まず、本発明の固体酸化物形燃料電池用電極層(以下、単に「電極層」という)について説明する。本発明の電極層は、多孔質基材と、この多孔質基材に形成された金属酸化物膜とを有する電極層であって、上記金属酸化物膜の一部が、上記多孔質基材内の気孔を形成する壁面(以下、「内表面」ともいう)の少なくとも一部に沿って形成されていることを特徴とする。これにより、例えば電極材料層を構成する粒子間の接合のための熱処理工程(通常1000℃以上)が不要となり、成形温度の低減が可能となるため、例えば電極層の熱収縮による劣化を防ぐことができる。更に、上記金属酸化物膜の一部が、上記内表面の少なくとも一部に沿って形成されているため、例えば電極層のガス透過性を維持した上で電極反応場を増大させることができる。これにより、本発明の電極層を固体酸化物形燃料電池に適用すると、電極反応の円滑化が可能な固体酸化物形燃料電池を提供することができる。
本発明の電極層を燃料極層として使用する場合、上記金属酸化物膜として、例えば、蛍石型又はペロブスカイト型の結晶構造を有する酸化物イオン伝導体と金属触媒とを含む金属酸化物膜を使用できる。酸化物イオン伝導体としては、蛍石型又はペロブスカイト型の結晶構造を有するものを挙げることができる。蛍石型の結晶構造を有するものとしては、例えばサマリウムやガドリニウム等をドープしたセリア系酸化物、スカンジウムやイットリウムを含むジルコニア系酸化物等を挙げることができる。また、ペロブスカイト型の結晶構造を有するものとしてはストロンチウムやマグネシウムをドープしたランタン・ガレード系酸化物を挙げることができる。金属触媒を構成する金属としては、還元性雰囲気中で安定であり、かつ、水素酸化活性を有する材料を用いることができ、例えば、ニッケル、鉄、コバルト等や、貴金属(白金、ルテニウム、パラジウム等)等が使用できる。上記金属の中では、水素酸化の活性が高いニッケルが好ましい。なお、燃料極層の気孔率は、通常20〜50体積%であり、望ましくは30〜40体積%である。また、燃料極層の厚みは、通常5〜50μmである。
本発明の電極層を空気極層として使用する場合、上記金属酸化物膜として、例えば、ペロブスカイト型の結晶構造を有する金属酸化物を含むものを用いることができる。上記金属酸化物の具体例としては、(Sm,Sr)CoO3、(La,Sr)MnO3、(La,Sr)CoO3、(La,Sr)(Fe,Co)O3、(La,Sr)(Fe,Co,Ni)O3等の金属酸化物が挙げられ、酸化性雰囲気下の安定性の観点から(La,Sr)MnO3が好ましい。また、空気極層を形成するための上記金属酸化物膜として、白金、ルテニウム、パラジウム等の貴金属を含むものも使用できる。なお、空気極層の気孔率は、通常20〜50体積%であり、望ましくは30〜40体積%である。また、空気極層の厚みは、通常5〜50μmである。
本発明に用いられる多孔質基材の材料としては、例えばセラミックスや金属等が挙げられる。特に金属は、集電効果があるため好ましい。使用できる金属としては、ステンレス鋼や鉄−ニッケル等の合金などであってもよく、金や白金のような純金属であってもよい。また、使用できるセラミックスとしては、アルミナやシリカ等が挙げられる。上記多孔質基材内の気孔の平均径は、1μm以上100μm以下が好ましく、1μm以上10μm以下がより好ましい。上記気孔の平均径が、1μm未満の場合、電極層のガス透過性が低下する場合がある。一方、上記気孔の平均径が、100μmを超える場合、電極層の強度が低下する場合がある。上記多孔質基材の気孔率は、通常20〜50体積%であり、得られる電極層のガス透過性及びその強度の観点から、30〜40体積%であることが好ましい。なお、上記多孔質基材の製造方法については、特に限定されず、例えば特開2003−346843号公報に提案された方法などの公知の方法を使用することができる。
本発明に用いられる金属酸化物膜では、上記多孔質基材上に存在する領域の厚みは、10nm以上であることが好ましい。10nm以上であれば均一な金属酸化物膜とすることができるからである。
また、本発明の電極層は、上記内表面に沿って形成された上記金属酸化物膜の一部の厚みが、10nm以上50μm以下であることが好ましく、10nm以上10μm以下であることがより好ましい。この範囲内であれば、電極層のガス透過性を良好に維持した上で電極反応場を増大させることができる。
本発明の電極層の電極反応場をより増大させるためには、上記多孔質基材と上記金属酸化物膜との界面から、上記多孔質基材の深さ方向に少なくとも10nm(より好ましくは少なくとも100nm、特に好ましくは少なくとも1μm)までの範囲に存在する上記気孔において、上記金属酸化物膜の一部が上記内表面の少なくとも一部に沿って形成されていることが好ましい。特に、上記多孔質基材内の全ての気孔内に上記金属酸化物膜の一部が存在しており、上記金属酸化物膜の一部が、上記気孔を形成する壁面の少なくとも一部に沿って形成されていると、本発明の電極層の電極反応場をより一層増大させることができるため好ましい。
次に、本発明の電極層の製造方法について説明する。以下に説明する本発明の電極層の製造方法は、上述した本発明の電極層を製造するための好適な製造方法の一例である。なお、材料等の説明において、上述と重複する内容については説明を省略する。
まず、本発明の電極層の第1の製造方法(以下、「第1製造方法」ともいう)について説明する。第1製造方法では、金属源を含む金属酸化物膜形成用溶液に、多孔質基材を浸漬することにより金属酸化物膜を形成する。よって、例えば電極材料層を構成する粒子間の接合のための熱処理工程(通常1000℃以上)が不要となり、成形温度の低減が可能となる。これにより、例えば、得られる電極層の熱収縮による劣化を防ぐことができる。また、例えば、安価な材料で電極層を製造することができる。更に、製造工程をより簡便にすることもできる。また、上記方法によれば、多孔質基材内の気孔を形成する壁面の少なくとも一部に沿って金属酸化物膜の一部を形成することができるため、得られる電極層の電極反応場の増大が可能となる。
上記金属源としては、上記金属酸化物膜を構成する金属を含み、かつ後述する溶媒に溶解するものであればよい。例えば、金属塩、金属イオンに対して無機物又は有機物が配位
した金属錯体、分子中に金属−炭素結合を有する有機金属化合物等を使用することができる。上記金属源は、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を混合して使用してもよい。
上記金属源を構成する金属元素としては、所望の金属組成の金属酸化物膜を得ることができれば特に限定されるものではないが、Mg、Al、Si、Ti、V、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Ag、In、Sn、Ce、Sm、Pb、La、Hf、Sc、Gd、Ga及びTaから選ばれる少なくとも一つの金属元素であることが好ましい。上記金属元素は、プールベ線図において、金属酸化物として存在する領域(以下、「金属酸化物領域」という)、又は金属水酸化物として存在する領域(以下、「金属水酸化物領域」という)を有しているため、金属酸化物膜の主用構成元素として適している。更に好ましくは、電極材料として広く知られているCo、Ni、Pb、Zr、Y、Ce、Gd
、Smが適している。上記金属源(1種又は複数種)は、上記金属元素を2種類以上含有していてもよい。
上記金属塩としては、上記金属元素を含む塩化物、硝酸塩、硫酸塩、過塩素酸塩、酢酸塩、リン酸塩、臭素酸塩等を挙げることができる。中でも、本発明においては、塩化物、硝酸塩、酢酸塩を使用することが好ましい。これらの化合物は汎用品として入手が容易だからである。
また、上記金属錯体や上記有機金属化合物の具体例としては、マグネシウムジエトキシド、アルミニウムアセチルアセトナート、カルシウムアセチルアセトナート二水和物、カルシウムジ(メトキシエトキシド)、グルコン酸カルシウム一水和物、クエン酸カルシウム四水和物、サリチル酸カルシウム二水和物、チタンラクテート、チタンアセチルアセトネート、テトライソプロピルチタネート、テトラノルマルブチルチタネート、テトラ(2−エチルヘキシル)チタネート、ブチルチタネートダイマー、チタニウムビス(エチルヘキソキシ)ビス(2−エチル−3−ヒドロキシヘキソキシド)、ジイソプロポキシチタンビス(トリエタノールアミネート)、ジヒドロキシビス(アンモニウムラクテート)チタニウム、ジイソプロポキシチタンビス(エチルアセトアセテート)、チタンペロキソクエン酸アンモニウム四水和物、ジシクロペンタジエニル鉄(II)、乳酸鉄(II)三水和物、鉄(III)アセチルアセトナート、コバルト(II)アセチルアセトナート、ニッケル(II)アセチルアセトナート二水和物、銅(II)アセチルアセトナート、銅(II)ジピバロイルメタナート、エチルアセト酢酸銅(II)、亜鉛アセチルアセトナート、乳酸亜鉛三水和物、サリチル酸亜鉛三水和物、ステアリン酸亜鉛、ストロンチウムジピバロイルメタナート、イットリウムジピバロイルメタナート、ジルコニウムテトラ−n−ブトキシド、ジルコニウム(IV)エトキシド、ジルコニウムノルマルプロピレート、ジルコニウムノルマルブチレート、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムモノアセチルアセトネート、ジルコニウムアセチルアセトネートビスエチルアセトアセテート、ジルコニウムアセテート、ジルコニウムモノステアレート、ペンタ−n−ブトキシニオブ、ペンタエトキシニオブ、ペンタイソプロポキシニオブ、トリス(アセチルアセトナト)インジウム(III)、2−エチルヘキサン酸インジウム(III)、テトラエチルすず、酸化ジブチルすず(IV)、トリシクロヘキシルすず(IV)ヒドロキシド、ランタンアセチルアセトナート二水和物、トリ(メトキシエトキシ)ランタン、ペンタイソプロポキシタンタル、ペンタエトキシタンタル、タンタル(V)エトキシド、セリウム(III)アセチルアセトナート、クエン酸鉛(II)三水和物、シクロヘキサン酪酸鉛等を挙げることができる。中でも、入手が容易で扱いやすい点から、マグネシウムジエトキシド、アルミニウムアセチルアセトナート、カルシウムアセチルアセトナート二水和物、チタンラクテート、チタンアセチルアセトネート、テトライソプロピルチタネート、テトラノルマルブチルチタネート、テトラ(2−エチルヘキシル)チタネート、ブチルチタネートダイマー、ジイソプロポキシチタンビス(エチルアセトアセテート)、乳酸鉄(II)三水和物、鉄(III)アセチルアセトナート、亜鉛アセチルアセトナート、乳酸亜鉛三水和物、ストロンチウムジピバロイルメタナート、ペンタエトキシニオブ、トリス(アセチルアセトナート)インジウム(III)、2−エチルヘキサン酸インジウム(III)、テトラエチルすず、酸化ジブチルすず(IV)、ランタンアセチルアセトナート二水和物、トリ(メトキシエトキシ)ランタン、セリウム(III)アセチルアセトナートを使用することが好ましい。
上記金属酸化物膜形成用溶液に用いられる溶媒は、上述した金属源を溶解することができるものであれば、特に限定されるものではない。例えば、金属源が金属塩の場合は、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−プロパノール、ブタノール等の総炭素数が5以下の低級アルコール、水、トルエン、これらの混合溶媒等を使用することができ、金属源が金属錯体又は有機金属化合物の場合は、水、上述した低級アルコール、トルエン、これらの混合溶媒等を使用することができる。また、本発明においては、上記溶媒を組み合わせて使用してもよい。例えば、水への溶解性は低いが有機溶媒への溶解性は高い金属錯体と、有機溶媒への溶解性は低いが水への溶解性は高い材料(例えば後述する還元剤)とを使用する場合は、水と有機溶媒との混合溶媒を使用して両者を溶解させ、均一な金属酸化物膜形成用溶液とすることができる。
上記金属酸化物膜形成用溶液における上記金属源の濃度としては、通常0.001〜10mol/リットルであり、中でも0.01〜1mol/リットルであることが好ましい。濃度が0.001mol/リットル未満であると、金属酸化物膜の成膜反応が起こり難く、所望の金属酸化物膜を得ることができない可能性があり、濃度が10mol/リットルを超えると、沈殿物が生成する可能性があるからである。
本発明においては、上記金属酸化物膜形成用溶液が、酸化剤及び還元剤から選ばれる少なくとも一つを更に含んでいてもよい。金属酸化物膜の成膜反応を促進させることができるからである。例えば、上記金属酸化物膜形成用溶液に酸化剤が含まれていると、上記金属源が溶解してなる金属イオン等の酸化が速やかに行われるため、金属酸化物膜の成膜反応が促進する。また、例えば、上記金属酸化物膜形成用溶液に還元剤が含まれていると、この還元剤が分解して電子を放出することにより水(溶媒)の電気分解反応を誘発すると考えられる。水の電気分解反応が起こると水酸化物イオンが発生し、これにより、金属酸化物膜形成用溶液のpHが上昇し、プールベ線図における金属酸化物領域又は金属水酸化物領域へとシフトするため、金属酸化物膜の成膜反応が促進する。
上記酸化剤としては、上述した溶媒に溶解し、かつ上記金属源が溶解してなる金属イオン等を酸化することができるものであれば特に限定されず、例えば、過酸化水素、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム、臭素酸ナトリウム、臭素酸カリウム、酸化銀、二クロム酸、過マンガン酸カリウム等が挙げられ、中でも過酸化水素、亜硝酸カリウムを使用するのが好ましい。
上記金属酸化物膜形成用溶液における上記酸化剤の濃度は、酸化剤の種類に応じて異なるが、通常0.001〜1mol/リットルであり、中でも0.01〜0.1mol/リットルであることが好ましい。濃度が0.001mol/リットル未満であると、金属酸化物膜の成膜反応を促進させる効果を充分に発揮することができない可能性があり、濃度が1mol/リットルを超えると、濃度の増加に見合う効果が得られず、コスト上好ましくないからである。
上記還元剤としては、上述した溶媒に溶解し、かつ分解反応により電子を放出することができるものであれば、特に限定されず、例えば、ボラン−tert−ブチルアミン錯体、ボラン−N,Nジエチルアニリン錯体、ボラン−ジメチルアミン錯体、ボラン−トリメチルアミン錯体等のボラン系錯体、水酸化シアノホウ素ナトリウム、水酸化ホウ素ナトリ
ウム等を挙げることができ、中でもボラン系錯体を使用することが好ましい。
上記金属酸化物膜形成用溶液における上記還元剤の濃度は、還元剤の種類に応じて異なるが、通常0.001〜1mol/リットルであり、中でも0.01〜0.1mol/リットルであることが好ましい。濃度が0.001mol/リットル未満であると、金属酸化物膜の成膜反応を促進させる効果を充分に発揮することができない可能性があり、濃度が1mol/リットルを超えると、濃度の増加に見合う効果が得られず、コスト上好ましくないからである。
また、本発明に用いられる金属酸化物膜形成用溶液は、補助イオン源や界面活性剤等の添加剤を含有していても良い。
上記補助イオン源は、電子と反応し水酸化物イオンを発生するものであり、金属酸化物膜形成用溶液のpHを上昇させ、金属酸化物膜の成膜反応を促進させることができる。これは、プールベ線図において、金属酸化物領域や金属水酸化物領域へと誘導する働きのことである。従って、上記補助イオン源は、熱で分解して電子を放出する還元剤と組み合わせることで効果を発揮するが、金属酸化物膜形成用溶液に還元剤が含まれていなくても、加熱により酸素と分離するため、単独で酸化剤としても使用できる。なお、上記補助イオン源の使用量は、使用する金属源等に応じて適宜設定すればよい。
このような補助イオン源としては、具体的には、塩素酸イオン、過塩素酸イオン、亜塩素酸イオン、次亜塩素酸イオン、臭素酸イオン、次臭素酸イオン、硝酸イオン、亜硝酸イオン等のイオン種を挙げることができる。これらの補助イオン源は、溶液中で下記の反応を起こすと考えられている。
(化1) ClO4 - + H2O + 2e- ⇔ ClO3 - + 2OH-
(化2) ClO3 - + H2O + 2e- ⇔ ClO2 - + 2OH-
(化3) ClO2 - + H2O + 2e- ⇔ ClO- + 2OH-
(化4) 2ClO- + 2H2O + 2e- ⇔ Cl2 + 4OH-
(化5) BrO3 - + 2H2O + 4e- ⇔ BrO- + 4OH-
(化6) 2BrO- + 2H2O + 2e- ⇔ Br2 + 4OH-
(化7) NO3 - + H2O + 2e- ⇔ NO2 - + 2OH-
(化8) NO2 - + 3H2O + 3e- ⇔ NH3 + 3OH-
上記界面活性剤は、多孔質基材表面に対する金属酸化物膜形成用溶液の濡れ性を向上させ、金属酸化物膜の成膜反応を促進させることができる。このような界面活性剤としては、具体的にはサーフィノール485、サーフィノールSE、サーフィノールSE−F、サーフィノール504、サーフィノールGA、サーフィノール104A、サーフィノール104BC、サーフィノール104PPM、サーフィノール104E、サーフィノール104PA等のサーフィノールシリーズ(以上、全て日信化学工業社製商品名)、NIKKOL AM301、NIKKOL AM313ON(以上、全て日光ケミカル社製商品名)等を挙げることができる。なお、上記界面活性剤の使用量は、使用する金属源等に応じて適宜設定すればよい。
本発明の電極層の製造方法に使用できる多孔質基材は、上述した本発明の電極層に使用できる多孔質基材と同様であるため、説明を省略する。
本発明において、上記金属酸化物膜形成用溶液に上記多孔質基材を浸漬する際、上記金属酸化物膜形成用溶液及び上記多孔質基材のうち少なくとも一方(好ましくは双方)を、10℃以上の温度に保持してもよい。金属酸化物膜の成膜反応を促進させることができるからである。金属酸化物膜の成膜反応をより促進させるためには、50℃以上の温度に加
熱することが好ましく、60℃以上の温度に加熱することがより好ましい。この場合、加熱温度は、作業性の観点から、上記金属酸化物膜形成用溶液の沸点以下の温度とすることが好ましい。例えば、上記金属酸化物膜形成用溶液が上述した酸化剤や還元剤を含む場合は、金属酸化物膜形成用溶液及び上記多孔質基材のうち少なくとも一方(好ましくは双方)を、通常10〜100℃の範囲に保持すればよく、生産性の観点から50〜90℃の範囲に加熱することが好ましい。
本発明の電極層の製造方法によれば、金属酸化物膜を多孔質基材の表面に沿って形成することができる。上記表面は、上記多孔質基材の外表面だけでなく、上記多孔質基材の内表面も含まれる。通常、上述した方法により得られる金属酸化物膜の一部は、上記多孔質基材の内表面の少なくとも一部に沿って形成される。例えば、上記多孔質基材と上記金属酸化物膜との界面近傍における上記多孔質基材の表面層において、上記金属酸化物膜の一部が上記内表面の少なくとも一部に沿って形成されていると、上記金属酸化物膜と上記多孔質基材との密着性が向上するため好ましい。また、上記金属酸化物膜の一部が上記内表面の少なくとも一部に沿って形成されていると、電極反応場が増大するため、電極反応の円滑化を促進させることもできる。上記効果をより確実に発揮させるためには、上記多孔質基材と上記金属酸化物膜との界面から、上記多孔質基材の深さ方向に少なくとも10nm(より好ましくは少なくとも100nm、特に好ましくは少なくとも1μm)までの範囲に存在する上記気孔において、上記金属酸化物膜の一部が上記内表面の少なくとも一部に沿って形成されるように、浸漬時間等を調整すればよい。勿論、上記多孔質基材内の全ての気孔内に上記金属酸化物膜の一部が存在し、かつ、この金属酸化物膜の一部が上記内表面の少なくとも一部に沿って形成されるように、浸漬時間等を調整してもよい。
本発明においては、上記金属酸化物膜形成用溶液に上記多孔質基材を浸漬して金属酸化物膜を形成する際、上記多孔質基材と上記金属酸化物膜形成用溶液とが接触している部分に、気泡状の酸化性ガスを接触させてもよい。上記金属源が溶解してなる金属イオン等の酸化が速やかに行われるため、金属酸化物膜の成膜反応が促進するからである。このような酸化性ガスとしては、上記金属源が溶解してなる金属イオン等を酸化することができるものであれば特に限定されず、例えば、酸素、オゾン、亜硝酸ガス、二酸化窒素、二酸化塩素、ハロゲンガス等が挙げられ、中でも酸素、オゾンを使用することが好ましく、特にオゾンを使用することが好ましい。工業的に入手が容易であり、低コスト化が実現できるからである。また、上述した気泡状の酸化性ガスの導入方法については、特に限定されるものではないが、例えば、バブラーを使用する方法を挙げることができる。バブラーを使用することにより、上記多孔質基材と上記金属酸化物膜形成用溶液とが接触している部分と、酸化性ガスとの接触面積を増大させることができ、金属酸化物膜の成膜速度を効率よく向上させることができるからである。このようなバブラーとしては、一般的なバブラーを使用することができ、例えば、ナフロンバブラー(アズワン社製)等を挙げることができる。また、上記酸化性ガスは、通常ガスボンベから金属酸化物膜形成用溶液に供給することができ、オゾンに関しては、オゾン発生装置から金属酸化物膜形成用溶液に供給することができる。
また、本発明においては、上記金属酸化物膜形成用溶液に上記多孔質基材を浸漬して金属酸化物膜を形成する際、上記多孔質基材と上記金属酸化物膜形成用溶液とが接触している部分に、紫外線を照射してもよい。紫外線を照射することによって、水の電気分解反応を促進させたり、上述した還元剤の分解を促進させたりすることができると考えられ、発生した水酸化物イオンによって、上述したように金属酸化物膜の成膜反応を促進させることができるからである。また、紫外線を照射することにより、上述した補助イオン源から水酸化物イオンを発生させたり、得られる金属酸化物膜の結晶性を向上させたりすることもできる。なお、上記紫外線としては、波長が470nm以下の近紫外光も含むものとする。
上記紫外線の照射方法としては、多孔質基材表面と金属酸化物膜形成用溶液との接触部分に照射する方法であれば特に限定されるものではないが、例えば、図7に示すように、多孔質基材21を金属酸化物膜形成用溶液22に浸漬させ、金属酸化物膜形成用溶液22の液面側から紫外線UVを照射する方法等が挙げられる。この場合においては、多孔質基材21の表面21aと金属酸化物膜形成用溶液22との接触部分に正確に紫外線UVを照射するという観点から、紫外線UVが照射される上記表面21aから金属酸化物膜形成用溶液22の液面までの距離が短いことが好ましい。
上記紫外線の波長としては、通常185〜470nmであり、成膜反応をより促進させるためには、185〜260nmであることが好ましい。また、上記紫外線の強度としては、通常1〜20mW/cm2であり、成膜反応をより促進させるためには、5〜15m
W/cm2であることが好ましい。このような紫外線照射を行う紫外線照射装置としては
、例えば市販の紫外線照射装置を使用することができ、具体的には、SEN特殊光源社製のHB400X−21等を使用することができる。
また、本発明においては、得られた金属酸化物膜の洗浄及び乾燥を行ってもよい。上記金属酸化物膜の洗浄は、金属酸化物膜の表面等に存在する不純物を取り除くために行われるものである。洗浄方法としては、例えば、金属酸化物膜形成用溶液に使用した溶媒を用いて洗浄する方法等を挙げることができる。また、上記金属酸化物膜の乾燥を行う際は、常温で放置することにより乾燥してもよいが、オーブン等の加熱装置中で乾燥してもよい。
本発明によって得られた電極層を用いて固体酸化物形燃料電池を作製する際は、例えばまず、この電極層上に、電解質材料を含むペーストをスクリ−ン印刷法、ドクタ−ブレ−ド法等の塗布方法により塗布し、これらを焼結することによって電解質層を形成する。次に、この電解質層上に、例えば、上記電極層とは異なる電極層の材料を含むペーストをスクリ−ン印刷法、ドクタ−ブレ−ド法等の塗布方法により塗布し、これらを焼結することによって、上記電極層とは異なる電極層(燃料極層又は空気極層)を形成すればよい。
次に、本発明の電極層の第2の製造方法(以下、「第2製造方法」ともいう)について説明する。第2製造方法では、まず、(1)金属源を含む第1金属酸化物膜形成用溶液に、多孔質基材を浸漬することにより、この多孔質基材の少なくとも一部を覆う第1金属酸化物膜を形成する。次に、(2)金属源を含む第2金属酸化物膜形成用溶液を、上記第1金属酸化物膜上に接触させることにより第2金属酸化物膜を形成して、上記第1金属酸化物膜と上記第2金属酸化物膜とからなる金属酸化物膜を得る。これにより、上述した第1製造方法と同様の効果を発揮させることができる上、第1金属酸化物膜の結晶核及び結晶構造に従って第2金属酸化物膜を形成できるため、第2金属酸化物膜における電子及びイオンの伝導性が向上し、第2金属酸化物膜の抵抗が低くなる。また、得られる第2金属酸化物膜が多孔質基材上に直接形成しにくい材料からなるものであった場合でも、多孔質基材上に第1金属酸化物膜を介して上記第2金属酸化物膜を形成することができる。或いは、密着性を高めることが可能となる。
上記第1金属酸化物膜形成用溶液及び上記第2金属酸化物膜形成用溶液は、いずれも上述した第1製造方法で使用される金属酸化物膜形成用溶液と同様のものが使用できる。また、上記第2金属酸化物膜形成用溶液は、酸化剤や還元剤などを含まず、上述した金属源を溶媒に溶解させたものであってもよい。また、上記第1金属酸化物膜形成用溶液と、上記第2金属酸化物膜形成用溶液とは、同じものを使用してもよいし、それぞれ異なるものを使用してもよい。なお、上記第1金属酸化物膜形成用溶液と、上記第2金属酸化物膜形成用溶液とが相違する場合、上記第1金属酸化物膜形成用溶液により得られる上記第1金
属酸化物膜の結晶系と、上記第2金属酸化物膜形成用溶液により得られる上記第2金属酸化物膜の結晶系とが近似する(又は一致する)ように、それぞれの溶液組成を選択するのが好ましい。なお、第2製造方法のうち、上記(1)工程については上述した第1製造方法と同様であるため、以下、上記(2)工程についてのみ説明し、重複する説明は省略する。
上記(2)工程における第1金属酸化物膜上への第2金属酸化物膜形成用溶液の接触方法は、特に限定されるものではないが、第2金属酸化物膜形成用溶液と第1金属酸化物膜とが接触した際に、第1金属酸化物膜の温度を低下させない方法であることが好ましい。第1金属酸化物膜の温度が低下すると成膜反応が起こり難くなり、所望の第2金属酸化物膜を得ることができなくなる可能性があるからである。第1金属酸化物膜の温度を低下させない方法としては、例えば、第2金属酸化物膜形成用溶液を液滴として第1金属酸化物膜上に接触させる方法等が挙げられる。この際、上記液滴は、例えば0.1〜1000μm程度の小さい径を有することが好ましい。上記液滴の径が上記範囲内であれば、第2金属酸化物膜形成用溶液の溶媒が瞬時に蒸発し、第1金属酸化物膜の温度の低下を抑制することができる上、液滴の径が小さいことで、均一な第2金属酸化物膜を得ることができるからである。
第2金属酸化物膜形成用溶液の液滴を第1金属酸化物膜上に接触させる方法は、特に限定されるものではないが、具体的には、第2金属酸化物膜形成用溶液を噴霧することにより第1金属酸化物膜上に上記第2金属酸化物膜形成用溶液を接触させる方法や、第2金属酸化物膜形成用溶液をミスト状にした空間の中に第1金属酸化物膜を通過させることにより第1金属酸化物膜上に上記第2金属酸化物膜形成用溶液を接触させる方法等が挙げられる。
第2金属酸化物膜形成用溶液を第1金属酸化物膜上に噴霧する方法は、例えばスプレー装置等を用いて噴霧する方法等が挙げられる。上記スプレー装置等を用いて噴霧する場合、液滴の径は、通常0.1〜1000μmであり、中でも0.5〜300μmであることが好ましい。液滴の径が上記範囲内にあれば、第1金属酸化物膜の温度の低下を抑制することができ、均一な第2金属酸化物膜を得ることができるからである。
また、上記スプレー装置の噴射ガスとしては、第2金属酸化物膜の形成を阻害しない限り特に限定されるものではないが、例えば、空気、窒素、アルゴン、ヘリウム、酸素等を挙げることができ、中でも不活性な気体である窒素、アルゴン、ヘリウムが好ましい。また、第2金属酸化物膜形成用溶液の噴射量としては、通常0.001〜1リットル/minであり、より均一な第2金属酸化物膜を得るためには、0.001〜0.05リットル/minであることが好ましい。この際、形成される第2金属酸化物膜の厚みは、繰り返し噴霧することによって任意に調整できる。また、上記スプレー装置は、固定されているもの、可動式のもの、回転によって上記溶液を噴射させるもの、圧力によって上記溶液を噴射させるもの等であってもよい。このようなスプレー装置としては、一般的に用いられるスプレー装置を用いることができ、例えばハンドスプレー(アズワン社製)等を用いることができる。
本発明において、例えば上述した第2金属酸化物膜形成用溶液を第1金属酸化物膜上に噴霧する方法を用いて第2金属酸化物膜を形成すると、得られる第2金属酸化物膜が、その積層方向に結晶成長した柱状構造を有する結晶の集合体を含む。このような第2金属酸化物膜では、電子及びイオンの伝導性が向上し、抵抗が低くなる。上記効果を確実に発揮させるためには、上記結晶における上記第2金属酸化物膜の積層方向の結晶長さを、上記結晶における上記第2金属酸化物膜の積層方向と直交する方向の結晶径で除した値が、2以上となるように、材料や溶媒を選定することが好ましい。
第2金属酸化物膜形成用溶液をミスト状にした空間の中に第1金属酸化物膜を通過させる方法を用いる場合、液滴の径は、通常0.01〜300μmであり、中でも1〜100μmであることが好ましい。液滴の径が上記範囲内にあれば、第1金属酸化物膜の温度の低下を抑制することができ、均一な第2金属酸化物膜を得ることができるからである。この際、形成される第2金属酸化物膜の厚みは、多孔質基材を通過させる時間や、繰り返し通過させることによって任意に調整できる。
本発明では、第2金属酸化物膜の成膜反応を促進させるために、第2金属酸化物膜形成用溶液を第1金属酸化物膜上に接触させる際、金属酸化物膜形成温度以上に上記第1金属酸化物膜を加熱してもよい。ここで、「金属酸化物膜形成温度」とは、上述した金属源を構成する金属元素が酸素と結合して上記第1金属酸化物膜上に第2金属酸化物膜が形成される最低温度のことである。上記金属酸化物膜形成温度は、金属源の種類や溶媒等の第2金属酸化物膜形成用溶液の組成によって大きく異なり、通常150〜800℃の範囲内である。特に、生産性の観点から、400〜550℃の範囲内となるように、金属源の種類や溶媒等を選択するのが好ましい。一方、上記第2金属酸化物膜形成用溶液が酸化剤や還元剤を含む場合、上記金属酸化物膜形成温度は、通常25〜800℃の範囲内であり、特に、生産性の観点から、70〜400℃の範囲内となるように、金属源の種類や溶媒等を選択するのが好ましい。
上記金属酸化物膜形成温度は、以下の方法により測定することができる。まず、所望の金属源を含む第2金属酸化物膜形成用溶液を調製する。次に、第1金属酸化物膜の加熱温度を変化させて、上記第1金属酸化物膜上に上記第2金属酸化物膜形成用溶液を接触させることにより、第2金属酸化物膜を形成することができる第1金属酸化物膜の加熱温度のうち、最低の加熱温度を測定する。この最低の加熱温度を本明細書における「金属酸化物膜形成温度」とすることができる。この際、第2金属酸化物膜が形成したか否かは、得られる第2金属酸化物膜が結晶性を有する場合、例えばX線回折装置(リガク製、RINT−1500)により得られた結果から判断し、得られる第2金属酸化物膜がアモルファス膜の場合、例えば光電子分光分析装置(V.G.Scientific社製、ESCALAB 200i−XL)により得られた結果から判断することができる。
また、第1金属酸化物膜の加熱方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、ホットプレート、オーブン、焼成炉、赤外線ランプ、熱風送風機等による加熱方法を挙げることができ、中でも、ホットプレートを使用すると、第1金属酸化物膜の温度を所望の温度に確実に保持できるため好ましい。なお、第1金属酸化物膜を加熱する際は、上記多孔質基材とともに加熱してもよいし、第1金属酸化物膜のみを加熱してもよい。
以下、本発明の一実施形態に係る電極層について、図面を参照して説明する。参照する図1は、本発明の一実施形態に係る電極層の模式断面図である。また、参照する図2は、本発明の一実施形態に係る電極層の模式断面拡大図である。
図1に示すように、本発明の電極層10は、多孔質基材11と、多孔質基材11の表面を覆って形成された金属酸化物膜12とを含む。上記表面は、多孔質基材11の外表面11aだけでなく内表面11bも含む。即ち、金属酸化物膜12の一部は、図2に示すように、多孔質基材11の内表面11bの少なくとも一部に沿って形成されている。これにより、電極層10のガス透過性を維持した上で電極反応場を増大させることができる。
次に、本発明の一実施形態に係る電極層の製造方法、及び得られた電極層を用いて固体酸化物形燃料電池を作製する方法の一例について、図面を参照して説明する。参照する図3A,Bは、本発明の一実施形態に係る電極層の製造方法を示す概略工程図である。また
、参照する図4A,Bは、図3A,Bに示す方法により得られた電極層を用いて固体酸化物形燃料電池を作製する方法の一例を示す概略工程図である。なお、図3A,Bに示す製造方法は、上述した本発明の第1製造方法の一例である。また、図3及び図4において、図1と同一構成のものには同一の符号を付し、その説明は省略する。
まず、金属源と、例えば還元剤とを、水等の溶媒に溶解させて金属酸化物膜形成用溶液1(図3A参照)を調製する。そして、図3Aに示すように、金属酸化物膜形成用溶液1に多孔質基材11を浸漬する。これにより、図3Bに示すように、多孔質基材11の表面(外表面11a及び内表面11b)に沿って金属酸化物膜12が形成され、本発明の一実施形態に係る空気極層10が得られる。なお、本実施形態では、多孔質基材11と金属酸化物膜12とからなる空気極層10を形成したが、本発明はこれに限定されず、燃料極層を形成してもよい。
続いて、上記空気極層10を用いて固体酸化物形燃料電池を作製する場合は、空気極層10を金属酸化物膜形成用溶液1から取り出して、図4Aに示すように、空気極層10の金属酸化物膜12上に、スクリ−ン印刷法等の手段を用いて電解質層14を形成する。次に、図4Bに示すように、電解質層14上にスクリ−ン印刷法等の手段を用いて燃料極層15を形成して、固体酸化物形燃料電池(単セル)20が得られる。
次に、本発明の別の一実施形態に係る電極層の製造方法、及び得られた電極層を用いて固体酸化物形燃料電池を作製する方法の一例について、図面を参照して説明する。参照する図5A,Bは、本発明の別の一実施形態に係る電極層の製造方法を示す概略工程図である。以下に説明する本発明の別の一実施形態に係る電極層の製造方法は、第1金属酸化物膜を形成する工程については上述した図3A,Bに示す方法と同様であるため、第2金属酸化物膜を形成する工程についてのみ説明する。また、参照する図6A,Bは、図5A,Bに示す方法により得られた電極層を用いて固体酸化物形燃料電池を作製する方法の一例を示す概略工程図である。なお、図5A,Bに示す製造方法は、上述した本発明の第2製造方法の一例である。また、図5及び図6において、図3及び図4と同一構成のものには同一の符号を付し、その説明は省略する。
まず、多孔質基材11の表面を覆う第1金属酸化物膜12を形成する(図3A,B参照)。次に、図5Aに示すように、多孔質基材11及び第1金属酸化物膜12を、例えばホットプレート(図示せず)等により金属酸化物膜形成温度以上に加熱した状態で、スプレー装置2により第2金属酸化物膜形成用溶液16(例えば図3Aの金属酸化物膜形成用溶液1と同じ組成)を第1金属酸化物膜12上に噴霧する。これにより、図5Bに示すように、第1金属酸化物膜12上に第2金属酸化物膜17が形成され、第1金属酸化物膜12と第2金属酸化物膜17とからなる金属酸化物膜18が得られる。以上の方法により、多孔質基材11と金属酸化物膜18とからなる空気極層10が得られる。なお、本実施形態では、多孔質基材11と金属酸化物膜18とからなる空気極層10を形成したが、本発明はこれに限定されず、燃料極層を形成してもよい。
続いて、上記空気極層10を用いて固体酸化物形燃料電池を作製する場合は、図6Aに示すように、空気極層10の金属酸化物膜18上に、スクリ−ン印刷法等の手段を用いて電解質層14を形成する。次に、図6Bに示すように、電解質層14上にスクリ−ン印刷法等の手段を用いて燃料極層15を形成して、固体酸化物形燃料電池(単セル)20が得られる。
以下に実施例を挙げて、本発明を更に詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
アルミナ粉末(粒径範囲:0.01〜10μm、平均粒径:1μm)とアセチレンブラック粉末とをエタノールに加え、これらをエタノール中で粉砕しながら混合した。次に、これらを温度100℃で15分間乾燥し、静水圧プレス機にて押し固めた後、1400℃で5時間焼結し、多孔質基材(厚み:800μm)を作製した。
続いて、塩化コバルト(関東化学社製)、硝酸サマリウム(関東化学社製)、塩化ストロンチウム(関東化学社製)及び還元剤であるボラン−ジメチルアミン錯体(関東化学社製)を、それぞれの濃度が0.01mol/リットル、0.005mol/リットル、0.005mol/リットル及び0.03mol/リットルとなるように、水及びイソプロパノールからなる混合溶媒に溶解させて金属酸化物膜形成用溶液を調製した。使用した混合溶媒は、容量比(水:イソプロパノール)が、60:40であった。そして、上記金属酸化物膜形成用溶液(60℃)中に、上記多孔質基材を12時間浸漬して、上記多孔質基材を覆う金属酸化物膜(上記多孔質基材上の厚み:0.2μm)を形成した。これにより、上記多孔質基材と上記金属酸化物膜とからなる空気極層を得た。走査型電子顕微鏡により上記空気極層の断面を観察した結果、得られた金属酸化物膜の一部が、上記多孔質基材内の気孔を形成する壁面の少なくとも一部に沿って形成されていることが分かった。
続いて、GDC(Ce:Gd:O=0.9:0.1:1.9)粉末(粒径範囲:0.05〜5μm、平均粒径:0.5μm)及びセルロース系バインダー樹脂を、質量比(GDC:セルロース系バインダー樹脂)が95:5となるようにジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートに加えてペーストを調製した。この際のペーストの粘度は、5×105mPa・sであった。上記ペーストをスクリーン印刷法にて上記空気極層上に塗布
し、130℃で5分間乾燥させた後、1200℃で1時間焼結して、上記空気極層上にGDCからなる電解質層(厚み:50μm)を形成した。
続いて、NiO粉末(粒径範囲:0.01〜10μm、平均粒径:1μm)及びSDC(Ce:Sm:O=0.8:0.2:1.9)粉末(粒径範囲:1〜10μm、平均粒径:0.1μm)を、質量比(NiO:SDC)が70:30となるよう混合した後、セルロース系バインダー樹脂と共に、質量比(NiOとSDCとの混合物:バインダー樹脂)が80:20となるようにジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートに加えてペーストを調製した。そして、このペ−ストをスクリーン印刷により上記電解質層上に塗布した後、これらを1200℃で5時間焼結することにより燃料極層(厚み:30μm)を形成して、固体酸化物形燃料電池の単セルを得た。
(実施例2)
鉄−ニッケル粉末(粒径範囲:0.01〜10μm、平均粒径:1μm)とアセチレンブラック粉末とをエタノールに加え、これらをエタノール中で粉砕しながら混合した。次に、これらを温度100℃で15分間乾燥し、静水圧プレス機にて押し固めた後、1400℃で5時間焼結し、多孔質基材(厚み:800μm)を作製した。
続いて、硝酸ニッケル(関東化学社製)、酢酸セリウム(関東化学社製)、硝酸サマリウム(関東化学社製)及び還元剤であるボラン−ジメチルアミン錯体(関東化学社製)を、それぞれの濃度が0.01mol/リットル、0.01mol/リットル、0.004mol/リットル及び0.03mol/リットルとなるように、水及びエタノールからなる混合溶媒に溶解させて金属酸化物膜形成用溶液を調製した。使用した混合溶媒は、容量比(水:エタノール)が、40:60であった。そして、上記金属酸化物膜形成用溶液(80℃)中に、上記多孔質基材を20時間浸漬して、上記多孔質基材を覆う金属酸化物膜(上記多孔質基材上の厚み:0.2μm)を形成した。これにより、上記多孔質基材と上記金属酸化物膜とからなる燃料極層を得た。走査型電子顕微鏡により上記燃料極層の断面を観察した結果、得られた金属酸化物膜の一部が、上記多孔質基材内の気孔を形成する壁面の少なくとも一部に沿って形成されていることが分かった。
続いて、実施例1と同様の方法により、上記燃料極層上にGDCからなる電解質層(厚み:50μm)を形成した。
次に、(Sm,Sr)CoO3(Sm:Sr:Co:O=0.5:0.5:1:3)粉
末(粒径範囲:0.1〜10μm、平均粒径:3μm)及びセルロース系バインダー樹脂を、質量比((Sm,Sr)CoO3:バインダー樹脂)が80:20となるようにジエ
チレングリコールモノブチルエーテルアセテートに加えてペーストを調製した。そして、このペ−ストをスクリーン印刷により上記電解質層上に塗布した後、これらを1200℃で5時間焼結することにより空気極層(厚み:30μm)を形成して、固体酸化物形燃料電池の単セルを得た。
(実施例3)
実施例2と同様の方法により多孔質基材を形成した後、実施例1と同様の方法により上記多孔質基材を覆う金属酸化物膜(上記多孔質基材上の厚み:0.2μm)を形成した。これにより、上記多孔質基材と上記金属酸化物膜とからなる空気極層を得た。
続いて、硝酸セリウム(III)(関東化学社製)、硝酸ガドリニウム(和光純薬社製)
及び還元剤であるボラン−ジメチルアミン錯体(関東化学社製)を、それぞれの濃度が0.03mol/リットル、0.0045mol/リットル及び0.05mol/リットルとなるように、水及びエタノールからなる混合溶媒に溶解させて金属酸化物膜形成用溶液を調製した。使用した混合溶媒は、容量比(水:エタノール)が、50:50であった。そして、上記金属酸化物膜形成用溶液(70℃)中に、上記空気極層を24時間浸漬して、上記空気極層上に電解質層(上記空気極層上の厚み:0.6μm)を形成した。
続いて、NiO粉末(粒径範囲:0.01〜10μm、平均粒径:1μm)、SDC(Ce:Sm:O=0.8:0.2:1.9)粉末(粒径範囲:1〜10μm、平均粒径:0.1μm)及びアセチレンブラックを、質量比(NiO:SDC:アセチレンブラック)が45:50:5となるよう混合した後、セルロース系バインダー樹脂と共に、質量比(NiOとSDCとアセチレンブラックとの混合物:バインダー樹脂)が80:20となるようにジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートに加えてペーストを調製した。そして、このペ−ストをスクリーン印刷により上記電解質層上に塗布した後、これらを1400℃で5時間焼結することにより燃料極層(厚み:30μm)を形成して、固体酸化物形燃料電池の単セルを得た。
(実施例4)
実施例2と同様の方法により多孔質基材を形成した後、実施例1と同様の方法により上記多孔質基材を覆う金属酸化物膜(上記多孔質基材上の厚み:0.2μm)を形成した。これにより、上記多孔質基材と上記金属酸化物膜とからなる空気極層を得た。
続いて、塩化セリウム(関東化学社製)及び酢酸ガドリニウム(和光純薬社製)を、それぞれの濃度が0.1mol/リットル及び0.03mol/リットルとなるように、水、イソプロパノール及びエタノールからなる混合溶媒に溶解させて金属酸化物膜形成用溶液を調製した。使用した混合溶媒は、容量比(水:イソプロパノール:エタノール)が、50:30:20であった。そして、上記空気極層を500℃に加熱した状態で、上記金属酸化物形成用溶液(500ミリリットル)をハンドスプレー(アズワン社製)で噴霧し、上記空気極層上に接触する電解質層(上記空気極層上の厚み:4μm)を形成した。
そして、実施例3と同様の方法により、上記電解質層上に燃料極層(厚み:30μm)を形成して、固体酸化物形燃料電池の単セルを得た。
(実施例5)
まず、実施例2と同様の方法により多孔質基材を形成した。
次に、塩化コバルト(関東化学社製)、硝酸サマリウム(関東化学社製)、塩化ストロンチウム(関東化学社製)及び還元剤であるボラン−ジメチルアミン錯体(関東化学社製)を、それぞれの濃度が0.01mol/リットル、0.005mol/リットル、0.005mol/リットル及び0.03mol/リットルとなるように、水及びイソプロパノールからなる混合溶媒に溶解させて第1金属酸化物膜形成用溶液を調製した。使用した混合溶媒は、容量比(水:イソプロパノール)が、60:40であった。そして、上記第1金属酸化物膜形成用溶液(60℃)中に、上記多孔質基材を12時間浸漬して、上記多孔質基材を覆う第1金属酸化物膜(上記多孔質基材上の厚み:0.2μm)を形成した。走査型電子顕微鏡により上記第1金属酸化物膜の断面を観察した結果、得られた第1金属酸化物膜の一部が、上記多孔質基材内の気孔を形成する壁面の少なくとも一部に沿って形成されていることが分かった。
続いて、塩化コバルト(関東化学社製)、硝酸サマリウム(関東化学社製)及び塩化ストロンチウム(関東化学社製)を、それぞれの濃度が0.1mol/リットル、0.05mol/リットル及び0.05mol/リットルとなるように、水及びエタノールからなる混合溶媒に溶解させて第2金属酸化物膜形成用溶液を調製した。使用した混合溶媒は、容量比(水:エタノール)が、20:80であった。そして、上記第1金属酸化物膜を400℃に加熱した状態で、上記第1金属酸化物膜上に上記第2金属酸化物形成用溶液(100ミリリットル)をハンドスプレー(アズワン社製)で噴霧し、上記第1金属酸化物膜上に接触する第2金属酸化物膜(上記第1金属酸化物膜上の厚み:1μm)を形成した。これにより、上記多孔質基材、上記第1金属酸化物膜及び上記第2金属酸化物膜からなる空気極層を得た。
続いて、実施例1と同様の方法により、上記空気極層上にGDCからなる電解質層(厚み:50μm)を形成した後、実施例3と同様の方法により、上記電解質層上に燃料極層(厚み:30μm)を形成して、固体酸化物形燃料電池の単セルを得た。
(実施例6)
まず、実施例2と同様の方法により多孔質基材を形成した。
続いて、硝酸ニッケル(関東化学社製)、酢酸セリウム(関東化学社製)、硝酸サマリウム(関東化学社製)及び還元剤であるボラン−ジメチルアミン錯体(関東化学社製)を、それぞれの濃度が0.01mol/リットル、0.01mol/リットル、0.004mol/リットル及び0.03mol/リットルとなるように、水及びエタノールからなる混合溶媒に溶解させて第1金属酸化物膜形成用溶液を調製した。使用した混合溶媒は、容量比(水:エタノール)が、40:60であった。そして、上記第1金属酸化物膜形成用溶液(80℃)中に、上記多孔質基材を24時間浸漬して、上記多孔質基材を覆う第1金属酸化物膜(上記多孔質基材上の厚み:0.2μm)を形成した。走査型電子顕微鏡により上記第1金属酸化物膜の断面を観察した結果、得られた第1金属酸化物膜の一部が、上記多孔質基材内の気孔を形成する壁面の少なくとも一部に沿って形成されていることが分かった。
続いて、硝酸ニッケル(関東化学社製)、酢酸セリウム(関東化学社製)及び硝酸サマ
リウム(関東化学社製)を、それぞれの濃度が0.1mol/リットル、0.05mol/リットル及び0.05mol/リットルとなるように、水及びエタノールからなる混合溶媒に溶解させて第2金属酸化物膜形成用溶液を調製した。使用した混合溶媒は、容量比(水:エタノール)が、20:80であった。そして、上記第1金属酸化物膜を500℃に加熱した状態で、上記第1金属酸化物膜上に上記第2金属酸化物形成用溶液(100ミリリットル)をハンドスプレー(アズワン社製)で噴霧し、上記第1金属酸化物膜上に接触する第2金属酸化物膜(上記第1金属酸化物膜上の厚み:1μm)を形成した。これにより、上記多孔質基材、上記第1金属酸化物膜及び上記第2金属酸化物膜からなる燃料極層を得た。
続いて、実施例1と同様の方法により、上記燃料極層上にGDCからなる電解質層(厚み:50μm)を形成した後、実施例2と同様の方法により、上記電解質層上に空気極層(厚み:30μm)を形成して、固体酸化物形燃料電池の単セルを得た。
(実施例7)
実施例2と同様の方法により多孔質基材を形成した後、実施例5と同様の方法により上記多孔質基材を覆う空気極層を形成した。
次に、塩化酸化ジルコニウム八水和物(関東化学社製)、塩化イットリウム(関東化学社製)及び還元剤であるボラン−ジメチルアミン錯体(関東化学社製)を、それぞれの濃度が0.02mol/リットル、0.002mol/リットル及び0.04mol/リットルとなるように、エタノール及び水からなる混合溶媒に溶解させて第1金属酸化物膜形成用溶液を調製した。使用した混合溶媒は、容量比(エタノール:水)が、50:50であった。そして、上記第1金属酸化物膜形成用溶液(70℃)中に、上記空気極層を7時間浸漬して、上記空気極層上に第1金属酸化物膜(上記空気極層上の厚み:0.1μm)を形成した。
次に、ジルコニウムアセチルアセトナート(関東化学社製)及び酢酸イットリウム(関東化学社製)を、それぞれの濃度が0.07mol/リットル及び0.007mol/リットルとなるように、トルエン、イソプロパノール、エタノール及びメチルエチルケトンからなる混合溶媒に溶解させて第2金属酸化物膜形成用溶液を調製した。使用した混合溶媒は、容量比(トルエン:イソプロパノール:エタノール:メチルエチルケトン)が、50:20:20:10であった。そして、480℃に加熱した上記第1金属酸化物膜上へ上記第2金属酸化物膜形成用溶液(1000ミリリットル)をハンドスプレー(アズワン社製)で噴霧して、上記第1金属酸化物膜上に第2金属酸化物膜(厚み:10μm)を形成した。これにより、上記第1金属酸化物膜及び上記第2金属酸化物膜からなる電解質層を得た。
そして、実施例3と同様の方法により、上記電解質層上に燃料極層(厚み:30μm)を形成して、固体酸化物形燃料電池の単セルを得た。