図1は、本発明の一実施例に係る車両用制動装置を表す概略構成図、図2は、本実施例の車両用制動装置における制御ブロック図、図3−1は、本実施例の車両用制動装置により踏力に対して目標ホイールシリンダ圧を設定する制御マップ、図3−2は、本実施例の車両用制動装置により踏力に対して目標ホイールシリンダ圧が大きく設定される制御マップ、図3−3は、本実施例の車両用制動装置により踏力に対して目標ホイールシリンダ圧が小さく設定される制御マップ、図4は、本実施例の車両用制動装置により目標ホイールシリンダ圧を設定する制御のフローチャート、図5は、本実施例の車両用制動装置により設定された目標ホイールシリンダ圧を用いたABS制御のフローチャートである。
本実施例の車両用制動装置において、図1に示すように、図示しない車両の室内に、走行中の車両を制動させる操作、即ち、制動操作に用いる操作部材としてのブレーキペダル5が設けられている。このブレーキペダル5は、車両の運転者が足で制動操作力である踏力を入力する部分である踏面部6を有しており、踏面部6に踏力を入力した際に、回動軸7を中心として回動可能に設けられている。
また、ブレーキペダル5にはブレーキロッド10が接続されており、ブレーキロッド10におけるブレーキペダル5に接続されている側の端部の反対側の端部は、バキュームブースタ(負圧助勢手段)30に接続されている。また、このバキュームブースタ30は、ブレーキペダル5に踏力を入力させた際に油圧を発生させることのできるマスタシリンダ35が接続されている。また、バキュームブースタ30には、車両が搭載するエンジン(図示省略)の運転時に発生する負圧が伝達可能な負圧経路31が接続されている。
このように設けられるバキュームブースタ30は、ブレーキペダル5に踏力が入力された際に踏力をマスタシリンダ35に伝達可能に設けられており、その際に、エンジンから伝達される負圧と大気圧との差により、踏力を増力してマスタシリンダ35に伝達可能に設けられている。つまり、バキュームブースタ30は、ブレーキペダル5を制動操作した際の踏力を負圧によって増力させることにより、マスタシリンダ35への入力を踏力に対して増力させることができる負圧助勢手段として設けられている。
また、マスタシリンダ35には、このマスタシリンダ35で発生した油圧を伝達可能な油路40が接続されている。これらのマスタシリンダ35及び油路40内には、作動油として用いられるブレーキフルード(図示省略)が満たされており、マスタシリンダ35は、このブレーキフルードの圧力である油圧の増減が可能に設けられている。また、マスタシリンダ35に接続される油路40は、2系統に分かれて構成されており、2系統の油路40である第1油路41と第2油路45とが、それぞれ独立してマスタシリンダ35に接続されている。
これらの第1油路41と第2油路45とは、共にそれぞれ分岐しており、第1油路41は、第1油路第1分岐経路42と第1油路第2分岐経路43とに分岐している。同様に、第2油路45は、第2油路第1分岐経路46と第2油路第2分岐経路47とに分岐している。第1油路41及び第2油路45には、このように分岐している部分の端部に、車両用制動装置を備える車両が有する車輪(図示省略)の近傍に設けられるホイールシリンダ50が接続されている。
このホイールシリンダ50は、車輪の回転時に車輪と一体となって回転するブレーキディスク(図示省略)と組みになって設けられている。また、ホイールシリンダ50は、作動時にブレーキディスクの回転を減速可能に設けられており、このブレーキディスクの減速を介して、車輪の回転を減速可能に設けられている。
第1油路41と第2油路45との分岐している部分の端部には、このようにホイールシリンダ50が接続されている。構成を詳しく説明すると、まず、車両の進行方向に向かって左側に位置する前輪と後輪とを、それぞれ左前輪、左後輪とし、右側に位置する前輪と後輪とを、それぞれ右前輪、右後輪とする。この場合に、第1油路第1分岐経路42には、左前輪近傍に設けられるホイールシリンダ50である左前輪ホイールシリンダ51が接続されており、第1油路第2分岐経路43には、右後輪近傍に設けられるホイールシリンダ50である右後輪ホイールシリンダ54が接続されている。また、第2油路第1分岐経路46には、右前輪近傍に設けられるホイールシリンダ50である右前輪ホイールシリンダ52が接続されており、第2油路第2分岐経路47には、左後輪近傍に設けられるホイールシリンダ50である左後輪ホイールシリンダ53が接続されている。
また、この第1油路41及び第2油路45には、それぞれ複数の電磁弁装置(調圧手段としてのABS装置)60が設けられている。この電磁弁装置60は、常開の電磁開閉弁である増圧弁61と、常閉の電磁開閉弁である減圧弁62とを有しており、増圧弁61及び減圧弁62は、第1油路第1分岐経路42、第1油路第2分岐経路43、第2油路第1分岐経路46、第2油路第2分岐経路47のそれぞれに配設されている。本実施例に係る車両用制動装置は、これら増圧弁61及び減圧弁62の開閉の組み合わせにより、ホイールシリンダ50に作用させる油圧の増大、減少、保持を切り替え可能に設けられている。
また、第1油路41及び第2油路45には、共にリザーバ65が接続されており、第1油路41及び第2油路45に設けられる各減圧弁62は、リザーバ65に接続されている。さらに、第1油路41及び第2油路45には、それぞれに油路40内のブレーキフルードに対して所定方向の流れを与えることのできるポンプ(液圧助勢手段)70が設けられている。これらのポンプ70は、ポンプ70を作動可能なポンプモータ71に接続されている。
このように設けられるポンプ70は、ポンプモータ71により作動されることにより、マスタシリンダ圧を増力してホイールシリンダ50に伝達可能に設けられている。つまり、ポンプ70は、ブレーキペダル5を制動操作した際に、マスタシリンダ35から供給されるマスタシリンダ圧を液圧によって増力させることにより、ホイールシリンダ50への入力をマスタシリンダ圧に対して増力させることができる液圧助勢手段として設けられている。
また、これらの油路40のうち、第2油路45には、マスタシリンダ35の油圧であるマスタシリンダ圧を検出可能なマスタシリンダ圧センサ75が接続されている。このマスタシリンダ圧センサ75は、ブレーキペダル5を制動操作した際にマスタシリンダ35から供給されるマスタシリンダ圧に応じて作動するマスタシリンダ圧取得手段として設けられている。さらに、マスタシリンダ35には、作動油として用いられるブレーキフルードを貯留可能なリザーバタンク38が接続されている。
また、ブレーキペダル5には、踏力センサ15が設けられている。この踏力センサ15は、ブレーキペダル5を制動操作した際の制動操作力である踏力に応じて作動する制動操作力取得手段として設けられている。詳しくは、この踏力センサ15は、ケーシング17と、このケーシング17から突出すると共に外力を与えることによって突出量を変化させることのできる作動子16とを有しており、ケーシング17がブレーキペダル5に固定されることにより、踏力センサ15はブレーキペダル5に設けられている。その向きは、ブレーキペダル5を制動操作した際に、ブレーキペダル5が回動する方向に作動子16が突出する向きとなっている。
また、ブレーキペダル5には、ブレーキペダル5に対して回動可能な作動レバー20が接続されており、ブレーキロッド10は、接続部材11によって、この作動レバー20に接続されている。即ち、ブレーキロッド10は、作動レバー20を介してブレーキペダル5に接続されている。この作動レバー20は、作動レバー20の両端部のうち、一方の端部がブレーキペダル5に回動可能に接続されており、他方の端部付近が踏力センサ15の作動子16に、ブレーキペダル5に踏力を入力した際にブレーキペダル5が回動する方向側から接触している。つまり、作動レバー20は、一方の端部が作動レバー回動軸21によってブレーキペダル5に対して回動可能に接続されている。
さらに、このようにブレーキペダル5に対して回動可能に接続される作動レバー20と、作動レバー20における踏力センサ15の作動子16に接触している部分の近傍には、弾性部材であるスプリング(図示省略)が配設されている。このスプリングは、踏力センサ15のケーシング17と作動レバー20とが離れる方向に、双方に対して付勢力を与えて配設されている。
また、ブレーキロッド10は、作動レバー20における作動レバー回動軸21が位置している側の端部と、踏力センサ15の作動子16に接触している側の端部との間に接続されている。このように作動レバー20に接続されたブレーキロッド10は、ブレーキペダル5に踏力を入力した際にブレーキペダル5が回動する方向に向かって配設されている。これにより、ブレーキペダル5に踏力を入力した際には、ブレーキロッド10には圧縮方向の力が作用し、踏力はブレーキロッド10を介してバキュームブースタ30に入力される。
また、これらのように設けられる踏力センサ15やマスタシリンダ圧センサ75、ポンプモータ71は、車両の各部を制御するECU(Electronic Control Unit)80に接続されており、ECU80によって制御可能に設けられている。
このように構成された本実施例の車両用制動装置における制御ブロックにおいて、図2に示すように、ECU80には、処理部81、記憶部95及び入出力部96が設けられており、これらは互いに接続され、互いに信号の受け渡しが可能になっている。また、ECU80に接続されている踏力センサ15やマスタシリンダ圧センサ75、ポンプモータ71は、入出力部96に接続されており、入出力部96は、これらの踏力センサ15等との間で信号の入出力を行なう。また、記憶部95には、本発明に係る車両用制動装置を制御するコンピュータプログラムが格納されている。この記憶部95は、ハードディスク装置や光磁気ディスク装置、またはフラッシュメモリ等の不揮発性のメモリ(CD−ROM等のような読み出しのみが可能な記憶媒体)や、RAM(Random Access Memory)のような揮発性のメモリ、或いはこれらの組み合わせにより構成することができる。
また、処理部81は、メモリ及びCPU(Central Processing Unit)により構成されており、マスタシリンダ圧を取得可能なマスタシリンダ圧取得手段である油圧取得部82と、ブレーキペダル5への操作力の大きさである制動操作力として、ブレーキペダル5に入力する踏力を取得可能な制動操作力取得手段である踏力取得部83と、マスタシリンダ圧の変化の度合いである油圧勾配を取得可能な油圧勾配取得手段である油圧勾配取得部84と、制動操作力の変化の度合いである制動操作力勾配、即ち、踏力の変化の度合いである踏力勾配を取得可能な制動操作力勾配取得手段である踏力勾配取得部85と、を有している。
また、処理部81は、制動操作力としての踏力が予め設定された基準踏力(基準制動操作力)を越えたかどうかを判定可能な制動操作力判定手段である踏力判定部88と、踏力が予め設定された基準踏力を超えたときにマスタシリンダ圧取得手段としてのマスタシリンダ圧センサ75が取得したマスタシリンダ圧を基準として目標ホイールシリンダ圧を設定する目標ホイールシリンダ圧設定手段としての目標ホイールシリンダ圧設定部89と、を有している。
また、処理部81は、油路40に設けられているポンプ70を制御するポンプ制御手段であるポンプ制御部91と、油路40に設けられている電磁弁装置60を制御する電磁弁装置制御手段である電磁弁装置制御部92と、を有している。
ECU80によって制御される制動制御は、例えば、踏力センサ15などよる検出結果に基づいて、処理部81がコンピュータプログラムを処理部81に組み込まれたメモリに読み込んで演算し、演算の結果に応じてポンプモータ71などを作動させることにより実行する。その際に、処理部81は、記憶部95へ演算途中の数値を格納し、格納した数値を取り出して演算を実行する。なお、このように制動制御する場合には、コンピュータプログラムの代わりに、ECU80とは異なる専用のハードウェアによって制御してもよい。
ここで、本実施例の車両用制動装置による制動動作について説明する。車両の走行中にブレーキをかける際には、ブレーキペダル5に踏力を入力する。ブレーキペダル5に踏力を入力する場合には、運転者は足でブレーキペダル5の踏面部6に対して入力する。これによりブレーキペダル5は、回動軸7を中心に、踏力の大きさに応じて回動する。
ブレーキペダル5に踏力が入力されてブレーキペダル5が回動した場合、作動レバー20を介してブレーキペダル5に接続されたブレーキロッド10は、バキュームブースタ30の方向に押され、バキュームブースタ30に対して入力される。
バキュームブースタ30には負圧経路31が接続されており、バキュームブースタ30にはエンジンの運転時における吸気行程で発生する負圧が伝達可能に設けられている。このため、踏力がバキュームブースタ30に対して入力された場合、バキュームブースタ30はこの負圧と大気圧との差圧により、踏力を増力させてマスタシリンダ35に入力する。踏力に対して増力した力が入力されたマスタシリンダ35は、入力された力に応じてブレーキフルードに対して圧力を与え、マスタシリンダ圧を上昇させる。
マスタシリンダ圧が上昇した場合、第1油路41及び第2油路45内のブレーキフルードの圧力も上昇し、油路40内の油圧はマスタシリンダ圧になる。さらに、このように油路40内の油圧が上昇した場合、この油圧はホイールシリンダ50にも伝達され、伝達された油圧により作動する。即ち、ホイールシリンダ50は、マスタシリンダ圧で作動する。ホイールシリンダ50が作動した場合、ホイールシリンダ50は車輪と一体となって回転するブレーキディスクの回転を低下させる。これにより、車輪の回転も低下するため、車両は減速する。
また、このようにブレーキペダル5の踏面部6に踏力が入力されてブレーキペダル5が回動する場合、ブレーキロッド10は作動レバー20を介してブレーキペダル5に接続されているため、ブレーキロッド10に対しては、作動レバー20から踏力を伝達する。ここで、作動レバー20は、一端が作動レバー回動軸21によってブレーキペダル5に対して回動可能に接続されており、他端は踏力センサ15のケーシング17に対して、スプリングによって離れる方向の付勢力が与えられつつ、作動子16に接触している。
また、ブレーキロッド10は、作動レバー20の両端の間に接続され、ブレーキペダル5に踏力が入力された場合における回動方向に向かって形成されているため、ブレーキペダル5が踏力によって回動軸7を中心に回動する場合、作動レバー20は、ブレーキロッド10に伝達する力の反力の方向に回動する。このため、作動レバー20は、作動レバー回動軸21を中心としてブレーキロッド10に押される方向、つまり、踏力センサ15の作動子16に接触している側の端部が踏力センサ15のケーシング17に近付く方向に回動する。これにより、踏力センサ15の作動子16は、作動レバー20に押されてケーシング17からの突出量が小さくなる。
また、作動レバー20は、ブレーキペダル5に入力する踏力が大きくなるに従って、踏力センサ15のケーシング17に近付く方向に回動する。これにより、踏力センサ15の作動子16は、ブレーキペダル5に入力する踏力が大きくなるに従って大きな力で作動レバー20に押され、突出量が小さくなる。即ち、踏力センサ15の作動子16の突出量は、ブレーキペダル5に入力する踏力の大きさに応じて変化する。
踏力センサ15は、このようにブレーキペダル5に踏力が入力されることにより作動子16の突出量が変化するが、この踏力センサ15は、ECU80の処理部81が有する踏力取得部83に対して、作動子16の突出量の状態を、電気信号により伝達する。作動子16の突出量は、ブレーキペダル5に入力する踏力が大きくなるに従って変化するため、踏力取得部83は、作動子16の突出量の状態を取得することを介して、ブレーキペダル5に入力された踏力を取得する。
踏力取得部83は、このように踏力センサ15より取得した踏力を、ECU80の処理部81が有する踏力勾配取得部85に伝達する。制動操作を行なう際には、ブレーキペダル5に入力する踏力は時間によって変化する場合が多いが、踏力勾配取得部85は、このように踏力取得部83から踏力を経時的に受け取ることにより、踏力の変化の度合いを導出し、この踏力の変化の度合いである踏力勾配を取得する。
また、ブレーキペダル5に踏力を入力することによりマスタシリンダ圧は上昇するが、このマスタシリンダ圧は、第2油路45に接続されたマスタシリンダ圧センサ75が検出する。マスタシリンダ圧を検出したマスタシリンダ圧センサ75は、ECU80の処理部81が有する油圧取得部82に検出結果を伝達する。マスタシリンダ圧センサ75の検出結果が伝達された油圧取得部82は、伝達された検出結果より、マスタシリンダ圧を取得する。
油圧取得部82は、このようにマスタシリンダ圧センサ75の検出結果より取得したマスタシリンダ圧を、ECU80の処理部81が有する油圧勾配取得部84に伝達する。制動操作を行なう際には、ブレーキペダル5に入力する踏力は時間によって変化する場合が多く、それに伴いマスタシリンダ圧も時間によって変化する場合が多くなっている。このため、油圧取得部82は、油圧勾配取得部84に対してマスタシリンダ圧を伝達し続ける。油圧勾配取得部84は、このように油圧取得部82からマスタシリンダ圧を経時的に受け取ることにより、マスタシリンダ圧の変化の度合いを導出し、このマスタシリンダ圧の変化の度合いである油圧勾配を取得する。
ブレーキペダル5に踏力を入力した場合、踏力はバキュームブースタ30で負圧と大気圧との差圧を利用して増力してマスタシリンダ35に入力される。このため、マスタシリンダ35への入力は、負圧の大きさによって変化する。具体的には、負圧が大きい場合、つまり、エンジンからバキュームブースタ30に伝達される負圧と大気圧との差圧が大きい場合には、バキュームブースタ30はブレーキペダル5に入力された踏力Fを差圧によって確実に増力する。このため、この場合には、踏力に対するマスタシリンダ圧は大きくなる。
一方、負圧が低下している場合、つまり、エンジンからバキュームブースタ30に伝達される負圧と大気圧との差圧が小さい場合には、バキュームブースタ30はブレーキペダル5に入力された踏力を差圧によって増力するのが困難になる。このため、この場合には、踏力に対するマスタシリンダ圧は小さくなる。従って、バキュームブースタ30に伝達される負圧が低下している場合には、通常負圧時よりも、負圧低下時の方が、踏力Fに対するマスタシリンダ圧Pmcの大きさが小さくなる。
また、踏力とマスタシリンダ圧との関係は、ブレーキペダル5に踏力を入力する速度でも変化する。つまり、ブレーキペダル5を早踏みした場合には、踏力の増加に対してバキュームブースタ30による増力が追いつかず、マスタシリンダ35への入力の増加が、ブレーキペダル5をゆっくり踏み込んだ場合と比較して緩やかになる。このため、マスタシリンダ圧の増加も緩やかになるため、踏力の増加の割合に対するマスタシリンダ圧の増加は緩やかになる。従って、ブレーキペダル5を早踏みした場合には、通常負圧時よりも、通常負圧×早踏み時の方が、踏力の増加の割合に対するマスタシリンダ圧の増加の割合が小さくなる。
ECU80の処理部81が有する踏力判定部88は、ブレーキペダル5に作用する踏力が予め設定された基準踏力を越えたかどうかを判定し、目標ホイールシリンダ圧設定部89は、この踏力が基準踏力を超えたときに、マスタシリンダ圧センサ75が取得したマスタシリンダ圧を基準として目標ホイールシリンダ圧を設定する。そして、制動制御手段を構成するポンプ制御部91は、設定された目標ホイールシリンダ圧に基づいてポンプモータ71を作動してポンプ70を作動制御する。
この場合、目標ホイールシリンダ圧設定部89は、現在の踏力と基準踏力との偏差に予め設定されたマスタシリンダ圧勾配を乗算し、基準マスタシリンダ圧を加算することで目標ホイールシリンダ圧を算出する。即ち、下記数式により目標ホイールシリンダ圧を算出する。
Pt=α×(F−Fk)+Pk
なお、Ptは目標ホイールシリンダ圧、αは予め設定されたマスタシリンダ圧勾配、Fは踏力、Fkは基準踏力、Pkは基準マスタシリンダ圧である。
また、目標ホイールシリンダ圧設定部89は、踏力が基準踏力を超えたときのマスタシリンダ圧が予め設定された下限マスタシリンダ圧より低いとき、この下限マスタシリンダ圧を基準マスタシリンダ圧として目標ホイールシリンダ圧を設定する。即ち、下記数式により目標ホイールシリンダ圧を算出する。
Pt=α×(F−Fk)+Pkmin
なお、Pkminは下限マスタシリンダ圧であり、基準マスタシリンダ圧Pkより低く設定されている。
なお、この場合、目標ホイールシリンダ圧設定部89は、踏力が基準踏力を超えたときのマスタシリンダ圧が予め設定された基準マスタシリンダ圧より低いとき、このときのマスタシリンダ圧を基準マスタシリンダ圧として目標ホイールシリンダ圧を設定すると共に、設定した目標ホイールシリンダ圧の増加勾配を、通常使用する増加勾配α大きい増加勾配α1に設定するようにしてもよい。
具体的に説明すると、図3−1に示すように、基準踏力Fkは予め設定されており、ブレーキペダル5が踏み込まれて踏力Fが増加し、この踏力Fが基準踏力Fkを越えたとき、このときの踏力Fkに対するマスタシリンダ圧Pmcをマスタシリンダ圧センサ75により検出し、このマスタシリンダ圧Pmcを基準マスタシリンダ圧Pkとして取得する。そして、現在の踏力F、基準踏力Fk、基準マスタシリンダ圧Pkと、予め設定されたマスタシリンダ圧勾配αを用いて下記数式により目標ホイールシリンダ圧Ptを算出する。
Pt=α×(F−Fk)+Pk
このように踏力Fが基準踏力Fkになったときのマスタシリンダ圧Pmcを基準マスタシリンダ圧Pkに設定し、この基準マスタシリンダ圧Pkを基準として目標ホイールシリンダ圧Ptを設定することで、エンジンからバキュームブースタ30に伝達される負圧がばらついたときであっても、適正なマスタシリンダ圧Pmc、つまり、制動油圧を確保することができる。
即ち、図3−2に実線で示すように、エンジンからバキュームブースタ30に伝達される負圧が大きく出力された場合、踏力Fが基準踏力Fkを越えたとき、このときの踏力Fkに対するマスタシリンダ圧Pmcを基準マスタシリンダ圧Pkとして取得し、現在の踏力F、基準踏力Fk、基準マスタシリンダ圧Pkと、予め設定されたマスタシリンダ圧勾配αを用いて目標ホイールシリンダ圧Ptを算出することとなり、図3−2に点線で示すような通常の目標ホイールシリンダ圧Ptに対して、高い目標ホイールシリンダ圧Ptを設定することができる。
また、図3−3に実線で示すように、エンジンからバキュームブースタ30に伝達される負圧が小さく出力された場合、踏力Fが基準踏力Fkを越えたとき、このときの踏力Fkに対するマスタシリンダ圧Pmcが0に近いおそれがあり、基準マスタシリンダ圧Pk=0として取得してしまう。そのため、基準マスタシリンダ圧Pkより所定値だけ低い下限マスタシリンダ圧Pkminを設定している。即ち、踏力Fが基準踏力Fkを超えたときのマスタシリンダ圧Pmcがこの下限マスタシリンダ圧Pkminより低いとき、この下限マスタシリンダ圧Pkminを基準マスタシリンダ圧として目標ホイールシリンダ圧Ptを設定する。つまり、現在の踏力F、基準踏力Fk、下限マスタシリンダ圧Pkminと、マスタシリンダ圧勾配αを用いて下記数式により目標ホイールシリンダ圧Ptを算出する。
Pt=α×(F−Fk)+Pkmin
すると、図3−3に点線で示すような通常の目標ホイールシリンダ圧Ptに対して、低い目標ホイールシリンダ圧Ptを設定することができる。
このように目標ホイールシリンダ圧を設定することにより、ECU80の処理部81が有するポンプ制御部91は、現在の踏力に応じてポンプモータ71を作動させるタイミングを設定することができる。このポンプモータ71が作動した場合には、油路40に設けられるポンプ70も作動する。このポンプ70は、油路40内のブレーキフルードに対して所定の方向の流れを与える機能を有している。このため、ポンプ制御部91でポンプモータ71を作動させることにより、ポンプ70が作動した場合、油路40内のブレーキフルードには流れが発生し、この流れにより油路40内の圧力は高くなる。即ち、ポンプ70は、ポンプモータ71によって作動することにより油路40内のブレーキフルードに対して加圧し、マスタシリンダ圧Pmcを高くする。
このため、ポンプ制御部91は、車両制動時において、踏力取得部83で取得した踏力に応じてポンプモータ71を作動させることによりポンプ70を作動させ、マスタシリンダ圧Pmcを高めてホイールシリンダ50を作動させる。これにより、ホイールシリンダ50はブレーキディスクの回転を低下させることを介して車輪の回転を低下させるため、車両は減速する。
また、車両の制動時には、マスタシリンダ圧Pmcや、車輪と路面との摩擦力などの兼ね合いにより、車輪がロックする虞があるが、調圧手段としてABS(Antilock Brake System)が設けられており、ABSが作動することにより、車輪のロックが抑制される。このようにABSが作動する場合には、ECU80の処理部81が有する電磁弁装置制御部92が電磁弁装置60に対して制御信号を送信し、電磁弁装置60を作動させる。また、減圧弁62が開弁した場合には、減圧弁62の近傍で減圧弁62の上流側に位置するブレーキフルードは、リザーバ65に流れ、一時的に貯留される。リザーバ65に貯留されたブレーキフルードは、ポンプ70が作動することにより油路40内に流れ出る。
ここで、本実施例の車両用制動装置により目標ホイールシリンダ圧を設定する制御について、図4のフローチャートを用いて説明する。
ステップS11にて、踏力センサ15から踏力F(n)を取得し、ステップS12にて、マスタシリンダ圧センサ75からマスタシリンダ圧Pmc(n)を取得する。ステップS13では、ストップランプスイッチがONされているかどうか、つまり、ブレーキペダル5が踏み込まれているかどうかを判定し、ストップランプスイッチがONされていないと判定されたら、何もしないでこのルーチンを抜ける。
また、ステップS13にて、ストップランプスイッチがONされていると判定されたら、ステップS14にて、現在の踏力Fが基準踏力Fkを越えているかどうかを判定する。ここで、現在の踏力Fが基準踏力Fkを越えていると判定されたら、ステップS15にて、カウンタCに1を加算し、ステップS16にて、初回値C=1であれば、ステップS17にて、ポンプモータ71を作動(ON)し、そうでなければ何もしないでこのルーチンを抜ける。一方、ステップS14にて、現在の踏力Fが基準踏力Fkを越えていない判定されたら、ステップS23にて、カウンタCを0とし、ステップS24にて、ポンプモータ71を停止(OFF)する。
ステップS17でポンプモータ71が作動されると、ステップS18にて、踏力Fが基準踏力Fkであるときのマスタシリンダ圧Pmcを基準マスタシリンダ圧Pkとして取得する。そして、ステップS19では、取得した基準マスタシリンダ圧Pkが下限マスタシリンダ圧Pkminより低いかどうかを判定する。ここで、基準マスタシリンダ圧Pkが下限マスタシリンダ圧Pkminより低いと判定されたら、ステップS20にて、基準マスタシリンダ圧Pkを下限マスタシリンダ圧Pkminに設定し、基準マスタシリンダ圧Pkが下限マスタシリンダ圧Pkminより低くないと判定されたら、取得した基準マスタシリンダ圧Pkをそのまま使用する。
基準マスタシリンダ圧Pk(Pkmin)が設定されると、ステップS21にて、前述した数式により目標ホイールシリンダ圧Ptを算出する。そして、ECU80は、ステップS22にて、この目標ホイールシリンダ圧Ptに基づいてABS、つまり、電磁弁装置60を作動制御する。
ここで、本実施例の車両用制動装置により設定された目標ホイールシリンダ圧を用いたABS制御を図5のフローチャートに基づいて説明する。
ステップS31にて、踏力勾配取得部85により踏力勾配dF/dtを取得し、ステップS32では、踏力勾配dF/dtが0より大きいかどうかを判定する。ここで、踏力勾配dF/dtが0より大きいと判定されたら、ステップS33にて、乗員によるブレーキペダル5の踏み込み動作と判断する。
そして、ステップS34にて、目標ホイールシリンダ圧Ptから現在のホイールシリンダ圧Pwcを減算した偏差が予め設定された規定値aの絶対値より大きいかどうかを判定する。ここで、目標ホイールシリンダ圧Ptから現在のホイールシリンダ圧Pwcを減算した偏差が規定値aの絶対値より大きいと判定されたら、ステップS35にて、電磁弁装置60を作動して増圧制御する。ステップS36では、目標ホイールシリンダ圧Ptから現在のホイールシリンダ圧Pwcを減算した偏差が、予め設定された規定値aの絶対値のマイナス以上で、且つ、規定値aの絶対値以下かどうかを判定する。ここで、目標ホイールシリンダ圧Ptから現在のホイールシリンダ圧Pwcを減算した偏差が規定値aの絶対値のマイナス以上で、規定値aの絶対値以下と判定されたら、ステップS37にて、電磁弁装置60を作動して保持制御する。また、ステップS38では、目標ホイールシリンダ圧Ptから現在のホイールシリンダ圧Pwcを減算した偏差が、予め設定された規定値aの絶対値のマイナスより小さいかどうかを判定する。ここで、目標ホイールシリンダ圧Ptから現在のホイールシリンダ圧Pwcを減算した偏差が規定値aの絶対値のマイナスより小さいと判定されたら、ステップS39にて、電磁弁装置60を作動して減圧制御する。
一方、ステップS32にて、踏力勾配dF/dtが0より大きくないと判定されたら、ステップS40に移行する。また、ステップS34にて、目標ホイールシリンダ圧Ptから現在のホイールシリンダ圧Pwcを減算した偏差が規定値aの絶対値より大きくないと判定されたら、ステップS36に移行する。ステップS36にて、目標ホイールシリンダ圧Ptから現在のホイールシリンダ圧Pwcを減算した偏差が、予め設定された規定値aの絶対値のマイナス以上で、且つ、規定値aの絶対値以下でないと判定されたら、ステップS38に移行する。ステップS38にて、目標ホイールシリンダ圧Ptから現在のホイールシリンダ圧Pwcを減算した偏差が、予め設定された規定値aの絶対値のマイナスより小さくないと判定されたら、ステップS40に移行する。
続いて、ステップS40では、踏力勾配dF/dtが0以下かどうかを判定する。ここで、踏力勾配dF/dtが0以下と判定されたら、ステップS41にて、乗員によるブレーキペダル5の戻し動作と判断する。
そして、ステップS42にて、目標ホイールシリンダ圧Ptから現在のホイールシリンダ圧Pwcを減算した偏差が予め設定された規定値aの絶対値のマイナスより小さいかどうかを判定する。ここで、目標ホイールシリンダ圧Ptから現在のホイールシリンダ圧Pwcを減算した偏差が規定値aの絶対値のマイナスより小さいと判定されたら、ステップS43にて、電磁弁装置60を作動して減圧制御する。ステップS44では、目標ホイールシリンダ圧Ptから現在のホイールシリンダ圧Pwcを減算した偏差が、予め設定された規定値aの絶対値のマイナス以上かどうかを判定する。ここで、目標ホイールシリンダ圧Ptから現在のホイールシリンダ圧Pwcを減算した偏差が規定値aの絶対値のマイナス以上と判定されたら、ステップS45にて、電磁弁装置60を作動して保持制御する。
一方、ステップS40にて、踏力勾配dF/dtが0以下でないと判定されたら、何もしないでこのルーチンを抜ける。また、ステップS42にて、目標ホイールシリンダ圧Ptから現在のホイールシリンダ圧Pwcを減算した偏差が規定値aの絶対値のマイナスより小さくないと判定されたら、ステップS44に移行する。ステップS44にて、目標ホイールシリンダ圧Ptから現在のホイールシリンダ圧Pwcを減算した偏差が、規定値aの絶対値のマイナス以上でないと判定されたら、何もしないでこのルーチンを抜ける。
なお、ホイールシリンダ圧Pwcは、ホイールシリンダ50に作用する油圧を検出したものではなく、マスタシリンダ圧Pmcから推定したものである。即ち、マスタシリンダ圧Pmcに、現在の電磁弁装置60の電流値iとその傾きβを乗算した値を加算することで、ホイールシリンダ圧Pwcを推定している。
このように本実施例の車両用制動装置にあっては、ブレーキペダル5の制動操作に応じてマスタシリンダ圧を出力可能なマスタシリンダ35と負圧によりマスタシリンダ35への入力を助勢するバキュームブースタ30と、ポンプ加圧によりマスタシリンダ圧を助勢するポンプ70を設けて構成し、踏力センサ15により取得された踏力が予め設定された基準踏力を超えたときにマスタシリンダ圧センサ75が取得したマスタシリンダ圧を基準として目標ホイールシリンダ圧を設定し、設定した目標ホイールシリンダ圧に基づいてポンプ70を制御するようにしている。
従って、バキュームブースタ30の負圧が変動しても、踏力が基準踏力を超えたときのマスタシリンダ圧を基準として目標ホイールシリンダ圧を設定することで、マスタシリンダ35の作動状態に応じた目標ホイールシリンダ圧が設定されることとなり、設定した目標ホイールシリンダ圧に基づいてポンプ70を最適制御することができ、制動操作フィーリングを向上することができる。
また、本実施例の車両用制動装置では、踏力が基準踏力を超えたときのマスタシリンダ圧が予め設定された下限マスタシリンダ圧より低いとき、この下限マスタシリンダ圧を基準マスタシリンダ圧として目標ホイールシリンダ圧を設定している。従って、ブレーキペダル5を早踏みした場合に、踏力の増加に対してバキュームブースタ30による増力が追いつかず、マスタシリンダ35への入力の増加が緩やかになった場合であっても、目標ホイールシリンダ圧を適正に設定することができる。
また、本実施例の車両用制動装置では、踏力が基準踏力を超えたときのマスタシリンダ圧が予め設定された基準マスタシリンダ圧より低いとき、このときのマスタシリンダ圧を基準マスタシリンダ圧として目標ホイールシリンダ圧を設定すると共に、設定した目標ホイールシリンダ圧の増加勾配を大きく設定している。従って、ブレーキペダル5を早踏みした場合に、踏力の増加に対してバキュームブースタ30による増力が追いつかず、マスタシリンダ35への入力の増加が緩やかになった場合であっても、目標ホイールシリンダ圧を適正に設定することができる。
また、本実施例の車両用制動装置では、踏力と基準制踏力との偏差に予め設定されたマスタシリンダ圧勾配を乗算し、基準マスタシリンダ圧を加算することで目標ホイールシリンダ圧を算出している。従って、基準制踏力に応じた基準マスタシリンダ圧を求めるだけで、目標ホイールシリンダ圧を容易に算出することができる。