動力は制動操作制動力よりも大きいか否かを判定する。
制動力判定部82での判定(ステップST106)により、(必要制動力>制動操作制動力)であると判定された場合には、ポンプモータ34を駆動する(ステップST107)。この駆動は、ECU70の処理部71が有する油圧制御部78で行う。油圧制御部78は、ポンプモータ34に対して駆動する制御信号を送信する。これによりポンプモータ34は駆動する。ポンプモータ34が駆動した場合、ポンプモータ34は油圧経路20内のブレーキフルードを加圧し、ブレーキフルードの油圧を上昇させる。これにより、ホイールシリンダ51には必要制動力を発生可能な油圧以上の油圧が作用し、この油圧によりホイールシリンダ51は必要制動力以上の制動力を発生する。必要制動力以上の制動力を発生したホイールシリンダ51は、ブレーキディスク55の回転の停止状態を維持させ、車両の停車状態を維持させる。また、ポンプモータ34の駆動を開始させた場合には、駆動の開始と同時に、ECU70に設けられるタイマ(図示省略)を始動させる。
次に、ポンプモータ34の駆動から一定時間が経過したか否かを判定する(ステップST108)。この判定は、ECU70の処理部71が有する経過時間判定部83で行う。経過時間判定部83は、油圧制御部78でポンプモータ34を駆動した場合(ステップST107)、及びポンプモータ駆動判定部81での判定(ステップST103)によりポンプモータ34は駆動中であると判定された場合には、ポンプモータ34の駆動の開始と同時に始動させるタイマの現在値を取得し、取得したタイマの現在値が一定時間を経過しているか否かを判定する。この判定により、ポンプモータ34の駆動から一定時間が経過していないと判定された場合には、この処理手順から抜け出る。なお、この判定に用いる一定時間は、ポンプモータ34が駆動することによって流動する油圧経路20内のブレーキフルードの流れが安定するまでの時間として、予めECU70の記憶部90に記憶されている。
経過時間判定部83での判定(ステップST108)により、ポンプモータ34の駆動から一定時間が経過したと判定された場合には、次に、マスタカット弁31を駆動する(ステップST109)。この駆動は、ECU70の処理部71が有する油圧制御部78で行う。油圧制御部78は、常開のマスタカット弁31に対して、閉じる方向に駆動する制御信号を送信する。これによりマスタカット弁31は閉じる方向に駆動する。マスタカット弁31が閉じる方向に駆動した場合には、油圧経路20内のブレーキフルードは保持弁32側からマスタシリンダ11の方向には流れなくなる。油圧経路20内の油圧は、ポンプモータ34の駆動により上昇しているが、油圧経路20内のブレーキフルードは保持弁32側からマスタシリンダ11の方向には流れなくなることにより、運転者がブレーキペダル5に対する踏力を除去した場合でも、油圧経路20におけるマスタカット弁31からホイールシリンダ51の間に位置する経路内の油圧は維持される。
また、その際に油圧制御部78は、ホイールシリンダ51に作用させる油圧が、ホイールシリンダ51で発生する制動力が必要制動力になる大きさの油圧になるようにマスタカット弁31の開度を調節する。これにより、ホイールシリンダ51には、必要制動力を発生可能な油圧が作用し続けるため、ホイールシリンダ51は必要制動力を発生し続ける。
これらに対し、制動力判定部82での判定(ステップST106)により、(必要制動力>制動操作制動力)ではないと判定された場合、つまり、必要制動力は制動操作制動力以下であると判定された場合には、ポンプモータ34を非駆動にする(ステップST110)。即ち、油圧制御部78で制御するポンプモータ34に対して非駆動の制御信号を送信する、或いはポンプモータ34を駆動させる制御信号を送信しないことにより、ポンプモータ34を非駆動にする。ポンプモータ34が非駆動の場合には、ポンプモータ34は油圧経路20内のブレーキフルードを加圧しない。これにより、ホイールシリンダ51には、運転者の制動操作により発生する油圧が作用し、この油圧によりホイールシリンダ51は制動操作制動力を発生する。制動操作制動力を発生したホイールシリンダ51は、この制動操作制動力によってブレーキディスク55の回転の停止状態を維持させ、車両の停車状態を維持させる。
ポンプモータ34を非駆動にした後は、ポンプモータ34を駆動し(ステップST107)、ポンプモータ34の駆動から一定時間が経過したと判定(ステップST108)された場合と同様に、マスタカット弁31を駆動する(ステップST109)。ポンプモータ34が非駆動の場合でも、油圧経路20内の油圧は、運転者の制動操作により上昇している。このため、マスタカット弁31を駆動し、油圧経路20内のブレーキフルードが保持弁32側からマスタシリンダ11の方向に流れなくなるようにすることにより、運転者がブレーキペダル5に対する踏力を除去した場合でも、油圧経路20におけるマスタカット弁31からホイールシリンダ51の間に位置する経路内の油圧は、運転者の制動操作による油圧が維持される状態になる。
このように、油圧制御部78は、停車維持制御を行う際に停車を維持させ続けるのに必要な制動力である必要制動力が、運転者の制動操作に基づいてホイールシリンダ51で発生する制動力である制動操作制動力以下の場合には、ポンプモータ34で油圧を増圧させずにマスタカット弁31でマスタシリンダ11の方向へのブレーキフルードの流れを低減させることによりホイールシリンダ51が制動操作制動力を発生可能な油圧を維持することによって、停車維持制御を行う。つまり、油圧制御部78は、必要制動力が制動操作制動力より大きい場合には、ポンプモータ34とマスタカット弁31との双方を駆動することにより停車維持制御を行い、必要制動力が制動操作制動力以下の場合には、ポンプモータ34は駆動させずにマスタカット弁31のみを駆動することにより、停車維持制御を行う。
油圧制御部78でマスタカット弁31を駆動した場合(ステップST109)、及びマスタカット弁駆動判定部80での判定(ステップST102)によりマスタカット弁31は駆動中であると判定された場合には、次に、停車維持制御を停止するか否かを判定する(ステップST111)。この判定は、停車維持制御を実行するか否かの判定(ステップST101)と同様に、停車維持制御判定部79で行う。停車維持制御判定部79は、アクセル開度取得部74で取得したアクセル開度を取得し、このアクセル開度が所定のアクセル開度以上の場合には、停車維持制御を停止する判定を行う。停車維持制御判定部79での判定により、停車維持制御を停止しないと判定した場合には、この処理手順から抜け出る。なお、停車維持制御を停止するか否かを判定する際に用いられる所定のアクセル開度は、運転者が車両を発進させる意思があると判断できるアクセル開度として、予め設定されてECU70の記憶部90に記憶されている。
これに対し、停車維持制御判定部79での判定(ステップST111)により、停車維持制御を停止すると判定した場合には、ポンプモータ34とマスタカット弁31とを非駆動にする(ステップST112)。つまり、ポンプモータ34とマスタカット弁31とを制御する油圧制御部78からポンプモータ34とマスタカット弁31とに対して、双方を非駆動にする制御信号を送信する、或いは、これらを駆動させる制御信号を送信しない。これにより、ポンプモータ34とマスタカット弁31とは、共に非駆動の状態になる。このようにポンプモータ34とマスタカット弁31とが非駆動になった場合、ポンプモータ34は油圧経路20内のブレーキフルードに対する加圧を停止する。
また、マスタカット弁31が非駆動になった場合には、マスタカット弁31は常開のソレノイドバルブであるため、マスタカット弁31は開いた状態になる。これにより、油圧経路20内の油圧は、ブレーキペダル5に入力する踏力に応じて変化する状態になり、制動力は踏力に応じて変化する状態になる。また、ポンプモータ34を非駆動にした場合には、ポンプモータ34の駆動と同時に始動させるタイマを停止し、タイマをリセットする。さらに、ポンプモータ34とマスタカット弁31とを非駆動にすることにより停車維持制御を停止した場合には、停車維持制御フラグをOFFにし、停車維持制御が停止していることを示す状態にする。これらのようにポンプモータ34とマスタカット弁31とを非駆動にした後は、この処理手順から抜け出る。
以上の制動装置1は、停車維持制御判定部79が停車維持制御を行うと判定した場合には、ポンプモータ34で油圧を増圧させることにより、制動操作を行っていない状態でも所望の油圧にすることができ、また、マスタカット弁31でマスタシリンダ11の方向へのブレーキフルードの流れを低減させることにより、制動操作を行っていない状態でもホイールシリンダ51に対して油圧を与えることができる。これにより、制動操作を行っていない状態でもホイールシリンダ51に制動力を発生させることができる。
また、その際に油圧制御部78は、ポンプモータ34を駆動させてから一定時間が経過した後、マスタカット弁31でマスタシリンダ11の方向へのブレーキフルードの流れを低減させているので、ポンプモータ34で増圧させるブレーキフルードの流れが安定した後、マスタシリンダ11の方向へのブレーキフルードの流れを低減させることができる。これにより、ポンプモータ34での油圧の増圧時に、ブレーキフルードの流れが安定する前にマスタシリンダ11の方向へのブレーキフルードの流れを低減させた場合に、供給経路26を流れるブレーキフルードがポンプモータ34の吸引力によってリターン経路25に流れることにより、マスタシリンダ11内の油圧が低下することを抑制できる。従って、マスタシリンダ11内の油圧が低下することに起因して、ブレーキペダル5がマスタシリンダ11の方向に吸い込まれるような感覚になることを抑制できる。この結果、停車維持制御時の違和感を抑制することができる。
また、停車維持制御を行う際に、必要制動力が制動操作制動力以下の場合、つまり、制動操作制動力によって、車両の停車を維持させるのに必要な制動力を確保できる場合には、ポンプモータ34で油圧を増圧させないので、マスタカット弁31でマスタシリンダ11の方向へのブレーキフルードの流れを低減させる際にマスタシリンダ11内の油圧が低下することを、より確実に抑制できる。また、制動操作制動力によって、車両の停車を維持させるのに必要な制動力を確保できる場合には、ポンプモータ34で油圧を増圧させず、ポンプモータ34を非駆動にするので、ポンプモータ34の駆動に用いる電気の消費量を低減することができる。これらの結果、より確実に停車維持制御時の違和感を抑制することができると共に、停車維持制御時の電気の消費量を低減することができる。
また、停車維持制御時には、必要制動力に応じてマスタカット弁31やポンプモータ34を駆動させているので、停車維持制御を停止させて車両を発進させる際におけるモタつきを抑制することができる。つまり、制動力を低下させるためにホイールシリンダ51に作用する油圧を低下させる場合には、ホイールシリンダ51に作用している油圧が高ければ高いほど、低下するのに時間がかかる。このため、停車維持制御時には必要制動力に応じてマスタカット弁31やポンプモータ34を駆動させ、ホイールシリンダ51には必要制動力に適した油圧を作用させることにより、停車維持制御の停止時にホイールシリンダ51に作用している油圧を低下させる場合における時間が長くなり過ぎることを抑制できる。これにより、停車維持制御を停止させて車両を発進させる場合に、短時間で制動力を低下させることができる。この結果、停車維持制御を停止させて車両を発進させる場合における発進時のモタつきを抑制することができる。
また、このように停車維持制御時には、必要制動力に応じてマスタカット弁31やポンプモータ34を駆動させ、必要制動力に応じた油圧を発生させているので、停車維持制御時に毎回高い油圧が発生するようにマスタカット弁31が駆動することを抑制できる。この結果、停車維持制御を行うことに起因してマスタカット弁31の耐久性が低下することを抑制できる。
また、制動操作を全て電気信号に変換して制動制御を行うのではなく、制動操作時に入力する踏力によって油圧経路20内の油圧を上昇させる制動装置1が有するマスタカット弁31とポンプモータ34とを制御することにより停車維持制御を抑制しているので、停車維持制御時の違和感を低減する場合の製造コストの上昇を抑制できる。この結果、製造コストの上昇を抑えつつ、停車維持制御時の違和感を抑制した制動装置を得ることができる。
実施例2に係る制動装置100は、実施例1に係る制動装置1と略同様の構成であるが、停車維持制御時におけるポンプモータ34の駆動後、一定時間が経過していなくてもマスタカット弁31を駆動している点に特徴がある。他の構成は実施例1と同様なので、その説明を省略すると共に、同一の符号を付す。図4は、本発明の実施例2に係る制動装置の要部構成図である。実施例2に係る制動装置100は、実施例1に係る制動装置1(図1参照)と同様に、制動操作手段としてブレーキペダル5を備えており、ブレーキペダル5は液圧発生手段であるマスタシリンダ11に、ブレーキブースタ12を介して接続されている。また、マスタシリンダ11には、ブレーキフルードの経路である油圧経路20が接続されており、油圧経路20には、ブレーキフルードの油圧によって作動することにより制動力を発生する制動力発生手段であるホイールシリンダ51が接続されている。さらに、油圧経路20は第1油圧経路21と第2油圧経路22との2系統に分かれて構成されており、この第1油圧経路21と第2油圧経路22とには、それぞれにブレーキアクチュエータ30であるマスタカット弁31と保持弁32と減圧弁33とポンプモータ34とが設けられている。
このように設けられる制動装置100は、実施例1に係る制動装置1と同様にECU110によって制御可能に設けられている。実施例2に係る制動装置100が有するECU110は、実施例1に係る制動装置1が有するECU70と同様に処理部71と記憶部90と入出力部91とを有しており、処理部71は、ブレーキストローク量取得部72と、マスタシリンダ圧取得部73と、アクセル開度取得部74と、制御モード取得部75と、必要制動力算出部76と、制動操作制動力算出部77と、油圧制御部78と、停車維持制御判定部79と、マスタカット弁駆動判定部80と、ポンプモータ駆動判定部81と、制動力判定部82と、経過時間判定部83と、を有している。
さらに、処理部71は、必要制動力算出部76で算出した必要制動力に基づいてマスタカット弁31への指示圧値を算出する流量調整手段指示圧値算出手段であるマスタカット弁指示圧値算出部111と、ブレーキペダル5に入力する運転者の踏力により発生している油圧を算出する踏力液圧算出手段である踏力油圧算出部112と、を有している。
また、実施例2に係る制動装置100では、ECU110の処理部71が有する油圧制御部78は、必要制動力算出部76で算出した必要制動力が、制動操作制動力算出部77で算出した制動操作制動力より大きい場合には、ホイールシリンダ51で制動力を発生させる際におけるブレーキフルードの油圧が、ポンプモータ34を駆動させてから一定時間が経過する前は、ホイールシリンダ51で必要制動力を発生させることができる油圧からホイールシリンダ51で制動操作制動力を発生させることができる油圧を減算した油圧になるようにマスタカット弁31を制御し、マスタカット弁31にブレーキフルードの流れを調整させる。また、ポンプモータ34を駆動させてから一定時間が経過した後は、ホイールシリンダ51で必要制動力を発生させることができる油圧になるようにマスタカット弁31を制御し、マスタカット弁31にブレーキフルードの流れを調整させる。
この実施例2に係る制動装置100は、以上のごとき構成からなり、以下、その作用について説明する。実施例2に係る制動装置100では、停車維持制御を行う場合にマスタカット弁31を駆動させる場合におけるマスタカット弁31への指示圧値の求め方を、必要制動力が制動操作制動力より大きい場合と、必要制動力が制動操作制動力以下の場合とで異ならせている。具体的には、ホイールシリンダ51に付与することにより必要制動力を発生させることができる油圧を、ブレーキフルードの流れを調節することによりホイールシリンダ51に付与させることが可能なマスタカット弁31への指示圧値Pmcを、ECU110の処理部71が有するマスタカット弁指示圧値算出部111で必要制動力に基づいて算出する。
また、必要制動力が制動操作制動力より大きい場合にはECU110の処理部71が有する油圧制御部78でポンプモータ34を駆動し、ポンプモータ34の駆動後、一定時間が経過するまでは、運転者の踏力により発生している油圧PdをECU110の処理部71が有する踏力油圧算出部112で算出する。さらに、マスタカット弁31への指示圧値を、(Pmc−Pd)を演算することにより算出して油圧制御部78でマスタカット弁31を駆動させる。これにより常開のマスタカット弁31は、閉じる方向に駆動するため、油圧経路20内のブレーキフルードは保持弁32側からマスタシリンダ11の方向には流れ難くなる。このため、制動操作制動力が必要制動力より小さい場合でも、運転者がブレーキペダル5に踏力を入力している状態では、運転者の踏力により発生している油圧Pdに、必要制動力に基づくマスタカット弁31への指示圧値Pmcから運転者の踏力により発生している油圧Pdを減算した分の油圧が加算されてホイールシリンダ51に付与されるため、この場合ホイールシリンダ51は、必要制動力を発生する。
また、必要制動力が制動操作制動力より大きい場合において運転者が制動操作を停止し、ブレーキペダル5に対する踏力を除去した場合でも、ポンプモータ34が駆動することによりブレーキフルードの油圧を増圧した状態になっているため、必要制動力に基づくマスタカット弁31への指示圧値Pmcから運転者の踏力により発生している油圧Pdを減算した分の油圧がホイールシリンダ51に付与される。この場合ホイールシリンダ51は、概ね必要制動力から制動操作制動力を減算した大きさの制動力を発生する。
また、必要制動力が制動操作制動力より大きい場合においてポンプモータ34の駆動後、一定時間が経過した後は、マスタカット弁31には指示圧値Pmcを出力し、この指示圧値Pmcによりマスタカット弁31を駆動させる。マスタカット弁31への指示圧値Pmcを出力することによりマスタカット弁31を駆動させた場合には、運転者が制動操作を停止し、ブレーキペダル5に対する踏力を除去した場合でも、油圧経路20におけるマスタカット弁31からホイールシリンダ51の間に位置する経路内の油圧は、概ねマスタカット弁指示圧値算出部111で算出した指示圧値Pmcで維持される。即ち、マスタカット弁31に指示圧値Pmcを出力した場合は、指示圧値(Pmc−Pd)を出力した場合よりもマスタカット弁31は閉じられるので、油圧経路20内のブレーキフルードは保持弁32側からマスタシリンダ11の方向に、より流れ難くなる。これにより、マスタカット弁31からホイールシリンダ51の間に位置する経路内の油圧は、指示圧値(Pmc−Pd)を出力した場合と比較して上昇傾向になる。
従って、必要制動力が制動操作制動力より大きい場合において、ポンプモータ34を駆動させてから一定時間が経過した後は、必要制動力に基づいて算出する指示圧値Pmcをマスタカット弁31に出力することによりマスタカット弁31を駆動させるので、ホイールシリンダ51には、必要制動力を発生させることのできる油圧が作用する。
また、必要制動力が制動操作制動力以下の場合には、ポンプモータ34を非駆動にし、マスタカット弁31に指示圧値Pmcを出力することによりマスタカット弁31を駆動させる。これにより、常開のマスタカット弁31は、閉じる方向に駆動するため、運転者が制動操作を停止し、ブレーキペダル5に対する踏力を除去した場合でも、油圧経路20におけるマスタカット弁31からホイールシリンダ51の間に位置する経路内の油圧は、概ねマスタカット弁指示圧値算出部111で算出した指示圧値Pmcで維持される。つまり、制動操作制動力が必要制動力以上の場合には、マスタカット弁31で保持弁32側からマスタシリンダ11の方向に流れるブレーキフルードを低減することにより、油圧経路20におけるホイールシリンダ51側の油圧を維持し、ホイールシリンダ51に作用する油圧が、必要制動力を発生させることのできる油圧になるように、ホイールシリンダ51に作用する油圧を維持する。
実施例2に係る制動装置100における停車維持制御では、これらのように必要制動力と制動操作制動力とを比較した場合の判定結果に係らずマスタカット弁31は駆動し、その際における指示圧値を、必要制動力は制動操作制動力より大きいか否か、及びポンプモータ34の駆動後に一定時間が経過したか否かにより変化させる。
図5は、実施例2に係る制動装置の処理手順を示すフロー図である。次に、実施例2に係る制動装置100の制御方法、即ち、当該制動装置100の処理手順について説明する。なお、以下の処理は、実施例1に係る制動装置1の制御と同様に、車両の運転時に各部を制御する際に、所定の期間ごとに呼び出されて実行する。実施例2に係る制動装置100の処理手順では、まず、停車維持制御を実行するか否かを判定する(ステップST201)。この判定は、停車維持制御フラグの状態と、制御モードスイッチ65の状態と、ブレーキペダル5のストローク量と、車速とに基づいて、ECU110の処理部71が有する停車維持制御判定部79で行う。停車維持制御判定部79での判定により、停車維持制御は実行しないとの判定を行った場合には、この処理手順から抜け出る。
停車維持制御判定部79での判定(ステップST201)により、停車維持制御を実行するとの判定を行った場合には、次に、ポンプモータ34は駆動中であるか否かを判定する(ステップST202)。この判定は、油圧制御部78でのポンプモータ34に対する制御指示の状態に基づいて、ECU110の処理部71が有するポンプモータ駆動判定部81で判定する。ポンプモータ駆動判定部81での判定により、ポンプモータ34は駆動中であると判定した場合には、後述するステップST209に向かう。
ポンプモータ駆動判定部81での判定(ステップST202)により、ポンプモータ34は駆動中ではないと判定した場合には、次に、マスタカット弁31は駆動中であるか否かを判定する(ステップST203)。この判定は、油圧制御部78でのマスタカット弁31に対する制御指示の状態に基づいて、ECU110の処理部71が有するマスタカット弁駆動判定部80で行う。マスタカット弁駆動判定部80での判定により、マスタカット弁31は駆動中であると判定した場合には、後述するステップST215に向かう。
マスタカット弁駆動判定部80での判定(ステップST203)により、マスタカット弁31は駆動中ではないと判定した場合には、次に、ECU110の処理部71が有する必要制動力算出部76で、Gセンサでの検出結果等に基づいて必要制動力を算出する(ステップST204)。次に、ECU110の処理部71が有する制動操作制動力算出部77で、マスタシリンダ圧に基づいて制動操作制動力を算出する(ステップST205)。
次に、必要制動力よりマスタカット弁31への指示圧値Pmcを算出する(ステップST206)。この算出は、ECU110の処理部71が有するマスタカット弁指示圧値算出部111で行う。マスタカット弁指示圧値算出部111で、マスタカット弁31への指示圧値Pmcを算出する場合には、まず、必要制動力算出部76で算出した必要制動力をマスタカット弁指示圧値算出部111で取得し、取得した必要制動力をホイールシリンダ51で発生させることのできる油圧を算出する。さらに、マスタカット弁31を駆動させた場合に、この油圧をホイールシリンダ51に付与することができるマスタカット弁31への指示圧値Pmcを、算出した油圧に基づいて算出する。
次に、必要制動力算出部76で算出した必要制動力と、制動操作制動力算出部77で算出した制動操作制動力とをECU110の処理部71が有する制動力判定部82で比較し、(必要制動力>制動操作制動力)であるか否かを判定する(ステップST207)。
制動力判定部82での判定により、(必要制動力>制動操作制動力)であると判定された場合には、ECU110の処理部71が有する油圧制御部78でポンプモータ34を制御することにより、ポンプモータ34を駆動する(ステップST208)。これにより、油圧経路20内のブレーキフルードは増圧されるため、ホイールシリンダ51には必要制動力を発生可能な油圧以上の油圧が作用し、この油圧によりホイールシリンダ51は必要制動力以上の制動力を発生する。また、ポンプモータ34の駆動を開始させた場合には、駆動の開始と同時に、ECU110に設けられるタイマを始動させる。
次に、ECU110の処理部71が有する経過時間判定部83で、ポンプモータ34の駆動の開始と同時に始動させるタイマに基づいて、ポンプモータ34の駆動から一定時間が経過したか否かを判定する(ステップST209)。なお、このポンプモータ34の駆動から一定時間が経過したか否かの判定は、ポンプモータ駆動判定部81での判定(ステップST202)によりポンプモータ34は駆動中であると判定された場合も、同様に行う。この判定により、ポンプモータ34の駆動から一定時間が経過したと判定された場合には、後述するステップST214に向かう。
経過時間判定部83での判定(ステップST209)により、ポンプモータ34の駆動から一定時間が経過していないと判定された場合には、次に、運転者の踏力により発生している油圧Pdを算出する(ステップST210)。この算出は、ECU110の処理部71が有する踏力油圧算出部112で行う。踏力油圧算出部112は、マスタシリンダ圧取得部73で取得するマスタシリンダ圧を取得することによりマスタシリンダ11で発生する油圧を取得し、この油圧に基づいて、運転者が制動操作時にブレーキペダル5に踏力を入力することにより油圧経路20内で発生している油圧Pdを算出する。
次に、マスタカット弁31への指示圧値(Pmc−Pd)を出力する(ステップST211)。この指示圧値の出力は、油圧制御部78で行う。油圧制御部78は、マスタカット弁指示圧値算出部111で算出したマスタカット弁31への指示圧値Pmcから、踏力油圧算出部112で算出した運転者の踏力により発生している油圧Pdを減算することにより、マスタカット弁31を駆動させる際における実際の指示圧値(Pmc−Pd)を算出し、算出した指示圧値(Pmc−Pd)をマスタカット弁31に対して出力する。このため、マスタカット弁31に対して実際に出力する指示圧値は、必要制動力に基づいて算出した指示圧値Pmcよりも小さくなる。
次に、マスタカット弁31を駆動する(ステップST212)。マスタカット弁31は、油圧制御部78で算出し、マスタカット弁に対して出力された指示圧値(Pmc−Pd)により駆動する。これにより、油圧経路20内のブレーキフルードは保持弁32側からマスタシリンダ11の方向には流れ難くなる。この場合、運転者がブレーキペダル5に踏力を入力している状態では、ホイールシリンダ51には、ポンプモータ34の駆動及びマスタカット弁31の駆動に伴う油圧となる指示圧値(Pmc−Pd)と、運転者の踏力により発生している油圧Pdとが付与されるため、ホイールシリンダ51には、必要制動力に基づいて算出した指示圧値Pmcが付与されることになる。このため、ホイールシリンダ51は、必要制動力を発生する。また、運転者がブレーキペダル5に対する踏力を除去した場合でも、ホイールシリンダ51には、ポンプモータ34の駆動及びマスタカット弁31の駆動に伴う油圧となる指示圧値(Pmc−Pd)が付与されるため、ホイールシリンダ51は、概ね必要制動力から制動操作制動力を減算した大きさの制動力を発生する。
このように、油圧制御部78は、必要制動力が制動操作制動力より大きい場合においてポンプモータ34の駆動から一定時間が経過するまでは、運転者が制動操作を行っている状態では、必要制動力を発生可能な油圧をホイールシリンダ51に付与することにより必要制動力を発生させ、運転者が踏力を除去した状態では、概ね必要制動力から制動操作制動力を減算した大きさの制動力を発生可能な油圧をホイールシリンダ51に付与することにより、この大きさの制動力を発生させる。これにより、ポンプモータ34の駆動時には常にホイールシリンダ51に制動力を発生させることにより、停車維持制御を行う。
これらに対し、制動力判定部82での判定(ステップST207)により、(必要制動力>制動操作制動力)ではないと判定された場合には、油圧制御部78で制御するポンプモータ34に対して非駆動の制御信号を送信する、或いはポンプモータ34を駆動させる制御信号を送信しないことにより、ポンプモータ34を非駆動にする(ステップST213)。これにより、ホイールシリンダ51には、運転者の制動操作により発生する油圧が作用し、この油圧によりホイールシリンダ51は制動操作制動力を発生する。
ポンプモータ34を非駆動にした後は、次に、マスタカット弁31への指示圧値Pmcを出力する(ステップST214)。この指示圧値の出力は、油圧制御部78で行う。油圧制御部78は、マスタカット弁指示圧値算出部111で算出したマスタカット弁31への指示圧値Pmcを、マスタカット弁31に対して出力する。
ポンプモータ34を非駆動にし、マスタカット弁31への指示圧値Pmcをマスタカット弁31に対して出力した後は、ポンプモータ34を駆動し(ステップST208)、マスタカット弁31への指示圧値(Pmc−Pd)を出力(ステップST211)した場合と同様に、マスタカット弁31を駆動する(ステップST212)。この場合、常開のマスタカット弁31は、閉じる方向に駆動するため、運転者がブレーキペダル5に対する踏力を除去した場合でも、ホイールシリンダ51には、運転者の制動操作により発生する油圧が、マスタカット弁31の駆動により調節された状態で作用し、必要制動力に基づいて算出された指示圧値Pmcが付与される。このため、ホイールシリンダ51は、必要制動力を発生する。
このように、油圧制御部78は、必要制動力が制動操作制動力以下の場合には、ポンプモータ34で油圧を増圧させずにマスタカット弁31でマスタシリンダ11の方向へのブレーキフルードの流れを低減させることにより、ホイールシリンダ51が必要制動力を発生可能な油圧を維持し、停車維持制御を行う。
また、制動力判定部82での判定(ステップST207)により、(必要制動力>制動操作制動力)であると判定された場合でも、経過時間判定部83での判定(ステップST209)により、ポンプモータ34の駆動から一定時間が経過したと判定された場合には、油圧制御部78で、マスタカット弁31への指示圧値Pmcを出力する(ステップST214)。これにより、マスタカット弁31を駆動する(ステップST212)。この場合、運転者がブレーキペダル5に対する踏力を除去した場合でも、ホイールシリンダ51には、ポンプモータ34の駆動及びマスタカット弁31の駆動に伴う油圧が作用し、必要制動力に基づいて算出された指示圧値Pmcが付与されるため、ホイールシリンダ51は、必要制動力を発生する。
このように、油圧制御部78は、必要制動力が制動操作制動力より大きい場合において、ポンプモータ34の駆動から一定時間が経過した後は、必要制動力を発生可能な油圧をホイールシリンダ51に付与することにより必要制動力を発生させ、停車維持制御を行う。
油圧制御部78でマスタカット弁31を駆動した場合(ステップST212)、及びマスタカット弁駆動判定部80での判定(ステップST203)によりマスタカット弁31は駆動中であると判定された場合には、次に、停車維持制御を停止するか否かを判定する(ステップST215)。この判定は、アクセル開度取得部74で取得したアクセル開度に基づいて、停車維持制御判定部79で行う。停車維持制御判定部79での判定により、停車維持制御を停止しないと判定した場合には、この処理手順から抜け出る。
これに対し、停車維持制御判定部79での判定(ステップST215)により、停車維持制御を停止すると判定した場合には、油圧制御部78によってポンプモータ34とマスタカット弁31とを非駆動にする(ステップST216)。ポンプモータ34とマスタカット弁31とが非駆動になった場合、ポンプモータ34は油圧経路20内のブレーキフルードに対する加圧を停止する。また、マスタカット弁31が非駆動になった場合には、マスタカット弁31は常開のソレノイドバルブであるため、マスタカット弁31は開いた状態になり、油圧経路20内の油圧は、ブレーキペダル5に入力する踏力に応じて変化する状態になる。また、ポンプモータ34を非駆動にした場合には、ポンプモータ34の駆動と同時に始動させるタイマを停止してタイマをリセットし、停車維持制御フラグをOFFにする。これらのようにポンプモータ34とマスタカット弁31とを非駆動にした後は、この処理手順から抜け出る。
以上の制動装置は、必要制動力が制動操作制動力より大きい場合には、ポンプモータ34を駆動させてから一定時間が経過する前後で、ホイールシリンダ51で制動力を発生させる際におけるブレーキフルードの油圧を、マスタカット弁31でブレーキフルードの流れを調整することにより変化させている。つまり、ポンプモータ34の駆動から一定時間が経過する前は、マスタカット弁31に出力する指示圧値を、必要制動力に基づいて算出した指示圧値Pmcから運転者の踏力により発生している油圧Pdを減算することにより算出した指示圧値にすることにより、マスタカット弁31でブレーキフルードの流れを調整している。
これにより、停車維持制御時に制動操作を行っている状態では、ブレーキフルードの油圧は、必要制動力を発生させることができる油圧Pmcから制動操作制動力を発生させることができる油圧Pdを減算した油圧に、制動操作制動力を発生させることができる油圧Pdが加算されることになるため、必要制動力を発生させることができる油圧Pmcになる。このため、この場合には、ホイールシリンダ51で必要制動力を発生させることができる。また、停車維持制御時に制動操作を停止した場合でも、ブレーキフルードの油圧は、必要制動力を発生させることができる油圧Pmcから制動操作制動力を発生させることができる油圧Pdを減算した油圧になる。このため、この場合には、ホイールシリンダ51で、必要制動力から制動操作制動力を減算した制動力を発生させることができる。
これに対し、ポンプモータ34を駆動させてから一定時間が経過した後は、マスタカット弁31でブレーキフルードの流れを調整する際にマスタカット弁31に出力する指示圧値を、必要制動力に基づいて算出した指示圧値Pmcにしている。これにより、停車維持制御時に制動操作を停止した場合でも、ブレーキフルードの油圧は、必要制動力を発生させることができる油圧Pmcになる。このため、この場合には、制動操作を停止した場合でも、ホイールシリンダ51で必要制動力を発生させることができ、制動操作を行った場合には、ブレーキフルードの油圧は、必要制動力を発生させることができる油圧Pmcに制動操作制動力を発生させることができる油圧Pdが加算された油圧になるため、ホイールシリンダ51で、必要制動力と制動操作制動力を加算した制動力を発生させることができる。この結果、停車維持制御時に制動操作を停止した場合における制動力を確保しつつ、停車維持制御時の違和感を抑制することができる。
また、必要制動力が制動操作制動力より大きい場合で、ポンプモータ34の駆動から一定時間が経過する前は、マスタカット弁31に出力する指示圧値を、指示圧値(Pmc−Pd)にすることにより、より確実に停車維持制御時における車両の停車を維持することができる。例えば、停車維持制御時にブレーキペダル5を踏む時間が短時間であり、運転者の踏力により発生する油圧Pdが短時間の場合でも、ホイールシリンダ51に指示圧値(Pmc−Pd)を作用させることができるため、制動力を発生させることができる。また、停車維持制御時に運転者の踏力により発生する油圧Pdが、必要制動力を発生させることができる油圧Pmcに足りない場合において、ポンプモータ34の駆動から一定時間が経過する前でもマスタカット弁31に出力する指示圧値を指示圧値(Pmc−Pd)にすることにより、ホイールシリンダ51に指示圧値(Pmc−Pd)を作用させることができるため、制動力を発生させることができる。この結果、停車維持制御時に、より確実に車両の停車を維持することができる。
なお、上述した制動装置1、100は、制動操作制動力を算出する際に(ステップST105、ST205)、マスタシリンダ圧センサ39で検出したマスタシリンダ圧をマスタシリンダ圧取得部73で取得し、取得したマスタシリンダ圧に基づいて制動操作制動力算出部77で算出しているが、制動操作制動力は、マスタシリンダ圧以外に基づいて算出してもよい。例えば、ブレーキストローク量取得部72で取得したブレーキペダル5のストローク量を制動操作制動力算出部77で取得し、取得したストローク量に基づいて制動操作制動力算出部77で算出してもよい。また、ホイールシリンダ51に作用している油圧を直接検出可能なセンサなどの検出手段を設け、このセンサで検出した油圧に基づいて制動操作制動力算出部77で制動操作制動力を算出してもよい。これらのように、制動操作制動力算出部77で制動操作制動力を算出する際における検出対象は、運転者の制動操作によって変化し、変化した値に基づいて制動操作制動力を算出できるものであればマスタシリンダ圧以外でもよく、制動操作制動力算出部77はマスタシリンダ圧以外に基づいて制動操作制動力を算出可能に設けられていてもよい。
また、上述した制動装置1、100では、制動操作時に停車維持制御を行うか否かの切り替えは、制御モードスイッチ65により行っているが、この切り替えは、制御モードスイッチ65以外により行ってもよい。停車維持制御を行うか否かの切り替えは、通常の制動制御と停車維持制御とを適切に切り替えることができるものであれば、制御モードスイッチ65以外により行ってもよい。