前記第1のイオン伝導体に係わる発明において、前記連結基は、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基又はこれらの誘導体からなる群より選ばれた少なくとも1つの基を有するのがよい。
また、前記連結基の炭素数は、1〜20であるのがよく、より好ましくは1〜3、さらに好ましくは1であるのがよい。また、前記連結基にイオン解離性の官能基が含まれ、更に前記連結基にフッ素原子が含まれるのがよい。
連結基が短い方が、イオン伝導は容易になる。この理由は、連結される2つの前記カーボンクラスターの間の距離が短くなるほど、イオン伝導パスを短くでき、イオンが伝達されやすくなるからである。また、前記イオン解離性の基と前記カーボンクラスターとの間の距離が短くなるほど、後述するフラーレン等の電子吸引作用をより強く受けることができ、イオンの解離が容易になる効果もある。
前記カーボンクラスターばかりでなく、前記連結基にもイオン解離性の官能基が含まれると、これらもイオン伝導性を担うイオン源として働くから、イオン伝導性が向上する。
前記連結基にフッ素原子が含まれると、重合体の化学的安定性及び耐熱性が向上する。また、フッ素原子は、電気陰性度が大きく、周囲の原子から電子を引きつけ、結果として前記イオン解離性の官能基が解離するのを助長する。
また、前記イオン解離性の官能基が−XH(Xは、2価の結合手を有する任意の原子もしくは原子団である。)で表されるプロトン解離性の官能基であり、具体的には、ヒドロキシル基−OH又は−OH含有の原子団、即ち硫酸水素エステル基−OSO2OH、スルホン酸基−SO2OH、カルボキシル基−COOH、ホスホノ基−PO(OH)2及びリン酸二水素エステル基−OPO(OH)2からなる群の中から選ばれた官能基であるのがよい。
前記官能基は、上記の状態ではプロトン解離性の官能基であるが、プロトンが別の陽イオン、例えばリチウムイオンで置換されている状態では、その陽イオンのイオン伝導体として機能する。
前記クラスターとは、数個から数百個の原子が結合又は凝集して形成されている集合体のことである。前記カーボンクラスターとは、「炭素を主成分とするクラスター」を意味し、炭素原子が、炭素−炭素間結合の種類は問わず、数個から数百個結合して形成されている集合体のことである。即ち、前記カーボンクラスターとは、必ずしも100%炭素のみで構成されているとは限らず、他原子が混在している場合も含めて、炭素原子が多数を占める集合体のことである。
前記カーボンクラスターには、球状炭素クラスター分子以外にも、籠状構造、又は少なくとも一部に開放端をもつ構造からなるものがあり、また、チューブ状形状のカーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー及びダイヤモンド構造の微粒子であってもよい。
また、前記重合体がバインダーと混合されて、イオン伝導体を形成するのもよく、前記バインダーは、電子伝導性が低い材料、具体的には、ポリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン及びポリビニルアルコールからなる群から選ばれた少なくとも1種の材料であるのがよい。
成膜性の不十分な前記重合体に対しては、前記バインダーと混合することで、成膜性を向上させることができる。前記バインダーとして前記電子伝導性が高い材料を用いると、燃料電池の燃料電極と酸素電極が短絡されることになり不都合であるから、前記バインダーとしては、電子伝導性が低い材料を用いるのがよい。
前記第1のイオン伝導体の製造方法に係わる発明において、前記ハロゲンがヨウ素、臭素又は塩素からなる群から選ばれた少なくとも1種、より好ましくはヨウ素であるのがよい。
前記官能基は、上記の状態ではプロトン解離性の官能基であるが、プロトンが別の陽イオン、例えばリチウムイオンで置換されている状態では、その陽イオンのイオン伝導体として機能する。
なお、前記官能基は、前記重合体のいずれかにあればよく、前記重合体の分子鎖中に含まれていても、カーボンクラスターに結合していてもよく、特に限定されるものではない。
前記クラスターとは、数個から数百個の原子が結合又は凝集して形成されている集合体のことである。前記カーボンクラスターとは、「炭素を主成分とするクラスター」を意味し、炭素原子が、炭素−炭素間結合の種類は問わず、数個から数百個結合して形成されている集合体のことである。即ち、前記カーボンクラスターとは、必ずしも100%炭素のみで構成されているとは限らず、他原子が混在している場合も含めて、炭素原子が多数を占める集合体のことである。
前記カーボンクラスターには、球状炭素クラスター分子以外にも、籠状構造、又は少なくとも一部に開放端をもつ構造からなるものがあり、また、チューブ状の形状を有するカーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー及びダイヤモンド構造の微粒子であってもよい。
また、前記カーボンクラスター残基を含むモノマーを、単独で重合又は他のモノマーと共重合して合成されたものであるのもよい。前記共重合は、交互共重合、ブロック共重合及びランダム共重合を含む。
また、部分的に架橋構造を形成されたものであるのもよく、光照射もしくはラジカル開始剤を用いたラジカル反応により前記架橋構造が形成されたものや、前記重合体のスルホニルハライド基やヒドロキシル基と架橋剤との反応によって架橋されたものであるのがよい。このとき、前記架橋剤がポリイソシアネート系、ジハロゲン系、エポキシ系、ジアジド系、ジカルボン酸系又はビストリメチルシリルアミド系であるのがよい。
前記重合体とバインダーとの混合キャストによって形成されたものであるのもよく、前記バインダーがポリカーボネート、ポリフッ化ビニリデン又はポリフェニレンオキシドであるのがよい。
前記第3のイオン伝導体に係わる発明において、前記連結基或いは前記誘導体に含まれるケイ素原子数が1〜数百であるのがよく、1〜5であるのがより好ましい。これは、nが6以上になると、カーボンクラスター間の距離が離れすぎ、低湿度中のプロトン伝導性が低下し易いためである。nの最適値は、共存するプロトン解離性の基の大きさにもよるが、おおむね小さいほうがより好ましい。理想的にはn=1が望ましいが、実用上はn=1〜5でよい。
前記カーボンクラスターには、球状炭素クラスター分子以外にも、籠状構造、又は少なくとも一部に開放端をもつ構造からなるものがあり、また、チューブ状の形状を有するカーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー及びダイヤモンド構造の微粒子であってもよい。
また、前記第3のカーボンクラスター重合体が前記バインダーと混合されて複合体化されて、前記第3のイオン伝導体が形成されているのもよい。特に、前記バインダーとして、水及び/又はアルコール分子等の液体分子を透過しにくい高分子材料を用いると、前記第3のカーボンクラスター重合体が有する高いプロトン伝導性と、前記高分子材料が有する、水及び/又は燃料のメタノール等の液体分子を透過性しにくく、成膜性や機械的強度や化学的安定性に優れている特性とを合わせもつ複合体を作製することができる。
即ち、前記第3のカーボンクラスター重合体は、複合体中に、加湿を必要とせず、高いプロトン伝導性を有する伝導パスを提供し、プロトンはこの伝導パスを通って移動する。一方、前記高分子材料は、水及び/又は燃料のメタノール等の液体分子を遮断するとともに、その高い成膜性と機械的強度によって前記第3のカーボンクラスター重合体の膨潤を阻止する機能を有する。
この際、前記高分子材料が、少なくともポリフッ化ビニリデン又はその共重合体を含むのがよく、前記共重合体はヘキサフルオロプロペンとの共重合体であるのがよい。ポリフッ化ビニリデン及びそのヘキサフルオロプロペンとの共重合体は、成膜性と機械的強度に優れ、水及びメタノール等のアルコールなどの液体分子の透過を阻止する能力が特に高く、耐熱性にも優れている。
前記第3のイオン伝導体の製造方法に係わる発明において、前記オルトケイ酸のエステルがオルトケイ酸アルキル、例えばオルトケイ酸テトラエチル(TEOS)であるのがよい。前記カーボンクラスターの間が連結基−PO(OH)−O-[-Si(OH)2−O-]n-PO(OH)−(nは自然数。)で連結される反応は、次のようなものである。
前記オルトケイ酸のエステル或いはハロゲン化物は加水分解されやすく、加水分解されると、下記の反応式(1)のようにヒドロキシル基を生成する。ケイ素原子に結合しているヒドロキシル基は不安定で、他のヒドロキシル基との間で脱水縮合しやすく、下記の反応式(2)又は(3)のように反応する。或いは、前記オルトケイ酸のエステルが、加水分解をへず、下記の反応式(4)等のように直接ヒドロキシル基と反応する場合もある。
前記連結基或いは前記誘導体以外に、前記カーボンクラスターにイオン解離性の官能基を導入する工程を有するのがよい。クラスター間の重合には、リンのオキソ酸由来の官能基を用いるが、これ以外にクラスターに導入する前記イオン解離性の官能基については、リンオキソ酸系官能基以外のものであってよい。
例えば、前記イオン解離性の官能基が−XH(Xは、2価の結合手を有する任意の原子もしくは原子団である。)で表されるプロトン解離性の官能基であり、具体的には、ヒドロキシル基−OH、スルホン酸基−SO2OH、カルボキシル基−COOH、ホスホノ基−PO(OH)2、リン酸二水素エステル基−O−PO(OH)2、ホスホノメタノ基>CH(PO(OH)2)、ジホスホノメタノ基>C(PO(OH)2)2、ホスホノメチル基−CH2(PO(OH)2)、ジホスホノメチル基−CH(PO(OH)2)2、ホスフィン基−PHO(OH)、−PO(OH)−、及び−O−PO(OH)−からなる群の中から選ばれた1種以上の官能基であるのがよい。ここで、メタノ基>CH2とは、メタノ基の炭素原子が2本の結合手で前記カーボンクラスターの2個の炭素原子と単結合を形成し、橋かけ構造を作っている原子団のことである。
前記クラスターに導入するイオン解離性の官能基がリンオキソ酸系官能基のみである場合には、製造が簡単で熱安定性も高いというメリットがある。しかし、リンオキソ酸系官能基に、例えばスルホン酸基を共存させた場合には、リンオキソ酸系官能基によって重合が起こる一方、スルホン酸基は縮合することなく残り、非常に高いプロトン解離性を示す。従って、スルホン酸基含有の第3のイオン伝導体は、スルホン酸基を含まない第3のイオン伝導体に比べ、はるかに高いプロトン伝導性を示す。但し、この第3のイオン伝導体の熱安定性は、リン酸のみの第3のイオン伝導体に比べて、おおむね若干劣る。この例のように、応用用途に応じて要求される仕様に基づき、前記クラスターに導入するイオン解離性の官能基として最適な官能基を、適宜選択するのがよい。
母体としての、一個のフラーレンに導入できる前記イオン解離性の官能基の数は、合成する際のフラーレン原料と、それに加える他の試薬のモル比を調整することによって、1から30まで制御可能である。例えば、フラーレン分子上のすべての二重結合に前記官能基を付加させることも可能である。フラーレン分子上の前記官能基の数が多いほどプロトンの密度も増え、伝導度も増す。
前記第3のイオン導電体を製造するには、前記カーボンクラスターの重合体を、重合が一部だけ行われてまだ流動性が残っている状態で電極等の基板上に層状に展開し、その状態で残りの重合を行い、層状の前記カーボンクラスターの重合体を形成するのがよい。
また、前記バインダー含有型の第3のイオン伝導体の第1の製造方法では、前記第3のカーボンクラスター重合体と前記高分子材料とを N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)や N-メチルピロリドン(NMP)等の非プロトン極性溶媒に溶解又は分散させ、その混合液をドクターブレード法等によってガラス板やプラスチックシート等の上に膜状にキャストした後、溶媒を蒸発させて第3のイオン伝導体膜を作製する。この際、加温しながら減圧下で溶媒を除去するのがよい。例えば、真空乾燥機を用い、60℃程度の温度で1分間〜10時間または終夜にわたり溶媒を除去する等である。膜厚は、キャストする混合液の量によって1μmから200μmまで制御することができる。
この方法では、前記第3のカーボンクラスター重合体と前記高分子材料とが予め前記混合液中で混合されているので、前記第3のカーボンクラスター重合体と前記高分子材料の比がより精密に、また容易に制御できる。また、液相で混合するため、より均一な混合液を作製することができ、ひいては均一な膜を作製することができる。また、前記複合体の作製に高温で加圧成型する工程を必要としないので、より簡単に成膜することができる。
また、前記バインダー含有型の第3のイオン伝導体の第2の製造方法では、前記第3のカーボンクラスター重合体と前記高分子材料とを乳鉢で均一に粉末状に混合した後、温度130℃〜180℃、圧力7.5kgf/cm2〜300kgf/cm2で1分間から60分間加圧成型することにより、均一な前記第3のイオン伝導体膜を作製する。
加圧成型時の温度は、前記高分子材料の軟化点温度近傍又はそれ以上であることが望ましく、耐熱性のある前記高分子材料では130℃以上であることが望ましい。130℃以下の温度では、膜の軟化が起こりにくく、緻密な膜の作製が困難であり、メタノール等が透過しやすくなるなどの不都合が生じ易い。また、180℃をこえる高温は、成膜は可能であるが、前記第3のカーボンクラスター重合体が分解する可能性がある。
膜厚は、プレスする試料の量を調節することによって、10μmから500μmまで制御可能である。それ以上の膜厚も作成可能であるが、イオン伝導体膜が500μm以上の膜厚となると、イオン伝導の抵抗が大きくなり、燃料電池に適用した場合、その出力が低下し易い。
この方法では、前記複合体の作製に溶媒を用いないので、溶媒が膜中に残存するなどの可能性がなく、溶媒を完全に除去するための工程が不要である。更に、溶媒が蒸発する際に生じる微小な孔も生成せず、緻密な膜が作製可能となる。
また、前記バインダー含有型の第3のイオン伝導体の第3の製造方法では、まず、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)や N-メチルピロリドン(NMP)等の非プロトン極性溶媒である前記第1の溶媒に前記高分子材料を溶解又は分散させ、その混合液をドクターブレード法等によってガラス板やプラスチックシート等の上に膜状にキャストし、溶媒を除去して多孔質膜を作製する。この際、溶媒を除去するために、水浴で水洗した後、加温しながら減圧下で溶媒を蒸発させ除去するのがよい。例えば、25℃及び100℃の水浴で水洗した後、真空乾燥機を用いて60℃程度の温度で終夜にわたり溶媒を蒸発させる等である。膜厚は、キャストする混合液の量によって1μmから200μmまで制御することができる。
その後、前記カーボンクラスター重合体と前記第2の溶媒とを混ぜ合わせた前記第2の混合液を前記多孔質膜に含浸させ、前記第2の溶媒を蒸発させて前記プロトン伝導性複合体膜を形成する。
この加圧成型によって、前記多孔質膜の空孔に前記第3のカーボンクラスター重合体を充填した後に残存する前記プロトン伝導性複合体膜内の隙間がなくなり、膜がより緻密な構造になり、燃料であるメタノールの透過がさらに抑えられる。
この方法では、3次元的な空孔を有する前記高分子材料の前記多孔質膜を予め作製し、その空孔にプロトン伝導体である前記第3のカーボンクラスター重合体を充填するので、プロトン伝導体は必ず3次元的に連結した状態で充填される。そのため、作製した前記プロトン伝導性複合体膜は3次元的に連結したプロトン伝導パスを有し、より高いプロトン伝導度が期待できる。
また、前記第3のイオン伝導体を用いる前記電気化学デバイスは、電気化学反応を伴いながらエネルギー又は情報を取り出すことができるように作られているのが望ましい。特に、燃料電池、とりわけダイレクトメタノール燃料電池(DMFC)として構成されているのがよい。
次に、本発明の好ましい実施例を挙げて、本発明に基づくイオン伝導体とその製造方法、並びに電気化学デバイスとしてのDMFCへの適用例を具体的に説明する。
また、前記第1又は前記第2のイオン伝導体を用いる前記電気化学デバイスを燃料電池として構成するのがよい。
[実施例1](フラーレンポリマープロトン伝導体とその製造方法)
以下、第1のカーボンクラスター重合体として、フラーレンのポリマーからなるプロトン伝導体の合成例とその構造、粒子径及びプロトン伝導率の測定について説明する。
<フラーレンポリマープロトン伝導体の合成>
カーボンクラスターの例としてC60フラーレンを用い、連結剤分子の例としてI(CH2)kIを用い、イオン解離性の官能基の例としてスルホン酸基を用いて、フラーレンポリマープロトン伝導体を合成する反応を説明すると次のようである。
連結剤分子I(CH2)kIは、ヨウ素原子1個を用いてC60フラーレンと次のように反応し、C60フラーレンと結合する。
C60 + I-(CH2)k-I → C60-(CH2)k-I
連結剤分子の残基である−(CH2)k−Iがもう1つのヨウ素原子で別のC60フラーレンと結合すると、フラーレン同士がメチレン鎖で連結され、ポリマーの骨格になる分子鎖が形成される。
C60-(CH2)k-I +C60 → C60-(CH2)k-C60
一方、連結剤分子の残基が、もう1つのヨウ素原子を未反応のまま残して次の工程に進むと、ヨウ素基はスルホン酸基などのプロトン解離性の基によって置換される。
このように、実施例1のフラーレンポリマープロトン伝導体の合成反応は、比較的簡単な縮合反応と置換反応のみで構成されているので、容易に実行でき、収率も高く、大量生産することが可能である。また、特別なフラーレンを選択したり、特殊な操作を加えて水に対する不溶化をはかるより、低コストで水に不溶なプロトン伝導体を合成することができる。
次に、連結剤分子としてヨードホルムCHI3を用い、下記の反応フロー図に従ってフラーレンポリマープロトン伝導体を合成した例を説明する。ヨードホルムCHI3には、3つ目のヨウ素原子があるので、連結基にもプロトン解離性の官能基が導入され、プロトン伝導度を向上させることができる。同様の反応は、クロロホルムやブロモホルムでも可能であるが、ヨードホルムが最も適している。
工程1:
三つ口フラスコに1g(1.39mmol)のフラーレンC60を入れ、容器内の空気や水分を乾燥窒素で完全に置換した後、1,2-ジメトキシエタン(DME)約150mlを加えた。次に、あらかじめ調製しておいた、フラーレンの40倍当量のナトリウムナフタレニト(触媒;電子供給源)を溶かしたDME溶液を、キャヌラを用いて徐々に加え、2時間攪拌を続けた。
続いて、水浴で冷却しながら、フラーレンの20倍当量のヨードホルムCHI3を溶かしたDME溶液を滴下した後、室温又は80℃で1時間から24時間攪拌を続け、フラーレンとヨードホルムとを反応させた。初めは緑色の溶液が濃茶色の混合液に変化した。反応後、反応液を吸引ろ過して、ポリマー化した固体状の生成物をろ別し、メタノールとトルエンを用いて十分に洗浄した。この結果、2.88gの試料(A)(フラーレンポリマープロトン伝導体の前駆体 -[-C60(CHI2)m-CHI-]n- )を回収した。
工程2:
試料(A)1gをN-メチルピロリドン(NMP)50mlに分散させた後、水浴で冷却しながら、亜硫酸水素ナトリウムNaHSO3 15.12gを水50mlに溶かした水溶液に滴下した。その後、室温又は80℃で1時間から72時間攪拌を続け、試料(A)にスルホン酸基を導入した。反応後、反応液を吸引ろ過して、スルホン酸基を導入した試料(B)( -[-C60(CH(SO3Na)2)m-CH(SO3Na)-]n- )をろ別し、水で洗浄した後、60℃で乾燥した。この結果、0.72gの試料(B)を回収した。
試料(B)1gに1Mの塩酸を加え、室温で1時間から18時間攪拌を続け、試料(B)中のナトリウムイオンNa+を水素イオンH+で置換して、試料(C)(フラーレンポリマープロトン伝導体 -[-C60(CH(SO3H)2)m-CH(SO3H)-]n- )を得た。反応液から試料(C)をろ別し、0.1Mの希塩酸を用いて洗浄した後、更に水で洗浄し、洗浄液から塩化物イオンCl-が検出されないことを1Mの硝酸銀AgNO3水溶液との反応がないことで確認した後、60℃で乾燥した。この結果、0.8gの試料(C)を回収した。
<フラーレンポリマープロトン伝導体の構造>
図1は、模式化したフラーレンポリマープロトン伝導体の構造を示す。
フラーレン同士は、スルホメチレン基(スルホン酸基−SO3Hで置換されたメチレン基)−CH(SO3H)−によって連結され、ポリマーの骨格を形成する。フラーレンに結合しているスルホメチレン基の数が2のフラーレンは、分子鎖が左から右へつながるだけの単純な鎖状構造を形成するが、結合しているスルホメチレン基の数が3以上のフラーレンは、図1中央のフラーレンのように、1個のフラーレンから分子鎖が3方向以上にのびる分岐構造を形成する。従って、1個のフラーレンに結合しているスルホメチレン基の数を平均i個とすると、iが2を超えるポリマーは、単純な鎖状分子ではなく、三次元的に連結した構造をもつ分子である。このように、iの値はポリマーの骨格構造と密接な関係がある。
一方、このフラーレンポリマープロトン伝導体には、フラーレン同士を結びつけるのではなく、単なる置換基としてフラーレンに導入されるジスルホメチル基(2個のスルホン酸基−SO3Hで置換されたメチル基)−CH(SO3H)2も存在する。フラーレン1個あたりのジスルホメチル基の数を平均m個とすると、このm個のジスルホメチル基は、ポリマーの骨格構造とは関係しないプロトン源として機能する。
i及びmの値は、合成する際の温度と時間を調整することにより、また、フラーレン原料と他の原料のモル比を調整することにより、コントロール可能である。iの値が大きいと、分岐構造が発達し、水に溶解しにくくなる。一方、mの値が大きく、フラーレン1個当たりのスルホン酸基の数が多いほど、プロトンの数も増えプロトン伝導度も増す。i及びmの値を独立にコントロールできるので、水への不溶性と高いプロトン伝導度を両立させることができる。
図2(a)、(b)、(c)は、それぞれ、FT−IR(フーリエ変換赤外吸収スペクトル測定)装置を用いてKBr法により測定した、試料(A)、(B)、(C)の赤外吸収スペクトルである。図2(a)にみられる2826、2889、2927、2971、3001及び3060cm-1の数多くのピークは、試料(A)のポリマーにおけるC−H伸縮振動による吸収である。C−H伸縮振動による吸収が多数のピークに分裂していることは、C−H結合が置かれている周囲の環境の違いによって、結合エネルギー等に多少の相違を生じたためと考えられる。これによって数が多くのフラーレンが重合していることを示唆している。図2(a)の1100cm-1の強いピークは、C−I伸縮振動による吸収と思われる。
試料(B)及び(C)のスペクトルである図2(b)及び(c)では、C−I伸縮振動によるピークが消え、1218cm-1と1045cm-1にS=O伸縮振動とS−O伸縮振動によるピークが現れている。これは、スルホン酸基の導入が成功したことを示唆する。
<フラーレンポリマープロトン伝導体の粒子径>
試料(A)及び(C)のポリマーの粒子径を、50mgの試料を10mlのNMPに分散した状態で、レーザー散乱法により室温で測定した。測定された試料(A)は、ポリマー化の反応を80℃で18時間行ったもの、試料(C)は、この試料(A)に対してスルホン酸基導入反応を80℃で72時間行ったものである。
図3は、試料(A)及び(C)のポリマーの粒子径分布を示すグラフである。白丸は、試料(A)のポリマーの相対粒子数と粒子径の関係を表し、二つの粒子径の領域に大きく分かれた分布を示している。約0.1μm付近の鋭いピークは、比較的小さく、溶媒中によく分散したポリマーに対応するものと思われる。他方、1〜10μmに広がる幅広のピークは、粒子径が大きすぎて分散できず、凝集しているポリマーに対応するものと思われる。
黒丸は、試料(C)のポリマーの相対粒子数と粒子径の関係を表し、試料(A)のグラフと比べると注目すべき特徴が2つある。
第1は、0.1μm付近のピークが極めて小さくなっていることである。この理由は、試料(C)の高分子では、極性の大きなスルホン酸基が導入されているため、高分子同士で凝集しやすくなり、大部分が粒子径1〜10μmの粒子に成長してしまったためと考えられる。
第2は、1〜10μmの領域では、試料(C)の粒子が試料(A)の粒子とほぼ同じ大きさを示すことである。これは、試料(A)の高分子にスルホン酸基を導入しても粒子サイズに大きな変化がなかったことを意味し、フラーレン間を連結するスルホメチレン基による結合が強く、高分子が安定な物質であることを示唆していると考えられる。
なお、粒子径0.1μmの粒子中には、数万〜10万個のフラーレンが重合していて、安定な非水溶性の物質となっていると思われる。
<フラーレンポリマープロトン伝導体のぺレットの作製とプロトン伝導率の測定>
実施例1の試料(C)の粉末をとり、一方方向へのプレスを行い、直径4mm、厚さが1.3mmの円形のぺレットを作製した。試料(C)の粉末は、成形性が優れているため、バインダー樹脂などを使用せずに容易にぺレット化することができた。これを実施例1のぺレットとする。
実施例1のペレットのプロトン伝導率を測定するために、作製したぺレットの両面を金電極で挟み、これに1Hz〜7MHzまでの交流電圧(振幅0.1V)を印加して、各周波数における複素インピーダンスZ
Z = Zre +i・Zim
を測定した。測定は、大気中で加湿せずに行った。
インピーダンス測定に関し、上記ペレットからなるプロトン伝導体のプロトン伝導部1は、電気的には、図4に示すような等価回路を構成しており、電極2と3との間に挿入され、並列に接続された容量4と抵抗5で表される。なお、容量4はプロトンが移動するときの遅延効果(高周波のときの位相遅れ)を表し、抵抗5はプロトンの動き易さのパラメータを表す。
図5のコールコールプロットのX軸切片から交流抵抗の値を求め、これから計算した、実施例1のポリマープロトン伝導体のプロトン伝導率は、6.2×10-3Scm-1であった。
[実施例2〜9](各種フラーレンのペンダントポリマーイオン伝導体とそのイオン伝導率)
以下、第2のカーボンクラスター重合体として、フラーレンが重合体の側鎖に含まれる各種フラーレンのペンダントポリマーイオン伝導体の合成例とそのイオン伝導率の測定結果について説明する。
[実施例2]
スチレン−スルホン化アザホモフラレノスチレン共重合体を、下記の反応フロー図に従って合成した。
分子量46200のスチレン−p-(クロロメチル)スチレン共重合体(p-(クロロメチル)スチレンの分率:18.2mol%)0.5gを100mlのテトラヒドロフランに溶解し、0.29gのアジ化ナトリウムを加え、1日間攪拌後、生成したスチレン−p-(アジドメチル)スチレン共重合体0.45gをテトラヒドロフランで抽出した。
フラーレン2.5gが溶解した300mlクロロベンゼン溶液に、100mlのクロロベンゼンに溶解させたスチレン−p-(アジドメチル)スチレン共重合体0.4gを攪拌しながら滴下した。蒸気を還流させながら140℃の沸点に保って16時間加熱した後、赤外吸収スペクトルの測定でアジド基に由来する2095cm-1のピークが消失したところで、反応を終了した。テトラヒドロフランを用いて未反応のフラーレンと分離して、スチレン−アザホモフラレノスチレン共重合体0.6gを得た。この試料にはフラーレンが34%含有されていた。
スチレン−アザホモフラレノスチレン共重合体0.2g、水素化ナトリウム0.34g、ヨウ素0.24gをテトラヒドロフラン100mlに溶解し、メタンジスルホニルジクロリドCH2(SO2Cl)2 0.15gを滴下し、アルゴン中60℃で100時間反応させた。反応終了後、エタノールを加えた後、濃縮乾固した。これにより、フラーレン残基にビス(クロロスルホニル)メタノ基>C(SO2Cl)2が導入された。
さらに水を加えて加水分解することにより、スルホニルクロリド基−SO2Clをスルホン酸基のナトリウム塩に変換した。その後、透析膜を用いて式量の小さな塩類を除去して、精製されたスチレンとスルホン化されたアザホモフラレノスチレンとの共重合体のナトリウム塩を得た。その後、イオン交換樹脂、もしくは10%塩酸を用いて、ナトリウムイオンをプロトンで置換して、スチレン−スルホン化アザホモフラレノスチレン共重合体0.18gを得た。
この試料をジメチルホルムアミドに溶解させ、金電極上にキャスティングし、その後50℃で24時間の乾燥を行うことにより所定の膜を得た。
[実施例3]
スルホン化アザホモフラレノポリフェニレンオキシドを、下記の反応フロー図に従って合成した。
分子量41000のポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンオキシド)(PPO)7g、N-ブロモスクシンイミド(NBS)1.5g、過酸化ベンゾイル(BPO)0.3gを四塩化炭素1.2Lに溶解させ、蒸気を還流させながら77℃の沸点に保って5時間加熱した。反応終了後、ろ過にてNBSをろ別し、氷冷しながらろ液をメタノールに加え、メチル基が臭素化されたPPO(以下、臭素化PPOと略称する。)を沈殿させた。得られた臭素化PPOは、一旦クロロホルムに完全に溶解させた後、この溶液をメタノールに加えて再び沈殿させた。この溶解と再沈殿の間に不純物が除かれ、臭素化PPOが精製される。この操作を数回繰り返して、精製された臭素化PPO5gを得た。
この臭素化PPO2gとアジ化ナトリウム0.3gを120mlのトルエンとジメチルスルホキシド混合溶媒(体積比3:1)に溶解させ、50℃にて2日間反応させた。反応終了後、反応溶液をメタノールに滴下し、メチル基にアジド基−N3が導入されたPPO(以下、アジド化PPOと略称する。)を沈殿させた。アジド化PPOについても臭素化PPOと同様に、クロロホルムへの溶解とメタノールからの再沈殿を数回繰り返して、精製されたアジド化PPO(アジド化率6.2mol%)5gを得た。
このアジド化PPO2.0gとフラーレン0.33gを120mlのクロロベンゼンに溶解させ、窒素雰囲気下、蒸気を還流させながら80℃の沸点に保って加熱し、赤外吸収スペクトルの測定でアジド基に由来する2095cm-1のピークが消失するまで、反応させた。その後、クロロホルムに溶解させ、未反応のフラーレンを除去し、フラーレンが約50質量%導入されたPPO(以下、フラーレンPPOと略称する。)を得た。
フラーレンPPO0.2g、水素化ナトリウム0.5g、ヨウ素0.35gをテトラヒドロフラン100mlに溶解し、メタンジスルホニルジクロリドCH2(SO2Cl)2 0.21gを滴下し、アルゴン中60℃で100時間反応させた。反応終了後、乾燥したエタノールを加えた後、濃縮乾固することによりビス(クロロスルホニル)メタノ基>C(SO2Cl)2がフラーレンに導入されたフラーレンPPOを合成した。
さらに水を加えて加水分解することにより、スルホニルクロリド基−SO2Clをスルホン酸基のナトリウム塩に変換した。その後、透析膜を用いて式量の小さな塩類を除去して、精製されたフラーレンPPOスルホン酸ナトリウムを得た。その後、イオン交換樹脂を用いて、ナトリウムイオンをプロトンで置換して、フラーレンPPOスルホン酸を0.17g得た。
この試料をジメチルホルムアミドに溶解させ、金電極上にキャスティングし、その後50℃で24時間の乾燥を行うことにより所定の膜を得た。
[実施例4]
ここでは、実施例3の変形例として、ビススルホニルイミド基−SO2−NH−SO2−で高分子鎖同士が部分的に架橋したフラーレンPPOスルホン酸膜の例を説明する。
実施例3と同様にして合成した、スルホニルクロリド基を有するフラーレンPPO0.1gとナトリウムビス(トリメチルシリル)アミド0.01gをテトラヒドロフランに溶解させ、グローブボックス中でテフロン(登録商標)プレートにキャストし、70℃で30時間加熱した。このとき、下記の反応が起こる。
2[-SO2Cl] + [(CH3)3Si]2NNa → -SO2-NNa-SO2-
続いて、サンプルをテフロン(登録商標)シートから剥離し、1Mの水酸化ナトリウム溶液に浸漬することにより、未反応のスルホニルクロリド基を加水分解し、さらに10%の塩酸水溶液に浸漬し、ナトリウムイオンNa+を水素イオンH+で置換した。これにより、スルホン酸基の一部をビススルホニルイミド基−SO2−NH−SO2−に変化させ、高分子鎖同士が部分的に架橋したビススルホニルイミド基架橋フラーレンPPOスルホン酸膜を合成した。このとき、下記の反応が起こる。
-SO2-NNa-SO2- → -SO2-NH-SO2-
[実施例5]
ここでは、実施例3の変形例として、プロトンをリチウムイオンLi+で置換し、リチウムイオン導電体とした例を説明する。
実施例3記載のフラーレンPPOスルホン酸0.2gに1Mの水酸化リチウム溶液を小過剰加えた後、塩類を透析又は洗浄にて除去し、フラーレンPPOスルホン酸リチウムを0.15g得た。
このフラーレンPPOスルホン酸リチウムをジメチルホルムアミドに溶解させ、重量比で10%のプロピレンカーボネートを混合して、グローブボックス内でリチウム電極上にキャスティングすることにより所定の膜を得た。
[実施例6]
61,61-ビス(p-ヒドロキシフェニル)メタノ-1,2-フラーレンモノマーを、下記の反応フロー図に従って、縮重合によりポリマー化した後、実施例2及び3と同様にしてスルホン酸基を導入した。出発物質であるフラーレン含有モノマーは、文献(E.Scamporrino, Macromolecules (1999), 32, 4273)と同様に4,4'-ジメトキシベンゾフェノンから合成したp-トシルヒドラゾン誘導体から合成した。
モノマー0.5gと二塩化セバコイル0.16gを乾燥したニトロベンゼン100mlに溶解させ、窒素雰囲気中、140℃で20時間反応させる。未反応物を洗浄除去した後、0.4gのポリ(4,4'-ジフェニル-C60セバケート)を得た。
ポリ(4,4'-ジフェニル-C60セバケート)0.2g、水素化ナトリウム0.66g、ヨウ素0.46gをテトラヒドロフラン100mlに溶解し、メタンジスルホニルジクロリドCH2(SO2Cl)20.28gを滴下し、アルゴン中60℃で100時間反応させる。反応終了後、エーテル、ヘキサン洗浄にて未反応物を除去し、エタノールを加えた後、濃縮乾固する。
さらに水を加えて加水分解してスルホン酸ナトリウムに変換した。イオン交換樹脂を用いてプロトン化したスルホン化ポリ(4,4'-ジフェニル-C60セバケート)を0.15g得た。
この試料を加圧成型することによりペレット体を得た。
[実施例7]
ここでは、実施例6の変形例としてバインダーを加えて成膜性を向上させた例を説明する。
実施例6記載のスルホン化ポリ(4,4'-ジフェニル-C60セバケート)0.1gとバインダーとして分子量約5万のポリカーボネート(ビスフェノールA型)とをジメチルホルムアミドに混合溶解し、テフロン(登録商標)シートにキャスティングし、その後50℃で24時間の乾燥を行うことにより所定の自立性の膜を得た。
[実施例8]
ここでは、下記の反応フロー図のように、まず、61,61-ビス(p-メトキシフェニル)メタノ-1,2-フラーレンにスルホン酸基を導入した後、縮重合によりポリマー化する例を説明する。
61,61-ビス(p-メトキシフェニル)メタノ-1,2-フラーレン(合成法は、E.Scamporrino, Macromolecules (1999), 32, 4273 に記載されている。)0.1gとヨウ素0.35gをトルエン100mlに溶解し、メタンジスルホニルジクロリドCH2(SO2Cl)20.21gを滴下し、アルゴン中60℃で100時間反応させた。エタノールを加えて反応を終了させ、トルエンにて未反応物を洗浄した。
粗生成物を100mlのo-ジクロロベンゼンに溶解させ、三臭化ホウ素の1Mジクロロメタン溶液5mlを加えて、窒素下で、0℃、24時間反応させた。反応終了後、水酸化ナトリウム溶液を用いて、加水分解および分離を実施した。シリカゲルカラムにより、水酸化ナトリウムを除去することにより、スルホン酸基が導入された61,61-ビス(p-ヒドロキシフェニル)メタノ-1,2−フラーレン0.4gを得た。
このスルホン酸基含有モノマー0.4gと4,4'-ジブロモベンゾフェノン0.1g、炭酸カリウム0.1gをジメチルアセトアミド100mlに溶解させ、窒素雰囲気下160℃、20時間反応させた。反応終了後、メタノールに沈殿させてスルホン酸基を有するフラーレン含有ポリエーテルケトンを得た。透析膜を用いて低分子塩を除去した後、10%塩酸水溶液を用いてプロトン型に変換した(0.3g)。
この試料をジメチルホルムアミドに溶解させ、金電極上にキャスティングし、その後50℃で24時間の乾燥を行うことにより所定の膜を得た。
[実施例9]
ここでは、実施例3の変形例として、スルホン酸基のかわりに硫酸水素エステル基を導入する例を説明する。
実施例3記載のフラーレンPPO0.2gを窒素雰囲気下で20%発煙硫酸20mlに溶解させ、60℃で3日間反応させた。反応終了後、エーテルを用いて沈殿精製することにより硫酸水素エステル基含有フラーレンPPO0.14gを得た。この試料を加圧成型することによりペレット体を得た。
[比較例1]
分子量95000のポリイソプレン0.5gをアルゴン雰囲気中、50mlのシクロヘキサンに溶解させた。そこへ1.3Mのsec−ブチルリチウム6.0mlとテトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)0.9gとを加えた。
数分後、溶液が褐色になった。2時間経過後、トルエンに溶解したフラーレン0.25gを加えた。数時間経過後、メタノールを加え反応を停止し、テトラヒドロフランを用いて未反応のフラーレンと分離して、フラーレンポリイソプレン0.25gを得た。このフラーレンポリイソプレンにはフラーレンが約50wt%含まれていた。
フラーレンポリイソプレン0.2g、水素化ナトリウム0.5g、ヨウ素0.35gをテトラヒドロフラン100mlに溶解し、メタンジスルホニルジクロリドCH2(SO2Cl)20.21gを滴下し、アルゴン中60℃で100時間反応させる。反応終了後、エタノールを加えた後、濃縮乾固する。
さらに水を加えて加水分解してスルホン酸ナトリウムに変換した。その後、透析膜を用いて、式量の小さい塩類を除去してフラーレンポリイソプレンスルホン酸ナトリウムを得た。その後、イオン交換樹脂、もしくは10質量%塩酸を用いてプロトン化したフラーレンポリイソプレンスルホン酸0.15gを得た。
この試料をジメチルホルムアミドに溶解させ、金電極上にキャスティングし、その後50℃で24時間の乾燥を行うことにより所定の膜を得た。
<実施例2〜9の各種フラーレンのペンダントポリマーイオン伝導体のイオン伝導率>
表1は、以上の実施例2〜9および比較例によって得られた膜およびペレットの伝導特性の結果を示したものである。プロトン伝導度の経時変化は、初期に相対湿度(RH)80%に1時間放置した後、乾燥空気を送り込み、相対湿度(RH)を30%に低下させて12時間経過後の伝導度を測定することにより実施した。
比較例2に示されるNafionは、EW1100、膜厚0.007インチのNafion117市販膜をそのまま用いた。実施例4のリチウムイオン伝導度は水分濃度が10ppm以下のグローブボックス内にて実施した。
*比較例2は、プロトン伝導体としてNafionを使用。
図6は、本発明の一般式(1)で表されるフラーレンのペンダントポリマープロトン伝導体の模式化した構造を示す概略説明図である(但し、ここでは、イオン解離性の官能基をX-M+と略記した。)。主鎖ポリマーあるいはフラーレンの結合側鎖部分にA1及びA2としてN、P、O及びSのいずれかの陰性な元素を導入することにより、水もしくは極性有機溶媒等がその元素に吸着され、安定性の高い連続したイオン伝導層が形成されるため、イオン及びプロトンの伝導度とその安定性が向上する。それは、表1に示されている通りである。
近年、嵩高い置換基を高分子電解質に導入し、分子鎖間に水を保持する隙間を作ることにより、水の保持力を向上させたポリイミド系材料が報告されている。フラーレン系ポリマーでは、フラーレン自身の持つ嵩高さと、連結部分もしくは主鎖に水や極性有機溶媒と親和性の高い極性置換基を導入することの2つの効果で、分子鎖間に水や極性有機分子を保持する性能が向上する。
イオン伝導チャンネルは、大量の水による相分離構造ではなく、近傍のイオン解離基を有するフラーレン分子単体もしくは最少限度の水および極性化合物により形成されるため、脱水、凍結に由来する伝導度の低下が抑制される。
イオン解離基を含むフラーレン分子が直鎖状ポリマーにペンダント型に結合しているため、極性溶媒への溶解性が良好であり、キャスト法による薄膜形成が可能であるため、成膜性が飛躍的に向上する。
イオン解離基の導入率を変化させることにより、溶媒への溶解性を制御することが可能となる。
フラーレンの単分子体では、プロトン伝導体を不溶化するためには、その単分子体全てを架橋等の化学結合で結合させる必要があるが、ポリマーでは、その一部分同士を架橋させることにより、不溶化が可能となる。
図6に見られるように、鎖状構造が主要部をなしているので、成膜性が良好である。また、主鎖のポリマーに特性が類似したバインダーポリマーとの相溶性が向上するため、膜の機械強度を向上させるバインダーポリマーとの混合膜の形成が容易となる。
実施例10〜14(リン・ケイ素含有プロトン伝導体ポリマーとその製造方法、並びにダイレクトメタノール燃料電池(DMFC)への適用例)
以下、第3のカーボンクラスター重合体として、フラーレンが重合体の主鎖に含まれ、フラーレン同士を連結する連結基にリンのオキソ酸残基とシラノール鎖が含まれ、耐熱性に優れたリン・ケイ素含有プロトン伝導体ポリマーの合成例とその構造を説明し、この重合体を用いたバインダー含有型の第3のイオン伝導体によって電気化学デバイスをDMFCとして構成した例について説明する。
[実施例10](リン・ケイ素含有プロトン伝導体ポリマーとその製造方法)
<リン・ケイ素含有プロトン伝導体ポリマーの合成>
工程1:
まず、下記の反応フロー図に従って、フラーレンC60にジホスホノメタノ基>C(PO(OH)2)2を導入した。
1g(1.39mmol)のフラーレンC60を600mlの乾燥トルエンに溶解した後、ヨウ素353mg(1.39mmol)と水素化ナトリウム2gを加え、攪拌をしながらメチレンジホスホン酸テトラエチルエステル(tetraethyl methylene diphosphonate)0.338ml(1.39mmol)を加えた。アルゴンガス雰囲気下、室温で24時間攪拌した後、少量のエタノールを加えて未反応の水素化ナトリウムを失活させた。その後、反応液をろ過し、多量のクロロホルムを用いて沈殿物から抽出される成分を回収した。その抽出液と先ほどのろ液とを合わせ、その溶液からロータリ・エバポレータを用いて溶媒を蒸発させ、固形分を捕集し、多量のアルコールで洗浄した。
この固体成分を乾燥後、その1gをはかり取り、50mlの1M水酸化ナトリウム水溶液を加えて、60℃で1時間から30時間攪拌して、エステル結合を加水分解(けん化)した。加水分解終了後、イオン交換によってナトリウムイオンを水素イオンで置換すると、ジホスホノメタノ基が導入されたフラーレンC60が析出した。これを第1の合成物とする。
工程2:
次に、第1の合成物0.42gをエタノール2.4mlと水1.2mlとの混合溶媒に溶解させた後、オルトケイ酸テトラエチルエステル(TEOS:Tetraethyl orthosilicate)Si(OEt)40.6mlを加えた。この混合比は、第1の合成物とTEOSとのモル比で1:8、質量比では72%:28%に相当する。ハイブリド攪拌機でよく混合した後、18時間60℃に加温してゾルーゲル反応を起こさせると、反応液は深いブラウン色の固体粉末状に変化した。これをさらに水中に24時間浸漬し、吸引濾過し、さらに多量の水で洗浄して、非水溶性のリン・ケイ素含有プロトン伝導体ポリマーを得た。収量は0.6gであった。これを第2の合成物とする。
上記のゾルーゲル法では、下記のような反応が同時並行的に進行したと考えられる。ここで、−PO(OH)−は第1の合成物のホスホノ基(の一部)である。
<リン・ケイ素含有プロトン伝導体ポリマーの構造>
リン・ケイ素含有プロトン伝導体ポリマーは、フラーレンに導入されていたホスホノ基がシラノール鎖-[-Si(OH)2−O-]n-で連結された構造(連結基の骨格は、−P−O-[-Si−O-]n-P−)をもち、nの数は1〜数百である。下記の化学式は、連結基部分の構造式の一例である。
図7(a)には、フラーレンも含めて構造をより立体的に示した構造図を示した。連結基は、鎖状につながるだけではなく、リン原子及びケイ素原子の位置で枝分かれを形成できるので、ポリマー骨格は、図7(b)に示されるように、多数のフラーレンが連結基によって3次元的に連結された複雑な構造となる。
図8(a)、(b)、(c)は、それぞれ、図2と同様にFT−IR装置を用いてKBr法により測定した、シラノール鎖のみの試料、ホスホノ基のみをフラーレンに導入した試料、リン・ケイ素含有プロトン伝導体ポリマーの赤外吸収スペクトルである。図8(a)にみられるように、シラノール鎖のみの試料の場合、約1100cm-1のところにSi−O−Siの伸縮振動による吸収ピークが観察される。また、図8(b)にみられるように、ホスホノ基のみをフラーレンに導入した試料の場合、約1210cm-1と1042cm-1に強いシャープなピークがみられ、P=OとP−Oによる吸収ピークと思われる。
一方、リン・ケイ素含有プロトン伝導体ポリマーの場合、ケイ素とリンをそれぞれ単独で含む前述の試料では観察されない1150cm-1付近のブロードな吸収が観察された。これはP−O−Siの伸縮振動による吸収と判断できる。この帰属については、“A new method to probe the structural evolution during the heat treatment of SiO2-P2O5 gel glasses”,Materials Science and Engineering,B67 (1999),99-101において、1140cm-1の吸収がP−O−Siの伸縮振動による吸収であると帰属されていることを参考にした。
以上の赤外吸収スペクトルの結果から、リン・ケイ素含有プロトン伝導体ポリマーの合成において、ホスホノ基の−PO(OH)−とケイ酸の−Si−OHから脱水反応によって、−PO−O−Si−の結合が形成され、フラーレン間が連結され、フラーレン重合体が形成されたことが確認できた。
上記のリン・ケイ素含有プロトン伝導体ポリマー中には、2種類のプロトン解離可能な基が含まれている。1つは、リンのオキソ酸(この例では、ホスホン酸)由来のヒドロキシル基であり、他の1つは、シラノール鎖のヒドロキシル基である。
電離は、リンオキソ酸由来のヒドロキシル基の方が起こりやすいので、プロトン伝導性のもととなるプロトンの供給源としては、リンオキソ酸由来のヒドロキシル基の寄与が支配的に重要である。他方、シラノール鎖のヒドロキシル基は、プロトン供給源としての寄与は小さいものの、プロトン伝導パスを提供する効果があると考えられる。このため、リン・ケイ素含有プロトン伝導体ポリマーは、後述するように、シラノール鎖で連結される前の第1の合成物に比べ、低湿度下でより高いプロトン伝導性を示す。
また、上記のリン・ケイ素含有プロトン伝導体ポリマーは、純水中に24時間以上浸漬し、超音波振動を与えても、水中へ溶け出すような挙動は示さなかった。一方、重合体化する前の第1の合成物は、水に非常に易溶である。このように水に対して不溶化されることも、シラノール鎖による連結の効果である。
<リン・ケイ素含有プロトン伝導体ポリマーのプロトン伝導率の測定>
上記のリン・ケイ素含有プロトン伝導体ポリマーの粉末をとり、一方方向へのプレスを行い、直径4mm、厚さが400μmの円形のペレットを作製した。このプロトン伝導体ポリマーは、成形性が優れているため、バインダー樹脂など使用せずに容易にペレット化することができた。
このペレットのプロトン伝導率を測定するために、作製したペレットの両面を金電極で挟み、これに1Hz〜7MHzまでの交流電圧(振幅0.01V)を印加して、各周波数における複素インピーダンスZ
Z = Zre +i・Zim
を測定し、図9に示す結果を得た。測定は湿度20%の大気中で行った。
インピーダンス測定に関し、上記ペレットからなるプロトン伝導体のプロトン伝導部は、電気的には、図4に示すような等価回路を構成しており、電極2と3との間に挿入され、並列に接続された容量4と抵抗5で表される。なお、容量4はプロトンが移動するときの遅延効果(高周波のときの位相遅れ)を表し、抵抗5はプロトンの動き易さのパラメータを表す。
図9のコールコールプロットのX軸切片から交流抵抗の値を求め、これから計算した、実施例10のリン・ケイ素含有プロトン伝導体ポリマーのプロトン伝導率は、9.0×10-4Scm-1であった。比較例として、シラノール鎖で連結される前の第1の合成物についてもペレットを作製し、同様に伝導率を測定したところ、1.8×10-4Scm-1を得た。これと比較すると、シラノール鎖で連結することによってプロトン伝導率が約5倍向上したことがわかる。前述したように、これはシラノール鎖のヒドロキシル基がプロトン伝導パスとして機能し、伝導率が向上したものと考えられる。
このように、本実施例によれば、相対湿度が比較的低い雰囲気ガス中でもプロトン伝導率の高いプロトン伝導体を得ることができ、このプロトン伝導体は、水に不溶で、しかも高い熱安定性も有している。これらの諸特性は、燃料電池やセンサーなど、電気化学デバイスを構成する上で大変重要なポイントとなると考えられる。
[実施例11](スルホン酸基を導入したリン・ケイ素含有プロトン伝導体ポリマーとその製造方法)
以下、第3のカーボンクラスター重合体として、スルホン酸基が導入されたフラーレンが重合体の主鎖に含まれ、フラーレン同士を連結する連結基にリンのオキソ酸残基とシラノール鎖が含まれ、耐熱性に優れたリン・ケイ素含有プロトン伝導体ポリマーの合成例とその構造を説明する。
<スルホン酸基を導入したリン・ケイ素含有プロトン伝導体ポリマーの合成>
工程1:
まず、実施例10の工程1と同様の方法でフラーレンC60にジホスホノメタノ基を導入すると同時に、下記の反応フロー図に従って、フラーレンC60にビス(クロロスルホニル)メタノ基>C(SO2Cl)2を導入した。
1g(1.39mmol)のフラーレンC60を600mlの乾燥トルエンに溶解した後、ヨウ素3.53g(13.9mmol)と水素化ナトリウム5gを加え、攪拌をしながらメチレンジホスホン酸テトラエチルエステル(tetraethyl methylene diphosphonate)0.676ml(2.78mmol)と、メタンジスルホニルジクロリドCH2(SO2Cl)2(methane disulfonyl chloride)の過剰量2.96g(13.9mmole)を加えた。アルゴンガス雰囲気下、室温で24時間から96時間攪拌した後、少量のエタノールを加えて未反応の水素化ナトリウムを失活させた。その後、反応液をろ過し、未反応の不純物を多量のトルエン、ジエチルエーテル及びヘキサンで洗浄した。
得られた固体成分を乾燥後、300mlの1M水酸化ナトリウム水溶液を加えて、室温或いは60℃で1時間から30時間攪拌して、エステル結合とS−Cl結合を加水分解(けん化)した。加水分解終了後、イオン交換によってナトリウムイオンを水素イオンで置換すると、ジホスホノメタノ基>C(PO(OH)2)2とジスルホメタノ基>C(SO2OH)2とが導入されたフラーレンC60が析出した。元素分析した結果、1個のフラーレンC60につき、1個〜2個のホスホノ基と、4個〜5個のスルホン酸基が導入されていることがわかった。この物質を第3の合成物とする。
上記のスルホン酸基を導入するための試薬として、メタンジスルホニルジクロリドCH2(SO2Cl)2の代わりに、メタンジスルホン酸ジエチルエステルCH2(SO2OEt)2(methane disulfonic acid diethyl ester)を加えても、ジホスホノメタノ基>C(PO(OH)2)2とジスルホメタノ基>C(SO2OH)2とが導入されたフラーレンC60を得ることができた。
工程2:
次に、第3の合成物0.83gを、エタノール2.4mlと水1.2mlとの混合溶媒に溶解させた後、オルトケイ酸テトラエチルエステル(TEOS)Si(OEt)40.6mlを加えた。この混合比は、第3の合成物とTEOSとのモル比で1:8、質量比では72%:28%に相当する。ハイブリド攪拌機でよく混合した後、18時間60℃に加温してゾルーゲル反応を起こさせると、反応液は深いブラウン色の固体粉末状に変化した。これをさらに水中に24時間浸漬し、吸引濾過し、さらに多量の水で洗浄して、非水溶性のリン・ケイ素含有プロトン伝導体ポリマーを得た。収量は0.53gであった。これを第4の合成物とする。
上記のゾルーゲル法では、実施例10の工程2と同様に、前述の反応(1)〜(4)が同時並行的に進行したと考えられる。ここで、スルホン酸基は反応しない。
<リン・ケイ素含有プロトン伝導体ポリマーの構造>
リン・ケイ素含有プロトン伝導体ポリマーは、フラーレンに導入されていたホスホノ基がシラノール鎖-[-Si(OH)2−O-]n-で連結された構造(連結基の骨格は、−P−O-[-Si−O-]n-P−)をもち、nの数は1〜数百である。下記の化学式は、連結基部分の構造式の一例であり、式中のm、m’の数は1から10である。
図7(b)には、フラーレンも含めて構造をより立体的に示した構造図を示した。連結基は、省略して曲線で示した。連結基は、鎖状につながるだけではなく、リン原子及びケイ素原子の位置で枝分かれを形成できるので、ポリマー骨格は、多数のフラーレンが連結基によって3次元的に連結された複雑な構造となる。
スルホン酸基をフラーレンに導入したリン・ケイ素含有プロトン伝導体ポリマー中には、3種類のプロトン解離可能な基が含まれている。1つは、スルホン酸基のヒドロキシル基であり、他の2つは、リンのオキソ酸(この例では、ホスホン酸)由来のヒドロキシル基と、シラノール鎖のヒドロキシル基である。
スルホン酸は強酸であるから、スルホン酸基の電離は、他の2つのヒドロキシル基に比べ著しく起こりやすい。従って、プロトン伝導性のもととなるプロトンの供給源としては、スルホン酸基の寄与が支配的に重要である。他方、シラノール鎖は、プロトン供給源としての寄与は小さいものの、プロトン伝導パスを提供する効果があると考えられる。このため、スルホン酸基をフラーレンに導入したリン・ケイ素含有プロトン伝導体ポリマーは、後述するように、スルホン酸基をもたない実施例10のポリマーに比べ、著しく高いプロトン伝導性を示す。
また、スルホン酸基を導入したリン・ケイ素含有プロトン伝導体ポリマーは、純水中に24時間以上浸漬し、超音波振動を与えても、水中へ溶け出すような挙動は示さなかった。一方、重合体化する前の第3の合成物は、水に非常に易溶である。このように水に対して不溶化されることも、シラノール鎖による連結の効果である。
<スルホン酸基を導入したリン・ケイ素含有プロトン伝導体ポリマーのプロトン伝導率の測定>
上記のスルホン酸基を導入したリン・ケイ素含有プロトン伝導体ポリマーの粉末をとり、一方方向へのプレスを行い、直径4mm、厚さが350μmの円形のペレットを作製した。このプロトン伝導体ポリマーは、成形性が優れているため、バインダー樹脂など使用せずに容易にペレット化することができた。
このペレットのプロトン伝導率を測定するために、作製したペレットの両面を金電極で挟み、これに1Hz〜7MHzまでの交流電圧(振幅0.01V)を印加して、各周波数における複素インピーダンスZ
Z = Zre +i・Zim
を測定し、実施例10と同様に、コールコールプロットのX軸切片から交流抵抗の値を求め、本実施例のスルホン酸基を導入したリン・ケイ素含有プロトン伝導体ポリマーのプロトン伝導率として、4.0×10-2Scm-1を得た。これは、スルホン酸基をもたない実施例10のポリマーのプロトン伝導率9.0×10-4Scm-1に比べ、44倍に向上しており、これはスルホン酸基導入の効果である。一方、比較例として、シラノール鎖で連結される前の第3の合成物についてもペレットを作製し、同様に伝導率を測定したところ、2.1×10-2Scm-1を得た。これと比較すると、シラノール鎖で連結することによってプロトン伝導率が約2倍に向上したことがわかる。前述したように、これはシラノール鎖のヒドロキシル基がプロトン伝導パスとして機能し、伝導率が向上したものと考えられる。
このように、本実施例によれば、相対湿度が比較的低い雰囲気ガス中でもプロトン伝導率の高いプロトン伝導体を得ることができ、このプロトン伝導体は、水に不溶で、しかも高い熱安定性も有している。これらの諸特性は、燃料電池やセンサーなど、電気化学デバイスを構成する上で大変重要なポイントとなると考えられる。
[実施例12]
以下、実施例10で合成したリン・ケイ素含有プロトン伝導体ポリマーを用い、バインダー含有型の第3のイオン伝導体の第1の製造方法に基づき、プロトン伝導性複合体を作製し、この複合体膜を用いてDMFCを構成した例について説明する。
複合体を形成するカーボンクラスター重合体として第3のイオン伝導体を用いると、既述したように、このイオン伝導体は、熱的および化学的安定性に優れているため、複合体化の方法や条件を最適化することができ、バインダー含有型の第3のイオン伝導体の性能を向上させることができる。また、本実施例では、バインダー高分子としてポリフッ化ビニリデン或いはポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロペン共重合体を用いたが、これに限らず、ポリフルオロエチレン、ポリビニルアルコール、ポリカーボネート、或いはポリフェニレンオキシド等を適宜用いるのがよい。これらは、後述する第2又は第3の製造方法においても同様である。
<プロトン伝導性複合体の作製>
リン・ケイ素含有プロトン伝導体ポリマー0.1gをN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)に分散させた後、0.1gのポリフッ化ビニリデン或いはポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロペン共重合体を加え、60℃で加熱しながら完全に溶解させた。即ち、リン・ケイ素含有プロトン伝導体ポリマーとバインダー高分子材料との質量比は1:1である。
次に、上記の混合溶液をさらにハイブリッド攪拌機で30分間攪拌し、3分間脱泡した。その後、得られた溶液を、ガラス板或いはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)シート上にドクターブレード法を用いてキャストした。キャストした膜を真空乾燥機を用いて60℃の下で10時間真空乾燥した。膜厚はキャストする溶液の量によって制御できる。本実施例で得られた膜の厚さは35μmであった。
<プロトン伝導性複合体膜のメタノールによる膨潤の測定>
真空乾燥で得られたプロトン伝導性複合体膜を99.8%のメタノール中に3か月間浸漬しでも、見た目の変化がなく、安定であることを確認した。一方、比較例として市販のパーフルオロスルホン酸系ポリマーであるNafion111を99.8%のメタノール中に浸漬したところ、24時間で完全に溶解した。
図10は、プロトン伝導性複合体膜とNafion膜とを、濃度の異なるメタノール水溶液(各水溶液の濃度は、3M、6M、及び10M。)中に24時間浸漬した場合の質量増加率を測定した結果である。このとき、膜は、60℃で10時間真空乾燥後、更に露点−50℃以下に保った乾燥雰囲気中で3日間保管したものを用いた。
質量増加率は、次の式を用いて計算した。
[(W2−W1)/W1]×100(%)
但し、W1は溶液に浸漬する前の膜の質量であり、W2は24時間溶液中に浸漬した後の膜の質量である。
この結果から、Nafionの質量増加率は、3Mのメタノール中で42%、6Mのメタノール中で60%、10Mのメタノール中で81.5%と大きいのに対して、本実施例で作製した複合体膜の質量増加率は、3Mのメタノール中で1.0%、6Mのメタノール中で2.5%、10Mのメタノール中で3.0%と、Nafionに比べて非常に小さいことがわかった。
<プロトン伝導性複合体膜におけるメタノールの透過速度の測定>
図11は、プロトン伝導性複合体膜(膜厚は35μm)と市販Nafion膜(膜厚は27μm)のメタノール透過性を示すグラフである。測定方法は、Vincenzo Tricoli,“Proton and Methanol Transport in Poly(perfluorosulfonate) Membranes Containing Cs+ and H+ Cations”,J. Electrochem. Soc., Vol.145, No.11, p.3798, (1998) を参考にした。
その方法を概説すると、次の通りである。作製したプロトン伝導性複合体膜又はNafion膜をメタノールクロスオーバ測定用のセルにセットする。膜の両側にある容器VAとVBとには、容器VAに8体積%のメタノールと0.2体積%のブタノールとを含む水溶液を注入し、容器VBに0.2体積%のブタノール水溶液を注入した。膜の両側の水溶液におけるメタノールの濃度が異なるため、濃度差によってVA側のメタノールがVB側に膜を透過して拡散する。この結果、時間とともにVB側のメタノール濃度が徐々に増加し、膜がメタノールを透過しやすいものであるほど、VB側のメタノール濃度の増加は速い。実験は、VB側におけるメタノール濃度とブタノール濃度との比をGCMS(ガスクロマトグラフィー質量分析法)で測定し、この比からメタノール濃度をブタノール濃度(0.2体積%)に基づいて計算した。
図11中、縦軸は膜を透過したメタノールの体積パーセント濃度、横軸は測定開始からの時間(測定のサンプリング時間)である。
メタノールの透過係数Pは次の式で計算できる:
CB(t) = CA×(A/L)×(P/V)×(t−t0)
ここで、CB(t)とCAは、膜を挟んだ両側の容器中のメタノール濃度で、CB(t)は時間の関数、CAは定数である。AとLは、測定に用いた膜の面積と厚みであり、Vは容器VB中の溶液の体積である。tは測定のサンプリング時間であり、t0は膜中メタノールの拡散係数に関係ある定数である(to=L2/6D;Dは拡散係数である。)。
図11の測定結果から上記の式を用いて求めたメタノールの透過係数は、Nafionが8.4×10-7cm2/secであり、複合体膜は2.5×10-9cm2/secであった。ただし、この透過係数は装置の形状因子を含むため、いわゆる拡散係数とは値が多少異なるものである。
この結果から、本発明で作製したプロトン伝導性複合体膜は、市販のNafionと比べて、メタノールの透過係数が約336分の1であることがわかった(図11に示されているように、プロトン伝導性複合体膜の透過性が小さすぎ、実験の測定精度が十分でない可能性があるため、336分の1以下であるかもしれない。)。
以上の結果から、作製したプロトン伝導性複合体膜のメタノールに対する遮断性は高いと判断できる。
<複合体膜の水分含有率>
図12は、室温において、雰囲気ガス中の相対湿度が0%から100%まで増加する際の、プロトン伝導性複合体膜とNafion膜の質量増加率をそれぞれ測定し、プロトン伝導性複合体膜とNafion膜の水分含有量を調べた結果である。
実験に用いた膜は、60℃で終夜真空乾燥した後、更に露点−50℃以下の乾燥雰囲気下で3日間乾燥した後、膜の質量を測定し、それらの膜の基準質量とした。次に、それらの膜を所定の相対湿度に調整された雰囲気ガス中に10時間以上置いた後に質量を測定し、その質量の増加率を水分の含有率とした。複合体膜の質量増加率は、湿度が上昇するとともに徐々に上昇するが、100%の湿度雰囲気下において4.8%に留まったのに対し、Nafion膜の質量増加率は、100%の湿度雰囲気下において32.1%に達した。
このことより、作製したプロトン伝導性複合体膜は、メタノール同様、水に対しても親和性が小さいことが示唆された。これは燃料電池を作動させる際に発生する生成水がプロトン伝導膜中に残留し、多量の水がプロトン伝導膜中を移動するというような不都合な現象を防ぐことができることを示している。
<プロトン伝導性複合体膜の伝導度>
プロトン伝導性複合体膜の伝導度を複素インピーダンス法により測定した。室温、湿度約50%においては、伝導度が1.2×10-4Scm-1であった。更に、水とメタノールのモル比が1:1のメタノール水溶液と接触した場合には、伝導度が1.6×10-3Scm-1であった。これは膜厚が30μmの場合、1cm2あたり1.87Ωの膜抵抗に相当する。この値は、実用的な発電が十分に可能な伝導度であると判断できる。
<ダイレクトメタノール型燃料電池(DMFC)の作製>
プロトン伝導性複合体膜を用いたDMFCを作製し、この電池の開放電池電圧(OCV:電流が流れていないときの両極間の電位差)及び出力特性を調べた結果について説明する。
図13は、作製したDMFCの構成を示す概略断面図(a)と膜−電極接合体(MEA)14の拡大断面図(b)である。膜−電極接合体(MEA)14は、プロトン伝導体膜12の両面に燃料電極13と酸素電極11とが接合されて形成されている。
図13の装置で、膜−電極接合体(MEA)14はセル上半部17及びセル下半部18の間に挟持され、燃料電池に組み込まれる。セル上半部17及びセル下半部18には、それぞれ、燃料供給管19及び酸素(空気)供給管20が設けられており、燃料供給管19からはメタノール水溶液が供給され、また酸素(空気)供給管20からは酸素もしくは空気が供給される。メタノール水溶液と酸素(もしくは空気)は、それぞれ、図示省略した通気孔を有する燃料供給部15及び酸素供給部16を通過して燃料電極13及び酸素電極11に供給される。燃料供給部15は燃料電極13とセル上半部17を電気的に接続し、酸素供給部16は酸素電極11とセル下半部18を電気的に接続する。また、セル上半部17には燃料の漏洩を防ぐためにOリング21が配置されている。
発電は、メタノール水溶液と酸素(もしくは空気)を供給しながら、セル上半部17及びセル下半部18に接続されている外部回路22を閉じることで行うことができる。この時、燃料電極13の表面上では下記(式1)
2CH3OH+2H2O→ 12H+ +2CO2+ 12e- (式1)
の反応によりメタノールが酸化され、燃料電極に電子を与える。生じた水素イオンH+はプロトン伝導膜を介して酸素電極へ移動する。
酸素電極へ移動した水素イオンは、酸素電極に供給される酸素と下記(式2)
3O2 + 12H+ + 12e- → 6H2O (式2)
のように反応し、水を生成する。このとき、酸素は、酸素電極から電子を取り込み、還元される。
図13(b)のMEAの燃料電極13では、カーボンシートやカーボンクロスなどの導電性多孔質支持体13aの表面に、燃料供給層13bと、触媒である白金若しくは白金合金等とNafion(R)などのプロトン伝導体との混合物からなるメタノール酸化触媒層13cが順次積層されている。また、酸素電極11では、カーボンシートやカーボンクロスなどの導電性多孔質支持体11aの表面に、酸素供給層11bと、触媒である白金若しくは白金合金等とNafion(R)などのプロトン伝導体との混合物からなる酸素還元触媒層11cが順次積層されている。
上記のMEAは、下記のようにして作製した。
まず、導電性多孔質支持体13a又は11aであるカーボンシートの上に、カーボン微粉末とポリテトラフルオロエチレン(PTFE)微粒子を40:60の質量比率で水中に混合分散させた混合液をバーコーターにて塗布した後、乾燥させて、カーボンシート上に燃料供給層13b及び酸素供給層11bをそれぞれ形成した。
次に、触媒金属を担持したカーボン粉末と、Nafion(R)のメタノール溶液とを、水とプロパノールの混合溶媒に加え、十分に撹拌混合した。この溶液を、カーボンシート上に形成した燃料供給層13b及び酸素供給層11bの上にバーコート法により塗布し、溶媒を蒸発させ、メタノール酸化触媒層13c及び酸素還元触媒層11cを形成した。
ここで、触媒金属担持カーボン粉末とNafion(R)の質量比は、1:0.6とした。また、メタノール酸化触媒層13cの触媒には、田中貴金属(株)製の燃料電池用触媒担持カーボン(Pt 30.1質量%、Ru 23.4質量%担持)を用い、触媒金属の塗布量を2mg/cm2とした。酸素還元触媒層11cの触媒には、田中貴金属(株)製の燃料電池用触媒担持カーボン(Pt 45.8質量%担持)を用い、触媒金属の塗布量を1mg/cm2とした。
このようにして作製した燃料電極(アノード)13と酸素電極(カソード)11で、プロトン伝導性複合体膜又はNafion膜を挟み込み、30kgf/cm2の圧力を加えながら150℃で5分間ホットプレスして、膜-電極接合体(MEA)を作製した。
上記のMEAをDMFCシステムに組み込み、温度25℃の条件下で、MEAの燃料電極(アノード)側にメタノールと水のモル比が1:1のメタノール水溶液を供給し、酸素電極(カソード)側に空気を供給して、DMFCとして動作させた。
図14は、DMFCの開放電圧(OCV)の経時変化を示すグラフである。複合体膜を用いたDMFCのOCVは、約0.65Vで安定した値が得られた。一方、Nafion111膜を用いたDMFCのOCVは、測定初期においても0.28Vと低く、更に徐々に0.16V以下まで減少した
DMFCのOCV低下は、燃料であるメタノールが膜を透過して酸素電極に到達し、そこで直接酸素と反応してしまうことによるところが大きいとされており、Nafion111膜を用いたDMFCのOCVの測定結果は、それを示す1例と考えられる。それに対し、複合体膜を用いたDMFCのOCVは、経時変化がわずかであり、複合体膜ではメタノールのクロスリークが阻止されていることがわかる。Nafion111膜を用いたDMFCのOCVが極めて低いのは、高い濃度のメタノール水溶液を用いているため、Nafion膜を透過するメタノールが多いからであると考えられる。これに対し、本実施例の複合体膜は、メタノールの遮断性が高いため、高濃度のメタノール水溶液を用いても良好な結果を得た。この点は、後述する実施例13及び14の場合も同様である。
図15は、プロトン伝導性複合体膜を用いたDMFCの出力特性を示す電流―電圧曲線である。この結果から、出力電圧0ボルト(短絡状態)において、約85mA/cm2の電流密度が得られることがわかった。
[実施例13]
次に、実施例12と同様に、実施例10で合成したリン・ケイ素含有プロトン伝導体ポリマーを用いるものの、バインダー含有型の第3のイオン伝導体の第2の製造方法に基づき、プロトン伝導性複合体を作製し、この複合体膜を用いてDMFCを構成した例について説明する。
リン・ケイ素含有プロトン伝導体ポリマー0.1gとポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロペン共重合体0.1gを乳鉢で均一に混合した後、温度160℃、圧力70kgf/cm2で10分間ホットプレスすることにより、均一なプロトン伝導性複合体膜の成形体を作製した。得られた膜の厚みは30μmであった。
実施例12と同様に、得られた複合体膜は99.8%のメタノール中で安定であることを確認した。また、メタノールの膜透過性の測定結果から、加圧成型法より作製した複合体膜のメタノール透過係数は3.2×10-9cm2/secであった。
また、相対湿度100%の雰囲気ガス中における、水分の吸蔵による質量増加率は、実施例11で作製した複合体膜とほぼ同じであった。
上記の結果から、本実施例で作製したプロトン伝導性複合体膜は、実施例12で作製したプロトン伝導性複合体膜と同様に、水またはメタノールに対する遮断性は高いと考えられる。
得られた膜の伝導度を複素インピーダンス法により測定した。室温、相対湿度約50%において、伝導度が3.4×10-4Scm-1であった。更に、水とメタノールのモル比が1:1のメタノール水溶液と接触させた場合は、4.1×10-3Scm-1であった。これは膜厚を30μmとする場合は、1cm2あたりの膜抵抗0.73Ωに相当し、実用化に向け十分な伝導度が得られたと考えられる。
<DMFCの作製>
実施例12と同様にしてMEAを作製し、図13のDMFCシステムに組み込み、温度25℃の条件下で、MEAの燃料電極(アノード)側にメタノールと水のモル比が1:1のメタノール水溶液を供給し、酸素電極(カソード)側に空気を供給して、DMFCとして動作させた。
OCVは、経時変化がほとんどなく、約0.64Vで安定した値が得られ、実施例12とほぼ同じ値であった。これから、実施例13による複合体膜でも、実施例12と同様、メタノールのクロスリークが阻止されていることがわかる。
図16は、プロトン伝導性複合体膜を用いたDMFCの出力特性を示す電流―電圧曲線である。この結果から、出力電圧0ボルト(短絡状態)において、約104mA/cm2の電流密度が得られることがわかった。実施例12で得られた電流密度85mA/cm2に比べ大きいのは、本実施例の膜のプロトン伝導性が実施例12の膜に比べて若干高いことが原因であると考えられる。
[実施例14]
次に、実施例12と13と同様に、実施例10で合成したリン・ケイ素含有プロトン伝導体ポリマーを用いるものの、バインダー含有型の第3のイオン伝導体の第3の製造方法に基づき、プロトン伝導性複合体を作製し、この複合体膜を用いてDMFCを構成した例について説明する。
ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロペン共重合体1gを、N-メチルピロリドン(NMP)10gを溶媒として60℃にて10分間加熱して溶解させた。得られた溶液をガラス板上にキャストした後、25℃の水浴に投入してポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロペン共重合体の多孔質膜を作製した。多孔質膜中に残存するNMPを更に除去するため、続いて100℃の水浴に投入し、30分間攪拌した。その後、60℃の真空乾燥機内で終夜溶媒を除去することにより、多孔質膜を得た。
得られた多孔質膜の断面の走査電子顕微鏡(SEM)観察を行ったところ、膜厚は約30μmで、直径約1μmと直径約10μmの2種類の空孔が多数存在していることがわかった。膜の密度から求めた空孔率は約60〜75%であった。
また上記の多孔質膜中に含浸させるため、リン・ケイ素含有プロトン伝導体ポリマー0.1gを、質量比がH2O:C2H5OH:THF=2.5:1:1である混合溶媒1gに溶解させた。この溶液に上記多孔質膜を浸漬し、60℃で加熱しながら真空脱気を行った。次にフラーレンプロトン伝導体ポリマーを含む溶液を含浸させた多孔質膜を溶液から引き上げ、溶媒を蒸発させた。
この後、さらに150℃、圧力30kgf/cm2で5分間ホットプレスすることにより、緻密なプロトン伝導性複合体膜を得た。得られた膜の厚みは30μmであった。
実施例12又は13と同様に、得られた複合体膜は99.8%のメタノール中で安定であることを確認した。また、メタノールの膜透過性の測定結果から、加圧成型法より作製した複合体膜のメタノール透過係数は2.9×10-9cm2/secであった。
更に、相対湿度100%の雰囲気ガス中における、水分の吸蔵による質量増加率は、実施例12又は13で作製した複合体膜とほぼ同じであった。
上記の結果から、実施例14で作製したプロトン伝導性複合体膜は、実施例12又は13で作製したプロトン伝導性複合体膜と同様に、水またはメタノールに対する遮断性が高いと判断できる。
このことから、作製したプロトン伝導性複合体膜は実施例12又は13と同じように、水またはメタノールに対する遮断性が高いと判断できる。
得られた膜の伝導度を複素インピーダンス法により測定した。室温、相対湿度約50%において、この膜の伝導度は1.9×10-4Scm-1であった。更に、水とメタノールのモル比が1:1のメタノール水溶液と接触させた場合は、伝導度が2.5×10-3Scm-1であった。これは膜厚が30μmである場合は、1cm2あたりの膜抵抗は1.2Ωとなり、実用化に向け十分な伝導度が得られたと考えられる。
<DMFCの作製>
実施例12又は13と同様にしてMEAを作製し、図13のDMFCシステムに組み込み、温度25℃の条件下で、MEAの燃料電極(アノード)側にメタノールと水のモル比が1:1のメタノール水溶液を供給し、酸素電極(カソード)側に空気を供給して、DMFCとして動作させた。
OCVは、経時変化がほとんどなく、約0.65Vで安定した値が得られ、実施例12又は13とほぼ同じ値であった。これから、実施例14による複合体膜でも、実施例12又は13と同様、メタノールのクロスリークが阻止されていることがわかる。
図17は、プロトン伝導性複合体膜を用いたDMFCの出力特性を示す電流―電圧曲線である。この結果から、出力電圧0ボルト(短絡状態)において、約98mA/cm2の電流密度が得られることがわかった。実施例12で得られた電流密度85mA/cm2に比べ大きいのは、本実施例の膜のプロトン伝導性が実施例12の膜に比べて若干高いことが原因であると考えられる。
以上、本発明を実施例に基づいて説明したが、本発明はこれらの例に何ら限定されるものではなく、発明の主旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能であることは言うまでもない。